(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-16
(45)【発行日】2024-05-24
(54)【発明の名称】注ぎ入れ可能な媒体を移送するための方法
(51)【国際特許分類】
B25J 13/08 20060101AFI20240517BHJP
【FI】
B25J13/08 Z
(21)【出願番号】P 2021529342
(86)(22)【出願日】2019-11-21
(86)【国際出願番号】 EP2019082058
(87)【国際公開番号】W WO2020109126
(87)【国際公開日】2020-06-04
【審査請求日】2022-11-14
(32)【優先日】2018-11-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】516245885
【氏名又は名称】バイエル、アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】BAYER AKTIENGESELLSCHAFT
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【氏名又は名称】反町 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100124372
【氏名又は名称】山ノ井 傑
(72)【発明者】
【氏名】レスロー、ムレチェコ
(72)【発明者】
【氏名】アルミン、シュバイガー
(72)【発明者】
【氏名】カトリン、ベーゲナー
(72)【発明者】
【氏名】カール-ヘルムート、クーロン
【審査官】神山 貴行
(56)【参考文献】
【文献】欧州特許出願公開第03088141(EP,A2)
【文献】董晨宇、滝澤優、工藤俊亮、末廣尚士,「ロボットによる液体の定量的な注ぎ作業の実現」,第36回日本ロボット学会学術講演会 THT 36th ANNUAL CONFERENCE OF THE ROBOTICS SOCIETY OF JAPAN,2018年
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 1/00-21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロボットアーム(16)を用いて第1の容器(12)から第2の容器(14)内へ、ある質量の注ぎ入れ可能な媒体(10)を移送するための方法であって、これにより充填が実行されることになり、前記ロボットアーム(16)の運動(18)が、少なくとも1つの運動パラメータ(BP)によって制御され、以下の方法ステップ:
a)前記第1の容器(12)からの前記媒体(10)の質量流量が、回転軸(20)の周りでの前記ロボットアーム(16)の回転運動(18)によって変更可能であるように、前記第1の容器(12)を前記ロボットアーム(16)上に位置付けるステップと、
b)前記第1の容器(12)から注ぎ出される媒体(10)が、本質的に重力の影響で前記第2の容器(14)内に入るように、前記第2の容器(14)を
はかり(24)の上に位置付けるステップと、
c)前記第2の容器(14)内に充填されるべき前記媒体(10)の質量を標的充填質量(SFM)として規定するステップと、
d)前記第2の容器(14)内に既に充填されている前記媒体(10)の質量を実際の充填質量(IFM)として決定し、かつ、前記第2の容器(14)内への前記媒体(10)の実際の充填質量(IFM)における経時的な変化を実際の質量流量(IMS)として決定するステップと、
e)前記実際の充填質量(IFM)および前記標的充填質量(SFM)を考慮して、操作質量流量(StMS)を第1の制御ループ(28)の操作変数(26)として計算するステップと、
f)前記第1の制御ループ(28)の前記操作変数(26)を、計算した前記操作質量流量(StMS)が標的質量流量(SMS)として使用されるという旨で、第2の制御ループ(32)の参照変数(30)として使用するステップと、
g)前記標的質量流量(SMS)および前記実際の質量流量(IMS)を考慮して、前記ロボットアーム(16)の前記少なくとも1つの運動パラメータ(BP)を前記第2の制御ループ(32)の
操作変数(40)として計算するステップであって、前記少なくとも1つの運動パラメータが、軸の周りでの回転運動を特徴付けるステップと、
h)前記ロボットアーム(16)の前記運動(18)を前記少なくとも1つの運動パラメータ(BP)に基づいて実行するステップと、
を含む方法。
【請求項2】
請求項
1に記載の方法を実施するためのデバイス(42)であって、前記デバイスは、第1の容器(12)を把持するためのロボットアーム(16)と、第2の容器(14)内への媒体(10)の質量流量を測定するためのはかり(24)とを含み、前記ロボットアーム(16)は、前記
第1の容器(12)からの前記媒体(10)の質量流量が変更可能であるように、前記ロボットアーム(16)上に位置付けられかつ注ぎ入れ可能な媒体(10)を含有する
前記第1の容器(12)を、回転軸(20)の周りでの前記ロボットアーム(16)の回転運動(18)によって動かすように設計され、前記ロボットアーム(16)の前記運動(18)は、前記はかり(24)によって行われる測定の助けを借りて、少なくとも1つの運動パラメータ(BP)によって制御可能である、デバイス(42)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロボットアームを用いて第1の容器から第2の容器内へ、注ぎ入れ可能な媒体を移送するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人間は、注ぎ入れ可能な媒体の取り扱いおよび操作において非常に器用であり、取り扱いの際には、例えば、媒体の形状の単純な変化など、物理的特性を使用する。水を使って遊んでいる、または砂場で遊んでいる小さな子供さえも、水または砂を1つのバケツから別のバケツ内へ注ぎ入れることができる運動を実践する。
【0003】
対照的に、そのような運動は、ロボットアームにとっては、はるかに複雑である。したがって、物体の操作のための運動の計画および実行は、ロボット工学における中心問題である。例えば、物体を開始位置から標的位置へ移送するための衝突のない経路の計画は、自動組立および生産作業における主要タスクの1つである。しかしながら、運動の計画は、単純な数学モデルがここでは使用され得るため、一般的に、剛性物体の取り扱いに制限される。しかしながら、これらの数学モデルは、変形可能な物体または注ぎ入れ可能な媒体の場合には機能しない。
【0004】
欧州特許出願公開第3088141(A2)号明細書は、力制御されたロボットアームを用いて第1の容器から第2の容器内へ、注ぎ入れ可能な媒体を移送するための解決策を開示しており、ロボットアームの運動は、少なくとも1つの運動パラメータによって制御され、第1の容器(ボトル)は、ロボットアームにより把持され、第2の容器(盛り付け容器)は、充填のための位置に位置付けられ、第1の容器は、注ぎ入れられるべき媒体のうちの少なくとも一部が第2の容器内へ流れるように位置付けられ、配向される。ロボットアームは、垂直方向の力を確実にするように構成される少なくとも1つのセンサを含み、このセンサの助けを借りて、ロボットアームによって把持される容器の重さを測ることができ、その実際の充填質量はこのようにして決定され得る。注ぎ出しは、これに従って制御され、特に、第1の容器の残りの注ぎ入れがチェックされる。言い換えると、第1の容器は、完全に空にされる。ロボットアームは、把持した容器を引き渡すことができる。巧みな引き渡しもまた、上述のセンサの助けを借りて制御される。
【0005】
注ぎ入れ可能な媒体をロボットアームにより取り扱い、移送するときには、素早くまたは不安定に実行される運動に起因する媒体の一部の漏出など、多くの問題が発生する。さらには、傾斜移動による媒体の規定の体積または規定の質量の移送は、特にこのプロセスが規定の量と移送量との間にわずかな逸脱しか許容しない場合に、ロボットアームにとって大きな課題である。
【0006】
質量が規定されるべき媒体について、ある質量の媒体の精密な注ぎ入れは、欧州特許出願公開第3088141(A2)号明細書では扱われていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここから考えを進めて、本発明の目的は、質量が規定されるべき媒体について、ロボットアームがある質量の注ぎ入れ可能な媒体を1つの容器から別の容器内へ確実に移送することができる解決策を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本目的は、請求項1の主題により達成される。好ましい発展形態は、従属請求項で見られる。
【0009】
したがって、本発明は、ロボットアームを用いて第1の容器から第2の容器内へ、注ぎ入れ可能な媒体を移送するための方法であって、ロボットアームの運動が、少なくとも1つの運動パラメータによって制御され、以下の方法ステップ:
a)第1の容器からの媒体の質量流量が、ロボットアームの運動によって変更可能であるように、第1の容器をロボットアーム上に位置付けるステップと、
b)第1の容器から注ぎ出される媒体が、本質的に重力の影響で第2の容器内に入るように、第2の容器を位置付けるステップと、
c)第2の容器内に充填されるべき媒体の質量を標的充填質量として規定するステップと、
d)好ましくははかりを用いて、第2の容器内に既に充填されている媒体の質量を実際の充填質量として決定し、かつ、媒体の実際の充填質量における経時的な変化を実際の質量流量として決定するステップと、
e)実際の充填質量および標的充填質量を考慮して、操作質量流量を第1の制御ループの操作変数として計算するステップと、
f)第1の制御ループの操作変数を、計算した操作質量流量が標的質量流量として使用されるという旨で、第2の制御ループの参照変数として使用するステップと、
g)標的質量流量および実際の質量流量を考慮して、ロボットアームの少なくとも1つの運動パラメータを第2の制御ループの操作変数として計算するステップと、
h)ロボットアームの運動を少なくとも1つの運動パラメータに基づいて実行するステップと、
を含む方法を提供する。
【0010】
本発明はまた、上記方法を実施するためのデバイスを提供し、本デバイスは、ロボットアームおよびはかりを含み、ロボットアームは、容器からの媒体の質量流量が変更可能であるように、ロボットアーム上に位置付けられ、また注ぎ入れ可能な媒体を含有する容器を動かすように設計され、ロボットアームの運動は、少なくとも1つの運動パラメータによって制御可能である。
【0011】
したがって、本発明の基本概念は、質量が規定されるべき媒体について、ある質量の媒体が、ロボットアームの運動を用いて第1の容器から第2の容器内へ移送されることであり、移送質量は、標的充填質量のできる限り近くに相当する。この目的のため、ロボットアームは、第1の容器からの媒体の質量流量を変更することができる運動を実行し、この運動は、少なくとも1つの運動パラメータによって制御可能である。本発明の本質的側面は、2つの制御ループが、ロボットアームの少なくとも1つの運動パラメータを制御するために使用されることである。上記制御ループの設計に関して、第2の制御ループは、操作変数として、第1の容器からの質量流量を変化させる変数、すなわち、ロボットアームの少なくとも1つの運動パラメータを使用する。さらには、第1の制御ループの操作変数は、第2の制御ループのための参照変数として使用される。第2の制御ループの標的値のためにこうして使用されるもの-標的質量流量-が、操作質量流量である。第2の制御ループの立場からは、第1の制御ループは、したがって、標的値を提供する側であり、この標的値は、ゆっくりとしか変化しない。したがって、第1の制御ループは、操作変数として、第2の容器の充填質量を変化させる変数-操作質量流量-を有する。第1の制御ループの立場からは、第2の制御ループは、したがって、迅速なアクチュエータであり、その調節が、第2の容器内の充填質量を変化させる。2つの制御ループのおかげで、本方法は、第1の容器から第2の容器内への注ぎ入れ可能な媒体の非常に正確な移送を可能にする。
【0012】
ここで、本方法は、同じ標的充填質量の繰り返し移送の場合には、高程度の再現性が達成されるという利点を有し、したがって本方法は、高レベルの精度を有する。さらには、制御ループのおかげで、本方法はまた、高レベルの正確性を有し、すなわち、媒体の移送質量と標的充填質量との間には高程度の一致がある。ロボットアームを用いた自動化のおかげで、本方法は、さらに、信頼性が高く、人的エラーの影響をほとんど受けない。したがって、本方法はまた、危険な媒体、毒性の媒体、および/または人間によって取り扱われるときに何らかの他の意味で健康に危害を及ぼす媒体が、人間の健康を危険にさらすことなく移送され得るという利点を提供する。
【0013】
このようなやり方で設計される方法は、例えば、製薬産業または食品生産などの高制御環境、特に品質制御および/または化学分析の分野での使用に特に好適である。高制御環境は、例えば、生産および作業プロセスの品質保証のためのガイドライン(GMPガイドライン)の遵守を必要とし、その遂行は、多くの場合、当局の必須条件である。
【0014】
注ぎ入れ可能な媒体は、例えば、水などの液体、有機溶剤、非ニュートン性流体、または異なる液体の混合物であり得る。非ニュートン性流体は、ニュートンの法則ではもはや単純には説明することができない変形挙動を呈する。非ニュートン性流体の例は、血液、セメントペースト、流砂、およびケチャップである。他の物質が液体に含有されてもよい。これらは、溶解、非溶解、または分散した、液体または固体であり得る。液体は、異なる粘度、例えば、はちみつまたは油などの高粘度、または水などの低粘度を有し得る。さらには、媒体はまた、粗粒または微粒の粉末など、注ぎ入れ可能な固体であり得る。さらには、媒体は、顆粒状物質、ペレット、またはチップであり得、それらの混合物も可能である。媒体は、例えば、室温、4℃または45℃など、媒体がその温度で依然として注ぎ入れ可能である限り、異なる温度を有し得る。媒体は、好ましくは、水、ペプトンリン酸バッファ溶液、および/または約45℃に加熱されたイースト抽出物寒天培地である。
【0015】
媒体の質量は、はかりを用いて重量で決定され得る。標的充填質量は、本方法により第1の容器から第2の容器内へ移送されるべき媒体の質量である。媒体の質量流量は、第1の容器内または第2の容器内の媒体の質量における経時的な変化である。質量は、媒体の密度により媒体の体積に結び付けられる。したがって、媒体の密度が分かっている場合、移送されるべき媒体の部分が、質量およびしたがって標的充填質量として規定されるのではなく、移送されるべき体積、すなわち標的体積が、規定されることが可能である。媒体の質量は、物質量ベースの質量または媒体のモル質量により物質の量に結び付けられる。したがって、媒体のモル質量が分かっている場合、移送されるべき媒体の部分が、物質の標的量として規定されることも可能である。
【0016】
第1および/または第2の容器は、原則として、注ぎ入れ可能な媒体を収容するのに好適である任意のタイプの容器であり得る。第1および/または第2の容器の幾何形状は、原則として、所望の通りであり得る。第1および/または第2の容器は、好ましくは、少なくとも部分的に平面の底を有し、この底により、第1および/または第2の容器は、テーブルなどの平らな平面の上に安全に乗ることができる。第1および/または第2の容器は、任意の所望の容量、例えば、250ml、500ml、または1lを有し得る。第1および/または第2の容器は、好ましくは、ボトルであり、ボトルは、閉口可能である。例えば、ボトルは、ねじ蓋付きのガラスボトルであり得る。さらに好ましくは、ボトルは、規格化されたねじ口、例えば、GL45ねじ口を有する実験室ガラスボトルである。さらには、第1および/または第2の容器は、測定ビーカ、三角フラスコ、および/またはペトリ皿であり得る。
【0017】
本発明の文脈において、ロボットアームは、機械作業を実施するために環境と物理的に相互作用するように設計されるデバイスを意味すると理解されるべきである。ロボットアームは、ジョイントによって接続される複数の部材を有することができ、ジョイントは、ドライブにより調節することが可能である。ロボットアームは、例えば、把持システムを含み、これを用いて、第1の容器は、ロボットアーム上に位置付けられ得る。原則として、ロボットアームを手動で制御することが可能である。しかしながら、ロボットアームの運動は、入力および/またはプログラミングによって制御されることが好ましい。この目的のため、ロボットアームの運動は、少なくとも1つの運動パラメータによって制御され得る。例えば、運動パラメータは、ロボットアームがそのジョイントのうちの1つを調節する速度であり得る。
【0018】
移送するための方法は、複数の方法ステップを提供し、容器は適切に位置付けられ、移送されるべき質量は、媒体が移送される前に規定される。ここで、第1の容器は、第1の容器からの媒体の質量流量が、ロボットアームの運動によって変更可能であるようにロボットアーム上に位置付けられる。容器の位置付けは、ロボットアーム上の把持システムを用いた容器の把持を含み得る。例えば、把持部は、ネック上のねじ口および/またはねじ口を有する閉口可能なボトルを把持することができる。これは、ねじ口が規格化された寸法を有するため、位置付けが特に単純であるという利点を有する。媒体の質量流量は、媒体の質量における経時的な変化である。例えば、傾斜または回転運動は、第1の容器内の媒体が容器の外へ流れることを引き起こし得る。第1の容器から排出される質量流量は、例えば、傾斜角度の大きさにより変更され得る。さらには、第2の容器は、第1の容器から注ぎ出される媒体が、本質的に重力の影響により第2の容器内に入るように位置付けられる。本質的に重力の影響により第2の容器内に入る媒体がここで意味するのは、媒体が第2の容器内に直接入る必要はないとしても、媒体が重力に反して輸送されるのではなく、しかしながらそこに行くまでに、例えば、ホースまたはチャネルにより転向されてもよく、そこを通じて媒体が移送されるということである。第2の容器は、好ましくは、第1の容器から排出される媒体が第2の容器によって容易に収集され得るように、第1の容器の下に位置付けられる。第2の容器の標的充填質量は、例えば、標的充填質量の入力またはプログラミングにより規定され得る。代替的に、標的充填質量は、第2の容器および/または注ぎ入れ可能な媒体に応じて、本方法により自動的に規定されるということが考えられる。
【0019】
容器が適切に位置付けられ、また移送されるべき質量が規定された後、実際の充填質量、および実際の充填質量における経時的な変化、すなわち、実際の質量流量が、好ましくは、はかりを用いて決定される。実際の充填質量および実際の質量流量は、媒体が送達される時間にわたって変化する異なる値をとり得る。さらには、媒体の移送の開始時の値は、ゼロであり得る。本方法の更なる過程で、少なくとも1つの運動パラメータは、とりわけ、これらの2つの実際の値に基づいて、2つの制御ループによって制御され、ロボットアームの運動がこれに応じて実行される。ロボットアームの運動の結果として、ある質量の媒体が第2の容器内へ移送され、この移送質量は、標的充填質量のできる限り近くに相当する。
【0020】
ロボットアームの運動に関して、本発明の好ましい発展形態に従って提供されるのは、ロボットアームの運動が、回転軸の周りでの回転運動を含み、この回転軸は、重力の影響に実質的に垂直であるということである。第1の容器は、ロボットアームの回転運動の結果として、第1の容器が、第1の容器からの質量流量が変更されることをもたらす傾斜または回転運動を実行するように、好ましくは、ロボットアーム上に位置付けられる。ロボットアームの回転運動の回転軸は、したがって、重力の影響に実質的に垂直であり、または言い換えると、ロボットアームの回転軸は、実質的に水平である。回転運動は、少なくとも1つの運動パラメータを用いて容易に制御され得る運動である。したがってこれは、実装するのが特に容易である方法をもたらす。
【0021】
これに関連して、本発明の好ましい発展形態に従って提供されるのは、ロボットアームの運動の少なくとも1つの運動パラメータが、回転角度、一定の回転角度の持続時間、および/またはロボットアームの回転角度の角速度を含むということである。これらのパラメータは、軸の周りでの回転運動を完全に特徴付ける。したがって、第1の容器から第2の容器内への媒体の移送のために、ロボットアームの、並進運動を含みかつおそらくは複雑な運動経路を計算する必要はない。代わりに、本方法は、好ましくは、回転運動を説明する上記運動パラメータを制御する。特に好ましくは、第2の制御ループの操作変数は、ロボットアームの回転角度の角速度である。結果として、たった1つの操作変数が、回転運動の完全な実施を達成することができ、本方法は、所望の標的充填量が第2の容器内へ移送されるように、制御により、その都度、角速度を調節する。
【0022】
原則として、2つの制御ループ内の制御器は、P要素、I要素、およびD要素の構成要素からなるPID制御器(比例・積分・微分制御器)であり得る。しかしながら、本発明の好ましい発展形態によると、第1および/または第2の制御ループは、P制御器を含む。P制御器は、利得または減衰の比例部分からもっぱらなる連続的線形制御器である。P制御器の出力信号は、入力信号に比例する。したがって、第1の制御ループの操作変数-操作質量流量-は、好ましくは、標的充填質量からの実際の充填質量の逸脱に比例し、および/または、第2の制御ループの操作変数-少なくとも1つの運動パラメータ-は、好ましくは、標的質量流量からの実際の質量流量の逸脱に比例する。両方の制御ループは、特に好ましくは、P制御器を含む。
【0023】
制御ループの設計に関して、本発明の好ましい発展形態に従って提供されるのは、第1および第2の制御ループが、カスケード制御を一緒に形成するということである。カスケード制御の原理は、制御ループの階層的ネスティングにある。第1の制御ループは、好ましくは、外側制御ループであり、第2の制御ループは、好ましくは内側制御ループである。内側制御ループの標的値または参照変数は、外側制御ループの操作変数からなる。これにより、制御されるシステム全体は、より小さい、より容易に制御可能な区域へ細分され、このことが、直接的に作用する制御器と比較して制御精度を増大させる。カスケード制御のおかげで、本方法は、第1の容器から第2の容器内への注ぎ入れ可能な媒体の正確な移送を可能にする。
【0024】
本発明のさらに好ましい発展形態によると、第2の容器は、本方法のステップb)において、はかりの上に位置付けられる。したがって第2の容器は、第1の容器から注ぎ出される媒体が、本質的に重力の影響により第2の容器内に入るように単に位置付けられるのではなく、むしろはかりの上に乗る。これは、容器が再度、シフトされる、または位置換えされる必要がないため、ステップd)における、実際の充填質量の決定、および実際の充填質量の経時的な変化の決定、すなわち実際の質量流量の決定を特に単純にする。
【0025】
これに関連して、本発明のさらに好ましい発展形態に従って提供されるのは、本方法のステップb)において、第2の容器が、第1の容器から注ぎ出される媒体が完全に第2の容器内に入るように位置付けられるということである。少なくとも1つの運動パラメータの制御は、第1の容器を出る媒体が第2の容器によって完全に収集されるとき、特に正確である。したがって、第1の容器を出る質量流量は、第2の容器に入る質量流量に値が等しい。
【0026】
原則として、本方法のステップd)~h)、すなわち、実際の充填質量および実際の質量流量を決定すること、操作質量流量を計算すること、操作質量流量を標的質量流量として使用すること、少なくとも1つの運動パラメータを計算すること、ならびに運動を実行することを、移送中のいくつかの離散した時間点において実施することが可能である。しかしながら、本発明の好ましい発展形態において、本方法のステップd)~h)は、注ぎ入れ可能な媒体の移送中に連続して実施される。したがって、本方法は、実際の充填質量および実際の質量流量の事実上即座のフィードバックを提供するものである。これは、注ぎ入れ可能な媒体の移送が制御された様式で実施されるため、移送の特に高レベルの正確性を達成することを可能にする。したがって、第2の容器は、好ましくは、移送中はかりの上に乗り、はかりの測定結果が、制御ループに連続的に戻される。
【0027】
本方法をできる限り信頼性の高いものにするため、本発明の好ましい発展形態に従って提供されるのは、本方法が、第2の容器の空の質量を決定するステップをさらに含むということである。これは、例えば、はかりを用いて実施され得る。第2の容器の空の質量は、媒体が第1の容器から第2の容器内へ移送される前の第2の容器の質量である。第2の容器は、空の質量が決定されるとき、未充填または空であり得、さもなければ何かが充填または部分的に充填され得る。ここでは、第2の容器は、移送されるべき媒体と異なる媒体または同じ媒体で充填されることが可能である。第2の容器の空の質量を決定することは、規定された標的充填質量が第2の容器によって取り込まれ得るかどうかに関して、容易に識別され得るという利点を有する。したがって、第2の容器があふれないことが確実にされる。
【0028】
できる限り信頼性の高い方法と関連して、本発明の好ましい発展形態に従って提供されるのは、本方法が、以下のステップ
-第1の容器の質量を決定するステップ、
-第1の容器の幾何形状を決定するステップ、
-媒体の性質を決定するステップ、および/または
-媒体の粘度を決定するステップ
のうちの1つまたは複数をさらに含み、
第1および/もしくは第2の制御ループならびに/または少なくとも1つの運動パラメータが、これらの値のうちの1つまたは複数を考慮して調節可能であるということである。例えば、第1の容器の質量を、例えば、はかりを用いて、決定することによって、どのくらいの媒体が第1の容器内にあるかを確立することが可能である。したがって、第2の容器内へ移送されるべき規定された標的充填質量が、第1の容器に存在する質量よりも大きくないことが確実にされる。さらには、第1の容器の質量と組み合わせて、幾何形状を決定することによって、第1の容器内の媒体の充填レベルを確定することが可能である。
【0029】
例えば、カメラが、幾何形状を決定するために使用され得る。代替的に、容器には、機械可読ラベル、例えば、バーコード、またはRFIDチップが装備され得る。これは、容器を識別するため、およびしたがって容器の幾何形状を決定するために使用され得る。容器の幾何形状に関する情報は、少なくとも1つの運動パラメータの制御に組み込まれ得る。例えば、運動は、充填レベルが低い場合、開始時に速められ得、第1の容器からの質量流量があるまで、大きい回転角度が達成されなければならない。さらには、媒体の性質および/または媒体の粘度が考慮され得る。例えば、媒体が高い粘度を有する場合、第1の容器を出る媒体と第2の容器に到達する媒体との間には時間遅延が存在し得る。この流動挙動は、制御ループにおいて、および/または少なくとも1つの運動パラメータのために考慮され得、その結果として、制御の行き過ぎがない。媒体の性質および/または粘度は、例えば、第1の容器の機械可読ラベルにより決定され得る。
【0030】
本発明の好ましい発展形態によると、本方法を実施するためのデバイスは、カスケード制御を形成し、また少なくとも1つの運動パラメータを制御するように設計される、2つの制御ループを含む。カスケード制御は、制御されるシステム全体を、より小さい、より容易に制御可能な区域へ細分化することを可能にし、このことが、直接的に作用する制御器と比較して制御精度を増大させる。したがって、カスケード制御は、第1の容器から第2の容器内への注ぎ入れ可能な媒体の正確な移送をもたらす。
【0031】
本方法を実施するためのデバイスの設計に関して、ロボットアームは、第1および/または第2の容器の周りを把持するように設計される把持部を含むことがさらに好ましい。好ましくは、把持部は、2指把持部、特に適応性の2指把持部であるが、これは、その適応性というのが、把持部が、平行様式では角のある容器を、および取り囲んだ様式では丸い容器を把持することができることを意味するためである。さらには、把持部は、第1の容器および第2の容器を、充填されているときにさえ、しっかりと把持するために十分な把持力を有する。
【0032】
本発明は、図面を参照して、好ましい例示的な実施形態に基づいて以下にさらに具体的に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】本発明の好ましい例示的な実施形態に従う、第1の容器から第2の容器内へ、注ぎ入れ可能な媒体を移送するための方法のステップを含むフローチャートである。
【
図2A】本発明の好ましい例示的な実施形態に従う、本方法を実行するためのデバイスの概略図である。
【
図2B】本発明の好ましい例示的な実施形態に従う、本方法を実行するためのデバイスの概略図である。
【
図2C】本発明の好ましい例示的な実施形態に従う、本方法を実行するためのデバイスの概略図である。
【
図3】本発明の好ましい例示的な実施形態に従う、少なくとも1つの運動パラメータの制御のために使用される2つの制御ループの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
図1は、本発明の好ましい例示的な実施形態に従う、ロボットアーム16を用いて第1の容器12から第2の容器14へ、注ぎ入れ可能な媒体10を移送するための方法のステップを含むフローチャートを示す。本方法は、ロボットアーム16を有するデバイス42によって実行され、上記デバイス42は、本方法の選択されたステップの実行と共に、
図2A、B、およびCに概略的に示されている。
【0035】
本方法のステップは、
図1内のフローチャート、
図2内のデバイス42、および
図3内の制御を参照して、以下に説明される。
【0036】
本方法は、ステップa)第1の容器10からの媒体10の質量流量が、ロボットアーム16の運動18によって変更されるように、第1の容器12をロボットアーム16上に位置付けること、を含む。
図2に描写されるように、ロボットアーム16は、第1の容器12を位置付けるための把持部22を有する。質量流量を変化させる運動18は、重力の影響に垂直である回転軸20の周りでのロボットアーム16の回転運動18である。
【0037】
本方法の更なるステップb)において、第2の容器14は、第1の容器12から注ぎ出される媒体10が、本質的に重力の影響で第2の容器14内に入るように位置付けられる。ここに説明される本発明の好ましい例示的な実施形態によると、第2の容器14は、
図2A、B、およびCに描写されるように、はかり24の上に位置付けられる。
【0038】
本方法の更なるステップc)において、第2の容器14内に充填されるべき媒体10の質量が標的充填質量SFMとして規定された後には、準備行為である本方法のステップa)~c)は、既に実施されている。標的充填質量SFMは、この例では100gである。
図2Aは、ステップa)~c)が既に実施された後のデバイス42の状態を示す。ここに説明される本発明の好ましい例示的な実施形態によると、媒体10は、液体、とりわけ、水である。
【0039】
以下の方法ステップは、注ぎ入れ可能な媒体10の移送中に連続して実施される。ステップd)において、はかり24は、第2の容器14内に既に充填されている媒体10の質量を実際の充填質量IFMとして決定するため、および媒体10の実際の充填質量における経時的な変化を実際の質量流量IMSとして決定するために使用される。ステップe)において、本方法は、次いで、実際の充填質量IFMおよび標的充填質量SFMを考慮して、操作質量流量StMSを第1の制御ループ28の操作変数26として計算する。第1の制御ループ28の上記操作変数26は、計算した前記操作質量流量StMSが標的質量流量SMSとして使用されるという旨で、第2の制御ループ32の参照変数30として、ステップf)において使用される。
【0040】
2つの制御ループ28、32は、
図3に概略的に描写される。カスケード制御に関することであり、第1の制御ループ28が、参照変数34として標的充填質量SFM、および制御変数36として実際の充填質量IFMを有する、外側制御ループを形成する。第2の制御ループ32は、参照変数30として標的質量流量SMS、および制御変数38として実際の質量流量IMSを有する、カスケード制御の内側制御ループを形成する。
【0041】
更なる方法ステップg)において、ロボットアーム16の少なくとも1つの運動パラメータBPは、標的質量流量SMSおよび実際の質量流量IMSを考慮して、第2の制御ループ32の操作変数40として計算される。制御ループ28、32の両方が、P制御器を有し、すなわち、操作質量流量StMSは、標的充填質量SFMからの実際の充填質量IFMの逸脱に比例し、少なくとも1つの運動パラメータBPは、標的質量流量SMSからの実際の質量流量IMSの逸脱に比例する。
【0042】
更なるステップh)において、ロボットアーム16は、少なくとも1つの運動パラメータBPに基づいて運動18を実行する。ここに説明される好ましい例示的な実施形態によると、少なくとも1つの運動パラメータBPは、ロボットアーム16の回転運動18の角速度である。
図2B)は、媒体10の移送中のデバイス42を示し、回転運動18の角速度は、2つの制御ループ28、32の制御によって制御されている。制御は、往復で実行される傾斜運動に実質的に相当する運動18をもたらす。
図2C)は、媒体10の所望の標的充填量SFM、この場合は100gが第2の容器14内へ既に移送されているときの、本方法の最後に向かうデバイス42の状態を示す。
【符号の説明】
【0043】
10 媒体
12 第1の容器
14 第2の容器
16 ロボットアーム
18 運動、回転運動
20 回転軸
22 把持部
24 はかり
26 第1の制御ループの操作変数
28 第1の制御ループ
30 第2の制御ループの参照変数
32 第2の制御ループ
34 第1の制御ループの参照変数
36 第1の制御ループの制御変数
38 第2の制御ループの制御変数
40 第2の制御ループの操作変数
42 デバイス
SFM 標的充填量(第1の制御ループの参照変数)
IFM 実際の充填量(第1の制御ループの制御変数)
StMS 操作質量流量(第1の制御ループの操作変数)
SMS 標的質量流量(第2の制御ループの参照変数)
IMS 実際の質量流量(第2の制御ループの制御変数)
BP 運動パラメータ(第2の制御ループの操作変数)