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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-16
(45)【発行日】2024-05-24
(54)【発明の名称】過酢酸濃度計
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/416 20060101AFI20240517BHJP
   G01N 27/404 20060101ALI20240517BHJP
【FI】
G01N27/416 302G
G01N27/404 341E
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021542714
(86)(22)【出願日】2020-08-12
(86)【国際出願番号】 JP2020030656
(87)【国際公開番号】W WO2021039392
(87)【国際公開日】2021-03-04
【審査請求日】2023-07-18
(31)【優先権主張番号】P 2019155837
(32)【優先日】2019-08-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】592187534
【氏名又は名称】株式会社 堀場アドバンスドテクノ
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100206151
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 惇志
(74)【代理人】
【識別番号】100218187
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 治子
(72)【発明者】
【氏名】川口 佳彦
(72)【発明者】
【氏名】甲斐 智子
【審査官】黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-230172(JP,A)
【文献】特開2009-069025(JP,A)
【文献】特開平4-346063(JP,A)
【文献】特開2008-026313(JP,A)
【文献】特開昭59-003345(JP,A)
【文献】特開2001-235443(JP,A)
【文献】特開2006-078260(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/26-27/49
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料溶液の過酢酸濃度を測定する隔膜式の過酢酸濃度計であって、
過酢酸を透過する隔膜と、
前記隔膜を透過した過酢酸が溶解する内部液と、
前記内部液に浸漬する作用極及び対極と、
前記内部液中に含まれる過酸化水素を分解する触媒とを具備することを特徴とする過酢酸濃度計。
【請求項2】
前記触媒がカタラーゼであることを特徴とする請求項1記載の過酢酸濃度計。
【請求項3】
前記内部液が、水素イオン濃度に対して緩衝作用を有する緩衝液であり、
前記内部液又は該内部液を収容するケーシングが、防腐剤又は抗菌成分を含有するものである請求項1又は2記載の過酢酸濃度計。
【請求項4】
前記隔膜における試料溶液と接触する側の表面に導電性メッシュ層をさらに備える請求項1乃至3のいずれか一項に記載の過酢酸濃度計。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の過酢酸濃度計と、
前記過酢酸濃度計に対して紫外線を照射する光源とを備える過酢酸濃度測定装置。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の過酢酸濃度計と、
該過酢酸濃度計を内部に収容する測定セルと、
該測定セルに測定対象である試料溶液を供給する試料供給流路と、
過酢酸を含有しない液体又は気体を前記測定セルに供給するゼロ水供給流路と、
これら試料供給流路及びゼロ水供給流路を前記測定セルに切り替え可能に接続する切替機構とを備えている過酢酸濃度測定装置。
【請求項7】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の過酢酸濃度計を用いて過酢酸濃度を測定する方法であって、
過酢酸濃度測定を終了した後、次の過酢酸濃度測定を開始する前に、前記過酢酸濃度計の前記隔膜に、過酢酸を含有しない液体又は気体を所定時間の間供給することを特徴とする過酢酸濃度測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料溶液に含まれる過酢酸の濃度を測定する過酢酸濃度計に関する。
【背景技術】
【0002】
過酢酸濃度計としては、例えば特許文献1に記載されたような隔膜式のものがある。
このような隔膜式の過酢酸濃度計は、過酢酸を選択的に透過する隔膜を備えており、この隔膜を透過した過酢酸が作用極の表面で酸化還元反応をするときに発生する電流変化を測定している。
【0003】
しかしながら、過酢酸を透過させる隔膜は、過酸化水素をも同時に透過させてしまう。過酸化水素が過酢酸とともに隔膜を透過してしまうと、作用極表面で過酢酸と同様に過酸化水素も反応してしまうので、過酢酸濃度測定に誤差が生じてしまうという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-230173号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、過酸化水素による誤差をできるだけ小さく抑えて、精度よく過酢酸濃度を測定することができる過酢酸濃度計を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明に係る過酢酸濃度計は、試料溶液の過酢酸濃度を測定する隔膜式の過酢酸濃度計であって、過酢酸を透過する隔膜と、前記隔膜を透過した過酢酸が溶解する内部液と、前記内部液に浸漬する作用極及び対極と、前記内部液中の過酸化水素を分解する触媒とを具備することを特徴とする。
【0007】
このように構成した過酢酸濃度計によれば、前記内部液中の過酸化水素を分解する触媒を備えているので、過酢酸とともに過酸化水素が前記隔膜を透過したとしても、前記内部液中の過酸化水素の濃度を十分に低く抑えることができる。
そのため、前記内部液中に含まれる過酸化水素に起因する誤差をできるだけ小さく抑えて、従来よりも精度よく過酢酸濃度を測定することができる。
【0008】
本発明に係る過酢酸濃度計の具体的な態様としては、前記触媒がカタラーゼであるものを挙げることができる。
【0009】
過酢酸濃度測定においては、前記内部液や前記隔膜の汚れによっても誤差や電位のふらつきなどが生じることがある。
内部液の汚れの原因の一つとして、内部液に侵入した微生物などの繁殖を挙げることができる。
そこで、前記内部液又は該内部液を収容するケーシングが防腐剤又は抗菌成分を含有するものとすれば、内部液中での微生物の繁殖を抑えて前記内部液や前記隔膜の汚れを抑制することができ、過酢酸濃度の測定精度をより向上させることができる。
【0010】
また、前記隔膜が有機物を含有する試料溶液に接触すると、前記隔膜の表面に有機物が付着したり、付着した有機物上に微生物が繁殖して被膜を形成したりして、過酢酸濃度測定に悪影響を与えることがある。
【0011】
このような前記隔膜表面の汚れは、ブラシや水圧等によって洗浄することが考えられているが、洗浄のために別途洗浄装置を設けなければいけないことや洗浄によってセンサ寿命が短くなってしまうなどの問題がある。また、強固な汚れの場合には、ブラシや水圧による洗浄だけでは不十分であり、洗浄力の強い薬液が必要な合もある。
【0012】
特に、医薬食品類の生産プロセスにおける過酢酸濃度測定においては、ブラシなどの物理的洗浄による試料溶液の汚染や、薬液洗浄による試料溶液の化学的汚染の恐れがあることから前記隔膜の洗浄そのものが難しい場合もある。
【0013】
そこで、前記隔膜の試料溶液と接触する側の表面上に導電性メッシュ層をさらに備えるようにしてもよい。
この導電性メッシュ層に所定の電圧を印加すれば、前記隔膜表面に付着している有機物を分解し、微生物の繁殖を抑えることができる。
このように前記隔膜表面の汚れを抑えることにより、前記隔膜表面の汚れによる過酢酸透過の阻害を抑えて、測定電流を安定させることができる。その結果、過酢酸濃度測定の精度をより向上させることができる。
【0014】
ところで、試料溶液の過酢酸濃度を連続して測定する場合には、前回の測定時に隔膜を透過した過酢酸が内部液中に残存していると、この残存している過酢酸によって測定誤差が生じてしまう。
そこで、内部液中に残存している過酢酸を分解して取り除くことによって、過酢酸濃度測定の精度をさらに向上させることができる。
【0015】
具体的な実施態様としては、測定と測定との間に、過酢酸を実質的に含有しないゼロ水に隔膜を所定時間接触させる方法を挙げることができる。
【0016】
このようにすれば、前記隔膜がゼロ水に接触している間は、過酢酸が内部液中に入って来ず、さらに内部液中に残存している過酢酸が作用極表面で分解され続ける。そのため、前記隔膜をゼロ水に接触させる時間を設けることで、内部液中の過酢酸濃度を下げることができる。
その結果、内部液中に残存している過酢酸による測定誤差を小さく抑えることができる。
【0017】
過酢酸濃度測定の精度をより向上させるためには、過酢酸濃度計に対して紫外線を照射する光源を備えるとよい。
紫外線は過酸化水素等の過酸化物を分解し、ヒドロキシラジカルを発生させる。ヒドロキシラジカルは、微生物や有機物を強力に分解する。そこで、過酢酸濃度計に対して紫外線を照射する光源を備えておけば、内部液や試料溶液中の微生物や有機物を分解することができる。その結果、例えば、微生物や有機物の付着による作用極表面や隔膜表面の汚染を抑えて、測定精度をより向上させることができる。
【0018】
前述したような過酢酸濃度計と試料溶液が流れる流路とを備え、流路内を流れる試料溶液の過酢酸濃度を、前記過酢酸濃度計を使用して連続的に測定する過酢酸濃度測定装置としても良い。
この場合には、試料溶液が流れる主流路とは別に、ゼロ水が流れるバイパス流路を別途設けておいて、これらを所定時間ごとに切り替えるようにしても良い。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る過酢酸濃度計及び過酢酸濃度測定装置によれば、過酢酸濃度測定における誤差を小さく抑えて、従来よりも精度よく過酢酸濃度を測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の一実施形態における過酢酸濃度計の全体模式図。
図2】本発明の一実施形態における過酢酸濃度計の概略図。
図3】本発明の一実施形態における過酢酸濃度計の概略断面図。
図4】本発明の一実施形態において図3のA部分を拡大した拡大断面図。
図5】本発明の他の実施形態における図3のA部分を拡大した拡大断面図。
図6】本発明の一実施形態における過酢酸濃度測定装置の全体模式図。
図7】本発明の一実施例における測定誤差を示すグラフ。
図8】本発明の他の実施形態における過酢酸濃度計の概略断面図。
図9】本発明の他の実施形態における過酢酸濃度計の概略断面図。
【符号の説明】
【0021】
100 過酢酸濃度測定装置
1 過酢酸濃度計
4 作用極
5 対極
11 隔膜
12 中間膜
13 内部液
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係る過酢酸濃度計及び過酢酸濃度測定装置の一実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0023】
本実施形態における過酢酸濃度計は、この過酢酸濃度計を試料溶液に浸漬させて該試料溶液中の過酢酸濃度を測定するものである。そして、この過酢酸濃度計は、図1及び図2に示すように、内部液を収容するため容器1aと、容器1aを密閉するための蓋部1bとを備える。
【0024】
容器1aは、一端面が開口するとともに他端面が閉塞された中空の円筒形状をなすものであって、開口端を塞ぐように蓋部1bを取り付けると、その内部に内部液13を収容するための空間が形成されるものである。また、その開口端付近の内壁には、蓋部1bを取り付けるための図示しないねじ山が形成される。
【0025】
そして、他端面の一部には、試料溶液に含まれる特定物質を透過させて、容器1a内に侵入させる隔膜11が設けられている。
【0026】
隔膜11は、試料溶液中の過酢酸、過酸化水素、溶存酸素、残留塩素等を透過させるものであって、例えばシリコン、フッ素樹脂又はポリエチレンを含む材料から構成されるものである。なお、フッ素樹脂としては、例えばテフロン(登録商標)等を用いることができる。また、隔膜11の膜厚としては、例えば10μm~200μmのものを用いることができる。
【0027】
蓋部1bは、容器1aを密閉するものであって、容器1a側の略中央部には、作用極4及び対極5を保持する保持部材16が突出するように設けられている。この保持部材16は、蓋部1bが容器1aに取り付けられた状態で、容器1aと蓋部1bとの間に形成される空間に収容されるものである。また、容器1a側の反対側には、外部機器を接続するためのケーブルが取り付けられるコネクタ部6が設けられている。
【0028】
保持部材16は、絶縁性材料から構成されるものであって、図3に示すように、作用極4の周囲を囲んで作用極4を保持するとともに、対極5を周囲に巻回して保持するものである。また、保持部材16には、蓋部1bを容器1aに取り付けるための螺旋状の溝が設けられており、容器1a側に設けられた図示しないねじ山と嵌合させることで、蓋部1bを容器1aに取り付けることができる。さらに、保持部材16には、外部へ気体を排出するための空気孔7が設けられている。なお、この空気孔7の開口一端には、気液を分離するフィルタが設けられている。
【0029】
作用極4は、例えば金や白金等の導電性材料から構成されるものであって、本実施形態では、図2及び図3に示すように、棒形状をなし、その一端が図4に示すように、保持部材16の先端面10よりもわずかに突出するように配置されている。また、この作用極4の表面には図示しない微小な凹凸が設けられている。
【0030】
対極5は、例えば白金や銀-塩化銀(Ag/AgCl)等の導電性材料から構成されるものであって、本実施形態では、線形状をなすように構成されている。
【0031】
作用極4及び対極5は、図3に示すように、導線8を介して接続されており、該導線8を介して外部に設けられた図示しない電力供給手段から電圧が印加される。また、導線8には、導線8を流れる電流を検知する電流計9が設けられている。なお、導線8や電流計9は蓋部1bの外部に設けられたものであってもよい。
【0032】
そして、図1及び図3に示すように、蓋部1bを容器1aに取り付けた状態で、蓋部1bと容器1aとの間に形成される空間には内部液13が収容される。
この内部液13は、水素イオン濃度に対して緩衝作用を有する緩衝液が用いられるものであって、過酢酸と反応する物質を含まないものである。本実施形態では、内部液13が緩衝液のみで構成される。この緩衝液は、緩衝液であれば特に限定されず、酸性緩衝液、中性緩衝液、アルカリ性緩衝液等を用いることができるが、さらに好ましくは酸性緩衝液、中性緩衝液を用いることができる。本実施形態では、例えばリン酸緩衝液や酢酸緩衝液、トリス、ホウ酸緩衝液、クエン酸緩衝液等を用いることができる。
【0033】
容器1aの内側に配置する隔膜11には、内部液13に対してぬれ性を有する中間膜12が積層されている。この中間膜12は、容器1aを蓋部1bに取り付けた状態で隔膜11と作用極4との間に挟まれるように配置されて、作用極4をこの中間膜12を介して隔膜11に接触させるものである。ここで、ぬれ性とは、中間膜12と内部液13との間に親和性があり、中間膜12に内部液13が留まり、中間膜12を濡れさせて、中間膜12の表面に内部液13による液層を形成する性質を有することを示す。この中間膜12の膜厚としては、1μm~200μmのものを用いることができる。
【0034】
また、中間膜12に用いられる材料としては、隔膜11の弾性率よりも大きい弾性率を有する材料を用いることができ、例えばポリマー等から構成されたもの、特にポリカーボネイト、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエチレンとポリイミドを混合した混合樹脂、ポリイミド、セルロース等を用いることができる。
そして、この中間膜12は酸素等の気泡の大きさ(500μm以上)よりも十分小さい孔径0.05μm~100μmの細孔12aが無数に設けられ多孔質膜で構成されている。
【0035】
また、容器1aの外側に配置する隔膜11には、隔膜11が中間膜12と接触する領域をさけて保護膜17が積層されている。この保護膜17を構成する材料としては特に限定されず、例えばポリプロピレン、PFA、PET等を用いることができる。なお、この保護膜17は、比較的硬度が高いことが望ましい。
【0036】
しかして、本実施形態に係る過酢酸濃度計は、前記内部液中の過酢酸を分解する触媒を備えている。
本実施形態では、過酸化水素を分解する酵素であるカタラーゼが前記内部液に添加されている。内部液中のカタラーゼの濃度は、活性値で0.01U/mg以上50U/mg以下の範囲であればよく、0.1U/mg以上5U/mg以下であることが好ましい。ここで、1Uは、25℃で毎分1マイクロモルの過酸化水素を分解するカタラーゼの量を表す単位である。
内部液中のカタラーゼは酵素であるので、使用環境等により触媒活性が低下することも考えられる。このような場合には、内部液を新しいものに取り替えたり、内部液中に新しいカタラーゼを補充したりすればよい。
【0037】
上述した構成を備える本発明の過酢酸濃度計1の動作について以下に説明する。
容器1aに蓋部1bを取り付けると、作用極4は、図4に示すように、中間膜12を介して隔膜11に接触する。具体的には、作用極4は先端面10から突出するように配置されているので、作用極4は、中間膜12を介して隔膜11と押圧接触する。
【0038】
また、容器1aと蓋部1bとの間には、内部液13が封入される。この封入された内部液13は、図4に示すように、隔膜11と中間膜12との微小な隙間及び中間膜12と作用極4との微小な隙間に侵入する。ここで、中間膜12は、内部液13に対してぬれ性を有するので、中間膜12の表面には内部液13の液層が形成される。また、中間膜12は多孔質膜であるので、中間膜12に設けられた細孔12aから中間膜12の内部に内部液13が侵入する。そのため、作用極4はこの液層を介して中間膜12に接触するとともに、中間膜12も液層を介して隔膜11と接触するが、上述した液層は非常に薄い層であるので、作用極4は、実質的に中間膜12を介して隔膜11に接触しているものとみなすことができる。
【0039】
そして、作用極4も内部液13に浸漬されるとともに、対極5も内部液13に浸漬されるので、内部液13を介して作用極4と対極5とが電気的に接続される。
【0040】
上述した隔膜式センサ1を、試料溶液に浸漬すると、試料溶液中に含まれる過酢酸が隔膜11を透過し、隔膜11を透過した過酢酸は、容器1aと蓋部1bとの間に形成された空間に収容された内部液13に溶解する。そして、作用極4と対極5との間に図示しない電力供給手段から導線8を介して電圧が印加されると、作用極4の表面で過酢酸が酸化還元反応するとともに、対極5の表面で酸化還元反応が生じる。これらの反応によって、導線8に電流が流れるので、この電流値を電流計9で測定すれば、過酢酸を検知することができる。
【0041】
なお、例えば、過酢酸濃度計1のコネクタ部6をケーブル等を介して外部機器に接続して、外部機器に電流計9で測定された電流値を示す出力信号を送信して、外部機器で過酢酸の濃度を算出することもできる。
【0042】
上述したように構成した過酢酸濃度計1によれば、以下のような効果を奏することができる。
【0043】
前記内部液13が過酸化水素を分解する触媒を含有しているので、過酸化水素が過酢酸とともに隔膜11を透過して内部液13に溶解したとしても、内部液13中の過酸化水素を分解して減らすことができる。
その結果、過酸化水素が作用極4の表面で反応することによる測定誤差を減らして、過酢酸濃度を精度よく測定することができる。
本実施形態では、前記触媒として酵素であるカタラーゼを使用しているので、他の触媒を使用する場合に比べて、内部液中に含まれる過酸化水素だけをより選択的に分解することができる。
【0044】
内部液13に、水素イオン濃度に対して緩衝作用を有する緩衝液が用いられるので、たとえ過酢酸濃度を測定中に内部液13が試料溶液側に漏出したとしても、試料溶液に含まれる過酢酸と緩衝液とは反応しないので、試料溶液中の過酢酸の濃度が低下することはなく、試料溶液の消毒・滅菌作用を保つことができる。
また、内部液中に触媒として含まれているカタラーゼは、前述したように、過酸化水素だけを選択的に分解するので、内部液が試料溶液側に漏出したとしても試料溶液中の過酢酸の濃度が低下することはない。
また、緩衝液にヨウ素や臭素のような残留性はなく、触媒として含有されているカタラーゼにも毒性がないので、ので、内部液13が医療分野や食品分野で用いられる試料溶液に漏出したとしても、生体への影響を防ぐことができる。 加えて、緩衝液は臭素のように有毒なガスが発生するものではないので、作業者の心理的な負担を軽減することができる。
【0045】
また、試料溶液中の過酢酸は、上述した反応によって作用極4の表面で酢酸に変化するので、反応が進むにつれて内部液13中に酢酸が増加して、内部液13が酸性に移行するおそれがあるが、本実施形態の内部液13は緩衝液で構成されるので、内部液13が酸性に移行することを防ぐことができる。
【0046】
作用極4が中間膜12を介して隔膜11と接触しているので、作用極4と隔膜11との距離を近づけながら、中間膜12によって作用極4と隔膜11とが隙間なく密着することを防ぐことができる。また、この中間膜12は内部液13に対してぬれ性を有し、中間膜12の表面には内部液13による液層が形成されるので、この液層から作用極4の表面に内部液13に溶解した特定物質を供給することができる。そのため、隔膜11と作用極4との距離を近づけてセンサの応答性を向上しながら、作用極4の表面での反応が阻害されることを防止して、センサの感度が悪化することを防ぐことができる。
【0047】
また、本実施形態では作用極4の表面に微小な凹凸が設けられており、この微小な凹凸によって内部液13と接触する比表面積が大きくなるので、作用極4表面での反応の応答性をより向上させることができる。
【0048】
さらに、特定物質が溶解した内部液13が、中間膜12に設けられた細孔12aを通過して作用極4の表面に供給されるので、特定物質が作用極4の表面に到達するまでの距離をさらに縮めることができ、作用極4の表面での応答性をより向上させることができる。また、細孔12aを通じて内部液13を作用極4の表面に供給することができるので、安定的に特定物質を検知することができる。
【0049】
また、多孔質膜の細孔12aの孔径が、0.05μm~100μmであるので、センサ内に気泡が生じた場合であっても、この気泡は細孔12aよりも十分大きく、細孔12a内に残存することがない。そのため、気泡によって阻害されることなく、作用極4の表面に細孔12aを通じて内部液13を供給することができるので、センサの感度の悪化を防止することができる。
【0050】
また、本実施形態における隔膜式センサ1では、中間膜12の弾性率(体積弾性率)が隔膜11の弾性率よりも大きいものであるので、隔膜11に比べて変形し難く、中間膜12自体が、作用極4の表面に密着することを確実に防いで、作用極4での応答性を向上することができる。
【0051】
さらに、作用極4が、中間膜12を介して隔膜11に押圧接触しているので、作用極4と隔膜11との距離をより縮めることができ、作用極4表面での応答性をより向上することができる。
【0052】
加えて、保持部材16に空気孔7が設けられているので、容器1aに蓋部1bを取り付けた際にかかる内圧をこの空気孔7から逃がすことができるとともに、上述したように、センサ内に気泡(ガス)が生じた場合であっても、この気泡をこの空気孔7から逃がすことができ、センサの故障を防ぐことができる。
【0053】
また、隔膜11が中間膜12と接触する領域を除くように、隔膜11の試料溶液と接触する面に保護膜17が設けられているので、保護膜17によって隔膜11が破損することを防ぎ、内部液13が試料溶液側に漏出することを防ぐことができる。そして、保護膜17が比較的硬度が大きいものを用いているので、隔膜11の破損をより確実に防ぐことができる。また、試料溶液中の不純物等が隔膜11を介して内部液13内に侵入することを防ぐことができ、検知精度を高めることができる。
【0054】
さらに、中間膜12をポリマー等で構成する、特にポリカーボネイトを用いることで、作用極4の応答性をより向上させることができる。
【0055】
本発明は、その趣旨に反しない範囲で様々な変形が可能であり、前述の実施形態に限られない。
例えば、前記触媒は前述したカタラーゼに限らず、過酸化水素の分解を促進するものであって、過酢酸を分解しないものであればよい。
具体的には、前記触媒が、白金、白金合金、チタンなどの貴金属であっても良い。この場合には、前述した貴金属が内部液中に存在すればよい。
そのため、これら貴金属の形状や過酢酸濃度計1への取り付け方は特に限定されず、例えば、棒状や板状に成形したこれら貴金属を内部液中に浸漬するなどしても良い。
【0056】
前述の実施形態のように、内部液13に緩衝液を使用している場合には、内部液13が微生物の繁殖によって汚れてしまい、作用極4表面における過酢酸の反応が阻害されたり、測定結果に誤差が生じてしまったりする恐れがある。
内部液中での微生物の繁殖による測定結果への悪影響を抑える方法として、紫外線の照射を挙げることができる。例えば、容器1aや蓋部1bなどの内部液を収容するケーシングの内部に前記光源L1を配置して、内部液に対して紫外線を照射するようにしておけば、光源L1からの紫外線を直接内部液に照射することができる。紫外線は、内部液中の過酸化水素を分解してヒドロキシラジカルを発生させるので、このヒドロキシラジカルによって内部液中での微生物の繁殖を抑えることができる。また、ヒドロキシラジカルによって、作用極の汚れの原因となる有機物を分解することもできる。
前記光源L1としては、例えば、紫外LEDなどを挙げることができる。例えば、図8に示すように、ワイヤレス給電式のLED等を使用すれば、配線などを気にせず簡単な構成で前記ケーシングの内部に光源L1を配置することができる。
【0057】
内部液中での微生物の繁殖による測定結果への悪影響を抑える他の方法として、例えば、内部液13に防腐剤を添加することを挙げることができる。
前記防腐剤としては、例えば、クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、安息香酸、安息香酸ナトリウム、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、亜硫酸塩、亜硝酸ナトリウム等を使用してもよいし、銀、銅、亜鉛などの金属イオン、植物等から抽出された天然成分などを挙げることができる。
【0058】
内部液13中の微生物の繁殖を抑えるには、内部液13に紫外線を照射したり、防腐剤を添加したりする以外にも、例えば、容器1aや蓋部1b等の内部液を収容するケーシングの素材に抗菌成分を含有するものを使用してもよい。この抗菌成分としては、例えば、銀、銅、亜鉛などの金属や、植物から抽出された天然の抗菌成分等を挙げることができるが、これらに限られない。
【0059】
さらに、隔膜11の試料溶液と接触する表面に、試料溶液由来の有機物などの汚れが付着したり、微生物が繁殖して被膜を形成したりすることによって、過酢酸の透過が阻害されることを防ぐために、例えば、図5に示すように、隔膜11の試料溶液と接触する側の表面に導電性メッシュ層18を積層しても良い。
この導電性メッシュ層18としては、過酢酸の隔膜透過を阻害しない程度の開口度を有するメッシュ状の金属シート等を挙げることができる。
この導電性メッシュ層18に電圧を印加すれば、隔膜11の試料溶液側の表面に付着している有機物などの汚れを分解することができる。例えば、導電性メッシュ層18への電圧印加を一定時間毎に行うようにすれば、隔膜11の汚れをより効果的に抑制することができる。
導電性メッシュ層18の素材は導電性を有するものであればよく、特に限定されないが、銀やSUS等の素材を使用することが好ましい。導電性メッシュ層18の素材として、銀やSUS等を使用すれば、過酸化水素を効率よく分解してヒドロキシラジカルを発生させることができ、このヒドロキシラジカルによって隔膜表面での微生物の繁殖や有機物の付着を抑えることができるからである。
【0060】
隔膜11の試料溶液と接する表面の汚れや微生物の繁殖を抑制する方法としては、前述した以外にも、隔膜11に紫外線を照射することを挙げることができる。
前記隔膜に紫外線を照射する光源L2は、前述した内部液に紫外線を照射する場合の光源L1と同じものであっても良いし、隔膜11の試料溶液に接する側の面に外側から紫外線を照射する光源L2を別途設けても良い。この光源L2は、前述したケーシングに取り付けられていても良いし、例えば、図9に示すように、前記過酢酸濃度計の外部に独立して設けられていても良い。
【0061】
前述した過酢酸濃度計1は、ビーカーなどの試料容器に貯留した試料溶液に浸漬して過酢酸濃度を測定するようなバッチ式の測定方法に使用しても良いし、過酢酸濃度計1を配置した流路に試料を供給して過酢酸濃度を連続的又は断続的に測定する過酢酸濃度測定装置100に組み込んで使用してもよい。
過酢酸濃度を連続的又は断続的に測定する過酢酸濃度測定装置100の例としては、例えば、図6に示すように、前述したような過酢酸濃度計1と、該過酢酸濃度計1を内部に収容する測定セル19と、該測定セル19に例えば、過酢酸を使用している図示しない生産ライン等から測定対象である試料溶液を分取して前記測定セル19に供給する試料供給流路20と、前記測定セル19から試料溶液を導出する試料導出流路21とを備えたものを挙げることができる。
【0062】
このような過酢酸濃度測定装置100の場合、測定時に隔膜11を透過して内部液に溶解した過酢酸は作用極4の表面で反応して少しずつ分解されるが、内部液13中に分解されないままの過酢酸が残留してしまうことがある。
内部液13中に過酢酸が残留したまま連続して測定を続けると、センサの感度が変化してしまうという問題や、測定電流が安定するまでに時間がかかってしまうという問題がある。その結果、過酢酸濃度が精度良く測定できない可能性がある。
【0063】
そのため、過酢酸濃度の測定精度をより向上するには、内部液中に残留している過酢酸を取り除くことが好ましい。
そこで、前記過酢酸濃度測定装置100が、さらに過酢酸を含有しない液体(以下、ゼロ水ともいう。)を前記測定セル19に供給するゼロ水供給流路22と、前記測定セル19をゼロ水供給流路22又は前記試料供給流路20に切り替え可能に接続する供給切替機構23とをさらに具備するようにしてもよい。
【0064】
その上で、測定と測定との間に、例えば定期的にタイミングを設定して、前記測定セル19に接続する流路を、前記試料供給流路20から前記ゼロ水供給流路22に切り替えて、前記測定セル内の過酢酸濃度計1の隔膜11にゼロ水を所定時間の間供給するようにすればよい。
前記切替機構23は、例えば、試料供給流路20又はゼロ水供給流路22と測定セル19とを切替可能に接続する、3方弁などの供給切替バルブ23Vと、該供給切替バルブ23Vに切替タイミングなどの指令信号を出力する供給切替制御部とを備えるものである。
前記供給切替制御部は、例えば、前記過酢酸濃度測定装置100が備える情報処理回路がその機能を果たすものである。該情報処理回路は、例えば図示しないCPU、メモリ、通信回路等からなるデジタル回路と、増幅器、ADコンバータ等からなるアナログ回路とからなるものである。そしてこのものは、前記メモリに予め記憶させたプログラムにしたがってCPUやその周辺回路が協動することにより前記供給切替制御部としての機能を発揮する。
この情報処理回路は、電流計9からの出力信号に基づいて過酢酸濃度を算出する前述した外部機器に備えられているものであっても良い。
前記ゼロ水は、実質的に過酢酸を含有しない液体(過酢酸濃度が100ppm以下)であればよく、例えば、純水や水道水などの過酢酸を全く含まない液体であることが好ましい。
ゼロ水を供給するタイミングやゼロ水を供給する時間は、測定の目的等によって適宜変更することができるが、連続して5分以上ゼロ水を供給し続けることが好ましく、15分以上ゼロ水を供給することがより好ましい。
また、測定セルに試料溶液を供給しないようにして、測定セル中の試料溶液を排出し、過酢酸濃度計の隔膜を試料溶液と非接触の状態にすることによっても、ゼロ水を供給するのと同じ効果を得ることができる。
この場合には、隔膜に付着した試料溶液を除去する測定セル内を過酢酸を含まない気体で置換するために、ゼロ水供給流路から、過酢酸を含まない気体を供給するようにしてもよい。
【0065】
このように測定と測定との間に、過酢酸濃度計1にゼロ水を供給するようにすれば、ゼロ水を供給している間は隔膜11を介して過酢酸が内部液13に入って来ないので、この状態で内部液13中に残留している過酢酸を作用極4表面での反応によって分解すれば、内部液13中に残留する過酢酸の濃度を下げることができる。
この時、前述したように内部液13中の過酸化水素を分解する触媒が存在していれば、過酢酸が分解することによって発生する過酸化水素を素早く分解することができるので、より過酢酸の分解効率を向上させることができる。
【0066】
前述した過酢酸濃度測定装置100の試料導出流路21が、測定後の試料溶液の再利用等のために生産ライン等に接続されていることがある。このような場合であって、ゼロ水が生産ライン等に混入することを防ぎたい場合には、前記試料導出流路21から分岐する排出流路24及び排出切替機構25等をさらに設けてもよい。このようにしておけば、測定セル19に供給されたゼロ水をこの排出流路24から外部へ排出することができる。なお、前記排出切替機構25は、例えば、3方弁などの排出切替バルブ25Vと、該排出切替バルブ25Vを制御する排出切替制御部とを備えるものである。該排出切替制御部は、例えば、前述した情報処理回路がその機能を果たす。
一方で、ゼロ水が試料導出流路21から生産ライン等に混入しても問題がない場合や、前記試料導出流路21がそもそも生産ライン等に接続されていない場合などには、排出流路24及び排出切替機構25を設ける必要はない。
【0067】
図6では、試料供給流路20とゼロ水供給流路22とが同一の管を経て測定セル19に接続されているが、試料供給流路20と、ゼロ水供給流路22とは互いに完全に独立した管を使用しているものであっても良く、これら流路20、22が測定セルに対して互いに互いに異なる方向から接続されていても良い。
また、前記排出流路24が、前記試料導出流路21から分岐するのではなく、前記試料導出流路21とは全く別の流路として独立して設けられていても良い。
【0068】
隔膜を保護する保護膜17を別途設けずに、例えば、前述した容器1aの先端部分が、保護部材として隔膜11が中間膜12と接触する領域をさけるように、隔膜11を覆うものとしても良い。
【0069】
前記実施形態では、内部液が過酢酸と反応しない緩衝液であるものを挙げたが、内部液がヨウ素イオンや臭化物イオンを含有する隔膜式過酢酸濃度計であってもよい。
【実施例
【0070】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
この実施例では、同一形状の過酢酸濃度計であり、内部液中に触媒を備えた過酢酸濃度計(実施例1)と内部液中に触媒を備えていない過酢酸濃度計(比較例1)とを用いて過酢酸濃度測定を行い、それぞれの測定誤差を調べた。
【0071】
<実施例1>
実施例1では、前記実施形態で詳しく説明した、内部液中にカタラーゼを含有する過酢酸濃度計を使用した。本実施例では、内部液としてKClを1mol/Lとなるように溶解したリン酸緩衝液(pH7.0)に、カタラーゼを0.2U/mgとなるように添加したものを使用した。
測定対象として、過酢酸は含有するが過酸化水素を含有しない試料溶液と過酢酸と過酸化水素とを含有する試料溶液とを用意した。過酢酸と過酸化水素とを含有する試料溶液としては、0.0%から3.5%までの範囲で過酸化水素濃度を様々に変化させた試料溶液を用意した。
これら各試料溶液の過酢酸濃度を、前述した過酢酸濃度計を使用して測定した。
過酢酸濃度計で測定したものと同じ試料溶液の過酢酸濃度を並行して滴定法で測定した。過酢酸濃度計で測定された濃度指示値と、中和滴定により過酢酸濃度を正確に測定する滴定法で測定した濃度指示値との差を測定誤差とした。滴定法での過酢酸濃度測定は、平沼産業製COM-1700を用いて行った。実験は2回行った。1回目の結果を図7(a)に、2回目の結果を図7(b)にそれぞれ示す。図7のグラフの縦軸は測定誤差を表し、横軸は試料溶液に含有される過酸化水素の濃度を表している。
【0072】
<比較例1>
比較例1では、内部液にカタラーゼが含有されていない点以外は、実施例1で使用したものと全く同じ過酢酸濃度計を使用した。実施例1と同様の手順で測定誤差を算出した。実験は2回行った。1回目の結果を図7(a)に、2回目の結果を図7(b)にそれぞれ示す。
【0073】
図7のグラフを見ればすぐにわかるように、内部液に過酸化水素を分解する触媒を添加することによって、過酢酸濃度計による過酢酸濃度の測定誤差が大幅に低減されることが分かった。
比較例1では、試料溶液中に過酸化水素が含まれていると測定誤差が生じ、過酸化水素の濃度が高くなるにつれて測定誤差が非常に大きくなってしまうことがわかる。
これに対して、内部液中に過酸化水素を分解する触媒を備えている実施例1では、測定誤差を試料溶液中の過酸化水素濃度に関わらず最大でも70ppm未満に抑えることができた。この測定誤差は、滴定法による過酢酸濃度の測定誤差も考慮すれば、ほとんど測定誤差がないといえる。
また、前述した比較例の過酢酸濃度計では、過酢酸を含有しない試料溶液の次に過酢酸を含有する試料溶液を測定した場合、指示値がだらだらと上昇する現象が観察されたが、前記実施例の過酢酸濃度計ではこのよう場合であっても指示値が素早く安定することが分かった。この結果から、内部液に過酸化水素を分解する触媒を添加して、過酸化水素による過酢酸測定の指示値への影響を抑えることにより、過酢酸濃度測定の応答速度をも改善できることが分かった。
【0074】
以上の結果から、内部液中に過酸化水素を分解する触媒を備えている過酢酸濃度計によれば、触媒を備えない場合に比べて、過酸化水素を含有する試料溶液の過酢酸濃度を測定する場合の測定誤差を大幅に削減できることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明に係る過酢酸濃度計及び過酢酸濃度測定装置によれば、過酢酸濃度測定における誤差を小さく抑えて、従来よりも精度よく過酢酸濃度を測定することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9