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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-16
(45)【発行日】2024-05-24
(54)【発明の名称】縮合多環芳香族化合物
(51)【国際特許分類】
   C07D 495/04 20060101AFI20240517BHJP
   H01L 27/146 20060101ALI20240517BHJP
   H01L 29/786 20060101ALI20240517BHJP
   H10K 10/40 20230101ALI20240517BHJP
   H10K 85/10 20230101ALI20240517BHJP
   H10K 85/60 20230101ALI20240517BHJP
   H10K 39/32 20230101ALI20240517BHJP
【FI】
C07D495/04 CSP
C07D495/04 101
H01L27/146 C
H01L29/78 618B
H10K10/40
H10K85/10
H10K85/60
H10K39/32
H01L29/78 613Z
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021546611
(86)(22)【出願日】2020-09-07
(86)【国際出願番号】 JP2020033726
(87)【国際公開番号】W WO2021054161
(87)【国際公開日】2021-03-25
【審査請求日】2023-04-11
(31)【優先権主張番号】P 2019168260
(32)【優先日】2019-09-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019220288
(32)【優先日】2019-12-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019220873
(32)【優先日】2019-12-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019236662
(32)【優先日】2019-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020021192
(32)【優先日】2020-02-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004086
【氏名又は名称】日本化薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】刀祢 裕介
(72)【発明者】
【氏名】小野寺 希望
(72)【発明者】
【氏名】薬師寺 秀典
(72)【発明者】
【氏名】新見 一樹
(72)【発明者】
【氏名】岩田 智史
(72)【発明者】
【氏名】飯野 拓
(72)【発明者】
【氏名】堀 駿介
【審査官】宮田 透
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-026559(JP,A)
【文献】特開2018-206878(JP,A)
【文献】特開2018-078270(JP,A)
【文献】国際公開第2016/088793(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D、H01L、H10K
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化1】
(式(1)中、R及びRの一方は一般式(2)
【化2】
(式(2)中、nは0乃至2の整数を表す。Rはベンゼン又はナフタレンから水素原子を2つ除いた二価の連結基を表す。Rは芳香族炭化水素の芳香環から水素原子を2つ除いた二価の連結基を表し、nが2の場合、複数のRは互いに同じでも異なってもよい。Rは芳香族炭化水素基を表す。)
で表され、かつ3乃至5個の環構造を含む置換基を表し、他方は水素原子を表す。)
で表される縮合多環芳香族化合物。
【請求項2】
式(2)で表される置換基が、21乃至30個の炭素原子を含む請求項1に記載の縮合多環芳香族化合物。
【請求項3】
一般式(3)
【化3】
(式中、Rは一般式(4)
【化4】
(式(4)中、mは0又は1の整数を表す。Rは芳香族炭化水素の芳香環から水素原子を2つ除いた二価の連結基を表す。Rは芳香族炭化水素基を表す。)
で表され、かつ9乃至18個の炭素原子を含む置換基を表す。)
で表される請求項1又は2に記載の縮合多環芳香族化合物。
【請求項4】
式(2)で表される置換基が、フェニルナフチル基、ターフェニル基、ビフェニルナフチル基、フェナンスレン基、アントラニル基、ナフチルフェニル基、フルオレニル基及びピレニル基からなる群より選ばれる芳香族炭化水素基を有するフェニル基である請求項1に記載の縮合多環芳香族化合物。
【請求項5】
一般式(5)
【化5】
(式中、Rは一般式(6)
【化6】
(式(6)中、pは0乃至2の整数を表す。R10は芳香族炭化水素の芳香環から水素原子を2つ除いた二価の連結基を表す。R11は芳香族炭化水素基を表す。)
で表され、かつ1乃至3個の環構造を含む置換基を表す。)
で表される請求項1又は2に記載の縮合多環芳香族化合物。
【請求項6】
式(2)で表される置換基が、ナフチル基、ビフェニル基、フェニルナフチル基、ターフェニル基、フェナンスレン基、アントラニル基、ナフチルフェニル基及びフルオレニル基からなる群より選ばれる芳香族炭化水素基を有するナフチル基である請求項1に記載の縮合多環芳香族化合物。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか一項に記載の縮合多環芳香族化合物を含む有機薄膜。
【請求項8】
請求項7に記載の有機薄膜を有する電界効果トランジスタ。
【請求項9】
請求項1乃至6のいずれか一項に記載の縮合多環芳香族化合物を含む有機光電変換素子用材料。
【請求項10】
請求項7に記載の有機薄膜を有する有機光電変換素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な縮合多環芳香族化合物とその用途に関する。更に詳しくは、本発明はジナフト[3,2-b:2’,3’-f]チエノ[3,2-b]チオフェン(以下、「DNTT」と略す)誘導体である縮合多環芳香族化合物、該化合物を含む有機薄膜及び該有機薄膜を有する電界効果トランジスタに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機FET(電界効果トランジスタ)デバイスなどの有機薄膜デバイスが注目されており、これらの薄膜デバイスに用いられる縮合多環芳香族化合物に代表される種々の有機エレクトロニクス材料が研究、開発されている。
例えば、特許文献1及び2には、DNTT誘導体は優れた電荷移動度を呈し、その薄膜が有機半導体特性を有することが示されている。しかしながら、特許文献1及び2に開示されているDNTT誘導体は、有機溶媒への溶解性が乏しく、塗布法等の溶液プロセスで有機半導体層を作製できないために、蒸着プロセスにより有機薄膜層を形成している。
しかし、DNTT骨格に環構造数の大きな芳香族基が置換すると、DNTT誘導体の昇華温度が上昇し、その結果、蒸着プロセス時に熱分解を起こしてしまう問題があった。
【0003】
この問題に対して、特許文献3及び非特許文献1には、DNTT骨格に分岐鎖アルキル基を導入することにより有機溶媒への溶解性が改善することが示されている。また、特許文献4には、中心のチオフェン環部分に隣接する芳香族環に置換基を導入することによって、DNTT骨格の溶解性が改善され、溶液プロセスで有機半導体層を作製した有機薄膜デバイスが開示されている。
【0004】
以上のように、これまで有機エレクトロニクス化合物として有益なDNTT誘導体の開発が行われてきたが、これらの文献のDNTT誘導体は、電界効果トランジスタ素子の電極を作製した後の加熱アニール工程において、有機半導体特性が著しく低下してしまうという問題があった。
【0005】
また、特許文献5では、DNTT誘導体を光電変換素子に適用した検討がなされている。しかしながら、同文献でDNTT誘導隊の合成方法として引用している特許文献6及び特許文献7に開示された方法は、ナフタレン骨格の2位や3位にあらかじめ置換基を導入した後にDNTT誘導体を合成する必要があり、DNTT誘導体の合成の汎用性が低いこと、及び低電圧領域での暗電流の発生の抑制に課題があり、より低電圧領域での明暗電流比の大きな光電変換素子が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】WO2008/050726号公報
【文献】WO2010/098372号公報
【文献】WO2014/115749号公報
【文献】特許第5404865号
【文献】特開2018-26559号公報
【文献】特許第5674916号
【文献】特許第5901732号
【非特許文献】
【0007】
【文献】ACS Appl.Mater.Interfaces,8,3810-3824(2016)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記従来の課題を鑑みてなされたものであり、その目的は、簡便な合成方法で種々の置換基を導入することが可能な縮合多環芳香族化合物、該化合物を含む有機薄膜及び該有機薄膜を有する有機半導体デバイス(耐熱性に優れた電界効果トランジスタ、低電圧領域での明暗電流比の大きな光電変換素子)を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意検討の結果、特定構造の新規の縮合多環芳香族化合物を用いることにより上記の課題が解決されることを見出し、本発明を完成させるに至った。
即ち、本発明は、
[1]一般式(1)
【0010】
【化1】
【0011】
(式(1)中、R及びRの一方は一般式(2)
【0012】
【化2】
【0013】
(式(2)中、nは0乃至2の整数を表す。Rはベンゼン又はナフタレンから水素原子を2つ除いた二価の連結基を表す。Rは芳香族炭化水素の芳香環から水素原子を2つ除いた二価の連結基を表し、nが2の場合、複数のRは互いに同じでも異なってもよい。Rは芳香族炭化水素基を表す。)
で表され、かつ3乃至5個の環構造を含む置換基を表し、他方は水素原子を表す。)
で表される縮合多環芳香族化合物、
[2]式(2)で表される置換基が、21乃至30個の炭素原子を含む前項[1]に記載の縮合多環芳香族化合物、
[3]一般式(3)
【0014】
【化3】
【0015】
(式中、Rは一般式(4)
【0016】
【化4】
【0017】
(式(4)中、mは0又は1の整数を表す。Rは芳香族炭化水素の芳香環から水素原子を2つ除いた二価の連結基を表す。Rは芳香族炭化水素基を表す。)
で表され、かつ9乃至18個の炭素原子を含む置換基を表す。)
で表される前項[1]又は[2]に記載の縮合多環芳香族化合物、
[4]式(2)で表される置換基が、フェニルナフチル基、ターフェニル基、ビフェニルナフチル基、フェナンスレン基、アントラニル基、ナフチルフェニル基、フルオレニル基及びピレニル基からなる群より選ばれる芳香族炭化水素基を有するフェニル基である請求項1に記載の縮合多環芳香族化合物、
[5]一般式(5)
【0018】
【化5】
【0019】
(式中、Rは一般式(6)
【0020】
【化6】
【0021】
(式(6)中、pは0乃至2の整数を表す。R10は芳香族炭化水素の芳香環から水素原子を2つ除いた二価の連結基を表す。R11は芳香族炭化水素基を表す。)
で表され、かつ1乃至3個の環構造を含む置換基を表す。)
で表される前項[1]又は[2]に記載の縮合多環芳香族化合物、
[6]式(2)で表される置換基が、ナフチル基、ビフェニル基、フェニルナフチル基、ターフェニル基、フェナンスレン基、アントラニル基、ナフチルフェニル基及びフルオレニル基からなる群より選ばれる芳香族炭化水素基を有するナフチル基である前項[1]に記載の縮合多環芳香族化合物、
[7]前項[1]乃至[6]のいずれか一項に記載の縮合多環芳香族化合物を含む有機薄膜、
[8]前項[7]に記載の有機薄膜を有する電界効果トランジスタ、
[9]前項[1]乃至[6]のいずれか一項に記載の縮合多環芳香族化合物を含む有機光電変換素子用材料、及び
[10]前項[7]に記載の有機薄膜を有する有機光電変換素子、
に関する。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、簡便な合成方法で種々の置換基を導入することが可能であり、かつ実用的なプロセス温度領域での耐熱性に優れた縮合多環芳香族化合物、該化合物を含む有機薄膜及び該有機薄膜を有する有機半導体デバイス(電界効果トランジスタ、有機光電変換素子)を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、本発明の電界効果トランジスタ(素子)の構造のいくつかの態様例を示す概略断面図であり、Aはボトムコンタクト-ボトムゲート型電界効果トランジスタ(素子)、Bはトップコンタクト-ボトムゲート型電界効果トランジスタ(素子)、Cはトップコンタクト-トップゲート型電界効果トランジスタ(素子)、Dはトップ&ボトムゲート型電界効果トランジスタ(素子)、Eは静電誘導型電界効果トランジスタ(素子)、Fはボトムコンタクト-トップゲート型電界効果トランジスタ(素子)を示す。
図2図2は、本発明の電界効果トランジスタ(素子)の一態様例としてのトップコンタクト-ボトムゲート型電界効果トランジスタ(素子)の製造工程を説明するための説明図であり、(1)乃至(6)は各工程を示す概略断面図である。
図3図3は、本発明の有機光電変換素子の実施態様を例示した断面図を示す。
図4図4は、本発明の縮合多環芳香族化合物を用いて作製した有機薄膜のAFM像である。
図5図5は、比較例化合物を用いて作製した有機薄膜のAFM像である。
図6図6は、本発明の縮合多環芳香族化合物を用いて作製した有機薄膜のAFM像である。
図7図7は、本発明の縮合多環芳香族化合物を用いて作製した有機薄膜のAFM像である。
図8図8は、比較例化合物を用いて作製した有機薄膜のAFM像である。
図9図9は、本発明の縮合多環芳香族化合物を用いて作製した有機薄膜のAFM像である。
図10図10は、比較例化合物を用いて作製した有機薄膜のAFM像である。
図11図11は、本発明の縮合多環芳香族化合物を用いて作製した有機薄膜のAFM像である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、本発明をより詳細に説明する。
本発明の縮合多環芳香族化合物は、上記一般式(1)で表される。
一般式(1)中、R及びRの一方は上記一般式(2)で表され、かつ3乃至5個の環構造を含む置換基を表し、他方は水素原子を表す。
ここで、後述する一般式(1)で表される縮合多環芳香族化合物の具体例における「環構造を含む一般式(2)で表される置換基中の環構造の数」を記載すると、一般式(2)で表される置換基中の環構造が3個の具体例化合物はNo.1及び21であり、一般式(2)で表される置換基中の環構造が4個の具体例化合物はNo.2、3、4、11、13、16、17、18、20、22、23、24、26、27、28、29、30、36、39、41、43、49、50、51、54、55、59、60及び61であり、一般式(2)で表される置換基中の環構造が5個の具体例化合物はNo.5乃至10、12、14、15、19、25、31乃至35、37、38、40、42、44乃至48、52、53、56、57、58、62、63及び64である。
【0025】
一般式(2)中、nは0乃至2の整数を表す。Rはベンゼン又はナフタレンから水素原子を2つ除いた二価の連結基を表す。Rは芳香族炭化水素の芳香環から水素原子を二つ除いた二価の連結基を表し、nが2の場合、複数存在するRは互いに同じでも異なってもよい。Rは芳香族炭化水素基を表す。
一般式(2)のRが表す二価の連結基となり得る芳香族炭化水素は、芳香性を有する化合物でありさえすれば特に限定されないが、例えばベンゼン、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、テトラセン、クリセン、ピレン、トリフェニレン、フルオレン、ベンゾフルオレン、アセナフチレン及びフルオランテン等が挙げられる。
一般式(2)のRが表す二価の連結基としては、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン又はフルオレンの芳香環から水素原子を2つ除いた二価の連結基が好ましく、ベンゼン又はナフタレンの芳香環から水素原子を2つ除いた二価の連結基がより好ましい。
【0026】
一般式(2)のRが表す芳香族炭化水素基とは、芳香族炭化水素の芳香環から水素原子を一つ除いた残基を意味する。
一般式(2)のRが表す芳香族炭化水素基となり得る芳香族炭化水素は、芳香性を有する化合物でありさえすれば特に限定されないが、例えばベンゼン、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、テトラセン、クリセン、ピレン、トリフェニレン、フルオレン、ベンゾフルオレン、アセナフチレン及びフルオランテン等が挙げられる。
一般式(2)のRが表す芳香族炭化水素基としては、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン又はフルオレンの芳香環から水素原子を1つ除いた残基が好ましく、ベンゼン又はナフタレンの芳香環から水素原子を1つ除いた残基がより好ましい。
【0027】
上記一般式(2)で表される置換基は、21乃至30個の炭素原子を含むことが好ましく、21乃至28個の炭素原子を含むことがより好ましい。ここでいう「一般式(2)で表される置換基の含む炭素原子の数」とは、Rがフェニレン基の場合は、該フェニレン基中の炭素数6、二価の連結基R中の炭素数(Rが複数存在する場合は複数のR中の炭素数の合計)、及び芳香族炭化水素基R中の炭素数の総和を意味し、例えば後述する一般式(1)で表される縮合多環芳香族化合物の具体例No.1における「一般式(2)で表される置換基中の炭素数」は6+6+6=18個、No.15における「式(2)で表される置換基中の炭素数」は6+10+10=26個である。他方、Rがナフチレン基の場合は、ナフチレン基中の炭素数10、二価の連結基R中の炭素数(Rが複数存在する場合は複数のR中の炭素数の合計)、及び芳香族炭化水素基R中の炭素数の総和を意味し、例えば後述する一般式(1)で表される縮合多環芳香族化合物の具体例No.29における「一般式(2)で表される置換基中の炭素数」は10+6+6=22個、No.31における「式(2)で表される置換基中の炭素数」は10+(6+6)+6=28個、No.47における「式(2)で表される置換基中の炭素数」は10+13=23個、No.48における「式(2)で表される置換基中の炭素数」は10+14=24個である。
【0028】
また、本発明の他の態様においては、一般式(2)で表される置換基は、フェニルナフチル基、ターフェニル基、ビフェニルナフチル基、フェナンスレン基、アントラニル基、ナフチルフェニル基、フルオレニル基及びピレニル基からなる群より選ばれる芳香族炭化水素基を有するフェニル基であること、又はナフチル基、ビフェニル基、フェニルナフチル基、ターフェニル基、フェナンスレン基、アントラニル基、ナフチルフェニル基及びフルオレニル基からなる群より選ばれる芳香族炭化水素基を有するナフチル基であることも好ましい。
【0029】
一般式(1)で表される縮合多環芳香族化合物としては、Rが一般式(2)で表される置換基であってRが水素原子である化合物が好ましく、また、一般式(2)で表される置換基としては、Rがフェニレン基であって、nが1又は2であって、Rに結合しているRがp-フェニレン基である置換基か、又はRがナフチレン基であって、nが0又は1の置換基が好ましい。即ち、一般式(1)で表される縮合多環芳香族化合物としては、上記一般式(3)又は一般式(5)で表される化合物がより好ましい。
【0030】
一般式(3)中、Rは上記一般式(4)で表され、かつ9乃至18個の炭素原子を含む置換基を表し、一般式(4)で表され、かつ9乃至16個の炭素原子を含む置換基であることが好ましい。一般式(4)中、mは0又は1の整数を表す。Rは芳香族炭化水素の芳香環から水素原子を2つ除いた二価の連結基を表す。Rは芳香族炭化水素基を表す。なお、一般式(3)におけるBTBT骨格に結合しているフェニレン基は、一般式(2)のRに相当し、一般式(3)におけるRで表される置換基が結合しているフェニレン基は、一般式(2)のRに相当し、Rで表される置換基は、一般式(2)のn=1の場合のRに相当するか、n=2の場合のRの一つとRからなる部分に相当する。
【0031】
一般式(4)のRが表す二価の連結基となり得る芳香族炭化水素としては、一般式(2)のRが表す二価の連結基となり得る芳香族炭化水素基と同じものが挙げられる。また、Rが表す二価の連結基の好ましいものは、Rが表す二価の連結基の好ましいものと同じである。
一般式(4)のRが表す芳香族炭化水素基となり得る芳香族炭化水素としては、一般式(2)のRが表す芳香族炭化水素基となり得る芳香族炭化水素と同じものが挙げられる。また、Rが表す芳香族炭化水素基の好ましいものは、Rが表す芳香族炭化水素基の好ましいものと同じである。
ここでいう「一般式(4)で表される置換基の含む炭素原子の数」とは、一般式(4)中の二価の連結基R中の炭素数、及び芳香族炭化水素基R中の炭素数の総和を意味する。
【0032】
一般式(5)中、Rは上記一般式(6)で表され、かつ1乃至3個の環構造を含む置換基を表し、一般式(6)で表され、かつ11乃至20個の炭素原子を含む置換基であることが好ましい。一般式(6)中、pは0乃至2の整数を表し、0又は1の整数が好ましい。R10は芳香族炭化水素の芳香環から水素原子を2つ除いた二価の連結基を表す。R11は芳香族炭化水素基を表す。なお、一般式(5)におけるBTBT骨格に結合しているナフチレン基は、一般式(2)のRに相当し、一般式(5)におけるRで表される置換基は、一般式(2)のRとRからなる部分(n=1又は2の場合)、またはRのみ(n=0の場合)に相当する。
【0033】
一般式(6)のR10が表す二価の連結基となり得る芳香族炭化水素としては、一般式(2)のRが表す二価の連結基となり得る芳香族炭化水素基と同じものが挙げられる。また、R10が表す二価の連結基の好ましいものは、Rが表す二価の連結基の好ましいものと同じである。
一般式(6)のR11が表す芳香族炭化水素基となり得る芳香族炭化水素としては、一般式(2)のRが表す芳香族炭化水素基となり得る芳香族炭化水素と同じものが挙げられる。また、R11が表す芳香族炭化水素基の好ましいものは、Rが表す芳香族炭化水素基の好ましいものと同じである。
ここでいう「一般式(6)で表される置換基の含む炭素原子の数」とは、一般式(6)中の二価の連結基R10中の炭素数、及び芳香族炭化水素基R11中の炭素数の総和を意味する
【0034】
次に、本発明の一般式(1)で表される縮合多環芳香族化合物の合成方法について詳細に述べる。一般式(1)で表される縮合多環芳香族化合物は、従来公知の様々な方法で合成することができるが、一例として化合物(A)及び(B)を出発原料とした下記スキームの合成方法について説明する。
【0035】
【化7】
【0036】
先ず化合物(A)及び化合物(B)を原料として、特開2009-196975号公報に開示された方法により化合物(C)を介して化合物(D)を合成する。
次いで、前記で得られた化合物(D)と、化合物(E)又は化合物(F)を原料として、一般式(1)で表される本発明の縮合多環芳香族化合物を合成する。ここで、化合物(D)と化合物(E)との反応は鈴木・宮浦カップリング反応に準じた公知の方法で、また化合物(D)と化合物(F)との反応は右田・小杉・スティルクロスカップリング反応に準じた公知の方法でそれぞれ行えばよく、これらのカップリング反応の詳細は、例えば、「Metal-Catalyzed Cross-Coupling Reactions - Second, Completely Revised and Enlarged Edition」などの記載を参照することができる。
【0037】
上記スキームに従えば、Rがナフチレン(ナフタレンから水素原子を2つ除いた2価の連結基)の化合物を合成する場合において、ナフタレン骨格の2位や3位にあらかじめ所望の置換基を導入した後にDNTT誘導体を合成する必要がなく、DNTT骨格を構築した後に、クロスカップリング反応により置換基を導入することができる。そのため、上記スキームは、汎用性が高く優れている。
上記のカップリング反応においては、化合物(D)1モルに対して、化合物(E)又は化合物(F)を1乃至10モル用いることが好ましく、1乃至3モル用いることがより好ましい。
上記のカップリング反応の反応温度は、通常-10乃至200℃、好ましくは40乃至160℃、より好ましくは60乃至120℃である。また、反応時間は特に限定されないが、通常1乃至72時間、好ましくは3乃至48時間である。後述する触媒の種類により、反応温度を下げたり反応時間を短縮したりすることができる。
上記のカップリング反応は、アルゴン雰囲気下、窒素置換下、乾燥アルゴン雰囲気下、乾燥窒素気流下等の不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
【0038】
化合物(E)を用いたカップリング反応には触媒を用いることが好ましい。カップリング反応に用い得る触媒としては、例えば、トリ-tert-ブチルホスフィン、トリアダマンチルホスフィン、1,3-ビス(2,4,6-トリメチルフェニル)イミダゾリジニウムクロライド、1,3-ビス(2,6-ジイソプロピルフェニル)イミダゾリジニウムクロライド、1,3-ジアダマンチルイミダゾリジニウムクロライド、又はそれらの混合物;金属Pd、Pd/C(含水又は非含水)、酢酸パラジウム、トリフルオロ酢酸パラジウム、メタンスルホン酸パラジウム、トルエンスルホン酸パラジウム、塩化パラジウム、臭化パラジウム、ヨウ化パラジウム、ビス(アセトニトリル)パラジウム(II)ジクロリド、ビス(ベンゾニトリル)パラジウム(II)ジクロリド、テトラフルオロほう酸テトラキス(アセトニトリル)パラジウム(II)、トリス(ジベンジリデンアセトン)二パラジウム(0)、トリス(ジベンジリデンアセトン)二パラジウム(0)クロロホルム錯体及びビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム(0)、ビス(トリフェニルホスフィノ)パラジウムジクロライド(Pd(PPhCl)、(1,1’-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン)パラジウムジクロライド(Pd(dppf)Cl)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(Pd(PPh)等が挙げられるが、パラジウム系の触媒が好ましく。Pd(dppf)Cl、Pd(PPhCl、Pd(PPhがより好ましく、Pd(PPhCl、Pd(PPhが更に好ましい。
これらの触媒は複数種を混合して用いてもよいし、これらの触媒に上記以外の他の触媒を混合して用いてもよい。
カップリング反応の際のこれら触媒の使用量は、化合物(E)1モルに対して、好ましくは0.001乃至0.500モル、より好ましくは、0.001乃至0.100モル、更に好ましくは0.001乃至0.050モルである。
【0039】
化合物(E)を用いたカップリング反応には、塩基性化合物を使用することが好ましい。塩基性化合物としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化バリウム、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウム等の水酸化物、炭酸リチウム、炭酸水素リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム及び炭酸セシウム等の炭酸塩、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム及び酢酸カリウム等の酢酸塩、りん酸三ナトリウム及びりん酸三カリウム等のリン酸塩、ナトリウムメトキサイド、ナトリウムエトキサイド及びカリウムターシャリーブトキサイド等のアルコキサイド類、水素化ナトリウム及び水素化カリウム等の金属ヒドリド類、ピリジン、ピコリン、ルチジン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン及びN,N-ジシクロヘキシルメチルアミン等の有機塩基類等が挙げられ、りん酸塩又は水酸化物が好ましく、りん酸三ナトリウム、りん酸三カリウム、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムがより好ましい。これらの塩基性化合物は単独で用いてもよく2種以上を組み合わせて用いてもよい。
カップリング反応の際のこれら塩基性化合物の使用量は、化合物(D)1モルに対して、好ましくは1乃至100モル、より好ましくは1乃至10モルである。
【0040】
化合物(F)を用いたカップリング反応には、Pd又はNi系の触媒を使用することが好ましい。触媒としては、Pd系又はNi系の触媒であれば特に制限なく用いることが出来る。
Pd系の触媒としては、化合物(E)を用いたカップリング反応に用い得る触媒の項に記載したのと同じものが挙げられる。
Ni系の触媒としては、例えば、テトラキス(トリフェニルホスフィン)ニッケル(Ni(PPh)、ニッケル(II)アセチルアセトネート(Ni(acac))、ジクロロ(2,2’-ビピリジン)ニッケル(Ni(bpy)Cl)、ジブロモビス(トリフェニルホスフィン)ニッケル(Ni(PPhBr)、ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパンニッケルジクロライド(Ni(dppp)Cl)及びビス(ジフェニルホスフィノ)エタンニッケルジクロライド(Ni(dppe)Cl)等が挙げられ、Pd(dppf)Cl、Pd(PPhCl、Pd(PPhが好ましく、Pd(PPhCl、Pd(PPhが更に好ましい。
これらの触媒は複数種を混合して用いてもよいし、これらの触媒に上記以外の触媒を混合して用いてもよい。
カップリング反応の際のこれら触媒の使用量は、化合物(F)1モルに対して、好ましくは0.001乃至0.500モル、より好ましくは、0.001乃至0.100モル、更に好ましくは0.001乃至0.050モルである。
【0041】
化合物(F)を用いたカップリング反応には、アルカリ金属塩を併用してもよい。
併用し得るアルカリ金属塩はアルカリ金属を含む塩であれば特に限定されないが、例えば、塩化リチウム、臭化リチウム及びヨウ化リチウム等が挙げられ、好ましくは塩化リチウムである。
アルカリ金属塩の添加量は、化合物(D)1モルに対して、好ましくは0.001乃至5.0モルである。
【0042】
上記のカップリング反応は、溶媒中で行ってもよい。用い得る溶媒は、必要な原料である化合物(D)及び化合物(E)若しくは化合物(F)、更には必要により用いられる触媒、塩基性化合物、アルカリ金属塩等を溶解し得る溶媒であれば、いかなるものでも使用可能である。
溶媒の具体例としては、クロロベンゼン、o-ジクロロベンゼン、ブロモベンゼン、ニトロベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族化合物類や、n-ヘキサン、n-ヘプタン並びにn-ペンタン等の飽和脂肪族炭化水素類、シクロヘキサン、シクロヘプタン並びにシクロペンタン等の脂環式炭化水素類、n-プロピルブロマイド、n-ブチルクロライド、n-ブチルブロマイド、ジクロロメタン、ジブロモメタン、ジクロロプロパン、ジブロモプロパン、ジクロロブタン、クロロホルム、ブロモホルム、四塩化炭素、四臭化炭素、トリクロロエタン、テトラクロロエタン並びにペンタクロロエタン等の飽和脂肪族ハロゲン化炭化水素類、クロロシクロヘキサン、クロロシクロペンタン並びにブロモシクロペンタン等のハロゲン化環状炭化水素類、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、プロピオン酸ブチル、酪酸メチル、酪酸エチル、酪酸プロピル並びに酪酸ブチル等のエステル類、アセトン、メチルエチルケトン並びにメチルイソブチルケトン等のケトン類、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン並びに1,3-ジオキサン等のエーテル類;N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド並びにN,N-ジメチルアセトアミド等のアミド類、エチレングリコール、プロピレングリコール並びにポリエチレングリコール等のグリコール類、及びジメチルスルホキシド等のスルホキシド類を挙げることができる。これらの溶媒は単独でも2種以上混合して使用してもよい。
【0043】
一般式(1)で表される縮合多環芳香族化合物の精製方法は特に限定されず、再結晶、カラムクロマトグラフィー、及び真空昇華精製等の公知の方法が採用できる。また必要に応じてこれらの方法を組み合わせることができる。
【0044】
上記の合成スキームにおいて、化合物(A)、(C)及び(D)中のX及びXの一方はヨウ素原子、臭素原子又は塩素原子を表し、好ましくは臭素原子であり、他方は水素原子を表す。
上記の合成スキームにおいて、化合物(E)中のR12及びR13はそれぞれ独立に、水素原子またはアルキル基を表すか、又はR12とR13が結合してアルキレン基を形成する。
12及びR13が表すアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、iso-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基およびn-ヘキシル基等の炭素数1乃至6アルキル基が挙げられる。
12とR13が結合して形成するアルキレン基としては、メチレン基、エタン-1,2-ジイル基、ブタン-2,3-ジイル基、2,3-ジメチルブタン-2,3-ジイル基およびプロパン-1,3-ジイル基等が挙げられる。
化合物(E)におけるR12及びR13としては、R12及びR13の両者が水素原子であるか、またはR12とR13が結合して2,3-ジメチルブタン-2,3-ジイル基を形成していることが好ましい。
【0045】
上記の合成スキームにおいて、化合物(F)中のR14乃至R16はそれぞれ独立に直鎖又は分岐鎖のアルキル基を表す。R14乃至R16が表すアルキル基の炭素数は通常1乃至8であり、好ましくは1乃至4である。直鎖アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、iso-ブチル基、n-ペンチル基及びn-ヘキシル基等が、分岐鎖アルキル基の具体例としては、iso-プロピル基、iso-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、iso-ペンチル基及びiso-ヘキシル基等が挙げられる。
化合物(F)におけるR14乃至R16としては、それぞれ独立にメチル基又はブチル基であることが好ましく、全てがメチル基又は全てがブチル基であることがより好ましい。
尚、化合物(E)及び(F)中のR乃至Rは、一般式(2)中のR乃至Rと同義である。
【0046】
一般式(1)で表される本発明の縮合多環芳香族化合物の具体例を以下に示すが、本発明はこれらの具体例に限定されるものではない。
【0047】
【化8】
【0048】
【化9】
【0049】
【化10】
【0050】
【化11】
【0051】
【化12】
【0052】
【化13】
【0053】
【化14】
【0054】
本発明の有機薄膜は式(1)で表わされる縮合多環芳香族化合物を含む。有機薄膜の膜厚は、その用途によって異なるが、通常1nm乃至1μmであり、好ましくは5nm乃至500nmであり、より好ましくは10nm乃至300nmである。
【0055】
有機薄膜の形成方法は、蒸着法などのドライプロセスや種々の溶液プロセスなどがあげられるが、溶液プロセスで形成することが好ましい。溶液プロセスとしてはたとえば、スピンコート法、ドロップキャスト法、ディップコート法、スプレー法、フレキソ印刷、樹脂凸版印刷などの凸版印刷法、オフセット印刷法、ドライオフセット印刷法、パッド印刷法などの平板印刷法、グラビア印刷法などの凹版印刷法、スクリーン印刷法、謄写版印刷法、リングラフ印刷法などの孔版印刷法、インクジェット印刷法、マイクロコンタクトプリント法等、さらにはこれらの手法を複数組み合わせた方法が挙げられる。溶液プロセスで成膜する場合、上記の塗布、印刷したのち、溶媒を蒸発させて薄膜を形成することが好ましい。
【0056】
本発明の電界効果トランジスタは、本発明の有機薄膜に接して設けた2つの電極(ソース電極及びドレイン電極)の間に流れる電流を、ゲート電極と呼ばれるもう一つの電極に印加する電圧で制御するものである。
【0057】
電界効果トランジスタには、ゲート電極が絶縁膜で絶縁されている構造(Metal-InsuIator-Semiconductor MIS構造)が一般に用いられる。絶縁膜に金属酸化膜を用いたものはMOS構造と呼ばれ、これ以外にショットキー障壁を介してゲート電極が形成されている構造(すなわちMES構造)も知られているが、電界効果トランジスタの場合、MIS構造が用いられることが多い。
【0058】
図1における各態様例において、1がソース電極、2が有機薄膜(半導体層)、3がドレイン電極、4が絶縁体層、5がゲート電極、6が基板をそれぞれ表す。尚、各層や電極の配置は、デバイスの用途により適宜選択できる。A乃至D及びFは基板と並行方向に電流が流れるので、横型トランジスタと呼ばれる。Aはボトムコンタクトボトムゲート構造、Bはトップコンタクトボトムゲート構造と呼ばれる。また、Cは半導体上にソース及びドレイン電極、絶縁体層を設け、さらにその上にゲート電極を形成しており、トップコンタクトトップゲート構造と呼ばれている。Dはトップ&ボトムコンタクトボトムゲート型トランジスタと呼ばれる構造である。Fはボトムコンタクトトップゲート構造である。Eは縦型の構造をもつトランジスタ、すなわち静電誘導トランジスタ(SIT)の模式図である。このSITは、電流の流れが平面状に広がるので一度に大量のキャリアが移動できる。またソース電極とドレイン電極が縦に配されているので電極間距離を小さくできるため応答が高速である。従って、大電流を流す、高速のスイッチングを行うなどの用途に好ましく適用できる。なお図1中のEには、基板を記載していないが、通常の場合、図1E中の1及び3で表されるソース又はドレイン電極の外側には基板が設けられる。
【0059】
各態様例における各構成要素について説明する。基板6は、その上に形成される各層が剥離することなく保持できることが必要である。例えば樹脂板やフィルム、紙、ガラス、石英、セラミックなどの絶縁性材料;金属や合金などの導電性基板上にコーティング等により絶縁層を形成した物;樹脂と無機材料など各種組合せからなる材料;等が使用できる。使用できる樹脂フィルムの例としては、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリアミド、ポリイミド、ポリカーボネート、セルローストリアセテート、ポリエーテルイミドなどが挙げられる。樹脂フィルムや紙を用いると、デバイスに可撓性を持たせることができ、フレキシブルで、軽量となり、実用性が向上する。基板の厚さとしては、通常1μm乃至10mmであり、好ましくは5μm乃至5mmである。
【0060】
ソース電極1、ドレイン電極3、ゲート電極5には導電性を有する材料が用いられる。例えば、白金、金、銀、アルミニウム、クロム、タングステン、タンタル、ニッケル、コバルト、銅、鉄、鉛、錫、チタン、インジウム、パラジウム、モリブデン、マグネシウム、カルシウム、バリウム、リチウム、カリウム、ナトリウム等の金属及びそれらを含む合金;InO、ZnO、SnO、ITO等の導電性酸化物;ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリパラフェニレンビニレン、ポリジアセチレン等の導電性高分子化合物;シリコン、ゲルマニウム、ガリウム砒素等の半導体;カーボンブラック、フラーレン、カーボンナノチューブ、グラファイト、グラフェン等の炭素材料;等が使用できる。また、導電性高分子化合物や半導体にはドーピングが行われていてもよい。ドーパントとしては、例えば、塩酸、硫酸等の無機酸;スルホン酸等の酸性官能基を有する有機酸;PF、AsF、FeCl等のルイス酸;ヨウ素等のハロゲン原子;リチウム、ナトリウム、カリウム等の金属原子;等が挙げられる。ホウ素、リン、砒素などはシリコンなどの無機半導体用のドーパントとしても多用されている。
【0061】
また、上記のドーパントにカーボンブラックや金属粒子などを分散した導電性の複合材料も用いられる。半導体と直接接触するソース電極1およびドレイン電極3については、コンタクト抵抗を低減するために適切な仕事関数を選択すること、表面処理することなどが重要である。
【0062】
またソース電極とドレイン電極間の距離(チャネル長)がデバイスの特性を決める重要なファクターであり、適正なチャネル長が必要である。チャネル長が短ければ取り出せる電流量は増えるが、コンタクト抵抗の影響などの短チャネル効果が生じ、半導体特性を低下させることがある。該チャネル長は、通常0.01乃至300μm、好ましくは0.1乃至100μmである。ソース電極とドレイン電極間の幅(チャネル幅)は通常10乃至5000μm、好ましくは40乃至2000μmである。またこのチャネル幅は、電極の構造をくし型構造とすることなどにより、さらに長いチャネル幅を形成することが可能で、必要な電流量やデバイスの構造などにより、適切な長さにする必要がある。
【0063】
ソース電極及びドレイン電極のそれぞれの構造(形)について説明する。ソース電極とドレイン電極の構造はそれぞれ同じであっても、異なっていてもよい。
【0064】
ボトムコンタクト構造の場合は、一般的にはリソグラフィー法を用いて各電極を作製し、また各電極は直方体に形成するのが好ましい。最近は各種印刷方法による印刷精度が向上してきており、インクジェット印刷、グラビア印刷又はスクリーン印刷などの手法を用いて精度よく電極を作製することが可能となってきている。半導体上に電極のあるトップコンタクト構造の場合はシャドウマスクなどを用いて蒸着することが出来る。インクジェットなどの手法を用いて電極パターンを直接印刷形成することも可能となってきている。電極の長さは前記のチャネル幅と同じである。電極の幅には特に規定は無いが、電気的特性を安定化できる範囲で、デバイスの面積を小さくするためには短い方が好ましい。電極の幅は、通常0.1乃至1000μmであり、好ましくは0.5乃至100μmである。電極の厚さは、通常0.1乃至1000nmであり、好ましくは1乃至500nmであり、より好ましくは5乃至200nmである。各電極1、3、5には配線が連結されているが、配線も電極とほぼ同様の材料により作製される。
【0065】
絶縁体層4としては絶縁性を有する材料が用いられる。例えば、ポリパラキシリレン、ポリアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリビニルフェノール、ポリアミド、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリウレタン、ポリスルホン、ポリシロキサン、ポリオレフィン、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等のポリマー及びこれらを組み合わせた共重合体;酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化タンタル等の金属酸化物;SrTiO、BaTiO等の強誘電性金属酸化物;窒化珪素、窒化アルミニウム等の窒化物、硫化物、フッ化物などの誘電体;あるいは、これら誘電体の粒子を分散させたポリマー;等が使用しうる。この絶縁体層はリーク電流を少なくするために電気絶縁特性が高いものが好ましく使用できる。電気絶縁性が高いものを使用することにより膜厚を薄膜化し、絶縁容量を高くすることが出来、取り出せる電流が多くなる。また半導体の移動度を向上させるためには絶縁体層表面の表面エネルギーを低下させ、凹凸がなくスムースな膜であることが好ましい。その為に自己組織化単分子膜や、2層の絶縁体層を形成させる場合がある。絶縁体層4の膜厚は、材料によって異なるが、通常0.1nm乃至100μm、好ましくは0.5nm乃至50μm、より好ましくは1nm乃至10μmである。
【0066】
半導体層2の材料には、本発明の縮合多環芳香族化合物が用いられる。先に示した有機半導体膜の形成方法に準じた方法で有機半導体膜を形成し、半導体層2とすることができる。
【0067】
半導体層(有機薄膜)については複数の層を形成してもよいが、単層構造であることがより好ましい。半導体層2の膜厚は、必要な機能を失わない範囲で、薄いほど好ましい。A、B及びDに示すような横型の電界効果トランジスタにおいては、所定以上の膜厚があればデバイスの特性は膜厚に依存しないが、膜厚が厚くなると漏れ電流が増加してくることが多いためである。必要な機能を示すための半導体層の膜厚は、通常、1nm乃至1μm、好ましくは5nm乃至500nm、より好ましくは10nm乃至300nmである。
【0068】
電界効果トランジスタには、例えば基板層と絶縁膜層や絶縁膜層と半導体層の間やデバイスの外面に必要に応じて他の層を設けることができる。例えば、有機薄膜上に直接、又は他の層を介して、保護層を形成すると、湿度などの外気の影響を小さくすることができる。また、電界効果トランジスタのオン/オフ比を上げることができるなど、電気的特性を安定化できる利点もある。
【0069】
上記保護層の材料は特に限定されないが、例えば、エポキシ樹脂、ポリメチルメタクリレート等のアクリル樹脂、ポリウレタン、ポリイミド、ポリビニルアルコール、フッ素樹脂、ポリオレフィン等の各種樹脂からなる膜;酸化珪素、酸化アルミニウム、窒化珪素等の無機酸化膜;及び窒化膜等の誘電体からなる膜;等が好ましく用いられ、特に、酸素や水分の透過率や吸水率の小さな樹脂(ポリマー)が好ましい。有機ELディスプレイ用に開発されているガスバリア性保護材料も使用が可能である。保護層の膜厚は、その目的に応じて任意の膜厚を選択できるが、通常100nm乃至1mmである。
【0070】
また有機薄膜が積層される基板又は絶縁体層に予め表面改質や表面処理を行うことにより、電界効果トランジスタとしての特性を向上させることが可能である。例えば基板表面の親水性/疎水性の度合いを調整することにより、その上に成膜される膜の膜質や成膜性を改良することができる。特に、有機半導体材料は分子の配向など膜の状態によって特性が大きく変わることがある。そのため、基板、絶縁体層などへの表面処理によって、その後に成膜される有機薄膜との界面部分の分子配向が制御される、あるいは基板や絶縁体層上のトラップ部位が低減されることにより、キャリア移動度等の特性が改良されるものと考えられる。
【0071】
トラップ部位とは、未処理の基板に存在する例えば水酸基のような官能基をさし、このような官能基が存在すると、電子が該官能基に引き寄せられ、この結果としてキャリア移動度が低下する。従って、トラップ部位を低減することもキャリア移動度等の特性改良には有効な場合が多い。
【0072】
上記のような特性改良のための表面処理としては、例えば、ヘキサメチルジシラザン、オクチルトリクロロシラン、オクタデシルトリクロロシラン等による自己組織化単分子膜処理、ポリマーなどによる表面処理、塩酸や硫酸、酢酸等による酸処理、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、アンモニア等によるアルカリ処理、オゾン処理、フッ素化処理、酸素やアルゴン等のプラズマ処理、ラングミュア・ブロジェット膜の形成処理、その他の絶縁体や半導体の薄膜の形成処理、機械的処理、コロナ放電などの電気的処理、繊維等を利用したラビング処理などがあげられ、それらの組み合わせた処理も行うことができる。
【0073】
これらの態様において、例えば基板層と絶縁膜層や絶縁膜層と有機薄膜等の各層を設ける方法としては、前記した真空プロセス、溶液プロセスが適宜採用できる。
【0074】
次に、本発明の電界効果トランジスタの製造方法について、図1の態様例Bに示すトップコンタクトボトムゲート型電界効果トランジスタを例として、図2に基づき以下に説明する。この製造方法は前記した他の態様の電界効果トランジスタ等にも同様に適用しうるものである。
【0075】
(電界効果トランジスタの基板及び基板処理について)
本発明の電界効果トランジスタは、基板6上に必要な各種の層や電極を設けることで作製される(図2(1)参照)。基板としては上記で説明したものが使用できる。この基板上に前述の表面処理などを行うことも可能である。基板6の厚みは、必要な機能を妨げない範囲で薄い方が好ましい。材料によっても異なるが、通常1μm乃至10mmであり、好ましくは5μm乃至5mmである。また、必要により、基板に電極の機能を持たせるようにする事も出来る。
【0076】
(ゲート電極の形成について)
基板6上にゲート電極5を形成する(図2(2)参照)。電極材料としては上記で説明したものが用いられる。電極膜を成膜する方法としては、各種の方法を用いることができ、例えば真空蒸着法、スパッタ法、塗布法、熱転写法、印刷法、ゾルゲル法等が採用される。成膜時又は成膜後、所望の形状になるよう必要に応じてパターニングを行うのが好ましい。パターニングの方法としても各種の方法を用いうるが、例えばフォトレジストのパターニングとエッチングを組み合わせたフォトリソグラフィー法等が挙げられる。また、シャドウマスクを用いた蒸着法やスパッタ法やインクジェット印刷、スクリーン印刷、オフセット印刷、凸版印刷等の印刷法、マイクロコンタクトプリンティング法等のソフトリソグラフィーの手法、及びこれらの手法を複数組み合わせた手法を利用し、パターニングすることも可能である。ゲート電極5の膜厚は、材料によっても異なるが、通常0.1nm乃至10μmであり、好ましくは0.5nm乃至5μmであり、より好ましくは1nm乃至3μmである。また、ゲート電極と基板を兼ねるような場合は上記の膜厚より大きくてもよい。
【0077】
(絶縁体層の形成について)
ゲート電極5上に絶縁体層4を形成する(図2(3)参照)。絶縁体材料としては上記で説明した材料が用いられる。絶縁体層4を形成するにあたっては各種の方法を用いることができる。例えばスピンコーティング、スプレーコーティング、ディップコーティング、キャスト、バーコート、ブレードコーティングなどの塗布法、スクリーン印刷、オフセット印刷、インクジェット等の印刷法、真空蒸着法、分子線エピタキシャル成長法、イオンクラスタービーム法、イオンプレーティング法、スパッタリング法、大気圧プラズマ法、CVD法などのドライプロセス法が挙げられる。その他、ゾルゲル法やアルミニウム上のアルマイト、シリコン上の酸化珪素のように金属上に熱酸化法などにより酸化物膜を形成する方法等が採用される。尚、絶縁体層と半導体層が接する部分においては、両層の界面で半導体を構成する化合物の分子を良好に配向させるために、絶縁体層に所定の表面処理を行うこともできる。表面処理の手法は、基板の表面処理と同様のものを用いることができうる。絶縁体層4の膜厚は、その電気容量をあげることで取り出す電気量を増やすことが出来るため、出来るだけ薄い膜であることが好ましい。このときに薄い膜になるとリーク電流が増えるため、その機能を損なわない範囲で薄い方が好ましい。通常0.1nm乃至100μmであり、好ましくは0.5nm乃至50μmであり、より好ましくは5nm乃至10μmである。
【0078】
(有機薄膜の形成について)
有機薄膜(有機半導体層)を形成するにあたっては、塗布及び印刷による方法等の各種の方法を用いることができる。具体的にはディップコート法、ダイコーター法、ロールコーター法、バーコーター法、スピンコート法等の塗布法、インクジェット法、スクリーン印刷法、オフセット印刷法、マイクロコンタクト印刷法などの溶液プロセスによる形成方法が挙げられる。
【0079】
溶液プロセスによって成膜し有機薄膜を得る方法について説明する。有機半導体組成物を、基板(絶縁体層、ソース電極及びドレイン電極の露出部)に塗布する。塗布の方法としては、スピンコート法、ドロップキャスト法、ディップコート法、スプレー法、フレキソ印刷、樹脂凸版印刷などの凸版印刷法、オフセット印刷法、ドライオフセット印刷法、パッド印刷法などの平板印刷法、グラビア印刷法などの凹版印刷法、シルクスクリーン印刷法、謄写版印刷法、リングラフ印刷法などの孔版印刷法、インクジェット印刷法、マイクロコンタクトプリント法等、さらにはこれらの手法を複数組み合わせた方法が挙げられる。
【0080】
更に、塗布方法に類似した方法として水面上に上記の組成物を滴下することにより作製した有機薄膜の単分子膜を基板に移し積層するラングミュアプロジェクト法、液晶や融液状態の材料を2枚の基板で挟んで毛管現象で基板間に導入する方法等も採用できる。
【0081】
製膜時における基板や組成物の温度などの環境も重要で、基板や組成物の温度によって電界効果トランジスタの特性が変化する場合があるので、注意深く基板及び組成物の温度を選択するのが好ましい。基板温度は通常0乃至200℃であり、好ましくは10乃至120℃であり、より好ましくは15乃至100℃である。用いる組成物中の溶媒などに大きく依存するため、注意が必要である。
【0082】
この方法により作製される有機薄膜の膜厚は、機能を損なわない範囲で、薄い方が好ましい。膜厚が厚くなると漏れ電流が大きくなる懸念がある。有機薄膜の膜厚は、通常1nm乃至1μm、好ましくは5nm乃至500nm、より好ましくは10nm乃至300nmである。
【0083】
このように形成された有機薄膜(図2(4)参照)は、後処理によりさらに特性を改良することが可能である。例えば、後処理として、熱処理を行うことにより、成膜時に生じた膜中の歪みが緩和し、ピンホールが低減され、膜中の配列・配向が制御することができるようになり、有機半導体特性の向上や安定化を図ることができる。本発明の電界効果トランジスタの作製時にはこの熱処理を行うことが特性の向上の為には効果的である。当該熱処理は有機薄膜を形成した後に基板を加熱することによって行う。熱処理の温度は特に制限は無いが通常、室温から180℃程度で、好ましくは40乃至160℃、さらに好ましくは45乃至150℃である。この時の熱処理時間については特に制限は無いが通常10秒間から24時間、好ましくは30秒間から3時間程度である。その時の雰囲気は大気中でもよいが、窒素やアルゴンなどの不活性雰囲気下でもよい。その他、溶媒蒸気による膜形状のコントロールなどが可能である。
【0084】
またその他の有機薄膜の後処理方法として、酸素や水素等の酸化性あるいは還元性の気体や、酸化性あるいは還元性の液体などを用いて処理することにより、酸化あるいは還元による特性変化を誘起することもできる。これは例えば膜中のキャリア密度の増加あるいは減少の目的で利用することが出来る。
【0085】
また、ドーピングと呼ばれる手法において、微量の元素、原子団、分子、高分子を有機薄膜に加えることにより、有機薄膜の特性を変化させることができる。例えば、酸素、水素、塩酸、硫酸、スルホン酸等の酸;PF、AsF、FeCl等のルイス酸;ヨウ素等のハロゲン原子;ナトリウム、カリウム等の金属原子;テトラチアフルバレン(TTF)やフタロシアニン等のドナー化合物をドーピングすることができる。これは、有機薄膜に対して、これらのガスを接触させたり、溶液に浸したり、電気化学的なドーピング処理をすることにより達成できる。これらのドーピングは有機薄膜の作製後でなくても、有機半導体化合物の合成時に添加したり、有機半導体組成物に添加したり、有機薄膜を形成する工程などで添加したりすることができる。また蒸着時に有機薄膜を形成する材料にドーピングに用いる材料を添加して共蒸着したり、有機薄膜を作製する時の周囲の雰囲気に混合したり(ドーピング材料を存在させた環境下で有機薄膜を作製する)、さらにはイオンを真空中で加速して膜に衝突させてドーピングすることも可能である。
【0086】
これらのドーピングの効果としては、キャリア密度の増加あるいは減少による電気伝導度の変化、キャリアの極性の変化(p型、n型)、フェルミ準位の変化等が挙げられる。
【0087】
(ソース電極及びドレイン電極の形成)
ソース電極1及びドレイン電極3の形成方法等はゲート電極5の場合に準じて形成することができる(図2(5)参照)。また有機薄膜との接触抵抗を低減するために各種添加剤などを用いることが可能である。
【0088】
(保護層について)
有機薄膜に保護層7を形成すると、外気の影響を最小限にでき、また、電界効果トランジスタの電気的特性を安定化できるという利点がある(図2(6)参照)。保護層の材料としては前記のものが使用される。保護層7の膜厚は、その目的に応じて任意の膜厚を採用できるが、通常100nm乃至1mmである。
【0089】
保護層を成膜するにあたっては各種の方法を採用しうるが、保護層が樹脂からなる場合は、例えば、樹脂溶液を塗布後、乾燥させて樹脂膜とする方法;樹脂モノマーを塗布あるいは蒸着したのち重合する方法;などが挙げられる。成膜後に架橋処理を行ってもよい。保護層が無機物からなる場合は、例えば、スパッタリング法、蒸着法等の真空プロセスでの形成方法や、ゾルゲル法等の溶液プロセスでの形成方法も用いることができる。
【0090】
電界効果トランジスタにおいては有機薄膜上の他、各層の間にも必要に応じて保護層を設けることができる。それらの層は電界効果トランジスタの電気的特性の安定化に役立つ場合がある。
【0091】
電界効果トランジスタは、メモリー回路デバイス、信号ドライバー回路デバイス、信号処理回路デバイスなどのデジタルデバイスやアナログデバイスとしても利用できる。さらにこれらを組み合わせることにより、ディスプレイ、ICカードやICタグ等の作製が可能となる。更に、電界効果トランジスタは化学物質等の外部刺激によりその特性に変化を起こすことができるので、センサーとしての利用も可能である。
【0092】
本発明の有機光電変換素子用材料は上記式(1)で表わされる縮合多環芳香族化合物を含む。本発明の有機光電変換素子用材料中の式(1)で表される化合物の含有量は、有機光電変換素子用材料を用いる用途において必要とされる性能が発現する限り特に限定されないが、通常は50質量%以上であり、80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上が更に好ましい。
本発明の有機光電変換素子用材料には、式(1)で表される化合物以外の化合物(例えば式(1)で表される化合物以外の有機光電変換素子用材料等)や添加剤等を併用してもよい。併用し得る化合物や添加剤等は、有機光電変換素子用材料を用いる用途において必要とされる性能が発現する限り特に限定されない。
【0093】
本発明の有機光電変換素子は本発明の有機薄膜を有する。有機光電変換素子は、対向する一対の電極膜間に光電変換部(膜)を配置した素子であって、電極膜の上方から光が光電変換部に入射されるものである。光電変換部は前記の入射光に応じて電子と正孔を発生するものであり、半導体により電子又は正孔の電荷に応じた信号を読みだすことができるため、有機光電変換素子は光電変換膜部の吸収波長に応じた入射光量を示すことができる。光が入射しない側の電極膜には読み出しのためのトランジスタが接続される場合もある。有機光電変換素子がアレイ状に多数配置されている場合、入射光量に加え入射位置情報をも示すため、撮像素子となる。又、より光源近くに配置された有機光電変換素子が、光源側から見てその背後に配置された有機光電変換素子の吸収波長を遮蔽しない(透過する)場合は、複数の有機光電変換素子を積層して用いてもよい。
【0094】
本発明の有機光電変換素子は、上記式(1)で表される縮合多環芳香族化合物を含む有機薄膜を光電変換部の構成材料として用いたものである。
光電変換部は、光電変換層と、電子輸送層、正孔輸送層、電子ブロック層、正孔ブロック層、結晶化防止層及び層間接触改良層等から成る群より選択される一種又は複数種の光電変換層以外の有機薄膜層とから成ることが多い。本発明の縮合多環芳香族化合物は光電変換層の有機薄膜層として用いることが好ましいが、他にも上記の有機薄膜層(特に、電子輸送層、正孔輸送層、電子ブロック層、正孔ブロック層)としても利用することも可能である。電子ブロック層及び正孔ブロック層はキャリアブロック層とも表される。又、光電変換層に用いる場合は本発明の縮合多環芳香族化合物のみで構成されていてもよいが、本発明の縮合多環芳香族化合物以外に有機半導体材料を含んでいてもよい。これらの有機薄膜層は積層構造でもよいが、材料を共蒸着して成る有機薄膜を含んでいてもよく、併せて、共蒸着膜や単膜或いは別の共蒸着膜が複数層形成されて成り、機能する様な有機薄膜であってもよい。
【0095】
本発明の有機光電変換素子に用いられる電極膜は、後述する光電変換部に含まれる光電変換層が正孔輸送性を有する場合や光電変換層以外の有機薄膜層が正孔輸送性を有する正孔輸送層である場合には、該光電変換層やその他の有機薄膜層から正孔を取り出してこれを捕集する役割を果たし、又光電変換部に含まれる光電変換層が電子輸送性を有する場合や、光電変換層以外の有機薄膜層が電子輸送性を有する電子輸送層である場合には、該光電変換層やその他の有機薄膜層から電子を取り出して、これを吐出する役割を果たすものである。よって、電極膜として用い得る材料は、ある程度の導電性を有するものであれば特に限定されないが、隣接する光電変換層やその他の有機薄膜層との密着性や電子親和力、イオン化ポテンシャル、安定性等を考慮して選択することが好ましい。電極膜として用い得る材料としては、例えば、酸化錫(NESA)、酸化インジウム、酸化錫インジウム(ITO)及び酸化亜鉛インジウム(IZO)等の導電性金属酸化物;金、銀、白金、クロム、アルミニウム、鉄、コバルト、ニッケル及びタングステン等の金属:ヨウ化銅及び硫化銅等の無機導電性物質:ポリチオフェン、ポリピロール及びポリアニリン等の導電性ポリマー:炭素等が挙げられる。これらの材料は、必要により複数を混合して用いてもよいし、複数を2層以上に積層して用いてもよい。電極膜に用いる材料の導電性も、有機光電変換素子の受光を必要以上に妨げなければ特に限定されないが、有機光電変換素子の信号強度や、消費電力の観点から出来るだけ高いことが好ましい。例えばシート抵抗値が300Ω/□以下の導電性を有するITO膜であれば、電極膜として充分機能するが、数Ω/□程度の導電性を有するITO膜を備えた基板の市販品も入手可能となっていることから、この様な高い導電性を有する基板を使用することが望ましい。ITO膜(電極膜)の厚さは導電性を考慮して任意に選択することができるが、通常5乃至500nm、好ましくは10乃至300nm程度である。ITOなどの膜を形成する方法としては、従来公知の蒸着法、電子線ビーム法、スパッタリング法、化学反応法及び塗布法等が挙げられる。基板上に設けられたITO膜には必要に応じUV-オゾン処理やプラズマ処理等を施してもよい。
【0096】
電極膜のうち、少なくとも光が入射する側の何れか一方に用いられる透明電極膜の材料としては、ITO、IZO、SnO、ATO(アンチモンドープ酸化スズ)、ZnO、AZO(Alドープ酸化亜鉛)、GZO(ガリウムドープ酸化亜鉛)、TiO及びFTO(フッ素ドープ酸化スズ)等が挙げられる。光電変換層の吸収ピーク波長における透明電極膜を介して入射した光の透過率は、60%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましく、95%以上であることが特に好ましい。
【0097】
又、検出する波長の異なる光電変換層を複数積層する場合、それぞれの光電変換層の間に用いられる電極膜(これは上記した一対の電極膜以外の電極膜である)は、それぞれの光電変換層が検出する光以外の波長の光を透過させる必要があり、該電極膜には入射光の90%以上を透過する材料を用いることが好ましく、95%以上の光を透過する材料を用いることがより好ましい。
【0098】
電極膜はプラズマフリーで作製することが好ましい。プラズマフリーでこれらの電極膜を作成することにより、電極膜が設けられる基板にプラズマが与える影響が低減され、光電変換素子の光電変換特性を良好にすることができる。ここで、プラズマフリーとは、電極膜の成膜時にプラズマが発生しないか、又はプラズマ発生源から基板までの距離が2cm以上、好ましくは10cm以上、更に好ましくは20cm以上であり、基板に到達するプラズマが減ぜられるような状態を意味する。
【0099】
電極膜の成膜時にプラズマが発生しない装置としては、例えば、電子線蒸着装置(EB蒸着装置)やパルスレーザー蒸着装置等が挙げられる。EB蒸着装置を用いて透明電極膜の成膜を行う方法をEB蒸着法と称し、パルスレーザー蒸着装置を用いて透明電極膜の成膜を行う方法をパルスレーザー蒸着法と称する。
【0100】
成膜中プラズマを減ずることが出来るような状態を実現できる装置(以下、プラズマフリーである成膜装置という)としては、例えば、対向ターゲット式スパッタ装置やアークプラズマ蒸着装置等が考えられる。
【0101】
透明導電膜を電極膜(例えば第一の導電膜)とした場合、DCショート、あるいはリーク電流の増大が生じる場合がある。この原因の一つは、光電変換層に発生する微細なクラックがTCO(Transparent Conductive Oxide)などの緻密な膜によって被覆され、透明導電膜とは反対側の電極膜との間の導通が増すためと考えられる。そのため、Alなど膜質が比較して劣る材料を電極膜に用いた場合、リーク電流の増大は生じにくい。電極膜の膜厚を、光電変換層の膜厚(クラックの深さ)に応じて制御することにより、リーク電流の増大を抑制することができる。
【0102】
通常、導電膜を所定の値より薄くすると、急激な抵抗値の増加が起こる。本実施形態の光センサー用有機光電変換素子における導電膜のシート抵抗は、通常100乃至10000Ω/□であり、膜厚の自由度が大きい。又、透明導電膜が薄いほど吸収する光の量が少なくなり、一般に光透過率が高くなる。光透過率が高くなると、光電変換層で吸収される光が増加して光電変換能が向上するため非常に好ましい。
【0103】
本発明の有機光電変換素子が有する光電変換部は、光電変換層及び光電変換層以外の有機薄膜層を含む場合もある。光電変換部を構成する光電変換層には一般的に有機半導体膜が用いられるが、その有機半導体膜は一層、もしくは複数の層であっても良く、一層の場合は、P型有機半導体膜、N型有機半導体膜、又はそれらの混合膜(バルクヘテロ構造)が用いられる。一方、複数の層である場合は、2乃至10層程度であり、P型有機半導体膜、N型有機半導体膜、又はそれらの混合膜(バルクヘテロ構造)のいずれかを積層した構造であり、層間にバッファ層が挿入されていても良い。光電変換層の厚みは通常、50乃至500nmである。
【0104】
光電変換層の有機半導体膜には、吸収する波長帯に応じ、トリアリールアミン化合物、ベンジジン化合物、ピラゾリン化合物、スチリルアミン化合物、ヒドラゾン化合物、トリフェニルメタン化合物、カルバゾール化合物、ポリシラン化合物、チオフェン化合物、フタロシアニン化合物、シアニン化合物、メロシアニン化合物、オキソノール化合物、ポリアミン化合物、インドール化合物、ピロール化合物、ピラゾール化合物、ポリアリーレン化合物、カルバゾール誘導体、ナフタレン誘導体、アントラセン誘導体、クリセン誘導体、フェナントレン誘導体、ペンタセン誘導体、フェニルブタジエン誘導体、スチリル誘導体、キノリン誘導体、テトラセン誘導体、ピレン誘導体、ペリレン誘導体、フルオランテン誘導体、キナクリドン誘導体、クマリン誘導体、ポルフィリン誘導体、フラーレン誘導体や金属錯体(Ir錯体、Pt錯体、Eu錯体など)等を用いることができる。本発明の縮合多環芳香族化合物との組み合わせによってP型有機半導体、又はN型有機半導体として機能する。
【0105】
本発明の縮合多環芳香族化合物を光電変換層として用いた場合には、前述の組み合わせる有機半導体のHOMO(Highest Occupied Molecular Orbital)準位よりも浅いHOMO準位を有することが好ましい。これにより、暗電流の発生の抑制に加えて、光電変換効率を向上させることが可能となる。
【0106】
本発明の有機光電変換素子において、光電変換部を構成する光電変換層以外の有機薄膜層は、光電変換層以外の層、例えば、電子輸送層、正孔輸送層、電子ブロック層、正孔ブロック層、結晶化防止層又は層間接触改良層等としても用いられる。特に電子輸送層、正孔輸送層、電子ブロック層及び正孔ブロック層から成る群より選択される一種以上の薄膜層として用いることにより、弱い光エネルギーでも効率よく電気信号に変換する素子が得られるため好ましい。
【0107】
電子輸送層は、光電変換層で発生した電子を電極膜へ輸送する役割と、電子輸送先の電極膜から光電変換層に正孔が移動するのをブロックする役割とを果たす。正孔輸送層は、発生した正孔を光電変換層から電極膜へ輸送する役割と、正孔輸送先の電極膜から光電変換層に電子が移動するのをブロックする役割とを果たす。電子ブロック層は、電極膜から光電変換層への電子の移動を妨げ、光電変換層内での再結合を防ぎ、暗電流を低減する役割を果たす。正孔ブロック層は、電極膜から光電変換層への正孔の移動を妨げ、光電変換層内での再結合を防ぎ、暗電流を低減する機能を有する。
正孔ブロック層は正孔阻止性物質を単独又は二種類以上を積層する、又は混合することにより形成される。正孔阻止性物質としては、正孔が電極から素子外部に流出するのを阻止することができる化合物であれば限定されない。正孔ブロック層に使用することができる化合物としては、バソフェナントロリン及びバソキュプロイン等のフェナントロリン誘導体、シロール誘導体、キノリノール誘導体金属錯体、オキサジアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、キノリン誘導体などが挙げられ、これらのうち、一種又は二種以上を用いることができる。
【0108】
図3に本発明の有機光電変換素子の代表的な素子構造を示すが、本発明はこの構造に限定されるものではない。図3の態様例においては、1が絶縁部、2が一方の電極膜、3が電子ブロック層、4が光電変換層、5が正孔ブロック層、6が他方の電極膜、7が絶縁基材又は他の有機光電変換素子をそれぞれ表す。図中には読み出し用のトランジスタを記載していないが、2又は6の電極膜と接続されていればよく、更には光電変換層4が透明であれば、光が入射する側とは反対側の電極膜の外側に成膜されていてもよい。光電変換素子への光の入射は、光電変換層4を除く構成要素が、光電変換層の主たる吸収波長の光を入射することを極度に阻害することがなければ、上部若しくは下部からの何れからでもよい。
【実施例
【0109】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。実施例中、「部」は特に指定しない限り「質量部」を、また「%」は「質量%」をそれぞれ表す。「M」はモル濃度を表す。また、反応温度は特に断りのない限り、反応系内の内温を記載した。
実施例において、EI-MSはサーモサイエンティック社製のISQ7000を、熱分析測定はメトラートレド社製のTGA/DSC1を、核磁気共鳴(NMR)は日本電子製のJNM-EC400を用いて測定した。
電界効果トランジスタの移動度はAgilent製の移動度評価半導体パラメータであるB1500または4155Cを用いて評価した。有機薄膜の表面は日立ハイテクノロジー社製の原子間力顕微鏡顕微鏡(以下、AFM)AFM5400Lを用いて観察した。
実施例中の有機光電変換素子の電流電圧の印加測定は、半導体パラメータアナライザ4200-SCS(ケースレーインスツルメンツ社製)を用いて行った。入射光の照射はPVL-3300(朝日分光社製)により、照射光半値幅20nmにて行った。実施例中の明暗比は、光照射を行った場合の電流値を暗所での電流値で割ったものを意味する。
【0110】
実施例1(具体例のNo.1で表される縮合多環芳香族化合物の合成)
DMF(140部)に、水(4部)、特開2009-196975号公報の記載に準じた方法により合成した下記式1で表される化合物(1.6部)、4-(p-ターフェニル)ボロン酸(0.96部)、リン酸三カリウム(1.24部)及びテ卜ラキス(卜リフェニルホスフイン)パラジウム(0)(0.34部)を混合し、窒素雰囲気下、80℃で9時間撹拌した。得られた反応液を室温まで冷却した後、水(150部)を加え、固形分をろ過により分取した。得られた固形分をアセトン及びDMFで洗浄し乾燥した後、昇華精製を行うことにより、具体例のNo.1で表される化合物(1.0部、収率63%)を得た。
【0111】
【化15】
【0112】
実施例1で得られた具体例のNo.1で表される化合物のEI-MSスペクトル及び熱分析測定の結果は以下の通りであった。
EI-MS m/z : Calcd for C4024 [M]: 568.13. Found: 568.23
熱分析(吸熱ピーク):509.4℃(窒素雰囲気条件)
【0113】
実施例2(具体例のNo.2で表される縮合多環芳香族化合物の合成)
(工程1)下記式2で表される中間体化合物の合成
DMF(400部)に、水(10部)、4-(1-ナフチル)フェニルボロン酸(12.0部)、1-ブロモ-4-ヨードベンゼン(13.7部)、リン酸カリウム(61.6部)及びテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(1.7部)を混合し、窒素雰囲気下、80℃で10時間撹拌した。得られた反応液を室温まで冷却した後、水(1000部)を加え、固形分をろ過により分取した。得られた固体をメタノールで洗浄し乾燥することで、下記式2で表される中間体化合物(17.1部、収率98%)を白色固体として得た。
【0114】
【化16】
【0115】
(工程2)下記式3で表される中間体化合物の合成
トルエン(250部)に、工程1により得られた式2で表される中間体化合物(8.5部)、ビス(ピナコラト)ジボロン(7.2部)、酢酸カリウム(4.6部)及び[1,1’-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]パラジウム(II)ジクロリドジクロロメタン付加物(0.6部)を混合し、窒素雰囲気下、還流温度で6時間撹拌した。得られた反応液を室温まで冷却した後、固形分をろ過により分取して溶媒を減圧除去した。得られた固体をシリカゲルカラム(展開溶媒 トルエン:ヘキサン=1:1)で精製し、さらに酢酸エチル中で再結晶することで、下記式3で表される中間体化合物(2.2部、収率23%)を白色固体として得た。
【0116】
【化17】
【0117】
工程2で得られた式3で表される中間体化合物の核磁気共鳴の測定結果は以下の通りであった。
H-NMR(CDCl): 7.96(d、1H)、7.93-7.90(m、3H)、7.87(d、1H)、7.75(d、2H)、7.70(d、2H)、7.58-7.42(m、6H)、1.37(s、12H)
【0118】
(工程3)具体例のNo.2で表される芳香族化合物の合成
DMF(200部)に、水(5部)、特開2009-196975号公報の記載に準じた方法により合成した上記式1で表される化合物(1.5部)、工程2で得られた式3で表される中間体化合物(1.7部)、リン酸カリウム(1.5部)及びテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(0.4部)を混合し、窒素雰囲気下、80℃で6時間撹拌した。得られた反応液を室温まで冷却した後、水(200部)を加え、固形分をろ過により分取した。得られた固体をアセトン及びDMFで洗浄し乾燥した後、昇華精製を行うことにより、具体例のNo.2で表される化合物(1.0部、収率44%)を得た。
【0119】
【化18】
【0120】
実施例2で得られた具体例のNo.2で表される化合物のEI-MSスペクトル及び熱分析測定の結果は以下の通りであった。
EI-MS m/z : Calcd for C4426 [M]:618.15. Found: 618.36
熱分析(吸熱ピーク):435.1℃(窒素雰囲気条件)
【0121】
実施例3(本発明の電界効果トランジスタ1の作製)
1,1,1,3,3,3-ヘキサメチルジシラザンにより表面処理を施したSi熱酸化膜付きのnドープシリコンウェハー上に、実施例1で得られた具体例のNo.1で表される縮合多環芳香族化合物を抵抗加熱真空蒸着により50nm製膜した。次に、前記で得られた有機薄膜上にシャドウマスクを用いてAuを真空蒸着し、チャネル長20乃至200μm、チャネル幅は2000μmのソース電極及びドレイン電極をそれぞれ作製し、本発明のトップコンタクト型電界効果トランジスタ素子1(図1B)を作製した。なお、電界効果トランジスタ素子1においては、熱酸化膜付きのnドープシリコンウェハーにおける熱酸化膜が絶縁層の機能を有し、nドープシリコンウェハーが基板及びゲート電極の機能を兼ね備えている。
【0122】
比較例1(比較用の電界効果トランジスタ2の作製)
実施例1で得られた具体例のNo.1で表される縮合多環芳香族化合物を特許第5674916号の記載に準じて合成した下記式(R)で表される化合物に変更した以外は実施例3に準じた方法で、比較用の電界効果トランジスタ素子2を作製した。
【0123】
【化19】
【0124】
(電界効果トランジスタ素子1及び2の耐熱性試験)
電界効果トランジスタ素子の性能は、ゲートに電位をかけた状態でソース電極とドレイン電極の間に電位をかけた時に流れる電流量に依存する。この電流値の測定結果を、有機半導体層に生じるキャリア種の電気特性を表現する下記式(a)に用いることにより、移動度を算出することができる。
Id=ZμCi(Vg-Vt)/2L・・・(a)
式(a)中、Idは飽和したソース・ドレイン電流値、Zはチャネル幅、Ciは絶縁体の電気容量、Vgはゲート電位、Vtはしきい電位、Lはチャネル長であり、μは決定する移動度(cm/Vs)である。Ciは用いたSiO絶縁膜の誘電率、Z、Lは有機トランジスタデバイスのデバイス構造よりに決まり、Id、Vgは電界効果トランジスタデバイスの電流値の測定時に決まり、VtはId、Vgから求めることができる。式(a)に各値を代入することで、それぞれのゲート電位での移動度を算出することができる。
【0125】
実施例3及び比較例1に準じた方法で1枚の基板上に4つの電界効果トランジスタ素子1及び2をそれぞれ作製し、大気圧下、120℃で30分間の加熱を施した後、上記の方法でキャリア移動度μを測定した。次いで、前記120℃の加熱後のキャリア移動度μの測定に供した電界効果トランジスタ素子1及び2に、大気圧下、更に150℃で30分間の加熱を施した後、上記の方法でキャリア移動度μを測定した。最後に、前記150℃の加熱後のキャリア移動度μの測定に供した電界効果トランジスタ素子1及び2に、大気圧下、更に180℃で30分間の加熱を施した後、上記の方法でキャリア移動度μを測定した。尚、耐熱性の評価基準は以下の通りである。結果を表1に示した。
・評価基準
A:電界効果トランジスタ作製直後の移動度を基準とした加熱後の移動度の変化率が30%未満
B:電界効果トランジスタ作製直後の移動度を基準とした加熱後の移動度の変化率が30%以上
C:加熱により電界効果トランジスタ素子が壊れ、評価不可能
【0126】
【表1】
【0127】
(有機薄膜の耐熱性試験)
実施例1で得られた具体例のNo.1で表される縮合多環芳香族化合物及び比較例1で用いた式(R)で表される化合物を用いて、実施例3に記載の蒸着法で1,1,1,3,3,3-ヘキサメチルジシラザンにより表面処理を施したSi熱酸化膜付きのnドープシリコンウェハー上に50nmの有機薄膜をそれぞれ作製した。前記で得られた有機薄膜に、大気圧下、120℃で30分間の加熱を施した後に一旦室温まで冷却し、次いで大気圧下、150℃で30分間の加熱を施した後に一旦室温まで冷却し、更に大気圧下、180℃で30分間の加熱を施した後に室温まで冷却し、有機薄膜作製直後の表面粗さ(Sa)、及び120℃、150℃並びに180℃で加熱した後の有機薄膜の表面粗さ(Sa)をAFMの解析プログラムを用いて算出した。結果を表2に示した。
また、前記で用いた表面粗さ算出用の有機薄膜の表面状態をAFMで観察(走査範囲:1μm)した。具体例のNo.1で表される縮合多環芳香族化合物を含む有機薄膜のAFMを図4に、式(R)で表される化合物を含む有機薄膜のAFMを図5に、それぞれ示した。
【0128】
【表2】
【0129】
表1の結果から、本発明の電界効果トランジスタが比較用の電界効果トランジスタよりも耐熱性に優れていることは明らかである。
また、表2の結果からは、具体例のNo.1で表される本発明の縮合多環芳香族化合物を含む有機薄膜は、式(R)で表される比較用の化合物を含む有機薄膜よりも加熱試験前後の表面粗さの変化が小さいことがわかる。これは、図4に示した具体例のNo.1で表される縮合多環芳香族化合物を含む有機薄膜のAFMで観察した像と図5に示した式(R)で表される比較用の化合物を含む有機薄膜のAFMで観察した像との比較から明らかである。
【0130】
実施例4(本発明の電界効果トランジスタ3の作製)
実施例1で得られた具体例のNo.1で表される縮合多環芳香族化合物を具体例のNo.2で表される縮合多環芳香族化合物に変更した以外は実施例3に準じた方法で、電界効果トランジスタ素子3を作製した。
【0131】
(電界効果トランジスタ素子3の耐熱性試験)
電界効果トランジスタ素子1及び2と同じ方法で、電界効果トランジスタ素子3の耐熱性試験を行った。結果を表3に示した。
【0132】
【表3】
【0133】
(有機薄膜の耐熱性試験)
実施例2で得られた具体例のNo.2で表される縮合多環芳香族化合物を用いて、具体例のNo.1で表される縮合多環芳香族化合物及び比較例1で用いた式(R)で表される化合物と同じ方法で有機薄膜の耐熱性試験を行った。結果を表4に示した。
また、前記で用いた表面粗さ算出用の有機薄膜の表面状態をAFMで観察(走査範囲:1μm)した。具体例のNo.2で表される縮合多環芳香族化合物を含む有機薄膜のAFMを図6に示した。
【0134】
【表4】
【0135】
表3の結果から、本発明の電界効果トランジスタが比較用の電界効果トランジスタよりも耐熱性に優れていることは明らかである。
また、表4の結果からは、具体例のNo.2で表される本発明の縮合多環芳香族化合物を含む有機薄膜は、式(R)で表される比較用の化合物を含む有機薄膜よりも加熱試験前後の表面粗さの変化が小さいことがわかる。これは、図6に示した具体例のNo.2で表される縮合多環芳香族化合物を含む有機薄膜のAFMで観察した像と図5に示した式(R)で表される比較用の化合物を含む有機薄膜のAFMで観察した像との比較から明らかである。
【0136】
実施例5(具体例のNo.3で表される縮合多環芳香族化合物の合成)
(工程4)下記式4で表される中間体化合物の合成
DMF(210部)に4-(p-ターフェニル)ボロン酸(8.64部)、1-ブロモ-4-ヨードベンゼン(8.49部)、2M炭酸ナトリウム水溶液(45.0部)及びテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(0.69部)を混合し、窒素雰囲気下、80℃で7時間撹拌した。得られた反応液を室温まで冷却した後、水(200部)を加え、固形分をろ過により分取した。得られた固体をメタノール洗浄し、次いでDMF、アセトンの順で洗浄し乾燥することで、下記式4で表される中間体化合物(9.55部、収率83%)を白色固体として得た。
【0137】
【化20】
【0138】
(工程5)下記式5で表される中間体化合物の合成
トルエン(80部)に、工程4により得られた式4で表される中間体化合物(3.08部)、ビス(ピナコラト)ジボロン(2.44部)、酢酸カリウム(2.36部)及び[1,1’-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]パラジウム(II)ジクロリドジクロロメタン付加物(0.26部)を混合し、窒素雰囲気下、還流温度で8時間撹拌した。得られた反応液を室温まで冷却した後、シリカゲルカラム(展開溶媒 クロロホルム)で精製し、さらにトルエン中で再結晶することで、下記式5で表される中間体化合物(2.75部、収率79%)を白色固体として得た。
【0139】
【化21】
【0140】
(工程6)具体例のNo.3で表される芳香族化合物の合成
DMF(80部)に、特開2009-196975号公報の記載に準じた方法により合成した上記式1で表される化合物(1.68部)、工程5で得られた式5で表される中間体化合物(2.59部)、2Mリン酸カリウム(6.0部)、酢酸パラジウム(0.09部)及び2-ジシクロヘキシルホスフィノ-2’,6’-ジメトキシビフェニル(SPhos)(0.33部)を混合し、窒素雰囲気下、80℃で4時間撹拌した。得られた反応液を室温まで冷却した後、水(100部)を加え、固形分をろ過により分取した。得られた固体をアセトン及びDMFで洗浄し乾燥した後、昇華精製を行うことにより、具体例のNo.3で表される化合物(1.73部、収率67%)を得た。
【0141】
【化22】
【0142】
実施例5で得られた具体例のNo.3で表される化合物のEI-MSスペクトル及び熱分析測定の結果は以下の通りであった。
EI-MS m/z : Calcd for C4628 [M]:644.85. Found: 644.46
熱分析(吸熱ピーク):527.6℃(窒素雰囲気条件)
【0143】
実施例6(本発明の電界効果トランジスタ4の作製)
実施例1で得られた具体例のNo.1で表される縮合多環芳香族化合物を具体例のNo.3で表される縮合多環芳香族化合物に変更した以外は実施例3に準じた方法で、電界効果トランジスタ素子4を作製した。
【0144】
(電界効果トランジスタ素子4の耐熱性試験)
電界効果トランジスタ素子1及び2と同じ方法で、電界効果トランジスタ素子4の耐熱性試験を行った。結果を表5に示した。
【0145】
【表5】
【0146】
(有機薄膜の耐熱性試験)
実施例5で得られた具体例のNo.3で表される縮合多環芳香族化合物を用いて、具体例のNo.1で表される縮合多環芳香族化合物及び比較例1で用いた式(R)で表される化合物と同じ方法で有機薄膜の耐熱性試験を行った。結果を表6に示した。
また、前記で用いた表面粗さ算出用の有機薄膜の表面状態をAFMで観察(走査範囲:1μm)した。具体例のNo.3で表される縮合多環芳香族化合物を含む有機薄膜のAFMを図7に示した。
【0147】
【表6】
【0148】
表5の結果から、本発明の電界効果トランジスタが比較用の電界効果トランジスタよりも耐熱性に優れていることは明らかである。
また、表6の結果からは、具体例のNo.3で表される本発明の縮合多環芳香族化合物を含む有機薄膜は、式(R)で表される比較用の化合物を含む有機薄膜よりも加熱試験前後の表面粗さの変化が小さいことがわかる。これは、図7に示した具体例のNo.3で表される縮合多環芳香族化合物を含む有機薄膜のAFMで観察した像と図5に示した式(R)で表される比較用の化合物を含む有機薄膜のAFMで観察した像との比較から明らかである。
【0149】
実施例7(実施例1で得られた具体例のNo.1で表される化合物の有機光電変換素子1の作製と評価)
ITO透明導電ガラス(ジオマテック(株)製、ITO膜厚150nm)に、実施例1で得られた具体例のNo.1で表される縮合多環芳香族化合物を抵抗加熱真空蒸着により100nmの膜厚に成膜した。次に、電極としてアルミニウムを100nm真空成膜し、本発明の有機光電変換素子1を作製した。ITOとアルミニウムを電極として、3Vの電圧を印加し、照射光波長が450nmの光照射を行った場合の明暗比は250000であった。
【0150】
実施例8(実施例2で得られた具体例のNo.2で表される化合物の有機光電変換素子2の作製と評価)
実施例1で得られた具体例のNo.1で表される縮合多環芳香族化合物を実施例2で得られた具体例のNo.2で表される縮合多環芳香族化合物に変更した以外は実施例7に準じた方法で、有機光電変換素子2を作製した。ITOとアルミニウムを電極として、3Vの電圧を印加し、照射光波長が450nmの光照射を行った場合の明暗比は6000であった。
【0151】
実施例9(実施例5で得られた具体例のNo.3で表される化合物の有機光電変換素子3の作製と評価)
実施例1で得られた具体例のNo.1で表される縮合多環芳香族化合物を実施例5で得られた具体例のNo.3で表される縮合多環芳香族化合物に変更した以外は実施例7に準じた方法で、有機光電変換素子3を作製した。ITOとアルミニウムを電極として、3Vの電圧を印加し、照射光波長が450nmの光照射を行った場合の明暗比は15000であった。
【0152】
比較例2(比較用の有機光電変換素子4の作製と評価)
実施例1で得られた具体例のNo.1で表される縮合多環芳香族化合物を特許第4958119号の記載に準じて合成した下記式(DNTT)で表される化合物に変更した以外は実施例7に準じた方法で、比較用の有機光電変換素子4を作製した。ITOとアルミニウムを電極として、3Vの電圧を印加し、照射光波長が450nmの光照射を行った場合の明暗比は4であった。
【0153】
【化23】
【0154】
比較例3(下記式(R2)で表される縮合多環芳香族化合物の合成)
DMF(50部)に、特開2009-196975号公報の記載に準じた方法により合成した上記式1で表される化合物(1.0部)、4-ビフェニルボロン酸(0.94部)、リン酸三カリウム(1.0部)、酢酸パラジウム(0.03部)及び2-ジシクロヘキシルホスフィノ-2’,6’-ジメトキシビフェニル(SPhos)(0.10部)を混合し、窒素雰囲気下、80℃で6時間撹拌した。得られた反応液を室温まで冷却した後、水(50部)を加え、固形分をろ過により分取した。得られた固体をアセトン及びDMFで洗浄し乾燥した後、昇華精製を行うことにより、下記式(R2)で表される化合物(0.7部、収率60%)を得た。
【0155】
【化24】
【0156】
比較例3で得られた上記式(R2)で表される化合物のEI-MSスペクトル及び熱分析測定の結果は以下の通りであった。
EI-MS m/z : Calcd for C3420 [M]:492.10. Found: 492.44
熱分析(吸熱ピーク):465.9℃(窒素雰囲気条件)
【0157】
比較例4(比較用の電界効果トランジスタ素子5の作製と評価)
実施例1で得られた具体例のNo.1で表される縮合多環芳香族化合物を比較例3の上記式(R2)で表される縮合多環芳香族化合物に変更した以外は実施例3に準じた方法で、電界効果トランジスタ素子5を作製した。
【0158】
(電界効果トランジスタ素子5の耐熱性試験)
電界効果トランジスタ素子1乃至4と同じ方法で、電界効果トランジスタ素子5の耐熱性試験を行った。結果を表7に示した。
【0159】
【表7】
【0160】
(有機薄膜の耐熱性試験)
比較例3の上記式(R2)で表される縮合多環芳香族化合物を用いて、具体例のNo.1及びNo.3で表される縮合多環芳香族化合物、及び比較例1で用いた式(R)で表される化合物と同じ方法で有機薄膜の耐熱性試験を行った。結果を表8に示した。
また、前記で用いた表面粗さ算出用の有機薄膜の表面状態をAFMで観察(走査範囲:1μm)した。比較例3の式(R2)で表される縮合多環芳香族化合物を含む有機薄膜のAFMを図8に示した。
【0161】
【表8】
【0162】
表7の結果から、本発明の電界効果トランジスタが比較用の電界効果トランジスタよりも耐熱性に優れていることは明らかである。
また、表8の結果からは、本発明の縮合多環芳香族化合物を含む有機薄膜は、式(R)及び式(R2)で表される比較用の化合物を含む有機薄膜よりも加熱試験前後の表面粗さの変化が小さいことがわかる。これは、図4、6及び7に示した本発明の縮合多環芳香族化合物を含む有機薄膜のAFMで観察した像と図8に示した式(R2)で表される比較用の化合物を含む有機薄膜のAFMで観察した像との比較から明らかである。
【0163】
実施例10(具体例のNo.29で表される縮合多環芳香族化合物の合成)
(工程7)下記式6で表される中間体化合物の合成
DMF(2300部)に、2-ブロモ-6-メトキシナフタレン(70.5部)、4-ビフェニルボロン酸(96.6部)、リン酸三カリウム(126.9部)及びテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(13.6部)を加え、窒素雰囲気下、70℃で5時間撹拌した。得られた反応液を室温まで冷却し、水を加え、生成した固体をろ取した。得られた固体をメタノールで洗浄し乾燥することで、下記式6で表される中間体化合物(91.2部、収率99%)を白色固体として得た。
【0164】
【化25】
【0165】
(工程8)下記式7で表される中間体化合物の合成
工程7により得られた式6で表される中間体化合物(70.0部)及びピリジン塩酸塩(259.0部)を混合し、窒素雰囲気下、180℃で3時間撹拌した。得られた反応液を室温まで冷却し、水を加え、得られた固体をろ取した。ろ取した固体をメタノール、次いで酢酸エチルで洗浄し乾燥することで、下記式7で表される中間体化合物(57.0部、収率86%)を白色固体として得た。
【0166】
【化26】
【0167】
(工程9)下記式8で表される中間体化合物の合成
クロロホルム(2000部)に、工程8により得られた式7で表される中間体化合物(15.0部)及びトリエチルアミン(41.0部)を混合し、窒素雰囲気下、50℃に昇温した後にトリフルオロメタンスルホン酸無水物(85.6部)を滴下した。滴下終了後、60℃に昇温し、30分間撹拌した。得られた反応液を室温まで冷却し、水(500部)を加え混合した後、有機層を分離し溶媒を減圧除去した。得られた固体をアセトンで洗浄し乾燥することで、下記式8で表される中間体化合物(19.2部、収率88%)を得た。
【0168】
【化27】
【0169】
(工程10)下記式9で表される中間体化合物の合成
トルエン(530部)に工程9により得られた式8で表される中間体化合物(18.7部)、ビス(ピナコラト)ジボロン(13.3部)、酢酸カリウム(8.6部)及び[1,1’-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]パラジウム(II)ジクロリドジクロロメタン付加物(1.1部)を混合し、窒素雰囲気下、還流温度で7時間撹拌した。得られた反応液を室温まで冷却し、固形分をろ別し、生成物を含むろ液を得た。次いで、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開液;トルエン)にて精製し、溶媒を減圧留去することで白色固体を得た。得られた白色固体をトルエンで再結晶することで、下記式9で表される中間体化合物(5.3部、収率30%)を得た。
【0170】
【化28】
【0171】
工程10で得られた式9で表される中間体化合物の核磁気共鳴の測定結果は以下の通りであった。
H-NMR(DMSO-d6):8.34(d、1H)、8.29(d、1H)、8.13(d、1H)、7.95-7.91(m、3H)、7.83-7.72(m、6H)、7.52-7.36(m、3H)、1.34(s、12H)
【0172】
(工程11)具体例のNo.29で表される芳香族化合物の合成
DMF(250部)に、特開2009-196975号公報の記載に準じた方法により合成した上記式1で表される化合物(2.5部)、工程10で得られた式9で表される中間体化合物(4.0部)、リン酸カリウム(2.5部)、酢酸パラジウム(0.10部)及び2-ジシクロヘキシルホスフィノ-2’,6’-ジメトキシビフェニル(SPhos)(0.70部)を混合し、窒素雰囲気下、80℃で5時間撹拌した。得られた反応液を室温まで冷却した後、水(250部)を加え、固形分をろ過により分取した。得られた固体をアセトン及びDMFで洗浄し乾燥した後、昇華精製を行うことにより、具体例のNo.29で表される化合物(2.7部、収率74%)を得た。
【0173】
【化29】
【0174】
実施例10で得られた具体例のNo.29で表される化合物のEI-MSスペクトル及び熱分析測定の結果は以下の通りであった。
EI-MS m/z : Calcd for C4426 [M]:618.15. Found: 618.40
熱分析(吸熱ピーク):501.0℃(窒素雰囲気条件)
【0175】
実施例11(具体例のNo.30で表される縮合多環芳香族化合物の合成)
(工程12)下記式10で表される中間体化合物の合成
DMF(250部)に、2-ブロモ-6-メトキシナフタレン(11.5部)、2-ナフチルボロン酸(10.0部)、リン酸三カリウム(20.6部)及びテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(1.7部)を加え、窒素雰囲気下、90℃で5時間撹拌した。得られた反応液を室温まで冷却し、水を加え、生成した固体をろ取した。得られた固体をメタノールで洗浄することで、下記式10で表される中間体化合物(13.5部、収率98%)を得た。
【0176】
【化30】
【0177】
(工程13)下記式11で表される中間体化合物の合成
工程12で得られた式10で表される中間体化合物(13.0部)及びピリジン塩酸塩(53部)を混合し、窒素雰囲気下、180℃で5時間撹拌した。得られた反応液を室温まで冷却し、酢酸エチル及び水を加え、分液した。溶媒を減圧留去することにより、下記式11で表される中間体化合物(11.5部、収率94%)を得た。
【0178】
【化31】
【0179】
(工程14)下記式12で表される中間体化合物の合成
ジクロロメタン(150部)及びトリエチルアミン(8.6部)の混合溶液に工程13で得られた式11で表される中間体化合物(11.5部)を加え、0℃に冷却した後に、トリフルオロメタンスルホン酸無水物(14.4部)をゆっくりと滴下した。滴下終了後、25℃まで昇温し、2時間撹拌した。得られた反応液に水とトルエンを加え、分液し、溶媒を減圧留去することで、褐色固体を得た。この固体をメタノール(100部)に懸濁させ、ろ過を施すことにより、下記式12で表される中間体化合物(15.2部、収率89%)の白色固体を得た。
【0180】
【化32】
【0181】
(工程15)下記式13で表される中間体化合物の合成
トルエン(350部)に、工程14で得られた式12で表される中間体化合物(14.5部)、ビス(ピナコラト)ジボロン(11.0部)、酢酸カリウム(7.1部)及び[1,1’-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]パラジウム(II)ジクロリドジクロロメタン付加物(0.9部)を混合し、窒素雰囲気下、還流温度で6時間撹拌した。得られた反応液を室温まで冷却し、固形分をろ別し、生成物を含むろ液を得た。次いで、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開液;トルエン)にて精製し、溶媒を減圧除去することにより、下記式13で表される中間体化合物(13.5部、収率99%)を得た。
【0182】
【化33】
【0183】
(工程16)具体例のNo.30で表される芳香族化合物の合成
DMF(70部)に、水(5部)、特開2009-196975号公報の記載に準じた方法により合成した上記式1で表される化合物(0.7部)、工程15で得られた式13で表される中間体化合物(0.95部)、リン酸カリウム(0.7部)、酢酸パラジウム(0.10部)及び2-ジシクロヘキシルホスフィノ-2’,6’-ジメトキシビフェニル(SPhos)(0.70部)を混合し、窒素雰囲気下、80℃で5時間撹拌した。得られた反応液を室温まで冷却した後、水(300部)を加え、固形分をろ過により分取した。得られた固体をアセトン及びDMFで洗浄し乾燥した後、昇華精製を行うことにより、具体例のNo.30で表される化合物(0.4部、収率41%)を得た。
【0184】
【化34】
【0185】
実施例11で得られた具体例のNo.30で表される化合物のEI-MSスペクトル及び熱分析測定の結果は以下の通りであった。
EI-MS m/z : Calcd for C4224 [M]:592.77. Found: 592.45
熱分析(吸熱ピーク):464.0℃(窒素雰囲気条件)
【0186】
実施例12(実施例10で得られた具体例のNo.29で表される化合物の有機光電変換素子5の作製と評価)
ITO透明導電ガラス(ジオマテック(株)製、ITO膜厚150nm)に、実施例10で得られた具体例のNo.29で表される縮合多環芳香族化合物を抵抗加熱真空蒸着により100nmの膜厚に成膜した。次に、電極としてアルミニウムを100nm真空成膜し、本発明の有機光電変換素子5を作製した。ITOとアルミニウムを電極として、1Vの電圧を印加し、照射光波長が450nmの光照射を行った場合の明暗比は210000であった。
【0187】
比較例5(比較用の有機光電変換素子6の作製と評価)
実施例10で得られた具体例のNo.29で表される縮合多環芳香族化合物を特許第4958119号の記載に準じて合成した上記式(DNTT)で表される化合物に変更した以外は実施例12に準じた方法で、比較用の有機光電変換素子6を作製した。ITOとアルミニウムを電極として、1Vの電圧を印加し、照射光波長が450nmの光照射を行った場合の明暗比は6であった。
【0188】
比較例6(比較用の有機光電変換素子7の作製と評価)
実施例10で得られた具体例のNo.29で表される縮合多環芳香族化合物を上記式(R)で表される化合物に変更した以外は実施例12に準じた方法で、比較用の有機光電変換素子7を作製した。ITOとアルミニウムを電極として、1Vの電圧を印加し、照射光波長が450nmの光照射を行った場合の明暗比は5000であった。
【0189】
実施例13(実施例11で得られた具体例のNo.30で表される化合物の有機光電変換素子8の作製と評価)
ITO透明導電ガラス(ジオマテック(株)製、ITO膜厚150nm)に、実施例11で得られた具体例のNo.30で表される縮合多環芳香族化合物を抵抗加熱真空蒸着により100nmの膜厚に成膜した。次に、電極としてアルミニウムを100nm真空成膜し、本発明の有機光電変換素子8を作製した。ITOとアルミニウムを電極として、1Vの電圧を印加し、照射光波長が450nmの光照射を行った場合の明暗比は500000であった。
【0190】
実施例14(本発明の電界効果トランジスタ6の作製)
1,1,1,3,3,3-ヘキサメチルジシラザンにより表面処理を施したSi熱酸化膜付きのnドープシリコンウェハー上に、実施例10で得られた具体例のNo.29で表される縮合多環芳香族化合物を抵抗加熱真空蒸着により100nm製膜した。次に、前記で得られた有機薄膜上にシャドウマスクを用いてAuを真空蒸着し、チャネル長20乃至200μm、チャネル幅は2000μmのソース電極及びドレイン電極をそれぞれ作製し、本発明のトップコンタクト型電界効果トランジスタ素子6(図1B)を作製した。なお、電界効果トランジスタ素子6においては、熱酸化膜付きのnドープシリコンウェハーにおける熱酸化膜が絶縁層の機能を有し、nドープシリコンウェハーが基板及びゲート電極の機能を兼ね備えている。
【0191】
比較例7(比較用の電界効果トランジスタ7の作製)
実施例10で得られた具体例のNo.29で表される縮合多環芳香族化合物を上記式(R)で表される化合物に変更した以外は実施例14に準じた方法で、比較用の電界効果トランジスタ素子7を作製した。
【0192】
実施例14及び比較例7に準じた方法で1枚の基板上に4つの電界効果トランジスタ素子6及び7をそれぞれ作製し、大気圧下、120℃で30分間の加熱を施した後、上記の方法でキャリア移動度μを測定した。次いで、前記120℃の加熱後のキャリア移動度μの測定に供した電界効果トランジスタ素子6及び7に、大気圧下、更に150℃で30分間の加熱を施した後、上記の方法でキャリア移動度μを測定した。最後に、前記150℃の加熱後のキャリア移動度μの測定に供した電界効果トランジスタ素子6及び7に、大気圧下、更に180℃で30分間の加熱を施した後、上記と同じ方法でキャリア移動度μを測定し、上記と同じ評価基準で耐熱性を評価した。結果を表9に示した。
【0193】
【表9】
【0194】
(有機薄膜の耐熱性試験)
実施例10で得られた具体例のNo.29で表される縮合多環芳香族化合物及び比較例1で用いた式(R)で表される化合物を用いて、実施例14に記載の蒸着法で1,1,1,3,3,3-ヘキサメチルジシラザンにより表面処理を施したSi熱酸化膜付きのnドープシリコンウェハー上に100nmの有機薄膜をそれぞれ作製した。前記で得られた有機薄膜に、大気圧下、120℃で30分間の加熱を施した後に一旦室温まで冷却し、次いで大気圧下、150℃で30分間の加熱を施した後に一旦室温まで冷却し、更に大気圧下、180℃で30分間の加熱を施した後に室温まで冷却し、有機薄膜作製直後の表面粗さ(Sa)、及び120℃、150℃並びに180℃で加熱した後の有機薄膜の表面粗さ(Sa)をAFMの解析プログラムを用いて算出した。結果を表10に示した。
また、前記で用いた表面粗さ算出用の有機薄膜の表面状態をAFMで観察(走査範囲:1μm)した。具体例のNo.29で表される縮合多環芳香族化合物を含む有機薄膜のAFMを図9に、式(R)で表される化合物を含む有機薄膜のAFMを図10に、それぞれ示した。
【0195】
【表10】
【0196】
表9の結果から、本発明の電界効果トランジスタが比較用の電界効果トランジスタよりも耐熱性に優れていることは明らかである。
また、表10の結果からは、具体例のNo.29で表される本発明の縮合多環芳香族化合物を含む有機薄膜は、式(R)で表される比較用の化合物を含む有機薄膜よりも加熱試験前後の表面粗さの変化が小さいことがわかる。これは、図9に示した具体例のNo.29で表される縮合多環芳香族化合物を含む有機薄膜のAFMで観察した像と図10に示した式(R)で表される比較用の化合物を含む有機薄膜のAFMで観察した像との比較から明らかである。
【0197】
実施例15及び比較例8(電界効果トランジスタ素子8及び9の耐熱性試験)
実施例10で得られた具体例のNo.29で表される縮合多環芳香族化合物及び式(R)で表される化合物を用いた電界効果トランジスタ素子の耐熱性試験と同じ方法で、具体例のNo.30で表される縮合多環芳香族化合物及び上記DNTTを用いて作製した電界効果トランジスタ素子8及び9の耐熱性試験を行った。結果を表11に示した。
【0198】
【表11】
【0199】
(有機薄膜の耐熱性試験)
実施例10で得られた具体例のNo.29で表される縮合多環芳香族化合物を用いた有機薄膜の耐熱性試験と同じ方法で、実施例11で得られた具体例のNo.30で表される縮合多環芳香族化合物を用いて作製した有機薄膜の耐熱性試験を行った。結果を表12に示した。
また、前記で用いた表面粗さ算出用の有機薄膜の表面状態をAFMで観察(走査範囲:1μm)した。具体例のNo.30で表される縮合多環芳香族化合物を含む有機薄膜のAFMを図11に示した。
【0200】
【表12】
【0201】
表11の結果から、本発明の電界効果トランジスタが比較用の電界効果トランジスタよりも耐熱性に優れていることは明らかである。
また、表10及び12の結果からは、具体例のNo.30で表される本発明の縮合多環芳香族化合物を含む有機薄膜は、式(R)で表される比較用の化合物を含む有機薄膜よりも加熱試験前後の表面粗さの変化が小さいことがわかる。これは、図11に示した具体例のNo.30で表される縮合多環芳香族化合物を含む有機薄膜のAFMで観察した像と図10に示した式(R)で表される比較用の化合物を含む有機薄膜のAFMで観察した像との比較からも明らかである。
【0202】
比較例9(下記式(R3)で表される縮合多環芳香族化合物の合成)
DMF(50部)に、特開2009-196975号公報の記載に準じた方法により合成した下記式14で表される化合物(0.5部)、4-(p-ターフェニル)ボロン酸(0.69部)、リン酸三カリウム(0.85部)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0.04部)を混合し、窒素雰囲気下、80℃で6時間撹拌した。得られた反応液を室温まで冷却した後、水(50部)を加え、固形分をろ過により分取した。得られた固体をアセトン及びDMFで洗浄し乾燥し、下記式(R3)で表される化合物(0.56部、収率70%)を得た。式(R3)で表される化合物を昇華精製した結果、熱分解を起こし、精製できなかった。
【0203】
【化35】
【0204】
比較例10(比較用の有機光電変換素子9の作製の試みと評価)
ITO透明導電ガラス(ジオマテック(株)製、ITO膜厚150nm)に、比較例9で得られた昇華精製前の式(R3)で表される縮合多環芳香族化合物を抵抗加熱真空蒸着により100nmの膜厚に成膜を試みた。その結果、熱分解挙動を示したため、比較用の有機光電変換素子を作製できなかった。
【産業上の利用可能性】
【0205】
本発明によれば、実用的なプロセス温度領域での耐熱性に優れた縮合多環芳香族化合物、該化合物を含む有機薄膜及び該有機薄膜を有する有機半導体デバイス(電界効果トランジスタ、有機光電変換素子)を提供することができる。

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図4
図5
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図11