(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-16
(45)【発行日】2024-05-24
(54)【発明の名称】時計又は宝石類の外装部品
(51)【国際特許分類】
G04B 39/00 20060101AFI20240517BHJP
G04B 37/22 20060101ALI20240517BHJP
【FI】
G04B39/00 K
G04B37/22 Z
(21)【出願番号】P 2021556382
(86)(22)【出願日】2020-03-20
(86)【国際出願番号】 EP2020057849
(87)【国際公開番号】W WO2020188102
(87)【国際公開日】2020-09-24
【審査請求日】2023-01-17
(32)【優先日】2019-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CH
(73)【特許権者】
【識別番号】521432018
【氏名又は名称】グルプ アショル エスア
【氏名又は名称原語表記】GROUPE ACHOR SA
【住所又は居所原語表記】Rue Victor-Helg 18, 2800 Delemont, Switzerland
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【氏名又は名称】熊野 剛
(72)【発明者】
【氏名】ガスマン パトリック
(72)【発明者】
【氏名】グシュヴィント ペーター
(72)【発明者】
【氏名】ブーレ アラン
【審査官】藤澤 和浩
(56)【参考文献】
【文献】特開平3-115993(JP,A)
【文献】特開昭50-6365(JP,A)
【文献】国際公開第2008/007783(WO,A1)
【文献】特開2006-55365(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ムラーノガラスから作製される時計又は宝石類の外装部品を製造する方法であって、
並べて配置された、ガラス管とも呼ばれるガラスロッド(2)によって形成された材料を準備するステップと、
前記材料を結合してブランクを形成するための幾つかの工程の熱処理のステップと、
前記ブランクを機械加工して、前記外装部品を生産するステップと、
を含み、
前記熱処理は、4℃/分~12℃/分の加熱速度で、100℃以下の温度から、450℃~650℃の温度まで前記材料を加熱することが本質である第1の工程(a)を含むことを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記第1の工程(a)は、5℃/分~10℃/分の加熱速度で、100℃以下の温度から、500℃~600℃の温度まで前記材料を加熱することを本質とすることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記熱処理は、前記第1の工程(a)の後に、前記ガラスロッド(2)の移動を無くすことを本質とする第2の工程(b)を含み、該第2の工程(b)は、40分~140分の時間にわたって、450℃~650℃の実質的に一定の温度で行われることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記熱処理は、前記第2の工程(b)の後に第3の工程(c)を含み、該第3の工程(c)は、40分~140分の時間にわたって、650℃~900℃の温度まで前記材料を加熱することによって、前記ガラスロッド(2)を共に結合することを本質とすることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記熱処理は、前記第3の工程(c)の後に第4の工程(d)を含み、該第4の工程(d)は、3分~17分の時間にわたる、前記第3の工程(c)において達した前記温度での安定化工程であることを本質とすることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記熱処理は、前記第4の工程(d)の後に、数日間にわたって、350℃~650℃の温度で行われる膨張工程であることが本質である、第5の工程(e)を含み、その後、前記材料は、前記ブランクを形成するために周辺温度まで冷却されることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、時計又は宝石類の外装部品、特に、ムラーノガラス(Murano glass)から作製されるモノコック構造の時計ケースを製造する方法に関する。本発明は、この方法から得られる外装部品にも関する。
【背景技術】
【0002】
ムラーノガラスの典型的な特性の1つは、加工部品を装飾する着色点及び装飾点、すなわちミルフィオリ(millefiori)である。「ミルフィオリ」とは、「千本の花」を意味し、特殊なガラス生産技法を指す。寄せ集めた異なる色のガラスロッドが融着され(fused)、部分的にガラスで覆われる。ガラスロッドの多彩な着色は、銀、金、酸化鉄(錆)等の着色材料の使用に基づく。非常に慎重に加工した後、融着されたガラスロッドが円板状に切断されることで、いわゆるムッリーネ(Murrine)が形成される。
【0003】
時計の外装部品を生産するためには、ムッリーネを精密に機械加工しなければならない。定義上、ガラス部品は脆弱である。ムッリーネを生産する標準的な方法は、機械加工中に気泡をもたらし、この気泡により材料が特に脆弱になり、結果として著しい材料損失が発生したことが観測されている。
【0004】
特許文献1は、ムラーノガラスから作製される時計の文字盤の製造方法、より詳細には、その機械加工方法を開示している。この文献には、気泡の問題に関して言及がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【0006】
本発明は、最終的に外装部品の機械加工を容易にするために、製造中の気泡形成を低減、更には消滅させ、これにより材料損失を低減する最適化された方法を提案することにより、上述の欠点に対処することを目的とする。
【0007】
本発明は、ムラーノガラスから作製されるとともに、気泡がほとんど又は全くない構造を有する時計又は宝石類の外装部品も提案する。より詳細には、本発明は、ムラーノガラスから一体成形として作製される時計ケースに関する。
【0008】
本発明の特徴及び利点は、
図1~
図4を参照して行う以下の詳細な説明を読めば明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】既知の方法でガラスロッドを鋳型内に組み付けることを本質とする製造方法のステップを概略的に示す図である。
【
図2】本発明に係る方法の異なる温度の工程を概略的に示す図である。
【
図3a】本発明に係る、ムラーノガラスから一体成形として作製される胴部及び文字盤によって形成される外装部品を示す図である。
【
図3b】円形の胴部を有する
図3aの変形形態を示す図である。
【
図4】
図3bの外装部品を備える時計を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、ムラーノガラスから作製される時計又は宝石類の外装部品と、当該部品を製造するために実施される製造方法とに関する。時計学の分野において、当該部品は、胴部、底部、ベゼル、プッシュピース(push-piece)、ブレスレットリンク(bracelet link)、文字盤、針、文字盤インデックス(dial index)等であり得る。当該部品は、
図3a及び
図3bに示すような時計ケース1を形成する胴部1a及び文字盤1bを備える、ムラーノガラスから完全に作製された一体部品であることが好ましい。文字盤及び胴部は、任意の形状(円形、長方形、正方形、樽形等)を取ることができる。
図4には例示として、時計ケース1を形成する胴部及び文字盤によって形成された一体部品を備える時計を示す。
【0011】
製造方法は、より詳細には本発明の目的である熱処理ステップを含む幾つかのステップを含む。したがって、製造方法は、既知の方法で多色ガラス2からガラス棒(cane)(ロッドとも呼ばれる)を生産し、それらを切断後に鋳型3(
図1)内に並べて設置することを本質とするステップを含む。その後、製造方法は、結合された(consolidated)ブランク(blank)を形成するための熱処理ステップを含み、その後、ブランクを成形するための機械加工ステップが続く。
【0012】
ガラスロッドによって形成される材料は、ブランクを形成するために、
図2に概略的に示す本発明に係る熱処理にかけられる。この熱処理は、次のような5つの連続する工程(cycles)(a)~(e)を含む:
(a)この工程は、材料を加熱することを本質とする。これは気泡形成を避けるために重要な工程であり、この工程が、より詳細には本発明の目的である。
(b)これは、加熱工程後のガラスロッドの移動を無くす(stabilize)ことを目的とした維持工程である。
(c)これは、ガラスロッドを結合する(consolidate)ことを目的とした別の加熱工程である。
(d)これは、材料を安定化することを目的とした新たな維持工程である。
(e)これは、材料内の内圧を緩和することを目的とした膨張工程である。
【0013】
第1の工程(a)は、ガラスロッドが熱の影響下で移動するため、気泡形成において最重要である。この工程中、材料を、100℃以下の温度、好ましくは周辺温度である炉の中に置く。この工程を制御されていない雰囲気下で行うことができる。炉は、閉じられると、4℃/分~12℃/分、好ましくは5℃/分~10℃/分、より好ましくは6℃/分~9℃/分の加熱速度で、450℃~650℃、好ましくは500℃~600℃、より好ましくは525℃~575℃の温度への温度上昇を開始する。
【0014】
相対的に重要でない第2の工程(b)は、ステップ(a)における加熱中の最大温度に対応する実質的に一定の温度で行う。この工程は、40分~140分、好ましくは70分~110分、より好ましくは80分~100分の時間にわたって、450℃~650℃、好ましくは500℃~600℃、より好ましくは525℃~575℃の温度で行う。
【0015】
第3の加熱工程(c)は、40分~140分、好ましくは70分~110分、より好ましくは80分~100分の時間にわたって、第2の工程(b)の定温状態(plateau)から、650℃~900℃、好ましくは720℃~840℃、より好ましくは760℃~800℃の温度まで温度を上昇させることを本質とする。
【0016】
第4の工程(d)は、第3の工程(c)中に達した最大温度、すなわち、650℃~900℃、好ましくは720℃~840℃、より好ましくは760℃~800℃に対応する実質的に一定の温度で、3分~17分、好ましくは5分~15分の時間にわたって行う。
【0017】
第5の工程(e)は、第4の工程(d)の後、膨張炉と呼ばれる第2の炉の中に材料を置くことを本質とする。典型的には、この移送をおよそ1分の時間で行う。この工程は、数日間、好ましくは1日~5日間、より好ましくは2日~4日間にわたって、350℃~650℃、好ましくは450℃~550℃、より好ましくは475℃~525℃の温度の制御されていない雰囲気下で行うことができる。次に、材料を周辺温度まで冷却し、ブランクを形成する。
【0018】
熱処理から得られたブランクが、いわゆるムッリーネを形成し、ムッリーネが機械加工されて外装部品が生産される。一般に、ブランクは、およそ1cmの厚さを有する円板の形態を取る。機械加工は、例えばダイヤモンド研削によって行うことができる。時計ケースの場合、機械加工した後に、針、ガラス及びプッシュピースを組み付ける。
【0019】
本発明に係る熱処理から得られたブランクは、気泡とも呼ばれる間隙(porosity)がほとんど又は全くない。目立った間隙が存在しない場合、ブランク及び機械加工部品は、ガラス製にもかかわらず極めて丈夫である。このように間隙が存在しないことにより、胴部1a及び文字盤1bを備える
図3a、
図3b及び
図4の時計ケース1のような、より複雑な形状を有する外装部品を機械加工することが可能になる。時計ケースを生産するためには、ブランクの中心をくり抜いて、周縁部を胴部が覆う文字盤を生産する。このガラスの機械加工操作は特に要注意である。機械加工中に間隙が存在する場合、亀裂又は目に見えない凹凸の形成につながる可能性があり、その結果、当該部品が破損する。同様に、胴部の周縁部の機械加工は、特に、
図3aの樽形のようにリムを有する形状において重要である。これらのリムによっても、亀裂形成が始まる可能性があり、又は、熱処理が最適化されていない場合、ロッド間に間隙が存在することによりロッドの分離につながる可能性がある。
【0020】
さらに、間隙が存在しないことにより、時計ケースへの水分の侵入を防止し、これにより、時計に対して或る特定の耐水性を保証することが可能になる。
【0021】
製造方法からこのように得られた外装部品は、有色又は透明な浮き出し模様の3Dパターンによる非常に優れた美観効果を有する。