(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-16
(45)【発行日】2024-05-24
(54)【発明の名称】車両用前照灯
(51)【国際特許分類】
B60Q 1/14 20060101AFI20240517BHJP
F21V 14/04 20060101ALI20240517BHJP
F21V 9/40 20180101ALI20240517BHJP
F21W 102/14 20180101ALN20240517BHJP
F21Y 115/10 20160101ALN20240517BHJP
F21Y 105/10 20160101ALN20240517BHJP
【FI】
B60Q1/14 A
F21V14/04
F21V9/40 400
F21W102:14
F21Y115:10
F21Y105:10
(21)【出願番号】P 2022503312
(86)(22)【出願日】2021-02-18
(86)【国際出願番号】 JP2021006165
(87)【国際公開番号】W WO2021172169
(87)【国際公開日】2021-09-02
【審査請求日】2023-12-01
(31)【優先権主張番号】P 2020030466
(32)【優先日】2020-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001133
【氏名又は名称】株式会社小糸製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100143764
【氏名又は名称】森村 靖男
(72)【発明者】
【氏名】丸山 雄太
【審査官】佐藤 彰洋
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/080363(WO,A1)
【文献】特開2016-159709(JP,A)
【文献】特開2015-015104(JP,A)
【文献】特開2010-118274(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60Q 1/00-1/56
F21V 14/04
F21V 9/40
F21W 102/14
F21Y 115/10
F21Y 105/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
出射する光の配光パターンを変更可能な灯具と、
検出装置から車両の前方に位置する他車両の検出を示す信号が入力する場合に、前記配光パターンにおける前記他車両の少なくとも一部を左右方向に横切る第1領域及び前記第1領域の下方側に接続して左右方向に延在する第2領域に照射される前記灯具からの光の全光束量が少なくなるとともに、前記車両に対する前記他車両の位置に応じて前記第1領域及び前記第2領域における左右方向の幅が変化するように、前記灯具を制御する制御部と、
を備え、
前記第1領域は前記他車両における運転者が車外を視認する視認部の全体と重なり、
前記第2領域における左右方向の両側の縁は、前記第1領域における左右方向の両側の縁より前記他車両の中心側に位置する
ことを特徴とする車両用前照灯。
【請求項2】
前記他車両が対向車である場合、前記第1領域における左右方向の前記車両の走行車線側と反対側の縁から前記他車両までの幅が、前記第1領域における左右方向の前記車両の前記走行車線側の縁から前記他車両までの幅より大きい
ことを特徴とする請求項1に記載の車両用前照灯。
【請求項3】
前記他車両が先行車である場合、前記第1領域における左右方向の対向車線側の縁から前記他車両までの幅が、前記第1領域における左右方向の前記対向車線側と反対側の縁から前記他車両までの幅より小さい
ことを特徴とする請求項1または2に記載の車両用前照灯。
【請求項4】
前記他車両が先行車である場合、前記第1領域における左右方向の対向車線側と反対側の縁から前記他車両までの幅が、前記第1領域における左右方向の前記対向車線側の縁から前記他車両までの幅より小さい
ことを特徴とする請求項1または2に記載の車両用前照灯。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用前照灯に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、車両の前方に位置する他の車両を検出する検出装置からの情報に基づいて、出射する光の配光パターンを変化させる車両用前照灯が知られている。下記特許文献1には、このような車両用前照灯が記載されている。
【0003】
下記特許文献1に記載の車両用前照灯は、出射する光の配光パターンを変更可能な灯具と、車両の前方に位置する他車両を検出する検出装置と、他車両への光の照射を抑制しつつ、他車両の周囲に光が照射されるように灯具の照射範囲を制御する制御部と、を備える。下記特許文献1には、制御部が、他車両の左右方向の位置に応じて、光の照射が抑制される領域の左右方向の幅が変化するように灯具を制御することが記載されている。下記特許文献1に記載の車両用前照灯によれば、車両に対する他車両の位置に応じて他車両と照射範囲との間に適切な隙間を確保することが可能となり、他車両の乗員が眩惑することを抑制できるとされている。なお、下記特許文献1では、光の照射が抑制されている領域の左右方向の幅は、上下方向において概ね一定である。
【0004】
【発明の概要】
【0005】
このような車両用前照灯では、灯具からの光の全光束量が少なくされ他車両と重なる所定の領域が形成されるため、前方の視認性が低下する傾向にあり、前方の視認性を向上したいとの要請がある。この要請に対しては、灯具からの光の全光束量が少なくされた所定の領域を小さくすることが考えられる。しかし、所定の領域を単純に小さくすると、他車両の乗員の眩惑が生じやすくなる。
【0006】
そこで、本発明は、他車両の乗員の眩惑を抑制しつつ、前方の視認性を向上し得る車両用前照灯を提供することを目的とする。
【0007】
上記目的の達成のため、本発明の車両用前照灯は、出射する光の配光パターンを変更可能な灯具と、検出装置から車両の前方に位置する他車両の検出を示す信号が入力する場合に、前記配光パターンにおける前記他車両の少なくとも一部を左右方向に横切る第1領域及び前記第1領域の下方側に接続して左右方向に延在する第2領域に照射される前記灯具からの光の全光束量が少なくなるとともに、前記車両に対する前記他車両の位置に応じて前記第1領域及び第2領域における左右方向の幅が変化するように、前記灯具を制御する制御部と、を備え、前記第1領域は前記他車両における運転者が車外を視認する視認部の全体と重なり、前記第2領域における左右方向の両側の縁は、前記第1領域における左右方向の両側の縁より前記他車両の中心側に位置することを特徴とする。
【0008】
この車両用前照灯では、車両に対する他車両の位置に応じて、灯具からの光の全光束量が減少された第1領域及び第2領域における左右方向の幅が変化される。このため、この車両用前照灯によれば、車両に対する他車両の位置に応じて、他車両と灯具からの光の全光束量が減少されていない領域との間に適切な隙間を確保することができ、他車両の乗員が眩惑することを抑制できる。また、この車両用前照灯では、第1領域は他車両における運転者が車外を視認する視認部の全体と重なり、この第1領域の下方側に接続して左右方向に延在する第2領域の左右方向の幅は、第1領域より小さい。このため、この車両用前照灯によれば、灯具からの光の全光束量が減少された領域の左右方向の幅が第2領域の左右方向の幅と同じで上下方向に一定である場合と比べて、第1領域によって他車両における運転者が車外を視認する視認部と灯具からの光の全光束量が減少されていない領域との間に適切な隙間を確保でき、他車両の乗員の眩惑を抑制し得る。また、この車両用前照灯によれば、灯具からの光の全光束量が減少された領域の左右方向の幅が第1領域の左右方向の幅と同じで上下方向に一定である場合と比べて、他車両の視認部より下方において他車両と灯具からの光の全光束量が減少されていない領域との間の隙間を小さくでき、前方の視認性を向上し得る。なお、他車両における運転者が車外を視認する視認部とは、他車両が対向車の場合には例えばフロントウインドであり、他車両が先行車の場合には例えばサイドミラー、リアウインド、車両の後方を撮像する撮像装置等である。
【0009】
前記他車両が対向車である場合、前記第1領域における左右方向の前記車両の走行車線側と反対側の縁から前記他車両までの幅が、前記第1領域における左右方向の前記車両の前記走行車線側の縁から前記他車両までの幅より大きいこととしてもよい。
【0010】
この場合、例えば、左側通行が運用されている国や地域では、車両の運転者から見て第1領域の右側の縁と対向車との隙間は、第1領域の左側の縁と対向車との隙間より大きい。ここで、車両の進行方向と当該車両から対向車に向かう方向とのなす角度は、対向車が車両に近づくほど大きくなり、上記の国や地域では、車両の運転者の視界において対向車は右方向に移動する。このため、上記のような構成にすることで、第1領域の左側の縁と対向車との隙間が第1領域の右側の縁と対向車との隙間と同じとされる場合と比べて、対向車の乗員の眩惑を適切に抑制し得る。
【0011】
前記他車両が先行車である場合、前記第1領域における左右方向の対向車線側の縁から前記他車両までの幅が、前記第1領域における左右方向の前記対向車線側と反対側の縁から前記他車両までの幅より小さいこととしてもよい。
【0012】
この場合、例えば、上記の国や地域では、車両の運転者から見て第1領域の右側の縁と先行車との隙間は、第1領域の左側の縁と先行車との隙間より小さい。このため、第1領域の右側の縁と先行車との隙間が第1領域の左側の縁と先行車との隙間と同じとされる場合と比べて、先行車より右側の領域の視認性を向上し得る。したがって、この車両用前照灯によれば、例えば、センターライン付近、或いは対向車線側の車線境界線付近にいる歩行者等を視認しやすくし得る。
【0013】
或いは、前記他車両が先行車である場合、前記第1領域における左右方向の対向車線側と反対側の縁から前記他車両までの幅が、前記第1領域における左右方向の前記対向車線側の縁から前記他車両までの幅より小さいこととしてもよい。
【0014】
この場合、例えば、上記の国や地域では、車両の運転者から見て第1領域の左側の縁と先行車との隙間は、第1領域の右側の縁と先行車との隙間より小さい。このため、第1領域の左側の縁と先行車との隙間が第1領域の右側の縁と先行車との隙間と同じとされる場合と比べて、先行車より左側の領域の視認性を向上し得、歩道等に設けられる標識等の視認性を向上し得る。
【0015】
以上のように本発明によれば、他車両の乗員の眩惑を抑制しつつ、前方の視認性を向上し得る車両用前照灯を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施形態における車両用前照灯を備える車両を概念的に示す平面図である。
【
図2】
図1に示す一方の灯具を概略的に示す側面図である。
【
図3】
図2に示す配光パターン形成部を概略的に示す正面図である。
【
図4】本実施形態における制御部の制御フローチャートの一例を示す図である。
【
図6】検出装置によって先行車が検出された際に出射される光の配光パターンの一例を示す図である。
【
図7】
図6に示す配光パターンにおける所定の領域を含む部位を拡大して示す図である。
【
図8】検出装置によって対向車が検出された際に出射される光の配光パターンの一例を示す図である。
【
図9】
図8に示す配光パターンにおける所定の領域を含む部位を拡大して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る車両用前照灯を実施するための形態が添付図面とともに例示される。以下に例示する実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、以下の実施形態から変更、改良することができる。また、上記添付図面では、理解を容易にするために各部材の寸法が誇張して示されている場合がある。
【0018】
図1は、本実施形態における車両用前照灯を備える車両を概念的に示す平面図である。
図1に示すように、本実施形態の車両用前照灯1は自動車用の前照灯とされ、左右一対の灯具10と、制御部COと、検出装置20と、判定部25と、一対の電源回路30と、メモリMEと、を主な構成として備える。なお、本明細書において「右」とは車両100の運転者の視点における右側を意味し、「左」とは車両100の運転者の視点における左側を意味する。
【0019】
本実施形態では、一対の灯具10は、車両100の左右方向において互いに概ね対称な形状とされ、出射する光の配光パターンを変更可能に構成される。また、一方の灯具10の構成は、形状が概ね対称であることを除いて、他方の灯具10の構成と同じとされる。このため、以下では、一方の灯具10について説明し、他方の灯具10についての説明は省略する。
【0020】
図2は、
図1に示す一方の灯具10を概略的に示す側面図である。
図2に示すように、灯具10は、灯具ユニット11と、筐体16とを主な構成として備える。なお、
図2において、筐体16は鉛直断面にて示されている。
【0021】
筐体16は、ランプハウジング17、フロントカバー18及びバックカバー19を主な構成として備える。ランプハウジング17の前方は開口しており、当該開口を塞ぐようにフロントカバー18がランプハウジング17に固定されている。また、ランプハウジング17の後方には前方よりも小さな開口が形成されており、当該開口を塞ぐようにバックカバー19がランプハウジング17に固定されている。
【0022】
ランプハウジング17と、当該ランプハウジング17の前方の開口を塞ぐフロントカバー18と、当該ランプハウジング17の後方の開口を塞ぐバックカバー19とによって形成される空間は灯室10Rであり、この灯室10R内に灯具ユニット11が収容されている。灯具ユニット11は、配光パターン形成部12と、投影レンズ15とを主な構成として備える。
【0023】
図3は、
図2に示す配光パターン形成部12を概略的に示す正面図である。
図2、
図3に示すように、本実施形態の配光パターン形成部12は、光を出射する複数の発光素子13と、複数の発光素子13が実装される回路基板14とを有する。複数の発光素子13は、マトリックス状に配置されて上下方向及び左右方向に列を形成し、前方に向かって光を出射する。本実施形態では、これら発光素子13はLED(Light Emitting Diode)とされ、配光パターン形成部12は所謂LEDアレイである。なお、発光素子13の数、発光素子13の列の数、それぞれの発光素子13の列における発光素子13の数、発光素子13が配列される方向、発光素子13の種類は特に限定されるものではない。
【0024】
このような配光パターン形成部12は、光を出射させる発光素子13を選択することで所定の配光パターンを形成することができる。また、配光パターン形成部12は、それぞれの発光素子13から出射する光の強度を調節することで所定の配光パターンにおける光の強度分布を調節することができる。
【0025】
投影レンズ15は、入射する光の発散角を調節するレンズである。投影レンズ15は、配光パターン形成部12よりも前方に配置され、配光パターン形成部12から出射する光が入射し、この光の発散角が投影レンズ15で調節される。本実施形態では、投影レンズ15は、入射面及び出射面が凸状に形成されたレンズとされ、投影レンズ15の後方焦点は、配光パターン形成部12におけるいずれかの発光素子13の光の出射面上またはその近傍に位置している。配光パターン形成部12から出射する光の発散角がこの投影レンズ15で調節され、フロントカバー18を介して灯具10から車両100の前方へ向けて所定の配光パターンの光が出射する。
【0026】
制御部COは、例えば、マイクロコントローラ、IC(Integrated Circuit)、LSI(Large-scale Integrated Circuit)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)などの集積回路やNC(Numerical Control)装置からなる。また、制御部COは、NC装置を用いた場合、機械学習器を用いたものであってもよく、機械学習器を用いないものであってもよい。後述するように、制御部COは、一対の灯具10を制御する。
【0027】
制御部COには、車両100が備えるライトスイッチ35が接続されている。本実施形態のライトスイッチ35は、光の出射または非出射を選択するスイッチである。例えば、ライトスイッチ35は、ライトスイッチ35がオンの場合には制御部COに光の出射を示す信号を出力し、ライトスイッチ35がオフの場合には制御部COに信号を出力しない。
【0028】
検出装置20は、車両100の前方に位置する他車両を検出する。本実施形態では、検出装置20は、他車両を検出する場合に、他車両の検出を示す信号を、判定部25を介して制御部COに出力する。また、検出装置20は、検出される他車両の状態も検出し、当該他車両の状態を示す信号を、判定部25を介して制御部COに出力する。なお、検出装置20は、これら信号を制御部COに直接出力してもよい。他車両の状態として、例えば、車両100に対する当該他車両の位置、他車両が先行車であるか対向車であるか、車両100から他車両までの距離等が挙げられる。検出装置20は、例えば、図示しないカメラ、検出部等を備える。カメラは、車両100の前部に取り付けられ、所定の時間間隔、例えば1/30秒間隔で車両100の前方を撮影する。カメラによって撮影される撮影画像には、一対の灯具10から出射する光が照射される領域の少なくとも一部が含まれる。検出部は、カメラによって撮影された撮影画像から、車両100の前方に位置する他車両の検出、及び当該他車両の状態の検出をする。
【0029】
例えば、検出部は、対向車の前照灯から出射される光に基づいて対向車の存在、車両100に対する当該対向車の位置を検出し、先行車の尾灯から出射される光に基づいて先行車の存在、車両100に対する当該先行車の位置を検出する。具体的には、検出部は、撮影画像に左右方向に所定の間隔をあけて位置する所定の輝度より高い輝度を有する白色系の一対の光点がある場合には、白色系の一対の光点が対向車の前照灯からの光に対応するものとして、他車両の検出を示す信号及び他車両が対向車であることを示す信号を判定部25に出力する。なお、検出部は、他車両が対向車であることを示す信号が他車両の検出を含むものとして、他車両が対向車であることを示す信号を出力してもよい。また、検出部は、撮影画像における白色系の一対の光点の位置、白色系の一対の光点間の距離等に基づいて、例えば、車両100から対向車までの距離を演算する。そして、検出部は、車両100に対する対向車の位置の情報としての撮影画像における白色系の一対の光点の位置を示す信号、及び演算した車両100から対向車までの距離を示す信号を判定部25に出力する。また、検出部は、撮影画像に左右方向に所定の間隔をあけて位置する所定の輝度より高い輝度を有する赤色系の一対の光点がある場合には、赤色系の一対の光点が先行車の尾灯からの光に対応するものとして、他車両の検出を示す信号及び他車両が先行車であることを示す信号を判定部25に出力する。なお、検出部は、他車両が先行車であることを示す信号が他車両の検出を含むものとして、他車両が先行車であることを示す信号を出力してもよい。また、検出部は、赤色系の一対の光点の位置、赤色系の一対の光点間の距離等に基づいて、例えば、車両100から先行車までの距離を演算する。そして、検出部は、車両100に対する先行車の位置の情報としての撮影画像における赤色の一対の光点の位置を示す信号、及び演算した車両100から先行車までの距離を示す信号を判定部25に出力する。また、検出部は、撮影画像に左右方向に所定の間隔をあけて位置する所定の輝度より高い輝度を有する一対の光点がない場合には、信号を出力しない。検出部の構成として、例えば、制御部COと同様の構成が挙げられ、カメラとして、例えば、CCD(Charged coupled device)カメラが挙げられる。
【0030】
なお、検出装置20の構成、検出装置20による他車両の検出方法、車両100から他車両までの距離の演算方法、対向車と先行車との識別方法は、特に限定されるものではない。例えば、検出装置20は、カメラによって撮影された撮影画像に画像処理を施し、この画像処理によって得られる情報に基づいて、カメラによって撮影された撮影画像に上記の一対の光点があるかないかを判断してもよい。また、検出装置20は、車両100の前方に位置する物体を検出可能なミリ波レーダやライダー等を更に備え、カメラによって撮像された撮影画像と、ミリ波レーダやライダー等から入力される信号に基づいて、車両100の前方に位置する他車両の検出、及び当該他車両の状態の検出をしてもよい。
【0031】
判定部25は、車両100の前方に位置する他車両を検出する検出装置20からの他車両の状態を示す信号を基に、検出された他車両が所定の要件を満たす状態か否かを判定する。所定の要件として、例えば、他車両と車両100との間の距離が所定の距離未満であること、対向車の前照灯が点灯していること、先行車の尾灯が点灯していること、これらの要件の少なくとも2つを満たすことなどが挙げられる。本実施形態の所定の要件は他車両と車両100との間の距離が所定の距離未満であることとされ、所定の距離は、例えば100mである。なお、この所定の距離は、他車両が先行車である場合と他車両が対向車である場合とで異なっていてもよい。本実施形態の判定部25は、他車両が所定の要件を満たす状態であるとともに検出装置20から他車両が先行車である信号が入力される場合には、他車両の状態を示す信号として、他車両が先行車であることを示す信号、車両100から先行車までの距離、及び車両100に対する先行車の位置の情報としての撮影画像における赤色系の一対の光点の位置を示す信号を制御部COに出力する。また、判定部25は、他車両が所定の要件を満たす状態であるとともに検出装置20から他車両が対向車である信号が入力される場合には、他車両の状態を示す信号として、他車両が対向車であることを示す信号、車両100から対向車までの距離、及び車両100に対する対向車の位置の情報としての撮影画像における白色系の一対の光点の位置を示す信号を制御部COに出力する。また、判定部25は、他車両が所定の要件を満たさない場合、及び検出装置20から判定部25に信号が入力されない場合には、制御部COに信号を出力しない。このため、判定部25による判定とは、このように検出装置20から入力される信号に応じて場合分けをして出力する信号を変化させることと理解できる。
【0032】
一方の電源回路30は一方の灯具10に対応し、他方の電源回路30は他方の灯具10に対応している。それぞれの電源回路30は、制御部COから入力する信号に基づいて、図示しない電源から灯具10の配光パターン形成部12におけるそれぞれの発光素子13に供給される電力を調整して、それぞれの発光素子13から出射する光の強度を調節する。なお、電源回路30は、PWM(Pulse Width Modulation)制御によってそれぞれの発光素子13に供給される電力を調整してもよい。この場合、デューティーサイクルを調節することによって、それぞれの発光素子13から出射する光の強度が調節される。
【0033】
メモリMEは、例えば非一過性(non-transitory)の記録媒体であり、RAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)等の半導体記録媒体が好適であるが、光学式記録媒体や磁気記録媒体等の任意の形式の記録媒体を包含し得る。なお、「非一過性」の記録媒体とは、一過性の伝搬信号(transitory, propagating signal)を除く全てのコンピュータ読み取り可能な記録媒体を含み、揮発性の記録媒体を除外するものではない。メモリMEには、灯具10から出射する光によって形成される配光パターンに関する情報と検出装置20によって検出される他車両の情報とが関連付けられたテーブルが記憶される。テーブルにおける灯具10から出射する光によって形成される配光パターンに関する情報として、例えば、灯具10の配光パターン形成部12におけるそれぞれの発光素子13に供給される電力が挙げられる。また、テーブルにおける検出装置20によって検出される他車両の情報として、例えば、他車両が先行車であるか対向車であるかの情報、車両100から他車両までの距離、及び車両100に対する他車両の位置の情報としての撮影画像における一対の光点の位置の情報が挙げられる。また、メモリMEには、灯具10から出射する光によってハイビームの配光パターンを形成する際のそれぞれの発光素子13に供給される電力に関する情報も格納されている。
【0034】
次に、本実施形態の車両用前照灯1の動作について説明する。具体的には、検出装置20によって検出される他車両に応じて出射する光の配光パターンを変化させる動作について説明する。
図4は、本実施形態における制御部COの制御フローチャートの一例を示す図である。
図4に示すように、本実施形態の制御フローは、ステップSP11~ステップSP15を含んでいる。
【0035】
(ステップSP11)
まず、制御部COは、ライトスイッチ35から光の出射を示す信号が入力するか否かを判断する。この信号が制御部COに入力される場合、制御部COは制御フローをステップSP12に進める。一方、この信号が制御部COに入力されない場合、制御部COは制御フローをステップSP15に進める。このため、制御部COの判断とは、このように入力する信号に応じて場合分けをして次に進むステップを変更することと理解できる。
【0036】
(ステップSP12)
本ステップでは、制御部COは、判定部25から入力する信号に基づいて、検出装置20によって他車両が検出されるとともに当該他車両が所定の要件を満たす状態であるか否かを判断する。上記のように、検出装置20は、他車両を検出する場合に、他車両の検出を示す信号を、判定部25を介して制御部COに出力する。また、判定部25は、検出装置20によって検出された他車両が所定の要件を満たす状態である場合には、他車両の状態を示す信号を制御部COに出力する。このため、制御部COは、他車両の検出を示す信号と当該他車両の状態を示す信号とが判定部25から入力する場合には、他車両が所定の要件を満たす状態であると判断して、制御フローをステップSP14に進める。なお、この場合、制御部COには、車両100から他車両までの距離、車両100に対する他車両の位置の情報としての撮影画像における一対の光点の位置を示す信号も入力される。
【0037】
一方、制御部COは、他車両の状態を示す信号が判定部25から入力しない場合には、他車両が所定の要件を満たさない状態であると判断して、制御フローをステップSP13に進める。なお、検出装置20によって他車両が検出されない場合、判定部25には他車両の状態を示す信号が入力されず、制御部COには他車両の検出を示す信号が入力されない。このため、このような場合も、制御フローはステップSP13に進むことになる。
【0038】
(ステップSP13)
本ステップでは、制御部COは、車両用前照灯1からハイビームが出射するように、灯具10を制御する。具体的には、制御部COは、メモリMEに記憶される情報を参照し、ハイビームの配光パターンにおけるそれぞれの発光素子13に供給される電力に基づく信号を電源回路30に出力する。電源回路30は、この信号に基づいて、図示しない電源からそれぞれの発光素子13に電力を供給する。このため、車両用前照灯1からハイビームが出射する。そして、制御部COは、制御フローをステップSP11に戻す。
【0039】
図5は、ハイビームの配光パターンを示す図である。
図5において、Sは水平線を示し、Vは車両100の左右方向の中心を通る鉛直線を示し、車両100の25m前方に配置された仮想鉛直スクリーン上に形成されるハイビームの配光パターンPHが太線で示される。本実施形態では、
図5に示すように、車両100の走行車線DLの右側に対向車線OLが位置しており、車両100は左側通行とされている。ハイビームの配光パターンPHにおける光の強度が最も高い領域であるホットゾーンは、水平線Sと鉛直線Vとの交点上またはその近傍に位置している。ハイビームの配光パターンPHにおける光の強度は、このホットゾーンから外方へ向かって遠ざかるほど低くなっている。なお、
図5には、後述する所定の領域210,310が点線で示されている。
【0040】
(ステップSP14)
本ステップでは、制御部COは、車両用前照灯1から出射する光の配光パターンが検出装置20で検出された他車両に応じた配光パターンとなるように、灯具10を制御する。具体的には、制御部COは、判定部25から入力される他車両の状態を示す信号である他車両が先行車であるか対向車であるかを示す信号、車両100から先行車までの距離、撮影画像における一対の光点の位置を示す信号に基づいて、メモリMEに記憶されたテーブルを参照する。そして、制御部COは、これらの他車両に関する情報に応じた配光パターンにおけるそれぞれの発光素子13に供給される電力に基づく信号を電源回路30に出力する。電源回路30は、この信号に基づいて、電源からそれぞれの発光素子13に電力を供給し、車両用前照灯1からこれらの他車両に関する情報に応じた配光パターンの光が出射する。そして、制御部COは、制御フローをステップSP11に戻す。
【0041】
図6は、検出装置20によって先行車が検出された際に出射される光の配光パターンの一例を示す図である。
図6において、Sは水平線を示し、Vは車両100の左右方向の中心を通る鉛直線を示し、車両100の25m前方に配置された仮想鉛直スクリーン上に形成される配光パターン200が太線で示される。本実施形態では、配光パターン200は、ハイビームの配光パターンPHにおける所定の領域210における光の強度が低くされた配光パターンである。このため、配光パターン200における所定の領域210に照射される灯具10からの光の全光束量は、ハイビームの配光パターンPHにおける所定の領域210より少ない。また、配光パターン200における所定の領域210内では、光の強度は概ね一定とされ、所定の強度より低い。また、配光パターン200における所定の領域210以外での光の強度分布は、ハイビームの配光パターンPHにおける所定の領域210以外での光の強度分布と概ね同じとされる。このため、配光パターン200における所定の領域210以外の領域は、灯具10からの光の全光束量が減少されていない領域であると理解できる。
【0042】
図7は、
図6に示す配光パターン200における所定の領域210を含む部位を拡大して示す図である。
図7に示すように、この所定の領域210は、検出装置20によって検出された先行車80の一部を左右方向に横切っている。この所定の領域210は、先行車80における尾灯81より上方の部位と重なっている。本実施形態では、所定の領域210は、第1領域211と第2領域212とを有する。なお、
図7において、第1領域211と第2領域212との境界が点線で示されている。また、先行車80の左右方向の中心を通る鉛直線80Vが一点鎖線で示されてる。第1領域211は、先行車80の一部を左右方向に横切っている。この第1領域211は、サイドミラー82及びリアウインド83のそれぞれの全体と重なっている。なお、サイドミラー82及びリアウインド83は、先行車80における運転者が車外である後方を視認する視認部である。第1領域211の下方側の縁211Uは、概ね左右方向に直線状に延在している。第2領域212は、第1領域211の下方側の縁211Uに接続して左右方向に帯状に延在しており、所定の領域210のうち最も下方に位置している。第2領域212の下方側の縁212Uは、概ね左右方向に直線状に延在している。第2領域212における左右方向の一方側の縁である右側の縁212Rは、第1領域211の右側の縁211Rより先行車80側に位置する。第2領域212における左右方向の他方側の縁である左側の縁212Lは、第1領域211の左側の縁211Lより先行車80側に位置している。このため、第1領域211の左右方向の幅W211は、第2領域212における左右方向の幅W212より大きい。また、第1領域211の左側の縁211Lから先行車80までの幅W21Lは、第1領域211の右側の縁212Rから先行車80までの幅W21Rより小さい。なお、これら幅W21L,W21Rは概ね同じとされてもよく、幅W21Lは幅W21Rより大きくされてもよい。
【0043】
また、第1領域211の左側の縁211Lから第2領域212の左側の縁212Lまでの幅WLaと第1領域211の右側の縁211Rから第2領域212の右側の縁212Rまでの幅WRaとは概ね同じである。また、第2領域212の左側の縁212Lと鉛直線80Vまでの幅WLbは、第2領域212の右側の縁212Rと鉛直線80Vまでの幅WRbより小さい。なお、幅WLaは幅WRaよりも大きくてもよく、幅WLaは幅WRaよりも小さくてもよい。また、幅WLbは幅WRbよりも大きくてもよく、幅WLbと幅WRbとは概ね同じでもよい。また、第2領域212の左右方向における両側の縁212R,212Lは先行車80と重ならず、第2領域212は先行車80を横切っている。
【0044】
本実施形態では、車両100から先行車80までの距離に応じて、第1領域211の幅W211及び第2領域212の幅W212が変化し、車両100から先行車80まで距離が遠いほどこれらの幅W211,W212が小さくなる。また、車両100に対する先行車80の位置に応じて、第1領域211及び第2領域212の位置が一体的に変化する。本実施形態では、このような配光パターン200が形成されるように、メモリMEに記憶されるテーブルが構成されている。
【0045】
なお、先行車80の種類によって車体における運転者が車外である後方を視認するサイドミラー82及びリアウインド83の位置は異なる。しかし、一般的に、これら後方を視認する視認部は、先行車80の尾灯81より上方の領域に位置し、尾灯81と後方を視認する視認部との間には上下方向で隙間が形成される。前述のように、検出装置20は、先行車80の尾灯81の位置を検出できる。このため、先行車80のこれら後方を視認する視認部を検出しなくても、先行車80の尾灯81の位置に応じた所定の領域210を有する配光パターン200を形成するためのそれぞれの発光素子13に供給される電力に関する情報を予めメモリMEに記憶させておくことで、上記のような配光パターン200を形成できる。
【0046】
図8は、検出装置20によって対向車が検出された際に出射される光の配光パターンの一例を示す図である。
図8において、Sは水平線を示し、Vは車両100の左右方向の中心を通る鉛直線を示し、車両100の25m前方に配置された仮想鉛直スクリーン上に形成される配光パターン300が太線で示される。本実施形態では、配光パターン300は、ハイビームの配光パターンPHにおける所定の領域310における光の強度が低くされた配光パターンである。このため、配光パターン300における所定の領域310に照射される灯具10からの光の全光束量は、ハイビームの配光パターンPHにおける所定の領域310より少ない。また、配光パターン300における所定の領域310内では、光の強度は概ね一定とされ、所定の強度より低い。また、配光パターン300における所定の領域310以外での光の強度分布は、ハイビームの配光パターンPHにおける所定の領域310以外での光の強度分布と概ね同じとされる。このため、配光パターン300における所定の領域310以外の領域は、灯具10からの光の全光束量が減少されていない領域であると理解できる。
【0047】
図9は、
図8に示す配光パターン300における所定の領域310を含む部位を拡大して示す図である。
図9に示すように、この所定の領域310は、検出装置20によって検出された対向車90の一部を左右方向に横切っており、対向車90における前照灯91より上方の部位が所定の領域310と重なっている。本実施形態では、所定の領域310は、先行車80が検出された場合における所定の領域210と同様に、第1領域311と第2領域312とを有する。なお、
図8において、第1領域311と第2領域312との境界が点線で示されている。また、対向車90の左右方向の中心を通る鉛直線90Vが一点鎖線で示されてる。第1領域311は、対向車90の一部を左右方向に横切っている。この第1領域311は、対向車90における運転者が車外である前方を視認する視認部としてのフロントウインド93の全体と重なっている。第1領域311の下方側の縁311Uは、概ね左右方向に直線状に延在している。第2領域312は、第1領域311の下方側に接続して左右方向に帯状に延在しており、所定の領域310のうち最も下方に位置している。第2領域312の下方側の縁312Uは、概ね左右方向に直線状に延在している。第2領域312の右側の縁312Rは、第1領域311の右側の縁311Rより対向車90側に位置し、第2領域312の左側の縁312Lは、第1領域311の左側の縁311Lより対向車90側に位置している。このため、第1領域311の左右方向の幅W311は、第2領域312における左右方向の幅W312より大きい。また、第1領域311の右側の縁311Rから対向車90までの幅W31Rが、第1領域311の左側の縁311Lから対向車90までの幅W31Lより大きい。なお、これら幅W31L,W31Rは概ね同じとされてもよく、幅W31Rは幅W31Lより小さくされてもよい。
【0048】
また、第1領域311の左側の縁311Lから第2領域312の左側の縁312Lまでの幅WLaと第1領域311の右側の縁311Rから第2領域312の右側の縁312Rまでの幅WRaとは概ね同じである。また、第2領域312の左側の縁312Lから鉛直線90Vまでの幅WLbは、第2領域312の右側の縁312Rから鉛直線80Vまでの幅WRbより小さい。なお、幅WLaは幅WRaよりも大きくてもよく、幅WLaは幅WRaよりも小さくてもよい。また、幅WLbは幅WRbよりも大きくてもよく、幅WLbと幅WRbとは概ね同じでもよい。また、第2領域312の左右方向における両側の縁312R,312Lは対向車90と重ならず、第2領域312は対向車90を横切っている。
【0049】
本実施形態では、車両100から検出装置20によって検出された対向車90までの距離に応じて、第1領域311の幅W311及び第2領域312の幅W312が変化し、車両100から対向車90まで距離が遠いほどこれらの幅W311,W312が小さくなる。また、車両100に対する対向車90の方向に応じて、第1領域311及び第2領域312の位置が一体的に変化するとともに、これらの幅W311,W312が変化する。本実施形態では、このような配光パターン300が形成されるように、メモリMEに記憶されるテーブルが構成されている。なお、車両100から対向車90まで距離が近いほど第1領域311における右側の縁311Rから対向車90までの幅W31Rが大きくされてもよい。
【0050】
なお、対向車90の種類によって車体における運転者が車外である前方を視認するフロントウインド93の位置は異なる。しかし、一般的に、前方を視認する視認部は、対向車90の前照灯91より上方の領域に位置し、前照灯91と前方を視認する視認部との間には上下方向で隙間が形成される。前述のように、検出装置20は、対向車90の前照灯91の位置を検出できる。このため、対向車90の前方を視認する視認部を検出しなくても、対向車90の前照灯91の位置に応じた所定の領域310を有する配光パターン300を形成するためのそれぞれの発光素子13に供給される電力に関する情報を予めメモリMEに記憶させておくことで、上記のような配光パターン300を形成できる。
【0051】
(ステップSP15)
本ステップでは、ライトスイッチ35から制御部COに信号は入力されていない。このため、ライトスイッチ35がオフの状態である。制御部COは、電源回路30に所定の信号を出力して、電源回路30にそれぞれの発光素子13への電力の供給を停止させ、車両用前照灯1からの光を非出射とし、制御フローをステップSP11に戻す。
【0052】
このように、車両用前照灯1から出射する光の配光パターンは、検出装置20によって検出される先行車80または対向車90に応じて変化される。なお、制御部COの制御フローは特に限定されるものではない。
【0053】
以上説明したように、本実施形態の車両用前照灯1は、灯具10と、制御部COと、を備える。灯具10は、出射する光の配光パターンを変更可能である。制御部COは、検出装置20から車両100の前方に位置する他車両の検出を示す信号が入力する場合に、ハイビームの配光パターンPHにおける他車両の一部を左右方向に横切る第1領域211,311及び第1領域211,311の下方側に接続して左右方向に延在する第2領域212,312に照射される灯具10からの光の全光束量が少なくなるように灯具10を制御する。また、制御部COは、車両100に対する他車両の位置に応じて第1領域211,311及び第2領域212,312の左右方向の幅W211,W311,W212,W312の幅が変化するように、灯具10を制御する。第1領域211,311は、他車両の一部を左右方向に横切り他車両における運転者が車外を視認する視認部の全体と重なる。第2領域212,312における左右方向の両側の縁212R,212L,312R,312Lは、第1領域211,311における左右方向の両側の縁211R,211L,311R,311Lより他車両の中心側に位置する。
【0054】
本実施形態の車両用前照灯1では、車両100に対する他車両の位置に応じて、灯具10からの光の全光束量が減少された第1領域211,311及び第2領域212,312の幅W211,W311,W212,W312が変化される。このため、本実施形態の車両用前照灯1によれば、車両100に対する他車両の位置に応じて、他車両と灯具10からの光の全光束量が減少されていない領域との間に適切な隙間を確保することができ、他車両の乗員が眩惑することを抑制できる。また、本実施形態の車両用前照灯1では、第1領域211,311は他車両における運転者が車外を視認する視認部の全体と重なる。この第1領域211,311の下方側に接続して左右方向に延在する第2領域212,312の左右方向の幅W212,W312は、第1領域211,311の左右方向の幅W211,W311より小さい。このため、本実施形態の車両用前照灯1によれば、灯具10からの光の全光束量が減少された領域の左右方向の幅が第2領域212,312の左右方向の幅W212,W312と同じで上下方向に一定である場合と比べて、第1領域211,311によって他車両における視認部と灯具10からの光の全光束量が減少されていない領域との間に適切な隙間を確保でき、他車両の乗員の眩惑を抑制し得る。また、本実施形態の車両用前照灯1によれば、灯具10からの光の全光束量が減少された領域の左右方向の幅が第1領域211,311の左右方向の幅W211,W311と同じで上下方向に一定である場合と比べて、他車両の視認部より下方において他車両と灯具10からの光の全光束量が減少されていない領域との間の隙間を小さくでき、前方の視認性を向上し得る。
【0055】
なお、他車両の乗員の眩惑を抑制する観点では、第1領域211,311及び第2領域212,312には、灯具10からの光が照射されなくてもよい。しかし、前方の視認性を向上する観点では、第1領域211,311及び第2領域212,312には、灯具10からの光が照射されることが好ましい。
【0056】
また、本実施形態の車両用前照灯1では、他車両が対向車90である場合、
図9に示すように、第1領域311の右側の縁311Rから対向車90までの幅W31Rが、第1領域311の左側の縁311Lから対向車90までの幅W31Lより大きい。本実施形態では、車両100は左側通行であるため、第1領域311の右側の縁311Rは、左右方向における車両100の走行車線DL側と反対側に位置し、第1領域311の左側の縁311Lは、走行車線DL側に位置している。そして、第1領域311の右側の縁311Rと対向車90との隙間は、第1領域311の左側の縁311Lと対向車90との隙間より大きい。ここで、車両100の進行方向と当該車両100から対向車90に向かう方向とのなす角度は、対向車90が車両100に近づくほど大きくなり、車両100が左側通行である国や地域では、車両100の運転者の視界において対向車90は右方向に移動する。このため、上記のような構成にすることで、第1領域311の左側の縁311Lと対向車90との隙間が第1領域311の右側の縁311Rと対向車90との隙間と同じとされる場合と比べて、対向車90の乗員の眩惑を適切に抑制し得る。
【0057】
また、本実施形態の車両用前照灯1は、検出装置20からの情報を基に、他車両が所定の要件を満たす状態であるか否かを判定する判定部25を更に備える。この所定の要件は、他車両と車両100との距離が所定の距離未満であることであり、制御部COは、判定部25によって他車両が所定の要件を満たす状態であると判定される場合に、上記のように灯具10を制御する。他車両と車両100との距離が大きくなると他車両の乗員の眩惑が生じにくくなる傾向にある。このため、本実施形態の車両用前照灯1によれば、他車両の乗員の眩惑が生じにくい場合においてハイビームの配光パターンPHが変化することを抑制し得る。なお、制御部COは、判定部25の判定に関係なく、検出装置20から他車両の検出を示す信号が入力する場合に、上記のように灯具10を制御してもよく、車両用前照灯1が判定部25を備えなくてもよい。この場合、例えば、検出装置20は、他車両を検出する場合に、他車両の検出を示す信号と当該他車両の状態を示す信号を直接制御部COに出力する。
【0058】
なお、本実施形態とは異なり、車両が左側通行である国や地域では、車両100の走行車線DLの左側に対向車線OLが位置する。このため、このような場合、第1領域311の左側の縁311Lから対向車90までの幅W31Lが、第1領域311の右側の縁311Rから対向車90までの幅W31Rより大きくすることで、対向車90の乗員の眩惑を適切に抑制し得る。つまり、第1領域311における左右方向の走行車線DL側と反対側の縁から対向車90までの幅が、第1領域311における左右方向の走行車線DL側の縁から対向車90までの幅より大きくすることで、対向車90の乗員の眩惑を適切に抑制し得る。
【0059】
また、本実施形態の車両用前照灯1では、他車両が先行車80である場合、
図7に示すように、第1領域211の左側の縁211Lから先行車80までの幅W21Lが、第1領域211の右側の縁211Rから先行車80までの幅W21Rより小さい。本実施形態では、車両100は左側通行であるため、第1領域211の左側の縁211Lは対向車線OL側と反対側に位置し、第1領域211の右側の縁211Rは対向車線OL側に位置している。そして、第1領域211の左側の縁211Lと先行車80との隙間は、第1領域211の右側の縁211Rと先行車80との隙間より小さい。このため、第1領域211の左側の縁211Lと先行車80との隙間が第1領域211の右側の縁211Rと先行車80との隙間と同じとされる場合と比べて、先行車80より左側の領域の視認性を向上し得、歩道等に設けられる標識等の視認性を向上し得る。
【0060】
なお、本実施形態とは異なり、車両が右側通行である国や地域では、車両100の走行車線DLの左側に対向車線OLが位置する。このため、このような場合、第1領域211の右側の縁211Rから先行車80までの幅W21Rが、第1領域211の左側の縁211Lから先行車80までの幅W21Lより小さくすることで、先行車80より右側の領域の視認性を向上し得、歩道等に設けられる標識等の視認性を向上し得る。つまり、第1領域211における左右方向の対向車線OL側と反対側の縁から先行車80までの幅が、第1領域211における左右方向の対向車線OL側の縁から先行車80までの幅より小さくすることで、先行車80より対向車線OL側と反対側の領域の視認性を向上し得、歩道等に設けられる標識等の視認性を向上し得る。
【0061】
また、本実施形態の車両用前照灯1では、他車両が先行車80である場合、
図7に示すように、第2領域212の左側の縁212Lから先行車80の中心を通る鉛直線80Vまでの幅WLbは、第2領域212の右側の縁212Rと鉛直線80Vまでの幅WRbより小さい。本実施形態では、車両100は左側通行である。このため、第2領域312における左右方向の対向車線OL側と反対側の縁212Lから鉛直線80Vまでの幅WLbは、第2領域312における左右方向の対向車線OL側の縁212Rから鉛直線80Vまでの幅WRbより小さい。このため、例えば、先行車80より対向車線OL側と反対側の領域の視認性を向上し得、先行車80の対向車線OL側と反対側に位置する歩行者や二輪車等を視認し易くし得る。なお、この観点では、上記のように、幅W21Lが幅W21Rより小さいことが好ましい。また、本実施形態とは異なり、車両が右側通行である国や地域では、幅WLbを幅WLbより小さくすることで、先行車80より対向車線OL側と反対側の領域の視認性を向上し得る。
【0062】
また、本実施形態の車両用前照灯1では、他車両が対向車90である場合、
図9に示すように、第2領域312の左側の縁312Lから対向車90の中心を通る鉛直線90Vまでの幅WLbは、第2領域312の右側の縁312Rと鉛直線90Vまでの幅WRbより小さい。本実施形態では、車両100は左側通行である。このため、第2領域312における左右方向の走行車線DL側の縁212Lから鉛直線80Vまでの幅WLbは、第2領域312における左右方向の走行車線DL側と反対側の縁312Rから鉛直線80Vまでの幅WLaより小さい。このため、例えば、対向車90より走行車線DL側の領域の視認性を向上し得、対向車90とのすれ違い走行がしにくくなることを抑制し得る。なお、この観点では、上記のように、幅W31Rが幅W31Lより大きい、つまり、幅W31Lが幅W31Rより小さいことが好ましい。また、本実施形態とは異なり、車両が右側通行である国や地域では、幅WLaを幅WLbより小さくすることで、対向車90より走行車線DL側の領域の視認性を向上し得る。
【0063】
また、本実施形態の車両用前照灯1では、
図7、
図9に示すように、第1領域211,311の左側の縁211L,311Lから第2領域212,312の左側の縁212L,312Lまでの幅WLaと第1領域211,311の右側の縁211R,311Rから第2領域212,312の右側の縁212R,312Rまでの幅WRaとは概ね同じである。このため、幅WLaと幅WRaが異なる場合と比べて、運転者が配光パターン200,300に違和感を覚えることを抑制し得る。
【0064】
また、本実施形態の車両用前照灯1では、
図7、
図9に示すように、上下方向において、他車両の視認部の全体と第2領域212,312とが重なっている。このため、例えば、上下方向において第2領域212,312が他車両の視認部の少なくとも一部と重ならない場合と比べて、車両100が上下に振動したり、他車両が上下に振動したりしたとしても、配光パターン200,300における第1領域211,311及び第2領域212,312以外の領域と他車両の視認部とが重なりにくくし得る。このため、他車両の乗員の眩惑をより適切に抑制し得る。
【0065】
以上、本発明について、上記実施形態を例に説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0066】
例えば、上記実施形態では、検出装置20によって検出される他車両に応じてハイビームの配光パターンPHを変化させる車両用前照灯を例に説明した。しかし、車両用前照灯は、検出装置20によって検出される他車両に応じて出射する光の配光パターンを変化させればよい。例えば、車両用前照灯は、検出装置20によって検出される他車両に応じてロービームの配光パターンを変化させてもよい。
【0067】
また、上記実施形態では、所謂LEDアレイである配光パターン形成部12を有する灯具10を例に説明した。しかし、灯具10は、出射する光の配光パターンを変更可能であればよく、特に限定されるものではない。例えば、灯具10の構成は、回転する反射板、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)、ガルバノミラー等の反射体を用いて光源から出射する光を走査させて所定の配光パターンを形成する構成であってもよい。この場合、反射体の傾きを調節したり光源から出射する光を調節したりすることで出射する光の配光パターンを変更できる。また、灯具10の構成は、LCOS(Liquid Crystal On Silicon)を用いて光源から出射する光を回折して所定の配光パターンを形成する構成であってもよい。この場合、LCOSにおける液晶の配向を調節することで出射する光の配光パターンを変更できる。
【0068】
また、上記実施形態では、所定の領域210,310以外での光の強度分布がハイビームの配光パターンPHにおける所定の領域210,310以外での光の強度分布と概ね同じとされる配光パターン200,300を例に説明した。しかし、検出装置20によって検出される他車両に応じて変更された配光パターン200,300における所定の領域210,310以外での光の強度分布は、他車両に応じて変更される前の配光パターンにおける所定の領域210,310以外での光の強度分布と異なっていてもよい。しかし、車両100の運転者が違和感を覚えることを抑制する観点では、所定の領域210,310以外での光の強度分布は、検出装置20によって検出される他車両に応じて概ね変化しないことが好ましい。
【0069】
また、上記実施形態では、他車両が先行車80である場合、第1領域211における左右方向の対向車線OL側と反対側の縁から先行車80までの幅が、第1領域211における左右方向の対向車線OL側の縁から先行車80までの幅より小さくされた。しかし、第1領域211における左右方向の対向車線OL側の縁から先行車80までの幅は、第1領域211における左右方向の対向車線OL側と反対側の縁から先行車80までの幅より小さくてもよい。この場合、例えば、本実施形態と同様に車両が左側通行である国や地域では、車両100の運転者から見て第1領域211の右側の縁211Rと先行車80との隙間は、第1領域211の左側の縁211Lと先行車80との隙間より小さくなる。このため、第1領域211の右側の縁211Rと先行車80との隙間が第1領域211の左側の縁211Lと先行車80との隙間と同じとされる場合と比べて、先行車80より右側の領域の視認性を向上し得る。したがって、このような車両用前照灯によれば、例えば、センターライン付近、或いは対向車線側の車線境界線付近にいる歩行者等を視認しやすくし得る。
【0070】
また、上記実施形態では、左右方向における両側の縁212R,212L,312R,312Lが他車両である先行車80や対向車90と重ならない第2領域212,312を例に説明した。しかし、第2領域212,312の右側の縁212R,312Rの少なくとも一部は、先行車80や対向車90と重なっていてもよく、第2領域212,312の左側の縁212L,312Lの少なくとも一部は、先行車80や対向車90と重なっていてもよい。このような構成にすることで、先行車80や対向車90の乗員が眩惑することを抑制しつつ先行車80や対向車90に照射される光量を増加し得、先行車80や対向車90の視認性を向上し得る。
【0071】
また、上記実施形態では、他車両である先行車80や対向車90の一部を左右方向に横切る所定の領域210,310を例に説明した。しかし、所定の領域210,310は、車両の前方に位置する他車両の少なくとも一部を左右方向に横切っていればよく、他車両の全体を左右方向に横切っていてもよい。また、所定の領域210,310の全周が配光パターン200,300における所定の領域210,310以外の領域によって囲まれていてもよい。また、所定の領域210,310における光の強度は、車両100から先行車80までの距離や車両100から対向車90までの距離に応じて変化してもよい。また、配光パターン200の所定の領域210における光の強度と配光パターン300の所定の領域310における光の強度とは互いに異なっていてもよく、同じであってもよい。また、第1領域211,311は、他車両の少なくとも一部を左右方向に横切り他車両における運転者が車外を視認する視認部の全体と重なっていればよい。第1領域211,311は、他車両の全体を左右方向に横切っていてもよい。また、第1領域211,311の左右方向の幅W211,W311及び第2領域212,312の左右方向の幅W212,W312は、上下方向において一定でなくもてもよい。この場合、例えば、上記の幅W211,W311,W212,W312,W21L,W21R,W31L,W31R,WLa,WLb,WRa,WRbの大きさは、最小の幅の大きさとする。
【0072】
また、上記実施形態では、先行車80の尾灯81からの光に基づいて先行車80を検出し対向車90の前照灯91からの光に基づいて対向車90を検出する検出装置20を例に説明した。しかし、検出装置20は、先行車80における視認部としてサイドミラー82、リアウインド83等を検出し、対向車90における視認部としてフロントウインド93を検出するものであってもよい。この場合、制御部COは、検出装置20によって検出されるこれら視認部の情報に基づいて、一対の灯具10を制御してもよい。
【0073】
本発明によれば、他車両の乗員の眩惑を抑制しつつ、前方の視認性を向上し得る車両用前照灯が提供され、自動車等の車両用前照灯などの分野において利用可能である。