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▶ アトメタル テック ピーティーイー エルティーディーの特許一覧

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-16
(45)【発行日】2024-05-24
(54)【発明の名称】コーティング体
(51)【国際特許分類】
   C22C 45/02 20060101AFI20240517BHJP
   C23C 24/08 20060101ALI20240517BHJP
   B23K 35/30 20060101ALI20240517BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20240517BHJP
   B22F 1/08 20220101ALI20240517BHJP
   C23C 4/06 20160101ALI20240517BHJP
【FI】
C22C45/02 Z
C23C24/08 B
B23K35/30 340C
B22F1/00 T
B22F1/08
C23C4/06
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2022526214
(86)(22)【出願日】2020-09-16
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-11
(86)【国際出願番号】 KR2020012499
(87)【国際公開番号】W WO2021091074
(87)【国際公開日】2021-05-14
【審査請求日】2022-05-06
(31)【優先権主張番号】10-2019-0140583
(32)【優先日】2019-11-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】521013873
【氏名又は名称】アトメタル テック ピーティーイー エルティーディー
【氏名又は名称原語表記】ATTOMETAL TECH PTE. LTD.
【住所又は居所原語表記】23-14P International Plaza 10 Anson Road Singapore 079903 Singapore
(74)【代理人】
【識別番号】100121382
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 託嗣
(72)【発明者】
【氏名】キム,チュンニョン ポール
【審査官】國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-067168(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108546908(CN,A)
【文献】特開2006-097132(JP,A)
【文献】特開2012-097353(JP,A)
【文献】特開2009-024256(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0159156(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2016-0107486(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 35/00-45/10
C23C 4/00- 6/00
C23C 24/00-30/00
B22F 1/00- 8/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材の表面に備えられた鉄系非晶質合金からなるコーティング層と、を含むコーティング体であって、
前記鉄系非晶質合金は、非晶質構造であって、鉄100重量部に対して、
クロム含量25.4~55.3重量部とモリブデン含量35.6~84.2重量部と炭素含量4~9.2重量部とからなりホウ素含量を含まないのであるか、または、
クロム含量25.4~55.3重量部とモリブデン含量35.6~84.2重量部とホウ素含量4~9.2重量部とからなり炭素含量を含まないのであり、
前記鉄系非晶質合金中の鉄の含量が、40.8~60.2重量%である鉄系非晶質合金粉末から提供される、コーティング体。
【請求項2】
前記コーティング層は、前記鉄系非晶質合金粉末を溶射コーティングして形成された、請求項1に記載のコーティング体。
【請求項3】
前記コーティング層の厚さは0.01~0.5mmであり、基材の厚さは少なくとも3mmである、請求項2に記載のコーティング体。
【請求項4】
前記合金粉末内の非晶質相の割合が90~100体積%である、請求項3に記載のコーティング体。
【請求項5】
前記合金粉末で溶射工程によってコーティング層を形成する場合、前記コーティング層の非晶質相の割合は90~100体積%である、請求項4に記載のコーティング体。
【請求項6】
前記鉄系非晶質合金のビッカース硬度は700~1,500Hv(0.2)である、請求項5に記載のコーティング体。
【請求項7】
前記鉄系非晶質合金の摩擦係数は、100Nの荷重で0.0005~0.08あり、1,000Nの荷重で0.01~0.12である、請求項6に記載のコーティング体。
【請求項8】
前記鉄系非晶質合金は、タングステン、コバルト、イットリウム、マンガン、シリコン、アルミニウム、ニオブ、ジルコニウム、リン、ニッケル、スカンジウム、チタン、銅、コバルト、カーボン及びこれらの混合物からなる群から選択されるものをさらに含む、請求項7に記載のコーティング体。
【請求項9】
前記基材は、金属、超硬合金、サーメット、セラミック、プラスチック及びファイバー複合材から選択される材質を有する、請求項1に記載のコーティング体。
【請求項10】
前記コーティング内には、ボライド、カーバイドが、それぞれ単独又はボライドとカーバイドの両方が含まれ、前記ボライド、カーバイドの総量は前記鉄100重量部に対して、3~8重量部含まれる、請求項1に記載のコーティング体。
【請求項11】
前記ボライドと前記カーバイドは、合金粉末のホウ素と炭素に由来したものである、請求項10に記載のコーティング体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコーティング体に関するものであって、より詳細には、基材の表面に鉄系非晶質合金粉末をコーティングすることにより、コーティング後にも非晶質構造の維持が可能であり、基材の耐久性、耐腐食性、摩擦に関するものである。
【背景技術】
【0002】
加工用道具をはじめとする様々な産業用及び家電用道具は、有効寿命及び耐摩耗性に関連して高い要求条件を満たす必要がある。このような物性を達成すべく、チタンのニトリド(nitride)、カーバイド及びカルボニトリド(carbonitride)をベースとしたコーティングが、長い間に耐摩耗層として使用されてきた。最近では、このようなコーティングに非晶質相合金を適用して、化学的、電気的及び機械的特性を改善しようとする試みがある。
【0003】
しかし、非晶質で作製された合金粉末で応用製品、例えば、非晶質合金粉末で溶射によってコーティング体を形成する場合、合金粉末が溶融した後、非結晶化ではなく結晶化が主になされることにより、非結晶質が有する特性を生かした応用製品の製造が難しくなる。この場合、製品のコーティング密度に劣り、耐腐食用途として使用する場合、異物が浸透するという問題点がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の一側面による目的は、基材及び上記基材の表面に備えられた鉄系非晶質合金からなるコーティング層を含むことにより、基材の耐久性、耐腐食性、摩擦特性、摩耗特性等を向上させることができるコーティング体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明の一側面は、基材と、上記基材の表面に備えられた鉄系非晶質合金からなるコーティング層と、を含むコーティング体であって、
上記鉄系非晶質合金は、非晶質構造であって、鉄、クロム及びモリブデンを主成分として含むコーティング体を提供する。
【0006】
ここで、上記鉄系非晶質合金は、鉄100重量部に対してクロム含量25.4~55.3重量部と、モリブデン含量35.6~84.2重量部とを含み、炭素とホウ素から選択された少なくとも1種以上をさらに含む鉄系非晶質合金粉末から提供されることがよく、上記コーティング層は、上記鉄系非晶質合金粉末を溶射コーティングして形成されたものがよく、上記コーティング層の厚さは0.01~0.5mmであり、基材の厚さは少なくとも3mmであることが好ましい。
【0007】
また、上記合金粉末内の非晶質相の割合が90~100体積%であることがよく、上記合金粉末を溶射工程でコーティング層を形成する場合、上記コーティング層の非晶質相の割合は90~100体積%であることがよい。さらに、上記鉄系非晶質合金のビッカース硬度は700~1,500Hv(0.2)であることがよく、上記鉄系非晶質合金の摩擦係数は、100Nの荷重で0.0005~0.08μであり、1,000Nの荷重で0.01~0.12μであることがよい。
【0008】
ここで、上記鉄系非晶質合金は、タングステン、コバルト、イットリウム、マンガン、シリコン、アルミニウム、ニオブ、ジルコニウム、リン、ニッケル、スカンジウム、チタン、銅、コバルト、カーボン及びこれらの混合物からなる群から選択されるものをさらに含むことがよく、上記基材は、金属、超硬合金、サーメット(cermet)、セラミック、プラスチック及びファイバー複合材から選択される材質を有することがよく、上記コーティング体内には、ボライド(boride)、カーバイドがそれぞれ単独又はボライドとカーバイドの両方が含まれ、上記ボライド、カーバイドの総量は、上記鉄100重量部に対して、3~8重量部含まれることが好ましく、上記ボライドと上記カーバイドは、合金粉末のホウ素と炭素に由来したものがよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の実施例に係るコーティング体によると、基材の表面に非晶質鉄系合金層をコーティングすることにより、コーティング後にも非晶質構造の維持が可能であり、基材の耐久性、耐腐食性、摩擦特性、摩耗特性等を改善させることができる。
【0010】
また、本発明の実施例に係るコーティング体は、高い非晶質形成能を有し、非晶質相の割合が高い鉄系非晶質合金粉末コーティング体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明に係るコーティング体にコーティング材料として使用される鉄系非晶質合金粉末のXRD(X線回折)グラフであって、(a)~(e)は、それぞれ実施例1、3、6、7、8の鉄系非晶質合金粉末に対するグラフである。
図2】比較例に係るコーティング体にコーティング材料として使用される鉄系合金粉末のXRDグラフであって、(a)~(c)は、比較例1、5、7の鉄系合金粉末に対するグラフである。
図3】本発明の実施例7に係るコーティング体にコーティング材料として使用される鉄系非晶質合金粉末(a)及びその断面(b)、並びに比較例7に係るコーティング体にコーティング材料として使用される鉄系合金粉末(c)及びその断面(d)をSEM分析した写真である。
図4】本発明に係るコーティング体に適用されたコーティング物試片のXRDグラフであって、(a)~(e)は、それぞれ実施例1、3、6、7、8の鉄系非晶質合金粉末を適用したコーティング物である実施例9、11、14、15、16の試片のXRDグラフである。
図5】比較例に係るコーティング体に適用されたコーティング物試片XRDグラフであって、(a)~(c)はそれぞれ比較例1、5、7の鉄系合金粉末を適用したコーティング物である比較例8、12、14の試片のXRDグラフである。
図6】本発明に係るコーティング体にコーティングされた鉄系非晶質合金粉末を用いた溶射コーティング物及び比較例に係るコーティング体にコーティングされた合金粉末を用いた溶射コーティング物の表面イメージであって、(a)~(c)はそれぞれ実施例1、7、8の非晶質合金粉末を用いた溶射コーティング物の表面イメージであり、(d)~(g)はそれぞれ比較例1、3、5、7の合金粉末を用いた溶射コーティング物の表面イメージである。
図7】本発明に係るコーティング体にコーティング材料として実施例1、3、6、8の鉄系非晶質合金粉末を用いた溶射コーティング物試片の断面を光学顕微鏡で観察したイメージ(倍率200倍)であって、(a)~(d)はそれぞれ実施例9、11、14、16試片の断面を観察したイメージである。
図8】比較例1、4、7に係るコーティング体にコーティング材料として合金粉末を用いた溶射コーティング物試片の断面を光学顕微鏡で観察したイメージ(倍率200倍)であって、(a)~(c)はそれぞれ比較例8、11、14の試片の断面を観察したイメージである。
図9】本発明に係るコーティング体にコーティング材料として実施例2、4、7の鉄系非晶質合金粉末を用いた溶射コーティング物試片の非腐食/腐食した断面を光学顕微鏡で観察したイメージ(倍率200倍)であって、(a)~(c)はそれぞれ実施例10、12、15試片の観察イメージである。
図10】比較例2、4、6に係るコーティング体にコーティング材料として用いた溶射コーティング物試片の非腐食/腐食した断面を光学顕微鏡で観察したイメージ(倍率200倍)であって、(a)~(c)はそれぞれ比較例8、11、13の試片の観察イメージである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
ここで、1)添付の図面に示される形状、大きさ、割合、角度、個数等は、概略的なものに多少変更することができる。2)図面は、観察者の視線で示されているため、図面を説明する方向や位置は観察者の位置に応じて多様に変更することができる。3)図面の番号が異なっても、同一の部分については同一の符号を使用することができる。
【0013】
4)「含む、有する、なる」などが使用される場合、「~のみ」が使用されない限り、他の部分を追加することができる。5)単数として説明される場合は、多数として解釈することもできる。6)形状、大きさの比較、位置関係などが「約、実質的」などとして説明されていなくても、通常の誤差範囲が含まれるように解釈される。
【0014】
7)「~後、~前、次いで、後続して、このとき」などの用語が使用されていても、時間的位置を限定する意味としては使用されない。8)「第1、第2、第3」などの用語は、単に区分の便宜上、任意選択的、交換的、又は反復的に使用され、限定的な意味として解釈されない。
【0015】
9)「~上に、~上部に、~下部に、~横に、~側面に、~間に」などでもって、2つの部分の位置関係が説明される場合、「直に」が使用されない限り、2つの部分の間に1つ以上の他の部分が位置することもありうる。
【0016】
10)複数の部分が「~又は」でもって、電気的に接続されるという場合、これら部分が単独でだけでなく組み合わせでも含まれるように解釈されるが、「~又は、~のうち1つ」で電気的に接続されるという場合は、これら部分が単独としてだけ解釈される。以下では、本発明の実施例を詳細に説明する。
【0017】
本明細書において非晶質とは、通常の非結晶質、非晶質相としても使用される、固体内における、結晶がなされていない相、すなわち、規則的な構造を有さない相をいう。また、本明細書においてコーティング層とは、鉄系非晶質合金粉末を用いて作製されるコーティング膜等を含むものであり、これらは主に溶射コーティングによって作製される。
【0018】
なお、本明細書において鉄系非晶質合金粉末とは、鉄が最も多い重量比で含まれ、粉末内に非晶質が単に含まれたものではなく、実質的に大部分を占めるものであって、例えば、非晶質の割合が90%以上であることをいう。
【0019】
本発明の実現例によるコーティング体は、基材と、上記基材の表面に備えられた鉄系非晶質合金からなるコーティング層と、を含む。
【0020】
<コーティング体の基材>
基材の厚さは、本発明に係る鉄系非晶質合金のコーティング厚さを考慮して、10~100mm、好ましくは30~80mmであってもよい。上記基材の厚さが3mm未満であると、コーティング体を構成する素材の厚さが過度に薄くなり、限界レベルを超えることでコーティング体の基本性能が低下しうるのであり、基材が熱によって歪む現象等が発生する可能性がある。
【0021】
上記基材の厚さを調節するためには、例えば、金型の厚さの調整又はCNCミリング等の方式又は装備を用いなければならないのであり、その中でも、CNCミリングを適用して基材の厚さを減少させることが、より好ましい。一方、上記基材素材は、金属、超硬合金、サーメット(cermet)、セラミック、ファイバー複合材(CFRP、GFRP等)、プラスチックなど、関連分野で使用される全てのコーティング体の基材素材が該当することができる。
【0022】
上記金属は、一例として、Ti、Al、V、Mo、Fe、Cr、Sn、Zr、Mg系でありうるが、これらに限定されるものではない。上記基材のHv硬度は100~400、好ましくは200~300であってもよい。
【0023】
<コーティング体のコーティング層>
以下では、上記コーティング体の基材の表面に備えられた鉄系非晶質合金からなるコーティング層である鉄系非晶質合金層について説明する。
【0024】
上記鉄系非晶質合金は、鉄、クロム及びモリブデンを主成分として含み、粉末内に非晶質が単に含まれたものではなく、実質的に大部分を占めるものであって、例えば、非晶質の割合が90%以上であることをいう。上記鉄系非晶質合金は、鉄、クロム及びモリブデンを含み、炭素及びホウ素から選択された少なくとも1種以上をさらに含む鉄系非晶質合金粉末から提供される。
【0025】
上記鉄系非晶質合金粉末は、一例として、アトマイジング法により合金粉末に製造するとき、非晶質相の割合が90%以上、95%以上、99%以上、99.9%以上、実質的に100%含まれる非晶質相の割合が高い粉末である。すなわち、冷却速度に応じて、前述したような高い割合の非晶質相を有する鉄系非晶質合金粉末が製造される。
【0026】
上記鉄系非晶質合金粉末は、様々な形状と直径に製造されうるのであり、その制限はなく、前述した鉄系非晶質合金を作製するための第1成分、第2成分、第3成分、及び第4成分を含む。
【0027】
第1成分は鉄(Fe)であって、鉄(Fe)は合金粉末コーティング物の剛性向上のために使用される成分であり、第2成分はクロム(Cr)であって、合金粉末コーティング物の物理化学的特性、例えば、耐摩耗性と耐腐食性などの物性向上のために使用される成分であり、第2成分は、第1成分を100重量部としたとき、55.3重量部以下であってよく、25.4重量部~55.3重量部含まれることが好ましい。
【0028】
第3成分は、モリブデン(Mo)であって、耐摩耗性及び耐腐食性とともに耐摩擦性を付与するために使用される成分であって、第1成分を100重量部としたとき、84.2重量部以下であってもよく、35.6重量部~84.2重量部含まれることが好ましい。
【0029】
第4成分には炭素(C)とホウ素(B)から少なくとも1つ又は2つを使用し、第4成分は、残りの構成成分との原子サイズ不整合(atomic size mismatch)又はパッキング効率(packing ratio efficiency)などにより非晶質形成能を向上させ、第4成分は、第1成分を100重量部としたとき、23.7重量部以下、1.7重量部~23.7重量部、3.4重量部~23.7重量部、又は3.4重量部~15重量部含まれることが好ましい。
【0030】
前述の成分に加えて、上記鉄系非晶質合金粉末は、タングステン、コバルト、イットリウム、マンガン、シリコン、アルミニウム、ニオブ、ジルコニウム、リン、ニッケル、スカンジウム及びこれらの混合物からなる群から選択される追加成分を意図的又は非意図的にさらに含むことができる。含量において追加成分は、合計で重量部が鉄の重量部を100としたとき、1.125重量部未満、1.000重量部以下、又は0.083重量部以下で使用される。すなわち、第1成分、第2成分、第3成分、第4成分、及び追加成分の含量が前述の重量割合に合う場合、本発明の実施例に係る鉄系合金粉末として捉えられる。
【0031】
また、各追加成分の重量部は、0.9重量部以下、好ましくは0.05重量部以下として使用される。これは、上記範囲を外れる追加成分が含まれると、非晶質形成能が著しく減少するためである。上記鉄系非晶質合金粉末は、高い非晶質相の割合によって、それ自体でも密度、強度、耐摩耗性、耐摩擦性及び耐腐食性などの特性に優れる。
【0032】
上記鉄系非晶質合金粉末は、平均粒度が1μm~150μmの範囲内でありうるが、これに限定されるものではなく、用途に応じて、ふるい分け(sieving)処理によって粉末サイズを調節することができる。一例として、溶射コーティングを行う場合、対象の鉄系非晶質合金粉末は、ふるい分け(sieving)処理によって粉末サイズを16μ~54μの範囲に調節して使用することができる。
【0033】
上記鉄系非晶質合金粉末は、一例として、密度が約7±0.5g/ccの範囲内であってもよいが、これに限定されるものではない。上記鉄系非晶質合金粉末は、粉末硬度が約800Hv~1500Hvの範囲内であってもよいが、これに限定されるものではない。
【0034】
上記鉄系非晶質合金粉末は、再溶融又は高温に曝され、再び冷却されて固化しても、前述の非晶質の割合を維持する。この際、アトマイジング法により製造された鉄系非晶質合金粉末内における非晶質の割合(a)と、鉄系非晶質合金粉末をその合金の溶融点以上に溶融した後、再冷却して作製された合金の割合(b)とは、次の式を満たす。
【0035】
[式1]
0.9≦b/a≦1
【0036】
ここで、上記(b)を導出するために鉄系非晶質合金粉末を、その合金の溶融点以上に溶融した後、再冷却して合金を製造する方式としては、一例として、溶射コーティング方式が挙げられる。また、上記[式1]のb/aの割合は、好ましくは0.95~1であってもよく、より好ましくは0.98~1であってもよく、さらに好ましくは0.99~1であってもよい。なお、上記鉄系非晶質合金粉末は、電気的物性にも優れており、軟磁性粉末として製造することができる。
【0037】
上記鉄系非晶質合金粉末は、超高速火炎溶射(HVOF、High Velocity Oxygen Fuel)、プラズマ溶射及びアークワイヤ溶射等といった溶射コーティング等の一般的なコーティング工程に適用してコーティング層を製造することができ、この場合、当該コーティング層が非晶質構造を有し、これをコーティング体の基材の表面に適用することにより、硬度及び耐摩耗性、耐腐食性、弾性、耐摩擦等の物性を飛躍的に向上させた。
【0038】
上記鉄系非晶質合金粉末は、コーティング(特に、溶射コーティング)が行われた後にも、非晶質構造を維持することができる(非晶質構造に関する具体的な説明は前述に準ずる)。一方、上記鉄系非晶質合金粉末は、ガスアトマイザー(gas atomizer)方式により製造されるものであって、具体的には、ヘリウム、窒素、ネオン又はアルゴン等の不活性気体雰囲気下のアトマイザー内にて、溶融した状態で噴射冷却されて製造される。このように製造する場合、完全な非晶質相(すなわち、100%非晶質相)の粉末の製造形成が可能であり、これは、既存の合金粉末に比べて原子構造からみて異なる100%非晶質状態の特殊合金粉末である。その他に、上記鉄系非晶質合金粉末に対する具体的な説明は、前述の通りである。
【0039】
一例として、鉄系非晶質合金粉末は、溶射コーティング工程に適用されて、被溶射体上にコーティング層又はコーティング膜を形成する。溶射(spray)は、金属や金属化合物を加熱して微細な溶滴状にして加工物の表面に噴霧して密着させる方法であって、超高速火炎溶射コーティング(HVOF)、プラズマコーティング、レーザークラッディング(laser cladding)コーティング、一般火炎溶射コーティング、ディフュージョンコーティング及びコールドスプレーコーティング、真空プラズマコーティング(VPS、vacuum plasma spray)、低圧プラズマコーティング(LPPS、low-pressure plasma spray)などがこれに属する。
【0040】
溶射コーティングは、鉄系非晶質合金粉末を溶融し、コーティングしてコーティング体を作製する工程であって、高温に曝されて溶融した非晶質合金の粉末が、急激に冷却されず、工程中に全部又は一部が結晶質化して非晶質の割合が著しく減少する。したがって、従来の非晶質金属粉末は非晶質の割合が高いが、製造されたコーティング体では非晶質の優れた性質を確保できなくなる。
【0041】
しかし、本発明に係る鉄系非晶質合金粉末は、急激な冷却速度を確保しなくとも、非晶質を形成する非晶質形成能に優れるため、前述したところの表面処理によりコーティング層を製造する工程を経ても、コーティング層における非晶質の割合が低くならない。
【0042】
すなわち、非晶質相の割合が90%以上、99%以上、99.9%以上、実質的に100%含まれる高い粉末である鉄系非晶質合金粉末が溶射の材料として使用される場合、コーティング物は非晶質相を、全構造に対して90%以上、95%以上、99%以上、99.9%以上、実質的に100体積%で含むため、物性に非常に優れている。特に、本発明の合金粉末でもって超高速火炎溶射(高速フレーム溶射法; HVOF溶射)コーティングを行う場合には、非晶質の割合が実質的にそのまま維持されるため、物性向上の程度が極大化する。
【0043】
上記コーティングにおいて、溶射コーティングは、当業界に知られている通常の方式であってもよく、その実施条件や環境も当該分野の通常のものを準用してもよい。例えば、Sulzer Metco Diamond Jet(登録商標)又はこれと類似の装備を利用し、酸素流量(Oxygen flow)、プロパン流量(Propane flow)、空気流量(Air flow)、フィーダ速度(Feeder rate)及び窒素流量(Nitrogen flow)などを適切に調節する方式などを採択することができる。
【0044】
具体的に、上記溶射コーティングは、上記鉄系非晶質合金粉末をコーティングした後にも、合金層を非晶質状態に維持可能にするものであって、超高速火炎溶射(HVOF、High Velocity Oxygen Fuel)、プラズマ溶射、真空プラズマ溶射及びアークワイヤ溶射からなる群から選択される方式により行うことができる。このような溶射コーティングが行われると、複数回のパス(path)が積み重なる構造が形成され、具体的に、各層に酸化物(黒色)が積み重ねられ、波のような形状に、多数の層が板材上に積層される。通常の場合、これによりコーティング層の性質が低下して脆弱になるが、本発明の場合には、合金層(コーティング層)に気孔/酸化膜がほとんどないか、最小となって超高密度を示すようになり、硬度、耐腐食性及び耐摩耗性等の物性も向上しうる。
【0045】
また、上記鉄系非晶質合金粉末は、測定時の密度(coating density)が98~99.9%と非常に高く、気孔を介しての腐食物の浸透が抑制される。
【0046】
溶射コーティング用に使用される合金粉末の粒度は10μm~100μm、好ましくは15μm~55μmであって、上記合金粉末の粒度が10μm未満の場合、溶射コーティング工程上、小さい粒子が溶射コーティングガン(gun)にこびり付いて作業効率性が低下するおそれがあり、100μmを超える場合は、完全に溶解されずに母材にぶつかって(すなわち、コーティング物を形成できずに、底に落ちて)、コーティング生産性及び効率が低下するという問題が発生する可能性がある。
【0047】
一方、上記鉄系非晶質合金のビッカース硬度は700~1,200Hv(0.2)、好ましくは800~1,000Hv(0.2)であり、摩擦係数(耐摩擦性)は100Nの荷重で0.001μ~0.08μ、好ましくは0.05μ以下であり、1,000Nの荷重で0.06μ~0.12μ、好ましくは0.10μ以下である。
【0048】
特に超高速火炎溶射(高速フレーム溶射法; HVOF溶射)によるコーティング物の場合、既存とは異なり断面積(cross section)に気孔がほとんど存在せず、最大密度(full density)を示し、気孔が存在しても約0.1%~1.0%に過ぎない気孔率を示すことができる。
【0049】
すなわち、超高速火炎溶射コーティングが行われると、複数回のパス(path)が積み重なる構造が形成され、具体的に、各層に酸化物(黒色)が積み重ねられ、波のような形状に多数の層が積層される。通常の場合、これによりコーティング物の性質が低下し、脆弱になるが、本発明の場合には、コーティング物に気孔/酸化膜がなく超高密度を示すようになり、コーティングの性能向上が可能である。その他に、上記鉄系非晶質合金粉末を含むコーティング物の耐摩耗性、耐腐食性及び弾性、耐摩擦も、既存の合金粉末を用いる場合に比べて非常に優れている。
【0050】
また、上記基材にコーティングされた鉄系非晶質合金の厚さは0.05~0.5mm、好ましくは0.1~0.2mm、さらに好ましくは0.075~0.125mmであって、上記鉄系非晶質合金の厚さが上記範囲を外れる場合には、本発明が目的とするコーティング物性を満たせない可能性がある。一方、上記鉄系非晶質合金は、上記基材の表面全体にコーティングされてもよく、打撃方向の表面の一部にのみコーティングされてもよい。その他に、上記鉄系非晶質合金は、必要に応じて、格子縞状などの多様なパターンで形成されることもありうる。
【0051】
一方、鉄系非晶質合金の原料となる鉄系非晶質合金粉末(powder)は、ガスアトマイザー(gas atomizer)方式により製造されるものであって、具体的には、ヘリウム、窒素、ネオン又はアルゴン等の不活性気体雰囲気下のアトマイザー内にて、溶融した状態で噴射冷却されて製造されうる。このように製造する場合、純度の高い非晶質相の粉末製造形成が可能であり、これは、既存の合金粉末に比べ原子構造からみて異なる非晶質状態の特殊合金粉末である。
【0052】
続いて、上記基材の表面に形成された鉄系非晶質合金の物性について説明する。上記鉄系非晶質合金のビッカース硬度は700~1,200Hv(0.2)、好ましくは800~1,000Hv(0.2)であり、摩擦係数(耐摩擦性)は、100Nの荷重で0.0005~0.08μ、好ましくは0.05μであり、1,000Nの荷重で0.01~0.12μ、好ましくは0.03~0.10μである。また、超高速火炎溶射により形成される合金の場合、断面積(cross section)に気孔がほとんど存在せず、99~100%、好ましくは99.5~100%、さらに好ましくは99.8~100%の最大密度(full density)を示し、気孔が存在しても約0.2~1.0%に過ぎない気孔率を示すことができる。
【0053】
すなわち、(超高速火炎;高速フレーム)溶射コーティングが行われると、複数回のパス(path)が積み重なる構造が形成され、具体的には層ごとの酸化物(黒い色相)が積み重ねられ、波のような形状に多数の層が積層される。通常の場合、これによりコーティング層の性質が低下し脆弱になるが、本発明の場合には、コーティング物に気孔/酸化膜がほとんどなく、超高密度を示すようになるため、基材の耐久性、耐腐食性、摩擦特性、摩耗特性などの物性も向上させることができる。一方、本発明のコーティング体は、通常のコーティング体の形態を有するものであって、その大きさや形態に特に限定はない。
【発明を実施するための形態】
【0054】
本発明は、一般的な素材で作製されたコーティング体に、高硬度/低摩擦の非晶質合金(一般的な基材素材に比べて2倍以上の硬度を有する)をコーティングして新規なコーティング体を製造するものであって、基材の耐久性、耐腐食性、摩擦特性、摩耗特性の向上という本発明の目的を達成することが可能である。
【0055】
以下では、本発明の理解を助けるために好ましい実施例を提示するが、下記の実施例は本発明を例示するものであるだけで、本発明の範疇及び技術思想の範囲内で多様な変更及び修正が可能であることは当業者にとって明らかである。また、このような変更及び修正が添付された特許請求の範囲に属することも当然である。
【0056】
<実施例>
[実施例1~実施例8:鉄系非晶質合金粉末の製造]
下記表1のような成分と重量比(weight ratio)の組成で、窒素ガス雰囲気下のアトマイザー内に供給した後、溶融状態でアトマイズさせ、下記表1に記載の冷却速度で冷却して実施例1~実施例8の鉄系非晶質合金粉末を製造した。
【0057】
【表1】
*D50(単位:μm)
【0058】
上記表1に示すように、本発明に係る実施例は、第1成分~第4成分を特定の含量範囲で含み、10~10(度/秒;degree/sec)の冷却速度で冷却して、粉末の平均直径が5μm~50μmの範囲の合金粉末を製造した。
【0059】
[製造例1:コーティング体の基材準備]
CNCミリング(CNC Milling)を用いて、通常に使用される工具コーティング体として基材素材がTiであり、厚さが3mmの工具を準備した。
【0060】
[実施例9~実施例16:鉄系非晶質合金層(コーティング層)の形成]
上記製造例1に従って準備されたコーティング体の基材の表面に、実施例1~8の鉄系非晶質合金粉末を、それぞれ0.1mmの厚さに溶射コーティングして、鉄系非晶質粉末層が備えられたコーティング体を製造した。
【0061】
具体的に、溶射コーティングはSulzer MetcoのDiamond Jet(登録商標)装備を利用し、酸素流量(Oxygen flow)45%、プロパン流量(Propane flow)48%、気流量(Air flow)52%、フィーダ速度(Feeder rate)336%、窒素流量(Nitrogen flow)15~20RPM、スタンドオフ(Stand-off)12インチの条件下で行った。
【0062】
[比較例1~比較例7:鉄系合金粉末の製造]
下記表2のような成分及び重量比の組成で、窒素ガス雰囲気下のアトマイザー内に供給した後、溶融状態でアトマイズさせ、表2に示す冷却速度で冷却して比較例1~比較例7の鉄系合金粉末を製造した。
【0063】
【表2】
*D50(単位:μm)
【0064】
上記表2に示すように、本発明に係る製造例は、第1成分~第4成分を特定の含量範囲で含み、10~10(degree/sec)の冷却速度で冷却して、粉末の平均直径が5μm~50μmの範囲の合金粉末を製造した。
【0065】
[製造例2:コーティング体の準備]
通常に使用されるものとして、素材が上記製造例1と同じであり、厚さが3.0mmのコーティング体を準備した(すなわち、鉄系非晶質合金粉末をコーティングさせていない)。
【0066】
[比較例8~比較例14:鉄系合金粉末を用いたコーティング層の形成]
上記製造例2に従って準備されたコーティング体の基材の表面に、比較例1~比較例7の合金粉末を、実施例と同様の方法でそれぞれ0.1mmの厚さに溶射コーティングして、コーティング層が備えられたコーティング体を製造した。以下では、製造例2のコーティング体を用いた場合を、便宜上比較例15とする。
【0067】
[実験例1:合金粉末の非晶質度評価]
実施例の鉄系非晶質合金粉末に対するXRD(X線回折)測定結果を図1に示した。図1は、本発明に係る鉄系非晶質合金粉末のXRDグラフであり、(a)~(e)はそれぞれ実施例1、3、6、7、8の鉄系非晶質合金粉末に対するグラフである。図1によると、実施例1、3、6、7、8の全てについて、2シータ(2θ)値が40~50(degree;度)においてブロードなピークを示し、全て非晶質相を形成することが分かる。
【0068】
また、比較例の鉄系非晶質合金粉末に対するXRD測定結果を図2に示した。図2は、比較例に係る鉄系合金粉末のXRDグラフであって、(a)~(c)は比較例1、5、7の鉄系合金粉末に対するグラフである。図2によると、比較例1、5、7ともに2シータ(2θ)値が40~50(degree)において急激な第1ピークを示すとともに、65~70(degree)において追加の第2ピークを最小限示すことから、非晶質相とともに一部の結晶質相を形成することが分かる。
【0069】
特に、第2ピークの高さを考慮すると、比較例7から比較例5を経て比較例1に行くほど、すなわち、図2(c)から図2(a)に行くほど、かなりの数の結晶質が形成されることが確認された。
【0070】
[実験例2:コーティング物の非晶質度評価]
実施例7に係る鉄系非晶質合金粉末(アトマイズされたままのもの;as atomized)とその断面、そして比較例7に係る鉄系合金粉末(as atomized)及びその断面をSEM分析した写真を図3に示した。図3において、(a)と(b)は実施例7の鉄系非晶質合金粉末(as atomized)とその断面に該当し、(c)と(d)は比較例7の鉄系合金粉末(as atomized)とその断面に該当する。
【0071】
図3によると、(b)に示すように実施例の場合、組織が観察されなかったため、実質的に0%の気孔率を示すことが分かる。一方、(d)に示すように、比較例の場合には多数の組織が観察された。
【0072】
また、実施例9~16で製造された鉄系非晶質合金粉末コーティング物試片について、非晶質XRDグラフを図4に示した。図4は、本発明に係るコーティング物試片のXRDグラフであって、(a)~(e)は、それぞれ実施例1、3、6、7、8の鉄系非晶質合金粉末を適用したコーティング物である、実施例9、11、14、15、16の試片のXRDグラフである。図4によると、実施例の場合、広いXRDの第1ピークと共に追加ピークが確認されていないため、本発明に係る粉末は非晶質構造からなることが分かった。
【0073】
また、比較例で製造された鉄系合金粉末コーティング物試片に対するXRDグラフを図5に示した。図5は、比較例のコーティング物試片のXRDグラフであって、(a)~(c)は、それぞれ比較例1、5、7の鉄系合金粉末を適用した、コーティング物の比較例8、12、14試片のXRDグラフである。図5によると、比較例の場合、急激な第1ピークとともに追加ピークを示すことから、非晶質相のない構造の結晶性粉末であることが確認できた。すなわち、これにより、本発明の合金粉末は比較例の合金粉末に比べて格段に高い非晶質形成能を有することが分かる。
【0074】
図1のXRDグラフと図4のXRDグラフとを対比した結果、図1の実施例のいずれも、図4に示すように、粉末であるときの非晶質構造がコーティング物においても、そのまま維持されたことが確認できた。特に本実験例の場合、HVOF方式でコーティングして実質的に全体が非晶質相(95体積%以上)のコーティング物が形成されることが確認できる。
【0075】
[実験例3:合金粉末を用いた溶射コーティング物の巨視的な品質評価]
図6は、本発明に係る鉄系非晶質合金粉末を用いた溶射コーティング物及び比較例の合金粉末を用いた溶射コーティング物の表面イメージであって、(a)~(c)は、それぞれ実施例1、7、8の非晶質合金粉末を用いた溶射コーティング物である、実施例9、15、16の表面イメージであり、(d)~(g)は、それぞれ比較例1、3、5、7の合金粉末を用いた溶射コーティング物である、比較例8、10、12、14の表面イメージである。
【0076】
これによると、比較例14のコーティング物は、コーティング物の表面品質が良くなく(図6(g)参照)、残りの実施例及び比較例のコーティング物は、いずれもコーティング物の表面品質が優秀又は良好であった。
【0077】
[実験例4:合金粉末を用いた溶射コーティング物の微視的な品質評価]
図7は、本発明に係る実施例1、3、6、8の鉄系非晶質合金粉末を用いた溶射コーティング物試片の断面を光学顕微鏡(Leica DM4 M)で観察したイメージであって、(a)~(d)はそれぞれ実施例9、11、14、16の試片の断面を観察したイメージであり、図8は、比較例1、4、7の合金粉末を用いた溶射コーティング物試片の断面を光学顕微鏡で観察したイメージであって、(a)~(c)は、それぞれ比較例8、11、14の試片の断面を観察したイメージであり、実施例9、11、14、16のコーティング物の断面が全て高密度を示すことが確認できた。
【0078】
その一方、図8に示すように、比較例8、11、14のコーティング物の断面は、多数の未溶融の粒子を含んでいるだけでなく、灰色相(grey phase)が多く含まれていることが観察され、レイヤー(layer)-レイヤー(layer)特性が現れた。
【0079】
[実験例5:合金粉末を用いた溶射コーティング物の硬度評価]
上記実施例11、実施例14、実施例16の溶射コーティング物及び比較例8、比較例10、比較例12、比較例14の溶射コーティング物について、HVS-10デジタル低負荷ビッカース硬度試験機(HVS-10 digital low load Vickers Hardness Tester Machine)を用いて、コーティング物試片の断面に対する微小硬度(Micro-hardness)試験を行い、その結果を下記表3に示した。
【0080】
【表3】
【0081】
上記表3に示すように、断面において実施例16の合金粉末を適用した試片の平均硬度が最も優れており、残りの実施例の場合は比較例と類似した硬度値を示した。
【0082】
[実験例6:合金粉末を用いた溶射コーティング物の耐腐食性評価]
図9は、本発明に係る実施例2、4、7の鉄系非晶質合金粉末を用いた溶射コーティング物試片の非腐食/腐食した断面を光学顕微鏡で観察したイメージであって、(a)~(c)は、それぞれ実施例10、12、15の試片の観察イメージであり、図10は、比較例2、4、6の合金粉末を用いた溶射コーティング物の試片の非腐食/腐食した断面を光学顕微鏡で観察したイメージであって、(a)~(c)は、それぞれ比較例8、11、13の試片の観察イメージである。
【0083】
具体的に、それぞれの溶射コーティング物の試片を室温下で濃度95~98%の硫酸(HSO)溶液に5分間浸漬した後、光学顕微鏡(Leica DM4 M)を用いて、腐食していないコーティング物の試片と、腐食したコーティング物の試片とについての断面(cross-section)及び表面(surface)を観察し、図9及び図10において左側は非腐食物を、そして右側は腐食物を示した。
【0084】
観察の結果、実施例10、12、15のコーティング物の試片を用いた場合、図9に示すように、硫酸に浸漬した前後の様子に特別な差異はなく、耐腐食性が最も優れていることが確認できた。これに対し、比較例8、11、13のコーティング物の試片を用いた場合、図10に示すように、腐食が強く進行し、極めて良くない耐腐食性を示した。
【0085】
これはコーティング物の非晶質の有無に起因したものであって、実施例の場合には、コーティング物が強酸性の腐食物に全く反応しなかったのに対し、結晶質を含む比較例の場合には、コーティング物が腐食物に反応して腐食することにより、良くない耐腐食性を示すようになる。
【0086】
[実験例7:合金粉末を用いた溶射コーティング物の摩擦力評価]
摩擦力(摩擦係数)を評価するために、上記実施例14~実施例16、比較例11~比較例14で製造された合金粉末コーティング物試片について、潤滑油条件下の金属リング-ランプ(ring-lump)テストを通じて摩耗幅(wear width)を得たのであり、具体的に、リング-ランプテストは、L-MM46抵抗摩擦液圧(hydromantic)の潤滑油のあるMR-H3A高速リング-ランプ摩耗機械を用いており、テスト媒介変数(parameters)は、50N、5min→100N、25min→1000N、55minの順に進行した。
【0087】
媒介変数100N、25min及び1000N、55minのサンプル摩擦係数(friction coefficient)を下記表4に示し、摩耗幅の測定結果を下記表5に示した。
【0088】
【表4】
【0089】
【表5】
【0090】
上記表4及び表5の結果をまとめると、平均的に実施例9、14のコーティング物は摩擦係数が低く、比較例8、10の場合は非常に高いことが分かる。また、図11及び上記表5からは、実施例が狭い幅を有し、残りの比較例は相対的に広い幅を有することが確認できた。
【0091】
[実験例8:コーティング体にコーティングされた鉄系非晶質合金の耐摩耗性評価]
耐摩耗性を評価するために、上記実施例16~実施例18及び比較例15のコーティング体試片を、潤滑油条件下の金属リング-ランプ(ring-lump)テストを通じて摩耗幅(wear width)を得た。
【0092】
具体的に、リング-ランプテストは、L-MM46抵抗摩擦水添(hydromantic)の潤滑油のあるMR-H3A高速リング-ランプ摩耗機械を用いており、テスト媒介変数(parameters)は50N、5min→100N、25min→1000N、55minの順に進行した。下記表8及び9により摩耗幅と摩擦係数(friction coefficient)を確認することができる(媒介変数100N、25min及び1000N、55minのサンプル摩擦係数を下記表6に示し、摩耗幅の測定結果を下記表7に示す)。
【0093】
【表6】
【0094】
【表7】
【0095】
以上のように、本発明に係る実施例が説明されているが、これは例示的なものに過ぎず、当技術分野において通常の知識を有する者であれば、これにより様々な変形及び均等な範囲の実施例が可能であることが理解できる。例えば、本明細書において、実施例による合金粉末に例示された組成比は、これらの組成が使用されたときのこれら組成同士の間の割合であって、その割合を維持した状態で、他の金属やその他の工程上の不純物がさらに含まれることを排除しない。したがって、本発明の真の技術的保護範囲は、次の特許請求の範囲によって定められるべきである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10