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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-16
(45)【発行日】2024-05-24
(54)【発明の名称】送電システムにおける障害検出
(51)【国際特許分類】
   H02H 3/34 20060101AFI20240517BHJP
   H02J 13/00 20060101ALI20240517BHJP
   H02H 7/22 20060101ALI20240517BHJP
【FI】
H02H3/34 P
H02J13/00 301D
H02J13/00 311S
H02H7/22
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2022562157
(86)(22)【出願日】2021-02-16
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-23
(86)【国際出願番号】 EP2021053756
(87)【国際公開番号】W WO2021209180
(87)【国際公開日】2021-10-21
【審査請求日】2022-10-11
(31)【優先権主張番号】202041016504
(32)【優先日】2020-04-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IN
(73)【特許権者】
【識別番号】523380173
【氏名又は名称】ヒタチ・エナジー・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】HITACHI ENERGY LTD
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】マツル,スレーシュ
(72)【発明者】
【氏名】シュリーバスタバ,サチン
(72)【発明者】
【氏名】ジィ,アルルセルバン
(72)【発明者】
【氏名】ナイドゥ,オーディ
【審査官】清水 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2011/0102952(US,A1)
【文献】特開2017-219463(JP,A)
【文献】特開2009-017681(JP,A)
【文献】特開平06-245383(JP,A)
【文献】特開2011-254626(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 25/00-27/32
G01R 31/08-31/11
H02H 1/00-3/07
H02H 3/32-3/52
H02H 7/06-7/097
H02H 7/22-7/30
H02H 99/00
H02J 3/00-5/00
H02J 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
送電システムにおける電力スイング中の障害検出のための方法であって、前記方法が、
前記送電システムの端末で各相の電圧測定値および電流測定値を取得するステップであって、前記電圧測定値および前記電流測定値が、前記送電システムの前記端末に関連付けられた1つまたは複数の測定機器を用いて取得され、前記電圧測定値および前記電流測定値が、前記端末で取得された電圧および電流のサンプル値を含む、ステップと、
前記電圧および電流の各サンプル値について、各位相対接地ループおよび各位相対位相ループのインピーダンス角の変化の値を計算するステップであって、前記インピーダンス角の変化の前記値が、所定の間隔だけ離れた2つのサンプルのインピーダンス角の差である、ステップと、
各位相対接地ループおよび各位相対位相ループについて、前記インピーダンス角の前記変化の所定数の値におけるインピーダンス角の変化の平均値を計算するステップと、
各位相対接地ループおよび各位相対位相ループについて計算された前記平均値をインピーダンス角の変化の閾値と比較するステップと、
前記比較に基づいて、前記位相対接地ループまたは前記位相対位相ループのうちの1つまたは複数における障害を検出するステップと
を含む、方法。
【請求項2】
前記方法が、前記位相対接地ループまたは位相対位相ループのうちの1つまたは複数における前記障害を検出すると、距離保護のために前記対応するループを解放することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記所定の間隔が、1測定サイクルの持続時間であり、1測定サイクルが、サンプル周波数に基づく所定数のサンプルを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記平均値を計算する前記ステップが、前記サンプルのインピーダンス角の前記変化の値を計算するために移動窓平均フィルタを適用することによって計算され、インピーダンス角の前記変化の前記所定数の値が、前記移動窓のサイズである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記移動窓の前記サイズが、1測定サイクルのサンプル数に等しい、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記閾値が範囲である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記範囲が1~3度である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
検出された前記障害を、前記障害が検出されるループに基づいて、位相対接地障害、位相対位相障害、または2重相対接地障害として分類するステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記方法が、前記電圧測定値および前記電流測定値の全サイクル離散フーリエ変換に基づいて、各位相対接地ループおよび各位相対位相ループのそれぞれについて電圧フェーザおよび電流フェーザを計算するステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
スイング中心電圧で前記位相対接地ループまたは位相対位相ループのうちの1つまたは複数における前記障害を検出するステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
送電システムの送電線における電力スイング中に障害を検出するためのインテリジェント電子デバイス(IED)であって、前記IEDが、
プロセッサと、
前記送電システムの端末で各相から電圧測定値および電流測定値を取得し、前記電圧測定値および前記電流測定値が、前記送電システムの前記端末に関連付けられた1つまたは複数の測定機器を用いて取得され、前記電圧測定値および前記電流測定値が、前記端末で取得された電圧および電流のサンプル値を含み、
前記電圧および電流の各サンプル値について、各位相対接地ループおよび各位相対位相ループのインピーダンス角の変化の値を計算し、前記インピーダンス角の変化の前記値が、所定の間隔だけ離れた2つのサンプルのインピーダンス角の差であり、
各位相対接地ループおよび各位相対位相ループについて、前記インピーダンス角の前記変化の所定数の値におけるインピーダンス角の変化の平均値を計算し、
各位相対接地ループおよび各位相対位相ループについて計算された前記平均値をインピーダンス角の変化の閾値と比較し、
前記比較に基づいて、前記位相対接地ループまたは位相対位相ループのうちの1つまたは複数における障害を検出する
ために前記プロセッサによって実行可能な障害検出モジュールと
を含む、インテリジェント電子デバイス(IED)。
【請求項12】
前記デバイスが、前記位相対接地ループまたは位相対位相ループのうちの1つまたは複数における前記障害を検出すると、距離保護のために前記対応するループを解放するように構成される、請求項11に記載のデバイス。
【請求項13】
前記所定の間隔が、1測定サイクルの持続時間であり、1測定サイクルが、サンプル周波数に基づく所定数のサンプルを含む、請求項11に記載のデバイス。
【請求項14】
前記平均値を計算するために、前記障害検出モジュールが、前記サンプルの前記インピーダンス角の前記変化の値を計算するために移動窓平均フィルタを適用するように構成され、前記インピーダンス角の前記変化の前記所定数の値が、前記移動窓のサイズである、請求項11に記載のデバイス。
【請求項15】
前記移動窓の前記サイズが、1測定サイクルのサンプル数に等しい、請求項14に記載のデバイス。
【請求項16】
前記閾値が範囲である、請求項11に記載のデバイス。
【請求項17】
前記範囲が1~3度である、請求項16に記載のデバイス。
【請求項18】
前記障害検出モジュールが、検出された前記障害を、前記障害が検出されるループに基づいて、位相対接地障害、位相対位相障害、または2重相対接地障害として分類するように構成される、請求項11に記載のデバイス。
【請求項19】
実行されるとインテリジェント電子デバイス(IED)に送電システムの送電線の電力スイング中に障害を検出させるプログラム命令を含む非一時的コンピュータ可読媒体であって、前記プログラム命令が、
前記送電システムの端末で各相から電圧測定値および電流測定値を取得し、前記電圧測定値および前記電流測定値が、前記送電システムの前記端末に関連付けられた1つまたは複数の測定機器を用いて取得され、前記電圧測定値および前記電流測定値が、前記端末で取得された電圧および電流のサンプル値を含み、
前記電圧および電流の各サンプル値について、各位相対接地ループおよび各位相対位相ループのインピーダンス角の変化の値を計算し、前記インピーダンス角の変化の前記値が、所定の間隔だけ離れた2つのサンプルのインピーダンス角の差であり、
各位相対接地ループおよび各位相対位相ループについて、前記インピーダンス角の前記変化の所定数の値におけるインピーダンス角の変化の平均値を計算し、
各位相対接地ループおよび各位相対位相ループについて計算された前記平均値をインピーダンス角の変化の閾値と比較し、前記閾値が1~3度の範囲であり、
インピーダンス角の前記変化の平均値が前記閾値内にある場合に、前記位相対接地ループまたは位相対位相ループのうちの1つまたは複数における障害を検出する
ための命令を含む、非一時的コンピュータ可読媒体。
【請求項20】
前記プログラム命令が、検出された前記障害を、前記障害が検出されるループに基づいて、位相対接地障害、位相対位相障害、または2重相対接地障害として分類するための命令を含む、請求項19に記載の非一時的コンピュータ可読媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本主題は、一般に、送電線における障害検出に関する。特に、本主題は、送電システムにおける電力スイング中の障害検出に関する。
【背景技術】
【0002】
背景
送電システムは、発電機、変圧器、リレーなどの多数の電気構成要素を有する送電線を備える大きく複雑なネットワークである。送電システムは、送電線障害、高負荷送電線におけるスイッチング動作、負荷の大きさおよび方向の変化などに起因するシステム外乱を受けることが多い。一般に、障害は、正常な電流の流れに乱れを引き起こす電気システムの異常状態として定義され得る。この電流の偏りは、電圧および/または電流の流れの変化を引き起こし、送電を遮断する。送電システムで発生するシステム外乱は、電力スイングを引き起こす可能性がある。
【0003】
電力スイングは、発電機のグループのロータ角が互いに対して加速または減速する現象であり、その結果、3相電力潮流に変動が生じる。特に、領域間のスイングは、タイラインを介して接続された電力システムの2つの領域間の電力の大きな変動をもたらす可能性がある。
【0004】
電力スイング現象中のリレーのトリップは望ましくなく、したがって、それらは一般に、電力スイング中にブロックされる。その結果、ブロック期間の電力スイング中に発生する障害は検出されなくなり、システム停電を引き起こす可能性がある。
【0005】
図面の簡単な説明
本主題の特徴、態様、および利点は、以下の説明および添付の図面に関してよりよく理解されよう。異なる図における同じ参照番号の使用は、類似または同一の特徴および構成要素を示す。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1(a)】第1の例の図1(a)は、当技術分野で知られている方法に基づく障害検出のための送電線における増分電流の監視を示す。
図1(b)】第1の例の図1(b)は、当技術分野で知られている方法に基づく障害検出のための送電線における増分電流の監視を示す。
図1(c)】第1の例の図1(c)は、当技術分野で知られている方法に基づく障害検出のための送電線における増分電流の監視を示す。
図1(d)】第1の例の図1(d)は、当技術分野で知られている方法に基づく障害検出のための送電線における増分電流の監視を示す。
図2(a)】第2の例の図2(a)は、当技術分野で知られている方法に基づく障害検出のための送電線における増分電流の監視を示す。
図2(b)】第2の例の図2(b)は、当技術分野で知られている方法に基づく障害検出のための送電線における増分電流の監視を示す。
図2(c)】第2の例の図2(c)は、当技術分野で知られている方法に基づく障害検出のための送電線における増分電流の監視を示す。
図2(d)】第2の例の図2(d)は、当技術分野で知られている方法に基づく障害検出のための送電線における増分電流の監視を示す。
図3】本主題の一実施形態による、2電源等価電気回路網のブロック図を示す。
図4】本主題の一実施形態による、電力スイング中の障害検出のためのデバイスを有する2端末システムを示す。
図5】本主題の一実施形態による、送電システムにおける電力スイング中の障害検出のための方法を示す。
図6(a)】本主題の例示的な実装形態による障害検出を示す。
図6(b)】本主題の例示的な実装形態による障害検出を示す。
図6(c)】本主題の例示的な実装形態による障害検出を示す。
図7(a)】本主題の別の例示的な実装形態による障害検出を示す。
図7(b)】本主題の別の例示的な実装形態による障害検出を示す。
図7(c)】本主題の別の例示的な実装形態による障害検出を示す。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
概要
本発明の実施形態は、送電システムにおける電力スイング中の障害検出のための方法、障害検出のためのデバイス、および障害検出のためのコンピュータ可読記憶媒体を提供する。
【0008】
第1の態様によれば、送電システムにおける電力スイング中の障害検出のための方法が提供される。本方法は、送電システムの端末で各相の電圧測定値および電流測定値を取得するステップを含む。電圧測定値および電流測定値は、送電システムの端末に関連付けられた1つまたは複数の測定機器を用いて取得される。電圧測定値および電流測定値は、端末で得られた電圧および電流のサンプル値を含む。電圧および電流の各サンプル値に基づいて、各位相対接地ループおよび各位相対位相ループのインピーダンス角の変化の値が計算され、インピーダンス角の変化の値は、所定の間隔だけ離れた2つのサンプルのインピーダンス角の差である。さらに、各位相対接地ループおよび各位相対位相ループについて、インピーダンス角の変化の所定数の値におけるインピーダンス角の変化の平均値が計算される。各位相対接地ループおよび各位相対位相ループについて計算された平均値は、インピーダンス角の変化の閾値と比較され、比較に基づいて、位相対接地ループまたは位相対位相ループのうちの1つまたは複数において障害が検出される。閾値は、1~3度の範囲であってもよい。インピーダンス角の変化の平均値が閾値範囲内にあるとき、位相対接地ループまたは位相対位相ループのうちの1つまたは複数における障害が検出される。
【0009】
第2の態様によれば、送電線の障害を検出するためのインテリジェント電子デバイス(IED)が提供される。IEDは、プロセッサと、プロセッサによって実行可能な障害検出モジュールとを備える。障害検出モジュールは、送電システムの端末で各相から電圧測定値および電流測定値を取得するように構成される。電圧測定値および電流測定値は、送電システムの端末に関連付けられた1つまたは複数の測定機器を用いて取得される。電圧測定値および電流測定値は、端末で得られた電圧および電流のサンプル値を含む。障害検出モジュールは、電圧および電流の各サンプル値について、各位相対接地ループおよび各位相対位相ループのインピーダンス角の変化の値を計算するように構成される。インピーダンス角の変化は、2つのサンプルのインピーダンス角の差であり、2つのサンプルは所定の間隔だけ離れている。さらに、障害検出モジュールは、各位相対接地ループおよび各位相対位相ループのインピーダンス角の変化の所定数の値について、インピーダンス角の変化の平均値を計算するように構成される。各位相対接地ループおよび各位相対位相ループについて計算された平均値は、インピーダンス角の変化の閾値と比較される。比較に基づいて、位相対接地ループまたは位相対位相ループベースのうちの1つまたは複数における障害が検出される。閾値は、1~3度の範囲内であり得る。インピーダンス角の変化の平均値が閾値範囲内にあるとき、位相対接地ループまたは位相対位相ループのうちの1つまたは複数における障害が検出される。
【0010】
第3の態様によれば、非一時的コンピュータ可読媒体は、実行されるとインテリジェント電子デバイス(IED)に送電線の障害を検出させるプログラム命令を含む。プログラム命令は、送電システムの端末で各相から電圧測定値および電流測定値を取得するための命令を含む。電圧測定値および電流測定値は、送電システムの端末に関連付けられた1つまたは複数の測定機器を用いて取得される。電圧測定値および電流測定値は、端末で得られた電圧および電流のサンプル値を含む。プログラム命令はまた、電圧および電流の各サンプル値について各位相対接地ループおよび各位相対位相ループのインピーダンス角の変化の値を計算するための命令を含む。インピーダンス角の変化は、2つのサンプルのインピーダンス角の差であり、2つのサンプルは所定の間隔だけ離れている。さらに、プログラム命令は、各位相対接地ループおよび各位相対位相ループのインピーダンス角の変化の所定数の値について、インピーダンス角の変化の平均値を計算するための命令を含む。各位相対接地ループおよび各位相対位相ループについて計算された平均値は、インピーダンス角の変化の閾値と比較される。閾値は、1~3度の範囲内であり得る。インピーダンス角の変化の平均値が閾値範囲内にあるとき、位相対接地ループまたは位相対位相ループのうちの1つまたは複数における障害が検出される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
詳細な説明
本主題は、送電線における障害検出に関する。以下では、電力スイングに関する障害検出、特にスイング中心電圧またはそれに近い電圧における障害の検出について説明する。しかしながら、主題は、電力スイングにおける障害検出に限定されない。
【0012】
一般に、電力スイングは、安定した電力スイングと不安定な電力スイングとに分類される。発電機が極をスリップしたり同期を失ったりせず、システムが許容可能な動作状態に達する、安定した電力スイングが発生する。一方、不安定な電力スイングは、発電機間の極のスリップをもたらし、電圧、電流および電力の激しい変動をもたらす可能性がある。
【0013】
電力スイング期間中、距離リレーは、一般に、インピーダンス軌跡が測距領域の動作領域に入る可能性があるため、誤動作を防止するために動作がブロックされる。電力スイング中の距離リレーのブロック期間中に障害が発生した場合、障害は検出されないままである。障害の非検出は、変圧器、発電機などの電力システム要素にストレスを課す。電力システム要素へのストレスは、電力システムの安定性に影響を及ぼす。広範囲の外乱を回避するために、距離リレーは、電力スイング中の短絡障害に対してのみ動作し、障害が発生していない場合、電力スイング中はブロックされたままであることが許容されるべきである。これは、電力スイングアンブロッキングと呼ばれる。電力スイング中に発生する障害が検出できない場合、それらは機器またはシステムの障害、最悪の場合は停電につながる可能性がある。
【0014】
障害検出に加えて、障害のタイプを識別できるように障害分類も実行されなければならない。典型的には、障害は、4つのタイプの障害、すなわち線対接地障害A-g、線間障害AB、2重線対接地障害BC-g、および3相障害ABC-gに分類することができ、A、B、およびCは、送電線の3相である。
【0015】
1つの技術では、電力スイング中、すなわち電力スイングアンブロッキング期間中の障害検出および分類のために、デルタ電流が使用される。しかしながら、これらのデルタ電流または増分電流は、スイング中心電圧周辺の障害、高電源インピーダンスを有するシステム、インバータベースのシステム(再生可能エネルギー)、高インピーダンス障害中などのすべての電力システム条件で利用可能ではない。したがって、そのような電力システム状態の間、障害検出および分類は確実に実行されない可能性がある。
【0016】
第1の例の図1(a),図1(b)、図1(c)、図1(d)は、当技術分野で知られている方法に基づく障害検出のための送電線における増分電流の監視を示す。第1のケースでは、所定の閾値電流が1kAの値に設定される。所定の閾値は、増分電流値と設定された閾値との比較に基づいて障害を検出するように設定される。
【0017】
図1(a)から図1(d)の例は、保護された線の20%の距離で送電線上に障害が発生した可能性があるとみなす。2つの電源の電源対線インピーダンス比(SIR)は0.1:1であると考えられ、SIRは電源インピーダンスと線インピーダンスとの比である。障害発生角度は60度である。さらに、スリップ周波数は0.5ヘルツであると考えられ、障害発生時間は3秒であると考えられる。これらのパラメータに基づいて、増分電流ベースの障害検出分析が実行される。
【0018】
図1(a)は、送電システムにおける障害検出および分類のための電流分析の増分量を示す。位相Aで測定された電流を102で表し、位相Bで測定された電流を104で表し、位相Cで測定された電流を106で表す。図から分かるように、位相A102で測定された電流は、3秒後のその値の増分上昇を示す。位相B104および位相C106で測定された電流は、同時に電流値の増分上昇を示さない。電流測定値の増分値は、障害の発生後の位相Aでのみ観察される。したがって、障害相は、位相A102で測定された電流の増分値を、1kAに設定された所定の閾値と比較することによって識別される。障害相が位相Aであると識別されると、障害は線対接地障害A-gとして分類される。
【0019】
図1(b)は、送電システムにおける障害検出および分類のための電流分析の増分量を示し、図から、位相A102で測定された電流および位相B104で測定された電流が3秒後の増分値を示すことが分かる。位相C106で測定された電流は、同時に電流値の増分上昇を示さない。電流測定値の増分値は、障害の発生後の位相Aおよび位相Bでのみ観察される。したがって、障害相は、位相A102および位相B104で測定された電流の増分値を、1kAに設定された所定の閾値と比較することによって識別される。障害相は位相Aおよび位相Bであると識別され、これらの識別された相の電流の大きさに基づいて、障害は線間障害ABとして分類される。
【0020】
図1(c)は、送電システムにおける障害検出および分類のための電流分析の増分量を示し、図から、位相B104で測定された電流および位相C106で測定された電流が3秒後の増分値を示すことが分かる。位相A102で測定された電流は、位相Bおよび位相Cの電流が増分変化を示すとき、同時に増分電流値を示さない。増分電流測定値は、障害の発生後に送電線の位相Bおよび位相Cでのみ観察される。したがって、障害相は、位相B104および位相C106で測定された電流の増分値を、1kAに設定された所定の閾値と比較することによって識別される。障害相は位相Bおよび位相Cであると識別され、これらの識別された相の電流の大きさに基づいて、障害は2重線対接地障害BC-gとして分類される。
【0021】
図1(d)は、送電システムにおける障害検出および分類のための電流分析の増分量を示し、図から、位相A102で測定された電流、位相B104で測定された電流、および位相C106で測定された電流が3秒後の増分値を示すことが分かる。増分電流測定値は、位相A102、位相B104および位相Cなどの3つの相すべてで観察され、したがって、位相A102、位相B104および位相C106で測定された電流の増分値を、1kAに設定された所定の閾値と比較することによって識別される。障害相は位相A、位相B、および位相Cであると識別され、識別された相の電流の大きさに基づいて、障害は3相対接地障害ABC-gとして分類される。
【0022】
第2の例の図2(a)、図2(b)、図2(c)、図2(d)は、当技術分野で知られている方法に基づく障害検出のための送電線における増分電流の監視を示す。第2の例では、第1の例と同様に、障害検出および分類のために、所定の閾値電流が1kAの値に設定される。所定の閾値は、障害の発生時に観察される増分電流値と比較するために設定される。
【0023】
図2(a)から図2(d)に示す例では、障害は、スイング中心電圧で5Hzのスイング中に保護線の80%の距離でシミュレートされる。この場合の障害は、不利な条件での増分電流に基づく障害検出および分類を監視するために、5Hzの高いスリップ周波数を有するスイング中心電圧でシミュレートされている。第2のケースでは、2つの電源の電源対線インピーダンス比(SIR)は、10オームの障害抵抗で5:2であると考えられる。また、障害発生時間を1.3秒とする。これらのパラメータに基づいて、増分電流ベースの障害検出分析が実行される。
【0024】
図2(a)は、送電システムにおける障害検出および分類のための電流分析の増分量を示す。位相Aで測定された電流を波形202で表し、位相Bで測定された電流を波形204で表し、位相Cで測定された電流を波形206で表す。図から分かるように、位相A202で測定された電流は、1.3秒後の増分上昇を示す。位相B204および位相C206で測定された電流は、Aで測定された電流が増分変化を示したときに、同時に増分電流値を示さなかった。増分電流測定値は、障害の発生後の位相Aでのみ観察された。障害相を特定するために、位相A102で測定された電流の増分値を、1kAに設定された所定の閾値と比較した。しかしながら、増分電流が閾値未満であったため、障害は検出されず、分類することができなかった。
【0025】
図2(b)は、送電システムにおける障害検出および分類のための電流分析の増分量を示し、図から、位相A202で測定された電流および位相B204で測定された電流が1.3秒後の増分値を示すことが分かる。位相C206で測定された電流は、位相Aおよび位相Bで測定された電流が増分変化を示したときに、同時に増分電流値を示さなかった。増分電流測定値は、障害の発生後の位相Aおよび位相Bでのみ観察された。障害相を特定するために、位相A202および位相B204で測定された電流の増分値を、1kAに設定された所定の閾値と比較した。しかしながら、電流の増分上昇が閾値未満であったため、障害は検出されず、分類することができなかった。
【0026】
図2(c)は、送電システムにおける障害検出および分類のための電流分析の増分量を示し、図から分かるように、位相B204で測定された電流および位相C206で測定された電流は1.3秒後のそれらの値の増分上昇を示す。位相A202で測定された電流は、位相Bおよび位相Cで測定された電流が増分変化を示すときに、同時に増分電流値を示さない。増分電流測定値は、障害の発生後に送電線の位相Bおよび位相Cでのみ観察された。障害相を特定するために、位相B204および位相C206で測定された電流の増分値を、1kAに設定された所定の閾値と比較した。しかしながら、増分電流が閾値未満であったため、障害は検出されず、分類することができなかった。
【0027】
図2(d)は、送電システムにおける障害検出および分類のための電流分析の増分量を示し、図から分かるように、位相A202で測定された電流、位相B204で測定された電流、および位相C206で測定された電流は1.3秒後の増分値を示す。増分電流測定値は、障害の発生後、送電線の位相A202、位相B204、および位相C206の3つの相すべてで観察された。障害相を特定するために、位相A202、位相B204および位相C206で測定された電流の増分値を、1kAに設定された所定の閾値と比較した。しかしながら、電流の増分上昇が閾値未満であったため、障害は検出されず、分類することができなかった。
【0028】
図1(a)から図1(d)および図2(a)から図2(d)を参照して上述した第1および第2の例から、電流の増分上昇は、図2(a)から図2(d)に示す場合については閾値を上回っていないことが分かる。増分量は、システムのSIR、障害の位置、障害発生角度および障害インピーダンスなどの様々な要因に依存する。上述の2つの例からの線対接地A-g障害の具体例を考慮すると、第1の例で測定された電流の最大増分量は50kAであり、これは1kAの閾値よりも大きく、第2の例で測定された電流の最大増分量は0.5kAであり、これは1kAの閾値よりも小さいことが観察される。これにより、第1の例では障害の発生を検出することができ、第2の例では障害の発生が検出されない可能性がある。
【0029】
したがって、送電線の任意の相で測定された電流の増分量と所定の閾値との比較を使用する障害相の識別は、すべての条件において信頼性があるとは限らない。さらに、閾値は、障害発生、障害の位置、および障害耐性、ならびに電圧のスイング頂点または中心での障害などのパラメータに依存する。したがって、電力スイング中の障害のための電流閾値のない障害検出および分類方法を開発する必要がある。
【0030】
本主題は、特に送電システムにおける電力スイング中に、保護線上のローカル測定値を使用して正確なシングルエンド障害検出および分類を提供する。障害検出および分類は、デルタインピーダンス角とも呼ばれるインピーダンス角の変化に基づく。例示的な方法は、3相の電圧および電流を測定して、送電線の一方の端末または一端における電圧および電流の測定値を得ることを含む。電圧および電流の測定値は、それぞれ電圧信号または電流信号として測定機器から取得される。電圧および電流のサンプル値を取得するために、構成されたサンプル周波数に従って信号がサンプリングされる。サンプル値は、測定サイクルのあらゆる瞬間について取得することができる。例えば、測定サイクルは20ミリ秒(周波数50Hz)であり得、サンプルは1kHzのサンプル周波数で各ミリ秒において入手可能であり得る。電圧および電流の大きさおよび角度は、サンプル値から計算される。取得されたサンプル値の各々について、各位相対接地ループおよび各位相対位相ループのインピーダンス角の変化が、検討中のサンプルから所定の間隔だけ離れた別のサンプルを参照して計算される。さらに、各位相対接地ループおよび各位相対位相について、インピーダンス角の変化の所定数の値について平均値が計算される。計算された平均値は閾値と比較され、比較に基づいて、障害が検出され、対応するループに分類される。例えば、閾値は閾値範囲であってもよく、平均値が閾値範囲内にあるときに障害が検出されてもよく、障害が検出されるループに基づいて障害が分類されてもよい。
【0031】
本主題の上記および他の特徴、態様、および利点は、以下の説明および添付の図面に関してよりよく説明される。可能な限り、同じまたは類似の部分を指すために、図面および以下の説明において同じ参照番号が使用される。いくつかの例が記載されているが、変更、適合、および他の実装も可能である。
【0032】
図3は、本主題の一実施形態による、2電源等価電気回路網のブロック図を示す。2電源等価電気回路網300は、2つの端末であるバスM301とバスN302との間に接続された送電線312を備える。2電源、すなわち電源303および304は、それぞれバスM301およびバスN302に電力を供給する。一例では、電源303および304は、同期発電機などの発電機であってもよい。電気回路網300は、キロボルトの範囲内などの高電圧で、および数十または数百キロメートルなどの長距離にわたって電力を伝送することができる。
【0033】
本主題の技術は、送電線に関連付けられた1つまたは複数のデバイスを用いて実施することができる。デバイスは、変流器、変圧器、回路遮断器、およびインテリジェント電子デバイス(IED)を含み得る。図3に示すように、IED A308は、第1の端末とも呼ばれるバスM301に関連付けられ、IED B310は、第2の端末とも呼ばれるバスN302に関連付けられる。各端末の変圧器はVTとして示され、各端末の変流器はCTとして示されている。IEDは、当技術分野で知られている技術を使用して送電線の電力スイングを検出し、続いて電力スイング中の障害を検出するように構成することができる。
【0034】
一例では、本主題の方法のステップは、1つまたは複数のモジュールによって実行されてもよい。モジュールは、1つまたは複数のプロセッサによって実行可能な命令として実装されてもよい。いくつかの例では、方法はIEDによって実行されてもよいが、他の例では、方法は、IEDから電圧および電流測定値を受信するサーバによって実行されてもよい。例えば、IED308および310などのIEDが方法を実行する例では、モジュールは、IED308および310のプロセッサで実行される。サーバが方法を実行する他の例では、モジュールはサーバのプロセッサによって実行されてもよい。本方法が部分的にIEDによって実施され、部分的にサーバによって実施される場合、モジュール(ステップに応じて)は、それに応じてIEDおよびサーバに分散される。
【0035】
一例では、IED A308およびIED B310は、図3に示すような同様の構成要素を有することができ、変流器、計器用変圧器、ロゴスキーコイル、または他の測定センサなど、送電線312に接続された様々な測定機器から入力測定信号を受信するように構成することができる。IED308および310は、それぞれプロセッサ320-1および320-2の助けを借りて得られた測定値を処理することができる。プロセッサ320-1および320-2は、個別にプロセッサ320と呼ばれる場合がある。プロセッサ320は、専用プロセッサ、共有プロセッサ、または複数の個別プロセッサとして実装されてもよく、そのうちのいくつかは共有されてもよい。IED308および310は、それぞれのプロセッサ320に通信可能に接続することができるメモリ326-1および326-2それぞれを各々備えることができる。メモリ326-1,326-2は、個別にメモリ326と呼ばれる場合がある。とりわけ、プロセッサ320は、メモリ326に記憶されたコンピュータ可読命令をフェッチして実行することができる。一例では、メモリ326-1および326-2は、それぞれ障害検出モジュール322-1および322-2を記憶することができる。障害検出モジュール322-1および322-2は、個別に障害検出モジュール322と呼ばれる場合がある。他の例では、障害検出モジュール322は、メモリ326の外部にあってもよい。メモリ326は、例えば、RAMなどの揮発性メモリ、またはEPROM、フラッシュメモリなどの不揮発性メモリを含む任意の非一時的コンピュータ可読媒体を含むことができる。
【0036】
一例では、送電線の電力スイングを検出する際に、電力スイング中に発生し得る障害を検出するための方法がIEDによって実行され得る。説明のために、障害検出のための方法は、端末M301で実施されるIED308を参照して説明される。しかしながら、理解され得るように、同様の方法が端末NのIED310によって実行される。障害を検出するために、IED308のプロセッサ320は、端末M301で測定された電圧および電流から電圧フェーザおよび電流フェーザを計算するために障害検出モジュール322を実行するための命令をフェッチすることができる。一例では、電圧フェーザおよび電流フェーザは、測定された電圧および電流のサンプル値の平均から計算されてもよい。計算された電圧フェーザおよび電流フェーザを使用して、インピーダンス角を計算することができる。インピーダンス角の変化をいくつかのサンプルについて計算して、インピーダンス角の変化の平均値を計算することができる。インピーダンス角の変化の平均値に基づいて、送電線312の障害を検出することができる。一例では、障害を検出すると、障害検出モジュール322は、対応するループの線保護機能を有効にすることができる。一例では、障害検出モジュール322は、典型的には電力スイング中にブロックされる対応するループの距離保護機能を有効にすることができる。例えば、IED308は、距離保護のために送電線上の障害が検出され得る相を解放するように構成されてもよい。距離保護機能は、当技術分野で公知の技術を使用して実行することができる。
【0037】
さらに、IED308および310は、障害検出モジュール322から得られた結果を例えばサーバに通信するために、それぞれ出力インターフェース324-1および324-2を備えることができる。出力インターフェース324-1および324-2は、個別に出力インターフェース324と呼ばれる場合がある。一例では、本方法がサーバで実施される場合、IED308は、出力インターフェース324を介してサーバに電流および電圧測定値を通信することができる。出力インターフェース324は、ネットワークエンティティ、ウェブサーバ、データベース、外部リポジトリ、および周辺機器などの他の通信、ストレージ、およびコンピューティングデバイスとの対話を可能にする様々なコンピュータ可読命令ベースのインターフェースおよびハードウェアインターフェースを含むことができる。一例では、障害検出パラメータ、電流および電圧測定値などは、出力インターフェース324に接続されたディスプレイ上で見ることができ、またはIED308および310と統合することができる。
【0038】
図4は、本主題の一例の実施形態による、電力スイング中の障害検出のためのデバイスを有する2端末システムを示す。2端末試験システム400は、2つの電源ESM402およびESN404を備えてもよい。一例では、2つの電源ESM402およびESN404は、それぞれ2つのバスM406およびN408に接続された同期発電機であってもよい。バスM406を代替的に第1の端末M406と呼び、バスN408を代替的に第2の端末N408と呼ぶ。一例では、2つの端末M406およびN408にわたって接続され得る2本の送電線である線1(411)および線2(412)が存在し得る。
【0039】
障害検出のための2端末試験システム400は、送電線に関連付けられ得るが簡潔にするために示されていない様々なパラメータを監視、感知、および制御するための複数の追加の構成要素またはデバイスを含むことができることが理解されよう。例えば、回路遮断器、センサ、変流器、変圧器、送電線に接続された負荷、分路リアクトル、インテリジェント電子デバイスIED、保護リレーなどの構成要素が送電線に接続されてもよい。
【0040】
図4に示す一例では、2端末試験システム400は、それぞれ線2および線1の端末Mに接続された一対の回路遮断器CB1(410-1)およびCB3(410-3)を備える。同様に、回路遮断器CB2(410-2)およびCB4(410-4)は、それぞれ線2および線1の端末Nに接続される。回路遮断器CBは、送電線内の電流の流れを形成または遮断することを意図した電気スイッチである。それらは、典型的には、IEDもしくは他の保護デバイスからの信号に基づいて自動的に、または手動で動作するように構成される。回路遮断器は、障害中に起こり得る電流過負荷状態から高圧送電線を保護するために使用される。それらは、障害が発生した場合に電流の流れを遮断し、それによって送電線および送電線に接続された構成要素をさらなる損傷から保護し、障害が除去されると、回路遮断器は正常動作を回復するように構成され得る。
【0041】
送電線411の端末MおよびNには、それぞれIED414、IED416が設けられている。IED414およびIED416は、上述したIED308および310と同様であってもよい。送電線412はまた、各端末においてIEDに接続されてもよいことが理解されよう。一例では、IED414およびIED416は、それぞれ障害検出モジュール420-1および420-2を備えることができる。障害検出モジュール420-1および420-2は、個別に障害検出モジュール420と呼ばれる場合がある。説明を容易にするために、例としてIED414を使用して以下の説明が提供される。しかしながら、IED416も同様の方法で動作することが理解されよう。
【0042】
IED414による電力スイングを検出すると、障害検出モジュール420は、IED414によってトリガされ得る。障害検出モジュール420は、送電システムの対応する端末における各相の電圧測定値および電流測定値を取得する。電圧測定値および電流測定値は、上述したように送電システムの端末に関連付けられた、変電器および変圧器などの1つまたは複数の測定機器を用いて取得することができる。電圧測定値および電流測定値は、端末で得られた電圧および電流のサンプル値を含む。
【0043】
障害検出モジュール420は、測定された3相電圧信号および3相電流信号を前処理する。測定された電圧信号および電流信号の前処理は、電圧フェーザおよび電流フェーザとも呼ばれる各相または測定ループの位相角とともに位相対接地および位相対位相の電圧および電流の大きさを計算することを含む。電圧フェーザおよび電流フェーザは、電圧測定値および電流測定値の全サイクル離散フーリエ変換に基づいて、各位相対接地ループおよび各位相対位相ループについてそれぞれ計算することができる。電圧および電流の測定値は、電圧フェーザおよび電流フェーザから得られた電圧および電流のサンプル値を含み、IED A414のメモリに記憶される。サンプル数Nは、サンプル周波数またはサンプル間隔に依存する。例えば、50Hzの信号が1kHzのレートでサンプリングされる場合、1基本電力サイクル当たり20サンプルが存在し得る。これらの電圧および電流のサンプル値は、メモリ内のバッファに格納され、IED A414によって電力スイングが検出されたときに障害検出に使用される。
【0044】
電力スイング中、3相電力潮流に連続的な変動があり得る。一例として、これは、2端末システム400に接続された発電機のロータ角の相対的な前進または減速に起因し得る。そのような変動は、障害に起因する可能性があり、または典型的な電力スイングであり得る。電力スイングを検出すると、障害を検出するための方法は、IED414によってトリガされ、障害検出モジュール420によって実行され得る。
【0045】
障害検出モジュール420は、各位相対接地ループおよび各位相対位相ループのインピーダンス角の変化の値を計算し、インピーダンス角の変化の値は、所定の間隔だけ離れた2つのサンプルのインピーダンス角の差である。
【0046】
式1は、位相対接地ループおよび位相対位相ループのインピーダンス角の変化の値の計算を提供し、これはデルタインピーダンス角とも呼ばれる。
【0047】
【数1】
【0048】
式中、
ΘLxはループxのインピーダンス角であり、
dΘLxは、ループxのk番目のサンプルのインピーダンス角の変化であり、
ΘLx(k)は、ループxのk番目のサンプルについて計算されたインピーダンス角であり、
Nは、測定サイクル当たりのサンプル数であり、1測定サイクルは、サンプル周波数に基づく所定数のサンプルを含み、
xは、位相対接地または位相対位相ループを表す。
【0049】
xは、値1、2、3、12、23、および31をとることができる。一例では、xが1に等しいとき、位相Aの位相対接地ループに対するインピーダンス角の変化の値が計算される。xが2に等しいとき、位相Bの位相対接地ループに対するインピーダンス角の変化の値が計算される。xが3に等しいとき、位相Cの位相対接地ループに対するインピーダンス角の変化の値が計算される。同様に、xが12に等しいとき、位相ABの位相対位相ループに対するインピーダンス角の変化の値が計算される。xが23に等しいとき、位相BCの位相対位相ループに対するインピーダンス角の変化の値が計算され、xが31に等しいとき、位相CAの位相対位相ループに対するインピーダンス角の変化の値が計算される。
【0050】
説明したように、電圧および電流の各サンプル値について、各位相対接地ループおよび各位相対位相ループのインピーダンス角の変化の値を計算することができる。インピーダンス角の変化は、所定の間隔だけ離れた2つのサンプルのインピーダンス角の差である。一例では、インピーダンス角の変化の値は、現在のサンプルであり、サンプルの総数N=20である、21番目のサンプルについて、位相Aについて計算することができる。インピーダンス角の変化の値は、式1を使用して計算することができ、式1のNおよびkの値を代入すると、次式が得られる。
【0051】
【数2】
【0052】
したがって、21番目のサンプルのインピーダンスの変化の値は、21番目のサンプルについて得られたインピーダンス角と1番目のサンプルについて得られたインピーダンス角との差になる。インピーダンス角の変化の値が計算されると、各位相対接地ループおよび各位相対位相ループについて、インピーダンス角の変化の所定数の値におけるインピーダンス角の変化の平均値が計算される。
【0053】
平均値は、インピーダンス角の変化のためのいくつかの所定数の値を用いて計算されてもよい。例えば、dvLx(21)、dΘLx(22)、dΘLx(23)、dΘLx(24)、およびdΘLx(25)の値などの5つのインピーダンス角の変化の値を平均化することができる。一実施形態では、平均値は、サンプルのインピーダンス角の変化の値を計算するために移動窓平均フィルタを適用することによって計算され、インピーダンス角の変化の所定数の値は、移動窓のサイズである。一例では、移動窓のサイズは、1測定サイクルにおけるサンプル数に等しくてもよい。インピーダンス角の変化の値の移動平均は、式2に示すように計算することができる。
【0054】
【数3】
【0055】
式中、DΘLxはインピーダンス角の変化の平均値であり、dΘLx(q)はq番目のサンプルにおけるインピーダンス角の変化の値であり、qはk-N+lの値をとり、kは現在のサンプルであり、Nはサイクル当たりのサンプルの総数である。他の例では、Nの異なる値が使用されてもよいことが理解されよう。平均値、特に移動平均値を使用することは、インピーダンス角の変化の計算値の変動を平滑化するのに役立つ。
【0056】
各位相対接地ループおよび各位相対位相ループについて計算されたインピーダンス角の変化の平均値は、インピーダンス角の変化の閾値と比較される。閾値は、ユーザ、例えば専門家が設定することができる。一例では、閾値は範囲であり、範囲は1~3度である。インピーダンス角の変化の平均値は、閾値範囲と比較される。したがって、移動平均値が範囲の間にあるか否かを判定することができる。一例では、インピーダンス角の変化の平均値がインピーダンス角の変化の閾値範囲内にあるとき、障害は、位相対接地ループまたは位相対位相ループのうちの1つまたは複数において検出される。障害は、インピーダンス角の変化の移動平均値が範囲内にあるループに応じて、位相対接地障害または位相対位相障害としてさらに分類することができる。インピーダンス角の変化の移動平均値の値が閾値範囲内になければ、障害は検出されない。
【0057】
各ステップで、すなわち各サンプルについて計算された平均値は、障害が検出されるまで、または電力スイング期間中に取得されたサンプルに対応するすべての平均値が比較されるまで、閾値範囲と反復的に比較される。
【0058】
さらに、障害を検出すると、IED414の距離保護機能がトリガされてもよく、これは通常、電力スイング中にブロックされる。距離保護機能は、端末M406と障害の発生点との間の距離を決定するために、位相対接地ループまたは位相対位相ループのうちの1つまたは複数における障害を検出すると、対応する距離測定ループを解放する。
【0059】
したがって、本主題は、インピーダンス角の変化の値に基づく効率的な障害検出技術を提供し、その結果、特に電力スイング中に障害を検出することができる。電力スイング中、インピーダンス角は直線的に変化するが、障害の場合、特に障害がスイング中心電圧に近い場合、インピーダンス角に実質的な変化はない(ほぼ一定)。したがって、これらの障害を検出するために、インピーダンス角の変化の値が利用される。さらに、2端末システム400は、電力スイングの障害を検出するだけでなく、スイング中心電圧またはその付近で発生する可能性のある障害も検出し、2端末システム400を高効率にする。そのようなスイング中心電圧は、電圧の値が0または0に近い場合、例えば、2つのシステムのロータ角が180度離れている場合、2電源等価システムの電圧である。
【0060】
図5は、本主題の一実施形態による、送電線における電力スイング中の障害検出のための方法を示す。方法500が記載された順序は、限定として解釈されることを意図するものではなく、記載された方法ブロックのいくつかは、方法500または代替方法を実施するために異なる順序で実行されてもよい。さらに、方法500は、任意の適切なハードウェア、コンピュータ可読命令、ファームウェア、またはそれらの組み合わせで実施することができる。説明のために、方法500は、図3図4に示す実装形態を参照して説明される。
【0061】
方法500では、ブロック502において、送電システムの端末で各位相の電圧および電流測定値が取得される。電圧測定値および電流測定値は、送電システムの端末に関連付けられた1つまたは複数の測定機器を用いて取得される。電圧測定値および電流測定値は、端末で得られた電圧および電流のサンプル値を含む。一例では、送電システムの端末における各相の電圧測定値は、変圧器または計器用変圧器によって取得されてもよく、送電システムの端末における各相の電流測定値は、変流器によって取得されてもよい。一例では、変流器および変圧器は、端末Mおよび端末Nでインテリジェント電子デバイスIEDに動作可能に接続されてもよい。図4の例では、端末Mを406、端末Nを408で示している。送電線の端末MおよびNで測定された3相電圧測定値および電流測定値は、それぞれIED414およびIED416に供給され得る。線1(411)で監視された電流測定値および電圧測定値から、電圧フェーザおよび電流フェーザが計算される。一例では、電圧フェーザおよび電流フェーザは、全サイクル離散フーリエ変換(DFT)を使用して計算される。
【0062】
ブロック504で、電圧および電流の各サンプル値について、各位相対接地ループおよび各位相対位相ループのインピーダンス角の変化の値が計算される。インピーダンス角の変化は、所定の間隔だけ離れた2つのサンプルのインピーダンス角の差である。インピーダンス角の変化の値を決定するための2つのサンプル間の所定の間隔は、1測定サイクルの持続時間であり、1測定サイクルは、サンプル周波数に基づく所定数のサンプルを含む。
【0063】
ブロック506で、各位相対接地ループおよび各位相対位相ループについて、インピーダンス角の変化の所定数の値におけるインピーダンス角の変化の平均値が計算される。所定数の値は、1から任意の正の整数値をとることができる。一例では、インピーダンス角の変化の平均値を計算するための所定数の値は、5であってもよい。平均値は、サンプルのインピーダンス角の変化の値を計算するために移動窓平均フィルタを適用することによって計算されてもよく、インピーダンス角の変化の所定数の値は、移動窓のサイズである。
【0064】
ブロック508で、各位相対接地ループおよび各位相対位相ループについて計算されたインピーダンス角の変化の平均値は、インピーダンス角の変化の閾値と比較される。一例では、閾値は1~3度の範囲内である。移動平均が閾値範囲内であると判定されると、障害の発生が検出される。
【0065】
ブロック510で、ブロック508の比較に基づいて、障害が検出され、位相対接地ループまたは位相対位相ループの1つまたは複数における障害としてさらに分類される。一例では、比較に基づいて位相対接地ループまたは位相対位相ループのうちの1つまたは複数において検出された障害は、スイング中心電圧にあり得る。移動平均の値が閾値範囲内にある場合、障害は、位相対接地障害、位相対位相障害、または2重位相対接地障害として検出および分類される。障害の発生を検出すると、IEDは、送電システムの端末から障害までの距離を測定するための位相対接地ループまたは位相対位相ループのうちの1つまたは複数における障害の検出時に、距離保護のために対応するループを解放するように構成され、距離は、端末MまたはNと障害の発生点との間の距離である。
【0066】
図6(a)、図6(b)、図6(c)は本主題の例示的な実装形態による障害検出を示す。
【0067】
インピーダンス角の変化の値に基づく障害検出および分類の技術を、図3に示すように500kVの単一回路システム300について試験した。端末MおよびNで測定された3相電圧および3相電圧電流は、端末MのIED308および端末NのIED310に供給された。異なるタイプの障害に対する異なる障害シナリオ、障害抵抗の異なる値、電源対線インピーダンス比、障害位置、スリップ周波数、およびスイング期間の障害位置を作成し、試験した。
【0068】
第1のシナリオを試験し、障害検出に使用される2つの技術について比較した。障害検出のための第1の技術は、当該技術分野で知られている方法であるデルタ電流の存在に基づいていた。障害検出のための第2の技術は、本主題によるインピーダンス角の変化の値に基づいていた。第1の技術および第2の技術の障害検出をシミュレートするために以下のパラメータを使用し、線1上の50kmの障害距離および1.08秒の障害発生時間を有する、位相A上の位相対接地障害をシミュレートおよび試験した。
【0069】
図6(a)は、端末MのIED Aでそれぞれ測定された位相A、B、およびCの3相電圧信号602,604および606ならびに位相A、B、C、および中性点の電流信号608,610,612および614を示す。図6(b)は、障害発生時の3相電流信号616,618および620を示す。グラフは、障害検出のための第1の技術から得られた結果を示し、電流閾値を下回る低いデルタ電流が障害発生時に3相電流について検出されたことが観察された。したがって、位相Aの位相対接地障害は検出されなかった。一方、図6(c)は、本主題のインピーダンス角変化法による障害検出に関する位相A、B、およびCにおける距離測定のための解放信号622,624および626をそれぞれ示している。本主題によるインピーダンス角変化技術によって得られた出力は、位相Aにおける位相対接地障害を検出すると、1.235秒で測定されるべき距離に対する解放信号622をもたらす。
【0070】
図7(a)、図7(b)、図7(c)は、本主題の別の例示的な実装形態による障害検出を示す。
【0071】
第2のシナリオを試験し、障害検出のための2つの技術について比較した。障害検出のための第1の技術は、当該技術分野で知られている方法であるデルタ電流の存在に基づいていた。障害検出のための第2の技術は、本主題によるインピーダンス角の変化の値に基づいていた。第1の技術および第2の技術の障害検出をシミュレートするために以下のパラメータを使用し、線1上の50kmの障害距離および1.08秒の障害発生時間を有する、位相AB上の位相対位相接地障害をシミュレートおよび試験した。
【0072】
図7(a)は、端末MのIED Aでそれぞれ測定された位相A、B、およびCの3相電圧信号702,704および706ならびに位相A、B、C、および中性点の電流信号708,710,712および714を示す。図7(b)は、障害発生時の3相電流信号716,718および720を示す。グラフは、障害検出のための第1の技術から得られた結果を示し、障害相について測定された低いデルタ電流が観察された。図7(b)に示すグラフでは、障害発生中に観察された閾値を超えるデルタ電流がないため、位相AB上の位相対位相対接地障害は検出されなかった。一方、図7(c)は、本主題のインピーダンス角変化法による障害検出に関する位相A、B、およびCにおける距離測定のための解放信号722,724および726をそれぞれ示している。本主題によるインピーダンス角変化技術によって得られた出力は、位相AおよびBにおける位相対位相対接地障害を検出すると、1.235秒で測定されるべき距離に対する解放信号722および724をもたらす。
【0073】
したがって、本主題は、電力スイング中に発生するインピーダンス角の変化の値に基づいて障害を検出および分類するための正確なシングルエンド方法を提供する。本方法はまた、デルタ電流に観察される変化が最小であるかまたは全くないときにスイング中心電圧で発生する障害を検出および分類する。この方法はまた、図4に関して説明したように、インピーダンス角の変化の平均値を使用することによって信頼性の高い位相選択を提供する。信頼できる位相選択は、電力スイング中にブロックされた距離保護のために対応するループを確実に解放する。障害ループを識別すると、距離保護リレーまたはIEDによって距離保護が実行され、電力スイングにおける障害状況に対して作用する。したがって、本主題の方法およびデバイスを使用して、電力スイング中に障害検出および分類を確実に実行することができる。
図1(a)】
図1(b)】
図1(c)】
図1(d)】
図2(a)】
図2(b)】
図2(c)】
図2(d)】
図3
図4
図5
図6(a)】
図6(b)】
図6(c)】
図7(a)】
図7(b)】
図7(c)】