(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-16
(45)【発行日】2024-05-24
(54)【発明の名称】支持構造材の除去方法
(51)【国際特許分類】
B24B 31/00 20060101AFI20240517BHJP
B24C 1/00 20060101ALI20240517BHJP
B24B 57/02 20060101ALI20240517BHJP
【FI】
B24B31/00 C
B24C1/00 B
B24B57/02
(21)【出願番号】P 2023100630
(22)【出願日】2023-06-20
【審査請求日】2023-11-29
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000132161
【氏名又は名称】株式会社スギノマシン
(74)【代理人】
【識別番号】110000165
【氏名又は名称】弁理士法人グローバル・アイピー東京
(72)【発明者】
【氏名】ガルシア イグナシオ
(72)【発明者】
【氏名】松井 大貴
【審査官】須中 栄治
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-042334(JP,A)
【文献】特表2019-530603(JP,A)
【文献】特開2020-157470(JP,A)
【文献】特開2020-093382(JP,A)
【文献】特表2022-553976(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B3/00-3/60
B24B21/00-39/06
B24B53/00-57/04
B24C1/00-11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理液中に研磨材を懸濁させ、
付加製造された支持面を有するワークであって、前記ワークを造形プラットフォームに固定するための支持構造材を前記支持面に有するワーク
から、前記支持構造材を切断面に沿って切断し、
前記支持構造材の残りが前記支持面に付着した前記ワークを、前記研磨材が懸濁した前記処理液中に設置し、
前記処理液のキャビテーション噴流を噴射するノズルを前記処理液中に沈め、
前記ノズルから噴射される前記キャビテーション噴流の噴射軸線と前記支持面との角度が10度~20度となるように、前記処理液中に沈めた
前記ノズルが、前
記キャビテーション噴流を前記ワークに噴射して、前記ワークに付着した前記支持構造材
の残りを除去する、
支持構造材の除去方法。
【請求項2】
前記ノズルは、垂直下向きから水平横向きまでの方向に前記処理液を噴射する、
請求項1に記載の支持構造材の除去方法。
【請求項3】
前記ワークの表面に、圧縮残留応力が付与される、
請求項1又は2に記載の支持構造材の除去方法。
【請求項4】
前記ワークは、網目構造を有する、
請求項1又は2に記載の支持構造材の除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、支持構造材の除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
付加製造によって製造された金属材料は、付加製造を行う際に必要となる、造形プラットフォームに支持するための支持構造材を含む。この支持構造材は、主として、手作業や、切削加工により取り外されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
金属材料から支持構造材を除去するには、熟練した技能が必要である。支持構造材の除去工程は、品質の安全と生産自動化が課題である。
本発明は、ワークからの支持構造材の除去を簡便に行い、容易に自動化することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の第1の観点は、
処理液中に研磨材を懸濁させ、
ワークを造形プラットフォームに固定するための支持構造材を有する支持面を含み、付加製造されたワークを、前記処理液中の研磨材が懸濁した領域に設置し、
前記処理液中に沈めたノズルが、前記処理液のキャビテーション噴流を前記ワークに噴射して、前記ワークに付着する前記支持構造材を除去する、
支持構造材の除去方法である。
【0005】
支持構造材の構造は、例えば、ブロックサポート(Block Support)、アダプティブセルサポート(Adaptive Cell Support)、ロッドサポート(Rod Support)、ラインサポート(Line Support)、ツリーサポート(Tree Support)である。
【0006】
付加製造されるときに、ワークは、造形プラットフォームから、支持構造材によって支持されて造形される。ワークは、造形プラットフォームから支持構造材を切断して切り離される。支持面は、例えば、ワーク表面のうち、支持構造材と付着していた部分である。支持面には、支持構造材の先端部が付着する。支持構造材の先端部は、支持面に残留する。例えば、支持構造材は、ワークの支持面からわずかに残留する。ここで、わずかとは、例えば、0.3~1mm(両端含む)程度の高さである。
【0007】
ノズルと支持面との角度は、10度~20度であって良い。
処理液は、例えば水である。処理液は、防錆剤を含んでも良い。
研磨材は、研磨粒子である。研磨材は、例えば、セラミックスである。研磨材は、例えば、アルミナ、ガーネット、ジルコニアである。
支持構造材の除去と同時に、支持面が平滑化される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ワークからの支持構造材の除去を簡便に行い、容易に自動化できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本実施形態のワークの支持構造材の除去方法を示すフローチャート
【
図2】本実施形態の造形プラットフォーム上に形成されたワークの模式図
【
図3】本実施形態の造形プラットフォームから切り離されたワークの模式図
【
図5】実施例1の支持構造材の除去前後のワークの写真
【
図6】実施例2の支持構造材の除去前後のワークの写真
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1に示すように、本実施形態のワークの支持構造材除去方法は、ワーク3を付加製造し(ステップS1)、ワーク3の支持構造材3bを切断し(ステップS2)、ワーク3及びノズル15を研磨材2を含む処理液1内に浸漬し(ステップS3)、キャビテーション噴流処理を行う(ステップS4)、方法である。
【0011】
ステップS1において、付加製造は、例えば、3Dプリントによって行われる。3Dプリントは、例えば、粉末床溶融結合(PBF:Powder Bed Fusion)である。付加製造されたワーク3は、引張残留応力を有する。
図2に示すように、付加製造されるワーク3は、造形プラットフォーム3cに多数の支持構造材3bによって支持される。
【0012】
ステップS2において、切断面9で支持構造材3bを切断して、ワーク3が造形プラットフォーム3cから分離する。好ましくは、切断面9は、ワーク3の近傍である。支持構造材3bの先端部が接続している面が、支持面3aである。支持面3aは、曲面であっても良い。
図3に示すように、支持構造材3bの一部3b1は、支持面3aに付着している。支持構造材3bの長さは、ワーク3の形状や製造時の造形プラットフォームに造形された姿勢によって異なる。ワーク3に付着している支持構造材3b1の長さ3b2は、例えば、0.3mm~100mmである。好ましくは、支持構造材3b1の長さ3b2は、0.3~20mm、より好ましくは0.3mm~0.5mmである。
なお、支持構造材3bは、角柱状でも良い。支持構造材3bは、ブロックサポートや、アダプティブセルサポートや、ラインサポートや、ツリーサポートでも良い。
【0013】
次に、ワーク3の支持構造材除去装置10について述べる。
図4に示すように、支持構造材除去装置10は、処理槽11と、高圧処理液源13と、ノズル15と、移動装置16と、圧力計17と、攪拌液源18と、攪拌ブロック19と、攪拌ノズル20と、を含む。
【0014】
処理槽11は、上方に開口する。処理槽11は、処理液1と、研磨材2を貯留する。高圧処理液源13は、例えばピストンポンプである。高圧処理液源13は、処理液1を加圧し、ノズル15に供給する。
【0015】
移動装置16は、例えば、垂直多関節ロボット、水平多関節ロボット、直交軸ロボット、パラレルリンクロボット等のロボットである。移動装置16は、コラムトラバース方式のマシニングセンターの主軸頭移動装置であっても良い。
【0016】
ノズル15は、移動装置16に配置され、移動装置16によって移動する。ノズル15は、処理槽11に貯留された処理液1内に浸漬される。ノズル15は、噴射軸線15aに沿って、処理液1を噴射する。例えば、噴射軸線15aは、水平から鉛直下向き(
図4では鉛直下向き)に延びる。好ましくは、ノズル15は、処理液1と噴流6との間に渦が発生して、キャビティの発生が促進する構造を有する。
圧力計17は、高圧処理液源13からの吐出圧力を検出する。
【0017】
攪拌液源18は、例えば、遠心ポンプ、ダイアフラムポンプである。攪拌ブロック19は、処理槽11の底部に配置される。攪拌ブロック19は、攪拌液源18と接続する。攪拌ブロック19は、攪拌ノズル20を有する。
【0018】
ステップS3において、ワーク3は、処理槽11に貯留された処理液1内に浸漬する。支持面3aは、ノズル15に向いて(
図4では鉛直からやや上向き)設置される。支持面3aは、例えば、鉛直に配置されても良い。支持面3aは、鉛直から傾斜しても良い。噴射軸線15aと、支持面3aとの角度4は、例えば、0度~90度であり、特に好ましくは、10度~20度である。噴射軸線15aに対して支持面3aが傾斜又は
平行に配置されることは、支持構造材3b1の除去を促進する。支持構造材がブロックサポートや、アダプティブセルサポートのような、強度の高い支持構造材の場合であっても、角度4を10度~20度とすれば、支持構造材を効果的に除去できる。
【0019】
ステップS4において、攪拌ノズル20は、処理液1を処理槽11内に噴射し、研磨材2を攪拌する。研磨材2は、処理槽11を浮遊し、混濁液5となる。ワーク3は、混濁液5の中にある。ノズル15は、処理液1中に浸漬されて、処理液1を噴射する。ノズル15の噴流6は、研磨材2を巻き込んで、支持面3aに衝突する。そして、矢印7に示すように、支持面3aに沿って噴流6が流れる。このとき、研磨材2も矢印7の方向に流れる。そして、支持構造材3b1が除去される。また、支持面3aが平滑化される。研磨材2が支持構造材3b1の近傍を流れるため、支持構造材3bの削除が促進される。
なお、支持構造材3b1の高さ3b2が高いときは、噴流6は、支持構造材3b1の根元(支持構造材3b1とワーク3との境界部)付近に衝突する。このとき、研磨材2を伴う噴流6は、支持構造材3b1を根元付近から折る。さらに研磨材2を伴う噴流6が支持面3aに残った支持構造材3b1を削り落とす。
ノズル15から噴出された噴流6は、キャビティの発生を促進する。キャビティは、流体の流れの中で圧力差により短時間に発生し、消滅する微細気泡である。キャビティは、噴流6に乗って支持面3aの周囲に導入される。キャビティの消滅時に局所的に流体が勢いよく流れて支持面3aの表面に衝突し、ピーニング処理される。支持面3aにキャビテーション噴流を衝突させることによるピーニング処理(以下、キャビテーションピーニング)を行うと、支持面3aの表面に残留圧縮応力が与えられる。
【0020】
ワーク3に付随する支持構造材3b1は、除去される必要がある。本発明によれば、ワーク3に付随する支持構造材3b1を効果的に除去できる。
また、付加製造されたワーク3の表面には、溶融が不完全な領域が存在する場合がある。本発明によれば、ワーク3の表面を研削して、支持面3aに残存する溶融不完全領域を除去できる。
本実施形態の支持構造材の除去方法によれば、ワーク3が網目状であっても、支持構造材を効果的に除去できる。また、ワーク3の内部に配置される支持構造材も効果的に除去できる。
【0021】
付加製造されたワークは、引張圧縮応力を有する。付加製造されたワークの疲労強度の向上が望まれる場合がある。本発明によれば、付加製造されたワークの表面に圧縮残留応力を付与するため、疲労強度が向上する。
【実施例1】
【0022】
図5を参照して、パウダーベッド方式による積層造形によりTi-6Al-4V合金のワーク103を製造した。ワーク103は、平板状の支持面103aを有する。支持構造材103b1は、ブロックサポートである。ワーク103は、支持面103aから2mmの高さで支持構造材3bを切断した。ワーク103に付着する支持構造材103b1は、支持面103aの一面に均一に配置される。
噴射条件:
処理液:水
研磨材:アルミナ#150 (平均粒径70~100μm)
研磨材量:処理液に対して30重量%
ワーク浸漬深さD2:300mm(
図4参照)
角度4:20度
ノズル径:0.5mm
噴射圧力:130MPa
送り速度:0.3mm/s
ノズルオフセット量D1:50mm(
図4参照)
ノズル移動経路:間隔27を開けた複数の平行線上を折り返しながら走査する経路25(
図5の上図参照)
間隔27:4mm
通過回数:7回
【0023】
液中噴射前後のワーク3の表面を光学顕微鏡によって撮影した。光学顕微鏡は、キーエンスVXH-6000を利用した。また、液中噴射前後のワーク3の表面残留応力を、X線応力測定法(cosα法)によって測定した。X線応力測定装置は、パルステック工業μ-X360sポータブル型X線残留応力測定装置を利用した。残留応力は、ワーク3の複数の特定の部位について測定した。
【0024】
(結果)
実施例のワーク3の支持面103aのキャビテーション噴流処理の前後の写真を
図5に示す。
図5の上図が処理前である。
図5の下図が処理後である。実施例では、ワーク103に付着する支持構造材103bは、効果的に除去された。実施例の処理後の表面残留応力は-205MPaであった。
【実施例2】
【0025】
図6を参照して、パウダーベッド方式による積層造形によりTi-6Al-4V合金のワーク203を製造した。ワーク203は、外科用インプラントである。ワーク203は、網目構造を有する。ワーク203は、ワーク203の内部にも支持構造材203b1を有する。支持構造材203b1はロッドサポートである。ワーク203は、全体として丸みを帯びており、支持構造材203の高さや、幅や、厚みは、支持構造材203b1ごとに異なる。ワーク3に付着する支持構造材203b1の寸法は、例えば、次の通りである。
幅(
図6の左右方向):6~10mm(部位ごとに異なる)
厚み(
図6の紙面に垂直な方向):1mm
高さ3d2:25~30mm(部位ごとに異なる)
ワーク3を、支持構造材203b1が水平に伸びるように、処理槽11に設置した。ノズル15は、下向きに設置した。つまり、支持面203aは、噴射軸線15aとほぼ平行である。ワーク203に、次の条件で液中噴射処理を行った。
噴射条件:
角度4:0度~20度(部位ごとに異なる)
送り速度:1mm/s
ノズル移動経路: 支持構造材203b1とワーク203との境界付近を通る経路29(
図6の上図)
通過回数:1回
その他の条件は、実施例1と同一である。
【0026】
(結果)
本実施例のワーク203のキャビテーション噴流処理の前後の写真を
図6に示す。
図6の上図が処理前である。
図6の下図が処理後である。本実施例では、ワーク203に付着する支持構造材203b1は、効果的に除去された。槽内部には、支持構造材203b1が大きな塊となって落下していた。実施例の処理後の表面残留応力は、-205MPaであった。
【0027】
支持構造材の除去は、次のように進むと考えられる。まず、支持構造材203b1は、研磨材と処理液の運動エネルギーによって、支持面203aの付近で折れて、ワーク203から切り離される。次いで、研磨材の流れや、処理液の動圧や、キャビティの破裂による衝撃力によって、支持面203aに残留した支持構造材が除去される。
【0028】
本発明は前述した実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であり、特許請求の範囲に記載された技術思想に含まれる技術的事項の全てが本発明の対象となる。前記実施形態は、好適な例を示したものであるが、当業者ならば、本明細書に開示の内容から、各種の代替例、修正例、変形例あるいは改良例を実現することができ、これらは添付の特許請求の範囲に記載された技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0029】
1 処理液
2 研磨材
3 ワーク
3a 支持面
3b、3b1 支持構造材
6 噴流
15 ノズル
【要約】
【課題】ワークからの支持構造材の除去を簡便に行い、容易に自動化する。
【解決手段】処理液(1)中に研磨材(2)を懸濁させ、ワーク(3)を造形プラットフォーム(3c)に固定するための支持構造材(3b1)を有する支持面(3a)を含み、付加製造されたワーク(3)を、前記処理液(1)中の研磨材(2)が懸濁した領域に設置し、処理液(1)中に沈めたノズル(15)が、処理液(1)のキャビテーション噴流(6)をワーク(3)に噴射して、ワーク(3)に付着する支持構造材(3b1)を除去する。
【選択図】
図1