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特許7490182セルロースナノファイバーおよび生分解性樹脂を含有する生分解性複合材料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-17
(45)【発行日】2024-05-27
(54)【発明の名称】セルロースナノファイバーおよび生分解性樹脂を含有する生分解性複合材料
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20240520BHJP
   C08L 1/04 20060101ALI20240520BHJP
   C08L 101/16 20060101ALN20240520BHJP
【FI】
C08L101/00
C08L1/04
C08L101/16
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019139856
(22)【出願日】2019-07-30
(65)【公開番号】P2021021041
(43)【公開日】2021-02-18
【審査請求日】2022-07-26
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】311007545
【氏名又は名称】GSアライアンス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591075467
【氏名又は名称】冨士色素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100156122
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 剛
(72)【発明者】
【氏名】森 良平
【審査官】佐藤 のぞみ
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-096624(JP,A)
【文献】特開2011-140632(JP,A)
【文献】特開2016-176052(JP,A)
【文献】特開2010-042604(JP,A)
【文献】特開2008-248202(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-1/32
C08L 101/00-101/16
C08L 67/00-67/08
C08B 1/00-17/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースナノファイバーおよび生分解性樹脂を含む生分解性複合材料であって、前記セルロースナノファイバーおよび生分解性樹脂の合計量100重量%中、セルロースナノファイバーの含有量が5~30重量%であり、前記生分解性樹脂は、
ポリ乳酸;ポリカプロラクトン;デンプン系生分解性ポリマー;ポリヒドロキシブチレートバリレート、ポリヒドロキシアルカノエート;酢酸セルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース;ポリブチレンスクシネート;ポリブチレンアジペート-co-テレフタレートコポリマーおよびそれらの組合せから選択され、
前記セルロースナノファイバーが、木片または木材チップをソルボサーマル処理に付す工程、ソルボサーマル処理した木材チップを解砕する工程、および解砕した木材チップを化学処理に付してセルロースナノファイバー(CNF)を得る工程をこの順序で含む製造方法により製造され、ソルボサーマル処理を臨界または亜臨界条件下で行い、化学処理が酸化処理である、生分解性複合材料。
【請求項2】
木片または木材チップが針葉樹または広葉樹の木片または木材チップである、請求項1に記載の生分解性複合材料。
【請求項3】
さらに、ソルボサーマル処理工程の前にリグニンを添加する工程を含む、請求項1または2に記載の生分解性複合材料。
【請求項4】
請求項1~3いずれかに記載の生分解性複合材料を用いて形成された成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生分解性樹脂にセルロースナノファイバーを配合することにより、強度および生分解性が促進された生分解性複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックゴミによる環境汚染を防止するために、世界中で、プラスチックの使用量の減量(Reduce)、再使用(Reuse)および再資源化(Recycle)の「3R運動」が進められている。再使用および再資源化のために、プラスチックの分別回収が行われている。回収されたプラスチックゴミは中国や東南アジアに輸出していたが、これらの国々がプラスチック廃棄物の輸入を禁止したことで、日本国内でプラスチック廃棄物が滞留している。近年、特に、海洋ゴミへの関心が高まっている。プラスチックゴミが海洋に流れ込むと、そのまま漂流しているだけではなく、長距離、長時間漂っているうちに微細化して1mmに満たないマイクロプラスチックとなり、それが生態系を破壊するという大きな問題を生み出している。回収したプラスチックゴミを埋め立て処分したものの、洪水により河川へ流入し、海まで流されることもあり、2010年の推計では、日本において、陸上から海洋に流出したプラスチックゴミの発生量は2~6万t/年であった(非特許文献1)。
プラスチックの使用量を減量することが解決策として強力であるが、現代の社会において使用量をゼロにすることはできず、理想通りにはいかない。
【0003】
それゆえ、様々な生分解性プラスチックが開発されてきた。生分解性プラスチックは、微生物などによって分解し、最終的に二酸化炭素と水になるという性質を有している。生分解性プラスチックの例として、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシアルカノエート、ポリブチレンスクシネート、ポリブチレンアジペートとテレフタレートとのコポリマー、ポリグリコール酸、変性ポリビニルアルコール、カゼインがあり、デンプン由来の生分解性プラスチックも開発されている。
【0004】
生分解性プラスチックは環境汚染を低減するものとして期待されるが、強度が低いという欠点を有する。そこで、生分解性を損なわずに強度を上げるために、植物由来のバイオマスを混合した複合材料の研究が進んでいる(特許文献1および2など)。さらに、バイオマス/生分解性樹脂複合材料の強度を向上させるために、バイオマスと生分解性樹脂との界面における異相の界面における相溶性を改善する試みも行われている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2000-160034号公報
【文献】特開2002-069303号公報
【文献】特開2018-100312号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】J. R. Jambeck et al., "Plastic waste inputs from land into the ocean; Science 13 Feb. 2015, p.768
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のような生分解性複合材料の研究は強度の向上に注力しているが、複合化による生分解性への影響についてはあまり知見がない。
そこで、本発明者は、生分解性樹脂の強度を増強するとともに、生分解性を向上させることを課題として、新たな生分解性複合材料を検討した。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、セルロースナノファイバーおよび生分解性樹脂を含む生分解性複合材料中、特定量のセルロースナノファイバー(CNF)を配合することによって、生分解性樹脂の引張強度を15%以上増進し、その分解率を7.5%以上促進させることに成功した。
【0009】
より具体的には、本発明は、セルロースナノファイバーおよび生分解性樹脂を含む生分解性複合材料であって、前記セルロースナノファイバーおよび生分解性樹脂の合計量100重量%中、セルロースナノファイバーの含有量が2重量%以上、好ましくは5重量%、より具体的には、5~30重量%である、生分解性複合材料を提供する。
【0010】
本発明に好適に用いることができるセルロースナノファイバーは、木材チップをソルボサーマル処理し、解砕した木材粉砕物を化学処理して得ることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、生分解性樹脂に特定のCNFを配合して生分解性複合材料を調製するので、引張強度を増強し、かつ、生分解性を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
生分解性樹脂にセルロースナノファイバー(CNF)を配合してCNF含有生分解性複合材料を調製し、それらの生分解性複合材料の引張強度および生分解性を向上させた。
【0013】
本発明によるセルロースナノファイバーおよび生分解性樹脂を含む生分解性複合材料に用いることができる生分解性樹脂の例示は、ポリ乳酸 (PLA);プルランおよびカードランなどの微生物多糖類;ポリカプロラクトン (PCL);デンプン系生分解性ポリマー;ポリヒドロキシブチレート (PHB)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシバレレート) (PHBV)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート) (PHBH)、ポリヒドロキシブチレートバリレート (PBAV)などのポリヒドロキシアルカノエート (PHA)などを含む、全ての微生物由来の生分解性プラスチック;ポリビニルアルコール;ポリアミノ酸類;キチンおよびキトサン;酢酸セルロース、ヒドロキシエチルセルロース (HEC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース (HPMC)などを含む、全てのセルロース系生分解性プラスチック;ポリグリコール酸;ポリエチレンテレフタレートスクシネート (PETS);ポリブチレンスクシネート (PBS)およびポリブチレンアジペート-co-テレフタレート (PBAT)などのあらゆる全ての生分解性樹脂およびそれらの組合せを含む。
【0014】
本発明によるセルロースナノファイバーおよび生分解性樹脂を含む生分解性複合材料に用いることができるCNFは、従来の製造方法(例えば、特許文献4,5など)で製造されたものとは異なり、予め化学処理を経ることなしに木材チップなどの大きさの木材を、そのままで、ソルボサーマル処理して得られるものである。
より詳しくは、本発明に用いるCNFは、木材チップをソルボサーマル処理に付す工程、ソルボサーマル処理した木材チップを解砕する工程、および解砕した木材チップを化学処理に付す工程を含む製造方法により製造される。
本明細書中で用いるソルボサーマル処理とは、木材チップ等の原料を溶媒に浸漬し、高温高圧条件下で亜臨界から超臨界状態に一定時間付する処理をいい、特に溶媒として水を用いる場合を水熱処理という場合がある。
【0015】
上記製造方法の原料となる木材チップは、天然セルロースを取り出せる原料であればいずれのものであってもよく、例えば、広葉樹または針葉樹などの木材のチップのほか草本類を原料としてもよい。また、本発明における木材チップには木片など好ましくは0.5×0.5cm~2.0×2.0cm、より好ましくは0.7×0.7cm~1.5×1.5cm、最も好ましくは0.8×0.8cm~1.2×1.2cmの大きさを有するものが含まれる。
【0016】
上記製造方法のソルボサーマル処理工程は、原料としての木材のチップや草本類をそのまま溶媒に浸漬し、高温、高圧条件の亜臨界から超臨界状態に付す。ここで用いる溶媒としては、水、メタノール、エタノール、プロパノール、N-メチルピロリドンのようなピロリドン系溶剤、酢酸ブチルのようなアセテート系溶剤、ジエチレングリコールモノメチルエーテルのようなグリコールエーテル系溶剤、メチルエチルケトンのようなケトン系溶剤、トルエン、キシレンのような芳香族溶剤、パラフィンなどの炭化水素系溶剤などの溶媒を挙げることができる。溶媒に浸漬したチップ等は、1~300気圧下、~400℃の、好ましくは2~250気圧下、5~200℃の、より好ましくは25~100気圧下、100~380℃の、最も好ましくは25~100気圧下、150~250℃であって亜臨界から超臨界状態となる範囲内に60~180分間付して処理する。これらのソルボサーマル処理により、チップ等は柔らかい膨潤した木材粉砕物の状態になる。本発明の製造方法は、木材チップ等をそのままソルボサーマル処理工程に付することを特徴とする。従来のCNFの製造方法では木材チップ等を最初に化学処理していたが、上記製造方法では木材チップなどある程度の大きさを有するセルロース原料を、化学処理を経ずにまずソルボサーマル処理に付するところに特徴がある。この製造方法により製造したCNFは樹脂と混合した場合に、複合材料の物性を高める。
【0017】
つぎに、得られた木材粉砕物は解砕工程に付して木材粉砕物等のパルプをさらに微細化する。この解砕工程には、ボールミル、ディスクミル、湿式カッターミル、圧力式ホモジナイザーなどを用いることができる。この解砕工程により木材は0.05~0.5mmのより小さな木材粉砕物となる。
【0018】
最後に、解砕した木材粉砕物を化学処理する。化学処理としては、例えば、酸化処理、加水分解処理、塩基処理、またはこれらの組み合わせが挙げられる。酸化処理には、オゾン、次亜塩素酸またはその塩、過硫酸またはその塩、過有機酸またはその塩などの酸化剤を用いることができる。この酸化処理には、N-オキシル化合物などの酸化触媒を併用してもよい。また、加水分解処理には、セルラーゼ系酵素、ヘミセルラーゼ系酵素などの加水分解酵素を用いることができる。塩基処理には苛性ソーダ、KOHなどを用いることができる。
【0019】
また、ソルボサーマル処理に付す前に、木材チップなどにリグニンを加えることもできる。リグニンを加えることにより、生成されるCNFの表面が疎水化される(疎水化CNF)。疎水化CNFと樹脂とを混合して生成する複合材料では、リグニンを加えない非疎水化CNFの複合材料と比べて引張強度が高くなるのでより好ましい。木材粉砕物とリグニンの混合比は木材粉砕物/リグニン(重量比)=0.5~2、好ましくは0.7~1.5、より好ましくは0.8~1.2ぐらいが好ましい。
【0020】
本発明によるセルロースナノファイバーおよび生分解性樹脂を含む生分解性複合材料には、強度および生分解性を阻害しないかぎり、種々の添加物を配合することができる。例えば、実用上、着色するために、有機顔料、無機顔料を添加することができる。
【0021】
本発明による生分解性複合材料を材料として用いて様々な樹脂成型品を成形することができる。
このような樹脂成形品として、射出成型法により成形されたスプーン、ナイフ、フォークなどのカトラリー製品、容器、食器、家電製品部材、自動車部材、電子部品、携帯電話用部品やレンズ、スイッチ類、光ディスク、注射器などの医療用具など;真空成型法により成形されたトレー、容器、食器など;ブロー成型法により成形されたボトル、容器など;フィルム成型法またはインフレーション成型法により成形されたフィルム、シート、袋など;熱プレス成型により成形された容器、食器、家電製品部材、自動車部材など;発泡成形法により成形された各種発泡成形品、他の成形法を含めた手法でも成形できるあらゆる樹脂成型品が挙げられる。
【実施例
【0022】
[実施例1]
木材チップ(1.0x1.0cm)1kgとN-メチルピロリドン10Lとを混合してオートクレーブ(200℃、25気圧)中で2時間ソルボサーマル処理した。得られた木材粉砕物を次亜塩素酸10%の水溶液中90℃で1時間熱処理を施して、本発明のCNF(ソルボサーマル処理/化学処理CNF:実施例においては、本発明のCNFを単に「CNF」と称する。)を得た。
ポリ乳酸(PLA; Natureworks社製)100gに対して、上記で製造したCNF30gを配合して、二軸押出機により混合して、約23重量%のCNFを含有する生分解性複合材料を調製した。
PLAおよびそれにCNFを混合して得られた生分解性複合材料の引張特性(引張強度、破断伸び、弾性率)および曲げ特性(曲げ強度)を、それぞれ、精密万能試験機オートグラフAG-Xおよび小型卓上試験器EZ-X(株式会社島津製作所製)を用いて測定し、試験器に付属するマクロ機能を搭載した「TRAPEZIUM LITE X」によりデータ処理を行った。測定結果を表1に示す。
【0023】
[引張特性試験]
JIS K 7161:1994に準拠して、生分解性複合材料の引張強度、弾性率および破断伸びを測定した。
試験速度 :20 mm/分
ダンベル試験片寸法:1Bサイズ
[曲げ特性試験]
JIS K 7171:1994に準拠して、生分解性複合材料の曲げ強度を測定した。
試験速度 :2 mm/分
試験片寸法 :80×10×4 mm
圧子先端半径R1 :5 mm
支点先端半径R2 :5 mm
支点間距離 :60 mm
【0024】
[実施例2~11]
実施例1と同様にして、ポリ乳酸 (PLA)の代わりに、ポリカプロラクトン (PCL)、ポリブチレンスクシネート (PBS)、ポリヒドロキシアルカノエート (PHA)、ポリブチレンアジペート-co-テレフタレート (PBAT)、デンプン系樹脂、デンプン系樹脂とPLAとの混合樹脂(重量比6:4)、デンプン系樹脂とPBATとの混合樹脂(重量比6:4)、酢酸セルロース、ヒドロキシエチルセルロース (HEC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース (HPMC)を用いて、それぞれ、約23~30重量%のCNFを含有する生分解性複合材料を得た。
各生分解性樹脂およびそれぞれにCNFを混合して得られた生分解性複合材料の引張強度、引張ストローク、弾性率、曲げ強度および曲げストロークを測定した。測定結果を表1に示す。
【0025】
【表1】
【0026】
いずれの生分解性樹脂も、CNFを配合することにより、引張強度が増強されることが確認できた。
【0027】
[比較例1~3]
実施例1と同様にして、ポリ乳酸 (PLA)、ポリブチレンスクシネート (PBS)、ポリブチレンアジペート-co-テレフタレート (PBAT)を用いて、それぞれ、約2重量%の未処理CNF(本発明のCNFの原料)を含有する生分解性複合材料を得た。
各生分解性樹脂およびそれぞれに未処理CNFを混合して得られた生分解性複合材料の引張強度を測定した。測定結果を表2に示す。
【0028】
【表2】
【0029】
未処理CNFは、生分解性樹脂に対する分散性が低く、約2重量%を超えて配合することができなかった。
しかも、未処理CNFを配合することにより、引張強度が低下した。
【0030】
[実施例12]
ポリ乳酸(PLA)を用いて、CNF配合による生分解性特性への影響を調べた。
PLA100gに対して、CNFを、5g、11gまたは30g配合して、それぞれ、CNF含有量が約5重量%、約10重量%または約23重量%のCNFを含有する生分解性複合材料を得た。
PLAおよびそれにCNFを混合して得られた生分解性複合材料の生分解性特性の結果を表3に示す。
【0031】
[生分解性試験]
試料となる材料を凍結粉砕して粉体にしたあと、プロテイナーゼKによる酵素加水分解試験を行った。
0.2M NaH2PO4 2.8mLを0.2M Na2HPO4 22.8mLを混合し、蒸留水を加えて全量を50mLにして、pH7.7のリン酸バッファーを調製した。別途、Tritirachium album由来プロテイナーゼK(白色結晶性粉末;冨士フィルム和光純薬株式会社)を所定量計量し、リン酸バッファーに溶解させて、酵素溶液とした。
酵素溶液に所定量の材料を入れ、ボルテックスでいったんよく撹拌して測定用試料を調製し、これを恒温振とう器にセットした。所定時間後に測定用試料を取り出し、氷冷した後、0.2μメンブランフィルターでろ過し、ろ液を蒸留水で5倍希釈した。希釈したろ液の水溶性全有機炭素濃度(TOC)をTOC測定装置(島津製作所, TOC-VCSH)で測定した。
ろ液のTOC値から、酵素由来のTOC値と材料中の微量水溶性成分に由来するTOC値とを差し引いて、材料の正味TOC値とした。酵素由来のTOC値は酵素溶液を用いて測定し、材料由来のTOC値は、各材料をリン酸バッファーに投入し、ボルテックスでよく撹拌して得られた懸濁液を用いて測定した。
ポリ乳酸の繰り返し単位 (-O-CH(CH3)-CO-;M=72)の中の炭素量はC3=36なので、ポリ乳酸の重量のちょうど半分が炭素量となる(36/72=50%)。例えば、5mLリン酸バッファー中の10mgポリ乳酸が100%生分解(加水分解)されて水溶化すると、5mL水溶液中の炭素量が5mgとなるので、TOC値は5mg/5mL=1mg/mL=1000ppmと計算される。このとき、酵素分解試験後のTOC値が500ppmならば生分解率50%となる。なお、酵素によりポリ乳酸部分のみが加水分解されて水溶化されるが、セルロースナノファイバーは分解されないと仮定して、計算を行った。
【0032】
[実施例13~17]
実施例12と同様にして、ポリ乳酸 (PLA)の代わりに、ポリカプロラクトン (PCL)、ポリブチレンスクシネート (PBS)、ポリブチレンアジペート-co-テレフタレート (PBAT)、ポリヒドロキシブチレートバリレート (PBAV)、デンプン系樹脂とPBATとの混合樹脂、酢酸セルロース、ヒドロキシエチルセルロース (HEC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース (HPMC)および、それぞれに約5~25重量%のCNFを含有する生分解性複合材料を得た。
各生分解性樹脂およびそれぞれにCNFを混合して得られた生分解性複合材料の生分解性特性の結果を表3に示す。
【0033】
【表3】
【0034】
表3から分かるように、CNFを5重量%以上配合すると、生分解性樹脂の強度が増強するだけではなく、同時に分解率が向上することが確認された。
【0035】
[比較例]
実施例12と同様にして、ポリ乳酸(PLA)に約2重量%の未処理CNFを含有する生分解性複合材料の生分解特性の結果を表3に示す。
PLAに未処理CNFを混合して得られた生分解性複合材料の生分解性特性の結果を表4に示す。
【0036】
【表4】
【0037】
未処理CNFは、生分解性樹脂に対する分散性が低く、約2重量%を超えて混合することができなかった。
未処理CNFを配合することにより、生分解性が低下した。
【0038】
未処理のセルロースナノファイバーは樹脂に対する分散性が低く、約2重量%を超えて混合することができなかった。そして、樹脂に対して上限の2重量%を配合すると、強度も生分解性も低下する。一方、本発明のセルロースナノファイバーは生分解性樹脂に対する分散性が高く、所望する強度に応じて樹脂に配合することができる。さらに、驚くべきことに、生分解性樹脂の生分解率を向上させる効果が実証された。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明のセルロースナノファイバーを生分解性樹脂に配合すれば、強度と生分解性が同時に向上した生分解性樹脂組成物を得ることができる。