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特許7490185解析対象の3次元再構成装置、3次元再構成方法及び3次元再構成プログラム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-17
(45)【発行日】2024-05-27
(54)【発明の名称】解析対象の3次元再構成装置、3次元再構成方法及び3次元再構成プログラム
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/26 20060101AFI20240520BHJP
   H01J 37/22 20060101ALI20240520BHJP
   G06T 7/55 20170101ALI20240520BHJP
【FI】
H01J37/26
H01J37/22 501Z
G06T7/55
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2021552414
(86)(22)【出願日】2020-10-14
(86)【国際出願番号】 JP2020038798
(87)【国際公開番号】W WO2021075465
(87)【国際公開日】2021-04-22
【審査請求日】2023-09-29
(31)【優先権主張番号】P 2019190733
(32)【優先日】2019-10-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】510222006
【氏名又は名称】株式会社バイオネット研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】515130201
【氏名又は名称】株式会社Preferred Networks
(74)【代理人】
【識別番号】100122574
【弁理士】
【氏名又は名称】吉永 貴大
(72)【発明者】
【氏名】大橋 正隆
(72)【発明者】
【氏名】前田 新一
【審査官】右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】Sjors H. W. Scheres,A Bayesian View on Cryo-EM Structure Determination,Journal of Molecular Biology,2012年01月13日,volume 415, issue 2, pages 406-418
【文献】Michael Stolken et al.,Maximum likelihood based classification of electron tomographic data,Journal of Structural Biology,2011年01月,volume 173, issue 1, pages 77-85
【文献】Pilar Cossio et al.,BioEM: GPU-accelerated computing of Bayesian inference of electron microscopy images,Computer Physics Communications,2017年01月,volume 210, pages 163-171
【文献】Ali Punjani et al.,Building Proteins in a Day: Efficient 3DMolecular Structure Estimation withElectron Cryomicroscopy,IEEE TRANSACTIONS ON PATTERN ANALYSIS AND MACHINE INTELLIGENCE,2017年04月,vol.39, no.4, pp.706-718
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/00
G06T 7/55
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子顕微鏡により撮影された電顕画像から抽出した複数枚の粒子画像と、電顕画像の撮影条件から解析対象の3次元構造を推定するシステムにおける3次元再構成装置であって、
前記解析対象の3次元構造を投影することにより得られる投影像に関し、
前記解析対象の3次元構造の事後確率の下界を前記投影条件の確率分布及び前記解析対象の3次元構造に関して最大化することによって、前記解析対象の投影条件と3次元構造とを推定する、3次元再構成装置。
【請求項2】
前記投影条件の確率分布に関する前記解析対象の3次元構造の事後確率の下界の最大化は、
前記投影条件の確率分布を表現するパラメータを勾配法によって更新することにより、前記解析対象の3次元構造の事後確率を最大化させる第1の事後確率最大化手段と、
連続量である前記投影条件を離散化した投影条件ごとにその事後確率を計算することにより、前記解析対象の3次元構造の事後確率を最大化する第2の事後確率最大化手段と、
大域的最適化を使用して前記解析対象の3次元構造の事後確率を最大化する第3の事後確率最大化手段と、
を推定の経過に応じて切り替えることによって行われる、請求項1に記載の3次元再構成装置。
【請求項3】
前記投影条件は、
前記解析対象の変形を定めるパラメータからなる第1の投影条件、前記電顕画像の撮影条件であるコントラスト伝達関数(CTF)に関する補正量からなる第2の投影条件、及び、粒子画像に目的とする前記解析対象が適切に写っているか否かを示す量からなる第3の投影条件の少なくとも1つを含む、請求項1又は2に記載の3次元再構成装置。
【請求項4】
前記投影条件は、
前記解析対象がどの方向から投影されているかを表す投影方向からなる第4の投影条件、前記解析対象の中心位置を表す平行移動量からなる第5の投影条件、前記解析対象の対称性を表現する量からなる第6の投影条件、及び、複数の3次元構造のいずれに属するかを示す量からなる第7の投影条件の少なくとも1つを含む、請求項1から3のいずれか1項に記載の3次元再構成装置。
【請求項5】
前記解析対象の3次元構造の事後確率の下界の最大化において、
前記解析対象の3次元構造を複数の基底関数の線形和によって表現する機能と、
実空間における2つの前記基底関数の距離を求める機能と、
2つの前記基底関数の距離が近傍であるか判定する機能と、
前記基底関数に対応する係数の差を計算する機能と
前記基底関数に対応する係数の差がエッジかどうか判定する機能を有し、
すべての前記基底関数の組み合わせに対して求めた前記距離と、前記係数の差と、前記エッジかどうかの判定結果に基づいた3次元構造の事前確率を使って、前記3次元構造の事後確率を最大化する、請求項1から4のいずれか1項に記載の3次元再構成装置。
【請求項6】
前記投影像の生成において、
前記解析対象の3次元構造を複数の基底関数の線形和によって表現する機能と、
補助画素を作成して撮像素子により決まる解像度以上の投影像を生成する機能と、を有する、請求項1から4のいずれか1項に記載の3次元再構成装置。
【請求項7】
前記第3の投影条件の粒子画像に目的とする解析対象が適切に写っているか否かを示す量の事後確率の推定において、
粒子画像の特徴量を抽出する機能と、
粒子画像に目的の解析対象が適切に写っているか否かをラベル付けする機能と、
粒子画像に目的の解析対象が適切に写っているか否かを識別する識別器に前記特徴量と前記ラベルによって学習させる機能と、
前記識別器から出力される前記粒子画像に目的の解析対象が写っている確率を使って前記解析対象の3次元構造の事後確率の下界を前記第3の投影条件の確率分布と前記解析対象の3次元構造に関して最大化する機能と、を有する、請求項3に記載の3次元再構成装置。
【請求項8】
電子顕微鏡により撮影された電顕画像から抽出した複数枚の粒子画像と、電顕画像の撮影条件から解析対象の3次元構造を推定するシステムにおける3次元再構成装置であって、
Cryo-TEM法により生成された解析対象が氷包埋された試料を用いて、前記電顕画像からコントラスト伝達関数(CTF)を計算するCTF推定部と、
前記電顕画像から解析対象を抽出処理する粒子抽出部と、
前記解析対象の3次元構造を再構成する再構成部と、を備え、
前記再構成部は、
前記解析対象の3次元構造の事後確率の下界を投影条件の確率分布と前記解析対象の3次元構造に関して最大化する下界最大化処理部と、
与えられた前記投影条件により、投影像と投影像生成行列を生成する投影像生成部と、
前記下界最大化処理部による前記解析対象の3次元構造の事後確率の下界の最大化について収束判定を行う収束判定部と、を備える、3次元再構成装置。
【請求項9】
電子顕微鏡により撮影された電顕画像から抽出した複数枚の粒子画像と、電顕画像の撮影条件から解析対象の3次元構造を推定するシステムにおける3次元再構成方法であって、
Cryo-TEM法により生成された解析対象が氷包埋された試料を用いて、前記電顕画像からコントラスト伝達関数(CTF)を計算するCTF推定ステップと、
前記電顕画像から解析対象を抽出処理する粒子抽出ステップと、
前記解析対象の3次元構造を再構成する再構成ステップと、を備え、
前記再構成ステップは、
前記解析対象の3次元構造の事後確率の下界を投影条件の確率分布と前記解析対象の3次元構造に関して最大化する下界最大化処理ステップと、
与えられた前記投影条件により、投影像と投影像生成行列を生成する投影像生成ステップと、
前記下界最大化処理ステップにおける前記解析対象の3次元構造の事後確率の下界の最大化について収束判定を行う収束判定ステップと、を備える、3次元再構成方法。
【請求項10】
電子顕微鏡により撮影された電顕画像から抽出した複数枚の粒子画像と、電顕画像の撮影条件から解析対象の3次元構造を推定するシステムにおける3次元再構成プログラムであって、
コンピュータに、
Cryo-TEM法により生成された解析対象が氷包埋された試料を用いて、前記電顕画像からコントラスト伝達関数(CTF)を計算するCTF推定機能と、
前記電顕画像から解析対象を抽出処理する粒子抽出機能と、
前記解析対象の3次元構造を再構成する再構成機能と、を実行させ、
前記再構成機能は、
前記解析対象の3次元構造の事後確率の下界を投影条件の確率分布と前記解析対象の3次元構造に関して最大化する下界最大化処理機能と、
与えられた前記投影条件により、投影像と投影像生成行列を生成する投影像生成機能と、
前記下界最大化処理機能における前記解析対象の3次元構造の事後確率の下界の最大化について収束判定を行う収束判定機能と、を備える、3次元再構成プログラム。
【請求項11】
前記解析対象が、分子である、請求項1から8のいずれか1項に記載の3次元再構成装置。
【請求項12】
前記分子が生体分子である、請求項11に記載の3次元再構成装置。
【請求項13】
前記解析対象が、分子である、請求項9に記載の3次元再構成方法。
【請求項14】
前記分子が生体分子である、請求項13に記載の3次元再構成装置。
【請求項15】
前記解析対象が、分子である、請求項10に記載の3次元再構成プログラム。
【請求項16】
前記分子が生体分子である、請求項15に記載の3次元再構成プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、解析対象の3次元再構成装置、3次元再構成方法及び3次元再構成プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
Cryo-TEM法は、試料となる生体分子を含む水溶液を液体窒素で冷やされた液化エタンで急速凍結することにより生体分子を非結晶の薄い氷に包埋し、氷包埋されたままの状態で低温ステージを持つ透過型電子顕微鏡を使用して観察する手法である。
【0003】
生体分子の3次元構造は、Cryo-TEM法により、氷包埋された多量の生体分子を透過型電子顕微鏡により撮影し、得られた画像(以降、電顕画像という場合がある)から生体分子が写っている部分を切り出した数万から数百万枚の粒子画像をもとに、推定される。2次元画像から3次元構造を推定する処理は、3次元再構成と呼ばれる。さらに、Cryo-TEM法により撮影された電顕画像をもとに生体分子の3次元構造を解析する手法は、単粒子解析と呼ばれる。
【0004】
3次元構造から2次元の投影像を生成する過程には、生体分子がどの方向から投影されているかを表す投影方向などの投影条件が必要とされる。しかしながら、生体分子は様々な向きで氷包埋されており、投影条件も粒子画像ごとに異なる。それに加えて、生体分子の向きは既知ではない。図21は、生体分子の向きによって投影像が異なることを説明するためのイメージ図であり、投影方向(破線矢印)に対し、3つの氷包理された生体分子の向き及び対応する投影像を例示している。したがって、Cryo-TEM法による氷包埋された生体分子の3次元構造の推定には、投影方向等の未知の投影条件の推定も必要になる。そこで、従来、粒子画像ごとに、生体分子がどの方向から投影されているかを表す投影方向、生体分子の中心位置を表す平行移動量、生体分子の対称性を表現する量、及び3次元構造のいずれに属するかを示す量(クラス分類)についての投影条件の推定も行われてきた。
【0005】
ところで、透過型電子顕微鏡で生体分子のような非常に小さな物体を撮影する場合は、位相コントラストを使用して撮影を行う。位相コントラストとは、試料を通り抜けてきた電子の波の位相のずれによる干渉模様によって形成される像のことをいう。位相コントラストを撮影する場合、試料にフォーカスを合わせて撮影するとコントラストが非常に低くなるため、フォーカスを意図的にずらした状態で撮影する。フォーカスがずれた状態のことはデフォーカスと言い、フォーカスのずれ量のことをデフォーカス量という。さらに、位相コントラストによって得られる像には、収差とデフォーカスに起因する位相のズレが更に加わる。この位相のズレを+1~-1の周波数応答として表したものをコントラスト伝達関数(以降、CTFという場合がある。)と呼ぶ。CTFは、図12(左図:正面、右図:側面)に示すように、高周波ほど、+1~-1間の振動が激しくなるという特性を持っている。透過型電子顕微鏡により撮影された生体分子の投影像は、位相のズレが加わることにより、図13のようになる。図13は、透過型電子顕微鏡により撮影された生体分子の投影像のシミュレーション画像(図13の左右図は、後述するように、デフォーカス量の違いを示す。)である。
【0006】
生体分子の電子線による激しい損傷を防ぐため、照射できる電子線量は制限される。さらに、Cryo-TEM法では、凍結時に氷の厚さを薄く均一に作ることが困難である。これらの要因から、粒子画像の信号雑音比(以降、S/N比という場合がある。)は非常に低い。さらに、十分なコントラストを得るためにデフォーカス量を大きくすると、CTFが+1~-1の間で激しく振動し、情報の欠落の度合いも大きくなってしまう。
【0007】
このような条件下で行われる3次元構造の推定は、推定精度を向上させるために多量の粒子画像を必要とする。多量の粒子画像を処理することは、実験にかかる労力や計算量の増大という問題を引き起こす。また、S/N比が低く、情報の欠落も多い中、高分解能を得ようとして3次元構造を推定すると、ノイズを含んだ粒子画像に3次元再構成像が過剰に適合してしまう過剰適合(overfitting)という問題が発生する。このような中、過剰適合を防ぎつつ生体分子の3次元構造を推定する方法の一つとして、非特許文献1に記載の手法がある。
【0008】
従来の単粒子解析では、撮影時のデフォーカス量を別の手法で計算し、計算したデフォーカス量が真値として3次元再構成を行う。前述のとおり、CTFは収差とデフォーカスに起因するものであり、デフォーカス量が変わるとCTFも変化する。しかしながら、前述のとおり、単粒子解析で使用される画像のS/N比が低いため、デフォーカス量を正しく計算することが難しく、従来は不確かなデフォーカス量を使って3次元再構成を行っていた。
【0009】
例えば、非特許文献1に記載の技術では、前述した4つの投影条件である、投影方向と、平行移動量と、生体分子の対称性と、クラス分類の投影条件(以降、隠れ変数という場合がある。)を一定間隔ごとに離散化し、離散化された条件ごとに事後確率を推定した後、推定した投影条件の事後確率を使って生体分子の3次元構造を推定するということが行われている。
【0010】
しかしながら、解析の対象となる生体分子は、非常に柔らかく変形しやすい。この点、非特許文献1の手法では、生体分子の変形が考慮されていない。また、他の手法では、らせん状の生体分子の場合、変形の影響を抑えるために、生体分子を細かいセグメントに分割すること一般的に行われるが、分割したセグメント内では変形が考慮されないため、本質的な部分が解決されているとは言えない。変形がある生体分子の粒子画像を使って3次元構造を推定すると、与えられた粒子画像を表現するように3次元構造を推定しようとするが、生体分子の変形が考慮されていないため、推定精度の低下につながる。
【0011】
生体分子の3次元再構成において使用される粒子画像は、急速凍結された試料が含まれた水溶液を透過型電子顕微鏡によって撮影することにより得られる。粒子画像にはCTFによる変調が加えられていることから、粒子画像に加えられているCTFの周波数応答を決めるデフォーカス量を別の手法で計算し、計算したデフォーカス量が真値であるとして3次元再構成を行う。しかしながら、透過型電子顕微鏡によって撮影された粒子画像は、S/N比が非常に低く、デフォーカス量を正しく計算することが難しいという問題がある。また、従来は粒子が多量に映った電顕画像ごとにデフォーカス量が計算されていたが、氷包埋された粒子は粒子ごとに氷の表面からの高さが異なるため、デフォーカス量も粒子ごとに異なるという問題もある。
【0012】
前述した図13は、デフォーカス量の違いにおける投影像の変化を示したものである。左図がデフォーカス量100Åの時の投影像で、右図がデフォーカス量500Åの時の投影像である。デフォーカス量の違いにより投影像が大きく変化することがわかる。
【0013】
例えば、非特許文献1に記載の3次元再構成処理の流れは、デフォーカス量を計算するCTF推定、粒子画像の抽出を行う粒子抽出、粒子画像の2次元分類、粒子画像の3次元分類、精密化となっている。粒子画像の2次元分類及び3次元分類の後には、より高分解能な3次元再構成像を得るために、ユーザーによって、それ以降の工程で使う粒子画像を選別する処理が行われる。しかしながら、ユーザーによる粒子画像の選別には、ユーザーの恣意性が含まれ、最終的に推定される3次元再構成像が、ユーザーごとに異なってしまうという問題がある。
【0014】
投影条件の事後確率の計算は、投影方向や平行移動量や生体分子の対称性やクラス分類それぞれの投影条件を個別に離散化した後、全組み合わせに対して尤度を計算する必要があり、推定精度を向上させるために離散化する間隔を細かくした場合、組み合わせが膨大になるという問題がある。
【0015】
透過型電子顕微鏡により撮影された電顕画像から抽出した複数枚の粒子画像から行う生体分子の3次元再構成では、前述のとおり、粒子画像のS/N比が非常に低いことから、粒子画像に過剰に適合してしまう過剰適合が問題になる。非特許文献1に記載の技術では、3次元再構成像の事前確率(以降、事前分布又はPriorという場合がある。)を導入することで過剰適合を抑止している。事前確率による過剰適合の抑止は、再構成像が滑らかになる効果をもたらすが、抑止しすぎると分解能の低下につながるという問題がある。非特許文献1に記載の技術では、周波数空間上で3次元再構成を行っており、周波数空間上では実空間上での隣接関係の情報が失われてしまうため、隣接間の相関を利用した過剰適合の抑止を行うことは難しいという問題があった。
【0016】
非特許文献1に記載の手法では、周波数空間上で生体分子の3次元構造の推定を行っている。しかしながら、実際、センサーによる撮像は実空間上で行われており、撮像をより正確にモデル化する場合に、周波数空間では難しいという問題がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0017】
【文献】Scheres, Sjors HW. “A Bayesian view on cryo-EM structure determination.” Journal of molecular biology 415.2 (2012): 406-418.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は、上記従来技術の課題を解決するためになされたものであり、計算量を抑えつつ、高分解能な3次元再構成像を生成するための解析対象の3次元再構成装置、3次元再構成方法及び3次元再構成プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、上記目的を達成するために、以下の構成によって把握される。
(1)本発明の第1の観点は、電子顕微鏡により撮影された電顕画像から抽出した複数枚の粒子画像と、電顕画像の撮影条件から解析対象の3次元構造を推定するシステムにおける3次元再構成装置であって、前記解析対象の3次元構造を投影することにより得られる投影像に関し、前記解析対象の3次元構造の事後確率の下界を前記投影条件の確率分布及び前記解析対象の3次元構造に関して最大化することによって、前記解析対象の投影条件と3次元構造とを推定する。
【0020】
(2)前記投影条件の確率分布に関する前記解析対象の3次元構造の事後確率の下界の最大化は、前記投影条件の確率分布を表現するパラメータを勾配法によって更新することにより、前記解析対象の3次元構造の事後確率を最大化させる第1の事後確率最大化手段と、連続量である前記投影条件を離散化した投影条件ごとにその事後確率を計算することにより、前記解析対象の3次元構造の事後確率を最大化する第2の事後確率最大化手段と、大域的最適化を使用して前記解析対象の3次元構造の事後確率を最大化する第3の事後確率最大化手段と、を推定の経過に応じて切り替えることによって行われてもよい。
【0021】
(3)前記投影条件は、前記解析対象の変形を定めるパラメータからなる第1の投影条件、前記電顕画像の撮影条件であるコントラスト伝達関数(CTF)に関する補正量からなる第2の投影条件、及び、粒子画像に目的とする前記解析対象が適切に写っているか否かを示す量からなる第3の投影条件の少なくとも1つを含むようにしてもよい。
【0022】
(4)前記投影条件は、前記解析対象がどの方向から投影されているかを表す投影方向からなる第4の投影条件、前記解析対象の中心位置を表す平行移動量からなる第5の投影条件、前記解析対象の対称性を表現する量からなる第6の投影条件、及び、複数の3次元構造のいずれに属するかを示す量からなる第7の投影条件の少なくとも1つを含むようにしてもよい。
【0023】
(5)前記解析対象の3次元構造の事後確率の下界の最大化において、前記解析対象の3次元構造を複数の基底関数の線形和によって表現する機能と、実空間における2つの前記基底関数の距離を求める機能と、2つの前記基底関数の距離が近傍であるか判定する機能と、前記基底関数に対応する係数の差を計算する機能と前記基底関数に対応する係数の差がエッジかどうか判定する機能を有し、すべての前記基底関数の組み合わせに対して求めた前記距離と、前記係数の差と、前記エッジかどうかの判定結果に基づいた3次元構造の事前確率を使って、前記3次元構造の事後確率を最大化してもよい。
【0024】
(6)前記投影像の生成において、前記解析対象の3次元構造を複数の基底関数の線形和によって表現する機能と、補助画素を作成して撮像素子により決まる解像度以上の投影像を生成する機能と、を有してもよい。
【0025】
(7)前記第3の投影条件の粒子画像に目的とする解析対象が適切に写っているか否かを示す量の事後確率の推定において、粒子画像の特徴量を抽出する機能と、粒子画像に目的の解析対象が適切に写っているか否かをラベル付けする機能と、粒子画像に目的の解析対象が適切に写っているか否かを識別する識別器に前記特徴量と前記ラベルによって学習させる機能と、前記識別器から出力される前記粒子画像に目的の解析対象が写っている確率を使って前記解析対象の3次元構造の事後確率の下界を投影条件の確率分布と前記解析対象の3次元構造に関して最大化する機能と、を有してもよい。
【0026】
(8)本発明の第2の観点は、電子顕微鏡により撮影された電顕画像から抽出した複数枚の粒子画像と、電顕画像の撮影条件から解析対象の3次元構造を推定するシステムにおける3次元再構成装置であって、Cryo-TEM法により生成された解析対象が氷包埋された試料を用いて、前記電顕画像からコントラスト伝達関数(CTF)を計算するCTF推定部と、前記電顕画像から解析対象を抽出処理する粒子抽出部と、前記解析対象の3次元構造を再構成する再構成部と、を備え、前記再構成部は、前記解析対象の3次元構造の事後確率の下界を投影条件の確率分布と前記解析対象の3次元構造に関して最大化する下界最大化処理部と、与えられた前記投影条件により、投影像と投影像生成行列を生成する投影像生成部と、前記下界最大化処理部による前記解析対象の3次元構造の事後確率の下界の最大化について収束判定を行う収束判定部と、を備える。
【0027】
(9)本発明の第3の観点は、電子顕微鏡により撮影された電顕画像から抽出した複数枚の粒子画像と、電顕画像の撮影条件から解析対象の3次元構造を推定するシステムにおける3次元再構成方法であって、Cryo-TEM法により生成された解析対象が氷包埋された試料を用いて、前記電顕画像からコントラスト伝達関数(CTF)を計算するCTF推定ステップと、前記電顕画像から解析対象を抽出処理する粒子抽出ステップと、前記解析対象の3次元構造を再構成する再構成ステップと、を備え、前記再構成ステップは、前記解析対象の3次元構造の事後確率の下界を投影条件の確率分布と前記解析対象の3次元構造に関して最大化する下界最大化処理ステップと、与えられた前記投影条件により、投影像と投影像生成行列を生成する投影像生成ステップと、前記下界最大化処理ステップにおける前記解析対象の3次元構造の事後確率の下界の最大化について収束判定を行う収束判定ステップと、を備える。
【0028】
(10)本発明の第4の観点は、電子顕微鏡により撮影された電顕画像から抽出した複数枚の粒子画像と、電顕画像の撮影条件から解析対象の3次元構造を推定するシステムにおける3次元再構成プログラムであって、コンピュータに、Cryo-TEM法により生成された解析対象が氷包埋された試料を用いて、前記電顕画像からコントラスト伝達関数(CTF)を計算するCTF推定機能と、前記電顕画像から解析対象を抽出処理する粒子抽出機能と、前記解析対象の3次元構造を再構成する再構成機能と、を実行させ、前記再構成機能は、前記解析対象の3次元構造の事後確率の下界を投影条件の確率分布と前記解析対象の3次元構造に関して最大化する下界最大化処理機能と、与えられた前記投影条件により、投影像と投影像生成行列を生成する投影像生成機能と、前記下界最大化処理機能における前記解析対象の3次元構造の事後確率の下界の最大化について収束判定を行う収束判定機能と、を備える。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、計算量を抑えつつ、高分解能な3次元再構成像を生成するための解析対象の3次元再構成装置、3次元再構成方法及び3次元再構成プログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明の第1の実施形態に係る3次元再構成装置の一例を示すブロック図である。
図2】本発明の第1の実施形態に係る投影像生成部の処理の一例を説明するためのブロック図である。
図3】本発明の第1の実施形態に係る投影像生成行列算出部の処理の一例を説明するためのブロック図である。
図4図3の本発明の第1の実施形態に係る2次元画素位置生成部の処理の一例を説明するためのイメージ図である。
図5図3の本発明の第1の実施形態に係る補助画素生成部の処理の一例を説明するためのイメージ図である。
図6図5の本発明の第1の実施形態に係る補助画素生成部の処理の他の例(画素領域内の分割)を説明するためのイメージ図である。
図7】補間点から画素位置情報(ξ33)を生成する処理の一例を説明するためのイメージ図である。
図8】補間点を3つ用意して座標を変換して投影像を作った例である。
図9】本発明の第1の実施形態に係る3次元画素位置情報(ξ555)の生成方法を説明するためのイメージ図である。
図10】本発明の第1の実施形態に係る投影像生成行列計算部の処理の一例を説明するためのブロック図である。
図11】センサーによる撮像のモデル化の一例を説明するためのイメージ図である。
図12】コントラスト伝達関数(CTF)を説明するイメージ図である。
図13】透過型電子顕微鏡により撮影された生体分子の投影像のシミュレーション画像である。
図14】3次元構造の事前確率を変えて3次元構造の推定を行った例である。
図15】本発明の第1の実施形態に係る下界最大化処理部の処理の一例を説明するためのブロック図である。
図16】本発明の第4の実施形態に係る下界最大化処理部の処理の一例を説明するためのブロック図である。
図17】本発明の第6の実施形態に係る下界最大化処理部の処理の一例を説明するためのブロック図である。
図18】本発明の第7の実施形態に係る3次元再構成装置の下界F(q(z),θ)の最大化の処理を説明するためのフロー図である。
図19】本発明の第8の実施形態に係る3次元再構成装置の識別器の学習を説明するためのフロー図である。
図20】第4の投影条件である生体分子がどの方向から投影されているかを表す投影方向αiiiと、第5の投影条件である生体分子の中心位置を表す平行移動量xi,yi と、を説明するためのイメージ図である。
図21】生体分子の向きによって投影像が異なることを説明するためのイメージ図である。
図22】第1の事後確率最大化手段である勾配法において、勾配をモンテカルロ近似によって算出する場合を説明するためのイメージ図である。
図23】実際に電子顕微鏡により撮影された画像を用いて、本発明によって3次元構造を推定した結果である。
図24】第1の投影条件の変形を定めるパラメータを用いたアルゴリズムと、第1の投影条件の変形を定めるパラメータを用いないアルゴリズムでの性能の比較である。
図25】本発明の3次元再構成装置のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
(実施形態)
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。本実施形態において、解析対象は、生体分子、合成分子などの分子や金属を挙げることができる。生体分子としては、DNA、RNA、タンパク質、糖類、脂質、ATPなどを挙げることができる。合成分子は、前記生体分子以外の分子であって、天然のものではなく、ヒトの指揮下又はヒトが創作もしくは指揮した制御下で合成されたものをいう。金属としては、典型的な金属だけでなく、金属化合物、Siなどの半金属や合金をも含む。なお、本発明は以下の実施形態に限定されることはなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々変形することが可能である。
【0032】
(第1の実施形態)
まず、本発明の第1の実施形態に係る3次元再構成装置が実現する3次元再構成方法の処理について、説明する。3次元再構成装置の構成は、後述する。本発明の第1の実施形態に係る3次元再構成装置は、電子顕微鏡により撮影された電顕画像から抽出した複数枚の粒子画像と、電顕画像の撮影条件とから、生体分子の3次元構造を推定する。生体分子の3次元構造の推定は、生体分子の3次元構造の事後確率の下界の最大化によって行う。生体分子の3次元構造から2次元の投影像を生成するためには、生体分子がどの方向から投影されているかを表す投影方向などの投影条件が必要であるが、単粒子解析において投影条件は未知である。このような未知の要因を隠れ変数と定義し、隠れ変数に関して周辺化した事後確率の下界を最大化することにより、生体分子の3次元構造を推定する。以下、詳細に説明する。
【0033】
粒子画像をyi、生体分子の3次元構造を表すパラメータをθ(以降、3次元構造パラメータθとする場合がある。)、粒子画像yiの投影条件すなわち隠れ変数をziとしたとき、3次元構造の事後確率は、p(θ|y) ∝ p(y|θ)p(θ)のように、尤度p(y|θ)と事前確率p(θ)の積に比例することから、3次元構造の事後確率の対数をとり、かつ、正規化定数を無視したものは、以下の数式1のようになる
【0034】
【数1】
【0035】
ここで、KLは、カルバック・ライブラー・ダイバージェンスを表す。カルバック・ライブラー・ダイバージェンスは、2つの確率分布の距離を表し、分布が近いほど小さい値をとり、かつ、常に0以上の値となる。またq(zi)は、隠れ変数ziに関する任意の確率分布(以降、q(zi)を試験分布という場合がある。)、p(zi)は、隠れ変数ziの事前確率、p(θ)は、3次元構造パラメータθの事前確率を、それぞれ表す。また、粒子画像yi及び隠れ変数ziの添字iは、粒子画像の通し番号を表し、Mは、粒子画像枚数を表す。さらに、添え字iがある場合は、i番目の粒子画像を表し、添え字がない場合は、粒子画像の集合を表す。隠れ変数ziの添え字に関しても同様である。
【0036】
事前確率p(zi)は、投影条件すなわち隠れ変数ziに関して事前に何らかの知識がある場合には、その事前知識に沿うように事前確率を定義する。例えば、隠れ変数ziがある値をとりやすいというような場合には、その値を中心にしたガウス分布を定義するなどが考えられる。また、隠れ変数ziに関する事前知識がない場合には、一様分布を定義する。
【0037】
カルバック・ライブラー・ダイバージェンスは、常に0以上の値をとることから、生体分子の3次元構造の事後確率の下界F(q(z),θ)は、以下の数式2のように書くことができる(以降、単に下界とする場合がある)。本発明の第1の実施形態に係る3次元再構成装置は、数式2の3次元構造の事後確率の下界F(q(z),θ)を、投影条件の確率分布q(z)と生体分子の3次元構造パラメータθに関して最大化することにより、生体分子の3次元構造を推定する。ここで、投影条件の確率分布q(z)は、投影像が与えられた下での投影条件の尤もらしさを示す確率分布を示す。
【0038】
【数2】
【0039】
3次元構造の事後確率は、以下の数式3のように、下界F(q(z),θ)と、任意の確率分布q(z)と隠れ変数zの事後確率p(z|y,θ)のカルバック・ライブラー・ダイバージェンスとの和で書くことができる。
【0040】
【数3】
【0041】
さらに、3次元構造の事後確率、すなわち、数式3の左辺は、任意の確率分布q(z)に依存しないので、下界F(q(z),θ)のq(z)に関する最大化と、カルバック・ライブラー・ダイバージェンスのq(z)に関する最小化は等価である。したがって、3次元構造の推定は、下界F(q(z),θ)の最大化、又は、カルバック・ライブラー・ダイバージェンスKL[q(z)|p(z|y,θ)]の最小化のどちらで行ってもよい。
【0042】
以上が、本発明の第1の実施形態に係る3次元再構成装置による、3次元構造推定(以降、3次元構造推定を単に最適化という場合がある)の枠組みである。つまり、本発明の第1の実施形態に係る3次元再構成装置は、3次元構造の事後確率の下界F(q(z),θ)をq(z)とθに関して最大化する機能を有する。
【0043】
本発明の第1の実施形態に係る3次元再構成装置では、隠れ変数すなわち投影条件について、生体分子の変形を定めるパラメータdiを第1の投影条件とし、CTF(コントラスト伝達関数)に関する補正量ρiを第2の投影条件とし、粒子画像に目的とする生体分子が適切に写っているか否かを示す量giを第3の投影条件とする。また、生体分子がどの方向から投影されているかを表す投影方向αiiiを第4の投影条件とし、生体分子の中心位置を表す平行移動量xi,yiを第5の投影条件とし、生体分子の対称性を表現する量φiを第6の投影条件とし、複数の3次元構造のいずれに属するかを示す量ki(クラス分類)を第7の投影条件とする。そうすると、隠れ変数ziは、以下の数式4に示すように、各投影条件を要素とするベクトル量で表される(なお、数式4では、第4から第7及び第1から第3の投影条件の順で記載)。当然のことながら、必ずしもすべての隠れ変数を推定する必要はなく、上記投影条件のいくつかの組み合わせを隠れ変数として推定して、残りを固定値としてもよい。例えば、第1から第3の投影条件の少なくとも1つ、及び/又は、第4から第7の投影条件の少なくとも1つを推定するようにしてもよい。
【0044】
【数4】
【0045】
図20は、第4の投影条件である生体分子がどの方向から投影されているかを表す投影方向αiiiと、第5の投影条件である生体分子の中心位置を表す平行移動量xi,yiと、を説明するためのイメージ図である。生体分子がどの方向から投影されているかを表す投影方向は、生体分子の向きで表現する。3次元物体の向きを表すためには3変数を必要とし、αiiiとする。生体分子の中心位置を表す平行移動量は、投影方向に並行な軸の移動量は無視し、投影方向に垂直な面内の移動量をxi,yiとする。
【0046】
投影像は、3次元構造パラメータθからの3次元物体の生成、生成された3次元物体の投影方向に対する積分、投影面に対する平行移動、生体分子の変形、CTFの適応、センサーによる撮像によって決まるものとして、生成過程を定義する。隠れ変数zすなわち投影条件によって決まる投影像を生成するための行列(以降、投影像生成行列とする場合がある。)をW(zi)とし、3次元構造をaとしたとき、投影像yiは、以下の数式5で生成されるものとする。ここで、εiは投影像に含まれるノイズを表す。
【0047】
【数5】
【0048】
さらに、粒子画像のノイズεiが正規分布に従うと仮定すると、尤度p(yi|zi,θ)は、以下の数式6のように定義できる。
【0049】
【数6】
【0050】
ここで、Nは、粒子画像yiの画素数を表し、σi 2は、ノイズの分散を表す。3次元構造a、分散σi 2は、前述の3次元構造パラメータθ={a,σi 2}の構成要素とする。また、Tは、行列の転置演算を表す。ここで、3次元構造aはベクトル量である。σi 2は、θ={a,σi 2}のように便宜上1つのみ書いたが、実際には粒子画像ごとに定義する。当然のことながら、粒子画像同士で共通のσ2としてもよい。数式6では、σi 2をスカラー値とし、ノイズの分散は画素位置によらず一定としたが、画素間の相関を考慮して行列Σiとし、尤度p(yi|zi,θ)を定義してもよい。
【0051】
また、粒子画像のノイズεiを正規分布以外としてもよい。例えば、ノイズをガウス分布とポアソン分布の混合分布と仮定して最適化を行う手法を採用してもよい。
【0052】
また、数式6では、3次元構造パラメータθ中の3次元構造aは1つとして書いたが、クラス分類の数をK個としたときは、3次元構造aをK個用意し、クラス分類kiの値に応じて切り替えて計算する。この場合、3次元構造パラメータθは、θ={aki 2}のようになる。akの添え字kはクラス番号を表し、1~Kの値をとる。akもθ={aki 2}のように便宜上1つのみ書いたが、実際にはクラス分類の数だけ定義する。クラス分類を表す変数をkiとしたとき、変数kiは、第7の投影条件である複数の3次元構造のいずれに属するかを示す量を指す。また、分散σi 2はクラス間では同一としたが、クラスごとに別々の分散σik 2を定義してもよい。
【0053】
電顕画像には、目的とする生体分子のほかに、別の生体分子や、氷の結晶などが写っている場合がある。また、粒子画像においても、目的とする生体分子が重なっている場合や、生体分子が粒子画像の中心から大きく外れて欠けてしまっている場合もある。このような粒子画像があると、最終的な3次元再構成像の推定精度が悪くなる。
【0054】
目的とする生体分子が通常の生成過程によって投影された粒子画像yiを正常粒子画像、通常の生成過程によって投影されたとすることはできない粒子画像yiを異常粒子画像とする。通常の生成過程によって投影されたとはできないとは、前述の別の生体分子又は氷の結晶などが写っている場合や、目的とする生体分子が重なっている場合のほかに、生体分子が粒子画像の中心から大きく外れて欠けてしまっている場合などのことを指す。
【0055】
粒子画像yiが正常粒子画像であるか異常粒子画像であるかを示す変数(以降、正常粒子画像変数とする場合がある。)をgi(gi=1のとき正常粒子画像,gi=0のとき異常粒子画像)とし、尤度p(yi|zi,θ)を以下の数式7のようにおく。
【0056】
【数7】
【0057】
ここで、preg(yi|zi,θ)は正常粒子画像の尤度で、前述の数式6で計算できる。pirreg(yi|zi,θ)は、異常粒子画像の尤度で、正常粒子画像の生成過程とは別の生成過程で生成されたとして尤度を定義する。正常粒子画像同様にノイズが正規分布に従うと仮定して、数式6のように定義してもよい。その際、通常の生成過程から生成される投影像生成行列W(zi)とは異なる投影像生成行列W’(zi)から投影像が生成される。正常粒子画像変数は、第3の投影条件である粒子画像に目的とする生体分子が適切に写っているか否かを示す量giを指す。
【0058】
さらに、3次元構造パラメータθは、異常粒子画像の3次元構造も含めて、θ={ak,a’,σi 2}とする。akは正常粒子画像の3次元構造で、a’は異常粒子画像の3次元構造である。クラス分類ki及び正常粒子画像変数giの値に応じて、3次元構造aを切り替えて尤度の計算を行う。例えば、正常粒子画像変数giがgi=1で、かつ、クラス分類kiがkのときは、正常粒子画像の3次元構造akを使用し、正常粒子画像変数giがgi=0のときは、異常粒子画像の3次元構造a’を使用し、尤度の計算を行う。
【0059】
また、異常粒子画像の尤度pirreg(yi|zi,θ)を平均0のガウス分布のように定義してもよい。この場合は、投影像は投影条件や3次元構造に依存せず、ノイズだけが加えられた状態を表す。
【0060】
事後確率を隠れ変数giに関してのみ書くと、前述の数式(1)は、以下の数式8のように書ける。このとき、隠れ変数giは、0か1かの離散値なので積分を積算にする。
【0061】
【数8】
【0062】
事後確率のgiに関する最大化によって、以下の数式9が得られる。
【0063】
【数9】
【0064】
3次元構造の事後確率の下界の3次元構造パラメータθに関する最大化は、数式9で得られた^q(gi)(^q:キュー・ハット<推定値>を示す)を用いると、以下の数式10を最大化することになる。
【0065】
【数10】
【0066】
このとき、正常粒子画像の3次元構造パラメータθに依存しない項は無視する。数式10は、正常粒子画像の対数尤度log preg(yi|gi,θ)に、粒子画像yiが正常粒子画像の時の事後確率^q(gi=1)を掛け、事前確率log p(θ)を足したものを最大化することを表している。本発明の第1の実施形態に係る3次元再構成装置では、数式10を最大化することにより、3次元構造を推定する。
【0067】
次に、3次元再構成装置の構成について、説明する(ここでは処理の実行単位を示す各部を基に構成を説明し、ハードウェア面での構成は図25を参照して後に説明する)。図1は、本発明の第1の実施形態に係る3次元再構成装置10の一例を示すブロック図である。3次元再構成装置10は、例えば、CTF推定部11と、粒子抽出部12と、再構成部16(下界最大化処理部13と、投影像生成部14と、収束判定部15とを含む)とを備える。3次元再構成装置10は、各部に対応して、CTF推定ステップと、粒子抽出ステップと、再構成ステップ(下界最大化処理ステップと、投影像生成ステップと、収束判定ステップとを含む)とを備える3次元再構成方法を実現する。そして、3次元再構成方法は、3次元再構成装置10の内部又は外部に備えられた、図示しないメモリやハードディスク等の記憶装置にデータを記録し、図示しないCPU(Central Processing Unit)やGPU(Graphic Processing Unit)等の演算装置(コンピュータ)が、各部に対応して、CTF推定機能と、粒子抽出機能と、再構成機能(下界最大化処理機能と、投影像生成機能と、収束判定機能とを含む)とに係る各種プログラムを読み込んで実行することにより、達成される。ここで、プログラムとは、例えば、透過型電子顕微鏡により撮影された電顕画像より生体分子の3次元構造を推定するための3次元再構成プログラムである。
【0068】
なお、透過型電子顕微鏡に搭載されている撮像装置には、動画像を撮影できるものがある。その場合、撮影された動画像のフレームの位置合わせを行った後に足し合わせて1枚の画像としたものを使用し、3次元再構成処理を行ってもよい。
【0069】
以下、図1に示す第1の実施形態に係る3次元再構成装置10の構成を例にして説明しつつ、3次元再構成装置10における処理の一例について説明する。
【0070】
図1内の本発明の第1の実施形態に係るCTF推定部11は、Cryo-TEM法により生成された生体分子が氷包埋された試料を用いて、透過型電子顕微鏡により撮影された電顕画像23からCTF25を計算して推定する。CTF25は、例えばデフォーカス量と球面収差係数の値から計算によって求められる。装置固有の値である球面収差係数はユーザーによって指定され、CTF推定部11では電顕画像23ごとのデフォーカス量を計算する。
【0071】
この際、CTFは周波数が高周波になるほど減衰することが知られており、周波数ごとの減衰量を表す関数は包絡関数と呼ばれている(前述の図12の右図における包絡線envelopeを参照)。推定するCTF25に、周波数ごとの減衰量を表す包絡関数を適応させてもよい。
【0072】
また、デフォーカス量は、透過型電子顕微鏡により撮影された画像のアモルファス部分のフーリエ変換像と、計算により求められたCTF25が一致するように推定されることが一般的である。アモルファス部分のフーリエ変換像自体をCTF25としてもよい。
【0073】
図1内の本発明の第1の実施形態に係る粒子抽出部12は、電顕画像23から生体分子(以下、粒子とする場合がある。)を拾い上げる処理(以下、抽出処理とする場合がある。)を行う。抽出処理は、ユーザーによって粒子の場所を指示させる方法(マニュアル抽出処理と呼ばれる)と、ユーザーがいくつかの粒子を抽出処理により電顕画像23から拾い上げ、拾い上げた粒子画像をテンプレートとして残りの粒子を自動で拾い上げる方法(自動抽出処理と呼ばれる)などがある。第1の実施形態に係る3次元再構成装置10は、特定の抽出処理に限定されるものではない。粒子抽出部12は、入力された複数枚の電顕画像23から粒子を拾い上げ、切り出された粒子画像yi21を出力する。
【0074】
なお、先に、図1内の本発明の第1の実施形態に係るCTF推定部11では、電顕画像23からCTF25を推定すると説明したが、図1内の本発明の第1の実施形態に係る粒子抽出部12の後に、CTF推定部11の処理を行い、粒子画像ごとにCTF25を推定するようにしてもよい。
【0075】
図1内の本発明の第1の実施形態に係る再構成部16は、下界最大化処理部13と、投影像生成部14と、収束判定部15を備える。下界最大化処理部13では、3次元構造の事後確率の下界F(q(z),θ)をq(z)とθに関して最大化する。投影像生成部14では、詳しくは後述するように、与えられた投影条件による、投影像112と投影像生成行列W(zi)113を生成する。収束判定部15では、収束判定を行う。収束判定は、前回の3次元構造の事後確率の下界F(q(z),θ)と現在の3次元構造の事後確率の下界F(q(z),θ)の差分絶対値が閾値以下であるかで判定を行い、閾値以下であれば収束したとして処理を終了する。収束していない場合は、下界最大化処理部13で3次元構造の事後確率の下界の最大化を継続する。下界F(q(z),θ)の計算は、前述の数式2に従って行う。
【0076】
なお、前回の3次元構造の事後確率の下界F(q(z),θ)と現在の3次元構造の事後確率の下界F(q(z),θ)の差分絶対値をローパスフィルターに通した出力を、閾値と比較して、収束判定をしてもよい。これにより、突発的な大きな変動による処理終了を防ぐことができ、安定して処理終了の判断が行える。
【0077】
投影像生成部14について、詳しく説明する。図2は、本発明の第1の実施形態に係る投影像生成部14の処理の一例を説明するためのブロック図である。隠れ変数zi20とCTF25を投影像生成行列算出部110に入力し、投影像を生成するための行列である投影像生成行列W(zi)113を生成する。行列乗算処理部111では、投影像生成行列W(zi)113と3次元構造パラメータθ22に含まれる3次元構造aの行列の乗算を行って投影像112を生成する。
【0078】
投影像生成行列算出部110では、図3に示した、本発明の第1の実施形態に係る投影像生成行列算出部110の処理の一例を説明するためのブロック図のように、2次元画素位置生成部141に入力された隠れ変数zi20をもとに、一連の生成過程を経て、投影像生成行列計算部148において投影像生成行列W(zi)113を計算する。
【0079】
投影像の生成過程は、3次元構造パラメータθからの3次元物体の生成、生成された3次元物体の投影方向に対する積分、投影面に対する平行移動、生体分子の変形、CTFの適応、センサーによる撮像によって決まるものとして、撮像モデルを定義する。投影像生成行列W(zi)は、これらひとつひとつの処理の合成によって表されているものとすると、以下の数式11のように分解することができる。投影像生成行列W(zi)の(zi)は、投影像生成行列W(zi)113が隠れ変数ziの関数となることを表しており、投影像生成行列W(zi)113は、隠れ変数ziに依存して変化する。以降では行列ひとつひとつの算出方法を説明する。
【0080】
【数11】
【0081】
まず、2次元画素位置生成部141では、図4に示した、図3の本発明の第1の実施形態に係る2次元画素位置生成部141の処理の一例を説明するためのイメージ図のように、指定された画像サイズWi,Hiに合わせてGrid状の画素位置情報(ξ11)149を生成する。画素位置情報(ξ11)149は投影画像の元画素160の位置を表しており、画素位置情報(ξ11)149はすべての画素位置情報の集合でベクトルである。例えば、Wi=100,Hi=50の場合、画素位置情報(ξ11)149は、(0,0),(1,0)…(99,0),(0,1)…(99,49)というデータになる。図4の点線矩形領域は画素領域161を表す。
【0082】
次に、補助画素生成部142では、図5に示した、図3の本発明の第1の実施形態に係る補助画素生成部142の処理の一例を説明するためのイメージ図のように、2次元画素位置生成部141で生成された画素位置情報(ξ11)149の画素領域161内に補助画素162を生成し、元画素160と補助画素162を合わせたものを画素位置情報(ξ22)150として出力する。例えば、Wi=100,Hi=50で間隔を0.5とし、図5のように補助画素を置いた場合、画素位置情報(ξ22)150は、(-0.5,-0.5),(0.5,-0.5)…(0,0),(1,0)…(99,0),(-0.5,0.5),(0.5,0.5)…(99,49)…(99.5,49.5)というデータになる。図5の補助画素162の配置は一例であり、図6のように補助画素162をより細かく置いてもよい。図6の左図(図5の例)では、画素領域161が区間SからSに4分割された例を、図6の右図では、画素領域161が区間S11からS14、区間S21からS24、区間S31からS34及び区間S41からS44に16分割された例を、それぞれ示している。
【0083】
図3に戻り、次に、変形処理部143では、変形処理を行う。変形処理は、画素位置情報(ξ22)150を新しい画素位置情報(ξ33)151に変換することによって行われる。変形処理用のパラメータは、第1の投影条件である変形を定めるパラメータを指し、隠れ変数zi20に含まれており(前述の数式4中のdi)、変形処理部143では隠れ変数zi20を用いて座標変換後の画素位置情報(ξ33)151を出力する。変形処理の方法は問わないが、例えば、画素位置情報(ξ22)150一点一点の変換先を隠れ変数zi20としてもよい。
【0084】
また、変形処理は、図7に示した、補間点163から画素位置情報(ξ33)151を生成する処理の一例を説明するためのイメージ図のように、いくつかの補間点から画素位置情報(ξ22)150を画素位置情報(ξ33)151に変換する処理によって行ってもよい。補間点163を通る曲線165を求め、画素位置情報(ξ22)150から曲線165に直交する垂線166を下ろし、画素位置情報(ξ22)150から垂線166の交点までの距離をη3とし、あらかじめ補間点163の中から決めておいた始点164から垂線166の交点までの曲線165に沿った距離をξ3とする。このとき、(ξ33)には、画素位置情報(ξ22)150と曲線165及び始点164の位置関係167により符号を付与する。すなわち、位置関係167は、画素位置情報(ξ22)150が始点164の垂線166の左かつ曲線165の上では(ξ33)の符号が(-,+)、始点164の垂線166の左かつ曲線165の下では(-,-)、始点164の垂線166の右かつ曲線165の上では(+,+)、始点164の垂線166の右かつ曲線165の下では(+,-)となる。曲線165はどのような曲線でもよく、単純に補間点163間を直線でつないでもよいし、スプライン曲線で表現してもよい。図8は、補間点を3つ用意して座標を変換して投影像を作った例である。画像中の点が補間点を表し、左図が変形無し、右図が変形ありの場合である。
【0085】
図3に戻り、次に、平行移動処理部144では、座標の平行移動処理を行う。平行移動用パラメータは、第5の投影条件である生体分子の中心位置を表す平行移動量を指し、隠れ変数zi20に含まれているとものする(前述の数式4中のxi,yi)。平行移動後の座標位置を画素位置情報(ξ44)152、平行移動用パラメータをxi,yiとすると、以下の数式12のように変換される。
【0086】
【数12】
【0087】
次に、3次元画素位置生成部145では、図9に示した、本発明の第1の実施形態に係る3次元画素位置情報(ξ555)153の生成方法を説明するためのイメージ図のように、画素位置情報(ξ44)152から3次元画素位置情報(ξ555)153を生成する。3次元画素位置情報(ξ555)153のうちξ55は画素位置情報(ξ44)152のξ44と同じとし、ζ5方向、すなわちξ4η4平面に垂直な方向の画素位置情報を生成する。このとき、ζ5方向に生成する画素位置情報の間隔と個数はあらかじめユーザーにより指定されているものとする。例えば、(ξ44)の画素位置情報の数が100個でζ5方向に100個の画素位置情報を生成したとすると、最終的に3次元画素位置情報(ξ555)153は、10000点の画素位置情報の集合になる。
【0088】
図3に戻り、次に、回転処理部146では、座標の3次元回転処理を行う。3次元回転処理用パラメータは、第4の投影条件である生体分子がどの方向から投影されているかを表す投影方向を指し、隠れ変数zi20に含まれているものとし(前述の数式4中のαiii)、パラメータに従って回転処理を行い、回転後の座標位置、画素位置情報(ξ666)154を生成する。この座標の3次元回転処理は、3次元物体の姿勢を回転させるために行う。3次元物体の姿勢の表現方法としては、例えばオイラー角を使ってもよい。オイラー角は3次元物体の姿勢を3つの角度で表現し、あらかじめ決められた軸の順番で軸回りに回転させることにより、姿勢を制御する。
【0089】
次に、対称性処理部147では、生体分子の構造の対称性に基づいて座標の変換を行う。対称性のパラメータは、第6の投影条件である生体分子の対称性を表現する量を指し、隠れ変数zi20に含まれているものとする(前述の数式4中のφi)。例えば、生体分子にζ軸を中心に120度ごとの対称性があるとした場合は、変換後の座標は、以下の数式13によって求められる。この場合、120度が隠れ変数ziの構成成分φiの値になる。
【0090】
【数13】
【0091】
最後に、投影像生成行列計算部148では、前段で求めた画素位置情報と隠れ変数zi20とCTF25をもとに投影像生成行列W(zi)113を求める。
【0092】
図10は、本発明の第1の実施形態に係る投影像生成行列計算部148の処理の一例を説明するためのブロック図である。行列W3d計算部171では、3次元構造パラメータθ22に含まれる3次元構造aから3次元物体を作る行列W3dを生成する。以降では、3次元構造を基底関数で表現する方法を説明する。これは、生体分子の3次元構造を複数の基底関数の線形和によって表現する機能を指す。
【0093】
画素位置情報(ξ777)155、基底関数をfbとしたとき、3次元物体は、以下の数式14によって計算される。
【0094】
【数14】
【0095】
数式14中のlは、画素位置情報(ξ777)155であって3次元空間上の位置を表すベクトルであり、μi及びΔdiは、基底関数fbのパラメータであって、μiは基底の3次元空間上の位置を表すベクトル、Δdiは基底関数の広がりを表すスカラー値であり、Bは、基底関数の数を表す。μiは、基底関数の位置を表しており、実空間における2つの基底関数の距離を計算する際に使用される。例えば、2つの基底関数のパラメータをμiとμjとしたとき、基底関数の距離は、μiとμjの距離||μi-μj||2を指す。ここで、||…||2はL2ノルムを表す。
【0096】
さらに、aiは、3次元構造パラメータθの構成要素である3次元構造aの要素を表す。前述のとおり、3次元構造aはベクトル量であり、ベクトルのサイズは基底関数の数であるBになる。ここで、基底関数fb(l|μi,Δdi)に対応する係数とはaiを指し、基底関数fb(l|μi,Δdi)と基底関数fb(l|μj,Δdj)の係数の差とはai-ajを指す。
【0097】
基底関数は上述の例以外でもよく、例えば、基底関数をデルタ関数とすると単純なボクセル表現と同じになる。数式14中のV(l)は、係数aiと基底関数fbとの線形和で表現されているので、行列に置き換えることができる。
【0098】
行列Wprj計算部172では、3次元物体を投影方向に投影するため、行列Wprjを画素位置情報(ξ44)152と画素位置情報(ξ555)153と画素位置情報(ξ666)154から生成する。投影方向に投影するため、行列Wprjは、以下の数式15のように3次元物体を回転させるための行列Wrotと投影像を生成する行列Wintに分解することができる。
【0099】
【数15】
【0100】
3次元物体を回転させるための行列Wrotは、画素位置情報(ξ555)153と画素位置情報(ξ666)154から生成できる。さらに、投影処理は以下の数式16のように線形式で得られるので、行列に書き直すことが可能である。V’(ξ555)は、3次元構造aから生成された3次元物体W3daをWrot(zi)で回転させたものを表す。投影処理では、V’(ξ555)をη5方向に積算を行うことを表している。
【0101】
【数16】
【0102】
ある画素位置の値が別の画素位置に移動する行列の求め方を説明する。以下の数式17の場合、Vの1番目の要素は、V’の2番目の要素になり、Vの2番目の要素は、V’の3番目の要素になり、Vの3番目の要素は、V’の1番目の要素になる。移動先の要素番号を行、移動元の要素番号を列とし、その場所の値を1にし、これをすべての画素位置に対して行うことにより、変換行列を作成する。すなわち、移動元と移動先の対応関係が決まれば変換行列が生成できる。この例では対応関係が1対1の場合を示したが、複数の移動元の値の線形和から移動先の値が決まるようにすることも可能である。
【0103】
【数17】
【0104】
行列Wtr計算部173では、3次元物体を平行移動させるための行列Wtrを画素位置情報(ξ33)151と画素位置情報(ξ44)152から生成する。
【0105】
行列Wdef計算部174では、投影画像の変形処理を行う行列Wdefを画素位置情報(ξ22)150と画素位置情報(ξ33)151から生成する。
【0106】
行列Wctf計算部175では、画像にCTF25を適応する行列を生成する。ここで、CTF25は、CTF推定部11によって推定される。CTF25は周波数ごとの応答を表した周波数空間上の関数であり、CTF25の適応を周波数空間上で行う場合は要素ごとの掛け算になる。
【0107】
周波数空間上で行う場合は、フーリエ変換を行う行列、CTF25とフーリエ変換像との要素ごとの掛け算を行う行列、フーリエ逆変換を行う行列を一つにまとめて行列Wctfとすることにより、画像にCTF25を適応する行列を生成することができる。フーリエ変換、フーリエ逆変換は、線形演算のため行列で表現することが可能である。
【0108】
また、実空間上でCTF25を適応する場合はCTF25をフーリエ逆変換し、畳み込み演算を行うことになる。この場合も畳み込み演算は、線形演算のため行列に変換することが可能である。
【0109】
さらに、CTF25の補正項をWcmp(zi)とした場合、行列Wctf(zi)は、以下の数式18のようになる。補正項Wcmp(zi)は、第2の投影条件である電顕画像の撮影条件であるCTF25に関する補正量を指し、隠れ変数zi20に含まれている(前述の数式4中のρi)。ここで、Wctfは、CTF推定部11によって推定されたCTF25によって決まる行列である。
【0110】
【数18】
【0111】
例えば、補正項Wcmp(zi)をスカラー値ρiとした場合、数式18は、以下の数式19のように書ける。
【0112】
【数19】
【0113】
なお、CTF推定部11で推定されたデフォーカス量に直接補正を行ってもよい。その場合は、補正されたデフォーカス量から行列Wctf(zi)を生成する。
【0114】
行列Wimg計算部176では、センサーによる撮像によって生成される撮影画像を計算する行列を画素位置情報(ξ11)149と画素位置情報(ξ22)150から求め出力する。
【0115】
図11は、センサーによる撮像のモデル化の一例を説明するためのイメージ図である。画素位置情報(ξ22)150の3点と、それぞれの位置のW3dとWprj(zi)とWtr(zi)とWdef(zi)とWctf(zi)を適応した値I1,I2,I3180、すなわち、以下の数式20によって求められた画素位置情報(ξ22)150の値、とから求められる平面181を計算し、画素位置情報(ξ22)150の3点の領域内で平面を積分する。積分により求められた値を画素位置情報(ξ22)150の3点の領域内の画素値とする。これを図6の本発明の第1の実施形態に係る補助画素162の配置例で示した画素領域161内の分割されたすべての区間(区間S11からS14、区間S21からS24、区間S31からS34及び区間S41からS44)に対して行い、積分で求めた画素値の総和を画素領域161内の画素値とする。同様の処理をすべての画素領域161で行うことで最終的な撮像画像を得る。この処理は、補助画素162を作成し投影像を得る処理を指す。
【0116】
画素位置情報(ξ22)150の3点の領域内での平面181の積分は、同領域の体積を求めることと等しいため、線形演算で記述することができ、撮像画像を得るための演算を行列で表現することが可能である。
【0117】
【数20】
【0118】
以上、前述した図3の本発明の第1の実施形態に係る投影像生成行列算出部110の一例では、図10に示したように、3次元構造パラメータθからの3次元物体の生成W3d、生成された3次元物体の投影方向に対する積分Wprj(zi)、投影面に対する平行移動Wtr(zi)、生体分子の変形Wdef(zi)、CTF25の適応Wctf(zi)、センサーによる撮像Wimgの順番で観測モデルを定義した。しかしながらこの適応順番は上記に限られない。例えば、生体分子の変形Wdef(zi)をW3dの後に定義してもよい。この場合、変形処理は3次元空間に対して行われる。
【0119】
また、CTF25の適応Wctf(zi)をWprj(zi)の中に含めてもよい。本来、デフォーカス量は投影方向に対して徐々に変化しているため、投影方向に垂直な平面ごとにCTF25を変えながら適応することにより、より正確にCTF25の適応が行える。
【0120】
また、本発明の第1の実施形態に係る投影像生成部14では、正常粒子画像の投影像の生成過程と、異常粒子画像の投影像の生成過程を定義し、隠れ変数ziに含まれるgiの値に応じて投影像生成行列W(zi)を生成するが、投影像生成部14の処理について前述した説明では、正常粒子画像/異常粒子画像の別を問わず投影像の生成過程を示した。これに対し、例えば、正常粒子画像の投影像の生成過程では、基底関数の位置μiを球状に配置し、異常粒子画像の投影像の生成過程では、基底関数の位置μiを円筒状に配置することにより、別々の生成過程を定義することもできる。
【0121】
その他、前述のとおり、異常粒子画像の尤度を平均0のガウス分布と定義した場合は、投影像は投影条件や3次元構造に依存せず、一定値を生成する生成過程を定義すればよい。
【0122】
ところで、図1に示す本発明の第1の実施形態に関する3次元再構成装置10は、3次元構造の事後確率の下界F(q(z),θ)の最大化によって3次元構造を推定する。下界F(q(z),θ)の最大化処理は、下界最大化処理部13によって行われる。下界の最大化の手法は問わないが、以降では、EMアルゴリズムの枠組みを利用した下界の最大化の例を示す。EMアルゴリズムの枠組みを利用した下界の最大化では、下界F(q(z),θ)のq(z)に関する最大化と、θに関する下界の最大化を交互に行うことにより、下界F(q(z),θ)の最大化を行う。
【0123】
図15は、本発明の第1の実施形態に係る下界最大化処理部13の処理の一例を説明するためのブロック図である。勾配法用事後確率推定部200では、下界F(q(z),θ)のq(z)に関する最大化を行う。まず初めに、事後確率^q(qi=1)の計算を以下の数式21を用いて行う。この計算は全粒子画像に対して行う。
【0124】
【数21】
【0125】
このとき、尤度preg(yi|θ)と尤度pirreg(yi|θ)は、以下の数式22により、それぞれの生成過程で得られる下界F(q(z),θ)を推定値にする。すなわち、尤度preg(yi|θ)は数式22の上の段の式の右辺を、尤度pirreg(yi|θ)は数式22の下の段の式の右辺を推定値とする。p(gi)は事前確率で、例えば一様分布や前回の尤度preg(yi|θ)、pirreg(yi|θ)でもよい。
【0126】
【数22】
【0127】
次に、残りの隠れ変数zの確率分布に関して最大化を行う。隠れ変数zの任意の確率分布q(z)をあるパラメータで特徴づけられる分布族から選び、パラメータを最適化することにより下界F(q(z),θ)をq(z)に関して最大化する。確率分布のパラメータとは、例えば、選んだ確率分布がガウス分布の場合、平均と分散のことを指す。
【0128】
確率分布のパラメータの最適化には勾配法を使用する。以下、この勾配法を使用した最大化を、第1の事後確率最大化手段という。確率分布のパラメータをτとしたとき、勾配は、下界F(q(z|τ),θ)をτに関して微分することにより得られる。さらに、勾配は、q(z)による期待値をとる形をしているので、モンテカルロ近似を使用すると、勾配は、以下の数式23で得られる。
【0129】
【数23】
【0130】
ここで、zi~q(zi)は、任意の確率分布q(zi)からziを確率分布に従うようにサンプリングすることを表している。さらに、τikτ:タウ・バー<平均値>を示す)は、現在の確率分布のパラメータの値を表している。ここで、添え字iは粒子画像番号を表し、添え字kはクラス分類番号を表す。すなわち、パラメータτは、画像ごと、クラス分類ごと、隠れ変数の要素ごとに定義し、すべてのパラメータτに対して勾配を計算する。また、数式23の尤度p(yi|zi..,θ)は、前述の数式6を用いて計算する。
【0131】
さらに、計算された勾配を用いて確率分布のパラメータを以下の数式24のように更新する。ここで、εはユーザーによってあらかじめ設定されたパラメータである。数式23と数式24によるパラメータの更新処理は、定義したすべての確率分布のパラメータに対して行う。
【0132】
【数24】
【0133】
次に、勾配法用3次元構造推定部201では、下界F(q(z),θ)の3次元構造パラメータθに関する最大化を行う。下界F(q(z|τ),θ)の3次元構造パラメータθに関する最大化は、尤度p(yi|zi,θ)を前述の数式6としたことから解析的に解け、さらに、q(z)に関する期待値をモンテカルロ近似すると、下界F(q(z|τ),θ)のθに関する最大化によって得られるθの更新式は、以下の数式25と数式26のようになる。
【0134】
【数25】
【0135】
【数26】
【0136】
このとき、θに関する事前確率p(θ)を以下の数式27とする。σi 2に関する事前確率は一様分布とし、最大化に寄与しないため、p(θ)=p(a)とする。勾配法用3次元構造推定部201では、数式25によって3次元構造aを更新し、数式26によって分散σi 2を更新する。このとき分散σi 2の更新はすべての粒子画像に対して行う。
【0137】
【数27】
【0138】
今回の例では下界F(q(z),θ)のθに関する最大化を解析的に解いて行ったが、解析的に解けない場合は勾配法を使ってもよい。勾配法で行う場合は、下界F(q(z),θ)をθに関して偏微分して勾配を求め、勾配の方向にθを更新し、これを収束するまで繰り返すことにより、下界F(q(z),θ)のθに関する最大化が行える。
【0139】
以上が、本発明の第1の実施形態に関する3次元再構成装置の下界最大化処理部13の処理になる。本発明の第1の実施形態に係る下界最大化処理部13の処理の一例では、勾配法用事後確率推定部200と勾配法用3次元構造推定部201の処理を交互に行うと説明したが、例えば、勾配法用事後確率推定部200による下界F(q(z),θ)のq(z)に関する最大化を複数回繰り返した後に、勾配法用3次元構造推定部201による下界F(q(z),θ)のθに関する最大化を行ってもよい。
【0140】
また、本実施形態では実空間上の処理として説明を行ったが、同等の値が得られる場合は周波数空間で処理を行ってもよい。CTF25の処理のように、実空間から周波数空間に変換して処理を行い、処理後実空間に逆変換するという方法でもよい。
【0141】
(第2の実施形態)
例えば、図1に示す第1の実施形態に係る3次元再構成装置10(又は、第1の実施形態の変形例に係る3次元再構成装置。以下、同様とする。)の構成によって、本発明の実施形態に係る3次元再構成方法に係る処理を実現し、電顕画像から生体分子の3次元再構成像を得ることができる。しかしながら、本発明の実施形態に係る3次元再構成方法に係る処理を実現することが可能な構成は、第1の実施形態に係る3次元再構成装置10に示す構成に限られない。
【0142】
本発明の第2の実施形態に係る3次元再構成装置は、本発明の第1の実施形態に係る3次元再構成装置10に対し、図15の下界最大化処理部13中の勾配法用事後確率推定部200で計算される勾配の算出方法の点において、異なる。
【0143】
隠れ変数ziに関する勾配は、以下の数式28のようになる。すなわち、第1の実施形態に係る3次元再構成装置10では、勾配の計算はモンテカルロ近似を使って算出したが、本発明の第2の実施形態に係る3次元再構成装置では、数式28内の∇τikf(q(zi),θ)を近似し、近似した値をもとに勾配を求める。∇τikf(q(zi),θ)は、以下の数式29のようになる。
【0144】
【数28】
【0145】
【数29】
【0146】
例えば、∇τikf(q(zi),θ)を一次式で近似する場合、数式29は、以下の数式30のように書ける。
【0147】
【数30】
【0148】
ある隠れ変数ziのときの∇τikf(q(zi),θ)を数式29を使って計算し、これを複数の隠れ変数ziに対して行う。隠れ変数ziと計算した∇τikf(q(zi),θ)を用いて数式30の近似式の係数Aτikとbτikを求める。ここで、係数Aτikはベクトルで、係数bτikはスカラー値である。数式29を使って計算する∇τikf(q(zi),θ)の数は、最低限、近似式の係数が求まる数以上とする。例えば、係数Aτikが5次元のベクトルの場合、求める係数の数が6個になるので、6個以上の∇τikf(q(zi),θ)を計算する。近似式の係数はどのように求めてもよいが、例えば最小二乗法で求めることができる。
【0149】
本発明の第1の実施形態に係る勾配の計算では、モンテカルロ近似を行って勾配を求めるが、勾配を求める式は前述の数式23なので、S回尤度を計算する必要がある。尤度の計算には前述の数式6より投影像の生成が必要になる。一般的に近似精度を良くしようとした場合、尤度の計算回数Sを大きくする必要がある。一方、本発明の第2の実施形態に係る勾配の計算では、最低限、近似式の係数が求まる数だけ尤度計算を行えばよいので計算量の削減が可能になる。
【0150】
次に、求めた近似式である数式30を使って以下の数式31の計算を行い、勾配を求める。このとき、数式31の積分は確率分布q(zii)の関数形によっては解析的に解けることがある。その場合は、解析的に解いた式を使って勾配を求める。解析的に解けない場合は、区分求積法等の数値積分を行ってもよい。勾配の更新式である前述の数式24及び事後確率^q(qi=1)の計算は、本発明の第1の実施形態に係る3次元再構成装置の下界最大化処理部13と同様に計算する。
【0151】
【数31】
【0152】
(第3の実施形態)
例えば、図1に示す第1の実施形態の係る3次元再構成装置10(又は、第1の実施形態の変形例に係る3次元再構成装置。以下、同様とする。)の構成によって、本発明の実施形態に係る3次元再構成方法に係る処理を実現し、電顕画像から生体分子の3次元再構成像を得ることができる。しかしながら、本発明の実施形態に係る3次元再構成方法に係る処理を実現することが可能な構成は、第1の実施形態に係る3次元再構成装置10に示す構成に限られない。
【0153】
本発明の第3の実施形態に係る3次元再構成装置は、本発明の第1の実施形態に係る3次元再構成装置10に対し、図15の下界最大化処理部13中の勾配法用3次元構造推定部201で使用される3次元構造の事前確率p(θ)が実空間上での隣接関係を考慮して定義されている点において、異なる。
【0154】
3次元構造aの事前確率として、実空間上での隣接間の関係性を考慮した事前確率を使用することができる。以下の数式32は、空間的に近傍の係数aは近い値をとるという3次元構造の事前確率の一例である。
【0155】
【数32】
【0156】
数式32内のs,tは、係数aの番号であり、s~tは、s,tが空間的に近傍であることを意味している。すなわち、数式32は、近傍の係数aの差分の2乗和を表している。ここで、係数asと係数atが空間的に近傍であるかどうかは、係数asと係数atの基底関数fb(l|μs,Δds)とfb(l|μt,Δdt)の3次元空間上の距離||μs-μt||2がユーザーにより指定された閾値以内というような条件で決めてもよい。この処理は、2つの基底関数の距離が近傍であるか判定する機能を指す。また、数式32内のconstは、係数aとは無関係の項をまとめたものである。
【0157】
また、空間的に近傍の係数aが近い値をとり、エッジを保存するような3次元構造の事前確率として以下の数式33のようなものを使ってもよい。
【0158】
【数33】
【0159】
数式33内のηstは、係数asと係数atの間にエッジがあるか否かを表すエッジ変数で、0又は1の値をとる。λは、係数asと係数atの値の差をエッジとするか否かを決めるための閾値で、係数asと係数atの値の差の2乗がλより小さい場合ηstは1の値をとり、大きい場合は0の値をとる。これは、基底関数に対応する係数aの差がエッジかどうか判定する機能を指す。
【0160】
3次元構造の事前確率p(a)の対数をとったものが、数式32又は数式33になるように前述の数式27のΣa -1を決めることにより、下界F(q(z),θ)の3次元構造パラメータθに関する最大化は、本発明の第1の実施形態に係る3次元再構成装置の勾配法用3次元構造推定部201の前述の数式25を用いて行うことが可能となる。
【0161】
(第4の実施形態)
例えば、図1に示す第1の実施形態の係る3次元再構成装置10(又は、第1の実施形態の変形例に係る3次元再構成装置。以下、同様とする。)の構成によって、本発明の実施形態に係る3次元再構成方法に係る処理を実現し、電顕画像から生体分子の3次元再構成像を得ることができる。しかしながら、本発明の実施形態に係る3次元再構成方法に係る処理を実現することが可能な構成は、第1の実施形態に係る3次元再構成装置10に示す構成に限られない。
【0162】
本発明の第4の実施形態に係る3次元再構成装置は、本発明の第1の実施形態に係る3次元再構成装置10に対し、図1の下界最大化処理部13で行われる下界の最大化手法に関して、連続量である投影条件、例えば投影方向等を離散化した投影条件ごとに投影条件の事後確率を計算することにより生体分子の3次元構造の事後確率の最大化を行う点において、異なる。以下、この離散化を考慮した最大化を、第2の事後確率最大化手段という。
【0163】
連続量である隠れ変数zi(例えば、投影方向等)を一定規則に従って離散的にサンプリングし、サンプリングした条件でのみ任意の確率分布である試験分布q(z)が値を持つように試験分布を定義する。
【0164】
3次元構造の事後確率の下界F(q(z),θ)のq(z)に関する最大化は、試験分布q(z)と隠れ変数ziの事後確率p(zi|yi,θ)に関するカルバック・ライブラー・ダイバージェンスのq(z)に関する最小化と等価なため、以下の数式34のように、q(z)がp(zi|yi,θ)と等しいときに、下界F(q(z),θ)はq(z)に関して最大となる。このとき、試験分布q(z)を上述のように、サンプリングした条件でのみ値を持つように定義したことから、数式34の分母の積分演算は積算演算になる。
【0165】
【数34】
【0166】
すなわち、これは、連続量である隠れ変数zi(例えば、投影方向等)を一定規則に従って離散的にサンプリングし、隠れ変数ziの全組み合わせに対して尤度p(yi|zi,θ)と事前確率p(zi|θ)の積の積算を行って分母を計算することになる。
【0167】
隠れ変数ziの離散化は、例えば、以下の数式35のようにすることにより、隠れ変数ziを、範囲κi(n).startからκi(n).endの間でκi(n).num個生成することができる。数式35中のnは、隠れ変数zi20の要素の番号を表し1~Nzの値をとり、jは、サンプルの番号を表し1~κi(n).numの値をとるものとする。さらに、全組み合わせSは、以下の数式36によって求められる。例えば、隠れ変数の要素が前述の数式4の場合、n=1はαiになり、Nzは10になる。
【0168】
【数35】
【0169】
【数36】
【0170】
図16は、本発明の第4の実施形態に係る下界最大化処理部13の処理の一例を説明するためのブロック図である。離散用事後確率推定部300では、前述の数式34を全粒子画像及び全隠れ変数の要素に対して行う。事後確率^q(qi=1)の計算は、前述の数式21を用いて行う。
【0171】
離散用3次元構造推定部301では、下界F(q(z),θ)の3次元構造パラメータθに関する最大化を行う。離散用3次元構造推定部301では、以下の数式37によって3次元構造aを更新し、以下の数式38によって分散σi 2を更新する。このとき、分散σi 2の更新はすべての粒子画像に対して行う。
【0172】
【数37】
【0173】
【数38】
【0174】
(第5の実施形態)
本発明の第5の実施形態に係る3次元再構成装置は、本発明の第4の実施形態に係る3次元再構成装置に対し、図16の離散用3次元構造推定部301で行われる下界F(q(z),θ)の3次元構造パラメータθに関する最大化手法に関して、事後確率の高い投影条件を選択する機能と、選択されなかった残りの投影条件に関してモンテカルロ近似を行う機能を有する点において、異なる。
【0175】
本発明の第4の実施形態に係る3次元再構成装置では、前述のとおり、3次元構造aの更新式である前述の数式37内の隠れ変数ziの組み合わせ数Sは前述の数式38で決まるが、隠れ変数の要素数が増える、又は、分割数κi(n).numが増えると組み合わせ数が膨大になる。
【0176】
これに対し、本発明の第5の実施形態に係る3次元再構成装置は、隠れ変数ziの全組み合わせの中から事後確率p(zi|yi,θ)の高い順に一定数を選択し、残りの組み合わせをモンテカルロ近似することにより、下界F(q(z),θ)の3次元構造パラメータθに関する最大化を行う。
【0177】
まず、図16の離散用事後確率推定部300で求めた事後確率p(zi|yi,θ)を確率の高い値から低い値へ降順にソートし、確率がある一定基準以内の隠れ変数ziを選択する。基準は、例えば、上位K番目までや、確率の総和が何%以内までなどがあげられる。
【0178】
次に、総サンプル数をS、基準を満たす隠れ変数ziの数をKとしたときに、残りのS-K個の隠れ変数ziから事後確率p(zi|yi,θ)に応じてN-K個の隠れ変数ziをランダムにサンプリングする。
【0179】
3次元構造aと分散σi 2の更新式は、以下の数式39、数式40のようになる。
【0180】
【数39】
【0181】
【数40】
【0182】
ここで、Ωiは、基準以内の隠れ変数ziの集合を表し、zij~p(zi|yi,θ)\Ωiは、基準以外の隠れ変数ziの集合の中から事後確率p(zi|yi,θ)に応じて隠れ変数zijをサンプリングすることを表している。また、Tiは、基準以外の隠れ変数ziの事後確率p(zi|yi,θ)の総和を表す。
【0183】
基準を満たす隠れ変数ziの数がKで、サンプリングした隠れ変数zijの数がN-Kなので、全体でN個の隠れ変数ziを使って投影像を計算することになる。NがSよりも小さければ計算量の削減が行える。一般的に推定の初めの段階では、隠れ変数すなわち投影条件はいろいろな可能性があるため確率分布の形状は広くなるが、後半になれば投影条件の推定が進み可能性が絞られてくるので確率分布の形状が急峻になる。この場合、ほとんどの条件で確率が0に近くなる。例えば基準を上位K番目までとした場合に、基準以外の隠れ変数ziの事後確率p(zi|yi,θ)の総和を表すTiは非常に小さな値になるため、モンテカルロ近似を行っても十分な近似精度が得られ、かつ、計算量の削減ができる。
【0184】
(第6の実施形態)
本発明の第6の実施形態に係る3次元再構成装置は、本発明の第1の実施形態に係る3次元再構成装置10に対し、図1の下界最大化処理部13で行われる下界の最大化手法に関して、第1の実施形態における第1の事後確率最大化手段と第4の実施形態における第2の事後確率最大化手段を推定の経過に応じて切り替える機能を有する点において、異なる。
【0185】
本発明の第4の実施形態に係る3次元再構成装置の図16の下界最大化処理部13では、前述のとおり、隠れ変数ziを一定規則に従って離散的にサンプリングし、下界F(q(z),θ)のq(z)に関する最大化を行っている。隠れ変数ziの組み合わせ数Sは前述の数式38で決まるが、分割数κi(n).numが増えると組み合わせ数が膨大になる。
【0186】
また、本発明の第1の実施形態に係る3次元再構成装置10の図15の下界最大化処理部13では、前述のとおり、勾配法によって確率分布のパラメータを更新している。しかしながら、現在の推定値が実際の解から遠い場合に勾配を検出することが難しくなる。また、勾配法は局所的な最適化を行うため局所解に収束してしまう可能性もある。
【0187】
これに対し、本発明の第6の実施形態に係る3次元再構成装置の下界最大化処理部13では、推定の初期段階では図16の本発明の第4の実施形態に係る3次元再構成装置の下界最大化処理部13の処理を使って最適化をし(第4の実施形態における第2の事後確率最大化手段)、推定の後半では図15の本発明の第1の実施形態に係る3次元再構成装置10の下界最大化処理部13の処理(第1の実施形態における第1の事後確率最大化手段)を行う。
【0188】
また、図16の本発明の第4の実施形態に係る3次元再構成装置の下界最大化処理部13の処理を行う際は、組み合わせ数が膨大にならないように分割数κi(n).numを少なくし粗く推定を行い、推定の後半で行われる図15の本発明の第1の実施形態に係る3次元再構成装置の下界最大化処理部13の処理で詳細な推定を行う。
【0189】
図17は、本発明の第6の実施形態に係る下界最大化処理部13の処理の一例を説明するためのブロック図である。勾配法用事後確率推定部200及び勾配法用3次元構造推定部201は、図15の本発明の第1の実施形態に係る3次元再構成装置の下界最大化処理部13の勾配法用事後確率推定部200及び勾配法用3次元構造推定部201の処理と同じで、離散用事後確率推定部300及び離散用3次元構造推定部301は、図16の本発明の第4の実施形態に係る3次元再構成装置の下界最大化処理部13の離散用事後確率推定部300及び離散用3次元構造推定部301の処理と同じである。
【0190】
制御部400では、制御の切り替えを行う。制御の切り替えは例えば、下界F(q(z),θ)の値が閾値以下だった場合、離散用事後確率推定部300及び離散用3次元構造推定部301の処理を行い、閾値を超えたら勾配法用事後確率推定部200及び勾配法用3次元構造推定部201の処理を行うという方法がある。
【0191】
(第7の実施形態)
本発明の第7の実施形態に係る3次元再構成装置は、本発明の第1の実施形態に係る3次元再構成装置10に対し、図1の下界最大化処理部13で行われる下界の最大化手法に関して、第1の実施形態における第1の事後確率最大化手段と第4の実施形態における第2の事後確率最大化手段に加え、以下に説明する第3の事後確率最大化手段を推定の経過に応じて切り替える機能を有する点において、異なる。
【0192】
下界F(q(z),θ)をq(z)とθに関して最大化して3次元構造パラメータθを推定する問題は、以下の数式41のように書ける。この問題は一般的に大域最適化と言われる。一方、初期値の近傍の最適解を見つける問題は局所最適化と呼ばれる。大域最適化に比べて局所最適化は計算コストが少ないが、推定値局所解に収束する可能性がある。一方、大域最適化は局所解に陥ることはないが、計算量が多くなるという問題がある。また、下界F(q(z),θ)の計算コストが大きい場合、計算量の多さはより問題になる。
【0193】
【数41】
【0194】
本発明の第7の実施形態に係る3次元再構成装置は、第3の事後確率最大化手段である大域最適化と、第1の実施形態における第1の事後確率最大化手段と第4の実施形態における第2の事後確率最大化手段のいずれか又は両方を組み合わせて3次元構造の推定を行う。
【0195】
本発明の第7の実施形態に係る3次元再構成装置では、隠れ変数ziの中の大域最適化を行う変数をφiとする。φiは、前述した第6の投影条件である生体分子の対称性を表現する量である。本発明の第7の実施形態に係る3次元再構成装置では、大域最適化を行う変数を1つとしたが、当然ながら大域最適化を行う変数を複数にしてもよい。
【0196】
また、大域最適化の手法は問わないが、本発明の第7の実施形態に係る3次元再構成装置ではベイズ最適化を使って説明する。
【0197】
ベイズ最適化では、獲得関数の値が最大となる変数を次の候補値として使用する。獲得関数は、それまでの候補値と目的関数の値によって更新される。本発明の第7の実施形態に係る3次元再構成装置では、目的関数は3次元構造の事後確率の下界F(q(z),θ)になる。
【0198】
任意の確率分布q(z)を大域最適化で行う変数φに関する確率分布とそれ以外の変数z\φに関する確率分布に分けると、以下の数式42のように書ける。ここで、z\φはφ以外の隠れ変数を表す。
【0199】
【数42】
【0200】
本発明の第7の実施形態に係る3次元再構成装置では、獲得関数α(φ)より取得した候補値φ(φ:ファイ・バー<平均値>を示す)を固定し残りの隠れ変数z\φの確率分布q(z\φ)とθに関して下界F(q(z\φ),θ)を最大化する。最大化した下界の値(目的関数の値)をynとすると、以下の数式43のように書ける。下界の最大化は本発明の第1~6の実施形態又は変形例のいずれかを使って行う。
【0201】
【数43】
【0202】
それまでに候補となったすべての隠れ変数φnとその下界の値ynを使って、以下の数式44のように、次の候補値φn+1を得る。
【0203】
【数44】
【0204】
図18は、本発明の第7の実施形態に係る3次元再構成装置の下界F(q(z),θ)の最大化の処理を説明するためのフロー図である。まず、獲得関数の値が最大となる隠れ変数φの候補値φnを取得する(S100)。候補値φn固定して、下界F(q(z|φn,τ),θ)のq(z)とθに関する最大化を行う(S101)。次に収束判定を行う(S102)。収束判定は、本発明の第1の実施形態に係る3次元再構成装置10の収束判定部15の処理で判定する。収束していない場合は下界最大化処理(S101)に戻る。収束している場合は、候補値φnと最大化した下界の値ynを保存する(S103)。次に処理を継続するか判定する(S104)。処理の終了判定はどのようなものでもよいが、例えば一定回数処理を行ったかどうかで判定してもよい。処理を継続する場合は候補値φnの取得(S100)に戻る。
【0205】
(第8の実施形態)
本発明の第8の実施形態に係る3次元再構成装置は、本発明の第1の実施形態に係る3次元再構成装置10に対し、第3の投影条件である粒子画像に目的とする生体分子が適切に写っているか否かを示す量の事後確率の推定手法において、異なる。
【0206】
本発明の第1の実施形態に係る3次元再構成装置10では、前述のとおり、第3の投影条件である粒子画像に目的とする生体分子が適切に写っているか否かを示す量の事後確率^q(gi=1)について、数式21を用いて行っている。
【0207】
これに対し、本発明の第8の実施形態に係る3次元再構成装置では、事前に学習させた識別器を使って粒子画像が正常粒子画像であるか識別し、識別器が出力した正常粒子画像である確率を事後確率^q(gi=1)の推定値とするものである。
【0208】
図19は、本発明の第8の実施形態に係る3次元再構成装置の識別器の学習を説明するためのフロー図である。識別器の学習は、全粒子画像からあらかじめ設定した枚数を取り出す(S200)。次に、取り出した粒子画像に正常粒子画像又は異常粒子画像のラベル(タグ)を付与する(S201)。さらに、取り出した粒子画像の特徴量を抽出し(S202)、抽出した特徴量を用いて識別器の学習を行う(S203)。
【0209】
ここで、特徴量はどのようなものでもよいが、例えば、スケール不変特徴変換によるSIFT特徴量やフィッシャーベクトル等が考えられる。また、識別器についてもどのようなものでもよいが、混合ガウスモデルGMMやランダムフォレストのようなものがある。
【0210】
また、図19の本発明の第8の実施形態に係る3次元再構成装置の識別器の学習を説明するためのフロー図では、取り出した粒子画像に正常粒子画像又は異常粒子画像のラベルを付与したが、例えば解析対象の生体分子は未知であるが、異常粒子画像の特徴は既知の場合(例えば、別の生体分子の構造が既知など)は、異常粒子画像の特徴量を事前に抽出しておいてもよい。その場合は、正常粒子画像の特徴量のみを抽出し、異常粒子画像の特徴量は事前に取得しておいたものを使用して識別器を学習させる。
【0211】
又は、正常粒子画像の識別器と、異常粒子画像の識別器を別々に学習させてもよい。正常粒子画像の識別器と、異常粒子画像の識別器を別々に学習させた場合の事後確率は、pregを正常粒子画像の識別器の出力、pirregを異常粒子画像用の識別器の出力とすると、以下の数式45の結果を^q(gi=1)の推定値とする。
【0212】
【数45】
【0213】
3次元構造の推定は、学習した識別器を用いて全粒子画像を識別し、識別した結果を^q(gi=1)として、本発明の第1~7の実施形態に係る3次元再構成装置の処理を行う。
【0214】
(実施形態の効果)
本発明によれば、計算量を抑えつつ、高分解能な3次元再構成像を生成する3次元再構成装置、3次元再構成方法及び3次元再構成プログラムを提供することができる。具体的には、以下のとおりである。
【0215】
上記した実施形態では、透過型電子顕微鏡により撮影された電顕画像から抽出した複数枚の粒子画像と、電顕画像の撮影条件から生体分子の3次元構造を推定するシステムにおける3次元再構成装置であって、3次元構造の事後確率の下界を投影条件の確率分布及び3次元構造に関して最大化することによって、投影条件と生体分子の3次元構造とを推定する。
【0216】
その際、生体分子の3次元構造を投影することにより得られる投影像に関し、生体分子の変形を定めるパラメータからなる第1の投影条件、電顕画像の撮影条件であるCTFに関する補正量からなる第2の投影条件、及び、粒子画像に目的とする生体分子が適切に写っているか否かを示す量からなる第3の投影条件の少なくとも1つを含む投影条件を与えた3次元再構成装置により、生体分子の3次元構造を推定する。また、生体分子がどの方向から投影されているかを表す投影方向からなる第4の投影条件、生体分子の中心位置を表す平行移動量からなる第5の投影条件、生体分子の対称性を表現する量からなる第6の投影条件、及び、複数の3次元構造のいずれに属するかを示す量(クラス分類)からなる第7の投影条件の少なくとも1つを含む投影条件を与えた3次元再構成装置により、生体分子の3次元構造を推定する。
【0217】
従来手法では変形を定めるパラメータが考慮されていないため、変形がある生体分子の3次元構造を適切に推定することができないが、本実施形態では、第1の投影条件である生体分子の変形を定めるパラメータを推定する投影条件に加えることにより、変形がある生体分子でも精度良く推定することが可能となる。さらに、構造変化のあるような生体分子に対しても、同一生体分子の構造多形として推定が可能になる。
【0218】
また、推定する投影条件に第2の投影条件であるCTFに関する補正量を加えることにより、S/N比が非常に低い電顕画像から計算されたCTFを補正しながら生体分子の3次元構造を推定することができ、より高精度な3次元再構成像を得ることが可能になる。また、電顕画像から抽出した粒子画像ごとのCTFは、氷の厚さが均一でないことから粒子画像ごとに異なるため、CTFに関する補正量を加えることにより、粒子画像ごとのCTFのズレも吸収できる。
【0219】
また、推定する投影条件に第3の投影条件である粒子画像に目的とする生体分子が適切に写っているか否かを示す量を加えることにより、投影像の写り方の適切さによって粒子画像を最適化の中で取捨選択でき、これにより、従来手法にあったユーザーによる恣意性を排除できる。
【0220】
本実施形態の一態様として、第1から第3の投影条件の確率分布に関する3次元構造の事後確率の下界の最大化は、投影条件の確率分布を表現するパラメータを、例えば、モンテカルロ近似によって算出した勾配を用いた勾配法によって更新することにより、生体分子の3次元構造の事後確率を最大化させる第1の事後確率最大化手段と、本来連続量である投影条件、例えば投影方向等を離散化した投影条件ごとにその事後確率を計算することにより、生体分子の3次元構造の事後確率を最大化する第2の事後確率最大化手段と、大域的最適化を使用して生体分子の3次元構造の事後確率を最大化する第3の事後確率最大化手段と、を推定の経過に応じて切り替えることによって生体分子の3次元構造の事後確率の最大化を行ってもよい。
【0221】
非特許文献1に記載の技術では推定精度を向上させるために、離散化を細かく行うと計算コストが膨大になるという問題があるが、本実施形態のように、第1の事後確率最大化手段である勾配法では、勾配を例えばモンテカルロ近似によって算出することにより確率の低い条件は少なく評価し、確率の高い条件を多く評価するといった効率のよい評価ができ、結果的に計算量の削減になる。例えば、図22のように投影方向を水平、垂直1度間隔で離散的に分割した場合、分割数は64800となる。図22中の矢印は、投影方向を表している。ある方向からの投影像と、反対方向からの投影像は同じになることを考慮すると、分割数は半分でよく32400となる。これは1粒子あたり32400個の投影像を生成する必要があることを表している。仮に、モンテカルロ近似の際のサンプリング数を1000とすると、パラメータの更新1回あたりで比較すると約30分の1の計算量になる。勾配法によるパラメータの更新回数を10回とした場合でも、1000×10=10000個の投影像を計算すればよく、約3分の1の計算量になる。また、先の例のように離散的に分割した場合は1度以下の精度で推定することはできないが、勾配法の場合はパラメータの更新量を細かくすることにより、1度以下の精度で推定することが可能となる。
【0222】
さらに、一般的に勾配法では局所解に収束する可能性があるが、第1の事後確率最大化手段である勾配法に加えて、第2の事後確率最大化手段である離散化された条件ごと事後確率を推定する手法と、第3の事後確率最大化手段である大域的最適化手法とを組み合わせることにより、推定精度の低下を抑えつつ計算量の削減が行える。
【0223】
本実施形態の一態様として、生体分子の3次元構造の事後確率の下界の最大化において、生体分子の3次元構造を複数の基底関数の線形和によって表現する機能と、実空間における2つの基底関数の距離を求める機能と、2つの基底関数の距離が近傍であるか判定する機能と、基底関数に対応する係数の差を計算する機能と基底関数に対応する係数の差がエッジかどうか判定する機能を有し、すべての基底関数の組み合わせに対して求めた距離と、係数の差と、エッジかどうかの判定結果に基づいた3次元構造の事前確率を使って、3次元構造の事後確率を最大化してもよい。
【0224】
粒子画像のS/N比が低いことに起因する過剰適合の問題を、空間的な隣接関係に基づいた3次元構造の事前確率を導入することにより、過剰適合を防ぎながら過度な抑止にならないように効率的に解決することができる。
【0225】
図14は、3次元構造の事前確率を変えて3次元構造の推定を行った例である。左図は隣接間を考慮しない場合、中図は隣接間が滑らかになるようにした場合、右図は隣接間を滑らかにしつつエッジを保存した場合である。実線の円内部を見ると、中図と右図の例では隣接間が滑らかになっていることがわかる。さらに、点線の円内部を見ると、中図の例ではエッジがぼやけているのに対し、右図の例ではエッジが保存されていることがわかる。
【0226】
本実施形態の一態様として、投影像の生成において、生体分子の3次元構造を複数の基底関数の線形和によって表現する機能と、補助画素を作成して撮像素子により決まる解像度以上の投影像を生成する機能を有し、生成した投影像を用いて生体分子の3次元構造を推定してもよい。
【0227】
生体分子の3次元構造を基底関数の線形和によって表現することにより、3次元空間の任意の位置での3次元構造の値を取得することができ、投影像を任意の分解能で作成することができる。実際の画素に加え、より細かな補助画素の値も計算することにより、より高解像度な投影像を生成することができ、それにより推定精度を向上させることができる。
【0228】
本実施形態の一態様として、第3の投影条件の粒子画像に目的とする生体分子が適切に写っているか否かを示す量の事後確率の推定において、粒子画像の特徴量を抽出する機能と、粒子画像に目的の生体分子が適切に写っているか否かをラベル付けする機能と、粒子画像に目的の生体分子が適切に写っているか否かを識別する識別器に特徴量とラベルによって学習させる機能と、識別器から出力される目的の生体分子が写っている確率を使って3次元構造の事後確率の下界を投影条件の確率分布と3次元構造に関して最大化する機能とを有してもよい。
【0229】
特徴量とラベルによって学習させ識別器が出力する確率を目的とする生体分子が適切に写っているか否かを示す量の事後確率の推定値として使うことにより、目的とする生体分子が適切に写っていない場合の生成過程を定義することが困難な場合でも、生体分子が適切に写っているか否かを考慮して最適化することができ、従来手法にあったユーザーによる恣意性を排除できる。
【0230】
図23は、実際に電子顕微鏡により撮影された画像を用いて、本発明によって3次元構造を推定した結果である。図23の左図が推定した3次元構造で、右図が3次元構造の円筒軸に垂直に切った平面上の断面図である。
【0231】
図24は、第1の投影条件の変形を定めるパラメータを用いたアルゴリズムと、第1の投影条件の変形を定めるパラメータを用いないアルゴリズムでの性能の比較である。横軸は、複数枚の粒子画像のデータセットに含まれる変形量の度合いを表し、縦軸は、推定誤差をdBで表している。測定は、横軸のデータセットごとに10回行った。図24は、測定結果を箱ひげ図を使ってグラフに描画したものである。さらに、10回の平均値も折れ線グラフとして重ねて描画している。図24中の薄いグレーが第1の投影条件の変形を定めるパラメータを用いたアルゴリズムによる結果で、濃いグレーが第1の投影条件の変形を定めるパラメータを用いないアルゴリズムでの結果になる。図24のグラフの横軸は、右に行くほど変形度合いが大きくなる。薄いグレーの折れ線グラフは水平になっている。これは粒子画像に含まれる変形が大きくなっても性能が保たれていることを示している。一方、濃いグレーの折れ線グラフは、右下がりになっている。これは、逆に、粒子画像に含まれる変形が大きくなるほど、性能が劣化していることを示している。図24の一番右の最も大きい変形が含まれているデータセットでは、第1の投影条件の変形を定めるパラメータを用いたアルゴリズムは、第1の投影条件の変形を定めるパラメータを用いないアルゴリズムに比べて、3.86dB、性能が向上している。
【0232】
(3次元再構成装置10のハードウェア構成)
前述した実施形態における3次元再構成装置10及び各処理の一部又は全部は、ハードウェアで構成されていてもよいし、CPU(Central Processing Unit)、又はGPU(Graphics Processing Unit)等が実行するソフトウェア(プログラム)の情報処理で構成されてもよい。ソフトウェアの情報処理で構成される場合には、前述した実施形態における3次元再構成装置10の少なくとも一部の機能を実現するソフトウェアを、フレキシブルディスク、CD-ROM(Compact Disc-Read Only Memory)、又はUSB(Universal Serial Bus)メモリ等の非一時的な記憶媒体(非一時的なコンピュータ可読媒体)に収納し、コンピュータに読み込ませることにより、ソフトウェアの情報処理を実行してもよい。また、通信ネットワークを介して当該ソフトウェアがダウンロードされてもよい。さらに、ソフトウェアがASIC(Application Specific Integrated Circuit)、又はFPGA(Field Programmable Gate Array)等の回路に実装されることにより、情報処理がハードウェアにより実行されてもよい。
【0233】
ソフトウェアを収納する記憶媒体の種類は限定されるものではない。記憶媒体は、磁気ディスク、又は光ディスク等の着脱可能なものに限定されず、ハードディスク、又はメモリ等の固定型の記憶媒体であってもよい。また、記憶媒体は、コンピュータ内部に備えられてもよいし、コンピュータ外部に備えられてもよい。
【0234】
図25は、前述した実施形態における3次元再構成装置10のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。3次元再構成装置10は、一例として、プロセッサ71と、主記憶装置72(メモリ)と、補助記憶装置73(メモリ)と、ネットワークインタフェース74と、デバイスインタフェース75と、を備え、これらがバス76を介して接続されたコンピュータ7として実現されてもよい。
【0235】
図25のコンピュータ7は、各構成要素を一つ備えているが、同じ構成要素を複数備えていてもよい。また、図25では、1台のコンピュータ7が示されているが、ソフトウェアが複数台のコンピュータにインストールされて、当該複数台のコンピュータそれぞれがソフトウェアの同一の又は異なる一部の処理を実行してもよい。この場合、コンピュータそれぞれがネットワークインタフェース74等を介して通信して処理を実行する分散コンピューティングの形態であってもよい。つまり、前述した実施形態における3次元再構成装置10は、1又は複数の記憶装置に記憶された命令を1台又は複数台のコンピュータが実行することで機能を実現するシステムとして構成されてもよい。また、端末から送信された情報をクラウド上に設けられた1台又は複数台のコンピュータで処理し、この処理結果を端末に送信するような構成であってもよい。
【0236】
前述した実施形態における3次元再構成装置10の各種演算は、1又は複数のプロセッサを用いて、又は、ネットワークを介した複数台のコンピュータを用いて、並列処理で実行されてもよい。また、各種演算が、プロセッサ内に複数ある演算コアに振り分けられて、並列処理で実行されてもよい。また、本開示の処理、手段等の一部又は全部は、ネットワークを介してコンピュータ7と通信可能なクラウド上に設けられたプロセッサ及び記憶装置の少なくとも一方により実行されてもよい。このように、前述した実施形態における3次元再構成装置10は、1台又は複数台のコンピュータによる並列コンピューティングの形態であってもよい。
【0237】
プロセッサ71は、コンピュータの制御装置及び演算装置を含む電子回路(処理回路、Processing circuit、Processing circuitry、CPU、GPU、FPGA、又はASIC等)であってもよい。また、プロセッサ71は、専用の処理回路を含む半導体装置等であってもよい。プロセッサ71は、電子論理素子を用いた電子回路に限定されるものではなく、光論理素子を用いた光回路により実現されてもよい。また、プロセッサ71は、量子コンピューティングに基づく演算機能を含むものであってもよい。
【0238】
プロセッサ71は、コンピュータ7の内部構成の各部又は装置等から入力されたデータやソフトウェア(プログラム)に基づいて演算処理を行い、演算結果や制御信号を各部又は装置等に出力することができる。プロセッサ71は、コンピュータ7のOS(Operating System)や、アプリケーション等を実行することにより、コンピュータ7を構成する各構成要素を制御してもよい。
【0239】
前述した実施形態における3次元再構成装置10は、1又は複数のプロセッサ71により実現されてもよい。ここで、プロセッサ71は、1チップ上に配置された1又は複数の電子回路を指してもよいし、2つ以上のチップあるいは2つ以上のデバイス上に配置された1又は複数の電子回路を指してもよい。複数の電子回路を用いる場合、各電子回路は有線又は無線により通信してもよい。
【0240】
主記憶装置72は、プロセッサ71が実行する命令及び各種データ等を記憶する記憶装置であり、主記憶装置72に記憶された情報がプロセッサ71により読み出される。補助記憶装置73は、主記憶装置72以外の記憶装置である。なお、これらの記憶装置は、電子情報を格納可能な任意の電子部品を意味するものとし、半導体のメモリでもよい。半導体のメモリは、揮発性メモリ、不揮発性メモリのいずれでもよい。前述した実施形態における3次元再構成装置10において各種データを保存するための記憶装置は、主記憶装置72又は補助記憶装置73により実現されてもよく、プロセッサ71に内蔵される内蔵メモリにより実現されてもよい。
【0241】
記憶装置(メモリ)1つに対して、複数のプロセッサが接続(結合)されてもよいし、単数のプロセッサが接続されてもよい。プロセッサ1つに対して、複数の記憶装置(メモリ)が接続(結合)されてもよい。前述した実施形態における3次元再構成装置10が、少なくとも1つの記憶装置(メモリ)とこの少なくとも1つの記憶装置(メモリ)に接続(結合)される複数のプロセッサで構成される場合、複数のプロセッサのうち少なくとも1つのプロセッサが、少なくとも1つの記憶装置(メモリ)に接続(結合)される構成を含んでもよい。また、複数台のコンピュータに含まれる記憶装置(メモリ))とプロセッサによって、この構成が実現されてもよい。さらに、記憶装置(メモリ)がプロセッサと一体になっている構成(例えば、L1キャッシュ、L2キャッシュを含むキャッシュメモリ)を含んでもよい。
【0242】
ネットワークインタフェース74は、無線又は有線により、通信ネットワーク8に接続するためのインタフェースである。ネットワークインタフェース74は、既存の通信規格に適合したもの等、適切なインタフェースを用いればよい。ネットワークインタフェース74により、通信ネットワーク8を介して接続された外部装置9Aと情報のやり取りが行われてもよい。なお、通信ネットワーク8は、WAN(Wide Area Network)、LAN(Local Area Network)、PAN(Personal Area Network)等の何れか、又は、それらの組み合わせであってよく、コンピュータ7と外部装置9Aとの間で情報のやり取りが行われるものであればよい。WANの一例としてインターネット等があり、LANの一例としてIEEE802.11やイーサネット(登録商標)等があり、PANの一例としてBluetooth(登録商標)やNFC(Near Field Communication)等がある。
【0243】
デバイスインタフェース75は、外部装置9Bと直接接続するUSB等のインタフェースである。
【0244】
外部装置9Aはコンピュータ7とネットワークを介して接続されている装置である。外部装置9Bはコンピュータ7と直接接続されている装置である。
【0245】
外部装置9A又は外部装置9Bは、一例として、入力装置であってもよい。入力装置は、例えば、カメラ、マイクロフォン、モーションキャプチャ、各種センサー、キーボード、マウス、又はタッチパネル等のデバイスであり、取得した情報をコンピュータ7に与える。また、パーソナルコンピュータ、タブレット端末、又はスマートフォン等の入力部とメモリとプロセッサを備えるデバイスであってもよい。
【0246】
また、外部装置9A又は外部装置Bは、一例として、出力装置でもよい。出力装置は、例えば、LCD(Liquid Crystal Display)、CRT(Cathode Ray Tube)、PDP(Plasma Display Panel)、又は有機EL(Electro Luminescence)パネル等の表示装置であってもよいし、音声等を出力するスピーカ等であってもよい。また、パーソナルコンピュータ、タブレット端末、又はスマートフォン等の出力部とメモリとプロセッサを備えるデバイスであってもよい。
【0247】
また、外部装置9Aまた外部装置9Bは、記憶装置(メモリ)であってもよい。例えば、外部装置9Aはネットワークストレージ等であってもよく、外部装置9BはHDD等のストレージであってもよい。
【0248】
また、外部装置9A又は外部装置9Bは、前述した実施形態における3次元再構成装置10の構成要素の一部の機能を有する装置でもよい。つまり、コンピュータ7は、外部装置9A又は外部装置9Bの処理結果の一部又は全部を送信又は受信してもよい。
【0249】
(本明細書等の解釈)
本明細書及び特許請求の範囲の解釈にあたっては、以下の定義が、使用される。本明細書(請求項を含む)において、「a、b及びcの少なくとも1つ(一方)」又は「a、b又はcの少なくとも1つ(一方)」の表現(同様な表現を含む)が用いられる場合は、a、b、c、a-b、a-c、b-c、又はa-b-cのいずれかを含む。また、a-a、a-b-b、a-a-b-b-c-c等のように、いずれかの要素について複数のインスタンスを含んでもよい。さらに、a-b-c-dのようにdを有する等、列挙された要素(a、b及びc)以外の他の要素を加えることも含む。
【0250】
本明細書(請求項を含む)において、「データを入力として/データに基づいて/に従って/に応じて」等の表現(同様な表現を含む)が用いられる場合は、特に断りがない場合、各種データそのものを入力として用いる場合や、各種データに何らかの処理を行ったもの(例えば、ノイズ加算したもの、正規化したもの、各種データの中間表現等)を入力として用いる場合を含む。また「データに基づいて/に従って/に応じて」何らかの結果が得られる旨が記載されている場合、当該データのみに基づいて当該結果が得られる場合を含むとともに、当該データ以外の他のデータ、要因、条件、及び/又は状態等にも影響を受けて当該結果が得られる場合をも含み得る。また、「データを出力する」旨が記載されている場合、特に断りがない場合、各種データそのものを出力として用いる場合や、各種データに何らかの処理を行ったもの(例えば、ノイズ加算したもの、正規化したもの、各種データの中間表現等)を出力とする場合も含む。
【0251】
本明細書(請求項を含む)において、「接続される(connected)」及び「結合される(coupled)」との用語が用いられる場合は、直接的な接続/結合、間接的な接続/結合、電気的(electrically)な接続/結合、通信的(communicatively)な接続/結合、機能的(operatively)な接続/結合、物理的(physically)な接続/結合等のいずれをも含む非限定的な用語として意図される。当該用語は、当該用語が用いられた文脈に応じて適宜解釈されるべきであるが、意図的に或いは当然に排除されるのではない接続/結合形態は、当該用語に含まれるものして非限定的に解釈されるべきである。
【0252】
本明細書(請求項を含む)において、「AがBするよう構成される(A configured to B)」との表現が用いられる場合は、要素Aの物理的構造が、動作Bを実行可能な構成を有するとともに、要素Aの恒常的(permanent)又は一時的(temporary)な設定(setting/configuration)が、動作Bを実際に実行するように設定(configured/set)されていることを含んでよい。例えば、要素Aが汎用プロセッサである場合、当該プロセッサが動作Bを実行可能なハードウェア構成を有するとともに、恒常的(permanent)又は一時的(temporary)なプログラム(命令)の設定により、動作Bを実際に実行するように設定(configured)されていればよい。また、要素Aが専用プロセッサ又は専用演算回路等である場合、制御用命令及びデータが実際に付属しているか否かとは無関係に、当該プロセッサの回路的構造が動作Bを実際に実行するように構築(implemented)されていればよい。
【0253】
本明細書(請求項を含む)において、含有又は所有を意味する用語(例えば、「含む(comprising/including)」及び有する「(having)等)」が用いられる場合は、当該用語の目的語により示される対象物以外の物を含有又は所有する場合を含む、open-endedな用語として意図される。これらの含有又は所有を意味する用語の目的語が数量を指定しない又は単数を示唆する表現(a又はanを冠詞とする表現)である場合は、当該表現は特定の数に限定されないものとして解釈されるべきである。
【0254】
本明細書(請求項を含む)において、ある箇所において「1つ又は複数(one or more)」又は「少なくとも1つ(at least one)」等の表現が用いられ、他の箇所において数量を指定しない又は単数を示唆する表現(a又はanを冠詞とする表現)が用いられているとしても、後者の表現が「1つ」を意味することを意図しない。一般に、数量を指定しない又は単数を示唆する表現(a又はanを冠詞とする表現)は、必ずしも特定の数に限定されないものとして解釈されるべきである。
【0255】
本明細書において、ある実施例の有する特定の構成について特定の効果(advantage/result)が得られる旨が記載されている場合、別段の理由がない限り、当該構成を有する他の1つ又は複数の実施例についても当該効果が得られると理解されるべきである。但し当該効果の有無は、一般に種々の要因、条件、及び/又は状態等に依存し、当該構成により必ず当該効果が得られるものではないと理解されるべきである。当該効果は、種々の要因、条件、及び/又は状態等が満たされたときに実施例に記載の当該構成により得られるものに過ぎず、当該構成又は類似の構成を規定したクレームに係る発明において、当該効果が必ずしも得られるものではない。
【0256】
本明細書(請求項を含む)において、「最大化(maximize)」等の用語が用いられる場合は、グローバルな最大値を求めること、グローバルな最大値の近似値を求めること、ローカルな最大値を求めること、及びローカルな最大値の近似値を求めることを含み、当該用語が用いられた文脈に応じて適宜解釈されるべきである。また、これら最大値の近似値を確率的又はヒューリスティックに求めることを含む。同様に、「最小化(minimize)」等の用語が用いられる場合は、グローバルな最小値を求めること、グローバルな最小値の近似値を求めること、ローカルな最小値を求めること、及びローカルな最小値の近似値を求めることを含み、当該用語が用いられた文脈に応じて適宜解釈されるべきである。また、これら最小値の近似値を確率的又はヒューリスティックに求めることを含む。同様に、「最適化(optimize)」等の用語が用いられる場合は、グローバルな最適値を求めること、グローバルな最適値の近似値を求めること、ローカルな最適値を求めること、及びローカルな最適値の近似値を求めることを含み、当該用語が用いられた文脈に応じて適宜解釈されるべきである。また、これら最適値の近似値を確率的又はヒューリスティックに求めることを含む。
【0257】
本明細書(請求項を含む)において、複数のハードウェアが所定の処理を行う場合、各ハードウェアが協働して所定の処理を行ってもよいし、一部のハードウェアが所定の処理の全てを行ってもよい。また、一部のハードウェアが所定の処理の一部を行い、別のハードウェアが所定の処理の残りを行ってもよい。本明細書(請求項を含む)において、「1又は複数のハードウェアが第1の処理を行い、前記1又は複数のハードウェアが第2の処理を行う」等の表現が用いられている場合、第1の処理を行うハードウェアと第2の処理を行うハードウェアは同じものであってもよいし、異なるものであってもよい。つまり、第1の処理を行うハードウェア及び第2の処理を行うハードウェアが、前記1又は複数のハードウェアに含まれていればよい。なお、ハードウェアは、電子回路、又は電子回路を含む装置等を含んでよい。
【0258】
本明細書(請求項を含む)において、複数の記憶装置(メモリ)がデータの記憶を行う場合、複数の記憶装置(メモリ)のうち個々の記憶装置(メモリ)は、データの一部のみを記憶してもよいし、データの全体を記憶してもよい。
【0259】
以上、本開示の実施形態について詳述したが、本開示は上記した個々の実施形態に限定されるものではない。特許請求の範囲に規定された内容及びその均等物から導き出される本発明の概念的な思想と趣旨を逸脱しない範囲において種々の追加、変更、置き換え及び部分的削除等が可能である。例えば、前述した全ての実施形態において、数値又は数式を説明に用いている場合は、一例として示したものであり、これらに限られるものではない。また、実施形態における各動作の順序は、一例として示したものであり、これらに限られるものではない
【符号の説明】
【0260】
7…コンピュータ
71…プロセッサ
72…主記憶装置(メモリ)
73…補助記憶装置(メモリ)
74…ネットワークインタフェース
75…デバイスインタフェース
76…バス
8…通信ネットワーク
9A,9B…外部装置
10…3次元再構成装置
11…CTF推定部
12…粒子抽出部
13…下界最大化処理部
14…投影像生成部
15…収束判定部
16…再構成部
110…投影像生成行列算出部
111…行列乗算処理部
141…2次元画素位置生成部
142…補助画素生成部
143…変形処理部
144…平行移動処理部
145…3次元画素位置生成部
146…回転処理部
147…対称性処理部
148…投影像生成行列計算部
200…勾配法用事後確率推定部
201…勾配法用3次元構造推定部
300…離散用事後確率推定部
301…離散用3次元構造推定部
400…制御部
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