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特許7490196直動制御装置およびそれを用いた昇降装置並びに昇降調節装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-17
(45)【発行日】2024-05-27
(54)【発明の名称】直動制御装置およびそれを用いた昇降装置並びに昇降調節装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 25/24 20060101AFI20240520BHJP
   A47B 9/04 20060101ALI20240520BHJP
   A47C 3/24 20060101ALI20240520BHJP
   A47C 9/08 20060101ALI20240520BHJP
【FI】
F16H25/24 D
A47B9/04
A47C3/24
A47C9/08
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020147087
(22)【出願日】2020-09-01
(65)【公開番号】P2022041719
(43)【公開日】2022-03-11
【審査請求日】2023-04-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000110206
【氏名又は名称】株式会社TOK
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100104204
【弁理士】
【氏名又は名称】峯岸 武司
(72)【発明者】
【氏名】河原 亮平
【審査官】永冨 宏之
(56)【参考文献】
【文献】実開昭59-034636(JP,U)
【文献】実開昭60-041664(JP,U)
【文献】特開昭55-076250(JP,A)
【文献】特開平01-307563(JP,A)
【文献】実開平06-014607(JP,U)
【文献】西独国実用新案公開第01906167(DE,U)
【文献】米国特許第06935250(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 25/24
A47C 3/24
A47C 9/08
A47B 9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円柱状または円筒状をしたカム本体の外周囲に螺旋状溝が形成された、前記カム本体の軸心周りに回転自在に設けられる柱状カムと、
前記カム本体の外周囲を内周囲が覆う円筒体形状をし、前記カム本体の軸心と平行な方向に直動対象物の直動範囲に応じた所定の第1軸心方向長さおよび所定の開口幅で外周囲壁に切り欠かれて形成される第1スリットを有し、前記カム本体の軸心と同軸に固定して設けられるハウジングと、
前記ハウジングの外周囲を内周囲が覆う円筒体形状をし、前記第1スリットが形成される前記ハウジングの周方向位置と同じ周方向位置で、前記カム本体の軸心と平行な方向に下端から所定の第2軸心方向長さおよび所定の開口幅で外周囲壁に切り欠かれて形成される第2スリットを有し、前記カム本体の軸心と同軸にかつ前記カム本体の軸心方向に移動自在に設けられ、上端に直動対象物が配置されるスライダーと、
前記螺旋状溝の溝幅よりも小さく、前記第1スリットおよび前記第2スリットの各前記開口幅よりも大きい外径をした一端が前記螺旋状溝に係合し、前記第1スリットおよび前記第2スリットの各前記開口幅並びに前記一端の外径よりも小さい外径をした他端が前記第1スリットを介して前記ハウジングの外周囲から前記ハウジングの半径方向へ延出し、前記スライダーが前記ハウジングに被せられることで前記スライダーの下端から前記第2スリットに係合する長さを有するフォロアーと、
前記カム本体の軸心に同軸に前記カム本体に固定してまたは前記カム本体に一体に設けられるカムシャフトと、
前記カムシャフトを前記カム本体の軸心周りに回転させるハンドルと
を備えて構成される直動制御装置。
【請求項2】
前記柱状カムは、前記螺旋状溝が前記カム本体の外周囲に複数本並んで形成され、
前記ハウジングは、外周囲壁の周方向に略均等な間隔で前記螺旋状溝の本数に等しい数の前記第1スリットが形成され、
前記スライダーは、前記第1スリットが形成される前記ハウジングの各周方向位置と同じ周方向位置における外周囲壁に前記第1スリットの数と等しい数の前記第2スリットが形成され、
前記フォロアーは、前記螺旋状溝の本数に等しい数のものの各一端が各前記螺旋状溝に係合し、各他端が各前記第1スリットを介して前記ハウジングの外周囲から前記ハウジングの半径方向へ延出し、前記スライダーが前記ハウジングに被せられることで前記スライダーの下端から各前記第2スリットに係合する
ことを特徴とする請求項1に記載の直動制御装置。
【請求項3】
前記カムシャフトの軸心方向に軸心方向が交差して設けられ、前記ハンドルが一端に取り付けられるハンドルシャフトと、
前記カムシャフトに一方が連結され、前記ハンドルシャフトに他方が連結されて互いに噛み合う一対の傘歯車と
を請求項1または請求項2に記載の前記直動制御装置にさらに備えて構成される、前記直動対象物を昇降させる昇降装置。
【請求項4】
前記直動対象物は楽器演奏用椅子の座部またはテーブルの天板であり、請求項3に記載の前記昇降装置により前記座部または前記天板の高さを調節する昇降調節装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直動対象物を所定の直動範囲において直動させる直動制御装置、および、その直動制御装置を用いて直動対象物を昇降させる昇降装置、並びに、その昇降装置により楽器演奏用椅子の座部またはテーブルの天板等の直動対象物の高さを調節する昇降調節装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来この種の直動制御装置としては、例えば、特許文献1に開示された鍵盤楽器演奏用椅子の昇降調節装置に使われるものがある。
【0003】
この昇降調節装置は、1つのガススプリング装置と3本の支持バーとで構成される。ガススプリング装置は1本の脚の内部に組み込まれ、3本の支持バーは残り3本の脚にリニアガイドを介して進退自在に組み込まれる。座部を構成する座板は4本の脚の上端により下面の隅角部が支持されている。ガススプリング装置は、圧縮空気が封入されたシリンダ本体と、その圧縮空気により常時上方に付勢されているピストンロッドと、シリンダ本体内のバルブを開閉する、座板の背面に取り付けられる操作釦からなる。このガススプリング装置は、座部を直動対象物とする直動制御装置を構成し、また、座部を昇降させる昇降装置を構成する。
【0004】
座面の高さを高くする場合、操作釦の操作によってバルブを開いてピストンロッドのロック状態を解除した後、座部から腰を浮かせて座板に掛かる体重による負荷を取り除くと、圧縮空気の圧力によってピストンロッドが伸張して座板が押し上げられる。また、座面の高さを低くする場合、座部を腰または手で押し下げることで、ピストンロッドを短縮させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2004-121463号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来の鍵盤楽器演奏用椅子の昇降調節装置に使われる直動制御装置および昇降装置では、演奏者が腰を浮かせて操作釦を操作し、座面の高さ調整を行った後、座部に座ったときに、座面に沈み込みが発生する。これは座部を支持する、圧縮空気によって押し上げられているピストンロッドが、演奏者の体重によって圧縮空気が圧縮されるために、ピストンロッドが下方に押し戻されるためと、考えられる。このため、従来の昇降調節装置に使われる直動制御装置および昇降装置では、演奏者は、コンサーホール等で演奏を開始する前、幾度となく、腰を浮かせて操作釦を操作して、座面の高さを微調整する必要がある。したがって、この座面の高さ調整によって演奏者には演奏前にストレスがかかっていた。
【0007】
また、鍵盤楽器演奏用椅子の昇降調節装置に使われる直動制御装置および昇降装置に限らず、ガススプリング装置を使って構成されるその他の直動制御装置および昇降装置並びに昇降調節装置においても、上記と同様な問題が発生し、直動対象物を所望の直動位置に、または、所望の高さに直ちに調節することは難しい。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明はこのような課題を解決するためになされたもので、
円柱状または円筒状をしたカム本体の外周囲に螺旋状溝が形成された、カム本体の軸心周りに回転自在に設けられる柱状カムと、
カム本体の外周囲を内周囲が覆う円筒体形状をし、カム本体の軸心と平行な方向に直動対象物の直動範囲に応じた所定の第1軸心方向長さおよび所定の開口幅で外周囲壁に切り欠かれて形成される第1スリットを有し、カム本体の軸心と同軸に固定して設けられるハウジングと、
ハウジングの外周囲を内周囲が覆う円筒体形状をし、第1スリットが形成されるハウジングの周方向位置と同じ周方向位置で、カム本体の軸心と平行な方向に下端から所定の第2軸心方向長さおよび所定の開口幅で外周囲壁に切り欠かれて形成される第2スリットを有し、カム本体の軸心と同軸にかつカム本体の軸心方向に移動自在に設けられ、上端に直動対象物が配置されるスライダーと、
螺旋状溝の溝幅よりも小さく、第1スリットおよび第2スリットの各開口幅よりも大きい外径をした一端が螺旋状溝に係合し、第1スリットおよび第2スリットの各開口幅並びに前記一端の外径よりも小さい外径をした他端が第1スリットを介してハウジングの外周囲からハウジングの半径方向へ延出し、スライダーがハウジングに被せられることでスライダーの下端から第2スリットに係合する長さを有するフォロアーと、
カム本体の軸心に同軸にカム本体に固定してまたはカム本体に一体に設けられるカムシャフトと、
カムシャフトをカム本体の軸心周りに回転させるハンドルと
を備えて、直動制御装置を構成した。
【0009】
本構成によれば、ハンドルを回転させると、その回転はカムシャフトを介して柱状カムに伝わり、柱状カムが回転する。柱状カムが回転すると、螺旋状溝に一端が係合するフォロアーは、柱状カムの回転方向に応じて螺旋状溝の傾斜した側壁から駆動力を一端に受ける。フォロワーは、固定されたハウジングの第1スリットに他端が通されることで、その動く方向が、第1スリットの開口方向、すなわち、カム本体の軸心方向に平行な方向に規制される。したがって、フォロアーが螺旋状溝から受ける駆動力は、フォロワーをカム本体の軸心方向に平行な方向に移動させる力となる。
【0010】
柱状カムの回転方向がフォロワーの一端を上方へ向かわせ、スライダーの第2スリットの閉塞端に向かわせる方向であるとき、フォロワーは、螺旋状溝から受ける駆動力によって第2スリットの閉塞端を押し上げて、ハウジングの第1スリットの開口方向に沿ってスライダーの上端をハウジングから離れる方向へ移動させる。これにより、スライダーの上端に配置される直動対象物は、カム本体の軸心方向に沿って上方に直動する。また、柱状カムの回転方向がフォロワーの一端を下方へ向かわせ、スライダーの第2スリットの開放端へ向かわせる方向であるとき、フォロワーは、第2スリットの閉塞端から直動対象物の荷重を受けつつ、スライダーと共に、ハウジングの第1スリットの開口方向に沿って下方に移動する。これにより、スライダーの上端に配置される直動対象物は、カム本体の軸心方向に沿って下方に直動する。
【0011】
また、ハンドルの回転が止まると、その回転停止はカムシャフトを介して柱状カムに伝わり、柱状カムの回転も止まる。柱状カムの回転が止まると、一端が螺旋状溝に係合したフォロアーは、ハウジングの第1スリットによって螺旋状溝に沿う動きが規制されて、柱状カムの回転が停止したときの直動位置にとどまる。フォロアーのこの直動位置は、ハウジングの第1スリットによってフォロアーの動きが堅固に規制されるので、操作者がハンドルから手を離しても、動くことはない。
【0012】
したがって、本構成による直動制御装置は、直動対象物を昇降させる昇降装置、および、その昇降装置により直動対象物の調整高さを調節する昇降調節装置に使うことで、直動対象物の直動位置または調整高さは、ハンドルの回転停止に伴って直ちに所望の高さに設定される。この直動位置または調整高さは、直動対象物からスライダーを介してフォロアーに伝わる荷重が大きくても、従来のガススプリング装置から構成される直動制御装置のように動くことはない。
【0013】
このため、直動対象物を楽器演奏用椅子の座部またはテーブルの天板とし、本構成による直動制御装置をこれら座部や天板を昇降させる昇降装置、および、その昇降装置によって座部や天板の昇降高さを調節する昇降調節装置に使用することで、演奏者は、コンサーホール等で演奏を開始する前、楽器演奏用椅子の座面高さを直ちに所望の高さに設定することが可能となり、従来の直動制御装置のように、幾度となく微調整する必要が無くなる。したがって、演奏前における座面高さの調整によって、従来のように、演奏者にストレスがかかることはなくなる。また、テーブルの天板高さを直ちに所望の高さに設定することが可能となり、重い物をテーブルの天板に乗せた場合でも、従来の直動制御装置のように、微調整する必要が無くなる。
【0014】
また、本発明は、
柱状カムの螺旋状溝がカム本体の外周囲に複数本並んで形成され、
ハウジングは、外周囲壁の周方向に略均等な間隔で螺旋状溝の本数に等しい数の第1スリットが形成され、
スライダーは、第1スリットが形成されるハウジングの各周方向位置と同じ周方向位置における外周囲壁に第1スリットの数と等しい数の第2スリットが形成され、
フォロアーは、螺旋状溝の本数に等しい数のものの各一端が各螺旋状溝に係合し、各他端が各第1スリットを介してハウジングの外周囲からハウジングの半径方向へ延出し、スライダーがハウジングに被せられることでスライダーの下端から各第2スリットに係合する
ことを特徴とする。
【0015】
本構成によれば、スライダーは、ハウジングの外周囲から周方向に略均等な間隔で延出する複数本のフォロアーに押し上げられて上方に直動し、または、複数本のフォロアーに支持されて下方に直動する。したがって、スライダーは、直動時、カム本体の軸心方向から偏ること少なく、カム本体の軸心方向に安定して沿って移動する。このため、スライダーは、フォロアーから受ける力を余すことなく上方への直動力として受けて効率的に上方に直動し、また、直動対象物から受ける荷重を各フォロアーに均等にかけて滑らかに下方に直動する。
【0016】
また、本発明は、
カムシャフトの軸心方向に軸心方向が交差して設けられ、ハンドルが一端に取り付けられるハンドルシャフトと、
カムシャフトに一方が連結され、ハンドルシャフトに他方が連結されて互いに噛み合う一対の傘歯車と
を上記の直動制御装置にさらに備えて、直動対象物を昇降させる昇降装置を構成した。
【0017】
本構成によれば、直動対象物の昇降操作は、ハンドルシャフトの一端に取り付けられるハンドルを操作することで行える。ハンドルシャフトは、カムシャフトの軸心に交差する方向に軸心を有するため、柱状カムを立設した状態で、柱状カムの側方からハンドルの操作を容易に行える。このため、操作性の向上した昇降装置を提供することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ハンドルの回転停止に伴って直ちに直動対象物を所望の直動位置または高さに設定できる直動制御装置および昇降装置、並びに、直動対象物を所望の高さに直ちに調節できる昇降調節装置を提供することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】(a)は、本発明の一実施形態による昇降調節装置の正面図、(b)は側面図、(c)は平面図である。
図2図1に示す昇降調節装置の縦断面図である。
図3図1に示す昇降調節装置の横断面図である。
図4図1に示す昇降調節装置を、柱状カムを残してその軸心を通る平面で一部破断した縦断面図である。
図5】(a)は、図1に示す昇降調節装置を構成する柱状カムの正面図、(b)は平面図、(c)は底面図である。
図6】(a)は、図1に示す昇降調節装置を構成するハウジングの正面図、(b)は平面図、(c)は横断面図である。
図7】(a)は、図1に示す昇降調節装置を構成するスライダーの正面図、(b)は平面図、(c)は底面図である。
図8】(a)は、図1に示す昇降調節装置を構成するフォロアーの正面図、(b)は平面図、(c)は底面図である。
図9図1に示す昇降調節装置からハウジングおよびスライダーを取り外した状態の斜視図である。
図10図1に示す昇降調節装置からスライダーを取り外した状態の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本発明による直動制御装置およびそれを用いた昇降装置並びに昇降調節装置を実施するための形態について説明する。なお、各図において同一または相当する部分には同一符号を付して説明する。
【0021】
図1(a)は、本発明の一実施の形態による昇降調節装置1の正面図、図1(b)は側面図、図1(c)は平面図である。なお、図1において後述する直動対象物10は図1(a)にだけ示してある。また、図2は、昇降調節装置1を図1(c)に示すII-II線に沿って破断して矢視方向から見た昇降調節装置1の縦断面図、図3は、昇降調節装置1を図1(a)に示すIII-III線に沿って破断して矢視方向から見た昇降調節装置1の横断面図である。また、図4は、後述する柱状カム2を残してその軸心を通る平面で昇降調節装置1を一部破断した縦断面図である。
【0022】
昇降調節装置1は、柱状カム2、ハウジング3、スライダー4、フォロアー5、カムシャフト6、ハンドルシャフト7、マイタギヤ8およびハンドル9を備えて構成され、楽器演奏用椅子の座部やテーブルの天板といった直動対象物10の高さを調節する。この昇降調節装置1は、直動対象物10の直動位置を制御する直動制御装置を構成すると共に、直動対象物10を昇降させる昇降装置を構成する。
【0023】
柱状カム2は、図5(a)に正面図、図5(b)に平面図、図5(c)に底面図が示される。柱状カム2は、金属製または樹脂製の円柱状をしたカム本体2aの外周囲に螺旋状溝2bが形成されて構成される。カム本体2aは柱状でなく中空の円筒形状をしていてもよい。本実施形態では、螺旋状溝2bは、カム本体2aの外周囲に3本並んで形成されている。各螺旋状溝2bの一端は、図5(c)に示すように、カム本体2aの底面における周方向に120°の略等間隔で現れる。また、各螺旋状溝2bの他端は、図5(a)に示すように、カム本体2aの頭部側における側周囲で終端している。
【0024】
カム本体2aの底面に形成される凹部2cには、図2に示すようにカムシャフト6の一端が固定され、カム本体2aの天面に形成される凹部2dには頭部支持シャフト11の一端が固定される。カムシャフト6および頭部支持シャフト11は、本実施形態ではカム本体2aの軸心C(図5(a)参照)に同軸にカム本体2aに固定して設けられるが、カム本体2aに一体に設けられるように構成してもよい。図2および図3に示すように、カムシャフト6の他端はベアリング12によってベース13に回転自在に支持され、頭部支持シャフト11の他端はベアリング14によってハウジング3の内周壁に回転自在に支持される。また、頭部支持シャフト11の他端にはCリング15が設けられ、柱状カム2がハウジング3から抜け出ないように構成されている。柱状カム2は、各ベアリング12,14によってカム本体2aの軸心Cの周りに回転自在に設けられる。
【0025】
ハウジング3は、図6(a)に正面図、図6(b)に平面図、図6(c)に横断面図が示される。この横断面図は、図6(a)のVIc-VIc線に沿ってハウジング3を破断して矢視方向から見たものである。ハウジング3は、カム本体2aの外周囲を内周囲が覆う、金属製または樹脂製の中空の円筒体形状をしており、外周囲壁に第1スリット3aが切り欠かれて形成されている。本実施形態では、第1スリット3aは、図6(c)に示すように、ハウジング3の外周囲壁の周方向に略均等な120°間隔で、螺旋状溝2bの本数に等しい数である3本が形成されている。各第1スリット3aは、カム本体2aの軸心Cと平行な方向に直動対象物10の直動範囲に応じた所定の第1軸心方向長さL1、および、所定の開口幅Wを有する。このハウジング3は、カム本体2aの軸心Cと同軸に、ベース13に固定して設けられる。
【0026】
スライダー4は、図7(a)に正面図、図7(b)に平面図、図7(c)に底面図が示される。スライダー4は、ハウジング3の外周囲を内周囲が覆う、金属製または樹脂製の中空の円筒体形状をしており、外周囲壁に第2スリット4aが切り欠かれて形成されている。本実施形態では、第2スリット4aは、図7(c)に示すように、第1スリット3aが形成されるハウジング3の各周方向位置と同じ周方向位置における外周囲壁に略均等な120°間隔で、第1スリット3aの数と等しい数の3本が形成されている。各第2スリット4aは、カム本体2aの軸心Cと平行な方向に下端から所定の第2軸心方向長さL2、および、所定の開口幅Wを有し、上端が閉塞して閉塞端、下端が切れて開放端になっている。本実施形態では、各第2スリット4aの第2軸心方向長さL2は、おおよそ、後述するフォロアー5の大径部5aの数倍の長さに設定されている。このスライダー4は、カム本体2aの軸心Cと同軸に、かつ、カム本体2aの軸心方向に移動自在に設けられ、図1(a)の二点鎖線および図4に示す高さまで直動する。スライダー4の上端には、図1(a)に示すように直動対象物10が配置される。
【0027】
フォロアー5は、図8(a)に正面図、図8(b)に平面図、図8(c)に底面図が示される。フォロアー5は、円柱状をした大径部5aと小径部5bとが同軸に一体に、金属によって段付きのピン形状に形成されている。本実施形態では、フォロアー5は、螺旋状溝2bの本数に等しい数の3本が用いられている。各フォロアー5の一端の大径部5aは螺旋状溝2bの溝幅よりも小さい外径をしており、図9に示すように各螺旋状溝2bに係合する。図9は、昇降調節装置1からハウジング3およびスライダー4を取り外した状態の斜視図である。
【0028】
また、各フォロアー5の他端の小径部5bは、図3および図10に示すように、各第1スリット3aを介してハウジング3の外周囲からハウジング3の半径方向へ延出する。図10は、昇降調節装置1からスライダー4を取り外した状態の斜視図である。各フォロアー5は、一端の大径部5aが螺旋状溝2bに係合した状態で、図10に示す状態のハウジング3にスライダー4が被せられることで、スライダー4の切り欠かれた第2スリット4aの下端の開放端から小径部5bが各第2スリット4aに係合する長さを有する。フォロアー5にこのような大径部5aと小径部5bとを備えることで、フォロアー5がハウジング3から抜け出るのを防止できる構造になっている。
【0029】
ハンドルシャフト7は、図2に示すように、カムシャフト6の軸心方向に軸心方向が交差して設けられ、ハンドル9が一端に取り付けられる。カムシャフト6とハンドルシャフト7とは、一対のマイタギヤ8a,8bによって連結されている。マイタギヤ8a,8bは、カムシャフト6に一方のマイタギヤ8bが連結され、ハンドルシャフト7に他方のマイタギヤ8aが連結されて、互いに噛み合う一対の傘歯車8である。このマイタギヤ8a,8bは、歯数が1対1であり、軸心が直交するカムシャフト6とハンドルシャフト7との間で、回転力を1対1の比で一方から他方へ伝達する。ハンドル9は、手動で回転操作されることで、ハンドルシャフト7の回転をマイタギヤ8a,8bを介してカムシャフト6に伝達し、カムシャフト6をカム本体2aの軸心Cの周りに回転させる。なお、ハンドル9は、ハンドルシャフト7と一体に形成する構成としてもよい。
【0030】
昇降調節装置1における柱状カム2へのハウジング3、スライダー4およびフォロアー5の装着は、最初に、ハウジング3の各第1スリット3aへ、ハウジング3の内周から各フォロアー5の小径部5bを挿入することで、行われる。そして、フォロアー5の大径部5aが内周に突出したハウジング3の頭部側からその内周に、柱状カム2のカム本体2aをその下方から差し込む。この状態で、カム本体2aの底面に現れる各螺旋状溝2bの一端の各周方向位置と、ハウジング3の内周に突出する各大径部5aの周方向位置とを合わせ、柱状カム2をハウジング3の内周にさらに差し込むと、各大径部5aが各螺旋状溝2bの一端に係合する。その後、ハウジング3の外周に突出する小径部5bの周方向位置と、スライダー4に形成された各第2スリット4aの周方向位置とを合わせて、スライダー4をハウジング3に被せることで、柱状カム2へのハウジング3、スライダー4およびフォロアー5の装着が完了する。
【0031】
このような本実施形態による昇降調節装置1における直動制御装置によれば、ハンドル9を回転させると、その回転はハンドルシャフト7およびカムシャフト6を介して柱状カム2に伝わり、柱状カム2が回転する。柱状カム2が回転すると、螺旋状溝2bに一端の大径部5aが係合するフォロアー5は、柱状カム2の回転方向に応じて螺旋状溝2bの傾斜した側壁から駆動力を一端の大径部5aに受ける。フォロワー5は、固定されたハウジング3の第1スリット3aに他端の小径部5bが通されることで、その動く方向が、第1スリット3aの開口方向、すなわち、カム本体2aの軸心Cの方向に平行な方向に規制される。したがって、フォロアー5が螺旋状溝2bから受ける駆動力は、フォロワー5をカム本体2aの軸心Cの方向に平行な方向に移動させる力となる。
【0032】
柱状カム2の回転方向がフォロワー5の一端の大径部5aを上方へ向かわせ、スライダー4の第2スリット4aの閉塞端に向かわせる方向であるとき、フォロワー5は、螺旋状溝2bから受ける駆動力によって第2スリット4aの閉塞端を押し上げて、ハウジング3の第1スリット3aの開口方向に沿ってスライダー4の上端をハウジング3から離れる方向へ移動させる。これにより、スライダー4の上端に配置される直動対象物10は、カム本体2aの軸心Cの方向に沿って上方に直動する。また、柱状カム2の回転方向がフォロワー5の一端の大径部5aを下方へ向かわせ、スライダー4の第2スリット4aの下端の開放端へ向かわせる方向であるとき、フォロワー5は、第2スリット4aの閉塞端から直動対象物10の荷重を受けつつ、スライダー4と共に、ハウジング3の第1スリット3aの開口方向に沿って下方に移動する。これにより、スライダー4の上端に配置される直動対象物10は、カム本体2aの軸心方向に沿って下方に直動する。
【0033】
また、ハンドル9の回転が止まると、その回転停止はハンドルシャフト7およびカムシャフト6を介して柱状カム2に伝わり、柱状カム2の回転も止まる。柱状カム2の回転が止まると、一端の大径部5aが螺旋状溝2bに係合したフォロアー5は、他端の小径部5bが挿入されたハウジング3の第1スリット3aによって螺旋状溝2bに沿う動きが規制されて、柱状カム2の回転が停止したときの直動位置にとどまる。フォロアー5のこの直動位置は、ハウジング3の第1スリット3aによってフォロアー5の動きが堅固に規制されるので、操作者がハンドル9から手を離しても、動くことはない。
【0034】
したがって、本実施形態による直動制御装置は、直動対象物10を昇降させる昇降装置、および、その昇降装置により直動対象物10の調整高さを調節する昇降調節装置1に使うことで、直動対象物10の直動位置または調整高さは、ハンドル9の回転停止に伴って直ちに所望の高さに設定される。この直動位置または調整高さは、直動対象物10からスライダー4を介してフォロアー5に伝わる荷重が大きくても、従来のガススプリング装置から構成される直動制御装置のように動くことはない。
【0035】
このため、直動対象物10を楽器演奏用椅子の座部またはテーブルの天板とし、本実施形態による直動制御装置をこれら座部や天板を昇降させる昇降装置、および、その昇降装置によって座部や天板の昇降高さを調節する昇降調節装置1に使用することで、演奏者は、コンサーホール等で演奏を開始する前、楽器演奏用椅子の座面高さを簡単に素速く直ちに所望の高さに設定することが可能となり、従来の直動制御装置のように、幾度となく微調整する必要が無くなる。したがって、直動対象物10の位置を調整する際の応答性が高まり、従来のように、演奏前における、沈み込みが起きる座面高さの調整によって、演奏者にストレスがかかることはなくなる。また、テーブルの天板高さを直ちに所望の高さに設定することが可能となり、重い物をテーブルの天板に乗せた場合でも、従来の直動制御装置のように、微調整する必要が無くなる。
【0036】
また、本実施形態による昇降調節装置1における直動制御装置によれば、スライダー4は、ハウジング3の外周囲から周方向に略均等な間隔で延出する3本のフォロアー5に押し上げられて上方に直動し、または、3本のフォロアー5に支持されて下方に直動する。したがって、スライダー4は、直動時、カム本体2aの軸心Cの方向から偏ること少なく、カム本体2aの軸心Cの方向に安定して沿って移動する。このため、スライダー4は、フォロアー5から受ける力を余すことなく上方への直動力として受けて効率的に上方に直動し、また、直動対象物10から受ける荷重を3本の各フォロアー5に均等にかけて滑らかに下方に直動する。
【0037】
また、本実施形態による昇降調節装置1における、直動対象物10を昇降させる昇降装置によれば、直動対象物10の昇降操作は、ハンドルシャフト7の一端に取り付けられるハンドル9を操作することで行える。ハンドルシャフト7は、カムシャフト6の軸心に交差する方向に軸心を有するため、柱状カム2を立設した状態で、柱状カム2の側方からハンドル9の操作を容易に行える。このため、操作性の向上した昇降装置を提供することができる。
【0038】
なお、本実施形態による昇降調節装置1における直動制御装置による直動対象物10の直動位置、または、昇降装置による直動対象物10の昇降高さは、カム本体2aの外周に形成さられる螺旋状溝2bの螺旋ピッチを大きくすることで、ハンドル9の操作力は重たくなるが、ハンドル9の1回転当たりの移動距離は大きくなる。逆に、螺旋状溝2bの螺旋ピッチを小さくすることで、ハンドル9の1回転当たりの移動距離は小さくなるが、ハンドル9の操作力は軽くなる。また、一対の傘歯車8としてマイタギヤ8a,8bに代えて任意の歯数比の一対のベベルギヤを採用することによっても、ハンドル9の1回転当たりの移動距離を変えることができる。
【0039】
また、本実施形態による昇降調節装置1では、フォロアー5をカム本体2aの周方向に3本設けた場合について説明したが、フォロアー5の数はこれに限定されるものではない。例えば、1本のフォロアー5でもよい。また、2本のフォロアー5をカム本体2aの周方向に略180°の等間隔に設けてもよく、また、4本のフォロアー5をカム本体2aの周方向に略90°の等間隔に設けてもよい。これらの場合、螺旋状溝2bの本数はそれぞれ1本、2本、4本となる。
【0040】
また、本実施形態による昇降調節装置1における直動制御装置は、カムシャフト6およびハンドル9間に一対の傘歯車8とハンドルシャフト7を設けた場合について説明したが、一対の傘歯車8とハンドルシャフト7を備えない構成としてもよい。この場合、ハンドル9はカムシャフト6に直接取り付けられることとなる。
【符号の説明】
【0041】
1…昇降調節装置(昇降装置、直動制御装置)、2…柱状カム、2a…カム本体、2b…螺旋状溝、2c,2d…凹部、3…ハウジング、3a…第1スリット、4…スライダー、4a…第2スリット、5…フォロアー、5a…大径部、5b…小径部、6…カムシャフト、7…ハンドルシャフト、8…一対の傘歯車、8a,8b…マイタギヤ、9…ハンドル、10…直動対象物、11…頭部支持シャフト、12,14…ベアリング、13…ベース、15…Cリング
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