(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-17
(45)【発行日】2024-05-27
(54)【発明の名称】レーザドップラ速度計
(51)【国際特許分類】
G01S 17/58 20060101AFI20240520BHJP
G01S 17/86 20200101ALI20240520BHJP
G01S 17/34 20200101ALN20240520BHJP
【FI】
G01S17/58
G01S17/86
G01S17/34
(21)【出願番号】P 2024015426
(22)【出願日】2024-02-05
【審査請求日】2024-02-05
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000101101
【氏名又は名称】アクト電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100186288
【氏名又は名称】原田 英信
(72)【発明者】
【氏名】藤田 定男
(72)【発明者】
【氏名】徳永 賢一
(72)【発明者】
【氏名】妹尾 幸生
【審査官】藤田 都志行
(56)【参考文献】
【文献】特開2023-107682(JP,A)
【文献】特開2022-016762(JP,A)
【文献】特開2005-227077(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101788565(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/48- 7/51
G01S 17/00-17/95
G01C 3/00- 3/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光源から分離した二本のレーザビームを、移動する物体に照射し、該物体からの散乱反射光を受けて前記移動する物体の速度をドップラ効果に基づいて計測する差動型レーザドップラ速度計に於いて、
前記移動する物体からの正反射光や散乱反射光を受光する第一の光学受信系と、
前記移動する物体からの散乱反射光を受光
し前記移動する物体の速度を提供する第二の光学受信系と、
前記第一の光学受信系と前記第二の光学受信系に接続した信号処理系とを有し、
前記信号処理系は前記第一の光学受信系からの受信信号と前記第二の光学受信系からの受信信号により、前記移動する物体と前記二本のビームの交点間の距離と、前記移動する物体の速度を算出することを特徴とする
差動型レーザドップラ速度計。
【請求項2】
請求項1に記載の差動型レーザドップラ速度計に於いて、
前記第一の光学受信系は、前記移動する物体からの正反射光や散乱反射光を検出して、前記信号処理系にて前記移動する物体と前記二本のビームの交点間の距離の算出を行うことを特徴とする
差動型レーザドップラ速度計。
【請求項3】
請求項1に記載の差動型レーザドップラ速度計に於いて、
前記信号処理系は、論理演算回路とルックアップテーブルを有し、
前記ルックアップテーブルは、前記第二の光学受信系で計測される移動速度に対する速度誤差の、前記移動する物体と前記二本のビームの交点間の距離の依存特性、を保有し、
前記移動する物体と前記二本のビームの交点間の距離の計測値に応じて計測した移動速度に補正を掛けることを特徴とする
差動型レーザドップラ速度計。
【請求項4】
請求項3に記載の差動型レーザドップラ速度計に於いて、
前記第一の光学受信系は二次元のイメージセンサを有し、
前記移動する物体に照射される前記レーザビームの位置と形状を検出し、
前記信号処理系は、前記移動する物体と前記二本のビームの交点間の距離の算出と、前記レーザビームの傾きであるピッチ角と、ロール角を算出し、
前記信号処理系は、前記ルックアップテーブルに保有する前記速度誤差の、前記移動する物体と前記二本のビームの交点間の距離の依存特性と、前記移動する物体と前記二本のビームの交点間の距離の計測値と、前記ピッチ角と前記ロール角の算出値を用いて、計測した移動速度に補正を掛けることを特徴とする
差動型レーザドップラ速度計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ光によるドップラ効果を用いた速度計に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ光線とドップラ効果を利用したレーザドップラ速度計は、測定対象物の速度が非接触で正確に測れるため、今日、多くの分野で利用されている。その利用分野の一例として、高機能フィルム製造時の搬送速度の計測がある。
高機能フィルムとは電機、自動車、建材、医薬品、食品包装などの分野で用いられるフィルムであり、その品質を均一化すべく製造時の伸延速度の監視や制御用として、非接触型のレーザドップラ速度計が利用される。
【0003】
レーザドップラ速度計は、動作検証が1964年に行われている。その一例が、非特許文献1に示されている。また、レーザドップラ速度計の発展形として、非特許文献2に示された差動型レーザドップラ速度計が開発されてきた。
【0004】
差動型レーザドップラ速度計は、レーザ光源から分離した2本の光束を、移動する非測定物に照射する構成である。非測定物に対し、2本の光束の内、一方の光束は移動する非測定物の前方向から照射するのでドップラ散乱光は光周波数が増加する方向となり、他の光束は移動する非測定物の後方向から照射するのでドップラ散乱光は光周波数が減少する方向となる。
これら2つの散乱光を、光検出器で光ヘテロダイン検波すると、その出力電気信号の周波数は2つの散乱光成分の差分となる。出力電気信号のビート周波数の変位量は、一本のみの散乱光を用いていた非特許文献1の系の2倍となるので、速度検出感度が上がるという利点がある。
また、光学系が差動型となっているので、非測定物の表面の凹凸から発生する雑音成分や、光源自体の強度雑音から発生する雑音成分の影響も除外できるので、レーザドップラ速度計の感度を向上させることができる。
【0005】
さらに、最近では、小型の差動型レーザドップラ速度計も開発されている。その一例が、特許文献1に開示されている。
図3に特許文献1に示されたレーザドップラ速度計の構成を示した。
図3では、従来の差動型レーザドップラ速度計に対して、ミラー6とミラー10を同一方向かつ同時に動かし左右の光路長を等しく調整することで、半導体レーザがマルチモード発振しても速度検出が可能となり、レーザドップラ速度計としての安定性や低価格化を図ったものである。
【0006】
図3にて、レーザ光源1は、マルチモード動作した波長660nmの半導体レーザである。レーザ光源1からから出射されるレーザビームは、コリメータレンズ2で平行ビームとなる。このレーザビームを周波数シフト素子(AOM)3に入射し、このAOMに40MHzのfm信号を印加して、入射したレーザビームの一部に40MHzの周波数シフトを加え、S偏向にシフトした1次回折光8と、レーザビームの周波数はシフトせずP偏向のままの0次回折光12を得る。これらの光を偏向ビームスプリッタ4に入射させてP偏光ビームとS偏光ビームに二分する。P偏光ビームは、透過側に直進し、ミラー9で反射した後、λ/2波長板5で円偏波ビームとなり移動する物体0に照射する。偏光ビームスプリッタ4からのS偏向ビームは、ミラー6で反射後、λ/2波長板7にて円偏波ビームとなり移動する物体0に照射する。
【0007】
移動する物体0からの散乱光を、受光レンズ13で集光してミラー14を介して受光素子15に入射させて光電変換による光ヘテロダイン検波を行う。その電気信号出力のビート信号周波数は、ドップラ効果により40MHzを中心にプラスやマイナス方向に変位し、変位した周波数量は物体0の移動速度に比例する。この電気信号を処理することにより、物体0の移動速度を算出する。
【0008】
本レーザドップラ速度計は、差動型レーザドップラ系を採用しているので高感度であり、周波数シフト変調を行っているので速度がゼロや逆方向の速度計測も可能となり、かつ半導体レーザを光源に使用しているので小型化が可能という特徴を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【非特許文献】
【0010】
【文献】Y.Yeh et al., "Localized Fluid Flow Measurements with an He-Ne Laser Spectrometer", Applied Physics Letters, vol.4, no.10, pp.176-178, May, 1964.
【文献】Bruce E.Truax et al.,"Laser Doppler velocimeter for velocity and length measurements of moving surfaces" , Applied Optics, vol.23, Issue 1, pp.67-73, 1984.
【文献】岡田英史、南谷晴之、“鏡面反射光を利用した個体表面速度および角度のレーザ・ドップラ計測”、計測自動制御学会論文集、Vol.22, No.10(昭和61年10月)、pp.1101-1106.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
レーザドップラ速度計には、高い測定精度と広い動作範囲が要求される。しかし、従来の差動型レーザドップラ速度計は、物体との距離が変動すると速度誤差が発生し易いという課題がある。物体との距離変動とは、
図3中のΔZを指しており、2つの光ビームの交点である焦点と移動する物体0の表面との距離の変動である。
【0012】
図4には、焦点と移動する距離の物体との距離ΔZに対する差動型レーザドップラ速度計の速度誤差特性を示す。速度計の理想としては、速度誤差のΔZ依存性はゼロであるべきだが、実際のレーザドップラ速度計では、焦点と移動する物体との距離ΔZが変わると若干の速度誤差が生じる。このような速度誤差は、レーザドップラ速度計を用いたフィルム製造の伸延過程にて、伸延速度の制御不良によるフィルム品質低下を引き起こす場合がある。例えば、搬送系にてレーザドップラ速度計に異常な振動が加わると、焦点と移動する物体表面との距離が変化し測定した伸延速度に誤差が発生する。また、搬送系でのプーリ偏心や駆動系の回転ムラでフィルム表面の上下動により焦点と移動する物体の表面との距離が変化して搬送速度測定値にバラツキが発生することがある。その結果、搬送速度の制御不良が発生しフィルム膜厚や品質に影響を及ぼす。
【0013】
これらの問題を解決するには、焦点と移動する物体表面との距離ΔZが変化しても速度誤差が発生しないレーザドップラ速度計の実現が望ましい。
図4の速度誤差特性の速度計は、その使用用途によっては適用できないこともある。その場合、速度誤差をより小さくするため、光学部品を入れ替えての再製造と再調整を行うが、その結果、歩留まり低下と製造工数増加による速度計の原価高を引き起こす問題があった。
【0014】
上記の速度誤差は、差動型レーザドップラ速度計の光学解析により、使用する光学部品の僅かな光学歪により発生することが分かった。以下に速度誤差発生の過程を説明する。
【0015】
光学解析の例として、
図5に、差動型ドップラ速度計のビーム交差図(A)とビームの波面(B)と(C)を示す。
図5(A)のビーム交差図は、差動型ドップラ速度計の0次回折光と1次回折光が、焦点と移動する物体表面との距離ΔZ=0で、角度2α(
図5は20°設定)で交差している様子を示す。ΔZ=0mmにて、0次回折光の光束の中心線と1次回折光の光束の中心線は交差しており、この交差点が差動型レーザドップラ速度計の焦点となる。
【0016】
光ビームの波長は785nmであり、半導体レーザの注入電流と動作温度を制御して半導体レーザは単一モードで発振している。光ビームは、コリメータレンズで集光し、波面が僅かな収束系となる平行ビームとしている。光ビームの断面形状は楕円であり、その幅(紙面水平方向)は2.5mm、高さ(紙面垂直方向)は0.3mmで、光ビーム強度はガウシアンビームに近い。尚、光ビームの幅と高さは、光強度が最高値の13.5%となった点間距離である。
【0017】
0次回折光波面と1次回折光の波面は、シャック・ハルトマン波面センサをΔZ=0mmの地点に配置し、それぞれを観測して取得した。
図5(B)と
図5(C)の実線は、XZ平面上の0次回折光の波面と1次回折光の波面である。速度計測を行う物体は
図5(A)のX軸方向のみに移動し、紙面垂直方向のY軸波面成分は速度計測に関与しないので、YZ平面上の波面は省略してある。
図5(B)と(C)のグラフは、横軸がビーム位置のミリメータ表示、縦軸が波面収差のミクロンメータ表示である。
図5(B)と(C)の実線で示す波面特性は、横軸1mmの変化で0.2μm程度の波面増加であり、両光ビームの波面形状は平面波に近い緩やかな収束系となっている。
【0018】
図5(A)で、0次回折光と1次回折光は角度2αで交差しており、ΔZ=-5mm付近から二つの光ビームの干渉が起こり、光ビームの干渉は
図5(A)中の光干渉の中心線(破線)上で最大となる。ΔZ=-5mm地点では、
図5(B)の0次回折光波面のΔW=+0.87mm点が光干渉の中心線と交わり、
図5(C)の1次回折光波面のΔW=‐0.87mm点が光干渉の中心線と交わる。ここで、ΔW=ΔZ cosα tanα の関係がある。
【0019】
ΔZ=0mm地点では、0次回折光波面のΔW=0mm点が光干渉の中心線と交わり、1次回折光波面のΔW=0mm点が光干渉の中心線と交わる。ΔZ=0mmの線と光干渉の中心線の交わる点は、差動型レーザドップラ速度計の焦点である。
【0020】
波数ベクトルは波面の垂線方向を向くので、
図5(B)のΔW=0mm点で0次回折光波面の波数ベクトルK
0(図中の実線矢印)は垂直方向を向き、
図5(C)のΔW=0mm点で1次回折光波面の波数ベクトルK
1(図中の実線矢印)も垂直方向を向く。これらのベクトルの位置関係を
図5(A)の中央(ΔZ=0mm地点である差動型レーザドップラ速度計の焦点)に示した。波数ベクトルK
0と波数ベクトルK
1は、各光ビームの進行方向と一致し、かつ完全な二等辺三角形を構成する。
【0021】
一方、ΔZ=+5mm地点では、0次回折光波面(B)のΔW=‐0.87mm点が光干渉の中心線と交わり、1次回折光波面(C)のΔW=+0.87mm点が光干渉の中心線と交わる。
図5(B)の0次回折光波面のΔW=‐0.87mm地点では、波面の凸凹の影響で波数ベクトルK
0(図中の破線矢印)はビーム中心方向に僅かに傾き、
図5(C)の1次回折光波面のΔW=+0.87mm地点では、波面の凸凹の影響で波数ベクトルK
1(図中の点線矢印)はビーム中心方向に大きく傾く。これらのベクトルの位置関係を
図5(A)の右(ΔZ=+5mm地点)に示した。波数ベクトルK
0と波数ベクトルK
1は、各光ビームの進行方向からビーム中心方向に傾き、双方の傾き角度が違うので二等辺三角形は崩れて、その差ベクトルK
0-K
1はΔZ=0mm地点の差ベクトルより、大きくなる。
【0022】
さて、
図5の差動型レーザドップラ速度計の構成において、速度Vの移動物体0からのドップラ周波数fdは、非特許文献3に示されたように下式で表記できる。
2πfd=(K
0-K
1)・V (1)
ここで、K
0は0次回折光の波数ベクトル、K
1は1次回折光の波数ベクトル、Vは移動する物体0の速度ベクトル、・は各ベクトルの内積を示す。
【0023】
もし、0次回折光と1次回折光が完全な平面波であれば、波数ベクトルK
0と波数ベクトルK
1は各光ビームの進行方向と一致し、
図5(A)の中央に示すような二等辺三角形を形成し、
|K
0|=|K
1|=2π/λとなるので、
ドップラ周波数fdは、
fd=2|V| cosψ sinα / λ (2)
と、単純に表記できる。ここで、ψは差ベクトル(K
0-K
1)と速度ベクトルVがなす角であり、λは半導体レーザの発振波長である。
【0024】
従来の差動型レーザドップラ速度計は、上記(2)式に基づいて、ドップラ周波数fdの測定から移動物体0の速度Vを算出してきた。しかし、実際の差動型レーザドップラ速度計においては、0次回折光と1次回折光の波面は完全な平面波では無い。そのため、速度誤差が発生する箇所がある。
【0025】
ΔZ=+5mmの地点では、0次回折光と1次回折光の波面は凸凹であるため、それぞれの波数ベクトルK
0、K
1の方向が変わる。
図5(A)のΔZ=+5mm地点では、波数ベクトルK
0、K
1で作る角度は、0次回折光と1次回折光の交差角が2αより開くので、差ベクトル(K
0-K
1)の絶対値が大きくなる。実際の速度Vが変わらないので、fdも大きくなる。結果、実際の速度Vは変わっていないのに、fdが大きくなった分が速度誤差の増加となる。この速度誤差が、
図4のΔZ=5mm付近の誤差曲線の盛り上がりに相当する。
【0026】
なお、光伝搬方向に沿って常に平面波となる光ビームを実現することは理論上でも不可能である。よって、0次回折光と1次回折光の波面は、ΔZ=‐5mmから+5mmに移動するに従い、収束系のお椀型から平面波に近い波面に緩やかに変化するよう調整している。つまり、波面の曲率はZの正方向に向かって徐々に小さくなる。このように変化する波面状態で、速度誤差のΔZ依存性がゼロとなる理想の波面形状は、
図5(B)、(C)中に点線で示す放物線となる。波面の曲率が
図5(B)、(C)中に点線で示す放物線となり、両波面から凸凹が消えれば、差動型レーザドップラ速度計の速度誤差を常にゼロとできる。
【0027】
0次回折光と1次回折光の波面概形を理想の放物線に近づけるには、半導体レーザとコリメータレンズの間隔を調整すればよい。しかし、波面に存在する凸凹を取り去ることは極めて難しい。
光学部品の評価の結果、波面上の凸凹はレンズやミラーの光学特性が原因であった。
図5(B)、(C)に共通な波面の凸凹はコリメータレンズの光学的歪によるもので、共通性の無い波面の凸凹はビーム固有のミラー(
図3の6,9,10)の非平面性から発生している。半導体レーザの光源はミクロンメータ以下の点光源であり、ここからビームを拡大し幅2.5mmに亘り滑らか波面を実現するのは極めて難しい。凸凹の少ない波面の実現には、レンズやミラーの組み合わせを変えながらの波面調整を行う。速度誤差を抑え込むには、このような試行錯誤の方法を取るしかない。
【0028】
また、波面の凸凹に基づかない速度誤差(例えば、速度計の位置変動等によるもの)についても同様に抑え込む必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0029】
レーザ光源から分離した二本のレーザビームを、移動する物体に照射し、該物体からの散乱反射光を受けて前記移動する物体の速度をドップラ効果に基づいて計測する差動型レーザドップラ速度計に於いて、前記移動する物体からの正反射光や散乱反射光を受光する第一の光学受信系と、前記移動する物体からの散乱反射光を受光し前記移動する物体の速度を提供する第二の光学受信系と、前記第一の光学受信系と前記第二の光学受信系に接続した信号処理系とを有し、前記信号処理系は前記第一の光学受信系からの受信信号と前記第二の光学受信系からの受信信号により、前記移動する物体と前記二本のビームの交点間の距離と、前記移動する物体の速度を算出することを特徴とする差動型レーザドップラ速度計。
【0030】
また、前記第一の光学受信系は、前記移動する物体からの正反射光や散乱反射光を検出して、前記信号処理系にて前記移動する物体と前記二本のビームの交点間の距離の算出を行うことを特徴とする差動型レーザドップラ速度計。
【0031】
また、前記信号処理系は、論理演算回路とルックアップテーブルを有し、前記ルックアップテーブルは、前記第二の光学受信系で計測される移動速度に対する速度誤差の、前記移動する物体と前記二本のビームの交点間の距離の依存特性、を保有し、前記移動する物体と前記二本のビームの交点間の距離の計測値に応じて計測した移動速度に補正を掛けることを特徴とする差動型レーザドップラ速度計。
【0032】
また、前記第一の光学受信系は二次元のイメージセンサを有し、前記移動する物体に照射される前記レーザビームの位置と形状を検出し、前記信号処理系は、前記移動する物体と前記二本のビームの交点間の距離の算出と、前記レーザビームの傾きであるピッチ角と、ロール角を算出し、前記信号処理系は、前記ルックアップテーブルに保有する前記速度誤差の、前記移動する物体と前記二本のビームの交点間の距離の依存特性と、前記移動する物体と前記二本のビームの交点間の距離の計測値と、前記ピッチ角と前記ロール角の算出値を用いて、計測した移動速度に補正を掛けることを特徴とする差動型レーザドップラ速度計。
【発明の効果】
【0033】
本発明による効果は、移動物体の速度を計測するレーザドップラ速度計において、移動物体と差動型レーザドップラ速度計との距離も計測することで、レーザドップラ速度計の計測精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】第一の実施形態によるレーザドップラ速度計の構成図である。
【
図2】第一の実施形態によるレーザドップラ速度計の構成図である。
【
図3】従来のレーザドップラ速度計の構成を示す図である。
【
図4】従来のレーザドップラ速度計の課題を示す図である。
【
図5】従来のレーザドップラ速度計の動作を説明するための図である。
【
図6】第二の実施形態によるレーザドップラ速度計の構成図である。
【
図7】第三の実施形態によるレーザドップラ速度計の構成図である。
【
図8】第三の実施形態によるレーザドップラ速度計の構成図である。
【
図9】第四の実施形態によるレーザドップラ速度計の構成図である。
【
図10】第四の実施形態によるレーザドップラ速度計の動作を説明する図である。
【
図11】第四の実施形態によるレーザドップラ速度計の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
差動型レーザドップラ速度計にて、2つの光ビームの交点である焦点と移動する物体の表面との距離が変化した時の速度誤差発生は、差動型レーザドップラ速度計に使用するレンズやミラー等の僅かな光学歪等に起因する。光学部品の歪箇所は光ビーム波面上での凸凹発生を引き起こし、0次回折光の凸凹な波面と1次回折光の凸凹な波面の干渉により、速度誤差の焦点と移動する物体の表面との距離依存性が発生する。レンズ等の歪箇所が速度誤差として表れてくるので、
図4に示す速度誤差と焦点と移動する物体の表面との距離の関係が把握できれば、焦点と移動する物体の表面との距離ΔZの検出から速度の誤差を補正して、より正確な移動物体の速度検出が可能となる。
【0036】
差動型レーザドップラ速度計は、移動物体に2本の光ビームを照射しているので、この2本の光ビームからの正反射光や拡散反射光を三角測距方式等により光検出器で捕えれば、焦点と移動する物体の表面との距離ΔZが検出できる。この焦点と移動する物体の表面との距離情報から従来の方法で検出した移動物体の速度を補正すれば、誤差の無い正確な速度が検出できることとなる。
【0037】
本発明を実施するための形態について、以下に説明する。
ただし、以下の各実施形態に限定されるものではなく、任意の組み合わせでも良い。
また、各実施形態に係る図に対する各参照符号は、原則として同じ部材等については、同一の符号を付して説明を省略するが、参照符号の増大による説明の煩雑化を避けるため、図面ごとに独立して用いている場合がある。ゆえに、他の図面と共通の参照符号を付していても、それらは他の図面とは必ずしも共通の構成ではない場合がある。
【0038】
[第1の実施形態]
以下に、図面を参照して本発明の実施例を説明する。
図1は、第一の実施形態の差動型レーザドップラ速度計の構成図である。実施例1では、
図3の従来の構成例に対して、第一の光学式変位センサ19と第二の光学的変位センサ20を差動型レーザドップラ速度計に追加し、これらのセンサの出力から焦点と移動する物体の表面との距離を算出し、この距離情報を用いて移動する物体の速度計測値に補正を行うことを特徴としている。
【0039】
図1の第一の実施例にて、レーザ光源1は、波長785nmの半導体レーザである。レーザに注入する電流制御とレーザ素子の温度制御により、半導体レーザはシングルモード動作発振と出力一定制御の動作をしている。レーザ光源1からのレーザビームは、コリメータレンズ2で平行ビームになるように調整した。このレーザビームを周波数シフト素子(AOM)3に入射させて、AOMには40MHzの信号を加え、入射したレーザビームの一部に40MHzの周波数シフトを加え、S偏向にシフトした1次回折光8と、レーザビームの周波数はシフトせずP偏向のままの0次回折光12を出射させた。これらの出射光を偏向ビームスプリッタ4に入射させてP偏光ビームとS偏光ビームに二分した。P偏光ビームは、透過側に直進し、ミラー9で反射した後、λ/2波長板5で円偏波ビームとなり移動する物体0に照射される。偏光ビームスプリッタ4からのS偏向ビームは、ミラー6で反射後、λ/2波長板7にて円偏波ビームとなり移動する物体0に照射される。
【0040】
移動する物体0からは正反射光と拡散反射光が発生する。このうち拡散反射光成分の一部を受光レンズ13で集光して受光素子15にて光ヘテロダイン受信を行う。その電気信号出力のビート信号周波数には、40MHzを中心に物体のドップラシフトに応じたドップラ周波数fdが生じる。この電気信号を増幅器16で増幅し、処理機26内のミキサ17にて35MHz信号と混合して5MHz+fdの信号にダウンコンバートする。さらに、ローパスフィルタ18により高周波雑音を除去し、A/Dコンバータ21にてデジタル信号に変換して、FPGA25に入力する。FPAG25内では、入力信号を高速フーリエ変換(FFT)により周波数領域信号に変換し、移動する物体0の速度に比例したドップラ周波数fdを読み取って、(2)式に従い速度Vを算出する。
【0041】
一方、焦点と移動する物体の表面との距離を計測するために、第一の光学式変位センサ19と第二の光学式変位センサ20を用いた。センサの差動型レーザドップラ速度計への取付けの形態を
図2に示す。
図2は、移動する物体0からの光の正反射成分を焦点と移動する物体の表面との距離測定に利用した形態であり、
図2左下の正面図に示すように、第一の光学式変位センサ19を1次回折光8の出射窓の真上に、第二の光学式変位センサ20を0次回折光12の出射窓の真上に設置した。センサ19,20に入射する光ビームの正反射光の光路を
図2右上に示す。
【0042】
センサ19は0次回折光12の正反射光成分を受光し、センサ20は1次回折光8の正反射光成分を受光する。光学式変位センサ19,20は、レンズ31,32と横長で一次元のCMOSイメージセンサ33,34から成り、三角測距による検出原理で動作する。物体0と焦点の位置関係が変わると光ビーム正反射光の光路も変わるので、CMOSイメージセンサ上の結像位置が変化して、センサは結像位置に相当する電気信号を出力する。第一の実施例では、2個のセンサ19,20を用いて、結像位置の差を算出する方式とした。2個のセンサを用いる利点は、差動型レーザドップラ速度計の設置ピッチ角ψが0°からずれてもΔZの測定誤差が小さいこと、および移動する物体0の加速減速時の表面角度変化に対しても測定誤差が小さいことである。
【0043】
センサ19とセンサ20からの電気信号の出力差分dは、焦点と移動する物体0の表面との距離ΔZとの間に、下式の関係がある。
ΔZ = a d + b (3)
ここで、aと b は定数であり、実機での測定と校正から正確な値を求めることができる。これらのaとbは、ΔZ測定のための定数値として処理機26で使用する。
【0044】
図2右下には、差動型レーザドップラ速度計を側面から見た設置図を示す。センサ19,20に、物体0からの正反射光が効率よく入射するよう差動型レーザドップラ速度計のヨー角θを3°傾けて設置した。
図2の設定では、差動型レーザドップラ速度計のヨー角がゼロからずれても、計測速度には影響は無い。尚、ピッチ角ψとロール角φは、ドップラ周波数fdと速度Vに影響を与え、下式の関係がある。
V = fd λ /(2 sinα cosψ cosφ) (4)
ピッチ角ψとロール角φを速度算出計算に含めることで、より正確に速度測定を行うことができる。
【0045】
図1にて、センサ19、センサ20の出力は、処理機26内のA/Dコンバータ22,23で
デジタイズ化して、FPGA25に入力する。FPGA内では、A/Dコンバータ22、23の出力の差から電気信号の出力差分dを求め、式(3)および校正した定数aとbから、焦点と移動する物体0の表面との距離ΔZを算出する。
【0046】
一方、FPGA25内のルックアップテーブル(LUT)には、差動型レーザドップラ速度計の速度誤差の焦点からのズレ量依存性を書き込んでおく。速度誤差データは、ΔZの0.1mmの粒度とした。
【0047】
一方、FPGAでのFFTを介した速度算出は10ms毎に行っている。この出力周期に合わせ、10ms毎に焦点と移動する物体の表面との距離ΔZを算出し、ΔZ値を元にLUTから速度誤差データを読み取った。速度算出結果に速度誤差データによる補正計算を行い、より真値に近い補正速度を出力した。
【0048】
また、FPGA25には、差動型レーザドップラ速度計の設置状態でのピッチ角ψとロール角φも入力して、式(4)による速度補正もできるようにすることも可能である。差動型レーザドップラ速度計と物体0の表面の物理距離を常にΔZ=0に設定できないので、設定時の焦点と移動する物体の表面との距離のズレをゼロ点補正値として入力し、FPGA25内で校正する。
【0049】
FPGA25は、補正を行わない速度、その時間積分となる移動した距離、ΔZから誤差補正を行った補正速度、補正距離、およびΔZ、とΔZの変化速度、を出力する。
上記の構成にて、光沢のある有機系フィルムを用いて速度の計測評価を行った。有機系フィルムは、輪の状態にし、2個のプーリ間に張力を掛けて回転運動をさせた。移動する有機系フィルムの表面を床に水平に設置し、この上部に第一の実施例の差動型レーザドップラ速度計を置き、光ビームをフィルム表面に投下するよう設定した。ピッチ角ψとロール角φは、それぞれ0°とし、ΔZは-10mmから+10mmまで変化できるようにした。
【0050】
有機系フィルムの移動速度を正確に6メータ/分に設定し、差動型レーザドップラ速度計の光ビームを照射した。2つの光ビームの合計パワーは36mWであり、ΔZ=0mmの設定で受光素子15のAPDに入射した拡散反射光パワーは5μWとなる。この出力からは良好な信号雑音比の信号が得られるので、有機系フィルムの速度Vが測定できる。焦点と移動する物体の表面との距離ΔZを変えながら、有機系フィルムの速度も測定した。ΔZを変えると測定速度Vは僅かに変動し、その速度誤差は
図4に示す特性となった。FPGA25のルックアップテーブル(LUT)には、
図4の速度誤差特性を0.1mm毎に書き込んだ。
【0051】
焦点と移動する物体の表面との距離ΔZを測定するセンサ19とセンサ20は、移動する物体0からの正反射光を受光するため、それぞれに30μWの光入力となる。この光入力はCMOSイメージセンサの位置出力判別に十分なパワーであり、かつΔZでは0.1mm以下の位置分解能も得られる。また、センサ19と20の電気出力帯域は10MHz以上あるので、FPGA25内の10ms毎の読み出しと速度補正の演算処理には十分な応答余裕がある。
【0052】
センサ19とセンサ20の焦点と移動する物体の表面との距離測定の機能とFPGA25内のLUTと速度補正機能を用いた評価を行った。速度測定は、ΔZ=‐5mm、0mm、+5mmにて、速度補正機能を動作させて補正速度を測定した。その結果、各ΔZにて、その速度誤差は±0.01%以内となる。
【0053】
以上の測定は、焦点と移動する物体の表面との距離位置を固定しての評価であったが、物体0の表面位置が時間的に変動する状況でも対応が可能である。例えば、プーリの軸が偏心した移動搬送系でフィルム表面が高速に上下動する運動系にも対応が可能である。第一の実施例では、FPGA25でのドップラ周波数fdの速度算出時間は10msとしたが、1msまで高速化が可能である。
【0054】
センサ19とセンサ20の応答速度は100ns以下であり、速度補正の演算はLUTからの誤差値の読み出しと算出速度との乗算という単純計算でもあるため、速度補正の演算は1msまで高速に実行できる。
また、ΔZについて、焦点と移動する物体0の表面との距離が求められるのであれば、上記(3)式でなくても構わない。
【0055】
本実施例では、焦点と移動する物体の表面との距離測定のために2つのセンサを使用したが、1個での使用も可能である。この場合、ヨー角のズレが明確であり、移動する物体の表面が2つのレーザビームの垂線と直交しビームの正反射光が設定とおりセンサに入射することが望ましい。
【0056】
また、本実施例の光学式変位センサ19,20には、横長で一次元のCMOSイメージセンサ33,34を用いたが、更に安価なPSD素子(Position Sensitive Device)や、CCDイメージセンサを用いてもよい。
焦点と移動する物体の表面との距離測定ができる態様であれば、如何なる態様であっても本願発明になり得る。
【0057】
本実施例では、周波数シフト素子3を用いて、1次回折光に40MHzの周波数シフトを与えたが、周波数シフト素子3の使用は省略してもよい。周波数シフト素子3の削除により、速度計出力は移動方向の情報の無い移動速度の絶対値のみとなるが、速度計の簡略化ができる。
【0058】
[第2の実施形態]
図6は、第2の実施形態の差動型レーザドップラ速度計の光学部分の構成図である。実施例2は、第一の実施例の
図2の光学部分の変形例であり、速度計の設置時に、ヨー角の細かい設定が不要で、速度計の光ビームが移動する物体0の垂線方向に設定すればよい機構である。
【0059】
第一の光学式変位センサ19と第二の光学式方位センサ20と移動する物体0の間には、第一のハーフミラー27と第二のハーフミラー28を用いた。ハーフミラー27,28の透過率は50%とした。ハーフミラー27、28で反射する下方に向かう光ビームは光終端器により十分に減衰させて、センサ19、20への漏れ光を防いだ。
図6の構成では、差動型レーザドップラ速度計の上方の空間で、ΔZ測定用のセンサ19、20の取付けが可能となるため、製造工数の短縮が可能となる。
図6に示した第2の実施形態の差動型レーザドップラ速度計の光学部分に接続する処理部は、
図1に示す第一の実施例での処理部26と同じ構成である。
【0060】
[第3の実施形態]
図7は、第3の実施形態のレーザドップラ速度計の光学部分の構成図である。実施例3は、ΔZ測定を行うために、移動する物体0からの散乱反射光成分を利用する形態である。使用する光学式変位センサ19は一個とし、
図7に示すように差動型レーザドップラ速度計の上部にセンサ19を配置し、レンズ31を介し縦長で一次元のCMOSイメージセンサ33上に映るビームの位置を検出して、焦点と移動する物体の表面との距離ΔZを算出する。センサ19内には、中心波長785nmで帯域10nmの光バンドパスフィルタ37を用いて雑音光の除去を行った。
図8には、処理機26を含んだレーザドップラ速度計の構成を示す。センサ19は一個使用なので、ビーム位置情報をデジタル信号に変換するADコンバータ22も一個でよい。
【0061】
本実施例では、センサ19を一個使いにして、物体0からの散乱反射光がCMOSイメージセンサ33上に映る位置から焦点と移動する物体の表面との距離を算出するが、その算出式は第一の実施例で使用した式(3)と同様の形式となる。光学式方位センサ19からの位置情報を示す電気信号出力Lは、物体0の焦点と移動する物体の表面との距離ΔZとの間に、下式の関係がある。
ΔZ= a L + b (5)
ここで、aと b は定数であり、実機での測定と校正から正確な値を求めることができ、FPGA25にこれらの定数を入力して、電気信号出力Lから、物体0の焦点と移動する物体の表面との距離ΔZを算出する。FPGA25内での他の処理は、第一の実施例と同じであり、FPGA25内のルックアップテーブル(LUT)には、差動型レーザドップラ速度計の速度誤差の焦点からのズレ量依存性を書き込んだ。速度誤差データは、ΔZの0.1mmの粒度とした。
【0062】
FPGAでのFFTを介した速度算出は10ms毎に行った。この出力周期に合わせ、10ms毎の焦点と移動する物体の表面との距離ΔZを算出し、ΔZ値を元にLUTから速度誤差データを読み取った。速度算出結果と速度誤差データの補足演算を行い、より真値に近い補正速度を出力した。
【0063】
また、FPGA25は、差動型レーザドップラ速度計の設置状態でのピッチ角ψとロール角φも入力して、式(4)による速度補正も行う。設定時の焦点と移動する物体の表面との距離のズレもゼロ点補正値として入力し、FPGA25内で校正する。
FPGA25の出力は、補正を行わない速度、その時間積分となる移動した距離、ΔZから誤差補正を行った補正速度、補正距離、およびΔZ、とΔZの速度変化、である。
【0064】
上記の構成にて、散乱反射光の多いゴムベルトを用いて速度の計測評価を行った。ゴムベルトは、2個のプーリ間で張力を掛けて回転運動をさせた。ゴムベルトの表面を床と水平に設置し、この上部に本実施例の差動型レーザドップラ速度計を置き、光ビームをゴムベルト表面に投下する設定とした。ピッチ角ψとロール角φは、それぞれ0°となるようにし、焦点と移動する物体の表面との距離ΔZは-10mmから+10mmまで変化できるようにした。
【0065】
ゴムベルトの移動速度を正確に10メータ/分に設定し、差動型レーザドップラ速度計の波長785nmの光ビームを照射させた。2つの光ビームの合計パワーは36mWであり、ΔZ=0の設定で受光素子15のAPDに入射した拡散反射光パワーは20μWとなる。この出力からは良好な信号雑音比の信号が得られた。また、センサ19への光入力は10μWであり、この光入力はCMOSイメージセンサの位置情報出力には十分なパワーであり、かつ焦点と移動する物体の表面との距離測定では0.1mm以下の位置分解能が得られる。
【0066】
光学式変位センサ19の焦点と移動する物体の表面との距離ΔZ測定とFPGA25内のLUTと速度補正機能を用いた評価を行った。速度測定は、ΔZ=‐5mm、0mm、+5mmにて、速度補正機能を動作させて補正速度を測定した。各ΔZにて、その速度誤差は±0.01%以内である。
【0067】
また、FPGA25からは焦点と移動する物体の表面との距離ΔZの変化情報も取り出せるので、ΔZとゴムベルト速度の相関から、ゴムベルトを用いた運動系の不具合の解析にも利用できる。
【0068】
本実施例は、センサ19にCMOSイメージセンサ33を使用したが、センサ素子にはPSD
素子(Position Sensitive Device)やCCDイメージセンサを用いてもよい。
さらに、センサ19は一個に限らず、例えば、差動型レーザドップラ速度計を上下で挟むように2個のセンサを使用して、散乱反射光の受光を差動動作させて焦点と移動する物体の表面との距離の精度向上を行ってもよい。また、センサ19内には、光バンドパスフィルタ37を用いたが、センサに自然光が洩れこまない状況であれば、光バンドパスフィルタを削除してもよい。
【0069】
[第4の実施形態]
図9は、第4の実施形態のレーザドップラ速度計の光学部分の構成図である。実施例4は、二次元のCMOSイメージセンサを用いたカメラ35により、差動型レーザドップラ速度計の光ビームの位置と形状を観察し、ビーム位置から焦点と移動する物体の表面との距離を計測して、ビーム形状から差動型レーザドップラセンサ設置状態のロール角φとピッチ角ψを計測し、測定速度の補正に利用することを特徴としている。
【0070】
図9で、カメラ35には1280x1024ピクセルの高速CMOSイメージセンサを用い、マクロレンズ36を装着して、近接する移動する物体0に映る光ビームを詳細に撮影できるようにした。レンズ36の前には、中心波長785nmで帯域10nmの光バンドパスフィルタ37を用いて雑音光の除去を行った。カメラ35は、移動する物体0の表面に対し直角になるようカメラのピッチ角=0°とし、移動する物体0の移動方向に対し垂直となるようカメラのロール角=0°とし、焦点と移動する物体の表面との距離ΔZ=0mm時の光ビームがカメラの中心にくるようヨー角とカメラ位置を設定した。カメラ35は、外部からの振動の影響を受けないよう支え30で固定した。差動型レーザドップラ速度計は、支え29で固定した。
移動する物体0には、ゴムベルトを用い、差動型レーザドップラ速度計の100mm先をΔZ=0mmと設定した。
【0071】
図10(A)は、カメラ35で撮影したゴムベルト上の光ビームのイメージ図である。光ビームは、差動型レーザドップラ速度をΔZ=0,-5mmとした際の光ビームを重ね書きしたもので、それぞれ0次回折光12のみ照射時、1次回折光8のみ照射時の13.5%の光強度位置を示している。ΔZ=0mmでは、二つの光ビームは一致しおり、ΔZ=‐5mmでは、二つのビームは重ならない。尚、光ビームはコリメートレンズとシリンドリカルレンズによりビーム整形を施しており、光ビーム形状は、幅2.5mm、高さ0.3mmの偏平ビームである。差動型レーザドップラ速度計は、ロール角=-1°、ピッチ角=+1°の設定としたので、光ビームの右側が上がる方向で傾いており、各ビームの中心位置は左にずれている。
【0072】
また、
図10(B)と(C)は、イメージセンサのX軸方向に写像した光ビーム強度の最大値トレースであり、縦軸は0次回折光と1次ビーム合波時の最大値を100%とした強度表示である。
図10(B)は、ΔZ=0mm時の光ビームで、0次ビームと1次ビームは重なっており、合波した光ビームは単峰型となる。
図10(C)は、ΔZ=‐5mm時の光ビームであり、0次ビームと1次ビームはピーク位置が異なり合波した光ビームは双峰型となる。
図10(B)と(C)は、光ビームの形状は異なるが、これらの光ビームの重心位置Gや、ビーム形状の端点L、Rを計算すれば、差動型レーザドップラ速度計設置のピッチ角、ロール角、ΔZを算出することができる。
焦点と移動する物体の表面との距離とピッチ角は、光ビーム強度の重心位置Gから算出できる。以下にその算出方法を示す。
【0073】
0次ビームと1次ビームを同時にゴムベルトに照射した場合、二次元のイメージセンサから得られる各ピクセルの情報を、Voutij =( Xi, Yj, Iij)とする。ここで、iとjは整数で、Xi, Yjは各ピクセルの座標位置であり、Iijは光ビームの強度情報である。イメージセンサからの各ピクセル情報を、X軸上で観測しX軸の写像成分とし、光ビーム強度の最大値IMAXiのみを更新して書き換えると、VXOUTi =(Xi, IMAXi)の情報とできる。
【0074】
ここで、Xg = Σ( Xi IMAXi )/ Σ ( IMAXi )を計算すれば、X軸上の重心Xgを計算できる。尚、Σはi=0からi=1279までの要素の総和を表す省略記号を意味する。
また、Y軸上で、光ビーム強度の最大値IMAXjを更新してVYOUTj = (Yj,IMAXj)を求めると、Y軸上の重心Ygは、Yg=Σ( Yj IMAXj )/ Σ ( IMAXj )から求めることができる。ここで、Σは、j=0からj=1023までの要素の総和を意味する。
0次ビームと1次ビームを同時に照射した場合の重心位置Gは、座標(Xg, Yg)となる。
この結果から、焦点と移動する物体の表面との距離ΔZは、(5)式を変形した下式から求めることができる。
ΔZ= a Yg + b (6)
ここで、aと b は定数であり、実機での測定と校正から正確な値を求める。
【0075】
また、ピッチ角ψは、レンズ13から物体0までの距離=100mm+ΔZと重心位置GのXgを用いて、下式(7)から求めることができる。
ψ=Arctan( ( c Xp)/(100mm+ΔZ)) (7)
ここで、cはカメラ35の設置位置および角度とカメラレンズ焦点に関わる定数であり、実機での測定にて正確な値を求める。
【0076】
ロール角は、光ビームの強度が最大値IMAXの13.5%となるビーム形状の端点Lと端点Rから算出する。イメージセンサの出力より、Iij=0.135 IMAX の条件で、Xiが最小の点とXiが最大の点を求めると、端点Lは座標(Xmin, YL)であり、端点Rは座標(Xmax, YR)となる。
これらの座標位置より、ロール角φは、下式(8)から求めることができる。
φ=Arctan(( YR - YL)/ ( Xmax - Xmin )) (8)
【0077】
図11には、処理部26を含んだレーザドップラ速度計の構成を示す。二次元のCMOSイメージセンサを用いたカメラ35を制御するための制御インタフェースCONTをFPGA25内に構成した。また、カメラ35からの各ピクセルのデジタル出力信号を処理するインタフェースと光ビームの位置や光ビーム形状の算出機能をFPGA25内に構成した。光ビーム位置から焦点と移動する物体の表面との距離を算出しLUTに伝達する機能は第一の実施例と同じであるが、第四の実施例は、カメラ35とFPGAの角度検出機能により差動型レーザドップラ速度計のピッチ角ψとロール角φを自動検出し、焦点と移動する物体の表面との距離を用いた補正速度にさらに角度依存の速度補正を加える点が特徴となっている。
【0078】
上記の構成にて、散乱反射光の多いゴムベルトを用いて速度の計測評価を行った。ゴムベルトは、2個のプーリ間で張力を掛けて回転運動をさせた。ゴムベルトの移動表面を床に対し水平に設置し、この上部に二次元のCMOSイメージセンサを用いたカメラ35をゴムベルトの表面に対し垂直となるよう設置した。カメラ35は、100fpsの動作速度で駆動させた。差動型レーザドップラ速度計は、ピッチ角ψ=+1°とロール角φ=-1°とし、使用波長は785nm、焦点と移動する物体の表面との距離ΔZ=0mmに設定した。ゴムベルトを5メータ/分の速度で回転させて、差動型レーザドップラ速度計のピッチ角ψとロール角φの検出機能を評価した。
【0079】
カメラ35に接続したマクロレンズ36は、光ビーム幅がイメージセンサX軸の1/3を占めるようにその倍率を調整し、光ビームの位置や形状の細かい測定ができるようにした。また、ピッチ角ψとロール角φの設定は時間的に変わらないので、これら角度の算出ではカメラ出力100フレーム分の出力を移動平均し雑音を低減させて測定精度を向上させた。FPGA25からの出力結果は、ピッチ角ψ=+1.0°とロール角φ=-1.0°と高精度であり、各角度の分解能は0.05°以下となる。
【0080】
また、焦点と移動する物体の表面との距離ΔZの変動は早い場合があるため、ΔZ測定は10フレーム毎つまり10ms毎の移動平均出力とした。ΔZの測定誤差は0.1mm以下となる。
次にΔZ=-5mmとなるようゴムベルトの表面位置を調整して、ピッチ角とロール角の測定を行った。この場合、光ビームの形状は、
図10(C)に示すように双峰型となるが、各角度測定には誤差は無く、角度の分解能は0.05°以内となる。ΔZの測定誤差も0.1mm以下となる。ΔZ=-5mmにて、ゴムベルトの速度測定を行った。その結果、速度測定結果は、実速度より小さい値となったが、LUTに書き込んだ速度誤差の補正値とピッチ角ψ=+1°とロール角φ=-1°の速度補正を行うことにより、実速度と同じ補正速度の出力となる。これらの補正速度と焦点と移動する物体の表面との距離ΔZは、10ms毎にFPGA25から出力させた。
【0081】
本実施例では、プーリの偏心やゴムベルトの不均一から生じるゴムベルト表面位置と光ビームの焦点との距離変動が発生しても、ゴムベルトの移動速度を正確に測定できる。また、二次元のCMOSイメージセンサを用いたカメラ35により、差動型レーザドップラ速度計設置のピッチ角とロール角も正確に測定できるので、これらの角度ズレ情報を加味したより正確な補正を速度測定に反映させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明は、測定対象物の速度や長さ及び距離を非接触でより正確に測ることができる。そのため、高機能フィルム製造時の搬送速度が高精度で制御できるようになり、フィルム品質の向上に寄与できる。
また、本発明は、製鉄業の圧延工程における鋼片の寸法測定や圧延工程の速度制御、鉄道での列車の正確な速度や走行距離の計測、道路インフラでの検測車の正確な速度や移動距離の計測、自動車関連での車両の正確な速度や走行軌跡の計測、化学工業や建設業などの産業機器での製造製品の正確な速度や長さの計測に適用することができる。
さらに、差動型レーザドップラ速度計は、正確に測定された速度に応じたピッチパルスを出力しており、このピッチパルスを用いて加減速する車両の精密な画像撮影も可能とし、鉄道列車の高速外観検査にも貢献している。
【符号の説明】
【0083】
1、レーザ光源
2、コリメータレンズ
3、周波数シフト素子
4、偏光ビームスプリッタ
5、変調器ドライバ
6、ミラー
7、λ/2波長板
8、1次回折光
9、ミラー
10、ミラー
11、λ/2波長板
12、0次回折光
13、レンズ
14、ミラー
15、受光素子
16、増幅器
17、ミキサ
18、ローパスフィルタ
19、センサ
20、センサ
21、22、23,ADコンバータ
24、発振器
25、FPGA
26,処理部
27,28、ハーフミラー
29,30,支え
31,32、レンズ
33、34、CMOSイメージセンサ
35,カメラ
36,マクロレンズ
37、光バンドパスフィルタ
0、物体
【要約】 (修正有)
【課題】レーザドップラ速度計での速度誤差発生の原因を明らかにし、2つの光ビームの交点である焦点と移動する物体の表面との距離の測定を行うことにより速度誤差を補正し、より高精度のレーザドップラ速度計を提供する。
【解決手段】レーザ光源から分離した二本のレーザビームを、移動する物体に照射し、該物体からの散乱反射光を受けて前記移動する物体の速度をドップラ効果に基づいて計測する差動型レーザドップラ速度計に於いて、前記移動する物体からの正反射光や散乱反射光を受光する第一の光学受信系と、前記移動する物体からの散乱反射光を受光する第二の光学受信系と、前記第一の光学受信系と前記第二の光学受信系に接続した信号処理系とを有し、前記信号処理系は前記第一の光学受信系からの受信信号と前記第二の光学受信系からの受信信号により、前記移動する物体と前記二本のビームの交点間の距離と、前記移動する物体の速度を算出する。
【選択図】
図1