(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-17
(45)【発行日】2024-05-27
(54)【発明の名称】送液装置および送液方法
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20240520BHJP
C12M 1/02 20060101ALI20240520BHJP
C12N 5/07 20100101ALI20240520BHJP
C12M 3/00 20060101ALI20240520BHJP
【FI】
C12M1/00 C
C12M1/02 A
C12N5/07
C12M3/00 A
(21)【出願番号】P 2020065197
(22)【出願日】2020-03-31
【審査請求日】2022-07-26
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和元年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、「再生医療・遺伝子治療の産業化に向けた評価基盤技術開発事業再生医療技術を応用した創薬支援基盤技術の開発」「階層的共培養を基礎とするLiver/Gut on-a-chipの開発:インビトロ腸肝循環評価を目指した高度な代謝と極性輸送の再現」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000125369
【氏名又は名称】学校法人東海大学
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】木村 啓志
(72)【発明者】
【氏名】榛葉 健汰
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 優冶
【審査官】上村 直子
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-189741(JP,A)
【文献】国際公開第2018/135572(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/043130(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/127945(WO,A1)
【文献】特開2009-100652(JP,A)
【文献】Journal of Laboratory Automation,2015年,Vol.20, No.3,pp.265-273
【文献】Lab on a Chip,2008年,Vol.8,pp.741-746
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00-3/10
Google Scholar
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液を流通する液流通部と、前記液流通部に前記液を送る送液部とがループ状流路で接続された送液装置であって、
前記送液部は、前記液が導入される送液室を有し、
前記液流通部は、前記液を貯留可能な複数の貯留部を備え、
前記貯留部は、筒状体により形成され、
前記送液部による送液時に開放されている上部開口を有する開放系として構成されており、前記貯留部の少なくとも1つは、細胞培養が可能な細胞培養部を備え、
前記ループ状流路は、前記送液室と前記複数の貯留部のうちの一つの貯留部の側面とを送液可能に接続する第1流路と、前記送液室と前記複数の貯留部のうちの他の一つの貯留部の側面とを送液可能に接続する第2流路と、前記貯留部同士の側面を接続する返送流路とを有し、
前記送液室内に、回転によって前記液を前記第1流路と前記第2流路のうち一方から他方へ送る回転子が設けられた、送液装置。
【請求項2】
液を流通する液流通部と、前記液流通部に前記液を送る送液部とがループ状流路で接続された送液装置であって、
前記送液部は、前記液が導入される送液室を有し、
前記液流通部は、前記液を貯留可能な1つ以上の貯留部を備え、
前記貯留部は、筒状体により形成され、
前記送液部による送液時に開放されている上部開口を有する開放系として構成されており、前記貯留部の少なくとも1つは、細胞培養が可能な細胞培養部を備え、
前記ループ状流路は、前記送液室と前記貯留部の側面とを送液可能に接続する第1流路と、前記送液室と前記貯留部の側面とを送液可能に接続する第2流路と、を有し、
前記送液室内に、回転によって前記液を前記第1流路と前記第2流路のうち一方から他方へ送る回転子が設けられた、送液装置。
【請求項3】
前記細胞培養部は、前記貯留部の底面に形成され、前記貯留部の底面がガス透過性を有する材料で形成される、請求項1又は2に記載の送液装置。
【請求項4】
前記送液室の内面に、前記回転子を回転可能に支持する凸状の回転軸が突出して形成され、
前記回転子は、前記回転軸が挿入される軸受け部を備える、請求項1~3のうちいずれか1項に記載の送液装置。
【請求項5】
前記回転子の一部または全部は、磁性体で形成されている、請求項1~4のうちいずれか1項に記載の送液装置。
【請求項6】
前記回転子は、外部の磁界発生装置により非接触で回転するマグネチックスターラーである、請求項5に記載の送液装置。
【請求項7】
前記細胞培養部が、前記第1流路が接続した前記貯留部の底面に形成されており、前記底面が、前記第1流路の底面および前記返送流路の底面よりも低い位置にある、請求項1に記載の送液装置。
【請求項8】
前記細胞培養部は、前記貯留部の内部に配置される内筒と、前記内筒の一端に設けられ、細胞が付着可能な細胞支持体とを備える、請求項1~7のうちいずれか1項に記載の送液装置。
【請求項9】
前記内筒は、前記内筒内の空間と前記ループ状流路とを連通させる貫通孔を有し、
前記貯留部に、位置決め凹部が形成され、
前記内筒に、前記貫通孔と前記ループ状流路との位置が合致したときに前記位置決め凹部に嵌合する位置決め凸部が形成されている、請求項8に記載の送液装置。
【請求項10】
液を流通する液流通部、前記液流通部に前記液を送る送液部、および、前記液流通部と前記液流通部とを接続するループ状流路を用いて前記液を送る送液方法であって、
前記送液部は、前記液が導入される送液室を有し、
前記液流通部は、前記液を貯留可能な複数の貯留部を備え、
前記貯留部は、筒状体により形成され、
前記送液部による送液時に開放されている上部開口を有する開放系として構成されており、前記貯留部の少なくとも1つは、細胞培養が可能な細胞培養部を備え、
前記ループ状流路は、前記送液室と前記複数の貯留部のうちの一つの貯留部の側面とを送液可能に接続する第1流路と、前記送液室と前記複数の貯留部のうちの他の一つの貯留部の側面とを送液可能に接続する第2流路と、前記貯留部同士の側面を接続する返送流路とを有し、
前記送液室内に、回転子が設けられ、前記送液室において、前記回転子の回転によって前記液を前記第1流路と前記第2流路のうち一方から他方へ送る、送液方法。
【請求項11】
液を流通する液流通部、前記液流通部に前記液を送る送液部、および、前記液流通部と前記液流通部とを接続するループ状流路を用いて前記液を送る送液方法であって、
前記送液部は、前記液が導入される送液室を有し、
前記液流通部は、前記液を貯留可能な1つ以上の貯留部を備え、
前記貯留部は、筒状体により形成され、
前記送液部による送液時に開放されている上部開口を有する開放系として構成されており、前記貯留部の少なくとも1つは、細胞培養が可能な細胞培養部を備え、
前記ループ状流路は、前記送液室と前記貯留部の側面とを送液可能に接続する第1流路と、前記送液室と前記貯留部の側面とを送液可能に接続する第2流路と、を有し、
前記送液室内に、回転子が設けられ、前記送液室において、前記回転子の回転によって前記液を前記第1流路と前記第2流路のうち一方から他方へ送る、送液方法。
【請求項12】
前記送液室において、前記回転子の回転によって前記液を送るにあたって、前記回転子の回転速度によって前記液の流量を調整する、請求項10又は11に記載の送液方法。
【請求項13】
前記送液室において、前記回転子の回転によって前記液を送るにあたって、前記回転子の回転方向によって前記液の流れ方向を定める、請求項10~12のうちいずれか1項に記載の送液方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、送液装置および送液方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、創薬分野では、Microphysiological Systems(生体模倣システム。以下、MPS)が注目されている。MPSは、インビトロ(in vitro)で生体内環境を再現する細胞アッセイプラットフォームである。従来、MPSには、送液装置が用いられている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記送液装置は、構造が簡単で操作が容易であることが求められている。
【0005】
本発明の一態様は、操作が容易である送液装置および送液方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、液を流通する液流通部と、前記液流通部に前記液を送る送液部とがループ状流路で接続された送液装置であって、前記送液部は、前記液が導入される送液室を有し、前記ループ状流路は、前記送液室と前記液流通部とを送液可能に接続する第1流路と、前記送液室と前記液流通部とを送液可能に接続する第2流路と、を有し、前記送液室内に、回転によって前記液を前記第1流路と前記第2流路のうち一方から他方へ送る回転子が設けられ、前記液流通部は、前記液を貯留可能な1つ以上の貯留部を備えている、送液装置を提供する。
【0007】
前記貯留部は、開放系であることが好ましい。
【0008】
前記貯留部の少なくとも1つは、細胞培養部を備えることが好ましい。
【0009】
前記細胞培養部は、前記貯留部の底面に形成され、前記貯留部の底面がガス透過性を有する材料で形成されることが好ましい。
【0010】
前記送液室の内面に、前記回転子を回転可能に支持する凸状の回転軸が突出して形成され、前記回転子は、前記回転軸が挿入される軸受け部を備えることが好ましい。
【0011】
前記回転子の一部または全部は、磁性体で形成されていることが好ましい。
【0012】
前記回転子は、外部の磁界発生装置により非接触で回転するマグネチックスターラーであることが好ましい。
【0013】
前記第1流路および前記第2流路の流路抵抗は、互いに同じであることが好ましい。
【0014】
前記細胞培養部は、前記貯留部の内部に配置される内筒と、前記内筒の一端に設けられ、細胞が付着可能な細胞支持体とを備えることが好ましい。
【0015】
前記内筒は、前記内筒内の空間と前記ループ状流路とを連通させる貫通孔を有し、前記貯留部に、位置決め凹部が形成され、前記内筒に、前記貫通孔と前記ループ状流路との位置が合致したときに前記位置決め凹部に嵌合する位置決め凸部が形成されていることが好ましい。
【0016】
本発明の他の態様は、液を流通する液流通部、前記液流通部に前記液を送る送液部、および、前記液流通部と前記液流通部とを接続するループ状流路を用いて前記液を送る送液方法であって、前記送液部は、前記液が導入される送液室を有し、前記ループ状流路は、前記送液室と前記液流通部とを送液可能に接続する第1流路と、前記送液室と前記液流通部とを送液可能に接続する第2流路と、を有し、前記送液室内に、回転子が設けられ、前記液流通部は、前記液を貯留可能な1つ以上の貯留部を備え、前記送液室において、前記回転子の回転によって前記液を前記第1流路と前記第2流路のうち一方から他方へ送る、送液方法を提供する。
【0017】
前記送液室において、前記回転子の回転によって前記液を送るにあたって、前記回転子の回転速度によって前記液の流量を調整することができる。
【0018】
前記送液室において、前記回転子の回転によって前記液を送るにあたって、前記回転子の回転方向によって前記液の流れ方向を定めることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の一態様によれば、操作が容易である送液装置および送液方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図2】第1実施形態の送液装置の分解斜視図である。
【
図3】第1実施形態の送液装置の装置本体の平面図である。
【
図4】第1実施形態の送液装置の装置本体の一部を示す斜視図である。
【
図5】第1実施形態の送液装置の送液室および回転子の構成図である。
【
図6】貯留部に細胞培養部としてカルチャーインサートを挿入した構造の一例を示す構成図である。
【
図7】液の循環を考慮した細胞培養部を備えるインサートの具体例を示す構成図である。
【
図9】回転子の動作の第1の例を示す説明図である。
【
図10】回転子の動作の第2の例を示す説明図である。
【
図12】(A)試験例の送液装置の構成図である。(B)送液室および回転子の構成図である。
【
図13】(A)試験例の送液装置の構成図である。(B)送液室および回転子の構成図である。
【
図14】(A)試験例の送液装置の構成図である。(B)送液室および回転子の構成図である。
【
図16】(A)試験例の送液装置の構成図である。(B)送液室および回転子の構成図である。
【
図17】(A)試験例の送液装置の構成図である。(B)送液室および回転子の構成図である。
【
図18】(A)試験例の送液装置の構成図である。(B)送液室および回転子の構成図である。
【
図24】カルチャーインサートの他の使用例を示す構成図である。
【
図25】カルチャーインサートのさらに他の使用例を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[送液装置]
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
[送液装置](第1実施形態)
図1は、第1実施形態の送液装置100の斜視図である。
図2は、送液装置100の分解斜視図である。
図3は、装置本体10の平面図である。
図4は、装置本体10の一部を示す斜視図である。
図5は、送液室7および回転子20の構成図である。
【0022】
以下、XYZ直交座標系を用いて各構成の位置関係を説明することがある。X方向は、矩形板状の装置本体10の長手方向である。X方向のうち+X方向は右方である。-X方向は左方である。Y方向は、X方向と直交する前後方向である。Y方向のうち+Y方向は後方である。-Y方向は前方である。Z方向は、装置本体10の厚さ方向であって、X方向およびY方向に直交する方向である。Z方向のうち+Z方向は上方である。-Z方向は下方である。Z方向は上下方向、または高さ方向ともいう。Z方向(上下方向)から見ることを平面視という。
【0023】
後述するように、送液装置100で液がループ状流路4を循環する方向について、時計回り方向(右回転)に循環する方向を循環方向F1とし、反時計回り方向(左回転)に循環する方向を循環方向F2とする。
また、回転子20が回転する方向について、時計回り方向(右回転)を回転方向D1とし、反時計回り方向(左回転)を回転方向D2とする。
【0024】
図1~
図3に示すように、送液装置100は、装置本体10と、回転子20(
図5参照)と、駆動装置30(
図1および
図2参照)とを備える。
装置本体10は、例えば、ブロック状または板状に形成されている。装置本体10は、平面視において矩形状(例えば、長方形状)とされている。装置本体10は、例えば、樹脂などで構成される。装置本体10を構成する樹脂としては、例えば、ポリスチレン樹脂;ポリエチレンテレフタレート(PET)などのポリエステル樹脂;ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)などのアクリル樹脂;シクロオレフィンポリマー(COP)などのポリオレフィン樹脂;ポリカーボネート樹脂;ポリジメチルシロキサン(PDMS)などのシリコーン材料などが挙げられる。
【0025】
装置本体10は、液流通構造1が形成された樹脂製の主部(図示略)と、板状、シート状等の底部材(図示略)とが組み合わされて構成されていてもよい。底部材は、貯留部等の下部開口を閉止する。底部材は、貯留部等に液を貯留できれば、材質等に特に制限はない。底部材は、例えば、ガス透過性の高いシリコーン系樹脂やオレフィン系樹脂で構成されてもよい。この構成によれば、底部材上で培養される細胞に効率よく酸素を供給することができるため、好気系の細胞の生理活性を向上させることができる。そのほか、底部材は、カバーガラスで構成されていてもよい。この構成によれば、共焦点顕微鏡を使って、カバーグラスを通して貯留部内の細胞の様子を詳細に観察することができる。
装置本体は、内部に貯留部を形成する1または複数の筒状体と、筒状体を支持する枠体とで構成されていてもよい。
【0026】
装置本体10には、複数(例えば6つ)の液流通構造1が形成されている。6つの液流通構造1(1A~1H)は、X方向およびY方向に「3×2」のマトリクス状に配置される。なお、液流通構造1の数は、1でもよいし、2以上の任意の数でもよい。なお、複数の液流通構造1を配置する向きは、
図1~
図3の配置に限定されない。それぞれの液流通構造1は任意な向きで配置してもよい。
【0027】
図4に示すように、液流通構造1は、液流通部2と、送液部3と、ループ状流路4と、を有する。
液流通部2は、第1貯留部5(貯留部)と、第2貯留部6(貯留部)とを有する。
図4は、
図3に示す6つの液流通構造1(1A~1H)のうち、液流通構造1Aを示す。
【0028】
第1貯留部5および第2貯留部6は、例えば、装置本体10の主面10a(上面)(
図1および
図2参照)に開口して形成された凹部である。第1貯留部5および第2貯留部6は、例えば、平面視において円形状とされている。第1貯留部5および第2貯留部6は、Z方向に沿う中心軸を有する円柱状の内部空間(貯留空間)を有する。第1貯留部5と第2貯留部6とは、X方向に並んで形成されている。
【0029】
第1貯留部5および第2貯留部6は、上部開口を有するため、開放系の貯留部である。そのため、ユーザーが第1貯留部5および第2貯留部6に対して上部開口を通して細胞播種、培地交換などの操作を容易に行うことができる。第1貯留部5および第2貯留部6は、開放系の貯留部であるため、気密維持などのための操作が不要であり、送液装置100のセットアップが容易である。
【0030】
送液部3は、送液室7を有する。
ループ状流路4は、第1流路11と、第2流路12と、返送流路13とを有する。ループ状流路4は、液流通部2と送液部3とを接続している。第1流路11と、第2流路12と、返送流路13とは、循環流路を形成する。
【0031】
第1流路11の一端11aは、第1貯留部5の側面に接続されている。第1流路11は、一端11aから-Y方向に延び、屈折部11bで屈曲して+X方向に延びる。第1流路11の他端である接続端11cは送液室7に接続されている。第1流路11の幅や高さは一定でもよいし、一定でなくてもよい。第1流路11の断面形状(第1流路11の長さ方向に直交する断面の形状)は、液が循環できれば特に制限はなく、例えば、矩形でもよいし、円形でもよい。
【0032】
第2流路12の一端12aは、第2貯留部6の側面に接続されている。第2流路12は、一端12aから-Y方向に延び、屈折部12bで屈曲して-X方向に延びる。第2流路12の他端である接続端12cは送液室7に接続されている。第2流路12の幅や高さは一定でもよいし、一定でなくてもよい。第2流路12の断面形状(第2流路12の長さ方向に直交する断面の形状)は、液が循環できれば特に制限はなく、例えば、矩形でもよいし、円形でもよい。
第1流路11の幅W1および第2流路12の幅W2は、送液室7の幅W3の2分の1以下であることが好ましい(
図5参照)。送液室7の幅W3は、液出入口14の端14aと液出入口15の端15aとの距離であり、送液室7の内径である。
【0033】
第1流路11と第2流路12とは、液の流路抵抗が互いに同じであってもよいが、異なっていてもよい。すなわち、第1流路11および前記第2流路12のうち一方の流路抵抗は、他方の流路抵抗と同じでもよいし、他方の流路抵抗より低くてもよい。ただし、第1流路11および前記第2流路12の流路抵抗は同じであることが望ましい。流路抵抗は、流路の断面積および長さに応じた値となる。
【0034】
第1流路11の幅に比べて第2流路12の幅が大きく、流路11,12の高さが同じであれば、第1流路11の断面積(第1流路11の長さ方向に直交する断面の面積)に比べて第2流路12の断面積(第2流路12の長さ方向に直交する断面の面積)が大きくなる。この場合、第2流路12の流路抵抗は、第1流路11の流路抵抗より低くなる。逆に、第1流路11の断面積に比べて第2流路12の断面積が小さければ、第2流路12の流路抵抗は、第1流路11の流路抵抗より高くなる。
【0035】
第1流路11の断面積と第2流路12の断面積とが同じであっても、第1流路11の全長が第2流路12の全長より長ければ、第2流路12の流路抵抗は、第1流路11の流路抵抗より低くなる可能性がある。逆に、第1流路11の全長が第2流路12の全長より短ければ、第2流路12の流路抵抗は、第1流路11の流路抵抗より高くなる可能性がある。
第1流路11および前記第2流路12のうち一方の流路抵抗が他方の流路抵抗より低いと、流路抵抗が高い流路から流路抵抗が低い流路に向けて液の流れが起こりやすくなる。
【0036】
図5に示すように、送液室7は、平面視において円形状とされている。送液室7は、平面視において、回転子20の回転軌道23と同心の円形状である。送液室7は、Z方向に沿う中心軸C1を有する円柱状の内部空間を有する。送液室7の内部空間の形状は、円錐台状、または円板状であってもよい。
送液室7の内周面7aは、回転子20の回転軌道23に近接している。送液室7の内径(幅W3)は、回転軌道23の径よりわずかに大きい。
【0037】
送液室7は、液出入口14と、液出入口15とを有する。第1流路と第2流路における液の流路抵抗が互いに同じであって、送液室7の回転子20が回転方向D2(反時計回り)に回転する場合には、通常、液出入口14は取入口となる。液出入口15は吐出口となる。送液室7の回転子20が回転方向D1(時計回り)に回転する場合には、通常、液出入口14は吐出口となる。液出入口15は取入口となる。
【0038】
液出入口14は、送液室7の内周面7aに形成されている。送液室7は、液出入口14を通して第1流路11と連通している。送液室7は、液出入口14を通して液が流通できるように第1流路11と接続されている。平面視において直線状の第1流路11の内側面11dと、円弧状の内周面7aとは滑らかに連続して形成されている。液出入口14の端14aは、第1流路11の内側面11dと、内周面7aとの接続点である。
【0039】
平面視において、接続端11cを含む長さ範囲の第1流路11は、端14aと同じ周方向位置を起点として、回転子20の羽根部22の先端22aの進行方向(速度ベクトルV1の方向)に延びる。接続端11cを含む長さ範囲の第1流路11の方向は、端14aと同じ周方向位置における、回転軌道23の接線L1に沿う方向である。
【0040】
液出入口15は、送液室7の内周面7aに形成されている。送液室7は、液出入口15を通して第2流路12と連通している。送液室7は、液出入口15を通して液が流通できるように第2流路12と接続されている。平面視において直線状の第2流路12の内側面12dと、円弧状の内周面7aとは滑らかに連続して形成されている。液出入口15の端15aは、第1流路11の内側面12dと、内周面7aとの接続点である。
【0041】
液出入口15は、送液室7の中心軸C1(回転子20の中心軸C2)について、液出入口14に対して回転対称となる位置にある。すなわち、液出入口15は、液出入口14に対して、中心軸C1の軸周り方向に180°ずれた位置にある。液出入口15は、周方向の少なくとも一部が液出入口14と回転対称となる位置にあればよい。すなわち、液出入口14と液出入口15とは、周方向の少なくとも一部が中心軸C1の軸周り方向に180°ずれた位置にあればよい。
【0042】
平面視において、接続端12cを含む長さ範囲の第2流路12は、端15aと同じ周方向位置を起点として、回転子20の羽根部22の先端22aの進行方向(速度ベクトルV2の方向)に延びる。接続端12cを含む長さ範囲の第2流路12の方向は、端15aと同じ周方向位置における、回転軌道23の接線L2に沿う方向である。
【0043】
送液室7の内面には、中心軸C1に沿って突出する凸状の回転軸7bが形成されている。回転軸7bは、例えば、円柱状(または円錐状)に形成されている。回転軸7bは、回転子20を回転可能に支持する。
【0044】
図3および
図4に示すように、返送流路13は、第1貯留部5と第2貯留部6とを接続する。返送流路13の一端13aは、第1貯留部5に接続されている。返送流路13の他端13bは、第2貯留部6に接続されている。第1貯留部5内の液は、返送流路13を通して第2貯留部6に向かって流れることができる。第2貯留部6内の液は、返送流路13を通して第1貯留部5に向かって流れることができる。
【0045】
液流通構造1(液流通部2、送液部3、およびループ状流路4)は、三次元プロッター、三次元プリンター、あるいはフォトリソグラフィなどの微細加工技術によって形成することができる。
【0046】
図5に示すように、回転子20は、回転軸部21と、複数(例えば、2つ)の羽根部22とを備える。回転子20の一部または全部は、磁性体で構成されている。回転子20は、永久磁石を備えていてもよい。回転子20の表面には、耐摩耗性に優れた樹脂コーティング層が形成されていてもよい。樹脂コーティング層は、例えばフッ素樹脂などで構成される。
【0047】
回転軸部21は、円筒状に形成されている。回転軸部21の内部は、回転軸7bが挿入される軸受け部21aである。回転軸部21の中心軸C2は中心軸C1と一致する。中心軸C2は、回転子20の回転中心である。回転軸部21は、回転軸7bに回転可能に支持される。
【0048】
羽根部22は、平板状に形成され、回転軸部21の外周面から径方向外方に向けて延出する。2つの羽根部22,22は、中心軸C2に対して回転対称となる位置に形成されている。2つの羽根部22,22は、回転軸部21からの延出長さが互いに同じである。なお、羽根部の数は2に限らず、3以上の任意の数であってもよい。回転軌道23は、回転子20の回転の際に羽根部22の先端22aが描く円形の回転軌道である。
【0049】
回転子20は、回転軸7bに回転自在に支持される形態であるが、回転子の形態はこれに限らない。回転子20は、送液室7内に回転可能に設置されていれば、回転軸に支持されていなくてもよい。回転子は、例えば、2つの羽根部どうしを直接つなげた平板状に形成されていてもよい。この回転子は、平面視において、羽根部どうしの接続点が中心軸C1と一致する位置に配置される。
【0050】
図2に示すように、駆動装置30は、平面視において矩形状の載置面30aを有する。載置面30aには装置本体10が載置される。
駆動装置30は、液流通構造1(1A~1H)の送液室7に重なる位置に、それぞれ磁界発生装置31を備える。磁界発生装置31は、回転磁石(図示略)を備える。この回転磁石は、モータなどの駆動源によって回転する。回転磁石の回転に伴う磁界の変化によって、回転子20には非接触で中心軸C1,C2周りの回転駆動力が加えられる(
図5参照)。
【0051】
磁界発生装置31は、回転磁石の回転数および回転方向を制御する制御部(図示略)を備える。制御部は、前述の駆動源(モータなど)への供給電圧を調整することなどによって回転磁石の回転数および回転方向を任意の値に設定できる。磁界発生装置31は、制御部により、回転子20の回転数および回転方向を制御することができる。なお、磁界発生装置31は、液流通構造1の回転子に磁界を加えることができれば、その配置や数は任意に定めることができる。
【0052】
送液装置100は、細胞培養装置として使用することができる。送液装置100を細胞培養装置として用いる場合には、送液装置100は、液流通構造1内に、細胞培養が可能な構造(細胞培養部)を備える。
【0053】
細胞培養部としては、カルチャーインサート等の培養機器を用いることができる。
図6は、貯留部に細胞培養部としてカルチャーインサートを挿入した構造の一例を示す構成図である。
カルチャーインサート41は、第1貯留部5内に設けられる。カルチャーインサート41は、第1貯留部5内に挿入される内筒42と、細胞支持体43とを備える。細胞支持体43は内筒42の一端開口(下端開口)を塞いで設けられている。細胞支持体43は、例えば、多孔膜である。細胞支持体43には、細胞44が付着可能である。
図6に示す例では、細胞44は細胞支持体43の上面(内筒42の内部空間に臨む面)に付着している。細胞44は、例えば、膜型臓器(小腸・肺・腎臓など)、血管、神経などの細胞である。
【0054】
カルチャーインサート41は、第1貯留部5に導入された液L3(培地等)を内筒42内に導入して細胞44の培養を行うことができる。細胞支持体43が多孔膜である場合には、第1貯留部5に導入された液L3(培地等)と内筒42内の液L4とは別種類の培地でもよい。このような手法により、同一空間で複数の細胞を、異なる培地で同時に培養することができる。また、多孔膜の上面と下面に異なる細胞を培養した場合、より生体内構造に近い臓器モデルを構築することができる。液L3と液L4の液面高さをそろえておけば、内筒42内と内筒42外で静水圧差が発生しないため、液の流れによる液中の物質の移動が殆ど発生せず、多孔膜の上面に培養した細胞と多孔膜の下面に培養した細胞の有するトランスポータータンパク質などによる生理活動によって輸送された物質等を正確に評価することができる。
カルチャーインサート41を用いると、膜型臓器(小腸・肺・腎臓など)、血管、神経などの細胞44を生体内に近い環境下で培養でき、臓器モデルによる物質の吸収、透過、排泄などの機能評価を行うことができる。
【0055】
カルチャーインサート41は、第2貯留部6内に設けることもできる。カルチャーインサート41は、第1貯留部5および第2貯留部6にそれぞれ設けることもできる。カルチャーインサート41を第1貯留部5および第2貯留部6にそれぞれ設ける場合、第1貯留部5で培養する細胞と第2貯留部6で培養する細胞とは異なっていてもよい。
【0056】
カルチャーインサート41は、第1貯留部5または第2貯留部6に対して着脱自在である。また、カルチャーインサート41は、あらかじめ、他のマルチウェルプレート(培養装置)で細胞支持体43に細胞を予備培養しておき、機能解析を行うときに貯留部に取り付けて使用することができる。カルチャーインサート41の使用によって、第1貯留部5または第2貯留部6に、細胞を容易に導入および除去することができる。
【0057】
図7は、液の循環を考慮した細胞培養部を備えるインサートの具体例であるインサート41Aを示す構成図である。インサート41Aは、内筒42Aと、細胞支持体43Aとを備える。
インサート41Aの内筒42Aは、円筒状に形成され、一対のスリット45,45が形成されている。スリット45は、内筒42Aの中心軸に沿って内筒42Aのほぼ全長に形成されている。スリット45,45は、内筒42Aの中心軸周りの回転対称位置にある。スリット45は、内筒42Aを厚さ方向に貫通する貫通孔である。
【0058】
スリット45は、貯留部に接続される流路(ループ状流路)と同じ周方向位置になるように形成されている。流路から液が循環する流れを阻害しなければ、スリット45は貫通孔に限定されない。
内筒42Aの上部には、位置決め凸部46が形成されている。位置決め凸部46は、内筒42Aの外周面から径方向外方に突出する。
図7に示す例では、位置決め凸部46は複数(例えば4つ)設けられている。複数の位置決め凸部46は、内筒42Aの中心軸周りに位置を違えて設けられている。なお、位置決め凸部は、貯留部に対する内筒の位置を定めることができればよく、その数は特に限定されない。位置決め凸部の数は、1以上(1または2以上の任意の数)としてよい。
【0059】
インサート41Aの細胞支持体43Aは、多孔膜でなくてもよい。また、インサート41Aの細胞支持体43Aは、第1貯留部5または第2貯留部6に接続される第1流路および返送流路の底面の高さよりも低くなるように形成し、細胞支持体43Aに細胞を培養してもよい。このような構成にすることで、液の流れが細胞に加わりにくくなるため、例えば、肝臓細胞のような剪断応力に弱い細胞の培養に適した環境を構築することができる。インサート41Aは、第1貯留部5または第2貯留部6に対して着脱自在である。あらかじめ、他のマルチウェルプレート(培養装置)で細胞支持体43Aに細胞を予備培養しておき、機能解析を行うときに貯留部に取り付けて使用することができる。
【0060】
第1貯留部5の上部には、1または複数の位置決め凹部51が形成されている。位置決め凹部51は、第1貯留部5の内周面に、径方向外方に向けて凹状となるように形成されている。
図7に示す例では、位置決め凹部51は複数(例えば4つ)形成されている。複数の位置決め凹部51は、第1貯留部5の中心軸周りに位置を違えて形成されている。位置決め凹部51の位置および数は、内筒42Aの位置決め凸部46の位置および数に応じて定められる。
【0061】
位置決め凹部51にそれぞれ位置決め凸部46を挿入すると、内筒42Aは第1貯留部5に対して中心軸周りに位置決めされる。位置決め凹部51は、ループ状流路4(第1流路11および返送流路13)と、スリット45との中心軸周りの位置が合致したときに位置決め凸部46に嵌合する。これにより、一方のスリット45を通して第1流路11と内筒42A内とが連通し、かつ、他方のスリット45を通して返送流路13と内筒42A内とが連通する。そのため、内筒42A内の空間と、第1流路11との間を液が流通可能となる。内筒42A内の空間と、返送流路13との間を液が流通可能となる。
インサート41Aは、第2貯留部6内に配置することもできる。
【0062】
送液装置100では、カルチャーインサート41またはインサート41Aを用いずに細胞を培養してもよい。細胞培養部は、貯留部の底面に形成されていてもよい。例えば、細胞培養部は、第1貯留部5(
図4参照)については、例えば、底面5aに形成されている。細胞培養部は、第2貯留部6については、例えば、底面6a(
図4参照)に形成されている。底面5a,6aを細胞培養部とすると、カルチャーインサート41またはインサート41Aを利用した場合と比して、細胞培養部の面積をより大きく確保できる。なお、
図4に示す5b,6bは、貯留部5,6の内壁面である。
【0063】
装置本体10が一体的に形成されている場合だけでなく、装置本体10が主部(図示略)と底部材(図示略)とによって構成されている場合(前述)も、細胞培養部を貯留部の底面に形成する構成を採用できる。底部材を使用する場合には、貯留部の底面は、底部材の上面のうち貯留部に臨む領域である。底部材は、貯留部に液を貯留できれば、材質等に特に制限はない。底部材は、例えば、ガラスで構成されていてもよい。この構成によれば、共焦点顕微鏡を使って、底部材を通して貯留部内の細胞の様子を詳細に観察することができる。
【0064】
貯留部の底面の構成材料は、ガス透過性(例えば、酸素ガス透過性)を有する材料であってもよい。ガス透過性を有する材料としては、例えば、シリコーン系材料やオレフィン系材料などの高分子材料がある。この構成は、貯留部の底面において好気性の細胞(肝細胞など)を培養する場合に好適である。
【0065】
「ガス透過性を有する」とは、例えば、25℃において、酸素ガス透過率が10×10-8cc・cm/cm2・sec・atm以上であることをいう。ガス透過性は、1気圧の下で当該気体が所定の厚み(cm)の物体を単位面積(cm2)あたりに単位時間(1sec)に通過する体積(cc)で表している。ガス透過性(ガス透過率)は、例えば、JIS K 7126-1に準拠して測定できる。
【0066】
送液装置100では、ループ状流路4(第1流路11、第2流路12および返送流路13)の内面に細胞を付着させた状態で培養を行ってもよい。
送液装置100では、液流通構造1(液流通部2、送液部3、およびループ状流路4)を流れる液中に浮遊した状態で細胞を培養してもよい。
【0067】
送液装置では、第1貯留部の底面と、第1貯留部に接続される第1流路および返送流路の底面との高さを同じ高さにして、第1貯留部の底面に細胞を培養してもよい。このような構成にすることで、液の流れが細胞に加わるため、例えば、血管や尿細管、リンパ管の細胞等のような剪断応力に応答する機能を有する細胞の培養に適した環境を構築することができる。
送液装置では、第1貯留部の底面を、第1貯留部に接続される第1流路および返送流路の底面の高さよりも低くなるように構成し、第1貯留部の底面に細胞を培養してもよい。このような構成にすることで、液の流れが細胞に加わりにくくなるため、例えば、肝臓細胞のような剪断応力に弱い細胞の培養に適した環境を構築することができる。
送液装置では、貯留部に接続される流路の底面と同じ高さの底面を有する貯留部と、貯留部に接続される流路の底面よりも低い底面を有する貯留部と、を複数組み合わせてもよい。このような構成にすることで、異なる貯留部で異なる臓器の細胞を培養する場合に、臓器毎に適した培養環境を構築することが可能となり、精度よく細胞生体の性質を把握することが可能になる。
【0068】
送液装置100は、細胞を系内(例えば、第1貯留部5または第2貯留部6の内部)で長期間にわたって培養してもよいし、測定等のために一時的に細胞を系内に取り入れてもよい。一時的に細胞を系内に取り入れる場合でも、送液装置100は、細胞培養装置として機能しているといえる。
【0069】
[送液方法](第1実施形態)
次に、送液装置100を用いた場合を例として、第1実施形態の送液方法について説明する。
駆動装置30の磁界発生装置31(
図2参照)を稼働させる。
図5に示すように、磁界発生装置31は、回転子20に、中心軸C2周りの回転方向D2(反時計回り)の回転駆動力を加える。回転子20は、中心軸C2周りに、回転方向D2(反時計回り)に回転する。
【0070】
回転子20の回転によって、送液室7内には、中心軸C2周りの回転方向D2(反時計回り)の液の回転流が生じる。送液室7内の回転流に従って、液は第1流路11から液出入口14を通して送液室7に流入し、液出入口15を通して第2流路12に流れる。この例では、液出入口14は取入口となる。液出入口15は吐出口となる。
【0071】
第1流路11から送液室7を経て第2流路12に向かう流れが生じる理由については、次の推測が可能である。回転子20の回転によって、液出入口14および液出入口15に近い位置に、それぞれ大きさの異なる渦流が生じる。渦流の流れ方向(回転方向)は、例えば、回転子20の回転方向と同じ方向である。大きさの異なる渦流が生じることによって、液出入口15における液圧は液出入口14における液圧より低くなる。その結果、送液室7内の液は液出入口14から液出入口15に向かって流れる。よって、液は、第1流路11から送液室7を経て第2流路12に送られる。
【0072】
図4に示すように、第1流路11から送液室7を経て第2流路12に向かう液の流れが生じることによって、第1貯留部5の液は第1流路11に流入する。第2流路12内の液は第2貯留部6に流入する。
第1流路11から送液室7を経て第2流路12に向かう液の流量は、回転子20の回転速度によって調整することができる。回転子20の回転速度を設定するには、磁界発生装置31の回転磁石(図示略)の回転数を調整する。
【0073】
図5に示すように、送液装置100では、回転子20の回転方向によって、液の流れ方向を定めることができる。
回転子20を回転方向D1(時計回り)に回転させれば、第2流路12から送液室7を経て第1流路11に向かって液を流すことができる。回転子20の回転方向を設定するには、磁界発生装置31の回転磁石(図示略)の回転方向を調整する。第2流路12から送液室7を経て第1流路11に向かって液が流れる場合には、液出入口15は取入口となる。液出入口14は吐出口となる。
第2流路12から送液室7を経て第1流路11に向かう液の流れが生じることによって、第2貯留部6の液は第2流路12に流入する。第1流路11内の液は第1貯留部5に流入する。
【0074】
このように、送液装置100では、回転子20の回転によって液を液出入口14から液出入口15(または、液出入口15から液出入口14)に送ることによって、流路11,12のうち一方を通して、液を貯留部5,6のうち一方に送る。同時に、流路11,12のうち他方を通して、液を貯留部5,6のうち他方から送液室7に送る。
【0075】
送液装置100は、送液室7内の回転子20によって送液を行うため、回転子20の回転および停止の設定以外の操作を少なくできる。そのため、送液のための操作が容易である。よって、利便性を高めることができる。
送液装置100は、送液室7内の回転子20によって送液を行う構造が簡略であるため、小型化が容易である。また、送液構造が簡略であるため、コスト削減を図ることができる。
【0076】
送液装置100では、第1流路11および第2流路12は、送液室7から回転子20の先端22aの速度ベクトルV1,V2の方向に沿って延出して形成されている(
図5参照)。そのため、流路11,12内の流れを利用して液を液出入口14または液出入口15から送液室7に導入することができる。そのため、流路11,12から送液室7への液の流れを利用して送液室7内の液の流れを促すことができる。
【0077】
送液室7において、液出入口14と液出入口15とは回転対称となる位置に形成されているため、流出位置から大きく離れた位置において送液室7に液が流入される。そのため、送液室7内の液の流れを安定化することができる。
送液装置100は、送液機構(送液室7および回転子20)の構造が簡略であり、デッドボリュームが小さい。そのため、デッドボリューム内の滞留液によって液中の成分が希釈される問題が起こりにくい。
【0078】
送液装置100は、液流通構造1(液流通部2、送液部3、およびループ状流路4)が装置本体10に形成されているため、液の貯留部および送液機構を集積化したシステムを構築することができる。そのため、ポンプおよび液貯留槽を外部機器として接続した装置に比べて取り扱いが容易である。よって、試験のための操作を簡便化できる。
【0079】
送液装置100は、ポンプおよび液貯留槽を外部機器として接続した装置とは異なり、外部機器との接続のためのシリコーンチューブが不要であるため、シリコーンチューブへの液中成分の吸着の問題は生じにくい。また、一般的に、チューブを用いた接続は非常に煩雑な操作になるが、送液装置100は、チューブが不要であるので操作が容易である。
送液装置100では、送液機構(送液室7および回転子20)の構造が簡略であり、デッドスペースが少ないため、死細胞などの異物の滞留を原因とする故障が起こりにくい。よって、送液装置100は、ロバストネスの点で優れる。
【0080】
第1貯留部5および第2貯留部6は、開放系の貯留部であるため、ユーザーが第1貯留部5および第2貯留部6に対して細胞播種、培地交換、細胞回収などの操作を容易に行うことができる。よって、送液装置100は、取り扱い性の点で優れている。
送液室7は、平面視において円形状とされ、送液室7の内周面7aは回転子20の回転軌道23に近接しているため、送液室7内の液の流れに乱れが生じにくい。よって、第1流路11から送液室7を経て第2流路12に向かう流れを促すことができる。
【0081】
回転子20は、外部の磁界発生装置31により非接触で回転するマグネチックスターラーであるため、回転子を回転させるための機構は簡略である。また、送液室7は外気と接触しないため、コンタミネーションは起こりにくい。
回転子20は、回転対称に配置された複数の羽根部22を備えるため、羽根部22によって送液室7内の液の回転流を促すことができる。
【0082】
送液装置100は、返送流路13を備えるため、液を第1貯留部5と第2貯留部6との間で循環させることができる。そのため、第1貯留部5と第2貯留部6との間で液(培地等)を循環させることができる。よって、長期間にわたる培養試験にも対応できる。
送液装置100では、装置本体10に液流通構造1が複数設けられているため、複数の試験を同時に行うことができる。よって、試験のハイスループット化を実現できる。
【0083】
図8は、試験例の送液装置200を示す平面図である。
図9は、回転子20の動作の第1の例を示す説明図である。
図10は、回転子20の動作の第2の例を示す説明図である。
図8に示す送液装置200の基本構成は、
図4等に示す送液装置100の基本構成と同じである。
送液装置200の第1貯留部5および第2貯留部6にそれぞれ1.5mLの液を入れた。前記液は、流れを確認しやすくするため、蛍光ビーズ(平均径1.0μm)を分散状態で含む。
【0084】
(試験例1)
図9は試験例1における回転子20の回転方向を示す説明図である。
図9に示すように、回転子20を回転方向D2(反時計回り)に回転させた。第2流路12の一部(
図8にAで示す測定箇所)において液の流量を測定した。結果を
図11に示す。
図11は、回転子20の回転数と、液の流量との関係を示す図である。
図11には、循環方向F2(反時計回り方向)(
図8参照)の流量をプラスで表し、循環方向F1(時計回り方向)(
図8参照)の流量をマイナスで表す。
図11に示すように、試験例1では、回転子20の回転数に応じて循環方向F2(反時計回り方向)(
図8参照)の液流量が増すことがわかった。
【0085】
(試験例2)
図10は試験例2における回転子20の回転方向を示す説明図である。
図10に示すように、回転子20を回転方向D1(時計回り)に回転させ、試験例1と同様にして液の流量を測定した。結果を
図11に示す。
図11に示すように、試験例2では、回転子20の回転数に応じて循環方向F1(時計回り方向)(
図8参照)の液流量が増すことがわかった。
【0086】
図11に示すように、送液装置200では、回転子20の回転によって送液が可能となり、送液量も調整可能であることが確認された。また、送液方向は、回転子20の回転方向に応じた方向となることが確認された。
【0087】
(試験例3)
図12(A)は、送液装置300Aの構成図である。
図12(B)は、送液室7および回転子20の構成図である。
図12(A)に示すように、送液装置300Aでは、第1流路11の長さと、第2流路12の長さとは等しい。第1流路11と第2流路12とは、互いに断面積(流路の長さ方向に直交する断面の面積)が等しい。
図12(B)に示すように、回転子20を回転方向D2(反時計回り)に回転させた。
図12(A)に示す測定箇所Aにおいて液の流量を測定した。結果を
図15に示す。
【0088】
(試験例4)
図13(A)は、送液装置300Bの構成図である。
図13(B)は、送液室7および回転子20の構成図である。
図13(A)に示すように、送液装置300Bでは、第1流路11は第2流路12より長い。
図13(B)に示すように、回転子20を回転方向D2(反時計回り)に回転させた。
図13(A)に示す測定箇所Aにおいて液の流量を測定した。結果を
図15に示す。
【0089】
(試験例5)
図14(A)は、送液装置300Cの構成図である。
図14(B)は、送液室7および回転子20の構成図である。
図14(A)に示すように、送液装置300Cでは、第1流路11は第2流路12より短い。
図14(B)に示すように、回転子20を回転方向D2(反時計回り)に回転させた。
図14(A)に示す測定箇所Aにおいて液の流量を測定した。結果を
図15に示す。
【0090】
図15に示すように、試験例3,4では、循環方向F2(反時計回り)の液流れが生じた。試験例3では、試験例4に比べて循環方向F2(反時計回り)の液の流量が大きかった。試験例5では、循環方向F1(時計回り方向)の液流れが生じた。
図15より、送液室7の位置によって、送液量および送液方向が変化することが確認された。
【0091】
(試験例6)
図16(A)は、送液装置400Aの構成図である。
図16(B)は、送液室7および回転子20の構成図である。
図16(A)に示す送液装置400Aは、送液装置300A(
図12(A)参照)と同じ構成である。
図16(B)に示すように、回転子20を回転方向D2(反時計回り)に回転させた。
図16(A)に示す測定箇所Aにおいて液の流量を測定した。結果を
図19に示す。
【0092】
(試験例7)
図17(A)は、試験例の送液装置400Bの構成図である。
図17(B)は、送液部103の送液室107、および回転子20の構成図である。
図17(B)に示すように、送液装置400Bでは、第1流路11および第2流路12は、送液室107から、送液室107の径方向に延びる。第1流路11と第2流路12とは、互いの延長線上にある。送液室107に対する第1流路11の接続箇所と、送液室107に対する第2流路12の接続箇所とは、送液室7の中心軸C1(
図5参照)について互いに回転対称となる位置にある。
図17(B)に示すように、回転子20を回転方向D2(反時計回り)に回転させた。
図17(A)に示す測定箇所Aにおいて液の流量を測定した。結果を
図19に示す。
【0093】
(試験例8)
図18(A)は、試験例の送液装置400Cの構成図である。
図18(B)は、送液部203の送液室207および回転子20の構成図である。
図18(A)に示すように、送液装置400Cでは、第1流路11および第2流路12は、送液室207に接続された箇所において回転軌道23(
図5参照)の接線に沿う方向に延びる。第1流路11と第2流路12とは、互いの延長線上にある。
図18(B)に示すように、回転子20を回転方向D2(反時計回り)に回転させた。
図18(A)に示す測定箇所Aにおいて液の流量を測定した。結果を
図19に示す。
【0094】
図19に示すように、試験例6~8はいずれも循環方向F2(反時計回り)の液流れが確認されたが、液の流量は、試験例6が最も大きく、試験例8が最も小さかった。
図19より、送液部3,103,203の構造によって、送液量が変わることが確認された。
【0095】
[送液装置](第2実施形態)
図20は、第2実施形態の送液装置である送液装置500の構成図である。
送液装置500の液流通構造501は、液流通部502と、送液部3と、ループ状流路504と、を有する。
液流通部502は、1つの貯留部505のみを備える。貯留部505は、第1貯留部5および第2貯留部6(
図4参照)と同様の構成である。
ループ状流路504は、第1流路11と第2流路12とを有する。第1流路11は貯留部505と送液室7とを接続する。第2流路12は送液室7と貯留部505とを接続する。
【0096】
送液装置500では、単一の細胞あるいは単一臓器由来の細胞に流れによる剪断応力を負荷して生理的な培養環境を実現することができる。一方、送液装置100(
図1~
図4参照)は、複数の貯留部を有するため、異なる貯留部で異なる臓器の細胞を培養することによって、臓器間の相互作用を観察することが可能となり、精度よく生体の性質を把握することが可能になる。
【0097】
[送液装置](第3実施形態)
図21は、第3実施形態の送液装置である送液装置600の構成図である。
送液装置600の液流通構造601は、液流通部602と、送液部3と、ループ状流路604と、を有する。
液流通部602は、第1貯留部605と、第2貯留部606と、第3貯留部607とを備える。
【0098】
ループ状流路604は、第1流路11と、第2流路12と、第1返送流路613と、第2返送流路614とを有する。第1流路11は、第1貯留部605と送液室7とを接続する。第2流路12は送液室7と第3貯留部607とを接続する。第1返送流路613は第3貯留部607と第2貯留部606とを接続する。第2返送流路614は第2貯留部606と第1貯留部605とを接続する。
第1貯留部605、第2貯留部606、および第3貯留部607は、互いに異なる種類の細胞を培養することができる。
【0099】
送液装置600は、送液装置100(
図3参照)に比べて貯留部の数が多いため、培養する細胞の種類を多くできる。
【0100】
[送液装置](第4実施形態)
図22は、第4実施形態の送液装置である送液装置700の構成図である。
送液装置700の液流通構造701は、液流通部702と、送液部3と、ループ状流路704と、を有する。
液流通部702は、第1貯留部705と、第2貯留部706と、第3貯留部707、第4貯留部708とを備える。
【0101】
ループ状流路704は、第1流路11と、第2流路12と、第1返送流路713と、第2返送流路714と、第3返送流路715とを有する。
第1流路11は、第1貯留部705と送液室7とを接続する。第2流路12は送液室7と第4貯留部708とを接続する。第1返送流路713は第4貯留部708と第3貯留部707とを接続する。第2返送流路714は第3貯留部707と第2貯留部706とを接続する。第3返送流路715は第2貯留部706と第1貯留部705とを接続する。
第1貯留部705、第2貯留部706、第3貯留部707および第4貯留部708は、互いに異なる種類の細胞を培養することができる。
【0102】
送液装置700は、送液装置100(
図3参照)に比べて貯留部の数が多いため、培養する細胞の種類を多くできる。
【0103】
[送液装置](第5実施形態)
図23は、第5実施形態の送液装置である送液装置800の構成図である。
送液装置800は、第2返送流路714にも送液部3が設けられている点で、
図22に示す送液装置700と異なる。
【0104】
送液装置800は、第2返送流路714にも送液部3が設けられているため、ループ状流路704における液の流れを促すことができる。
【0105】
上述の実施形態における各構成およびそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。
図6に示す例では、細胞44は細胞支持体43の上面に付着しているが、細胞の培養形態は
図6の形態に限定されない。
図24は、カルチャーインサートの他の使用例を示す構成図である。
図25は、カルチャーインサートのさらに他の使用例を示す構成図である。
図24に示す例では、細胞44は細胞支持体43の下面に付着している。
図25に示す例では、細胞44は細胞支持体43の両面(すなわち、細胞支持体43の上面および下面)にそれぞれ付着している。
【0106】
図1および
図2に示す送液装置100は、それぞれ6つの第1貯留部5および第2貯留部6を有する装置本体10を用いたが、貯留部の数は特に限定されない。貯留部の数は、例えば、6,24,48,96などであってもよい。
図1および
図2に示す送液装置100では、磁界発生装置31を備えた駆動装置30は装置本体10の下に設けられているが、磁界発生装置は装置本体10の上方に設置されていてもよい。
第1貯留部5および第2貯留部6は、上部開口が閉止されていてもよい。すなわち、第1貯留部5および第2貯留部6は、密閉構造であってもよい。
回転子の羽根部の構成は、
図5に示す例に限定されない。羽根部の数は1でもよいし、2以上の任意の数でもよい。例えば、羽根部の数が4である場合には、羽根部は十字形状となる。
【符号の説明】
【0107】
2…液流通部、3…送液部、4,504,604,704…ループ状流路、5,605,705…第1貯留部(貯留部)、5a…底面、6,606,706…第2貯留部(貯留部)、6a…底面、7,107,207…送液室、7b…回転軸、11…第1流路、12…第2流路、13…返送流路、20…回転子、21a…軸受け部、31…磁界発生装置、41,41A…カルチャーインサート(細胞培養部)、42,42A…内筒、43,43A…細胞支持体、45…スリット(貫通孔)、46…位置決め凸部、51…位置決め凹部、100,200,300A,300B,300C,400A,400B,400C,500,600,700,800…送液装置、505…貯留部、607…第3貯留部(貯留部)、708…第4貯留部(貯留部)、C1…(送液室の)中心軸、C2…(回転子の)中心軸。