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  • 特許-PEVA積層硬化シート 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-17
(45)【発行日】2024-05-27
(54)【発明の名称】PEVA積層硬化シート
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/28 20060101AFI20240520BHJP
   B29C 65/04 20060101ALI20240520BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20240520BHJP
【FI】
B32B27/28 101
B29C65/04
B32B27/32 E
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020072126
(22)【出願日】2020-04-14
(65)【公開番号】P2021169153
(43)【公開日】2021-10-28
【審査請求日】2022-10-26
(73)【特許権者】
【識別番号】520131130
【氏名又は名称】ケイ・エス トレーディング コープ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】弁理士法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】片山 貴士
(72)【発明者】
【氏名】叶 明動
【審査官】山本 晋也
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-321082(JP,A)
【文献】特開平02-198843(JP,A)
【文献】特開2000-246842(JP,A)
【文献】特開2015-112746(JP,A)
【文献】特開2003-311890(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B
C08J
B29C
C08K
C08L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)およびポリエチレン(PE)の配合の異なるシートを積層したPEVA積層硬化シートであって、
前記エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)と前記ポリエチレン(PE)の質量比(EVA:PE)が95:5で配合された第1の層と、
前記エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)と前記ポリエチレン(PE)の質量比(EVA:PE)が70:30で配合された1以上の第2の層と、
を少なくとも含む積層体が高周波誘電加熱によって溶融圧着されていることを特徴とするPEVA積層硬化シート。
【請求項2】
エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)およびポリエチレン(PE)の配合の異なるシートを積層したPEVA積層硬化シートであって、
前記エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)と前記ポリエチレン(PE)の質量比(EVA:PE)が100:0~70:30の範囲で配合された第1の層と、
前記エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)と前記ポリエチレン(PE)の質量比(EVA:PE)が90:10~50:50の範囲であって前記第1の層とは異なる質量比に配合された1以上の第2の層と、
前記エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)と前記ポリエチレン(PE)の質量比(EVA:PE)が100:0~70:30の範囲であって前記第2の層とは異なる質量比である第3の層と、
を少なくとも含む積層体が高周波誘電加熱によって溶融圧着され、
前記第1の層と第3の層で前記第2の層が挟まれており、
前記第1の層および/または第3の層の、前記エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)と前記ポリエチレン(PE)の質量比(EVA:PE)が95:5であり、
少なくともいずれかの前記第2の層の前記エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)と前記ポリエチレン(PE)の質量比(EVA:PE)が70:30であることを特徴とするPEVA積層硬化シート。
【請求項3】
請求項2に記載のPEVA積層硬化シートにおいて、
前記第1の層と第3の層の厚さがそれぞれ0.05~1.00mmの範囲であり、
前記第2の層の厚さが0.30~2.50mmの範囲であることを特徴とするPEVA積層硬化シート。
【請求項4】
請求項3に記載のPEVA積層硬化シートにおいて、
前記第1の層と第3の層の厚さがそれぞれ0.15mmであり、
前記第2の層の厚さが0.70~1.70mmであることを特徴とするPEVA積層硬化シート。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載のPEVA積層硬化シートにおいて、前記ポリエチレン(PE)は、比重0.942以上の高密度ポリエチレン(HDPEまたはPE-HD)であることを特徴とするPEVA積層硬化シート。
【請求項6】
請求項2乃至4のいずれかに記載のPEVA積層硬化シートにおいて、さらに、前記第1~第3の層のいずれか1以上に着色材を含有していることを特徴とするPEVA積層硬化シート。
【請求項7】
エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)およびポリエチレン(PE)のシートを積層したPEVA積層硬化シートの製造方法であって、
前記エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)と前記ポリエチレン(PE)の質量比(EVA:PE)が95:5で配合され、厚さが0.05~1.00mmの範囲である第1の層と、
前記エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)と前記ポリエチレン(PE)の質量比(EVA:PE)が70:30で配合され、厚さが0.30~2.50mmの範囲である1以上の第2の層と、
を少なくとも含む積層体をシート状に成形する工程と、
得られたシート状の積層体を高周波誘電加熱によって融着させる工程と、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項に記載のPEVA積層硬化シートの製造方法において、
前記エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)と前記ポリエチレン(PE)の質量比(EVA:PE)が95:5で配合された第3の層であって、前記第1の層との間に前記第2の層を挟む第3の層を含み、
前記第1の層と第3の層の厚さがそれぞれ0.15mmであり、
前記第2の層の厚さが0.70~1.70mmであることを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PEVA積層硬化シートに関し、特に、エチレン-酢酸ビニル共重合体およびポリエチレンの配合の異なるシートを積層して圧着させることにより高い硬度を達成したPEVA積層硬化シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、軽量で丈夫な性質の材料として、エチレン-酢酸ビニル共重合体(以下、EVAともいう。)を主成分とする柔軟なシートが広く利用されている。また、近年では耐熱性や硬度を向上すべくEVAにポリエチレン(以下、PEともいう。)を混合した組成物からなるPEVAシートが利用されている。
【0003】
通常のPEVAシートや他のPE、PVC(ポリ塩化ビニル)シートは、混合した材料から射出成形によってシート状に構成される。一般的なPEVAシートは一層構造であり、80%以上のEVAに、いわゆる低密度ポリエチレン(LDPEともいう。)が配合される。EVAが多いほど得られるPEVAシートが柔らかくなり、PEを配合することにより硬くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開番号WO2014/061669号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、より硬いPEVAシートを得ようとしてポリエチレンの含有量を増やすと、加熱圧着工程で硬化された硬化シートの接着耐久性が低下し、得られるPEVAシートの耐久性や成型加工性が不十分となるため、あまり硬度が上げられない問題があった。
【0006】
関連技術として、特許文献1では、エチレン-酢酸ビニル共重合体およびポリエチレンを含む積層体形成用シートを硬化した硬化シートであって、EVAを海相、PEを島相とした海島構造とすることにより、ポリエチレンの配合を多くした場合でも接着耐久性と柔軟性を有する硬化シートを得る試みがなされている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)およびポリエチレン(PE)の配合の異なるシートを積層したPEVA積層硬化シートであって、EVAとPEの質量比が100:0~70:30の範囲である第1(および第3)の層と、EVAとPEの質量比が90:10~50:50である1以上の第2の層とを含む積層体を、高周波誘電加熱によって溶融圧着してなることを特徴とする。
【0008】
前記第1および第3の層のEVAとPEの質量比が95:5であり、中間層のEVAとPEの質量比が70:30であることが特に好ましい。
【0009】
本発明では、前記第1および第3の層の厚さがそれぞれ0.05~1.00mm、前記第2の層の厚さが0.30~2.50mmの範囲であることが好ましく、具体的な実施例では第1および第3の層の厚さがそれぞれ約0.15mm、第2の層の厚さが約0.70mmまたは1.70mmである(合計厚が1mmまたは2mm)。
【発明の効果】
【0010】
本発明のPEVA積層硬化シートは、上記のような2層または3層構造とすることにより、外側の第1(および第3)の層の材料を圧着に適した配合としつつ、第2の中間層でシートの硬さを担保するようにしている。これにより、加熱溶融圧着時にも層の剥離が生じることなく、従来のPEVAシートより同じ厚さでもはるかに硬いPEVAシートを得ることができるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明のPEVA積層硬化シートの構成を示す概略断面図である。
図2図2は、本発明のPEVA積層硬化シートの製造方法を説明するための概略図である。
図3図3は、図2に示すPEVA層硬化シートの製造方法の変形例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施の形態を、添付の図面を参照しながら以下に詳細に説明する。図1は、本発明のPEVA積層硬化シートの一実施形態の概略断面図である。本発明の積層硬化シートは、いずれもエチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)とポリエチレン(PE)とが配合された第1~第3の層(1~3)を具える。第1の層(1)と第3の層(3)は外側層であり、これらの層の間に第2の層(2)すなわち中間層が挟まれている。ただし、本発明の変形例では後述するように、第3の層を有さずに2層構造としてもよく、また第2の層が配合の異なる複数の層で構成されてもよい。さらに、第1および第3の層(1、3)の外側にさらなる別の層を有してもよい。そのような層は、装飾層、保護層などが考えられる。図1では説明のために第1~第3の層の間の境界が明確に示されているが、実際はこのシートが高周波ウェルダーにより加熱溶融圧着されるため、これらの境界部分が融合して層ごとの境界は不明確になり得る。
【0013】
[配合]
本実施例のPEVA積層硬化シートにおいて、第1の層(1)と第3の層(3)は、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)とポリエチレン(PE)の質量比(EVA:PE)が95:5であり、第2の層のエチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)とポリエチレン(PE)の質量比(EVA:PE)が70:30である。ただし、第1の層(1)と第3の層(3)はそれぞれEVA:PEの質量比が100:0~70:30の範囲とすることができ、したがって第1と第3の層はエチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)のみで構成し、ポリエチレン(PE)を含有しなくてもよい。また、第1と第3の層の配合は同じであっても異なってもよい。第2の層(中間層)2も、EVA:PEの質量比が90:10~50:50の範囲とすることができる。
【0014】
さらに、第1~第3の層のいずれも、着色材や可塑剤といった他の必要な材料を配合することができる。特に、着色材は層ごとに色やその量が異なってもよい。
【0015】
[厚さ]
本実施例のPEVA積層硬化シートにおいて、第1の層(1)と第3の層(3)はそれぞれ厚さ約0.15mmで、第2の層(中間層)2は厚さ約0.70mmであり、シート全体の厚さは約1.00mmである。ただし、第1の層(1)と第3の層(3)はそれぞれ厚さ約0.05~1.00mmの範囲とすることができ、第1と第3の層の厚さは同じであっても異なっていてもよい。第2の層(中間層)2の厚さも、約0.30~2.50mmの範囲とすることができる。製品としては、上記実施例の厚さ1.00mmのものの他、第1層/第2層/第3層の厚さが0.15/1.70/0.15mmの合計2mm厚のものを好適に用いることができる。このように、上下層(第1および第3の層)の厚さは変えずに中間層(第2の層)の厚さを1.00~2.00mmの範囲で好適に変更することができる。
【0016】
[エチレン-酢酸ビニル共重合体]
本発明の実施形態では、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)における酢酸ビニルの含有率は、EVAの質量に対して10~40質量%とすることができる。酢酸ビニルの含有量が低いほど、得られる硬化シートが硬くなる。40質量%を超えると、後の熱圧着工程で積層体における界面領域で発泡が生じて剥がれやすくなる。
【0017】
[ポリエチレン]
本実施例では、ポリエチレン(PE)は、密度0.942~0.96の高密度ポリエチレン(HDPEまたはPE-HD)を用いることが好ましいが、それ以外の中密度ポリエチレン(M-DPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、あるいは超低密度ポリエチレン(VLDPE)等であってもよい。
【0018】
[製造方法]
次に、本発明のPEVA積層硬化シートの製造方法について説明する。本発明のPEVA積層硬化シートの製造工程は、射出成形工程と、加熱溶融圧着工程との2つに大きく分けることができる。図2は、シート製造工程前半の射出成形工程を説明するためのイメージ図である。図示する実施例では、第1と第3の層(1、3)に同じ(すなわち、EVAとPEの配合比率が同じ)材料を用いてシステムを簡略化している。
【0019】
本実施例のシートの射出成形装置10は、2つの材料投入口11、12を具える。一方の投入口11に、上述した第1および第3の層(上下層1、3)の材料を投入し、他方の投入口12に、上述した第2の層(中間層2)の材料を投入する。エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)やポリエチレン(PE)はペレット状で投入口に供給することができる。着色材等の他の成分もここに投入され、これらが熔解され混成される。材料投入口11、12からのダクトの合流部分に3層用カートリッジ13が設置されている。この3層用カートリッジ13は図2にイメージを示すように、上下層1、3の間に中間層2が配置されるように材料を導くものであり、例えば1層用、2層用、3層用などが用意されており、装置10に対して適宜交換して用いることができる。カートリッジ13を通過した材料は、シート射出口14からシート状の積層体として射出される。
【0020】
このように射出成形されたシート状の積層体を、高周波ウェルダーで加熱溶融圧着して、PEVA積層硬化シートを得る。高周波ウェルダーは、高周波誘電加熱によってシート状の熱可塑性樹脂を溶接する技術であり、金型で押さえたシートに圧力をかけながら高周波電界を加えて昇温させ、樹脂を半液相状態まで溶かしてつなぎ合わせ、その後加熱を止め圧縮状態を保持したまま冷却することで固定するものである。加熱時間や出力は実施環境によって調整されるが、例えば1~6mm程度のPEVAシートには出力約15,000ワットの高周波ウェルダーを好適に用いることができる。
【0021】
高周波ウェルダーにかけることにより、3層構造が互いに強固に溶着され、しなやかさを残しつつ従来よりも硬いPEVAシートを得ることができる。本発明では3つの層に配合を変えた同じ材料を用いているため、これらの材料が融合して互いに強固に接着される。材料に着色材を混入しなければ半透明のシートが得られ、着色材を入れた場合は所望の発色のシートを得ることができる。また、高周波ウェルダーの金型が平滑なものを用いた場合は平滑な表面のシートを得ることができ、連続模様や所望の模様が入った金型を用いた場合は所望の模様やテクスチャを実現することができる。この場合はシートの片面が平滑で、他方の面にのみテクスチャや模様を設けてもよいし、テクスチャや模様を両面に設けてもよい。
【0022】
本発明のPEVA積層硬化シートは、従来のPEVAシートと比較して格段に高い強度を有する。発明者の試験によると、例えば厚さ約1.00mm、大きさ50cm×50cmの従来のPEVAシートの四隅を固定してその中心に約6kgの球を載置した場合はシートが2~5cmほど撓んでしまうが、本発明のPEVA積層硬化シートでは有意な撓みは生じなかった。
【0023】
図3は、図2に示す射出成形装置10の変形例を示すイメージ図である。本図に示すように、3層の成分配合がそれぞれ異なる場合、3つの投入口11、12、16を用いるとともに、これら3つの投入口からの材料を3層のシートとなるように射出口へ導入する3層用カートリッジ18を装置にセットする。このように、第1の層(1)、第2の層(3)、第3の層(3)のEVAとPEの配合率がそれぞれ異なる場合でも、装置内で3層に組み合わせて射出成形することができる。
【0024】
上記実施例では、シートを第1~第3の層からなる3層構造としているが、本発明のPEVA積層硬化シートは2層構造であってもよく、また4層以上の構造であってもよい。例えば、2層構造のものは、表面(第1の層)のEVA:PEを95:5、裏面(第2の層)のEVA:PEを30:70として、表裏で色を変えることができる。また、4層以上のものは、第2の層を、いずれもEVA:PEの質量比が90:10~50:50の範囲の複数層からなるものとして構成し、この第2の層を第1および第3の層で挟んで加熱溶融圧着する。第2の層が上記の配合比から外れると第1~第3の層が圧着しにくくなり、所望の硬度が得られなくなる。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明にかかるPEVA積層硬化シートは、例えば釣り用のバッカンと呼ばれるボックスコンテナの素材として好適に用いることができる。特にこの場合、人が座っても潰れないバッカンを構成することができる。また、本発明のPEVA積層硬化シートは、しなやかさを有し、防水性や強度が高められているため、台所用品やその他の樹脂製品の材料として広く利用することができる。


図1
図2
図3