(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-17
(45)【発行日】2024-05-27
(54)【発明の名称】溶解設備
(51)【国際特許分類】
F27B 3/18 20060101AFI20240520BHJP
F27D 17/00 20060101ALI20240520BHJP
【FI】
F27B3/18
F27D17/00 101G
(21)【出願番号】P 2020188707
(22)【出願日】2020-11-12
【審査請求日】2023-08-15
(73)【特許権者】
【識別番号】501120122
【氏名又は名称】スチールプランテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】永井 孝佳
(72)【発明者】
【氏名】浜田 尚大
(72)【発明者】
【氏名】秋山 大輔
【審査官】齋藤 健児
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-6686(JP,A)
【文献】特開昭53-146342(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F27B 3/18
F27D 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶解される金属原料が装入される炉本体と、前記金属原料を横方向に移送する水平振動コンベア及びベルトコンベアのうちのいずれか一方である移送装置を備える予熱トンネルとを少なくとも備え、前記炉本体から発生する排ガスにより前記金属原料を予熱し、前記炉本体においてアーク電極に通電して形成されたアークにより
前記金属原料を溶解する溶解設備であって、
前記予熱トンネルが接続され、前記金属原料を溜めることができるよう構成されており、前記炉本体内に前記金属原料を装入するための装入口が設けられ、前記炉本体から前記装入口を通して導入された
前記排ガスによって前記金属原料を予熱するための主予熱室と、
押出部材及び前記主予熱室内において該押出部材を往復移動させる押出部材駆動装置を有し、前記押出部材を前記装入口に向けて移動させることにより前記主予熱室から前記炉本体の内部に前記金属原料を押し出すためのプッシャーと
、を備え、
前記予熱トンネルは、前記移送装置が前記主予熱室の前記装入口の下縁よりも高い位置で前記金属原料を横方向に移送
し、前記炉本体から前記主予熱室を通して導入された前記排ガスによって前記金属原料を予熱しながら、前記移送装置によって前記主予熱室に前記金属原料を供給する
よう構成され、
前記主予熱室に溜められた前記金属原料を、前記プッシャーによって押し出すことで前記炉本体内に装入するまでの間、前記主予熱室内で予熱することができるよう構成されていることを特徴とする溶解設備。
【請求項2】
前記主予熱室との接続部における前記予熱トンネルの底部の上下方向位置が、前記主予熱室の前記装入口の上下方向における中心よりも高い位置にあることを特徴とする請求項1に記載の溶解設備。
【請求項3】
少なくとも前記予熱トンネルを含み、基礎に対して固定された固定部分と、少なくとも前記炉本体を含み、前記金属原料を溶解して得られた溶融金属の出湯の際に傾動できるように前記固定部分に対して相対的に可動に構成された可動部分との間の境界の状態を、前記金属原料を前記主予熱室から前記炉本体内に装入する際の状態である連結状態と前記溶融金属を前記炉本体から出湯する際の状態である分離状態との間で切り替え可能とする連結装置を更に備えていることを特徴とする請求項1又は2に記載の溶解設備。
【請求項4】
前記連結装置が、前記主予熱室の床部分の少なくとも一部を構成する可動床部材と、前記可動床部材を駆動する床部材駆動装置とを含み、前記可動床部材が前記境界をまたぐ位置である連結位置に前記可動床部材を移動させることで前記境界を前記連結状態とすることと、前記可動床部材が前記境界よりも前記固定部分側に退避した位置である退避位置に前記可動床部材を移動させることで前記境界を前記分離状態とすることができるよう構成されていることを特徴とする請求項3に記載の溶解設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶解設備に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄スクラップ等の金属原料の溶解を行う溶解設備として、金属原料の供給を連続的に行い、かつ溶解炉に装入する金属原料を排ガスを用いて予熱する溶解設備が知られている。このような溶解設備として、例えば、特許文献1には、溶解炉と予熱槽とが一体となって、密閉性を保ちつつ予熱槽から溶解炉に金属原料が供給される構造の溶解設備が開示されている。また、例えば、特許文献2には、予熱槽(予熱トンネル)が水平に配置された構造の溶解設備が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平11-248356号公報
【文献】特開昭53-146342号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の溶解設備では、出湯や排滓のために、炉本体と予熱槽とが一体となって傾動するため、既設の溶解炉を改造して予熱槽を追加して設置する場合、建屋柱への干渉等を抑制しつつ予熱槽を設置する必要があった。このため、既存の工場への短期間での設置が困難であった。一方、特許文献2に記載の溶解設備では、予熱槽が傾動しない構造のため、特許文献1に記載の溶解設備と比較すると、既設の溶解炉を改造して予熱槽を追加して設置することは容易である。しかし、予熱トンネルが水平に配置されているため、金属原料の予熱に用いる炉本体からの排ガスが金属原料の上方を流れてしまう。このため、金属原料の間を高温の排ガスが通過しにくく、予熱効率が比較的低いという問題があった。
【0005】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、既設の溶解炉を改造して設置することが容易な水平の予熱トンネルを使用しても、高い効率で金属原料を予熱することができる溶解設備を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための主たる発明は、溶解される金属原料が装入される炉本体と、前記金属原料を横方向に移送する水平振動コンベア及びベルトコンベアのうちのいずれか一方である移送装置を備える予熱トンネルとを少なくとも備え、前記炉本体から発生する排ガスにより前記金属原料を予熱し、前記炉本体においてアーク電極に通電して形成されたアークにより前記金属原料を溶解する溶解設備であって、前記予熱トンネルが接続され、前記金属原料を溜めることができるよう構成されており、前記炉本体内に前記金属原料を装入するための装入口が設けられ、前記炉本体から前記装入口を通して導入された前記排ガスによって前記金属原料を予熱するための主予熱室と、押出部材及び前記主予熱室内において該押出部材を往復移動させる押出部材駆動装置を有し、前記押出部材を前記装入口に向けて移動させることにより前記主予熱室から前記炉本体の内部に前記金属原料を押し出すためのプッシャーと、を備え、前記予熱トンネルは、前記移送装置が前記主予熱室の前記装入口の下縁よりも高い位置で前記金属原料を横方向に移送し、前記炉本体から前記主予熱室を通して導入された前記排ガスによって前記金属原料を予熱しながら、前記移送装置によって前記主予熱室に前記金属原料を供給するよう構成され、前記主予熱室に溜められた前記金属原料を、前記プッシャーによって押し出すことで前記炉本体内に装入するまでの間、前記主予熱室内で予熱することができるよう構成されていることを特徴とする溶解設備である。
【0007】
本発明の他の特徴については、本明細書及び添付図面の記載により明らかにする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、既設の溶解炉を改造して設置することが容易な水平の予熱トンネルを使用しても、高い効率で金属原料を予熱することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本実施形態の溶解設備10を示す斜視図である。
【
図2】
図2Aは、本実施形態の溶解設備10を示す平面図である。
図2Bは、本実施形態の溶解設備10を示す断面図である。
【
図3】
図3は、主予熱室12付近の詳細を示す断面図である。
【
図4】
図4Aは、第1比較例の溶解設備100を示す平面図である。
図4Bは、第1比較例の溶解設備10を示す側面図である。
【
図5】
図5は、第2比較例の溶解設備101において、金属原料1を予熱する様子を示す説明図である。
【
図8】
図8A及び
図8Bは、可動床部材35に対する押出部材26の最大前進位置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
後述する明細書及び図面の記載から、少なくとも以下の事項が明らかとなる。
【0011】
アーク電極に通電して形成されたアークにより金属原料を溶解する溶解設備であって、溶解される金属原料が装入される炉本体と、前記金属原料を溜めることができるよう構成されており、前記炉本体内に前記金属原料を装入するための装入口が設けられ、前記炉本体から前記装入口を通して導入された排ガスによって前記金属原料を予熱するための主予熱室と、押出部材及び前記主予熱室内において該押出部材を往復移動させる押出部材駆動装置を有し、前記押出部材を前記装入口に向けて移動させることにより前記主予熱室から前記炉本体の内部に前記金属原料を押し出すためのプッシャーと、前記主予熱室に接続され、前記主予熱室の前記装入口の下縁よりも高い位置で前記金属原料を横方向に移送する移送装置を備え、前記炉本体から前記主予熱室を通して導入された前記排ガスによって前記金属原料を予熱しながら、前記移送装置によって前記主予熱室に前記金属原料を供給するための予熱トンネルと、を備え、前記主予熱室に溜められた前記金属原料を、前記プッシャーによって押し出すことで前記炉本体内に装入するまでの間、前記主予熱室内で予熱することができるよう構成されていることを特徴とする溶解設備が明らかとなる。
【0012】
このような溶解設備によれば、既設の溶解炉を改造して設置することが容易な水平の予熱トンネルを使用しても、高い効率で金属原料を予熱することができる。
【0013】
かかる溶解設備であって、前記主予熱室との接続部における前記予熱トンネルの底部の上下方向位置が、前記主予熱室の前記装入口の上下方向における中心よりも高い位置にあることが望ましい。
【0014】
このような溶解設備によれば、排ガスが金属原料の隙間を通らずに抜ける、堆積した金属原料上方の空間の横断面積を減少させることができる。
【0015】
かかる溶解設備であって、少なくとも前記予熱トンネルを含み、基礎に対して固定された固定部分と、少なくとも前記炉本体を含み、前記金属原料を溶解して得られた溶融金属の出湯の際に傾動できるように前記固定部分に対して相対的に可動に構成された可動部分との間の境界の状態を、前記金属原料を前記主予熱室から前記炉本体内に装入する際の状態である連結状態と前記溶融金属を前記炉本体から出湯する際の状態である分離状態との間で切り替え可能とする連結装置を更に備えていることが望ましい。
【0016】
このような溶解設備によれば、固定部分を構成する予熱トンネルで移送された金属原料を、可動部分を構成する炉本体へ装入することを可能にすると共に、溶融金属を炉本体から出湯する際に、可動部分のみを傾動させることができる。
【0017】
かかる溶解設備であって、前記連結装置が、前記主予熱室の床部分の少なくとも一部を構成する可動床部材と、前記可動床部材を駆動する床部材駆動装置とを含み、前記可動床部材が前記境界をまたぐ位置である連結位置に前記可動床部材を移動させることで前記境界を前記連結状態とすることと、前記可動床部材が前記境界よりも前記固定部分側に退避した位置である退避位置に前記可動床部材を移動させることで前記境界を前記分離状態とすることができるよう構成されていることが望ましい。
【0018】
このような溶解設備によれば、簡易な構成で連結状態と分離状態とを切り替えることができる。
【0019】
===本実施形態===
<溶解設備10の全体構成>
図1は、本実施形態の溶解設備10を示す斜視図である。
図2Aは、本実施形態の溶解設備10を示す平面図である。
図2Bは、本実施形態の溶解設備10を示す断面図である。なお、
図1及び
図2Aでは、溶解設備10の一部(例えば、炉蓋21やアーク電極23等)の図示を省略している。
【0020】
以下では、図に示す方向に従って説明を行うことがある。すなわち、予熱トンネル14内において金属原料1が移送される方向において炉本体11の側を「前」、逆側を「後」として、移送方向に沿う方向を「前後方向」とも称する。なお、鉛直方向を「上下方向」とも称する。また、「前後方向」及び「上下方向」と直交する方向を「左右方向」とし、後側から前側を見たときの右側を「右」とし、左側を「左」とする。
【0021】
本実施形態では、溶解設備10は、金属原料1を溶解し、精錬して溶鋼を製造する設備である。溶解設備10で溶解される金属原料1として、鉄スクラップ、還元鉄(Direct Reduced Iron(DRI))、ホット・ブリケット・アイアン(Hot Briquetted Iron(HBI))、冷銑(型銑)等が使用可能である。以下の説明では、金属原料1を溶解して得られる成分であって、溶鋼に使用される成分を「溶融金属」と呼ぶことがある。
【0022】
溶解設備10は、アーク溶解設備である。アーク溶解設備では、炉内に設置した電極(アーク電極)に通電することでアーク電極からアークを発生させる。そして、アーク溶解設備では、アーク電極から発生したアークの熱(アーク熱)により金属原料1を加熱して溶解する。
【0023】
なお、アーク溶解設備では、金属原料1の溶解に多くの電力を消費する。そこで、本実施形態の溶解設備10では、炉本体11から発生する排ガスで金属原料1を予熱しながら溶解し、必要とする電力を極力少なくしている。
【0024】
溶解設備10は、ゲートホッパ15と、予熱トンネル14と、主予熱室12と、プッシャー13と、炉本体11と、連結装置30とを有する。
【0025】
ゲートホッパ15は、金属原料1を予熱トンネル14内に供給する装置である。
図1~
図2Bに示されるように、ゲートホッパ15は、予熱トンネル14の後端部において、予熱トンネル14の上側に設けられている。ゲートホッパ15の下部には開閉可能なゲート(不図示)が設けられている。ゲートホッパ15は、内部に金属原料1を貯留しており、ゲートが開くことにより金属原料1を予熱トンネル14内に供給する。
【0026】
予熱トンネル14は、その内部で主予熱室12に金属原料1を移送する機能を有すると共に、炉本体11から導入された排ガスによって金属原料1を予熱する空間を画成している。
図1~
図2Bに示されるように、予熱トンネル14は、前後方向に延びるトンネル状に形成されている。また、予熱トンネル14の前側の端部は、主予熱室12に接続されている。予熱トンネル14の内部空間において金属原料1が主予熱室12に移送される間、炉本体11から主予熱室12を介して導入された排ガスが予熱トンネル14の内部空間を流れることで、金属原料1が予熱される。
【0027】
本実施形態においては、予熱トンネル14は、主に、上側を覆うフード部31と、横断面がU字形状を有し、予熱トンネル14の下側で金属原料1を受けるとともに全体が振動することで金属原料1を横方向に移送する移送装置32とで構成される。予熱トンネル14の内部空間はこれらフード部31と移送装置32とで画成される。また、
図1~
図2Bに示されるように、予熱トンネル14の前側の端部は、主予熱室12に接続されている。本実施形態では、移送装置32は、上記の通り水平振動コンベアであるが、移送装置32は、ベルトコンベアであっても良いし、高温環境中で金属原料1を移送することのできる装置であれば、他の移送装置であっても良い。
【0028】
主予熱室12は、炉本体11に装入される前の金属原料1を所定期間内部に溜めることができるよう構成された部分であり、主予熱室12内に溜められた金属原料1を排ガスによって予熱することができる。
図1~
図2Bに示されるように、主予熱室12は、予熱トンネル14の前側、炉本体11の後側に設けられている。言い換えれば、主予熱室12は、金属原料1の移送方向(前後方向)において、炉本体11と予熱トンネル14との間に設けられている。予熱トンネル14を通して移送された金属原料1は、主予熱室12において所定の期間溜められ、その間、金属原料1は排ガスによって予熱される。
【0029】
図2Bに示されるように、主予熱室12には、炉本体11との境界に装入口16が設けられている。装入口16は、金属原料1を炉本体11に装入するための開口である。装入口16を介して、主予熱室12は、炉本体11と連通する空間となっている。このため、本実施形態の溶解設備10では、炉本体11で金属原料1を溶解することで発生する排ガスが、装入口16を通して主予熱室12に導入される。主予熱室12のその他の詳細な構成と機能については、後述する。
【0030】
プッシャー13は、金属原料1を炉本体11へ押し出す装置である。プッシャー13は、主予熱室12の後側、予熱トンネル14の下側に設けられている。予熱トンネル14内を通して移送され、主予熱室12に溜められた金属原料1は、プッシャー13により炉本体11へ押し出される。したがって、本実施形態では、金属原料1が主予熱室12に溜められる所定の期間とは、金属原料1が主予熱室12に装入されてから、プッシャー13によって押し出されることで炉本体11内に装入されるまでの間である。プッシャー13のその他の詳細な構成と機能については、後述する。
【0031】
炉本体11は、金属原料1が装入され、アーク熱により金属原料1を溶解する溶解炉の本体である。
図2Bに示されるように、炉本体11において金属原料1が加熱して溶解され、溶融金属2とスラグ3とが形成される。溶融金属2は、必要により脱炭等の精錬が行われ、不図示の出鋼口から溶鋼として出湯(出鋼)される。尚、スラグ3は、溶鋼の出湯に先立って排滓される。
【0032】
図1~
図2Bに示されるように、炉本体11は、主予熱室12の前側に設けられている。すなわち、金属原料1が移送される前方向の端に設けられている。主予熱室12に溜められ、予熱された金属原料1は、装入口16から炉本体11内に装入され、炉本体11内で溶解される。炉本体11は、水冷構造を有する鉄製の外殻とその内側に張られたライニング(耐火物)で形成されている。但し、炉本体11は、その他の構造で形成されていても良い。
【0033】
炉本体11は、炉蓋21と、ライニング22と、アーク電極23とを有する。炉蓋21は、炉本体11の上部に開閉可能に設けられた蓋部材である。ライニング22は、炉本体11における溶融金属2の貯留部分である底部に設けられ、耐火物で形成されている。アーク電極23は、アークを発生させる電極である。
図2Bに示されるように、アーク電極23は、炉蓋21の上側から炉蓋21を貫通して炉本体11の内部に挿入するように設けられている。また、アーク電極23は、炉本体11の内部に3本挿入されている。なお、アーク電極23の設置の方法や本数は、
図2Bに示す態様に限られない。
【0034】
本実施形態では、不図示の電源からアーク電極23に交流電圧が印加されることにより、アーク電極23に通電される。これにより、アーク電極23と炉本体11内の金属原料1との間にアークが発生し、アーク熱により金属原料1を加熱し、溶解することができる(すなわち、溶融金属2を得ることができる)。
【0035】
なお、炉本体11の詳細な構成は、上記に示す構成(炉蓋21、ライニング22及びアーク電極23)に限られない。例えば、
図1~
図2Bでは不図示であるが、炉本体11は、酸素ガス吹き込みランスや炭材吹き込みランスをさらに有していても良い。酸素ガス吹き込みランス及び炭材吹き込みランスは、炉蓋21を貫通して、炉本体11の内部を上下移動可能に設けられていても良い。酸素ガス吹き込みランスからは酸素ガスが炉本体11内に吹き込まれる。また、炭材吹き込みランスからは空気や窒素ガス等を搬送用ガスとしてコークス、チャー、石炭、木炭、黒鉛等の炭材が炉本体11内に吹き込まれる。酸素ガス吹き込みランスや炭材吹き込みランスを有することにより、溶融金属2について脱炭等の精錬を行うことができる。
【0036】
また、炉本体11は、不図示の傾動機構をさらに有していても良い。傾動機構で炉本体11を傾動させることにより、溶融金属2の出湯やスラグ3の排滓をすることができる。傾動機構による炉本体11の傾動に着目すると、
図1~
図3に示されるように、本実施形態では、溶解設備10は、境界10Cにおいて、固定部分10Aと、可動部分10Bとに分けられる。固定部分10Aは、基礎に対して固定された部分であり、予熱トンネル14を含む部分である。なお、固定部分10Aは、予熱トンネル14以外の部材を含んでも良い。また、可動部分10Bは、固定部分10Aに対して相対的に可動に構成された部分であり、炉本体11を含む部分である。すなわち、可動部分10Bは、炉本体11の傾動に連動する部分である。なお、可動部分10Bは、炉本体11以外の部材を含んでも良い。
【0037】
連結装置30は、固定部分10Aと可動部分10Bとの間の境界の状態を連結状態と分離状態との間で切り替え可能とする装置である。連結状態とは、金属原料1を主予熱室12から炉本体11内に装入する際の状態であり、具体的には、例えば、後述の可動床部材35が境界をまたぐ位置である連結位置にあり、これによって固定部分10Aと可動部分10Bとの間に金属原料1の移動を円滑にする橋が渡されているような状態である。境界が連結状態にあるときには、少なくとも、後述のプッシャー13の押出部材26が境界を越えて移動することが妨げられないことが必要である。一方、分離状態とは、金属原料1を溶解して得られた溶融金属2を炉本体11から出湯する際の状態であり、具体的には、例えば、後述の可動床部材35が境界よりも固定部分10A側に退避した位置である退避位置にあり、これによって、可動部分10Bの傾動が可動床部材35によって妨げられることがなく、溶融金属2を炉本体11から出湯することができる状態である。境界が分離状態にあるときには、炉本体11からの出湯が可能なように、溶解設備10の可動部分10Bが固定部分10Aに対して相対的に可動となっていることが必要である。なお、溶解設備10は、連結装置30を有さなくても良い。連結装置30のその他の詳細な構成と機能については、後述する。
【0038】
<主予熱室12>
図3は、主予熱室12付近の詳細を示す断面図である。
【0039】
本実施形態では、予熱トンネル14の移送装置32は、金属原料1を水平方向に移送する。さらに、本実施形態では、予熱トンネル14の移送装置32は、金属原料1を主予熱室12の装入口16の下縁よりも高い位置で移送している。したがって、
図3に示されるように、移送装置32の前端まで移送された金属原料1は、さらに前側の主予熱室12内において、金属原料1の移送高さ(すなわち、主予熱室12の装入口16の下縁よりも高い位置)から所定程度落下した位置に溜まることになる。本実施形態においては、主予熱室12の前後方向の範囲は、移送装置32の前側の端部から、装入口16までである。従って、予熱トンネル14(フード部31)の一部(前側の端部)が主予熱室12の一部を画成することとなる。但し、金属原料1を所定の期間溜められる範囲であれば、主予熱室12の前後方向の範囲は、それ以外の範囲であっても良い。
【0040】
また、本実施形態では、金属原料1が主予熱室12内に所定の期間溜められることにより、主予熱室12に堆積した金属原料1の高さが、前述の金属原料1の移送高さに近づくまで金属原料1が溜められる。そうすると、
図3に示されるように、堆積した金属原料1上方の空間の横断面積Cが小さくなる。ここで、
図3に示される横断面積Cは、排ガスが金属原料1の隙間を通らずに抜ける空間の大きさを示すものである。従って、横断面積Cが小さくなれば、より多くの排ガスが金属原料1の隙間を通って抜けることになり、金属原料1の予熱をより効率的に行うことができる。
【0041】
さらに、
図3に示されるように、本実施形態では、主予熱室12との接続部における予熱トンネル14の底部の上下方向位置(A)が、主予熱室12の装入口16の上下方向における中心(B)よりも高い位置にある。これによっても、堆積した金属原料1上方の空間の横断面積Cを小さくすることができ、より多くの排ガスが金属原料1の隙間を通って抜けることになり、金属原料1の予熱をより効率的に行うことができる。
【0042】
前述したように、主予熱室12に所定の期間溜められた金属原料1は、プッシャー13により炉本体11へ押し出される。
図3に示されるように、プッシャー13は、押出部材26と、押出部材駆動装置27とを有する。押出部材26は、金属原料1を炉本体11側に押し出す部材である。押出部材駆動装置27は、金属原料1の押し出し方向(具体的には、主予熱室12内において装入口16と対向する側の端から装入口16に向かう方向)に沿って押出部材26を往復移動させる装置である。押出部材26を押出部材駆動装置27により往復移動させて金属原料1を炉本体11側に押し出すことにより、スティックスリップ式の水平振動コンベアを使用して炉本体内に金属原料を装入するよりも、より直接的で安定した金属原料1の投入量制御が可能となる。
【0043】
また、
図3に示されるように、前述した連結装置30は、前述した可動床部材35と、床部材駆動装置36とを有する。可動床部材35は、主予熱室12の床部分の少なくとも一部を構成する部材である。床部材駆動装置36は、境界10Cをまたぐ位置である連結位置と、境界10Cよりも固定部分10A側に退避した位置である退避位置との間で可動床部材35を移動させる装置である。なお、可動床部材35が境界10Cよりも固定部分10A側に退避することで、可動部分10Bを構成する炉本体11が、可動床部材35に干渉することなく傾動することができる。本実施形態では、可動床部材35が連結位置と退避位置との間を移動するという簡易な構成で、連結状態と分離状態とを切り替えることができる。
【0044】
<比較例>
・第1比較例
図4Aは、第1比較例の溶解設備100を示す平面図である。
図4Bは、第1比較例の溶解設備100を示す側面図である。
【0045】
第1比較例の溶解設備100は、アークにより金属原料1を溶解するための炉本体11と、原料を貯留する予熱槽40とを有する。そして、炉本体11から導入される排ガスが有する熱により、予熱槽40内の金属原料1が予熱される。また、溶解設備100は、炉本体11を傾動させる炉本体傾動機構42と予熱槽40を傾動させる予熱槽傾動機構41を有しており、炉本体11から溶融金属を出湯する際には、炉本体11と予熱槽40とが同期して傾動する。なお、以下の説明では、第1比較例の溶解設備100は、「垂直予熱槽タイプの溶解設備」と呼ぶことがある。
【0046】
金属原料1を排ガスにより予熱することに関連して、溶解設備100は炉本体11と予熱槽40とが一体となった構造であり、しかも排ガスが全て金属原料1の隙間を通って排出されるため、密閉性を保ちつつ高い熱効率で金属原料1を予熱することができる。しかし、第1比較例の溶解設備100では、建屋柱への予熱槽40の干渉等を避けつつ設置する必要があり、既存の工場への短期間での設置が困難である。
【0047】
・第2比較例
図5は、第2比較例の溶解設備101において、金属原料1を予熱する様子を示す説明図である。
【0048】
第2比較例の溶解設備101では、予熱槽(予熱トンネル14)が水平に配置されている。なお、以下の説明では、第2比較例の溶解設備101は、「水平予熱槽タイプの溶解設備」と呼ぶことがある。第2比較例の溶解設備101では、予熱トンネル14内において、金属原料1を搭載するコネクティングカー44が炉本体11との接続部分まで移動することにより炉本体11に金属原料1を装入する。そして、金属原料1の装入が完了したコネクティングカー44が後側に移動することにより、炉本体11がコネクティングカー44と干渉せずに傾動可能になる。
【0049】
したがって、第2比較例の溶解設備101では、予熱トンネル14が傾動しないため、第1比較例の溶解設備100と比較すると、既設の溶解炉を改造して予熱装置(予熱トンネル)を追加して設置することは容易である。しかし、金属原料1は予熱トンネル14内を水平に移送された後に炉本体11に装入されるため、
図5に示されるように、金属原料1の予熱に用いる炉本体11からの排ガスが金属原料1の上方を流れてしまい、金属原料1中を高温の排ガスが通過しにくく、予熱効率が比較的低いという問題がある。
【0050】
これに対し、本実施形態では、前述した
図3に示すように、第2比較例の溶解設備101と比較してより多くの排ガスが金属原料1の隙間を通って抜けることにより、金属原料1の予熱をより効率的に行うことができる。つまり、水平予熱槽タイプの溶解設備で用いられるような水平の予熱トンネル14を使用しても、高い効率で金属原料1を予熱することができる。
【0051】
水平予熱槽タイプの溶解設備では、排ガスが金属原料1の上方を流れているので、金属原料1は、主に輻射伝熱により予熱されることになる。しかし、本実施形態の溶解設備10では、排ガスが金属原料1の上方を流れているのに加え、主予熱室12内で金属原料1の隙間を高温の排ガスが通過している。つまり、輻射伝熱による予熱に加えて、対流伝熱による直接的な予熱がより高い割合でなされることになる。
【0052】
<プッシャー13及び連結装置30の動作>
図6A及び
図6Bは、金属原料1を装入する前の状態を示す図である。なお、
図6A(後述する
図7A、
図8A及び
図9Aも同様)では、主予熱室12付近の断面斜視図を示しており、
図6B(後述する
図7B、
図8B及び
図9Bも同様)では、主予熱室12付近の断面図を示している。
【0053】
図6A及び
図6Bに示される状態では、押出部材26と共に可動床部材35は境界10Cよりも固定部分10A側(後側)に退避した退避位置に位置している。このとき、可動部分10Bを構成する炉本体11は、可動床部材35と干渉しないので、固定部分10Aを構成する予熱トンネル14側からの拘束を受けず傾動可能な状態である。すなわち、境界10Cが溶融金属2を炉本体11から出湯する際の状態である分離状態にある。境界10Cがこの分離状態にあるときには、既に溶融金属2が得られている場合は、可動部分10Bを構成する炉本体11を傾動することで、溶融金属2を炉本体11から出湯することができる。
【0054】
図7A及び
図7Bは、金属原料1を装入する途中の状態を示す図である。
【0055】
図7A及び
図7Bでは、可動床部材35は退避位置から前側に移動し境界10Cをまたぐ連結位置に位置している。このとき、可動床部材35は、主予熱室12の床部分の少なくとも一部を構成し、金属原料1を主予熱室12内に溜めることが可能になる。そして、押出部材26は、押し出し方向に金属原料1を炉本体11側に押し出すことで、炉本体11に金属原料1が装入される。
図7A及び
図7Bに示される状態は、金属原料1を主予熱室12から炉本体11内に装入する際の連結状態である。なお、このとき、炉本体11からの排ガスが金属原料1の隙間を通って抜けることにより、金属原料1の予熱を行う。
【0056】
図8A及び
図8Bは、可動床部材35に対する押出部材26の最大前進位置を示す図である。
【0057】
図8A及び
図8Bに示されるように、押出部材26の先端が主予熱室12の前側に設けられた装入口16まで前進することにより、主予熱室12内の少なくとも可動床部材35より前側にある金属原料1が炉本体11に装入される。
【0058】
図9A及び
図9Bは、金属原料1を装入し終えた状態を示す図である。
【0059】
炉本体11への金属原料1の装入を完了すると、
図9A及び
図9Bに示されるように、押出部材26が境界10Cよりも固定部分10A側(後側)に後退する。また、
図9A及び
図9Bに示される状態の後、可動床部材35も境界10Cよりも固定部分10A側(後側)に後退し、退避位置に位置する。すなわち、再び
図6A及び
図6Bに示される分離状態となり、固定部分10Aを構成する予熱トンネル14に対して傾動可能な状態となる。可動部分10Bを構成する炉本体11を傾動することで、溶融金属2を炉本体11から出湯することができる。
【0060】
<変形例>
図10A及び
図10Bは、前述の実施形態の溶解設備10の変形例である溶解設備10’を示す説明図である。以下では溶解設備10と異なる部分について説明する。
【0061】
前述の実施形態の溶解設備10では、前後方向に金属原料1が移送され、前側に位置する炉本体11に装入されていた。しかし、本変形例では、予熱トンネル14の先端において、金属原料1の移送方向が90度折れ曲がり、左側に位置する炉本体11に装入されることになる。この場合も、既設の溶解炉を改造して設置することが容易な水平の予熱トンネル14を使用しても、高い効率で金属原料1を予熱することができる。さらに、炉本体11と既設の周辺設備との位置関係次第で溶解設備10とは異なる方向、すなわち溶解設備10の予熱トンネルが延びる方向と直交する方向等、任意の方向に延びるように予熱トンネル14を設置することができ、設置の自由度を増大させることができる。
【0062】
<小括>
上記実施形態及び変形例の溶解設備10、10’は、
図1~
図3、
図10A及び
図10Bに示されるように、アーク電極23に通電して形成されたアークにより金属原料1を溶解するものである。
そして、上記実施形態及び変形例の溶解設備10、10’は、
図1~
図3、
図10A及び
図10Bに示されるように、
溶解される金属原料1が装入される炉本体11と、
金属原料1を溜めることができるよう構成されており、炉本体11内に金属原料1を装入するための装入口16が設けられ、炉本体11から装入口16を通して導入された排ガスによって金属原料1を予熱するための主予熱室12と、
押出部材26及び主予熱室12内において装入口16と対向する側の押出部材26の端から装入口16に向かう方向(
図1~
図3では前後方向、
図10A及び
図10Bではそれと直交する方向)に沿って押出部材26を往復移動させる押出部材駆動装置27を有し、押出部材26を装入口16に向けて移動させることにより主予熱室12から炉本体11の内部に金属原料1を押し出すためのプッシャー13と、
主予熱室12に接続され、主予熱室12の装入口16の下縁よりも高い位置で金属原料1を横方向(前後方向)に移送する移送装置32を備え、炉本体11から主予熱室12を通して導入された排ガスによって金属原料1を予熱しながら、移送装置32によって主予熱室12に金属原料1を供給するための予熱トンネル14とを備える。
そして、上記実施形態では、
図6~
図9に示されるように、主予熱室12に溜められた金属原料1を、押出部材26(プッシャー13)によって押し出すことで炉本体11内に装入するまでの間、主予熱室12内で予熱することができるよう構成されている。
【0063】
これにより、既設の溶解炉を改造して設置することが容易な水平の予熱トンネル14を使用しても、高い効率で金属原料1を予熱することができる。
【0064】
また、上記実施形態及び変形例の溶解設備10、10’は、
図3に示されるように、主予熱室12との接続部における予熱トンネル14の底部の上下方向位置(A)が、主予熱室12の装入口16の上下方向における中心(B)よりも高い位置にある。
【0065】
これにより、上記実施形態及び変形例では、排ガスが金属原料1の隙間を通らずに抜ける、堆積した金属原料1上方の空間の横断面積を減少させることができる。
【0066】
また、上記実施形態及び変形例の溶解設備10、10’は、
図3に示されるように、少なくとも予熱トンネル14を含み、基礎に対して固定された固定部分10Aと、少なくとも炉本体11を含み、金属原料1を溶解して得られた溶融金属2の出湯の際に傾動できるように固定部分10Aに対して相対的に可動に構成された可動部分10Bとの間の境界10Cの状態を、金属原料1を主予熱室12から炉本体11内に装入する際の状態である連結状態(
図7~
図9に示す状態)と溶融金属2を炉本体11から出湯する際の状態である分離状態(
図6に示す状態)との間で切り替え可能とする連結装置30を更に備えている。
【0067】
これにより、上記実施形態及び変形例では、固定部分10Aを構成する予熱トンネル14で移送された金属原料1を、可動部分10Bを構成する炉本体11へ装入することを可能にすると共に、溶融金属2を炉本体11から出湯する際に、可動部分10Bのみを傾動させることができる。
【0068】
また、上記実施形態及び変形例の溶解設備10、10’は、
図3に示されるように、連結装置30が、主予熱室12の床部分の少なくとも一部を構成する可動床部材35と、可動床部材35を駆動する床部材駆動装置36とを含み、可動床部材35が境界10Cをまたぐ位置である連結位置に可動床部材35を移動させることで境界10Cを連結状態(
図7~
図9に示す状態)とすることと、可動床部材35が境界10Cよりも固定部分10A側(後側)に退避した位置である退避位置に可動床部材35を移動させることで境界10Cを分離状態(
図6に示す状態)とすることができるよう構成されている。
【0069】
これにより、上記実施形態及び変形例では、簡易な構成で連結状態と分離状態とを切り替えることができる。
【0070】
===その他===
以上、本発明を実施形態及び変形例を用いて説明してきたが、本発明はこれらの形態の構成には限られない。本発明の範囲は添付の特許請求の範囲の記載に基づいて定まるものであり、その範囲内において実施の形態及び変形例に示した構成要素の一部の省略や変形、またそれらの改良を施した構成の全てが本発明に含まれる。
例えば、上記の実施形態では、溶解設備10は溶鋼を製造するものであるが、本発明はこれに限られることはなく、アルミニウム等の他の金属を溶解する設備にも適用することができる。
【符号の説明】
【0071】
1 金属原料
2 溶融金属
3 スラグ
10、10’、100、101 溶解設備
10A 固定部分
10B 可動部分
10C 境界
11 炉本体
12 主予熱室
13 プッシャー
14 予熱トンネル
15 ゲートホッパ
16 装入口
21 炉蓋
22 ライニング
23 アーク電極
26 押出部材
27 押出部材駆動装置
30 連結装置
31 フード部
32 移送装置
35 可動床部材
36 床部材駆動装置
40 予熱槽
41 予熱槽傾動機構
42 炉本体傾動機構
44 コネクティングカー