(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-17
(45)【発行日】2024-05-27
(54)【発明の名称】両利き筆記具
(51)【国際特許分類】
B43K 3/00 20060101AFI20240520BHJP
B43K 8/02 20060101ALI20240520BHJP
【FI】
B43K3/00 C
B43K3/00 H
B43K8/02 130
B43K8/02 150
(21)【出願番号】P 2024039585
(22)【出願日】2024-03-14
【審査請求日】2024-03-14
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】724003974
【氏名又は名称】清水 葉樹
(72)【発明者】
【氏名】清水 葉樹
【審査官】藤井 達也
(56)【参考文献】
【文献】実開平4-54887(JP,U)
【文献】特許第180178(JP,C2)
【文献】米国特許第5988921(US,A)
【文献】中国実用新案第217705289(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B43K 3/00 - 8/24
B43K 23/00
B43K 23/016
A45D 34/04
A45D 40/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
握り部となる上部品(2)と筆先(30)を具えた下部品(3)とが、折れ曲がることができるように接続されており、上部品(2)内には、ノック棒(21)が設けられており、このノック棒(21)は、ノックシフト構造(22)により上下に移動でき、ノック棒(21)はその下側で下部品(3)を押すことができるように継がり、ノック棒(21)の上部を押したときに下部品(3)が傾き、ノック棒(21)を押さないときに下部品(3)が傾かないような構造を有したことを特徴とする両利き筆記具(1)。
【請求項2】
前記筆先(30)は、毛筆用穂先(31)であることを特徴とする請求項1記載の両利き筆記具(1)。
【請求項3】
前記上部品(2)の先端縁(20e)またはノック棒(21)の先端(21a)と、これらに接する下部品(3)の上部面(33)には、異なる磁極が対面するようにそれぞれに磁石(M1)(M1′)が配設され、または一方を磁石(M1)として他方に磁性体(M2)が配設されていることを特徴とする請求項1または2記載の両利き筆記具(1)。
【請求項4】
前記ノック棒(21)の先端側に設けられたシフトピン受入孔(24)と、前記下部品(3)の上部面(33)に設けられたノック棒連結ステー(34)のピン受け孔(35)とにシフトピン(P2)を嵌通させて、回動自在に連結されるものであって、前記ピン受け孔(35)は、幾分か長孔に形成されていることを特徴する請求項1または2記載の両利き筆記具(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、右利きの人が普通に用いるほか、左利きの人でも違和感なく使用することができる両利き筆記具に係るものである。
【背景技術】
【0002】
世の中の人の約10%が左利きというデータもあり、左利きは少数派ということもできる。一方の手で操作する道具は、右利きが大多数を占めていることに因んで、一般に利き手である右手で操作するように設計されたものがその多くを占めている。最近では、少数の左利き用の調理器具や、文房具も提供されつつあるものの、まだまだその品揃えの少なかったり、使いにくかったりして生活の不便さを解消できたとは言えない。
【0003】
とりわけ左利きの人が不便さを感じるものとして筆記具があり、特に筆が挙げられる。
柔軟な動物の毛などを相当本数束ねて構成された筆は、他の筆記用具とは決定的に異なる特質を有している。それは、筆記具先端側の穂先を進行方向に向けて移動させて使用することができないことであり、言い換えれば筆先を常に進行方向以外の向き、多くの場合は、進行方向に下流側の向きに向けて使用することになる。
特に日本語で用いる文字のひらがな、カタカナ、漢字においては、その文字を構成する要素は、左から右に向けて筆先を移動して書く部分が多い。これも右手で筆を持って書くことに適して傾向といえる。
このため学校で習字を習うときは、教師は筆を右手で持つように指導するケースが多い。だからと言って、無理に右利きを強要されてしまうと、左利きの人は、自らの個性を否定された気持ちになり、ネガティブな感情を抱いてしまうことも否定できない人も一定数いるであろう。
もちろん筆以外の筆記用具、例えば万年筆、ボールペンといったものであっても、日本語をはじめとして多くの言語は、横書きである場合には左から右に向けて文字を整列させて文章を記述してこととなるうえに、その先端が進行方向に向かってしまい、右手で書く場合よりも書きにくいのは明らかである。
【0004】
一方で敢えて左手で筆を持って文字を書こうとする人もいるのは事実である。
左手で筆を持つということは、右手で筆を持った状態の鏡像になることなり、筆の穂先が、進行方向である右側に向くことになる。このため左手に筆を持って文字を書き出すことは、極めて困難となる。さらには書き終えた文字の上に手が覆いかぶさるように擦れることで文字が汚損してしまう。それでも左利きの人は、手首を手前側に深く曲げて、少しでも、筆を右手で持った時のように穂先を左側に向けて傾けたり、紙の向きを傾斜させたり、種々の工夫を凝らして筆を用いて文字を書いている。
そのような工夫、苦労を軽減するために、筆の穂先を傾く構造が採用した実開昭63―084379「左利き用の筆」がある(特許文献1)。
しかしながら、その筆先の部分を傾斜させるためには、特許文献1の
図1に示すように筆の穂先付近を捻じったり、同
図2に示すように筆の穂先を屈曲させたり複雑な操作をする必要がある。このことは、穂先を触れることで、指先が汚れてしまう可能性があり、十分なものとは言えない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような背景を考慮しながら完成させたものであり、指先を汚すことなくワンタッチで筆の穂先の向きを変えて、右利きの人が普通に用いるほか、左利きの人でも違和感なく使用す
ることができる両利き筆記具を考え出すことを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載のる両利き筆記具(1)は、握り部となる上部品(2)と
筆先(30)を具えた下部品(3)とが、
折れ曲がることができるように接続されており、
上部品(2)内には、ノック棒(21)が設けられており、このノック棒(21)は、ノックシフト構造(22)により上下に移動でき、
ノック棒(21)はその下側で下部品(3)を押すことができるように継がり、
ノック棒(21)の上部を押したときに下部品(3)が傾き、
ノック棒(21)を押さないときに下部品(3)が傾かないような構造を有した
ことを特徴とするものである。
【0008】
請求項2記載のる両利き筆記具(1)は、請求項1記載の要件に加えて、前記筆先(30)については、毛筆用穂先(31)であることを特徴とするものである。
【0009】
請求項3記載のる両利き筆記具(1)は、請求項1または2記載の要件に加えて、前記上部品(2)の先端縁(20e)またはノック棒(21)の先端(21a)と、下部品(3)とがこれらに接する上部面(33)には、
異なる磁極が対面するようにそれぞれに磁石(M1)(M1′)が配設され、または
一方を磁石(M1)として他方に磁性体(M2)が配設されている
ことを特徴とするものである。
【0010】
請求項4記載のる両利き筆記具(1)は、請求項1または2記載の要件に加えて、前記ノック棒(21)の先端側に設けられたシフトピン受入孔(24)と、前記下部品(3)の上部面(33)に設けられたノック棒連結ステー(34)のピン受け孔(35)とにシフトピン(P2)を嵌通させて、回動自在に連結されるものであって、前記ピン受け孔(35)は、幾分か長孔に形成されている
ことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
第一の発明では、両利き用筆記具の」上端をノックする操作だけで、右利き用、左利き用に簡単に切り替えられる。
【0012】
第二の発明では、下部品に毛筆用の穂先を設けることにより、毛筆練習をはじめ毛筆で左利きの人が書く場合に便利である。
【0013】
第三の発明では、上部品またはノック棒と、接触する下部品の上部面とのそれぞれが磁力の作用によって適度に固定されることで、穂先の屈曲状態、真直状態を維持することができる。
【0014】
第四の発明では、上部品と下部品とがピンによって接続されていることにより、毛筆練習をはじめ毛筆で左利きの人が書く場合に便利である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の両利き用筆記具の左利き用状態を示す一部縦断正面図であり、一部を拡大して示す。
【
図2】本発明の両利き用筆記具の右利き用に設定した状態を一部縦断正面図であり一部を拡大して示す。
【
図3】本発明の両利き筆記用具の固定構造(磁着固定タイプ)を示す説明図である。
【
図4】本発明の両利き筆記用具の固定構造(ピン連結固定タイプ)を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、以下の実施例に示すとおりであるが、この実施例に対して本発明のアイデアの範囲内において適宜変更を加えることも可能である。
【実施例1】
【0017】
この発明の両利き用筆記具1について詳しく構造を説明する。図に示す通り、この両利き用筆記具1は、上部品2と下部品3とで構成されている。上部品2は握り部となっており、上部品2と下部品3とは、ピンP1による接続で折れ曲がるように組み立てられている。
【0018】
また下部品3には、一例として毛筆の穂先32が上部品2内にノック棒21が設けられている。このノック棒21は、その上側に設けられているノックシフト構造22により、上下移動できる。このノックシフト構造22は、ボールペンなどに用いられている周知の機構である。なおこのノック棒21の戻りは、その下方にあるセットスプリング23により行われる。
【0019】
(屈曲状態)
このノック棒21は、その下側で下部品3を下側に押し出すことができるように配されている。この構成は、ノック棒21と下部品3とが、
図1に示すように下部品3の上部面33に当ることによって行われ、結果として下部品3を傾かせることができる。
(直立状態)
一方でノック棒21が上方に退避して下部品3の面から離れた時においては、下部品3を真っ直ぐに保てるように、下部品3の上部面33と、上部品2の先端21aとに、磁石M1と磁石M1′とを、あるいは一方のみを磁石M1とし、他方を磁性体M2とを設けておき、磁着作用により動かないようにする。
なお上述したノック棒21で下部品3を押した屈曲状態の場合においても、ノック棒21である先端21aと下部品3の上部面33との間で磁力の作用によって固定が図られる。
【0020】
ここで磁石M1と磁性体M2の配置の状態について説明する。
まず双方ともに磁石(M1、M1′)を設ける場合には、互いに磁着するように異なる磁極が対向するように配置し、常に互いが引き付け合うように磁力が作用するようにする。
一方で磁石M1と磁性体M2との組み合わせとする場合には、下部品3の上部面33側を磁石M1とし、他方である上部品2側の部材(ノック棒21、上部品2の先端縁20e)を磁性体M2とすることが好ましい。
更に磁石については、通常の合金磁石、フェライト磁石、ネオジム磁石といった希土類磁石などを適用することができる。
【0021】
以上述べた構成を有する両利き用筆記具1は、右利き、左利きのそれぞれの使い方を選択できる 。
具体的な操作方法について以下説明すると、先ず、ノック棒21を押さないときには、その下端部が下部品3を押していないので、シフトピンP2は、下部品3を引き上げている状態となっており、上部品2と下部品3とは真っ直ぐな状態、つまり右利き向けの状態となっている。
一方ノック棒21を押し下げると、ノックシフト構造22により、ノック棒21は押し下げられている状態になる。この動きによってノック棒21の下端は、下部品3の上部面33を押し下げる動きになって、下部品3全体を傾かせる。この屈曲状態が左利き用筆記具1Lの状態である。
そしてもう一度ノック棒21のノックシフト構造22を押せば、上部品2と下部品3との間に常に生じている磁力による引き付ける力によって下部品3が上部品2の先端縁20eが接近して、再び直立状態に復帰し、右利き用筆記具1Rとなる。
【0022】
ここで両姿勢を保持するための磁着状態について説明する。
(屈曲状態)
まず屈曲状態においては、
図3(a)に示すようにノック棒21の先端21aが、下部品3の上部面33に当接することで磁着作用域Emが発生してお互いを固定する。
このため下部品3と上部品2との接続面の傾斜は、一例として所望の穂先の屈曲角θを考慮して決定されているものである。本実施例においては、先端21aの面が筆記具の軸方向に対して直交する面となっていることから、ピンP1側からみて水平方向から屈曲角θだけ見上げる角度となっている。
(直立状態)
この直立状態の姿勢については、
図3(b)に示すように、ノック棒21の先端21aが上方に退去したために、いわば“つっかえ棒”がなくなったことにより、ピンP1の他端側の上部品2と下部品3とが離反したものが、磁力によって引き寄せ合って合わさることになる。そして上部品2の先端縁20eと下部品3の上部面33とが接触した範囲が磁着作用域Emとなり、お互いを固定している。
【0023】
ここで穂先32の屈曲角度θについて補足する。
屈曲角度θは、左手で筆を保持した際に、穂先32の状態を確認しやすい10°から30°程度の範囲となるが、好ましくは20°付近の値が好ましい。もちろんここで説明したものは、あくまでも一例であり、握り部から穂先までの距離や、筆の毛足の長さ、筆のコシの強弱なくによって、適した屈曲角度θは異なってくることは言うまでもない。それというのも、屈曲した筆先31の先端が、握っている上部品2の軸線上からあまりにもかけ離れていると自分の腕によって、穂先32を見て確認することができなくなってしまうなどの支障があるからである。
【実施例2】
【0024】
(屈曲状態での固定構造の変形例)
更にこれら筆先31である下部品3の直立姿勢(右利き用の状態)と屈曲姿勢(左利き用の状態)とを確実に保持するためには、次のような改変が考えられる。
具体的には、ピン接続を用いて上部品2と下部品3とを合計2か所で連結する構造を用いたものである。
即ちこの構造は、上部品2のノック棒21と下部品3とが
図4(a)に示すようにシフトピンP2で接続されている。そしてノック棒21が、円滑に下部品3の上面の押出し作用を発揮できるように下部品のピン受け孔35は、長孔状としている。ノック棒21の先端21aが上部品2の軸方向(上下方向)にスライド移動するのに対して、先端21aが当接する下部品3の上部面33は、上部品2と下部品3との接続部のピンP1を中心に円弧を描きながら移動する。このため下部品3の軸が上部品2の軸方向から傾斜して屈曲するにことで、屈曲前の同軸上にあった連結位置は、幾分か連結しているピンP1の側に寄るように移動する。
このようにピン受け孔35自体が移動することから、
図4(b)に示すような横(断面)方向に幾分か長孔状のピン受け孔35となっている。この形状に因み、筆先31が屈曲状態と直立状態とを円滑に移行することができる。
【0025】
(他の筆記具への適用例)
本発明の両利き用筆記具1は、習字用毛筆をはじめてとする筆に適用することが最も効果的であるが、このほかにもボールペン、万年筆、シャープペンシル等にも応用できる。
【符号の説明】
【0026】
P1 ピン
P2 シフトピン
M1 磁石
M1′ 磁石
M2 磁性体
Em 磁着作用域
θ (穂先の)屈曲角
1 両利き用筆記具
1R 右利き用筆記具
1L 左利き用筆記具
2 上部品
20e 先端縁
21 ノック棒
21a 先端
22 ノックシフト構造
23 セットスプリング
24 シフトピン受入孔
3 下部品
31 筆先
32 穂先
33 上部面
34 ノック棒連結ステー
35 ピン受け孔
【要約】
【課題】 指先を汚すことなくワンタッチで筆の穂先の向きを変えて、右利きの人が普通に用いるほか、左利きの人でも違和感なく使用することができる両利き用筆記具を考え出すことを課題としたものである。
【解決手段】 本発明の両利き筆記具(1)は、握り部となる上部品(2)と筆先(30)を具えた下部品(3)とが、折れ曲がることができるように接続されており、上部品(2)内には、ノック棒(21)が設けられており、このノック棒(21)は、ノックシフト構造(22)により上下に移動でき、ノック棒(21)はその下側で下部品(3)を押すことができるように継がり、ノック棒(21)の上部を押したときに下部品(3)が傾き、ノック棒(21)を押さないときに下部品(3)が傾かないような構造を有したことを特徴とするものである。
【選択図】
図1