(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-17
(45)【発行日】2024-05-27
(54)【発明の名称】複合磁性材料及びこの複合磁性材料によって構成されたメタルコンポジットコア
(51)【国際特許分類】
H01F 1/26 20060101AFI20240520BHJP
H01F 27/255 20060101ALI20240520BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20240520BHJP
B22F 1/102 20220101ALI20240520BHJP
B22F 3/00 20210101ALI20240520BHJP
C22C 38/00 20060101ALN20240520BHJP
【FI】
H01F1/26
H01F27/255
B22F1/00 Y
B22F1/102 100
B22F3/00 B
C22C38/00 303S
(21)【出願番号】P 2019057042
(22)【出願日】2019-03-25
【審査請求日】2022-03-03
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】390005223
【氏名又は名称】株式会社タムラ製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【氏名又は名称】木内 光春
(74)【代理人】
【識別番号】100112564
【氏名又は名称】大熊 考一
(74)【代理人】
【識別番号】100163500
【氏名又は名称】片桐 貞典
(74)【代理人】
【識別番号】230115598
【氏名又は名称】木内 加奈子
(72)【発明者】
【氏名】大島 泰雄
(72)【発明者】
【氏名】有間 洋
【審査官】後藤 嘉宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-125501(JP,A)
【文献】特開2019-041008(JP,A)
【文献】特開2018-125502(JP,A)
【文献】特開2018-125503(JP,A)
【文献】特開2017-188680(JP,A)
【文献】特開2017-171947(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/26
H01F 27/255
B22F 1/00
B22F 1/102
B22F 3/00
C22C 38/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性粉末と樹脂とを混合してなる複合磁性材料であって、
前記磁性粉末は、
第1の粉末と、
前記第1の粉末より平均粒子径が小さい第2の粉末と、
を有し、
前記第1の粉末は、フッ素系樹脂
のみから構成される絶縁被膜で覆われており、
前記磁性粉末に混合される前記樹脂の添加量は、前記磁性粉末に対して3wt%以上10wt%以下であ
り、
前記絶縁被膜の添加量は、前記第1の磁性粉末に対して0.1wt%以上1.0wt%以下であること、
を特徴とする複合磁性材料。
【請求項2】
前記請求項
1に記載の複合磁性材料によって構成されたメタルコンポジットコア。
【請求項3】
前記磁性粉末に混合される前記樹脂が硬化されて成ること、
を特徴とする請求項
2に記載のメタルコンポジットコア。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性粉末と樹脂から成る複合磁性材料及びこの複合磁性材料によって構成されたメタルコンポジットコアに関する。
【背景技術】
【0002】
OA機器、太陽光発電システム、自動車など様々な用途にリアクトルが用いられている。様々な用途に対応するため、リアクトルに用いられるコアの形状の多様化が要求されている。この要求に応えるため、リアクトルは、メタルコンポジットコア(以下、MCコアとも称する)と呼ばれるコアが用いられる。
【0003】
このMCコアは、磁性粉末と樹脂とを混合させた複合磁性材料を所定の形状に成型し、固化させて成るコアである。複合磁性材料は粘土状である。そのため、複合磁性材料を容器に流し込みやすいので、容器の形状に合わせて成型しやすく、コアを所望の形状に成型できる。
【0004】
リアクトルは、使用する用途に合わせた鉄損などの磁気特性が要求される。例えば、電圧昇降用のコンバータに用いられるリアクトルは、エネルギー変換効率の向上が求められるため、エネルギー損失である鉄損をより小さくすることが求められる。鉄損は、渦電流損失と、ヒステリシス損失の和で表される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
渦電流損失は、渦電流が発生するために生じる損失である。MCコアにおいて、この渦電流は、磁性粉末の接触によって生じる可能性がある。そして、MCコアの製造過程において、磁性粉末に応力が加えられることがある。この応力によって、磁性粉末同士が接触することがある。
【0007】
そこで、例えば、磁性粉末を絶縁性の樹脂で覆い、磁性粉末同士の接触を抑制し、渦電流損失を低減させる手法がある。しかし、近年、リアクトルの使用用途の多様化に伴い、渦電流損失の更なる低減が求められる。
【0008】
本発明の目的は、上記課題を解決するために提案されたものであり、渦電流損失を抑制することができる複合磁性材料及びこの複合磁性材料を用いたメタルコンポジットコアを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明は、磁性粉末と樹脂とを混合してなる複合磁性材料であって、前記磁性粉末は、第1の粉末と、前記第1の粉末より平均粒子径が小さい第2の粉末と、を有し、前記第1の粉末は、フッ素系樹脂のみから構成される絶縁被膜で覆われており、前記磁性粉末に混合される前記樹脂の添加量は、前記磁性粉末に対して3wt%以上10wt%以下であり、前記絶縁被膜の添加量は、前記第1の磁性粉末に対して0.1wt%以上1.0wt%以下であること、を特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、渦電流損失を抑制した磁気特性に優れた複合磁性材料及びこの複合磁性材料を用いたメタルコンポジットコアを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例における絶縁被膜の添加量と密度の関係を示したグラフである。
【
図2】実施例における絶縁被膜の添加量と鉄損Pcvの関係を示したグラフである。
【
図3】実施例における絶縁被膜の添加量とヒステリシス損失Phの関係を示したグラフである。
【
図4】実施例における絶縁被膜の添加量と渦電流損失Peの関係を示したグラフである。
【
図5】フッ素系樹脂の添加量と透磁率の変化率の関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(実施形態)
まず、本実施形態の構成について説明する。本実施形態のメタルコンポジットコア(以下、MCコアとも称する)は、複合磁性材料を所定の容器に充填し、加圧することで所定の形状のコアとなる。このMCコアは、リアクトルの磁性体として使用される。
【0013】
複合磁性材料は、磁性粉末と樹脂とを含み構成される。磁性粉末としては、軟磁性粉末が使用でき、特に、Fe粉末、Fe-Si合金粉末、Fe-Al合金粉末、Fe-Si-Al合金粉末(センダスト)、非晶質合金粉末、ナノクリスタル、又はこれら2種以上の粉末の混合粉などが使用できる。Fe-Si合金粉末としては、例えば、Fe-6.5%Si合金粉末、Fe-3.5%Si合金粉末を使用できる。
【0014】
磁性粉末は、平均粒子径の異なる磁性粉末を使用する。つまり、磁性粉末は、第1の粉末と、第1の粉末より平均粒子径が小さい第2の粉末から成る。本明細書において平均粒子径とは、特に断りがない限り、D50、すなわちメジアン径を指すものとする。また、第1の粉末と第2の粉末の種類は、同じものでもよいし、異なるものでもよい。なお、本実施形態では、磁性粉末は平均粒子径の異なる第1の粉末及び第2の粉末の2種類の粉末で構成されているが、磁性粉末は、第1の粉末のみ1種類で構成されてもよい。
【0015】
第1の粉末の平均粒子径は100μm~200μm、第2の粉末の平均粒子径は、3μm~10μmが好ましい。この範囲とすることで、第1の粉末同士の隙間に平均粒子径の小さい第2の粉末が入り込み、密度及び透磁率の向上と低鉄損化を図ることができるからである。
【0016】
また、第1の粉末と第2の粉末の重量比率は、第1の粉末:第2の粉末=80:20~60:40とすることが好ましい。この範囲とすることで密度及び透磁率が向上するとともに、鉄損を小さくすることができる。
【0017】
第1の粉末の周囲は、絶縁被膜により覆われている。絶縁被膜は、絶縁性を有する樹脂から成る。この樹脂の種類は、フッ素系の樹脂を含む。即ち、絶縁被膜は、フッ素系の樹脂を含み成る。絶縁被膜の厚さは、5nm~500nmであることが好ましい。絶縁被膜の厚さが5nmよりも薄くなると、絶縁性能が悪化する。一方、絶縁被膜の厚さが500nmよりも厚くなると、密度が低下し磁気特性が悪化する。なお、本明細書において、絶縁被膜となる絶縁性を有する樹脂を絶縁被膜樹脂と呼ぶ場合がある。
【0018】
絶縁被膜となるフッ素系の樹脂の添加量は、磁性粉末に対して、0.1wt%以上1.0wt%以下の範囲が好ましい。フッ素系樹脂の添加量が0.1wt%未満になると、渦電流損失(Pe)の低減効果が低い。一方、フッ素系樹脂の添加量が1.0wt%を超えると、MCコアの密度が低下し、ヒステリシス損失(Ph)が増加する。
【0019】
複合磁性材料を構成する樹脂は、磁性粉末と混合され、磁性粉末を保持する。樹脂としては、熱硬化性樹脂、紫外線硬化樹脂、又は熱可塑性樹脂を使用することができる。熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン、ジアリルフタレート樹脂、シリコーン樹脂などが使用できる。紫外線硬化性樹脂としては、ウレタンアクリレート系、エポキシアクリレート系、アクリレート系、エポキシ系の樹脂を使用できる。熱可塑性樹脂としては、ポリイミドやフッ素樹脂などの耐熱性に優れた樹脂を使用することが好ましい。
【0020】
また、樹脂は、磁性粉末に対して3~10wt%含有されていることが好ましい。樹脂の含有量が3wt%より少ないと、磁性粉末の接合力が不足し、MCコアの機械的強度が低下する。また、樹脂の含有量が10wt%より多いと、磁性粉末を隙間なく保持することができなくなるなど、MCコアの密度が低下し、透磁率が低下する。
【0021】
次に、この複合磁性材料を用いたMCコアの製造方法について説明する。本実施形態におけるMCコアの製造方法は、(1)被覆工程、(2)混合工程、(3)成型工程、(4)硬化工程を有する。
【0022】
(1)被覆工程
被覆工程は、第1の粉末をフッ素系樹脂から成る絶縁被膜で覆う工程である。被覆工程では、第1の粉末とフッ素系樹脂を混合し、乾燥させることで、第1の粉末の周囲にフッ素系樹脂を被覆させる。第1の粉末とフッ素系樹脂の混合は、所定の混合器を用いて自動又は手動で行うことができる。混合する時間は、適宜設定することができる。混合する時間は、例えば2分間である。また、乾燥温度や乾燥時間は、フッ素系樹脂で第1の粉末を被覆できるのであれば、適宜な温度及び時間を設定できるが、例えば、180度で120分間乾燥する。
【0023】
(2)混合工程
混合工程は、磁性粉末と樹脂を混合する工程である。混合工程では、まず、被覆工程を経た第1の粉末と、第2の粉末を混合することで、磁性粉末を得る。そして、この磁性粉末に、磁性粉末に対して3~10wt%の樹脂を添加し、磁性粉末と樹脂を混合する。この混合工程を経ることで、磁性粉末と樹脂との混合物である複合磁性材料を得ることができる。
【0024】
(3)成型工程
成型工程は、複合磁性材料を製造するコアの形状に合わせて成型する工程である。成型工程では、まず、製造するコアの形状に合わせた容器に複合磁性材料を充填する。その後、容器に充填された複合磁性材料を、押圧部材で加圧する。この押圧部材で加圧することで、容器の形状に複合磁性材料を押し広げるとともに、複合磁性材料に含まれていた空隙を減少させることでコアの密度が大きくなる。
【0025】
複合磁性材料を加圧する圧力は、数ton~数十tonで磁性粉末を押し固めて成形する圧粉磁心とは異なり、数kg~数十kgと低い圧力をかければ足りる。そのため、圧粉磁心は磁性粉末が変形するが、MCコアは、加圧しても磁性粉末は変形しない。なお、MCコアの成型においては、圧粉磁心の成型のように加圧することは、必須要件ではないため、複合磁性材料を押圧部材で加圧しなくてもよい。
【0026】
(4)硬化工程
硬化工程は、複合磁性材料に含まれる樹脂を硬化させる工程である。樹脂の硬化は、樹脂の種類によって適宜の方法で硬化すればよい。例えば、樹脂が熱硬化性樹脂の場合には、熱を加えることで樹脂を硬化させる。
【0027】
このように、所望の形状の容器に複合磁性材料を充填し、複合磁性材料に含まれる樹脂を硬化させることで、所望の形状となったMCコアが作製される。つまり、MCコアにおいては、混合工程において添加した樹脂は硬化するだけなので、当該樹脂の成分は、分解されない。一方、圧粉磁心では、絶縁被膜として添加した樹脂は、焼鈍工程を経るため熱分解され、残った無機成分などが粉末間のバインダとして機能する。また、圧粉磁心は、数ton~数十tonで加圧成形することで、所望の形状にしており、樹脂を硬化させることでコアの形状を形成させるMCコアとは異なる。
【0028】
(実施例)
本発明の実施例を表1及び
図1-
図5を参照しつつ説明する。
【0029】
実施例1-5は、第1の粉末としては、平均粒子径が150μmのFe-6.5Si合金粉末を使用した。実施例1-5は、絶縁被膜としてフッ素系樹脂を使用し、第1の粉末の周囲を被覆する。実施例1-5は、このフッ素系の樹脂を第1の粉末に対してそれぞれ1.0wt%、0.75wt%、0.5wt%、0.25wt%、0.1wt%添加した。
【0030】
一方、比較例1-3は、第1の粉末を被覆する絶縁被膜の有無及び種類を実施例と変え、その他は実施例と同様に作製した。具体的には、比較例1は、第1の粉末を絶縁被膜の樹脂で被覆せず、即ち、第1の粉末そのものである。比較例2は、被膜樹脂の種類として、アクリルを使用し、このアクリルを第1の粉末に対して1.0wt%添加した。比較例3は、被膜樹脂の種類としてシリコーンを使用し、このシリコーンを第1の粉末に対して1.0wt%添加した。
【0031】
次に、実施例1-5及び比較例1-3の第1の粉末から混合工程、成型工程、硬化工程を経て、MCコアを作製した。作製したMCコアは、外径35mm、内径20mm、高さ10mmのトロイダル形状とした。なお、本実施例では、第2の粉末は使用せず、複合磁性材料を作製した。
【0032】
絶縁被膜樹脂で被覆した磁性粉末に、磁性粉末に対して6wt%のエポキシ樹脂を添加し、2分間ヘラを用いて手動で混合し、複合磁性材料を形成した。この複合磁性材料を容器に充填し、加圧は行わなかった。そして、容器ごと複合磁性材料を大気中にて85℃で2時間乾燥させ、その後120℃で1時間乾燥させ、さらに150℃で4時間乾燥することで樹脂を硬化した。このようにして、MCコアを作製した。そして、作製したMCコアに、巻線を巻回し、リアクトルを作製した。
【0033】
以上のように作製した実施例1-5及び比較例1-3のリアクトルの透磁率、鉄損及びMCコアの密度を下記の条件の下で測定した。
【0034】
MCコアの密度は、見かけ密度である。即ち、実施例1-5及び比較例1-3のMCコアの外径、内径、及び高さを測り、これらの値から各MCコアの体積(cm3)を、π×(外径2-内径2)×高さに基づき算出した。そして、各MCコアの質量を測定し、測定した質量を算出した体積で除してコアの密度を算出した。
【0035】
透磁率及び鉄損の測定条件は、周波数100kHz、最大磁束密度Bm=30mTとした。透磁率は、鉄損Pcv測定時に最大磁束密度Bmを設定したときの振幅透磁率とした。鉄損については、MCコアにφ1.2mmの銅線で1次巻線40ターン、2次巻線3ターンの巻線を巻回し、磁気計測機器であるBHアナライザ(岩通計測株式会社:SY-8219)を用いて算出した。この算出は、鉄損の周波数曲線を次の(1)~(3)式で最小2乗法により、ヒステリシス損失係数、渦電流損失係数を算出することで行った。
【0036】
Pcv =Kh×f+Ke×f2・・(1)
Ph =Kh×f・・(2)
Pe =Ke×f2・・(3)
Pcv:鉄損
Kh :ヒステリシス損失係数
Ke :渦電流損失係数
f :周波数
Ph :ヒステリシス損失
Pe :渦電流損失
【0037】
(フッ素系樹脂の添加量による特性の比較)
【表1】
【0038】
表1は、実施例1-5及び比較例1-3の密度及び鉄損(鉄損Pcv、ヒステリシス損失Ph、渦電流損失Pe)を示す表である。
図1は、絶縁被膜樹脂の添加量と密度の関係を示すグラフである。
図2は、絶縁被膜樹脂の添加量と鉄損の関係を示すグラフである。
図3は、絶縁被膜樹脂の添加量とヒステリシス損失の関係を示すグラフである。
図4は、絶縁被膜樹脂の添加量と渦電流損失の関係を示すグラフである。
【0039】
表1、
図4に示すように、フッ素系樹脂で第1の粉末を被覆した実施例1-5は、絶縁被膜によって第1の粉末を被覆していない比較例1よりも渦電流損失Peが低減している。即ち、フッ素系樹脂を0.1wt%以上添加することで、第1の粉末を被覆しない場合と比べて、渦電流損失Peを抑制することができる。これは、第1の粉末をフッ素系樹脂で覆ったことで、第1の粉末同士の接触を抑制することができたため、第1の粉末を絶縁被膜で覆わなかった比較例1よりも渦電流損失Peが低減したと考える。よって、フッ素系樹脂の添加量は、0.1wt%以上とすることで、渦電流損失Peが低減できる。
【0040】
もっとも、
図3に示すように、フッ素系樹脂の添加量を増加させると、ヒステリシス損失Phが増加する。これは、
図1に示すように、フッ素系樹脂の添加量を増加させるとMCコアの密度が低下することに関連する。特に、フッ素系樹脂を1.0wt%添加した場合のヒステリシス損失Phは大きくなっており、1.0wt%よりも添加量を増加させると更にヒステリシス損失Phが増加することが推察できる。よって、フッ素系樹脂の添加量は1.0wt%以下であることが好ましい。以上より、フッ素系樹脂の添加量は0.1wt%~1.0wt%の範囲であることが好ましい。
【0041】
(絶縁被膜の樹脂の種類による特性の比較)
また、表1を参照すると、実施例1-5は、アクリル樹脂又はシリコーン樹脂で第1の粉末を被覆している比較例2、3と比べても、渦電流損失Peは低い。これは、フッ素系樹脂で磁性粉末を被覆することで、磁性粉末の電気抵抗値が高くなることに起因するものと推察する。つまり、磁性粉末の電気抵抗値が高くなったことで、渦電流が流れにくくなり、その結果、大きな渦電流の発生を抑制することができたからであると推察する。よって、アクリル樹脂、シリコーン樹脂で被覆した比較例2及び比較例3よりも、フッ素系樹脂で被覆した実施例1-5の方が、渦電流損失を抑制することができる。
【0042】
以上に示すように、第1の粉末に添加量0.1wt%~1.0wt%のフッ素系樹脂で被覆することで、渦電流損失を抑制できる。そして、この結果は、100kHzという高周波において用いた場合にも、同様に渦電流損失を抑制できることを示している。なお、高周波とは、100kHzのみを指すものではなく、20kHzを超えていれば高周波といえる。
【0043】
(直流重畳特性の比較)
次に、フッ素系樹脂の添加量の違いによる透磁率の変化について検討する。
図5は、各フッ素系樹脂の添加量における透磁率の変化率を示すグラフである。透磁率は、LCRメータ(アジレント・テクノロジー株式会社製:4284A)を使用して、100kHz、1.0Vにおける各磁界の強さのインダクタンスから算出した。そして、透磁率の変化率は、各実施例における直流を重畳させていない状態、即ち、磁界の強さが0H(A/m)の値(初透磁率)を基準にして、各磁界の強さにおける値を初透磁率で除すことで算出した。
【0044】
図5に示すように、実施例1及び3は、実施例5と比べて、磁界の強さHが大きくなるにつれて透磁率の変化率が小さい。特に、磁界の強さ20kH(A/m)の各実施例の値を参照すると、実施例5の変化率は約0.82であるのに対し、実施例1及び3の変化率は0.9以上で、実施例1及び3の変化率は極めて良好な値である。このことから、フッ素系樹脂の添加量は0.5wt%以上とすることで、透磁率の変化率が低減するといえる。よって、フッ素系樹脂の添加量を0.5wt%~1.0wt%の範囲にすることで、渦電流損失を抑制するのみではなく、直流重畳特性をも向上させることができる。
【0045】
(他の実施形態)
本明細書においては、本発明に係る実施形態を説明したが、この実施形態は例として提示したものであって、発明の範囲を限定することを意図していない。上記のような実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の範囲を逸脱しない範囲で、種々の省略や置き換え、変更を行うことができる。実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。