(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-17
(45)【発行日】2024-05-27
(54)【発明の名称】加硫ゴム-金属複合体並びにタイヤ、ホース、コンベアベルト、及びクローラ
(51)【国際特許分類】
B32B 15/06 20060101AFI20240520BHJP
B60C 1/00 20060101ALI20240520BHJP
F16L 11/08 20060101ALI20240520BHJP
B65G 15/48 20060101ALI20240520BHJP
B65G 15/32 20060101ALI20240520BHJP
【FI】
B32B15/06 Z
B60C1/00 C
F16L11/08 Z
B65G15/48
B65G15/32
(21)【出願番号】P 2019225571
(22)【出願日】2019-12-13
【審査請求日】2022-11-29
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山縣 千代
(72)【発明者】
【氏名】飯田 真基
(72)【発明者】
【氏名】宮▲崎▼ 由徳
(72)【発明者】
【氏名】小山内 圭太
(72)【発明者】
【氏名】小山 大輔
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 良彦
(72)【発明者】
【氏名】額賀 英之
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 雄大
【審査官】深谷 陽子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-105022(JP,A)
【文献】特開2016-069639(JP,A)
【文献】特開2013-159678(JP,A)
【文献】特開2015-218273(JP,A)
【文献】特開2014-185758(JP,A)
【文献】特開2013-133190(JP,A)
【文献】特開2004-083766(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00- 43/00
B60C 1/00- 19/12
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
F16L 11/08
B65G 15/32、 15/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加硫ゴムと金属とを含み、前記加硫ゴムと前記金属とが接着している加硫ゴム-金属複合体で
あり、
前記加硫ゴムは、
ゴム成分と、
前記ゴム成分100質量部に対して2質量部以上であり、窒素吸着比表面積が40~100m
2/gの亜鉛華と、
前記ゴム成分100質量部に対して0.6質量部以上2.0質量部以下のステアリン酸と、
有機チオスルフェート化合物と
、を含み、
コバルト含有化合物の含有量が前記ゴム成分100質量部に対して0.1質量部以下であるゴム組成物の加硫ゴムであり、
前記金属は、3種の金属種でめっきされた三元めっき金属であり、
前記3種の金属種が、銅、コバルト、及び亜鉛からなり、
前記金属の表面から内側方向に5nmの深さまでの表層領域に存在する燐元素の量が、3.0アトミック%以下である、
加硫ゴム-金属複合体であって、
前記亜鉛華は、前記窒素吸着比表面積が40~100m
2
/gの亜鉛華により構成されるか、または、前記窒素吸着比表面積が40~100m
2
/gの亜鉛華と窒素吸着比表面積が1.0~10m
2
/gの亜鉛華とにより構成され、これらのいずれかの構成により含有する亜鉛華の量もしくは亜鉛華の合計の量である、前記ゴム組成物中の亜鉛華の合計量cと前記ステアリン酸の含有量dとが、質量基準で、〔c/(c+d)〕×100=75以上100未満の関係を満たす、加硫ゴム-金属複合体。
【請求項2】
前記ゴム組成物中の前記有機チオスルフェート化合物の含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して0.1質量部以上2.0質量部未満である請求項1に記載の加硫ゴム-金属複合体。
【請求項3】
前記ゴム組成物が、更に、前記ゴム成分100質量部に対して0.1質量部以上2.0質量部以下のビスマレイミド化合物を含む請求項1または2に記載の加硫ゴム-金属複合体。
【請求項4】
前記ゴム組成物が、
前記亜鉛華として、
前記窒素吸着比表面積が40~100m
2
/gの亜鉛華と、窒素吸着比表面積が1.0~10m
2
/gの亜鉛華とを含み、前記亜鉛華の合計含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して7.6質量部以上である請求項1~
3のいずれか1項に記載の加硫ゴム-金属複合体。
【請求項5】
前記ゴム組成物が、前記亜鉛華として、前記窒素吸着比表面積が40~100m
2/gの亜鉛華と、窒素吸着比表面積が1.0~10m
2/gの亜鉛華とを含み、前記窒素吸着比表面積が40~100m
2/gの亜鉛華のゴム組成物中の含有量aと前記窒素吸着比表面積が1.0~10m
2/gの亜鉛華のゴム組成物中の含有量bとが、質量基準で、〔a/(a+b)〕×100=20以上100未満の関係を満たす請求項
1~4のいずれか1項に記載の加硫ゴム-金属複合体。
【請求項6】
三元めっき金属を構成する元素の割合は、銅が61~70質量%であり、コバルトが1.0~5.0質量%である請求項1~
5のいずれか1項に記載の加硫ゴム-金属複合体。
【請求項7】
前記有機チオスルフェート化合物が、ヘキサメチレンビスチオサルフェート2ナトリウム塩2水和物である請求項1~
6のいずれか1項に記載の加硫ゴム-金属複合体。
【請求項8】
請求項1~
7のいずれか1項に記載の加硫ゴム-金属複合体を含むタイヤ。
【請求項9】
請求項1~
7のいずれか1項に記載の加硫ゴム-金属複合体を含むホース。
【請求項10】
請求項1~
7のいずれか1項に記載の加硫ゴム-金属複合体を含むクローラ。
【請求項11】
請求項1~
7のいずれか1項に記載の加硫ゴム-金属複合体を含むコンベアベルト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加硫ゴム-金属複合体並びにタイヤ、ホース、コンベアベルト、及びクローラに関する。
【背景技術】
【0002】
金属との初期接着性、耐湿熱接着性及びトリート放置後の接着性に優れたゴム組成物として、含窒素環状化合物をゴム成分100質量部に対して、0.02~10質量部配合してなるゴム組成物であって、上記含窒素環状化合物がベンゼン環及びメルカプト基を有しないことを特徴とするゴム組成物(例えば、特許文献1参照)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1では、コバルト化合物を除いた場合の耐熱接着性については検討されていない。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑み、コバルト化合物を実質的に含まないゴム組成物の加硫ゴムを金属被覆用ゴムとして用いた加硫ゴム-金属複合体であって、耐酸素接着性と耐熱接着性に優れる加硫ゴム-金属複合体並びにそれを用いた耐久性に優れるタイヤ、ホース、コンベアベルト、及びクローラを提供することを目的とし、当該目的を解決することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
<1> 加硫ゴムと金属とを含み、前記加硫ゴムと前記金属とが接着している加硫ゴム-金属複合体であって、
前記加硫ゴムは、
ゴム成分と、
前記ゴム成分100質量部に対して2質量部以上であり、窒素吸着比表面積が40~100m2/gの亜鉛華と、
有機チオスルフェート化合物とを含み、
コバルト含有化合物の含有量が前記ゴム成分100質量部に対して0.1質量部以下であるゴム組成物の加硫ゴムであり、
前記金属は、3種の金属種でめっきされた三元めっき金属である加硫ゴム-金属複合体。
【0007】
<2> 前記ゴム組成物中の前記有機チオスルフェート化合物の含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して0.1質量部以上2.0質量部未満である<1>に記載の加硫ゴム-金属複合体。
<3> 前記ゴム組成物が、更に、前記ゴム成分100質量部に対して0.1質量部以上2.0質量部以下のビスマレイミド化合物を含む<1>又は<2>に記載の加硫ゴム-金属複合体。
<4> 前記ゴム組成物が、更に、前記ゴム成分100質量部に対して0.6質量部以上2.0質量部以下のステアリン酸を含む請<1>~<3>のいずれか1つに記載の加硫ゴム-金属複合体。
【0008】
<5> 前記ゴム組成物が、窒素吸着比表面積の異なる2種の亜鉛華を含み、前記亜鉛華の合計含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して7.6質量部以上である<1>~<4>のいずれか1つに記載の加硫ゴム-金属複合体。
<6> 前記窒素吸着比表面積の異なる2種の亜鉛華は、前記窒素吸着比表面積が40~100m2/gの亜鉛華と、窒素吸着比表面積が1.0~10m2/gの亜鉛華とを含み、前記窒素吸着比表面積が40~100m2/gの亜鉛華のゴム組成物中の含有量aと前記窒素吸着比表面積が1.0~10m2/gの亜鉛華のゴム組成物中の含有量bとが、質量基準で、〔a/(a+b)〕×100=20以上100未満の関係を満たす<5>に記載の加硫ゴム-金属複合体。
<7> 前記ゴム組成物中の亜鉛華の合計量cと前記ステアリン酸の含有量dとが、質量基準で、〔c/(c+d)〕×100=75以上100未満の関係を満たす<4>~<6>のいずれか1つに記載の加硫ゴム-金属複合体。
【0009】
<8> 前記3種の金属種が、銅、コバルト、及び亜鉛からなる<1>~<7>のいずれか1つに記載の加硫ゴム-金属複合体。
<9> 前記金属の表面から内側方向に5nmの深さまでの表層領域に存在する燐元素の量が、3.0アトミック%以下である<1>~<8>のいずれか1つに記載の加硫ゴム-金属複合体。
<10> 三元めっき金属を構成する元素の割合は、銅が61~70質量%であり、コバルトが1.0~5.0質量%である<8>又は<9>に記載の加硫ゴム-金属複合体。
【0010】
<11> 前記有機チオスルフェート化合物が、ヘキサメチレンビスチオサルフェート2ナトリウム塩2水和物である<1>~<10>のいずれか1つに記載の加硫ゴム-金属複合体。
【0011】
<12> <1>~<11>のいずれか1つに記載の加硫ゴム-金属複合体を含むタイヤ。
<13> <1>~<11>のいずれか1つに記載の加硫ゴム-金属複合体を含むホース。
<14> <1>~<11>のいずれか1つに記載の加硫ゴム-金属複合体を含むクローラ。
<15> <1>~<11>のいずれか1つに記載の加硫ゴム-金属複合体を含むコンベアベルト。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、コバルト化合物を実質的に含まないゴム組成物の加硫ゴムを金属被覆用ゴムとして用いた加硫ゴム-金属複合体であって、耐酸素接着性と耐熱接着性に優れる加硫ゴム-金属複合体並びにそれを用いた耐久性に優れるタイヤ、ホース、コンベアベルト、及びクローラを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明をその実施形態に基づき詳細に例示説明する。なお、以下の説明において、数値範囲を示す「A~B」の記載は、端点であるA及びBを含む数値範囲を表し、「A以上B以下」(A<Bの場合)、又は「A以下B以上」(A>Bの場合)を表す。
また、質量部及び質量%は、それぞれ、重量部及び重量%と同義である。
【0014】
<加硫ゴム-金属複合体>
本発明の加硫ゴム-金属複合体は、加硫ゴムと金属とを含み、加硫ゴムと金属とが接着している加硫ゴム-金属複合体である。
ここで、加硫ゴムは、ゴム成分と、ゴム成分100質量部に対して2質量部以上であり、窒素吸着比表面積が40~100m2/gの亜鉛華と、有機チオスルフェート化合物とを含み、コバルト含有化合物の含有量がゴム成分100質量部に対して0.1質量部以下であるゴム組成物の加硫ゴムである。
当該加硫ゴムを「本発明の加硫ゴム」と称することがある。
本発明の加硫ゴムの元となる前記ゴム組成物を「本発明のゴム組成物」と称することがある。なお、ゴム組成物は未加硫状態であり、ゴム組成物に含まれるゴム成分も未加硫状態である。
本発明の加硫ゴム-金属複合体において、金属は、3種の金属種でめっきされた三元めっき金属である。
【0015】
本発明の加硫ゴム-金属複合体が耐酸素接着性と耐熱接着性に優れる理由は定かではないが、次のように作用していると考えられる。すなわち、活性亜鉛華およびステアリン酸が接着層形成反応に関わり加硫時に良質な接着層が形成されるため、酸素および熱に優位な接着層となっていると考えられる。その結果、本発明のゴム組成物の構成を上記の通りとすることで、当該効果をなし得ることを見出した。
以下、本発明のゴム組成物及び金属について説明する。
【0016】
〔ゴム組成物〕
本発明のゴム組成物は、ゴム成分と、ゴム成分100質量部に対して2質量部以上であり、窒素吸着比表面積が40~100m2/gの亜鉛華と、有機チオスルフェート化合物とを含み、コバルト含有化合物の含有量がゴム成分100質量部に対して0.1質量部以下である。
本発明のゴム組成物は、更に、充填剤、加硫促進剤、ステアリン酸、窒素吸着比表面積が上記範囲と異なる亜鉛華等を含んでいてもよい。
【0017】
(ゴム成分)
ゴム成分は、通常、ジエン系ゴムが用いられる。
ジエン系ゴムとしては、例えば、イソプレン系ゴム、ポリブタジエンゴム(BR)、スチレン-ブタジエン共重合体ゴム(SBR)等、及びそれらの変性ゴムが挙げられる。また、ゴム成分は、本発明の効果を損なわない限度において、非ジエン系ゴムを含んでいてもよい。
ゴム成分は1種のみを用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
以上の中でも、加硫ゴム-金属複合体の耐酸素接着性と耐熱接着性をより向上する観点から、ゴム成分は、イソプレン系ゴムを含むことが好ましい。
【0018】
イソプレン系ゴムとしては、天然ゴム(NR)、ポリイソプレンゴム(IR)、ブタジエン-イソプレン共重合体ゴム(BIR)、スチレン-イソプレン共重合体ゴム(SIR)、スチレン-ブタジエン-イソプレン共重合体ゴム(SBIR)等、及びそれらの変性ゴムが挙げられる。イソプレン系ゴムは1種のみを用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
以上の中でも、加硫ゴム-金属複合体の耐酸素接着性と耐熱接着性をより向上する観点から、イソプレン系ゴムは、天然ゴム及びポリイソプレンゴムからなる群より選択される1つ以上が好ましく、天然ゴムがより好ましい。
【0019】
ゴム成分中のイソプレン系ゴムの含有量は、50質量%を超えることが好ましく、70質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、100質量%であってもよい。
【0020】
(亜鉛華)
本発明のゴム組成物は、ゴム成分100質量部に対して2質量部以上であり、窒素吸着比表面積が40~100m2/gの亜鉛華を含む。
亜鉛華の窒素吸着比表面積は、ASTM D4567-03(2007)に規定されるBET法に準じて測定される窒素吸着法比表面積(N2SA)であり、「BET比表面積」と称することがある。
本発明では、窒素吸着比表面積が40m2/g以上となる微粒径の亜鉛華を活性亜鉛華と称する。
ゴム組成物が、活性亜鉛華を、ゴム成分100質量部に対して2質量部以上含まないと、ゴム組成物の加硫活性を向上することができず、耐酸素接着性と耐熱接着性に優れた加硫ゴム-金属複合体を得ることができない。
また、活性亜鉛華の窒素吸着比表面積が100m2/g以下であることで、ゴム組成物の過加硫を抑制し、加硫ゴム-金属複合体の耐熱接着性を向上することができる。活性亜鉛華の窒素吸着比表面積は、40~90m2/gであることがより好ましく、40~80m2/gであることが更に好ましい。
【0021】
本発明のゴム組成物は、窒素吸着比表面積の異なる2種の亜鉛華を含み、亜鉛華の合計含有量cが、ゴム成分100質量部に対して7.6質量部以上であることが好ましい。より具体的には、亜鉛華として、活性亜鉛華以外に、活性亜鉛華より粒径の大きな亜鉛華を更に含み、活性亜鉛華を含む全亜鉛華のゴム組成物中の含有量cがゴム成分100質量部に対して7.6質量部以上であることが好ましい。
含有量cがゴム成分100質量部に対して7.6質量部以上であることで、ゴム組成物の加硫活性をより向上することができ、加硫ゴム-金属複合体の耐酸素接着性と耐熱接着性をより向上し易い。
ゴム組成物中の亜鉛華の合計量cは、ゴム成分100質量部に対して、7.6~17質量部であることがより好ましく、7.6~15質量部であることが更に好ましく、8.5~12質量部であることがより更に好ましい。
【0022】
窒素吸着比表面積の異なる2種の亜鉛華は、窒素吸着比表面積(BET比表面積)が40~100m2/gの亜鉛華(活性亜鉛華)と、窒素吸着比表面積(BET比表面積)が1.0~10m2/gの亜鉛華とを含むことが好ましい。
窒素吸着比表面積が1.0~10m2/gの亜鉛華の窒素吸着比表面積は、加硫活性を向上する観点から、1.5m2/g以上であることよりが好ましく、2.0m2/g以上であることが更に好ましい。
窒素吸着比表面積が40~100m2/gの活性亜鉛華は、湿式法により製造することができる。窒素吸着比表面積が1.0~10m2/gの通常の亜鉛華は、乾式法により製造することができる。
【0023】
窒素吸着比表面積が40~100m2/gの亜鉛華のゴム組成物中の含有量aと、窒素吸着比表面積が1.0~10m2/gの亜鉛華のゴム組成物中の含有量bとが、質量基準で、〔a/(a+b)〕×100=20以上100未満の関係を満たすことが好ましい。これは、活性亜鉛華と窒素吸着比表面積が1.0~10m2/gの通常の亜鉛華との合計量中の活性亜鉛華の含有量が20質量%以上100質量%未満であることを意味する。〔a/(a+b)〕×100が20以上100未満であることで、加硫活性をより向上することができる。
〔a/(a+b)〕×100は、加硫活性をより向上する観点から、25以上であることがより好ましく、30以上であることが更に好ましく、35以上であることがより更に好ましく、また、90以下であることがより好ましく、80以下であることが更に好ましく、70以下であることがより更に好ましく、60以下であることがより更に好ましい。
【0024】
(有機チオスルフェート化合物)
本発明のゴム組成物は、有機チオスルフェート化合物を含む。
ゴム組成物が、有機チオスルフェート化合物を含まないと、金属と加硫ゴムとの耐熱接着性に優れる加硫ゴム-金属複合体が得られない。
本発明において使用する有機チオスルフェート化合物は、以下の式で表すことができる。
MO3S-S-(CH2)m-S-SO3M
式中、mは3~10であり、Mはリチウム、カリウム、ナトリウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム、亜鉛、ニッケルまたはコバルトである。また、有機チオスルフェート化合物は、結晶水を含有していてもよい。
【0025】
mは、本発明の効果の点から、3~10が好ましく、3~6がより好ましい。
Mは、本発明の効果の点から、カリウムまたはナトリウムが好ましい。また、有機チオスルフェート化合物は、分子内に結晶水を含んでいてもよく、具体的には、ナトリウム塩1水和物、ナトリウム塩2水和物などが挙げられる。
有機チオスルフェート化合物は、本発明の効果の点から、チオ硫酸ナトリウムからの誘導体、例えば、ヘキサメチレンビスチオサルフェート2ナトリウム塩2水和物であることが好ましい。
【0026】
ゴム組成物中の有機チオスルフェート化合物の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、0.1~5.0質量部であることが好ましく、0.3~4.0質量部であることがより好ましく、0.5~3.0質量部であることがより好ましく、0.6~2.0質量部であることが更に好ましく、2.0質量部未満であることがより更に好ましい。
【0027】
(ビスマレイミド化合物)
本発明のゴム組成物は、ゴム成分100質量部に対して0.1質量部以上2.0質量部以下のビスマレイミド化合物を含むことが好ましい。
ゴム組成物が、ゴム成分100質量部に対して0.1質量部以上2.0質量部以下のビスマレイミド化合物を含むことで、接着層中の亜鉛化合物生成量をより抑制することができ、加硫ゴム-金属複合体の耐酸素接着性と耐熱接着性をより向上することができる。
ゴム組成物中のビスマレイミド化合物の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、0.3~1.8質量部であることが好ましく、0.5~1.5質量部であることがより好ましく、0.6~1.3質量部であることが更に好ましい。
【0028】
ビスマレイミド化合物は、例えば、N,N’-1,2-エチレンビスマレイミド、N,N’-1,2-プロピレンビスマレイミド、4,4’-ビスマレイミドジフェニルメタン、N,N’-m-フェニレンビスマレイミド、N,N’-(4,4-ジフェニル-メタン)ビスマレイミド、ビス(3-エチル-5-メチル-4-マレイミドフェニル)メタン、2,2’-ビス〔4-(4-マレイミドフェノキシ)フェニル〕プロパン、m-フェニレンビス(メチレン)ビスマレイミド、m-フェニレンビス(メチレン)ビスシトラコンイミド、1,1’-(メチレンジ-4,1-フェニレン)ビスマレイミド等が挙げられる。
これらの中では、N,N’-m-フェニレンビスマレイミド、N,N’-(4,4-ジフェニル-メタン)ビスマレイミドがより好ましい。
ビスマレイミド化合物は、単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
(ステアリン酸)
本発明のゴム組成物は、ゴム成分100質量部に対して0.6質量部以上2.0質量部以下のステアリン酸を含むことが好ましい。
ゴム組成物が、ゴム成分100質量部に対して0.6質量部以上2.0質量部以下のステアリン酸を含むことで、加硫ゴム-金属複合体の耐酸素接着性と耐熱接着性をより向上することができる。
ゴム組成物中のステアリン酸の含有量dは、ゴム成分100質量部に対して、0.6~1.8質量部であることが好ましく、0.6~1.5質量部であることがより好ましく、0.6~1.3質量部であることが更に好ましい。
【0030】
ゴム組成物中の亜鉛華の合計量cと、ステアリン酸の含有量dとが、質量基準で、〔c/(c+d)〕×100=75以上100未満の関係を満たすことが好ましい。これは、全亜鉛華とステアリン酸との合計量中の全亜鉛華の含有量が75質量%以上100質量%未満であることを意味する。ゴム組成物中の亜鉛華の種類が、活性亜鉛華と窒素吸着比表面積が1.0~10m2/gの通常の亜鉛華からなる場合は、亜鉛華の合計量c=a+bである。
〔c/(c+d)〕×100=75以上100未満であることで、加硫ゴム-金属複合体の耐酸素接着性と耐熱接着性をより向上することができる。かかる観点から、〔c/(c+d)〕×100は、質量基準で、80以上であることがより好ましく、85以上であることが更に好ましく、また、99以下であることがより好ましく、95以下であることが更に好ましい。
【0031】
(コバルト含有化合物)
本発明のゴム組成物は、コバルト含有化合物の含有量が、ゴム成分100質量部に対して0.1質量部以下である。これは、本発明のゴム組成物が、コバルト含有化合物を実質的に含まないことを意味する。
コバルト含有化合物は、有機酸コバルト塩、コバルト金属錯体等が挙げられる。
有機酸コバルト塩としては、例えば、ナフテン酸コバルト、ステアリン酸コバルト、ネオデカン酸コバルト、ロジン酸コバルト、バーサチック酸コバルト、トール油酸コバルト、オレイン酸コバルト、リノール酸コバルト、リノレン酸コバルト、パルミチン酸コバルト等を挙げることができる。また、コバルト金属錯体としては、例えばコバルトアセチルアセトナートが挙げられる。
【0032】
従来は、コバルト含有化合物を用いて加硫ゴムと金属との接着性の効果を得ていたが、本発明のゴム組成物が既述の組成であることで、ゴム組成物がコバルト含有化合物を含まなくても、加硫ゴムと金属との接着性に優れ、更には耐熱接着性にも優れる。また、ゴム組成物がコバルト含有化合物を含まないことで、金属腐食を抑制することができ、また、環境負担を軽減することができる。
【0033】
(充填剤)
本発明のゴム組成物は、加硫ゴムの機械的強度を向上する観点から、充填剤を含有することが好ましい。充填剤は、ゴム組成物を補強する補強性充填剤であることが好ましい。
補強性充填剤としては、例えば、カーボンブラック;シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア等の金属酸化物;炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム等の金属炭酸塩;水酸化アルミニウム等が挙げられる。
充填剤は、1種のみ用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0034】
ゴム組成物中の充填剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して30~70質量部であることが好ましい。
ゴム組成物が、ゴム成分100質量部に対して30~70質量部の充填剤を含有することで、本発明の加硫ゴムの補強性を向上し、金属と加硫ゴムとの耐熱接着性に優れる加硫ゴム-金属複合体が得られる。
加硫ゴム-金属複合体の耐酸素接着性と耐熱接着性をより向上する観点から、ゴム組成物中の充填剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、40~69質量部であることが好ましく、45~68質量部であることがより好ましく、50~68質量部であることが更に好ましい。
【0035】
本発明の加硫ゴムの補強性を向上し、金属と加硫ゴムとの耐熱接着性に優れる加硫ゴム-金属複合体を得る観点から、充填剤は、カーボンブラックを含むことが好ましい。
カーボンブラックの種類特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。カーボンブラックは、例えば、FEF、SRF、HAF、ISAF、及びSAFグレードのものが好ましく、HAF、ISAF、及びSAFグレードのものがより好ましく、HAFグレードのものが更に好ましい。カーボンブラックは、1種のみ用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
充填剤中のカーボンブラックの含有量は、50質量%を超えることが好ましく、70質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、100質量%であってもよい。
【0036】
(硫黄)
本発明のゴム組成物は、硫黄を含むことが好ましい。
硫黄は、特に制限はなく、例えば、粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、表面処理硫黄、不溶性硫黄等を挙げることができる。不溶性硫黄は、オイルを含有するオイルトリート品であってもよい。
ゴム組成物中の硫黄の含有量は、加硫ゴムと金属との耐熱接着性をより向上し、加硫ゴム-金属複合体の耐久性をより向上する観点から、ゴム成分100質量部に対し、3.0~10.0質量部であることが好ましく、4.0~9.0質量部であることがより好ましく、5.0~8.0質量部であることが更に好ましい。当該ゴム組成物中の硫黄の含有量は、オイルトリート品のように硫黄以外の成分を含む硫黄の場合、硫黄以外の成分を除く硫黄それ自体の量を意味する。
【0037】
(加硫促進剤)
本発明のゴム組成物は、ゴム成分の加硫をより促進するために、加硫促進剤を含んでいることが好ましい。
具体的には、例えば、チウラム系、グアジニン系、アルデヒド-アミン系、アルデヒド-アンモニア系、チアゾール系、スルフェンアミド系、チオ尿素系、ジチオカルバメート系、ザンテート系等の加硫促進剤が挙げられる。加硫促進剤は1種のみ用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
以上の中でも、加硫ゴムと金属との耐熱接着性をより向上する観点から、スルフェンアミド系が好ましい。
ゴム組成物中の加硫促進剤の含有量は、加硫ゴムと金属との耐熱接着性をより向上し、加硫ゴム-金属複合体の耐久性をより向上する観点から、ゴム成分100質量部に対し、0.1~3質量部であることが好ましく、0.2~2質量部であることがより好ましく、0.3~1.2質量部であることが更に好ましい。
【0038】
(加硫遅延剤)
本発明のゴム組成物は、加硫遅延剤を含有していてもよい。
ゴム組成物が加硫遅延剤を含むことで、ゴム組成物の調製時にゴム組成物の過加熱に起因するゴム焼けを抑制することができる。また、ゴム組成物のスコーチ安定性を良好にして、ゴム組成物の混練機からの押し出しを容易にすることができる。
加硫遅延剤としては、例えば、無水フタル酸、安息香酸、サリチル酸、N-ニトロソジフェニルアミン、N-(シクロヘキシルチオ)-フタルイミド、スルホンアミド誘導体、ジフェニルウレア、ビス(トリデシル)ペンタエリスリトール-ジホスファイト等が挙げられる。加硫遅延剤は市販製品を用いてもよく、例えば、モンサント社製、商品名「サントガードPVI」〔N-(シクロヘキシルチオ)-フタルイミド〕等が挙げられる。
以上の中でも、加硫遅延剤は、N-(シクロヘキシルチオ)-フタルイミドが好ましく用いられる。
加硫遅延剤を用いる場合、加硫反応を妨げずにゴム組成物のゴム焼けを抑制し、スコーチ安定性を良好にする観点から、ゴム組成物中の加硫遅延剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、0.05~1.0質量部であることが好ましく、0.05~0.7質量部であることがより好ましく、0.05~0.5質量部であることが更に好ましい。
【0039】
(アルキルフェノール樹脂)
本発明のゴム組成物は、アルキルフェノール樹脂を含むことが好ましい。
アルキルフェノール樹脂は、フェノール樹脂のフェノール骨格にアルキル基を備えるフェノール樹脂をいう。アルキルフェノール樹脂のアルキル基の数(フェノール骨格に結合する数)及びアルキル基の炭素数は、特に制限されないが、アルキル基の数は通常1~3であり、1つのアルキル基あたりの炭素数は1~15であることが好ましく、5~10であることが好ましい。アルキル基は、直鎖状であってもよいし、分岐状であってもよいし、環状であってもよい。ゴム組成物は、アルキルフェノール樹脂を1種単独で含むこともできるし、複数種を混合して含むこともできる。
ゴム組成物中のアルキルフェノール樹脂の含有量は、加硫ゴムと金属との
耐熱接着性をより向上する観点から、ゴム成分100質量部に対し、0.1~5質量部であることが好ましく、0.3~3質量部であることがより好ましく、0.5~1.5質量部であることがより好ましい。
【0040】
(老化防止剤)
本発明のゴム組成物は、老化防止剤を含むことが好ましい。
ゴム組成物が老化防止剤を含有することで、加硫ゴムのオゾンによる亀裂の発生及び進行を抑制することができる。
老化防止剤としては、アミン系老化防止剤、ハイドロキノン系老化防止剤、フェノール系老化防止剤等が挙げられる。
中でもアミン系老化防止剤が好ましい。アミン系老化防止剤としては、例えば、N-(1,3-ジメチル-ブチル)-N′-フェニル-p-フェニレンジアミン(6PPDと称されることがある)、2,2,4-トリメチル-1,2-ジハイドロキノリン重合体等が挙げられる。
老化防止剤は、1種を単独で用いてもよいが、2種以上を混合して用いることが好ましい。
【0041】
ゴム組成物中の老化防止剤の含有量(合計含有量)は、ゴム成分100質量部に対し、0.1~5質量部であることが好ましく、0.5~3質量部であることがより好ましい。
また、本発明のゴム組成物中のフェノール系老化防止剤の含有量は0~1質量%であることが好ましい。フェノール系老化防止剤としては、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール)等が挙げられる。
【0042】
本発明のゴム組成物は、既述のゴム成分、亜鉛華、有機チオスルフェート化合物、ビスマレイミド化合物、ステアリン酸、加硫促進剤、加硫遅延剤、アルキルフェノール樹脂、老化防止剤、及び硫黄の他に、必要に応じて、ゴム工業界で通常使用される配合剤、例えば、軟化剤、アルキルフェノール樹脂以外の樹脂、ワックス等を、本発明の目的を害しない範囲内で適宜選択して含有していてもよい。
【0043】
(ゴム組成物の調製)
本発明のゴム組成物は、上述した各成分を配合して、バンバリーミキサー、ロール、インターナルミキサー等の混練り機を使用して混練りすることによって製造することができる。
ここで、各成分の配合量は、ゴム組成物中の含有量として既述した量と同じである。
各成分の混練は、全一段階で行ってもよく、二段階以上に分けて行ってもよい。例えば二段階で混練する場合、混練の第一段階の最高温度は、130~160℃とすることが好ましく、第二段階の最高温度は、90~120℃とすることが好ましい。
【0044】
〔金属〕
本発明のゴム-金属複合体に含まれる金属は、3種の金属種でめっきされた三元めっき金属である。
めっき前の金属種は、特に制限されず、鋼、銅等が挙げられる。
金属の形態は特に制限されず、金属コード、金属板等の種々の金属部材が挙げられる。
中でもスチールコードが好ましい。
スチールコードは、スチール製のモノフィラメント及びマルチフィラメント(撚りコード又は引き揃えられた束コード)のいずれでもよく、その形状は制限されない。スチールコードが撚りコードである場合の撚り構造についても特に制限はなく、単撚り、複撚り、層撚り、複撚りと層撚りの複合撚りなどの撚り構造が挙げられる。
スチールコードが三元系の合金めっき層を有することで、合金めっき層を構成する
成分が、ゴムとスチールコードとの間の接着性を高める役目を果たすことができるため、
後述するゴム組成物中のコバルト化合物の含有量が、少ない場合(ゴム成分100質量部
に対して0.01質量部以下)であっても、高い接着性を実現できる。
【0045】
金属の表面には、加硫ゴムと金属との耐熱接着性を確保する観点から、3種の金属種でめっきされた三元めっき処理がなされているが、更に、接着剤処理などの表面処理がなされていてもよい。
めっきの金属種としては、亜鉛(Zn)、銅(Cu)、スズ(Sn)、コバルト(Co)等が挙げられ、3種の金属種が、銅、コバルト、及び亜鉛からなることが好ましい。
さらに、銅-亜鉛-コバルト合金めっき層を形成した場合には、スチールコードを被覆するゴム組成物中にコバルト化合物を使用しないか、又は、使用量を低減できるため、ゴム組成物の耐亀裂性の向上にも寄与できる。
【0046】
銅-亜鉛-コバルト合金めっきの、それぞれの元素の割合(質量比)については特に限定はされない。例えば、本発明のゴム組成物からなる加硫ゴムとの接着性及びめっき層の耐食性の観点からは、銅が58~75質量%、コバルトが0.5~10質量%であることが好ましい。このとき、合金めっきの残部は亜鉛及び不可避的不純物である。その中でも、特に三元めっき金属を構成する元素の割合が、銅が61~70質量%であり、コバルトが1.0~5.0質量%であることが好ましい。この時、金属最表面に存在するコバルト元素の割合は1.0~5.0アトミック%である。上述の元素割合とすることで、めっき層中のCu-Zn合金のβ相の割合が適切な範囲となり金属表面の加工性を維持することができる。
【0047】
接着剤処理を使用する場合は例えばロード社製、商品名「ケムロック」(登録商標)などの接着剤処理を行うことができる。
さらに、前記三元系の合金めっき層が、銅-亜鉛-コバルト合金めっき層である場合には、該めっき層は、コバルトリッチ領域(めっき層中のコバルトが凝集、濃化した領域)を形成するための表面処理が施されていることが好ましい。めっき層中にコバルトリッチ領域が形成されることによって、該めっき層表面が活性化され、被覆するゴム組成物とスチールコードとの接着性をより向上できるためである。この時、金属最表面に存在する燐元素、換言すると、金属の表面から内側方向に5nmの深さまでの表層領域に存在する燐元素の量は、3.0アトミック%以下である。
【0048】
めっきの表層領域における燐(P)の定量は、X線光電子分光法を用いて、スチールワイヤの曲率の影響を受けないように20~30μmφの分析面積にて、ワイヤのめっき表層領域に存在する原子から炭素を除いた原子、つまりFe、Cu、Zn、Co、O、P及びNの原子数を計測し、Cu、Zn、Co、O、P及びNの合計原子数を100としたときの、Pの原子数の比率を求めることができる。
各原子の原子数は、Fe:Fe2p3 O:O1s,P:P2p,Cu:Cu2p3,Zn:Zn2p3,Co:Co2p3及びN:N1sの光電子のカウント数を用いて、それぞれの感度係数で補正して求めることができる。
なお、燐の検出原子数[P]は下式にて求めることができる。
[P]=Fp(P2pの感度係数)×(一定時間当たりのP2p光電子のカウント)
他の原子についても同様に検出原子数を求め、それらの結果から燐の相対原子%を次式
P(%)={[P]/([Fe]+[Cu]+[Zn]+[Co]+[O]+[N]+[P])}×100
に従って求めることができる。
【0049】
なお、スチールコードの表面に三元系の合金めっき層を形成するための方法については特に限定はされず、公知の方法を用いることができる。例えば、銅-亜鉛-コバルト合金めっき層を形成する場合には、伸線加工前のスチールワイヤの周面に、銅、亜鉛、コバルトの順、銅、コバルト、亜鉛の順、又は、銅、亜鉛とコバルトの合金の順番、でめっき処理を繰り返し、その後450℃以上650℃以下において3秒間以上25秒間以下熱拡散することによって、スチールワイヤの表面に銅-亜鉛-コバルト合金めっき層を形成し、銅-亜鉛-コバルト合金めっき層を有するスチールコードを得ることができる。
【0050】
また、三元系の合金めっき層の平均厚みは、好適には0.13~0.35μmであり、より好適には0.13~0.32μmであり、特に好適には0.13~0.30μmである。三元系の合金めっき層の平均厚みが0.13μm以上であれば、鉄地が露出する部分が少なくなり初期接着性が向上し、一方、0.35μm以下であれば、ゴム物品使用中の熱によって過剰に接着反応が進行することを抑制して、より強固な接着を得ることができる。
【0051】
さらに、三元系の合金めっき層が形成されるスチールワイヤの直径は、0.60mm以下であることが好ましく、0.50mm以下であることがより好ましく、0.40mm以下であることが特に好ましい。この直径が0.60mm以下であれば、使用したゴム物品が曲げ変形下で繰り返し歪みを受けたときに表面歪が小さくなるので、座屈を引き起こしにくくなる。一方、スチールワイヤの直径は、0.10mm以上であることが、スチールコードの強度を確保及び生産性の観点から好ましい。
次に、本発明の加硫ゴム-金属複合体の製造方法について説明する。
【0052】
〔加硫ゴム-金属複合体の製造方法〕
3種の金属種でめっきされた三元めっき金属を、本発明のゴム組成物で被覆し、前駆体を得る。更に前駆体のゴム組成物を加硫することで、金属が加硫ゴムで被覆された加硫ゴム-金属複合体が得られる。前駆体のゴム組成物は、金属の少なくとも一部を被覆していればよいが、加硫ゴム-金属複合体の耐久性を向上する観点から、金属の全面を被覆することが好ましい。
【0053】
三元めっき金属として、三元めっきスチールコードを用いる場合、スチールコードの被覆方法としては、例えば以下に示す方法を用いることができる。
本発明の加硫ゴム-金属複合体の製造にあたって、スチールコードと該スチールコードを被覆するゴム組成物とを接着する前に、上述したコバルトリッチ領域を形成するため、スチールコードを脂肪酸エステルオイルで処理することが好ましい。これにより、コバルトリッチ領域のコバルト量をさらに増加させることができ、本発明の加硫ゴム-金属複合体における加硫ゴムとスチールコードとの接着性をさらに向上させることができる。
【0054】
さらにまた、本発明の加硫ゴム-金属複合体の製造方法では、銅-亜鉛-コバルト合金めっき層のコバルトリッチ領域を形成するための表面処理として、伸線加工により強加工する表面処理を行うことができる。
例えば、銅-亜鉛-コバルトの順でめっきされたスチールワイヤの三元系の合金めっき層の極表面に対し、焼結ダイヤモンドを用いたダイスによる伸線加工により強加工する表面処理を行うことができる。この強加工により、三元系の合金めっき層の極表面にコバルトリッチ領域が形成され、銅-亜鉛-コバルト合金めっき層の極表面(固体表面の内、特に極薄い表面(0.5~数nm以内))が活性化されるため、スチールコードとゴム組成物との接着性がさらに向上する。強加工については、伸線加工で潤滑性を下げることによって実施できる。
例えば、また伸線加工で潤滑性を下げた場合、スチールワイヤ材とダイスとが直接あるいは不完全な被膜を介して接触すると、銅-亜鉛-コバルト合金めっき層の極表面が掻き乱されるため、結晶の微細化とともに、めっき層中のコバルトの分布に変化が生じる。その結果、銅-亜鉛-コバルト合金めっき層の表面に、コバルトが濃化した領域であるコバルトリッチ領域が形成されると考えられる。
【0055】
表面処理における伸線加工については、例えば、次のように行われる。
液体潤滑液を用いた湿式伸線によって潤滑性をある程度下げた状態での伸線加工を行うためには、潤滑液中の潤滑成分の濃度を、通常の伸線に用いる時の濃度よりも下げて伸線加工を施したり、潤滑液の温度を潤滑剤の使用推奨温度よりも下げて伸線加工を施す。どの程度に潤滑性を下げた状態で伸線するかは、製造するスチールワイヤの強度や線径にもよるが、例えば、潤滑成分の濃度を下げる場合、スチールワイヤの伸線作業で通常使用する潤滑液の濃度の80~20%の濃度とすればよい。潤滑性を下げ過ぎると、三元系の合金めっき層の脱落、スチールワイヤ質の劣化、あるいは、断線やダイス摩耗をもたらす。逆に、潤滑性の下げ方が足りないと、コバルトリッチ領域の割合が少なくなるので、ゴムとスチールコードとの接着性を十分に向上させることはできない。
【0056】
また、伸線加工中の発熱が大きすぎると、温度上昇による三元系の合金めっき層の格子欠陥密度の減少の可能性や、スチールワイヤの延性劣化の可能性があるので、例えば、下記(i)~(v)のような、発熱が小さくなる伸線条件を設定するとともに、ダイスからの出線温度を、接触式温度計で測定したときに150℃以下とすることが好ましい。
(i)1ダイス当たりの減面率を低めに設定する。
(ii)伸線速度を低めに設定する。
(iii)ダイスを冷却して温度上昇を抑制する。
(iv)ダイスに入線するスチールワイヤ材および/またはダイスから出線するスールフィラメントを冷却する。
(v)複数のダイスを使用する連続伸線工程において、最下流に位置する3つのダイスのうち、1つ以上のダイスの摩擦係数を0.18以上とする。
【0057】
なお、コバルトリッチ領域を形成する際には、銅-亜鉛-コバルト合金めっき層の厚さは厚めにしたほうがよい。
また、湿式連続伸線にて製造する場合には、仕上げダイス、または、仕上げダイスを含む伸線下流の数ダイスにおける伸線を、上述したような潤滑性をある程度下げた状態で行い、他のダイスでは良好な潤滑条件で行うようにすれば、内部が結晶質で表面にコバルトリッチ領域が形成された銅-亜鉛-コバルト合金めっき層を確実に製造することができる。
【0058】
本発明のゴム組成物をスチールコードに被覆する方法としては、例えば以下に示す方法を用いることができる。
三元めっきされた所定の本数のスチールコードを所定の間隔で平行に並べ、このスチールコードを上下両側から、本発明のゴム組成物からなる厚さ0.5mm程度の未加硫ゴムシートで被覆して前駆体を得る。得られた前駆体(未加硫ゴム-金属複合体)を、例えば145℃程度の温度で、40分間程度加硫する。
【0059】
耐酸素接着性と耐熱接着性に優れる本発明の加硫ゴム-金属複合体は、各種自動車用タイヤ、コンベアベルト、クローラ、ホースなど、特に強度が要求されるゴム物品に用いられる補強材として好適に用いられる。特に、各種自動車用ラジアルタイヤのベルト、カーカスプライ、ワイヤーチェーファーなどの補強部材として好適に用いられる。
【0060】
<タイヤ>
本発明のタイヤは、本発明の加硫ゴム-金属複合体を含む。
本発明のタイヤは、本発明の加硫ゴム-金属複合体を含むことから、耐久性に優れる。
本発明のタイヤの製造方法は、タイヤ内に、本発明の加硫ゴム-金属複合体が含まれるように製造し得る方法であれば、特に限定されない。
一般に、各種成分を含有させたゴム組成物が未加硫の段階で各部材に加工され、タイヤ成形機上で通常の方法により貼り付け成形され、生タイヤが成形される。この生タイヤを加硫機中で加熱加圧して、タイヤが製造される。例えば、本発明のゴム組成物を混練の上、得られたゴム組成物で、三元めっきされたスチールコードをゴム引きして未加硫のベルト層、未加硫のカーカス、及び他の未加硫部材を積層し、未加硫積層体を加硫することでタイヤが得られる。
タイヤに充填する気体としては、通常の空気、酸素分圧を調整した空気等の他、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスを用いてもよい。
【0061】
<コンベアベルト、クローラ、ホース>
本発明のコンベアベルト、クローラ、及びホースは、本発明の加硫ゴム-金属複合体を含む。
本発明の加硫ゴム-金属複合体を含む加工品は、耐酸素接着性と耐熱接着性に優れる本発明の加硫ゴム-金属複合体を含むことから、耐久性に優れる。
加工品としては、加硫ゴム-金属複合体を含むタイヤ以外の工品ゴム物品が挙げられ、具体的には、コンベアベルト、クローラ、ホース等の強度が要求されるゴム物品が挙げられる。
【実施例】
【0062】
<実施例1及び2、比較例1~9>
〔ゴム組成物の調製〕
表1に示す配合組成にて、各成分を混練し、ゴム組成物を調製した。なお、表1において、空欄部分は数値が0であることを意味する。表1に示す成分の詳細は次のとおりである。
【0063】
NR:天然ゴム、RSS#3
CB:HAF級カーボンブラック
アルキルフェノール樹脂:アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂、SUMITOMO BAKELITE EUROPE社製、商品名「DUREZ 19900」
加硫促進剤:スルフェンアミド系加硫促進剤、大内新興化学工業社製、商品名「ノクセラーCZ」
HTS:ヘキサメチレンビスチオサルフェート2ナトリウム塩2水和物
BMI:N,N’-(4,4-ジフェニル-メタン)ビスマレイミド、大和化成工業製、商品名「BMI-1000」
亜鉛華:ハクスイテック社製、酸化亜鉛、BET比表面積=4.2m2/g
活性亜鉛華:正同化学工業社製、活性酸化亜鉛、BET比表面積=63.0m2/g
硫黄:不溶性硫黄(20質量%オイルトリート品)
【0064】
〔加硫ゴム-金属複合体の作製〕
比較例1~9においては、ブラスめっきが施されているスチールコード(比較例用スチールコード)を使用し、実施例1及び2においては、3種の金属種でめっきされた三元めっきが施されているスチールコード(三元めっきスチールコード)を使用した。
比較例用スチールコードは、黄銅のブラスめっき(Cu:63質量%、Zn:37質量)したスチールコード(1+6×0.34mm(素線径))を用いた。
【0065】
(三元めっきスチールコードの作製)
めっき中のCu量が67.0質量%、Zn量が29.0質量%、Co量が4.0質量%となるように、Cu、Zn、Coの順に直径1.7mmのスチールフィラメントにめっきを繰り返した。その後550℃において5秒間熱拡散処理を行い、3元系の合金めっきのスチールフィラメントを得た。更にその後、三元系の合金めっき層の極表面のみをダイヤモンドダイスによる伸線加工により強加工(表面処理)をした。このようにして、めっき平均厚み0.25μmの直径0.225mmのスチールフィラメントを得た。得られたスチールフィラメントを用いて、1+6×0.34mm(素線径)構造の撚りコードであるスチールコードを作製した。なお、該スチールコード表面から内側方向に5nmの深さまでの表層領域に存在する燐元素の量は、炭素の量を除いた全体量の割合で示すと0.62アトミック%である。
【0066】
(未加硫ゴム-金属複合体の作製)
得られたブラスめっきスチールコード又は三元めっきスチールコードを、12.5mm間隔で平行に並べ、調製したゴム組成物で被覆して、厚み5mmの未加硫ゴム-金属複合体(未加硫スチールコードトッピング反)を作製した。
【0067】
(加硫)
未加硫ゴム-金属複合体を、145℃で40分間の条件で加硫して、加硫ゴム-金属複合体を作製した。
【0068】
<評価>
1.耐酸素接着性(4日)
加硫直後の加硫ゴム-金属複合体を、4日間、酸素雰囲気下で120℃加熱した。その後、ASTM D 2229に準拠して、加硫ゴム-金属複合体からスチールコードを引き抜いた。スチールコードに付着している加硫ゴムの被覆率を、目視観察にて、0~100面積%で決定した。比較例3の被覆率を100として、各実施例及び比較例の被覆率を指数化した。結果を表1に示す。許容範囲は170以上である。
【0069】
2.耐熱接着性(7日)
加硫直後の加硫ゴム-金属複合体を、7日間、窒素雰囲気下で120℃加熱した。その後、ASTM D 2229に準拠して、加硫ゴム-金属複合体からスチールコードを引き抜いた。スチールコードに付着している加硫ゴムの被覆率を、目視観察にて、0~100面積%で決定した。比較例3の被覆率を100として、各実施例及び比較例の被覆率を指数化した。結果を表1に示す。許容範囲は104以上である。
【0070】
3.EB(耐久性)
破断伸び(EB;Elongation at break)評価により、加硫ゴム-金属複合体に用いた加硫ゴムの耐久性を評価した。
実施例及び比較例のゴム組成物を加硫して、厚さ2mmの加硫ゴム試験片を作成した。25℃にて100mm/分の速度で試験片を引張り、試験片が破断したときの長さを測定した。試験片を引っ張る前の長さ(100%)に対する長さとして、破断したときの長さを算出した。比較例3の破断伸びを100として、各実施例及び比較例の破断伸びを指数化した。結果を表1に示す。許容範囲は92以上である。
【0071】
【0072】
表1からわかるように、実施例1及び2の加硫ゴム-金属複合体は、4日間、酸素雰囲気下で120℃加熱した後においても、7日間、窒素雰囲気下で120℃加熱した後においても、加硫ゴム-金属複合体から引き抜いたスチールコードにおける加硫ゴムの被覆率が高い。従って、実施例1及び2の加硫ゴム-金属複合体は、優れた耐酸素接着性と優れた耐熱接着性を両立することがわかる。よって、実施例1及び2の加硫ゴム-金属複合体は、比較例1~9に比べ、耐久性に優れることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の加硫ゴム-金属複合体は、耐酸素接着性と耐熱接着性に優れるため、各種自動車用タイヤ、コンベアベルト、クローラ、ホースなど、特に強度が要求されるゴム物品に用いられる補強材として好適に用いられる。中でも、各種自動車用ラジアルタイヤのベルト、カーカスプライ、ワイヤーチェーファーなどの補強部材として好適に用いられる。