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特許7490363炭化水素供給原料の蒸気接触ダウナー熱分解による軽質オレフィン収率の向上
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  • 特許-炭化水素供給原料の蒸気接触ダウナー熱分解による軽質オレフィン収率の向上 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-17
(45)【発行日】2024-05-27
(54)【発明の名称】炭化水素供給原料の蒸気接触ダウナー熱分解による軽質オレフィン収率の向上
(51)【国際特許分類】
   C10G 9/36 20060101AFI20240520BHJP
   B01J 8/12 20060101ALI20240520BHJP
   C10G 9/32 20060101ALI20240520BHJP
【FI】
C10G9/36
B01J8/12
C10G9/32
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2019557760
(86)(22)【出願日】2018-04-25
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-06-18
(86)【国際出願番号】 US2018029325
(87)【国際公開番号】W WO2018200650
(87)【国際公開日】2018-11-01
【審査請求日】2019-11-22
【審判番号】
【審判請求日】2021-09-27
(31)【優先権主張番号】62/489,681
(32)【優先日】2017-04-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】506018363
【氏名又は名称】サウジ アラビアン オイル カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100088616
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 一平
(74)【代理人】
【識別番号】100154829
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 成
(74)【代理人】
【識別番号】100132403
【弁理士】
【氏名又は名称】永岡 儀雄
(72)【発明者】
【氏名】アル-グラミ,ムサエド,サレム
(72)【発明者】
【氏名】シュウ,ウェイ
(72)【発明者】
【氏名】アーカー,アーロン,チー
【合議体】
【審判長】関根 裕
【審判官】瀬下 浩一
【審判官】安積 高靖
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-4840(JP,A)
【文献】特開平1-110635(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/54247(US,A1)
【文献】特表2003-531242(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09G 9/00
C09G11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素入口流中の、C~Cオレフィンを選択的に生成するための原油を含む炭化水素を蒸気分解及び接触分解するためのシステムであって、前記システムは、
流動及び不均一触媒を特徴とする触媒供給流であって、前記不均一触媒が、前記不均一触媒の表面上で前記炭化水素の分解を触媒するように動作可能な触媒供給流、
前記炭化水素の蒸気分解を達成するように動作可能な蒸気供給流であって、前記不均一触媒のコーキングを減少させる、蒸気供給流、
前記炭化水素入口流のアトマイズのため、及び前記炭化水素入口流、高圧蒸気を含む蒸気供給流、及び構造化パッキングを有する触媒炭化水素ストリッパーからの前記触媒供給流を混合するための混合ゾーンであって、前記触媒炭化水素ストリッパーが、蒸気を適用することにより、前記不均一触媒に吸着した炭化水素を除去するように動作可能である、混合ゾーン、並びに
反応ゾーン及び生成物回収セクションを有するダウンフロー反応器であって、前記炭化水素入口流、前記触媒供給流、及び前記蒸気供給流の混合物を前記反応ゾーンに受け入れて500℃~700℃の温度範囲、0.5~1.5秒の滞留時間で反応させるとともに前記生成物回収セクションにおいて気-固セパレータによって前記反応ゾーンからの蒸気、使用済み触媒、及び炭化水素生成物の混合物を分離するように動作可能であり、前記反応ゾーンにおいて蒸気分解及び接触分解によってC~Cオレフィンを生成するように動作可能であり、前記不均一触媒が重力により下向きに流れるように動作可能なダウンフロー反応器、
を特徴とし、
前記蒸気供給流が、リサイクル蒸気流を特徴とし、前記リサイクル蒸気流が、前記不均一触媒に吸着した炭化水素を除去するために、前記構造化パッキングを有する触媒炭化水素ストリッパーにて使用される蒸気
を特徴とする、システム。
【請求項2】
前記不均一触媒上に配置されているコークスの燃焼によって、使用済み不均一触媒を再生するように動作可能な触媒再生器を更に特徴とする、請求項に記載のシステム。
【請求項3】
前記触媒供給流が、新しい、未使用の不均一触媒、及び前記触媒再生器から再生された触媒を特徴とする、請求項に記載のシステム。
【請求項4】
前記炭化水素入口流からのC~Cオレフィンの収率が、少なくとも30%である、請求項1~のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項5】
前記蒸気供給流が前記炭化水素入口流の3重量%超である場合に、前記システムが前記蒸気供給流を受け入れるように動作可能である、請求項1~のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項6】
前記蒸気供給流が前記炭化水素入口流の5重量%~15重量%である場合に、前記システムが前記蒸気供給流を受け入れるように動作可能である、請求項1~のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項7】
前記蒸気供給流が前記炭化水素入口流の10重量%である場合に、前記システムが前記蒸気供給流を受け入れるように動作可能である、請求項1~のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項8】
~Cオレフィンを選択的に生成するための原油を含む炭化水素を蒸気分解及び接触分解するための方法であって、前記方法は、
触媒供給物を供給する工程であって、前記触媒供給物が流動及び不均一触媒を特徴とし、前記不均一触媒が前記不均一触媒の表面上で前記炭化水素の分解を触媒するように動作可能である工程、
蒸気を供給する工程であって、前記蒸気が前記炭化水素の蒸気分解を達成するように動作可能であり、前記蒸気が前記不均一触媒のコーキングを減少させるように動作可能である工程、
前記炭化水素、前記触媒供給物、及び前記蒸気を、混合ゾーン、反応ゾーン及び生成物回収セクションを有するダウンフロー反応器の混合ゾーンで混合し、前記混合物を反応ゾーンにおいて、500℃~700℃の温度範囲、0.5~1.5秒の滞留時間で反応させ、次いで生成物回収セクションにおいて気-固セパレータによって前記反応ゾーンからの蒸気、使用済み触媒、及び炭化水素生成物の混合物を分離し、前記反応ゾーンにおいて蒸気分解及び接触分解によって同時にC~Cオレフィンを生成する工程であって、前記不均一触媒が重力により下向きに流れる工程、
前記炭化水素、前記触媒供給物、及び前記蒸気を混合する前記工程の後に、蒸気を適用することによって、前記不均一触媒に吸着した炭化水素を除去して、C~Cオレフィンを生成する工程、並びに、
前記不均一触媒に吸着した炭化水素を除去する工程において用いられた前記蒸気を、前記蒸気を供給する工程にリサイクル工程、
を特徴とする、方法。
【請求項9】
蒸気を供給する前記工程にて使用するための前記不均一触媒に吸着した炭化水素を除去する前記工程において使用された前記蒸気をリサイクルする工程を更に特徴とする、請求項に記載の方法。
【請求項10】
前記不均一触媒上に配置されているコークスの燃焼によって、前記不均一触媒を再生する工程を更に特徴とする、請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
前記触媒供給物が、新しい、未使用の不均一触媒及び再生された触媒を特徴とする、請求項8~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記炭化水素入口流からのC~Cオレフィンの収率が、少なくとも30%である、請求項8~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
蒸気を供給する前記工程が、前記炭化水素の3重量%超の蒸気供給物を供給することを特徴とする、請求項8~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
蒸気を供給する前記工程が、前記炭化水素の5重量%~15重量%の蒸気供給物を供給することを特徴とする、請求項8~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
蒸気を供給する前記工程が、前記炭化水素の10重量%の蒸気供給物を供給することを特徴とする、請求項8~12のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の実施形態は、炭化水素供給原料の分解に関する。特に、本開示の実施形態は、流動接触ダウンフロー反応器における、接触分解及び蒸気分解(熱分解)を用いた炭化水素供給原料の分解に関する。
【背景技術】
【0002】
接触及び非接触技術の両方が、様々な炭化水素供給原料の貴重な化学成分への変換に、工業的に適用される。例えば、蒸気分解(非接触分解)を炭化水素供給原料に適用し、生成物としてエチレンを生成し、流動接触分解(FCC)(接触分解)を炭化水素供給原料に適用し、生成物としてガソリンを生成する。現在では、エチレン及びプロピレンなどの「軽質」オレフィンは、原油、例えばエタンなどの天然ガス留分、液化石油ガス(LPG)、ナフサ、ガス油、及びこれらの2つの主要なプロセス:蒸気分解及び流動接触分解による残渣、から生成される。
【0003】
プロピレン及びその他の軽質オレフィンは、蒸気分解及びFCCの両方からの副産物として得られる。工業的に使用される特定の蒸気分解装置は、供給原料としてエタンを使用し、エタン系蒸気分解装置は、プロピレンなどのオレフィンの供給者になることが期待されているが、将来、エタン系供給物から生成されるオレフィン、特にプロピレンが少なくなるため、供給にギャップが生じる可能性がある。例えば、プロピレンなど、エチレン以外の軽質オレフィンに対する継続的な需要の高まりにより、より望ましい化学物質が生成されるように、従来のFCCプロセスの再構成がもたらされた。
【0004】
しかしながら、既知の分解方法では、依然として、十分な選択レベルで、軽質留分オレフィンを生成することはできない。例えば、高温分解反応は、重質留分油の同時熱分解をもたらし、それにより、上記油からの乾燥ガス(例えば、メタンなど)の収率を向上させる。炭化水素供給原料と触媒を短い時間接触させることで、軽質留分オレフィンの生成の減少が引き起こされ、代わりに、水素移動反応の阻害により軽質留分パラフィンが生成され、重質留分油の軽質留分油への変換の増加が妨げられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
出願人は、炭化水素供給原料から、例えば、エチレン及びプロピレンなどの軽質オレフィンを選択的に生成するための効率的な分解装置、方法、及びシステムが必要とされていると考えている。本開示は、流動接触蒸気分解とも呼ばれる、流動接触熱分解(FCP)を用いて、接触分解及び蒸気分解の相乗効果が調和して適用され、炭化水素供給原料を、例えば、エチレン及びプロピレンなどの軽質オレフィンに変換するための装置、方法、及びシステムを提示する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、例えば原油を含む様々な炭化水素供給原料を使用して、例えば、エチレン及びプロピレンなどの軽質オレフィンの収率を最大化するために、蒸気分解、接触分解、及びダウナー高過酷度流動接触分解(HS-FCC)反応器構成の使用によって生み出される相乗効果を適用するプロセス及び方法を包含する。語句「軽質オレフィン」とは、本明細書で使用する場合、概して、C~Cオレフィンを指す。軽質オレフィンへの変換は、炭化水素供給原料の組成に依存し、いくつかの実施形態においては、エチレン及びプロピレンを合わせた合計収率が少なくとも20%であるとともに、少なくとも30%であると予想される。およそ20%~70%の供給物が選択的に、エチレン及びプロピレンなどの主に軽質オレフィンへ変換するように、蒸気接触分解プロセスが操作される。
【0007】
FCC及び蒸気分解などの先行技術のシステム及び方法における欠点としては:(I)コークス形成及び原油中の重金属からの汚染又はその他の触媒汚染による急速な触媒失活、並びに(II)原油の広い沸点範囲内での炭化水素の様々な分解生成物が挙げられる。本開示のシステム及び方法の実施形態は、蒸気を適用して、接触分解を支援し、軽質オレフィンの収率を向上させる。同時に、蒸気は、希釈剤として作用し、触媒上のコークス形成及び炭化水素堆積を減少させる。本開示のシステム及び方法は、軽質オレフィンの収率及び選択性を向上させるために炭化水素供給物の軽質オレフィンへの変換をより多く提供し、これは接触分解のみでは得ることはできない。
【0008】
より詳細には、蒸気存在下のFCC触媒は、非接触蒸気分解プロセスにより通常必要とされる温度よりも低い温度下で、エチレン及びプロピレンなどの軽質オレフィンの生成を向上させるために、高過酷度ダウナー接触分解システムで使用される。
【0009】
したがって、本開示の実施形態は、炭化水素を含む炭化水素入口流を蒸気及び接触分解するためのシステムを含む。システムは、流動及び不均一触媒を含む触媒供給流であって、不均一触媒が、不均一触媒の表面上で炭化水素の分解を触媒するように動作可能な触媒供給流、炭化水素の蒸気分解を達成するように動作可能な蒸気供給流であって、不均一触媒のコーキングを減少させる、蒸気供給流、並びに炭化水素入口流、触媒供給流、及び蒸気供給流を受け入れて混合するように動作可能なダウンフロー反応器であって、蒸気分解及び接触分解によって軽質オレフィンを生成するように動作可能であり、不均一触媒が重力により下向きに流れるように動作可能なダウンフロー反応器、を含む。
【0010】
システムのいくつかの実施形態において、ダウンフロー反応器は、約500℃~約700℃の温度範囲で作動する。システムのその他の実施形態において、システムは、構造化パッキングを有する触媒炭化水素ストリッパーを含み、ここで、触媒炭化水素ストリッパーは、蒸気を適用することにより、不均一触媒に吸着した炭化水素を除去するように動作可能である。更に、システムのその他の実施形態において、蒸気供給流は、リサイクル蒸気流を含み、ここで、リサイクル蒸気流は、不均一触媒に吸着した炭化水素を除去するために、構造化パッキングを有する触媒炭化水素ストリッパーにて使用される蒸気を含む。更なるその他の実施形態において、システムは、不均一触媒上に配置されているコークスの燃焼によって、使用済み不均一触媒を再生するように動作可能な触媒再生器を更に含む。
【0011】
更に、その他の実施形態において、触媒供給流は、新しい、未使用の不均一触媒、及び触媒再生器から再生された触媒を含む。特定の実施形態において、炭化水素入口流からの軽質オレフィンの収率は、少なくとも約30%である。更に、その他の実施形態において、蒸気供給流が炭化水素入口流の約3重量%超である場合に、システムは蒸気供給流を受け入れるように動作可能である。その他の実施形態において、蒸気供給流が炭化水素入口流の約5重量%~約15重量%である場合に、システムは蒸気供給流を受け入れるように動作可能である。更に、その他の実施形態において、蒸気供給流が炭化水素入口流の約10重量%である場合に、システムは蒸気供給流を受け入れるように動作可能である。
【0012】
加えて、炭化水素の蒸気及び接触分解の方法が開示されており、方法は、触媒供給物を供給する工程であって、触媒供給物が流動及び不均一触媒を含み、不均一触媒が不均一触媒の表面上で炭化水素の分解を触媒するように動作可能である工程、蒸気を供給する工程であって、蒸気が炭化水素の蒸気分解を達成するように動作可能であり、蒸気が不均一触媒のコーキングを減少させるように動作可能である工程、並びに炭化水素、触媒供給物、及び蒸気を混合し、蒸気分解及び接触分解によって同時に軽質オレフィンを生成する工程であって、不均一触媒が重力により下向きに流れる工程、を含む。
【0013】
方法のいくつかの実施形態において、炭化水素を混合する工程は、約500℃~約700℃の温度範囲でダウンフロー反応器を操作する工程を更に含む。その他の実施形態において、方法は、炭化水素、触媒供給物、及び蒸気を混合する工程の後に、蒸気を適用することによって、不均一触媒に吸着した炭化水素を除去し、軽質オレフィンを生成する工程を更に含む。更に、その他の実施形態において、方法は、蒸気を供給する工程にて使用するための不均一触媒に吸着した炭化水素を除去する工程において使用された蒸気をリサイクルする工程を含む。更なるその他の実施形態において、方法は、不均一触媒上に配置されているコークスの燃焼によって、不均一触媒を再生する工程を含む。更に、その他の実施形態において、触媒供給物は、新しい、未使用の不均一触媒、及び再生された触媒を含む。
【0014】
更に、方法のその他の実施形態において、炭化水素入口流からの軽質オレフィンの収率は、少なくとも約30%である。いくつかの実施形態において、蒸気を供給する工程は、炭化水素の約3重量%超の蒸気供給物を供給することを含む。特定の実施形態において、蒸気を供給する工程は、炭化水素の約5重量%~約15重量%の蒸気供給物を供給することを含む。更に、その他の実施形態において、蒸気を供給する工程は、炭化水素の約10重量%の蒸気供給物を供給することを含む。
【0015】
本開示のこれら及びその他の特徴、態様、及び利点は、以下の説明、請求の範囲、及び添付図に関して、より良く理解されるであろう。しかしながら、図面は、本開示のいくつかの実施形態のみを例示したものであるため、本開示範囲を制限するものではなく、他の同等に有効な実施形態も許容することができるということに注意されたい。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】流動接触熱分解(FCP)を適用する装置及び方法についての1つのレイアウトを示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
流動接触熱分解のための装置、システム、及び方法の実施形態の特徴及び利点、並びに明らかになるその他の方法を、より詳細に理解することができるように、以前に簡潔にまとめられた本開示の実施形態のより具体的な説明が、本明細書の一部を形成する添付の図面に例示されている様々な実施形態を参照することにより、得られるであろう。しかしながら、図面は、本開示の様々な実施形態のみを例示したものであるため、本開示範囲を制限するものではなく、他の同様に有効な実施形態も含み得ることに注意されたい。
【0018】
ここで、図1を参照すると、流動接触熱分解(FCP)を適用する装置及び方法についての1つのレイアウトを示す概略図が描かれている。FCPシステム100は、触媒再生器102、ダウンフロー反応器104、及び構造化パッキングを有する触媒ストリッパー106を含む。FCPシステム100は、蒸気供給ライン108、蒸気排出ライン110、任意選択の蒸気リサイクルライン112、及び蒸気供給ライン108からの蒸気と任意選択の蒸気リサイクルライン112からの蒸気とを混ぜ合わせる蒸気入口ライン114を更に含む。供給物注入ライン116により、その他の炭化水素に加えて、又はその他の炭化水素の代わりに、例えば原油などの炭化水素供給原料をFCPシステム100に供給し、生成物出口ライン118により、例えば、エチレン及びプロピレンを含む軽質オレフィンなどの生成物が、FCPシステム100から出て行く。
【0019】
FCPシステム100は、例えば、固体触媒からのエチレン及びプロプレンなどの軽質オレフィンを含むガス状生成物などのガス状成分を分離するために、例えば、サイクロンセパレータなどの気-固セパレータ120を更に含む。触媒及び生成物は、1つ以上のサイクロンセパレータ、又は同様のセパレータを用いて分離され、固体触媒粒子が触媒再生器102に送られるとともに、炭化水素からなる生成物は、システム100を通過し、分離及び収集のための下流に送られる。合わされたダウンフロー反応器入口ライン122は、蒸気、触媒、及び炭化水素供給原料をダウンフロー反応器104に提供する。ダウンフロー反応器104において、接触分解及び蒸気分解(熱分解)は、相乗的に調和して進行し、炭化水素供給原料から軽質オレフィンを生成する。軽質オレフィン(ガス)は、ガス流出ライン124及び生成物出口ライン118を介して出て行く。
【0020】
供給物注入ライン116からの炭化水素供給原料を、(供給物のアトマイズのための)混合ゾーンに充填し、ここで、蒸気入口ライン114からの高圧蒸気と触媒再生器102からの熱再生された触媒とともに混合する。高圧蒸気は、供給原料、並びに、蒸気、炭化水素、及び触媒(再生された触媒及び新規の触媒のいずれか又はその両方)の混合物を分散させ、炭化水素分解反応が起こるダウンフロー反応器104中の反応ゾーンを通って下向きに移動する。反応ゾーンからの蒸気、使用済み触媒、及び炭化水素生成物の混合物は、気-固セパレータ120内の気固分離ゾーンに入る。使用済み固体触媒は、遠心力によりガスから分離され、触媒は構造化パッキングを有する触媒ストリッパー106の上部へと重力により下向きに流れる。
【0021】
エチレン及びプロピレンなどの炭化水素生成物ガスは、気-固セパレータ120から生成物回収セクションで回収される。使用済み触媒について、高圧蒸気が、構造化パッキングを有する触媒ストリッパー106中に注入されて、触媒粒子上に吸着した重質炭化水素をストリッピングする。使用済み触媒からの重質炭化水素及び未反応供給物の蒸気が、構造化パッキングを有する触媒ストリッパー106から回収され、生成物回収に送られる。次いで、使用済み触媒は、構造化パッキングを有する触媒ストリッパー106から触媒再生器102へ移送される。
【0022】
触媒再生器102から構造化パッキングを有する触媒ストリッパー106への下向きを指す「触媒ダウンフロー」と名付けられた下向きの矢印は、重力で、下向きに、システムを通る、活性化された触媒(任意選択的に新しい又は再生された又はその両方)の一般的な流れを示す。「触媒アップフロー」と名付けられた上向きの矢印は、触媒ストリッパー底部ライン128から触媒再生器102までの、触媒リターンライン126における、失活され、コークス化された触媒の一般的な流れを示す。例えば空気などの、上向きのガスフローは、触媒リターンライン126を通って、触媒ストリッパー底部ライン128から触媒再生器102まで、失活され、コークス化された触媒粒子を運ぶ。
【0023】
FCPシステム100において、炭化水素供給原料からの軽質オレフィンの収率を向上させ、固体触媒のコーキング率を減少させるために、ある量の蒸気がダウンフロー反応器104に適用される。触媒システムは、例えば、ゼオライトsocony mobil-5(商標)(ZSM-5)などのゼオライトを含有する好適な高オレフィン触媒を適用する。ZSM-5は、不均一触媒として石油産業にて使用されるペンタシル系ゼオライト、NaAlSi96-nO192・16HO(0<n<27)に属するアルミノシリケートゼオライトである。その他の好適な触媒としては、ナトリウム、マグネシウム及びカルシウムの量を変化させることによって同じ基本式:(Na,Ca,Mg)3.5[AlSi1748]・32(HO)を共有するフォージャサイト-Na、フォージャサイト-Mg、及びフォージャサイト-Caなどのフォージャサイト、並びにアルミナなどの耐火性酸化物に担持されるBEAゼオライト(ゼオライトβ)が挙げられる。
【0024】
蒸気の使用に付随する1つの問題は、触媒の水熱安定性であり、本開示の実施形態で使用される触媒は、先行技術のシステムにおいて触媒の劣化を促進する水熱条件に耐えるのに好適であるか、又は動作可能である。本開示の実施形態で使用される触媒は、充填床ではなく流動床で利用され、軽質オレフィンへのより大きな変換を可能にする。本発明の実施形態における蒸気は、炭化水素供給物のアトマイズ、触媒の流動化、及び使用済み触媒からの炭化水素のストリッピングのためだけに使用されるのではなく、有利には、触媒表面上で接触分解と同時に炭化水素の蒸気分解を達成するように動作可能な量で使用される。蒸気は、炭化水素供給物及び触媒よりも前に、それらと同時に、又はそれらよりも前に及びそれらと同時にダウンフロー反応器104に注入することができる。本開示の実施形態における蒸気は、使用済み触媒をストリッピングするためだけに使用されるのではなく、ダウンフロー反応器104において蒸気分解反応を引き起こすことによって軽質オレフィンへの生成物分配にプラスの影響を与える。
【0025】
蒸気は熱分解に加えて、触媒上のコークス形成を減少させることに使用される。触媒再生器102からの新鮮な触媒注入とともに、新鮮な蒸気を、ダウンフロー反応器104に導入することができる。加えて、触媒上に吸着した残存炭化水素の触媒をきれいにするために、構造化パッキングを有する触媒ストリッパー106で使用された蒸気は、蒸気リサイクルライン112によって、ダウンフロー反応器104へとリサイクルすることができる。いくつかの実施形態において、FCPシステム100の好ましい動作温度は、約500℃~約700℃の範囲である。先行技術の蒸気分解で使用される温度範囲は、約750℃~約900℃であるが、本開示の実施形態において、温度は、蒸気分解で使用される温度よりも約50℃~約400℃低い。
【0026】
FCPシステム100において、例えば、石油供給原料などの炭化水素供給原料は、予熱され、蒸気と混合されて、次いで、ダウンフロー反応器104に供給され、そこで均質に混合され、触媒再生器102からの熱触媒と接触する。炭化水素供給原料をアトマイズするために、及び供給物の粘度を低下させるために、予備加熱蒸気を使用した後、反応器に送られる。ダウンフロー反応器104に入る前に、接触分解に加えて、蒸気分解(熱分解)反応に必要とされる蒸気の総量を補うために更なる蒸気を注入する。本開示の実施形態において、ダウンフロー反応器104に供給される蒸気の量は、約3重量%超の炭化水素供給物であり、いくつかの実施形態において、ダウンフロー反応器104に供給される蒸気の量は、約5重量%超の炭化水素供給物であり、いくつかの実施形態において、ダウンフロー反応器104に供給される蒸気の量は、約10重量%超の炭化水素供給物であり、いくつかの実施形態において、ダウンフロー反応器104に供給される蒸気の量は、約5重量%~約15重量%、例えば約10重量%の炭化水素供給物である。
【0027】
炭化水素供給原料は、蒸気の存在下で触媒作用的に分解されるとともに蒸気分解もまた同時に生じ、コークスを含有する使用済み触媒は、構造化パッキングを有する触媒ストリッパー106へと重力によって移送される。触媒粒子上に堆積した炭化水素(コークス以外)を、蒸気でストリッピングし、部分的にきれいではあるが、依然としてコークスが残っている触媒は、触媒再生器102に移送され、ここで、純酸素に加えて、又は純酸素の代わりに、空気を導入し、触媒粒子上のコークスを燃焼させる。任意選択的に、新鮮な触媒補給とともに、又は新鮮な触媒供給無しで、熱く、再生された触媒は、制御された循環速度でダウンフロー反応器104に送られ、システムの熱バランスを達成する。いくつかの実施形態において、ストリッパー蒸気入口107により、構造化パッキングを有する触媒ストリッパー106中へ更なる蒸気を注入することができる。
【0028】
FCC動作において、理想的には、定常状態では、反応器のエネルギー需要を満たすために必要な量のコークスのみが生成され、次いで、コークスは再生器で燃焼される。各FCC装置は、供給原料に基づく所望の水準に対する厳密性を増大させるか又は低下させるかのいずれかの基準として使用可能な特定のコークス燃焼能力を有する。1つの目標は、供給物変換及びその後の分留などの下流プロセスに耐えるのに十分なコークスを生成することである。触媒循環速度、供給物及び生成物循環速度、並びにその他のパラメータを調節することにより、炭化水素供給原料のオレフィンへの好適な変換が可能になる。
【0029】
HS-FCCプロセスは、ダウンフロー、高い反応温度、短い接触時間、及び高い触媒/油比を含む特定のプロセス条件を有する。本開示の実施形態において、再生器の燃焼ガスは、再生された触媒の上向きの流れのための揚力を提供する。燃焼ガスは、乱流相流動床上部の再生された触媒を、加速ゾーンまで、次いでライザー型リフトラインまで持ち上げる。次いで、再生された触媒は、リフトラインの末端に位置している触媒ホッパーに運ばれ得る。
【0030】
本開示の実施形態において、ダウンフロー反応器システムは、滞留時間分布を狭くするために、反応器内の逆混合を最小化するようにHS-FCCプロセスに適用される。したがって、軽質オレフィンの生成は、(例えば、メタンなどの)最小乾燥ガス収率で最大化される。ダウンフロー反応器104における反応への蒸気の添加により、中間留分及び飽和パラフィンの分解による軽質オレフィンの生成が向上する。ダウンフロー反応器の使用により、逆混合及び反応生成物の過剰な分解が防止されるとともに、高い触媒/油比の使用により接触分解が優勢であることを確実にする。高温は、軽質オレフィンなどの有用な反応中間体の形成に有利である一方で、短い接触時間により、有用な中間体の消費を担う第2の反応が妨げられる。
【0031】
いくつかの実施形態において、予想されるエチレン+プロピレン収率は、少なくとも約40%、又は少なくとも約30%であり、乾燥ガス、例えば、水素、メタン、エタンの生成は減少する。蒸気対炭化水素の重量比は、供給原料の関数であり、ならびに、収率構造(オレフィンの選択性)と使用される触媒のタイプとの間の妥協点である。本開示のいくつかの実施形態におけるダウンフロー反応器について、滞留時間は、約0.5秒~約1.5秒であることが見込まれる。使用される蒸気の量もまた、供給原料炭化水素のタイプの関数であり、ならびに、収率構造(オレフィンの選択性)と使用される触媒のタイプとの間の妥協点である。
【0032】
本開示の実施形態において、FCP装置は、約500℃~約700℃の範囲の温度で操作される。これらの反応温度下で、蒸気は、接触分解中に支援するとともに、触媒粒子上のコークスの形成を最小化させる。記載されるとおり、本開示の実施形態においてダウナー技術を適用する場合、ダウンフロー反応器内の滞留時間は、例えば、約0.5~約1.5秒と短く、これにより、滞留時間が長いためにその他のライザー技術で発生することが多い過剰分解及び乾燥ガス形成が防止される。
【0033】
本開示のシステム及び方法の実施形態は、接触時間が短いために変換が減少した場合の補償のために、高い触媒対油比(C/O)、例えば、約15~約25の範囲で動作する。高いC/O比で動作する利点は、熱分解に対する接触分解の寄与の強化及び熱バランスの維持である。
【0034】
変換及び生成物分配に対する蒸気の影響を示すためにミクロ活性試験を実施した。表1の結果は、100時間動作した後であっても、触媒は安定であり活性があることを示している。これは、反応時間が数秒である流動床の触媒性能を示すものである。表1によれば、好適な触媒は、失活する前に、いくつかの操作をうけることができる。
【表1】
【0035】
単数形「a」、「an」、及び「the」は、文脈で明確に別段の指示をしない限り、複数の指示対象を含む。
【0036】
図面及び明細書において、流動接触熱分解、並びにその他のための装置、システム及び方法の実施形態が開示されており、特定の用語が使用されているが、用語は、説明的意味においてのみ使用され、限定することを目的とするものではない。本開示の実施形態は、これらの図示した実施形態を具体的に参照して、かなり詳細に記載されている。しかしながら、前述の明細書に記載のとおり、本開示の趣旨及び範囲内で、様々な改変及び変更を加えてもよく、このような改変及び変更は、本開示の均等物及び一部と見なされる。

図1