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特許7490364補強されたカテーテルを用いた血液ポンプ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-17
(45)【発行日】2024-05-27
(54)【発明の名称】補強されたカテーテルを用いた血液ポンプ
(51)【国際特許分類】
   A61M 60/13 20210101AFI20240520BHJP
   A61M 25/01 20060101ALI20240520BHJP
【FI】
A61M60/13
A61M25/01 510
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2019560720
(86)(22)【出願日】2018-05-03
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-06-25
(86)【国際出願番号】 EP2018061356
(87)【国際公開番号】W WO2018202779
(87)【国際公開日】2018-11-08
【審査請求日】2021-04-21
【審判番号】
【審判請求日】2023-02-10
(31)【優先権主張番号】17169487.0
(32)【優先日】2017-05-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】507116684
【氏名又は名称】アビオメド オイローパ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジース トルステン
(72)【発明者】
【氏名】キルヒホッフ フランク
【合議体】
【審判長】内藤 真徳
【審判官】井上 哲男
【審判官】安井 寿儀
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-530041(JP,A)
【文献】国際公開第2010/113915(WO,A1)
【文献】特表2002-505167(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M60/00-60/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の血管内に経皮挿入するための血管内血液ポンプであって、カテーテル(10)と、カテーテル(10)に取り付けられたポンピングデバイス(1)とを備え、前記カテーテル(10)は、長手方向軸に沿って延び、前記長手方向軸に沿って、遠位端(11)と、前記遠位端(11)の反対側の近位端(12)とを有し、前記カテーテル(10)は、前記カテーテル(10)の前記近位端(12)および前記遠位端(11)間で前記カテーテル(10)の長さに沿って長手方向に連続して延びる細長い補剛構造(15)を含み、前記補剛構造(15)は、約0.00005Nm~約0.01Nmの曲げ剛性を有し、最小曲げ半径10mmで曲がる場合、塑性変形を受けず、
前記補剛構造(15)の曲げ剛性は、異なる平面内における前記補剛構造(15)の曲げに対して異なることを特徴とする血液ポンプ。
【請求項2】
請求項1に記載の血液ポンプであって、前記カテーテル(10)は、前記近位端(12)から前記遠位端(11)まで前記カテーテル(10)を通って延びる少なくとも1つの管腔(13)を有し、前記補剛構造(15)は前記カテーテル(10)の前記管腔(13)内に配設されることを特徴とする血液ポンプ。
【請求項3】
請求項2に記載の血液ポンプであって、前記補剛構造(15)は、前記カテーテル(10)の前記管腔(13)内部で緩んでいることを特徴とする血液ポンプ。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の血液ポンプであって、前記補剛構造は、少なくとも1つのロッドまたはワイヤ(15)を含むことを特徴とする血液ポンプ。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか1項に記載の血液ポンプであって、前記補剛構造は、複数のロッドまたはワイヤ(15B)を含むことを特徴とする血液ポンプ。
【請求項6】
請求項4に記載の血液ポンプであって、前記少なくとも1つのロッドまたはワイヤは中実であることを特徴とする血液ポンプ。
【請求項7】
請求項4に記載の血液ポンプであって、前記少なくとも1つのロッドまたはワイヤ(15)は、約0.3mm~0.6mmの直径を有することを特徴とする血液ポンプ。
【請求項8】
請求項7に記載の血液ポンプであって、前記少なくとも1つのロッドまたはワイヤ(15)は、約0.5mmの直径を有することを特徴とする血液ポンプ。
【請求項9】
請求項に記載の血液ポンプであって、前記複数のロッドまたはワイヤ(15B)が互いに隣接して配置されていることを特徴とする血液ポンプ。
【請求項10】
請求項に記載の血液ポンプであって、前記少なくとも1つのロッドまたはワイヤ(15)の断面は、少なくとも2つの交差する対称軸を有し、または、前記断面の形状は、多角形、円形もしくは卵型であることを特徴とする血液ポンプ。
【請求項11】
請求項4に記載の血液ポンプであって、前記少なくとも1つのロッドまたはワイヤ(15)は直線状であることを特徴とする血液ポンプ。
【請求項12】
請求項5に記載の血液ポンプであって、前記複数のロッドまたはワイヤは編組されることを特徴とする血液ポンプ。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか1項に記載の血液ポンプであって、前記カテーテル(10)は、面内で湾曲しており、前記補剛構造(15)は、前記カテーテル(10)が湾曲している平面内における曲げに対して最小曲げ剛性を有することを特徴とする血液ポンプ。
【請求項14】
請求項1~3のいずれか1項に記載の血液ポンプであって、前記補剛構造(15)は、形状記憶材料を含むことを特徴とする血液ポンプ。
【請求項15】
請求項1に記載の血液ポンプであって、前記補剛構造(15)は、形状記憶材料としてニチノールを含むことを特徴とする血液ポンプ。
【請求項16】
請求項1~3のいずれか1項に記載の血液ポンプであって、前記補剛構造(15)は、前記血液ポンプの動作中、前記カテーテル(10)内に留まるように構成されることを特徴とする血液ポンプ。
【請求項17】
請求項1~3のいずれか1項に記載の血液ポンプであって、前記補剛構造(15)は、前記血液ポンプを患者の身体内に配置した後、前記カテーテル(10)から除去されるように構成されることを特徴とする血液ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カテーテルと、カテーテルの遠位端に取り付けられたポンピングデバイスとを含む、患者の血管内に経皮挿入するための血管内血液ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
経皮挿入のための血液ポンプは、患者の心臓をサポートするように設計され、患者の皮膚における血管アクセスを通じて、すなわち経皮的に、カテーテルによって大動脈または大腿動脈等の血管を介して患者の心臓内に挿入される。経皮挿入のための血管内血液ポンプは、通常、カテーテルと、カテーテルに取り付けられたポンピングデバイスとを備える。カテーテルは、長手方向軸に沿って遠位端から近位端に延びることができ、ポンピングデバイスは、外科医等のオペレータから離れた端部においてカテーテルに取り付けられる。ポンピングデバイスは、カテーテルによって、例えば大腿動脈および大動脈を通じて患者の心臓の左心室内に挿入することができる。患者の心臓内に配置される血液ポンプは、心臓内血液ポンプと呼ばれる場合もある。
【0003】
比較的剛性の高いカテーテルはねじれのリスクがより少ないのに対し、軟質のカテーテルは、大動脈、特に大動脈弓等の血管の形状により良好に適合する。しかしながら、軟質のカテーテルは、その低剛性に起因して、特にカテーテルの挿入中にねじれる傾向がある。カテーテルがねじれると、これにより、カテーテル上に弱体化した場所が生じ、同じ場所で再びねじれる可能性が高くなる。これは、血液ポンプの動作中に特に問題となる場合がある。例えば、血液ポンプは、心臓から押し出され、大動脈内に戻される場合があり、これにより、特にカテーテルが挿入中に既にねじれている場合、カテーテルのねじれを引き起こす場合がある。この結果、弱体化した場所において激しいねじれが生じる場合があり、ひいては、ポンピングデバイスにパージ流体を供給するパージライン等のカテーテル内部の構造のねじれが引き起こされる。パージラインは遮断する可能性があり、血液ポンプは、パージラインの増大したパージ圧力または更には完全な遮断に起因して故障する可能性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって、本発明の目的は、ねじれを防ぐことができるカテーテルを有する、経皮挿入するための血管内血液ポンプを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この目的は、本発明によれば、独立請求項1に記載の特徴を有する経皮挿入のための血液ポンプによって達成される。本発明の好ましい実施形態および更なる発展形は、その従属項に指定されている。本開示全体を通じて、用語「遠位」は、使用者から離れて心臓に向かう方向を指し、用語「近位」は、使用者に向かう方向を指す。
【0006】
本発明によれば、経皮挿入のための血管内血液ポンプのカテーテルは、カテーテルの近位端および遠位端間でカテーテルの長さに沿って長手方向に連続して延びる細長い補剛構造を含む。補剛構造は、約0.00005Nm~約0.01Nm、好ましくは約0.0001Nm~約0.001Nm、より好ましくは約0.0001Nm~約0.0005Nm、より好ましくは約0.0001Nm~約0.0007Nm、または約0.00005Nm~約0.0004Nm の曲げ剛性を有し、最小曲げ半径10mmで曲がる場合、塑性変形を受けない。このため、カテーテルは、細長い補剛構造によって補強され、ねじれが阻止される。
【0007】
1つの実施形態において、補剛構造は形状記憶材料を含む。形状記憶材料の連続補剛構造は、カテーテルがねじれることを防ぐ一方で、同時に、大動脈等の血管を通してカテーテルを方向付けることができるような曲げを可能にするのに十分な可撓性を提供する。これは、材料のいわゆる超弾性特性によって生じる。形状記憶材料は、温度依存特性および温度非依存特性を有する。形状記憶は、形状記憶材料が、或る温度において変形を受け、次に「変形温度」を超えて加熱されると元の変形していない形状に復元する能力を可能にする温度依存特性である。温度変化は、材料のマルテンサイト相とオーステナイト相との間の変換を引き起こす。超弾性は、形状記憶材料が、形状記憶材料に加えられる外力に起因して機械的変形を受け、次に外力が解放されると、元の変形していない形状に復元する能力を可能にする温度非依存特性である。疑似弾性とも称される超弾性は、外部の負荷に起因して生じるマルテンサイト相とオーステナイト相との間の変換によって引き起こされる。結果として、これらの材料は、非常に高い歪みに対し可逆的に変形することができる。好ましい形状記憶材料はニチノールである。
【0008】
特に、外科医/心臓医が血管を通してカテーテルを押す、血液ポンプの経皮挿入中に、ねじれを防ぐ。血液ポンプの動作中のカテーテルのねじれのリスクが少なくなるように、カテーテル上の弱体化した場所が回避される。それにもかかわらず、万一、処置中にカテーテルがねじれた場合、カテーテルは逆に撓み、経時的にその形状を回復することができる。特に、ねじれはカテーテルの塑性変形、すなわち不可逆的変形であるのに対し、曲げは、カテーテルがその初期形状に戻ることができる弾性変形であるため、補剛構造は、カテーテルが塑性変形を生じることなく10mmの最小曲げ半径で弾性的に変形することを可能にする。曲げ半径は、カテーテルの中心軸に対し測定される。約0.00005Nm~約0.01Nmの曲げ剛性と組み合わせて、補剛構造は、ねじれの効果的な回避、または少なくともねじれの大幅な低減をもたらす。
【0009】
曲げ剛性(または撓み剛性)は、材料および寸法、より詳細には、弾性率(「ヤング率」)と慣性モーメントとの積に依存する、ひいては断面積(サイズおよび形状)に依存する補剛構造の機械的値である。補剛ワイヤの一般的な直径は、例えば、0.5mm~0.6mmである。円形の断面形状を有するワイヤを仮定すると、この結果、約0.0031mm~約0.0064mmの慣性モーメントが得られる。弾性率の例示的な値は、オーステナイトニチノールの場合、約70GPa~90GPaとすることができ、マルテンサイトニチノールの場合、約20GPa~45GPaとすることができる。この結果、オーステナイトニチノールの場合、約0.0002Nm~約0.0006Nmの曲げ剛性が得られ、マルテンサイトニチノールの場合、約0.00006Nm~約0.0003Nmの曲げ剛性が得られる。
【0010】
好ましい実施形態では、補剛構造は、0.54mm~0.56mmの直径を有する断面形状を有するワイヤであり、その材料は、オーステナイトニチノールの場合、73GPa~85GPa、マルテンサイトニチノールの場合、23GPa~42GPaの弾性率を有する。
【0011】
補剛構造は、少なくとも、カテーテルの遠位端、例えば遠位端から少なくとも20cm、好ましくは少なくとも30cm等の高い曲げ力が生じ得る領域において、カテーテルの長さに沿って延びることができる。好ましくは、補剛構造は、カテーテルの遠位端から少なくとも40cm等の、患者の身体内に配置されたカテーテルの領域に沿って延びる。より好ましくは、補剛構造は、外科医によって扱われることになるカテーテルの領域内に、すなわち、カテーテルの遠位端から少なくとも50cm、更に延びる。最も好ましくは、補剛構造はカテーテルの全長に沿って延びる。患者の心臓への大腿部アクセス(動脈または静脈)を介した経皮挿入のためのカテーテルの一般的な長さは、100cm~150cmとすることができる。補剛構造も、100cm~150cmの長さを有することができる。カテーテルおよび補剛構造は、カテーテルが、鎖骨下動脈または腋窩動脈を通じて左心室内に挿入されるか、または頸静脈を通じて右心室に挿入されるように設計される場合、25cm~50cmの長さを有することができる。
【0012】
補剛構造は、手術全体の間および血液ポンプの動作中に、カテーテルをサポートし、ねじれを防ぐために、血液ポンプの動作中にカテーテル内に留まるように構成することができる。これは、心臓の動き、または血液ポンプのポンプ作用によって、血液ポンプの動作中に血液ポンプが心臓から押し出される傾向がある用途において有利であり得る。血液ポンプを心臓から押し出す傾向がないかまたは少ない用途では、補剛構造は、患者の身体内に血液ポンプを配置した後、カテーテルから除去するように構成することができる。これにより、カテーテルは、血液ポンプの動作中により可撓性になり、カテーテルが大動脈等のそれぞれの血管の形状により良好に適合することが可能になる。これによって、血管の内壁とカテーテルとの間の接触が低減し、また、ポンプが弁構造を押し得る力も低減することができる。
【0013】
上述したように、補剛構造は、好ましくは超弾性特性を有する材料、特に形状記憶材料、すなわち、変形された後に元の形状に戻る能力を有し、永久的なねじれに耐性がある材料を含むか、またはそこから作製される。形状記憶材料は、形状記憶合金、好ましくはニチノールとすることができる。特に、ニチノールは、ねじれを防ぐのに役立つ超弾性特性を示す。しかしながら、補剛構造のために、形状記憶特性を有するポリマー材料等の他の形状記憶材料が用いられてもよい。また、炭素繊維補強材料も用いられ得る。
【0014】
カテーテルの外側でのニチノール構造の使用については、国際特許出願第2013/160443A1号に記載されている。光ファイバーは、カテーテルを通って延び、カテーテルを出て、ニチノールチューブ内をカニューレの外側に沿って更に延びる。光ファイバーは、ニチノールチューブなしでカテーテルの内側に配置される。これと対照的に、本発明は、カテーテルのねじれを回避するためにカテーテルの長さに沿って連続して延びる、ニチノールロッドまたはワイヤまたはチューブ等の、形状記憶材料から作製された補剛構造を提供する。補剛構造は、補剛目的のみで提供され得る。特に、補剛構造は、好ましくはポンピングデバイスと別個であり、すなわちポンピングデバイスに接続されていない。しかしながら、いくつかの実施形態では、補剛構造は、誘導機能または保護機能等の追加の機能を有してもよい。
【0015】
カテーテルは、カテーテルを通して近位端から遠位端に延びる、少なくとも1つの管腔等の管腔を有することができる。補剛構造は、好ましくはカテーテルの管腔の内部に配設される。カテーテルが2つ以上の管腔を有する場合、補剛構造は、他のライン、例えば、電線、パージライン等を含む管腔と別個の管腔内に配設することができる。このため、一般的なカテーテルを用い、このカテーテルに、カテーテル管腔を通して補剛構造を挿入することにより補剛構造を設けることができる。好ましくは、補剛構造は実質的に自由浮動しているかまたは緩んでおり、すなわち、カテーテルの管腔の内部で固定されていない。特に、補剛構造の遠位端は自由にすることができ、すなわち血液ポンプの他の部分、例えばポンピングデバイスに取り付けられず、連動もしない。これにより、カテーテルの可撓性が向上する一方で、同時に、カテーテルが血管の形状に従うように曲がるときに補剛構造がカテーテル管腔内部で移動および摺動することができるため、カテーテルのねじれも効果的に防ぐ。これは、補剛構造がカテーテルの一方の側に固定して取り付けられていないことに起因して、カテーテルの可撓性が等方性の挙動を有することができる、すなわち、可撓性が任意の曲げ方向において同一であり得るという更なる効果を有する。
【0016】
代替的に、補剛構造は、カテーテルの壁に収容されるかもしくは埋め込まれてもよく、またはカテーテルの管腔内に挿入せずにカテーテルの外面に配置されてもよい。補剛構造は、少なくとも径方向において固定することができる。補剛構造は、例えばカテーテルが曲がるとき、カテーテルの長さに沿って軸方向に摺動可能であるように、軸方向に移動可能であり得る。例えば、補剛構造は、リング、ループ、小穴等のような任意の適切な取付具によってカテーテルの外面に固定することができる。代替的に、補剛構造は、カテーテルの外面にその全長に沿って固定されてもよい。
【0017】
1つの実施形態では、補剛構造は、少なくとも1つのロッドまたはワイヤを含む。別の実施形態では、補剛構造は、2つ、3つ、4つ以上のロッドまたはワイヤ等の、複数のロッドまたはワイヤを含む。1つ以上のロッドまたはワイヤの曲げ剛性に対する特性は、所望の全体曲げ剛性を提供するように合算されることが理解されよう。
【0018】
好ましくは、少なくとも1つのロッドまたはワイヤは中実であり、好ましくはロッドまたはワイヤの各々が中実である。中実ロッドは、補剛構造を提供するための、製造が容易であり、安価な構造である。別の実施形態では、ロッドは中空の断面を有する場合があり、すなわち管状である場合がある。管状のロッドまたはワイヤの場合、このチューブを用いて、例えばパージ流体を血液ポンプに供給することができる。少なくとも1つのロッド、好ましくはロッドの各々が、約0.3mm~0.6mm、好ましくは約0.54mm~0.56mmの直径を有することができる。単数または複数のロッドの直径は、長さに沿って一定である必要がないが、長さに沿って可変の可撓性を達成するために可変にすることができる。例えば、カテーテルの剛性がより高くなるべき領域では、単数または複数のロッドは、カテーテルがより軟質になるべき領域よりも大きな直径を有するか、または前記領域において同時に作用する多数のロッドを有することができる。ロッドの長さに沿って異なる材料を提供することによって、または所望の領域において増大した曲げ剛性を提供するジャケットを提供することによって、可変の可撓性も生成することができる。好ましくは、補剛構造は、その近位端、すなわち使用者によって操作される端部において、より大きな剛性を提供し、このため、より高い曲げ剛性が必要となり得る。遠位端は、カテーテルが血管内に前進することを可能にするように、近位端よりも低い曲げ剛性を有することができる。この目的で、補剛構造は、遠位端に向けてテーパリングすることができる。
【0019】
単数または複数のロッドは、任意の適切な断面形状、特に、円形、または卵型もしくは多角形等の他の形状、特に三角形、矩形、五角形、六角形または八角形を有することができる。1つの比較的厚いロッドが、2つ、3つ、4つ以上等の複数のより薄いロッドと同じまたは概ね同じ効果を達成することができることが理解されよう。補剛構造が2つ以上のロッドを含む場合、ロッドは編組され、実質的に中実の編み紐、または編組されたチューブ、すなわち中空の管状本体を形成することができる。ロッドの数に依存して、例えば3つのロッドが編組される場合、中実の編み紐は異なる方向において異なる曲げ剛性を有することができるのに対し、編組されたチューブは、全ての方向において同じ曲げ剛性を提供することができ、高いねじり剛性を提供することができる。
【0020】
1つの実施形態では、補剛構造は、回転対称でない断面を有することができる。特に、断面は、少なくとも2つの、特に2つの、交差する対称軸、好ましくは直交対称軸を有することができる。そのような断面は、例えば卵型または矩形とすることができる。この種の対称性は、2つ以上のロッド、例えば円形の断面を有する2つのロッドを互いに隣接して配置することによって達成することもできる。より一般的には、補剛構造の曲げ剛性は、異なるにおける補剛構造の曲げに対して異ならせることができる。これはカテーテルのナビゲーションにおいて有用であり得る。特に、カテーテルは、面内で湾曲している場合があり、補剛構造は、カテーテルが湾曲している面内における曲げに対し最小曲げ剛性を有する場合がある。これは、カテーテルが湾曲している面内で、カテーテルがより容易に曲がることができるのに対し、他の面内における曲げはより困難であることを意味する。

【0021】
好ましくは、少なくとも1つのロッドまたはワイヤは直線状または線形であり、これは、カテーテルの湾曲の結果生じる湾曲を除いて、起伏等を一切有しないことを意味する。
【0022】
前述の要約、ならびに、好ましい実施形態の以下詳細な説明は、添付の図面に関連して読んだときにより良く理解されるであろう。本開示を例証する目的で、参照が図面について行われる。しかしながら、本開示の範囲は、図面に開示した特定の実施形態に限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】血液ポンプが大動脈を通じて左心室に挿入された患者の心臓を示す図である。
図2】補剛構造を有する図1の血液ポンプのカテーテルを概略的に示す図である。
図3】異なる実施形態による補剛構造を有するカテーテルを概略的に示す図である。
図4】異なる実施形態による補剛構造を有するカテーテルを概略的に示す図である。
図5】異なる実施形態による補剛構造を有するカテーテルを概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1において、患者の心臓H内に挿入される血液ポンプが示される。より詳細には、血液ポンプは、カテーテル10に取り付けられたポンピングデバイス1を備え、このカテーテル10によって、ポンピングデバイス1は、下行大動脈DAおよび大動脈弓AAを含む大動脈AOを介して患者の心臓Hの左心室LV内に挿入される。カテーテル10は、遠位端11および近位端12を有する。血液ポンプは、大動脈AO内で患者の心臓Hの外側に配設される血流出口3を有する一方で、血流入口2は、左心室LVの内側に配置されたフローカニューレ4と流体連通する。インペラ(図示せず)がポンピングデバイス1内に設けられ、血流入口2から血流出口3への血流を発生させる。血液ポンプの遠位端において、周囲の組織に損傷を引き起こすことなく患者の心臓H内への血液ポンプの挿入を容易にするために、ピグテールまたはJ字形先端等の軟質先端5が配置される。また、軟質先端5は、軟組織を血流入口2から離しておき、ポンピングデバイス1を左心室LVの内壁に対し支持するのに役立つ。
【0025】
ここで図2を参照すると、図1の血液ポンプのカテーテル10が示されている。カテーテル10は遠位端11から近位端12に延び、カテーテル10を通って延びる管腔13を有する。図1に示すようなカテーテル10の遠位端11に取り付けられたポンピングデバイス1は図2には示されていない。カテーテル10の管腔13はカテーテル10の壁14によって画定され、この壁14は、約0.1mm~1mm、例えば0.5mmの壁厚を有することができる。カテーテル10は、2mm~4mm、例えば約3mm(9フレンチの寸法に対応する)の外径を有することができる。したがって、カテーテルの内径は、例えば約2mm(7フレンチの寸法に対応する)とすることができる。細長いロッド15の形態の補剛構造がカテーテル管腔13の内部に配設され、遠位端16から近位端17に延びる。管状の補剛構造15は、カテーテル10を通ってカテーテルの遠位端11からその近位端12まで連続的に延びる。パージラインまたは電気線材等の、カテーテル10を通って延びる場合がある他の構造は、明確にするために図2では省かれている。
【0026】
ロッド15は、特に、ニチノールから作製され、カテーテル10がねじれることを防ぐのに十分な曲げ剛性を与える一方で、カテーテル10が、大動脈AO、特に大動脈弓AA等の血管の形状に適合するように曲がることを可能にする。図2に示すように、ロッド15は、カテーテル10の管腔13内で自由浮動しており、すなわち、緩んでおり、カテーテル10の内部で固定されていない。このため、ロッド15は、カテーテル管腔13の内部で移動しながら、カテーテル10と僅かに異なる曲率半径に従うことができる。ロッド15は、管腔13内部で、特に軸方向に摺動することも許容され、これはカテーテル10の可撓性にとって有利であり得る。ロッド15の遠位端16は自由であり、特に、ポンピングデバイス1またはポンピングデバイス1の一部に取り付けられていない。ロッド15の遠位端および近位端の双方、またはその少なくとも一方は、カテーテル10または他の隣接した構造に貫入することを回避するために、軟質先端で保護するかまたは包むことができる。
【0027】
ロッド状の補剛構造は、好ましくは、中実の断面を有し、すなわち、管腔等がそこを通って延びていないが、異なる断面形状を有してもよい。
【0028】
別の実施形態(図示せず)では、ロッドは管状とすることができ、パージ流体のための、またはガスを供給するためのラインとして機能することができる。したがって、管状ロッドは、輸送される流体またはガスの存在を必要とするポンプまたは他の構造に取り付けることができる。
【0029】
図3に示すように、断面形状は、好ましくは円形であるか、または実質的に円形である。別の実施形態では、図4に示すように、ロッド15Aは矩形または正方形の断面を有することができる。更に別の実施形態では、図5に示すような3つのロッド15B等の複数のロッド15Bを提供することができる。上記ロッド15Bは、形状およびサイズに関して同一に形成されてもよく、異なっていてもよい。別の実施形態(図示せず)では、複数のロッドは編組されてもよい。ロッド15Bの曲げ剛性は、補剛構造の所望の総曲げ剛性まで合算された値となる。
【0030】
補剛構造15、15Aおよび15Bのうちの任意のものを互いに組み合わせることができることが理解されよう。図3図5に示すように、パージ流体をポンピングデバイス1に供給するためのパージ流体ライン18、および電力をポンピングデバイス1に供給するための電気線材19をカテーテル管腔13に挿入することができる。補剛構造15は、カテーテル10がねじれることを防ぐのに特に有用である。ねじれはパージライン18を遮蔽し、パージ圧力が過度に高いかまたは潤滑が遮断されることに起因した血液ポンプの故障につながる。
【0031】
上記で説明したように、ロッド15は、カテーテル10を通って長手方向に直線状に延び、ねじれに対するカテーテルの耐性を増大させることができる。ロッド15は、患者内へのポンピングデバイス1の挿入中にカテーテル10内に挿入することができる。ロッド15は、カテーテル内に留まってもよく、または挿入後にカテーテル10を可撓性にし、したがって周囲組織に対し、より外傷を与えないようにするために除去されてもよい。
【0032】
補剛構造15は、その形状、サイズおよび構成にかかわらず、形状記憶材料、好ましくは形状記憶合金、特にニチノールを含むか、またはそこから作製される。特にこの材料に起因して、補剛構造15は、カテーテル10が、ねじれることなく、すなわち塑性変形が生じることなく、10mm以下の曲げ半径で曲がる、すなわち弾性変形することを可能にする。曲げ半径は、カテーテルの中心軸に対して測定される。このため、形状記憶材料で作製された補剛構造15を有するカテーテル10、例えばニチノールワイヤを有するカテーテルは、より良好な曲げ剛性を提供する。所望の曲げ剛性特性は、主に、ニチノールの超弾性特性から結果として生じる。カテーテルのねじれを防ぐことは、例えばカテーテル内部の管状ラインの遮蔽を防ぐために重要である。
図1
図2
図3
図4
図5