(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-17
(45)【発行日】2024-05-27
(54)【発明の名称】無線通信システムおよび無線通信システムの通信方法
(51)【国際特許分類】
H02J 50/80 20160101AFI20240520BHJP
H02J 50/12 20160101ALI20240520BHJP
【FI】
H02J50/80
H02J50/12
(21)【出願番号】P 2020006212
(22)【出願日】2020-01-17
【審査請求日】2023-01-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090273
【氏名又は名称】國分 孝悦
(72)【発明者】
【氏名】玉木 寛人
【審査官】右田 勝則
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-063698(JP,A)
【文献】特開2012-105478(JP,A)
【文献】特開2019-176692(JP,A)
【文献】特開2015-208150(JP,A)
【文献】特開2018-183051(JP,A)
【文献】特開2011-244684(JP,A)
【文献】特表2022-509325(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 50/80
H02J 50/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
送電コイルと、
基準信号に対して、0またはπの移相量の移相を行うことにより、スイッチング制御信号を出力する移相回路と、
前記スイッチング制御信号を
用いて、入力電圧をスイッチングし、前記スイッチングした電圧を前記送電コイルに印加するスイッチ回路と、
前記送電コイルが送電する電力を電磁界結合により受電する受電コイルと、
前
記基準信号を無線送信する送信回路と、
前記送信回路が無線送信す
る基準信号
を無線受信する受信回路と、
前記
無線受信した基準信
号と、前記受電コイルが受電した電力との位相差を検出し、前記位相差が
、前記移相量を除いて略0になるように、
前記無線受信した基準信号を移相し
た信号を出力する信号処理部と、
前記
信号処理部から出力された信号を用いて、前記受電コイルが受電した電圧
を整流し、前記整流した電圧を負荷に供給する整流回路と
を有することを特徴とする無線通信システム。
【請求項2】
前記受電コイルが受電した電力と前記
無線受信した基準信号を基にI信号を生成し、前記受電コイルが受電した電力と前記
無線受信した基準信号を90°移相した信号を基にQ信号を生成する直交検波回路をさらに有し、
前記信号処理部は、前記I信号と前記Q信号を基に、前記位相差を検出することを特徴とする請求項1に記載の無線通信システム。
【請求項3】
前記送信回路に接続される送信結合器と、
前記受信回路に接続される受信結合器とをさらに有することを特徴とする請求項1または2に記載の無線通信システム。
【請求項4】
前記受電コイルと前記受信結合器は、前記送電コイルと前記送信結合器に対して、相対的に平行移動することを特徴とする請求項3に記載の無線通信システム。
【請求項5】
前記送信回路は、前記送信結合器の長手方向に対して略中央に接続されることを特徴とする請求項3または4に記載の無線通信システム。
【請求項6】
前
記基準信号を基
に信号を生成する第1のPLL回路と、
前記
無線受信した基準信号を基
に信号を生成する第2のPLL回路とを有することを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の無線通信システム。
【請求項7】
前記負荷は、モータであることを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の無線通信システム。
【請求項8】
前記受電コイルに接続される共振回路をさらに有することを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載の無線通信システム。
【請求項9】
移相回路
が、基準信号に対して、0又はπの移相量の移相を行うことにより、スイッチング制御信号を出力するステップと、
スイッチ回路が、前記スイッチング制御信号を
用いて、入力電圧をスイッチングし、前記スイッチングした電圧を送電コイルに印加するステップと、
受電コイルが、前記送電コイルが送電する電力を電磁界結合により受電するステップと、
送信回路が、前
記基準信号を無線送信するステップと、
受信回路が、前記送信回路が無線送信す
る基準信号
を無線受信するステップと、
信号処理部
が、前記無線受信した基準信
号と、前記受電コイルが受電した電力との位相差を検出し、前記位相差が
、前記移相量を除いて略0になるように、前記
無線受信した基準信
号を移相
した信号を出力するステップと、
整流回路が、
前記信号処理部から出力された信号を用いて、前記受電コイルが受電した電圧
を整流し、前記整流した電圧を負荷に供給するステップと
を有することを特徴とする無線通信システムの通信方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線通信システムおよび無線通信システムの通信方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、モータ等の負荷部への給電の無線化が求められる状況がある。例えば半導体露光装置では、ウエハを露光位置に移動させるためのステージ上に、ウエハ上にパターンを形成するために微細移動させるモータが搭載されており、そのモータを駆動するためのケーブルがステージ上に接続されている。このケーブルは、ステージの移動に併せて動くため、ケーブルの張力がステージの位置決め精度に影響を与えている。そこで、モータ駆動を無線化することにより、ケーブル張力による外乱を低減することが望まれている。
【0003】
モータへの給電の無線化に関して、特許文献1には、車輪を無線で駆動するモータの構成が記載されている。無線でモータを駆動するためには、電力伝送だけでなく、モータ駆動回路用の制御信号も無線で送る必要があるため、電波を用いた無線通信を行っている。この通信を用いて可動側にあるモータ駆動回路へ制御信号を送ることで、モータ駆動回路の制御を実現している。さらに、電波を用いた無線通信には数百μs~数msの遅延時間が生じるため、無線通信を用いずに可動側に駆動電流や駆動電圧などの検出回路を設け、検出値に基づきフィードバック制御を行うことで、整流回路の制御を実現している。
【0004】
一方、モータの駆動信号は、微弱な数mVから百V程度の広範囲にわたり、線形に入力する必要がある。ダイオードを用いた整流回路では、ダイオードのオン電圧付近で非線形な特性となってしまうため、アクティブスイッチング素子を用いた同期整流回路による非接触給電装置の制御方法が特許文献2に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6219495号公報
【文献】特許第5928865号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、無線で供給される電力に基づいてモータ等の負荷部に印加される電圧を高精度に制御することが求められている。特許文献1に記載の方法は、電波を用いた無線通信に数百μs~数msの遅延が生じるため、モータ駆動回路への制御信号を数百μs以下の周期で送ることができない。また、整流回路の制御にあたって、受電側で電流の検出結果を用いるため、モータ駆動電圧が微弱である場合に検出誤差が生じてしまう可能性があり、制御誤差の増大が懸念される。
【0007】
本発明の目的は、無線で供給される電力に基づき負荷に印加する電圧を高精度に制御できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の無線通信システムは、送電コイルと、基準信号に対して、0またはπの移相量の移相を行うことにより、スイッチング制御信号を出力する移相回路と、前記スイッチング制御信号を用いて、入力電圧をスイッチングし、前記スイッチングした電圧を前記送電コイルに印加するスイッチ回路と、前記送電コイルが送電する電力を電磁界結合により受電する受電コイルと、前記基準信号を無線送信する送信回路と、前記送信回路が無線送信する基準信号を無線受信する受信回路と、前記無線受信した基準信号と、前記受電コイルが受電した電力との位相差を検出し、前記位相差が、前記移相量を除いて略0になるように、前記無線受信した基準信号を移相した信号を出力する信号処理部と、前記信号処理部から出力された信号を用いて、前記受電コイルが受電した電圧を整流し、前記整流した電圧を負荷に供給する整流回路とを有する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、無線で供給される電力に基づき負荷に印加する電圧を高精度に制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】無線通信システムの構成例を示す斜視図である。
【
図2】無線通信システムの構成例を示すブロック図である。
【
図4】直交検波回路の動作を示すタイミングチャートである。
【
図5】直交検波回路の動作を示すタイミングチャートである。
【
図6】受電器の位置と伝搬遅延時間の関係を示す図である。
【
図7】受電器の位置と伝搬遅延時間の関係を示す図である。
【
図8】無線通信システムの構成例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態による無線通信システム300の構成例を示す斜視図である。無線通信システム300は、例えば半導体露光装置であり、固定側装置と可動側装置を有する。
【0012】
固定側装置は、可動ステージ401を可動するための動力源402と、送電装置100と、送電器110とを有する。送電器110は、動力源402上に配置され、
図2の送電コイル111と送信結合器112が搭載される。送電装置100は、動力源402上に配置され、送電器110に必要な信号または電力を供給する。送電装置100と送電器110は、固定側装置に配置され、動かないことを前提として説明するが、例えば半導体露光装置が粗動ステージと微動ステージにより構成されるような場合には、固定側装置が粗動ステージ上に搭載され、可動するような構成であってもよい。
【0013】
可動側装置は、可動ステージ401と、受電装置200と、受電器210とを有する。受電装置200と受電器210は、可動ステージ401の上に配置される。受電器210は、送電器110より送電された電力または信号を受電または受信する。受電装置200は、モータ駆動用信号を出力する。
【0014】
受電器210は、
図2の受電コイル211と受信結合器212を有する。受電コイル211と受信結合器212は、送電器110の送電コイル111と送信結合器112に対して、互いに非接触にて電磁結合状態となるように配置され、可動ステージ401と共に移動する。この時、送電器110を可動ステージ401の移動範囲をカバーするように長尺にすることで、可動ステージ401が任意の位置に移動しても、非接触に給電することができる。
【0015】
なお、送電コイル111と受電コイル211は、プリント基板の配線で形成してもよく、プリント基板に磁性シートを貼付して磁界結合時の損失を低減してもよい。また、送電コイル111と受電コイル211は、フェライト等の磁性体とリッツ線等の巻線を用いた巻線トランスでもよい。また、送電コイル111の形状は、例えば横長の楕円形のコイルであり、受電コイル211の形状は、送電コイル111に比べて短尺なコイルであってもよい。また、受電コイル211が長尺であり、送電コイル111が短尺であってもよい。
【0016】
送信結合器112は、例えばプリント基板に配置された長尺な差動信号配線であり、一端が基準信号を入力し、他端が差動信号配線の特性インピーダンスなどの種々の終端回路により終端される。受信結合器212は、例えばプリント基板で形成された方向性結合器などで構成され、受電装置200の差動入力に接続される。送信結合器112と受信結合器212の各差動信号配線が対向して電磁界結合することにより、信号が伝達される。
【0017】
なお、送信結合器112と受信結合器212は、電磁界結合通信の他に、光結合通信によって非接触伝送する手段によって置き換えることができる。例えば、レーザや指向性の鋭い発光ダイオードを固定側装置に配置し、可動ステージ401の移動方向に沿って発光させておき、その光路上に受光面が位置するようにフォトダイオードなどの受光素子を可動側装置に配置すればよい。
【0018】
図2は、第1の実施形態による無線通信システム300の構成例を示すブロック図である。無線通信システム300は、送電装置100と、送電器110と、受電装置200と、受電器210と、モータ400とを有する。送電器110と受電器210の間は物理的には接続されておらず、送電コイル111から受電コイル211へモータ駆動用制御電力が非接触で送られる。
【0019】
なお、モータ400を微細駆動するためには、微弱な駆動信号を伝送する必要があり、ダイオード整流では対応できないため、アクティブスイッチ素子を用いた同期整流回路206が必須となる。この同期整流回路206に必要な基準信号を送信結合器112と受信結合器212を用いて伝送する。以下、無線通信システム300の通信方法を説明する。
【0020】
コントローラ103は、光学センサなどから得られる現在の可動ステージ401の位置情報(モータ400の位置情報)を基に、次の位置の指令を電源104と移相回路102に出力する。具体的には、コントローラ103は、モータ400の推力を決める出力電圧振幅値Aを電源104に出力し、モータ400の動く向きを決めるモータ印加電圧符号情報φを移相回路102に出力する。
【0021】
電源104は、モータ400を駆動する電力源である。コントローラ103が電源104へ指令信号として出力電圧振幅値Aを出力することで、電源104は、所望の出力電圧をスイッチ回路106に出力する。
【0022】
移相回路102は、コントローラ103が出力するモータ印加電圧符号情報φを基に、基準周波数源105が生成する基準信号(基準周波数信号)に対して、0またはπの移相量の移相を行うことにより、スイッチング制御信号をスイッチ回路106に出力する。
【0023】
スイッチ回路106は、移相回路102が出力するスイッチング制御信号を基にスイッチング素子を駆動し、電源104から供給される入力電圧を高周波スイッチングし、スイッチングした無線電力伝送可能な高周波電圧を送電コイル111に印加する。このとき、スイッチング周波数は、コントローラ103の指令信号の周期、すなわちモータ制御周波数よりも高周波である。以上の処理によって、送電コイル111には、モータ制御に必要な情報を含んだ送電電圧(電流)が供給される。
【0024】
受電コイル211は、送電コイル111が送電する電力を、非接触かつ電磁界結合により受電する。受電回路204は、受電コイル211に接続される。受電回路204は、インダクタとコンデンサを含んだ共振回路で形成されており、その共振周波数は、スイッチ回路106のスイッチング動作周波数、または基準周波数源105の周波数と略等しい。
【0025】
受電回路204の出力端子は、同期整流回路206に接続される。同期整流回路206は、ゲート駆動回路205のスイッチング制御信号によってアクティブスイッチング素子のゲートを駆動し、受電回路204が出力する電力を同期整流する。同期整流回路206は、モータ400の駆動周波数に対応する平滑回路を含んでおり、平滑化された制御信号をモータ400へ供給する。モータ400は、負荷であり、制御信号を基に駆動する。
【0026】
同期整流回路206は、アクティブスイッチング素子を用いた同期整流をすることで、ダイオードでは整流できない数mVの小さな電圧でも整流でき、微小電圧をモータ400に印加することができるため、モータ400を高精度に制御可能である。また、一般的な同期整流回路は、スイッチング素子を4個使用して実現するが、この場合、正負両方に変化する電圧を出力することができない。なぜなら、スイッチング素子には、ボディーダイオードやそれと等価の寄生素子が存在し、スイッチング素子は、ドレインおよびソース間に逆バイアスがかかると、ゲートの駆動状態にかかわらず、ドレインおよびソース間が導通状態になってしまうためである。そのため、同期整流回路206は、2つのスイッチング素子で構成される双方向スイッチング素子を有する。この構成とすることで、ゲート駆動回路205がオン制御を実施しない限り、同期整流回路206の双方向スイッチング素子が導通することはなく、同期整流回路206は、正負に両方に変化する電圧を出力することが可能となる。なお、同期整流回路206のソースおよびゲート間駆動電源は、絶縁電源等によって構成され、各ソース電位を基準として5~10V程度の電圧を供給可能な浮動電源から供給することで実現できる。
【0027】
次に、ゲート駆動回路205が同期整流回路206に出力するスイッチング制御信号について述べるために、無線通信システム300の動作原理を数学的観点で説明する。
図2中の電圧F1~F8は、各部の電圧波形の関数である。電圧F1は、電源104の出力電圧であり、モータ400の駆動に必要な電圧の絶対値である。電圧F1は、[数1]で表すことができる。
【0028】
【0029】
電圧F4は、基準周波数源105の出力電圧であり、[数2]で表される。ここでは、便宜上、電圧F4は、正弦波として示すが、矩形波を用いてもよい。
【0030】
【0031】
電圧F3は、移相回路102がコントローラ103の指令に従って電圧F4を位相差φだけ移相したスイッチ回路制御信号であり、[数3]で表される。厳密に言えば、電圧F3は、スイッチング素子のデットタイムが挿入されるが、送電装置100が共振状態にあれば、無視することができるので、便宜上、デットタイムは、[数3]には表現しない。
【0032】
【0033】
電圧F2は、スイッチ回路106の出力電圧である。スイッチ回路106は、モータ400の駆動に必要な電圧を無線電力伝送に適した高周波電力に変換する回路であり、電圧F1とF3を時間軸上で掛け合わせる掛け算器として考えることができる。よって、電圧F2は、[数4]で与えられる。
【0034】
【0035】
電圧F2は、送電コイル111から受電コイル211へ電磁界結合を介して伝搬し、受電回路204によって力率調整がなされた後、同期整流回路206へ入力される。なお、便宜上、ここでは、送電コイル111と受電コイル211は、電圧比1:1で理想的に結合されていると仮定する。電圧比が1:1でない場合は、所望の特性となるように、振幅Aを調整すればよい。電圧F5は、同期整流回路206入力電圧であり、[数5]で与えられる。
【0036】
【0037】
ここで、θ1は、送電コイル111から同期整流回路206の直前に至るまでの伝搬遅延と、受電回路204の共振のずれによる位相差の総和である。送信結合器112は、基準周波数源105に接続される。受信結合器212は、受信回路202に接続される。基準周波数源105は、送信回路であり、送信結合器112および受信結合器212を介して、受信回路202に基準信号を無線送信する。受信回路202は、基準周波数源105が送信結合器112および受信結合器212を介して無線送信した基準信号を無線受信する。電圧F6は、受信回路202の出力電圧であり、[数6]で表すことができる。
【0038】
【0039】
ここで、θ2は、送信結合器112から受信結合器212に至るまでの伝搬遅延と、受信回路202による遅延時間などの総和である。ここで、仮に、同期整流回路206が受信回路202の出力電圧F6で同期整流したとする。電圧F8は、同期整流回路206の出力電圧である。同期整流回路206は、スイッチ回路106と同様に、掛け算器として考えることができるので、同期整流回路206の出力電圧F8は、電圧F5とF6を時間軸上で掛け合わせた電圧であり、[数7]で与えられる。
【0040】
【0041】
ここで、[数7]について、第1項目は掛け算により発生する高調波成分を意味している。同期整流回路206の出力電圧F8は、電力伝送周波数に対して十分低いインピーダンスを示す平滑用コンデンサ等により平滑化されるため、高調波成分は無視できる程度に減衰する。結果として、電圧F8は、[数7]の第2項目で表される。したがって、電圧F8は、モータ400の駆動電圧であり、[数8]で与えられる。
【0042】
【0043】
[数8]は、移相回路102の移相量φによって、電圧F8を正弦的に可変可能であることを示している。なお、[数8]の最大値は、電源104の電圧F1の半分と読み取れるが、これはスイッチ回路106を正弦波駆動した場合の結果である。スイッチ回路106をデューティ比50%の理想矩形波で駆動したと仮定すれば、[数8]の最大値は、電源104の電圧F1と同一になる。その場合の電圧F8は、電圧F8’で表される。電圧F8’は、[数9]で表される。
【0044】
【0045】
ここで、位相差θは、θ1-θ2である。また、モータ印加電圧符号情報φは、モータ400の正転・逆転に応じて、0またはπ(180°)の値をとる。モータ印加電圧符号情報φを0とπで交互に切り替えたとき、電圧F8’は、[数10]で与えられる。
【0046】
【0047】
ここで、θ1は、送電コイル111から同期整流回路206の直前に至るまでの伝搬遅延と、受電回路204の共振のずれによる位相差の総和である。θ2は、送信結合器112から受信結合器212に至るまでの伝搬遅延と、受信回路202による遅延時間などの総和である。つまり、[数10]において、θ1とθ2が等しく、θ=0の時、電圧F8’の絶対値は、電源104の出力電圧Aと等しくなり、最も理想的となる。
【0048】
そこで、直交検波回路201がθ1とθ2の位相ずれ量を検出し、信号処理部209が受信回路202の出力電圧F6を補正する。つまり、信号処理部209は、受信回路202の出力電圧F6の位相をθ2からθ1となるように移相し、電圧F7をゲート駆動回路205に出力する。電圧F7は、[数11]で表される。
【0049】
【0050】
同期整流回路206は、電圧F7のスイッチング制御信号で、電圧F5をスイッチングした場合、[数12]の電圧F8を出力する。電圧F8は、電圧F5とF7の掛け算で表される。
【0051】
【0052】
ここで、[数7]から[数9]と同様に、平滑化と矩形波によるスイッチングを考慮すると、電圧F8は、[数13]で表される。
【0053】
【0054】
これにより、受電回路204の出力電圧F5と信号処理部209の出力電圧F7の位相がモータ印加電圧符号情報φの変化を除き一致する。そのため、モータ駆動電圧F8は、モータ印加電圧符号情報φにより正負の出力電圧として、コントローラ103から電源104へ出力された指令電圧と一致する。
【0055】
なお、ゲート駆動回路205の出力電圧は、信号処理部209の出力電圧に基づき、同期整流回路206のアクティブスイッチング素子をスイッチングするが、貫通電流による素子の破壊を防ぐためデットタイムなどが挿入される。
【0056】
以上で、無線通信システム300の動作を数学的に表すことができた。また、[数10]より、モータ400の正転・逆転制御を行うためには、電源104の電圧F1の値や伝搬遅延差θにかかわらず、モータ印加電圧符号情報φを0とπで切り替えればよいことが分かる。例えば、移相回路102の移相量φが0のとき、モータ駆動電圧F8が1Vだったとすると、移相回路102の移相量φがπに変化すると、モータ駆動電圧F8は-1Vに変化する。以上の動作を言い換えると、基準周波数源105とゲート駆動回路205が周波数同期してさえいれば、制御信号を非接触伝送することなく、モータ400の推力の正転または逆転を制御することが可能となる。なお、同期整流回路206、ゲート駆動回路205、直交検波回路201および信号処理部209の動作に必要な電力は、別途、送電されるものとする。
【0057】
次に、直交検波回路201について説明する。同期整流回路206の入力電圧F5は、[数5]で表される。ここで、φはモータ印加電圧符号情報であり、0またはπである。[数5]にφ=0を代入すると、位相角はωt-θ1となる。また、[数5]にφ=πを代入しても、位相角はωt-θ1となり、モータ印加電圧符号情報φによって変化しない。一方、信号処理部209の入力電圧F6は、[数6]で表される。つまり、同期整流回路206の入力電圧F5と信号処理部209の入力電圧F6とは、θ1-θ2だけ位相ずれが発生することとなる。直交検波回路201は、この位相差θを0にする、または可能な限り小さくすることを目的としている。信号処理部209は、受信回路202の出力電圧F6から、同期整流回路206の入力電圧F5に同期した電圧F7を生成する。
【0058】
図3は、直交検波回路201の一例を示す図である。受電コイル211で受電したモータ駆動用信号から同期検波用の位相情報を得るため、トランス500は、受電回路204の受電電流に同期した誘導電流をピックアップする。この誘導電流は、抵抗によって電圧に変換され、コンパレータ501によってデジタル信号に変換される。コンパレータ501の出力信号A1は、排他的論理和回路502Iと502Qの一方に入力される。排他的論理和回路502Iの他方の入力には、信号処理部209より基準信号A2が入力される。移相回路505は、基準信号A2を90°移相した基準信号A5を出力する。排他的論理和回路502Qの他方の入力端子には、基準信号A5が入力される。
【0059】
ローパスフィルタ503Iは、排他的論理和回路502Iの出力信号A3の低周波数成分を通過させ、信号A4をアナログデジタル変換器504Iに出力する。ローパスフィルタ503Qは、排他的論理和回路502Qの出力信号A6の低周波数成分を通過させ、信号A7をアナログデジタル変換器504Qに出力する。アナログデジタル変換器504Iは、信号A4をアナログ信号からデジタル信号に変換することにより、I信号を生成する。アナログデジタル変換器504Qは、信号A7をアナログ信号からデジタル信号に変換することにより、Q信号を生成する。
【0060】
信号処理部209は、アナログデジタル変換器504Iにより変換されたデジタル信号を、正の範囲の信号から、-1~1の符号付き信号へと変換し、正規化されたI信号を得る。また、信号処理部209は、アナログデジタル変換器504Qにより変換されたデジタル信号を、正の範囲の信号から、-1~1の符号付き信号へと変換し、正規化されたQ信号を得る。例えば、信号処理部209は、アナログデジタル変換器504Iおよび504Qにより変換されたデジタル信号に対して、0.5を減算し、2を乗じる演算を行うことにより、オフセットバイナリと呼ばれる形式に変換し、正規化する。このようにして、信号処理部209は、受電回路204が受電したモータ駆動用信号と基準信号A2との位相差をI信号とQ信号として検出することができる。
【0061】
信号処理部209は、移相量φを除き、受信回路202が出力する基準信号と、受電回路204が出力する電力との位相差を検出し、その位相差が0になるように、受信回路202が出力する基準信号を移相し、移相した基準信号をゲート駆動回路205に出力する。ゲート駆動回路205は、信号処理部209が出力する基準信号を基に、スイッチング制御信号を同期整流回路206に出力する。同期整流回路206は、ゲート駆動回路205が出力するスイッチング制御信号を基に、受電回路204が出力する電圧をスイッチングにより整流し、整流した電圧をモータ400に供給する。
【0062】
図4(a)は、受電したモータ駆動用信号(同期整流回路206への入力信号)と基準信号A2が同期している場合のタイミングチャートである。横軸は時間示し、縦軸は正規化した電圧を示す。信号A1は、コンパレータ501の出力信号である。信号A2は、信号処理部209から出力される基準信号である。信号A3は、排他的論理和回路502Iの出力信号である。信号A4は、ローパスフィルタ503Iの出力信号である。信号A5は、基準信号A2に対して位相が90°シフトした信号である。信号A6は、排他的論理和回路502Qの出力信号である。信号A7は、ローパスフィルタ503Qの出力信号である。
【0063】
図4(a)の左半分は、モータ印加電圧符号情報φが0の時のモータ駆動用信号の伝送時のタイミングチャートである。
図4(a)の右半分は、モータ印加電圧符号情報φがπの時のモータ駆動用信号の伝送時のタイミングチャートである。モータ印加電圧符号情報φが0の時は、モータ駆動電圧F8が基準電位に対して正となる。モータ印加電圧符号情報φがπの時は、モータ駆動電圧F8が基準電位に対して負となる。
【0064】
受電したモータ駆動用信号と基準信号A2が同期している場合、ローパスフィルタ503Iの出力信号A4は、モータ印加電圧符号情報φの値により0または1となる。モータ印加電圧符号情報φの切り替え時に、出力信号A4が遷移する時間は、ローパスフィルタ503Iの時定数等の特性に依存する。一方、ローパスフィルタ503Qの出力信号A7は、伝送されるモータ駆動用信号の論理にかかわらず0.5となる。
【0065】
図4(b)は、同期整流回路206の入力信号に対して基準信号A2がΔtだけ遅れている場合のタイミングチャートである。このΔtは、同期整流回路206の入力信号と基準信号A2との位相差θに相当する。位相差θが存在する時、
図4(b)のローパスフィルタ503Iの出力信号A4は、
図4(a)のローパスフィルタ503Iの出力信号A4からαだけずれる。同様に、
図4(b)のローパスフィルタ503Qの出力信号A7は、
図4(a)のローパスフィルタ503Qの出力信号A7からαだけずれる。
【0066】
図4(c)は、I信号およびQ信号と位相差θの関係を示す図である。位相差θは、[数14]で表される。
【0067】
【0068】
信号処理部209は、演算やテーブル等により、I信号とQ信号から位相差θを演算し、Δtを求める。そして、信号処理部209は、Δtだけ基準信号A2をずらすことによって、受電したモータ駆動用信号と基準信号が同期するように作用する。
【0069】
同期整流回路206の入力電圧F5と信号処理部209の出力電圧F7の位相差θが0、つまり同期している状態になったとしても、モータ印加電圧符号φによって、I信号は-1または1と変化してしまう。しかしながら、Q信号は0を保持する。つまり、信号処理部209は、Q信号が常に0となるように制御すればよい。
【0070】
コンパレータ501がヒステリシス特性を有するコンパレータである場合、コンパレータ501は、ヒステリシスの範囲を超える入力を必要とする。一方で、モータ駆動用信号は、微調整時には数mV程度の範囲になる可能性があり、コンパレータ501が正しく識別できなくなる場合がある。この場合、コンパレータ501の出力信号A1は、識別不能になる直前の論理に固定されてしまう。
【0071】
図5は、コンパレータ501が正しく識別できなくなった場合のタイミングチャートである。例えば、コンパレータ501の出力信号A1がハイレベルに固定される。この時、ローパスフィルタ503Iの出力信号A4とローパスフィルタ503Qの出力信号A7は、0.5となり、信号処理部209は、I信号とQ信号がともに0と認識してしまう。つまり、コンパレータ501がモータ駆動用信号を正しく識別できない場合、I信号とQ信号は、単位円の原点付近に位置することとなる。このことから、信号処理部209は、I信号とQ信号の関係が単位円からはずれた場合、直交検波回路201による位相追従を一旦停止するのがよい。この場合の対処方法としては、信号処理部209は、検出不可状態の前の位相状態で基準信号を固定するか、あらかじめ取得した可動ステージ401の位置情報と位相差θの関係を示すテーブルを用意し、そのテーブルに従って位相を変化させる。
【0072】
なお、このような状態は、コンパレータ501が識別できないほど送電電力が小さい場合に発生するため、発熱による加工精度の劣化は少ないと考えられる。トランス500は、大きな受電電力を受けたとしても、コンパレータ501の入力定格を超えないように巻き数比やトランスの定格等が選択される。受電電流に同期した信号を得るためにトランス500を使用したが、トランス500の代わりに、フォトカプラ等を使用してもよい。また、コンパレータ501は、ヒステリシス特性をもっていてもよく、その場合は、ノイズ耐性が向上する。一方で、コンパレータ501は、ヒステリシス特性により位相のオフセットが発生するため、その分の遅延時間分を信号処理部209等で補正する必要がある。また、コンパレータ501の入力電圧がヒステリシス特性より低い時は、コンパレータ501は、入力電圧を正しく識別できないため、I信号とQ信号は、単位円よりはずれてしまう。この場合は、前述のような対処を必要とする。本実施形態では、デジタル信号処理による直交検波回路201の例を説明するが、無線システム等で使用されるアナログ回路方式による直交検波回路なども適用することができる。
【0073】
無線通信システム300の初期シーケンスについて説明する。同期整流回路206は、前述のように双方向スイッチング素子を使用する場合、ゲート駆動回路205よりゲート制御信号を入力しなければ、動作しない。また、モータ印加電圧符号情報φによってI信号およびQ信号が変動するため、あらかじめモータ印加電圧符号情報φを決定しておき、同期した状態を確立した後、無線通信システム300を稼働させる必要がある。
【0074】
(第2の実施形態)
図6(a)は、第2の実施形態による送電器110と受電器210の構成例を示す図である。送電器110は、送電コイル111と送信結合器112を有する。受電器210は、受電コイル211と受信結合器212を有する。送信結合器112は、左端が基準周波数源105により給電され、右短が終端された差動伝送線路で構成される。受電コイル211と受信結合器212は、送電コイル111と送信結合器112に対して、相対的に平行移動する。
【0075】
図6(b)は、第2の実施形態による受電器210の位置による伝搬遅延時間の違いを示すグラフである。モータ制御用信号は、送電コイル111と受電コイル211間の磁界結合により伝送される。また、同期整流用の基準信号は、送信結合器112と受信結合器212間の電磁界結合により伝送される。
【0076】
送信結合器112は、左端が基準周波数源105により給電され、右短が終端された差動伝送線路で構成される。そのため、送信結合器112の左端より給電された基準信号が、送信結合器112の右端に到着するのに、伝搬時間を要する。具体的には、送信結合器112が長さ600mmで比誘電率4のFR-4基板により形成される場合、送信結合器112の左端の基準信号が送信結合器112の右端に到着するまでに約4n秒かかる。よって、受電器210の位置により、基準信号の伝搬遅延時間が変動し、基準信号の位相が変動する。
図6(b)の実線が基準信号の伝搬遅延時間を示す。なお、
図6(b)は、受電器210が左端にある場合の伝搬遅延時間を基準とするために0にしている。
【0077】
一方、送電コイル111は、コイル形状である。そのため、受電器210の位置によらず、送電コイル111から送電された信号の位相と受電コイル211の出力信号の位相は、ほぼ一定となる。
図6(b)の破線は、受電コイル211が出力するモータ制御用信号の伝搬遅延時間を示す。このことより、モータ制御用信号の位相と同期整流用の基準信号は、受電器210の移動に伴い、位相が変動することがわかる。このように、可動ステージ401の移動に伴い、受電器210が移動することで、基準信号の位相が変動することに対して、直交検波回路201を用いて変動に追従する。
【0078】
一方で、
図7(a)のように、基準周波数源105が送信結合器112に給電する位置は、送信結合器112の長手方向に対して略中央であり、送信結合器112の両端は、終端回路に接続することができる。基準周波数源105は、送信結合器112の長手方向に対して略中央に接続される。ただし、その場合は、送信結合器112を左右に2分割し、分配器等を用いて送信結合器112に給電する必要がある。
【0079】
図7(b)は、実線が基準信号の伝搬遅延時間を示し、破線がモータ制御用信号の伝搬遅延時間を示す。基準信号の給電位置を送信結合器112の略中央にすることにより、
図7(b)の基準信号の伝搬遅延時間は、
図6(b)の基準信号の伝搬遅延時間の半分に抑制することができる。
【0080】
本実施形態によれば、信号処理部209は、I信号とQ信号の変動が小さくなるため、位相差検出誤差を小さくすることができる。
【0081】
(第3の実施形態)
図8は、第3の実施形態による無線通信システム300の構成例を示す図である。
図8の無線通信システム300は、
図2に対して、分周回路801,802と、PLL回路803,804と、制御装置805,806と、制御用電源送電回路807と、送電コイル808と、受電コイル809と、制御用電源受電回路810を追加したものである。
【0082】
PLL回路803は、位相ロックループ回路であり、基準周波数源105が出力する基準信号に同期した基準信号を分周回路801に出力する。分周回路801は、PLL回路803が出力する基準信号を分周し、分周した基準信号を移相回路102に出力する。PLL回路803と分周回路801は、基準周波数源105が出力する基準信号に同期した基準信号を移相回路102に出力する。制御装置805は、基準周波数源105とPLL回路803を制御する。制御装置805は、PLL回路803の周波数を設定する。なお、コントローラ103がPLL回路803の周波数を設定してもよい。
【0083】
PLL回路804は、位相ロックループ回路であり、受信回路202が出力する基準信号に同期した基準信号を分周回路802に出力する。分周回路802は、PLL回路804が出力する基準信号を分周し、分周した基準信号を信号処理部209に出力する。PLL回路804と分周回路802は、受信回路202が出力する基準信号に同期した基準信号を信号処理部209に出力する。制御装置806は、PLL回路804の周波数を設定する。
【0084】
制御用電源送電回路807は、送電コイル808を介して、制御用電源電力を送電する。制御用電源受電回路810は、受電コイル809を介して、制御用電源電力を受電し、各部の電源ポートに電源電力を供給する。
【0085】
信号処理部209は、受電回路204が出力するモータ制御用信号と、信号処理部209が出力する基準信号の位相ずれを補正することができる。さらに、送電コイル111が送電するモータ制御用信号と、送信結合器112が送信する基準信号は、異なる周波数に設定することができる。このメリットは、複数軸のモータの制御を行いたいときに、周波数分離が可能になり、送電コイル111の電力と送信結合器112の信号の干渉を抑制することができる点にある。
【0086】
第1~第3の実施形態によれば、無線通信システム300は、微弱なモータ駆動用信号を正確にかつ効率良く伝送できるため、発熱を少なくすることができる。また、無線通信システム300は、高速化を妨げる要因であった、基準信号の伝送遅延の影響を低減し、モータ制御の高速化を実現できる。
【0087】
なお、上記実施形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその技術思想、又はその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【符号の説明】
【0088】
100 送電装置、102 移相回路、103 コントローラ、104 電源、105 基準周波数源、106 スイッチ回路、110 送電器、111 送電コイル、112 送信結合器、200 受電装置、201 直交検波回路、202 受信回路、204 受電回路、205 ゲート駆動回路、206 整流回路、209 信号処理部、211 受電コイル、212 受信結合器、400 モータ