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特許7490381線状体の張力、線状体の曲げ剛性及び線状体に取り付けられたダンパの特性の算定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-17
(45)【発行日】2024-05-27
(54)【発明の名称】線状体の張力、線状体の曲げ剛性及び線状体に取り付けられたダンパの特性の算定方法
(51)【国際特許分類】
   G01L 5/10 20200101AFI20240520BHJP
   F16F 15/02 20060101ALI20240520BHJP
   G01M 7/08 20060101ALI20240520BHJP
【FI】
G01L5/10 C
F16F15/02 D
G01M7/08 C
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020021800
(22)【出願日】2020-02-12
(65)【公開番号】P2020165953
(43)【公開日】2020-10-08
【審査請求日】2023-01-18
(31)【優先権主張番号】P 2019022778
(32)【優先日】2019-02-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019063625
(32)【優先日】2019-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成31年1月5日に発行された「金沢大学・京都大学・神戸大学・岐阜大学・福井高専冬季合同ゼミ予稿集京都大学」に掲載
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成31年1月5日岐阜大学工学部101番教室において開催された「金沢大学・京都大学・神戸大学・岐阜大学・福井高専冬季合同ゼミ」で発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成31年2月5日京都大学桂キャンパスCクラスターC1棟 グローバル人融ホール(C1-311)において開催された「京都大学工学部地球工学科(土木工学・国際コース)特別研究発表会」で発表
(73)【特許権者】
【識別番号】000192626
【氏名又は名称】神鋼鋼線工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100137143
【弁理士】
【氏名又は名称】玉串 幸久
(72)【発明者】
【氏名】古川 愛子
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 克也
(72)【発明者】
【氏名】小林 亮介
【審査官】羽飼 知佳
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第109060219(CN,A)
【文献】特開平11-271155(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01L 5/04-5/108
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダンパが取り付けられた線状体の張力を算定する方法であって、
前記線状体上の任意の点における振動を検出し、前記検出された振動に基づいて複数モードの固有振動数の実測値を得ることと、
前記ダンパが前記線状体に配置されていることを表す境界条件を用いて設定された複数モードの固有振動数、張力、曲げ剛性及び前記ダンパの特性により生ずる位相ずれの間の関係を表す式を用いて、前記複数モードの固有振動数の算定値と前記実測値との間の比較に基づいて、前記線状体の前記張力を算定することと、を備えている
張力の算定方法。
【請求項2】
前記線状体の前記張力を算定する工程において、前記実測値と前記算定値との間のズレを表すように、前記張力、前記曲げ剛性及び前記位相ずれを変数として用いて設定された目的関数の値が、最小になるときの張力の値を、前記線状体に作用している前記張力として決定する
請求項1に記載の算定方法。
【請求項3】
前記目的関数が最小になるときの前記張力の前記値を、所定の閾値と比較することを更に備え、
前記目的関数が最小になるときの前記張力の前記値が前記閾値を下回っている条件の下で、前記目的関数が最小になるときの前記張力の前記値を、前記線状体に作用している前記張力として決定する
請求項2に記載の算定方法。
【請求項4】
前記実測値を得ることは、前記線状体の全長の複数モードの固有振動数の実測値を得ることを含み、
前記線状体の前記張力を算定する工程において、前記目的関数として、前記算定値が前記線状体の全長の複数モードの固有振動数を表すように設定された第1目的関数を用いて、前記線状体の前記張力を算定する
請求項2又は3に記載の算定方法。
【請求項5】
前記実測値を得る工程において、前記ダンパによって分けられた前記線状体の2つのスパンのうち長い方のスパンの複数モードの固有振動数を得て、
前記線状体の前記張力を算定する工程において、前記目的関数として、前記算定値が前記長いスパンの複数モードの固有振動数を表すように設定された第2目的関数を用いて、前記線状体の前記張力を算定する
請求項2又は3に記載の算定方法。
【請求項6】
前記実測値を得る工程において、前記線状体の全長の複数モードの固有振動数の実測値を得るとともに、前記ダンパによって分けられた前記線状体の2つのスパンのうち長い方の複数モードの固有振動数の実測値を得て、
前記線状体の前記張力を算定する工程において、前記目的関数として、前記算定値が前記線状体の全長の複数モードの固有振動数を表すように設定された第1目的関数及び前記算定値が前記長いスパンの複数モードの固有振動数を表すように設定された第2目的関数を用い、前記第1目的関数及び前記第2目的関数によってそれぞれ算出される前記ズレのうち小さい方のズレが得られるときの前記張力の前記値を、前記線状体に作用している前記張力として決定する
請求項2又は3に記載の算定方法。
【請求項7】
線状体に取り付けられたダンパの特性を算定する方法であって、
前記線状体上の任意の点における振動を検出し、前記検出された振動に基づいて複数モードの固有振動数の実測値を得ることと、
前記ダンパが前記線状体に配置されていることを表す境界条件を用いて設定された複数モードの固有振動数、張力、曲げ剛性及び前記ダンパの前記特性により生ずる位相ずれの間の関係を表す式を用いて、前記複数モードの固有振動数の算定値と前記実測値との間の比較に基づいて、前記ダンパの前記特性を算定することと、を備えている
ダンパの特性の算定方法。
【請求項8】
ダンパが取り付けられた線状体の曲げ剛性を算定する方法であって、
前記線状体上の任意の点における振動を検出し、前記検出された振動に基づいて複数モードの固有振動数の実測値を得ることと、
前記ダンパが前記線状体に配置されていることを表す境界条件を用いて設定された複数モードの固有振動数、張力、曲げ剛性及び前記ダンパの特性により生ずる位相ずれの間の関係を表す式を用いて、前記複数モードの固有振動数の算定値と前記実測値との間の比較に基づいて、前記線状体の前記曲げ剛性を算定することと、を備えている
曲げ剛性の算定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、線状体に作用している張力、線状体の曲げ剛性及び線状体に取り付けられたダンパの特性を算定するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
橋梁のケーブル、張弦梁や電線といったケーブルに作用している張力を算定するための様々な方法が案出されている(特許文献1及び2を参照)。これらの方法では、一次元梁でモデル化されたケーブルの固有振動数が算定される。固有振動数の算定値が、実際のケーブルの固有振動数に近い値であるならば、固有振動数の算定に用いられた張力の値は、実際のケーブルに作用している張力に近いということができる。したがって、固有振動数の算定値は、実際のケーブル上の任意の点に衝撃を与えることによって得られた振動データに現れる固有振動数の実測値と比較される。実測値に近い固有振動数の算定値が上述の一次元梁の振動方程式に代入され、ケーブルに作用している張力が算定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平9-101289号公報
【文献】特開平11-271155号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
張力の算定が行われるケーブルには、ケーブルの振動を抑制するための制振部品(以下、「ダンパ」と称される)が取り付けられていることがある。ダンパは、ケーブルの固有振動数に影響を与える。しかしながら、上述の算定方法は、ダンパを考慮することなく、ケーブルに作用している張力を算定している。したがって、ケーブルにダンパが取り付けられているときには、算定された張力は、ケーブルに実際に作用している張力とは大きく異なることがある。
【0005】
本発明は、ダンパが取り付けられた線状体に作用している張力、線状体の曲げ剛性及びダンパの特性を高い精度で算定する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一の局面に係る算定方法は、ダンパが取り付けられた線状体の張力の算定に利用可能である。算定方法は、前記線状体上の任意の点における振動を検出し、前記検出された振動に基づいて複数モードの固有振動数の実測値を得ることと、前記ダンパが前記線状体に配置されていることを表す境界条件を用いて設定された複数モードの固有振動数、張力、曲げ剛性及び前記ダンパの特性により生ずる位相ずれの間の関係を表す式を用いて、前記複数モードの固有振動数の算定値と前記実測値との間の比較に基づいて、前記線状体の前記張力を算定することと、を備えている。
【0007】
上記の構成によれば、張力の算定過程において、ダンパが線状体に配置されていることを表す境界条件が用いられているので、複数モードの固有振動数、張力、曲げ剛性及びダンパの特性により生ずる位相ずれの間で設定された関係式が成立する。したがって、上記の関係式を用いて得られた複数モードの固有振動数の算定値には、ダンパの特性により生ずる位相ずれが線状体に与える影響が反映されている。ダンパの影響が反映された複数モードの固有振動数の算定値が、ダンパ付きの線状体への加振から得られた複数モードの固有振動数の実測値と比較されるので、線状体の張力が精度よく算定される。
【0008】
上記の構成に関して、前記線状体の前記張力を算定する工程において、前記実測値と前記算定値との間のズレを表すように、前記張力、前記曲げ剛性及び前記位相ずれを変数として用いて設定された目的関数の値が、最小になるときの張力の値を、前記線状体に作用している前記張力として決定してもよい。
【0009】
上記の構成によれば、張力の算定過程において、ダンパが線状体に配置されていることを表す境界条件が用いられているので、複数モードの固有振動数、張力、曲げ剛性及びダンパの特性により生ずる位相ずれの間の関係式が成立する。この式から得られた算定値及び固有振動数の実測値及び算定値の間のズレを表す目的関数も、張力、曲げ剛性及びダンパの特性により生ずる位相ずれを変数として用いて設定される。目的関数の値が最小になるとき、固有振動数の実測値及び算定値の間のズレが小さくなる。目的関数の値が最小になるときの張力の値が、線状体に作用している張力として決定されるので、張力が精度よく算定される。
【0010】
上記の構成に関して、算定方法は、前記目的関数が最小になるときの前記張力の前記値を、所定の閾値と比較することを更に備えてもよい。前記目的関数が最小になるときの前記張力の前記値が前記閾値を下回っている条件の下で、前記目的関数が最小になるときの前記張力の前記値を、前記線状体に作用している前記張力として決定してもよい。
【0011】
上記の構成によれば、線状体の張力の決定は、目的関数が最小になるときの張力の値が閾値を下回っている条件の下で実行される。すなわち、固有振動数の実測値及び算定値がある程度近似している条件の下で、線状体の張力が決定される。したがって、線状体の張力は、所定の精度で算定される。目的関数の値が最小になるときの張力の値が閾値を下回っていないならば、実測された複数モードの固有振動数の候補値のデータが見直され得る。
【0012】
上記の構成に関して、前記実測値を得ることは、前記線状体の全長の複数モードの固有振動数の実測値を得ることを含んでいてもよい。前記線状体の前記張力を算定する工程において、前記目的関数として、前記算定値が前記線状体の全長の複数モードの固有振動数を表すように設定された第1目的関数を用いて、前記線状体の前記張力を算定してもよい。
【0013】
上記の構成によれば、固有振動数の実測値及び第1目的関数中の固有振動数の算定値はともに、線状体の全長の固有振動数を表している。両者ともに線状体の全長の固有振動数を表しているので、第1目的関数は、線状体の全長に対する固有振動数の実測値と算定値との間のズレを表すことになる。第1目的関数が用いられることにより、第1目的関数が最小になるときの張力の値は、線状体に作用している張力を精度よく表すことになる。
【0014】
上記の構成に関して、前記実測値を得る工程において、前記ダンパによって分けられた前記線状体の2つのスパンのうち長い方のスパンの複数モードの固有振動数を得てもよい。前記線状体の前記張力を算定する工程において、前記目的関数として、前記算定値が前記長いスパンの複数モードの固有振動数を表すように設定された第2目的関数を用いて、前記線状体の前記張力を算定してもよい。
【0015】
線状体の固有振動数のうちスパンの短い側だけに現れる振動モードに対するものは、スパンの長い側で計測した応答値から検出することができない。上記の構成によれば、固有振動数の実測値及び第2目的関数中の固有振動数の算定値はともに、ダンパによって分けられた線状体の2つのスパンのうち長い方のスパンの固有振動数を表している。第2目的関数は、長い方のスパンにおける両者の固有振動数間のズレを適切に表すことができる。第2目的関数が最小になるときの張力の値は、線状体に作用している張力として表される。
【0016】
上記の構成に関して、前記実測値を得る工程において、前記線状体の全長の複数モードの固有振動数の実測値を得るとともに、前記ダンパによって分けられた前記線状体の2つのスパンのうち長い方の複数モードの固有振動数の実測値を得てもよい。前記線状体の前記張力を算定する工程において、前記目的関数として、前記算定値が前記線状体の全長の複数モードの固有振動数を表すように設定された第1目的関数及び前記算定値が前記長いスパンの複数モードの固有振動数を表すように設定された第2目的関数を用い、前記第1目的関数及び前記第2目的関数によってそれぞれ算出される前記ズレのうち小さい方のズレが得られるときの前記張力の前記値を、前記線状体に作用している前記張力として決定してもよい。
【0017】
上記の構成によれば、線状体の全長についての固有振動数の実測値と算定値との間のズレが第1目的関数によって表される。線状体の長い方のスパンについての固有振動数の実測値と算定値との間のズレが第2目的関数によって表される。すなわち、実測値と算定値との間のズレの評価に関して、2種類の評価方法が用いられる。ダンパの種類や設置条件によっては、これらの評価方法のうち一方が他方の評価方法よりも適切であることがある。この場合、第1目的関数及び第2目的関数によって表されるズレのうち小さな方が得られたときの張力の値が、線状体に作用している張力として決定されるので、線状体の張力は精度よく算定される。
【0018】
本発明の他の局面に係る算定方法は、線状体に取り付けられたダンパの特性の算定に利用可能である。算定方法は、前記線状体上の任意の点における振動を検出し、前記検出された振動に基づいて複数モードの固有振動数の実測値を得ることと、前記ダンパが前記線状体に配置されていることを表す境界条件を用いて設定された複数モードの固有振動数、張力、曲げ剛性及び前記ダンパの前記特性により生ずる位相ずれの間の関係を表す式を用いて、前記複数モードの固有振動数の算定値と前記実測値との間の比較に基づいて、前記ダンパの前記特性を算定することと、を備えている。
【0019】
上記の構成によれば、ダンパの特性の算定過程において、ダンパが線状体に配置されていることを表す境界条件が用いられているので、線状体の固有振動数の算定値は、ダンパの特性により生ずる位相ずれに関連づけられている。したがって、複数モードの固有振動数の算定値には、ダンパの特性により生ずる位相ずれが線状体に与える影響が反映されている。この算定値が、線状体に衝撃を与えることによって得られた複数モードの固有振動数の実測値と比較されることにより、ダンパの特性が算定される。
【0020】
本発明の更に他の局面に係る算定方法は、ダンパが取り付けられた線状体の曲げ剛性の算定に利用可能である。算定方法は、前記線状体上の任意の点における振動を検出し、前記検出された振動に基づいて複数モードの固有振動数の実測値を得ることと、前記ダンパが前記線状体に配置されていることを表す境界条件を用いて設定された複数モードの固有振動数、張力、曲げ剛性及び前記ダンパの特性により生ずる位相ずれの間の関係を表す式を用いて、前記複数モードの固有振動数の算定値と前記実測値との間の比較に基づいて、前記線状体の前記曲げ剛性を算定することと、を備えている。
【0021】
上記の構成によれば、張力の算定過程において、ダンパが線状体に配置されていることを表す境界条件が用いられているので、複数モードの固有振動数、張力、曲げ剛性及びダンパの特性により生ずる位相ずれの間で設定された関係式が成立する。したがって、上記の関係式を用いて得られた複数モードの固有振動数の算定値には、ダンパの特性により生ずる位相ずれが線状体に与える影響が反映されている。ダンパの特性により生ずる位相ずれの影響が反映された複数モードの固有振動数の算定値が、ダンパ付きの線状体への加振から得られた複数モードの固有振動数の実測値と比較されるので、線状体の曲げ剛性が精度よく算定される。
【発明の効果】
【0022】
上述の技術は、線状体の張力及び曲げ剛性並びにダンパの特性を算定することを可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】ダンパが取り付けられたケーブルの固有振動数の測定に用いられる測定装置の概略図である。
図2】測定装置のケーブルを一次元梁としてモデル化した振動モデルの概略図である。
図3】算定処理を表す概略的なフローチャートである。
図4A】フーリエ変換処理後の振動データを表すグラフである。
図4B】フーリエ変換処理後の振動データを表すグラフである。
図5図3に示される処理のステップS125,S130において共通して行われる例示的な演算手順を表す概略的なフローチャートである。
図6】固有振動数の算定値及び実測値の間のズレの最小値を見出すための目的関数を概念的に表すグラフである。
図7】モード次数の設定に誤りを生じやすい振動データの一例を表すグラフである。
図8A】試験条件及び試験結果を表す表である。
図8B】試験結果を表すグラフである。
図9】第1算定式及び第2算定式のうちいずれか一方のみを用いた算定処理を表す概略的なフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
<第1実施形態>
図1は、ダンパ110が取り付けられたケーブル120の固有振動数の測定に用いられる測定装置100の概略図である。図2は、測定装置100のケーブル120を一次元梁としてモデル化した振動モデルの概略図である。振動モデルを用いて算出された固有振動数の算定値が、測定装置100のケーブル120に振動を与えることによって実測された固有振動数の実測値と比較される。固有振動数の実測値及び算定値の比較に基づいて、ケーブル120に作用している張力及びダンパ110の特性が算定される。張力の算定方法が、図1及び図2を参照して説明される。
【0025】
測定装置100は、ケーブル120の両端を支持するように離間した位置に配置された一対のフレーム131,132と、3つの支圧板134と、ロードセル133と、一対の定着具139と、を備えている。2つの支圧板134は、フレーム131,132の左面及び右面にそれぞれ取り付けられている。残りの支圧板134は、フレーム131に取り付けられた支圧板134から左方に離間した位置に配置されている。これらの支圧板134の間にロードセル133が配置されている。一対の定着具139は、最も左側及び最も右側の支圧板134の左側及び右側にそれぞれ配置され、ケーブル120が略水平な姿勢になるように、ケーブル120の両端を支持している。ケーブル120の全長は、一対の定着具139間の距離として定義され、以下の説明において、記号「L」を用いて表される。ロードセル133は、ケーブル120に作用している張力を検出するように構成されている。ロードセル133によって検出された張力は、算定精度の検証用に用いられるので、張力の算出に対してはロードセル133は必要とされない。支圧板134は、ケーブル120の張力に抗して、ケーブル120の端部をフレーム131の配置位置で固定している。
【0026】
測定装置100は、ケーブル120に取り付けられた加速度計135と、加速度計135から出力された信号を受信する計測器136とを更に含んでいる。加速度計135は、ケーブル120に生じた振動の加速度を検出するように構成されている。加速度計135の取付位置は、ケーブル120上の任意の位置であってもよい。好ましくは、加速度計135は、ケーブル120の撓みが大きくなることが予測される位置に取り付けられる。加速度計135から出力される信号は、振動の加速度を表している。計測器136は、振動の加速度の時間変化を記録するように構成されている。
【0027】
ダンパ110は、ケーブル120を2つのスパン121,122に分けるように、ケーブル120に取り付けられている。スパン121は、左側のフレーム131とダンパ110との間で延設されている。スパン122は、ダンパ110とダンパ133が配置された右側のフレーム132との間で延設されている。ダンパ110は、右側のフレーム132よりも左側のフレーム131の近くでケーブル120に取り付けられている。したがって、左側のスパン121は、右側のスパン122よりも短い。左側のスパン121の長さは、以下の説明において、記号「l」を用いて表される。右側のスパン122の長さは、以下の説明において、記号「l」を用いて表される。右側のスパン122には、上述の加速度計135が取り付けられている。
【0028】
右側のスパン122が、ハンマ137によって叩かれ、ケーブル120に衝撃が与えられる。この結果、ケーブル120が振動する。加速度計135の取付位置におけるケーブル120の振動の加速度が、加速度計135によって検出される。振動の加速度の時間変化が、計測器136によって記録される。記録された振動加速度のデータが解析され、ケーブル120の固有振動数の実測値データが得られる。
【0029】
図2に示されているモデルに関して、ケーブル120は、両端を単純支持された一次元梁としてモデル化されている。ケーブル120の両端の位置は、上述のフレーム131,132の位置に対応している。以下の数式は、一次元梁としてモデル化されるケーブルの時間tにおける位置xの撓みy(x、t)に関する運動方程式である。
【0030】
【数1】
【0031】
撓みy(x、t)が、以下の数式によって変数分離される。
【0032】
【数2】
【0033】
以下の数式は、変数分離された撓みy(x、t)を上述の運動方程式に代入することによって得られたX(x)の一般解を表している。
【0034】
【数3】
【0035】
図2のモデルに関して、スパン121,122は、ダンパ110を挟んで連結された2つの梁としてモデル化されている。スパン121に対応する梁のモード形状X(x)及びスパン122に対応する梁のモード形状X(x)は、以下の数式で表される。
【0036】
【数4】
【0037】
ケーブルの両端が単純支持されていることを表す境界条件が、以下の「数5」及び「数6」によって表される。「数5」は、ケーブルの左端の境界条件を表している。「数6」は、ケーブルの右端の境界条件を表している。
【0038】
【数5】
【0039】
【数6】
【0040】
以下の数式は、ダンパ110の設置位置においてスパン121,122がモデル化された梁それぞれの端部がダンパ110によって支持されているという境界条件を表している。以下の数式は、ダンパ110の設置位置において、ケーブル120の撓み、撓み角及び曲率が連続しており、且つ、鉛直方向において力が釣り合っているという条件の下で得られている。
【0041】
【数7】
【0042】
ダンパ110の特性が、図2に示されるように、バネとダッシュポッドで表される場合、上述の数式中の「k」は、以下の数式によって表される。
【0043】
【数8】
【0044】
ダンパ110の質量mが、ケーブル120の質量を鑑みて、無視することができない場合には、上述の数式中の「k」は、以下の数式によって表される。
【0045】
【数9】
【0046】
バネ要素を含まないダンパ(すなわち、オイルダンパ)が用いられる場合には、上述の数式中の「k」は、以下の数式によって表される。
【0047】
【数10】
【0048】
高減衰ゴムダンパが用いられるとき、「数9」は、複素バネを表すku,kvを用いて以下の如く書き換えられてもよい。
【0049】
【数11】
【0050】
上述の境界条件(「数5」~「数7」)が、上述の数式「数4」に代入されると、以下の数式が得られる。以下の数式は、「αl=α(L-l)」の関係式を用いて整理されている。
【0051】
【数12】
【0052】
上述の「数12」は、以下の数式に書き換え可能である。
【0053】
【数13】
【0054】
上述の「数13」の下段の式に関して、双曲線関数は、指数関数に書き換えられている。
【0055】
モード次数iとi次モードの固有振動数fとの間の関係が、以下の如く導かれる(iは、自然数)。
【0056】
上述の「数3」中の記号「α」,「β」は、固有振動数fを用いて、以下の如く書き換え可能である。
【0057】
【数14】
【0058】
上述の「数13」の上段の数式は、モード毎に成立するので、以下の数式が得られる。
【0059】
【数15】
【0060】
「数15」に、「数14」の上段の式が代入されると、以下の数式が得られる。
【0061】
【数16】
【0062】
「数16」の固有振動数fは、複素数である。しかしながら、図1を参照して説明された測定装置100から得られる固有振動数の実測値は、「数16」の固有振動数fの実部に相当する。したがって、測定装置100から得られる固有振動数の実測値と対比される固有振動数の算定値は、以下の数式で表される。
【0063】
【数17】
【0064】
「数17」の固有振動数fは、ケーブル120の全長Lの固有振動数の算定値を表している。「数17」は、複数モードの固有振動数f、ケーブル120の構造的特性(すなわち、曲げ剛性EI、密度ρ、断面積A及び全長L)、ケーブル120の張力T及びダンパ110の特性kの間の関係を示している。
【0065】
ここで、「数15」の両辺をαで割ると、以下の数式を得ることができる。
【0066】
【数18】
【0067】
「数18」のαを波数として考えると、π/αは波数がαの波の半波長分の長さと解釈され得る。すなわち、「数18」は、見かけ上のケーブル長(L-φ/α)の中に半波長π/αがi個含まれていると考えることができる。この点において、上述の算定式「数17」の次数iは、次数iにおいてケーブル120の全長に現れる半波長の数と捉えることができる。以降、同様の解釈に基づき、半波長の数という表現を用いる。
【0068】
「数15」の位相ずれφをスパン121における位相ずれ「φi1」とスパン122における位相ずれ「φi2」に分けると、以下の数式を得ることができる。
【0069】
【数19】
【0070】
また、スパン121,122について各モード次数において何個の半波長が現れるかという観点から、上述の「数15」の右辺を以下のように書き換えることもできる。
【0071】
【数20】
【0072】
「数15」の左辺の位相ずれの成分「φ」をスパン121,122の位相ずれ成分に分けて考えると、「数15」をスパン121,122それぞれについての等式に書き換えることができる。以下の「数21」は、スパン121についての等式である。以下の「数22」は、スパン122についての等式である。
【0073】
【数21】
【0074】
【数22】
【0075】
「数21」のαに「数14」のαに代入し、ケーブル120全長の固有振動数fをスパン121の固有振動数fに置き換えることができる。以下の数式は、スパン121の固有振動数fを表している。
【0076】
【数23】
【0077】
同様に、「数22」のαに「数14」のαに代入し、ケーブル120全長の固有振動数fをスパン122の固有振動数fに置き換えることができる。以下の数式は、スパン121の固有振動数fを表している。
【0078】
【数24】
【0079】
スパン121の位相ずれφi1と「数16」によって算定される位相ずれφとの関係は、以下のように求められる。まず、「数21」を変形して、スパン121の位相ずれφi1を以下のように表すことができる。
【0080】
【数25】
【0081】
ここで、位相ずれφi1の正接は、以下のように表される。
【0082】
【数26】
【0083】
同様に、位相ずれφi2の正接は、以下のように表される。
【0084】
【数27】
【0085】
「数26」及び「数27」に基づいて、以下の関係式が得られる。
【0086】
【数28】
【0087】
上述の「数16」及び「数24」に基づいて算出された固有振動数「f」,「f」の算定値それぞれが、測定装置100を用いた加振試験から実際に得られた振動データに基づく固有振動数と比較される。ケーブル120の全長の固有振動数「f」を表す「数16」は、以下の説明において、「第1算定式」と称される。長い方のスパン122の固有振動数「f」を表す「数24」は、以下の説明において、「第2算定式」と称される。
【0088】
上述の比較の結果に基づいて、ケーブル120に作用している張力Tが算定される。加振試験から張力Tを算定までの算定処理が、図1及び図3を参照して説明される。図3は、算定処理を表す概略的なフローチャートである。
【0089】
(ステップS105)
ケーブル120の構造データ(ケーブル120の全長L、ダンパ110の配置位置l(スパン122の長さl)、ケーブル120の密度ρ及びケーブル120の断面積A)が取得される。ケーブル120の構造データは、実測値であってもよいし、公称値であってもよい。取得された構造データは、第1算定式及び第2算定式を用いた固有振動数「f」,「f」の算出に利用される。構造データの取得の後に、ステップS110が実行される。
【0090】
(ステップS110)
測定装置100に取り付けられたケーブル120のスパン122が、ハンマ137によって叩かれ、ケーブル120に振動が加えられる。その後、ステップS115が実行される。
【0091】
(ステップS115)
ケーブル120に取り付けられた加速度計135が、ケーブル120の振動加速度を測定する。測定された振動加速度は、計測器136に時刻歴応答値として記録される。本実施形態に関して、加速度計135がケーブル120の振動の検出に用いられているので、ケーブル120の加速度の時間変化が時刻歴応答値として取得されている。しかしながら、ケーブル120の振動を検出するためにケーブル120の変位や速度を測定する装置が、ケーブル120に取り付けられているならば、時刻歴応答値は、ケーブル120の変位や速度の時間変化を表すデータであってもよい。時刻歴応答値の取得の後、ステップS120が実行される。
【0092】
(ステップS120)
時刻歴応答値に基づいて、ケーブル120の固有振動数の実測値が取得される。本実施形態に関して、時刻歴応答値のデータに対してフーリエ変換を行い、フーリエ変換後のデータのピーク値から固有振動数の実測値が取得される。しかしながら、固有振動数の取得のために他の解析手法が用いられてもよい。
【0093】
固有振動数の実測値が取得されるときに、取得された実測値に対してケーブル120の全長の振動のモード次数i(ケーブル120の全長に現れる半波長の数i)又はスパン122に現れる半波長の数nが付される。図1図3乃至図4Bを参照して、どのようにしてモード次数i又は半波長の数nが固有振動数の実測値に付されるかが説明される。図4A及び図4Bは、フーリエ変換処理後の振動データを表すグラフである。
【0094】
図4A及び図4Bの横軸は、周波数を表している。図4A及び図4Bの縦軸は、振動強度を表している。図4A及び図4Bには、比較的短いスパン121の振動の強度を表す曲線及び比較的長いスパン122の振動の強度を表す曲線が示されている。
【0095】
短いスパン121の振動の強度のピークが現れる周波数は、短いスパン121に由来して長いスパン122上の加速度センサ135から得られた応答値に現れた固有振動数の実測値を表している(この固有振動数は、仮に加速度計135が短いスパン121に取り付けられたときに得られた応答値データからも取得可能である)。長いスパン122の振動の強度のピークが現れる周波数は、長いスパン122に由来して長いスパン122上の加速度センサ135から得られた応答値に現れた固有振動数の実測値を表している(この固有振動数は、仮に加速度計135が短いスパン121に取り付けられたときに得られた応答値データには現れない)。スパン121,122に由来して長いスパン122上の加速度センサ135から得られた応答値に現れた固有振動数の実測値は、「スパン121,122の固有振動数の実測値」と称される。図4A及び図4Bの振動データは、2つのスパン121,122の固有振動数の実測値を表している。
【0096】
図4Aは、ケーブル120の全長の固有振動数の算定に用いられる第1算定式用のモード次数i(すなわち、ケーブル120の全長に現れる半波長の数i)の付し方を表している。第1算定式用のモード次数i(半波長の数i)は、スパン121の固有振動数であるか、スパン122の固有振動数であるかとは無関係に、小さな固有振動数から順にモード次数iが付されている。
【0097】
図4Bは、スパン122の固有振動数の算定に用いられる第2算定式用の半波長の数nの付し方を表している。図4Bの半波長の数nの付し方は、仮に加速度センサ135が短いスパン121に取り付けられたときに得られる応答値のみに現れ、加速度センサ135が長いスパン122に取り付けられたときには現れない固有振動数が存在する場合において、長いスパン122に加速度センサ135が取り付けられたときに得られる応答値のみが用いられる場合に有用である。
【0098】
固有振動数の取得、モード次数i及び半波長の数nの設定の後、ステップS125,S130が実行される。ステップS125は、第1算定式に基づいて、ケーブル120の張力T、ケーブル120の曲げ剛性EI、ダンパ110のバネ定数k、ダンパ110の減衰定数c及びダンパ110の質量mの最適解を得るために実行される。ステップS130は、第2算定式に基づいて、ケーブル120の張力T、ケーブル120の曲げ剛性EI、ダンパ110のバネ定数k、ダンパ110の減衰定数c及びダンパ110の質量mの最適解を得るために実行される。ステップS125,S130は、算定式においてのみ相違しており、共通の手順で行われる。
【0099】
最適解を得るために、第1算定式及び第2算定式それぞれから得られた固有振動数の算定値が、ステップS120で得られた固有振動数の実測値と比較され、固有振動数の算定値と実測値との間のズレが評価される。算定値と実測値との間のズレの評価のために、算定値と実測値との間のズレを表す目的関数Fが用いられる。以下の数式で表される目的関数Fは、算定値と実測値との間のズレとして残差平方和を表している。しかしながら、目的関数Fは、他の関数を用いて、算定値と実測値との間のズレを表してもよい(たとえば、固有振動数間のズレの絶対値の総和)。
【0100】
以下の「数29」は、第1算定式から得られた固有振動数の算定値とステップS120で得られた固有振動数の実測値との間の残差平方和を表す目的関数Fを示している。「数29」は、以下の説明において、第1目的関数と称される。以下の「数30」は、第2算定式から得られた固有振動数の算定値とステップS120で得られた固有振動数の実測値との間の残差平方和を表す目的関数Fを示している。「数30」は、以下の説明において、第2目的関数と称される。第1目的関数及び第2目的関数それぞれは、ケーブル120の張力、ケーブル120の曲げ剛性及びダンパ110の特性(ダンパ110のバネ定数k、ダンパ110の減衰定数c及びダンパ110の質量m)を変数とする関数である。
【0101】
【数29】
【0102】
【数30】
【0103】
第1目的関数及び第2目的関数は、ステップS125,S130においてそれぞれ用いられる。ステップS125,S130における処理が、図1図3図5及び図6を参照して説明される。図5は、ステップS125,S130において共通して行われる例示的な演算手順を表す概略的なフローチャートである。図6は、上述の目的関数Fを概念的に表すグラフである。
【0104】
図6の横軸は、ケーブル120に作用している張力T、ケーブル120の曲げ剛性EI、ダンパ110のバネ定数k、ダンパ110の減衰定数c又はダンパ110の質量mを表している。図6のグラフは、二次元座標として描かれているけれども、目的関数Fを用いた演算は、六次元座標(残差平方和、張力T、曲げ剛性EI、バネ定数k、減衰定数c及び質量mの6つ)上で行われる。
【0105】
(ステップS210)
ステップS125,S130それぞれが開始されると、ステップS210がまず実行される。ステップS210において、N通りの初期値が、張力T、曲げ剛性EI、バネ定数k、減衰定数c及び質量mに対して設定される。図6には、1~6通り目の初期値が表されている。初期値の設定の後、ステップS220が実行される。
【0106】
(ステップS220)
張力T、曲げ剛性EI、バネ定数k、減衰定数c及び質量mそれぞれの初期値が、第1算定式及び第2算定式に代入されると、初期値における固有振動数がモード次数i又は半波長の数n毎に算出される。目的関数Fに代入される張力T、曲げ剛性EI、バネ定数k、減衰定数c及び質量mの値は、ケーブル120に作用していると推定される張力T、ケーブル120の曲げ剛性EI及びダンパ110の特性k、c、mの候補値である。これらの候補値(すなわち、代入値)は、以下の説明において、「張力候補値」、「曲げ剛性候補値」、「バネ定数候補値」、「減衰定数候補値」及び「質量候補値」とそれぞれ称される。「バネ定数候補値」、「減衰定数候補値」及び「質量候補値」は、ダンパ110の特性を表す候補値であり、以下の説明において、「特性候補値」と総称される。モード次数i又は半波長の数n毎に算出された固有振動数は、ケーブル120の固有振動数の算定値の候補値であり、以下の説明において、「固有振動数の候補値」と称される。
【0107】
モード次数i又は半波長の数n毎に算出された固有振動数の候補値は、「数29」及び「数30」に示されるように、実測に基づく固有振動数f measured,f measuredとモード次数i又は半波長の数n毎に比較される。すなわち、固有振動数f measured,f measuredからの固有振動数の候補値のズレ(すなわち、残差)がモード次数i又は半波長の数n毎に算出される。その後、モード次数i又は半波長の数n毎に算出された残差の平方値の総和(すなわち、残差平方和)が算出される。得られた残差平方和は、初期値において得られたズレをモード次数i又は半波長の数nに亘って評価した評価値として用いられる。
【0108】
張力候補値、曲げ剛性候補値、バネ定数候補値、減衰定数候補値及び質量候補値のうち少なくとも1つが変更され、これらの算定値の新たな組み合わせが設定される。新たな組み合わせに基づいて、残差平方和が再度算出され、新たな残差平方和が前回の残差平方和を下回っているか否かが判定される。残差平方和の減少の程度に基づいて、算定値の組み合わせを新たに設定することを繰り返し、目的関数Fの極小値が探索される。
【0109】
図6には、4つの極小値(以下の説明において、「第1極小値」、「第2極小値」、「第3極小値」及び「第4極小値」と称される)が示されている。図6のグラフに関して、1通り目の初期値及び2通り目の初期値から探索が開始されると、第1極小値を得ることができる。3通り目の初期値から探索が開始されると、第2極小値を得ることができる。4通り目の初期値及び5通り目の初期値から探索が開始されると、第3極小値を得ることができる。6通り目の初期値から探索が開始されると、第4極小値を得ることができる。探索処理の後、ステップS230が実行される。
【0110】
(ステップS230)
ステップS220において得られた複数の極小値の中から最も小さなものが見出される。最も小さな残差平方和が得られたときの張力候補値、曲げ剛性候補値、バネ定数候補値、減衰定数候補値及び質量候補値の組が、目的関数Fの最適解として抽出される。図6のグラフに関して、第3極小値が最も小さいので、第3極小値の算出に用いられた張力候補値、曲げ剛性候補値、バネ定数候補値、減衰定数候補値及び質量候補値の組が目的関数Fの最適解として抽出される。最適解の抽出の後、ステップS135が実行される。
【0111】
(ステップS135)
ステップS125,S130で得られた最適解に対応する残差平方和(すなわち、目的関数Fの値)が、所定の閾値Xと比較される。ステップS125,S130で得られた残差平方和のいずれもが、閾値Xを上回っているならば、ステップS140が実行される。他の場合には、ステップS145が実行される。
【0112】
(ステップS140)
第1目的関数が用いられた場合において、残差平方和が閾値Xを上回る原因は、ステップS120において行われたモード次数iの設定に誤りがあるせいであると考えられる。たとえば、図7に示されるように、短いスパン121の固有振動数が、長いスパン122の固有振動数に近い場合、短いスパン121の固有振動数が見落とされることがある。この場合、図4A図7との比較から分かるように、「6」以降のモード次数iが1つずつずれる。モード次数iのずれを修正するために、ステップ140において、不明瞭なデータ部分を避けて、モード次数iが付されてもよい。その後、ステップS120が実行され、新たに設定されたモード次数iに基づいて、固有振動数の実測値が取得される。モード次数の設定に関して、実測の固有振動数のデータ中のノイズによってピークが明確に見出されない部分が存在する場合には、モード次数iはノイズを避けて付されてもよい。
【0113】
(ステップS145)
ステップS125,S130で得られた残差平方和のいずれもが、閾値Xを上回っていないならば、ステップS125で得られた残差平方和が、ステップS130で得られた残差平方和と比較される。これらの残差平方和のうち小さな方が得られたときの張力候補値、曲げ剛性候補値、バネ定数候補値、減衰定数候補値及び質量候補値の組が、最終最適解として決定される。
【0114】
ステップS130で得られた残差平方和のみが閾値Xを上回っている場合、ステップS125で得られた残差平方和に対応する張力候補値、曲げ剛性候補値、バネ定数候補値、減衰定数候補値及び質量候補値の組が、最終最適解として決定される。ステップS125で得られた残差平方和のみが閾値Xを上回っている場合、ステップS130で得られた残差平方和に対応する張力候補値、曲げ剛性候補値、バネ定数候補値、減衰定数候補値及び質量候補値の組が、最終最適解として決定される。最終最適解の決定の後、ステップS150が実行される。
【0115】
(ステップS150)
最終最適解として決定された張力候補値、曲げ剛性候補値、バネ定数候補値、減衰定数候補値及び質量候補値が出力される。加えて、最終最適解に対応する残差平方和も出力される。出力された張力候補値、曲げ剛性候補値、バネ定数候補値、減衰定数候補値及び質量候補値は、ケーブル120の張力T、ケーブル120の曲げ剛性EI、ダンパ110のバネ定数k、ダンパ110の減衰定数c及びダンパ110の質量mの算定値である。これらの算定値は、ケーブル120及びダンパ110の状態の評価に利用可能である。残差平方和は、出力された張力候補値、曲げ剛性候補値、バネ定数候補値、減衰定数候補値及び質量候補値の精度の評価に利用可能である。図3に示される処理において、ダンパ110のバネ定数k、ダンパ110の減衰定数c及びダンパ110の質量mが出力されている。しかしながら、ダンパ110として、高減衰ゴムダンパが用いられているならば、ダンパ110の特性として、高減衰ゴムの複素バネ要素を表すku,kv(及び質量m)が出力される(数11を参照)。
【0116】
図1を参照して説明された測定装置100を用いた試験結果が以下に説明される。図8Aは、試験条件及び試験結果を表す表である。図8Bは、試験結果を表すグラフである。
【0117】
試験条件に関して、ダンパ110の5つの設置位置が設定された。図1には、フレーム131からダンパ110までの距離が、記号「l」を用いて示されている。ケーブル120の全長L(すなわち、フレーム131,132間の距離)に対する距離lの比が、図8Aに示されている。ダンパ110の数に関して、設定された設置位置に2つのダンパ110が取り付けられた条件及び4つのダンパ110が取り付けられた条件が設定された。ダンパ110の種類に関して、防振ゴム及び高減衰ゴムが用意された。ダンパ110がケーブル120に取り付けられた条件に加えて、ダンパ110がケーブル120に取り付けられていない試験条件(試験条件1)も設定された。
【0118】
ケーブル120の張力を算定するために、第1算定式及び第2算定式が用いられた(第1算定式及び第2算定式は、「数11」に基づいて、k=ku+jkvの関係式を用いて導出されている)。加えて、張力は、ダンパ110の存在を考慮することなく張力を算定する算定手法(以下、「従来の算定式」と称される:特開平11-271155号公報を参照)を用いて算定された。従来の算定式から得られた張力は、記号「T」を用いて図8Aに示されている。第1算定式から得られた張力は、記号「T 」を用いて図8Aに示されている。第2算定式から得られた張力は、記号「T 」を用いて図8Aに示されている。
【0119】
ケーブル120の張力は、ロードセル133を用いて実測された。ロードセル133から得られた張力は、記号「T」を用いて図8Aに示されている。全ての試験条件について、ケーブル120の張力Tは180.3kNである。
【0120】
実測の張力Tに対する張力の算定値T,T ,T の比が、精度として評価された。当該比が、100%に近いほど、算定値T,T ,T が実測値Tに近いことを意味している。図8Bは、当該比を表すグラフである。
【0121】
ダンパ110がケーブル120に取り付けられていない試験条件1に関して、算定値T,T ,T のいずれもが実測値Tに近い値を示した。ダンパ110がケーブル120に取り付けられた試験条件2乃至16に関して、算定値T ,T のうち少なくとも一方は、算定値Tよりも実測値Tに近い値を示した。したがって、図3を参照して説明された算定方法は、従来の算定方法よりも高い精度でケーブル120に作用している張力Tを算定することができることが確認された。
【0122】
防振ゴムがダンパ110として用いられた試験条件8、11及び14に関して、第1算定式から得られた算定値T は、他の試験条件と較べて実測値Tに近い。一方、第2算定式から得られた算定値T は、試験条件8、11及び14において実測値Tから離れている。本試験結果に関しては、防振ゴムがダンパ110として用いられた場合には、第1算定式が張力の算定に用いられることが好ましいという結果になった。
【0123】
高減衰ゴムがダンパ110として用いられた試験条件9、10、12、13、15、16に関して、第2算定式から得られた算定値T は、他の試験条件と較べて実測値Tに近い。一方、第1算定式から得られた算定値T は、試験条件9、10、12、13、15、16において実測値Tから離れている。本試験結果に関しては、高減衰ゴムがダンパ110として用いられた場合には、第2算定式が張力の算定に用いられることが好ましいという結果になった。
【0124】
図3を参照して説明されたステップS145において、小さな残差平方和が得られた算定式から得られた最適解が最終最適解として決定される。したがって、ダンパ110が防振ゴムであっても高減衰ゴムであっても、図3を参照して説明された算定方法は、ケーブル120に作用している張力を高い精度で算定することができる。
【0125】
第1算定式(「数16」)及び第2算定式(「数24」)は、ケーブルがダンパにより支持されていることを表す境界条件(「数7」)を用いて導出されている。したがって、第1算定式及び第2算定式から得られた張力「T 」,「T 」は、ダンパの特性(バネ定数、減衰定数や質量など)を考慮して算定される。すなわち、第1算定式及び第2算定式は、ダンパが取り付けられたケーブルに作用している張力の算定に好適に利用可能である。図8A及び図8Bを参照して説明されたように、これらの算定式から得られた張力「T 」,「T 」は、従来の算定式から得られた張力「T」よりも高い精度を有している。
【0126】
張力「T 」,「T 」の算定に関して、複数の張力候補値、複数の曲げ剛性候補値、複数の特性候補値(バネ定数候補値、減衰定数候補値及び質量候補値)が、第1算定式及び第2算定式に代入される(図3のステップS125,S130)。これらの算定値が第1算定式及び第2算定式に代入されると、複数の固有振動数の候補値が得られる。これらの固有振動数の候補値及び固有振動数の実測値の残差平方和が、第1目的関数及び第2目的関数(「数29」,「数30」)を用いて算出される。第1目的関数及び第2目的関数は、モード次数i又は半波長の数nを用いて表される項を含んでいるので、固有振動数の候補値と固有振動数の実測値との間のズレを、算定に用いられたモード次数i又は半波長の数nに亘って評価するのに好適に利用可能である。
【0127】
第1目的関数及び第2目的関数の複数の極小値が、図6図5のステップS220)を参照して説明された探索手法を用いて見出される。その後、これらの極小値の中で最も小さな極小値が得られた張力候補値、曲げ剛性候補値及び特性候補値が最適解として抽出される(図5のステップS230)。したがって、第1算定式及び第2算定式から得られた最適解はともに、ケーブルに作用している張力、ケーブルの曲げ剛性及びダンパの特性を精度よく表すことができる。
【0128】
図8A及び図8Bを参照して説明されたように、ダンパの種類(或いは、ダンパの設置条件)によって、第1算定式及び第2算定式のうち一方から得られた最適解が、他方の最適解よりも精度において劣ることがある。第1算定式に基づく残差平方和が、第2算定式に基づく残差平方和よりも小さいならば、第1算定式から得られた最適解が、図3のステップS145において、最終最適解として決定される。逆に、第2算定式に基づく残差平方和が、第1算定式に基づく残差平方和よりも小さいならば、第2算定式から得られた最適解が、図3のステップS145において、最終最適解として決定される。したがって、ダンパに関する様々な条件の下で、図3を参照して説明された算定方法は、ケーブルの張力、曲げ剛性及びダンパの特性を精度よく算定することができる。
【0129】
図3のステップS150において、ケーブルの張力、曲げ剛性、ダンパの特性及び残差平方和が出力されている。しかしながら、出力の対象は、算定の目的に適合するように決定されてもよい。ケーブルの張力のみが必要とされているならば、ケーブルの張力のみが出力されてもよい。ダンパの特性の調査が算定の目的であるならば、ダンパの特性のみが出力されてもよい。
【0130】
ダンパの設置条件から第1算定式及び第2算定式のうちいずれの使用が好ましいかが判明している場合には、これらの算定式のうち好ましいもののみが算定に用いられてもよい。図9は、第1算定式及び第2算定式のうちいずれか一方のみを用いた算定処理を表している。図9の算定処理は、図3のステップS125,S130に代えて、第1算定式及び第2算定式のうち一方のみを用いて最適解を算出している点(ステップS127)において、図3を参照して説明された算定処理とは相違している。加えて、図9の算定処理は、第1算定式及び第2算定式の残差平方和の最小値の比較が行われるステップS145が実行されない点においても、図3を参照して説明された算定処理とは相違している。
【0131】
図9に示される算定処理に関して、スパン122に取り付けられた加速度センサ135から得られる応答値に短いスパン121に由来する応答値が現れていない場合には、第2算定式のみを用いた算定処理が有効である。スパン122に取り付けられた加速度センサ135から得られる応答値に短いスパン121に由来する応答値が現れている場合には、第1算定式のみを用いた算定処理が有効である。
【0132】
上述の実施形態に関して、第2算定式(「数24」)及び第2目的関数(「数30」)は、比較的長いスパン122についてまとめられている。上述の算定方法において、比較的短いスパン121についてまとめられた第3算定式(「数23」)及び第3目的関数が用いられてもよい。この場合、図3を参照して説明されたステップS120において、短いスパン121の固有振動数の実測値が抽出される。抽出された実測値が、第3算定式から得られた固有振動数の算定値と比較され、第3目的関数によってこれらの間のズレが評価される。最も小さなズレが得られたときの張力候補値が、ケーブル120の張力として算定される。
【0133】
図8A及び図8Bを参照して説明されたように、上述の算定方法は、ダンパを有していない条件下においても高い精度を達成することができる。したがって、ダンパの有無に拘わらず、一次元梁としてモデル化可能なケーブルに適用可能である。
【0134】
算定に用いられる固有振動数の次数の範囲は、実測された振動データから見出すことができる振動強度のピークの数に基づいて決定されてもよい。図8A及び図8Bに関連して説明された試験の固有振動数の次数の範囲は、1~7であった。当該試験において、固有振動数の次数の範囲を変更して、精度の検証が追加的に行われた。固有振動数の次数が、1~6の範囲から1~10の範囲であるとき、いずれの試験条件においても張力Tが高い精度で算出されることが検証された。
【0135】
上述の実施形態に関して、ケーブル120が線状体として例示されている。しかしながら、上述の技術は、一次元梁としてモデル化可能な他の部材(たとえば、鋼棒や単線)にも適用可能である。
【0136】
上述の実施形態に関して、ケーブル120の固有振動数の実測値を得るために、衝撃がケーブル120に与えられている。しかしながら、ケーブル120に作用する他の外力(たとえば、風や車からの振動)によって生じた振動に基づいて、ケーブル120の固有振動数の実測値が得られてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0137】
上述の実施形態に関連して説明された技術は、一次元梁としてモデル化可能な様々な線状体に作用している張力の調査やケーブルに取り付けられたダンパの特性の調査に好適に利用される。
【符号の説明】
【0138】
110・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ダンパ
120・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ケーブル
121,122・・・・・・・・・・・・・・・・スパン
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8A
図8B
図9