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特許7490382グラスライニング用スラリー組成物及びグラスライニング製品の製造方法
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  • 特許-グラスライニング用スラリー組成物及びグラスライニング製品の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-17
(45)【発行日】2024-05-27
(54)【発明の名称】グラスライニング用スラリー組成物及びグラスライニング製品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23D 5/00 20060101AFI20240520BHJP
   C03C 8/18 20060101ALI20240520BHJP
   C23D 5/02 20060101ALI20240520BHJP
【FI】
C23D5/00 J
C03C8/18
C23D5/02 A
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020021895
(22)【出願日】2020-02-12
(65)【公開番号】P2021127481
(43)【公開日】2021-09-02
【審査請求日】2022-10-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000209773
【氏名又は名称】エヌジーケイ・ケミテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】岩渕 宗之
(72)【発明者】
【氏名】河島 崇
(72)【発明者】
【氏名】後藤 秀樹
【審査官】隅川 佳星
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-116273(JP,A)
【文献】特開平11-199273(JP,A)
【文献】特開2002-047058(JP,A)
【文献】特開2009-143789(JP,A)
【文献】特開2011-162426(JP,A)
【文献】特開2013-151401(JP,A)
【文献】国際公開第2008/018357(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00 - 14/00
27/00 - 29/00
C23D 1/00 - 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フリットと、フリット100質量部に対して0.01~5質量部の金属繊維と、フリット100質量部に対して固形分で32~65質量部の水溶液の形態にある増粘剤と、フリット100質量部に対して0.01~0.2質量部の分散剤と、フリット100質量部に対して0~40質量部の溶媒とを含有するグラスライニング用スラリー組成物。
【請求項2】
直径0.1~2μm、長さ50~1000μmの金属繊維をフリット100質量部に対して0.01~5質量部含有する請求項1に記載のグラスライニング用スラリー組成物。
【請求項3】
金属繊維がステンレス系金属繊維、貴金属系金属繊維、及び白金と白金族金属との合金繊維からなる群から選択される1種又は2種以上を含む請求項1又は2に記載のグラスライニング用スラリー組成物。
【請求項4】
増粘剤として、フリット100質量部に対して固形分で32~65質量部のセルロース誘導体を含有する請求項1~3の何れか一項に記載のグラスライニング用スラリー組成物。
【請求項5】
セルロース誘導体がカルボキシメチルセルロースである請求項4に記載のグラスライニング用スラリー組成物。
【請求項6】
分散剤として、フリット100質量部に対して0.01~0.2質量部のポリカルボン酸系分散剤を含有する請求項1~5の何れか一項に記載のグラスライニング用スラリー組成物。
【請求項7】
ポリカルボン酸系分散剤がポリカルボン酸アンモニウム塩である請求項6に記載のグラスライニング用スラリー組成物。
【請求項8】
フリット100質量部に対して5~30質量部の溶媒を含有する請求項1~7の何れか一項に記載のグラスライニング用スラリー組成物。
【請求項9】
グラスライニング用スラリー組成物中のアルコール濃度が1質量%以下である請求項1~8の何れか一項に記載のグラスライニング用スラリー組成物。
【請求項10】
金属基材の表面上に、請求項1~9の何れか一項に記載のグラスライニング用スラリー組成物を施釉し、焼成することを含むグラスライニング製品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はグラスライニング用スラリー組成物及びグラスライニング製品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グラスライニング製品は、高耐食性や高製品純度が求められる化学工業、医薬品工業、食品工業、電子産業等の分野で用いられる。グラスライニング製品は低炭素鋼板及びステンレス鋼板等の金属基材を素地とし、この素地表面にSiO2を主成分とする所定の組成を有するグラスライニングスラリー組成物を融着させることで耐食性、不活性、耐熱性を兼備するグラスライニング層を形成することにより作製されている。
【0003】
従来のグラスライニング層は体積抵抗率が1×1010~1012Ω・mの絶縁材料であるため、導電率が低いベンゼン、ノルマルヘキサン等の有機物内容液を撹拌操業すると、内容液の発生電荷量が漏洩電荷量を大幅に上回って、静電気帯電が大きくなり、グラスライニング製品にアースを接地していてもグラスライニング層の絶縁破損を引き起こすことがあった。
【0004】
そこで、グラスライニング製品の静電気帯電を抑制するため、白金等の金属繊維をグラスライニングスラリー組成物中に配合して、導電性を高める技術が知られている(特許文献1:特許第3783742号公報、特許文献2:特許第3432399号公報)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第3783742号公報
【文献】特許第3432399号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
グラスライニング組成物中に金属繊維を配合する技術は、グラスライニング層の絶縁破損の防止に寄与してきたものの、更なる特性向上の余地が残されている。従って、本発明は一実施形態において、グラスライニング層における静電気帯電の抑制効果の向上に寄与するグラスライニング用スラリー組成物を提供することを課題とする。また、本発明は別の一実施形態において、そのようなグラスライニング用スラリー組成物を用いたグラスライニング製品の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
グラスライニング用スラリー組成物中の金属繊維は比重が大きい為、均一に分散しにくく、沈降しやすいことが分かった。このため、当該スラリー組成物を用いて形成したグラスライニング層中でも金属繊維が均一に分散されておらず、含有量を増やさなければ金属繊維による導電性の向上効果が十分に発揮されていないことを見出した。そこで、本発明者はグラスライニング用スラリー組成物中における金属繊維を均一分散させる手法について鋭意検討したところ、増粘剤と分散剤を組み合わせて所定量添加することと、その手順が有効であることを見出した。本発明は当該知見に基づき完成したものであり、以下に例示される。
【0008】
[1]
フリットと、フリット100質量部に対して0.01~5質量部の金属繊維と、フリット100質量部に対して32~65質量部の増粘剤と、フリット100質量部に対して0.01~0.2質量部の分散剤とを含有するグラスライニング用スラリー組成物。
[2]
直径0.1~2μm、長さ50~1000μmの金属繊維をフリット100質量部に対して0.01~5質量部含有する[1]に記載のグラスライニング用スラリー組成物。
[3]
金属繊維がステンレス系金属繊維、貴金属系金属繊維、及び白金と白金族金属との合金繊維からなる群から選択される1種又は2種以上を含む[1]又は「2」に記載のグラスライニング用スラリー組成物。
[4]
増粘剤として、フリット100質量部に対して32~65質量部のセルロース誘導体を含有する[1]~[3]の何れか一項に記載のグラスライニング用スラリー組成物。
[5]
セルロース誘導体がカルボキシメチルセルロースである[4]に記載のグラスライニング用スラリー組成物。
[6]
分散剤として、フリット100質量部に対して0.01~0.2質量部のポリカルボン酸系分散剤を含有する[1]~[5]の何れか一項に記載のグラスライニング用スラリー組成物。
[7]
ポリカルボン酸系分散剤がポリカルボン酸アンモニウム塩である[6]に記載のグラスライニング用スラリー組成物。
[8]
フリット100質量部に対して0~40質量部の溶媒を含有する[1]~[7]の何れか一項に記載のグラスライニング用スラリー組成物。
[9]
溶媒として、フリット100質量部に対して0~40質量部の水を含有する[8]に記載のグラスライニング用スラリー組成物。
[10]
グラスライニング用スラリー組成物中のアルコール濃度が1質量%以下である[1]~[9]の何れか一項に記載のグラスライニング用スラリー組成物。
[11]
金属基材の表面上に、[1]~[10]の何れか一項に記載のグラスライニング用スラリー組成物を施釉し、焼成することを含むグラスライニング製品の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一実施形態に係るグラスライニング用スラリー組成物によれば、導電性が向上することで静電気帯電の抑制効果が向上したグラスライニング層を得ることができる。また、本発明の別の一実施形態に係るグラスライニング用スラリー組成物によれば、導電性に加えて熱伝導性が向上したグラスライニング層を得ることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態に係るグラスライニング製品の層構造の模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(1.グラスライニング用スラリー組成物の用途)
本発明に係るグラスライニング用スラリー組成物は、グラスライニング層の形成に使用することができる。グラスライニング層には、例えば、グランドコート層(グラスライニング層のうち、最内層)、カバーコート層(グラスライニング層のうち、最外層)、及び中間層(グランドコート層及びカバーコート層に挟まれた層)が挙げられる。本発明に係るグラスライニング用組成物は、何れのグラスライニング層の形成に使用してもよい。例えば、グラスライニング層を構成する、すべての層を本発明に係るグラスライニング用組成物を用いて形成してもよいし、一部の層を本発明に係るグラスライニング用組成物を用いて形成してもよい。
【0012】
図1には、本発明の一実施形態に係るグラスライニング製品10の層構造例が模式的に示されている。グラスライニング製品10は、金属基材11の表面に、グランドコート層12、中間層13、及びカバーコート層14が順に積層された表面構造を有する。
【0013】
一実施形態において、グラスライニング層の合計厚みは0.6~1.8mmである。この合計厚みが1.8mm以下、好ましくは1.4mm以下であることで、熱伝導性向上効果が得られる。この合計厚みが0.6mm以上、好ましくは0.8mm以上であることで、製品として安全な耐食性が得られる。
【0014】
グラスライニング製品としては、限定的ではないが、反応機、撹拌翼、タンク(例:撹拌槽)、熱交換器、乾燥機、蒸発機、ろ過機等が挙げられる。
【0015】
(2.グラスライニング用スラリー組成物の組成)
<2-1 フリット>
本発明の一実施形態に係るグラスライニング用スラリー組成物はフリットを含有する。フリットの平均粒径は例えば1.5~20μmとすることができる。フリットの平均粒径の上限が20μm以下であることで、非常に薄い厚さでの施釉が可能となり、得られるグラスライニング層を著しく薄膜化することができ、また、フリット粒子間の隙間が小さくなるのでグラスライニング層中の内在気泡径を小さくすることができる。フリットの平均粒径は好ましくは15μm以下であり、より好ましくは10μm以下である。また、フリットの平均粒径の下限が1.5μm以上であることで、粒子の凝集が起りにくくなり薄膜化したときの膜厚の均一性を高めることができるという利点が得られる。フリットの平均粒径は好ましくは3μm以上であり、より好ましくは5μm以上である。本明細書において、フリットの平均粒径はレーザー回折法により体積基準の累積粒度分布を測定したときの、メジアン径(D50)を指す。
【0016】
上述のような粉体特性を有するフリットは、所定の組成を有するガラス溶融物を急冷・粗粉砕した後、アルミナボールを使用するボールミルにて乾式粉砕し、更に、分級及び粉砕を適宜実施することで得ることができる。
【0017】
フリットは一実施形態において、SiO2、TiO2、ZrO2を合計で41~72質量%含有する。フリットは好ましい実施形態において、SiO2を41~72質量%、TiO2を0~16質量%、ZrO2を0~10質量%含有する。
【0018】
また、フリットはNa2O、K2O、及びLi2Oの少なくとも一種を含有してもよい。フリットがNa2O、K2O、及びLi2Oの少なくとも一種を含有することにより、グラスライニング層と金属基材の熱膨張率を近づけることができ、両者の密着性を高めることができる。従って、グラスライニング用組成物を使用してグランドコート層(グラスライニング層のうち、最内層)を形成する場合には、フリットがNa2O、K2O、及びLi2Oの少なくとも一種を含有することが好ましい。フリットは一実施形態において、Na2O、K2O、及びLi2Oを合計で8~22質量%含有する。フリットは好ましい実施形態において、Na2Oを8~22質量%、K2Oを0~16質量%、Li2Oを0~10質量%含有する。一方、グラスライニング用組成物を使用してカバーコート層(グラスライニング層のうち、最外層)を形成する場合には、グラスライニング用組成物がNa2Oを含有しないことでナトリウム成分の溶出を抑制可能である。ナトリウム成分の溶出を抑制することは、半導体やTFT型パネルのようにナトリウムを嫌う製品の製造工程に使用される薬液の製造を、グラスライニング製品を用いて実施するような場合に有利である。
【0019】
また、フリットはCaO、BaO、ZnO及びMgOの少なくとも一種を含有してもよい。フリットがCaO、BaO、ZnO及びMgOの少なくとも一種を含有することにより、フリットの耐アルカリ性能向上の利点が得られる。フリットは一実施形態において、CaO、BaO、ZnO及びMgOを合計で1~7質量%含有する。また、フリットは好ましい実施形態において、CaOを1~7質量%、BaOを0~6質量%、ZnOを0~6質量%、MgOを0~5質量%含有する。
【0020】
また、フリットはB23及びAl23の少なくとも一種を含有してもよい。フリットがB23及びAl23の少なくとも一種を含有することにより、フリットの溶融性向上や失透防止の利点が得られる。フリットは一実施形態において、B23及びAl23を合計で1~18質量%含有する。また、フリットは好ましい実施形態において、B23を1~18質量%、Al23を0~6質量%含有する。
【0021】
また、フリットはCoO、NiO、MnO2、及びCeO2の少なくとも一種を含有してもよい。フリットがCoO、NiO、MnO2、及びCeO2の少なくとも一種を含有することにより、グラスライニング層と金属基材の密着性向上、フリットの発色性向上の利点が得られる。一実施形態において、フリットは、CoO、NiO、MnO2、及びCeO2を合計で0~6質量%含有する。また、好ましい実施形態において、フリットはCoOを0~6質量%、NiOを0~5質量%、MnO2を0~5質量%、CeO2を0~5質量%含有する。
【0022】
フリットは、上記以外の成分として、Sb23、Cr23、Fe23、SnO2等の酸化物を適宜含有することができる。
【0023】
特に、視認性という観点からは、フリットには、CoO、Sb23、Cr23、Fe23、SnO2及びCeO2からなる群から選択される1種又は2種以上の着色成分をフリット100質量%に対してFe23換算量で3質量%までの量で配合することができる。着色成分としては視認性の観点から青色成分であるCoOが好ましい。これにより、グラスライニング層の腐食状態等の表面状態が認識しやすくなるという利点が得られる。ここで、着色成分の配合量がFe23換算量で3質量%を超えると、耐酸性が低下し、また、焼成時に発泡現象が起こりやすくなる。なお、特許第5156277号公報の全文を本明細書に参照により組み込む。
【0024】
フリットの溶融を促進するために、上記SiO2、Al23及びCaO成分のうちの5モル%までをフッ化物の形態で使用することもできる。なお、フッ化物としては、例えばK2SiF6、K3AlF6、CaF2等を用いることができる。
【0025】
<2-2 金属繊維>
本発明の一実施形態に係るグラスライニング用スラリー組成物は金属繊維を含有する。グラスライニング用スラリー組成物が金属繊維を含有することで、グラスライニング層の電気抵抗が低下し、グラスライニング製品の静電気帯電を抑制することが可能となり、熱伝導性を向上させることが可能となる。
【0026】
金属繊維としては、限定的ではないが、ステンレス系金属繊維、貴金属系金属繊維、及び白金と白金族金属との合金繊維からなる群から選択される1種又は2種以上を含むことが好ましい。貴金属系金属繊維としては、例えばAg繊維(体積抵抗率:1.6×10-8Ωm)、Au繊維(体積抵抗率:2.4×10-8Ωm)、Pt繊維(体積抵抗率:10.6×10-8Ωm)等を使用することができる。白金と白金族金属との合金繊維としては、例えばPtと、Pd、Ir、Rh、Os及びRuよりなる群から選択される1種又は2種以上との合金を使用することができる。
【0027】
金属繊維のフリットへの添加量は、フリット100質量部に対して0.01~5質量部とすることが好ましい。金属繊維の添加量がフリット100質量部に対して0.01質量部以上であることで、導電性を有意に向上させることができる。金属繊維の添加量はフリット100質量部に対して0.05質量部以上であることがより好ましく、0.1質量部以上であることが更により好ましい。また、金属繊維の添加量がフリット100質量部に対して5質量部以下であることで、スプレー施工性が向上する。金属繊維の添加量はフリット100質量部に対して2質量部以下であることがより好ましく、1質量部以下であることが更により好ましい。
【0028】
金属繊維の直径は0.1~2μmであることが好ましく、0.3~1μmであることがより好ましい。金属繊維の直径が0.1μm以上であることで、金属繊維を低コストで加工可能である。また、金属繊維の直径が2μm以下であることで、スプレー施工性が向上する。本明細書において、金属繊維の直径は、金属繊維の延びる方向に直交する断面の面積に等しい円の直径を指す。
【0029】
金属繊維の長さは50~1000μmであることが好ましく、100~800μmであることがより好ましい。金属繊維の長さが50μm以上であることで、金属繊維を添加したことによる効果が有意に発揮されやすくなる。また、該長さが1000μm以下であることで、スプレー施工性が向上する。
【0030】
また、金属繊維の長さ/直径の平均アスペクト比は50以上であることが好ましい。金属繊維の長さ/直径の平均アスペクト比が50以上であると、金属繊維を多量に配合しなくてもグラスライニング層の電気抵抗を低下させることができるようになる。金属繊維の長さ/直径の平均アスペクト比に上限は特に設定されないが、例えば800以下とすることができ、600以下とすることもできる。
【0031】
<2-3 増粘剤>
本発明の一実施形態に係るグラスライニング用スラリー組成物は増粘剤を含有する。増粘剤は、グラスライニング用スラリー組成物中で金属繊維が沈降して下方に偏在するのを防止することができる。これにより、グラスライニング層の導電性向上効果及び熱伝導性向上効果を得ることができる。増粘剤はフリット100質量部に対して32~65質量部添加することが好ましく、38~60質量部添加することがより好ましく、45~55質量部添加することが更により好ましい。増粘剤の添加量がフリット100質量部に対して32質量部以上であることで、金属繊維の沈降防止効果を高めることができる。また、増粘剤の添加量がフリット100質量部に対して65質量部以下であることで、スプレー施工性向上の効果を得ることができる。なお、本発明において、増粘剤の添加量は増粘剤の固形分に基づき算出する。
【0032】
増粘剤としては、限定的ではないが、セルロース誘導体を好適に使用することができる。セルロース誘導体としては、CMC(カルボキシメチルセルロース)、HEC(ヒドロキシエチルセルロース)、HPMC(ヒドロキシプロピルメチルセルロース)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、メチルセルロース(MC)等が挙げられる。これらの中でも、焼成時の気泡発生抑制の理由により、CMC(カルボキシメチルセルロース)が好ましい。増粘剤は一種を単独で使用してもよく、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0033】
<2-4 分散剤>
本発明の一実施形態に係るグラスライニング用スラリー組成物は分散剤を含有する。分散剤は、増粘剤による金属繊維の均一分散性を向上することができ、これにより、導電性向上効果及び熱伝導性向上効果を高めることができる。また、溶媒としてアルコールを使用しなくてもスプレー施工に適したグラスライニング用スラリー組成物を得ることができるという効果も得られる。
【0034】
分散剤はフリット100質量部に対して0.01~0.2質量部添加することが好ましく、0.02~0.1質量部添加することがより好ましく、0.03~0.08質量部添加することが更により好ましい。分散剤の添加量がフリット100質量部に対して0.01質量部以上であることで、金属繊維の分散性を高めることができる。また、分散剤の添加量がフリット100質量部に対して0.2質量部以下であることで、臭気抑制の効果を得ることができる。
【0035】
分散剤としては、限定的ではないが、焼成時の気泡発生抑制の理由により、ポリカルボン酸系分散剤、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合系、ポリエチレングリコール、ポリエーテル系、ポリアルキレンポリアミン系等の高分子型分散剤を好適に使用することができる。ポリカルボン酸系分散剤としては、例えばポリカルボン酸アンモニウム塩を好適に使用可能である。分散剤は一種を単独で使用してもよく、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0036】
<2-5 その他の成分>
グラスライニングスラリー組成物は更に、珪石、アルミナ及び窒化アルミニウムからなる群から選択される1種又は2種以上の無機質耐火性粉体を含有してもよい。これにより、グラスライニング用スラリー組成物を施釉する際の焼成温度を上昇(調節)することができ、また、グランドコート層を更に薄膜化することができると共に、耐火性及び熱伝導性を更に向上させることができる。無機質耐火性粉体の含有量は、フリット100質量部に対し20~120質量部とすることができ、好ましくは40~100質量部とすることができる。無機質耐火性粉体の含有量がフリット100質量部に対し20質量部以上であることで、その含有効果が有意に発揮される。また、無機質耐火性粉体の含有量がフリット100質量部に対し120質量部以下であることで、焼成不良を起こしにくくなる。
【0037】
その他、グラスライニング用スラリー組成物にはグラスライニングに慣用の添加剤(例えば粘土、塩化バリウム、亜硝酸ナトリウム等)、及び所定量の溶媒を添加することができる。粘土は、限定的ではないが、フリット100質量部に対して3~8質量部、好ましくは5~7質量部添加することができる。塩化バリウムは、限定的ではないが、フリット100質量部に対して0.05~0.3質量%、好ましくは0.1~0.2質量%添加することができる。亜硝酸ナトリウムは、限定的ではないが、フリット100質量部に対して0.1~0.6質量部、好ましくは0.2~0.5質量部添加することができる。使用される溶媒としては、限定的ではないが、水及びアルコール等の水溶性溶媒が挙げられ、臭気がなく作業環境が改善するという理由により水が好ましい。アルコールとしては、例えば、エタノールが挙げられる。溶媒は、一種を単独で使用してもよいし、二種以上を混合して使用してもよい。溶媒は、限定的ではないが、フリット100質量部に対して0~40質量部、好ましくは5~30質量部添加することができる。グラスライニング用スラリー組成物中のアルコール濃度は好ましくは1質量%以下であり、より好ましくは0.1質量%以下であり、更により好ましくは0質量%である。
【0038】
(3.グラスライニング製品の製造方法)
本発明の一実施形態によれば、金属基材の表面上に、本発明に係るグラスライニング用スラリー組成物を施釉し、焼成することを含むグラスライニング製品が提供される。
【0039】
金属基材としては、限定的ではないが、低炭素鋼、ステンレス鋼等の鉄合金が例示される。金属基材の形状にも特に制限はないが、壁状、板状、翼状及び棒状等が挙げられる。
【0040】
グラスライニング層を形成するための施釉操作、焼成温度等の条件は特に限定されるものではなく、グラスライニングにおける慣用、公知の操作を使用することができる。但し、施釉操作は、厚みを制御しやすい理由から、スプレー施工することが好ましい。そして、分散しにくい金属繊維をフリットより先に増粘剤及び分散剤を含有する溶媒中で撹拌することで、金属繊維をフリットよりも先に分散させることが、金属繊維を均一分散させる観点から好ましい。また、焼成温度は、金属基材の変形抑制の理由から、800~900℃が好ましい。グラスライニング層は一層又は複数層で構成することができる。
【実施例
【0041】
以下に本発明の実施例を比較例と共に示すが、これらの実施例は本発明及びその利点をよりよく理解するために提供するものであり、本発明が限定されることを意図するものではない。
【0042】
<1.フリットの作製>
表1に記載する組成の原料配合物を1260℃で4時間加熱することにより溶融し、次いで、急冷することにより粗粉砕物を得た。得られた粗粉砕物を慣用のアルミナボールを用いたボールミルにて乾式粉砕し、得られた粉砕物を分級することにより、表1に記載の平均粒径をもつ各種のフリットを得た。平均粒径は、(株)セイシン企業製のレーザー回折粒度分布装置(型式:LMS-30)により測定される体積基準の累積粒度分布に基づいて求めた。
【0043】
【表1】
【0044】
<2.グラスライニングスラリー組成物の調製>
白金繊維、アルコール(エタノール)、水、CMC1.5質量%水溶液、及びポリカルボン酸アンモニウム塩を表2に記載の質量割合で混合機に投入し、10分間撹拌した。その後、上記で作製した第一釉薬用フリット、珪石を表2に記載の質量割合で混合機に投入し、更に20分間撹拌して、スラリー状の第一釉薬を得た。
【0045】
白金繊維、アルコール(エタノール)、水、CMC1.5質量%水溶液、及びポリカルボン酸アンモニウム塩を表3に記載の質量割合で混合機に投入し、10分間撹拌した。その後、上記で作製した第二釉薬用フリットを表3に記載の質量割合で混合機に投入し、更に20分間撹拌して、スラリー状の第二釉薬を得た。
【0046】
白金繊維、アルコール(エタノール)、水、CMC1.5質量%水溶液、及びポリカルボン酸アンモニウム塩を表4に記載の質量割合で混合機に投入し、10分間撹拌した。その後、上記で作製した第三釉薬用フリットを表4に記載の質量割合で混合機に投入し、更に20分間撹拌して、スラリー状の第三釉薬を得た。
【0047】
【表2】
【0048】
【表3】
【0049】
【表4】
【0050】
<3.電気抵抗値>
1辺が100mmの正方形状で厚みが5mmの低炭素鋼板の一方の主表面に、第一釉薬をスプレー塗布により施釉して860℃で15分間焼成する工程を1回行うことにより、厚み200μmのグランドコート層を得た。次いで、第二釉薬をグランドコート層の上にスプレー塗布により施釉して800℃で15分間焼成する工程を2回実施することにより、厚み500μmの中間層を得た。次いで、第三釉薬を中間層の上にスプレー塗布により施釉して800℃で15分間焼成する工程を1~3回実施することにより、厚み300μmのカバーコート層を得た。このようにして得られたグラスライニング層付き鋼板について、電池式絶縁抵抗計を用いて、グラスライニング層表面と鋼板に電極(プローブ)を当て、電気抵抗値を測定した。結果を表5に示す。
【0051】
<4.熱伝導性試験>
低炭素鋼製の最大直径100mmのお椀状のテストピースを用意した。当該テストピースの内面に電気抵抗値の試験と同様の手順でグラスライニング層を形成した。このようにして得られたグラスライニング層付きテストピースに水を200cc入れ、600Wのヒーターで加熱したときに、水温が20℃から80℃まで上昇するのに要する時間を測定した。結果は、比較例1における時間を100%としたときの比率として表5に示す。
【0052】
<5.スプレー施工性>
各実施例及び比較例について、第一釉薬、第二釉薬、及び第三釉薬をスプレー塗布するときの施工性を以下の基準により評価した。結果を表5に示す。
◎:問題なく塗布ができる
○:エア圧など調整すれば塗布ができる
△:ノズルが時々詰まり塗布できないことがある
×:ノズルが詰まり塗布できない
【0053】
【表5】
【符号の説明】
【0054】
10 グラスライニング製品
11 金属基材
12 グランドコート層
13 中間層
14 カバーコート層
図1