(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-17
(45)【発行日】2024-05-27
(54)【発明の名称】ガラスモジュール、ガラスユニット及びガラス窓
(51)【国際特許分類】
E06B 5/16 20060101AFI20240520BHJP
E06B 3/62 20060101ALI20240520BHJP
【FI】
E06B5/16
E06B3/62 Z
(21)【出願番号】P 2020028812
(22)【出願日】2020-02-21
【審査請求日】2022-12-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000004008
【氏名又は名称】日本板硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 一幸
(72)【発明者】
【氏名】久田 隆司
【審査官】河本 明彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-031613(JP,A)
【文献】特開2016-023529(JP,A)
【文献】特開平03-022466(JP,A)
【文献】登録実用新案第3144257(JP,U)
【文献】特開平04-333792(JP,A)
【文献】特開平08-158749(JP,A)
【文献】特開2000-345776(JP,A)
【文献】特開2011-220029(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E06B 3/54-3/88
E06B 5/00-5/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
遮炎部材と面で対向し、前記遮炎部材に組付可能なガラスモジュールであって、
ガラス板を備え、
前記ガラス板は、重力方向を上下方向としたときに、板面の上辺側に前記遮炎部材により挟持されて被覆可能な上側被覆領域と、前記板面の下辺側に前記遮炎部材により挟持されて被覆可能な下側被覆領域と、を含み、
前記上側被覆領域の前記上下方向の長さは、前記下側被覆領域の前記上下方向の長さよりも長くなるように構成され、
前記ガラス板は、第1外板面と、前記第1外板面の裏側に設けられる第2外板面とを有し、
前記第1外板面及び前記第2外板面の少なくとも一方に隣接して配置される熱伝導部材を備え、
前記熱伝導部材は、金属箔と粘着層を備え、前記ガラス板よりも高い熱伝導率を有し、前記上側被覆領域の少なくとも一部に配置可能に構成され
、
前記粘着層は、粘着剤と熱伝導性微粒子とを有する、ガラスモジュール。
【請求項2】
前記熱伝導性微粒子は、熱伝導率が前記粘着剤より大きい、請求項
1に記載のガラスモジュール。
【請求項3】
前記金属箔の表面に凹凸を有する、請求項1
又は2に記載のガラスモジュール。
【請求項4】
前記ガラス板は、弾性支持体を介して前記遮炎部材に挟持可能に構成されている、請求項1から
3のいずれか一項に記載のガラスモジュール。
【請求項5】
前記上側被覆領域の前記上下方向の長さは、前記ガラス板の板面と垂直な方向における、前記ガラス板と前記遮炎部材との隙間の寸法の合計の1.5倍以上になるように構成されている、請求項1から
4のいずれか一項に記載のガラスモジュール。
【請求項6】
前記下側被覆領域の前記上下方向の長さは、前記ガラス板の板面と垂直な方向における、前記ガラス板と前記遮炎部材との隙間の寸法の合計よりも大きくなるように構成されている、請求項1から
5のいずれか一項に記載のガラスモジュール。
【請求項7】
前記上側被覆領域の前記上下方向の長さは、前記ガラス板の前記上辺側の端面から10mm以上30mm以下となるように構成されている、請求項1から
6のいずれか一項に記載のガラスモジュール。
【請求項8】
前記下側被覆領域の前記上下方向の長さは、前記ガラス板の前記下辺側の端面から10mm以上30mm以下となるように構成されている、請求項1から
7のいずれか一項に記載のガラスモジュール。
【請求項9】
前記ガラス板の板厚は、5mm以上である、請求項1から
8のいずれか一項に記載のガラスモジュール。
【請求項10】
請求項1から
9のいずれか一項に記載のガラスモジュールと、
前記ガラス板の周縁部を挟持する遮炎部材と、を備える、ガラスユニット。
【請求項11】
前記遮炎部材は、サッシの固定枠である、請求項
10に記載のガラスユニット。
【請求項12】
前記固定枠の熱伝導率は、20W/mK以上250W/mK以下である、請求項
11に記載のガラスユニット。
【請求項13】
遮炎部材と面で対向し、前記遮炎部材に組付可能なガラスモジュールであって、
ガラス板を備え、
前記ガラス板は、重力方向を上下方向としたときに、板面の上辺側に前記遮炎部材により挟持されて被覆可能な上側被覆領域と、前記板面の下辺側に前記遮炎部材により挟持されて被覆可能な下側被覆領域と、を含み、
前記上側被覆領域の前記上下方向の長さは、前記下側被覆領域の前記上下方向の長さよりも長くなるように構成され、
前記ガラス板は、第1外板面と、前記第1外板面の裏側に設けられる第2外板面とを有し、
前記第1外板面及び前記第2外板面の少なくとも一方に隣接して配置される熱伝導部材を備え、
前記熱伝導部材は、金属箔と粘着層を備え、前記ガラス板よりも高い熱伝導率を有し、前記上側被覆領域の少なくとも一部に配置可能に構成されている、ガラスモジュールと、
前記ガラス板の周縁部を挟持する遮炎部材と、を備え、
前記ガラス板の前記上側被覆領域と前記遮炎部材との間に第2熱伝導部材が介在しており、
前記第2熱伝導部材の熱伝導率は、20W/mK以上250W/mK以下であ
る、ガラスユニット。
【請求項14】
前記ガラス板の前記上側被覆領域と前記遮炎部材との間に第2熱伝導部材が介在しており、
前記第2熱伝導部材の熱伝導率は、20W/mK以上250W/mK以下である、請求項
10から
12のいずれか一項に記載のガラスユニット。
【請求項15】
前記第2熱伝導部材は、前記遮炎部材及び前記上側被覆領域に配置された前記熱伝導部材に面接触した状態で設けられている、請求項
13又は14に記載のガラスユニット。
【請求項16】
請求項1から
9のいずれか一項に記載のガラスモジュールが前記遮炎部材に挟持されて固定されている、ガラス窓。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス板を備えるガラスモジュール、ガラスユニット及びガラス窓に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ガラス板の周縁部が遮炎部材の一例である枠体によって被覆された状態で固定された防火ガラスが示されている。遮炎部材に対するガラス板のかかり代(差し込み量)は、「日本建築学 建築工事標準仕様書・同解説 JASS17 ガラス工事」(以下、JASS17と称する)において定められている。JASS17では、ガラス板は、ガラス板の周縁部において面クリアランス(ガラス板の板面と遮炎部材との隙間の寸法)の合計のかかり代が例示されている。ガラス板のかかり代が大きい場合、火災時の燃焼熱をガラス板の中央部が受けた際にガラス板の中央部と遮炎部材に被覆される周縁部との温度差が大きくなるため、ガラス板は熱割れが発生し易い。そのため、ガラス板のかかり代は最小限にすることが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に示されるように、ガラス板は、上側及び下側がそれぞれ遮炎部材によって挟持されている。ここで、例えば火災の発生によりガラス板が加熱されて軟化点まで到達すると、ガラス板は自重によって変形して上側を支持する遮炎部材から外れてしまうことがある。そうなると、ガラス板による防火機能は大きく損なわれてしまう。
【0005】
上記実情に鑑み、火災時の燃焼熱を受けてガラス板が変形してもガラス板が遮炎部材から外れ難いガラスモジュール、ガラスユニット及びガラス窓が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るガラスモジュールの特徴構成は、遮炎部材と面で対向し、前記遮炎部材に組付可能なガラスモジュールであって、ガラス板を備え、前記ガラス板は、重力方向を上下方向としたときに、板面の上辺側に前記遮炎部材により挟持されて被覆可能な上側被覆領域と、前記板面の下辺側に前記遮炎部材により挟持されて被覆可能な下側被覆領域と、を含み、前記上側被覆領域の前記上下方向の長さは、前記下側被覆領域の前記上下方向の長さよりも長くなるように構成されている点にある。
【0007】
本構成によれば、ガラスモジュールにおけるガラス板は、重力方向を上下方向としたときに、上側被覆領域の上下方向の長さは、下側被覆領域の上下方向の長さよりも長くなるように構成されている。このため、ガラス板が火災等の燃焼熱を受けて加熱されることで変形した場合であっても、ガラス板の上側被覆領域が遮炎部材から外れ難くなる。その結果、ガラスモジュールは火災時においてガラス板の防火機能を維持することができる。
【0008】
他の特徴構成は、前記ガラス板は、弾性支持体を介して前記遮炎部材に挟持可能に構成されている点にある。
【0009】
本構成によれば、ガラス板は、弾性支持体によって遮炎部材との間の隙間を埋めた状態で支持することができる。
【0010】
他の特徴構成は、前記上側被覆領域の前記上下方向の長さは、前記ガラス板の板面と垂直な方向における、前記ガラス板と前記遮炎部材との隙間の寸法の合計の1.5倍以上になるように構成されている点にある。
【0011】
ガラスモジュールは、一般的に、ガラス板と遮炎部材との隙間に各種弾性支持体を配置して遮炎部材に組付けられる。この場合、火災時の燃焼熱を受けてガラス板が変形した際に、ガラス板の上側被覆領域においてガラス板と遮炎部材との間に配置される弾性支持体が熱分解し、上側被覆領域においてガラス板の支持機能が消失することがある。そうなると、ガラス板が遮炎部材から外れ易くなる。そこで、本構成では、上側被覆領域の上下方向の長さは、ガラス板の板面と垂直な方向における、ガラス板と遮炎部材との隙間の寸法の合計の1.5倍以上になるように構成されている。これにより、上側被覆領域において仮に弾性支持体が熱分解して遮炎部材とガラス板との間に隙間が発生しても、ガラス板の上側被覆領域が遮炎部材から外れ難くなる。
【0012】
他の特徴構成は、前記下側被覆領域の前記上下方向の長さは、前記ガラス板の板面と垂直な方向における、前記ガラス板と前記遮炎部材との隙間の寸法の合計よりも大きくなるように構成されている点にある。
【0013】
火災時の燃焼熱を受けてガラス板が変形した際に、ガラス板の下側被覆領域に配置される弾性支持体が熱分解し、下側被覆領域においてガラス板の支持機能が消失することがある。この場合には、ガラス板が傾倒して上側被覆領域が遮炎部材から外れ易くなる。そこで、本構成では、下側被覆領域の上下方向の長さは、ガラス板の板面と垂直な方向における、ガラス板と遮炎部材との隙間の寸法の合計よりも大きくなるように構成されている。これにより、下側被覆領域において仮に弾性支持体が熱分解して遮炎部材とガラス板との間に隙間が発生しても、ガラス板の傾倒量が抑制され、ガラス板の上側被覆領域が遮炎部材から外れ難くなる。
【0014】
他の特徴構成は、前記上側被覆領域の前記上下方向の長さは、前記ガラス板の前記上辺側の端面から10mm以上30mm以下となるように構成されている点にある。
【0015】
上側被覆領域の上下方向の長さは、JASS17によって10mm以上にすることが規定されている。一方、上側被覆領域の上下方向の長さが30mm超であると、遮炎部材によりガラス板の周縁部の上側被覆領域が加熱を阻害され、ガラス板の中央部と周縁部との温度差が大きくなることに起因してガラス板の熱割れが発生し易くなる。そこで、本構成では、上側被覆領域の上下方向の長さは、ガラス板の上辺の端面から10mm以上30mm以下となるように構成されている。
【0016】
他の特徴構成は、前記下側被覆領域前記上下方向の長さは、前記ガラス板の前記下辺側の端面から10mm以上30mm以下となるように構成されている点にある。
【0017】
下側被覆領域の上下方向の長さは、JASS17によって10mm以上にすることが規定されている。一方、下側被覆領域の上下方向の長さが30mm超であると、遮炎部材によりガラス板の周縁部の下側被覆領域が加熱を阻害され、ガラス板の中央部と周縁部との温度差が大きくなることに起因してガラス板の熱割れが発生し易くなる。そこで、本構成では、下側被覆領域の上下方向の長さは、ガラス板の下辺の端面から10mm以上30mm以下となるように構成されている。
【0018】
他の特徴構成は、前記ガラス板の板厚は、5mm以上である点にある。
【0019】
本構成によれば、ガラス板の厚みを大きくすることで熱による変形が抑制されるため、ガラス板の上側被覆領域が遮炎部材から外れ難くなる。
【0020】
他の特徴構成は、前記ガラス板は、第1外板面と、前記第1外板面の裏側に設けられる第2外板面とを有し、前記第1外板面及び前記第2外板面の少なくとも一方に隣接して配置される熱伝導部材を備え、前記熱伝導部材は、前記ガラス板よりも高い熱伝導率を有し、前記上側被覆領域の少なくとも一部に配置可能に構成されている点にある。
【0021】
火災時において、ガラス板の中央部は燃焼熱により直接的に加熱されるが、ガラス板の上側被覆領域は遮炎部材により加熱が阻害される。このため、上側被覆領域の上下方向の長さが下側被覆領域の上下方向の長さよりも大きいと、ガラス板において中央部と上側被覆領域の周縁部との温度差が大きくなり、中央部の熱膨張を拘束する周縁部に熱応力が発生し、ガラス板の上側被覆領域は特に熱割れが起こり易くなる。そこで、本構成では、ガラスモジュールが、ガラス板よりも高い熱伝導率を有する熱伝導部材を備え、熱伝導部材は上側被覆領域の第1外側面及び第2外側面の少なくとも一部に配置可能に構成されている。これにより、ガラス板の何れか一方が面する区画域において火災が生じた場合、その燃焼熱は、ガラス板の中央部から熱伝導部材を介して上側被覆領域に伝わる。その結果、ガラス板の中央部と上側被覆領域との温度差が小さくなり、ガラス板の周縁部における熱割れ現象を生じ難くすることができる。
【0022】
他の特徴構成は、前記熱伝導部材は、金属箔と粘着層を備え、前記粘着層は、粘着剤と熱伝導性微粒子とを有する点にある。
【0023】
本構成によれば、熱伝導部材は粘着剤を有する粘着層を備えるので、ガラス板に熱伝導部材を容易に固定することができる。また、熱伝導部材は、金属箔を備え、粘着層に熱伝導微粒子を有するので、熱伝導部材によってガラス板の中央部の熱を周縁部に向けて確実に伝えることができる。
【0024】
他の特徴構成は、前記熱伝導性微粒子は、熱伝導率が前記粘着剤より大きい点にある。
【0025】
熱伝導部材の粘着層は、粘着剤を有するため、金属箔に比べて熱伝導率が低くなりがちである。しかし、本構成のように、熱伝導性微粒子の熱伝導率を粘着剤よりも高くすることで、粘着層の熱伝導率を容易に高めることができる。
【0026】
他の特徴構成は、前記金属箔の表面に凹凸を有する点にある。
【0027】
熱伝導部材の金属箔は、ガラス板の表面側に位置し遮炎部材に被覆された状態で存在する。このため、火災時において遮炎部材からの輻射熱が金属箔に伝えられることがある。この場合、本構成のように金属箔の表面に凹凸があると、金属箔において表面反射が抑制されるため、金属箔は輻射熱を吸収し易くなる。その結果、熱伝導部材は遮炎部材からも効率よく熱を受けてガラス板の周縁部を加熱することができる。
【0028】
本発明に係るガラスユニットの特徴構成は、上記構成のガラスモジュールと、前記ガラス板の周縁部の両側面を挟持する遮炎部材と、を備える点にある。
【0029】
本構成によれば、ガラスユニットは、ガラスモジュールと、ガラス板の上側被覆領域及び下側被覆領域を挟持する遮炎部材とによって構成することができる。これにより、例えば、ガラス板の何れか一方が面する区画域において火災が生じ、その燃焼熱を受けたガラス板が変形したとしても、ガラス板の上側被覆領域を遮炎部材から外れ難くすることができる。
【0030】
他の特徴構成は、前記遮炎部材は、サッシの固定枠である点にある。
【0031】
本構成によれば、遮炎部材がサッシの固定枠であるので、火災時に遮炎部材は消失することなく、ガラス板の周縁部を加熱することができる。
【0032】
他の特徴構成は、前記固定枠の熱伝導率は、20W/mK以上250W/mK以下である点にある。
【0033】
本構成のごとく、固定枠の熱伝導率が20W/mK以上であれば、ガラス板の熱伝導率(1W/mK程度)よりも十分に大きいので、固定枠からガラス板に伝熱され易くなる。これにより、ガラス板において中央部と周縁部との温度差を小さくすることができる。固定枠の熱伝導率が250W/mk超にする場合には、固定枠がコスト高になるため、本構成における固定枠の熱伝導率は、20W/mK以上250W/mK以下に設定している。
【0034】
他の特徴構成は、前記ガラス板の前記上側被覆領域と前記遮炎部材との間に第2熱伝導部材が介在しており、前記第2熱伝導部材の熱伝導率は、20W/mK以上250W/mK以下である点にある。
【0035】
本構成によれば、ガラス板の上側被覆領域と遮炎部材との間に第2熱伝導部材が介在しているので、第2熱伝導部材によって遮炎部材の熱をガラス板に容易に伝達することができる。第2熱伝導部材は、ガラス板の熱伝導率(1W/mK程度)よりも十分大きい熱伝導率を有する。したがって、ガラス板において中央部と周縁部との温度差をより迅速に小さくすることができる。
【0036】
他の特徴構成は、前記第2熱伝導部材は、前記遮炎部材及び前記上側被覆領域に面接触した状態で設けられている点にある。
【0037】
本構成によれば、第2熱伝導部材は、遮炎部材及び上側被覆領域に面接触した状態で設けられているので、遮炎部材及び上側被覆領域との間の熱の授受を効率よく行うことができる。これにより、ガラス板において中央部と周縁部との温度差をより効果的に小さくすることができる。
【0038】
本発明に係るガラス窓の特徴構成は、上記構成のガラスモジュールが前記遮炎部材に挟持されて固定されている点にある。
【0039】
本構成によれば、遮炎部材に周縁部の両面が挟持されるように固定されるガラスモジュールによって、火災時における遮炎部材からガラス板の脱落を防止して防火性能を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【
図1】第1実施形態のガラスユニットの断面図である。
【
図3】第2実施形態のガラスユニットの部分断面図である。
【
図4】第3実施形態のガラスユニットの部分断面図である。
【
図5】第4実施形態のガラスユニットの部分断面図である。
【
図6】第5実施形態のガラスユニットの部分断面図である。
【
図7】他の実施形態のガラスユニットの部分断面図である。
【
図8】他の実施形態のガラスユニットの部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
[第1実施形態]
本発明に係るガラスユニット100の第1実施形態について、
図1及び
図2に基づいて説明する。ガラスユニット100は、ガラスモジュール10と、遮炎部材20とを備える。ガラスモジュール10は、ガラス板1と、後述する熱伝導部材11とを備える。
【0042】
図1に示すように、ガラス板1は、4辺の周縁部8を有する矩形状の単層ガラスであり、単層ガラスの周縁部8に沿った凹部を有する遮炎部材20に嵌め込み固定されている。
【0043】
遮炎部材20は、枠体21で構成されている。ガラス板1は、遮炎部材20と面で対向し、遮炎部材20に組付可能に構成されている。本実施形態では、枠体21は凹部を有するサッシの固定枠である。この枠体21の熱伝導率は、20W/mK以上250W/mK以下としている。ガラス板1は、枠体21の凹部において周縁部8がバックアップ材23及び弾性支持体24に挟持されて固定されている。
図1に示すように、ガラス板1の4辺を嵌め込む枠体21の凹部の底面に、ガラス板1の端面4の保護機能を備えたセッティングブロック22が設置されている。セッティングブロック22は、ガラス板1の重量を十分に分散して支持できる程度にガラス板1の下端部の数箇所に設置されていればよく、ガラス板1の4辺の全領域に亘って設ける必要はない。また、ガラス板1を枠体21で固定するため、ガラス板1と枠体21との間にバックアップ材23が設けられる。さらに、ガラス板1と枠体21との間の防水性を向上させるため、バックアップ材23の上部にはシール材としての弾性支持体24が設けられる。こうして、ガラス板1は、弾性支持体24を介して枠体21(遮炎部材20)に挟持可能に構成されている。これにより、ガラス板1は、弾性支持体24によって枠体21(遮炎部材20)との間の隙間を埋めた状態で支持することができる。
【0044】
ガラス板1の周縁部8は、重力方向を上下方向としたときに、外板面5,6の上辺側に枠体21により挟持されて被覆可能な上側被覆領域8aと、外板面5,6の下辺側に枠体21により挟持されて被覆可能な下側被覆領域8bと、を含む。
図1に示すように、ガラス板1の端面4は、搬送時や組立時に破損する危険性を低減するため、滑らかになるよう曲面形状に研磨加工している。なお、上側被覆領域8aと下側被覆領域8bとを区分するため、ガラス板1に目印を設けてもよい。例えば、ガラス板1の上側被覆領域8aと被覆されない領域との境界に着脱可能なテープによるマーキング等を施してもよい。
【0045】
ガラス板1は、第1外板面5と、第1外板面5の裏側に設けられる第2外板面6とを有し、圧縮応力が150MPa以上の強化ガラスで構成されている。ガラス板1の板厚は、例えば5mm以上であり、好ましくは6mm以上であり、更に好ましくは8mm以上である。ガラス板1は、厚みを大きくすることで加熱による変形し難くなる。ガラス板1は、外板面5,6に、枠体21で被覆可能な遮炎領域2と、外部から視認可能であり遮炎部材20に被覆されていない非遮炎領域3と、を有する。ガラス板1は矩形状に構成されており、遮炎領域2が4辺の周縁部8に設けられている。上側被覆領域8a及び下側被覆領域8bは遮炎領域2に存在する。ここで、遮炎領域2とは、ガラス板1の第1外板面5又は第2外板面6が板面に垂直な方向から火炎に晒された場合、第1外板面5又は第2外板面6のうち枠体21により火炎が遮断される板面のことを意味する。すなわち、遮炎領域2(上側被覆領域8a及び下側被覆領域8b)は、遮炎部材20をガラス板1に正投影した領域である。
【0046】
本実施形態では、上側被覆領域8aの上下方向の長さL1は、下側被覆領域8bの上下方向の長さL2よりも大きくなるように構成されている。長さL2は「日本建築学 建築工事標準仕様書・同解説 JASS17 ガラス工事」において定められているかかり代(差し込み長さ)を満たしている。
【0047】
このように構成すれば、火災発生等によりガラス板1が加熱され、ガラス板1が軟化して自重によって変形したとしても、ガラス板1の上側被覆領域8aが枠体21から外れ難くなる。これにより、ガラス板1は防火性能を維持した状態で遮炎部材20に保持され続けることとなる。
【0048】
火災時の燃焼熱を受けてガラス板1が変形した際に、ガラス板1の上側被覆領域8aに配置される弾性支持体24が熱分解し、上側被覆領域8aにおいてガラス板1の支持機能が消失することがある。この場合には、ガラス板1の上側被覆領域8aが枠体21から外れ易くなる。そこで、本実施形態における上側被覆領域8aの上下方向の長さL1は、ガラス板1の板面(外板面5、6)と垂直な方向における、ガラス板1と枠体21との隙間の寸法の合計よりも大きくなりように構成されており、好ましくは当該隙間の寸法の合計の1.5倍以上、更に好ましくは当該隙間の寸法の2倍以上である。すなわち、枠体21において、ガラス板1の板面(外板面5、6)に垂直な方向の幅をW1とし、ガラス板1の厚みをW2とした場合、上側被覆領域8aの上下方向の長さL1は、ガラス板1と枠体21との隙間の寸法の合計(距離(W1-W2)に相当)よりも大きい。こうして、ガラス板1は、枠体21に対する上側被覆領域8aのかかり代が枠体21における幅方向の移動可能領域に比べて大きく設定される。これにより、上側被覆領域8aにおいて弾性支持体24が熱分解して枠体21とガラス板1との間に隙間が発生しても、ガラス板1の上側被覆領域8aは枠体21から外れ難くなる。
【0049】
火災時の燃焼熱を受けてガラス板1が変形した際に、ガラス板1の下側被覆領域8bに配置される弾性支持体24が熱分解し、下側被覆領域8bにおいてガラス板1の支持機能が消失することがある。この場合には、ガラス板1が傾倒して上側被覆領域8aが枠体21から外れ易くなる。そこで、本実施形態では、下側被覆領域8bの上下方向の長さL2は、ガラス板1の板面(外板面5、6)と垂直な方向における、ガラス板1と枠体21との隙間の寸法の合計よりも大きくなるように構成されている。すなわち、下側被覆領域8bの上下方向の長さL2は、ガラス板1と枠体21との隙間の寸法の合計(距離(W1-W2)に相当)よりも大きい。これにより、下側被覆領域8bにおいて弾性支持体24が熱分解して枠体21とガラス板1との間に隙間が発生しても、ガラス板1の傾倒量が抑制され、ガラス板1の上側被覆領域8aが枠体21から外れ難くなる。
【0050】
上側被覆領域8aの上下方向の長さL1は、ガラス板1の上辺側の端面4から10mm以上30mm以下になるように構成されており、好ましくは15mm以上25mm以下である。JASS17においてガラス板1の被覆領域(かかり代)は、ガラス板1の面クリアランス(ガラス板1の板面と遮炎部材20との隙間の寸法)の合計以上であり、10mm以上とすることが規定されている。ここで、ガラス板1の面クリアランスの合計とは、
図1における距離(W1-W2)に相当する。一方、被覆領域(かかり代)の上限については特に規定はないものの、上側被覆領域8aの上下方向の長さL1が30mm超であると、中央部7と周縁部8との温度差が大きくなりガラス板1の周縁部8における熱割れが発生し易くなる。そこで、本構成では、上側被覆領域8aの上下方向の長さL1が、ガラス板1の上辺側の端面4から10mm以上30mm以下になるように構成されている。
【0051】
下側被覆領域8bの上下方向の長さL2は、ガラス板1の下辺側の端面4から10mm以上30mm以下になるように構成されており、好ましくは10mm以上18mm以下である。JASS17において、ガラス板1の面クリアランスの合計以上であり、10mm以上とすることが規定されている。一方、被覆領域(かかり代)の上限については特に規定はないものの、下側被覆領域8bの上下方向の長さL2が30mm超であると、中央部7と周縁部8との温度差が大きくなりガラス板1の周縁部8における熱割れが発生し易くなる。そこで、本構成では、下側被覆領域8bの上下方向の長さL2が、ガラス板1の下辺側の端面4から10mm以上30mm以下になるように構成されている。なお、下側被覆領域8bは上側被覆領域8aよりもガラス板1が外れ難い領域である。このため、下側被覆領域8bの上下方向の長さL2は、好ましくは18mm以下としている。
【0052】
火災時において、ガラス板1の中央部7は燃焼熱により直接的に加熱されるが、ガラス板1の上側被覆領域8aは遮炎部材20により加熱が阻害される。このため、上側被覆領域8aの上下方向の長さL1が下側被覆領域8bの上下方向の長さL2よりも大きいと、ガラス板1において中央部7と上側被覆領域8aの周縁部8との温度差が大きくなり、ガラス板1の上側被覆領域8aは特に熱割れが起こり易くなる。そこで、ガラスモジュール10が、上側被覆領域8aの第1外板面5及び第2外板面6の少なくとも一方に隣接して配置される熱伝導部材11をさらに備えている。本実施形態では、熱伝導部材11は第1外板面5及び第2外板面6の両方に配置されているが、熱伝導部材11は第1外板面5及び第2外板面6の一方のみに配置されていてもよい。熱伝導部材11は、ガラス板1よりも高い熱伝導率を有し、上側被覆領域8a(遮炎領域2)の少なくとも一部に配置可能に構成されている。すなわち、熱伝導部材11は、上側被覆領域8a(遮炎領域2)の全体に配置されてもよいし、上側被覆領域8a(遮炎領域2)の一部に配置されてもよい。また、
図1に示すように、熱伝導部材11を、下側被覆領域8b(遮炎領域2)の第1外板面5及び第2外板面6の少なくとも一方に隣接して配置してもよい。
【0053】
図1に示す例では、熱伝導部材11がシート状に形成されており、遮炎領域2の外板面5,6に面接触した状態で固定されている。ここで、面接触した状態とは、遮炎領域2の外板面5,6に熱伝導部材11が面で対向していればよく、遮炎領域2の外板面5,6に熱伝導部材11の大半(例えば8割以上の面積)が接触していれば、一部が非接触状態であってもよい。ソーダガラスで構成されるガラス板1の熱伝導率は、概ね1W/mK未満である。熱伝導部材11の熱伝導率は、50W/mK以上であり、好ましくは100W/mK以上である。熱伝導部材11としては、例えばSn、Al、Ag、Cu、Zn等の金属を用いることができる。ちなみに、Snの熱伝導率は64W/mKであり、Alの熱伝導率は204W/mKであり、Agの熱伝導率は418W/mKであり、Cuの熱伝導率は372W/mKであり、Znの熱伝導率は113W/mKである。
【0054】
このように、遮炎領域2の外板面5,6の少なくとも一部に熱伝導部材11が配置されることで、ガラス板1において非遮炎領域3から遮炎領域2への熱伝導が行われる。これにより、例えば、ガラス板1の何れか一方が面する区画域において火災が発生した場合、その燃焼熱は、区画域に露出したガラス板1の非遮炎領域3に伝わると共に、非遮炎領域3から熱伝導部材11を介してガラス板1の遮炎領域2に伝わる。その結果、遮炎領域2の温度が上昇して非遮炎領域3と遮炎領域2との温度差が小さくなることから、ガラス板1の熱割れ現象を生じ難くすることができる。
【0055】
本実施形態では、熱伝導部材11は、ガラス板1の周縁部8の外板面5,6(遮炎領域2)から端面4に亘って設けられている。熱伝導部材11は、ガラス板1の端面4の少なくとも一部に配置される。すなわち、熱伝導部材11は、ガラス板1の端面4の全体に配置されてもよいし、端面4の一部に配置されてもよい。熱伝導部材11としては、例えばSn、Al、Ag、Cu、Zn等の金属または合金を用いることができる。これにより、火災時に直接的に火炎に晒されるガラス板1の中央部7の燃焼熱は、熱伝導部材11によって周縁部8の端面4まで効率的に伝えられる。その結果、ガラス板1の端面4の温度が上昇し易くなるので、ガラス板1の中央部7と周縁部8との温度差をより小さくすることが可能となる。よって、ガラス板1において、中央部7から遠く温度上昇が緩慢なガラス板1の周縁部8における熱割れを、確実に防止することができる。
【0056】
熱伝導部材11は、ガラス板1の遮炎領域2及び非遮炎領域3のうち遮炎領域2のみに配置されている。すなわち、熱伝導部材11が非遮炎領域3にはみ出さないので、熱伝導部材11は外部から視認されない状態でガラス板1に配置される。これにより、ガラス板1の外観に熱伝導部材11が影響を与えない状態でガラス板1の熱割れを防止することができる。
【0057】
本実施形態では、熱伝導部材11が遮炎部材20により被覆される遮炎領域2の全域(高さが端面4から遮炎部材20の上端面まで)に亘って配置されている。このように構成すると、火災が発生した場合に、熱伝導部材11を介して、火災の燃焼熱により高温となったガラス板1の中央部7(非遮炎領域3)から周縁部8(遮炎領域2)に熱が伝わる。その結果、遮炎部材20により火炎に直接的に晒されないガラス板1の周縁部8の温度が迅速に上昇し、火災の燃焼熱により非常に高温となる中央部7と周縁部8との温度差が小さくなるため、ガラス板1の熱割れが防止され、ガラス板1の防火性が向上する。
【0058】
図2に示すように、熱伝導部材11は、例えば熱伝導性に優れたテープ体で構成されており、金属箔12と粘着層13とを備える。粘着層13は、粘着剤14と熱伝導性微粒子15とを有する。熱伝導部材11はテープ体であると、ガラス板1に密着させやすいので、熱伝導の円滑化が期待できる。また、
図1に示すように、ガラス板1の周縁部8の外板面5,6及び端面4に熱伝導部材11を貼り付けた状態でガラス板1を用意しておけば、熱伝導部材11の取り付けが容易になるとともに、熱伝導部材11が端面4を保護することにもなるので好ましい。熱伝導部材11はガラス板1において熱割れが発生しやすいと想定される部分のみに設けてもよいが、防火性をより確実なものとするためには、ガラス板1の全周(4辺の周縁部8)に亘って設けることが望ましい。
【0059】
本実施形態では、熱伝導部材11は、遮炎部材20の枠体21に接触しないよう構成されている。熱伝導部材11が枠体21に接触しないことで、熱伝導部材11はガラス板1の板面に垂直な方向での寸法精度が要求されない。したがって、ガラス板1のスペックや熱伝導部材11の熱伝導率を考慮して、ガラス板1と枠体21との隙間以下の寸法範囲内で熱伝導部材11の厚み等を容易に調整することができる。
【0060】
熱伝導部材11は、近赤外線(波長0.7μm~2.5μm)の吸収率がガラス板1よりも大きいことが好ましく、特に波長2.5μmの近赤外線に対する吸収率がガラス板1よりも大きいことが好ましい。この吸収率は最大値が1に対して0.1以上であることが好ましく、0.2以上であればより好ましい。火災時において枠体21が加熱された場合、枠体21から発生する輻射熱は、近赤外線によって伝播することがある。しかし、ガラス板1は近赤外線を透過するため、枠体21からの輻射熱によってガラス板1の周縁部8の温度上昇は生じ難い。そこで、本実施形態では、熱伝導部材11の近赤外線の吸収率を、ガラス板1の近赤外線の吸収率よりも大きくしている。また、本実施形態における枠体21の熱伝導率を20W/mK以上としている。これにより、ガラス板1の周縁部8は、熱伝導部材11によって枠体21からの輻射熱を受け取り易くなるので、ガラス板1の周縁部8を昇温させてガラス板1の中央部7と周縁部8との温度差をより迅速に小さくすることができる。また、熱伝導部材11の放射率は、最大値が1に対して0.1以上であることが好ましく、0.2以上であればより好ましい。これにより、枠体21の輻射熱が熱伝導部材11によって反射される熱損失を抑制することができるので、熱伝導部材11を介して遮炎領域2に輻射熱を効率的に伝えることができる。
【0061】
熱伝導部材11は、金属箔12の表面に微細な凹凸を有して構成されていてもよい。金属箔12の表面に微細な凹凸があると、金属箔12において表面反射が抑制されるため、金属箔12は輻射熱を吸収し易くなる。その結果、熱伝導部材11は遮炎部材20からも効率よく輻射熱を受けてガラス板1の周縁部8を加熱することができる。
【0062】
熱伝導部材11に備えられる金属箔12は、熱伝導率が50W/mK以上であり、好ましくは100W/mK以上である。金属箔12の熱伝導率が50W/mK以上であると、熱伝導部材11の熱伝導率も50W/mK以上に高めることができる。これにより、熱伝導部材11を介して、ガラス板1の中央部7の熱がガラス板1の周縁部8に早く伝わり、周縁部8を迅速に加熱することができる。熱伝導部材11の熱伝導率を高めるうえで、金属箔12の熱伝導率は、100W/mK以上であることがより好ましい。
【0063】
金属箔12は、Sn、Al、Ag、Cu、Zn等の金属または合金で構成されており、Sn、Al、Ag、Cu、Znの少なくとも1つが50重量%以上含まれている。Snの熱伝導率は64W/mK、Alの熱伝導率は204W/mK、Agの熱伝導率は418W/mK、Cuの熱伝導率は372W/mK、Znの熱伝導率は113W/mKである。すなわち、Sn、Al、Ag、Cu、Znは、いずれも熱伝導率が50W/mK以上である。したがって、金属箔12が前述の金属の少なくとも1つを50重量%以上含むことによって、熱伝導部材11の熱伝導率を容易に高めることができる。Sn、Al、Ag、Cu、Znのうち、Znは、腐食の原因となる水分、酸素等を透過しない防食効果を有するため、最も好ましい。
【0064】
粘着剤14は、アクリル系、シリコーン系、天然ゴム系のいずれかである。これにより、熱伝導部材11において、粘着層13を容易に構成することができる。
【0065】
熱伝導性微粒子15は、熱伝導率が粘着剤14よりも高い。これにより、熱伝導部材11は、熱伝導性微粒子15によって粘着層13の熱伝導率を高めることができる。
【0066】
粘着層13は、熱伝導性微粒子15の含有量が50重量%以上90重量%以下、好ましくは60重量%以上80重量%以下である。こうすると、熱伝導部材11は、粘着層13における熱伝導性と粘着性の両方を確保することができる。粘着層13において熱伝導性微粒子15が50重量%未満になると、粘着層13は十分な熱伝導性を得ることができない。また、粘着層13において熱伝導性微粒子15が90重量%超になると、粘着剤14の割合が低くなり過ぎるため粘着力が低下してガラス板1から熱伝導部材11が剥がれ易くなる。
【0067】
粘着層13は、厚みが10μm以上100μm以下であり、好ましくは20μm以上90μm以下である。粘着層13において厚みが10μm以上100μm以下であると、熱伝導部材11は、粘着層13における熱伝導性と粘着性の両方を確保することができる。熱伝導部材11において、粘着層13の厚みが10μmより小さいと、火災時に金属箔12とガラス板1の熱膨張差により剥離が生じる可能性がある。一方、粘着層13の厚みが100μm超になると、粘着剤14の影響を大きく受けて粘着層13を含む熱伝導部材11の熱伝導性が低くなる可能性がある。粘着層13は金属箔12よりも熱伝導率の低い粘着剤14を含むことから、粘着層13の厚みは金属箔12の厚みよりも小さいことが好ましい。例えば金属箔12の厚みが100μmであれば、粘着層13の厚みは30~50μmに設定することができる。このように、粘着層13は、金属箔12の半分程度の厚みに設定することが可能である。
【0068】
粘着層13に含まれる熱伝導性微粒子15は、平均粒径が10μm以上100μm以下であり、好ましくは20μm以上90μm以下である。熱伝導性微粒子15の粒径が10μm以上100μm以下であると、熱伝導部材11は、粘着層13における熱伝導性を確実に確保することができる。熱伝導性微粒子15の粒径が10μm未満であると、熱伝導性微粒子15が粘着層13において不均一に配置されるため、均等な熱伝導性が確保されない可能性がある。一方、熱伝導性微粒子15の粒径が100μm超になると、熱伝導性微粒子15の表面積が小さくなるため、熱伝導部材11の熱伝導性が低くなる可能性がある。熱伝導性微粒子15の粒径は粘着層13の厚み以下であることが好ましい。
図2に示すように、本実施形態では、熱伝導部材11は、熱伝導性微粒子15の粒径と粘着層13の厚みとが同じになるように構成されている。
【0069】
熱伝導性微粒子15は金属微粒子である。熱伝導性微粒子15が金属微粒子であると、粘着層13に熱伝導性を確実に付与することができる。金属微粒子は、Sn、Al、Ag、Cu、Zn等の金属または合金で構成されており、Sn、Al、Ag、Cu、Znの少なくとも1つが50重量%以上含まれている。このようにすれば、粘着層13において熱伝導率を容易に高めることができる。
【0070】
金属微粒子としては、Sn、Al、Ag、Cu、Znのうち、低融点のSn,Zn、Alが好ましい。低融点の金属微粒子に用いた場合には、粘着剤14が火災時の燃焼熱を受けて粘着性が低下したとしても、金属微粒子の表面の溶融によりガラス板1と粘着層13の密着性を確保することができる。また、粘着層13に含まれる金属微粒子は、一種類の金属のみによって構成されてもよいし、異なる金属の金属微粒子が混在させていてもよい。
【0071】
バックアップ材23及び弾性支持体24は、ガラス板1を枠体21に支持するための部材なので、ガラス板1を破損させないように、ある程度の弾性を有する樹脂又はゴムで構成されている。バックアップ材23及び弾性支持体24が断熱性の高い樹脂又はゴムであり、火災で高温となったガラス板1の中央部7から熱伝導部材11を介したバックアップ材23及び弾性支持体24への熱伝導が抑制される。その分、熱伝導部材11を介してガラス板1の周縁部8に伝えられる熱が増大するので、周縁部8を効率的に昇温することができ、防火性をより確実に向上させることができる。また、熱伝導部材11からセッティングブロック22に熱が逃げるのを抑制し、ガラス板1の周縁部8の温度を効率的に上昇させるために、セッティングブロック22も断熱性の高い材料であることが望ましい。
【0072】
建物等に設けられるガラス窓は、ガラスモジュール10が遮炎部材20に挟持されて固定されることで実現される。
【0073】
[第2実施形態]
ガラスユニット100の第2実施形態について、
図3に基づいて説明する。第1実施形態と同様の部材については同じ番号を付しており、ここでの説明は省略する。
【0074】
本実施形態では、ガラス板1の上側被覆領域8aと枠体21との間に第2熱伝導部材30が介在する。第2熱伝導部材30は、枠体21と上側被覆領域8aに固定された熱伝導部材11との間に配置されている。第2熱伝導部材30は、熱伝導率が20W/mK以上250W/mK以下である金属で構成されている。第2熱伝導部材30が金属であれば、ガラス板1よりも熱伝導率の高い材料を容易に選択することができる。第2熱伝導部材30は、第1接触部31と第2接触部32とを有する。第1接触部31は、ガラス板1の周縁部8に固定された熱伝導部材11に面接触する部分である。第2接触部32は、バックアップ材23よりも枠体21の底部側に屈曲しており、枠体21の内側面25に面接触する部分である。このように構成すると、ガラス板1の熱伝導率(1W/mK程度)よりも十分大きい熱伝導率を有する第2熱伝導部材30を介して、火災により高温となった枠体21からガラス板1の周縁部8に熱を伝え易くすることができる。また、枠体21の熱伝導率が20W/mK以上であるので、ガラス板1の熱伝導率(1W/mK程度)よりも十分に大きく、火災により高温となった枠体21から第2熱伝導部材30を介してガラス板1の周縁部8に伝熱され易くなる。これにより、ガラス板1の周縁部8が昇温し易くなるので、ガラス板1において中央部7と周縁部8との温度差を迅速に小さくできる。その結果、ガラス板1の熱割れを防止することができるので、ガラス板1の防火性を向上させることができる。なお、第2熱伝導部材30を下側被覆領域8bに設けてもよいし、ガラス板1の4辺の周縁部8に亘って設けてもよい。
【0075】
[第3実施形態]
ガラスユニット100の第3実施形態について、
図4に基づいて説明する。第1実施形態と同様の部材については同じ番号を付しており、ここでの説明は省略する。
【0076】
熱伝導部材11は、非遮炎領域3における、第1外板面5及び第2外板面6のうち少なくとも一方に配置可能に構成されていてもよい。本実施形態は、熱伝導部材11が、ガラス板1の遮炎領域2に加えて、遮炎領域2に隣接する非遮炎領域3の外板面5,6の両方に隣接して配置されている。図示しないが、熱伝導部材11は、非遮炎領域3において、第1外板面5及び第2外板面6の一方のみに配置されていてもよい。このように構成すれば、非遮炎領域3に固定される熱伝導部材11の存在により、ガラス板1の非遮炎領域3が受けた燃焼熱は熱伝導部材11を介して遮炎領域2に伝達され易くなる。これにより、ガラス板1の非遮炎領域3と遮炎領域2との温度差を迅速に小さくすることができる。また、熱伝導部材11は、非遮炎領域3のうち遮炎領域2に隣接する外板面5,6に設けられているので、非遮炎領域3における熱伝導部材11の範囲を小さくして、ガラス板1の外観に与える熱伝導部材11の影響を最小限に抑制することが可能である。
【0077】
[第4実施形態]
ガラスユニット100の第4実施形態について、
図5に基づいて説明する。第1実施形態と同様の部材については同じ番号を付しており、ここでの説明は省略する。
【0078】
本実施形態は、熱伝導部材11が、ガラス板1の外板面5,6(遮炎領域2)のみに設けられ、端面4には設けられていない。このような構成であっても、遮炎領域2に配置された熱伝導部材11によって、火災の燃焼熱により非常に高温となったガラス板1の中央部7の熱を、熱伝導部材11を介して端面4を含む周縁部8に伝えることができる。これにより、ガラス板1において中央部7と周縁部8との温度差を小さくすることができ、防火性を向上させることができる。
【0079】
[第5実施形態]
ガラスユニット100の第5実施形態について、
図6に基づいて説明する。第1実施形態と同様の部材については同じ番号を付しており、ここでの説明は省略する。
【0080】
本実施形態は、ガラス板1の外板面5,6から枠体21に亘って熱伝導部材11が設けられている。このように、熱伝導部材11は、少なくとも一部が遮炎部材20である枠体21と接触可能に構成されていてもよい。熱伝導部材11は、第1接触部16と第2接触部17とを有する。第1接触部16は、ガラス板1の外板面5,6に面接触する部分である。第2接触部17は、枠体21とバックアップ材23との間に挟まれた状態で枠体21の内側面25に面接触する部分である。また、枠体21の熱伝導率が20W/mK以上であるので、ガラス板1の熱伝導率(1W/mK程度)よりも十分に大きく、第2接触部17を介して枠体21からガラス板1の周縁部8に伝熱され易くなる。このように構成すれば、ガラス板1の周縁部8に至る伝熱経路が、ガラス板1の中央部7からと枠体21からとの2経路確保できるので、ガラス板1の周縁部8への加熱をより促進することができる。
【0081】
[他の実施形態]
(1)上記の実施形態では、ガラスモジュール10において、熱伝導部材11がガラス板1の周縁部8の全周に亘って配置してもよいし、熱伝導部材11はガラス板1の周縁部8の周方向において間隔を有して配置されてもよい。熱伝導部材11は、例えばガラス板1の4辺のうち上辺部及び下辺部のみに配置されてもよい。熱伝導部材11は、ガラス板1の周縁部8の4辺に配置される場合であっても、2辺が交差する角部には熱伝導部材11を配置せずに構成してもよい。また、上記の実施形態では、熱伝導部材11を枠体21の高さ方向に対応する遮炎領域2全体に配置する例を示したが、熱伝導部材11は、例えば端面4に隣接する遮炎領域2の一部のみに配置してもよい。
【0082】
(2)上記の実施形態における遮炎領域2は、ガラス板1の周縁部8に加えてガラス板1の中央部分を横断する形状で設けても良く、ガラス板1の枠体21の形状に応じて適宜設定される。また、遮炎領域2は、遮炎部材20により被覆されるガラス板1の外板面5,6の少なくとも一部で構成されていればよい。つまり、枠体21は、ガラス板1の端面4を被覆しない形状であってもよい。
【0083】
(3)上記の実施形態では、遮炎部材20の枠体21がサッシの固定枠である例を示したが、枠体21はサッシの固定枠に限定されず、一対のL型のアングル等、他の構成であってもよい。
【0084】
(4)上記の実施形態では、遮炎部材20がバックアップ材23及び弾性支持体24を含む例を示したが、
図7に示すように、遮炎部材20が枠体21のみで構成されていてもよい。
【0085】
(5)上記の実施形態では、ガラス板1が単層ガラスで構成される例を示したが、
図8に示すように、ガラス板1は複層ガラスであってもよい。
図8の例では、ガラス板1は、第1ガラス板41と第2ガラス板42と、第1ガラス板41と第2ガラス板42との間に配置されるスペーサ43によって構成される。第1ガラス板41は強化ガラスであり、第2ガラス板42はLow-Eガラスである。第2ガラス板42の第1ガラス板41に対向する側の面44には低反射膜44aがコーティングされている。熱伝導部材11は、第1ガラス板41の外板面45及び端面47、第2ガラス板42の外板面46及び端面48に少なくとも接触して固定されいてる。熱伝導部材11は、第1ガラス板41の内方面及び第2ガラス板42の内方面に接触して固定されいてもよい。
【0086】
なお、いずれの実施形態においても、熱伝導部材11又は第2熱伝導部材30の構成は
図1~
図8に示したものに限らない。すなわち、ガラスユニット100の完成時にガラス板1の外板面(5、6、45、46の少なくとも何れか1つ)に熱伝導部材11又は第2熱伝導部材30が接触して固定されていれば、他の構成を採用することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明は、ガラス板を備えるガラスモジュール及びガラスユニットに適用することができる。又、単層ガラスのみならず、複層ガラスにも適用することができる。
【符号の説明】
【0088】
1 :ガラス板
2 :遮炎領域
3 :非遮炎領域
4 :端面
5,6 :外板面
7 :中央部
8 :周縁部
8a :上側被覆領域
8b :下側被覆領域
10 :ガラスモジュール
11 :熱伝導部材
12 :金属箔
13 :粘着層
14 :粘着剤
15 :熱伝導性微粒子
20 :遮炎部材
21 :枠体
22 :セッティングブロック
23 :バックアップ材
24 :弾性支持体
30 :第2熱伝導部材
41 :第1ガラス板
42 :第2ガラス板
100 :ガラスユニット
L1,L2:上下方向の長さ
W1:枠体の凹部の幅
W2:ガラス板の厚み