(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-17
(45)【発行日】2024-05-27
(54)【発明の名称】作業車両、および作業車両を制御するための方法
(51)【国際特許分類】
B60W 10/04 20060101AFI20240520BHJP
B60W 10/10 20120101ALI20240520BHJP
F16H 61/4035 20100101ALI20240520BHJP
E02F 9/22 20060101ALI20240520BHJP
B60W 10/06 20060101ALI20240520BHJP
F02D 29/04 20060101ALI20240520BHJP
F02D 29/02 20060101ALI20240520BHJP
【FI】
B60W10/00 104
F16H61/4035
E02F9/22 A
B60W10/06
B60W10/10
F02D29/04 H
F02D29/02 301Z
(21)【出願番号】P 2020045460
(22)【出願日】2020-03-16
【審査請求日】2023-02-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000001236
【氏名又は名称】株式会社小松製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】弁理士法人新樹グローバル・アイピー
(72)【発明者】
【氏名】中野 裕一
【審査官】鶴江 陽介
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/003760(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/042649(WO,A1)
【文献】特開2011-169351(JP,A)
【文献】特開2014-13056(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00-10/30
F02D 29/00-29/04
B60K 31/00
E02F 9/22
F16H 61/4035
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、
前記エンジンによって駆動される油圧ポンプと、前記油圧ポンプに接続された油圧回路と、前記油圧回路を介して前記油圧ポンプに接続された油圧モータとを含む静油圧式変速装置と、
前記油圧モータによって駆動される走行装置と、
車両の
降坂時の傾斜角度を検出する傾斜センサと、
前記油圧ポンプの容量と前記油圧モータの容量とを制御するコントローラと、
を備え、
前記コントローラは、
指令車速を決定し、
前記
降坂時の傾斜角度を取得し、
前記
降坂時の傾斜角度が第1閾値より小さいときには、前記指令車速と前記油圧ポンプの容量との関係を規定する第1ポンプデータに基づいて、前記指令車速から前記油圧ポンプの容量を決定し、前記指令車速と前記油圧モータの容量との関係を規定する第1モータデータに基づいて、前記指令車速から前記油圧モータの容量を決定し、
前記
降坂時の傾斜角度が前記第1閾値以上であるときには、前記指令車速に対して前記第1ポンプデータよりも小さな前記油圧ポンプの容量を規定する第2ポンプデータに基づいて、前記指令車速から前記油圧ポンプの容量を決定し、前記指令車速に対して前記第1モータデータよりも小さな前記油圧モータの容量を規定する第2モータデータに基づいて、前記指令車速から前記油圧モータの容量を決定する、
作業車両。
【請求項2】
前記第2ポンプデータと前記第2モータデータとによって定まる前記指令車速に対する前記静油圧式変速装置の変速比は、前記第1ポンプデータと前記第1モータデータとによって定まる前記指令車速に対する変速比と同じである、
請求項1に記載の作業車両。
【請求項3】
前記コントローラは、
前記指令車速が制限速度を超えないように前記指令車速を決定し、
前記
降坂時の傾斜角度が、前記第1閾値よりも大きい第2閾値以上であるときには、前記
降坂時の傾斜角度が前記第2閾値より小さいときよりも前記制限速度を低減する、
請求項1又は2に記載の作業車両。
【請求項4】
前記コントローラは、前記
降坂時の傾斜角度の増大に応じて、前記制限速度を低減する、
請求項3に記載の作業車両。
【請求項5】
前記傾斜センサは、IMUである、
請求項1から4のいずれかに記載の作業車両。
【請求項6】
エンジンによって駆動される油圧ポンプと、前記油圧ポンプに接続された油圧回路と、前記油圧回路を介して前記油圧ポンプに接続された油圧モータとを含む静油圧式変速装置を備える作業車両を制御するためにコントローラによって実行される方法であって、
指令車速を決定することと、
前記作業車両の
降坂時の傾斜角度を取得することと、
前記
降坂時の傾斜角度が第1閾値より小さいときには、前記指令車速と前記油圧ポンプの容量との関係を規定する第1ポンプデータに基づいて、前記指令車速から前記油圧ポンプの容量を決定し、前記指令車速と前記油圧モータの容量との関係を規定する第1モータデータに基づいて、前記指令車速から前記油圧モータの容量を決定することと、
前記
降坂時の傾斜角度が前記第1閾値以上であるときには、前記指令車速に対して前記第1ポンプデータよりも小さな前記油圧ポンプの容量を規定する第2ポンプデータに基づいて、前記指令車速から前記油圧ポンプの容量を決定し、前記指令車速に対して前記第1モータデータよりも小さな前記油圧モータの容量を規定する第2モータデータに基づいて、前記指令車速から前記油圧モータの容量を決定すること、
を備える方法。
【請求項7】
前記第2ポンプデータと前記第2モータデータとによって定まる前記指令車速に対する前記静油圧式変速装置の変速比は、前記第1ポンプデータと前記第1モータデータとによって定まる前記指令車速に対する変速比と同じである、
請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記指令車速が制限速度を超えないように前記指令車速を決定することと、
前記
降坂時の傾斜角度が、前記第1閾値よりも大きい第2閾値以上であるときには、前記
降坂時の傾斜角度が前記第2閾値より小さいときよりも前記制限速度を低減すること、
をさらに備える請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
前記
降坂時の傾斜角度の増大に応じて、前記制限速度を低減することをさらに備える、
請求項8に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業車両、および作業車両を制御するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
作業車両には、油圧ポンプと油圧モータとを含む静油圧式変速装置を備えるものがある。静油圧式変速装置では、エンジンによって油圧ポンプが駆動され、油圧ポンプから吐出された作動油によって油圧モータが駆動される。油圧モータは、走行装置を駆動する。それにより、作業車両が走行する。そして、車速に応じて油圧ポンプの容量と油圧モータの容量とが制御されることで、静油圧式変速装置の変速比が、車速に応じて無段階に変更される。
【0003】
従来、静油圧式変速装置を備える作業車両において、エンジンの過回転を防止するための技術が提案されている。例えば特許文献1では、作業車両の降坂時の速度の増加量が検出される。そして、車速を低減するように、油圧ポンプの容量が変更される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の技術は、エンジンを保護することを目的としている。しかし、エンジンが過回転に到達する前であっても、降坂時の速度の増大によって、油圧モータの回転速度が増大する。その場合、油圧モータの流量が許容値を超えてしまうことがある。また、実際に速度が増大した後で、油圧モータを保護するために車速を低減する場合には、急な減速が必要となる。その場合、作業車両の操作性が低下してしまう。本開示の課題は、静油圧式変速装置を備える作業車両において、降坂時の速度の増大によって、油圧モータの流量が過剰に増大することを防止すると共に、操作性の低下を抑えることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様に係る作業車両は、エンジンと、静油圧式変速装置と、走行装置と、傾斜センサと、コントローラとを備える。静油圧式変速装置は、油圧ポンプと、油圧回路と、油圧モータとを含む。油圧ポンプは、エンジンによって駆動される。油圧回路は、油圧ポンプに接続される。油圧モータは、油圧回路を介して油圧ポンプに接続される。走行装置は、油圧モータによって駆動される。傾斜センサは、車両の傾斜角度を検出する。コントローラは、油圧ポンプの容量と油圧モータの容量とを制御する。
【0007】
コントローラは、指令車速を決定する。コントローラは、傾斜角度を取得する。コントローラは、傾斜角度が第1閾値より小さいときには、第1ポンプデータに基づいて指令車速から油圧ポンプの容量を決定し、第1モータデータに基づいて指令車速から油圧モータの容量を決定する。第1ポンプデータは、指令車速と油圧ポンプの容量との関係を規定する。第1モータデータは、指令車速と油圧モータの容量との関係を規定する。コントローラは、傾斜角度が第1閾値以上であるときには、第2ポンプデータに基づいて指令車速から油圧ポンプの容量を決定し、第2モータデータに基づいて指令車速から油圧モータの容量を決定する。第2ポンプデータは、指令車速に対して第1ポンプデータよりも小さな油圧ポンプの容量を規定する。第2モータデータは、指令車速に対して第1モータデータよりも小さな油圧モータの容量を規定する。
【0008】
本開示の他の態様に係る方法は、作業車両の制御方法である。作業車両は、静油圧式変速装置を備える。静油圧式変速装置は、油圧ポンプと、油圧回路と、油圧モータとを含む。油圧ポンプは、エンジンによって駆動される。油圧回路は、油圧ポンプに接続される。油圧モータは、油圧回路を介して油圧ポンプに接続される。本態様に係る方法は、以下の処理を備える。
【0009】
第1の処理は、指令車速を決定することである。第2の処理は、作業車両の傾斜角度を取得することである。第3の処理は、傾斜角度が第1閾値より小さいときには、第1ポンプデータに基づいて指令車速から油圧ポンプの容量を決定し、第1モータデータに基づいて指令車速から油圧モータの容量を決定することである。第1ポンプデータは、指令車速と油圧ポンプの容量との関係を規定する。第1モータデータは、指令車速と油圧モータの容量との関係を規定する。第4の処理は、傾斜角度が第1閾値以上であるときには、第2ポンプデータに基づいて指令車速から油圧ポンプの容量を決定し、第2モータデータに基づいて指令車速から油圧モータの容量を決定することである。第2ポンプデータは、指令車速に対して第1ポンプデータよりも小さな油圧ポンプの容量を規定する。第2モータデータは、指令車速に対して第1モータデータよりも小さな油圧モータの容量を規定する。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、傾斜角度が第1閾値以上であるときには、第2ポンプデータに基づいて、指令車速から油圧ポンプの容量が決定され、第2モータデータに基づいて指令車速から油圧モータの容量が決定される。第2ポンプデータは、指令車速に対して第1ポンプデータよりも小さな油圧ポンプの容量を規定する。そのため、傾斜角度が第1閾値以上であるときには、傾斜角度が第1閾値より小さいときよりも、油圧ポンプの容量が低減される。また、第2モータデータは、指令車速に対して第1モータデータよりも小さな油圧モータの容量を規定する。そのため、傾斜角度が第1閾値以上であるときには、傾斜角度が第1閾値より小さいときよりも、油圧モータの容量が低減される。それにより、降坂時の速度の増大によって、油圧モータの流量が過剰に増大することが防止される。また、油圧ポンプの容量と油圧モータの容量との低減は、傾斜角度によって判定される。そのため、降坂時に早いタイミングで、油圧ポンプの容量と油圧モータの容量とが低減される。それにより、操作性の低下が抑えられる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図2】作業車両の駆動システムと制御システムとの概略を示す図である。
【
図3】コントローラによって実行される処理を示す図である。
【
図4】ポンプデータとモータデータとの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本開示の一実施形態について説明する。
図1は、実施形態に係る作業車両1の斜視図である。本実施形態において、作業車両1は、ブルドーザである。作業車両1は、車体11と、走行装置12A,12Bと、作業機13と、を備えている。
【0013】
車体11は、運転室14とエンジン室15とを有する。運転室14には、図示しない運転席が配置されている。エンジン室15は、運転室14の前方に配置されている。走行装置12A,12Bは、車体11の下部に取り付けられている。走行装置12A,12Bは、第1走行装置12Aと第2走行装置12Bとを含む。第1走行装置12Aと第2走行装置12Bとは、左右に並んで配置されている。第1走行装置12Aは、第1履帯16Aを含む。第2走行装置12Bは、第2履帯16Bを含む。履帯16A,16Bが回転することによって、作業車両1が走行する。
【0014】
作業機13は、車体11に取り付けられている。作業機13は、リフトフレーム17と、ブレード18と、リフトシリンダ19とを有する。リフトフレーム17は、上下に動作可能に車体11に取り付けられている。リフトフレーム17は、ブレード18を支持している。ブレード18は、車体11の前方に配置されている。ブレード18は、リフトフレーム17の上下動に伴って上下に動作する。リフトシリンダ19は、車体11とリフトフレーム17とに連結されている。リフトシリンダ19が伸縮することによって、リフトフレーム17は、上下に動作する。
【0015】
図2は、作業車両1の駆動システムと制御システムとの概略を示す図である。
図2に示すように、作業車両1は、エンジン20と、静油圧式変速装置(以下、「HST」と呼ぶ)21とを含む。HST21は、第1油圧ポンプ22と、第1油圧モータ23と、第1油圧回路24と、第2油圧ポンプ25と、第2油圧モータ26と、第2油圧回路27とを含む。エンジン20の出力軸は、第1油圧ポンプ22と第2油圧ポンプ25とに接続されている。第1油圧ポンプ22と第2油圧ポンプ25とは、エンジン20によって駆動されることで、作動油を吐出する。
【0016】
第1油圧ポンプ22と第2油圧ポンプ25とは、可変容量ポンプである。第1油圧ポンプ22は、第1ポンプ制御装置28に接続されている。第1ポンプ制御装置28は、第1油圧ポンプ22の斜板角22Aを変更することで、第1油圧ポンプ22の容量を変更する。第2油圧ポンプ25は、第2ポンプ制御装置29に接続されている。第2ポンプ制御装置29は、第2油圧ポンプ25の斜板角25Aを変更することで、第2油圧ポンプ25の容量を変更する。第1ポンプ制御装置28と第2ポンプ制御装置29とは、例えば制御弁と油圧シリンダとをそれぞれ含む。制御弁は、電磁弁であってもよい。或いは、制御弁は、油圧パイロット式の制御弁であってもよい。
【0017】
第1油圧回路24は、第1油圧ポンプ22に接続されている。第1油圧モータ23は、第1油圧回路24を介して、第1油圧ポンプ22に接続されている。第1油圧ポンプ22から吐出された作動油は、第1油圧回路24を介して第1油圧モータ23に供給される。それにより、第1油圧モータ23が駆動される。第1油圧モータ23から吐出された作動油は、第1油圧回路24を介して、第1油圧ポンプ22に回収される。
【0018】
第2油圧回路27は、第2油圧ポンプ25に接続されている。第2油圧モータ26は、第2油圧回路27を介して、第2油圧ポンプ25に接続されている。第2油圧ポンプ25から吐出された作動油は、第2油圧回路27を介して第2油圧モータ26に供給される。それにより、第2油圧モータ26が駆動される。第2油圧モータ26から吐出された作動油は、第2油圧回路27を介して、第2油圧ポンプ25に回収される。
【0019】
第1油圧モータ23は、第1走行装置12Aに接続されている。第1走行装置12Aは、第1終減速機31Aと第1スプロケット32Aとを含む。第1スプロケット32Aは、第1終減速機31Aを介して、第1油圧モータ23の出力軸に接続されている。上述した第1履帯16Aは、第1スプロケット32Aに巻回されている。第1油圧モータ23の回転は、第1終減速機31Aと第1スプロケット32Aとを介して、第1履帯16Aに伝達される。それにより、第1履帯16Aが駆動される。
【0020】
第2油圧モータ26は、第2走行装置12Bに接続されている。第2走行装置12Bは、第2終減速機31Bと第2スプロケット32Bとを含む。第2スプロケット32Bは、第2終減速機31Bを介して、第2油圧モータ26の出力軸に接続されている。上述した第2履帯16Bは、第2スプロケット32Bに巻回されている。第2油圧モータ26の回転は、第2終減速機31Bと第2スプロケット32Bとを介して、第2履帯16Bに伝達される。それにより、第2履帯16Bが駆動される。
【0021】
第1油圧モータ23と第2油圧モータ26とは、可変容量モータである。第1油圧モータ23は、第1モータ制御装置33に接続されている。第1モータ制御装置33は、第1油圧モータ23の斜板角23Aを変更することで、第1油圧モータ23の容量を変更する。第2油圧モータ26は、第2モータ制御装置34に接続されている。第2モータ制御装置34は、第2油圧モータ26の斜板角26Aを変更することで、第2油圧モータ26の容量を変更する。第1モータ制御装置33と第2モータ制御装置34とは、例えば制御弁と油圧シリンダとをそれぞれ含む。制御弁は、電磁弁であってもよい。或いは、制御弁は、油圧パイロット式の制御弁であってもよい。
【0022】
作業車両1は、エンジンコントローラ35とエンジン設定部材36とを含む。エンジンコントローラ35は、エンジン20の回転速度を制御する。エンジン設定部材36は、作業車両1のオペレータによって操作可能である。エンジン設定部材36は、例えば、ダイヤル式のスイッチである。ただし、エンジン設定部材36は、レバー、或いはペダルなどの他の部材であってもよい。エンジン設定部材36は、エンジン20の目標回転速度を示す操作信号を出力する。
【0023】
エンジンコントローラ35は、CPUなどのプロセッサと、RAM及びROMなどのメモリとを含む。エンジンコントローラ35は、エンジン設定部材36から操作信号を受信する。エンジンコントローラ35は、エンジン回転速度が目標回転速度となるように、エンジン20を制御する。
【0024】
作業車両1は、FR操作部材37と、シフト操作部材38と、傾斜センサ39と、コントローラ40とを含む。FR操作部材37とシフト操作部材38とは、オペレータによって操作可能である。FR操作部材37は、例えばレバーである。ただし、FR操作部材37は、スイッチなどの他の部材であってもよい。FR操作部材37は、作業車両1の前進と後進とを切り換えるために操作される。FR操作部材37は、作業車両1の走行方向を示すFR信号を出力する。
【0025】
シフト操作部材38は、例えばスイッチである。ただし、シフト操作部材38は、レバーなどの他の部材であってもよい。シフト操作部材38は、作業車両1の速度範囲を設定するために操作される。シフト操作部材38は、複数の速度範囲から選択された速度範囲を示すシフト信号を出力する。例えば、シフト操作部材38は、3つの速度範囲から速度範囲を選択可能である。ただし、速度範囲の数は、3つより少なくてもよく、或いは3つより多くてもよい。
【0026】
傾斜センサ39は、作業車両1の傾斜角度を検出する。作業車両1の傾斜角度は、作業車両1のピッチ角を示す。すなわち、作業車両1の傾斜角度は、水平面に対する作業車両1の前後方向の角度である。傾斜センサ39は、作業車両1の傾斜角度を示す傾斜角度信号を出力する。本実施形態において、傾斜センサ39は、IMU(Inertial Measurement Unit)である。なお、本実施形態では、作業車両1の傾斜角度は、降坂時の傾斜角度を意味する。従って、作業車両1の傾斜角度は、水平方向よりも下向きの角度を示す。
【0027】
コントローラ40は、CPUなどのプロセッサと、RAM及びROMなどのメモリとを含む。コントローラ40は、FR操作部材37からFR信号を受信する。コントローラ40は、シフト操作部材38からシフト信号を受信する。コントローラ40は、傾斜センサ39から、傾斜角度信号を受信する。コントローラ40は、FR信号と、シフト信号と、傾斜角度信号とに基づいて、第1、第2油圧ポンプ22,25と第1、第2油圧モータ23,26とを制御する。
【0028】
以下、コントローラ40による第1、第2油圧ポンプ22,25と第1、第2油圧モータ23,26との制御について説明する。以下の説明では、理解の容易のために、作業車両1が前方、又は後方に向かって直進する場合について説明する。
図3は、コントローラ40によって実行される処理を示す図である。
図3に示すように、ステップS101では、コントローラ40は、シフト信号に応じて設定車速を決定する。コントローラ40は、各速度範囲と設定車速との関係を規定する設定車速データを記憶している。設定車速データは、高速の速度範囲ほど設定車速が高くなるように、各速度範囲と設定車速との関係を規定している。コントローラ40は、設定車速データを参照して、シフト信号が示す速度範囲に応じた設定車速を決定する。
【0029】
ステップS102では、コントローラ40は、傾斜角度信号に応じて、制限速度を決定する。コントローラ40は、作業車両1の傾斜角度と制限速度との関係を規定する制限速度データを記憶している。コントローラ40は、制限速度データを参照して、傾斜角度信号が示す傾斜角度に応じた制限速度を決定する。制限速度データについては後述する。
【0030】
ステップS103では、コントローラ40は、指令車速を決定する。コントローラ40は、設定車速と制限速度とのうち小さい方を、指令車速として決定する。すなわち、コントローラ40は、指令車速が制限速度を超えないように、指令車速を決定する。
【0031】
ステップS104では、コントローラ40は、指令車速と傾斜角度とから、油圧ポンプの容量(以下、「ポンプ容量」と呼ぶ)を決定する。ステップS105では、コントローラ40は、指令車速と傾斜角度とから、油圧モータの容量(以下、「モータ容量」と呼ぶ)を決定する。以下、ポンプ容量とモータ容量とを決定するための処理について説明する。なお、ここでは、第1油圧ポンプ22の容量と第2油圧ポンプ25の容量とは同じであるものとする。また、第1油圧モータ23の容量と第2油圧モータ26の容量とは同じであるものとする。
【0032】
コントローラ40は、作業車両1の傾斜角度に応じて、通常制御と、降坂時に最大車速を抑制する制御(以下、スタンバイ制御と呼ぶ)と、過回転防止制御とを選択的に実行する。コントローラ40は、傾斜角度が第1閾値A1より小さいときには、通常制御にて、ポンプ容量とモータ容量とを決定する。通常制御では、コントローラ40は、第1ポンプデータと第1モータデータとに基づいて、ポンプ容量とモータ容量とを決定する。
【0033】
図4は、第1ポンプデータPD1と第1モータデータMD1との一例を示す図である。第1ポンプデータPD1は、指令車速とポンプ容量との関係を規定する。第1モータデータMD1は、指令車速とモータ容量との関係を規定する。コントローラ40は、第1ポンプデータPD1と第1モータデータMD1とを記憶している。なお、
図4において、R1は、指令車速に対するHST21の変速比の変化を示している。変速比は、ポンプ容量(qp)に対するモータ容量(qm)の割合である。
【0034】
傾斜角度が第1閾値A1より小さいときには、コントローラ40は、第1ポンプデータPD1を参照して、指令車速に対応するポンプ容量を決定する。傾斜角度が第1閾値A1より小さいときには、コントローラ40は、第1モータデータMD1を参照して、指令車速に対応するモータ容量を決定する。
【0035】
第1モータデータMD1は、指令車速が第1車速領域内では、最大容量MM1で一定のモータ容量を規定している。第1車速領域は、車速が0以上、且つ、閾値VT1より小さい範囲である。第1ポンプデータPD1は、指令車速が第1車速領域内では、指令車速の増大に応じて増大するポンプ容量を規定している。従って、指令車速が第1車速領域内では、コントローラ40は、モータ容量を一定に保持し、ポンプ容量を制御することで、指令車速に応じてHST21の変速比を制御する。
【0036】
第1ポンプデータPD1は、指令車速が第2車速領域内では、最大容量MP1で一定のポンプ容量を規定している。第2車速領域は、車速が閾値VT1以上の範囲である。第2車速領域は、第1車速領域よりも高速の指令車速の範囲である。第1モータデータMD1は、指令車速が第2車速領域内では、指令車速の増大に応じて低下するモータ容量を規定している。従って、指令車速が第2車速領域内では、コントローラ40は、ポンプ容量を一定に保持し、モータ容量を制御することで、指令車速に応じてHST21の変速比を制御する。
【0037】
傾斜角度が、第1閾値A1以上、且つ、第2閾値A2より小さいときには、コントローラ40は、スタンバイ制御にて、ポンプ容量とモータ容量とを決定する。スタンバイ制御では、コントローラ40は、第2ポンプデータPD2と第2モータデータMD2とに基づいて、ポンプ容量とモータ容量とを決定する。コントローラ40は、第2ポンプデータPD2を参照して、指令車速に対応するポンプ容量を決定する。コントローラ40は、第2モータデータMD2を参照して、指令車速に対応するモータ容量を決定する。
【0038】
図4に示すように、第2ポンプデータPD2は、指令車速が少なくとも第2車速領域内において、指令車速に対して第1ポンプデータPD1よりも小さなポンプ容量を規定する。第2ポンプデータPD2は、指令車速が第2車速領域内では、最大容量MP2で一定のポンプ容量を規定している。第2ポンプデータPD2における最大容量MP2は、第1ポンプデータPD1における最大容量MP1よりも小さい。コントローラ40は、第2ポンプデータPD2を記憶していてもよい。或いは、コントローラ40は、第1ポンプデータPD1から第2ポンプデータPD2を生成してもよい。
【0039】
第2モータデータMD2は、指令車速が少なくとも第2車速領域内において、指令車速に対して第1モータデータMD1よりも小さなモータ容量を規定する。第2モータデータMD2は、指令車速が第2車速領域内では、指令車速の増大に応じて減少するモータ容量を規定している。コントローラ40は、第2モータデータMD2を記憶していてもよい。或いは、コントローラ40は、第1モータデータMD1から第2モータデータMD2を生成してもよい。
【0040】
第2ポンプデータPD2と第2モータデータMD2とによって定まる指令車速に対するHST21の変速比は、第1ポンプデータPD1と第1モータデータMD1とによって定まる指令車速に対する変速比と同じである。すなわち、同じ指令車速に対して、第2ポンプデータPD2と第2モータデータMD2とによる変速比は、第1ポンプデータPD1と第1モータデータMD1とによる変速比と同じである。
【0041】
傾斜角度が、第2閾値A2以上であるときには、コントローラ40は、過回転防止制御にて、ポンプ容量とモータ容量とを決定する。過回転防止制御では、コントローラ40は、傾斜角度が第2閾値A2より小さいときよりも制限速度を低減する。
図5は、制限速度データの一例を示す図である。
図5に示すように、制限速度データでは、傾斜角度が第1閾値A1以上であるときには、制限速度は、第1速度VL1よりも小さくなる。第1速度VL1は、シフト信号が示す速度範囲に応じた最高速度である。第1速度VL1は、速度範囲ごとに規定されている。傾斜角度が第1閾値A1以上であるときには、傾斜角度が大きくなるほど、制限速度は小さくなる。
【0042】
詳細には、傾斜角度が、通常制御範囲内であるときには、制限速度は、第1速度VL1で一定である。通常制御範囲は、傾斜角度が0以上、且つ、第1閾値A1より小さい範囲である。傾斜角度が、第1制限範囲内であるときには、傾斜角度が大きくなるほど、制限速度は小さくなる。第1制限範囲は、第1閾値A1以上、且つ、第2閾値A2より小さい範囲である。第2閾値A2は、第1閾値A1より大きい。コントローラ40は、傾斜角度が第1制限範囲内であるときには、上述したスタンバイ制御を実行する。スタンバイ制御では、傾斜角度の増大に応じて、制限速度は第2速度VL2まで低減される。
【0043】
傾斜角度が第2制限範囲内であるときには、コントローラ40は、過回転防止制御を実行する。第2制限範囲は、傾斜角度が第2閾値A2以上の範囲である。
図5に示すように、傾斜角度が、第2制限範囲内であるときには、傾斜角度が大きくなるほど、制限速度は小さくなる。第2制限範囲内での制限速度は、第1制限範囲内での制限速度よりも小さい。従って、コントローラ40は、過回転防止制御では、スタンバイ制御よりも、制限速度を低減する。
【0044】
以上説明した本実施形態に係る作業車両1では、傾斜角度が通常制御範囲内では、制限速度は、シフト操作部材38によって選択された速度範囲に応じた第1速度VL1に設定される。従って、オペレータは、シフト操作部材38を操作することで、所望の車速で作業車両1を走行させることができる。
【0045】
傾斜角度が第1制限範囲内では、第2ポンプデータPD2と第2モータデータMD2とに基づいて、ポンプ容量とモータ容量とが決定される。そのため、傾斜角度が通常制御範囲内であるときよりも、ポンプ容量とモータ容量とが低減される。それにより、降坂時の速度の増大によって、第1、第2油圧モータ23,26の流量が過剰に増大することが防止される。また、急激な減速をせずに、第1、第2油圧モータ23,26に余裕を付与できるため、作業車両1の操作性の低下が抑えられる。
【0046】
傾斜角度が第2制限範囲内では、傾斜角度が第1制限範囲内であるときよりも、制限速度が低減される。それにより、降坂時の速度の増大によるエンジン20の過回転を防止することができる。
【0047】
上述した制御の切り替えは、傾斜センサ39が検出した傾斜角度によって判定される。そのため、降坂時に早いタイミングで、ポンプ容量とモータ容量とが低減される。それにより、操作性の低下が抑えられる。
【0048】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。作業車両は、ブルドーザに限らず、ホイールローダ、或いはダンプトラックなどの他の種類の車両であってもよい。
【0049】
制限速度は、傾斜角度のみに限らず、他のパラメータに応じて決定されてもよい。例えば、制限速度は、エンジン回転速度と油圧回路の差圧とに応じて、決定されてもよい。
【0050】
第1ポンプデータPD1と第1モータデータMD1とは、上記の実施形態のものに限らず、変更されてもよい。第2ポンプデータPD2と第2モータデータMD2とは、上記の実施形態のものに限らず、変更されてもよい。例えば、第2ポンプデータPD2は、第1車速領域においても、第1ポンプデータPD1よりも小さいポンプ容量を規定してもよい。第2モータデータMD2は、第1車速領域においても、第1モータデータMD1よりも小さいモータ容量を規定してもよい。
【0051】
コントローラ40は、傾斜角度に応じて、第1ポンプデータから複数段階にポンプ容量を低減させたポンプデータを用いて、ポンプ容量を決定してもよい。コントローラ40は、傾斜角度に応じて、第1ポンプデータから連続的にポンプ容量を低減させたポンプデータを用いて、ポンプ容量を決定してもよい。コントローラ40は、傾斜角度に応じて、第1モータデータから複数段階にモータ容量を低減させたモータデータを用いて、モータ容量を決定してもよい。コントローラ40は、傾斜角度に応じて、第1モータデータから連続的にモータ容量を低減させたモータデータを用いて、モータ容量を決定してもよい。
【0052】
コントローラ40は、複数のコントローラによって構成されてもよい。上述した処理は、複数のコントローラに分散して実行されてもよい。エンジンコントローラ35とコントローラ40とは、一体的に構成されてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本開示係る作業車両によれば、降坂時の速度の増大によって、油圧モータの流量が過剰に増大することを防止すると共に、操作性の低下を抑えることができる。
【符号の説明】
【0054】
12A 第1走行装置
20 エンジン
21 静油圧式変速装置
22 第1油圧ポンプ
23 第1油圧モータ
24 第1油圧回路
39 傾斜センサ
40 コントローラ