(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-17
(45)【発行日】2024-05-27
(54)【発明の名称】樹脂成形品、樹脂成形品の製造方法、金型、樹脂成形品の製造装置、カメラ、プリンター
(51)【国際特許分類】
B29C 33/42 20060101AFI20240520BHJP
B29C 59/02 20060101ALI20240520BHJP
【FI】
B29C33/42
B29C59/02 B
(21)【出願番号】P 2020069412
(22)【出願日】2020-04-07
【審査請求日】2023-03-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003133
【氏名又は名称】弁理士法人近島国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】名古屋 利光
(72)【発明者】
【氏名】及川 圭
(72)【発明者】
【氏名】小嶋 誠
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 隆広
(72)【発明者】
【氏名】向田 茉央
【審査官】▲高▼橋 理絵
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-104545(JP,A)
【文献】特開2018-030322(JP,A)
【文献】特開2007-314909(JP,A)
【文献】特開平09-239739(JP,A)
【文献】特開2017-206006(JP,A)
【文献】特開2017-036965(JP,A)
【文献】特開2009-134271(JP,A)
【文献】特開平08-001770(JP,A)
【文献】特開2000-334833(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 33/00-33/76
B29C 59/00-59/18
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定領域に形成された複数の凸部を備え、
前記複数の凸部
は第1の凸部
と、
前記第1の凸部より高さが
高い第2の凸部
とを有し、
前記第1の凸部についての算術平均曲率は、前記第2の凸部についての算術平均曲率よりも小さ
く、
前記所定領域において、前記第1の凸部の配置密度は、前記第2の凸部の配置密度よりも大きい、
ことを特徴とす
る樹脂成形品。
【請求項2】
所定領域に形成された複数の凸部を備え、
前記複数の凸部は第1の凸部と、前記第1の凸部より高さが高い第2の凸部とを有し、
前記第1の凸部についての算術平均曲率は、前記第2の凸部についての算術平均曲率よりも小さく、
前記所定領域において、前記第1の凸部が占有する面積は、前記第2の凸部が占有する面積よりも大きい、
ことを特徴とす
る樹脂成形品。
【請求項3】
所定領域に形成された複数の凸部を備え、
前記複数の凸部は第1の凸部と、前記第1の凸部より高さが高い第2の凸部とを有し、
前記第1の凸部についての算術平均曲率は、前記第2の凸部についての算術平均曲率よりも小さく、
前記所定領域において、前記第2の凸部が占有する面積は、5%以上で40%以下である、
ことを特徴とす
る樹脂成形品。
【請求項4】
所定領域に形成された複数の凸部を備え、
前記複数の凸部は第1の凸部と、前記第1の凸部より高さが高い第2の凸部とを有し、
前記第1の凸部についての算術平均曲率は、前記第2の凸部についての算術平均曲率よりも小さく、
前記第1の凸部についての算術平均曲率は、10[1/mm]以上で30[1/mm]以下である、
ことを特徴とす
る樹脂成形品。
【請求項5】
所定領域に形成された複数の凸部を備え、
前記複数の凸部は第1の凸部と、前記第1の凸部より高さが高い第2の凸部とを有し、
前記第1の凸部についての算術平均曲率は、前記第2の凸部についての算術平均曲率よりも小さく、
前記第2の凸部についての算術平均曲率は、15[1/mm]以上で100[1/mm]以下である、
ことを特徴とす
る樹脂成形品。
【請求項6】
所定領域に形成された複数の凸部を備え、
前記複数の凸部は第1の凸部と、前記第1の凸部より高さが高い第2の凸部とを有し、
前記第1の凸部についての算術平均曲率は、前記第2の凸部についての算術平均曲率よりも小さく、
前記第1の凸部についての算術平均曲率に対する前記第2の凸部についての算術平均曲率の比は、1.5以上で10.0以下である、
ことを特徴とす
る樹脂成形品。
【請求項7】
所定領域に形成された複数の凸部を備え、
前記複数の凸部は第1の凸部と、前記第1の凸部より高さが高い第2の凸部とを有し、
前記第1の凸部についての算術平均曲率は、前記第2の凸部についての算術平均曲率よりも小さく、
前記第1の凸部についての界面の展開面積比であるsdr値は、0.001以上で0.015以下である、
ことを特徴とす
る樹脂成形品。
【請求項8】
所定領域に形成された複数の凸部を備え、
前記複数の凸部は第1の凸部と、前記第1の凸部より高さが高い第2の凸部とを有し、
前記第1の凸部についての算術平均曲率は、前記第2の凸部についての算術平均曲率よりも小さく、
前記第2の凸部についての界面の展開面積比であるsdr値は、0.020以上で0.080以下である、
ことを特徴とす
る樹脂成形品。
【請求項9】
前記複数の凸部の高さ分布を示すヒストグラムとして、高さHxを境界とする2つのピークを有しており、
前記第1の凸部は、高さが前記Hx以下であり、
前記第2の凸部は、高さが前記Hxを超えている
ことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の樹脂成型品。
【請求項10】
請求項1乃至9の中のいずれか1項に記載した樹脂成形品が備える前記第1の凸部および前記第2の凸部を、金型を用いた転写成形法により形成する、
ことを特徴とする樹脂成形品の製造方法。
【請求項11】
請求項1乃至9の中のいずれか1項に記載した樹脂成形品が備える前記第1の凸部および前記第2の凸部を形成するための第1の凹部および第2の凹部を成形面に備える、
ことを特徴とする金型。
【請求項12】
請求項11に記載の金型を備える、
ことを特徴とする樹脂成形品の製造装置。
【請求項13】
請求項1乃至9の中のいずれか1項に記載した樹脂成形品を備える、
ことを特徴とするカメラ。
【請求項14】
請求項1乃至9の中のいずれか1項に記載した樹脂成形品を備える、
ことを特徴とするプリンター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細な表面構造を設けることにより外観面の光沢が調整された樹脂成形品と、その製造方法、等に関する。特に、マット感のある下地にキラキラした点(反射率が高い微細な領域)が散在しているような質感(光輝感)を観察者に感じさせる樹脂成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
デジタルカメラやプリンタなどの電子機器をはじめ、種々の製品の筐体、外殻などに使用される樹脂部品の外観面には、高い意匠性が求められる。例えば、部品表面を平滑化することで鏡面のような光沢をもたせて艶のある美観を演出したり、逆に部品表面に視認できないレベルの微細な凹凸を設けることで艶消しの質感を演出したりすることが出来る。
【0003】
樹脂製品の外観面の質感を高めたり意匠性を付与する手法の一つとして、成形品の外観面に塗装を施す方法が古くから行われている。しかしながら、塗装は個々の成形品に対して行われるため、均一性、ばらつき、工数、生産性、コストなどの点で必ずしも大量生産に向かない場合があった。
【0004】
そこで、樹脂成形を行う際の金型の成形面を工夫して、塗装によらず樹脂成形により外観面の質感を高める試みが行われている。
例えば、特許文献1には、意匠性と耐傷性を向上させたシボ製品を得るための成形金型を製造する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年は、製品デザインに多様性が求められており、特に意匠性を高めるため、光輝感を有した高級感のある外面が求められる場合がある。例えば、マット感のある下地にキラキラした点(反射率が高い微細な領域)が散在しているような光輝感ある表面は、落ち着いた中にも高級感を感じさせることができる外観面として好まれる。
【0007】
このような光輝感を外観面に付与するために、反射率が高くてサイズが微小なガラスビーズや金属フレークを塗料に混ぜ、成形品の外面に塗装する方法が知られている。
しかし、すでに述べたように、塗装による加工方法は、均一性、ばらつき、工数、生産性、コストなどの点で、必ずしも大量生産に向いているとは言えない。
【0008】
一方、特許文献1に記載された成形金型を用いれば、シボ凹凸の凹部内にシボ凹凸よりも微細な微細凹凸が配置され、シボ凹凸の凸部には微細凹凸が潰れた滑らかな凸面が形成されているようなシボ製品を製造することができる。
【0009】
しかしながら、特許文献1に開示された金型により製造されるシボ製品の外面は、微小なガラスビーズや金属フレークを混ぜた塗料を塗布した外面とは全く質感が異なるものであり、かかる塗装面が有する光輝感に近い印象を観察者に与えるものではなかった。
【0010】
そこで、微小なガラスビーズや金属フレークを混ぜた塗料を塗装した場合と類似した光輝感を観察者に感じさせる外面を備えた樹脂製品を、金型を用いた樹脂成形により実現できることが期待されていた。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の1つの態様は、所定領域に形成された複数の凸部を備え、前記複数の凸部は第1の凸部と、前記第1の凸部より高さが高い第2の凸部とを有し、前記第1の凸部についての算術平均曲率は、前記第2の凸部についての算術平均曲率よりも小さく、前記所定領域において、前記第1の凸部の配置密度は、前記第2の凸部の配置密度よりも大きい、ことを特徴とする樹脂成形品である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、微小なガラスビーズや金属フレークを混ぜた塗料を塗装した場合と類似した光輝感を観察者に感じさせる外面を備えた樹脂製品を、金型を用いた樹脂成形により実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】(a)実施形態の樹脂成形品の外面の一部を拡大して模式的に示した斜視図。(b)A1-A2線に沿って切断した断面図。
【
図2】(a)実施形態の外面に設けられた微細な凸部の高さの分布を示すヒストグラム。(b)度数分布のゆらぎ(高周波成分)を除去したヒストグラム。
【
図3】第1の凸部CV1のみを敷設したベース面の模式的な拡大斜視図。
【
図4】実施形態に係る樹脂成形品の一例を示す模式的な斜視図。
【
図5】実施形態に係る樹脂成形品の外面をレーザー顕微鏡で観察した結果を示す図。
【
図6】凸部の高さ分布を規格化し、高さを濃淡(階調)に変換して表現したモノクロ画像。
【
図7】第2の凸部CV2を白色、それ以外の部分を黒色で表現した白黒2値化画像。
【
図8】レーザー加工機を用いて実施形態に係る金型を製造する方法を説明するための図。
【
図9】(a)射出成形装置のセットアップを示す図。(b)型締め工程を示す図。(c)射出工程を示す図。(d)保圧工程および冷却工程を示す図。(e)型開き工程および離型工程を示す図。
【
図10】(a)実施形態に係る樹脂成形品を備えたカメラの外観図。(b)実施形態に係る樹脂成形品を備えたプリンターの外観図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図面を参照して、本発明の実施形態である、樹脂成形品、樹脂成形品の製造方法、金型、樹脂成形品を備えた機器、等について説明する。
尚、以下に説明する実施形態の樹脂成形品が有する外観面は、必ずしも機器の筐体、外殻等の表側に露出する面に限られるわけではない。ユーザが常時視認可能ではないとしても、例えば、機器の扉やハッチ、蓋部などを開放した時などに視認可能となる面は、外観面として取り扱われるべき場合もある。そこで、樹脂部品や樹脂製品においてユーザが視認する可能性がある面を、以下では単に「外面」と記す場合がある。
尚、以下の実施形態の説明において参照する図面では、特に但し書きがない限り、同一の参照番号を付して示す要素は、同一の機能を有するものとする。
【0015】
(樹脂成形品について)
実施形態に係る樹脂成形品について、観察者に光輝感を感じさせる所定領域としての外面の形状を説明する。
図1(a)は、実施形態の樹脂成形品の外面(所定領域)の一部を拡大して模式的に示した斜視図であり、
図1(b)は、
図1(a)のA1-A2線に沿って切断した外面の形状を表す断面図である。
図1(a)、
図1(b)に示すように、実施形態の外面には多数の微細な凸部が設けられている。
図2(a)は、実施形態の外面に設けられた微細な凸部の高さの分布を示すヒストグラムであり、縦軸は凸部の個数(度数)、横軸は凸部の高さを表している。また、
図2(b)は、
図2(a)のグラフにローパスフィルタをかけ、度数分布のゆらぎ(高周波成分)を除去したヒストグラムである。
【0016】
図2(a)、
図2(b)から、実施形態の樹脂成形品の外面に設けられた凸部の高さ分布をとると、ヒストグラムには2つの山(ピーク)が形成されていることが判る。2つの山の境界(2つの山を隔てる谷の底)を高さHxとし、高さがHx以下の凸部を総称して第1の凸部CV1、高さがHxを超える凸部を総称して第2の凸部CV2と呼ぶものとする。
【0017】
実施形態の樹脂成形品の外面においては、第1の凸部CV1の総数N1は第2の凸部CV2の総数N2よりも大きい。そして、
図1(a)に示すように、第2の凸部CV2は分散配置され、第2の凸部CV2の各々は、複数の第1の凸部CV1によって概ね周りを囲まれている。外面における単位面積当たりの配置密度で言えば、第1の凸部CV1の密度は、第2の凸部CV2の密度よりも大きい。
【0018】
ここで、説明の便宜のため、
図3に、第1の凸部CV1のみを敷設した樹脂成形品の外面形状を、模式的な拡大斜視図で示す。以下の説明では、
図3のように第1の凸部CV1のみを敷設した外面を、便宜的にベース面と呼ぶ。ベース面は、視覚的にマット感を感じさせるシボ面である。シボ面とは、成形金型(鋳型・プレス型)の表面に細かい模様(凹凸)をつけ、樹脂成形品にその模様を転写させた面であり、鏡面仕上げではない艶消し面である。
【0019】
本実施形態の外面は、第1の凸部CV1よりも高さが大きな第2の凸部CV2を、ベース面に散在させたような形状を有する。そして、第2の凸部CV2の曲率半径は、第1の凸部の曲率半径よりも小さい。ここで、曲率半径とは、
図1(b)に示すように、凸部の山頂を通る近似円の半径を指し、第2の凸部CV2の曲率半径をR2、第1の凸部CV1の曲率半径をR1とすると、R1>R2である。
図1(a)の実施形態は、
図3のベース面における第1の凸部CV1の一部を、高さは大きいが曲率半径が小さな第2の凸部CV2で置き換えた形状と言うこともできる。尚、曲率半径の逆数を曲率とし、外面の凸部群についての統計を取れば、第1の凸部CV1についての算術平均曲率spc1は、第2の凸部CV2についての算術平均曲率spc2よりも小さく、spc2>spc1である。
【0020】
かかる形状の外面を有する本実施形態の樹脂成形品は、微小なガラスビーズや金属フレークを混ぜた塗料を塗装した表面と類似した光輝感を観察者に感じさせることができる。塗装の場合には、艶消し塗料の中に反射率が高いガラスビーズや金属フレークを分散させて、材料の反射率の違いを利用してマット感のある下地にキラキラした点(反射率が高い微細な領域)が散在する光輝感を実現している。
【0021】
これに対して、本実施形態の外面では異種材料の反射率の違いではなく、金型成形により外面に形成する凸部形状を工夫することにより、マット感のある下地にキラキラした点(反射率が高い微細な領域)が散在する光輝感を実現している。
【0022】
光は入射角と反射角が同じになるように反射するので、入射面が曲面である場合のように、入射面に対する法線の角度分布が広範囲である程、反射光の角度分布も広くなる。例えば、完全な平坦面(鏡面)に一定の入射角で光を入射させれば、一定の反射角の方向にしか光は反射されない。一方、粗面であれば、反射角が様々な方向に分布する。
また、一般的な界面反射では、入射角が大きい程、反射光の強度が大きくなる。すなわち、表面にうねりがあれば、反射光の拡散性が上がるとともに、反射強度が強い角度が存在することになる。
【0023】
比較的大きな曲率半径を有する第1の凸部CV1の群を配置したベース面は、平坦面(鏡面)と比較すれば光散乱性を備えるため、マット感を感じさせる面となる。そして、第1の凸部CV1よりも高さが突出しているが曲率半径が小さな第2の凸部CV2を、ベース面中に分散配置することにより、マット感のある背景に輝点が散在するような光輝感を実現することができる。
【0024】
ベース面を大きな曲率半径を含むシボ面にすることで、鏡面反射成分の強度を制御している。更にベース面より曲率半径の小さい突出した凸部をベース面に分散配置させることで、ベース面よりも広角度に拡散し、反射強度の大きい輝点をベース面中に付与する。ベース面と輝点におけるこのような反射強度特性と拡散角度特性の差により、見る角度によって反射が変化する光輝感を実現することができる。
【0025】
実施形態における樹脂成形品の外面の形状は、金型を用いた成形により再現性良く製造可能な範囲で、付与したい光輝感に応じて適宜設定することができる。例えば、外面において第2の凸部CV2が占有する面積の比率が平面視において5%未満であると、輝点の数が少なすぎて反射強度も弱くなり十分な光輝感が得られないので、外面の面積の5%以上とするのが好適である。一方、第2の凸部CV2が占有する面積の比率が平面視において40%を超えると、輝点が多くなりすぎてベース面と輝点のコントラスト差が十分に得られなくなる。そうすると、観察者が感じる光輝感がかえって低減してしまうので、第2の凸部CV2が占有する面積は、外面の面積の40%以下とするのが好適である。
【0026】
また、外面において第1の凸部CV1のみが形成されている領域に着目した時の表面粗さは、spc値が10[1/mm]以上で30[1/mm]以下が望ましく、sdr値が0.001以上で0.015以下であることが望ましい。
【0027】
ここで、spcとは、各凸部の頂点を通る稜線の算術平均曲率(各凸部の頂点を通る稜線の近似円の半径の逆数の平均値)であり、下記の数式(1)で表される。この数式(1)において、x、yは外面を平面視した時の座標上の位置を表し、zはその位置における凸部の高さ方向成分を、nは凸部の頂点の数を、それぞれ示している。この数値が小さいと、山の形状が緩やかで裾野が広い形状であることを示し、大きいと尖って幅が狭い形状であることを示している。
【0028】
【0029】
ベース面の算術平均曲率spc値が10[1/mm]未満であると、ベース面がほぼ平坦面に近くなり、光の当たり方によっては鏡面反射に近い状態になってしまう。一方、ベース面の算術平均曲率spc値が30[1/mm]よりも大きいと、ベース面での散乱と反射強度が大きくなり、輝点(第2の凸部CV2)とのコントラスト差が十分に得られなくなり、光輝感が得られなくなる。
【0030】
また、sdrとは、界面の展開面積比であり、下記の数式(2)で表される。数式(2)において、x、yは外面を平面視した時の座標上の位置を、zはその位置における凸部の高さ方向成分を、Aは定義領域の面積を、それぞれ示している。したがって、この界面の展開面積比sdrは、表面積が定義領域の面積に対してどれだけ増大しているかを表している。
【0031】
【0032】
界面の展開面積比であるsdrの数値が小さいと、平坦面に近い面であると言え、sdrの数値が大きいと急峻な面が多く存在していることになる。
ベース面のsdrが0.001未満であると、ベース面がほぼ平担面に近くなり、光の当たり方によっては鏡面反射に近い状態になってしまう。一方、ベース面のsdr値が0.015よりも大きいとベース面での散乱と反射強度が大きくなり、輝点(第2の凸部CV2)とのコントラスト差が得られなくなり、十分な光輝感が得られなくなる。
【0033】
また、第2の凸部CV2(輝点)の形状を統計的に扱った場合に、spc値は15[1/mm]以上で100[1/mm]以下が望ましく、sdr値は0.020以上で0.080以下であることが望ましい。
【0034】
第2の凸部CV2(輝点)のspcが15[1/mm]未満であると、輝点の反射強度が落ちてベース面とのコントラスト差が得られず十分な光輝感が得られない。一方、第2の凸部CV2(輝点)のspcが100[1/mm]を超えると輝点の散乱範囲が大きくなり、輝点としての機能が低減する。また、第2の凸部CV2(輝点)のsdr値が0.020未満であると、輝点での散乱がベース面での散乱と差が小さくなってしまい、十分な光輝感が得られない。一方、第2の凸部CV2(輝点)のsdr値が0.080を超えると、輝点での拡散と反射強度は大きくなるが、反射強度が大きくなりすぎて、観察者にとっては輝点の粒状感が強く感じられるようになってしまう。そうすると、ざらざら感が強調され過ぎた外観となり、意図した質感が必ずしも得られなくなる。
【0035】
また、第1の凸部CV1(ベース面)と第2の凸部CV2(輝点)のspcの比は1.5以上で10.0以下である事が望ましい。1.5未満であると、ベース面と輝点のコントラスト差が少なくなり、十分な光輝感を得られない。10.0を超えると、今度は一つ一つの輝点が小さくなり、その分反射光も下がって輝点としての機能が十分に発揮できなくなる。発明者らの実験によれば、第1の凸部CV1(ベース面)と第2の凸部CV2(輝点)のspcの比は、3以上で8以下の範囲内であるのが特に好ましい。
【0036】
次に、
図4は、実施形態に係る樹脂成形品の一例についての外観を示す斜視図である。樹脂成形品41の表面領域42には、光輝感を付与するため、上述した第1の凸部CV1と第2の凸部CV2が形成されている。尚、第1の凸部CV1と第2の凸部CV2は微細であるため、図示の便宜上、表面領域42には単純なテクスチャーを付して示している。
【0037】
次に、表面領域42の外面形状について、更に具体的に説明する。
図5は、実施形態に係る樹脂成形品の外面を、レーザー顕微鏡(キーエンス社製の形状解析レーザー顕微鏡VK-Xシリーズ)を用いて観察した結果を示している。50倍の顕微鏡レンズを用いて横4列、縦6列にわたり合計24回測定したデータを合成した顕微鏡画像が
図5である。尚、
図2(a)に示したヒストグラムは、
図5の観察結果が得られた外面についての高さ分布である。したがって、
図2(a)あるいは
図2(b)を参照して説明した高さHxを求めれば、
図5の画像中から第1の凸部CV1および第2の凸部CV2をそれぞれ抽出することができる。第1の凸部CV1および第2の凸部CV2を抽出できれば、レーザー顕微鏡に付属しているマルチファイル解析アプリケーションを用いて、各々についてのspcとsdrを求めることが出来る。実施形態の樹脂成成形品において、第2の凸部CV2(輝点)のspc値は80.2であり、sdr値は0.045であった。また第1の凸部CV1(ベース面)のspc値は12.3であり、sdr値は0.004であった。
【0038】
図6に示すのは、外面に形成された多数の凸部の高さ分布を規格化し、高さを画像の濃淡(階調)に変換して表現したモノクロ画像であり、色が薄いほど(白に近いほど)凸部の高さが高いことを示している。
【0039】
図7に示すのは、第2の凸部CV2を白色、それ以外の部分を黒色で表現した白黒2値化画像である。すなわち、
図2(a)および
図2(b)を参照して説明した方法により第1の凸部CV1と第2の凸部CV2を分別し、白黒2値化画像として示したものである。言い換えれば、白い部分が輝点を、黒い部分がベース面を表している。白黒それぞれの面積を求めることで、観察者に光輝感を与える外面における第2の凸部CV2の面積占有率、あるいはベース面に対する輝点の面積比を算出することが出来る。尚、外面における第2の凸部CV2(輝点)の面積占有率は14%であった。
【0040】
以上説明したように、本実施形態に係る樹脂成形品では、異種材料の反射率の違いではなく、金型成形により外面に形成する凸部形状を工夫することにより、マット感のある下地にキラキラした点(反射率が高い微細な領域)が散在する光輝感を実現している。
【0041】
(金型について)
次に、上述した第1の凸部CV1と第2の凸部CV2を樹脂材料の外面に形成するための金型について具体的に説明する。係る金型の成形面には、樹脂に第1の凸部CV1を形成するための第1の凹部と、樹脂に第2の凸部CV2を形成するための第2の凹部が形成されている。
【0042】
金型の材料としては、例えばステンレス鋼、アルミニウムなど、微細形状を再現性良く樹脂に転写するのに適した材料を用いることが出来る。金型の成形面には、上述した第1の凸部CV1と第2の凸部CV2を転写により形成するための凹部(逆型)を形成する。そのような凹部は、原理的には切削加工、ブラスト加工、エッチング加工等でも形成が可能であるが、微細な凹部を精度よく短時間で形成するには、レーザ加工で形成するのが特に好適である。
【0043】
図8は、レーザー加工機を用いて実施形態に係る金型を製造する方法を説明するための図である。レーザー加工機51は、加工用のレーザ光52を照射可能なレーザヘッド53と、被加工物である金型ブロック54を設置可能な加工ステージ55を備えている。レーザヘッド53と金型ブロック54とは、X軸移動機構、Y軸移動機構、Z軸移動機構により相対位置を変更することができ、金型ブロック54の任意の位置に加工用のレーザ光52を照射することができる。
【0044】
レーザヘッド53から照射されたレーザ光は、不図示の光学系により収束され、所定の焦点位置に集光される。そのため、加工領域に対してレーザ光を照射する際は、レーザヘッド53と被照射点が常に焦点距離だけ離れた状態を維持するように、各軸の移動機構が駆動される。また、加工形状(例えば凹部の曲率や深さ)を制御するために照射エネルギー密度を小さくする方法の一つとして、焦点距離から一定の距離だけずらしたデフォーカス状態を維持したままレーザ照射を行ってもよい。
【0045】
レーザヘッドには、2軸のガルバノスキャナーとfθレンズが内蔵されており、ガルバノミラーを駆動させることで照射位置を高速に走査することができる。ガルバノミラーによる走査は、ステージ駆動よりも高速で行うことができるので、ステージの移動だけでなく、ガルバノミラーによる走査も併用して照射位置を制御することが、加工時間短縮の点では有利である。
【0046】
レーザ加工用のレーザ光源は、連続照射を行うCWレーザでも、短い時間での照射を繰り返すパルスレーザでも用いることが出来る。本実施形態では、パルス幅がナノ秒のレーザ光源を好適に用いた。レーザの照射強度、パルスの長さ、パルスの間隔などの条件を任意に選択することが出来るものを使用するのが望ましく、例えば、レーザ発振器として、AMPLITUDE SYSTEMS社製のナノ秒パルスレーザを用いることが出来る。実施形態では、ナノ秒パルスレーザ発振器で発生させる加工用のレーザの波長は1030nmとし、パルス幅としては30ナノ秒、平均出力は15Wとした。
【0047】
第1の凸部CV1と第2の凸部CV2を樹脂材料に転写するための第1の凹部と第2の凹部の形状に応じて照射条件を設定してレーザ照射を行い、金型表面に多数の凹部を形成した。
【0048】
(製造方法について)
次に、実施形態のおいて、上述の金型を用いて樹脂成形品を製造する方法について説明する。
図9(a)~
図9(e)は、射出成形機を用いて実施形態に係る樹脂成形品を製造する際の製造工程を説明するための模式図である。
【0049】
図9(a)は、射出成形装置のセットアップを示す模式図であり、61と62は金型、63は金型内に樹脂を注入するための筒状のシリンダー、64は樹脂材料をシリンダー63の内部へ投入するためのホッパーと呼ばれる部分である。金型61および/または金型62の成形面には、第1の凸部CV1と第2の凸部CV2を樹脂材料に転写するための第1の凹部と第2の凹部が形成されている。本実施形態では、樹脂材料として、ガラスフィラーを30%程度混入させたポリカーボネート樹脂(黒色に着色されたもの)を使用した。
【0050】
シリンダー63の内部には不図示のスクリューがあり、モーター65により回転させられることで、樹脂材料がシリンダー63の先端へと送られる機構となっている。また、シリンダー63には不図示のヒーターが備えられており、ホッパー64から投入された固形の樹脂材料は、シリンダーの先端へ送られる途中で溶融温度以上に加熱されて溶融し、シリンダー63の先端部の空間に貯留される。
【0051】
次に、
図9(b)に示す型締め工程が行われる。不図示の可動機構によって金型61と金型62が位置合わせされ、閉じられてキャビティを形成する。また、金型61と金型62は、不図示のヒーターによって加熱される。一般的には、金型内部に高温の液体を流す流路を形成しておき、液体の流量や温度を制御して金型の温度を調整する。尚、この工程における金型の加熱温度を、型温度と呼ぶ。
【0052】
続いて、
図9(c)に示す射出工程が行われる。シリンダー63先端のノズルが、金型62に設けられた注入孔部分に押し付けられる。さらにモーター65が動作し、不図示のスクリューを回転させることで、溶融樹脂66が金型61と金型62で形成されたキャビティへと注入される。尚、この工程における溶融した樹脂の温度を、樹脂温度と呼ぶ。
【0053】
続いて、
図9(d)に示す保圧工程および冷却工程が行われる。保圧工程ではシリンダー63内の油圧を制御することで、キャビティ内部に注入された溶融樹脂66にかける圧力を所定の大きさに保つ。尚、この所定の大きさの圧力は保圧と呼ばれる。保圧は、溶融樹脂66がキャビティ内部の空間の隅々にまで行き渡る様な圧力が選択される。すなわち、金型の成形面の凹凸に隙間なく樹脂が充填され、第1の凸部CV1と第2の凸部CV2が高い形状精度で形成されるように、適宜の保圧が溶融樹脂に印加される。
【0054】
保圧工程に続く冷却工程では、
図9(d)に示す配置のまま、金型61と金型62を不図示の冷却機構によって冷却し、キャビティ内部の樹脂をガラス転移点温度以下に冷却し、固化させる。冷却機構としては、例えば金型の周囲に冷媒の流路を配置し、冷媒を巡回させて金型を冷却する方式を用いることができる。
【0055】
キャビティ内の樹脂が固化したら、
図9(e)に示す型開き工程および離型工程が行われる。まず、型開き工程では、不図示の駆動機構により金型61および/または金型62を移動させ、両者を離間させる。
続く離型工程では、例えば不図示のエジェクターピンを突出させることで、一金型に付着している樹脂成形品67を金型から剥離させて取り出す。尚、必要に応じて、取り出された樹脂成形品67に形成されたゲート痕(射出ゲート位置に残されたバリ)を除去してもよい。
【0056】
以上説明した製造方法により、本実施形態においては、外面に第1の凸部CV1と第2の凸部CV2が高い形状精度で形成された樹脂成形品を製造することができる。
【0057】
[他の実施形態]
尚、本発明は、以上説明した実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で多くの変形や組み合わせが可能である。
【0058】
例えば、第1の凸部CV1と第2の凸部CV2は、上述した射出成形法に限らず、金型面の形状を樹脂材料に転写する種々の方式の転写成形法により形成することができる。例えば、ロール成形あるいはプレス成形などの適宜の転写方法により、第1の凸部CV1と第2の凸部CV2を樹脂に形成することができる。
【0059】
また、実施形態に係る樹脂成形品は、
図4に示した例に限定されるものではい。本発明によれば、様々な形態や機能を有する樹脂成形品に光輝感を付与することができる。
例えば、
図10(a)に示すカメラの、カメラボディーの外装部品121やレンズ鏡筒の外装部品122などの表面に光輝感を付与することができる。あるいは、例えば
図10(b)に示すプリンターの、天板の外装部131や側面の外装部品132などの表面に光輝感を付与することができる。尚、カメラは
図10(a)に示す例に限らず、レンズ交換式一眼レフカメラ、ミラーレスカメラ、コンパクトカメラや、撮影機能を備えたスマートホンであってもよい。また、プリンターは、
図10(b)に示す例に限らず、印刷専用機、複写機、読み取り機能付き複合機等の種々の形態に適用でき、記録方式は電子写真式、インクジェット式、熱転写式をはじめとして、特に限定はない。
【0060】
さらに、カメラやプリンターの樹脂成形品に限らず、自動車の内装部品や化粧品の外箱をはじめとして、観察者に光輝感を視認させたい樹脂成形品に対して本発明を適用可能である。樹脂成形品は、シートやフィルムのように薄い平板形状でもよいし、曲面を有する立体的な形状でもよいし、可撓性を有していてもよい。
【0061】
樹脂成形品に用いる樹脂材料の主成分としては、例えばポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネートなどの熱可塑性樹脂を好適に用いることができるが、これに限らない。また、表面反射を利用して光輝感を付与するので、非透明の樹脂材料を用いるのがよいが、色が限定されるわけではない。樹脂材料に適宜の顔料等を含有させれば、任意の着色をすることができる。また、樹脂にガラスフィラーやカーボンファイラーを添加した高強度樹脂や、導電性樹脂などの機能性樹脂に対して実施しても差し支えない。
【符号の説明】
【0062】
41・・・樹脂成形品/42・・・表面領域/51・・・レーザ加工機/52・・・レーザ光/53・・・レーザヘッド/54・・・金型ブロック/55・・・加工ステージ/61、62・・・金型/63・・・シリンダー/64・・・ホッパー/65・・・モーター/66・・・溶融樹脂/67・・・樹脂成形品/CV1・・・第1の凸部/CV2・・・第2の凸部