IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ キヤノン株式会社の特許一覧

特許7490447画像処理装置、その制御方法及びプログラム
<>
  • 特許-画像処理装置、その制御方法及びプログラム 図1
  • 特許-画像処理装置、その制御方法及びプログラム 図2
  • 特許-画像処理装置、その制御方法及びプログラム 図3
  • 特許-画像処理装置、その制御方法及びプログラム 図4
  • 特許-画像処理装置、その制御方法及びプログラム 図5
  • 特許-画像処理装置、その制御方法及びプログラム 図6
  • 特許-画像処理装置、その制御方法及びプログラム 図7
  • 特許-画像処理装置、その制御方法及びプログラム 図8
  • 特許-画像処理装置、その制御方法及びプログラム 図9
  • 特許-画像処理装置、その制御方法及びプログラム 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-17
(45)【発行日】2024-05-27
(54)【発明の名称】画像処理装置、その制御方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   H04N 1/62 20060101AFI20240520BHJP
   B41J 2/525 20060101ALI20240520BHJP
   B41J 5/30 20060101ALI20240520BHJP
   G06T 1/00 20060101ALI20240520BHJP
【FI】
H04N1/62
B41J2/525
B41J5/30 C
G06T1/00 510
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020083782
(22)【出願日】2020-05-12
(65)【公開番号】P2021180377
(43)【公開日】2021-11-18
【審査請求日】2023-04-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大矢 将史
【審査官】豊田 好一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/132481(WO,A1)
【文献】特開2006-108866(JP,A)
【文献】特開2013-103370(JP,A)
【文献】特開2000-115554(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04N 1/46-62
B41J 2/525
B41J 5/30
G06T 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
デバイス非依存RGB値をデバイス依存RGB値に変換する第1の変換テーブルと、
デバイス依存RGB値をCMYK値に変換する第2及び第3の変換テーブルと、
入力画像を構成する画素について、前記第1の変換テーブルにて変換された後のデバイス依存RGB値を、オブジェクト属性がテキストの画素に対しては前記第2の変換テーブルを用いてCMYK値に変換し、オブジェクト属性がイメージの画素に対しては前記第3の変換テーブルを用いてCMYK値に変換する変換手段と、
前記入力画像に含まれるある色を別の色へと変更するための指示を受け付ける受付手段と、
を備え、
前記受付手段にて前記指示を受け付けた場合、前記変換手段は、前記ある色を持つ画素について、そのオブジェクト属性に拠らず、固定の変換テーブルを用いて、前記別の色を示すCMYK値への変換を行う、
ことを特徴とする画像処理装置。
【請求項2】
前記固定の変換テーブルは、前記第3の変換テーブルであることを特徴とする請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項3】
前記変換手段は、前記固定の変換テーブルとして、前記ある色に対応するデバイス非依存RGB値を入力値とし前記別の色に対応するCMYK値を出力値とした、前記第3の変換テーブルの変換特性を内包する変換テーブルを用いることを特徴とする請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項4】
前記変換手段は、前記固定の変換テーブルとして、前記ある色に対応するデバイス非依存RGB値をデバイス依存RGB値に変換する第4の変換テーブル及び前記第3の変換テーブルを用いることを特徴とする請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項5】
前記変換手段は、前記固定の変換テーブルとして、前記ある色に対応するデバイス非依存RGB値を入力値とし前記別の色に対応するCMYK値を出力値とした、前記第2及び第3の変換テーブルのうち前記別の色の彩度に応じて選択されたいずれかの変換テーブルの変換特性を内包する変換テーブルを用いることを特徴とする請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項6】
前記別の色の彩度が無彩色を表す場合は前記第3の変換テーブルが選択され、前記別の色が有彩色を表す場合は前記第2の変換テーブルが選択されることを特徴とする請求項5に記載の画像処理装置。
【請求項7】
前記ある色の画素領域の空間周波数が所定の閾値よりも高い場合は前記第3の変換テーブルが選択され、前記ある色の画素領域の空間周波数が前記所定の閾値以下である場合は前記第2の変換テーブルが選択されることを特徴とする請求項に記載の画像処理装置。
【請求項8】
前記第2の変換テーブルと前記第3の変換テーブルとでは、混合色を単色へと置き換える際の置換率が異なり、
前記第3の変換テーブルにおける前記置換率が、前記第2の変換テーブルにおける前記置換率よりも低い、
ことを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項9】
前記混合色はプロセスカラーのブラックであり、前記単色は単色ブラックである、ことを特徴とする請求項に記載の画像処理装置。
【請求項10】
前記混合色は、シアン、マゼンタ、イエローのうち少なくとも2つの色を組み合わせて表現されるプロセスカラーであり、前記単色は当該プロセスカラーの中間色である、ことを特徴とする請求項に記載の画像処理装置。
【請求項11】
デバイス非依存RGB値をデバイス依存RGB値に変換する第1の変換テーブルと、デバイス依存RGB値をCMYK値に変換する第2及び第3の変換テーブルとを有する画像処理装置の制御方法であって、
入力画像を構成する画素について、前記第1の変換テーブルにて変換された後のデバイス依存RGB値を、オブジェクト属性がテキストの画素に対しては前記第2の変換テーブルを用いてCMYK値に変換し、オブジェクト属性がイメージの画素に対しては前記第3の変換テーブルを用いてCMYK値に変換する第1の変換ステップと、
前記入力画像に含まれるある色を別の色へと変更するための指示を受け付けた場合に、前記ある色を持つ画素について、そのオブジェクト属性に拠らず、固定の変換テーブルを用いて、前記別の色を示すCMYK値への変換を行う第2の変換ステップと、
を有することを特徴とする制御方法。
【請求項12】
コンピュータを、請求項1乃至10のいずれか1項に記載の画像処理装置として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像データに基づき印刷処理を行う際の色調整技術に関する。
【背景技術】
【0002】
POP(Point of purchase advertising)印刷など企業ロゴや製品ロゴを含む印刷物を得る用途では、いわゆるコーポレートカラーなど特定の色について高い色再現性が要求される。この点、近年の家庭・オフィス向け画像形成装置の性能向上に伴い、各販売店舗等でPOP印刷等が行われるようになっている。そして、近年の家庭・オフィス向けの画像形成装置では、特別な専門知識を持たないユーザでも簡易に色を合わせることが可能となっている。特許文献1には、専用の測色機を用いることなく、記録媒体上に印刷される画像中の特定の色が目標とする色に近づくように画像データの色補正を行う技術が開示されている。このように印刷対象となる画像における特定の色のみを対象とする色調整を、本明細書では「スポットカラー調整」と呼ぶこととする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-22648号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
PCなどから送信されてくる印刷対象の画像データは、通常は標準色空間であるsRGB色空間で表現されている。そのため、画像形成装置で印刷する際には、sRGB色空間を画像形成装置で再現可能なCMYK色空間に変換する必要がある。そして、この変換の際にはオブジェクトの属性に応じた変換用テーブル(色分解LUT)が用いられる。ここで、上記スポットカラー調整の対象となる色を持つオブジェクトは、同一色で表現する面積が比較的広いオブジェクトであるケースが多い。そのような、スポットカラー調整の対象となる色を含むオブジェクトに対して、その属性に従って色分解LUTを選択した場合に、当該オブジェクトに関して干渉縞や色滲みが顕在化することがあった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示に係る画像処理装置は、デバイス非依存RGB値をデバイス依存RGB値に変換する第1の変換テーブルと、デバイス依存RGB値をCMYK値に変換する第2及び第3の変換テーブルと、入力画像を構成する画素について、前記第1の変換テーブルにて変換された後のデバイス依存RGB値を、オブジェクト属性がテキストの画素に対しては前記第2の変換テーブルを用いてCMYK値に変換し、オブジェクト属性がイメージの画素に対しては前記第3の変換テーブルを用いてCMYK値に変換する変換手段と、前記入力画像に含まれるある色を別の色へと変更するための指示を受け付ける受付手段と、を備え、前記受付手段にて前記指示を受け付けた場合、前記変換手段は、前記ある色を持つ画素について、そのオブジェクト属性に拠らず、固定の変換テーブルを用いて、前記別の色を示すCMYK値への変換を行う、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
スポットカラー調整の対象となる色を含むオブジェクトについて、干渉縞や色滲みといった画質弊害の発生を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】MFPのハードウェア構成を示すブロック図
図2】画像処理部の内部構成を示す機能ブロック図
図3】実施形態1に係る、色補正テーブル生成部の内部構成を示す機能ブロック図
図4】色補正テーブル生成処理の流れを示すフローチャート
図5】(a)~(c)は、目標色設定用のUI画面5一例を示す図
図6】スポットカラー調整モード時における色変換処理の流れを示すフローチャート
図7】実施形態2に係る、色補正テーブル生成部の内部構成を示す機能ブロック図
図8】実施形態2に係る、第2テーブル作成処理の詳細を示すフローチャート
図9】実施形態3に係る、色補正テーブル生成部の内部構成を示す機能ブロック図
図10】実施形態3に係る、第2テーブル作成処理の詳細を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明に係る実施形態について、図面を参照して説明する。尚、以下の実施形態は本発明を限定するものではなく、また、各実施形態で説明されている特徴の組み合わせの全てが必須のものとは限らない。尚、同一の構成については、同じ符号を付して説明する。
【0009】
また、各実施形態では、印刷対象の画像データに従って記録媒体上に電子写真方式にて画像を形成する画像形成装置としていわゆるMFP(Multi Function Printer)を例に説明を行うものとする。ただし、本開示の技術の適用範囲はMFPに限定されるものではなく、入力された画像データに従って画像を出力する画像出力装置全般に広く適用可能である。すなわち、複写機、レーザプリンタ、インクジェットプリンタといった他の種類の画像形成装置に加え、モニタやプロジェクタ等の画像表示装置に対しても適用可能である。
【0010】
<本発明の課題の確認>
本発明の各実施形態の説明に入る前に、その背景を詳しく説明しておく。家庭やオフィス向けの一般的な画像形成装置の場合、搭載可能な色材数や記録媒体に形成可能な色材量(トナー量やインク量)には制約がある。そのため、あらゆる印刷対象画像に対して常に適切な色再現を行うことが可能な色変換テーブルを用意することは困難である。そのため、優先する画質項目を限定した色変換テーブルを複数用意しておき、入力される印刷対象画像に応じて最適な色変換テーブルを選択する方法が従来より採られている。例えば、デバイス依存RGB色空間を色材に対応したCMYK色空間へと変換する際に用いる色分解テーブルでは、シアン、マゼンタ、イエローを含んだ混合色のブラック(プロセスブラック)の単色ブラックへの置き換えも同時に行われる。その際の置換率を変えた色分解テーブルを複数用意しておき、印刷対象画像に含まれるオブジェクトの属性に応じ、各属性に適した色分解テーブルを選択・適用することが行われている。この場合において、置換率が高い色分解テーブルは、使用される色材数が抑えられるため、大面積では干渉縞や色滲みといった画質弊害が起こりやすくなる。その一方で、エッジ部におけるレジずれの影響が少なく、先鋭性の高い高精細な画を形成するのに有利という特徴がある。反対に、置換率が低い色分解テーブルは、使用される色材数が多くなり、色材消費量が増えたり先鋭性が鈍るといった傾向があるものの、色再現範囲が広く、鮮やかな描画を行うのに有利という特徴がある。このような特徴を考慮し、印刷対象画像に含まれるオブジェクトの属性に従って、各属性に適した色分解テーブルを選択する方法が採られている。具体的には、置換率が高い色分解テーブル(グレー補償タイプ)は、先鋭性が優先されるテキスト/ライン属性やグラフィックス属性のオブジェクト領域に適用される。反対に、置換率が低い色分解テーブル(非グレー補償タイプ)は、色再現性が優先されるイメージ属性のオブジェクト領域に適用される。なお、以下では“テキスト/ライン属性”を単に“テキスト属性”と表記することとする。
【0011】
ここで、上述のスポットカラー調整との関係が問題となる。スポットカラー調整は、入力画像のデバイス非依存RGB色空間の値(sRGB値)をデバイス依存RGB色空間の値(devRGB値)へと変換するカラーマッチング処理において機能する。例えば、(R,G,B)=(255,0,0)のレッドを表すsRGB値が、通常のカラーマッチング処理では(R,G,B)=(240,0,0)のdevRGB値に変換されるとする。これがレッドを調整対象色としたスポットカラー調整の場合、例えばdevRGB値が(R,G,B)=(240,10,3)のようなユーザが指定する特殊なレッドに変換されることになる。
【0012】
ここで問題となるのは、デバイス依存RGB色空間からCMYK色空間へと変換する色分解テーブルが上述のように複数(ここでは2つ)存在するという点である。例えば、R=G=B=100の時には、上述の2種類の色分解テーブルにてそれぞれ以下のように色変換されることになる。
グレー補償タイプ :K=155、C=M=Y=0
非グレー補償タイプ:K=105、C=M=Y=50
【0013】
上記の事実は、sRGB色空間からdevRGB色空間への変換においてスポットカラー調整を行ってせっかく所望の色が再現されるようにしたのに、その後の色分解処理にてどちらのタイプの色分解テーブルを適用するかで、ミクロ的な色味が変わってしまうことを意味する。より詳細には、混合色のプロセスブラックから単色ブラックへの置換率が高いグレー補償タイプを適用した場合に、K成分が色滲みや干渉縞として視認されやすくなってしまうということが起こる。これが本発明の解決すべき課題である。
【0014】
[実施形態1]
<画像形成装置のハードウェア構成>
図1は、本実施形態に係る、画像形成装置としてのMFPのハードウェア構成を示すブロック図である。MFP100は、CPU101、ROM102、RAM103、大容量記憶装置104、UI部105、画像処理部106、エンジンインタフェース(I/F)107、ネットワークI/F108、スキャナI/F109を備える。これら各部は、システムバス110を介して相互に接続されている。また、MFP100は、プリンタエンジン111及びスキャナユニット112を備える。プリンタエンジン111及びスキャナユニット112は、それぞれエンジンI/F107及びスキャナI/F109を介してシステムバス110に接続されている。尚、画像処理部106は、MFP100とは独立した画像処理装置(画像処理コントローラ)として構成されていてもよい。
【0015】
CPU101は、MFP100全体の動作を制御する。CPU101は、ROM102に格納されたプログラムをRAM103に読み出して実行することによって、後述する各種の処理を実行する。ROM102は、読み出し専用メモリであり、システム起動プログラムまたはプリンタエンジンの制御を行うためのプログラム、及び、文字データまたは文字コード情報等が格納されている。RAM103は、揮発性のランダムアクセスメモリであり、CPU101のワークエリア、及び、各種のデータの一時的な記憶領域として使用される。例えば、RAM103は、ダウンロードによって追加的に登録されたフォントデータ、または、外部装置から受信した画像ファイル等を格納するための記憶領域として使用される。大容量記憶装置104は、例えばHDDやSSDであり、様々なデータがスプールされ、プログラム、各種テーブル、情報ファイル及び画像データ等の格納、および、作業領域として使用される。
【0016】
UI(ユーザインタフェース)部105は、例えばタッチパネル機能を備えた液晶ディスプレイ(LCD)で構成され、MFP100の設定状態、実行中の処理の状況、エラー状態等を表示する。例えば色調整処理を実行する際の調整対象色の候補や目標色の候補の表示にも使用される。また、UI部105は、MFP100の各種設定における値の入力や各種ボタンの選択など様々なユーザ指示を受け付ける。例えばスポットカラー調整処理に関する設定や実行指示などもUI部105を介してなされる。なお、UI部105は、ハードキーなどの入力デバイスを別途備えていてもよい。
【0017】
エンジンI/F107は、印刷を実行する際に、CPU101からの指示に応じてプリンタエンジン111を制御するためのインタフェースとして機能する。エンジンI/F107を介して、CPU101とプリンタエンジン111との間でエンジン制御コマンド等が送受信される。ネットワークI/F108は、MFP100をネットワーク113に接続するためのインタフェースとして機能する。尚、ネットワーク108は、例えば、LANであってもよいし、電話回線網(PSTN)であってもよい。プリンタエンジン111は、システムバス110側から受信した印刷画像データに基づいて、複数色(ここではCMYKの4色)の色材(ここではトナー)を用いてマルチカラー画像を紙等の記録媒体上に形成する。スキャナI/F109は、スキャナユニット112による原稿の読み取りを行う際に、CPU101からの指示に応じてスキャナユニット112を制御するためのインタフェースとして機能する。スキャナI/F109を介して、CPU101とスキャナユニット112との間でスキャナユニット制御コマンド等が送受信される。スキャナユニット112は、CPU101による制御によって、原稿を光学的に読み取って読取画像データを生成し、スキャナI/F109を介してRAM103または大容量記憶装置104に読取画像データ(スキャン画像データ)を送信する。
【0018】
なお、本実施形態では、例えばPOP印刷用の入力画像データを用いてプリンタエンジン111で印刷を行ったところ、見本となる印刷物とは異なる色味で印刷されてしまったというケースを想定している。印刷結果における色味が見本となる印刷物とは異なっていることを認識したユーザは、UI部105を操作し、スポットカラー調整の動作モードを選択して、調整を行いたい色(調整対象色)とユーザが目指す色(目標色)の設定を行う。そして、このようなユーザ操作に基づき、入力画像データに含まれる調整対象色が目標色で再現されるような変換特性を持つ専用の色変換テーブル(以下、「色補正テーブル」と表記。)が生成され、上述のスポットカラー調整を伴った印刷処理が実行されるものとする。すなわち、スポットカラー調整用の色補正テーブルの生成は、ユーザから明示的な指示が入力された場合にのみ実行される。
【0019】
<画像処理部の構成>
図2は、画像処理部106の内部構成を示す機能ブロック図である。画像処理部106は、画像入力部201、制御コマンド生成部202、色補正テーブル生成部203、色変換部204、RIP部205、中間調処理部206、画像出力部207を備える。これらの各機能部は、CPU101がROM102に格納されたプログラムをRAM103に読み出して実行することによって実現される。あるいは、これらの一部または全部が、ASICまたは電子回路等のハードウェアで実現されてもよい。
【0020】
画像入力部201は、印刷対象の画像データの入力を受け付ける。入力される画像データは、例えばホストPC115からネットワーク113及びネットワークI/F108を介して入力される。或いは、大容量記憶装置104に格納された画像データが入力されてもよい。入力される画像データは、例えば、プリンタエンジン111に非依存のsRGB色空間に対応した色信号を8bit(256階調)で表現する、レッド(R)、グリーン(G)、ブルー(B)の色毎のプレーンで構成される二次元データである。なお、sRGBとは、IEC(国際電気標準会議)が定めたRGB色空間の標準規格のことを指している。画像入力部201に入力された画像データは、制御コマンド生成部202に送られる。
【0021】
制御コマンド生成部202は、色補正テーブル生成部203及び色変換部204を制御して、プリンタエンジン111で取り扱い可能なCMYK色空間の画像データを得る。そして、得られたCMYK色空間の画像データを含んだ、RIP部205の制御用コマンド(以下、「RIP制御コマンド」と表記)を生成する。生成されたRIP制御コマンドは、RIP部205に送られる。
【0022】
色補正テーブル生成部203は、制御コマンド生成部202の制御の下、入力画像データのうちの調整対象色を目標色へと置き換えるための、上述の色補正テーブルを生成する。色補正テーブルは、デバイス非依存のsRGB色空間の色をプリンタエンジン111の色再現性に依存したCMYK色空間の色に変換するテーブルである。この色補正テーブルにより、色変換部204にて、ユーザが指定する調整対象色に対応する入力色信号(sRGB信号)が、ユーザ所望の目標色を記録媒体上で実現する出力色信号(CMYK信号)に変換されることになる。色補正テーブル生成処理の詳細については後述する。生成された色補正テーブルは、RAM103或いは大容量記録装置104に格納され、スポットカラー調整モード設定時において色変換部204が読み出して使用する。
【0023】
色変換部204は、予め用意されたカラーマッチングLUTと色分解LUTとを用いて、印刷対象となる入力画像データに対し色変換処理を行う。なお「LUT」は、ルックアップテーブルの略称表記である。ここで、その概要を説明する。まず、通常印刷モードにおいては、最初にカラーマッチングLUTに従って、sRGB値をdevRGB値へと変換する。そして、変換後のdevRGB値を、グレー補償タイプ又は非グレー補償タイプのいずれかの色分解LUTをオブジェクト属性に応じて選択的に適用して、CMYK値に変換する。一方、スポットカラー調整モードにおいては、色補正テーブル生成部203にて生成された色補正テーブルを用いて、入力画像データに含まれる調整対象色に対応するsRGB値を、目標色を実現可能なCMYK値に直接変換する。つまり、本実施形態の場合、スポットカラー調整の対象色のオブジェクトについては、その属性に関わらず、非グレー補償タイプの色変換が常に適用されるように制御される。ただし、スポットカラー調整モードが選択されている場合においても、調整対象色以外の色のオブジェクトに対しては、通常印刷モード時と同様に処理される。すなわち、カラーマッチングLUTでdevRGB値に変換した後、オブジェクト属性に応じてグレー補償タイプ又は非グレー補償タイプの色分解LUTが適用される。スポットカラー調整モード時の色変換処理の詳細については後述する。なお、入力画像データのsRGB値を出発点として、最終的に各画素がCMYK値で表現された画像データが得られればよいので、テーブルに代えて関数式を用いて上述のカラーマッチング処理や色分解処理を行う構成であってもよい。いずれの構成であっても、スポットカラー調整の対象色を持つオブジェクトに対しては、その属性に拠らずに固定的に非グレー補償タイプの色分解が適用されるようになっていればよい。
【0024】
RIP(Raster Image Processer)部205は、制御コマンド生成部202が生成したRIP部制御コマンドを用いて、CMYK色空間で表現されたラスタ形式の画像データ(以下、「CMYKラスタ画像データ」と表記)を生成する。
【0025】
中間調処理部206は、RIP部205によって生成されたCMYKラスタ画像データに対して、中間調処理を施して、プリンタエンジン111で処理可能な、網点で表現された印刷画像データ(ハーフトーン画像データ)を生成する。プリンタエンジン111は、通常、2階調、4階調、16階調といったように、入力画像データの階調数よりも低い階調数にて出力可能な場合が多い。このため、上述のような少ない階調数で印刷出力した場合でも安定した中間調表現が可能となるように、中間調処理を行う。なお、中間調処理の手法には、濃度パターン法、組織的ディザ法、誤差拡散法等があり、これら公知の手法を適用することが可能である。
【0026】
画像出力部207は、中間調処理部206から印刷画像データを受け取ると、エンジンI/F107を介してプリンタエンジン111に印刷画像データを送信する。CPU101は、印刷画像データに基づく画像形成の指示を、プリンタエンジン111に対して行う。プリンタエンジン111は、露光、現像、転写及び定着の各プロセスを実行することによって、入力された印刷画像データに従ったカラー画像を記録媒体上に形成して出力する。
【0027】
<色補正テーブル生成処理>
続いて、本実施形態の特徴である色補正テーブル生成処理について詳しく説明する。図3は本実施形態に係る色補正テーブル生成部203の内部構成を示す機能ブロック図であり、図4はその動作の流れを示すフローチャートである。色補正テーブル生成部203は、調整対象色設定部301、目標色設定部302、第1テーブル作成部303、第2テーブル作成部304及びテーブル合成部305を備える。これらの各機能部は、CPU101がROM102に格納された所定のプログラムをRAM103に読み出して実行することによって実現される。以下、図4のフローチャートに沿って説明する。
【0028】
S401では、調整対象色設定部301が、スポットカラー調整の対象色を設定する。具体的には、まず、制御コマンド生成部202から印刷対象となる画像データが入力されると、UI部105に当該画像データが表示される。そして、表示された画像に対してユーザがマウス等で指定した位置に対応する色信号値(sRGB値)が取得され、当該取得したsRGB値が調整対象色tgt_sRGBとして設定される。設定された調整対象色の情報は、第1テーブル作成部303に送られる。
【0029】
続くS402では、目標色設定部302が、S401にて設定された調整対象色についての目標色を設定する。図5(a)~(c)は目標色設定用のUI画面500の一例を示す図である。図5(a)~(c)を参照して、目標色の設定方法について説明する。まず、図5(a)のように、目標色を含む見本原稿501の読み取りを促すメッセージ502がUI画面500上に表示される。ユーザがスキャナユニット112に見本原稿501をセットして読取開始を指示すると、当該見本原稿501が読み取られ、画像データが生成される。この画像データはスキャナユニット112に依存するRGB色空間(scanRGB)で表現される8bitの画像データである。見本原稿501を読み取って得られた画像は、図5(b)のようにUI画面500のプレビュー領域503に見本画像504として表示されると共に、その画像データがRAM103に記録される。そして、図5(c)のようにプレビュー領域503内の見本画像504の中からユーザがマウス等で所望の位置505を指定すると、当該位置505に対応する色が目標色表示欄506に表示される。そして、ユーザが決定ボタン507を押下すると、目標色表示欄506に表示中の色を表す色信号値(scanRGB値)が目標色dest_scanRGBとして設定される。なお、目標色の設定方法は上述の例に限定されない。例えば、見本画像504に含まれる色をリスト表示し、ユーザがリストから選択することで目標色を設定してもよい。さらには、見本原稿501を読み込むことなく、目標色を特定するRGB値を直接指定してもよい。設定された目標色の情報は、第1テーブル作成部303に送られる。
【0030】
S403では、第1テーブル作成部303が、S401にて設定された調整対象色tgt_sRGBを、S402にて設定された目標色dest_scanRGBに対応する値であってプリンタエンジン111に依存したRGB色空間の値(devRGB値)に対応付ける第1テーブルを作成する。この際には、予め用意したscanRGB値とdevRGB値とを対応付けた以下の表1に示すような変換LUT311を用いる。この変換LUT311は、例えば大容量記憶装置から104から読み出して取得する。ただし、テーブルデータは、ネットワーク113を介してホストPC115等の外部装置から取得してもよい。
【0031】
【表1】
【0032】
上記表1に示すような変換LUT311を用いて目標色dest_scanRGBをdevRGB値に変換して、以下の表2に示すような、調整対象色tgt_sRGBと、目標色dest_scanRGBに相当するdevRGB値とを対応付ける第1テーブルが作成される。
【0033】
【表2】
【0034】
上記のようにして取得された第1テーブルはテーブル合成部305に送られる。また、目標色dest_scanRGBに相当するdevRGB値の情報が第2テーブル作成部304に送られる。
【0035】
続いて、S404では、第2テーブル作成部304が、第1テーブル作成部303から受け取った目標色dest_scanRGBに相当するdevRGB値を、印刷処理で使用する色材に対応したCMYK値に対応付ける第2テーブルを作成する。この際、以下の表3に示すような、devRGB値とCMYK値とを対応付けた非グレー補償タイプの色分解LUT312を用いる。すなわち、前述した通り、予め用意された複数の色分解LUTの中から、色再現性に優れ、干渉縞や色滲みといった画質弊害が起きにくい非グレー補償タイプの色分解LUTを使用する。
【0036】
【表3】
【0037】
ここで、非グレー補償タイプの色分解LUTを使用する理由について、改めて詳しく説明しておく。前述のとおり、色分解LUTは、プロセスブラックを単色ブラックに置換する割合(K色材の置換率)が異なる複数のタイプが用意される。そして、オブジェクト属性がテキストやグラフィックスの場合には、先鋭性を優先し、K色材の置換率が高い色分解LUTを適用することで、オブジェクトのエッジがシャープな印刷画像を実現する。一方、オブジェクト属性がイメージの場合には、色再現性を優先し、K色材の置換率が低い色分解LUTを適用することで、色同士のバランスが取れた色再現豊かな印刷画像を実現する。また、色分解LUTは、グラデーション表現を持つオブジェクトを描画する場合に生じ得る疑似輪郭を抑制するため、格子点間の距離が近い色同士の色材量ができるだけ変化しないように設計する必要がある。そのため、K色材の置換率が高い色分解LUTは、K色材のみで表現する領域の近傍に位置する格子点群において、使用する色材の数や量が制限されてしまう。そのため、干渉縞や色滲みといった画質弊害が発生しやすい。ここで、干渉縞とは、色材毎の画像(色版)が記録媒体上で干渉することによって発生する縞模様を意味する。いわゆる面積階調表現を行う画像形成装置では、記録媒体上に形成される各色版はその色毎に異なる周期性を持つ。色版それぞれを単独で見れば人間の目には知覚できないレベルの周期性となっているが、2つ以上の色版が重なった場合には、お互いに干渉し合い、知覚できる周期性となり縞模様として視認される。このような干渉縞は、重なる色版が多くなるほど、縞が乱立し目立ちにくくなる。そのため、K色材の置換率が高い色分解LUTにおける上記格子点群のように、K色材を含む2色での表現となる領域においては干渉縞が目立ちやすくなってしまう。さらには、色滲みの問題もある。色滲み(或いは「色が濁る」とも表現される)とは、均一な色の領域内において明度差が大きい箇所が点在する状態を指す。均一だと想定する領域において、明度差が大きく異なる色と視認されやすい箇所が領域内に点在することでユーザは画質弊害と認識する。色分解LUTにおけるK色材の置換率を高めた場合、K色材のみで表現する領域の近傍では、急激な色材量の変化を抑制するために、多量のK色材と少量の他色色材との組み合わせとなる場合が多い。そのため、黒色が支配的な領域の中に、黒色よりも明度が低いシアンやマゼンタ、イエローが少量混ざることで、色滲みが発生しやすくなってしまう。そして、この色滲みは明度差が大きいほど視認性が高くなるため、明度差が最大となるブラックとイエローによる組み合わせで最も顕在化する。上述した干渉縞や色滲みの画質弊害は、均一な色表現を行う場合のムラであり、広い面積で色を均一に表現する低周波領域において特に顕在化しやすく、細かい線といった高周波領域ではほとんど視認されにくいという特徴がある。なお、上記の問題はK色材のみで表現する領域に固有のものではない。例えば先鋭性を重視した場合には色材量を抑制するために単色での表現を多用するケースが多く、他の色材色のみで表現する領域でも発生する問題である。以上を踏まえ、本実施形態では、オブジェクト属性がテキストやグラフィックスであったとしても、色を再現することを最優先事項とし、K色材の置換率が低い非グレー補償タイプの色分解LUTを第2テーブルの作成時に用いることとしている。なお、図3に示す色分解LUT312は、例えば大容量記憶装置から104から読み出して取得するものとするが、ネットワーク113を介してホストPC115等の外部装置から取得してもよい。
【0038】
以上のとおりS404では、非グレー補償タイプの色分解LUTを用いて、目標色dest_scanRGBに相当するdevRGB値をCMYK値に変換することにより、以下の表4に示すような第2テーブルが作成される。
【0039】
【表4】
【0040】
上記のようにして作成された第2テーブルはテーブル合成部305に送られる。
【0041】
次に、S405では、テーブル合成部305が、第1テーブル作成部303から受け取った第1テーブルと第2テーブル作成部304から受け取った第2テーブルとを合成して以下の表5に示すような色補正テーブルを得る。
【0042】
【表5】
【0043】
こうして、調整対象色のsRGB値と目標色に対応するCMYK値とを対応付ける、非グレー補償タイプの色分解LUTの変換特性を内包した色補正テーブルが得られることになる。生成された色補正テーブルはRAM103又は大容量記憶装置104に記憶されると共に、色補正テーブルの生成が完了したことが制御コマンド生成部202に通知される。
【0044】
以上が、本実施形態に係る、色補正テーブル生成処理の内容である。なお、本実施形態では、タイプの異なる2種類の色分解LUTのうちK色材の置換率が低い方の色分解LUTを用いて、目標色dest_scanRGBに相当するdevRGB値をCMYK値に変換していたが、これに限定されない。要は、目標色に対応するCMYK値へと変換する際に、画質弊害の発生危険度が高いK色材の置換率が高い色分解LUTの適用が避けられればよい。例えば、K色材の置換率が異なる3種類の色分解LUTを備える場合には、K色材の置換率が中間的な色変換テーブルを採用して第2テーブルを作成してもよい。
【0045】
<色変換処理>
次に、スポットカラー調整モード時における、色変換部204にて実行される色変換処理について、図6のフローチャートを参照して説明する。なお、図6のフローに示す一連の処理は、CPU101がROM102に格納された所定のプログラムをRAM103に読み出して実行することによって実現される。
【0046】
S601では、色変換部204にて使用する各種テーブルのデータがRAM103或いは大容量記憶装置104から読み出される。具体的には、色補正テーブル203で生成された色補正テーブルの他、予め用意されたカラーマッチングLUTやK色材の置換率が異なる2種類(グレー補償タイプ及び非グレー補償タイプ)の色分解LUTが読み出されることになる。
【0047】
続くS602では、印刷対象の入力画像における注目する画素が決定される。この際には、入力画像の例えば左上隅の画素から順に注目画素として決定される。
【0048】
次のS603では、注目画素の画素値であるsRGB値が、S601にて読み出した色補正テーブルにおける入力値と等しいか否かが判定される。判定の結果、等しい場合にはS604に進み、等しくない場合にはS605に進む。
【0049】
S604では、注目画素の画素値が色補正テーブルに従って変換される。すなわち、色補正テーブルにおいて入力値として規定されるsRGB値が、その出力値として規定されるCMYK値に変換される。変換処理が完了するとS609に進む。
【0050】
S605では、注目画素の画素値であるsRGB値がカラーマッチングLUTに従って変換される。すなわち、カラーマッチングLUTにおいて規定される複数の入力値の中から注目画素のsRGB値に対応する入力値を特定し、当該入力値に対応付けられた出力値としてのdevRGB値に変換される。なお、注目画素のsRGB値に一致するsRGB値がカラーマッチングLUTにおいて入力値として規定されていない場合には、公知の補間処理によって、注目画素のsRGB値に対応するdevRGB値を決定すればよい。devRGB値への変換処理が完了するとS606に進む。
【0051】
S606では、注目画素のオブジェクト属性がテキストやグラフィクスであるか否かが判定される。オブジェクト属性がテキストやグラフィクスであればS607へ進み、それ以外(イメージ属性)であればS608へ進む。
【0052】
S607では、S605にて変換後の注目画素の画素値が、グレー補償タイプの色分解LUTに従って変換される。すなわち、K色材の置換率が高い方の色分解LUTに規定される複数の入力値の中から注目画素のdevRGB値に対応する入力値を特定し、当該入力値に対応付けられた出力値としてのCMYK値に変換される。同様にS608では、S605にて変換後の注目画素の画素値が、非グレー補償タイプの色分解LUTに従って変換される。すなわち、K色材の置換率が低い方の色分解LUTに規定される複数の入力値の中から注目画素のdevRGB値に対応する入力値を特定し、当該入力値に対応付けられた出力値としてのCMYK値に変換される。なお、注目画素のdevRGB値に一致するdevRGB値が色分解LUTにおいて入力値として規定されていない場合には、公知の補間処理によって決定すればよい点は、S605のときと同じである。CMYK値への変換処理が完了するとS609に進む。
【0053】
S609では、印刷対象の入力画像に含まれるすべての画素について上述の処理がなされたか否かが判定される。未処理の画素があればS602に戻って次の注目画素を決定して処理を続行する。一方、すべての画素が処理されていれば本処理を終える。
【0054】
以上が、本実施形態に係る、スポットカラー調整モード時における色変換処理の内容である。
【0055】
<変形例1>
本実施形態のスポットカラー調整では、調整対象色のsRGB値と目標色のCMYK値とを直接対応付けた変換テーブルを用いて1回で色変換を行っていたが、これに限定されない。例えば、合成前の第1テーブルと非グレー補償タイプの色分解LUT312とをそれぞれ用いて2段階で色変換を行う構成でもよい。さらには、調整対象色のsRGB値からLab値に一旦変換し、そこからCMYK値に変換するといった工程を経てもよい。ここで「Lab」は、CIE(国際照明委員会)が定める人間の視覚特性を考慮したプリンタエンジン111に非依存の3次元の視覚均等色空間である「L***」を簡略的に示したものである。要は、調整対象色について目標色を表現するCMYK値への変換を行う過程において、オブジェクト属性に依ることなく、K色材への置換率が低い色分解LUTに基づく変換が行われればよい。
【0056】
<変形例2>
本実施形態の手法は、複数の色材の組み合わせで表現される混合色(プロセスカラー)を1つの色材で表現される単色に置換する際の置換率が異なることに起因する画質弊害の抑制に広く適用可能である。例えば、プロセスカラーの中間色である青色の色材をプリンタエンジン111が備えており、シアンとマゼンタの混合色を単色である青色の色材に置換する際の置換率が異なる複数の色分解LUTが、オブジェクト属性に応じて使い分けるために用意されていたとする。このような場合においても本実施形態は適用可能であり、スポットカラー調整の実行時には、青色の色材への置換率が低い方の色分解LUTが適用されるようにすることで同様の効果を得ることができる。また、中間色色材としては青色以外にもオレンジやバイオレットなど、プロセスカラーの中間的な色相を表現可能な色材であればよい。
【0057】
以上のとおり本実施形態によれば、スポットカラー調整の対象色を持つオブジェクトについては、その属性に依ることなく固定の色分解LUTが適用されてCMYK値に変換されることになる。そのため、スポットカラー調整の対象色のオブジェクトにおいて干渉縞や色濁りといった画質弊害が発生するのを抑制することができる。
【0058】
[実施形態2]
実施形態1では、スポットカラー調整のための色補正テーブルを生成する際に、常に非グレー補償タイプの色分解LUTを使用してCMYK値を決定していた。次に、ユーザがスポットカラー調整の対象色と併せて設定する目標色の特徴量に基づいて、色補正テーブルの生成時に使用する色分解LUTを決定する態様を、実施形態2として説明する。なお、MFPのハードウェア構成など実施形態1と共通する内容については説明を省略し、以下では差異点である色補正テーブル生成処理について説明を行うこととする。
【0059】
図7は、本実施形態に係る色補正テーブル生成部203’の内部構成を示す機能ブロック図である。色補正テーブル生成部203’は、調整対象色設定部301、目標色設定部302、第1テーブル作成部303、第2テーブル作成部304’及びテーブル合成部305に加え、特徴量導出部701を新たに備える。特徴量導出部701は、ユーザが設定した目標色の彩度を特徴量として導出し、得られた彩度情報を第2テーブル作成部304’に出力する。そして、本実施形態の第2テーブル作成部304’は、特徴量導出部701から受け取った彩度情報に基づいて、第2テーブルの作成時に使用する色分解LUTのタイプを決定する。より詳細には、ユーザが指定した目標色が、K色材の置換率が高くとも画質弊害が発生しにくい無彩色である場合には、グレー補償タイプの色分解LUTを用いて第2テーブルを作成するようにする。
【0060】
本実施形態においても色補正テーブル生成処理の全体的な流れは前述の図4のフローチャートに示すとおりであり、実施形態1と異なるところはない。実施形態1との違いは、第2テーブルの生成方法(すなわち、図4のフローのS404の中身)である。図8は、本実施形態の第2テーブル作成部304’における動作の流れを示すフローチャートである。以下、図8のフローチャートに沿って、本実施形態における第2テーブルの作成方法について説明する。
【0061】
S801では、図4のフローのS402にて設定された目標色の情報(scanRGB値)が取得される。取得した目標色の情報は特徴量導出部701に入力される。続くS802では、特徴量導出部701が、S801にて取得したscanRGB値を、予め用意した変換LUTを用いてLab値に変換し、得られたLab値から特徴量として彩度Sを導出する。ここで用いる色変換LUTは、スキャナユニット112に依存したRGB色空間とデバイス非依存のLab色空間とを対応付けた、前述の表1に示す変換LUTに類似した変換LUTである。ここでは、変換によって得られた目標色に対応するLab値におけるa値とb値のユークリッド距離を彩度Sとして求める。こうして得られた特徴量としての彩度Sの情報は、第2テーブル作成部304’へと送られる。
【0062】
そして、S803では、第2テーブル作成部304’が、S802にて導出された彩度Sに基づいて、S801で取得した目標色が無彩色であるかどうかを判定する。具体的には、S802にて導出された彩度Sが予め設けた閾値Th_sよりも小さいかどうかの閾値判定処理を行う。この際の閾値Th_sには、例えば、K色材の置換率が高いグレー補償タイプの色分解LUTにおいてK色材のみで再現する格子点に対応する彩度の上限値を採用すればよい。判定の結果、彩度Sが閾値Th_sよりも小さい場合には、設定された目標色が無彩色領域に含まれる色であると判断し、S804に進む。一方、彩度Sが彩度閾値Th_s以上の場合には、設定された目標色が無彩色領域に含まれる色ではない(すなわち、有彩色である)と判断し、S805に進む。
【0063】
S804及びS805において第2テーブル作成部304’は、彩度情報に基づく閾値処理の結果に従って使用する色分解LUTを選択し、第2テーブルを作成する。目標色が無彩色であると判定された場合のS804では、K色材の置換率が高い(つまり、無彩色の再現力が高い)グレー補償タイプの色分解LUTを基に、目標色dest_scanRGBに相当するdevRGB値をCMYK値に対応付ける第2テーブルが作成される。一方、目標色が無彩色ではないと判定された場合のS805では、実施形態1のS404と同様、K色材の置換率が低い非グレー補償タイプの色変換テーブルを基に、目標色dest_scanRGBに相当するdevRGB値をCMYK値に対応付ける第2テーブルが作成される。
【0064】
以上が、本実施形態に係る、第2テーブル作成処理の内容である。本実施形態においては、目標色が無彩色であった場合には、K色材の置換率が高い色分解LUTを用いて、第2テーブルにおいて出力値として規定するCMYK値が決定されることになる。これにより、画質弊害の発生を抑制しつつ、無彩色のオブジェクトをより鮮明に表現することが可能となる。
【0065】
[実施形態3]
実施形態2では、スポットカラー調整における目標色が無彩色であるかどうかに応じて、第2テーブル作成時に使用する色分解LUTのタイプを決定する態様を説明した。次に、スポットカラー調整の対象色を持つ画素領域の視覚感度に応じて、第2テーブル作成時に使用する色分解LUTのタイプを決定する態様を、実施形態3として説明する。なお、実施形態2と同様、MFPのハードウェア構成など実施形態1と共通する内容については説明を省略し、以下では差異点である色補正テーブル生成処理について説明を行うこととする。
【0066】
図9は、本実施形態に係る色補正テーブル生成部203”の内部構成を示す機能ブロック図である。色補正テーブル生成部203”は、調整対象色設定部301、目標色設定部302、第1テーブル作成部303、第2テーブル作成部304”及びテーブル合成部305に加え、特徴量導出部701’を新たに備える。特徴量導出部701’は、印刷対象画像内の調整対象色を持つ画素領域の空間周波数を特徴量として導出し、得られた周波数情報を第2テーブル作成部304”に出力する。そして、本実施形態の第2テーブル作成部304”は、特徴量導出部701’から受け取った周波数情報に基づいて、第2テーブルの作成時に使用する色分解LUTのタイプを決定する。より詳細には、調整対象色の画素領域が、細かい表現が支配的な高周波領域である場合にはK色材の置換率が高くとも画質弊害が発生しにくいので、グレー補償タイプの色分解LUTを用いて第2テーブルを作成するようにする。
【0067】
本実施形態においても色補正テーブル生成処理の全体的な流れは前述の図4のフローチャートに示すとおりであり、実施形態1及び2と異なるところはない。実施形態1及び2との違いは、第2テーブルの生成方法(すなわち、図4のフローのS404の中身)である。図10は、本実施形態の第2テーブル作成部304”における動作の流れを示すフローチャートである。以下、図10のフローチャートに沿って、本実施形態における第2テーブルの作成方法について説明する。
【0068】
S1001では、前述のS401にて調整対象色の設定が行われた入力画像のデータが取得される。取得した入力画像データは特徴量導出部701’に入力される。続くS1002では、前述のS401にて設定された調整対象色を持つ画素の入力画像における画素位置を示す座標情報が取得される。取得した入力画像データは特徴量導出部701’に入力される。
【0069】
続くS1003では、特徴量導出部701’が、入力画像内の画素のうち調整対象色を持つ画素領域の空間周波数を、特徴量として導出する。具体的には、まず、入力画像を構成する各画素を逐次処理し、調整対象色と一致する色を有しているか否かを判定する。判定の結果、調整対象色と一致する色を持つと判定された画素については“1”、一致しない色を持つと判定された画素については“0”を付与して、入力画像と同サイズの1ビット1プレーン画像(2値画像)を生成する。次に、生成した2値画像に対し公知のフーリエ変換処理を行って、入力画像に含まれる調整対象色が持つ周波数毎の振幅を求める。そして、最大の振幅を持つ周波数を代表周波数fとし、これを特徴量とする。こうして得られた特徴量としての代表周波数fの情報は、第2テーブル作成部304”へと送られる。
【0070】
そして、S1004では、第2テーブル作成部304”が、調整対象色の画素領域が高周波領域であるか否かを判定する。具体的には、S1003にて導出された代表周波数fが予め設けた閾値Th_fよりも小さいかどうかの閾値判定処理を行う。閾値Th_fについては、様々な周波数の領域を含んだチャート画像をK色材の置換率が高い色分解LUTにてCMYK値に変換して印刷出力したものをユーザが肉眼でチェックし、干渉縞や色滲みが起きにくい周波数を閾値Th_fとして採用すればよい。判定の結果、代表周波数fが閾値Th_fよりも大きい場合には、設定された調整対象色を持つ画素領域が色再現性よりも先鋭性を優先する領域であると判断し、S1005に進む。一方、代表周波数fが閾値Th_f以下の場合には、設定された調整対象色を持つ画素領域が先鋭性よりも色再現性を優先する領域であると判断し、S1006に進む。
【0071】
S1005及びS1006において第2テーブル作成部304”は、周波数情報に基づく閾値処理の結果に従って使用する色分解LUTを選択し、第2テーブルを作成する。調整対象色の画素領域が高周波領域であると判定された場合のS1005では、K色材への置換率が高いグレー補償タイプの色分解LUTを基に第2テーブルが作成される。一方、調整対象色の画素領域が高周波領域ではないと判定された場合のS1006では、実施形態1のS404と同様、K色材への置換率が低い非グレー補償タイプの色変換テーブルを基に第2テーブルが作成される。
【0072】
以上が、本実施形態に係る、第2テーブル作成処理の内容である。なお、特徴量として、調整対象色を持つ画素領域の空間周波数を特定できればよいので、例えば、調整対象色を含む画素の連結性や面積を求め、得られた連結性や面積から調整対象色を持つ画素領域の空間周波数を推定してもよい。
【0073】
以上のとおり本実施形態においては、調整対象色を持つ画素領域が高周波領域であった場合には、K色材の置換率が高い色分解LUTを用いて第2テーブルにおいて出力値として規定するCMYK値が決定されることになる。これにより、画質弊害の発生を抑制しつつ、表現の細かいオブジェクトをより鮮明に表現することが可能となる。
【0074】
(その他の実施例)
本発明は、上述の実施形態の1以上の機能を実現するプログラムを、ネットワーク又は記憶媒体を介してシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサーがプログラムを読出し実行する処理でも実現可能である。また、1以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC)によっても実現可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10