(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-17
(45)【発行日】2024-05-27
(54)【発明の名称】クレーン、及びクレーン制御方法
(51)【国際特許分類】
B66C 13/22 20060101AFI20240520BHJP
B66C 13/06 20060101ALI20240520BHJP
【FI】
B66C13/22 M
B66C13/22 S
B66C13/06 M
(21)【出願番号】P 2020118372
(22)【出願日】2020-07-09
【審査請求日】2023-03-02
(73)【特許権者】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】桃井 康行
(72)【発明者】
【氏名】小田井 正樹
(72)【発明者】
【氏名】及川 裕吾
(72)【発明者】
【氏名】家重 孝二
【審査官】三宅 達
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-002391(JP,A)
【文献】特開平11-035277(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0224755(US,A1)
【文献】実開平05-056890(JP,U)
【文献】特開2009-067507(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66C 13/00-15/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロープの巻き上げ、巻き下げにより吊荷を上下方向に移動させる巻上装置と、前記巻上装置を取り付け、前記吊荷を水平方向に移動させる水平移動装置と、吊荷目標速度指令値を生成する操作入力装置と、前記吊荷目標速度指令値に基づいて前記水平移動装置の速度指令値を生成する速度指令値演算装置と、前記速度指令値に基づいて前記水平移動装置を駆動制御する電動モータ制御装置とを有するクレーンであって、
前記速度指令値演算装置は、
前記吊荷目標速度指令値と前記ロープの長さとから、前記水平移動装置の前記吊荷の荷振れを抑制するための荷振れ抑制速度指令値を演算する荷振れ抑制制御装置と、
前記操作入力装置からの前記吊荷目標速度指令値の入力時間が、所定の荷振れ抑制制御開始待ち時間に到達した場合
と、前記荷振れ抑制制御開始待ち時間に到達する前に前記操作入力装置からの前記吊荷目標速度指令値が減速を開始した場合には、前記荷振れ抑制制御装置から前記荷振れ抑制速度指令値を出力し、これ以外の場合は、前記操作入力装置からの前記吊荷目標速度指令値を出力する切換装置を有する
ことを特徴とするクレーン。
【請求項2】
ロープの巻き上げ、巻き下げにより吊荷を上下方向に移動させる巻上装置と、前記巻上装置を取り付け、前記吊荷を水平方向に移動させる水平移動装置と、吊荷目標速度指令値を生成する操作入力装置と、前記吊荷目標速度指令値に基づいて前記水平移動装置の速度指令値を生成する速度指令値演算装置と、前記速度指令値に基づいて前記水平移動装置を駆動制御する電動モータ制御装置とを有するクレーンであって、
前記速度指令値演算装置は、
前記吊荷目標速度指令値と前記ロープの長さとから、前記水平移動装置の前記吊荷の荷振れを抑制するための荷振れ抑制速度指令値を演算する荷振れ抑制制御装置と、
前記操作入力装置からの前記吊荷目標速度指令値の入力時間が、所定の荷振れ抑制制御開始待ち時間に到達した場合、或いは前記操作入力装置からの前記吊荷目標速度指令値が減速を開始した場合には、前記荷振れ抑制制御装置から前記荷振れ抑制速度指令値を出力し、これ以外の場合は、前記操作入力装置からの前記吊荷目標速度指令値を出力する切換装置を有すると共に、
前記荷振れ抑制制御開始待ち時間は、少なくとも前記ロープの長さに応じて変更される
ことを特徴とするクレーン。
【請求項3】
請求項2に記載のクレーンにおいて、
前記荷振れ抑制制御装置は、
少なくとも、前記吊荷目標速度指令値、前記切換装置からの前記速度指令値、及び前記ロープの長さを用い、所定の演算を行って前記吊荷の荷振れを抑制する前記荷振れ抑制速度指令値を求める演算装置を備えている
ことを特徴とするクレーン。
【請求項4】
請求項3に記載のクレーンにおいて、
前記荷振れ抑制制御装置の演算装置は、
前記切換装置から出力され前記電動モータ制御装置へ入力される前記速度指令値、及びクレーンモデルに基づいて吊荷モデル速度値を演算するモデル演算装置と、
前記吊荷目標速度指令値、前記吊荷モデル速度値とから、前記水平移動装置の前記吊荷の荷振れを抑制するための荷振れ抑制速度指令値を演算する制御演算装置とを有し、
前記モデル演算装置、及び前記制御演算装置のパラメータは、少なくとも前記ロープの長さに応じて変更される
ことを特徴とするクレーン。
【請求項5】
請求項4に記載のクレーンにおいて、
前記荷振れ抑制制御装置の制御演算装置は、
前記吊荷モデル速度値からフィードバック制御演算を行うフィードバック制御演算装置と、
前記吊荷目標速度指令値からフィードフォワード制御演算を行うフィードフォワード制御演算装置と、
前記フィードバック制御演算装置の出力と前記フィードフォワード制御演算装置の出力とを加算する加算装置と、
前記加算装置の出力に対してリミット処理を行うリミット処理装置とを有し、
前記フィードフォワード制御演算装置、及び前記フィードバック制御演算装置のパラメータは、少なくとも前記ロープの長さに応じて変更される
ことを特徴とするクレーン。
【請求項6】
ロープの巻き上げ、巻き下げにより吊荷を上下方向に移動させる巻上装置と、前記巻上装置を取り付け、前記吊荷を水平方向に移動させる水平移動装置と、吊荷目標速度指令値を生成する操作入力装置と、前記吊荷目標速度指令値に基づいて前記水平移動装置の速度指令値を生成する速度指令値演算装置と、前記速度指令値に基づいて前記水平移動装置を駆動制御する電動モータ制御装置とを有するクレーンであって、
前記速度指令値演算装置は、
前記操作入力装置からの前記吊荷目標速度指令値が規定速度値以下となってからの経過時間が所定のブレーキ作動待ち時間より短く、しかも前記速度指令値演算装置からの前記速度指令値が負となった場合は、前記水平移動装置が惰性で移動するフリーラン制御を実行し、
前記経過時間が前記ブレーキ作動待ち時間より長く、しかも前記速度指令値演算装置からの前記速度指令値がブレーキ作動速度値以下となった場合は、前記水平移動装置の位置を保持するブレーキ制御を実行する
ことを特徴とするクレーン。
【請求項7】
請求項6記載のクレーンにおいて、
前記ブレーキ作動待ち時間は、少なくとも前記ロープの長さに応じて変更されることを特徴とするクレーン。
【請求項8】
請求項7に記載のクレーンにおいて、
前記速度指令値演算装置は、
少なくとも、前記吊荷目標速度指令値、前記速度指令値、及び前記ロープの長さを用い、所定の演算を行って前記吊荷の荷振れを抑制する前記荷振れ抑制速度指令値を求める演算装置を備えている
ことを特徴とするクレーン。
【請求項9】
請求項8に記載のクレーンにおいて、
前記荷振れ抑制制御装置の演算装置は、
前記電動モータ制御装置へ入力される前記速度指令値、及びクレーンモデルに基づいて吊荷モデル速度値を演算するモデル演算装置と、
前記吊荷目標速度指令値、前記吊荷モデル速度値とから、前記水平移動装置の前記吊荷の荷振れを抑制するための荷振れ抑制速度指令値を演算する制御演算装置とを有し、
前記モデル演算装置、及び前記制御演算装置のパラメータは、少なくとも前記ロープの長さに応じて変更される
ことを特徴とするクレーン。
【請求項10】
請求項9に記載のクレーンにおいて、
前記荷振れ抑制制御装置の制御演算装置は、
前記吊荷モデル速度値からフィードバック制御演算を行うフィードバック制御演算装置と、
前記吊荷目標速度指令値からフィードフォワード制御演算を行うフィードフォワード制御演算装置と、
前記フィードバック制御演算装置の出力と前記フィードフォワード制御演算装置の出力とを加算する加算装置と、
前記加算装置の出力に対してリミット処理を行うリミット処理装置とを有し、
前記フィードフォワード制御演算装置、及び前記フィードバック制御演算装置のパラメータは、少なくとも前記ロープの長さに応じて変更される
ことを特徴とするクレーン。
【請求項11】
請求項6乃至請求項10
の何れか1項に記載のクレーンにおいて、
前記速度指令値演算装置は、
前記吊荷目標速度指令値と前記ロープの長さとから、前記水平移動装置の前記吊荷の荷振れを抑制するための荷振れ抑制速度指令値を演算する荷振れ抑制制御装置と、
前記操作入力装置からの前記吊荷目標速度指令値の入力時間が、所定の制御開始待ち時間に到達した場合、或いは前記操作入力装置からの前記吊荷目標速度指令値が減速を開始した場合には、前記荷振れ抑制制御装置から前記荷振れ抑制速度指令値を出力し、これ以外の場合は、前記操作入力装置からの前記吊荷目標速度指令値を出力する切換装置を備える
ことを特徴とするクレーン。
【請求項12】
ロープの巻き上げ、巻き下げにより吊荷を上下方向に移動させる巻上装置と、前記巻上装置を取り付け、前記吊荷を水平方向に移動させる水平移動装置と、吊荷目標速度指令値を生成する操作入力装置と、前記吊荷目標速度指令値に基づいて前記水平移動装置の速度指令値を生成する速度指令値演算装置と、前記速度指令値に基づいて前記水平移動装置を駆動制御する電動モータ制御装置とを有するクレーンの制御方法であって、
前記速度指令値演算装置は、
前記吊荷目標速度指令値と前記ロープの長さとから、前記水平移動装置の前記吊荷の荷振れを抑制するための荷振れ抑制速度指令値を演算し、
前記操作入力装置からの前記吊荷目標速度指令値の入力時間が、所定の荷振れ抑制制御開始待ち時間に到達した場合
と、前記荷振れ抑制制御開始待ち時間に到達する前に前記操作入力装置からの前記吊荷目標速度指令値が減速を開始した場合には
、前記荷振れ抑制速度指令値を出力し、これ以外の場合は、前記操作入力装置からの前記吊荷目標速度指令値を出力する
ことを特徴とするクレーンの制御方法。
【請求項13】
ロープの巻き上げ、巻き下げにより吊荷を上下方向に移動させる巻上装置と、前記巻上装置を取り付け、前記吊荷を水平方向に移動させる水平移動装置と、吊荷目標速度指令値を生成する操作入力装置と、前記吊荷目標速度指令値に基づいて前記水平移動装置の速度指令値を生成する速度指令値演算装置と、前記速度指令値に基づいて前記水平移動装置を駆動制御する電動モータ制御装置とを有するクレーンの制御方法であって、
前記速度指令値演算装置は、
前記操作入力装置からの前記吊荷目標速度指令値が規定速度値以下となってからの経過時間が所定のブレーキ作動待ち時間より短く、しかも前記速度指令値演算装置からの前記速度指令値が負となった場合は、前記水平移動装置が惰性で移動するフリーラン制御を実行し、
前記経過時間が前記ブレーキ作動待ち時間より長く、しかも前記速度指令値演算装置からの前記速度指令値がブレーキ作動速度値以下となった場合は、前記水平移動装置の位置を保持するブレーキ制御を実行する
ことを特徴とするクレーンの制御方法。
【請求項14】
ロープの巻き上げ、巻き下げにより吊荷を上下方向に移動させる巻上装置と、前記巻上装置を取り付け、前記吊荷を水平方向に移動させる
誘導電動機を備えた水平移動装置と、吊荷目標速度指令値を生成する操作入力装置と、前記吊荷目標速度指令値に基づいて前記水平移動装置の速度指令値を生成する速度指令値演算装置と、前記速度指令値に基づいて前記水平移動装置を駆動制御する電動モータ制御装置とを有するクレーンであって、
前記速度指令値演算装置は、
前記電動モータ制御装置へ入力される前記速度指令値、及びクレーンモデルに基づいて吊荷モデル速度値を演算するモデル演算装置と、
前記吊荷モデル速度値からフィードバック制御演算を行うフィードバック制御演算装置と、
前記吊荷目標速度指令値からフィードフォワード制御演算を行うフィードフォワード制御演算装置と、
前記フィードバック制御演算装置の出力と前記フィードフォワード制御演算装置の出力とを加算する加算装置と、
前記加算装置の出力に対して、
前記水平移動装置に備えられた前記誘導電動機を逆回転させない速度制限、及び前記誘導電動機の加速度制限によるリミット処理を行うリミット処理装置とを有し、
前記モデル演算装置、前記フィードフォワード制御演算装置、及び前記フィードバック制御演算装置のパラメータは、少なくとも前記ロープの長さに応じて変更される
ことを特徴とするクレーン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は吊荷を吊り下げて搬送するクレーン、及びクレーン制御方法に係り、特に吊荷の振れを抑制する機能を備えたクレーン、及びクレーン制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、クレーンの熟練作業者の高齢化や、クレーン設置台数の増加による人手不足に伴い、経験の浅い未習熟作業者がクレーンを運転(操作)する機会が増加する傾向にある。そして、未習熟作業者は、特に吊荷の振れを抑制する振れ止め操作が不得手であり、吊荷の振れによる衝突事故や挟まれ事故の危険性が高く、また、吊荷の振れが収まるまでに時間を要し作業時間が長くなるといった課題がある。
【0003】
そこで、より安全で、かつ、作業効率を向上させるために、自動で吊荷の振れを抑制する荷振れ抑制機能を備えたクレーンが要請されている。このような要請に応える技術として、例えば、特開2018-2391号公報(特許文献1)に開示されたクレーンが知られている。この特許文献1に記載のクレーンは、トロリ又はガーダ(以下、水平移動装置という)の制御速度値と水平移動装置のモデルとから吊荷のモデル速度値を演算し、吊荷モデル速度値と吊荷目標速度指令値(入力装置から入力される)とが一致、又は近づくように制御速度値を演算する構成とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1においては、入力装置から入力される目標速度指令値の入力時間が所定の入力時間に達しない場合、すなわち、クレーンの移動時間が短い場合やインチング操作(一つの方向に短い時間でスイッチングすること)を行う場合では、モデル演算及び制御演算の結果を出力せず、入力された目標速度指令値を出力する構成とされている。
【0006】
このため、特許文献1では、クレーンの移動時間が短い場合やインチング操作時の吊荷の残留荷振れを抑制することが十分にできていない。また、これとは別にロープ長が長い場合にも、吊荷の残留荷振れを抑制しきれない場合も生じる。
【0007】
本発明はこのような問題に鑑みてなされたものであり、クレーンの移動時間が短い場合やインチング操作された場合、及び/又はロープ長が長い場合でも、吊荷の残留荷振れを低減することができる新規なクレーン、及びクレーンの制御方法を提供すること目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の特徴は、
ロープの巻き上げ、巻き下げにより吊荷を上下方向に移動させる巻上装置と、巻上装置を取り付け、吊荷を水平方向に移動させる水平移動装置と、吊荷目標速度指令値を生成する操作入力装置と、吊荷目標速度指令値に基づいて水平移動装置の速度指令値を生成する速度指令値演算装置と、速度指令値に基づいて水平移動装置を駆動制御する電動モータ制御装置とを有するクレーンであって、
速度指令値演算装置は、
吊荷目標速度指令値とロープの長さとから、水平移動装置の吊荷の荷振れを抑制するための荷振れ抑制速度指令値を演算する荷振れ抑制制御装置と、
操作入力装置からの吊荷目標速度指令値の入力時間が、所定の制御開始待ち時間に到達した場合、或いは操作入力装置からの吊荷目標速度指令値が減速を開始した場合には、荷振れ抑制制御装置から荷振れ抑制速度指令値を出力し、これ以外の場合は、操作入力装置からの吊荷目標速度指令値を出力する切換装置を有するクレーンにある。
【0009】
本発明の第2の特徴は、
ロープの巻き上げ、巻き下げにより吊荷を上下方向に移動させる巻上装置と、巻上装置を取り付け、吊荷を水平方向に移動させる水平移動装置と、吊荷目標速度指令値を生成する操作入力装置と、吊荷目標速度指令値に基づいて水平移動装置の速度指令値を生成する速度指令値演算装置と、速度指令値に基づいて水平移動装置を駆動制御する電動モータ制御装置とを有するクレーンであって、
速度指令値演算装置は、
操作入力装置からの吊荷目標速度指令値が規定速度値以下となってからの経過時間が所定のブレーキ作動待ち時間より短く、しかも速度指令値演算装置からの速度指令値が負となった場合は、水平移動装置が惰性で移動するフリーラン制御を実行し、
経過時間がブレーキ作動待ち時間より長く、しかも速度指令値演算装置からの速度指令値がブレーキ作動速度値以下となった場合は、水平移動装置の位置を保持するブレーキ制御を実行するクレーンにある。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、クレーンの移動時間が短い場合やインチング操作された場合、及び/又はロープ長が長い場合でも残留荷振れを低減させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の対象となるクレーンの構成を示す構成図である。
【
図2】本発明が適用されるクレーンの制御ブロックの構成を示すブロック図である。
【
図3】操作入力装置により生成される吊荷目標速度指令値を説明する説明図である。
【
図4】本発明の第1の実施形態における速度指令値演算装置の構成を示すブロック図である。
【
図5】インチング操作時の吊荷目標速度指令値、荷振れ抑制制御出力、リミット処理後出力を示す説明図である。
【
図6】従来技術の荷振れ抑制制御を用いて、吊荷目標速度指令値として台形波速度波形を与えた時の水平移動速度と吊荷の荷振れ量の時間応答を示す説明図である。
【
図7】従来技術の荷振れ抑制制御を用いて、吊荷目標速度指令値としてインチング操作時の三角波速度波形を与えた時の水平移動速度と吊荷の荷振れ量の時間応答を示す説明図である。
【
図8】本発明の第1の実施形態における切換装置の動作を示す制御フローチャート図である。
【
図9】本発明の第1の実施形態における吊荷目標速度指令値と切換装置の出力を説明する説明図である。
【
図10】本発明の第1の実施形態におけるインチング操作時の水平移動装置の速度指令値と荷振れ量の時間変化を示す説明図である。
【
図11】本発明の第2の実施形態におけるブレーキ作動待ち時間を追加した場合のインチング操作での水平移動速度と荷振れ量の時間変化を示す説明図である。
【
図12】本発明の第2の実施形態におけるブレーキの動作を示す制御フローチャート図である。
【
図13】本発明の第2の実施形態におけるインチング操作時の水平移動装置の速度指令値と荷振れ量の時間変化を示す説明図である。
【
図14】本発明の第2の実施形態におけるロープの長さが長い時の吊荷目標速度指令値と荷振れ抑制制御出力、リミット処理後出力を示す説明図である。
【
図15】本発明の第2の実施形態におけるロープの長さが長い時の水平移動装置の速度指令値と荷振れ量の時間変化を示す説明図である。
【
図16】本発明の第3の実施形態における速度指令値演算装置の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されることなく、本発明の技術的な概念の中で種々の変形例や応用例をもその範囲に含むものである。
【0013】
ここで、本発明は、吊荷を水平方向に移動可能なクレーン全般に有効であり、トロリ、及びガーダにより吊荷を横行、及び走行させるクレーン(例えば、天井クレーン)はもちろん、横行、又は走行のみを行うクレーン(例えば、アンローダ)においても適用できるものである。つまり、以下で述べる「クレーン」という用語は、吊荷を水平方向に移動可能な全ての種類のクレーンを含むものである。
【0014】
また、クレーンで搬送する荷物(吊荷)は、ロープやチェーン等により吊り下げられて搬送されるが、本発明においては荷物の吊り下げに用いることができる吊り具であれば限定されるものではなく、材質や形状等もその種類を問わないものである。そのため、上述したように、「ロープ」という用語は、荷物の吊り下げに用いる吊り具を総称する用語として用いている。すなわち、「ロープ」には、いわゆるロープだけでなく、チェーン、ベルト、ワイヤー、ケーブル、紐、縄等が含まれる。
【実施例1】
【0015】
次に、本発明の第1の実施形態になるクレーンの構成と、その動作について説明する。尚、各図面において、同一機器(装置、部品)には同一符号を付し、後の説明では既出の機器の説明は省略する場合がある。
【0016】
図1は、天井クレーンの概略の構成を示している。尚、本発明が天井クレーンに限定されないことは上述したとおりである。
【0017】
図1において、クレーン1は、工場等の建屋(図示せず)の両側の壁に沿って設けられたランウェイ2と、このランウェイ2の上面を移動するガーダ3と、ガーダ3の下面に沿って移動するトロリ4から構成される。ガーダ3とトロリ4には電動モータで駆動される車輪が設けられており、この車輪によってガーダ3とトロリ4は移動可能である。
【0018】
また、トロリ4の下部には図示しない巻上装置(ホイスト)が設けられており、これを用いてロープ5を巻き上げ、または、巻き下げることにより、ロープ5の先端のフック6を昇降させる。このフック6に直接乃至はワイヤー7を介して吊荷8を吊り下げており、フック6の昇降に伴い、吊荷8が昇降する。
【0019】
すなわち、クレーン1は、ガーダ3の水平方向の移動(以下、単に「走行」と称する)とトロリ4の水平方向の移動(以下、単に「横行」と称する)により吊荷8を水平方向に移動させ、巻上装置により吊荷8を垂直方向(上下方向)に昇降させることができる。本実施形態では、このトロリ4による横行、ガーダ3による走行により水平方向移動が行われる。
【0020】
図1では、トロリ4とガーダ3が「水平移動装置」に該当するが、トロリ4、或いはガーダ3の一方でも「水平移動装置」とすることもできる。本実施形態は吊荷を水平方向に移動させる動作に関係するので、本実施形態に関する以下の説明は「横行」と「走行」による水平方向移動の動作を中心に説明する。尚、以下の説明において、吊荷の移動とは、トロリ4を駆動した移動(横行)、ガーダ3を駆動した移動(走行)のいずれか、あるいは両方を示すものである。
【0021】
図2は、本実施形態になるクレーンの制御ブロックを示している。尚、
図2では説明を簡単にするために、トロリ4により横行するクレーン1を示しており、ガーダ3による走行は
図2では省略している。また、トロリ4とガーダ3を移動するための電動モータ等の駆動部は省略している。
【0022】
図2はクレーンの制御ブロックを示しており、水平移動装置(ガーダ3とトロリ4)の速度指令値を演算する速度指令値演算装置100と、電動モータ制御装置300から構成されている。速度指令値演算装置100からの速度指令値は、電動モータ制御装置300に与えられ、電動モータ制御装置300によって速度指令値に対応した電力が、ガーダ3とトロリ4の電動モータに与えられる。
【0023】
速度指令値演算装置100は汎用の計算機を使用したものが主流であり、内蔵しているプログラムやデータ等を用いて、速度指令値を生成するなどの演算処理を実行するマイクロプロセッシングユニット(MPU)101、先のプログラムやデータ等を記憶するメモリ102、外部からのデータ、信号の入力や、MPU101が演算処理した信号等を外部に出力するための入出力制御部103から構成されている。MPU101、メモリ102、入出力制御部103は、信号やデータの授受を行うためのバスライン104で接続されている。
【0024】
入出力制御部103には、吊荷目標速度指令値を生成する操作入力装置200が接続されている。操作入力装置200には、操作者が操作する操作端末装置201が備えられており、操作端末装置201には、吊荷の移動方向である前方、後方、右方、左方、上方、下方の各方向に対応した操作ボタン202が設けられ、押された操作ボタンに対応して吊荷目標速度指令値が生成され、速度指令値演算装置100へ出力される。
【0025】
次に
図3に基づき、操作入力装置200による吊荷目標速度指令値の生成の例を説明する。
【0026】
図3(a)は操作ボタン202が押される時間が長い場合を示しており、時刻(t1)で操作ボタン202が押される(ONになる)と、押された操作ボタンの方向に対応する吊荷目標速度指令値は増加していき、操作ボタン202が継続して押されている間は定速移動速度値を維持し、その後の時刻(t2)で操作ボタン202が離される(OFFになる)と、吊荷目標速度指令値は減少していき、最終的に「0」となる。
【0027】
一方、
図3(b)はボタンが押される時間が短い、すなわち、クレーンの移動時間が短い場合やインチング操作の場合は、時刻(t1′)で操作ボタン202が押される(ONになる)と、押された操作ボタンの方向に対応する吊荷目標速度指令値は増加していき、定速移動速度値に達する前の時刻(t2′)で操作ボタン202が離される(OFFになる)と、吊荷目標速度指令値は減少していき、最終的に「0」となる。
【0028】
速度指令値演算装置100には、操作入力装置200による吊荷目標速度指令値以外にも、生産管理システムなどの上位制御系から、吊荷の移動計画に基づき生成された吊荷目標速度指令値が入力されるようにしても良い。
【0029】
電動モータ制御装置300は、速度指令値演算装置100から出力される速度指令値を入力して、トロリ4の水平方向移動(横行)速度を制御する。電動モータ制御装置300の具体的な構成は図示していないが、速度指令値演算装置100と同様に汎用の計算機、及びインバータ回路等により構成できる。また、電動モータ制御装置300は、速度指令値演算装置100と同一の筐体に搭載しても良い。
【0030】
尚、
図2では省略しているが、速度指令値演算装置100は、トロリ4だけでなく、走行制御する場合にはガーダ3の水平方向移動(走行)速度を制御する速度指令値も出力する。ガーダ3側では、この速度指令値により吊荷の水平方向移動(走行)速度が制御される。また、速度指令値演算装置100には、図示しないロープ長検出器の出力であるロープ長さや、同じく図示しない吊荷の荷振れ検出器の出力である荷振れ量などの各種検出器からの情報が入力される。
【0031】
図4は、速度指令値演算装置100の機能ブロックを示している。この機能ブロックは、MPU101で実行される機能を制御ブロックとして示したものである。速度指令値演算装置100は、操作入力装置200からの吊荷目標速度指令値(Vtgt)を入力として水平移動装置(ガーダ3とトロリ4)の速度指令値(Vout)を演算し、電動モータ制御装置300へ出力する。
【0032】
速度指令値演算装置100には、吊荷目標速度指令値(Vtgt)とロープの長さとから、吊荷の荷振れを抑制するための水平移動装置の荷振れ抑制速度指令値(Vsps)を所定の演算を行って出力する荷振れ抑制制御装置110と、吊荷目標速度指令値(Vtgt)と荷振れ抑制速度指令値(Vsps)を切り換える切換装置120から構成されている。
【0033】
荷振れ抑制制御装置110の演算装置は、例えば以下のような構成とすることができる。切換装置120から出力され、電動モータ制御装置300へ入力される水平移動装置の速度指令値(Vout)と、予め定めたクレーンモデルに基づき、吊荷モデル速度値(Vmdl)を演算するモデル演算装置111と、吊荷モデル速度(Vmdl)からフィードバック制御演算を行うフィードバック制御演算装置112と、吊荷目標速度指令値(Vtgt)からフィードフォワード制御演算を行うフィードフォワード制御演算装置113と、フィードバック制御演算装置112の出力とフィードフォワード制御演算装置113の出力とを加算する加算装置114と、加算装置114の出力に対してリミット処理を行うリミット処理装置115から構成されている。
【0034】
モデル演算装置111ではクレーンを予めモデル化し、水平移動装置の速度指令値(Vout)から吊荷モデル速度値(Vmdl)を次式のように演算する。
Vmdl(s)=(2*zr*wr*s+wr2)
/(s2+2*zr*wr*s+wr2)*Vout(s)
ここで、「Vout(s)」は水平移動装置の速度指令値のラプラス変換、「Vmdl(s)」は吊荷モデル速度値のラプラス変換、「wr」は吊荷の荷振れの角周波数、「zr」は吊荷の荷振れの減衰比であり、wr、zrは次式のようになる。
wr=(g/L)1/2
zr=Lv/L/wr
ここで、「L」はロープ長から求められる吊荷の振子長さ(回転中心から吊荷の重心までの距離)、「Lv」はロープ長の時間変化量(速度)、「g」は重力加速度である。
【0035】
フィードバック制御演算装置112、フィードフォワード制御演算装置113は、吊荷目標速度指令値(Vtgt)と吊荷モデル速度値(Vmdl)から、荷振れを抑制するための水平移動装置の荷振れ抑制速度指令値(Vsps)の演算が行われる。これは、例えば、張・霜野・田川、DMMによる長さの変化するクレーンの運動と振動の制御、日本機械学会交通・物流部門大会講演論文集、Vol.20(2011)、に記載されているような、次のような演算を行えばよい。
Vfb(s)=(nb1*s+nb0)/
(s3+d2*s2+d1*s+d0)*Vmdl(s)
Vff(s)=(nf3*s3+nf2*s2+nf1*s+nf0)/
(s3+d2*s2+d1*s+d0)*Vtgt(s)
ここで、「Vfb(s)」はフィードバック制御出力のラプラス変換、「Vff(s)」はフィードフォワード制御出力のラプラス変換であり、「nb1、nb0、nf3、nf2、nf1、nf0、d2、d1、d0」は吊荷目標速度指令値(Vtgt)に対する追従性能、吊荷の荷振れの抑制性能によって決定されるパラメータであり、これらは吊荷の荷振れの角周波数(wr)により変化する。
【0036】
フィードバック制御演算装置112の出力とフィードフォワード制御演算装置113の出力は加算装置114で加算され、吊荷の荷振れを抑制可能な水平移動装置の荷振れ抑制速度指令値(Vsps)が出力される。
【0037】
尚、リミット処理装置115では、荷振れ抑制速度指令値(Vsps)に対して水平移動装置の速度制限、加速度制限を考慮したリミット処理が行われる。
【0038】
図5は、インチング操作時の吊荷目標速度指令値(Vtgt)と、加算装置114の出力(荷振れ抑制速度指令値Vsps)、リミット処理装置115の出力(リミット処理後出力)を示している。インチング操作での減速により発生した荷振れを抑制するには、荷振れ抑制制御のフィードバック制御演算、フィードフォワード制御演算の結果を加算した、荷振れ抑制速度指令値(Vsps)にしたがって水平移動装置を駆動しなくてはならない。
【0039】
しかしながら、水平移動装置で使用されている電動モータは誘導電動機であり、一旦停止することなく回転方向を反転させることはできず、「負」(逆回転方向)の速度指令値に従って動作させることはできない。そこで、リミット処理装置115により、水平移動装置の速度制限、加速度制限によるサチュレーションの演算(リミット処理)が行われ、水平移動装置で動作可能な速度指令値として出力される。
【0040】
尚、「wr、zr、nb1、nb0、nf3、nf2、nf1、nf0、d2、d1、d0」は、ロープ長検出器の出力であるロープ長(回転中心からフック6までの距離)に、フックから吊荷の重心までの距離を加算することで求められる吊荷の振子長さ(L)により演算可能であるが、吊荷の荷振れ検出器の出力である荷振れ量から求めた吊荷の荷振れの角周波数(wr)から演算してもよい。
【0041】
また、以上に述べた荷振れ抑制制御装置110の構成以外にも、吊荷目標速度指令値(Vtgt)に対して、吊荷の荷振れの周波数を遮断する遮断帯域フィルタを用いた演算や、荷振れ検出器の出力である荷振れ量を「0」とするようなフィードバック制御器の演算によって構成してもよい。
【0042】
図6は、吊荷目標速度指令値(Vtgt)として、台形速度波形(操作ボタンが押される時間が長い場合に相当)を与えた時の、水平移動装置の速度(水平移動速度)と吊荷の振れ量(荷振れ量)の時間応答を示したものである。破線で示す荷振れ抑制制御を行わない「制御無」(吊荷目標速度指令値を用いる)では、クレーンの停止後に荷振れ(残留荷振れ)が発生しているのに対し、実線で示す「荷振れ抑制制御」を適用することにより残留荷振れを抑制できることが理解できる。
【0043】
これに対して
図7は、吊荷目標速度指令値(Vtgt)として、短い時間の間に加速と減速を行うインチング操作を行った時の、水平移動速度と荷振れ量の時間応答を示したものである。この時の「制御無」は吊荷目標速度指令値(Vtgt)を用いるので水平移動速度は破線で示すように三角波形となるが、「荷振れ抑制制御」を適用すると、実線で示すように加速の開始時に急峻な加速制御が行われ、残留荷振れは「制御無」より悪化する場合がある。
【0044】
この現象を抑制するために、特許文献1においては、クレーンの移動時間が短い場合やインチング操作を行う場合は、「荷振れ抑制制御」を行わず吊荷目標速度指令値(Vtgt)を用いるようにしている。しかしながら、吊荷目標速度指令値(Vtgt)を用いると残留荷振れを「制御無」の場合より低減することはできず、更なる改良が要請されている。
【0045】
そこで、この要請に応えるべく本実施形態では、
図4にあるように操作入力装置200から出力される吊荷目標速度指令値(Vtgt)と、荷振れ抑制制御装置110から出力される荷振れ抑制制速度指令値(Vsps)とを切り換える切換装置120を設け、この切換装置120を次のように動作させるようにした。
【0046】
つまり、操作ボタン202が押されて加速が開始(加速信号の発生)されると、吊荷目標速度指令値(Vtgt)を電動モータ制御装置300へ速度指令値(Vout)として与え、所定の荷振れ抑制制御開始待ち時間より短い間に操作ボタン202が離されて減速が開始(減速信号の発生)されると、荷振れ抑制制速度指令値(Vsps)を電動モータ制御装置300へ速度指令値(Vout)として与えるようにした。ここで、操作ボタン202によって加減速指令が出力されているが、上位制御系からの指令で加減速指令が出力される場合も同様である。尚、荷振れ抑制制御開始時間は、予め定めた所定時間であっても良く、また、実際の動作状態によって定まる所定時間であっても良いものである。
【0047】
図8は、切換装置120に上述した動作を実行させるための制御フローを示しており、
図9は、
図8の制御フローを実行した時の吊荷目標速度指令値(Vtgt)と荷振れ抑制制速度指令値(Vsps)の切り換え状態を示している。以下、
図8、
図9を用いて、切換装置120の動作を説明する。尚、この制御フローは、クレーンを動作させる制御を実行している状態で、ポーリングによって操作ボタン202の操作に連動して起動されるものである。尚、外部割り込みでも起動することができる。
【0048】
≪ステップS10≫
ステップS10においては、操作ボタン202が実際に押されているボタン押圧時間(Tact)が、所定の荷振れ抑制制御開始待ち時間(Twait)より短いかどうかを判断している。この判断で、ボタン押圧時間(Tact)が荷振れ抑制制御開始待ち時間(Twait)より長いと判断されるとステップS11に移行し、ボタン押圧時間(Tact)が荷振れ抑制制御開始待ち時間(Twait)より短いと判断されるとステップS12に移行する。
【0049】
また、これとは別に例えば上位制御系から、吊荷の移動計画に基づき生成された吊荷目標速度指令値(Vtgt)が与えられた時も、吊荷目標速度指令値(Vtgt)の継続時間を時間(Tact)として同様の動作を実行することができる。
【0050】
≪ステップS11≫
ステップS10でクレーンの移動時間が荷振れ抑制制御開始待ち時間(Twait)より長いと判定されたら、ステップS11においては、荷振れ抑制速度指令値(Vsps)を電動モータ制御装置300に速度指令値(Vout)として送信する。ステップS11を実行するとエンドに抜けて、次の起動タイミングに待機することになる。
【0051】
≪ステップS12≫
ステップS10でクレーンの移動時間が荷振れ抑制制御開始待ち時間(Twait)より短いと判定されたら、ステップS12においては、操作ボタン202が離されて吊荷目標速度指令値(Vtgt)が減速に転じたかどうかを判断している。尚、操作ボタン202以外の信号、例えば上位制御系から、吊荷の移動計画に基づき生成された吊荷目標速度指令値(Vtgt)が減速に転じたかどうかを判断することもできる。吊荷目標速度指令値(Vtgt)が減速に転じた場合は、ステップS11に移行する。一方、吊荷目標速度指令値(Vtgt)が減速に転じていない場合(加速状態)はステップS13に移行する。ここでの判断は、吊荷目標速度指令値(Vtgt)が減速に転じたことによって行っているが、操作ボタン202のOFF信号を直接的に検出して判断することも可能である。
【0052】
≪ステップS13≫
ステップS13においては、操作ボタン202が押され、しかも現在の時刻でクレーンの移動時間が長く、インチング操作も行われていないので、吊荷目標速度指令値(Vtgt)を電動モータ制御装置300に速度指令値(Vout)として送信する。ステップS13を実行するとエンドに抜けて、次の起動タイミングに待機することになる。
【0053】
以上の制御ステップを実行した時の速度指令値(Vout)の挙動を
図9に基づき説明する。また、本実施形態による水平移動速度と荷振れ量の時間応答を
図10に示している。
【0054】
図9(a)は、クレーンの移動時間が長くインチング操作を行っていないときの状態を示しており、時刻(ts)で操作ボタン202が押されると、時刻(tw)で示す荷振れ抑制制御開始待ち時間(Twait)に達するまでは、吊荷目標速度指令値(Vtgt)が電動モータ制御装置300に速度指令値(Vout)として送信される。次に、時刻(tw)で荷振れ抑制制御開始待ち時間(Twait)に達すると、荷振れ抑制速度指令値(Vsps)が電動モータ制御装置300に速度指令値(Vout)として送信される。
【0055】
これは、ステップS10⇒ステップS12⇒ステップS13の処理を繰り返し、この間は吊荷目標速度指令値(Vtgt)を出力して、速度指令値(Vout)が過大にならないようにしている。例えば荷振れ抑制制御を実行すると、吊荷に加わる慣性力により生じる荷振れを抑制するために、過大な荷振れ抑制速度指令値(Vsps)が出力される。そこで、加速開始の初期は吊荷目標速度指令値(Vtgt)をそのまま出力し速度指令値(Vout)が過大にならないようにしている。
【0056】
そして、ステップS10⇒ステップS12⇒ステップS13の処理を任意の回数だけ繰り返し実行してステップS10で、ボタン押圧時間(Tact)が荷振れ抑制制御開始待ち時間(Twait)より長いと判断されると、荷振れ抑制速度指令値(Vsps)が出力される。これによって吊荷の荷振れを抑制することができるようになる。
【0057】
図9(b)は、クレーンの移動時間が短い場合やインチング操作を行っているときの状態を示しており、時刻(ts)で操作ボタン202が押される(加速信号の発生)と、時刻(tw)で示す荷振れ抑制制御開始待ち時間(Twait)に達するまでは、吊荷目標速度指令値(Vtgt)が電動モータ制御装置300に速度指令値(Vout)として送信される。
【0058】
次に、時刻(tw)に達する前の荷振れ抑制制御開始待ち時間(Twait)の間に、例えば操作ボタン202が離されて(減速信号の発生)吊荷目標速度指令値(Vtgt)が減速に転じると、減速のための荷振れ抑制速度指令値(Vsps)が、電動モータ制御装置300に速度指令値(Vout)として送信される。
【0059】
これは、ステップS10⇒ステップS12⇒ステップS13の処理を繰り返し、この間は吊荷目標速度指令値(Vtgt)を出力して、速度指令値(Vout)が過大にならないようにしている。これは、
図9(a)で説明した通りである。したがって、
図10の荷振れ量にあるように、加速初期の荷振れ量を、荷振れ抑制速度指令値(Vsps)の場合に比べて破線で示す値に近づけることができる。
【0060】
そして、ステップS10⇒ステップS12⇒ステップS13の処理を行っている途中において、ステップS12で操作ボタン202が離されると、吊荷目標速度指令値(Vtgt)は減速に転じる。ここで、吊荷目標速度指令値(Vtgt)が減速を開始すると、この減速による荷振れが引き起こされる。
【0061】
そこで、減速を開始したことを検出すると、荷振れ抑制速度指令値(Vsps)を出力する。したがって、
図10にあるように、減速初期の荷振れ量を、吊荷目標速度指令値(Vtgt)である破線より小さな値に抑制することができる。これによって、クレーンの移動時間が短い場合やインチング操作を行った場合の残留荷振れの悪化を抑制することができる。
【0062】
尚、制御開始待ち時間は吊荷の荷振れの時定数により調整することが望ましい。そこで、制御開始待ち時間はロープの長さに応じて変更する。制御開始待ち時間はロープの長さの他に、吊荷の荷振れ量から荷振れの周期を求め、変更するようにしても良い。
【0063】
以上に説明した本実施形態のクレーンにおいては、
図1では図示していないが、水平移動装置の停止中の位置を保持するためのブレーキが取り付けられている。ブレーキは、電動モータ制御装置300へ入力される速度指令値(Vout)が、ブレーキ作動速度(Vbrk)以下になると作動し、ブレーキが作動した後の速度指令値(Vout)は「0」となる。
【0064】
特許文献1においては、吊荷目標速度指令値(Vtgt)を出力するため、速度指令値(Vout)は三角波形状となり、速度指令値(Vout)が「0」になると、クレーンが停止した後に残留荷振れが発生する恐れがある。
【0065】
これに対して、本実施形態では、減速を開始するまでは吊荷目標速度指令値(Vtgt)を出力するため急峻な加速は行われないが、減速を開始すると荷振れ抑制速度指令値(Vsps)が出力されて減速により生じる荷振れが低減される。したがって、ブレーキが作動したことによって速度指令値(Vout)が「0」となっても、クレーンが停止した後の残留荷振れを抑制することが可能となる。
【実施例2】
【0066】
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。尚、上述の実施例1と共通する構成、動作については、必要がない場合は重複する説明を省略する。第2の実施形態は、第1の実施形態で説明した制御開始待ち時間の後に、ブレーキ作動待ち時間を追加したことを特徴としている。
【0067】
図11は、第2の実施形態において特徴となる、ブレーキ作動待ち時間を設定した場合のインチング操作での水平移動速度と荷振れ量の時間変化を示している。
図11にあるように、ブレーキ作動待ち時間の間にフリーラン制御を実行することを特徴としている。以下、この特徴となる制御について説明する。
【0068】
通常のクレーンにおいては、水平移動装置のブレーキは、電動モータ制御装置300へ入力される速度指令値(Vout)が、ブレーキ作動速度値(Vbrk)以下になると作動する。ブレーキは例えば電磁ブレーキで構成され、ブレーキが作動すると水平移動装置はその場で停止することができる。尚、電磁ブレーキとは別にサーボロック機構を用いることもできる。
【0069】
そして、
図11に示した速度指令値(Vout)にしたがって水平移動装置を動作させようとすると、荷振れ抑制制御の開始直後の減速によって、速度指令値(Vout)がブレーキ作動速度値(Vbrk)以下となってブレーキが作動することがある。そして、ブレーキが作動した後の速度指令値(Vout)は「0」に設定される。このため、ブレーキが作動した以降の荷振れを抑制するための荷振れ抑制制御が打ち切られ、大きな残留荷振れが生じることが考えられる。
【0070】
そこで、本実施形態では
図11にあるように、荷振れ抑制制御開始待ち時間が経過した後(直後であっても良いし、所定の時間を空けた後であっても良い)に、ブレーキ作動待ち時間を追加して、ブレーキの作動を制御するようにした。以下、その制御について
図12、
図13を用いて説明する。尚、この制御フローは
図8の制御フローに続いて実行される。
【0071】
≪ステップS20≫
ステップS20においては、ブレーキ作動時刻(Tbstp)が設定されているかどうかを判断している。この判断で、ブレーキ作動時刻(Tbstp)が設定されていないと判断されるとステップS21に移行し、ブレーキ作動時刻(Tbstp)が設定されていると判断されるとステップS23に移行する。これは、以下に説明するブレーキを作動させるかどうかの判断の起点となる時刻である。
【0072】
≪ステップS21≫
ステップS20で、ブレーキ作動時刻(Tbstp)が設定されていないと判断されているので、ステップS21においては、ブレーキを作動させる時刻の設定を行う。このブレーキ作動時刻(Tbstp)の設定は、吊荷目標速度指令値(Vtgt)が、予め定めた規定速度値(Vbsv)より低くなったかどうかで判断している。
【0073】
吊荷目標速度指令値(Vtgt)が、規定速度値(Vbsv)より大きいとエンドに抜けて、次の起動タイミングに待機することになる。
【0074】
≪ステップS22≫
ステップS22においては、現在の時刻(Tins)をブレーキ作動時刻(Tbstp)として設定する。ブレーキ作動時刻(Tbstp)が設定されると、ステップS23に移行する。
【0075】
≪ステップS23≫
ステップS23においては、ステップS20、或いはステップS22で設定されたブレーキ作動時刻(Tbstp)と現在の時刻(Tins:ステップS22の時刻から時間経過している)との時間差分を求め、この時間差分が、
図11に示すブレーキ作動待ち時間(Tbwait)より大きいかどうかを判断している。
このステップで、時間差分がブレーキ作動待ち時間(Tbwait)より小さいと判断されるとステップS24に移行し、時間差分がブレーキ作動待ち時間(Tbwait)より大きいと判断されるとステップS26に移行する。
【0076】
≪ステップS24≫
ステップS23で時間差分がブレーキ作動待ち時間(Tbwait)より小さいと判断されているので、ステップS24においては、速度指令値演算装置100から出力される速度指令値(Vout)が「負」(逆回転方向)かどうかを判断する。「負」(逆回転方向)と判断されるとステップS25に移行し、「負」(逆回転方向)と判断されなければエンドに抜けて、次の起動タイミングに待機することになる。
【0077】
≪ステップS25≫
ステップS25においては、現在の状態が
図11のブレーキ作動待ち時間(Tbwait)の範囲に存在するので、ブレーキを開放した状態で、電動モータ制御装置300は、水平移動装置が惰性で移動するフリーラン制御となる。ここで、誘導電動機は、電動モータ制御装置300のインバータの出力に接続されたままトルクがゼロの状態にされるので、回路を遮断することなく惰性走行状態にすることができ、また必要に応じて荷振れ抑制制御を実行できる構成とされている。
【0078】
このようにすれば、ブレーキが作動しないので大きな残留荷振れが生じるのを抑制でき、しかも荷振れ抑制制御を実行できる。ステップS25でフリーラン制御されると、エンドに抜けて、次の起動タイミングに待機することになる。
【0079】
≪ステップS26≫
ステップS23で時間差分がブレーキ作動待ち時間(Tbwait)より大きいと判断されている、つまり
図11のブレーキ作動待ち時間(Tbwait)の後の状態となっている。このため、ステップS26においては、速度指令値演算装置100から出力される速度指令値(Vout)が、ブレーキ作動速度値(Vbrake)より小さいかどうかを判断する。
【0080】
速度指令値(Vout)が、ブレーキ作動速度値(Vbrake)より小さいと判断されるとステップS27に移行してブレーキを作動し、ブレーキ作動速度値(Vbrake)より大きいと判断されるとエンドに抜けて、次の起動タイミングに待機することになる。
【0081】
≪ステップS27≫
ステップS27においては、現在の状態が
図12のブレーキ作動待ち時間(Tbwait)の後の状態なので、ブレーキを作動させ水平移動装置の位置を保持する。この時は荷振れ抑制制御は停止されることになる。
【0082】
尚、ステップS22で用いられる規定速度値(Vbsv)、及びステップS26で用いられるブレーキ作動速度値(Vbrake)は、本実施形態では規定速度値(Vbsv)の方が大きく設定されているが、規定速度値(Vbsv)とブレーキ作動速度値(Vbrake)は同じ値とされても良く、更には速度値「0」とされても良い。
【0083】
また、ブレーキ作動待ち時間(Tbwait)は、吊荷の荷振れの時定数により調整することが望ましい。そこで、ブレーキ作動待ち時間はロープの長さに応じて変更する。ブレーキ作動待ち時間はロープの長さの他に、吊荷の荷振れ量から荷振れの周期を求め、変更するようにしても良い。
【0084】
図13は第2の実施形態におけるインチング操作時の水平移動装置の速度指令値と荷振れ量の時間変化を示している。この
図13に示されるように、第1の実施形態による制御開始待ち時間を設定した後に、ブレーキ作動待ち時間を設定した。したがって、インチング操作した場合においては、実線で示したように減速直度にブレーキ作動待ち時間が設定されているので、このブレーキ作動待ち時間の間は、ブレーキが作動しないので大きな残留荷振れが生じるのを抑制でき、しかも、このブレーキ作動待ち時間の間は荷振れ抑制制御を実行できる。
【0085】
このように、ブレーキの作動によって荷振れ抑制制御の動作が打ち切られないので、残留荷振れを低減させることが可能となる。尚、本実施形態では、第1の実施形態と併せて実行されているが、本実施形態だけを単独で実行することも可能である。
【0086】
図14は、ロープの長さが長い時の吊荷目標速度指令値と荷振れ抑制制御装置110内での加算装置114の出力(荷振れ抑制制御出力)、リミット処理装置115の出力(リミット処理後出力)を示している。また、
図15は、この時の水平移動装置の速度指令値と荷振れ量の時間変化を示している。
【0087】
図14に示すように、この場合も減速を開始すると荷振れ抑制制御出力が「負」(逆回転方向)となる。そのため、荷振れ抑制制御開始直後の減速によりブレーキ作動速度以下になりブレーキが作動すると、それ以降の荷振れを抑制するための動作が打ち切られ、大きな残留荷振れが生じる。
【0088】
そこで、第2の実施形態のようにブレーキ作動待ち時間を設けると、
図15に示すように、減速直後のブレーキ作動による荷振れ抑制制御の動作が打ち切られず、制御開始待ち時間を設けた場合に比べても残留荷振れを抑制することが可能となる。
【実施例3】
【0089】
次に、本発明の第3の実施形態を
図16に基づいて説明する。尚、上述の実施例と共通する構成、動作については、必要がない場合は重複する説明を省略する。
【0090】
第3の実施形態は、速度指令値演算装置100が、電動モータ制御装置300へ入力される水平移動装置の速度指令値(Vout)と、予め定めたクレーンモデルに基づき、吊荷モデル速度値(Vmdl)を演算するモデル演算装置111と、吊荷モデル速度(Vmdl)からフィードバック制御演算を行うフィードバック制御演算装置112と、吊荷目標速度指令値(Vtgt)からフィードフォワード制御演算を行うフィードフォワード制御演算装置113と、フィードバック制御演算装置112の出力とフィードフォワード制御演算装置113の出力とを加算する加算装置114と、加算装置114の出力に対してリミット処理を行うリミット処理装置115から構成されることを特徴としている。
【0091】
クレーンの移動時間が長い場合には、第1の実施形態の速度指令値演算装置100に設けられた切換装置を省略した構成としても、吊荷の残留荷振れを低減することが可能である。
【0092】
尚、本発明は上記したいくつかの実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。上記の実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。各実施例の構成について、他の構成の追加、削除、置換をすることも可能である。
【符号の説明】
【0093】
1…クレーン、2…ランウェイ、3…ガーダ、4…トロリ、5…ロープ、6…フック、7…ワイヤー、8…吊荷、100…速度指令値演算装置、110…荷振れ抑制制御装置、111…モデル演算装置、112…フィードバック制御演算装置、113…フィードフォワード制御演算装置、114…加算装置、115…リミット処理装置、120…切換装置、200…操作入力装置、201…操作端末装置、202…操作ボタン、300…制御装置。