(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-17
(45)【発行日】2024-05-27
(54)【発明の名称】プレキャスト部材の接合構造及びプレキャスト部材の接合方法
(51)【国際特許分類】
E04B 1/61 20060101AFI20240520BHJP
E04B 1/58 20060101ALI20240520BHJP
【FI】
E04B1/61 502J
E04B1/58 503D
(21)【出願番号】P 2020119603
(22)【出願日】2020-07-13
【審査請求日】2023-04-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000221616
【氏名又は名称】東日本旅客鉄道株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 剛史
(72)【発明者】
【氏名】小林 寿子
(72)【発明者】
【氏名】細川 良美
【審査官】河内 悠
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-086594(JP,A)
【文献】特開2018-066141(JP,A)
【文献】特開2002-213191(JP,A)
【文献】特開平08-128006(JP,A)
【文献】特開2010-138616(JP,A)
【文献】米国特許第04781006(US,A)
【文献】特開平07-150895(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/61
E04B 1/58
E04C 3/26
E04C 5/08
E04C 5/03
E21D 11/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレキャスト部材同士を接合してなるプレキャスト部材の接合構造であって、
第1のプレキャスト部材には、その側面から略水平に突出したアンカー筋が設けられており、
第2のプレキャスト部材には、その上面に形成された有底の穴部と、その穴部に向けて側面から貫通した貫通孔と、
当該第2のプレキャスト部材の上面から前記貫通孔に達する注入孔と、が設けられており、
前記第1のプレキャスト部材と前記第2のプレキャスト部材のいずれか一方の部材の側面には凸部が設けられ、他方の部材の側面には前記凸部が係入される凹部が設けられており、
前記凸部が前記凹部に係入された状態で、前記第1のプレキャスト部材の前記アンカー筋が前記第2のプレキャスト部材の前記貫通孔に挿通されており、前記穴部側に突き出した前記アンカー筋の端部が前記穴部内にて固定されて、前記第1のプレキャスト部材と前記第2のプレキャスト部材とが接合され
、
前記貫通孔および前記注入孔には第1の固化材料が充填されており、前記穴部には第2の固化材料が充填されていることを特徴とするプレキャスト部材の接合構造。
【請求項2】
プレキャスト部材同士を接合してなるプレキャスト部材の接合構造であって、
第1のプレキャスト部材には、その側面から略水平に突出したアンカー筋が設けられており、
第2のプレキャスト部材には、その上面に形成された有底の穴部と、その穴部に向けて側面から貫通した貫通孔と、が設けられており、
前記第1のプレキャスト部材と前記第2のプレキャスト部材のいずれか一方の部材の側面には凸部が設けられ、他方の部材の側面には前記凸部が係入される凹部が設けられており、
前記凸部が前記凹部に係入された状態で、前記第1のプレキャスト部材の前記アンカー筋が前記第2のプレキャスト部材の前記貫通孔に挿通されており、前記穴部側に突き出した前記アンカー筋の端部が前記穴部内にて固定されて、前記第1のプレキャスト部材と前記第2のプレキャスト部材とが接合され、
前記貫通孔における前記穴部とは反対側の開口部分には、前記第1のプレキャスト部材に密着するシール部材が設けられていることを特徴とする請求項1に記載のプレキャスト部材の接合構造。
【請求項3】
前記貫通孔には、第1の固化材料が充填されており、前記穴部には、第2の固化材料が充填されていることを特徴とする請求項
2に記載のプレキャスト部材の接合構造。
【請求項4】
前記アンカー筋の基端部にはテーパ形の定着体が配設されており、前記アンカー筋の端部が前記穴部内にて固定された状態で、前記アンカー筋に緊張力が付与されていることを特徴とする請求項1
~3のいずれか一項に記載のプレキャスト部材の接合構造。
【請求項5】
前記一方のプレキャスト部材の凸部と前記他方のプレキャスト部材の凹部とは、複数組み設けられていることを特徴とする請求項1~
4のいずれか一項に記載のプレキャスト部材の接合構造。
【請求項6】
前記第1のプレキャスト部材の前記アンカー筋と前記第2のプレキャスト部材の前記貫通孔とは、複数組み設けられていることを特徴とする請求項1~
5のいずれか一項に記載のプレキャスト部材の接合構造。
【請求項7】
前記貫通孔における前記穴部とは反対側の開口部分には、前記第1のプレキャスト部材に密着するシール部材が設けられていることを特徴とする請求項1
または3~6のいずれか一項に記載のプレキャスト部材の接合構造。
【請求項8】
プレキャスト部材同士を接合するプレキャスト部材の接合方法であって、
第1のプレキャスト部材には、その側面から略水平に突出したアンカー筋が設けられており、
第2のプレキャスト部材には、その上面に形成された有底の穴部と、その穴部に向けて側面から貫通した貫通孔と、
上面から前記貫通孔に達している注入孔と、が設けられており、
前記第1のプレキャスト部材と前記第2のプレキャスト部材のいずれか一方の部材の側面には凸部が設けられ、他方の部材の側面には前記凸部が係入される凹部が設けられており、
前記第1のプレキャスト部材の前記アンカー筋を前記第2のプレキャスト部材の前記貫通孔に挿し入れるとともに、前記凸部を前記凹部に係入する工程と、
前記貫通孔を通じて前記穴部側に突き出た前記アンカー筋の端部を前記穴部内にて固定して、前記凸部を前記凹部に密接させる工程と、
前記凸部を前記凹部に密接させた後、前記注入孔から第1の固化材料を注入して、前記穴部側から漏れ出るまで前記貫通孔に前記第1の固化材料を充填する工程と、
前記穴部に第2の固化材料を充填する工程と、
を備えたことを特徴とするプレキャスト部材の接合方法。
【請求項9】
前記アンカー筋の基端部にはテーパ形の定着体が配設されており、
前記貫通孔を通じて前記穴部側に突き出た前記アンカー筋の端部を前記穴部内にて固定する工程において、前記アンカー筋に緊張力を付与することを特徴とする請求項
8に記載のプレキャスト部材の接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレキャスト部材同士を接合するプレキャスト部材の接合構造及びプレキャスト部材の接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プレキャスト部材であるプレキャスト床版同士を接合する手法として、プレキャスト床版の端部から突き出しているループ状の床版鉄筋同士を突き合わせ、突き合わされた双方のループ状の床版鉄筋の内側に補強鉄筋を配設した後、その床版間に間詰コンクリートを充填する技術が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
この接合構造では、腹圧力でコンクリートが破壊するのを防止するため、ループ状の床版鉄筋の内側にその床版鉄筋と直交するように補強鉄筋を配設している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1の技術の場合、プレキャスト床版間に間詰コンクリートを打設するのに型枠や支保工が必要となるので、支保工の設置や撤去といった付帯作業が大掛かりになることに加え、コンクリートの養生などのために工期が増大するという問題があった。
【0005】
本発明の目的は、より好適にプレキャスト部材同士を接合することができるプレキャスト部材の接合構造及びプレキャスト部材の接合方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本出願に係る一の発明は、
プレキャスト部材同士を接合してなるプレキャスト部材の接合構造であって、
第1のプレキャスト部材には、その側面から略水平に突出したアンカー筋が設けられており、
第2のプレキャスト部材には、その上面に形成された有底の穴部と、その穴部に向けて側面から貫通した貫通孔と、が設けられており、
前記第1のプレキャスト部材と前記第2のプレキャスト部材のいずれか一方の部材の側面には凸部が設けられ、他方の部材の側面には前記凸部が係入される凹部が設けられており、
前記凸部が前記凹部に係入された状態で、前記第1のプレキャスト部材の前記アンカー筋が前記第2のプレキャスト部材の前記貫通孔に挿通されており、前記穴部側に突き出した前記アンカー筋の端部が前記穴部内にて固定されて、前記第1のプレキャスト部材と前記第2のプレキャスト部材とが接合されているようにした。
【0007】
かかる構成のプレキャスト部材の接合構造は、一方のプレキャスト部材の凸部が他方のプレキャスト部材の凹部に係入された状態で、第1のプレキャスト部材のアンカー筋が2のプレキャスト部材に固定されて、第1のプレキャスト部材と第2のプレキャスト部材とが接合されている。
第1のプレキャスト部材のアンカー筋を第2のプレキャスト部材に固定する際に、一方のプレキャスト部材の凸部が他方のプレキャスト部材の凹部に係入されていることで互いにずれ難くなっているので、例えば、仮設された第2のプレキャスト部材に対し、クレーンで吊った第1のプレキャスト部材を組み付けて支えた状態でも、第1のプレキャスト部材と第2のプレキャスト部材を接合することができる。
つまり、大掛かりな支保工を要さずに、第1のプレキャスト部材と第2のプレキャスト部材を接合することができるので、より好適にプレキャスト部材同士を接合することができる。
また、一方のプレキャスト部材の凸部と他方のプレキャスト部材の凹部とが係合していることで、プレキャスト部材同士の接合強度が向上する。
【0008】
また、望ましくは、
前記貫通孔には、第1の固化材料が充填されており、前記穴部には、第2の固化材料が充填されているようにする。
【0009】
第1のプレキャスト部材のアンカー筋を第2のプレキャスト部材に固定して、第1のプレキャスト部材と第2のプレキャスト部材を仮接合した後に、貫通孔に第1の固化材料を充填して固化させ、また穴部に第2の固化材料を充填して固化させることができるので、型枠を要さずに第1のプレキャスト部材と第2のプレキャスト部材を接合することができ、第1のプレキャスト部材と第2のプレキャスト部材を接合してなるプレキャスト部材の接合構造が得られる。
つまり、型枠を要さず、固化材料を養生するための工期も削減することができるので、より好適にプレキャスト部材同士を接合することができる。
【0010】
また、望ましくは、
前記アンカー筋の基端部にはテーパ形の定着体が配設されており、前記アンカー筋の端部が前記穴部内にて固定された状態で、前記アンカー筋に緊張力が付与されているようにする。
【0011】
アンカー筋の端部が穴部内にて固定される際、トルク等により緊張力がアンカー筋に付与されていれば、その接合構造をプレストレス構造にすることができる。
【0012】
また、望ましくは、
前記一方のプレキャスト部材の凸部と前記他方のプレキャスト部材の凹部とは、複数組み設けられているようにする。
【0013】
互いに係合する凸部と凹部が複数組み設けられていれば、その接合状態が安定するので、第1のプレキャスト部材と第2のプレキャスト部材をより好適に接合することができる。
【0014】
また、望ましくは、
前記第1のプレキャスト部材の前記アンカー筋と前記第2のプレキャスト部材の前記貫通孔とは、複数組み設けられているようにする。
【0015】
第1のプレキャスト部材と第2のプレキャスト部材を結合するためのアンカー筋と貫通孔が複数組み設けられていれば、その結合をより強固にすることができるので、第1のプレキャスト部材と第2のプレキャスト部材をより好適に接合することができる。
【0016】
また、望ましくは、
前記貫通孔における前記穴部とは反対側の開口部分には、前記第1のプレキャスト部材に密着するシール部材が設けられているようにする。
【0017】
第2のプレキャスト部材の貫通孔の開口部分に設けられているシール部材を第1のプレキャスト部材に密着させることで、貫通孔に充填した第1の固化材料が第2のプレキャスト部材と第1のプレキャスト部材の間から漏れ出ることはないので、第1のプレキャスト部材と第2のプレキャスト部材を好適に接合することができる。
【0018】
また、本出願に係る他の発明は、
プレキャスト部材同士を接合するプレキャスト部材の接合方法であって、
第1のプレキャスト部材には、その側面から略水平に突出したアンカー筋が設けられており、
第2のプレキャスト部材には、その上面に形成された有底の穴部と、その穴部に向けて側面から貫通した貫通孔と、が設けられており、
前記第1のプレキャスト部材と前記第2のプレキャスト部材のいずれか一方の部材の側面には凸部が設けられ、他方の部材の側面には前記凸部が係入される凹部が設けられており、
前記第1のプレキャスト部材の前記アンカー筋を前記第2のプレキャスト部材の前記貫通孔に挿し入れるとともに、前記凸部を前記凹部に係入する工程と、
前記貫通孔を通じて前記穴部側に突き出た前記アンカー筋の端部を前記穴部内にて固定して、前記凸部を前記凹部に密接させる工程と、
を備えるようにした。
【0019】
かかる構成のプレキャスト部材の接合方法であれば、一方のプレキャスト部材の凸部を他方のプレキャスト部材の凹部に係入した状態で、第1のプレキャスト部材のアンカー筋を第2のプレキャスト部材に固定することで、第1のプレキャスト部材と第2のプレキャスト部材を接合することができる。
第1のプレキャスト部材のアンカー筋を第2のプレキャスト部材に固定する際に、一方のプレキャスト部材の凸部が他方のプレキャスト部材の凹部に係入されていることで互いにずれ難くなっているので、例えば、仮設された第2のプレキャスト部材に対し、クレーンで吊った第1のプレキャスト部材を組み付けて支えた状態でも、第1のプレキャスト部材と第2のプレキャスト部材を接合することができる。
つまり、大掛かりな支保工を要さずに、第1のプレキャスト部材と第2のプレキャスト部材を接合することができるので、より好適にプレキャスト部材同士を接合することができる。
【0020】
また、望ましくは、
前記第2のプレキャスト部材には、上面から前記貫通孔に達している注入孔が設けられており、
前記凸部を前記凹部に密接させた後、前記注入孔から第1の固化材料を注入して、前記穴部側から漏れ出るまで前記貫通孔に前記第1の固化材料を充填する工程と、
前記穴部に第2の固化材料を充填する工程と、
を備えるようにする。
【0021】
第1のプレキャスト部材のアンカー筋を第2のプレキャスト部材に固定して、第1のプレキャスト部材と第2のプレキャスト部材を仮接合した後に、注入孔を通じて貫通孔に第1の固化材料を充填して固化させ、また穴部に第2の固化材料を充填して固化させることができるので、型枠を要さずに第1のプレキャスト部材と第2のプレキャスト部材を接合することができ、第1のプレキャスト部材と第2のプレキャスト部材を接合してなるプレキャスト部材の接合構造が得られる。
つまり、型枠を要さず、固化材料を養生するための工期も削減することができるので、より好適にプレキャスト部材同士を接合することができる。
【0022】
また、望ましくは、
前記アンカー筋の基端部にはテーパ形の定着体が配設されており、
前記貫通孔を通じて前記穴部側に突き出た前記アンカー筋の端部を前記穴部内にて固定する工程において、前記アンカー筋に緊張力を付与するようにする。
【0023】
アンカー筋の端部を穴部内にて固定する際に、トルク等による緊張力をアンカー筋に付与するようにすれば、その接合構造をプレストレス構造にすることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、より好適にプレキャスト部材同士を接合することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】接合前の第1のプレキャスト部材と第2のプレキャスト部材を示す断面図(a)と、上面図(b)である。
【
図2】第1のプレキャスト部材と第2のプレキャスト部材を接合する手順を示す断面図(a)(b)(c)である。
【
図3】第1のプレキャスト部材と第2のプレキャスト部材を接合した接合構造を示す断面図(a)と、上面図(b)である。
【
図4】プレキャスト部材の接合構造に関する説明図である。
【
図5】第1のプレキャスト部材と第2のプレキャスト部材の変形例を示す断面図である。
【
図6】第1のプレキャスト部材と第2のプレキャスト部材の変形例を示す断面図である。
【
図7】第1のプレキャスト部材と第2のプレキャスト部材の変形例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照して、本発明に係るプレキャスト部材の接合構造及びプレキャスト部材の接合方法の実施形態について詳細に説明する。但し、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲を以下の実施形態及び図示例に限定するものではない。
【0027】
本実施形態では、
図1~
図3に示すように、図中右側の第1のプレキャスト部材10と、図中左側の第2のプレキャスト部材20を接合する場合を例に説明する。
なお、図中、プレキャスト部材(プレキャストコンクリート部材)の鉄筋の図示は省略している。
【0028】
第1のプレキャスト部材10には、その側面から略水平に突出したアンカー筋1が設けられている。具体的には、第1のプレキャスト部材10にはアンカーが埋め込まれており、そのアンカーのアンカー筋1の一端側が第1のプレキャスト部材10の側面から略水平に突出している。
また、第1のプレキャスト部材10の側面には、凹部11が設けられている。この凹部11からアンカー筋1が突出している。
この第1のプレキャスト部材10の凹部11には、第2のプレキャスト部材20の凸部21が係入される。
なお、アンカー筋1の他端の基端部には、テーパ形の定着体1aが配設されている。
【0029】
第2のプレキャスト部材20には、その上面に形成された有底の穴部2と、その穴部2に向けて側面から貫通した貫通孔3と、上面から貫通孔3に達するように形成された注入孔4が設けられている。
また、第2のプレキャスト部材20の側面には、凸部21が設けられている。この凸部21の端面に貫通孔3の開口部分が露出している。
この第2のプレキャスト部材20の凸部21は、第1のプレキャスト部材10の凹部11に係入される。
【0030】
また、第2のプレキャスト部材20の貫通孔3における穴部2とは反対側の開口部分に相当する凸部21の端面には、第1のプレキャスト部材10に密着するシール部材30が設けられている。
シール部材30は、例えば、ゴムなどの弾性材料からなるOリングであり、凸部21の端面から数mm程度突出するように配設されている。
【0031】
次に、第1のプレキャスト部材10と第2のプレキャスト部材20を接合する手順について説明する。
なお、
図1(a)(b)に示すように、本実施形態の第1のプレキャスト部材10には3本のアンカー筋1が設けられており、第2のプレキャスト部材20には3つの貫通孔3、3つの穴部2、3つの注入孔4が設けられている。
【0032】
まず、
図2(a)に示すように、第1のプレキャスト部材10のアンカー筋1を第2のプレキャスト部材20の貫通孔3に挿し入れるとともに、第2のプレキャスト部材20の凸部21を第1のプレキャスト部材10の凹部11に係入する。
なお、第2のプレキャスト部材20の凸部21の端面に貫通孔3の開口が露出しているので、その貫通孔3にアンカー筋1を挿し入れるのに位置合わせし易くなっている。
【0033】
次いで、
図2(b)に示すように、貫通孔3を通じて穴部2側に突き出たアンカー筋1の端部を穴部2内にて固定する。
ここでは、アンカー筋1の端部に定着プレート5を取り付けた後、アンカー筋1の端部にナット6を螺着し、そのナット6を締め付けて定着プレート5を穴部2の壁面に押し付けるようにして、アンカー筋1を第2のプレキャスト部材20に締結している。
ここで用いた定着プレート5には小孔5aが設けられており、定着プレート5が穴部2の壁面に設置された状態で、その小孔5aは貫通孔3と連通するようになっている。また、アンカー筋1の端部にはナット6を螺着する雄ネジ部が設けられている。
このアンカー筋1の端部を穴部2内にて固定する工程において、ナット6を締め付けて定着プレート5を穴部2の壁面に押し付けるようにすることで、トルクにより緊張力(テンション)をアンカー筋1に付与している。
例えば、アンカー筋1がPC鋼棒の丸鋼棒であれば、より大きな緊張力・プレストレス力を導入することができる。
アンカー筋1にPC鋼棒を利用する場合、その高耐力(通常鉄筋の2~3倍程度の強度)を活かしてより大きな緊張力を導入することが可能になる。通常、大きな緊張力を与えると、それに比例して鋼材の伸びが大きくなり、周囲のコンクリートやモルタルが鋼材と一緒に引っ張られて付着破壊を起こし易いが、異形鋼棒と比較して付着力が小さい丸鋼棒を利用することで、コンクリートと鋼材は一体の動きをしなくなって付着破壊を起こし難くなるので、好適に緊張力を導入することができる。
なお、アンカー筋1は、普通鋼棒、異形鋼棒であってもよい。
こうして、アンカー筋1を第2のプレキャスト部材20に締結することで、第2のプレキャスト部材20の凸部21を第1のプレキャスト部材10の凹部11に密接させることができる。
このとき、第2のプレキャスト部材20の凸部21の端面にあるシール部材30が、第1のプレキャスト部材10の凹部11の壁面に密着するようになっている。
このような締結によって、第1のプレキャスト部材10と第2のプレキャスト部材20を結合して仮接合している。
なお、凸部21と凹部11が係合していることで、締結されたプレキャスト部材10,20同士の結合は安定している。
【0034】
次いで、
図2(c)に示すように、第2のプレキャスト部材20の貫通孔3に通じている注入孔4から第1の固化材料40を注入する。
このとき、第1の固化材料40が穴部2側から漏れ出るまで貫通孔3に第1の固化材料40を充填する。具体的には、定着プレート5の小孔5aから第1の固化材料40が漏れ出るまで貫通孔3に第1の固化材料40を充填する。
特に、凸部21の端面における貫通孔3の開口部分に設けられているシール部材30が凹部11の壁面に密着しているので、貫通孔3に充填した第1の固化材料40が第2のプレキャスト部材20と第1のプレキャスト部材10の間から漏れ出ることはない。
こうして、貫通孔3内に第1の固化材料40を満たした後、その第1の固化材料40を固化させる。
なお、第1の固化材料40としては、例えば、グラウト材を用いることができる。
【0035】
次いで、
図3(a)(b)に示すように、第2のプレキャスト部材20の穴部2に第2の固化材料50を充填して固化させる。
なお、第2の固化材料50としては、例えば、コンクリートやモルタルを用いることができる。
このようにして第1のプレキャスト部材10と第2のプレキャスト部材20を接合することができ、第1のプレキャスト部材10と第2のプレキャスト部材20を接合してなるプレキャスト部材の接合構造100が得られる。
【0036】
このように、本実施形態のプレキャスト部材の接合方法であれば、第2のプレキャスト部材20の凸部21を第1のプレキャスト部材10の凹部11に係入した状態で、第1のプレキャスト部材10のアンカー筋1を第2のプレキャスト部材20に固定することで、第1のプレキャスト部材10と第2のプレキャスト部材20を結合することができる。
第1のプレキャスト部材10のアンカー筋1を第2のプレキャスト部材20に固定する際に、第2のプレキャスト部材20の凸部21が第1のプレキャスト部材10の凹部11に係入されていることで互いにずれ難くなっているので、例えば、仮設された第2のプレキャスト部材20に対し、クレーンで吊った第1のプレキャスト部材10を組み付けて支えた状態でも、第1のプレキャスト部材10と第2のプレキャスト部材20を結合することができる。
つまり、大掛かりな支保工を要さずに、第1のプレキャスト部材10と第2のプレキャスト部材20を結合することができる。
【0037】
また、本実施形態のプレキャスト部材の接合方法であれば、第1のプレキャスト部材10のアンカー筋1を第2のプレキャスト部材20に固定する際に、トルクにより緊張力(テンション)をアンカー筋1に付与することで、その接合構造をプレストレス構造にすることができる。
【0038】
また、本実施形態のプレキャスト部材の接合方法であれば、第1のプレキャスト部材10と第2のプレキャスト部材20を結合した後に、貫通孔3に第1の固化材料40を充填し、また穴部2に第2の固化材料50を充填して、各固化材料を固化させることができるので、型枠を要さずに第1のプレキャスト部材10と第2のプレキャスト部材20を接合することができ、第1のプレキャスト部材10と第2のプレキャスト部材20を接合してなるプレキャスト部材の接合構造100が得られる。
【0039】
以上のように、本実施形態のプレキャスト部材の接合方法およびプレキャスト部材の接合構造100であれば、上述した従来技術(特許文献1)のような、プレキャスト床版間に間詰コンクリートを打設するための型枠や支保工が不要であり、間詰コンクリートを養生するための工期も削減することができるので、より好適にプレキャスト部材10,20同士を接合することができる。
【0040】
特に、このプレキャスト部材の接合構造100では、第2のプレキャスト部材20の凸部21をシアキーとして機能させて第1のプレキャスト部材10の凹部11に係合させているとともに、テーパ形の定着体1aが設けられているアンカー筋1をテーパアンカーとして機能させてアンカー筋1にトルクにより緊張力を付与しているので、第1のプレキャスト部材10と第2のプレキャスト部材20の接合箇所に作用する、引張力・圧縮力・せん断力の3つの力に対して好適に抗することができる接合構造となっている。
なお、本実施形態では、ナット6を締結するトルクによってアンカー筋1に緊張力を付与しているが、例えば、ボルトテンショナーと称される機器などを用いてアンカー筋1に緊張力を導入するようにしてもよい。
【0041】
なお、本実施形態のプレキャスト部材の接合方法およびプレキャスト部材の接合構造100は、2つのプレキャスト部材10,20を接合するだけのものではない。
例えば、第1のプレキャスト部材10と第2のプレキャスト部材20が同じ構成を有するプレキャスト部材であり、一方の側面にアンカー筋1が突出している凹部11が設けられ、他方の側面に貫通孔3の開口が露出している凸部21が設けられているプレキャスト部材10,20であれば、
図4に示すように、複数のプレキャスト部材10,20を接合して、所望する長さのプレキャスト部材の接合構造100を構築することができる。
例えば、主桁間(または梁間)に床版を掛け渡すのに本実施形態のプレキャスト部材の接合方法を採用すれば、複数の床版であるプレキャスト部材10,20を接合してなるプレキャスト部材の接合構造100を構築するようにして、主桁間(または梁間)に床版を掛け渡すことができる。
主桁間(または梁間)に複数の床版であるプレキャスト部材10,20を接合して掛け渡す場合、床版の一方の端部には
図1(a)に示した第2のプレキャスト部材20を設置し、他方の端部には
図1(a)に示した第1のプレキャスト部材10を設置するようにすればよい。
【0042】
なお、本発明は上記実施形態に限られるものではない。
例えば、
図5に示すように、第1のプレキャスト部材10の側面に凸部12が設けられ、第2のプレキャスト部材20の側面に凹部22が設けられており、第1のプレキャスト部材10の凸部12の端面からアンカー筋1が突出し、第2のプレキャスト部材20の凹部22に貫通孔3の開口が露出しているものでもよい。
このような第1のプレキャスト部材10、第2のプレキャスト部材20であっても好適に接合することができ、第1のプレキャスト部材10と第2のプレキャスト部材20を接合してなるプレキャスト部材の接合構造100を構築することができる。
【0043】
また、
図6に示すように、第1のプレキャスト部材10の側面に凸部12が2段設けられ、第2のプレキャスト部材20の側面に凹部22が2段設けられており、第1のプレキャスト部材10の凸部12の間からアンカー筋1が突出し、第2のプレキャスト部材20の凹部22の間に貫通孔3の開口が露出しているものでもよい。
第1のプレキャスト部材10の凸部12と第2のプレキャスト部材20の凹部22とが複数組み設けられていても好適に接合することができ、第1のプレキャスト部材10と第2のプレキャスト部材20を接合してなるプレキャスト部材の接合構造100を構築することができる。
特に、互いに係合する凸部12と凹部22が複数組み設けられていれば、その接合状態が安定するので、第1のプレキャスト部材10と第2のプレキャスト部材20をより好適に接合することができる。
なお、ここでの凹凸を換言すれば、
図6に示した第1のプレキャスト部材10は、凸部12の間の凹部からアンカー筋1が突出したものであり、第2のプレキャスト部材20は、凹部22の間の凸部の端面に貫通孔3の開口が露出したものである。
【0044】
また、
図7に示すように、第1のプレキャスト部材10の側面に凹部11が2段設けられ、第2のプレキャスト部材20の側面に凸部21が2段設けられており、第1のプレキャスト部材10の2つの凹部11からそれぞれアンカー筋1が突出し、第2のプレキャスト部材20の2つの凸部21の端面にそれぞれ貫通孔3の開口が露出しているものでもよい。
第1のプレキャスト部材10の凸部12と第2のプレキャスト部材20の凹部22とが複数組み設けられているとともに、第1のプレキャスト部材10のアンカー筋1と第2のプレキャスト部材20の貫通孔3とが複数組み設けられていても好適に接合することができ、第1のプレキャスト部材10と第2のプレキャスト部材20を接合してなるプレキャスト部材の接合構造100を構築することができる。
なお、本実施形態の
図7では、上段の凸部21に設けられている貫通孔3は上段の穴部2に繋がれ、下段の凸部21に設けられている貫通孔3は下段の穴部2に繋がれているが、上段の穴部2は設けずに、下段の穴部2にそれぞれの貫通孔3を繋げる構造としてもよい。その場合、上下の貫通孔3毎に注入孔4を設けてもよく、また上下の貫通孔3に共通の注入孔4(上段の貫通孔3を貫いて下段の貫通孔3に通じている注入孔4)を設けるようにしてもよい。
【0045】
なお、以上の実施の形態においては、一方のプレキャスト部材の側面に凹部が1段あるいは2段設けられ、他方のプレキャスト部材の側面に凸部が1段あるいは2段設けられている場合を例に説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、凹部や凸部は3段以上設けられていてもよい。また、その段数に応じてアンカー筋1や貫通孔3を設けるようにしてもよい。
【0046】
また、その他、具体的な細部構造等についても適宜に変更可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0047】
1 アンカー筋
1a 定着体
2 穴部
3 貫通孔
4 注入孔
5 定着プレート
5a 小孔
6 ナット
10 第1のプレキャスト部材
11 凹部
12 凸部
20 第2のプレキャスト部材
21 凸部
22 凹部
30 シール部材
40 第1の固化材料
50 第2の固化材料
100 プレキャスト部材の接合構造