(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-17
(45)【発行日】2024-05-27
(54)【発明の名称】マイクロデバイス及び分析装置
(51)【国際特許分類】
G01N 33/543 20060101AFI20240520BHJP
G01N 35/08 20060101ALI20240520BHJP
G01N 37/00 20060101ALI20240520BHJP
G01N 21/64 20060101ALI20240520BHJP
G01N 21/05 20060101ALI20240520BHJP
【FI】
G01N33/543 575
G01N33/543 551A
G01N35/08 E
G01N37/00 101
G01N21/64 F
G01N21/05
(21)【出願番号】P 2020128025
(22)【出願日】2020-07-29
【審査請求日】2023-05-31
(73)【特許権者】
【識別番号】303018827
【氏名又は名称】Tianma Japan株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100183955
【氏名又は名称】齋藤 悟郎
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100180334
【氏名又は名称】山本 洋美
(74)【代理人】
【識別番号】100177149
【氏名又は名称】佐藤 浩義
(74)【代理人】
【識別番号】100174067
【氏名又は名称】湯浅 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100136342
【氏名又は名称】中村 成美
(72)【発明者】
【氏名】溝口 親明
(72)【発明者】
【氏名】重村 幸治
(72)【発明者】
【氏名】住吉 研
【審査官】中村 直子
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-317426(JP,A)
【文献】特開平03-103765(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0233030(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第109456879(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
G01N 35/08
G01N 37/00
G01N 21/64
G01N 21/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象物質を含む測定対象溶液が導入されるマイクロ流路と、
前記マイクロ流路の少なくとも一方の側壁面に固定され、前記測定対象物質と特異的に結合する抗体と、
前記抗体に特異的に結合され、前記測定対象物質を蛍光標識した蛍光標識誘導体と、
前記蛍光標識誘導体が発する蛍光を励起する励起光を遮る遮光部と、を備え、
前記測定対象物質と前記蛍光標識誘導体は、前記抗体に競合して特異的に結合し、
前記抗体は、前記蛍光標識誘導体と特異的に結合した状態で、前記マイクロ流路の前記側壁面に固定され、
前記遮光部は、前記抗体と特異的に結合している前記蛍光標識誘導体に入射する前記励起光を遮る、
マイクロデバイス。
【請求項2】
複数の前記抗体と複数の前記蛍光標識誘導体とを備え、
前記測定対象溶液は複数の前記測定対象物質を含み、
複数の前記抗体のそれぞれは
、前記側壁面の前記マイクロ流路の長さ方向に沿った区画ごとに固定化さ
れ、
複数の前記測定対象物質のうちの1つの前記測定対象物質と複数の前記蛍光標識誘導体のうちの1つの前記蛍光標識誘導体は、複数の前記抗体のうちの1つの前記抗体に競合して特異的に結合する、
請求項1に記載のマイクロデバイス。
【請求項3】
測定対象物質と前記測定対象物質を蛍光標識した蛍光標識誘導体とを含む測定対象溶液が、導入されるマイクロ流路と、
前記マイクロ流路の少なくとも一方の側壁面に固定され、前記測定対象物質と前記蛍光標識誘導体とに特異的に結合する抗体と、
前記蛍光標識誘導体が発する蛍光を励起する励起光を遮る遮光部と、を備え、
前記測定対象物質と前記蛍光標識誘導体は、前記抗体に競合して特異的に結合し、
前記遮光部は、前記測定対象溶液が前記マイクロ流路に導入された場合に、前記抗体と特異的に結合している前記蛍光標識誘導体に入射する前記励起光を遮る、
マイクロデバイス。
【請求項4】
複数の前記抗体を備え、
前記測定対象溶液は複数の前記測定対象物質と複数の前記蛍光標識誘導体とを含み、
複数の前記抗体のそれぞれは
、前記側壁面の前記マイクロ流路の長さ方向に沿った区画ごとに固定化さ
れ、
複数の前記測定対象物質のうちの1つの前記測定対象物質と複数の前記蛍光標識誘導体のうちの1つの前記蛍光標識誘導体は、複数の前記抗体のうちの1つの前記抗体に競合して特異的に結合する、
請求項3に記載のマイクロデバイス。
【請求項5】
前記励起光が入射する第1基板と、
前記第1基板と対向する第2基板と、を備え、
前記遮光部は、前記第1基板と前記第2基板とに挟まれて前記マイクロ流路を形成し、
前記遮光部の側面が前記マイクロ流路の前記側壁面を形成し、
前記マイクロ流路の前記抗体を固定された側壁面は、前記第1基板に向かって前記マイクロ流路の幅を狭める方向に傾斜している、
請求項1から4のいずれか1項に記載のマイクロデバイス。
【請求項6】
前記マイクロ流路の幅方向の断面は、前記第1基板に向かって狭まるテーパー形状を有する、
請求項5に記載のマイクロデバイス。
【請求項7】
前記励起光が入射する第1基板と、
前記第1基板と対向する第2基板と、
前記第1基板と前記第2基板とに挟まれて前記マイクロ流路を形成する隔壁と、を備え、
前記隔壁の側面が前記マイクロ流路の前記側壁面を形成する、
請求項1から4のいずれか1項に記載のマイクロデバイス。
【請求項8】
前記遮光部は、前記第1基板に設けられる、
請求項7に記載のマイクロデバイス。
【請求項9】
前記遮光部は、前記隔壁の前記第1基板側の端部に設けられる、
請求項7に記載のマイクロデバイス。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか1項に記載のマイクロデバイスと、
前記励起光を前記マイクロデバイスに照射する照射部と、
前記蛍光を検出する検出部と、を備える、
分析装置。
【請求項11】
前記励起光は、所定の方向に偏光方向を有する直線偏光であり、
前記蛍光は、前記所定の方向に直交する方向に偏光方向を有する直線偏光である、
請求項10に記載の分析装置。
【請求項12】
前記抗体に対する前記測定対象物質と前記蛍光標識誘導体の競合反応を促進する促進部を、備える、
請求項10又は11に記載の分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、マイクロデバイス及び分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光を用いた免疫分析法として、抗原抗体反応を利用して測定対象物質を検出する蛍光偏光免疫分析法(FPIA:Fluorescence Polarization Immunoassay)が知られている。例えば、特許文献1は、測定された蛍光の偏光度から測定抗原(測定対象物質)の濃度を求める方法を開示している。
【0003】
また、抗原抗体反応をマイクロデバイスのマイクロ流路の中で行う方法が知られている。抗原抗体反応をマイクロ流路の中で行うことにより、抗原抗体反応の反応時間を短縮できる。例えば、特許文献2は、微小構造物が流路に配置された免疫分析マイクロチップを開示している。微小構造物は一次抗体を表面に固相化されたビーズを保持している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平3-103765号公報
【文献】特許第4717081号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のマイクロデバイスを用いた蛍光偏光免疫分析法では、例えば、抗体が固定された流路に、測定対象物質と測定対象物質を蛍光物質により標識した蛍光標識誘導体とを含む溶液を導入する。抗体に対する測定対象物質と蛍光標識誘導体の競合反応(抗原抗体反応)が平衡状態に達した後、蛍光標識誘導体が発する蛍光を励起する直線偏光の励起光を流路中の溶液に照射して、溶液から発せられる蛍光の偏光度を求める。蛍光の偏光度は、測定対象物質の濃度に応じて変化するので、予め作成された検量線から測定対象物質の濃度を得ることができる。
【0006】
従来のマイクロデバイスを用いた蛍光偏光免疫分析法では、溶液から発せられる蛍光が、抗体と特異的に結合した蛍光標識誘導体が発する蛍光と、抗体と結合していない蛍光標識誘導体が発する蛍光とを含むので、測定感度が低い。
【0007】
本開示は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、測定対象物質の測定感度が高いマイクロデバイス及び分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本開示の第1の観点に係るマイクロデバイスは、
測定対象物質を含む測定対象溶液が導入されるマイクロ流路と、
前記マイクロ流路の少なくとも一方の側壁面に固定され、前記測定対象物質と特異的に結合する抗体と、
前記抗体に特異的に結合され、前記測定対象物質を蛍光標識した蛍光標識誘導体と、
前記蛍光標識誘導体が発する蛍光を励起する励起光を遮る遮光部と、を備え、
前記測定対象物質と前記蛍光標識誘導体は、前記抗体に競合して特異的に結合し、
前記抗体は、前記蛍光標識誘導体と特異的に結合した状態で、前記マイクロ流路の前記側壁面に固定され、
前記遮光部は、前記抗体と特異的に結合している前記蛍光標識誘導体に入射する前記励起光を遮る。
【0009】
本開示の第2の観点に係るマイクロデバイスは、
測定対象物質と前記測定対象物質を蛍光標識した蛍光標識誘導体とを含む測定対象溶液が、導入されるマイクロ流路と、
前記マイクロ流路の少なくとも一方の側壁面に固定され、前記測定対象物質と前記蛍光標識誘導体とに特異的に結合する抗体と、
前記蛍光標識誘導体が発する蛍光を励起する励起光を遮る遮光部と、を備え、
前記測定対象物質と前記蛍光標識誘導体は、前記抗体に競合して特異的に結合し、
前記遮光部は、前記測定対象溶液が前記マイクロ流路に導入された場合に、前記抗体と特異的に結合している前記蛍光標識誘導体に入射する前記励起光を遮る。
【0010】
本開示の第3の観点に係る分析装置は、
上記のいずれかのマイクロデバイスと、
前記励起光を前記マイクロデバイスに照射する照射部と、
前記蛍光を検出する検出部と、を備える。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、測定対象物質の測定感度を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施形態1に係るマイクロデバイスを示す上面図である。
【
図2】
図1に示すマイクロデバイスをA-A線で矢視した断面図である。
【
図3】実施形態1に係る抗体と蛍光標識誘導体とを示す模式図である。
【
図4】実施形態1に係るマイクロデバイスの動作を説明するための模式図である。
【
図5】実施形態1に係るマイクロデバイスの製造方法を示すフローチャートである。
【
図6】実施形態1に係る第2基板と遮光部とを一体に形成する工程を説明するための模式図である。
【
図7】実施形態1に係る分析装置の構成を示す図である。
【
図8】実施形態1に係る分析装置を示す模式図である。
【
図9】実施形態2に係るマイクロデバイスを示す上面図である。
【
図10】
図9に示すマイクロデバイスをB-B線で矢視した断面図である。
【
図11】実施形態2に係る抗体と蛍光標識誘導体とを示す模式図である。
【
図12】実施形態3に係るマイクロデバイスを示す上面図である。
【
図13】実施形態3に係る照射領域内のマイクロ流路の側壁面を示す模式図である。
【
図14】
図12に示すマイクロデバイスをC-C線で矢視した断面図である。
【
図15】
図12に示すマイクロデバイスをD-D線で矢視した断面図である。
【
図16】
図12に示すマイクロデバイスをE-E線で矢視した断面図である。
【
図17】実施形態3に係る第4遮光部と第2基板とを示す上面図である。
【
図18】実施形態3に係るマイクロデバイスの製造方法を示すフローチャートである。
【
図19】実施形態3に係る、第3遮光部の側面に抗体を固定し、固定された抗体に蛍光標識誘導体を特異的に結合する工程を説明するための模式図である。
【
図20】実施形態4に係る抗体を示す模式図である。
【
図21】変形例に係るマイクロデバイスの断面を示す模式図である。
【
図22】変形例に係る鋳型の断面を示す模式図である。
【
図23】変形例に係る分析装置を示す模式図である。
【
図24】変形例に係るマイクロデバイスの断面を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、実施形態に係るマイクロデバイスについて、図面を参照して説明する。
【0014】
<実施形態1>
図1~
図8を参照して、本実施形態に係るマイクロデバイス10を説明する。マイクロデバイス10は、例えば、蛍光偏光免疫分析法を用いた測定対象物質Ag1の検出に使用される。
【0015】
マイクロデバイス10は、
図1、
図2に示すように、第1基板12と第2基板14と第1遮光部16と3つのマイクロ流路18とを備える。さらに、マイクロデバイス10は、
図3に示すように、抗体Ab1と蛍光標識誘導体AgF1とを備える。蛍光標識誘導体AgF1は、測定対象物質Ag1を蛍光物質により蛍光標識した誘導体である。
第1基板12と第2基板14は、第1遮光部16を挟む。第1遮光部16は、蛍光標識誘導体AgF1が発する蛍光FLを励起する励起光ELを遮る。また、第1基板12と第2基板14と第1遮光部16は、マイクロ流路18を形成する。マイクロ流路18には、測定対象物質Ag1を含む測定対象溶液が導入される。抗体Ab1は、マイクロ流路18の側壁面18aに固定されている。蛍光標識誘導体AgF1は、抗体Ab1に特異的に結合している。
なお、理解を容易にするため、本明細書では、
図1におけるマイクロデバイス10の右方向(紙面の右方向)を+X方向、上方向(紙面の上方向)を+Y方向、+X方向と+Y方向に垂直な方向(紙面の奥方向)を+Z方向として説明する。また、
図1、
図2では、抗体Ab1と蛍光標識誘導体AgF1とを省略している。
【0016】
マイクロデバイス10の第1基板12は、平板状の石英ガラス基板である。
図2に示すように、励起光ELが、第1基板12からマイクロデバイス10に入射する。
【0017】
励起光ELは、蛍光標識誘導体AgF1が発する蛍光FLを励起する光である。本実施形態では、励起光ELは、
図1に示す照射領域Sに照射され、第1基板12の第1主面12aに垂直に入射する。
【0018】
マイクロデバイス10の第2基板14は、平板状の基板である。第2基板14は、自家蛍光が小さい材料から形成される。本実施形態では、第2基板14は、カーボンブラックを含むポリジメチルシロキサン(PDMS:Polydimethylsiloxane)から形成されている。第2基板14は第1基板12に対向し、第2基板14と第1基板12は第1遮光部16を挟む。
【0019】
マイクロデバイス10の第1遮光部16は、第1基板12と第2基板14に挟まれてマイクロ流路18を形成すると共に、第1基板12から入射する励起光ELを遮る。第1遮光部16は、蛍光標識誘導体AgF1が発する蛍光FLを励起する励起光ELを吸収し、自家蛍光が小さい材料から形成される。本実施形態では、第1遮光部16は、カーボンブラックを含むポリジメチルシロキサンから、第2基板14と一体に形成されている。
【0020】
マイクロ流路18の幅方向の断面(YZ平面)で見た場合、第1遮光部16の側面16aがマイクロ流路18の側壁面18aを形成する。本実施形態では、マイクロ流路18の2つの側壁面18aを形成する2つの側面16aが、互いに、第1基板12に向かってマイクロ流路18の幅(すなわち、Y方向の長さ)を狭める方向に傾斜している。言い換えると、2つの側面16aは、互いに、第1基板12に向かって近づく方向に傾斜している。
図3に示すように、第1遮光部16の側面16a(すなわち、マイクロ流路18の側壁面18a)には、抗体Ab1が、蛍光標識誘導体AgF1と特異的に結合した状態で、固定される。
【0021】
本実施形態では、第1遮光部16の側面16aが第1基板12に向かってマイクロ流路18の幅を狭める方向に傾斜し、励起光ELが第1基板12から第1主面12aに垂直に入射する。したがって、第1遮光部16は、
図3に示すように、側面16a、すなわちマイクロ流路18の側壁面18aに固定された抗体Ab1と特異的に結合している蛍光標識誘導体AgF1に入射する励起光ELを、遮る。以下では、理解を容易にするために、側壁面18aに固定された抗体と特異的に結合している蛍光標識誘導体を、結合した蛍光標識誘導体と記載する場合がある。
【0022】
マイクロデバイス10のマイクロ流路18は、照射領域S内において、X方向に平行に延びる。マイクロ流路18は、測定対象物質Ag1を含む測定対象溶液を導入される。測定対象物質Ag1は、蛍光を用いた免疫分析法で検出可能な化合物であればよい。測定対象物質Ag1として、抗生物質、生理活性物質、カビ毒等が挙げられる。具体的な測定対象物質Ag1として、プロスタグランジンE2、β-ラクトグロブリン、クロラムフェニコール、デオキシニレバノール等が挙げられる。測定対象物質Ag1を含む測定対象溶液は、第2基板14と第1遮光部16とを貫通してマイクロ流路18に接続する導入口19aからマイクロ流路18に導入される。また、測定対象物質Ag1を含む測定対象溶液は、第2基板14と第1遮光部16とを貫通してマイクロ流路18に接続する排出口19bから排出される。以下では、理解を容易にするために、測定対象物質を含む測定対象溶液を、測定対象溶液と記載する場合がある。
【0023】
マイクロ流路18は、第1基板12と第2基板14と第1遮光部16とから形成される。マイクロ流路18の上壁面18bは第1基板12の第2主面12bにより形成され、マイクロ流路18の下壁面18cは第2基板14の第1主面14aにより形成される。マイクロ流路18の側壁面18aは、第1遮光部16の側面16aにより形成される。第1遮光部16の側面16aが、互いに、第1基板12に向かってマイクロ流路18の幅を狭める方向に傾斜しているので、マイクロ流路18の2つの側壁面18aも、互いに、第1基板12に向かってマイクロ流路18の幅を狭める方向に傾斜している。言い換えると、2つの側壁面18aは、互いに、第1基板12に向かって近づく方向に傾斜している。
図3に示すように、マイクロ流路18の側壁面18a(すなわち、第1遮光部16の側面16a)には、抗体Ab1が固定される。
【0024】
本実施形態では、側壁面18aが、互いに第1基板12に向かってマイクロ流路18の幅を狭める方向に傾斜しているので、マイクロ流路18の幅方向(Y方向)の断面は、第1基板12に向かって狭まるテーパー形状を有している。マイクロ流路18の幅は、例えば、最も広い部分で210μm、最も狭い部分で50μmである。マイクロ流路18の深さ(Z方向の長さ)は、例えば、900μmである。また、マイクロ流路18の最も狭い幅とマイクロ流路18の深さとの比は、2以上であることが好ましい。
【0025】
マイクロデバイス10の抗体Ab1は、マイクロ流路18の側壁面18a(すなわち、第1遮光部16の側面16a)に固定される。本実施形態では、抗体Ab1は、蛍光標識誘導体AgF1と特異的に結合した状態で、マイクロ流路18の側壁面18aに固定されている。抗体Ab1は、抗原抗体反応により、測定対象物質Ag1と特異的に結合する。抗体Ab1は、例えば、測定対象物質Ag1を宿主動物(例えば、ねずみ、牛)に接種した後、宿主動物が産生した血液中の抗体を回収し精製することにより、得られる。また、抗体Ab1として、市販されている抗体も利用できる。
【0026】
マイクロデバイス10の蛍光標識誘導体AgF1は、抗原抗体反応により、抗体Ab1に特異的に結合されている。蛍光標識誘導体AgF1は、公知の方法を用いて、測定対象物質Ag1に蛍光物質を結合することにより得られる。蛍光物質は、フルオレセイン(励起光ELの波長:494nm、蛍光FLの波長:521nm)、ローダミンβ(励起光ELの波長:550nm、蛍光FLの波長:580nm)等である。本実施形態では、第1遮光部16が励起光ELを遮るので、励起光ELがマイクロデバイス10に照射されても、側壁面18aに固定された抗体Ab1と特異的に結合している蛍光標識誘導体AgF1(結合した蛍光標識誘導体AgF1)は、蛍光を発しない。
【0027】
ここで、マイクロデバイス10の動作を説明する。
マイクロデバイス10のマイクロ流路18に測定対象溶液が導入されると、測定対象溶液に含まれる測定対象物質Ag1が、蛍光標識誘導体AgF1に競合して、抗原抗体反応により抗体Ab1と特異的に結合する。そして、
図4に示すように、抗体Ab1と特異的に結合していない蛍光標識誘導体AgF1が、マイクロ流路18内中に生じる。抗体Ab1に対する測定対象物質Ag1と蛍光標識誘導体AgF1の競合反応が平衡状態に達すると、測定対象物質Ag1の濃度に応じた量の、抗体Ab1と特異的に結合していない蛍光標識誘導体AgF1が、マイクロ流路18内に生じる。以下では、理解を容易にするために、抗体と特異的に結合していない蛍光標識誘導体を、フリーの蛍光標識誘導体と記載する場合がある。
【0028】
競合反応が平衡状態に達した後に、励起光ELが第1基板12から入射すると、第1遮光部16が、結合した蛍光標識誘導体AgF1に入射する励起光ELを遮るので、結合した蛍光標識誘導体AgF1による蛍光発光が抑えられ、フリーの蛍光標識誘導体AgF1が発する蛍光が測定される。したがって、マイクロデバイス10は、測定対象物質Ag1の測定感度を向上できる。
【0029】
次に、
図5、
図6を参照して、マイクロデバイス10の製造方法を説明する。
図5は、マイクロデバイス10の製造方法を示すフローチャートである。マイクロデバイス10の製造方法は、第2基板14と第1遮光部16とを一体に形成する工程(ステップS10)と、導入口19aと排出口19bとを形成する工程(ステップS20)と、第1遮光部16を第1基板12に接合する工程(ステップS30)と、マイクロ流路18の側壁面18aに抗体Ab1を固定する工程(ステップS40)と、抗体Ab1に蛍光標識誘導体AgF1を特異的に結合する工程(ステップS50)とを含む。
【0030】
ステップS10では、
図6に示すように、第2基板14と第1遮光部16の形状に対応した鋳型62を型枠64内に配置する。そして、型枠64内に、カーボンブラックを含むポリジメチルシロキサン樹脂を流し込む。型枠64内に流し込んだポリジメチルシロキサン樹脂を硬化させることにより、第2基板14と第1遮光部16が一体に形成される。なお、鋳型62は、例えば、シリコン基板をフォトリソグラフィー加工することにより、作製される。また、以下では、第2基板14と第1遮光部16が一体に形成された部材を、第1遮光部16を有する第2基板14と記載する場合がある。
【0031】
図5に戻り、ステップS20では、治具を用いて、第1遮光部16を有する第2基板14の所定の位置に貫通孔を開けることにより、導入口19aと排出口19bとを形成する。
【0032】
ステップS30では、第1遮光部16の上に第1基板12を配置した後、第1基板12を第1遮光部16に押圧することにより、第1遮光部16を第1基板12に接合する。これにより、第1基板12と第2基板14と第1遮光部16が、マイクロ流路18を形成する。
【0033】
ステップS40では、抗体Ab1を含む溶液をマイクロ流路18に導入して、抗体Ab1をマイクロ流路18の側壁面18a(第1遮光部16の側面16a)に固定する。抗体Ab1をマイクロ流路18の側壁面18aに固定した後、所定の溶液をマイクロ流路18に導入して、マイクロ流路18内を洗浄する。抗体Ab1を固定する方法は、抗体Ab1の特性に応じて、物理的吸着法、抗体Ab1を側壁面18aに共有結合又はイオン結合させる公知の方法等を使用できる。
【0034】
ステップS50では、蛍光標識誘導体AgF1を含む溶液をマイクロ流路18に導入して、抗原抗体反応により、抗体Ab1に蛍光標識誘導体AgF1を特異的に結合する。抗体Ab1に蛍光標識誘導体AgF1を結合した後、所定の溶液をマイクロ流路18に導入して、マイクロ流路18内を洗浄する。以上により、マイクロデバイス10を作製できる。
【0035】
マイクロデバイス10を用いた測定対象物質Ag1の検出について、説明する。まず、測定対象物質Ag1を検出する分析装置100を説明する。
【0036】
分析装置100は、
図7、
図8に示すように、照射部110とダイクロイックミラー120と対物レンズ130と検出部140と制御部150とを備える。分析装置100は、さらに、マイクロデバイス10を備える。
【0037】
分析装置100の照射部110は、
図8に示すように、直線偏光の励起光ELを-X方向に出射する。照射部110は、
図7、
図8に示すように、光源112と励起光フィルタ114と偏光フィルタ116と図示しない集光レンズ等の光学部品とを備える。光源112は、励起光ELを含む光を-X方向に出射する。光源112は、例えばLED素子から構成される。励起光フィルタ114は、光源112から出射された光のうち、励起光EL以外の光を除く。励起光フィルタ114は、例えば、バンドパスフィルタである。偏光フィルタ116は、励起光フィルタ114を通過した励起光ELを直線偏光に変換する。
【0038】
分析装置100のダイクロイックミラー120は、
図8に示すように、照射部110から出射された直線偏光の励起光ELを、マイクロデバイス10が配置されている方向(+Z方向)に反射する。また、ダイクロイックミラー120は、マイクロデバイス10から出射された蛍光FLを透過する。
【0039】
分析装置100のマイクロデバイス10は、ダイクロイックミラー120の+Z側に、第1基板12を-Z方向に向けて配置される。ダイクロイックミラー120に反射された直線偏光の励起光ELは、
図2、
図3に示すように、マイクロデバイス10の第1基板12からマイクロ流路18に入射する。また、マイクロデバイス10は蛍光FLを-Z方向に出射する。
【0040】
分析装置100の対物レンズ130は、
図8に示すように、ダイクロイックミラー120とマイクロデバイス10との間に配置される。対物レンズ130は、励起光ELと蛍光FLとを集光する。
【0041】
分析装置100の検出部140は、
図8に示すように、ダイクロイックミラー120の-Z側に配置される。検出部140は、マイクロデバイス10から出射された蛍光FLを検出する。検出部140は、
図7、
図8に示すように、吸収フィルタ142と偏光調整素子144と撮像素子146と図示しない結像レンズ等の光学部品とを備える。吸収フィルタ142は、マイクロデバイス10から出射された蛍光FLと散乱光、漏れ光等とを分離し、出射された蛍光FLを透過する。吸収フィルタ142は、例えば、バンドパスフィルタである。偏光調整素子144は、吸収フィルタ142を透過した蛍光FLの偏光方向を調整する。偏光調整素子144は、蛍光FLの偏光方向を、照射部110から出射される励起光ELの偏光方向と平行な方向と、照射部110から出射される励起光ELの偏光方向と垂直な方向とに調整する。偏光調整素子144は、例えば、液晶素子である。撮像素子146は、偏光調整素子144から出射された蛍光FLを画像として検出する。撮像素子146は、例えば、CCD(Charge Coupled Device)イメージセンサである。
【0042】
分析装置100の制御部150は、照射部110と検出部140とを制御する。また、制御部150は、撮像素子146が検出した蛍光FLの画像から、マイクロデバイス10から出射された蛍光FLの偏光度Pを求める。さらに、制御部150は、偏光度Pと予め作成された検量線とから、測定対象物質Ag1の濃度を求める。制御部150は、各種の処理を実行するCPU(Central Processing Unit)152と、プログラムとデータとを記憶しているROM(Read Only Memory)154と、データを記憶するRAM(Random Access Memory)156と、各部の間の信号を入出力する入出力インタフェース158とを備える。制御部150の機能は、CPU152が、ROM154に記憶されたプログラムを実行することによって、実現される。入出力インタフェース158は、CPU152と、照射部110と検出部140との間の信号を入出力する。
【0043】
分析装置100の動作と測定対象物質Ag1の検出について、説明する。
まず、マイクロデバイス10のマイクロ流路18に測定対象溶液を導入した後、マイクロデバイス10を分析装置100の所定の位置に配置する。次に、マイクロ流路18内における抗体Ab1に対する測定対象物質Ag1と蛍光標識誘導体AgF1との競合反応が平衡状態に達した後、
図8に示すように、分析装置100の照射部110から直線偏光の励起光ELを出射し、ダイクロイックミラー120と対物レンズ130とを介して、直線偏光の励起光ELをマイクロデバイス10の照射領域Sに照射する。
【0044】
直線偏光の励起光ELは、
図3に示すように、第1基板12からマイクロデバイス10に入射する。この場合、第1遮光部16が、結合した蛍光標識誘導体AgF1に入射する励起光ELを遮るので、結合した蛍光標識誘導体AgF1による蛍光発光が抑えられ、マイクロ流路18内のフリーの蛍光標識誘導体AgF1が発した蛍光FLが、マイクロデバイス10から-Z方向に出射される。競合反応が平衡状態に達しているので、マイクロ流路18内のフリーの蛍光標識誘導体AgF1の量は、測定対象物質Ag1の濃度に対応している。
【0045】
マイクロデバイス10から出射された蛍光FLは、
図8に示すように、対物レンズ130とダイクロイックミラー120とを介して、検出部140に入射する。検出部140は、偏光調整素子144により蛍光FLの偏光方向を調整する。そして、検出部140は、撮像素子146により、励起光ELの偏光方向と平行な偏光方向を有する蛍光FLの画像と、励起光ELの偏光方向と垂直な偏光方向を有する蛍光FLの画像とを取得する。
【0046】
制御部150は、取得された蛍光FLの画像から蛍光FLの偏光度Pを求める。蛍光FLの偏光度Pは、励起光ELの偏光方向と平行な偏光方向を有する蛍光FLの強度をIh、励起光ELの偏光方向と垂直な偏光方向を有する蛍光FLの強度をIvとすると、P=(Ih-Iv)/(Ih+Iv)と表される。さらに、制御部150は、偏光度Pと予め作成された検量線とから、測定対象物質Ag1の濃度を求める。以上により、測定対象物質Ag1の濃度を得ることができる。
【0047】
分析装置100では、結合した蛍光標識誘導体AgF1による蛍光発光が抑えられ、フリーの蛍光標識誘導体AgF1が発した蛍光FLが検出される。したがって、分析装置100は、高い測定感度で測定対象物質Ag1の濃度を測定できる。
【0048】
以上のように、マイクロデバイス10では、第1遮光部16が、結合した蛍光標識誘導体AgF1に入射する励起光ELを遮るので、測定対象溶液がマイクロ流路18に導入された場合に、結合した蛍光標識誘導体AgF1による蛍光発光が抑えられ、フリーの蛍光標識誘導体AgF1が発した蛍光FLが出射する。したがって、マイクロデバイス10は、測定対象物質Ag1の測定感度を高めることができる。結合した蛍光標識誘導体AgF1による蛍光発光が抑えられるので、マイクロデバイス10は、より高分子量の測定対象物質Ag1を検出できる。さらに、マイクロデバイス10では、測定対象溶液に蛍光標識誘導体AgF1を加えることなく測定対象物質Ag1を検出でき、測定対象物質Ag1を簡易に検出できる。
【0049】
分析装置100は、結合した蛍光標識誘導体AgF1による蛍光発光を抑えて、フリーの蛍光標識誘導体AgF1が発した蛍光FLを検出する。したがって、分析装置100は、高い測定感度で測定対象物質Ag1を検出できる。また、分析装置100は、測定対象物質Ag1を簡易に検出できる。さらに、分析装置100は、偏光度Pから測定対象物質Ag1の濃度を求めるので、励起光ELの散乱、光源112が出射する光の強度の変動等の影響を抑えて、高い精度で測定対象物質Ag1の濃度を求めることができる。
【0050】
<実施形態2>
実施形態1では、第1遮光部16がマイクロ流路18を形成しているが、他の部材がマイクロ流路18を形成してもよい。また、励起光ELを遮る第2遮光部26が他の部材に設けられてもよい。
【0051】
図9~
図11を参照して、本実施形態に係るマイクロデバイス10を説明する。本実施形態のマイクロデバイス10は、
図9、
図10に示すように、第1基板12と第2基板14と3つのマイクロ流路18と隔壁22と第2遮光部26とを備える。さらに、本実施形態のマイクロデバイス10は、
図11に示すように、抗体Ab1と蛍光標識誘導体AgF1とを備える。本実施形態では、隔壁22がマイクロ流路18を形成する。また、第2遮光部26が第1基板12に設けられる。第2遮光部26は、結合した蛍光標識誘導体AgF1に入射する励起光ELを遮る。
【0052】
本実施形態の第1基板12は、
図10に示すように、第2主面12bに第2遮光部26を設けられる。本実施形態の第1基板12は、第2基板14と共に隔壁22を挟む。本実施形態の第1基板12のその他の構成は、実施形態1と同様である。
【0053】
本実施形態の第2基板14は、第1基板12と共に隔壁22を挟む。また、本実施形態の第2基板14は、隔壁22と一体に形成される。本実施形態の第2基板14のその他の構成は、実施形態1と同様である。
【0054】
隔壁22は、第1基板12と第2基板14に挟まれてマイクロ流路18を形成する。隔壁22は、自家蛍光が小さい材料から形成される。また、隔壁22は、励起光EL、蛍光FL等の光を吸収する材料から形成されることが好ましい。本実施形態では、隔壁22は、カーボンブラックを含むポリジメチルシロキサンから、第2基板14と一体に形成されている。
【0055】
マイクロ流路18の幅方向の断面(YZ平面)で見た場合、隔壁22の側面22aがマイクロ流路18の側壁面18aを形成する。本実施形態では、マイクロ流路18の2つの側壁面18aを形成する2つの側面22aは、第1基板12の第2主面12bと第2基板14の第1主面14aに対して、垂直である。
図11に示すように、隔壁22の側面22a(すなわち、マイクロ流路18の側壁面18a)には、抗体Ab1が、蛍光標識誘導体AgF1と特異的に結合した状態で固定される。
【0056】
本実施形態のマイクロ流路18では、側壁面18aが隔壁22の側面22aから形成される。また、本実施形態のマイクロ流路18の幅方向(Y方向)の断面は、矩形形状を有している。本実施形態のマイクロ流路18のその他の構成は、実施形態1と同様である。
【0057】
本実施形態の抗体Ab1は、マイクロ流路18の側壁面18a(すなわち、隔壁22の側面22a)に固定される。また、本実施形態の蛍光標識誘導体AgF1は、抗原抗体反応により、抗体Ab1に特異的に結合されている。本実施形態の抗体Ab1と蛍光標識誘導体AgF1の構成は、実施形態1と同様である。
【0058】
本実施形態の第2遮光部26は、第1基板12の第2主面12bに設けられて、結合した蛍光標識誘導体AgF1に入射する励起光ELを、遮る。本実施形態の第2遮光部26は、例えば、カーボンブラックを含む樹脂から形成される。
【0059】
本実施形態のマイクロデバイス10では、第1基板12に設けられた第2遮光部26が結合した蛍光標識誘導体AgF1に入射する励起光ELを遮るので、実施形態1のマイクロデバイス10と同様に、測定対象溶液がマイクロ流路18に導入された場合に、結合した蛍光標識誘導体AgF1による蛍光発光が抑えられ、フリーの蛍光標識誘導体AgF1が発する蛍光が出射される。したがって、本実施形態のマイクロデバイス10は、実施形態1のマイクロデバイス10と同様に、測定対象物質Ag1の測定感度を向上できる。また、本実施形態のマイクロデバイス10は、より高分子量の測定対象物質Ag1を検出できる。さらに、本実施形態のマイクロデバイス10は、実施形態1のマイクロデバイス10と同様に、測定対象物質Ag1を簡易に検出できる。
【0060】
<実施形態3>
実施形態1と実施形態2では、マイクロ流路18に1つの抗体Ab1が固定されているが、1つのマイクロ流路18に複数の抗体Ab1、Ab2、Ab3が固定されてもよい。
【0061】
図12~
図19を参照して、本実施形態に係るマイクロデバイス10を説明する。本実施形態のマイクロデバイス10は、
図12に示すように、1つのマイクロ流路18を備える。本実施形態では、第1基板12と第2基板14と第3遮光部161~166と第4遮光部170が、1つのマイクロ流路18を形成する。照射領域S内のマイクロ流路18は、長さ方向(-X方向)に沿って、3つの区画R1、R2、R3を有している。また、
図13に示すように、照射領域S内のマイクロ流路18の側壁面18aは、マイクロ流路18の区画R1、R2、R3に対応して、マイクロ流路18の長さ方向に沿って、区画R1、R2、R3に分けられている。さらに、
図14~
図16に示すように、抗体Ab1、Ab2、Ab3のそれぞれが、側壁面18aの区画R1、R2、R3のそれぞれに固定化され、蛍光標識誘導体AgF1、AgF2、AgF3のそれぞれと特異的に結合している。その他の構成は、実施形態1と同様である。以下では、本実施形態に係るマイクロデバイス10の構成を具体的に説明する。
【0062】
本実施形態では、第3遮光部161~166と第4遮光部170が、第1基板12と第2基板14に挟まれて、マイクロ流路18を形成する。第3遮光部161~166は、
図12に示すように、照射領域S内のマイクロ流路18を形成する。第3遮光部161~166のそれぞれは、
図13に示すように、底面(マイクロ流路18の幅方向の断面)が直角台形の四角柱形状を有している。第3遮光部161、163、165がX方向に並び、第3遮光部161、163、165のそれぞれの傾斜した側面161a、163a、165aがマイクロ流路18の一方の側壁面18aを形成する。第3遮光部162、164、166がX方向に並び、第3遮光部162、164、166のそれぞれの傾斜した側面162a、164a、166aがマイクロ流路18の他方の側壁面18aを形成する。
【0063】
さらに、
図13~
図16に示すように、第3遮光部161と第3遮光部162が対向し、第3遮光部161の側面161aと第3遮光部162の側面162aが2つの側壁面18aの区画R1を形成している。第3遮光部161と第3遮光部162と同様に、第3遮光部163の側面163aと第3遮光部164の側面164aが側壁面18aの区画R2を形成し、第3遮光部165の側面165aと第3遮光部166の側面166aが側壁面18aの区画R3を形成している。
【0064】
第4遮光部170は、第3遮光部161~166により形成されるマイクロ流路18以外のマイクロ流路18を形成する。第4遮光部170は、
図17に示すように、第3遮光部161~166が嵌め込まれる溝172を有する。本実施形態では、第4遮光部170は第2基板14と一体に形成されている。
【0065】
本実施形態では、抗体Ab1は、測定対象物質Ag1を蛍光標識した蛍光標識誘導体AgF1と結合した状態で、側壁面18aの区画R1に固定される。測定対象物質Ag1と蛍光標識誘導体AgF1は、抗体Ab1に特異的に結合し、抗体Ab2と抗体Ab3に結合しない。また、抗体Ab2は、測定対象物質Ag2を蛍光標識した蛍光標識誘導体AgF2と結合した状態で、側壁面18aの区画R2に固定される。測定対象物質Ag2と蛍光標識誘導体AgF2は、抗体Ab2に特異的に結合し、抗体Ab1と抗体Ab3に結合しない。さらに、抗体Ab3は、測定対象物質Ag3を蛍光標識した蛍光標識誘導体AgF3と結合した状態で、側壁面18aの区画R3に固定される。測定対象物質Ag3と蛍光標識誘導体AgF3は、抗体Ab3に特異的に結合し、抗体Ab1と抗体Ab2に結合しない。
【0066】
本実施形態では、第3遮光部161~166の側面161a~166a(マイクロ流路18の側壁面18a)は、実施形態1の第1遮光部16の側面16aと同様に、第1基板12に向かってマイクロ流路18の幅を狭める方向に傾斜している。したがって、第3遮光部161~166は、実施形態1の第1遮光部16と同様に、結合した蛍光標識誘導体AgF1、AgF2、AgF3に入射する励起光ELを遮り、励起光ELがマイクロデバイス10に照射されても、結合した蛍光標識誘導体AgF1、AgF2、AgF3は、実施形態1の結合した蛍光標識誘導体AgF1と同様に、蛍光を発しない。
【0067】
次に、本実施形態のマイクロデバイス10の動作を説明する。
マイクロデバイス10のマイクロ流路18に、測定対象物質Ag1、Ag2、Ag3を含む測定対象溶液が導入されると、側壁面18aの区画R1では、測定対象物質Ag1が、蛍光標識誘導体AgF1に競合して、抗原抗体反応により抗体Ab1と特異的に結合する。そして、フリーの蛍光標識誘導体AgF1が、マイクロ流路18の区画R1に生じる。また、フリーの蛍光標識誘導体AgF1と同様に、フリーの蛍光標識誘導体AgF2がマイクロ流路18の区画R2に、フリーの蛍光標識誘導体AgF3がマイクロ流路18の区画R3に、生じる。
【0068】
競合反応が平衡状態に達すると、測定対象物質Ag1、Ag2、Ag3の濃度に応じた量のフリーの蛍光標識誘導体AgF1、AgF2、AgF3が生じる。競合反応が平衡状態に達した後に、励起光ELが第1基板12から入射すると、第3遮光部161~166が、結合した蛍光標識誘導体AgF1、AgF2、AgF3に入射する励起光ELを遮るので、フリーの蛍光標識誘導体AgF1、AgF2、AgF3が発する蛍光が測定される。したがって、マイクロ流路18の区画R1、R2、R3の偏光度Pから、測定対象物質Ag1、Ag2、Ag3の濃度を求めることができる。また、本実施形態のマイクロデバイス10は、実施形態1のマイクロデバイス10と同様に、測定対象物質Ag1、Ag2、Ag3の測定感度を向上できる。
【0069】
次に、
図18、
図19を参照して、本実施形態のマイクロデバイス10の製造方法を説明する。
図18は、本実施形態のマイクロデバイス10の製造方法を示すフローチャートである。以下では、理解を容易にするために、抗体Ab1、Ab2、Ab3を総称して抗体Abと、蛍光標識誘導体AgF1、AgF2、AgF3を総称して蛍光標識誘導体AgFと記載する場合がある。
【0070】
本実施形態のマイクロデバイス10の製造方法は、第3遮光部161~166と、第2基板14と第4遮光部170とを一体に形成した部材と、を準備する工程(ステップS110)と、第3遮光部161~166の側面161a~166aに抗体Abを固定し、固定された抗体Abに蛍光標識誘導体AgFを特異的に結合する工程(ステップS120)と、第3遮光部161~166を第4遮光部170に接合する工程(ステップS130)と、第3遮光部161~166と第4遮光部170とを第1基板12に接合する工程(ステップS140)と、を含む。
【0071】
ステップS110では、第3遮光部161~166を準備する。第3遮光部161~166は、カーボンブラックを含むポリジメチルシロキサン樹脂のブロックから切り出される。また、第2基板14と第4遮光部170とを一体に形成した部材を準備する。第2基板14と第4遮光部170とを一体に形成した部材は、実施形態1のステップS10と同様に、鋳型を用いて形成される。さらに、導入口19aと排出口19bが、実施形態1のステップS20と同様に、治具を用いて形成される。
【0072】
ここでは、第3遮光部161と第3遮光部162を例にステップS120を説明する。まず、
図19に示すように、第3遮光部161と第3遮光部162とを2枚のガラス基板301、302で挟むことにより、第3遮光部161の側面161aと第3遮光部162の側面162aとを側壁面とする流路303を形成する。次に、形成された流路303に抗体Ab1を含む溶液を導入して、抗体Ab1を第3遮光部161の側面161aと第3遮光部162の側面162aに固定する。次に、蛍光標識誘導体AgF1を含む溶液を流路303に導入して、抗原抗体反応により、抗体Ab1に蛍光標識誘導体AgF1を結合する。以上により、抗体Ab1を側面161aと側面162aに固定し、抗体Ab1に蛍光標識誘導体AgF1を特異的に結合できる。第3遮光部163と第3遮光部164についても、第3遮光部161と第3遮光部162と同様に、抗体Ab2が固定され、蛍光標識誘導体AgF2が抗体Ab2に特異的に結合される。また、第3遮光部165と第3遮光部166についても、第3遮光部161と第3遮光部162と同様に、抗体Ab3が固定され、蛍光標識誘導体AgF3が抗体Ab3に特異的に結合される。
【0073】
ステップS130では、まず、第3遮光部161~166を第4遮光部170の溝172に配置する。次に、第3遮光部161~166と第4遮光部170とを互いに押圧することにより、第3遮光部161~166を第4遮光部170に接合する。これにより、区画R1、R2、R3を有するマイクロ流路18の側壁面18aが形成される。
【0074】
ステップS140では、まず、第3遮光部161~166と第4遮光部170の上に第1基板12を配置する。そして、第1基板12を第3遮光部161~166と第4遮光部170とに押圧することにより、第3遮光部161~166と第4遮光部170とを第1基板12に接合する。以上により、本実施形態のマイクロデバイス10を作製できる。
【0075】
以上のように、本実施形態では、第3遮光部161~166が、結合した蛍光標識誘導体AgF1、AgF2、AgF3に入射する励起光ELを遮るので、測定対象溶液がマイクロ流路18に導入された場合に、結合した蛍光標識誘導体AgF1、AgF2、AgF3による蛍光発光が抑えられる。したがって、マイクロデバイス10は、実施形態1のマイクロデバイス10と同様に、測定対象物質Ag1、Ag2、Ag3の測定感度を高めることができる。また、照射領域S内のマイクロ流路18の側壁面18aが、マイクロ流路18の長さ方向に沿って複数の区画R1、R2、R3に分けられ、複数の抗体Ab1、Ab2、Ab3が区画ごとに固定されているので、複数の測定対象物質Ag1、Ag2、Ag3を検出できる。本実施形態のマイクロデバイス10は、実施形態1のマイクロデバイス10と同様に、測定対象物質Ag1、Ag2、Ag3を簡易に検出できる。さらに、本実施形態のマイクロデバイス10は、より高分子量の測定対象物質Ag1、Ag2、Ag3を検出できる。
【0076】
<実施形態4>
実施形態1~実施形態3では、抗体Abは、蛍光標識誘導体AgFと特異的に結合した状態で側壁面18aに固定されているが、抗体Abは蛍光標識誘導体AgFと結合していなくともよい。
【0077】
本実施形態のマイクロデバイス10では、
図20に示すように、側壁面18aに固定された抗体Ab1は蛍光標識誘導体AgF1と特異的に結合していない。本実施形態のマイクロデバイス10のその他の構成は、実施形態1のマイクロデバイス10と同様である。
【0078】
本実施形態のマイクロデバイス10では、測定対象物質Ag1と所定の濃度の蛍光標識誘導体AgF1とを含む測定対象溶液(以下、測定対象溶液と記載)が、マイクロ流路18に導入される。測定対象溶液がマイクロ流路18に導入された場合、測定対象物質Ag1と蛍光標識誘導体AgF1は、抗体Ab1に対して、競合して抗原抗体反応を起こす。抗体Ab1に対する測定対象物質Ag1と蛍光標識誘導体AgF1の競合反応が平衡状態に達すると、実施形態1と同様に、測定対象物質Ag1の濃度に応じた量のフリーの蛍光標識誘導体AgF1が、マイクロ流路18内に生じる。
【0079】
本実施形態のマイクロデバイス10では、実施形態1のマイクロデバイス10と同様に、第1遮光部16が、結合した蛍光標識誘導体AgF1に入射する励起光ELを遮る。したがって、本実施形態のマイクロデバイス10は、結合した蛍光標識誘導体AgF1による蛍光発光を抑え、測定対象物質Ag1の測定感度を向上できる。本実施形態のマイクロデバイス10は、より高分子量の測定対象物質Ag1を検出できる。
【0080】
<変形例>
以上、実施形態を説明したが、本開示は、要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0081】
実施形態1では、第2基板14と第1遮光部16が一体に形成されているが、第2基板14と第1遮光部16は別々に形成されてもよい。また、第2基板14は、励起光ELを透過してもよい。
【0082】
第2基板14と第1遮光部16と隔壁22と第3遮光部161~166と第4遮光部170は、カーボンブラックを含むポリジメチルシロキサンから形成されているが、これらは、他の材料から形成されてもよい。例えば、ポリジメチルシロキサンは、カーボンブラックの代わりに、酸化第二鉄を含んでもよい。また、第1遮光部16、第3遮光部161~166等は、酸化第二鉄を含むポリメチルメタクリレートから形成されてもよい。
【0083】
実施形態1のマイクロデバイス10では、抗体Ab1が、蛍光標識誘導体AgF1と特異的に結合した状態で、マイクロ流路18の両方の側壁面18aに固定されている。実施形態1の抗体Ab1は、蛍光標識誘導体AgF1と特異的に結合した状態で、マイクロ流路18の少なくとも一方の側壁面18aに固定されていればよい。抗体Ab1が一方の側壁面18aに固定されている場合、抗体Ab1が固定されている側壁面18aが、第1基板12に向かってマイクロ流路18の幅を狭める方向に傾斜していればよい。
【0084】
実施形態1のマイクロ流路18の側壁面18aには、実施形態3と同様に、複数の抗体Abのそれぞれが区画ごとに固定されてもよい。
【0085】
実施形態1では、マイクロ流路18の側壁面18aの全面が、第1基板12に向かってマイクロ流路18の幅を狭める方向に傾斜している。実施形態1の側壁面18aは、一部がマイクロ流路18の幅を狭める方向に傾斜してもよい。例えば、
図21に示すように、側壁面18aの第1基板12側の端部が、マイクロ流路18の内側に向けて反ってもよい。この場合、第2基板14と第1遮光部16は、例えば、
図22に示す鋳型310を用いて形成される。鋳型310は、例えば、SOI(Silicon on Insulator)基板のシリコン層312を、エッチング加工し酸化処理した後、形成された酸化膜とSOI基板のシリコン酸化膜層314とをウェットエッチングすることにより、作製される。
【0086】
分析装置100は、実施形態1のマイクロデバイス10に代えて、実施形態1~実施形態4のマイクロデバイス10を備えてもよい。また、分析装置100は、蛍光FLの強度から測定対象物質Ag1の濃度を求めてもよい。例えば、分析装置100は、検出部によって、励起光ELの偏光方向と垂直な偏光方向を有する蛍光FLの強度Ivを検出して、Ivから測定対象物質Ag1の濃度を求めてもよい。これにより、蛍光のS/N比が向上し、測定感度が向上する。さらに、検出部140の撮像素子146は、CCDイメージセンサに限られない。例えば、検出部140の撮像素子146は、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)イメージセンサであってもよい。
【0087】
分析装置100は、
図23に示すように、促進部180を備えてもよい。促進部180は、抗体Abに対する測定対象物質Agと蛍光標識誘導体AgFの競合反応を促進する。促進部180は、マイクロデバイス10を加熱するヒータ、マイクロデバイス10に超音波を照射する超音波デバイス等である。
【0088】
実施形態2では、第2基板14と隔壁22は一体に形成されているが、第2基板14と隔壁22は別々に形成されてもよい。また、第2基板14と隔壁22は、励起光ELを透過してもよい。
【0089】
実施形態2では、隔壁22の側面22aは、マイクロ流路18の幅方向の断面(YZ平面)で見た場合、第1基板12の第2主面12b又は第2基板14の第1主面14aに対して垂直でなくともよい。マイクロ流路18の幅方向の断面(YZ平面)で見た場合、マイクロ流路18はテーパー形状を有してもよい。
【0090】
実施形態2のマイクロ流路18の側壁面18aには、実施形態3と同様に、複数の抗体Abのそれぞれが区画ごとに固定されてもよい。さらに、実施形態2のマイクロ流路18の側壁面18aには、実施形態4と同様に、蛍光標識誘導体AgFと特異的に結合していない抗体Abが固定されてもよい。
【0091】
実施形態2では、第2遮光部26は、第1基板12の第2主面12bに設けられているが、結合した蛍光標識誘導体AgF1に入射する励起光ELを遮る第2遮光部26は、隔壁22に設けられてもよい。例えば、第2遮光部26は、
図24に示すように、隔壁22の第1基板12側の端部に設けられてもよい。この場合、隔壁22と第2遮光部26は一体に形成されてもよい。
【0092】
実施形態3のマイクロデバイス10は、複数のマイクロ流路18を備えてもよい。また、マイクロ流路18流路の区画は、3つに限られず、複数であればよい。
【0093】
実施形態1~実施形態3のマイクロデバイス10では、蛍光標識誘導体AgFと特異的に結合した抗体Abが、マイクロ流路18の上壁面18bと下壁面18cの少なくとも一方に固定されてもよい。上壁面18bと下壁面18cは、側壁面18aに比較して、表面積が小さいので、蛍光標識誘導体AgFと特異的に結合した抗体Abが、マイクロ流路18の上壁面18bと下壁面18cの少なくとも一方に固定されていても、測定対象物質Agの検出に、ほとんど影響を与えない。実施形態4のマイクロデバイス10でも、抗体Abが、マイクロ流路18の上壁面18bと下壁面18cの少なくとも一方に固定されてもよい。
【0094】
マイクロデバイス10の製造では、例えば、抗体Abを側壁面18aと上壁面18bと下壁面18cに固定した後、上壁面18bと下壁面18cに固定された抗体Abにレーザー光を照射して抗体Abを上壁面18bと下壁面18cから除くことにより、抗体Ab又は蛍光標識誘導体AgFと特異的に結合した抗体Abを側壁面18aのみに固定できる。
【0095】
以上、好ましい実施形態について説明したが、本開示は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、本開示には、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲が含まれる。
【符号の説明】
【0096】
10 マイクロデバイス、12 第1基板、12a 第1基板の第1主面、12b 第1基板の第2主面、14 第2基板、14a 第2基板の第1主面、16 第1遮光部、16a 第1遮光部の側面、18 マイクロ流路、18a 側壁面、18b 上壁面、18c 下壁面、19a 導入口、19b 排出口、22 隔壁、22a 隔壁の側面、26 第2遮光部、62,310 鋳型、64 型枠、100 分析装置、110 照射部、112 光源、114 励起光フィルタ、116 偏光フィルタ、120 ダイクロイックミラー、130 対物レンズ、140 検出部、142 吸収フィルタ、144 偏光調整素子、146 撮像素子、150 制御部、152 CPU、154 ROM、156 RAM、158 入出力インタフェース、161,162,163,164,165,166 第3遮光部、161a,162a,163a,164a,165a,166a 第3遮光部の側面、170 第4遮光部、172 溝、180 促進部、301,302 ガラス基板、303 流路、312 シリコン層、314 シリコン酸化膜層、Ab,Ab1,Ab2,Ab3 抗体、Ag,Ag1,Ag2,Ag3 測定対象物質、AgF,AgF1,AgF2,AgF3 蛍光標識誘導体、EL 励起光、FL 蛍光、R1,R2,R3 区画、S 照射領域