(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-17
(45)【発行日】2024-05-27
(54)【発明の名称】スパークプラグ
(51)【国際特許分類】
H01T 13/20 20060101AFI20240520BHJP
【FI】
H01T13/20 B
(21)【出願番号】P 2020150961
(22)【出願日】2020-09-09
【審査請求日】2022-09-14
【審判番号】
【審判請求日】2023-12-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】弁理士法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤村 研悟
(72)【発明者】
【氏名】田中 一輝
(72)【発明者】
【氏名】都原 宗
(72)【発明者】
【氏名】山田 裕一
【合議体】
【審判長】平城 俊雅
【審判官】尾崎 和寛
【審判官】吉田 昌弘
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0054043(US,A1)
【文献】国際公開第2012/105255(WO,A1)
【文献】特開2017-98162(JP,A)
【文献】特開平11-339925(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01T 7/00-23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線方向に延びる軸孔が形成された絶縁体と、
前記軸孔の前記軸線方向の先端側に配置された中心電極と、を備え、
前記軸孔は、前記軸線方向の先端側から順に、第1内径部と、前記軸線方向の後端側に向かうにつれて内径が大きくなる段部と、前記第1内径部より内径の大きい第2内径部と、を有し、
前記中心電極は、先端
側が前記段部に支持され
、後端側が1段である鍔部と、前記鍔部
の後端側から前記軸線方向の後端側に延びて前記第2内径部に配置される頭部と、前記鍔部
の先端側から前記軸線方向の先端側に延びて前記第1内径部に配置される軸部と、を有し、
前記軸孔の内部において前記鍔部と前記頭部との周囲に充填される導電性シール部材を備えるスパークプラグであって、
前記頭部は、前記鍔部に連な
り、外径が一定な円柱状
をなす円柱部と、前記円柱部に連なり、前記鍔部から離れるほど外径が大きくなる拡径部と
、を備え、
前記中心電極は、前記鍔部の表面と前記円柱部の表面とが滑らかに接続される、スパークプラグ。
【請求項2】
前記第2内径部の内径が3.1mm以下である、請求項1に記載のスパークプラグ。
【請求項3】
前記円柱部の前記軸線方向における長さが1.9mm以下である、請求項1または請求項2に記載のスパークプラグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書によって開示される技術は、スパークプラグに関する。
【背景技術】
【0002】
スパークプラグは、軸孔を有する絶縁体と、絶縁体の内部に保持される中心電極とを備える。中心電極は、軸孔に設けられた段部に支持される鍔部と、鍔部から先端側に延びる軸部と、鍔部から後端側に延びる頭部とを備えている。軸孔の内部において、頭部と鍔部との周囲にはシール部材が充填されており、このシール部材により中心電極が軸孔内に固定されている。この種のスパークプラグにおいて、中心電極の頭部が、鍔部から離れるほど径が大きくなる拡径形状を有している場合がある(特許文献1参照)。
【0003】
燃焼室内で混合気が燃焼する際には、燃焼圧により、中心電極に対して軸線方向(軸線が延びる方向)への圧力が加わる。これにより、シール部材の固着力が低下し、中心電極にがたつき(緩み)が生じることがある。頭部が上記のような拡径形状を有していると、中心電極が軸線方向の後端側へ動くことが抑制されるため、中心電極の緩みを抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように中心電極の頭部が拡径形状を有している場合には、鍔部の表面と頭部の表面とで形成される角部が鋭角をなしている。このため、スパークプラグの製造工程において、この角部にシール部材が充分に行き渡らず、頭部の周囲に空隙が生じてしまうことが懸念される。また、拡径形状の先端部に応力が集中しやすくなるため、シール部材が破壊されることが懸念される。このような事態が生じると、中心電極の緩みの抑制効果が限定的となってしまうおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書によって開示されるスパークプラグは、軸線方向に延びる軸孔が形成された絶縁体と、前記軸孔の前記軸線方向の先端側に配置された中心電極と、を備え、前記軸孔は、前記軸線方向の先端側から順に、第1内径部と、前記軸線方向の後端側に向かうにつれて内径が大きくなる段部と、前記第1内径部より内径の大きい第2内径部と、を有し、前記中心電極は、先端が前記段部に支持される鍔部と、前記鍔部から前記軸線方向の後端側に延びて前記第2内径部に配置される頭部と、前記鍔部から前記軸線方向の先端側に延びて前記第1内径部に配置される軸部と、を有し、前記軸孔の内部において前記鍔部と前記頭部との周囲に充填される導電性シール部材を備えるスパークプラグであって、前記頭部は、前記鍔部に連なる円柱状の円柱部と、前記円柱部に連なり、前記鍔部から離れるほど外径が大きくなる拡径部とを備え、前記中心電極は、前記鍔部の表面と前記円柱部の表面とが滑らかに接続される。
【発明の効果】
【0007】
本明細書によって開示されるスパークプラグによれば、中心電極の緩みを抑制し、着火性能の低下を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】実施形態のスパークプラグの部分拡大断面図である。
【
図3】実施形態のスパークプラグの製造工程において、拡径部が形成される前の状態を示す部分拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[実施形態の概要]
(1)本明細書によって開示されるスパークプラグは、軸線方向に延びる軸孔が形成された絶縁体と、前記軸孔の前記軸線方向の先端側に配置された中心電極と、を備え、前記軸孔は、前記軸線方向の先端側から順に、第1内径部と、前記軸線方向の後端側に向かうにつれて内径が大きくなる段部と、前記第1内径部より内径の大きい第2内径部と、を有し、前記中心電極は、先端が前記段部に支持される鍔部と、前記鍔部から前記軸線方向の後端側に延びて前記第2内径部に配置される頭部と、前記鍔部から前記軸線方向の先端側に延びて前記第1内径部に配置される軸部と、を有し、前記軸孔の内部において前記鍔部と前記頭部との周囲に充填される導電性シール部材を備えるスパークプラグであって、前記頭部は、前記鍔部に連なる円柱状の円柱部と、前記円柱部に連なり、前記鍔部から離れるほど外径が大きくなる拡径部とを備え、前記中心電極は、前記鍔部の表面と前記円柱部の表面とが滑らかに接続される。
【0010】
上記の構成によれば、従来の構成と比較して、鍔部と頭部との周囲に導線性シール部材を充分に行き渡らせることができ、特に、鍔部の表面と頭部の外周面とで形成される角部に空隙が発生することを回避することができる。また、円柱部においては、熱膨張による力が径方向にしか伝わらず、円柱部の周囲に均等に分散されるため、拡径部の後端部への応力集中を緩和することができる。これらにより、中心電極の緩みを抑制し、着火性能の低下を回避することができる。
【0011】
(2)上記(1)のスパークプラグにおいて、前記第2内径部の内径が3.1mm以下であっても構わない。また、上記(1)のスパークプラグにおいて、前記円柱部の前記軸線方向における長さが1.9mm以下であっても構わない。
【0012】
近年、車両の内燃機関には小型化、小排気量化が求められている。これに伴ってスパークプラグにも小型化が要求され、中心電極も小型化、小径化されている。このため、中心電極を固着するために重要な因子の1つである中心電極の表面積が小さくなり、中心電極の緩みの問題が顕著となる。このような小型で細径の中心電極が用いられるスパークプラグにおいて、上記の構成を好適に適用することができる。
【0013】
[実施形態の詳細]
本明細書によって開示される技術の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0014】
<スパークプラグ1の全体構成>
実施形態1を、
図1から
図3を参照しつつ説明する。スパークプラグ1は内燃機関のシリンダヘッドに取り付けられ、内燃機関の燃焼室内の混合気に着火するために用いられる。スパークプラグ1は、
図1に示すように、絶縁体10と、主体金具20と、中心電極30と、端子金具40と、抵抗体50と、導電性シール部材(以下、「シール部材」と略記する)60、70と、接地電極80とを備える。
図1の一点破線は、スパークプラグ1の軸線AXを示している。以下の説明では、軸線AXと平行な方向(
図1の上下方向)を「軸線方向」という。また、
図1における下側を軸線方向の先端側といい、
図1における上側を軸線方向の後端側という。
【0015】
<絶縁体10>
絶縁体10は、
図1に示すように、軸線AXに沿って延びる円筒状の部材であって、軸線方向に延びる軸孔11を有する。絶縁体10は、例えば、アルミナ等のセラミックスを用いて形成されている。軸孔11は、軸線方向の先端側から順に、第1内径部12と、この第1内径部12に連なり、軸線方向の後端側に向かうにつれて内径が大きくなる段部13と、段部13に連なり、第1内径部12より内径の大きい第2内径部14と、を有している。
【0016】
<主体金具20>
主体金具20は、スパークプラグ1をシリンダヘッドに取り付ける際に利用される部材である。この主体金具20は、
図1に示すように、全体として軸線方向に延びた円筒形状をなし、導電性の金属材料(例えば、低炭素鋼材)によって構成される。
【0017】
主体金具20は、
図1に示すように、内部に軸線方向に貫通する通し孔21を備えており、その通し孔21に挿通される形で、絶縁体10が主体金具20の内部で保持される。絶縁体10の後端は、主体金具20の後端から外側(
図1の上側)へ突出している。絶縁体10の先端部は、主体金具20の先端から外側(
図1の下側)へ突出している。
【0018】
<中心電極30>
中心電極30は、
図1に示すように、軸線方向に延びる棒状の中心電極本体31と、その中心電極本体31の先端に取り付けられる円柱状のチップ32とを備えている。中心電極本体31は、その先端部が絶縁体10の外部に露出するように、絶縁体10の軸孔11の先端側に保持されている。中心電極本体31は、ニッケル(Ni)又はニッケルを最も多く含むニッケル基合金(例えば、NCF600、NCF601等)によって構成される。なお、中心電極本体31は、ニッケル又はニッケル基合金製からなる外層部(母材)と、その外層部に埋設された芯部とを含む2層構造であってもよい。その場合、芯部は、外層部よりも熱伝導性に優れる銅(Cu)又は銅を最も多く含む銅基合金から形成されることが好ましい。チップ32は、例えば白金やイリジウムなどの貴金属を主成分とする。なお、チップ32は省略可能である。
【0019】
中心電極本体31は、
図2に示すように、鍔部33と、鍔部33からそれぞれ延びる頭部34と軸部35とを備えている。鍔部33は、第1内径部12の内径よりも大きく、第2内径部14の内径よりも小さい外径を有する略円板状である。頭部34は、鍔部33から軸線方向の後端側に延びている。軸部35は、鍔部33の外径よりも小さい外径を有する細長い丸棒状をなし、鍔部33から軸線方向の先端側に延びている。鍔部33は、先端側(
図1および
図2の下側)の面が段部13の内周面に突き当たることによって支持されている。鍔部33のうち先端側の一部は段部13に配置され、残りの大部分は第2内径部14内に配置されている。頭部34は、第2内径部14内に配置されている。軸部35は、絶縁体10の外部に露出する先端部を除く大部分が、第1内径部12内に配置されている。
【0020】
頭部34は、鍔部33に連なる円柱部36と、円柱部36に連なる拡径部37とを備えている。円柱部36は、全長にわたって外径が一定な円柱状をなしており、鍔部33から軸線方向の後端側に延びている。拡径部37は、円柱部36から軸線方向の後端側に延びており、鍔部33から離れるほど外径が大きくなる円錐台形をなしている。鍔部33の表面と円柱部36の表面との接続部分38は、全周にわたって、滑らかな曲面状となっている。つまり、鍔部33の表面と円柱部36の表面とは、滑らかに接続されている。
【0021】
<端子金具40>
端子金具40は、
図1に示すように、軸線方向に延びる棒状の部材であり、その後端部が絶縁体10の外部に露出するように、絶縁体10の軸孔11の後端側に保持されている。端子金具40は、軸孔11内において、中心電極30よりも後端側に配置されている。端子金具40は、導電性の金属材料(例えば、低炭素鋼)で構成される。端子金具40の表面には、防食等の目的でニッケル等のメッキが施されてもよい。端子金具40は、軸線方向の所定位置に形成された鍔部41と、鍔部41よりも後端側に位置する端子接続部42と、鍔部41よりも先端側の脚部43と、を備えている。脚部43は、絶縁体10の軸孔11に挿入されている。端子接続部42は、絶縁体10よりも後端側に露出している。端子接続部42には、図示しない高圧ケーブルが接続されたプラグキャップが装着され、放電を発生するための高電圧が印加される。
【0022】
<抵抗体50>
抵抗体50は、
図1に示すように、絶縁体10の軸孔11内において、端子金具40の先端と中心電極30の後端との間に配置される。抵抗体50は、例えば、1kΩ以上の抵抗値(例えば、5kΩ)を有し、火花発生時の電波ノイズを低減する機能等を備えている。
【0023】
<シール部材60、70>
軸孔11における抵抗体50の先端と中心電極30の後端との間には、導電性を有するシール部材60が配置されている。シール部材60は、軸孔11の内部において鍔部33と頭部34との周囲に充填されており、頭部34の全体と、鍔部33のうち頭部34側の一部が、シール部材60に埋設されている。また、軸孔11における抵抗体50の後端と端子金具40の先端との間には、導電性を有するシール部材70が配置されている。シール部材60、70は、導電性を有する材料、例えば、金属粒子(Cu、Feなど)と、B2O3-SiO2系等のガラス粒子とを含む組成物で形成されている。
【0024】
<接地電極80>
接地電極80は、全体的には途中で略L字状に折れ曲がった形状を有し、その後端が主体金具20の先端に接合される。そして、その先端部が中心電極30の先端にあるチップ32と間隔を保ちつつ対向するように配される。接地電極80と主体金具20とは、例えば、互いに抵抗溶接、レーザ溶接等によって接合される。これにより、接地電極80と主体金具20とは、互いに電気的に接続される。接地電極80は、例えば、ニッケル又はニッケル基合金からなる。
【0025】
中心電極30の先端にあるチップ32と、接地電極80の先端部との間には、隙間があり、中心電極30と接地電極80との間に高電圧が印加されると、その隙間において、概ね軸線AXに沿った形で、火花放電が発生する。
【0026】
<スパークプラグ1の製造工程>
上記の構成のスパークプラグ1の製造工程の一例を、以下に説明する。まず、中心電極本体31となる電極基材100を準備する。電極基材100は、
図3に示すように、中心電極本体31と同様に鍔部33と軸部35とを備えているとともに、ストレート部101を備えている。ストレート部101は、全長にわたって外径が一定の円柱状をなし、鍔部33から軸部35と反対方向に延びている。また、ストレート部101の後端側の面には窪みが形成されている。この電極基材100を、軸孔11の内部に第2内径部14側(
図3の上側)から挿入する。鍔部33が段部13の内周面に支持され、ストレート部101が第2内径部14内に配置され、軸部35が第1内径部12内に配置される。
【0027】
次に、プレスピン(図示せず)を軸孔11内に挿入し、軸孔11内に配置されたストレート部101の後端部をプレスする。ストレート部101の後端部は、後端面に窪みが形成されているため、適度な荷重のプレスによって潰されるように変形され、拡径部37となる。ストレート部101のうち変形されなかった鍔部33側の部分は、円柱部36となる。このようにして、中心電極本体31が形成される。
【0028】
中心電極本体31の形成後、シール部材60の原料粉末を、第2内径部14側から軸孔11の内部に注ぎ入れ、鍔部33と頭部34との周りに充填する。次いで、プレスピンを用いて、充填されたシール部材60の原料粉末を予備圧縮する。
【0029】
予備圧縮後のシール部材60の原料粉末の上に、抵抗体50の原料粉末を充填し、予備圧縮する。次いで、予備圧縮後の抵抗体50の原料粉末の上に、シール部材70の原料粉末を充填し、予備圧縮する。
【0030】
次に、端子金具40を軸孔11の内部に第2内径部14側から挿入する。端子金具40が挿入された絶縁体10を電気炉内に設置し、シール部材60、70および抵抗体50の原料粉末を端子金具40により圧縮しつつ、加熱する。各原料粉末が圧縮・焼結され、シール部材60、70および抵抗体50が形成される。
【0031】
その後、主体金具20の組み付けや接地電極80の加工等の必要な工程を施し、スパークプラグ1が完成する。
【0032】
なお、上記の製造工程では、電極基材100を軸孔11の内部に挿入した後、プレスを行って拡径部37を形成し、その後にシール部材60を充填したが、他の製造方法も採用可能である。例えば、あらかじめ拡径部37を形成した中心電極30を軸孔11の内部に挿入して、その後シール部材60を充填しても構わない。他には、電極基材100を軸孔11の内部に挿入した後、電極基材100の後端が露出する範囲でシール部材60の一部を充填し、その後プレスを行って拡径部37を形成し、そして残りのシール部材60を充填してもよい。
【0033】
<作用効果>
中心電極30と接地電極80との間に高電圧が印加されると、その隙間において、概ね軸線AXに沿った形で、火花放電が発生する。シール部材60は、中心電極30を軸孔11内に固定するとともに、抵抗体50およびシール部材70を介して中心電極30と端子金具40との導通を図っている。
【0034】
燃焼室内で混合気が燃焼する際には、燃焼圧により、中心電極30に対して軸線方向への圧力が加わる。これにより、シール部材60の固着力が低下し、中心電極30にがたつき(緩み)が生じることが懸念される。
【0035】
中心電極の頭部が、鍔部から離れるほど径が大きくなる拡径形状を有していると、中心電極が軸線方向の後端側へ動くことが抑制されるため、中心電極の緩みを抑制することができる。これは、拡径形状の部分がシール部材によって軸線方向の両側から固定されるためである。また、中心電極の後端面とシール部材との接触面積が増大することにより、中心電極が燃焼圧を受けたときの、中心電極からシール部材へ作用する圧力が減少し、シール部材が圧縮されにくくなるためである。しかしながら一方で、従来の構成では、頭部の全体が拡径形状を有していることにより、鍔部の表面と頭部の外周面とで形成される角部が鋭角をなしている。このため、製造工程において、この角部にシール部材が充分に行き渡らず、空隙が生じてしまうおそれがある。このような空隙が生じると、中心電極とシール部材との固着力が低下する。また、中心電極は内燃機関からの受熱によって熱膨張する。頭部の全体が拡径形状を有していると、拡径部分の先端部に応力が集中しやすくなるため、先端部の近傍においてシール部材が破壊されるおそれがある。これらにより、拡径形状による中心電極の緩みの抑制効果が限定的となってしまうことが懸念される。
【0036】
本実施形態では、頭部34が、鍔部33に連なり、外径が一定な円柱部36と、円柱部36に連なる拡径部37とを備えている。加えて、鍔部33の表面と円柱部36の表面とは、滑らかに接続されている。このような構成によれば、従来の構成と比較して、製造工程において、鍔部33と頭部34との周囲にシール部材60を充分に行き渡らせることができ、特に、鍔部33の表面と頭部34の表面との接続部分38において、シール部材60を充分に行き渡らせることができ、中心電極30とシール部材60との固着力を確保することができる。
【0037】
また、円柱部36においては、熱膨張による力が、径方向(軸線方向に対して垂直な方向)にしか伝わらず、円柱部36の周囲に均等に分散される。これにより、拡径部37の後端部への応力集中を緩和することができる。
【0038】
以上により、中心電極30の緩みを抑制し、着火性能の低下を回避することができる。
【0039】
特に、近年、車両の内燃機関には小型化、小排気量化が求められており、この要請に応えるため、過給エンジンが使用されるようになっている。過給エンジンにおいては燃焼圧が従来よりも増大する傾向にあるため、中心電極30に対する軸線方向の圧力も大きくなる。
【0040】
一方、内燃機関の小型化、小排気量化に伴って、スパークプラグ1を構成する各部材は小型化、小径化されており、中心電極30も小型化、小径化されている。これにより、中心電極30の表面積が小さくなり、中心電極30とシール部材60との接触面積も小さくなる。このため、シール部材60による固着力が低下し、緩みが発生しやすくなる。このような小型で小径のスパークプラグ1において、上記の構成を好適に適用できる。より具体的には、第2内径部14の内径が3.1mm以下である場合に、上記の構成を好適に適用できる。あるいは、円柱部36の軸線方向における長さが1.9mm以下である場合に、上記の構成を好適に適用できる。なお、円柱部36の軸線方向における長さは、外径が
一定な部分における長さを指す。
【符号の説明】
【0041】
1:スパークプラグ
10:絶縁体
11:軸孔
12:第1内径部
13:段部
14:第2内径部
30:中心電極
33:鍔部
34:頭部
35:軸部
36:円柱部
37:拡径部
60:導電性シール部材