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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-17
(45)【発行日】2024-05-27
(54)【発明の名称】三次元積層造形装置
(51)【国際特許分類】
   B22F 3/16 20060101AFI20240520BHJP
   B33Y 30/00 20150101ALI20240520BHJP
   B29C 64/153 20170101ALI20240520BHJP
   B29C 64/268 20170101ALI20240520BHJP
   B29C 64/25 20170101ALI20240520BHJP
   B22F 3/105 20060101ALI20240520BHJP
【FI】
B22F3/16
B33Y30/00
B29C64/153
B29C64/268
B29C64/25
B22F3/105
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020151231
(22)【出願日】2020-09-09
(65)【公開番号】P2022045570
(43)【公開日】2022-03-22
【審査請求日】2023-02-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000004271
【氏名又は名称】日本電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000925
【氏名又は名称】弁理士法人信友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】成瀬 達雄
(72)【発明者】
【氏名】稲永 尊也
(72)【発明者】
【氏名】清水 崇行
【審査官】長谷部 智寿
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-183245(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105033251(CN,A)
【文献】登録実用新案第3193059(JP,U)
【文献】中国実用新案第208216026(CN,U)
【文献】特開平03-208334(JP,A)
【文献】特開2015-230103(JP,A)
【文献】特開2015-193134(JP,A)
【文献】特開2014-031751(JP,A)
【文献】特開2017-044422(JP,A)
【文献】実開平03-030893(JP,U)
【文献】特表2019-533306(JP,A)
【文献】特開昭62-268984(JP,A)
【文献】特開2017-179576(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0282296(US,A1)
【文献】特開2005-330968(JP,A)
【文献】特開2012-208174(JP,A)
【文献】特開2006-114678(JP,A)
【文献】特開昭57-055041(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00-8/00
B33Y 30/00
B29C 64/00-64/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
底壁を有する真空チャンバーと、
前記真空チャンバーの内部に配置され、粉末が敷き詰められるステージと、
前記真空チャンバーの底壁を貫通して前記ステージに接続されたシャフトと、
前記真空チャンバーの底壁を貫通する前記シャフトの貫通部分に配置されたシール部材と、
前記真空チャンバーの底壁と前記ステージとの間の空間に配置され、前記ステージから放射される熱を遮る遮熱部と、
を備え、
前記遮熱部は、前記ステージと対向する部分で前記真空チャンバーの底壁の内面を覆うように配置されると共に、前記ステージから放射される熱を前記ステージ側へと反射させる反射面を有し、
前記反射面で反射した熱は、前記空間を介して前記ステージに伝えられる
ことを特徴とする三次元積層造形装置。
【請求項2】
前記遮熱部は、少なくとも1つの遮熱板を有する
請求項に記載の三次元積層造形装置。
【請求項3】
前記遮熱部は、複数の遮熱板を有し、
前記複数の遮熱板は、上下方向に隙間をあけて重ねて配置されている
請求項に記載の三次元積層造形装置。
【請求項4】
前記遮熱部は、前記遮熱板と前記真空チャンバーの底壁との接触状態を点接触とする接触部材を有する
請求項に記載の三次元積層造形装置。
【請求項5】
前記遮熱板は、上下方向で隣り合う2つの遮熱板の間に隙間を形成する突部を有する
請求項に記載の三次元積層造形装置。
【請求項6】
前記突部は、前記遮熱板に一体に形成されている
請求項に記載の三次元積層造形装置。
【請求項7】
前記遮熱部は、遮熱層と断熱層を少なくとも一層ずつ積層してなる積層体によって構成されている
請求項に記載の三次元積層造形装置。
【請求項8】
前記シャフトは、中空のシャフトである
請求項1~7のいずれか一項に記載の三次元積層造形装置。
【請求項9】
前記シャフトは、前記シャフトの構成材料よりも熱伝導率の低い材料で構成された接続部材を介して前記ステージに接続されている
請求項1~8のいずれか一項に記載の三次元積層造形装置。
【請求項10】
前記ステージと前記接続部材との接触面積は、前記シャフトの横断面積よりも狭い
請求項に記載の三次元積層造形装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三次元積層造形装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ステージ上に敷き詰められた金属の粉末に電子ビームを照射して粉末を溶融および凝固させるとともに、凝固させた層をステージの移動により順に積層させて三次元の造形物を形成する三次元積層造形装置が知られている。
【0003】
三次元積層造形装置は、真空チャンバーの内部にステージを配置するとともに、ステージにシャフトを接続し、このシャフトと一体にステージを移動させる構成になっている(特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2017/081812号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
真空チャンバーの内部を所望の真空度まで排気するための排気時間を短縮するには、真空チャンバーの容積を小さくすることが有効である。また、真空チャンバーの容積を小さくするには、真空チャンバーの底壁に貫通孔を設け、この貫通孔にシャフトを通すことにより、シャフトの一部を真空チャンバーの外側に配置することが有効である。
【0006】
その場合、真空チャンバーの底壁を貫通するシャフトの貫通部分で気密性を保つために、シャフトの貫通部分にシール部材を配置する必要がある。一般にシール部材は樹脂によって構成されるため、金属などに比べて耐熱性が低い。これに対し、ステージは、電子ビームの照射によって粉末を溶融させるときに高温に加熱される。このため、ステージから放射される熱(輻射熱)によって真空チャンバーの底壁が加熱され、シール部材の性能が低下するおそれがある。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、その目的は、真空チャンバーの底壁を貫通するシャフトの貫通部分に配置されるシール部材の性能低下を抑制することができる三次元積層造形装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る三次元積層造形装置は、底壁を有する真空チャンバーと、真空チャンバーの内部に配置され、粉末が敷き詰められるステージと、真空チャンバーの底壁を貫通してステージに接続されたシャフトと、真空チャンバーの底壁を貫通するシャフトの貫通部分に配置されたシール部材と、真空チャンバーの底壁とステージとの間に配置され、ステージから放射される熱を遮る遮熱部と、を備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、真空チャンバーの底壁を貫通するシャフトの貫通部分に配置されるシール部材の性能低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の第1実施形態に係る三次元積層造形装置の構成を概略的に示す側断面図である。
図2】接続部材を説明する斜視図である。
図3】本発明の第1実施形態に係る三次元積層造形装置が備える遮熱部の構成を示す斜視図である。
図4】連結部の構成を示す拡大図である。
図5】脚部の構成を示す拡大図である。
図6】本発明の第2実施形態における遮熱部の構成を示す概略側断面図である。
図7】本発明の第2実施形態における遮熱板の構成を示す平面図である。
図8図7のA-A位置の断面図である。
図9】本発明の第3実施形態における遮熱部の構成を示す概略側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。本明細書および図面において、実質的に同一の機能または構成を有する要素については、同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0012】
<第1実施形態>
図1は、本発明の第1実施形態に係る三次元積層造形装置の構成を概略的に示す側断面図である。以降の説明では、三次元積層造形装置の各部の形状や位置関係などを明確にするために、図1の左右方向をX方向、図1の奥行き方向をY方向、図1の上下方向をZ方向とする。X方向、Y方向およびZ方向は、互いに直交する方向である。また、X方向およびY方向は水平方向に平行な方向であり、Z方向は鉛直方向に平行な方向である。
【0013】
図1に示すように、三次元積層造形装置10は、真空チャンバー12と、ビーム照射装置14と、粉末供給装置16と、造形テーブル18と、造形ボックス20と、ステージ22と、ステージ移動装置24と、遮熱部26とを備えている。
【0014】
真空チャンバー12は、図示しない真空ポンプによってチャンバー内の空気を排気することにより、真空状態を作り出すためのチャンバーである。真空チャンバー12は、上壁12a、側壁12bおよび底壁12cを有している。上壁12aおよび底壁12cは、Z方向で対向している。
【0015】
ビーム照射装置14は、造形面に電子ビームを照射する装置である。造形面とは、ステージ22上に敷き詰められる粉末32の上面をいう。ビーム照射装置14は、図示はしないが、電子ビームの発生源となる電子銃と、電子銃が発生した電子ビームを制御する光学系とを備える。光学系は、引出電極、集束レンズ、対物レンズ、偏向レンズなどによって構成される。ビーム照射装置14は、真空チャンバー12の上壁12aに取り付けられている。また、ビーム照射装置14は、電子銃および光学系の中心軸がZ方向と平行となるように配置されている。ビーム照射装置14によって生成された電子ビームは、造形面に照射される。その際、電子ビームは偏向レンズによって偏向される。なお、ビームは電子ビームに限らず、レーザービームであってもよい。
【0016】
粉末供給装置16は、造形物の原材料となる金属の粉末32を造形テーブル18上に供給する装置である。粉末供給装置16は、ホッパー16aと、粉末投下器16bと、アーム16cとを有している。ホッパー16aは、粉末を貯蔵するための容器である。粉末投下器16bは、ホッパー16aに貯蔵されている粉末を造形テーブル18上に投下する機器である。粉末投下器16bは、予め決められた量の粉末を造形テーブル18の端に投下する。ホッパー16aおよび粉末投下器16bは、X方向に距離を隔てて2つずつ設けられている。アーム16cは、Y方向に長い長尺状の部材である。アーム16cは、粉末投下器16bによって投下された粉末を造形テーブル18上に敷き詰める。アーム16cは、造形テーブル18の全面に粉末を均一に敷き詰めるために、X方向に移動可能に設けられている。
【0017】
造形テーブル18は、真空チャンバー12の内部に水平に配置されている。造形テーブル18は、粉末供給装置16よりも下方に配置されている。造形テーブル18の中央部には開口部18aが形成されている。開口部18aは、平面視円形または平面視四角形に形成される。本実施形態においては、一例として、開口部18aが平面視円形に形成されているものとする。
【0018】
造形ボックス20は、造形テーブル18の開口部18aの下方に造形用の空間28を形成するボックスである。造形ボックス20の上端部20aは、開口部18aの縁で造形テーブル18の下面に接続されている。造形ボックス20の下端部20bは、真空チャンバー12の底壁12cの内面30に接続されている。底壁12cの内面30は、真空チャンバー12の内側に配置される面であり、底壁12cの外面31とは表裏の関係にある。
【0019】
ステージ22は、金属の粉末32を用いて造形物を形成するためのステージである。ステージ22は、上面22aおよび下面22bを有する。三次元積層造形装置10によって造形物を形成する場合、ステージ22の上面22aには所定の厚さ(一層分の厚さ)で粉末32が敷き詰められる。ステージ22の上面22aは、Z方向において、ビーム照射装置14と対向するように配置されている。ステージ22の下面22bは、Z方向において、底壁12cの内面30と対向するように配置される。ただし、ステージ22と底壁12cとの間には遮熱部26が配置されている。このため、ステージ22は、遮熱部26を介して底壁12cの内面30と対向している。
【0020】
ステージ移動装置24は、ステージ22を上下方向に移動させる装置である。ステージ移動装置24は、複数のシャフト24aと、可動プレート24bと、複数のナット24cと、複数のネジ軸24dと、複数のモータ24eとを備えている。シャフト24aは、合計4つ(図1では2つのみ表示)設けられている。シャフト24aは、真空チャンバー12の底壁12cを貫通してステージ22に接続されている。シャフト24aの一部は真空チャンバー12内の空間28に配置され、シャフト24aの他部は真空チャンバー12の外側、すなわち大気中に露出して配置されている。シャフト24aを部分的に真空チャンバー12の外側に配置した場合は、シャフト24a全体を真空チャンバー12の内部に配置する場合に比べて、真空チャンバー12の容積を小さくすることができる。これにより、真空チャンバー12の小型化を図ることができる。また、真空チャンバー12内を所望の真空度まで排気するための排気時間を短縮することができる。
【0021】
真空チャンバー12の底壁12cを貫通するシャフト24aの貫通部分にはシール部材34が配置されている。シール部材34は、シャフト24aの貫通部分で気密性を保持する部材である。本実施形態においては、一例として、シール部材34がOリングによって構成されている。
【0022】
シャフト24aは、Z方向と平行に配置されている。本実施形態においては、シャフト24aとして、中空のシャフトを採用している。シャフト24aを中空構造とすれば、シャフト24aを中実構造(非中空構造)とする場合に比べて、シャフト24aの長さ方向に熱が伝わり難くなる。このため、ステージ22からシャフト24aを通じてシール部材34に伝わる熱量を少なく抑えることができる。
【0023】
シャフト24aの上端部は、接続部材36を介してステージ22に接続されている。接続部材36は、筒状(中空)の部材であり、たとえばボルト(図示せず)によってステージ22の下面22bに固定される。接続部材36は、シャフト24aの構成材料よりも熱伝導率の低い材料で構成されている。たとえば、シャフト24aの構成材料がステンレス鋼である場合、接続部材36はステンレス鋼よりも熱伝導率の低い金属である64チタン、あるいはセラミックスによって構成される。ステージ22の帯電を抑制するうえでは、接続部材36を金属によって構成することが望ましい。接続部材36は、シャフト24aに対して同軸に連結されている。接続部材36は、図2に示すように、接続部材36の上端に向かって徐々に径が小さくなる形状、すなわち先細形状に形成されている。接続部材36の上端面36aは円環状に形成されている。接続部材36の上端面36aは、ステージ22の下面22bに接触する面となる。このため、上端面36aの面積は、ステージ22と接続部材36との接触面積に相当する。上述したように接続部材36は先細形状に形成されているため、上端面36aの面積はシャフト24aの横断面積よりも狭くなる。
【0024】
シャフト24aの下端部は、真空チャンバー12の外側で可動プレート24bに接続されている。可動プレート24bは、真空チャンバー12の外側に水平に配置されている。ナット24cは、可動プレート24bに回転自在に取り付けられている。ナット24cは、ネジ軸24dに噛み合っている。ネジ軸24dは、たとえば台形ネジ軸によって構成されている。ネジ軸24dは、Z方向と平行に配置されている。モータ24eは、ステージ22を上下方向に移動させるための駆動源となる。モータ24eは、ナット24cを回転させる駆動力を発生する。実際にモータ24eの駆動によってナット24cを回転させると、ナット24cの回転方向および回転量に応じて可動プレート24bが上下方向(Z方向)に移動する。また、可動プレート24bが移動すると、可動プレート24bと一体にシャフト24aおよびステージ22が上下方向に移動する。
【0025】
遮熱部26は、真空チャンバー12の底壁12cとステージ22との間に配置されている。遮熱部26は、ステージ22から放射される熱、すなわち輻射熱を遮る部分である。遮熱部26は、造形ボックス20が形成する空間28内に配置されている。遮熱部26は、ステージ22に対向する真空チャンバー12の底壁12cの内面30を覆うように、空間28の最下部に配置されている。このように遮熱部26を配置した場合は、空間28におけるステージ22の移動範囲を広く確保することができる。ただし、遮熱部26は、上下方向に移動するステージ22と干渉しない条件であれば、真空チャンバー12の底壁12cとステージ22との間で任意の位置に配置することが可能である。遮熱部26の具体的な構成については後段で詳しく説明する。
【0026】
続いて、三次元積層造形装置10の動作について説明する。
まず、ステージ22の上面22aを造形テーブル18の上面よりも所定量だけ下げた状態で、粉末供給装置16により造形テーブル18上に粉末32を供給する。その際、ホッパー16aに貯蔵されている粉末は、粉末投下器16bによって造形テーブル18上に投下される。造形テーブル18上に投下された粉末32は、アーム16cの移動によって造形テーブル18上に敷き詰められる。アーム16cは、移動中にステージ22の上を通過する。このため、ステージ22上にも粉末32が敷き詰められる。
【0027】
次に、ビーム照射装置14によって電子ビームを照射することにより、ステージ22上の粉末32を溶融および凝固させる。その際、ビーム照射装置14は、目的とする造形物の三次元CAD(Computer-Aided Design)データを一定の厚みにスライスした2次元データに基づいて電子ビームを走査することにより、ステージ22上の粉末32を選択的に溶融する。電子ビームの照射によって溶融した粉末32は、電子ビームが通過した後に凝固する。これにより、一層分の造形が完了する。
【0028】
次に、ステージ22は、ステージ移動装置24の駆動によって一層分だけ下方に移動する。次に、上記同様に、粉末供給装置16によって造形テーブル18上に粉末32を供給するとともに、ビーム照射装置14によって電子ビームを照射する。以降は、このような動作を所定の層数分だけ繰り返すことにより、目的とする造形物が得られる。
【0029】
上述した三次元積層造形装置10の動作においては、ビーム照射装置14からステージ22上の粉末32へと電子ビームを照射することにより、金属の粉末32が溶融する。一般に、金属の粉末32の融点は非常に高いため、ステージ22は数百度以上の高温になる。ステージ22の熱は、熱放射(輻射)または熱伝導により、真空チャンバー12の底壁12c(以下、「チャンバー底壁12c」ともいう。)にも伝わる。特に、ステージ22からチャンバー底壁12cに伝わる熱は、熱伝導に比べて熱放射のほうが非常に多くなる。
【0030】
そこで本実施形態においては、真空チャンバー12の底壁12cとステージ22との間に遮熱部26を配置し、ステージ22から放射される熱を遮熱部26によって遮る構成を採用している。遮熱部26は、ステージ22の下面22bと対向する状態で配置されている。また、遮熱部26は、ステージ22と対向する部分でチャンバー底壁12cの内面30を覆うように配置されている。以下、遮熱部26の構成について詳しく説明する。
【0031】
図3は、本発明の第1実施形態に係る三次元積層造形装置が備える遮熱部の構成を示す斜視図である。図3においては、遮熱部の構成を理解しやすいように、遮熱部の一部を破断した状態を示している。
【0032】
図3に示すように、遮熱部26は、複数の遮熱板41を有している。本実施形態では、一例として、遮熱部26が3つの遮熱板41を有している。3つの遮熱板41は、上下方向に隙間をあけて重ねて配置されている。遮熱板41は、ステージ22の平面形状にあわせて円形の板で構成されている。ステージ22の平面形状は円形に限らず、四角形などの角形であってもよい。その場合は、遮熱板41の平面形状もステージ22の平面形状にあわせて角形にするとよい。
【0033】
遮熱板41は反射面42を有している。反射面42は、ステージ22から放射される熱をステージ22側へと反射させる。反射面42は、たとえば遮熱板41をステンレス鋼で構成する場合、遮熱板41の表面にアルミニウムまたは金をコーティングすることにより形成される。反射面42は、遮熱板41の上面および下面のうち、少なくとも上面に形成するとよい。遮熱板41の上面は、ステージ22と対向する側の面である。
【0034】
遮熱板41には4つ(図3では3つのみ表示)の貫通孔43が設けられている。貫通孔43は、上述したシャフト24aとの干渉を避けるための孔である。遮熱部26をチャンバー底壁12c上に配置する場合、シャフト24aは貫通孔43に挿入される。このため、貫通孔43の直径は、シャフト24aの直径よりも大きく設定されている。
【0035】
3つの遮熱板41は、連結部44によって相互に連結されている。連結部44は、遮熱板41の円周方向の4箇所に設けられている。
図4は、連結部の構成を示す拡大図である。
図4に示すように、連結部44は、スタッドボルト45と、2つのナット46,47と、2つのスラストボールベアリング48,49と、スペーサー50とを備えている。
【0036】
スタッドボルト45は、ボルト長さ方向の全部に雄ネジが形成されたボルトである。スタッドボルト45は、ボルト長さ方向の両端部のみに雄ネジが形成されていてもよい。スタッドボルト45は、3つの遮熱板41を貫通している。ナット46は、最も上側に配置された遮熱板41の上面側に配置されている。ナット46と遮熱板41との間には、必要に応じてワッシャを配置するとよい。ナット47は、最も下側に配置された遮熱板41の下面側に配置されている。ナット47と遮熱板41との間には、必要に応じてワッシャを配置するとよい。スラストボールベアリング48は、最も上側に配置された遮熱板41と、この遮熱板41に隣り合う中央の遮熱板41との間に配置されている。スラストボールベアリング49は、中央の遮熱板41とスペーサー50との間に配置されている。スペーサー50は、円筒状に形成されている。スペーサー50は、最も下側に配置された遮熱板41とスラストボールベアリング49との間に配置されている。スペーサー50は、必要に応じて設けるようにすればよい。
【0037】
上記構成からなる連結部44によって3つの遮熱板41を連結する場合は、まず、3つの遮熱板41と、2つのスラストボールベアリング48,49と、スペーサー50に、それぞれスタッドボルト45を通す。次に、スタッドボルト45両端部の雄ネジにナット46,47の雌ネジを噛み合わせる。次に、2つのナット46,47のうち少なくとも一方を締め付ける。これにより、3つの遮熱板41が相互に連結される。
【0038】
上述した連結状態において、スラストボールベアリング48のボール48aは、最も上側に配置された遮熱板41と中央の遮熱板41との間で、点状に接触した状態となる。このため、遮熱板41間の伝熱経路は、スラストボールベアリング48のボール48aの存在によって狭められ、その狭められた部分で熱伝導が阻害される。したがって、最も上側に配置された遮熱板41と中央の遮熱板41との間で、熱伝導を抑制することができる。これと同様に、スラストボールベアリング49のボール49aは、中央の遮熱板41と最も下側に配置された遮熱板41との間で、点状に接触した状態となる。このため、中央の遮熱板41と最も下側に配置された遮熱板41との間でも、熱伝導を抑制することができる。
【0039】
再び図3に戻って説明する。3つの遮熱板41のうち、最も上側に配置された遮熱板41には取っ手51が取り付けられ、最も下側に配置された遮熱板41には脚部52が設けられている。取っ手51は、遮熱部26の着脱作業を容易に行えるようにするための部材である。遮熱部26は、ステージ22と対向するように空間28の底部に設置される。また、ステージ22上に粉末32を敷き詰める場合、あるいはステージ22を上下方向に移動する場合に、ステージ22から粉末32がこぼれ落ちることがある。ステージ22からこぼれ落ちた粉末32は、遮熱板41の上面に落下して徐々に溜まっていく。遮熱板41の上に溜まった粉末32を取り除く場合は、ステージ22を取り外す必要があるが、その際に、遮熱部26を取り外した方が、粉末32の除去作業が容易になる。また、遮熱板41に取っ手51を設けておけば、作業者は、造形テーブル18の開口部18aから手を伸ばして取っ手51を握り、そのまま遮熱板41を引き上げることで、遮熱部26を取り外すことができる。また、作業者は、粉末32の除去作業を終えた後、取っ手51を握って空間28の底部に遮熱部26を降ろすことにより、遮熱部26を元の位置に取り付けることができる。
【0040】
脚部52は、遮熱板41の円周方向の3箇所(図3では1箇所のみ表示)に設けられている。脚部52は、図5に示すように、ボールスクリュー53と、2つのナット54,55とによって構成されている。ボールスクリュー53は、図示しない圧縮コイルバネと、この圧縮コイルバネによって付勢されたボール53aとを有している。ボールスクリュー53は、ボール53aが鉛直下方を向くように配置されている。ボールスクリュー53の外周面には雄ネジが形成されている。2つのナット54,55は、遮熱板41を挟むように上下に対をなして配置されている。各々のナット54,55の雌ネジは、ボールスクリュー53の雄ネジに噛み合っている。ボールスクリュー53は、遮熱板41に設けられた孔に挿入されており、その状態で上下のナット54,55を締め付けることにより、ボールスクリュー53が固定されている。
【0041】
上記構成からなる脚部52は、遮熱部26をチャンバー底壁12c上に設置する場合に、最も下側に配置される遮熱板41をチャンバー底壁12cの内面30から浮いた状態に保持する。この保持状態において、ボールスクリュー53のボール53aは、チャンバー底壁12cの内面30に点接触によって接触する。すなわち、ボールスクリュー53は、最も下側に配置される遮熱板41と、チャンバー底壁12cとの接触状態を点接触とする接触部材に相当する。このように、遮熱板41とチャンバー底壁12cとの接触状態を点接触とすることにより、遮熱板41とチャンバー底壁12cとの間の伝熱経路は、ボールスクリュー53のボール53aの存在によって狭められ、その狭められた部分で熱伝導が阻害される。したがって、遮熱板41からチャンバー底壁12cへの熱伝導を抑制することができる。
【0042】
以上説明したように、本発明の第1実施形態に係る三次元積層造形装置10においては、真空チャンバー12の底壁12cとステージ22との間に遮熱部26が配置され、ステージ22から放射される熱が遮熱部26によって遮られる構成を採用している。このため、遮熱部26が配置されていない場合に比べて、ステージ22から真空チャンバー12の底壁12cに伝わる熱が少なくなり、その分だけ底壁12cの温度を低く抑えることができる。したがって、熱によるシール部材34の性能低下を抑制することができる。
【0043】
また、本発明の第1実施形態において、遮熱部26を構成する3つの遮熱板41は、上下方向に隙間をあけて重ねて配置されている。このため、上下方向で隣り合う遮熱板41間の熱伝導を抑制することができる。
【0044】
また、本発明の第1実施形態において、遮熱部26が備える遮熱板41は反射面42(図3参照)を有し、この反射面42はステージ22が放射する熱をステージ22側へと反射させる構成となっている。これにより、造形ボックス20内の保温性能を向上させることができる。このため、造形時間の短縮ならびに造形物の品質向上を図ることができる。
【0045】
また、本発明の第1実施形態において、シャフト24aは、シャフト24aの構成材料よりも熱伝導率の低い材料で構成された接続部材36を介してステージ22に接続されている。このため、シャフト24aを直にステージ22に接続する場合に比べて、ステージ22からシャフト24aへの熱伝導を抑えることができる。ステージ22からシャフト24aへの熱伝導を抑えることは、ステージ22からシャフト24aを通じてシール部材34に伝わる熱量を少なく抑えて、シール部材34の性能低下を抑制することにつながる。
【0046】
また、本発明の第1実施形態において、ステージ22と接続部材36との接触面積は、シャフト24aの横断面積よりも狭くなっている。このため、ステージ22からシャフト24aへの熱伝導をより効果的に抑えることができる。
【0047】
また、上記第1実施形態においては、シャフト24aの一部が真空チャンバー12の外側に突き出して配置されているため、このシャフト24aの突き出し部分を空気の対流によって自然空冷することにより、シャフト24aの温度上昇を抑制することができる。さらに、シャフト24aの突き出し部分の近傍に、図示しないファンや熱交換器などを設けてシャフト24aを強制空冷することにより、シャフト24aの温度上昇をより効果的に抑制することができる。
【0048】
なお、上記第1実施形態においては、3つの遮熱板41を用いて遮熱部26を構成したが、遮熱部26を構成する遮熱板41の数は3つに限らず、1つ、2つ、または4つ以上であってもよい。また、シャフト24aの数も必要に応じて増減してかまわない。
【0049】
<第2実施形態>
続いて、本発明の第2実施形態について説明する。本発明の第2実施形態に係る三次元積層造形装置は、上記第1実施形態に係る三次元積層造形装置10と比較して、遮熱部26の構成が異なる。以下、第2実施形態に係る三次元積層造形装置が備える遮熱部26の構成について説明する。
【0050】
図6は、本発明の第2実施形態における遮熱部の構成を示す概略側断面図である。
図6に示すように、遮熱部26-2は、複数の遮熱板61を有している。本実施形態では、一例として、遮熱部26-2が4つの遮熱板61を有している。4つの遮熱板61は、上下方向に隙間をあけて重ねて配置されている。遮熱板61は、上述した遮熱板41と同様に、円形の板で構成されるとともに、ステージ22から放射される熱をステージ22側へと反射させる反射面62を有している。遮熱板61には、上述したシャフト24aとの干渉を避けるための貫通孔が設けられている。この貫通孔については、図6図8において図示を省略している。
【0051】
4つの遮熱板61のうち、最も上側に配置された遮熱板61を除く3つの遮熱板61には、それぞれ突部61aが形成されている。突部61aは、図7の平面図および図8の断面図に示すように、遮熱板61の一部を上向きに折り曲げることにより、遮熱板61と一体に形成されている。突部61aの折り曲げ部分は三角形になっており、この三角形の頂部に他の遮熱板61が載置される構成になっている。突部61aは、遮熱板61の円周方向の3箇所に配置されている。
【0052】
一方、最も下側に配置された遮熱板61には、ボールスクリュー63が取り付けられている。ボールスクリュー63は、遮熱板61の円周方向の3箇所に取り付けられている。ボールスクリュー63は、図示しない圧縮コイルバネと、この圧縮コイルバネによって付勢されたボール63aとを有している。ボール63aは、チャンバー底壁12cの内面30に接触している。ボールスクリュー63は、最も下側に配置された遮熱板61とチャンバー底壁12cとの接触状態を点接触とする接触部材に相当する。
【0053】
上記構成からなる遮熱部26-2を備える三次元積層造形装置においては、真空チャンバー12の底壁12cとステージ22との間に遮熱部26-2を配置しているため、上述した第1実施形態と同様に、熱によるシール部材34の性能低下を抑制することができる。
また、上下方向で隣り合う遮熱板61の間に隙間を形成する突部61aを、遮熱板61と一体に形成しているため、遮熱部26-2の構成を簡素化することができる。
【0054】
なお、上記第2実施形態においては、遮熱板61の一部を下向きに折り曲げることで突部61aを形成しているが、本発明はこれに限らず、遮熱板61の一部を上向きに折り曲げることで突部61aを形成してもよい。その場合は、最も下側に配置される遮熱板61にボールスクリュー63を取り付けなくても、この遮熱板61とチャンバー底壁12cとの間に隙間を確保することができる。
【0055】
また、上記第2実施形態においては、遮熱板61と一体に突部61aを形成しているが、本発明はこれに限らず、たとえば遮熱板61にネジ止め、接着、溶接などによって突状の部材を取り付けることにより突部を設けてもよい。その場合、突状の部材としては、点接触にて隙間を形成できる部材、たとえばボールスクリューを用いることが望ましい。
【0056】
<第3実施形態>
続いて、本発明の第3実施形態について説明する。本発明の第3実施形態に係る三次元積層造形装置は、上記第1実施形態に係る三次元積層造形装置10と比較して、遮熱部26の構成が異なる。以下、第3実施形態に係る三次元積層造形装置が備える遮熱部26の構成について説明する。
【0057】
図9は、本発明の第3実施形態における遮熱部の構成を示す概略側断面図である。
図9に示すように、遮熱部26-3は、遮熱層71と断熱層72を複数層ずつ積層してなる積層体によって構成されている。この積層体は、スーパーインシュレーションまたはマルチレイヤーインシュレーションとも呼ばれる。遮熱層71と断熱層72は上下方向で密着した状態に配置されている。遮熱層71は、たとえば、ポリイミド、ポリエステル等からなる樹脂フィルムと、この樹脂フィルムの両面を覆う金属膜とによって構成される。金属膜は、樹脂フィルムに金属蒸着によってアルミニウムなどをコーティングすることで形成される。遮熱層71は、ステージ22から放射される熱を遮るとともに、その熱をステージ22側に反射させる役目を果たす。
【0058】
断熱層72は、網目状のポリエステルの層、あるいは不織布によって構成される。断熱層72は、上下方向で隣り合う2つの遮熱層71の間に挟んで配置され、それら2つの遮熱層71同士の接触による熱伝導を抑制する役目を果たす。遮熱層71および断熱層72を含む遮熱部26-3の層数は、遮熱部26-3に要求される遮熱性能に応じて適宜選択することが可能である。ただし、遮熱部26-3による遮熱効果を得るうえでは、遮熱層71と断熱層72を少なくとも一層ずつ積層した構成になっていればよい。
【0059】
上記構成からなる遮熱部26-3を備える三次元積層造形装置においては、真空チャンバー12の底壁12cとステージ22との間に遮熱部26-3を配置しているため、上述した第1実施形態と同様に、熱によるシール部材34の性能低下を抑制することができる。
また、遮熱層71と断熱層72は上下方向で密着した状態に配置されているため、遮熱部26-3による遮熱効果を高めるべく上記積層体の層数を多くした場合でも、遮熱部26-3全体の高さを低く抑えることができる。
【符号の説明】
【0060】
10…三次元積層造形装置
12…真空チャンバー
12c…底壁
22…ステージ
24a…シャフト
26,26-2,26-3…遮熱部
30…内面
32…粉末
34…シール部材
36…接続部材
41,61…遮熱板
42,62…反射面
53,63…ボールスクリュー(接触部材)
61a…突部
71…遮熱層
72…断熱層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9