(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-17
(45)【発行日】2024-05-27
(54)【発明の名称】オリビン型リン酸リチウム系正極材料を得るためのLi3PO4粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/58 20100101AFI20240520BHJP
C01B 25/30 20060101ALI20240520BHJP
【FI】
H01M4/58
C01B25/30 B
(21)【出願番号】P 2020157264
(22)【出願日】2020-09-18
【審査請求日】2023-04-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池上 潤
(72)【発明者】
【氏名】山下 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】大神 剛章
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-528140(JP,A)
【文献】特開2018-041683(JP,A)
【文献】特開2017-004927(JP,A)
【文献】特開2018-125111(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/58
C01B 25/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料化合物を水熱反応に付した反応混合物からオリビン型リン酸リチウム系正極材料を得る際に排出される溶液Xを用いるLi
3PO
4粒子の製造方法であって、
次の工程(I)~(III):
(I)リチウムイオンの含有量が1000mg/L~20000mg/L、及び硫酸イオンの含有量が3000mg/L~150000mg/Lである溶液Xに、炭酸リチウム及びリン酸化合物を添加するとともに、炭酸リチウムの添加量1モルに対する添加量が0.05モル~1モルである硫酸を添加して、リン1モルに対するリチウムの含有量が2.7モル~3.3モルである混合液Aを得る工程
(II)得られた混合液Aを30℃~90℃の温度で5分間~180分間撹拌して、混合液Bを得る工程
(III)得られた混合液Bを30℃~90℃の温度に調整しつつアルカリ溶液を添加して混合液Cを得た後、固液分離してLi
3PO
4粒子を得る工程
を備える、オリビン型リン酸リチウム系正極材料を得るためのLi
3PO
4粒子の製造方法。
【請求項2】
工程(II)で得られる混合液Bの25℃におけるpHが、0.5~5.5である、請求項1に記載のLi
3PO
4粒子の製造方法。
【請求項3】
工程(I)で得られる混合液Aにおいて、リチウムの含有量が5000mg/L~30000mg/Lであり、かつリンの含有量が8000mg/L~40000mg/Lである請求項1又は2に記載のLi
3PO
4粒子の製造方法。
【請求項4】
工程(I)が、溶液Xに炭酸リチウム及びリン酸化合物を添加して混合液aを得た後、硫酸を添加する工程である請求項1~3のいずれか1項に記載のLi
3PO
4粒子の製造方法。
【請求項5】
工程(I)で用いる溶液Xの25℃におけるpHが、6~9である、請求項1~4のいずれか1項に記載のLi
3PO
4粒子の製造方法。
【請求項6】
Li
3PO
4粒子の平均粒径が1~10μmであり、かつスパン値が1.0~2.8である、請求項1~5のいずれか1項に記載のLi
3PO
4粒子の製造方法。
【請求項7】
Li
3PO
4粒子が、式(A):LiFe
aMn
bM
cPO
4(ただし、MはMg、Ca、Sr、Y、Zr、Co、Mo、Ba、Pb、Bi、La、Ce、Nd又はGd、0≦a≦1、0≦b≦1、及び0≦c≦0.3を満たし、a及びbは同時に0ではなく、かつ2a+2b+(Mの価数)×c=2を満たす数を示す。)で表されるオリビン型リン酸リチウム系正極材料を得るための粒子である、請求項1~6のいずれか1項に記載のLi
3PO
4粒子の製造方法。
【請求項8】
工程(I)で用いる溶液Xが、次の工程(i)~(ii):
(i)Li
3PO
4粒子に、鉄化合物及び/又はマンガン化合物を含み、かつ金属(M)化合物(MはMg、Ca、Sr、Y、Zr、Co、Mo、Ba、Pb、Bi、La、Ce、Nd又はGdを示す。)を含み得る金属源を添加及び混合した後、水熱反応に付して反応混合物を得る工程
(ii)工程(i)で得られた反応混合物から未反応のLiイオンを含む溶液を分離して、オリビン型リン酸リチウム系正極材料を得る工程
を経ることによって式(A)で表されるオリビン型リン酸リチウム系正極材料を得たときに、工程(ii)において分離した未反応のLiイオンを含む溶液である、請求項7に記載のLi
3PO
4粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オリビン型リン酸リチウム系正極材料を得るためのLi3PO4粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、携帯電子端末や電気自動車等に不可欠な、高容量で軽量な電源としての地位を確立している。近年の電子機器の高性能化による消費電力の増大に伴い、リチウムイオン二次電池の更なる高容量化が要求されている。かかる電池の性能を高めるべく、水熱反応に付する工程により得られるオリビン型構造を有するリン酸マンガンリチウムやリン酸鉄リチウム等を用いた種々の正極材料が開発されている。
【0003】
ところで、オリビン型構造を有するリン酸リチウム系正極材料は、その多くが原料化合物を水熱反応に付した反応混合物から得られる一方、かかる反応混合物から分離された液相は不要な排液として処分されている。しかしながら、処分される液相中には、多量のリチウムイオンが残存しており、原材料の中で最も高価なリチウム源を過剰に消費することとなるため、製造コストの増大を招いている。こうしたことから、水熱反応後の液相中に残存するリチウムイオンの回収、再利用するための試みもなされている。
【0004】
例えば、特許文献1では、水熱反応後に分離したリチウムイオンが残存する溶液に、pHが10.5以上かつ11.8以下となるまでアルカリを添加して、固化物を除去した溶液を得る工程と、得られた溶液にリチウム源を添加等してリン酸リチウムを生成させる工程等を備える電極材料の製造方法が開示されており、オリビン系電極材料の製造過程で生成する未反応のリチウムイオンを高純度のリン酸リチウムとして回収している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献の技術では、リチウム源を添加する溶液が高pHであるためにリチウム源の一部が溶け残ったままとなり、リチウムイオンの回収の効率化を充分に図れないおそれがある。また生成するリン酸リチウムは、粒子の粒径が不揃いで粗大化し易く、得られる正極材料自体の粒径も粗大化し、粒度分布が幅広くなるおそれがある。
そのため、これを用いて製造したリチウムイオン二次電池においても、良好な電池特性を発揮することができないおそれがある。
【0007】
したがって、本発明の課題は、オリビン型リン酸リチウム系正極材料を製造する際に排出されるリチウムイオン含有溶液の再利用を有効に図りつつ、高性能なオリビン型リン酸リチウム系正極材料を製造する上で有用な原材料となるLi3PO4(リン酸三リチウム)粒子を得るための製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで本発明者は、種々検討したところ、オリビン型リン酸リチウム系正極材料を製造する際に排出されるリチウムイオン含有溶液に、炭酸リチウム、リン酸化合物、及び硫酸を添加して所定の温度で撹拌することにより、粒径が小さく、かつシャープな粒度分布を有する、オリビン型リン酸リチウム系正極材料の原材料として有用性の高いLi3PO4(リン酸三リチウム)粒子が得られる製造方法を見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、原料化合物を水熱反応に付した反応混合物からオリビン型リン酸リチウム系正極材料を得る際に排出される溶液Xを用いるLi3PO4粒子の製造方法であって、
次の工程(I)~(III):
(I)リチウムイオンの含有量が1000mg/L~20000mg/L、及び硫酸イオンの含有量が3000mg/L~150000mg/Lである溶液Xに、炭酸リチウム及びリン酸化合物を添加するとともに、炭酸リチウムの添加量1モルに対する添加量が0.05モル~1モルである硫酸を添加して、リン1モルに対するリチウムの含有量が2.7モル~3.3モルである混合液Aを得る工程
(II)得られた混合液Aを30℃~90℃の温度で5分間~180分間撹拌して、混合液Bを得る工程
(III)得られた混合液Bを30℃~90℃の温度に調整しつつアルカリ溶液を添加して混合液Cを得た後、固液分離してLi3PO4粒子を得る工程
を備える、オリビン型リン酸リチウム系正極材料を得るためのLi3PO4粒子の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の製造方法によれば、オリビン型リン酸リチウム系正極材料を製造する過程において、リチウム化合物等を含む所定の原料化合物を水熱反応に付した後、反応混合物から分離されて廃棄処分の対象とされるリチウムイオン含有排液を有効に再利用しつつ、粒径が小さく、かつシャープな粒度分布を有するLi3PO4粒子を製造することができる。
このように、希少有価物質であるリチウムを無駄なく使用しながら有用性の高いLi3PO4粒子を得ることができ、かかる粒子を原材料として用いれば、良好な電池特性の発現を可能とするオリビン型リン酸リチウム系正極材料の実現が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例1で得られたLi
3PO
4粒子Z
1のX線回折パターンを示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の、オリビン型リン酸リチウム系正極材料を得るためのLi3PO4粒子の製造方法は、原料化合物を水熱反応に付した反応混合物からオリビン型リン酸リチウム系正極材料を得る際に排出される溶液Xを用いるLi3PO4粒子の製造方法であって、
次の工程(I)~(III):
(I)リチウムイオンの含有量が1000mg/L~20000mg/L、及び硫酸イオンの含有量が3000mg/L~150000mg/Lである溶液Xに、炭酸リチウム及びリン酸化合物を添加するとともに、炭酸リチウムの添加量1モルに対する添加量が0.05モル~1モルである硫酸を添加して、リン1モルに対するリチウムの含有量が2.7モル~3.3モルである混合液Aを得る工程
(II)得られた混合液Aを30℃~90℃の温度で5分間~180分間撹拌して、混合液Bを得る工程
(III)得られた混合液Bを30℃~90℃の温度に調整しつつアルカリ溶液を添加して混合液Cを得た後、固液分離してLi3PO4粒子を得る工程
を備える。
【0013】
本発明において用いる溶液Xは、原料化合物を水熱反応に付した反応混合物からオリビン型リン酸リチウム系正極材料を得る際に排出される未反応リチウムイオン含有溶液、いわゆる廃棄処分の対象とされる排液であり、リチウムイオンの含有量が1000mg/L~20000mg/L、及び硫酸イオンの含有量が3000mg/L~150000mg/Lである。本発明では、かかる溶液Xを用いることにより、一旦オリビン型リン酸リチウム系正極材料の製造に付して排出された処分の対象となるリチウムイオン含有排液を無駄なく再利用して、オリビン型リン酸リチウム系正極材料を得るためのLi3PO4粒子を製造する方法である。
【0014】
ここで、オリビン型リン酸リチウム系正極材料とは、所定の原料化合物を水熱反応に付した後、得られる反応混合物から溶液Xと分離し、回収された固形分から製造されるものであればよく、具体的には、例えば下記式(A)で表される。
LiFeaMnbMcPO4・・・(A)
(ただし、式(A)中、MはMg、Ca、Sr、Y、Zr、Co、Mo、Ba、Pb、Bi、La、Ce、Nd又はGd、0≦a≦1、0≦b≦1、及び0≦c≦0.3を満たし、a及びbは同時に0ではなく、かつ2a+2b+(Mの価数)×c=2を満たす数を示す。)
【0015】
上記式(A)で表されるオリビン型リン酸リチウム系正極材料は、少なくともマンガン(Mn)又は鉄(Fe)を含む。すなわち、式(A)中、Mは、Mg、Ca、Sr、Y、Zr、Co,Mo、Ba、Pb、Bi、La、Ce、Nd又はGdを示し、好ましくはMg、又はZrである。aは、0≦a≦1であって、好ましくは0<a<0.5であり、より好ましくは0.1<a<0.3である。bは、0≦b≦1であって、好ましくは0.5<b<1であり、より好ましくは0.7<b<0.9である。なお、これらa及びbは同時に0ではない。cは、0≦c≦0.3を満たし、好ましくは0.05≦c≦0.25である。そして、これらa、b及びcは、2a+2b+(Mの価数)×c=2を満たす数である。
上記式(A)で表されるオリビン型リン酸リチウム系正極材料としては、より具体的には、例えばLiFePO4、LiMnPO4、LiFe0.2Mn0.8PO4、LiFe0.1Mn0.8Mg0.1PO4、LiFe0.1Mn0.8Zr0.05PO4等が挙げられる。
【0016】
本発明の製造方法は、工程(I)として、リチウムイオンの含有量が1000mg/L~20000mg/L、及び硫酸イオンの含有量が3000mg/L~150000mg/Lである溶液Xに、炭酸リチウム及びリン酸化合物を添加するとともに、炭酸リチウムの添加量1モルに対する添加量が0.05モル~1モルである硫酸を添加して、リン1モルに対するリチウムの含有量が2.7モル~3.3モルである混合液Aを得る工程を備える。
このように、工程(I)では、一定量のリチウムイオンと硫酸イオンを含有する溶液Xを出発原料として用いるものであり、これによって、一旦オリビン型リン酸リチウム系正極材料の製造に付したリチウムイオン含有排液である溶液Xを有効に再利用することができる。
【0017】
溶液Xを回収して、工程(I)に供するまでの間、夾雑物が混入しなければよく、特別な保管環境を必要としない。また、溶液Xのリチウムイオンの含有量を上記範囲に調整するため、希釈操作又は濃縮操作を一般的な方法で行ってもよい。
溶液Xのリチウムイオンの含有量は、得られるLi3PO4粒子をオリビン型リン酸リチウム系正極材料の製造に付す際に、その生産性を高める観点から、1000mg/L~20000mg/Lであって、好ましくは2500mg/L~20000mg/Lであり、より好ましくは4000mg/L~20000mg/Lである。また、溶液Xの硫酸イオンの含有量は、溶液X中のリチウムイオンを炭酸塩等の塩として析出させない観点から、3000mg/L~150000mg/Lであって、好ましくは6000mg/L~150000mg/Lであり、より好ましくは9000mg/L~150000mg/Lである。
【0018】
また、溶液Xの25℃におけるpHは、続いて添加する炭酸リチウム、リン化合物及び硫酸を良好に溶解又は分散させる観点から、好ましくは6~9であり、より好ましくは6~8.5であり、さらに好ましくは6~8である。
【0019】
工程(I)では、かかる溶液Xに、炭酸リチウム及びリン酸化合物を添加するとともに、炭酸リチウムの添加量1モルに対する添加量が0.05モル~1モルである硫酸を添加して、リン1モルに対するリチウムの含有量が2.7モル~3.3モルである混合液Aを得る。これにより、pH環境の低領域への調整を可能としつつ、炭酸リチウムの溶解を促進する一方、溶液中に過度に溶存する、添加した炭酸リチウム由来の炭酸(溶存炭酸)をガス化又は不溶化させて溶液から効果的に除去し、粒径が小さく、かつシャープな粒度分布を有するLi3PO4粒子の製造を可能にすることができる。また、溶液Xへの添加が硫酸であれば、硝酸や有機酸、塩酸等を添加する場合に比べて排液の処理が容易であり、かつ忌避成分の生成を有効に回避することができる。
このように、本発明では、炭酸リチウム由来の炭酸を介することにより、粒径が小さく、かつシャープな粒度分布を有するLi3PO4粒子を得ることができる。
なお、本明細書において、「炭酸リチウム由来の炭酸(溶存炭酸)」とは、溶液中に溶解した状態で存在する炭酸であり、CO3
2-やHCO3
-等のイオン類、及び溶存する炭酸ガス(CO2)の総称である。
【0020】
溶液Xへの硫酸の添加量は、炭酸リチウムの添加量1モルに対して、0.05モル~1モルとなる量であればよく、溶存炭酸を効率的に除去する観点から、好ましくは0.05モル~0.9モルであり、より好ましくは0.05モル~0.8モルである。
また、溶液Xへの硫酸の添加量と炭酸リチウムの添加量との質量比(硫酸/炭酸リチウム)は、溶存炭酸を効率的に除去する観点から、好ましくは0.06~1.39であり、より好ましくは0.06~1.24であり、さらに好ましくは0.06~1.11である。
【0021】
工程(I)において得られる混合液Aにおけるリン1モルに対するリチウムの含有量は、反応性を高め、純度の高いLi3PO4粒子を効率よく得る観点、及び不純物の生成を抑制する観点から、2.7モル~3.3モルであって、好ましくは2.8モル~3.2モルであり、より好ましくは2.9モル~3.1モルである。
また、混合液Aにおけるリチウムの含有量は、Li3PO4粒子の生産性を高める観点から、好ましくは5000mg/L~30000mg/Lであり、より好ましくは7000mg/L~30000mg/Lであり、さらに好ましくは9000mg/L~30000mg/Lである。
混合液Aにおけるリンの含有量は、Li3PO4粒子の微細化を図り、粒度分布のシャープ化を促進する観点から、好ましくは8000mg/L~40000mg/Lであり、より好ましくは10000mg/L~40000mg/Lであり、さらに好ましくは12000mg/L~40000mg/Lである。
混合液Aにおいて、リチウムの含有量は溶液Xにおけるリチウムの含有量よりも多く、かつリチウム及びリンの含有量がこのような量になるよう、炭酸リチウム及びリン酸化合物を添加すればよい。
【0022】
溶液Xへの炭酸リチウム、リン酸化合物及び硫酸の添加順序は、炭酸リチウム及びリン酸化合物を添加した後、硫酸を添加するのが好ましい。すなわち、工程(I)は、上記溶液Xに炭酸リチウム及びリン酸化合物を添加して混合液aを得た後、炭酸リチウムの添加量1モルに対する添加量が0.05モル~1モルである硫酸を添加して、上記混合液Aを得る工程であるのが好ましい。
また、溶液Xへの炭酸リチウムとリン酸化合物の添加順序は特に制限されないが、リン酸を添加した後に炭酸リチウムを添加するのが好ましい。
ここで、混合液aは、硫酸を添加する前に、予め撹拌してもよい。撹拌時間は、好ましくは5分間~300分間であり、より好ましくは10分間~180分間である。
【0023】
本発明の製造方法は、工程(II)として、工程(I)で得られた混合液Aを30℃~90℃の温度で5分間~180分間撹拌して、混合液Bを得る工程を備える。これにより、依然として残存する溶存炭酸を効果的に除去しつつ、生成するLi3PO4粒子同士の不要な凝集を抑制して、Li3PO4粒子の微細化を図り、かつシャープな粒度分布へと制御することができる。
混合液Aの温度は、溶存炭酸を充分に除去しながら、Li3PO4粒子の微細化及びシャープな粒度分布への制御を可能にする観点から、30℃~90℃であって、好ましくは30℃~75℃であり、より好ましくは30℃~60℃である。撹拌しながら、最終的にこの温度になるよう調整すればよい。
【0024】
混合液Aを撹拌する時間は、微細なLi3PO4粒子の生成を促進する観点から、5分間~180分間であって、好ましくは15分間~120分間であり、より好ましくは30分間~60分間である。
【0025】
工程(II)で得られる混合液Bの25℃におけるpHは、溶存炭酸を効率的に除去してLi3PO4粒子の微細化を図り、かつシャープな粒度分布へと制御する観点から、好ましくは0.5~5.5であり、より好ましくは0.5~5.0であり、さらに好ましくは0.5~4.5である。
【0026】
本発明の製造方法は、工程(III)として、工程(II)で得られた混合液Bを30℃~90℃の温度に調整しつつアルカリ溶液を添加して混合液Cを得た後、固液分離してLi3PO4粒子を得る工程を備える。具体的には、混合液Bを30℃~90℃の温度に調整しつつアルカリ溶液を滴下した後に撹拌して、Li3PO4粒子を沈殿回収するのが好ましい。アルカリ溶液の滴下は、添加速度の調整をも容易にしつつ、酸性の混合液を中和して、混合液中のLiイオンとPO4イオンが、難溶性であり、かつ適度な粒径に制御されたLi3PO4粒子を形成するのを促進させるためのものである。かかるアルカリ溶液の滴下を上記特定の温度に調整した混合液Bに行うことにより、Li3PO4粒子の微細化を有効に図り、かつシャープな粒度分布へと制御することが可能となる。また、工程(I)で用いた溶液X中のSO4
2-イオン等の不純物によるLi3PO4粒子の純度低下や汚染を防止することもできる。
こうしたアルカリ溶液の滴下によって、難溶性のLi3PO4粒子が形成されると共に、溶液Xから持ち込まれたSO4イオン等の不純物が水に易溶性の生成物となるので、純度が高く、かつ好ましい粒径を有するLi3PO4粒子を効率良く生成させることができる。
【0027】
アルカリ溶液を滴下する際に調整する混合液Bの温度は、30℃~90℃であって、好ましくは35~80℃である。また、アルカリ溶液を滴下する際における混合液Bの撹拌時間は、好ましくは5分~180分であり、より好ましくは10分~120分である。
また、Li3PO4粒子の微細化を図り、かつシャープな粒度分布へと制御する観点から、アルカリ溶液の滴下速度は、混合液B中におけるリン1モルに対し、好ましくは0.04mol/分~3.0mol/分であり、より好ましくは0.06mol/分~2.0mol/分である。
さらに、アルカリ溶液を滴下した後に得られる混合液Cの温度は、好ましくは30~90℃であり、より好ましくは35~80℃である。
【0028】
アルカリ溶液としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムから選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。なかでも、Li3PO4粒子の回収率や、回収したLi3PO4粒子から製造したオリビン型リン酸リチウム系正極材料を用いて得られるリチウムイオン電池の電池特性の向上の観点から、水酸化ナトリウムを用いるのが好ましい。かかる水酸化ナトリウムには、固体(粒状、フレーク状)、水溶液のいずれを使用してアルカリ溶液としてもよく、アルカリ水溶液とするのが好ましい。
アルカリ溶液の合計滴下量は、Li3PO4粒子の形成を促す観点から、工程(III)で得られる混合液Cの25℃におけるpHを7~13とする量が好ましく、8~13とする量がより好ましい。
【0029】
次いで、上記混合液Cを固液分離することにより、Li3PO4粒子を沈殿回収する。固液分離に用いる装置しては、例えば、フィルタープレス機、遠心濾過機、減圧濾過機等が挙げられる。なかでも、効率的にLi3PO4粒子を得る観点から、フィルタープレス機を用いるのが好ましい。
【0030】
得られたLi3PO4粒子(ケーキ)は、さらに乾燥するのが望ましい。かかる乾燥手段としては、恒温乾燥、凍結乾燥又は真空乾燥が好ましい。
【0031】
本発明の製造方法により得られるLi3PO4粒子は、粒径が非常に小さく、シャープな粒度分布を有するため、高性能なオリビン型リン酸リチウム系正極材料を製造する上で有用な原材料となる。
具体的には、得られるLi3PO4粒子の平均粒径(D50)は、好ましくは1~10μmであり、より好ましくは1μm~9μmであり、さらに好ましくは1μm~8μmである。
なお、Li3PO4粒子の平均粒径(D50)とは、レーザー回折・散乱法により測定される体積基準の累積50%粒子径を意味する。
【0032】
本発明の製造方法により得られるLi3PO4粒子のスパン値は、オリビン型リン酸リチウム系正極材料を製造する際に、Li3PO4粒子の分散性を高める観点から、好ましくは1.0~2.8であり、より好ましくは1.0~2.6であり、さらに好ましくは1.0~2.4である。
なお、Li3PO4粒子のスパン値とは、Li3PO4粒子の粒度分布の幅を表す値であり、下記式(x)により求められる。
スパン値=(D90-D10)/D50・・・(x)
式(x)中のD10、D90は、平均粒径(D50)と同様、それぞれレーザー回折・散乱法により測定される体積基準の累積10%粒子径、体積基準の累積90%粒子径を意味する。
【0033】
本発明の製造方法により得られるLi3PO4粒子には、粒子の微細化、及び粒度分布のシャープ化を実現する観点から、工程(I)において充分に溶解しきれなかった炭酸リチウムに由来する炭素や、工程中において充分に除去しきれなかった溶存炭酸に由来する炭素が残存していないことが好ましい。かかる炭素の残存量は、具体的には、Li3PO4粒子中に、好ましくは0.3質量%以下であり、より好ましくは0.2質量%以下である。
かかるLi3PO4粒子における炭素の残存量は、炭素硫黄分析装置を用いて確認することができる。
【0034】
本発明の製造方法により得られるLi3PO4粒子を原材料として用い、例えば上記式(A)で表されるオリビン型リン酸リチウム系正極材料を得る場合、次の工程(i)~(ii):
(i)得られたLi3PO4粒子に、鉄化合物及び/又はマンガン化合物を含み、かつ金属(M)化合物(MはMg、Ca、Sr、Y、Zr、Co、Mo、Ba、Pb、Bi、La、Ce、Nd又はGdを示す。)を含み得る金属源を添加及び混合した後、水熱反応に付して反応混合物を得る工程
(ii)工程(i)で得られた反応混合物から未反応のLiイオンを含む溶液を分離して、オリビン型リン酸リチウム系正極材料を得る工程
を備える製造方法により得ることができる。
【0035】
上記工程(i)は、本発明の製造方法により得られたLi3PO4粒子に、鉄化合物及び/又はマンガン化合物を含み、かつ金属(M)化合物(MはMg、Ca、Sr、Y、Zr、Co、Mo、Ba、Pb、Bi、La、Ce、Nd又はGdを示す。)を含み得る金属源を添加及び混合した後、水熱反応に付して反応混合物を得る工程である。
【0036】
用い得る鉄化合物としては、2価の鉄化合物及びこれらの水和物等であればよく、例えば、ハロゲン化鉄等のハロゲン化物;硫酸鉄等の硫酸塩;シュウ酸鉄、酢酸鉄等の有機酸塩;並びにこれらの水和物等が挙げられる。なかでも、電池物性を高める観点、又は工程(i)で得られる排液をさらに本発明の製造方法にて有効活用する観点から、硫酸鉄又はその水和物を用いるのが好ましい。
【0037】
用い得るマンガン化合物としても2価のマンガン化合物及びこれらの水和物等であればよく、例えば、ハロゲン化マンガン等のハロゲン化物;硫酸マンガン等の硫酸塩;シュウ酸マンガン、酢酸マンガン等の有機酸塩;並びにこれらの水和物等が挙げられる。なかでも、電池物性を高める観点、又は工程(i)で得られる排液をさらに本発明の製造方法における溶液Xの一部として有効活用する観点から、硫酸マンガン又はその水和物を用いるのが好ましい。
【0038】
鉄化合物及びマンガン化合物以外の金属化合物としては、金属として式(A)中のM(MはMg、Ca、Sr、Y、Zr、Co、Mo、Ba、Pb、Bi、La、Ce、Nd又はGdを示す。)を含むものであればよく、鉄化合物及びマンガン化合物と同様、例えば、ハロゲン化物、硫酸塩、有機酸塩、並びにこれらの水和物等が挙げられる。なかでも、電池物性を高める観点から、硫酸塩又はその水和物を用いるのが好ましく、MがMg、又はZrである金属(M)硫酸塩を用いるのがより好ましい。
【0039】
金属化合物として、鉄化合物及びマンガン化合物の双方を用いる場合、その使用モル比(マンガン化合物:鉄化合物)は、好ましくは99:1~51:49であり、より好ましくは95:5~55:45であり、さらに好ましくは90:10~60:40である。
【0040】
本発明の製造方法により得られたLi3PO4粒子は、水とともにLi3PO4含有混合物とし、これに上記鉄化合物及び/又はマンガン化合物を含む金属化合物等の金属源を添加して混合して、水熱反応に付するための混合物を製造する。かかる金属源の添加順序は、特に制限されない。
Li3PO4含有混合物に金属源を混合する前、予めかかるLi3PO4含有混合物を撹拌しておくのが好ましい。Li3PO4含有混合物の撹拌時間は、好ましくは1分~10分であり、より好ましくは2分~8分である。この撹拌によって、均斉性が確保されたLi3PO4含有混合物を得ることができる。
【0041】
次いで、Li3PO4含有混合物に金属源を添加及び混合する。金属源の混合は、Li3PO4含有混合物を撹拌しながら行う。かかる混合物のpHは、好ましくは3.5~8であり、より好ましくは4~7である。また、これら金属源の合計添加量は、混合物に含有されるLi3PO41モルに対し、好ましくは0.90モル~1.10モルであり、より好ましくは0.95モル~1.05モルである。
【0042】
得られたLi3PO4と金属源を含有する混合物を、水熱反応に付する。これにより、オリビン型リン酸リチウム系正極材料となる化合物を生成させ、これを含む反応混合物を得ることができる。Li3PO4と金属源を含有する混合物を製造する際に用いる水の使用量は、金属源の溶解性、撹拌の容易性、及び合成の効率等の観点から、かかる混合物中に含有されるLi3PO41モルに対し、好ましくは10モル~90モルであり、より好ましくは20モル~70モルである。
また、上記水熱反応に付される混合物に、必要に応じて酸化防止剤を添加してもよい。かかる酸化防止剤としては、亜硫酸ナトリウム(Na2SO3)、ハイドロサルファイトナトリウム(Na2S2O4)、アンモニア水等を使用することができる。酸化防止剤の添加量は、過剰に添加されることでオリビン型リン酸リチウム系正極材料となる化合物の生成が抑制されるのを防止する観点から、金属源1モルに対し、好ましくは0.01モル~1モルであり、より好ましくは0.03モル~0.5モルである。
【0043】
水熱反応は、100℃以上であればよく、130℃~180℃が好ましい。かかる水熱反応は耐圧容器中で行うのが好ましく、130℃~180℃で反応を行う場合、この時の圧力は0.3MPa~0.9MPaであるのが好ましく、140℃~160℃で反応を行う場合の圧力は0.3MPa~0.6MPaであるのが好ましい。水熱反応時間は0.5時間~24時間が好ましく、3時間~12時間がより好ましい。
【0044】
上記工程(ii)は、上記工程(i)で得られたオリビン型リン酸リチウム系正極材料を含む反応混合物から未反応のLiイオンを含む溶液を分離して、オリビン型リン酸リチウム系正極材料を得る工程である。かかる反応混合物から未反応のLiイオンを含む溶液を分離する、いわゆる固液分離に用いる装置しては、上記と同様のものを用いることができ、効率的に正極材料を得る観点から、フィルタープレス機を用いるのが好ましい。
さらに、得られた正極材料は、水で洗浄するのが好ましい。正極材料を水で洗浄する際、正極材料1質量部に対し、水を3質量部~20質量部用いるのが好ましく、5質量部~15質量部用いるのがより好ましい。
洗浄した水は、正極材料から洗い流された未反応のLiイオンを含むため、かかる洗浄水を全量回収し、固液分離で得られた溶液とともに、本発明の工程(I)の溶液Xとして活用することができる。かかる洗浄水の回収を効率的に行うために、フィルタープレス機を用いて洗浄と固液分離をするのが好ましい。得られた回収水は、工程(I)で活用されるまでの間に夾雑物が混入しなければよく、特別な保管環境を必要としない。また、この回収水中のLiイオン濃度の調整のため、希釈操作又は濃縮操作を一般的な方法で行うことができる。
【0045】
工程(ii)で分離回収されたオリビン型リン酸リチウム系正極材料は、必要により乾燥する。乾燥手段は、噴霧乾燥、真空乾燥、凍結乾燥等が挙げられる。
【0046】
かかるオリビン型リン酸リチウム系正極材料の平均粒径は、好ましくは10nm~200nmであり、より好ましくは30nm~150nmである。
【0047】
得られたオリビン型リン酸リチウム系正極材料は、カーボン担持し、次いで焼成することにより、正極活物質とするのが好ましい。カーボン担持は、オリビン型リン酸リチウム系正極材料に常法により、グルコース、フルクトース、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、サッカロース、デンプン、デキストリン、クエン酸等の炭素源及び水を添加し、次いで焼成すればよい。焼成条件は、不活性ガス雰囲気下又は還元条件下に400℃以上、好ましくは400℃~800℃で10分~3時間、好ましくは0.5時間~1.5時間行うのが好ましい。かかる処理により正極材料の粒子表面にカーボンが担持された正極活物質とすることができる。炭素源の使用量は、正極材料100質量部に対し、炭素源に含まれる炭素として3質量部~15質量部が好ましく、炭素源に含まれる炭素として5質量部~10質量部がさらに好ましい。
【0048】
また、上記処理のほか、粒子の表面に炭素を担持する処理として、例えば、得られたオリビン型リン酸リチウム系正極材料と導電性炭素材料を含む混合物を、粉砕/複合化/混合処理する方法を用いてもよい。かかる処理を施すことにより、正極材料と導電性炭素材料とが複合した正極活物質を形成することができ、より導電性を高めることができる。
【0049】
粉砕/複合化/混合処理の際に用いる導電性炭素材料としては、カーボンブラックが好ましく、そのうちアセチレンブラック、ケッチェンブラックがより好ましい。導電性炭素材料の添加量は、良好な放電容量と経済性の点から、正極材料100質量部に対し、炭素原子換算量で0.5質量部~15質量部であるのが好ましく、2質量部~10質量部であるのがより好ましい。
【0050】
オリビン型リン酸リチウム系正極材料と導電性炭素材料との混合物は、乾式にて、粉砕/複合化/混合処理を行う。この時、ジエチレングリコール、エタノールなどを助剤として少量添加してもよい。
【0051】
粉砕/複合化/混合処理を施す装置としては、通常のボールミルでもよいが、自公転可能な遊星ボールミル(フリッチュ社製)が好ましく、ノビルタ(ホソカワミクロン社製)、マルチパーパスミキサ(日本コークス工業社製)、或いはハイブリタイザー(奈良機械社製)等、被処理物へのメカノケミカル作用/複合化処理を行えるものであれば何れでもよい。
【0052】
遊星ボールミルで用いられる装置の容器としては、鋼、ステンレス、ナイロン製が挙げられ、内壁はアルミナ煉瓦、磁気質、天然ケイ石、ゴム、ウレタン等が挙げられる。ボールとしては、アルミナ球石、天然ケイ石、鉄球、ジルコニアボール等が用いられる。ボールの大きさは、0.1mm~20mmが好ましく、さらには0.5mm~5mmボールが好ましい。ボールの充填量は、使用するミルの内容積に対し、ボールの充填体積が5~50%を占める割合とするのが好ましい。
遊星ボールミルを用いる混合は、例えば公転50rpm~800rpm、自転100rpm~1,600rpmの条件で、好ましくは5分~24時間、より好ましくは0.5時間~6時間、さらに好ましくは1時間~3時間行う。
【0053】
上記のようにオリビン型リン酸リチウム系正極材料の表面に炭素を複合化した正極活物質は、不活性ガス雰囲気下又は還元条件下に、好ましくは500℃~800℃で10分~24時間、より好ましくは600℃~700℃で0.5時間~3時間焼成するのが好ましい。かかる処理により、正極材料の表面にさらに炭素が堅固に担持された正極活物質を得ることができる。焼成に用いる装置としては、焼成雰囲気及び温度の調整が可能なものであれば特に制限されず、バッチ式、連続式、加熱方式(間接又は直接)のいずれの方式のものも使用することができる。かかる装置としては、例えば、外熱キルンやローラーハース等の管状電気炉が挙げられる。
【0054】
次に、得られたオリビン型リン酸リチウム系正極材料を含有するリチウムイオン二次電池について説明する。
かかる正極材料を適用できるリチウムイオン二次電池としては、正極と負極と電解液とセパレータを必須構成とするものであれば特に限定されない。
【0055】
ここで、負極については、リチウムイオンを充電時には吸蔵し、かつ放電時には放出することができれば、その材料構成で特に限定されるものではなく、公知の材料構成のものを用いることができる。たとえば、リチウム金属、グラファイト又は非晶質炭素等の炭素材料等である。そしてリチウムを電気化学的に吸蔵・放出し得るインターカレート材料で形成された電極、特に炭素材料を用いることが好ましい。
【0056】
電解液は、有機溶媒に支持塩を溶解させたものである。有機溶媒は、通常リチウムイオン二次電池の電解液の用いられる有機溶媒であれば特に限定されるものではなく、例えば、カーボネート類、ハロゲン化炭化水素、エーテル類、ケトン類、ニトリル類、ラクトン類、オキソラン化合物等を用いることができる。
【0057】
支持塩は、その種類が特に限定されるものではないが、LiPF6、LiBF4、LiClO4及びLiAsF6から選ばれる無機塩、該無機塩の誘導体、LiSO3CF3、LiC(SO3CF3)2及びLiN(SO3CF3)2、LiN(SO2C2F5)2及びLiN(SO2CF3)(SO2C4F9)から選ばれる有機塩、並びに該有機塩の誘導体の少なくとも1種であることが好ましい。
【0058】
セパレータは、正極及び負極を電気的に絶縁し、電解液を保持する役割を果たすものである。たとえば、多孔性合成樹脂膜、特にポリオレフィン系高分子(ポリエチレン、ポリプロピレン)の多孔膜を用いればよい。
【実施例】
【0059】
以下、本発明について、実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0060】
[実施例1]
リチウムイオンの含有量が15000mg/L、硫酸イオンの含有量が104000mg/Lである溶液X110L(25℃におけるpH=6.6)に、Li2CO3(FMC社製、純度99%)0.52kg、リン酸(下関三井化学株式会社製、75%)1.55kgを添加して、混合液a1を調製した。得られた混合液a1に硫酸(株式会社クリタ製、純度95%)0.07kgを添加し、10分間撹拌して混合液A1(添加した炭酸リチウム1モルに対する硫酸の添加量=0.10モル、リン1モルに対するリチウムの含有量=3モル(リチウムの含有量=22500mg/L、リンの含有量=33500mg/L)、25℃におけるpH=2.7)を得た。
【0061】
次いで、混合液A
1を撹拌しながら45℃の温度まで昇温して混合液B
1とした後、かかる混合液B
1を45℃の温度に保持しつつ、これにNaOH溶液(株式会社クリタ製、純度48%)2.02kgを滴下しながら撹拌・混合し、さらに10分間撹拌して混合液C
1を得た。
得られた混合液C
1を吸引ろ過し、次いで得られた固形分をかかる固形分1質量部に対して10質量部の水で洗浄してLi
3PO
4ケーキを得た後、これを凍結乾燥してLi
3PO
4粒子Z
1を得た。得られたLi
3PO
4粒子Z
1のスパン値は1.71、炭素量は検出限界以下であった。
また、得られたLi
3PO
4粒子Z
1は、空間群Pmn21に相当するX線回折パターンを示す単相であった。かかるX線回折パターンを
図1に示す。
【0062】
[実施例2]
混合液A1の温度を90℃まで昇温して混合液B2とした以外、実施例1と同様の操作をして、Li3PO4粒子Z2を得た。得られたLi3PO4粒子Z2のスパン値は1.80、炭素量は検出限界以下であった。
【0063】
[実施例3]
混合液A1を撹拌しながら30℃まで昇温して混合液B3とした以外、実施例1と同様の操作をして、Li3PO4粒子Z3を得た。得られたLi3PO4粒子Z3のスパン値は1.86、炭素量は0.11%であった。
【0064】
[実施例4]
混合液a1への硫酸の添加量を0.04kgとして混合液A4(添加した炭酸リチウム1モルに対する硫酸の添加量=0.06モル、25℃におけるpH=3.7)を得た以外、実施例1と同様の操作をして、Li3PO4粒子Z4を得た。
得られたLi3PO4粒子Z4のスパン値は2.13、炭素量は0.13%であった。
【0065】
[実施例5]
リチウムイオンの含有量が1000mg/L、硫酸イオンの含有量が6700mg/Lの溶液X510L(25℃におけるpH=7.3)に、Li2CO3(FMC社製、純度99%)1.57kg、リン酸(下関三井化学株式会社製、75%)1.89kgを添加して、混合液a5を調製した。
得られた混合液a5に硫酸(株式会社クリタ製、純度95%)1.52kgを添加し、10分間撹拌して混合液A5(添加した炭酸リチウム1モルに対する硫酸の添加量=0.7モル、リン1モルに対するリチウムの含有量=3モル、リチウムの含有量=26900mg/L、リンの含有量=40000mg/L)、25℃におけるpH=1.4)を得た。
以降、実施例1と同様の操作をして、Li3PO4粒子Z5を得た。得られたLi3PO4粒子Z5のスパン値は1.67、炭素量は検出限界以下であった。
【0066】
[実施例6]
リチウムイオンの含有量が1000mg/L、硫酸イオンの含有量が6700mg/Lの溶液X610L(25℃におけるpH=7.3)に、Li2CO3(FMC社製、純度99%)0.24kg、リン酸(下関三井化学株式会社製、75%)0.35kgを添加して、混合液a5を調製した。
得られた混合液a5に硫酸(株式会社クリタ製、純度95%)0.20kgを添加し、10分間撹拌して混合液A5(添加した炭酸リチウム1モルに対する硫酸の添加量=0.6モル、リン1モルに対するリチウムの含有量=3モル(リチウムの含有量=5400mg/L、リンの含有量=8000mg/L)、25℃におけるpH=2.0)を得た。
以降、実施例1と同様の操作をして、Li3PO4粒子Z6を得た。得られたLi3PO4粒子Z6のスパン値は1.86、炭素量は検出限界以下であった。
【0067】
[比較例1]
混合液A1を撹拌しながら10℃の温度に調整した以外、実施例1と同様の操作をして、Li3PO4粒子Zx2を得た。
得られたLi3PO4粒子Zx2のスパン値は3.22、炭素量は0.36%であった。
【0068】
[比較例2]
混合液a1に硫酸を添加することなく混合液Ax3(25℃におけるpH=5.7)を得た以外、実施例1と同様の操作をして、Li3PO4粒子Zx3を得た。
得られたLi3PO4粒子Zx3のスパン値は3.00、炭素量は0.33%であった。
【0069】
《Li3PO4粒子の物性》
実施例1~6及び比較例1~2で得られたLi3PO4粒子について、レーザー回折式粒度分布測定措置MT3300EX II(マイクロトラックベル社製)のレーザー回折・散乱法を用いて粒径(D10、D50、及びD90)を測定し、得られた値を元にスパン値を算出した。
Li3PO4粒子における炭素の残存量は、Li3PO4粒子1g、タングステン1.5g、スズ0.3gの混合物を測定サンプルとして、炭素硫黄分析装置(EMIA-220V2、堀場製作所社製)にて、高周波の電流を0mAから175mAまで5秒間で増加させ、その後175mAで35秒間保持して測定した。
結果を表1に示す。
【0070】
《充放電特性の評価》
実施例1~6及び比較例1~2で得られたLi3PO4粒子を原材料として用いて常法によりオリビン型リン酸リチウム系正極材料を製造し、リチウムイオン二次電池の正極を作製した。具体的には、オリビン型リン酸リチウム系正極材料、ケッチェンブラック、ポリフッ化ビニリデンを重量比90:3:7の配合割合で混合し、これにN-メチル-2-ピロリドンを加えて充分混練し、正極スラリーを調製した。正極スラリーを厚さ20μmのアルミニウム箔からなる集電体に塗工機を用いて塗布し、80℃で12時間の真空乾燥を行った。その後、φ14mmの円盤状に打ち抜いてハンドプレスを用いて16MPaで2分間プレスし、正極とした。
【0071】
次いで、上記の正極を用いてコイン型リチウムイオン二次電池を構築した。負極には、φ15mmに打ち抜いたリチウム箔を用いた。電解液には、エチレンカーボネート及びエチルメチルカーボネートを体積比1:1の割合で混合した混合溶媒に、LiPF6を1mol/Lの濃度で溶解したものを用いた。セパレータには、ポリプロピレンなどの高分子多孔フィルムなど、公知のものを用いた。これらの電池部品を露点が-50℃以下の雰囲気で常法により組み込み収容し、コイン型リチウムイオン二次電池(CR-2032)を製造した。
【0072】
製造したリチウムイオン二次電池を用いて定電流密度での充放電試験を行った。このときの充電条件は、電流0.2CA(34mAh/g)、電圧4.5Vの定電流充電とした。放電条件を電流0.2CAもしくは3CAとし、終止電圧2.0Vの定電流放電とした。温度は全て30℃とした。
結果を表1に示す。
【0073】