(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-17
(45)【発行日】2024-05-27
(54)【発明の名称】スクリュー圧縮機
(51)【国際特許分類】
F04C 18/16 20060101AFI20240520BHJP
F04C 29/00 20060101ALI20240520BHJP
【FI】
F04C18/16 A
F04C29/00 C
(21)【出願番号】P 2020209862
(22)【出願日】2020-12-18
【審査請求日】2023-05-11
(73)【特許権者】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】千葉 紘太郎
(72)【発明者】
【氏名】高野 正彦
(72)【発明者】
【氏名】頼金 茂幸
(72)【発明者】
【氏名】森田 謙次
(72)【発明者】
【氏名】梶江 雄太
【審査官】森 秀太
(56)【参考文献】
【文献】特開昭59-176487(JP,A)
【文献】特開昭63-036083(JP,A)
【文献】実開昭49-118811(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 18/16
F04C 23/00-29/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向一方側に第1の吐出側端面を有する雄ロータと、
軸方向一方側に第2の吐出側端面を有する雌ロータと、
前記雄ロータ及び前記雌ロータを噛み合った状態で回転可能に収容する収容室を有するケーシングとを備え、
前記ケーシングは、前記雄ロータの前記第1の吐出側端面及び前記雌ロータの前記第2の吐出側端面に対向する吐出側内壁面を有し、
前記ケーシングの前記吐出側内壁面は、前記雄ロータ及び前記雌ロータの回転よる噛合い状態の変化に応じて前記第1の吐出側端面及び前記第2の吐出側端面において周期的に現れ前記雄ロータ及び前記雌ロータの後進面同士によって挟まれた隙間であるアキシャル連通路の軌跡の少なくとも一部を遮蔽する遮蔽領域を有し、
前記ケーシングの前記遮蔽領域内に、長手方向を有する複数の溝により構成された溝群が設けられ、
前記溝群の複数の溝は、前記雄ロータ及び前記雌ロータの少なくとも一方のロータの周方向に並置され、
前記溝群の複数の溝は、長手方向に延在する辺同士が隣り合うように配置され、
前記溝群の複数の溝はそれぞれ、前記一方のロータの内周側から外周側に向かう長手方向が前記一方のロータの径方向に対して前記一方のロータの回転方向と同じ方向に傾斜するように構成されている
ことを特徴とするスクリュー圧縮機。
【請求項2】
請求項1に記載のスクリュー圧縮機において、
前記溝群は、
前記雄ロータの周方向に並置された複数の溝により構成された第1溝群と、
前記雌ロータの周方向に並置された複数の溝により構成された第2溝群とを含む
ことを特徴とするスクリュー圧縮機。
【請求項3】
請求項1に記載のスクリュー圧縮機において、
前記一方のロータが前記雌ロータである場合、前記雄ロータの前記第1の吐出側端面に、長手方向を有する複数の溝により構成された第3溝群が設けられ、
前記第3溝群の複数の溝は、前記雄ロータの周方向に並置され、
前記第3溝群の複数の溝は、長手方向に延在する辺同士が隣り合うように配置されている
ことを特徴とするスクリュー圧縮機。
【請求項4】
請求項1に記載のスクリュー圧縮機において、
前記一方のロータが前記雄ロータである場合、前記雌ロータの前記第2の吐出側端面に、長手方向を有する複数の溝により構成された第4溝群が設けられ、
前記第4溝群の複数の溝は、前記雌ロータの周方向に並置され、
前記第4溝群の複数の溝は、長手方向に延在する辺同士が隣り合うように配置されている
ことを特徴とするスクリュー圧縮機。
【請求項5】
請求項1に記載のスクリュー圧縮機において、
前記溝群の複数の溝の各々は、長手方向を有する溝本体部と、前記溝本体部に接続され前記溝本体部とは異なる形状の付加溝部とを少なくとも組み合わせたものであり、
前記溝本体部は、前記一方のロータの内周側から外周側に向かう長手方向が前記一方のロータの径方向に対して前記一方のロータの回転方向と同じ方向に傾斜するように構成されている
ことを特徴とするスクリュー圧縮機。
【請求項6】
軸方向一方側に第1の吐出側端面を有し、第1中心軸線の周りを回転可能な雄ロータと、
軸方向一方側に第2の吐出側端面を有し、第2中心軸線の周りを回転可能な雌ロータと、
前記雄ロータ及び前記雌ロータを噛み合った状態で回転可能に収容する収容室を有するケーシングとを備え、
前記雄ロータ及び前記雌ロータの少なくとも一方のロータの吐出側端面に、長手方向を有する複数の溝により構成された溝群が設けられ、
前記溝群の複数の溝は、前記一方のロータの周方向に並置され、
前記溝群の複数の溝は、長手方向に延在する辺同士が隣り合うように配置され
、
前記溝群の複数の溝の各々は、長手方向を有する溝本体部と、前記溝本体部に接続され前記溝本体部とは異なる形状の付加溝部とを少なくとも組み合わせたものである
ことを特徴とするスクリュー圧縮機。
【請求項7】
請求項
6に記載のスクリュー圧縮機において、
前記溝本体部は、長手方向が前記一方のロータの径方向に沿って延在するように構成されているか、又は、前記一方のロータの内周側から外周側に向かう長手方向が前記一方のロータの径方向に対して前記一方のロータの回転方向とは逆方向に傾斜するように構成されている
ことを特徴とするスクリュー圧縮機。
【請求項8】
軸方向一方側に第1の吐出側端面を有し、第1中心軸線の周りを回転可能な雄ロータと、
軸方向一方側に第2の吐出側端面を有し、第2中心軸線の周りを回転可能な雌ロータと、
前記雄ロータ及び前記雌ロータを噛み合った状態で回転可能に収容する収容室を有するケーシングとを備え、
前記雄ロータ及び前記雌ロータの少なくとも一方のロータの吐出側端面に、長手方向を有する複数の溝により構成された溝群が設けられ、
前記溝群の複数の溝は、前記一方のロータの周方向に並置され、
前記溝群の複数の溝は、長手方向に延在する辺同士が隣り合うように配置され、
前記溝群の複数の溝の各々は、その深さが長手方向の前記一方のロータの内周側から外周側に向かって
徐々に浅くなる
と共に、その長手方向の前記一方のロータの外周側の端部が流体の流動を堰き止め可能な壁面となるように構成されている
ことを特徴とするスクリュー圧縮機。
【請求項9】
請求項
8に記載のスクリュー圧縮機において、
前記溝群の複数の溝はそれぞれ、前記一方のロータの内周側から外周側に向かう長手方向が前記一方のロータの径方向に対して前記一方のロータの回転方向とは逆方向に傾斜するように構成されている
ことを特徴とするスクリュー圧縮機。
【請求項10】
請求項
8に記載のスクリュー圧縮機において、
前記溝群の複数の溝はそれぞれ、長手方向が前記一方のロータの径方向に沿って延在するように構成されている
ことを特徴とするスクリュー圧縮機。
【請求項11】
請求項6
又は請求項8に記載のスクリュー圧縮機において、
前記雄ロータの前記第1中心軸線から前記雄ロータの外径線までの距離をa1、前記雌ロータの前記第2中心軸線から前記雌ロータのピッチ円までの距離をa2、前記第1中心軸線と前記第2中心軸線との間の距離をbとしたとき、
前記一方のロータが前記雌ロータである場合には、前記溝群の複数の溝は、前記雌ロータの前記ピッチ円から前記第2中心軸線に向かって(a1+a2-b)の距離までの範囲内に配置されており、
前記一方のロータが前記雄ロータである場合には、前記溝群の複数の溝は、前記雄ロータの前記外径線から前記第1中心軸線に向かって(a1+a2-b)の距離までの範囲内に配置されている
ことを特徴とするスクリュー圧縮機。
【請求項12】
請求項6
又は請求項8に記載のスクリュー圧縮機において、
前記溝群は、
前記雄ロータの前記第1の吐出側端面に設けた複数の溝により構成された第3溝群と、
前記雌ロータの前記第2の吐出側端面に設けた複数の溝により構成された第4溝群とを含む
ことを特徴とするスクリュー圧縮機。
【請求項13】
請求項1又は請求項
8に記載のスクリュー圧縮機において、
前記溝群の複数の溝はそれぞれ湾曲している
ことを特徴とするスクリュー圧縮機。
【請求項14】
請求項1又は請求項6に記載のスクリュー圧縮機において、
前記溝群の複数の溝の各々の深さは、1μm以上かつ1mm以下の範囲内である
ことを特徴とするスクリュー圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクリュー圧縮機に係り、更に詳しくは、圧縮機外部から作動室に液体が供給されるスクリュー圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
スクリュー圧縮機の性能を低下させる要因の代表的なものとして、圧縮気体の内部漏洩がある。圧縮気体の内部漏洩とは、圧縮が進んで圧力が上昇した高圧の空間から、圧縮の開始前や圧縮が進んでいない相対的に低圧の空間へ、圧縮された気体が逆流してしまう現象をいう。この内部漏洩は、エネルギを要して圧縮した気体が低圧状態に戻ってしまうので、エネルギ損失となる。
【0003】
圧縮気体の内部漏洩を抑制する手段の一例として、特許文献1に記載の技術が知られている。特許文献1に開示された油冷式スクリュー圧縮機では、一対のスクリューロータのロータ軸間におけるロータ室の吐出側端壁に、ロータ軸間方向を長さ方向とした複数のラビリンス溝を設けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の技術は、スクリューロータの吐出側端面とロータ室の吐出側端壁間に形成された間隙(以下、吐出側端面隙間と称することがある)のうち、最も高圧の吐出行程の圧縮作用空間と当該高圧の圧縮作用空間に隣接する最も圧力の低い圧縮作用空間との間に位置する部分をシールするものである。しかし、圧縮気体の内部漏洩の経路となる内部隙間は、吐出側端面隙間の上述部分の他にも、複数存在する。特許文献1に記載の技術では、吐出側端面隙間の上述部分以外の内部隙間を介した圧縮気体の内部漏洩の抑制については考慮されておらず、内部漏洩の低減について改良の余地がある。
【0006】
内部隙間の一例として、アキシャル連通路と称する隙間がある。アキシャル連通路は、雄雌両ロータの回転による噛合いの変化に応じて吐出側端面に周期的に現れる隙間であって、両ロータの後進面同士に挟まれて軸方向のみに開口する三日月形状の開口部である。アキシャル連通路を介して、相対的に低圧の空間である吸込行程の作動室と相対的に高圧の空間となる吐出流路52(吐出空間)とが連通するので、当該アキシャル連通路は圧縮気体が逆流する要因となる。アキシャル連通路を介した内部漏洩の経路は、吐出側端面に存在する複数の内部漏洩の経路のなかでも、漏洩元の高圧空間と漏洩先の低圧空間の圧力差が特に大きいので、その漏洩量が多くなる傾向にある。アキシャル連通路を介した内部漏洩は、作動室内に液体が供給されずに駆動する無給液式のスクリュー圧縮機であっても、特許文献1に記載のように作動室内に油などの液体が供給される給液式のスクリュー圧縮機であっても、共通の課題である。
【0007】
本発明は上記の問題点を解消するためになされたものであり、その目的の一つはアキシャル連通路を介した圧縮気体の内部漏洩を低減することができるスクリュー圧縮機を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願は上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、軸方向一方側に第1の吐出側端面を有する雄ロータと、軸方向一方側に第2の吐出側端面を有する雌ロータと、前記雄ロータ及び前記雌ロータを噛み合った状態で回転可能に収容する収容室を有するケーシングとを備え、前記ケーシングは、前記雄ロータの前記第1の吐出側端面及び前記雌ロータの前記第2の吐出側端面に対向する吐出側内壁面を有し、前記ケーシングの前記吐出側内壁面は、前記雄ロータ及び前記雌ロータの回転よる噛合いの変化に応じて前記第1の吐出側端面及び前記第2の吐出側端面において周期的に現れ前記雄ロータ及び前記雌ロータの後進面同士によって挟まれた隙間であるアキシャル連通路の軌跡の少なくとも一部を遮蔽する遮蔽領域を有し、前記ケーシングの前記遮蔽領域内に、長手方向を有する複数の溝により構成された溝群が設けられ、前記溝群の複数の溝は、前記雄ロータ及び前記雌ロータの少なくとも一方のロータの周方向に並置され、前記溝群の複数の溝は、長手方向に延在する辺同士が隣り合うように配置され、前記溝群の複数の溝はそれぞれ、前記一方のロータの内周側から外周側に向かう長手方向が前記一方のロータの径方向に対して前記一方のロータの回転方向と同じ方向に傾斜するように構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一例によれば、ケーシングの吐出側内壁面に設けた複数の溝内の液体がせん断力によって長手方向に流動してから堰き止められることで圧力が上昇するので、吐出側端面隙間におけるアキシャル連通路の近傍に高圧の液体膜を形成することができる。したがって、アキシャル連通路を介した圧縮気体の内部漏洩を低減することができる。
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の第1の実施の形態に係るスクリュー圧縮機を示す縦断面図及び当該スクリュー圧縮機に対する給油の外部経路を示す系統図である。
【
図2】本発明の第1の実施の形態に係るスクリュー圧縮機を
図1に示すII-II矢視から見た断面図である。
【
図3】
図2の符号L1で示す部分を拡大したものであり、アキシャル連通路を説明する図である。
【
図4】本発明の第1の実施の形態に係るスクリュー圧縮機を
図1に示すIV-IV矢視から見た断面図である。
【
図5】本発明の第1の実施の形態に係るスクリュー圧縮機におけるケーシングの溝構造を示すものであり、
図4の符号L2で示す部分を拡大した図である。
【
図6】本発明の第1の実施の形態に係るスクリュー圧縮機におけるケーシングの溝構造を
図5に示すVI-VI矢視から見た断面図である。
【
図7】本発明の第1の実施の形態に係るスクリュー圧縮機におけるケーシングの溝構造の作用を説明する図である。
【
図8】本発明の第1の実施の形態の変形例に係るスクリュー圧縮機を
図4と同じ矢視から見た断面図である。
【
図9】本発明の第1の実施の形態の変形例に係るスクリュー圧縮機におけるケーシングの溝構造を示すものであり、
図8の符号L3で示す部分を拡大した図である。
【
図10】本発明の第1の実施の形態の変形例に係るスクリュー圧縮機におけるケーシングの溝構造の作用を説明する図である。
【
図11】本発明の第2の実施の形態に係るスクリュー圧縮機を
図2と同じ矢視から見た断面図である。
【
図12】本発明の第2の実施の形態に係るスクリュー圧縮機におけるスクリューロータの溝構造を示すものであり、
図11の符号L4で示す部分を拡大した図である。
【
図13】本発明の第2の実施の形態に係るスクリュー圧縮機におけるスクリューロータの溝構造を
図12に示すXIII-XIII矢視から見た断面図である。
【
図14】本発明の第2の実施の形態に係るスクリュー圧縮機におけるスクリューロータの溝構造の作用を説明する図である。
【
図15】本発明の第2の実施の形態の変形例に係るスクリュー圧縮機を
図2と同じ矢視から見た断面図である。
【
図16】本発明の第2の実施の形態の変形例に係るスクリュー圧縮機におけるスクリューロータの溝構造を示すものであり、
図15の符号L5で示す部分を拡大した図である。
【
図17】本発明の第2の実施の形態の変形例に係るスクリュー圧縮機におけるスクリューロータの溝構造の作用を説明する図である。
【
図18A】本発明の第1の実施の形態及びその変形例に係るスクリュー圧縮機におけるケーシングの溝構造のバリエーションの第1例を示す図である。
【
図18B】本発明の第1の実施の形態及びその変形例に係るスクリュー圧縮機におけるケーシングの溝構造のバリエーションの第2例を示す図である。
【
図18C】本発明の第1の実施の形態及びその変形例に係るスクリュー圧縮機におけるケーシングの溝構造のバリエーションの第3例を示す図である。
【
図19A】本発明の第2の実施の形態及びその変形例に係るスクリュー圧縮機におけるスクリューロータの溝構造のバリエーションの第1例を示す図である。
【
図19B】本発明の第2の実施の形態及びその変形例に係るスクリュー圧縮機におけるスクリューロータの溝構造のバリエーションの第2例を示す図である。
【
図19C】本発明の第2の実施の形態及びその変形例に係るスクリュー圧縮機におけるスクリューロータの溝構造のバリエーションの第3例を示す図である。
【
図19D】本発明の第2の実施の形態及びその変形例に係るスクリュー圧縮機におけるスクリューロータの溝構造のバリエーションの第4を示す図である。
【
図19E】本発明の第2の実施の形態及びその変形例に係るスクリュー圧縮機におけるスクリューロータの溝構造のバリエーションの第5例を示す図である。
【
図19F】本発明の第2の実施の形態及びその変形例に係るスクリュー圧縮機におけるスクリューロータの溝構造のバリエーションの第6例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明によるスクリュー圧縮機の実施の形態について図面を用いて例示説明する。本実施の形態は、空気を圧縮する給油式のスクリュー圧縮機に本発明を適用した例である。
【0012】
[第1の実施の形態]
第1の実施の形態に係るスクリュー圧縮機の基本構成を
図1及び
図2を用いて説明する。
図1は本発明の第1の実施の形態に係るスクリュー圧縮機を示す縦断面図及び当該スクリュー圧縮機に対する給油の外部経路を示す系統図である。
図2は本発明の第1の実施の形態に係るスクリュー圧縮機を
図1に示すII-II矢視から見た断面図である。
図1中、左側がスクリュー圧縮機の軸方向吸込側、右側が軸方向吐出側である。
図2中、太線の矢印はスクリューロータの回転方向を、二点鎖線は雄雌両ロータの吐出側端面側へ投影されたケーシングの吐出ポートを表している。なお、
図2はケーシングの外周面側が省略されている。
【0013】
図1において、給油式スクリュー圧縮機1(以下、スクリュー圧縮機という)では、外部から圧縮機内部に油(液体)が供給される。そこで、スクリュー圧縮機1には、油を供給する外部給油系統100が接続されている。外部給油系統100は、例えば、オイルセパレータ101、オイルクーラ102、オイルフィルタ103などの機器及びそれらを接続する管路104で構成されている。
【0014】
図1及び
図2において、スクリュー圧縮機1は、互いに噛み合い回転する雄ロータ2(雄型のスクリューロータ)及び雌ロータ3(雌型のスクリューロータ)と、雄雌両ロータ2、3を噛み合った状態で回転可能に内部に収容するケーシング4とを備えている。雄ロータ2及び雌ロータ3は、互いの中心軸線A1、A2が平行となるように配置されている。雄ロータ2は、その軸方向(
図1中、左右方向)の両側がそれぞれ吸込側軸受6と吐出側軸受7、8とにより回転自在に支持されており、回転駆動源であるモータ90に接続されている。雌ロータ3は、その軸方向の両側がそれぞれ吸込側軸受と吐出側軸受(共に図示せず)とにより回転自在に支持されている。
【0015】
雄ロータ2は、ねじれた雄歯(ローブ)21aを複数(
図2では4つ)有するロータ歯部21と、ロータ歯部21の軸方向の両側端部にそれぞれ設けた吸込側(
図1中、左側)のシャフト部22及び吐出側(
図1中、右側)のシャフト部23とで構成されている。ロータ歯部21は、軸方向一方端(
図1中、左端)及び他方端(
図1中、右端)にそれぞれ吸込側端面21b及び吐出側端面21cを有している。吸込側のシャフト部22は、ケーシング4の外側に延出しており、例えば、モータ90のシャフト部と一体の構成である。吸込側のシャフト部22における吸込側軸受6よりも先端側には、オイルシール又はメカニカルシールなどの軸封部材9が取り付けられている。
【0016】
雌ロータ3は、ねじれた雌歯(ローブ)31aを複数(
図2では6つ)有するロータ歯部31と、ロータ歯部31の軸方向(
図2の紙面直交方向)の両側端部にそれぞれ設けた吸込側のシャフト部(図示せず)及び吐出側のシャフト部33とで構成されている。ロータ歯部31は、軸方向一方端及び他方端にそれぞれ吸込側端面(図示せず)及び吐出側端面31cを有している。
【0017】
ケーシング4は、主ケーシング41と、主ケーシング41の軸方向吐出側(
図1中、右側)に取り付けられる吐出側ケーシング42とを備えている。
【0018】
ケーシング4の内部には、雄ロータ2のロータ歯部21および雌ロータ3のロータ歯部31を互いに噛み合った状態で収容する収容室(ボア)45が形成されている。収容室45は、主ケーシング41に形成された一部重複する2つの円筒状空間の一方側(
図1中、右側)の開口を吐出側ケーシング42で閉塞することによって形成される。収容室45を形成する壁面は、雄ロータ2のロータ歯部21の径方向外側を覆う略円筒状の雄側内周面46と、雌ロータ3のロータ歯部31の径方向外側を覆う略円筒状の雌側内周面47と、雄雌両ロータ2、3のロータ歯部21、31の吸込側端面31bに対向する吸込側内壁面48と、雄雌両ロータ2、3のロータ歯部21、31の吐出側端面21c、31cに対向する吐出側内壁面49とで構成されている。ケーシング4の雄側内周面46及び雌側内周面47に対して、雄雌両ロータ2、3のロータ歯部21、31がそれぞれ数十~数百μmの隙間を保って配置されている。また、ケーシング4の吐出側内壁面49に対して、雌雄両ロータ2、3の吐出側端面21c、31cが数十~数百μmの間隙(以下、吐出側端面隙間G1という)をもって対向している。雄雌両ロータ2、3のロータ歯部21、31とそれを取り囲むケーシング4の収容室45の内壁面(雄側内周面46、雌側内周面47、吸込側内壁面48、吐出側内壁面49)とによって圧力の異なる複数の作動室Cが形成される。
【0019】
主ケーシング41のモータ90側の端部には、
図1に示すように、雄ロータ2及び雌ロータ3側の吸込側軸受6が配設されており、吸込側軸受6を覆うように吸込側カバー43が取り付けられている。吐出側ケーシング42には、雄ロータ2及び雌ロータ3側の吐出側軸受7、8が配設されている。
【0020】
ケーシング4には、作動室C(収容室45)に空気を吸い込むための吸込流路51が設けられている。また、ケーシング4には、作動室Cから外部へ圧縮空気を吐出するための吐出流路52が設けられている。吐出流路52は、収容室45(作動室C)とケーシング4の外部とを連通させるものであり、外部給油系統100に接続されている。吐出流路52は、ケーシング4の吐出側内壁面49に形成された吐出ポート52a(
図2中、二点鎖線の部分)を有している。また、ケーシング4には、外部給油系統100からの油を作動室C(収容室45)へ供給するための給油路53が設けられている。給油路53は、例えば、収容室45のうち作動室Cが圧縮行程となる領域に開口している。
【0021】
上述の構成を備えたスクリュー圧縮機1では、
図1に示すモータ90が雄ロータ2を駆動することで、
図2に示す雌ロータ3が回転駆動される。これにより、作動室Cが雄雌両ロータ2、3の回転に伴って軸方向に移動する。このとき、作動室Cは、その容積を増加させることで外部から
図1に示す吸込流路51を介して空気を吸い込み、その容積を縮小させることで空気を所定の圧力まで圧縮する。当該作動室Cが吐出ポート52aに連通すると、作動室C内の圧縮空気が吐出ポート52aを介して吐出流路52を通過し外部給油系統100のオイルセパレータ101へ吐出される。
【0022】
スクリュー圧縮機1では、作動室Cに油が供給されているので、吐出された圧縮空気中に油が混入している。この圧縮空気中に含まれる油は、オイルセパレータ101によって分離される。オイルセパレータ101で油が除去された圧縮空気は、必要に応じて外部機器へ供給される。
【0023】
一方、オイルセパレータ101で圧縮空気から分離された油は、外部給油系統100のオイルクーラ102によって冷却された後、スクリュー圧縮機1の給油路53を介して作動室Cへ注入される。スクリュー圧縮機1への油供給は、ポンプ等の動力源を用いることなく、オイルセパレータ101内に流入する圧縮空気の圧力を駆動源として行うことが可能である。
【0024】
次に、スクリュー圧縮機の内部隙間の1つであるアキシャル連通路について
図2及び
図3を用いて説明する。
図3は
図2の符号L1で示す部分を拡大した図であり、アキシャル連通路を説明する図である。
図3中、太い矢印は雄雌両ロータの回転方向を、二点鎖線は雄雌両ロータの吐出側端面側に投影した吐出ポートを表している。
【0025】
本説明において、
図3に示すように、雄ロータ2の歯先を境界に、回転方向側の歯面を雄ロータ2の前進面21d、回転方向とは反対側の歯面を雄ロータ2の後進面21eと定義する。また、雌ロータ3の歯底を境界に、回転方向側の歯面を雌ロータ3の前進面31d、回転方向とは反対側の歯面を雌ロータ3の後進面31eと定義する。
【0026】
図2及び
図3は、雄雌両ロータ2、3の或る回転角度での噛合い状態を示したものである。雄ロータ2と雌ロータ3は、理論的には、
図3に示すように、吐出側端面21c、31cにおいて、雄ロータ2の後進面21eと雌ロータ3の後進面31eとが接触する第1接触点P1、第1接触点P1よりも雄ロータ2の後進面21eの歯先側の部分と雌ロータ3の後進面31eの歯底側の部分とが接触する第2接触点P2、雄ロータ2の前進面21dと雌ロータ3の前進面31dとが接触する第3接触点P3の計3か所で接触する噛合い状態がある。
【0027】
このうち、第1接触点P1、第2接触点P2、雄雌両ロータ2、3の歯形輪郭によって囲まれる領域がアキシャル連通路G2と称する内部隙間である。アキシャル連通路G2は、雄雌両ロータ2、3の後進面21e、31e同士に挟まれ、吐出側端面21c、31cにおいて軸方向のみに開口する三日月形状の開口部である。アキシャル連通路G2は、雄雌両ロータ2、3の回転による噛合いの変化に応じて吐出側端面21c、31cに周期的に現れる。
【0028】
具体的には、アキシャル連通路G2は、雄ロータ2の外径線D1(
図3中、破線)と雌ロータ3のピッチ円D2(
図3中、破線)との交点うちの吐出ポート52a側の交点P0の近傍において発生し、雄雌両ロータ2、3の回転に伴い開口面積(大きさ)を拡大させながら雄雌ロータ2、3の中心軸線A1、A2間側(
図2中、上側)に向かって移動し、最終的に、3か所で接触する噛合い状態が解消されることで消滅する。第1接触点P1の存在範囲は雌ロータ3のピッチ円D2の内側であり、第2接触点P2の存在範囲は雄ロータ2の外径線D1の内側である。
【0029】
雌ロータ3のピッチ円D2とは、その中心が雌ロータ3の中心軸線A2と同一であり、その直径dpfが以下の式(1)により算出されるものである。
【0030】
【0031】
ここで、a、Zm、Zfはそれぞれ、雄ロータ2の中心軸線A1と雌ロータ3の中心軸線A2との間の距離、雄ロータ2の歯数、雌ロータ3の歯数である。
【0032】
アキシャル連通路G2は、相対的に低圧空間である吸込行程の作動室Cに繋がっている一方、
図2及び
図3に示すように、相対的に高圧空間である吐出流路52(
図1参照)及び吐出ポート52aに連通した吐出行程の作動室Cdに近接した位置にある。したがって、アキシャル連通路G2は、吐出流路52や吐出行程の作動室Cdから吸込行程の作動室Cへ圧縮空気が逆流する要因となる。
【0033】
そこで、ケーシング4の吐出側内壁面49は、アキシャル連通路G2を介した圧縮空気の内部漏洩を抑制するために、アキシャル連通路G2の軌跡の少なくとも一部を、好ましくは大部分を遮蔽する後述の遮蔽領域49a(後述の
図4を参照)を有している。しかし、吐出行程の作動室Cdや吐出流路52内の圧縮空気の一部は、雄雌両ロータ2、3の吐出側端面21c、31cとケーシング4の吐出側内壁面49の遮蔽領域49aとの間の吐出側端面隙間G1(
図1参照)を通ってアキシャル連通路G2に達してしまい、低圧空間に逆流する。これは、圧縮機の圧縮性能と省エネ性能を低下させる要因の一つとなる。
【0034】
給油式のスクリュー圧縮機の場合、作動室C内に供給された油が吐出側端面隙間G1の一部分において油膜を形成することで、吐出側端面隙間G1を介した圧縮空気の内部漏洩を低減する効果が期待される。しかし、アキシャル連通路G2を介した内部漏洩に関しては、漏洩元の高圧空間(吐出行程の作動室Cdや吐出流路52)と漏洩先の低圧空間(吸込行程の作動室C)との圧力差が他の内部漏洩の場合と比べて大きいので、アキシャル連通路G2の近傍の吐出側端面隙間G1に形成される油膜の保持が難しく、油膜による内部漏洩の低減効果が小さい傾向にある。
【0035】
そこで、本実施の形態は、アキシャル連通路G2の近傍の吐出側端面隙間G1に形成される油膜を高圧化するための溝構造を備えることを特徴とするものである。吐出側端面隙間G1に高圧の油膜を形成することで、漏洩元と漏洩先の空間の圧力差が大きな内部漏洩に対しても油膜を保持可能とするものである。
【0036】
次に、第1の実施の形態に係るスクリュー圧縮機の溝構造の詳細について
図4~
図6を用いて説明する。
図4は本発明の第1の実施の形態に係るスクリュー圧縮機を
図1に示すIV-IV矢視から見た断面図である。
図5は本発明の第1の実施の形態に係るスクリュー圧縮機におけるケーシングの溝構造を示すものであり、
図4の符号L2で示す部分を拡大した図である。
図6は本発明の第1の実施の形態に係るスクリュー圧縮機におけるケーシングの溝構造を
図5に示すVI-VI矢視から見た断面図である。
図4及び
図5中、二点鎖線は或る回転角度のとき(アキシャル連通路が形成されたとき)の雄雌両ロータの吐出側端面をケーシングの吐出側内壁面に対して軸方向に投影した形状を示すと共に、太い矢印は両ロータの回転方向を示している。なお、
図4はケーシングの外周面側が省略されている。
【0037】
ケーシング4の吐出側内壁面49には、
図4に示すように、吐出流路52(
図1参照)の入口である吐出ポート52aが形成されている。吐出ポート52aは、上述のアキシャル連通路G2を介した圧縮空気の内部漏洩を低減するために、例えば、アキシャル連通路G2の軌跡を吐出側内壁面49に対してロータ軸方向に投影した領域と概ね重ならないように形成されている。
【0038】
換言すると、吐出側内壁面49は、アキシャル連通路G2を介した内部漏洩を抑制するための遮蔽領域49aを有している。遮蔽領域49aは、アキシャル連通路G2の軌跡の少なくとも一部、好ましくは大部分を遮蔽するものであり、当該軌跡を吐出側内壁面49に対してロータ軸方向に投影した領域の少なくとも一部、好ましくは大部分と重なるように設定されている。具体的な一例として、遮蔽領域49aは、雄ロータ2の外径線D1と雌ロータ3のピッチ円D2の両方に囲まれる領域を吐出側内壁面49に対してロータ軸方向に投影した部分のうち、雄雌両ロータ2、3の中心軸線A1、A2間よりも吐出ポート52a側の領域である。遮蔽領域49aは、その外縁が吐出ポート52aの輪郭の一部を構成しており、例えば、吐出ポート52aの中央部に向かって突出する舌片状の突起部のような形状となっている。吐出側内壁面49の遮蔽領域49aによって、アキシャル連通路G2と吐出ポート52aとの直接的な連通領域(対向領域)が極力小さくなっている。
【0039】
吐出側内壁面49の遮蔽領域49aには、
図4及び
図5に示すように、作動室C内に供給された油(液体)の一部が流入可能な複数の溝60により構成された溝群が形成されている。複数の溝60は、例えば、遮蔽領域49aにおける雌ロータ3のピッチ円D2側(雄ロータ2側)の輪郭線に沿って並置されている。すなわち、複数の溝60は、雌ロータ3の中心軸線A2に対して周方向に並置されている。各溝60は長手方向を有する細長状の条溝として形成されており、複数の溝60は長手方向に延在する辺同士が隣り合うように配置されている。
【0040】
各溝60は、
図5に示すように、長手方向の一方側端部61が他方側端部62よりも雌ロータ3の外周側に位置しており、例えば、他方側端部62から一方側端部61に向かって直線状に延在している。溝60は、雌ロータ3の径方向R2に対して、他方側端部62から一方側端部61に向かう(雌ロータ3の内周側から外周側に向かう)長手方向が雌ロータ3の回転方向と同じ方向に角度θcfだけ傾斜するように構成されている。溝60は、雌ロータ3のピッチ円D2よりも内側の位置、且つ、遮蔽領域49aの輪郭線(吐出ポート52aの開口縁)に到達しない位置に制限されている。
【0041】
溝60は、
図6に示すように、略一定の深さを有している。溝60は、詳細は後述するが、動圧溝の一種として意図したものである。動圧溝としての溝60の深さは、その内部に流入した油に働く後述のせん断力の大きさに応じて適切な値がある。例えば、吐出側端面隙間G1が数十~200μm程度である場合には、溝60の好ましい深さは、1μm~1mmの範囲である。なお、溝60は、一方側端部61(外周側端部)における端面と底部とが略直角状に繋がっている。しかし、加工性の観点などから、溝60の一方側端部61における端面と底部とを傾斜面や湾曲面を介して繋ぐことが可能である。
【0042】
次に、第1の実施の形態に係るスクリュー圧縮機におけるケーシングの溝構造の作用及び効果を
図6及び
図7を用いて説明する。
図7は本発明の第1の実施の形態に係るスクリュー圧縮機におけるケーシングの溝構造の作用を説明する図である。
図6は雌ロータがケーシングの遮蔽領域に対向状態にあるときを示している。
図6中、太い矢印は油の流れを示している。
図7中、二点鎖線は雄雌両ロータの吐出側端面の形状をケーシングの吐出側内壁面に対してロータ軸方向に投影させたものである。
【0043】
本実施の形態のスクリュー圧縮機1においては、
図6及び
図7に示すケーシング4の吐出側内壁面49の遮蔽領域49aに形成された各溝60内に流入した油には、
図7に示すように、回転する雌ロータ3の吐出側端面31cによってせん断力Sfが雌ロータ3の回転方向の接線方向(雌ロータ3の径方向R2に直交する方向)であって回転方向と同じ向きに作用する。このせん断力Sfは、溝60の長手方向に直交する方向の分力である第1分力Sf1と、溝60の長手方向の分力である第2分力Sf2とに分解することができる。
【0044】
本実施の形態においては、各溝60が雌ロータ3の径方向R2に対して他方側端部62を基点として雌ロータ3の回転方向と同じ方向に傾斜するように延在している。これにより、第2分力Sf2は、溝60の長手方向における雌ロータ3の外周側を向く力となる。したがって、各溝60内の油は、せん断力Sfの第2分力Sf2によって溝60の長手方向に沿って雌ロータ3の外周側に向かって流動する。溝60内を流動する油は、
図6及び
図7に示すように、溝60の長手方向における雌ロータ3の外周側の端部である一方側端部61で堰き止められることで運動エネルギ(動圧)が変換されて静圧が上昇し、最終的に、一方側端部61の領域において吐出側端面隙間G1(雌ロータ3側)に流出する。これにより、吐出側端面隙間G1における油の圧力は、溝60の一方側端部61の近傍において相対的に高くなる。
【0045】
本実施の形態においては、
図7に示すように、長手方向に延在する辺同士が隣り合うように複数の溝60が並置されている。このため、複数の溝60のそれぞれの一方側端部61(雌ロータ外周側の端部)から昇圧された油が吐出側端面隙間G1に流出する。複数の一方側端部61からそれぞれ流出した高圧の油が連なることで、吐出側端面隙間G1において複数の溝60の一方側端部61に沿った高圧油膜Wの形成が促進される。なお、溝60の一方側端部61が雌ロータ3の外周側に位置するほど、雌ロータ3の回転により作用するせん断力が大きくなり、その分、油膜Wの昇圧による内部漏洩の抑制効果が大きくなる。
【0046】
このように、溝60内の油によって吐出側端面隙間G1が封止されるだけでなく、ケーシング4の遮蔽領域49aにおける雄ロータ2側(ピッチ円D2側)の輪郭近傍に溝60から流出した油によって周囲より高圧の油膜Wが形成される。この高圧油膜Wは、アキシャル連通路G2が吐出側端面隙間G1を介して遮蔽領域49aと重なった状態において、吐出流路52(
図1参照)や吐出行程の作動室Cd(高圧空間)内の圧縮空気が遮蔽領域49aの雄ロータ2側の縁部からアキシャル連通路G2を介して吸込行程の作動室(低圧空間)に漏洩することを抑制することができる。以上により、スクリュー圧縮機1の圧縮性能と省エネ性能の向上が可能となる。
【0047】
本実施の形態の溝構造(複数の溝60)は、せん断力Sfにより流動する油を一方側端部61で堰き止めることで動圧を静圧に変換して高圧油膜Wを形成するものであり、動圧溝の一種であると言える。各溝60の深さを、油に働く力のせん断力Sfの大きさや吐出側端面隙間G1の大きさに応じて、油膜Wの圧力を最大化できる適切な値(例えば、1μm~1mmの範囲)に設定することで、アキシャル連通路G2を介した内部漏洩を更に抑制することができる。
【0048】
本実施の形態においては、各溝60が雌ロータ3のピッチ円D2の内側に配置されると共に、吐出ポート52aに連通しないように形成されている。これにより、複数の溝60が吐出行程の作動室Cdとアキシャル連通路G2とに同時に連通して内部漏洩の経路となることを防いでいる。
【0049】
本実施の形態においては、静止体の一部であるケーシング4に複数の溝60を設けている。したがって、複数の溝60が、スクリューロータと共に移動することがなく、ケーシング4の吐出ポート52a及びアキシャル連通路G2の軌跡に対して固定した位置にあるので、アキシャル連通路G2を介した内部漏洩に対して安定した抑制効果を期待できる。
【0050】
[第1の実施の形態の第1変形例]
次に、第1の実施の形態の第1変形例に係るスクリュー圧縮機について
図8~
図10を用いて例示説明する。
図8は本発明の第1の実施の形態の変形例に係るスクリュー圧縮機を
図4と同じ矢視から見た断面図である。
図9は本発明の第1の実施の形態の変形例に係るスクリュー圧縮機におけるケーシングの溝構造を示すものであり、
図8の符号L3で示す部分を拡大した図である。
図10は本発明の第1の実施の形態の変形例に係るスクリュー圧縮機におけるケーシングの溝構造の作用を説明する図である。
図8では、ケーシングの外周面側が省略されている。なお、
図8~
図10において、
図1~
図7に示す符号と同符号のものは、同様な部分であるので、その詳細な説明は省略する。
【0051】
図8及び
図9に示す第1の実施の形態の第1変形例によるスクリュー圧縮機1Aは、大略第1の実施の形態と同様の構成であるが、ケーシング4Aの吐出側内壁面49に形成した複数の溝60Aの配置位置及び形状が異なる。
【0052】
具体的には、ケーシング4Aの吐出側内壁面49の遮蔽領域49aには、複数の溝60Aより構成された溝群が形成されている。複数の溝60Aは、遮蔽領域49aにおける雄ロータ2の外径線D1側(雌ロータ3側)の輪郭線に沿って並置されている。すなわち、複数の溝60Aは、雄ロータ2の中心軸線A1に対して周方向に並置されている。各溝60Aは長手方向を有する細長状の条溝として形成されており、複数の溝60Aは長手方向に延在する辺同士が隣り合うように配置されている。
【0053】
各溝60Aは、
図9に示すように、長手方向の一方側端部61が他方側端部62よりも雄ロータ2の外周側に位置しており、例えば、他方側端部62から一方側端部61に向かって直線状に形成されている。溝60Aは、雄ロータ2の径方向R1に対して、他方側端部62から一方側端部61に向かう(雄ロータ2の内周側から外周側に向かう)長手方向が雄ロータ2の回転方向と同じ方向に角度θcmだけ傾斜するように構成されている。溝60Aは、雄ロータ2の外径線D1よりも内側の位置、且つ、遮蔽領域49aの輪郭線(吐出ポート52aの開口縁)に到達しない位置に制限されている。
【0054】
本変形例においては、
図8に示すケーシング4Aの吐出側内壁面49の遮蔽領域49aに形成した各溝60Aに流入した油が、回転する雄ロータ2の吐出側端面21cによって引き摺られる。これにより、各溝60A内の油には、
図10に示すように、せん断力Sfが雄ロータ2の回転方向の接線方向(雄ロータ2の径方向R1の直交方向)であって回転方向と同じ向きに作用する。溝60A内の油に作用するせん断力は、溝60Aの長手方向に方向の分力である第1分力Sf1と、溝60Aの長手方向の分力である第2分力Sf2とに分解することができる。
【0055】
本変形例においては、
図9に示すように、各溝60Aが雄ロータ2の径方向R1に対して他方側端部62を基点として雄ロータ2の回転方向と同じ方向に傾斜するように延在している。これにより、
図10に示すように、第2分力Sf2は、溝60Aの長手方向における雄ロータ2の外周側を向く力となる。したがって、各溝60A内の油は、第2分力Sf2によって溝60Aの長手方向に沿って雄ロータ2の外周側に向かって流動する。溝60A内を流動する油は、溝60Aの長手方向における雄ロータ2の外周側の端部である一方側端部61で堰き止められることで運動エネルギ(動圧)が変換されて静圧が上昇し、最終的に、一方側端部61の領域において吐出側端面隙間G1(雄ロータ2側)に流出する。これにより、吐出側端面隙間G1における油の圧力は、溝60Aの一方側端部61の近傍において最も高くなる。
【0056】
本変形例においては、
図9に示すように、長手方向に延在する辺同士が隣り合うように複数の溝60Aが並置されている。これにより、
図10に示すように、各溝60Aのそれぞれの一方側端部61(雄ロータ外周側の端部)から昇圧された油が吐出側端面隙間G1に流出する。複数の一方側端部61から流出した高圧の油が連なることで、吐出側端面隙間G1において複数の溝60Aの一方側端部61に沿った高圧油膜Wの形成が促進される。なお、溝60Aの一方側端部61が雄ロータ2の外周側に位置するほど、雄ロータ2の回転により作用するせん断力Sfが大きくなるので、その分、油膜Wの昇圧による内部漏洩の抑制効果が大きくなる。
【0057】
このように、溝60A内の油によって吐出側端面隙間G1が封止されるだけでなく、ケーシング4Aの遮蔽領域49aにおける雌ロータ3側(外径線D1側)の輪郭近傍に溝60Aから流出した油によって周囲より高圧の油膜Wが形成される。この高圧油膜Wは、アキシャル連通路G2が吐出側端面隙間G1を介して遮蔽領域49aと重なった状態において、吐出流路52(
図1参照)や吐出行程の作動室Cd(高圧空間)内の圧縮空気が遮蔽領域49aの雌ロータ3側の縁部からアキシャル連通路G2を介して吸込行程の作動室(低圧空間)に漏洩することを抑制することができる。以上により、スクリュー圧縮機1Aの圧縮性能と省エネ性能の向上が可能となる。
【0058】
本変形例においては、各溝60Aが雄ロータ2の外径線D1の内側に配置されると共に、吐出ポート52aに連通しないように形成されている。これにより、複数の溝60Aが吐出行程の作動室Cdとアキシャル連通路G2とに同時に連通して内部漏洩の通路となることを防いでいる。
【0059】
上述した第1の実施の形態及びその変形例をまとめると、以下のとおりである。第1の実施の形態又はその変形例に係るスクリュー圧縮機1、1Aは、軸方向一方側に第1の吐出側端面21cを有する雄ロータ2と、軸方向一方側に第2の吐出側端面31cを有する雌ロータ3と、雄ロー2タ及び雌ロータ3を噛み合った状態で回転可能に収容する収容室45を有するケーシング4とを備えている。ケーシング4は雄ロー2タの第1の吐出側端面21c及び雌ロータ3の第2の吐出側端面31cに対向する吐出側内壁面49を有し、ケーシング4の吐出側内壁面49は雄ロータ2及び雌ロータ3の回転よる噛合いの変化に応じて第1の吐出側端面21c及び第2の吐出側端面31cにおいて周期的に現れ雄ロータ2及び雌ロータ3の後進面同士によって挟まれた隙間であるアキシャル連通路G2の軌跡の少なくとも一部を遮蔽する遮蔽領域49aを有する。ケーシング4の遮蔽領域49a内に、長手方向を有する複数の溝60、60Aにより構成された溝群が設けられている。溝群の複数の溝60、60Aは雄ロータ2及び雌ロータ3の少なくとも一方のロータの周方向に並置され、溝群の複数の溝60、60Aは長手方向に延在する辺同士が隣り合うように配置されている。溝群の複数の溝60、60Aはそれぞれ、一方のロータ(雄ロータ2又は雌ロータ3)の内周側から外周側に向かう長手方向が一方のロータ(雄ロータ2又は雌ロータ3)の径方向に対して一方のロータ(雄ロータ2又は雌ロータ3)の回転方向と同じ方向に傾斜するように構成されている。
【0060】
この構成によれば、ケーシング4の吐出側内壁面49に設けた複数の溝60、60A内の油(液体)がせん断力によって長手方向に流動してから堰き止められることで静圧が上昇するので、吐出側端面隙間G1におけるアキシャル連通路G2の近傍に高圧の油膜W(液体膜)を形成することができる。したがって、アキシャル連通路G2を介した圧縮気体の内部漏洩を低減することができる。
【0061】
[第2の実施の形態]
次に、第2の実施の形態に係るスクリュー圧縮機の構成及び構造について
図11~
図13を用いて例示説明する。
図11は本発明の第2の実施の形態に係るスクリュー圧縮機を
図2と同じ矢視から見た断面図である。
図12は本発明の第2の実施の形態に係るスクリュー圧縮機におけるスクリューロータの溝構造を示すものであり、
図11の符号L4で示す部分を拡大した図である。
図13は本発明の第2の実施の形態に係るスクリュー圧縮機におけるスクリューロータの溝構造を
図12に示すXIII-XIII矢視から見た断面図である。
図11及び
図12中、二点鎖線はケーシングの吐出側内壁面の吐出ポートの輪郭形状を雄雌両ロータの吐出側端面に投影した形状を、太い矢印は両ロータの回転方向を示している。
図11では、ケーシングの外周面側が省略されている。なお、
図11~
図13において、
図1~
図10に示す符号と同符号のものは、同様な部分であるので、その詳細な説明は省略する。
【0062】
図11に示す第2の実施の形態によるスクリュー圧縮機1Bが第1の実施の形態と異なる点は、高圧油膜Wを形成するための溝構造をケーシング4Bの吐出側内壁面49でなく雌ロータ3Bの吐出側端面31cに形成したことである。すなわち、ケーシング4Bの吐出側内壁面49(図示せず)には、第1の実施の形態のような溝構造が形成されていない。
【0063】
具体的には、雌ロータ3Bの吐出側端面31cにおける各雌歯31aの歯先側の領域には、
図11及び
図12に示すように、複数の溝70により構成された溝群が形成されている。複数の溝70は、歯先の厚み方向に並置されている。すなわち、複数の溝70は、雌ロータ3Bの中心軸線A2に対して周方向に並置されている。各溝70は長手方向を有する細長状の条溝として形成されており、複数の溝70は長手方向に延在する辺同士が隣り合うように配置されている。
【0064】
各溝70は、
図12に示すように、長手方向の一方側端部71が他方側端部72よりも雌ロータ3Bの外周側に位置しており、例えば、他方側端部72(内周側端部)から一方側端部(外周側端部)71に向かって直線状に形成されている。溝70は、雌ロータ3Bの径方向R2に対して、他方側端部72(内周側端部)から一方側端部(外周側端部)71に向かう長手方向が雌ロータ3Bの回転方向とは逆方向に角度θrfだけ傾斜するように構成されている。溝70は、雌ロータ3Bのピッチ円D2よりも内側の位置、且つ、雌ロータ3Bの雌歯31aの輪郭線に到達しない位置に制限されている。
【0065】
溝70は、雄ロータ2の中心軸線A1から雄ロータ2の外径線D1までの距離をa1、雌ロータ3Bの中心軸線A2から雌ロータ3Bのピッチ円D2までの距離をa2、雄ロータ2の中心軸線A1と雌ロータ3Bの中心軸線A2と間の距離をbとしたとき、雌ロータ3Bのピッチ円D2から雌ロータ3Bの中心軸線A2に向かって(a1+a2-b)の距離までの範囲内に配置されている。
【0066】
溝70は、
図13に示すように、略一定の深さを有している。溝70は、詳細は後述するが、動圧溝の一種として意図したものである。動圧溝としての溝70の深さは、その内部に流入した油に働くせん断力や後述の遠心力の大きさに応じて適切な値がある。例えば、吐出側端面隙間G1が数十~200μm程度である場合には、溝70の好ましい深さは、1μm~1mmの範囲である。
【0067】
次に、第2の実施の形態に係るスクリュー圧縮機における雌ロータの溝構造の作用及び効果を
図13及び
図14を用いて説明する。
図14は本発明の第2の実施の形態に係るスクリュー圧縮機におけるスクリューロータの溝構造の作用を説明する図である。
図13中、太い矢印は油の流れを示している。
図14中、二点鎖線はケーシングの吐出側内壁面の吐出ポートの輪郭形状を雄雌両ロータの吐出側端面に投影させたものを示している。
【0068】
本実施の形態のスクリュー圧縮機1Bにおいては、雌ロータ3Bの吐出側端面31cに形成された各溝70内に流入した油に、第1の実施の形態及びその変形例の場合とは異なり、主に2種類の力が作用する。1つ目は、
図14に示すように、溝70内の油が雌ロータ3Bと共に回転することで生じる遠心力Cfである。遠心力Cfは、雌ロータ3Bの回転方向に直交する径方向R2であって外周側の向きに作用する。2つ目は、各溝70内の油が雌ロータ3Bと共に回転してケーシング4Bの吐出側内壁面49(
図13参照)によって引き摺られることで生じるせん断力Sfである。せん断力Sfは、雌ロータ3Bの回転方向の接線方向(雌ロータ3Bの径方向R2の直交方向)であって回転方向とは逆向きに作用する。
【0069】
溝70内の油に作用する遠心力Cfは、溝70の長手方向に直交する方向の成分である第1分力Cf1と、溝70の長手方向の成分である第2分力Cf2とに分解することができる。同様に、溝70内の油に作用するせん断力Sfは、溝70の長手方向に直交する方向の成分である第1分力Sf1と、溝70の長手方向の成分である第2分力Sf2とに分解することができる。
【0070】
本実施の形態においては、各溝70が雌ロータ3Bの径方向R2に対して他方側端部72を基点として雌ロータ3Bの回転方向とは逆方向に傾斜するように延在している。これにより、遠心力Cf及びせん断力Sfの第2分力Cf2、Sf2は、溝70の長手方向における雌ロータ3Bの外周側を向く力となる。したがって、各溝70内の油は、遠心力Cf及びせん断力Sfの第2分力Cf2、Sf2によって溝70の長手方向に沿って雌ロータ3Bの外周側に向かって流動する。溝70内を流動する油は、
図13及び
図14に示すように、溝70の長手方向における雌ロータ3Bの外周側の端部である一方側端部71で堰き止められることで運動エネルギ(動圧)が変換されて静圧が上昇し、最終的に、一方側端部71の領域において吐出側端面隙間G1(ケーシング4の吐出側内壁面49側)に流出する。これにより、吐出側端面隙間G1における油の圧力は、溝70の一方側端部71の近傍において最も高くなる。
【0071】
また、本実施の形態においては、
図14に示すように、長手方向に延在する辺同士が隣り合うように複数の溝70が並置されている。このため、複数の溝70のそれぞれの一方側端部71(雌ロータ外周側の端部)から昇圧された油が吐出側端面隙間G1に流出する。複数の一方側端部71からそれぞれ流出した高圧の油が連なることで、吐出側端面隙間G1において複数の溝70の一方側端部71に沿った高圧油膜Wの形成が促進される。なお、溝70の一方側端部71が雌ロータ3Bの外周側に位置するほど、雌ロータ3Bの回転により作用する遠心力Cf及びせん断力Sfが大きくなるので、その分、油膜Wの昇圧による内部漏洩の抑制効果が大きくなる。
【0072】
本実施の形態においては、雌ロータ3Bのピッチ円D2から雌ロータ3Bの中心軸線A2に向かって(a1+a2-b)の距離までの範囲内に複数の溝70が配置されている。このため、溝70の一方側端部71は、雌ロータ3Bの或る回転位置において、吐出行程の作動室とアキシャル連通路G2との間の位置に存在することができる。
【0073】
したがって、雌ロータ3Bの溝70内の油によって吐出側端面隙間G1を封止するだけでなく、雌ロータ3Bの溝70から流出した油によって周囲より高圧の油膜Wが形成される。この高圧油膜Wは、アキシャル連通路G2が吐出側端面隙間G1を介して遮蔽領域49aと重なった状態において、吐出流路52(
図1参照)や吐出行程の作動室Cd(高圧空間)内の圧縮空気が雌ロータ3Bの歯先側からアキシャル連通路G2を介して吸込行程の作動室(低圧空間)に漏洩することを抑制することができる。以上により、スクリュー圧縮機1Bの圧縮性能と省エネ性能の向上が可能となる。
【0074】
このように、雌ロータ3Bの吐出側端面31cに形成された複数の溝70は、せん断力Sf及び遠心力Cfにより流動する油を一方側端部71で堰き止めることで動圧を静圧に変換して高圧油膜Wを形成するものであり、動圧溝の一種であると言える。各溝70の深さを、油に働く力のせん断力Sf及び遠心力Cfの大きさや吐出側端面隙間G1の大きさに応じて、油膜Wの圧力を最大化できる適切な値(例えば、1μm~1mm)に設定することで、アキシャル連通路G2を介した内部漏洩を更に抑制することができる。
【0075】
また、本実施の形態においては、溝70が雌ロータ3Bのピッチ円D2の内側に配置されると共に、雌ロータ3Bの輪郭線に到達しないように配置されている。これにより、複数の溝70が吐出行程の作動室Cdとアキシャル連通路G2とに同時に連通して内部漏洩の経路となることを防いでいる。
【0076】
また、本実施の形態においては、鋳造等で成形された雌ロータ3Bの吐出側端面31cに対して切削加工などの機械加工によって溝70を設けることができるので、圧縮機の製造工程における加工が容易である。
【0077】
[第2の実施の形態の変形例]
次に、第2の実施の形態の変形例に係るスクリュー圧縮機について
図15~
図17を用いて例示説明する。
図15は本発明の第2の実施の形態の変形例に係るスクリュー圧縮機を
図2と同じ矢視から見た断面図である。
図16は本発明の第2の実施の形態の変形例に係るスクリュー圧縮機におけるスクリューロータの溝構造を示すものであり、
図15の符号L5で示す部分を拡大した図である。
図17は本発明の第2の実施の形態の変形例に係るスクリュー圧縮機におけるスクリューロータの溝構造の作用を説明する図である。
図15及び
図16中、二点鎖線はケーシングの吐出側内壁面の吐出ポートの輪郭形状を雄雌両ロータの吐出側端面に投影した形状を、太い矢印は両ロータの回転方向を示している。
図15では、ケーシングの外周面側が省略されている。なお、
図15~
図17において、
図1~
図14に示す符号と同符号のものは、同様な部分であるので、その詳細な説明は省略する。
【0078】
図15及び
図16に示す第2の実施の形態の変形例に係るスクリュー圧縮機1Cが第2の実施の形態と異なる点は、高圧油膜Wを形成するための溝構造を雌ロータ3の吐出側端面31cでなく雄ロータ2Cの吐出側端面21cに設けたことである。
【0079】
具体的には、雄ロータ2Cの吐出側端面21cにおける各雄歯21aの歯先側の領域には、複数の溝70Cにより構成された溝群が形成されている。複数の溝70Cは、雄歯21aの厚み方向に並置されている。すなわち、複数の溝70Cは、雄ロータ2Cの中心軸線A1に対して周方向に並置されている。各溝70は長手方向を有する細長状の条溝として形成されており、複数の溝70Cは長手方向に延在する辺同士が隣り合うように配置されている。
【0080】
各溝70Cは、
図16に示すように、長手方向の一方側端部71が他方側端部72よりも雄ロータ2Cの外周側に位置しており、例えば、他方側端部72(内周側端部)から一方側端部(外周側端部)71に向かって直線状に形成されている。溝70Cは、雄ロータ2Cの径方向R1に対して、他方側端部72(内周側端部)から一方側端部(外周側端部)71に向かう長手方向が雄ロータ2Cの回転方向とは逆方向に角度θrmだけ傾斜するように構成されている。溝70Cは、雄ロータ2Cの外径線D1よりも内側の位置、且つ、雄ロータ2Cの雄歯21aの輪郭線に到達しない位置に制限されている。
【0081】
溝70Cは、第2実施の形態の場合と同様に、雄ロータ2Cの中心軸線A1から雄ロータ2Cの外径線D1までの距離をa1、雌ロータ3の中心軸線A2から雌ロータ3のピッチ円D2までの距離をa2、雄ロータ2Cの中心軸線A1と雌ロータ3の中心軸線A2と間の距離をbとしたとき(
図12参照)、雄ロータ2Cの外径線D1から雄ロータ2Cの中心軸線A1に向かって(a1+a2-b)の距離までの範囲内に配置されている。これにより、複数の溝70Cの一方側端部71は、雄ロータ2Cの或る回転位置において、吐出行程の作動室Cdとアキシャル連通路G2との間の位置に存在することができる。
【0082】
本変形例においても、雄ロータ2Cの吐出側端面21cに形成した各溝70Cに流入した油には、第2の実施の形態と同様に、遠心力Cf及びせん断力Sfの2種類の力が作用する。遠心力Cfは、
図17に示すように、雄ロータ2Cの回転方向に直交する径方向R1であって外周側の向きに作用する。せん断力Sfは、雄ロータ2Cの回転方向の接線方向(雄ロータ2Cの径方向R1の直交方向)であって回転方向とは逆向きに作用する。溝70C内の油に作用する遠心力Cfは、溝70Cの長手方向に直交する方向の成分である第1分力Cf1と、溝70Cの長手方向の成分である第2分力Cf2とに分解することができる。同様に、溝70C内の油に作用するせん断力Sfは、溝70Cの長手方向に直交する方向の成分である第1分力Sf1と、溝70Cの長手方向の成分である第2分力Sf2とに分解することができる。
【0083】
本変形例においては、
図16に示すように、各溝70Cが雄ロータ2Cの径方向R1に対して他方側端部72を基点として雄ロータ2Cの回転方向とは逆方向に傾斜するように延在している。これにより、遠心力Cf及びせん断力Sfの第2分力Cf2、Sf2は、
図17に示すように、溝70Cの長手方向における雄ロータ2Cの外周側を向く力となる。したがって、各溝70C内の油は、遠心力Cf及びせん断力Sfの第2分力Cf2、Sf2によって溝70Cの長手方向に沿って雄ロータ2Cの外周側に向かって流動する。溝70C内を流動する油は、溝70Cの長手方向における雄ロータ2の外周側の端部である一方側端部71で堰き止められることで運動エネルギ(動圧)が変換されて静圧が上昇し、最終的に、一方側端部71の領域において吐出側端面隙間G1(ケーシング4の吐出側内壁面49側)に流出する。これにより、吐出側端面隙間G1における油の圧力は、溝70Cの一方側端部71の近傍において最も高くなる。
【0084】
本変形例においては、
図16に示すように、長手方向に延在する辺同士が隣り合うように複数の溝70Cが並置されている。このため、複数の溝70Cのそれぞれの一方側端部71(雌ロータ外周側の端部)から昇圧された油が吐出側端面隙間G1に流出する。複数の一方側端部71からそれぞれ流出した高圧の油が連なることで、吐出側端面隙間G1において複数の溝70Cの一方側端部71に沿った高圧油膜Wの形成が促進される。このように、複数の溝70Cは、せん断力Sf及び遠心力Cfにより流動する油を一方側端部71で堰き止めることで動圧を静圧に変換して高圧油膜Wを形成するものであり、動圧溝の一種であると言える。なお、溝70Cの一方側端部71が雄ロータ2Cの外周側に位置するほど、雄ロータ2Cの回転により作用する遠心力Cf及びせん断力Sfが大きくなるので、油膜Wの昇圧による内部漏洩の抑制効果が大きくなる。
【0085】
このように、雄ロータ2Cの溝70C内の油によって吐出側端面隙間G1が封止されるだけでなく、雄ロータ2Cの溝70Cから流出した油によって周囲より高圧の油膜Wが形成される。この高圧油膜Wは、アキシャル連通路G2が吐出側端面隙間G1を介して遮蔽領域49aと重なった状態において、吐出流路52(
図1参照)や吐出行程の作動室Cd(高圧空間)内の圧縮空気が遮蔽領域49aの雌ロータ3側の縁部からアキシャル連通路G2を介して吸込行程の作動室(低圧空間)に漏洩することを抑制することができる。以上により、スクリュー圧縮機1Cの圧縮性能と省エネ性能の向上が可能となる。
【0086】
また、本変形例においては、溝70Cが雄ロータ2Cの外径線D1の内側に配置されると共に、雄ロータ2Cの歯形の輪郭線に到達しないように配置されている。これにより、溝70Cが吐出行程の作動室Cdとアキシャル連通路G2とに同時に連通して内部漏洩の通路となることを防いでいる。
【0087】
本変形例においては、鋳造等で成形された雄ロータ2Cの吐出側端面21cに対して切削加工などの機械加工によって複数の溝70Cを設けることができるので、圧縮機の製造工程における加工が容易である。
【0088】
上述した第2の実施の形態及びその変形例をまとめると、以下のようである。第2の実施の形態又はその変形例に係るスクリュー圧縮機1B、1Cは、軸方向一方側に第1の吐出側端面21cを有し、第1中心軸線A1の周りを回転可能な雄ロータ2、2Cと、軸方向一方側に第2の吐出側端面31cを有し、第2中心軸線A2の周りを回転可能な雌ロータ3、3Bと、雄ロータ2、2C及び雌ロータ3、3Bを噛み合った状態で回転可能に収容する収容室45を有するケーシング4Bとを備えている。雄ロータ2C及び雌ロータ3Bの少なくとも一方のロータの吐出側端面21c、31cに、長手方向を有する複数の溝70、70Cにより構成された溝群が設けられている。溝群の複数の溝70、70Cは、一方のロータ(雄ロータ2C又は雌ロータ3B)の周方向に並置され、長手方向に延在する辺同士が隣り合うように配置されている。
【0089】
この構成によれば、一方のロータ(雄ロータ2C又は雌ロータ3B)の吐出側端面21c、31cに設けた複数の溝70、70C内の油(液体)が遠心力やせん断力によって長手方向に流動してから堰き止められることで圧力が上昇するので、吐出側端面隙間G1におけるアキシャル連通路G2の近傍に高圧の油膜W(液体膜)を形成することができる。したがって、アキシャル連通路G2を介した圧縮気体の内部漏洩を低減することができる。
【0090】
[第1の実施の形態及びその変形例の溝構造のバリエーション]
次に、第1の実施の形態及びその変形例に係るスクリュー圧縮機におけるケーシングの溝構造のバリエーションについて
図18A~
図18Cを用いて例示説明する。
図18A、
図18B、
図18Cはそれぞれ第1の実施の形態及びその変形例に係るスクリュー圧縮機におけるケーシングの溝構造のバリエーションの第1例、第2例、第3例を示す図である。
図18A~
図18C中、上方向が対象となるスクリューロータ(雄ロータ又は雌ロータ)の径方向外側(外周側)であり、左方向が対象となるスクリューロータの回転方向である。
【0091】
第1の実施の形態及びその変形例に係るスクリュー圧縮機1、1Aにおけるケーシング4、4Aの吐出側内壁面49に形成された溝構造(溝群)は、前述の複数の溝60、60Aの他に、多数のバリエーションを採用することが可能である。本溝構造(溝群)は、原理的には、対象のスクリューロータの回転に伴うせん断力の作用により溝内の油が流動して当該溝のいずれかの位置で堰き止められる構造であればよい。すなわち、本溝構造(溝群)は、動圧溝として機能するものであればよい。
【0092】
溝構造(溝群)のバリエーションの第1例は、
図18Aに示すように、各溝60Bが、直線状に形成された長手方向を有する溝本体部64と、溝本体部64接続され溝本体部64とは異なる形状の付加溝部65とを組み合わせたものである。溝本体部64は、第1の実施の形態及びその変形例の溝60、60Aと同様に、対象のスクリューロータ(雄ロータ2又は雌ロータ3)の径方向に対して、長手方向が溝60Bの一方側端部61を基点としてスクリューロータの回転方向と同じ方向に傾斜するように構成されている。これにより、溝本体部64内の油には、第1の実施の形態及びその変形例の溝60、60Aの場合と同様に、せん断力Sfの第2分力Sf2が溝本体部64の長手方向に沿って溝本体部64の外周側に向かって作用する。付加溝部65は、例えば、溝本体部64の外周側の端部に接続され、傾斜角が溝本体部64よりも大きな短尺状の溝部である。付加溝部65は、油膜Wの形成や圧力上昇、溝60Bへの油の流入などを促す形状や位置を選択可能である。
【0093】
したがって、バリエーションの第1例における複数の溝60Bにおいては、第1の実施の形態及びその変形例と同様に、溝60B内の油がせん断力Sfにより溝60Bの外周側端部である付加溝部65に向かって流動し、付加溝部65おいて堰き止められることで静圧が上昇する。最終的に、昇圧された油は、複数の溝60Bの外周側端部(付加溝部65)からそれぞれ吐出側端面隙間G1(スクリューロータ側)に流出して連なることで、吐出側端面隙間G1において複数の溝60Bの付加溝部65に沿って高圧油膜Wを形成する。
【0094】
図18Bに示す溝構造(溝群)のバリエーションの第2例は、各溝60Cが直線状でなく湾曲している。溝60Cの湾曲形状は、対象のスクリューロータ(雄ロータ2又は雌ロータ3)の径方向に対して、各地点の接線が対象のスクリューロータの回転方向と同じ方向に傾斜するように構成されている。これにより、溝60C内の油には、第1の実施の形態及びその変形例の溝60、60Aの場合と同様に、せん断力Sfの第2分力Sf2が溝60Cの外周側に向かって作用する。
【0095】
したがって、バリエーションの第2例における複数の溝60Cにおいては、第1の実施の形態及びその変形例と同様に、溝60C内の油がせん断力Sfの第2分力Sf2により溝60Cの一方側端部(外周側端部)61に向かって流動し、当該端部61において堰き止められることで静圧が上昇する。昇圧された油は、最終的に、複数の溝60Cの一方側端部61からそれぞれ吐出側端面隙間G1(スクリューロータ側)に流出して連なることで、吐出側端面隙間G1において複数の溝60Cの一方側端部61に沿って高圧油膜Wを形成する。
【0096】
図18Cに示す溝構造(溝群)のバリエーションの第3例は、各溝60DがV字状に形成されており、複数の溝60Dが対象のスクリューロータ(雄ロータ2又は雌ロータ3)の周方向にヘリンボーン状に並置されている。各溝60Dは、V字形状が対象のスクリューロータの回転方向とは逆方向に開くように形成されている。
【0097】
すなわち、溝60Dは、V字の一方側の第1溝部67と、第1溝部67よりも対象のスクリューロータの径方向外側に位置するV字の他方側の第2溝部68とで構成されている。第1溝部67が対象のスクリューロータの径方向に対してスクリューロータの回転方向と同じ方向に傾斜するように構成されている一方、第2溝部68が対象のスクリューロータの径方向に対してスクリューロータの回転方向とは逆方向に傾斜するように構成されている。また、各溝60Dは、第1溝部67と第2溝部68との接続部69(V字状の角部)が対象のスクリューロータの或る回転位置でアキシャル連通路G2と吐出行程の作動室Cdとの間に位置するように構成されている。
【0098】
第1溝部67内の油には、第1の実施の形態及びその変形例の溝60、60Aの場合と同様に、せん断力Sfの第2分力Sf2が第1溝部67の外周側に向かって作用する。一方、第2溝部68内の油には、第1の実施の形態及びその変形例の溝60、60Aの場合とは異なり、せん断力Sfの第2分力Sf2が第2溝部68の内周側に向かって作用する。
【0099】
したがって、バリエーションの第3例における複数の溝60Dにおいては、第1溝部67内の油がせん断力Sfの第2分力Sf2により第1溝部67と第2溝部68の接続部69(V字状の溝60Dの角部)に向かって流動すると共に、第2溝部68内の油がせん断力Sfの第2分力Sf2により当該接続部69に向かって流動する。このため、第1溝部67内を流動してきた油と第2溝部68内を流動してきた油とが合流して互いに堰き止めることで動圧が変換されて静圧が上昇する。昇圧された油は、最終的に、複数の溝60Dの接続部69(V字状の溝60Dの角部)からそれぞれ吐出側端面隙間G1(スクリューロータ側)に流出して連なることで、吐出側端面隙間G1において複数の溝60Dの接続部69(角部)に沿って高圧油膜Wを形成する。
【0100】
このように、ケーシングの溝構造(溝群)のバリエーションの第1例~第3例においては、複数の溝60B、60C、60D内の油がスクリューロータの回転に伴うせん断力Sfの作用により流動してから堰き止められることで昇圧された後に吐出側端面隙間G1に流出する。したがって、第1の実施の形態及びその変形例の溝構造と同様に、アキシャル連通路G2と吐出行程の作動室Cd(高圧空間)との間に高圧油膜Wを形成することができ、アキシャル連通路G2を介した内部漏洩を抑制することができる。
【0101】
なお、バリエーションの第3例に係るスクリュー圧縮機は、溝群の複数の溝60Dが、V字状に形成されると共に一方のロータ(雄ロータ2又は雌ロータ3)の周方向にヘリンボーン状に並置され、溝群の複数の溝60Dは、V字形状が一方のロータ(雄ロータ2又は雌ロータ3)の回転方向とは逆方向に開くように構成されていることを特徴とするものである。
【0102】
[第2の実施の形態及びその変形例の溝構造のバリエーション]
次に、第2の実施の形態及びその変形例に係るスクリュー圧縮機におけるスクリューロータの溝構造(溝群)のバリエーションについて
図19A~
図19Fを用いて例示説明する。
図19A、
図19B、
図19C、
図19D、
図19E、
図19Fはそれぞれ本発明の第2の実施の形態及びその変形例に係るスクリュー圧縮機におけるスクリューロータの溝構造のバリエーションの第1例、第2例、第3例、第4例、第5例、第6例を示す図である。
図19A~
図19F中、上方向が対象のスクリューロータ(雄ロータ又は雌ロータ)の径方向外側(外周側)であり、左方向が対象のスクリューロータの回転方向である。
【0103】
第2の実施の形態及びその変形例に係るスクリュー圧縮機1B、1Cにおけるスクリューロータ(雄ロータ2C又は雌ロータ3B)の吐出側端面21c、31cに形成された溝構造(溝群)は、前述の溝70、70Cの他に、多数のバリエーションを採用することが可能である。本溝構造(溝群)は、原理的には、対象のスクリューロータの回転に伴う遠心力又はせん断力の少なくとも一方の作用により溝内の油が流動して当該溝のいずれかの位置で堰き止められる構造であればよい。すなわち、本溝構造(溝群)は、動圧溝として機能するものであればよい。
【0104】
溝構造(溝群)のバリエーションの第1例は、
図19Aに示すように、各溝70Dが直線状でなく湾曲している。溝70Dの湾曲形状は、対象のスクリューロータ(雄ロータ2C又は雌ロータ3B)の径方向に対して、各地点の接線が当該スクリューロータの回転方向とは逆方向に傾斜するように構成されている。これにより、溝70D内の油には、第2の実施の形態及びその変形例の溝70、70Aの場合と同様に、遠心力Cf及びせん断力Sfの第2分力Cf2、Sf2が溝70Dの外周側向かって作用する。
【0105】
したがって、バリエーションの第1例における複数の溝70Dにおいては、第2の実施の形態及びその変形例と同様に、溝70D内の油が遠心力Cf及びせん断力Sfの第2分力Cf2、Sf2により溝70Dの一方側端部(外周側端部)71に向かって流動し、当該端部71おいて堰き止められることで静圧が上昇する。昇圧された油は、最終的に、複数の溝70Dの一方側端部71からそれぞれ吐出側端面隙間G1(ケーシング4の吐出側内壁面49側)に流出して連なることで、複数の溝70Dの一方側端部71に沿って高圧油膜Wを形成する。
【0106】
図19Bに示す溝構造(溝群)のバリエーションの第2例では、各溝70Eは、長手方向が対象のスクリューロータ(雄ロータ2C又は雌ロータ3B)の径方向に沿って直線状に延在するように構成されている。これにより、溝70E内の油に作用する遠心力Cfは、溝70Eの長手方向の成分のみとなる。一方、溝70E内の油に作用するせん断力Sfは、溝70Eの長手方向の成分が0となり、長手方向に直交する方向の成分のみとなる。
【0107】
したがって、バリエーションの第2例における複数の溝70Eにおいては、溝70E内の油が遠心力Cfにより溝70Eの一方側端部(外周側端部)71に向かって流動し、当該端部71おいて堰き止められることで静圧が上昇する。昇圧された油は、最終的に、複数の溝70Eの一方側端部71からそれぞれ吐出側端面隙間G1(ケーシング4の吐出側内壁面49側)に流出して連なることで、複数の溝70Eの一方側端部71に沿って高圧油膜Wを形成する。
【0108】
図19Cに示す溝構造(溝群)のバリエーションの第3例は、各溝70Fが、直線状に形成された長手方向を有する溝本体部74と、溝本体部74に接続され溝本体部64とは異なる形状の付加溝部65とを組み合わせたものである。溝本体部74は、バリエーションの第2例の溝70Eと同様に、長手方向が対象のスクリューロータ(雄ロータ2C又は雌ロータ3B)の径方向に沿って直線状に延在するように構成されている。これにより、溝本体部74内の油には、バリエーションの第2例の溝70Eの場合と同様に、遠心力Cfが溝本体部74の外周側に向かって作用する。付加溝部75は、例えば、溝本体部74の外周側端部に接続された短尺状の溝部である。付加溝部65は、油膜Wの形成や圧力上昇、溝60Bへの油の流入などを促す形状や位置を選択可能である。
【0109】
したがって、バリエーションの第3例における複数の溝70Fにおいては、バリエーションの第2例と同様に、溝本体部74内の油が遠心力Cfにより溝70Fの外周側端部である付加溝部75に向かって流動し、付加溝部75において堰き止められることで静圧が上昇する。昇圧された油は、最終的に、複数の溝70Fの外周側端部(付加溝部75)からそれぞれ吐出側端面隙間G1(ケーシング4の吐出側内壁面49側)に流出して連なることで、複数の溝70Fの付加溝部75に沿って高圧油膜Wを形成する。
【0110】
図19Dに示す溝構造のバリエーションの第4例は、大略バリエーションの第3例と同様な構成であるが、溝本体部74Gの長手方向の向きが異なっている。具体的には、溝本体部74Gは、対象のスクリューロータ(雄ロータ2C又は雌ロータ3B)の径方向に対して、溝本体部74Gの他方側端部(内周側端部)72を基点として当該スクリューロータの回転方向とは逆方向に傾斜するように構成されている。これにより、溝本体部74G内の油には、バリエーションの第3例の溝本体部74とは異なり、遠心力Cf及びせん断力Sfの第2分力Cf2、Sf2が溝本体部74Gの外周側に向かって作用する。付加溝部75は、バリエーションの第3例の場合と同様である。
【0111】
したがって、バリエーションの第4例における複数の溝70Gにおいては、溝本体部74G内の油が遠心力Cf及びせん断力Sfにより溝70Gの外周側端部である付加溝部75に向かって流動し、付加溝部75において堰き止められることで静圧が上昇する。昇圧された油は、最終的に、複数の溝70Gの付加溝部75に沿って高圧油膜Wを形成する。
【0112】
図19Eに示す溝構造のバリエーションの第5例は、各溝70HがV字状に形成されており、複数の溝70Hが対象のスクリューロータ(雄ロータ2C又は雌ロータ3B)の周方向にヘリンボーン状に並置されている。各溝70Hは、V字形状が対象のスクリューロータの回転方向に対して同一方向に開くように形成されている。
【0113】
すなわち、溝70Hは、V字の一方側の第1溝部77と、第1溝部77よりも対象のスクリューロータの径方向外側に位置するV字の他方側の第2溝部78とで構成されている。第1溝部77が対象のスクリューロータの径方向に対してスクリューロータの回転方向とは逆方向に傾斜するように構成されている一方、第2溝部78が対象のスクリューロータの径方向に対してスクリューロータの回転方向と同じ方向に傾斜するように構成されている。また、各溝70Hは、第1溝部77と第2溝部78との接続部79(V字状の角部)が対象のスクリューロータの或る回転位置でアキシャル連通路G2と吐出行程の作動室Cdとの間に位置するように構成されている。
【0114】
第1溝部77内の油には、第2の実施の形態及びその変形例の溝70、70Cの場合と同様に、遠心力Cf及びせん断力Sfの第2分力Cf2、Sf2が第1溝部77の外周側に向かって作用する。また、第2溝部78内の油には、第2の実施の形態及びその変形例の溝70、70Cの場合とは異なり、せん断力Sfの第2分力Sf2が第2溝部78の内周側に向かって作用する一方、遠心力Cfの第2分力Cf2が第2溝部78の外周側に向かって作用する。そこで、70Hの第2溝部78は、せん断力Sfの第2分力Sf2が遠心力Cfの第2分力Cf2よりも大きくなるように、第2溝部78のスクリューロータの径方向に対する傾斜角を設定する。
【0115】
したがって、バリエーションの第5例における複数の溝70Hにおいては、第1溝部77内の油が遠心力Cf及びせん断力Sfにより第1溝部77と第2溝部78の接続部79(V字状の溝70Hの角部)に向かって流動すると共に、第2溝部78内の油がせん断力Sfにより当該接続部79に向かって流動する。このため、第1溝部77内を流動してきた油と第2溝部78内を流動してきた油とが互いに堰き止めることで静圧が上昇する。昇圧された油は、最終的に、複数の溝70Hの接続部79(角部)に沿って高圧油膜Wを形成する。
【0116】
このように、スクリューロータの溝構造(溝群)のバリエーションの第1例~第5例においては、複数の溝70D、70E、70F、70G、70H内の油がスクリューロータの回転に伴う遠心力Cf及びせん断力Sfの少なくとも一方の作用により流動してから堰き止められることで昇圧された後に吐出側端面隙間G1に流出する。したがって、第2の実施の形態及びその変形例の溝構造と同様に、アキシャル連通路G2と吐出行程の作動室Cd(高圧空間)との間に高圧油膜Wを形成することができ、アキシャル連通路G2を介した内部漏洩を抑制することができる。
【0117】
なお、バリエーションの第5例に係るスクリュー圧縮機は、溝群の複数の溝70Hが、V字状に形成されると共に一方のロータ(雄ロータ2又は雌ロータ3)の周方向にヘリンボーン状に並置され、溝群の複数の溝70Hは、V字形状が一方のロータ(雄ロータ2又は雌ロータ3)の回転方向に対して同じ方向に開くように構成されていることを特徴とするものである。
【0118】
また、
図19Fに示す溝構造のバリエーションの第6例は、各溝70Jの深さが一定でなく対象のスクリューロータ(雄ロータ2C又は雌ロータ3B)の径方向で変化するように構成されている。具体的には、溝70Jは、その深さが長手方向の他方側端部72から一方側端部71(対象のスクリューロータの内周側から外周側)に向かって徐々に浅くなるように形成されている。すなわち、溝70Jは、他方側端部72から一方側端部71に向かって徐々に容積が小さくなっている。このため、溝70J内の他方側端部72側の油の容積(質量)が一方側端部71側の油の容積(質量)よりも大きくなる。このため、溝70J内の他方側端部72側の油に作用する遠心力は、その質量が大きい分、一方側端部71側の油に作用する遠心力よりも大きくなる。したがって、溝70J内の一方側端部71により堰き止められた油が吐出側端面隙間G1(9ケーシングの吐出側内壁面49側)に流出しやすくなる。
【0119】
[その他の実施の形態]
なお、上述した実施の形態においては、空気を圧縮するスクリュー圧縮機1、1A、1B、1Cを例に挙げて説明したが、アンモニアやCO2の冷媒など、各種気体を圧縮するスクリュー圧縮機に本発明を適用することができる。また、給油式のスクリュー圧縮機1、1A、1B、1Cを例に挙げて説明したが、油以外の液体が供給されるスクリュー圧縮機にも本発明を適用することができる。シーリング性能や液体膜形成の容易さ等の観点から油が好適であるが、液体膜を形成するのに十分な特性を持つ各種の液体、例えば、水で代替可能である。
【0120】
また、作動室内部に油等の液体が給液されない、無給液式のスクリュー圧縮機に対しても同様に、各実施の形態の溝構造を適用可能である。無給液式の場合は、ロータの吐出側端面またはケーシングの吐出側内壁面の溝内に油がない代わりに圧縮空気が存在する。
【0121】
一例として
図6、
図7を用いて説明する。油を空気に置き換えると、溝60内に存在する空気には、相対速度を有し対向する雌ロータ3の吐出側端面31cとの摩擦によってせん断力Sfが働く。溝60内の空気は、せん断力Sfと溝60の壁面の反力により力を受け、溝60の長手方向に沿って雌ロータ3の外周側に向かって流動する。溝60の一方側端部61において堰き止められ、結果として吐出側端面隙間G1に流出する。それゆえ、吐出側端面隙間G1において、溝60の一方側端部61の近傍に、周囲に比べて相対的に空気の圧力の高い領域Wが生じる。
【0122】
端面隙間を介した空気の内部漏洩量は、上流側の高圧の作動室と下流側の端面隙間の間の圧力差が大きいほど増加する特性にある。前述のように溝60を設けた場合、吐出側端面隙間G1において溝60の一方側端部61近傍の圧力が上昇するため、吐出行程の作動室Cdと吐出側端面隙間G1との間の圧力差が、溝60が無い場合に比べて減少する。したがって、溝60を設けることで、空気の内部漏洩を抑制することが可能となる。
【0123】
また、本発明は、上述した実施の形態に限られるものではなく、様々な変形例が含まれる。上記した実施形態は本発明をわかり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。すなわち、ある実施形態の構成の一部を他の実施の形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施の形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加、削除、置換をすることも可能である。
【0124】
例えば、第1の実施の形態の構成とその変形例の構成とを組み合わせることが可能である。すなわち、ケーシングの吐出側内壁面49の遮蔽領域49aに設けた溝群(溝構造)は、雄ロータ2の周方向に並置された複数の溝60により構成された第1溝群(第1の実施の形態の溝構造)と、雌ロータ3の周方向に並置された複数の溝60Aにより構成された第2溝群(第1の実施の形態の変形例の溝構造)とを有している。第1溝群と第2溝群の複数の溝60、60A同士を互いに干渉しないように配置することで、第1の実施の形態及びその変形例の両方の効果を得ることができる。
【0125】
また、第1の実施の形態の構成に第2の実施の形態の変形例の構成を組み合わせることが可能である。すなわち、ケーシングの吐出側内壁面49の遮蔽領域49aに設けた複数の溝60により構成された第1溝群(第1の実施の形態の溝構造)に加えて、雄ロータ2Cの吐出側端面21cに複数の溝70Cにより構成された第3溝群(第2の実施の形態の変形例の溝構造)を設けることが可能である。第1溝群と第3溝群の溝60、70C同士を互いに干渉しないように配置することで、第1の実施の形態及び第2の実施の形態の変形例の両方の効果を得ることができる。
【0126】
また、第1の実施の形態の変形例の構成に第2の実施の形態の構成を組み合わせることが可能である。すなわち、ケーシングの吐出側内壁面49の遮蔽領域49aに設けた複数の溝60Aにより構成された第2溝群(第1の実施の形態の変形例の溝構造)に加えて、雌ロータ3Bの吐出側端面31cに複数の溝70により構成された第4溝群(第2の実施の形態の溝構造)を設けることが可能である。第2溝群と第4溝群の溝60A、70同士を互いに干渉しないように配置することで、第1の実施の形態の変形例及び第2の実施の形態の両方の効果を得ることができる。
【0127】
また、第2の実施の形態の構成と第2の実施の形態の変形例の構成とを組み合わせることが可能である。すなわち、スクリューロータの吐出側端面に設けた溝群(溝構造)は、雄ロータ2Cの吐出側端面21cに設けた複数の溝70Cにより構成された第3溝群(第2の実施の形態の変形例の溝構造)と、雌ロータ3Bの吐出側端面21cに設けた複数の溝70により構成された第4溝群(第2の実施の形態の溝構造)とを有している。第3溝群と第4溝群の複数の溝70、70C同士を互いに干渉しないように配置することで、第2の実施の形態及びその変形例の両方の効果を得ることができる。
【0128】
また、上述した実施の形態においては、溝を設けたケーシング又は雌雄ロータの加工法として、例えば、成形加工や切削加工等の加工法を用いることが可能である。しかし、溝を設けるケーシングまたはロータ若しくはその両方を三次元造型機によって製造することも可能である。三次元造型機に利用するデータは、CADやCGソフトウェア又は3Dスキャナで生成した3DデータをCAMによってNCデータに加工することで生成する。該データを3次元造形機に任意の方法で入力することで造形を行う。なお、CAD/CAMソフトウェアによって、3Dデータから直接NCデータを生成しても良い。
【符号の説明】
【0129】
1、1A、1B、1C…スクリュー圧縮機、 2、2C…雄ロータ、 3、3B…雌ロータ、 4、4A、4B…ケーシング、 21c…吐出側端面(第1の吐出側端面)、 21e…後進面、 31c…吐出側端面(第2の吐出側端面)、 31e…後進面、 45…収容室、 49…吐出側内壁面、 49a…遮蔽領域、 60、60A、60B、60C、60D…溝、 64…溝本体部、 65…付加溝70、70C、70D、70E、70F、70G、70H、70J…溝、 74、74G…溝本体部、 75…付加溝部、 G2…アキシャル連通路、 D1…雄ロータの外径線、 D2…雌ロータのピッチ円、 A1…中心軸線(第1中心軸線)、 A2…中心軸線(第2中心軸線)