(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-17
(45)【発行日】2024-05-27
(54)【発明の名称】痙縮および関連障害のための治療戦略としてのニューロンのNKCC1の調節
(51)【国際特許分類】
A61N 1/36 20060101AFI20240520BHJP
【FI】
A61N1/36
(21)【出願番号】P 2020550690
(86)(22)【出願日】2019-03-22
(86)【国際出願番号】 US2019023675
(87)【国際公開番号】W WO2019183536
(87)【国際公開日】2019-09-26
【審査請求日】2022-03-09
(32)【優先日】2018-03-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】507248826
【氏名又は名称】リサーチ ファウンデイション オブ ザ シティー ユニヴァーシティ オブ ニューヨーク
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【氏名又は名称】中西 基晴
(74)【代理人】
【識別番号】100141265
【氏名又は名称】小笠原 有紀
(72)【発明者】
【氏名】アフメド,ザグルール
【審査官】長部 喜幸
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-503537(JP,A)
【文献】国際公開第2016/209997(WO,A1)
【文献】特表2008-535836(JP,A)
【文献】特表2013-536178(JP,A)
【文献】特表2015-528470(JP,A)
【文献】PEI-CHUN HSIEH; ET AL,EFFECT OF ACETAZOLAMIDE FOR LONG-LASTING PAROXYSMAL DYSTONIA IN A PATIENT WITH 以下備考,NEUROPSYCHIATRIC DISEASE AND TREATMENT,2013年04月03日,VOL:9,PAGE(S):445 - 448,https://doi.org/10.2147/NDT.S43688,MULTIPLE SCLEROSIS: A CASE REPORT AND REVIEW OF LITERATURE
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 45/00
A61K 41/00-41/17
A61N 1/00-1/44
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脊椎動物における痙縮、緊張亢進、ジストニア、ALSまたは神経の興奮性亢進を処置するためのシステムであって、
脊椎動物における痙縮、緊張亢進、ジストニア、ALSまたは神経の興奮性亢進に関連する末梢神経の末梢直流刺激を提供するように構成された第1の刺激要素であって、前記末梢神経を刺激するように構成された神経刺激電極を有する神経刺激回路を含む、第1の刺激要素;
前記末梢神経の調節に関連する脊髄の場所に、
経皮脊髄直流刺激を提供するように構成された第2の刺激要素であって、前記第2の刺激要素は、活性脊髄刺激電極および脊髄参照電極を有する脊髄刺激回路を画定し、前記脊髄刺激回路は、前記
活性脊髄刺激電極と前記脊髄参照電極との間に、前記脊髄の場所を刺激するための経皮脊髄直流刺激を提供するように構成されており、前記活性脊髄刺激電極は、相対的に前記脊髄の場所の近位にあり、前記脊髄参照電極は、相対的に前記脊髄の場所の遠位にある、第2の刺激要素;および
前記活性脊髄
刺激電極および前記神経刺激電極を逆の極性で動作させ、結果として分極回路が形成されることを確定するように構成されたコントローラー要素であって、得られた分極回路は、分極電流フローに従って、標的分子の遺伝子発現および/またはタンパク質発現の生物学的活性またはレベルを変化させるために、前記逆の極性に従って、前記活性脊髄
刺激電極と前記神経刺激電極との間に分極電流フローを提供するように構成される、コントローラー要素、
を含み、
前記コントローラー要素はまた、予め決定された期間にわたる末梢直流刺激および
経皮脊髄直流刺激、ならびに予め決定された日数にわたる予め決定された回数の繰り返しの刺激を提供するように構成されており、
前記予め決定された期間、前記予め決定された回数および前記予め決定された日数は、NKCC1の遺伝子発現および/またはタンパク質発現の生物学的活性またはレベルを変化させるように選択される、上記システム。
【請求項2】
前記コントローラー要素が、定電流、連続電流、パルス電流、間欠電流、可変および不変の電流フローの少なくとも1つを含む前記
分極電流フローを提供するように構成される、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記コントローラー要素がさらに、第1および第2の刺激要素によって供給される電流の範囲を同時に制御するように構成される、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
ウェアラブルなハウジングをさらに含み、コントローラー要素および電源のうち少なくとも1つが、ウェアラブルなハウジングに配置されており、前記電極のうちの1つの電極は、前記分極回路を形成するために、前記ウェアラブルなハウジングによってウェアラブルで取り付け可能な表面として提供されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
NKCC1の遺伝子発現および/またはタンパク質発現の前記生物学的活性または前記レベルが、減少される、請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
前記コントローラー要素は、前記活性脊髄
刺激電極と前記神経刺激電極との間の分極電流フローを制御するように構成されており、かつ、予め決定された期間にわたる、前記脊髄を通過する刺激、頭蓋を通過する刺激、または前記末梢神経を通過する刺激の少なくとも1つのための直流のフローを提供するようにも構成されている、請求項1に記載のデバイス。
【請求項7】
前記第1の刺激要素が、脊椎動物において、i)末梢神経に沿って複数の場所に末梢神経の末梢直流刺激、およびii)複数の末梢神経の末梢直流刺激の少なくとも1つを提供するように構成された複数のA刺激要素であり、前記A刺激要素のそれぞれは、前記末梢神経または複数の末梢神経を刺激するように構成された神経刺激電極を有する神経刺激回路を含み;および
前記第2の刺激要素が、
前記末梢神
経の調節に関連する脊髄の場所に、
経皮脊髄直流刺激を提供するように構成された複数のB刺激要素である、請求項1に記載のシステム。
【請求項8】
複数の端子を有する直流電圧源;
複数のA電極を前記直流電圧源に接続するための、複数のA端子であって、前記複数のA電極は、脊椎動物の脊髄の背側面の複数の場所または脊椎動物の頭蓋上の複数の場所にある、複数のA端子;および
複数のB電極を前記直流電圧源に接続するための、複数のB端子であって、前記複数のB電極は前記複数のA電極から離れた位置に設置され、前記AおよびB電極は逆に帯電されている、複数のB端子;
を含み、
前記コントローラー要素が、前記活性脊髄
刺激電極と前記神経刺激電極との間の分極電流フローを制御するように構成されており、
システムがさらに刺激デバイスとして構成されている、請求項7に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
[001]本出願は、2018年3月22日付けで出願された62/646,574号の優先権を主張し、これはすべての目的のために参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
分野
[002]本発明は、痙縮(spasticity)、緊張亢進(hypertonia)、またはジストニア(dystonia)を処置するための方法およびシステムに関する。
【背景技術】
【0003】
[003]脊髄の興奮性亢進は、脊髄損傷(SCI)後によくみられ、患者の少なくとも3分の1において問題となる(Holtzら、2017)。脊髄の興奮性亢進はまた、様々な神経学的状態および障害においても存在する。痙縮は、筋肉の伸張により誘発される感覚入力後の筋肉の不随意収縮の一形態であり、伸張の速度に対して高度な感受性を有する一次的な終結(BrownおよびMatthews、1966)に起因する速度依存性の現象として特徴付けられている(Lance、1990)。速度依存性の痙縮は、SCI後のラット(Bennettら、1999;Boseら、2002;Vlarsalaら、2005)およびマウス(Ahmed、2014)でも発症する。痙縮は、その特徴のために、機能的運動に負に干渉する(KnutssonおよびRichards、1979;Lamontagneら、2001)。痙縮は、疼痛や疲労、睡眠障害を引き起こす可能性があり、歩くこと、座ること、および風呂に入ることなどの日常的な活動を制限する可能性があり、リハビリテーションの努力をくじけさせる可能性がある。したがって、痙縮は、個体の生活の質に負の影響を与え、新規の治療的介入が必要である。
【発明の概要】
【0004】
[004]本発明は、1つまたはそれより多くの実施態様において、ヒトおよび他の生物などの動物における1つまたはそれより多くの場所に直流源を適用することによって、痙縮、緊張亢進またはジストニアを処置するための方法、デバイスおよびシステムを対象とする。直流適用のための場所としては、脊柱、末梢神経および頭蓋が挙げられる。
【0005】
[005]痙縮の永続的な低減は、脊髄反射の速度依存性抑制(rate-dependent depression)の増強との関連が示され、アノード経皮脊髄直流刺激(trans-spinal direct current stimulation:tsDCS)後、地上および巧緻運動が改善された。本明細書において、SCI誘発後に痙縮を呈示するマウスにおいて、ニューロンNa-K-Cl共輸送体アイソフォーム1(NKCC1)が有意にアップレギュレーションされることが示される。マウスをアノードtsDCSで処置した場合、NKCC1のダウンレギュレーションが検出され、このダウンレギュレーションは、傷害を受けていない対照マウスと有意に異ならないレベルへのダウンレギュレーションであった。したがって、1つまたはそれより多くの実施態様において、本発明は、少なくとも、本明細書で開示される方法、システムおよびデバイスを介したNKCC1のダウンレギュレーションおよび/またはNKCC1活性の阻害による痙縮の長期にわたる低減を対象とする。
【0006】
[006]本開示の他の特徴および利点は、以下に示すそれらの好ましい実施態様の説明、および特許請求の範囲から明らかであると予想される。別段の指定がない限り、本明細書において使用される全ての専門用語や科学用語は、本開示が属する分野の当業者により一般的に理解されるのと同じ意味を有する。本発明の開示の実施または試験において、以下では好適な方法および材料を後述するが、本明細書に記載されたものに類似のまたは均等な方法および材料を使用できる。本明細書において引用された全ての公開された外国特許および特許出願は、参照により本明細書に組み入れられる。本明細書において引用された全ての他の公開された参考文献、文書、原稿および科学文献は、参照により本明細書に組み入れられる。加えて、材料、方法、および実施例は、単なる例示であり、限定することは意図されない。
【0007】
[007]適用可能な場合、または具体的に権利放棄しない限り、本明細書に記載されるいずれの実施態様も、たとえ実施態様が本開示の異なる側面で記載されていたとしても、他のいずれか1つ以上の実施態様と組み合わせることができることが意図されている。
【0008】
[008]これらおよび他の実施態様は、以下の詳細な説明に開示され、および/または含まれる。
[009]以下の詳細な説明は、一例として示され、記載された具体的な実施態様のみに本開示を限定することは意図されない。以下の詳細な説明は、以下に示す添付の図面との組み合わせで最もよく理解されるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】[010]
図1A~1Dは、マウスにおいて痙縮を試験するための機構および手順を示す。
図1A(左)は、ステッパーモーター、運動アーム、等尺性力変換器、およびマウスホルダーで構成される伸張器具を描写する。システムをコンピューターソフトウェアによって制御した。
図1A(右)は、どのように肢がマウスホルダーに配置されるのかを示す。
図1Bは、速度1=18度/秒;速度2=180度/秒;および速度3=1800度/秒で記録された筋肉抵抗のトレースの代表例である。左側のトレースは、覚醒している動物からのものであり、一方で右側のトレースは、イソフルラン投与により眠っている動物から得た。
図1Cの下の2つのトレースは、EMGとEMGの二乗平均平方根を示す。
*は、深い麻酔中のEMGを意味する。
図1Dは、覚醒しているおよび眠っているマウスで記録された速度1での力のトレースを重ね合わせることにより、測定された活性抵抗、上昇スロープ、およびピークに対するイソフルランの作用を示す。
【
図2】[011]
図2A~2Dは、tsDCSでの繰り返しの処置が、SCIを有するマウスにおいて痙縮の経時的な低減をもたらすことを表す。動物を4つのグループ:アノードtsDCSグループ(n=16);カソードtsDCSグループ(n=15);偽処置グループ(n=10)、および無傷対照グループ(n=8)に分けた。A~C、アノードtsDCSは、ピーク筋肉抵抗(
図2A)、上昇スロープ(
図2B)、EMG面積(
図2C)、およびEMG振幅(
図2D)において有意な低減を引き起こした。
図2B~2Dについて、カソードおよび偽処置は、有意に異なっていなかった。“p<0.05、ホルム-シダック(Holm-Sidak)法。データは、平均±SEMとして提示される。
【
図3】[012]
図3A~3Eは、tsDCSでの繰り返しの処置が、歩行パターンにおける変化を引き起こすことを描写する。
図3Aは、DigiGaitシステムの一般的な機構を表す。歩行を2つの速度:10cm/秒および20cm/秒で試験した。右上に典型的な記録と、それに対応する上昇スロープ、ピークの肢面積、および標識された下降スロープデータを示す。下の記録は、各グループの代表的な動物からの立脚期を表す。
図3Bは、どのように対照の健康な動物を、2週間のインターバルを挟んだ2回の試験で評価したかを示す。灰色のバーは、左後肢(LHL)のデータを表し、青色のバーは、右後肢(RHL)のデータを表す。E1、E2:方法を参照されたい。対照動物は、どちらの肢についても、E1とE2との間で肢面積、上昇スロープ、または下降スロープにおける差を呈示しなかった。
図3Cは、どのように偽処置動物が、遅い速度でE1~E3の間にLHLの肢面積の有意な減少を呈示したかを示す(p=0.009)。RHLの肢面積は減少しなかった。LHLの場合、肢面積は、E1~E3の間により速い速度で有意に減少したが(p=0.005)、RHLは有意に変化しなかった。LHLの場合、上昇スロープは、E1において遅い速度で有意に減少し(p=0.039)、RHLの場合は有意に減少しなかった。より速い速度で、上昇スロープは、いずれの後肢でも有意に変化しなかった。遅い速度で、下降スロープは、いずれの後肢でも有意に減少しなかった。その一方で、より速い速度で、LHLの場合、下降スロープは、E1~E3の間に有意に減少し(p=0.012)、RHLの場合は有意に減少しなかった。
*p<0.05、ホルム-シダック法。
図3Dは、どのようにアノードtsDCS処置動物が、LHLについて、遅い速度で、E1~E3の間に肢面積において有意な増加を示し、一方でRHLについて、E1およびE2の間のみ有意な増加を示したかを示す(両方の後肢について、p<0.001)。肢面積は、LHLとRHLの両方で、より速い速度でE1中に有意に増加した(それぞれp<0.001)。上昇スロープは、RHLの場合、遅い速度でE1およびE2中に有意に増加したが(p=0.002)、LHLの場合は増加しなかった。上昇スロープは、RHLの場合のみ、より速い速度でE1中に有意に増加した(p=0.011)。下降スロープは、LHLおよびRHLの場合、遅い速度でE1およびE2中に有意に増加した(それぞれp<0.001)。下降スロープは、RHLの場合のみ、より速い速度でE1中に有意に増加した(p<0.001)。
*p<0.05、ホルム-シダック法。最後に
図3Eは、どのようにカソードtsDCS処置動物が、遅い速度で、ベースラインと比較してE1中に肢面積において有意な増加を示したが(LHL:p<0.001;RHL:p<0.001)、E2またはE3中に有意な増加を示さなかったかを描写する。E1~E3において、より速い速度で、肢面積における有意な変化は観察されなかった。上昇スロープも両方の速度において不変のままであった。下降スロープは、LHLの場合、E1およびE2中に有意に増加し(p<0.001)、RHLについては、E1の間のみ有意に増加した(p=0.025)。
*p<0.05、ホルム-シダック法。より速い速度で、下降スロープにおける有意な変化はなかった。データは、平均±SEMとして提示される。
【
図4】[013]
図4A~4Cは、繰り返しのアノード処置後の運動制御の回復の強化を呈示する。
図4Aの左の部分は、ラダー-ホイールの画像を示し、
図4Bの右の部分は、左後肢による全体のミスを示す連続したフレーム(1~3)を示す。
図4Bは、評価した4つのタイムポイントの巧緻運動の平均スコアを示す棒グラフを描写する(方法を参照)。偽処置した、偽SCIグループ;アノードtsDCSで7日にわたり1日1回処置したアノードSCIグループ;カソードtsDCSで7日にわたり1日1回処置したカソードSCIグループ;健康、傷害なし/処置なし;
図4Cは、E2~E4にわたる評価前または健康対照についての最初の評価(評価前(Pre-eval))からの変化パーセントの棒グラフを示す。データは、平均±SEMとして提示される。評価前と比較して、
*p<0.05。
【
図5】[014]
図5A~5Fは、tsDCS刺激の繰り返しのセッション後のホフマン反射のRDDを要約する。
図5Aの左の部分は、SCIを有する動物における痙縮の観察可能な特徴(足指の開扇現象)を示す。右:記録のセットアップ:SE、刺激電極;RE、記録電極。一番右側に示される2つの記録トレースは、測定したままのトレース(上)および二乗平均平方根で計算したトレース(下)を表す。
図5Bは、深い麻酔中(青色)および麻酔注射の45分後(オレンジ色)の呼吸数(RR)を示す。
図5Cの上のセクションは、深い麻酔中(青色)および麻酔注射の45分後(オレンジ色)の心拍数(HR)を示す。
図5Cの下のセクションは、RDD試験が行われた際のHRを示す、中断を含む全記録を示す。
図5Bは、深い麻酔(深)とそれに対する軽い麻酔(軽)でRDDを試験したときに生じた変化を描写する。E、左:示されたグループからの代表的な記録。
図5Fの左の部分は、示された各グループの平均RDDの棒グラフを示す。RDDは、対照グループ(n=12)において、レート0.1Hzと比較して、レート1~5Hzでより有意に高かった(p<0.001)。
図5Fの右の部分は、5HzにおけるRDDの示されたグループの累積確率分布を示す。“同じグループにおける0.1HzにおけるRDDからの有意差;
**偽グループにおけるそれぞれのRDDからの有意差。データは、平均±SEMとして提示される。
【
図6】[015]
図6A~6Bは、繰り返しのtsDCS後にKCC2、p-KCC2、NKCC1、およびp-NKCC1に関して検出された発現における変化を示す。実験グループからの代表的な動物をランダムに選択して、これらの分子の変化を調査した。
図6Aの左の部分は、対照グループと比較して、どのように偽処置グループにおいて、KCC2発現が不変であり、アノードおよびカソード処置グループにおいてわずかに低減したかを示す。
図6Aの右の部分は、対照グループと比較して、どのように偽処置グループにおいてpKCC2発現が中程度に増加し、カソード処置およびアノード処置グループにおいてわずかに低減したかを示す。
図6Bは、どのように偽処置およびカソード処置グループにおいてNKCC1発現が有意に増加したが、アノード処置グループにおけるレベルが、対照グループのレベルと異なっていなかったかを示す。p-NKCC1発現はグループ間で変化しなかった。li-アクチンの検出は、ローディングコントロールとして行われた。
*p<0.05。データは、平均±SEMとして提示される。
【
図7】[016]
図7Aおよび7Bは、無傷マウスにおける1回の刺激セッション後のNKCC1およびp-NKCC1発現を要約する。
図7Aは、NKCC1およびp-NKCC1を検出するために刺激の2時間後に収集されたサンプルで実行されたウェスタンブロットのカラーマップ(上)および元のブロット(下)を示す。カソード対アノード刺激それぞれの後に、偽サンプルと比較して、より高いレベルおよびより低いレベルのNKCC1が検出された。1-アクチンの検出は、ローディングコントロールとして行われた。
図7Bは、p-NKCCI/全NKCC1の比率の計算を含む
図7Aからのバンド密度データの棒グラフを示す。
*p<0.05。データは、平均±SEMとして提示される。
【
図8】[017]
図8A~8Cは、アノードtsDCSによって誘発されたHSP70応答を示す。アノードtsDCSは、NKCC1タンパク質レベルにおける低減をもたらしたが、NKCC1のmRNAレベルにおける低減はもたらさなかったため、HSP70がNKCC1の分解を媒介する可能性を調査した。偽処置した無傷動物から組織サンプルを収集し(
図8A)、2時間後、無傷の麻酔した動物にアノードtsDCSの1回のセッションを受けさせた(
図8B)。次いでこれらのサンプルをHSP70について染色した(緑色)。上、運動ニューロンの核;下、運動ニューロンの拡大画像。アスタリスクは、細胞核を示す。スケールバーが示されている。
図8Cにおいて、ウェスタンブロットは、偽処置サンプルと比べてアノード処置動物サンプルにおけるHSP70発現において有意な矛盾のない増加を示した(
*p=0.03)。I3-アクチンの検出をローディングコントロールとして実行した。カラーマップと元のブロットの両方が示されている。下:1037の偽およびアノードサンプルにおけるj3-アクチンに対するHSP70の平均バンド密度を表す棒グラフ。
【
図9】[018]
図9A~9Fは、どのようにNKCC1ブロッカーであるブメタニドがSCIを有する動物において痙縮を低減させたかを要約する。低速(
図9A)および高速(
図9B)での筋肉抵抗(左)および併発のEMG(右)の代表的なトレースを示す。
図9B/9Cおよび
図9E/9Fにおいて、棒グラフは、ブメタニド注射後の、各場合における、それぞれ低速および高速での筋肉抵抗および併発のEMGにおける減少を示す(n=9匹のマウス)。EMGの負の値は、伸長前のバックグラウンド活性に対する、伸張により生じたEMGの抑制を示す。データは、平均±SEMとして提示される。ベースライン2と比較して、
*p<0.05(BL2は、第1のベースライン(BL1)の5分後に測定された)。
【
図10】[019]
図10は、現行の研究で試験された実験モデルの細胞内塩化物濃度に関係したKCC2およびNKCC1のタンパク質発現におけるtsDCSによって媒介される変化を示す図解を含む。健康対照において、NKCC1のレベルは、KCC2のレベルより低く、それによってClのより低い細胞内濃度がもたらされた。しかしながら、偽およびカソード処置グループに含まれるSCIを有する痙縮の動物において、NKCC1はアップレギュレーションされ、それによって細胞内Clの増加および脱抑制が起こることが見出された。対照的に、アノードtsDCS処置動物は、より低いレベルのNKCC1を有し、抑制は回復した。
【
図11】[020]
図11は、標的領域のアノードによる経頭蓋直流刺激の代表例の図解である。アノードおよびカソードの正確な場所は、処置される疾患のタイプおよび標的化される頭蓋領域に依存する。
【
図12】[021]
図12は、深い脳構造のための提唱される刺激の処方(例えば、基底核を刺激するための)のグラフ表示である。提唱される様式は、約10秒の持続時間にわたる、刺激間に約30秒のインターバルを有する約10mAの強度でのロングパルスの単極直流(DC)である。処置時間は、約20~30分であることが提唱される。
【
図13A】[022]
図13Aは、脊髄に(背側から腹側に)経皮脊髄直流刺激(tsDCS)を適用するように構成された本発明の刺激システムの実施態様を示す。
【
図13B】[023]
図13Bは、本発明の刺激システムの態様の実施における電極列を示す。
【
図14】[024]
図14Aは、患者に貼り付けたウェアラブルなtsDCSデバイスの実施態様を示す。
図14Bおよび14Cは、それぞれ、
図14Aのウェアラブルなデバイスの実施態様の平面図および側面図を示す。
【
図15】[026]
図15は、高い筋緊張で長期間握った手指をほどくための正中神経を調節するための、これらの教示の実施態様を例示する。
【
図16】[027]
図16は、これらの教示の例示的な実施態様のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[028]以下の記載は、限定的な意味で解釈されず、単にこれらの教示の一般原則を例示する目的のためになされたものであり、これらの教示の範囲は添付の特許請求の範囲によって最もよく定義される。
【0011】
[029]上記の例示的及びさらなる実施態様は、以下の図面と共に後述され、図面では、具体的に番号付けされた要素が記載され、本開示の全ての図面に記載されていると認識されるだろう。
【0012】
[030]本明細書で使用される場合、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「その(the)」は、文脈上明らかに別段の指示がない限り、複数形の指示対象を含む。
[031]用語「刺激」は、本明細書で使用される場合、神経線維の興奮または抑制のいずれかを指し、これはまた、アップレギュレーションまたはダウンレギュレーションとも称される。
【0013】
[032]用語「電気刺激」は、本明細書で使用される場合、電圧を適用するかまたは電流を磁気的に誘発させるかにかかわらず、脊髄神経、ニューロン、回路(circuit)もしくは経路(pathway)への電流の生成または導入を指す。
【0014】
[033]直流刺激(DCS)は、直流を使用して、哺乳動物における疾患および障害、特定には脊椎動物の神経系に影響を及ぼす疾患および障害を処置することを包含する非侵襲的方法である。DCSとしては、経皮脊髄直流刺激(tsDCS)、経頭蓋直流刺激(trans-cranial direct current stimulation:tcDCS)および経末梢神経直流刺激(trans-peripheral nerve direct current stimulation:tpnDCS)が挙げられる。
【0015】
[034]経皮脊髄直流刺激(tsDCS)は、直流を使用して脊髄ニューロンを調節する非侵襲的方法である。tsDCSは、脊髄細胞内の特定のタンパク質の発現を誘導または抑制することができる。特定のタンパク質の発現の調節は、痙縮、緊張亢進およびジストニアを低減または緩和することができる。
【0016】
[035]本発明の実施態様によれば、tsDCSは、標的とする脊髄の1つまたは複数の場所の刺激を含む。刺激は、標的とする脊髄の1つまたは複数の場所を含む画定された電流経路に沿って直流を適用することを含む。1つの例示的な実施態様における刺激は、実質的に連続的であり、閾値下のレベルで不変である。別の例示的な実施態様において、刺激は、全体的または部分的に変化する。別の例示的な実施態様において、刺激は、可変の刺激と不変の刺激の組合せを含む。別の例示的な実施態様において、刺激は、刺激のパルスを含む。さらに別の例示的な実施態様において、電流フローが一方向性ではない場合、刺激は、連続的な電流刺激のパルスを含む。
【0017】
[036]経頭蓋直流刺激(tcDCS)は、直流を使用して、脳の細胞を調節(modulate)する非侵襲的方法である。tcDCSは、脳細胞内の特異的なタンパク質の発現を誘導または抑制することができる。特異的なタンパク質の発現の調節は、副腎白質ジストロトフィー(ALD)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、シャルコー-マリー-トゥース病(CMT)、フリードライヒ運動失調症(FA)、ハラーホルデン-スパッツ症候群、遺伝性痙性対麻痺(HSP)、ハンチントン病、フェニルケトン尿症、卒中、脳性麻痺、多発性硬化症、パーキンソン病、パーキンソン症候群を伴う神経変性疾患、新生児発作、てんかん、自閉症、脊髄損傷(SCI)、外傷性脳損傷(TBI)、虚血性および外傷性脳損傷後の脳浮腫、酸欠または一酸化炭素への曝露に起因する脳損傷、脳炎、髄膜炎、慢性疼痛、急性疼痛、ならびに耳鳴りなどの疾患および障害を処置するための治療に役立つ可能性がある。
【0018】
[037]本発明の実施態様によれば、tcDCSは、標的となる頭蓋の1つまたは複数の場所の刺激を含む。刺激は、標的となる頭蓋の1つまたは複数の場所を含む画定された電流経路に沿って直流を適用することを含む。1つの例示的な実施態様における刺激は、実質的に連続的であり、閾値下のレベルで不変である。別の例示的な実施態様において、刺激は、全体的または部分的に変化する。別の例示的な実施態様において、刺激は、可変の刺激と不変の刺激の組合せを含む。別の例示的な実施態様において、刺激は、刺激のパルスを含む。さらに別の例示的な実施態様において、電流フローが一方向性ではない場合、刺激は、連続的な電流刺激のパルスを含む。
【0019】
[038]経末梢神経直流刺激(tpnDCS)は、直流を使用して、末梢神経を調節する非侵襲的方法である。tpnDCSは、末梢神経細胞内の特異的なタンパク質の発現を誘導または抑制することができる。特異的なタンパク質の発現の調節は、痙縮、緊張亢進およびジストニアを低減または緩和することができる。
【0020】
[039]本発明の実施態様によれば、tpnDCSは、標的となる末梢神経の1つまたは複数の場所の刺激を含む。刺激は、標的となる末梢神経の1つまたは複数の場所を含む画定された電流経路に沿って直流を適用することを含む。1つの例示的な実施態様における刺激は、実質的に連続的であり、閾値下のレベルで不変である。別の例示的な実施態様において、刺激は、全体的または部分的に変化する。別の例示的な実施態様において、刺激は、可変の刺激と不変の刺激の組合せを含む。別の例示的な実施態様において、刺激は、刺激のパルスを含む。さらに別の例示的な実施態様において、電流フローが一方向性ではない場合、刺激は、連続的な電流刺激のパルスを含む。
【0021】
[040]本発明の実施において、電極または電極のアレイは、直流源に接続され、目的の領域に設置され、例えば脊髄の背側の面の真上にもしくはその近く、頭蓋上、または末梢神経もしくはその近くのいずれかに設置される。リターン電極または電極のアレイは、それから遠位に設置されて、電流フローの経路を画定する。それらは実行中に体の腹側の面上に存在するが、必ずしも目的の領域に配置された電極と真向いでなくてもよい。直流は、機能および望ましい刺激に応じて、アノードまたはカソードのいずれかとして、目的の領域に配置された処置電極に適用される。
【0022】
[041]以下の用語は、本明細書で提供される本発明の実施態様の説明を限定するものではなく、様々な例示において少なくとも以下の定義を有すると理解されるだろう。
[042]「カソード刺激」は、処置の目的の望ましい領域にカソードが設置されているDCSを指す。
【0023】
[043]「アノード刺激」は、処置の目的の望ましい領域にアノードが設置されているDCSを指す。
[044]「痙縮」は、伸張反射の速度依存性の過活動と定義される。したがって、痙縮は、特定の筋肉が連続的に収縮している状態を指す。この収縮は、筋肉の硬直または緊張を引き起こし、正常な運動、発話、および歩行を妨げる可能性がある。痙縮は通常、脳または脊髄の随意運動を制御する部分への損傷によって引き起こされる。損傷は、神経系と筋肉との間のシグナルの均衡に変化を引き起こす。この不均衡により、筋肉における活動の増大が生じる。
【0024】
[045]「緊張亢進」は、損傷を受けた運動ニューロンの、無秩序な脊髄反射、筋紡錘の興奮性の増加、およびシナプス抑制の減少を引き起こす下行経路を調節する能力が損なわれていることを指す。これらの結果は、症状のある筋肉の異常に増加した筋緊張をもたらす。緊張亢進は、伸張反射の過活動がなくても筋緊張の増加を呈示する患者を含み、したがって緊張亢進は痙縮とは区別される。
【0025】
[046]「ジストニア」は、人の筋肉が制御不能に収縮する運動障害を指す。収縮は、罹患した体の部分の不随意なねじれを引き起こし、結果として繰り返しの運動または異常な姿勢が生じる。ジストニアは、1つの筋肉、筋肉群、または全身に影響を与える可能性がある。ジストニアは、筋肉収縮の開始に関与する脳の一部である基底核における問題に関連するようである。
【0026】
[047]「タンパク質発現」は、細胞または組織中に含有されるまたはそれらによって生産されたタンパク質またはペプチド(例えば排出されたタンパク質またはペプチド)のレベルまたは量を指す。「差次的な発現」、「差次的なタンパク質発現」および「差次的に発現される」は、細胞または組織中に含有されるまたはそれらによって生産されたタンパク質またはペプチドのレベルまたは量における変化を指す。タンパク質発現における変化は、特定の外来のシグナル、例えば化学的なシグナル、機械的なシグナル、または直流刺激に応答して起こり得る。このような発現における変化は、細胞または組織中に含有されるまたはそれらによって生産されたタンパク質またはペプチドのレベルまたは量における増加または減少であり得る。またタンパク質またはペプチドのレベルまたは量における増加は、「アップレギュレーション」とも称され、タンパク質またはペプチドのレベルまたは量における減少は、「ダウンレギュレーション」とも称される。
【0027】
[048]「メッセンジャーRNA発現」(「mRNA発現」)は、細胞または組織中に含有されるmRNAのレベルまたは量を指す。「差次的な発現」、「差次的なmRNA発現」、「差次的な遺伝子発現」および「差次的に発現される」は、細胞または組織中に含有されるmRNAのレベルまたは量における変化を指す。mRNAまたは遺伝子発現における変化は、特定の外来のシグナル、例えば化学的なシグナル、機械的なシグナルまたは直流刺激に応答して起こり得る。このような発現における変化は、細胞または組織中に含有されるmRNAのレベルまたは量における増加または減少であり得る。またmRNAのレベルまたは量における増加は、「アップレギュレーション」とも称され、mRNAのレベルまたは量における減少は、「ダウンレギュレーション」とも称される。用語「mRNA発現」および「遺伝子発現」は、この開示にわたり同義的に使用される。
【0028】
[049]以前の研究では、マウスにおける下腿三頭筋の筋緊張への経皮脊髄直流刺激(tsDCS)の短期作用が検査された(Ahmed、2014)。脊髄刺激は、カソードtsDCSが筋緊張を増加させ、アノードtsDCSが筋緊張を低減させる筋緊張への有意な調節作用をもたらした。しかしながら、これらは麻酔した動物で実行された急性実験であった。それゆえに、例えばどれほど長く脊髄-坐骨DCSによって誘発された脊髄興奮性のリセットを維持できるか、どれほど長くこの手法が筋緊張に影響を与えることになるのか、どのように脊髄-坐骨DCSが、SCI後の非巧緻および巧緻運動の回復に影響を与えるのかという重大な問題が残ったままである。
【0029】
[050]本発明は、脊髄から坐骨へのDCS(アノードtsDCS)が、脊髄興奮性の長期の正常化を引き起こし、それによってSCIを有する脊椎動物における筋緊張の低減の維持と、非巧緻および巧緻運動の回復の改善を促進するという仮説を裏付けるものである。
【0030】
[051]K-Cl共輸送体アイソフォーム2(KCC2)およびNa-K-Cl共輸送体アイソフォーム1(NKCC1)は、神経細胞膜を通過する塩化物イオン(Cl)濃度の確立に関与する(Misgeldら、1986)。GABA-Aおよびグリシン受容体によって媒介される抑制の強さの決定における電気化学的なCl勾配の重要性により、KCC2およびNKCC1のタンパク質レベルまたは活性における不均衡は、興奮性亢進および筋肉の機能不全、特に痙縮を引き起こすと予測されている(Boulenguezら、2010:Modolら、2014)。脊髄または脳の興奮性への直流刺激の長期作用の基礎となる作用機序は、ほとんどわかっていない。tsDCSは、脊髄回路の興奮性における長期変化を引き起こす可能性があると提言されている(Ahmed、2013;Ahmed、2017;BolzoniおよびJankowska、2015;Samaddarら、2016;Songら、2016;WieraszkoおよびAhmed、2016)。それゆえに、本発明は、刺激された脊髄組織におけるNKCC1および/またはKCC2のタンパク質発現における変化によって媒介される筋緊張へのtsDCSの作用を調査した。
【0031】
[052]痙縮を試験するための電気生理学の電動システムと運動器官分析との組合せを使用して、覚醒マウスにおけるSCI後の痙縮に対するtsDCSの長期影響を解明した。加えて、定量リアルタイムPCR(qPCR)、ウェスタンブロッティング、および免疫組織染色を実行して、刺激された脊髄組織におけるNKCC1およびKCC2のタンパク質および/または遺伝子発現における変化を確認した。
【0032】
[053]本発明の例示的な実施態様は、痙縮、緊張亢進またはジストニアの症状を含む、または上昇したNKCC1発現に関連する疾患または障害を処置することを含む。このような疾患および障害の代表例としては、副腎白質ジストロトフィー(ADL)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、シャルコー-マリー-トゥース病(CMT)、フリードライヒ運動失調症(FA)、ハラーホルデン-スパッツ症候群、遺伝性痙性対麻痺(HSP)、ハンチントン病、フェニルケトン尿症、卒中、脳性麻痺、多発性硬化症、パーキンソン病、パーキンソン症候群を伴う神経変性疾患、新生児発作、てんかん、自閉症、脊髄損傷(SCI)、外傷性脳損傷(TBI)、虚血性および外傷性脳損傷後の脳浮腫、酸欠または一酸化炭素への曝露に起因する脳損傷、脳炎、髄膜炎、慢性疼痛、急性疼痛、ならびに耳鳴りが挙げられる。
【0033】
[054]本発明の例示的な実施態様は、痙縮、緊張亢進またはジストニアを処置する方法であって、治療有効量の、NKCC1の生物学的活性を阻害する少なくとも1つの薬剤またはNKCC1の遺伝子発現レベルおよび/もしくはタンパク質発現レベルを減少させる少なくとも1つの薬剤を投与する工程を含む、方法を含む。
【0034】
[055]一部の実施態様において、NKCC1の生物学的活性を阻害する少なくとも1つの薬剤またはNKCC1の遺伝子発現レベルおよび/もしくはタンパク質発現レベルを減少させる少なくとも1つの薬剤は、医薬化合物、タンパク質、抗体、核酸またはそれらの組合せの少なくとも1つである。
【0035】
[056]一部の実施態様において、NKCC1の生物学的活性を阻害する医薬化合物は、スルホンアミド、スルホニル尿素ループ利尿薬、チアジドまたはチアジド様利尿薬の少なくとも1つである。
【0036】
[057]スルホンアミドまたはスルホニル尿素ループ利尿薬の代表例は、アセタゾールアミド、アゾセミド、ブメタニド、クロルタリドン、クロパミド、フロセミド、ヒドロクロロチアジド、インダパミド、メフルシド、メトラゾン、ピレタニド、トリパミド、キシパミド、ジクロルフェナミド、ドルゾラミド、エトクスゾラミド、スルタメ(sultame)、ゾニサミド、トルセミド、フェノキシ酢酸(phenoxyacetic acid)誘導体(エタクリン酸、ムゾリミン)、それらの類似体およびそれらの組合せである。
【0037】
[058]チアジドまたはチアジド様利尿薬の代表例は、ベンドロフルメチアジド(bendoflumethiazide)、ベンズチアジド、クロロチアジド、ヒドロクロロチアジド、ヒドロフルメチアジド、メチクロチアジド(methylclothiazide)、ポリチアジド、トリクロルメチアジド、クロルタリドン、インダパミド、メトラゾン、キネサゾン、それらの類似体およびそれらの組合せである。
【0038】
[059]本明細書で開示される様々な実施態様で使用可能な、NKCC1の生物学的活性を阻害する追加の医薬化合物、加えて、上記で列挙したスルホンアミド、スルホニル尿素ループ利尿薬、チアジドまたはチアジド様利尿薬の類似体は、WO2013/087090およびWO2014/191471に開示されており、両方ともあらゆる目的のために参照によりそれらの全体が本明細書に組み入れられる。
【0039】
[060]標的分子の遺伝子発現を変更するのに使用することができる核酸の代表例としては、RNA、siRNA、shRNA、マイクロRNA、アンチセンスRNA、RNAi、リボザイム、DNAザイム、ペプチド核酸(PNA)、ロックド核酸(LNA)、修飾または合成のDNAまたはRNA分解抵抗性のポリヌクレオシドアミド、アプタマー、トランスポゾン、導入遺伝子および遺伝子工学のためのベクターが挙げられる。一部の実施態様において、本明細書に記載される核酸は、NKCC1の遺伝子発現のレベルを低下または減少させるのに使用され、これが順に、NKCC1タンパク質発現の低下または減少をもたらすことになる。
【0040】
[061]標的分子の生物学的活性または発現を変更するのに使用可能な抗体(そのフラグメントを含む)の代表例としては、モノクローナル抗体(mAb)、ポリクローナル抗体(pAb)、ヒト化抗体、抗原結合フラグメント(Fab)、可変フラグメント(Fv)、一本鎖可変フラグメント(scFv)、組換え抗体(rAb)、Fab’、(Fab’)2、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ、ビス-scFv、ミニボディ、Fab2、Fab3、ラクダ/サメ抗体およびナノボディが挙げられる。一部の実施態様において、本明細書に記載される抗体またはそのフラグメントは、NKCC1の生物学的活性をブロックまたは阻害するのに使用される。
【0041】
[062]標的分子の生物学的活性または発現を変更するのに使用可能な分子の代表例としては、Cas9ヌクレアーゼ、CRISPRガイドRNA、Cpf1ヌクレアーゼ、HiFi Cas9、ニッカーゼCas9、spCas9、scCas9、合成spCas9およびジンクフィンガーヌクレアーゼなどの、遺伝子工学のためのツールであるタンパク質またはタンパク質と核酸との組合せが挙げられる。一部の実施態様において、タンパク質またはタンパク質と核酸との組合せは、NKCC1の遺伝子発現のレベルを低下または減少させるのに使用され、これが順に、NKCC1タンパク質発現の低下または減少をもたらすことになる。
【0042】
[063]痙縮、緊張亢進またはジストニアを処置するための上述の治療剤と組み合わせて使用可能な治療剤の代表例としては、ボツリヌス毒素、短時間作用型の血清型E型ボツリヌス毒素、バクロフェン、ガバペンチン、チザニジン、ジアゼパム、クロナゼパム、ダントロレン、フェノール、クロニジン、ケタゼパム(ketazepam)、MDL28170、リルゾール、カンナビノイド、エンドカンナビノイドおよびそれらの組合せが挙げられる。カンナビノイドおよびエンドカンナビノイドの代表例としては、ドロナビノール、ナビロン、ナビキシモルス、エンドカンナビノイドVNS16R、カンナビジオール(CBD)、テトラヒドロカンナビノール(THC)およびそれらの組合せが挙げられる。
【0043】
[064]本発明の例示的な実施態様は、脊椎動物における障害を処置する方法であって、直流源の第1の電極と第2の電極との間に刺激を適用する工程であって、第1の電極は、脊椎動物の脊髄の背側の面またはその近傍にあるか、または第1の電極は、脊椎動物の頭蓋上にある工程;およびNKCC1の遺伝子発現および/またはタンパク質発現の生物学的活性またはレベルを変化させるのに十分な強度および期間で直流刺激を適用する工程を含み、第2の電極は、第1の電極から離れた位置に設置され、第1および第2の電極は逆に帯電されており、直流は、定電流、連続電流、パルス電流、間欠(intermittent)電流、可変および不変の電流の少なくとも1つである、上記方法を含む。
【0044】
[065]本発明の例示的な実施態様は、脊椎動物における障害を処置する方法であり、これは二重刺激方法であり、直流源の第1の電極と第2の電極との間に第1刺激を適用する工程であって、第1の電極は、脊椎動物の脊髄の背側面またはその近傍にある工程;直流源の第3の電極と第4の電極との間に第2の刺激を適用する工程であって、第3の電極の1つは、脊椎動物の末梢神経またはその近傍にある工程;およびNKCC1の遺伝子発現および/またはタンパク質発現の生物学的活性またはレベルを変化させるのに十分な強度および期間で直流刺激を適用する工程を含み、第2の電極は、第1の電極から離れた位置に設置され、第1および第2の電極は逆に帯電されており、第4の電極は、第3の電極から離れた位置に設置され、第3および第4の電極は逆に帯電されており、直流は、定電流、連続電流、パルス電流、間欠電流、可変および不変の電流の少なくとも1つである、上記方法を含む。
【0045】
[066]二重刺激方法の一部の実施態様において、第1および第2の刺激は、同時に、または順次適用される。
[067]本発明の例示的な実施態様は、脊椎動物における障害を処置する方法であり、これは三重刺激方法であり、直流源の第1の電極と第2の電極との間に第1刺激を適用する工程であって、第1の電極は、脊椎動物の脊髄の背側面またはその近傍にある工程;直流源の第3の電極と第4の電極との間に第2の刺激を適用する工程であって、第3の電極の1つは、脊椎動物の末梢神経またはその近傍にある工程;およびNKCC1の遺伝子発現および/またはタンパク質発現の生物学的活性またはレベルを変化させるのに十分な強度および期間で直流刺激を適用する工程を含み、第2の電極は、第1の電極から離れた位置に設置され、第1および第2の電極は逆に帯電されており、第4の電極は、第3の電極から離れた位置に設置され、第3および第4の電極は逆に帯電されており、直流は、定電流、連続電流、パルス電流、間欠電流、可変および不変の電流の少なくとも1つであり、本方法はさらに、直流源の第5の電極と第6の電極との間に第3の刺激を適用する工程であって、第5の電極は、脊椎動物の頭蓋上である工程をさらに含み、第6の電極は、第5の電極から離れた位置に設置され、第5および第6の電極は逆に帯電されている、上記方法を含む。
【0046】
[068]三重刺激方法の一部の実施態様において、第1、第2および第3の刺激は、同時に、または順次適用される。
[069]末梢神経が刺激される本発明の例において、末梢神経は、骨格筋を刺激する。一部の末梢神経の代表例としては、脚の神経または腕の神経、例えば、これらに限定されないが、坐骨神経、腓骨神経、足底指神経、大腿神経、伏在神経、腓腹神経、脛骨神経、正中神経、筋皮神経、掌側指神経、橈骨神経、および尺骨神経などが挙げられる。
【0047】
[070]単一、二重および三重刺激方法の一部の実施態様において、刺激は、1日またはそれより多くの日における一連の刺激セッションを含む期間にわたり実行され、刺激する日は、連続または非連続である。
【0048】
[071]単一、二重および三重刺激方法の一部の実施態様において、処置される障害は、筋緊張障害、例えば痙縮、脊髄損傷後の痙縮、緊張亢進およびジストニアである。
[072]単一、二重および三重刺激方法の一部の実施態様において、処置される障害は、副腎白質ジストロトフィー(ADL)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、シャルコー-マリー-トゥース病(CMT)、フリードライヒ運動失調症(FA)、ハラーホルデン-スパッツ症候群、遺伝性痙性対麻痺(HSP)、ハンチントン病、フェニルケトン尿症、卒中、脳性麻痺、多発性硬化症、パーキンソン病、パーキンソン症候群を伴う神経変性疾患、新生児発作、てんかん、自閉症、脊髄損傷(SCI)、外傷性脳損傷(TBI)、虚血性および外傷性脳損傷後の脳浮腫、酸欠または一酸化炭素への曝露に起因する脳損傷、脳炎、髄膜炎、慢性疼痛、急性疼痛、ならびに耳鳴りなどの神経障害または状態である。
【0049】
[073]単一、二重および三重刺激方法の一部の実施態様において、NKCC1の遺伝子発現および/またはタンパク質発現の生物学的活性またはレベルが、減少される。
[074]単一、二重および三重刺激方法の一部の実施態様において、本方法はさらに、治療有効量の、NKCC1の生物学的活性を阻害する少なくとも1つの薬剤またはNKCC1の遺伝子発現レベルおよび/もしくはタンパク質発現レベルを減少させる少なくとも1つの薬剤を投与する工程を含む。
【0050】
[075]単一、二重および三重刺激方法の一部の実施態様において、本方法はさらに、治療有効量の、KCC2の生物学的活性を増加させる少なくとも1つの薬剤またはKCC2の遺伝子発現レベルおよび/またはタンパク質発現レベルを増加させる少なくとも1つの薬剤を投与する工程を含む。
【0051】
[076]一部の実施態様において、薬剤は、医薬化合物、タンパク質、抗体、核酸またはそれらの組合せである。
[077]一部の実施態様において、KCC2の生物学的活性を増加させる医薬化合物は、N-エチルマレイミドである。
【0052】
[078]標的分子の遺伝子発現を変更するのに使用することができる核酸の代表例は、上述されている。一部の実施態様において、本明細書に記載される核酸は、KCC2の遺伝子発現のレベルを上昇または増加させるのに使用され、これが順に、KCC2タンパク質発現の上昇または増加をもたらすことになる。
【0053】
[079]標的分子の生物学的活性または発現を変更するのに使用可能な抗体(そのフラグメント含む)の代表例は、上述されている。一部の実施態様において、本明細書に記載される抗体またはそのフラグメントは、KCC2活性を上昇または増加させる活性化抗体またはそのフラグメントである。
【0054】
[080]標的分子の生物学的活性または発現を変更するのに使用可能な分子の代表例としては、上述したような遺伝子工学のためのツールであるタンパク質またはタンパク質と核酸との組合せが挙げられる。一部の実施態様において、タンパク質またはタンパク質と核酸との組合せは、KCC2の遺伝子発現のレベルを上昇または増加させるのに使用され、これが順に、KCC2タンパク質発現の上昇または増加をもたらすことになる。
【0055】
[081]本発明の例示的な実施態様は、脊椎動物におけるALSを処置する方法を含む。本明細書に記載される非侵襲的な電気刺激方法は、運動および皮質ニューロンを死から保護することによってALSの進行を止めるように設計され、すなわち本明細書に記載される方法は、神経細胞の寿命を延長するか、または少なくとも運動および皮質ニューロンの細胞死の速度を遅くする。理論に縛られることは意図しないが、脊髄および皮質ニューロンにおけるNKCC1発現および/または活性の抑制が、運動および皮質ニューロンの細胞寿命を延長することによる、このALSの進行の停止をもたらすと考えられる。
【0056】
[082]一部の実施態様において、ALSを処置する方法は、直流源のA電極とB電極との間に刺激を適用する工程であって、A電極は、脊椎動物の脊髄の背側の面またはその近傍にあるか、またはA電極は、脊椎動物の頭蓋上である工程;およびALSの病態に関連する神経細胞の寿命を延長するのに十分な強度および期間で、直流刺激を適用する工程を含み、B電極は、A電極から離れた位置に設置され、AおよびB電極は逆に帯電されており、直流は、定電流、連続電流、パルス電流、間欠電流、可変および不変の電流の少なくとも1つである。
【0057】
[083]ALS患者を処置する場合、複数の場所で神経細胞の寿命を延長するために、脊髄の長さに沿って複数の脊髄の場所が処置されることが想定される。したがって、一部の実施態様において、ALSを処置する方法は、脊髄の背側の面に沿って複数の位置またはその近傍に配置された複数のA電極、および複数のA電極から離れた位置に設置された複数のB電極を含む。他の実施態様において、一連の処置で、1セットのAおよびB電極が使用され、電極は、脊髄の長さに沿った異なる場所に動かされる。
【0058】
[084]また、ALS患者を処置する場合、運動野(一次運動野としても公知である6野および4野)、基底核および小脳などの運動制御に関連する脳の複数の領域が処置されることも想定される。したがって、一部の実施態様において、ALSを処置する方法は、運動制御に関連する頭蓋上の複数の位置に配置された複数のA電極を含み、複数のB電極は、複数のA電極から離れた位置に設置される。他の実施態様において、一連の処置で、1セットのAおよびB電極が使用され、電極は、運動制御に関連する異なる頭蓋の位置に動かされる。
【0059】
[085]ALSを処置する方法の一部の実施態様において、複数のA電極およびB電極の間に適用される刺激は、同時に、または順次適用される。
[086]一部の実施態様において、ALS患者を処置する方法は、直流源のA電極とB電極との間に第1の刺激を適用する工程であって、A電極は、脊椎動物の脊髄の背側の面またはその近傍にある工程;直流源のC電極とD電極との間に第2の刺激を適用する工程であって、C電極は、脊椎動物の頭蓋上である工程;および神経細胞の寿命を延長するのに十分な強度および期間で、直流刺激を適用する工程を含み、B電極は、A電極から離れた位置に設置され、AおよびB電極は逆に帯電されており、D電極は、C電極から離れた位置に設置され、CおよびD電極は逆に帯電されており、直流は、定電流またはパルス電流である。一部の実施態様において、第1および第2の刺激は、同時に、または順次適用される。
【0060】
[087]一部の実施態様において、ALSを処置する方法は、脊髄の背側の面に沿って複数の位置またはその近傍に配置された複数のA電極、および複数のA電極から離れた位置に設置された複数のB電極を含む。他の実施態様において、一連の処置で、1セットのAおよびB電極が使用され、電極は、脊髄の長さに沿った異なる場所に動かされる。
【0061】
[088]一部の実施態様において、ALSを処置する方法は、運動制御に関連する頭蓋上の複数の位置に配置された複数のC電極を含み、複数のD電極は、複数のC電極から離れた位置に設置される。他の実施態様において、一連の処置で、1セットのCおよびD電極が使用され、電極は、運動制御に関連する異なる頭蓋の位置に動かされる。
【0062】
[089]一部の実施態様において、複数のA電極およびB電極の間および複数のC電極およびD電極の間に適用される刺激は、同時に、または順次適用される。
[090]一部の実施態様において、ALSを処置する方法はさらに、直流源のE電極とF電極との間に第3の刺激を適用する工程であって、E電極は、脊椎動物の末梢神経またはその近傍にある工程を含み、F電極は、E電極から離れた位置に設置され、EおよびF電極は、逆に帯電されている。一部の実施態様において、第1、第2および第3の刺激は、同時に、または順次適用される。
【0063】
[091]一部の実施態様において、ALSを処置する方法は、複数のE電極を含み、複数のE電極は、末梢神経に沿って複数の位置またはその近傍に配置されているか、または複数の末梢神経またはその近傍に配置されており、複数のF電極は、複数のE電極から離れた位置に設置されている。他の実施態様において、1セットのCおよびD電極が使用され、電極は、末梢神経に沿った異なる位置に動かされるか、または異なる末梢神経に動かされる。一部の実施態様において、複数のE電極およびF電極の間に適用される刺激は、同時に、または順次適用される。末梢神経が刺激される一部の実施態様において、末梢神経は、骨格筋を刺激する。一部の末梢神経の代表例は、上記で開示されている。
【0064】
[092]ALSを処置する方法の一部の実施態様において、期間は、1日またはそれより多くの日における一連の刺激セッションを含み、刺激する日は、連続または不連続である。
【0065】
[093]ALSを処置する方法の一部の実施態様において、本方法は、NKCC1の遺伝子発現および/またはタンパク質発現の生物学的活性またはレベルを変化させるのに十分な強度および期間で直流刺激を適用する工程を含む。一部の実施態様において、NKCC1の遺伝子発現および/またはタンパク質発現の生物学的活性またはレベルが、減少される。
【0066】
[094]ALSを処置する方法の一部の実施態様において、非侵襲的なDCS方法は、治療有効量の、NKCC1の生物学的活性を阻害する少なくとも1つの薬剤またはNKCC1の遺伝子発現レベルおよび/もしくはタンパク質発現レベルを減少させる少なくとも1つの薬剤を投与する工程と組み合わされる。特定の実施態様において、薬剤は、上記に記載した医薬化合物、タンパク質、抗体、核酸またはそれらの組合せである。
【0067】
[095]ALSを処置する方法の一部の実施態様において、非侵襲的なDCS方法はさらに、治療有効量の、KCC2の生物学的活性を増加させる少なくとも1つの薬剤またはKCC2の遺伝子発現レベルおよび/またはタンパク質発現レベルを増加させる少なくとも1つの薬剤を投与する工程と組み合わされる。特定の実施態様において、薬剤は、上記に記載した医薬化合物、タンパク質、抗体、核酸またはそれらの組合せである。
【0068】
[096]動物、特にヒトを含む哺乳動物は、本明細書で論じられるDCS処置の対象である。例示的で非限定的な実施態様において、本発明の実施におけるヒトの処置は、例えば、一般的に1mAより高く6mA未満の範囲、より特定には、約3.5~4mAの範囲でのtsDCSの適用を含んでいてもよく、約20~40分/日適用してもよい。他の例示的で非限定的な実施態様において、本発明の実施におけるヒトの処置は、経頭蓋DCS(tcDCS)の適用を含んでいてもよい。
図12に描写されるように、深い脳構造のための提唱される刺激の処方(例えば、基底核を刺激するための処方)は、持続時間が約10秒間であり、刺激間に約30秒の休止期間を有する約10mAの強度でのロングパルス単極直流(DC)を含む。処置の時間は、約20~30分であることが提唱される。DCS処置は、計画された日もしくは1日おきに、または修復または回復に影響を与えるように意図された他のあらゆる処置計画に示された通りの頻度でなされてもよい。
【0069】
[097]本明細書で開示された本発明の方法の実施において、以下のシステムまたはデバイスが使用される。
[098]本発明の例示的な実施態様は、脊椎動物における痙縮、緊張亢進またはジストニアを処置するためのシステムであって、このシステムは:脊椎動物における痙縮、緊張亢進またはジストニアに関連する末梢神経の末梢直流刺激を提供するように構成された第1の刺激要素を含み;第1の刺激要素は、前記末梢神経を刺激するように構成された神経刺激電極(stimulation pole)を有する神経刺激回路を含み;前記末梢神経の調節に関連する脊髄の場所に、脊髄直流刺激を提供するように構成された第2の刺激要素を含み、前記第2の刺激要素は、活性脊髄刺激電極および脊髄参照電極を有する脊髄刺激回路を画定し、前記脊髄刺激回路は、前記脊髄刺激電極と前記脊髄参照電極との間に、前記脊髄の場所を刺激するための定電流の経脊髄直流刺激を提供するように構成されており;前記活性脊髄刺激電極は、相対的に前記脊髄の場所の近位にあり;前記脊髄参照電極は、相対的に前記脊髄の場所の遠位にあり;前記活性脊髄電極および前記近位神経電極を逆の極性で動作させ、結果として分極回路(polarization circuit)が形成されるように構成されるコントローラー要素を含み、得られた分極回路は、分極電流フローに従って標的分子の遺伝子発現および/またはタンパク質発現の生物学的活性またはレベルを変化させるために、前記逆の極性に従って前記活性脊髄電極と前記近位神経電極との間に分極電流フローを提供するように構成され;また、前記コントローラー要素は、予め決定された期間にわたる末梢直流刺激および脊髄直流刺激、ならびに予め決定された日数にわたる予め決定された回数の繰り返しの刺激を提供するようににも構成されている、上記システムを含む。
【0070】
[099]システムの一部の実施態様において、コントローラー要素は、定電流、連続電流、パルス電流、間欠電流、可変および不変の電流フローの少なくとも1つを含む前記電流フローを提供するように構成される。
【0071】
[0100]システムの一部の実施態様において、コントローラー要素はさらに、第1および第2の刺激要素によって供給される電流の範囲を同時に制御するように構成される。
[0101]システムの一部の実施態様において、第1の刺激要素は、前記末梢神経の刺激のために配置された刺激電極に刺激電流を提供するための正極および負極を含み、前記正極および負極は、正極に1つの電極が作動可能に接続され、負極に別の電極が作動可能に接続されるように配置されている。システムの一部の実施態様において、第2の刺激要素は、前記脊髄の場所にわたって刺激を送達するために配置された刺激電極に刺激電流を提供するための正極および負極を含み、前記正極および負極は、正極に1つの電極が作動可能に接続され、負極に別の電極が作動可能に接続されるように配置されている。
【0072】
[0102]システムの一部の実施態様において、刺激電極の少なくとも1つは、埋め込まれている。
[0103]システムのさらに他の実施態様において、コントローラー要素および電源のうち少なくとも1つは、ウェアラブルなハウジング中に配置されている。
【0073】
[0104]システムの一部の実施態様において、予め決定された期間、予め決定された回数および予め決定された日数は、NKCC1の遺伝子発現および/またはタンパク質発現の生物学的活性またはレベルを変化させるように選択される。システムの特定の実施態様において、NKCC1の遺伝子発現および/またはタンパク質発現の生物学的活性またはレベルが減少される。
【0074】
[0105]本発明の例示的な実施態様は、脊髄または脳のうちの1つに関連する生物学的活性を調節するための刺激デバイスであって:複数の端子を有する直流電圧源を含み;第1の電極を直流電圧源に接続するための端子のうちの第1の端子を含み;前記第1の電極は、脊椎動物の脊髄の背側の面の1つにあるかまたは脊椎動物の頭蓋上にあり;第2の電極を直流電圧源に接続するための端子のうち第2の端子を含み;前記第2の電極は第1の電極から離れた位置に設置されており;前記第1および第2の電極は、逆に帯電されており;および前記電極間の電流フローを制御するように構成されたコントローラー要素を含み;前記コントローラー要素は、予め決定された期間にわたる直流刺激、および予め決定された日数にわたる予め決定された回数の繰り返しの刺激を提供するようにも構成されている、上記刺激デバイスを含む。
【0075】
[0106]刺激デバイスの一部の実施態様において、コントローラー要素は、定電流、連続電流、パルス電流、間欠電流、可変および不変の電流フローの少なくとも1つを含む前記電流フローを提供するように構成される。
【0076】
[0107]刺激デバイスの一部の実施態様において、第1および第2の電極の少なくとも1つは、埋め込まれている。
[0108]刺激デバイスのさらに他の実施態様において、コントローラー要素および直流電圧源の少なくとも1つは、ウェアラブルなハウジング中に配置されている。
【0077】
[0109]刺激デバイスの一部の実施態様において、予め決定された期間、予め決定された回数および予め決定された日数は、NKCC1の遺伝子発現および/またはタンパク質発現の生物学的活性またはレベルを変化させるように選択される。刺激デバイスの特定の実施態様において、NKCC1の遺伝子発現および/またはタンパク質発現の生物学的活性または前記レベルが減少される。
【0078】
[0110]本発明の例示的な実施態様は、脊椎動物におけるALSを処置するためのシステムであって、前記システムは:脊椎動物において、末梢神経に沿って複数の場所に末梢神経の末梢直流刺激を提供するかまたは複数の末梢神経の末梢直流刺激を提供するように構成された複数のA刺激要素を含み;前記A刺激要素のそれぞれは、前記末梢神経または複数の末梢神経を刺激するように構成された神経刺激電極を有する神経刺激回路を含み;複数の前記末梢神経または複数の末梢神経の調節に関連する脊髄の場所に、脊髄直流刺激を提供するように構成された複数のB刺激要素を含み、前記B刺激要素のそれぞれは、活性脊髄刺激電極および脊髄参照電極を有する脊髄刺激回路を画定し、前記脊髄刺激回路は、前記脊髄刺激電極と前記脊髄参照電極との間に、前記脊髄の場所を刺激するための定電流経皮脊髄直流刺激を提供するように構成されており;前記活性脊髄刺激電極は、相対的に前記脊髄の場所の近位にあり;前記脊髄参照電極は、相対的に前記脊髄の場所の遠位にあり;および前記活性脊髄電極および前記近位神経電極を逆の極性で動作させ、結果として分極回路が形成されるように構成されたコントローラー要素を含み、得られた分極回路は、分極電流フローに従って、標的分子の遺伝子発現および/またはタンパク質発現の生物学的活性またはレベルを変化させるために、前記逆の極性に従って、前記活性脊髄電極と前記近位神経電極との間に分極電流フローを提供するように構成されており;前記コントローラー要素はまた、予め決定された期間にわたる末梢直流刺激および脊髄直流刺激、ならびに予め決定された日数にわたる予め決定された回数の繰り返しの刺激を提供するように構成されている、上記システムを含む。
【0079】
[0111]システムの一部の実施態様において、コントローラー要素は、定電流、連続電流、パルス電流、間欠電流、可変および不変の電流フローの少なくとも1つを含む前記電流フローを提供するように構成される。
【0080】
[0112]システムの一部の実施態様において、コントローラー要素はさらに、AおよびB刺激要素によって供給される電流の範囲を同時に制御するように構成される。
[0113]システムの一部の実施態様において、A刺激要素は、末梢神経または複数の末梢神経の前記複数の場所の刺激のために配置された刺激電極に刺激電流を提供するための正極および負極を含み、前記正極および負極は、正極に1つの電極が作動可能に接続され、負極に別の電極が作動可能に接続されるように配置されている。
【0081】
[0114]システムの一部の実施態様において、B刺激要素は、前記複数の脊髄の場所にわたり刺激を送達するために配置された刺激電極に刺激電流を提供するための正極および負極を含み、前記正極および負極は、正極に1つの電極が作動可能に接続され、負極に別の電極が作動可能に接続されるように配置されている。
【0082】
[0115]システムの一部の実施態様において、刺激電極の少なくとも1つは、埋め込まれている。
[0116]システムのさらに他の実施態様において、コントローラー要素および電源のうち少なくとも1つは、ウェアラブルなハウジング中に配置されている。
【0083】
[0117]システムの一部の実施態様において、予め決定された期間、予め決定された回数および予め決定された日数は、NKCC1の遺伝子発現および/またはタンパク質発現の生物学的活性またはレベルを変化させるように選択される。システムの特定の実施態様において、NKCC1の遺伝子発現および/またはタンパク質発現の生物学的活性またはレベルが減少される。
【0084】
[0118]本発明の例示的な実施態様は、ALSを処置するための刺激デバイスであって:複数の端子を有する直流電圧源を含み;複数のA電極を直流電圧源に接続するための複数のA端子を含み;前記複数のA電極は、脊椎動物の脊髄の背側面の複数の場所または脊椎動物の頭蓋上の複数の場所にあり;複数のB電極を直流電圧源に接続するための複数のB端子を含み;前記複数のB電極は、複数のA電極から離れた位置に設置されており;AおよびB電極は、逆に帯電されており;および電極間の電流フローを制御するように構成されたコントローラー要素を含み;前記コントローラー要素はまた、予め決定された期間にわたる直流刺激、および予め決定された日数にわたる予め決定された回数の繰り返しの刺激を提供するように構成されている、上記刺激デバイスを含む。
【0085】
[0119]刺激デバイスの一部の実施態様において、コントローラー要素は、定電流、連続電流、パルス電流、間欠電流、可変および不変の電流フローの少なくとも1つを含む前記電流フローを提供するように構成される。
【0086】
[0120]刺激デバイスの一部の実施態様において、AおよびB電極の少なくとも1つは、埋め込まれている。
[0121]刺激デバイスのさらに他の実施態様において、コントローラー要素および直流電圧源の少なくとも1つは、ウェアラブルなハウジング中に配置されている。
【0087】
[0122]刺激デバイスの一部の実施態様において、予め決定された期間、予め決定された回数および予め決定された日数は、NKCC1の遺伝子発現および/またはタンパク質発現の生物学的活性またはレベルを変化させるように選択される。刺激デバイスの一部の実施態様において、NKCC1の遺伝子発現および/またはタンパク質発現の生物学的活性またはレベルが減少される。
【0088】
[0123]本発明のシステムおよび刺激デバイスを、図面を参照しながらさらに後述する。
[0124]
図13Aは、対象の脊髄面105における背面106への電極104の適用を介して脊髄102(断面で示される)に、さらに、反対側の腹側面110における電極108の場所に、または他の遠位場所に、例えば腹部に、tsDCS刺激を適用するように構成された、本発明の刺激システム100の実施態様を示す。単なる例証として示されるように、電極104および108が示され、これらはそれぞれアノードおよびカソードとして提供される。他の実施態様において、電極104および108は、それぞれカソードおよびアノードとして提供される。本発明の様々な適用において、主要な場所に、例えば、目的の場所における背側面105に適用された電極の極性は、「アノード」または「カソード」のいずれかとして回路構成を画定する。
【0089】
[0125]
図13Aの本発明の例示的な実施態様において、システム100は、端子122、124を有する直流源114を含む。第1の電極104は、端子のうち第1の端子と脊椎動物の背側面105とに付着している。第2の電極108は、端子のうち第2の端子と脊椎動物の標的となる腹側の場所110とに付着している。刺激は、背側の電極104と腹側の電極108との間を進む。電流は、割り当てられた通りに、アノードからカソードに進むと予想される。インテリジェントコントローラー112は、このような付着させた電極に適用されたシグナルを制御し、したがって電流フローの方向を制御し、したがって第1の電極104と第2の電極108との間のフローの経路125を画定する。
【0090】
[0126]本発明の1つの例示的な実施において、アノードtsDCSの構成は、
図13Aで示されるように、対象の脊髄102で確立され、この場合、電極104は、ユーザーインターフェース116の指示で、コントローラー112によって正電流源124に接続されているためアノードとなり、リターン電極108は、コントローラー112によって負電流源122に接続されているため、カソードである。例えばこのような刺激の活性領域127を配置する
図13Aで示されるように、リターン電極は、好ましくは、対応する腹側面に適用されるが、意図される電流フローの経路125に応じて、リターン電極は、オフセットされていてもよいし、またはより遠位であってもよい。
【0091】
[0127]当業者に理解されるであろうように、一実施態様において、インテリジェントコントローラー112は、内部指示セットを含み、メモリー117からのデータを介して、またはインターフェース116におけるユーザーの介入によってさらに情報を得ることができる。インテリジェントコントローラー112は、DC源114からの電流を電極104、108に適用することを可能にする。1つの例示的な実施態様において、DC源114の負電流源122は、リード118を介して電極108(ここではカソードとして機能する)に接続され、DC源114の正電流源124は、リード120を介して電極104(ここではアノードとして機能する)に接続されている。一実施態様において、DC源114は、電池115を含む。本発明の実施において、電池は、容量性の記憶デバイス、再充電可能なデバイス、リチウム-イオン電池、および他の電源の少なくとも1つを含むことが理解されるだろう。
【0092】
[0128]当業者に理解されるであろうように、本発明の例示的な実施態様において、システム100はさらに、第1および第2の端子122、124にわたり検出された電圧における変化に応答し、電極104、108間における定電流のtsDCSの電流フローを維持するための、電極および直流源の少なくとも1つと電気的に連通するシグナルコントローラー回路111を含む。本発明の実施態様において、シグナルコントローラー回路111はさらに、コントローラー112による指示に応じて、定電流、連続電流、パルス電流、間欠電流、可変および不変の電流の少なくとも1つとして刺激シグナル126を提供するようにDCシグナルを調節するように構成される。当業者に理解されるであろうように、本発明の様々な実施態様において、これらのバリエーションのいくつかを本発明の望ましいtsDCS刺激の一部としてまたはそれに加えて実行して、望ましい刺激性能を達成する。
【0093】
[0129]本発明の例示的な実施態様において、本発明のシステムは、シグナルコントローラー回路111、インテリジェントコントローラー回路112、DC源114、電池115、ユーザーインターフェース116、およびメモリー117を含む制御回路を有し、これはハウジング130中に支持され、ハウジングは、本発明の実施態様の実施の全てにおいて、卓上使用のためであってもよいし、またはウェアラブルな、もしくは埋め込み可能なデバイスとして使用するためであってもよく、耐水性であってもよい。
【0094】
[0130]
図14A~Cの例示的な実施態様において、ウェアラブルなハウジングシステム200は、ウェアラブルな付着システム132を有するウェアラブルなハウジング131中に、システム100を含む。ウェアラブルな付着システム132は、スリムでウェアラブルなパッケージ134としてのハウジング131の提供を可能にする。本発明の1つの実施において、パッケージ134の裏面138それ自体が、標的の背側の場所105に適用され、一実施態様において、表面140によって画定される導電性電極104と共に提供され、内部DC源114に接続されている。表面140はさらに、導電性接着剤141を含んでいてもよく、これらは全て、脊椎動物患者に付着させたときに、電極104で望ましいシグナルを提供するためである。
【0095】
[0131]
図14A~Cで示されるように、1つの例において、付着システム132はさらに、さらにシステム100を患者に固定するために、ウェアラブルな材料133、例えばストラップ142、144(接続用のベルクロ(登録商標)(Velcro)、バックルなどと共に)を含む。リターン電極108は、リード118を介してDC源114に接続され、この例示的な実施態様において、リード118はハウジング131のシールされた通し穴またはポート145を介して電流源に接続され、次いでストラップ142の皮膚側に貼り付けて、そこに沿わせることにより、電極108を介して電気接点を形成して、患者への望ましい腹側の電気的な接続を提供する。電極リードは、ウェアラブルな材料133に付着させてもよいし、またはその中に含有させてもよい。
図12Bに示されるさらなる例示的な実施態様において、ユーザーインターフェース116は、ユーザーコントロールパッド119を含み、これは、オペレーションのモード切り換えとその表示の提供を可能にするオペレーターコントロール119Aおよびインジケーターライト119Bを含む。
【0096】
[0132]ウェアラブルな材料133は、ストラップ、クロス、伸縮性材料、ハーネス、または電極表面が脊椎動物の皮膚と接触できるように構成された他のウェアラブルな材料であり得る。代替として、電極表面は、接着剤を載せること、または磁石の埋め込みによって、皮膚表面に付着させたりまたは貼り付けたりすることができる。本発明の様々な実施態様において、ウェアラブルな材料は、脊椎動物のサイズ(例えば、成人または子供)に応じて、さらに、処置される脊髄の場所に応じて、サイズおよび形状といった要素を変化させて提供することができる。代替として、ウェアラブルな材料は、様々なサイズの対象および処置される脊髄の場所に適合するように調整することができる。ウェアラブルな材料は、対象の背側の面の領域中の皮膚上に、電極104表面を配置することを可能にする。ウェアラブルなtsDCSデバイスは、再充電可能であってもよく、充電や睡眠の快適性のために夜間は外すことができる。ウェアラブルなtsDCSデバイスは、処置しようとする部位に応じて、頸部、胸部、腰部または仙骨の位置の脊椎の皮膚表面に付着させることができる。
【0097】
[0133]当業者は、アノードかまたはカソードかにかかわらず、実現しようとする所与の処置プロトコールに従って、例えばヒューマンインターフェース116から、または内部的にメモリー117に保存されたデータを使用することにより、インテリジェントコントローラー112を制御して、電極104、108と源114の端子122、124との回路の接続を確立すること理解するだろう。
【0098】
[0134]メモリー117は、当業者に理解されるであろうように、アクセスしてコントローラー112に通知することができる1つのまたは一連のデータマトリックスを含んでいてもよい。例えば、システム100は、ヒトに適用することができ、次いでスイッチをオンにしてルーチンを実行し、そのコマンド(脈動または経時的な処置期間など)がメモリー117に保存され、望ましい刺激処置を提供するために、コントローラー112で開始されるルーチンによって時々アクセスされる。しかしながら、本発明の簡単な実施において、刺激デバイスは、刺激システム100のインテリジェントコントロール要素を必要としないアノードまたはカソードシステムとして設定できることが理解されると予想される。
【0099】
[0135]さらなる例示的な実施態様において、カソードおよびアノード電極の少なくとも1つは、構成要素としての電極のアレイで構成される。その1つの例示的な実施において、
図13Aの刺激システム100は、電極104および108を含み、この場合、
図13Bに例示されるように、電極108は、電極108A~Dのアレイ109で構成される。このような実施態様の1つの例示的な実施において、アレイ109の各電極は、別々に刺激されて、望ましい刺激目標を達成するように、刺激されるセルを都合よく偏らせるかまたはステアリングすることが可能である。
【0100】
[0136]本発明の1つの例示的な実施態様において、パターンコントローラー113が提供され、インテリジェントコントローラー112により指示される通り、電極のアレイ108A~Dのための望ましい刺激パターンを駆動させる。例えばこの実施態様の1つの実施において、アレイ109の電極108A~Dは、標的セルに回転要素を与えるように順次刺激される。またはこの実施態様の別の実施において、電極の1または2つは、必要に応じて標的セルの動きをステアリングし、標的場所においてその値に到達できるように、標的セルに角度要素を与えるように刺激される。ここでの目的は、患者内の様々なセルをステアリングすることであるが、当業者が理解するであろうように、このステアリングは、例えばオーディオ分野で使用されるDSPビームステアリングを用いてなされるバーチャルステアリングの使用に類似する。一実施態様において、パターンコントローラー113は、
図12Bで示されるように、ウェアラブルなデバイス134に組み込まれる。
【0101】
[0137]ここで、本発明の実施において、アノードtsDCSは、脊髄の背側の面に関連するアノードでの刺激、および腹側の面に関連するカソードでの刺激を指すことが理解されるであろう。カソードtsDCSは、脊髄の背側の面に関連するカソードでの刺激、および腹側の面に関連するアノードでの刺激を指す。
【0102】
[0138]本発明の別の例示的な実施において、
図13Aのシステムを使用するカソードtsDCSの構成において、電極104は、負電流源122に接続されており、望ましい背側の場所105で適用され、アノードの電極は、腹側に適用され、コントローラー112によって正電流源124に接続される。カソードtsDCS刺激下における望ましい脊髄の活性領域127での細胞におけるタンパク質の増加は、
図9で示されるように、HSP70の増加によって実証される。1つの例示的な実施態様において、刺激セッションの継続時間は、この肯定的な結果を達成するために、20から40分にわたる。患者の必要に応じて追加の肯定的な結果のために、複数のセッションが示される。
【0103】
[0139]リターン電極108は、好ましくは、対応する腹側の面に適用されるが、意図される電流フローの経路125に応じて、オフセットされていてもよいし、またはより遠位であってもよいことを当業者は理解するだろう。本発明の例示的な実施において、リターン電極108は、意図される電流フローの経路125および意図される活性領域127に応じて、背骨で、または頭蓋、頸部、胴もしくは四肢の面で、遠位の刺激電極104と反対側に適用される。本発明は、マウスモデルにおけるtsDCSの以下の具体的な実施例によってさらに例示される。実施例は、例証のためにのみ提供され、いかなる方法でも本発明の範囲または内容を限定するものとして解釈されない。
【0104】
[0140]一実施態様において、システムは、第1の刺激要素、第2の刺激要素およびコントローラーを含む。
[0141]1つの例において、第1の刺激要素は、刺激電極に刺激電流を提供する正および負端子を有する第1の電源を含み、刺激電極は標的効果器に関連する神経の刺激のために配置された2つの電極を含み;1つの電極は、正端子に作動可能に接続され、別の電極は、負端子に作動可能に接続され;2つの電極のそれぞれは、2つの電極のもう一方から電気的に絶縁されている。一実施態様において、2つの電極は、非侵襲的に配置され、皮膚表面電極である。別の実施態様において、2つの電極は、埋め込み電極である。1つの例において、第1の電源も埋め込まれており、コントローラー要素は、第1の電源にワイヤレス接続によって作動可能に接続される。
【0105】
[0142]1つの例において、第2の刺激要素は、第2の正端子および第2の負端子を有する第2の電源を含み、第1の電極は、脊髄の場所に置かれるように配置され、第2の電極は、脊柱における別の場所または背骨から遠位の場所から選択される場所に置かれるように配置される。第1および第2の電極の一方は、第2の正端子に作動可能に接続され、第1および第2の電極の他方は、第2の負端子に作動可能に接続される。
【0106】
[0143]一実施態様において、第1および第2の電源は、同じ源である。別の実施態様において、第1および第2の電源ならびにコントローラー要素は、ウェアラブルなハウジング中に配置される。一実施態様において、源は、DC源である。注目すべきことに、第1の電源が、パルス源、例えばパルスDC源である実施態様も、これらの教示の範囲内である。使用される頻度は低いが、源がパルスAC源である実施態様もこれらの教示の範囲内である。
【0107】
[0144]一実施態様において、これらの2つの回路は、それぞれの電極間に画定された得られた分極回路(a resulting polarization circuit)を画定する。
図15に、脊髄回路12のアノード電極20と神経回路16のカソード電極26との間の場合の例示的な実施態様を示す。得られた分極回路33は、背骨を刺激し、脊髄の運動ニューロンおよび介在ニューロンに実行された興奮性の望ましい調節を達成し、筋緊張調節の望ましい結果を可能にする。
【0108】
[0145]筋緊張のダウンレギュレーションおよびアップレギュレーションは、脊髄のこれらの隣接電極および分極回路33を画定する神経回路12、16間の相互作用の方向によってガイドされる。ダウンレギュレーションの場合、脊髄電極20は、正(「アノード」)であり、近位末梢神経電極26は、負(「カソード」)でなければならない。これは、ダウンレギュレーション用に、2つの極回路12、16のこれら2つの電圧印加された電極間で、必要な背骨から神経への分極回路33(分極電流フローの経路)を画定する。アップレギュレーションの場合、近位神経電極26は、正(「アノード」)であり、脊髄電極は、負(「カソード」)でなければならない。いくつかの実施態様において、これは、アップレギュレーション用に、2つの極回路のこれら2つの電圧印加された電極間で神経から背骨への分極回路33(分極電流フローの経路)を画定する。
【0109】
[0146]
図16に、一実施態様のブロック図を示す。コントローラー回路90は、DC源94をモニターし、電流の方向に応じて、アノード-脊髄のダウンレギュレーションモードまたは逆のアップレギュレーションモードのいずれかを確立し、ダウンレギュレーションインジケーター96、または逆の場合はアップレギュレーションインジケーター98のいずれかを点灯させる。コントローラー90は、メモリー91および通信リンク99を有する。メーター15/17は、刺激中に供給された電力の表示を提供する。コントローラー要素90はさらに、刺激を開始させるように構成され、刺激の開始は、感知された値が、具体的な状況を示す予め決定された値未満かまたはそれを超えるのかによって決定される。コントローラー要素はまた、予め決定された期間にわたる末梢直流刺激および脊髄直流刺激、ならびに予め決定された日数にわたる予め決定された回数の繰り返しの刺激を提供するように構成される。予め決定された期間、予め決定された回数および予め決定された日数は、タンパク質発現レベル、および細胞の挙動の少なくとも1つを含む生物学的活性を調節するように選択して、増殖、分化、移動および発現の少なくとも1つを促進することができる。
【0110】
[0147]上述された実施態様は、各刺激要素によって適用される電極対を例示するが、1つの刺激要素と共に複数の電極対が適用される実施態様もこれらの教示の範囲内である。例えば、一部の実施態様において、複数の電極対が、第1の刺激要素と共に適用され、この場合、各電極対のそれぞれは、脊髄または頭蓋の異なる場所に適用される。
【0111】
[0148]これらの教示は、具体的な実施態様に関して記載されたが、前述の説明を考慮して、多数の代替物、改変およびバリエーションが当業者に理解されるであろうことは明らかである。したがって、これらの教示は、本発明の教示および請求の範囲と本質に当てはまるような全ての代替物、改変およびバリエーションを包含することが意図されている。
【実施例】
【0112】
実施例1:材料および方法
動物
[0149]成体雌CD-1マウス(n=120、体重27~37g)を実行された動物実験の全てに使用した。4つのグループを含む長期刺激研究に、合計51匹の動物を使用した。SCIを有する動物を、ランダムに、3つのグループ:a-tsDCS処置グループ(n=16)、c-tsDCS処置グループ(n=15)、および偽処置グループ(n=10)、ならびに損傷を受けていない対照グループ(n=10)に分けた。これらの動物のサブグループも使用して、KCC2、pKCC2、NKCC1、およびpNKCC1の発現における長期変化を研究した。損傷を受けた痙縮を有する動物を使用して、速度依存性抑制(RDD)に対するtsDCSの即時作用を試験し(n=6)、一方で、損傷を受けていない動物(n=10)において、NKCC1およびpNKCC1の発現に対するtsDCSの相対的に短期の作用を研究した。ブメタニド(NKCC1ブロッカー)を含む薬理学的な研究を、SCIを有する動物(n=9)および損傷を受けていない対照動物(n=3)を用いて実行した。その一方で、qPCR研究を、損傷を受けていない対照動物(n=41)を用いて実行した。研究プロトコールの全ては、ニューヨーク市立大学スタテンアイランド校(College of Staten Island)のIACUC委員会によって承認された。
【0113】
脊髄挫傷傷害
[0150]深い麻酔を達成するためのケタミン/キシラジンカクテル(90/10mg/kg、i.p.)の投与の後、胸部T10椎骨での椎弓切除術を実行して、T13脊髄分節を露出させた。無限ホライズン(infinite horizon;IH)脊髄インパクター(IH-0400、プレシジョンシステムズ&インスツルメンテーション(Precision Systems & Instrumentation)、米国バージニア州)を使用して、挫傷を負わせるSCI力を誘発させた。衝撃力レベルは、60kdynであり、これは、このインパクターを用いて実行された予備的な実験から収集したデータに基づき選択された。これらの予備的な研究において、痙縮発症マウスを生産するのに必要なSCI挫傷力を最適化するために衝撃力を増加させて挫傷傷害を誘発させた。60kdynで衝撃を受けたマウスは、傷害後およそ2~3週間で理想的な痙縮挙動を生じた。標準的なマウスチップ(直径=1.3mm)を使用することによって衝撃を適用した。挫傷手順後、覆っている筋肉と皮膚を縫合し、感染を防止するために外科処置部位を硫酸ゲンタマイシン軟膏の層で覆った。その後、各マウスに番号を付け、次いで回復させるために保温パッド(30℃)上に置いた。
【0114】
伸張器具
[0151]本発明者らの実験室において、コンピューター制御された伸張デバイスを、ステッパーモーター(DMX-UMD-23m、ARCUSテクノロジー社(ARCUS Technology Inc.)、米国カリフォルニア州)、ブリッジ増幅器(ADインスツルメンツ(ADInstruments)、米国コロラド州コロラドスプリングス)に接続された力変位変換器(force-displacement transducer)(FT03、GRASSテクノロジーズ(GRASS Technologies)/NATUS、米国カリフォルニア州)に搭載されたフットプレッサー、およびマウスホルダーから組み立てた(
図1)。変換器を、線形レールガイドを有するキャリッジ(SGB15NUU、ZNTオートマティックテクノロジー社(ZNT Automatic Technology Co)、中国浙江省)に永続的に固定した。ステッパーモーターの回転運動は、スイベルハブベアリングと接続される接合した平坦なアルミニウムロッドのセットを使用することによってキャリッジで線形変位に変換される。2つのコンピューターソフトウェアプログラムを利用して、ステッパーモーターを制御し、オンライン伸張(中)および筋電図(EMG)の記録を実行した。最初に、ステッパー運動制御ソフトウェア(DMX-UMD GUI、ARCUSテクノロジー社)を、各伸張を2回の10秒の回復インターバルによって分離した3回の連続的に時間を定めた伸張の実行をさせるようにリライトした。ステッパーモーターも、それぞれ3RPM、30RPM、および300RPMに対応する3回の異なる伸張速度:18/秒、180/秒、および1800/秒が提供されるようにプログラム化した。使用された第2のソフトウェアパッケージは、パワーラボ(PowerLab)データ収集システムソフトウェアと一括販売されたラボチャート(LabChart)-7(ADインスツルメンツ)であり、これを使用して、データを集め分析した。
【0115】
マウスホルダー
[0152]本発明者らの実験室で、マウス拘束システムを、3つの要素から製作した(
図1)。1)マウスを保持するチャンバーとして役立つ、透明なプレキシガラスアクリルチューブ。2)透明なアクリルの凹面安定化プレートで作製された、内部調整可能な支持システム。プレートの場所は、チューブの全長に沿ったカットアウトを通って突き出たハンドルを介して、チャンバーの長さに沿って直線的に調整することが可能であった。加えて、プレートの凹面は、動物の背中の外形に合うように設計され、それによって動物を背部で固定した。この表面は、様々なサイズのマウスを受容するように外部的に調整することも可能であった。3)それぞれガーゼで覆った1cm×1.5cmのステンレス鋼プレートで構成された4つの皮膚の上の刺激電極。電極の1つを保持チャンバーの床に永続的に固定し(腹部参照電極用)、一方で第2の電極を、安定化プレートの中央に永続的に固定した(背側の活性脊髄電極用)。このプレートの場所は調整可能であった。残りの2つの電極は、安定化プレートの長辺上に存在するカットアウトに沿ってそれをスライドさせることによって直線的に調整可能であり、これらはそれぞれ左および右の坐骨神経導体として機能した。保持チャンバーの腹部表面は、それぞれ動物の後肢に対応する2つの開口部を有していた。各開口部にひざスタビライザーパッドを取り付けて、試験中にひざを十分に伸長できるようにした。試験前、呼吸とイソフルラン投与のために、保持チャンバーの前端に、中心に開口部を有するふたを設置した。伸張中に後肢の運動を足首関節に限定するために、別のアクリルスタンドを作って遠位の脚を固定した。スタンドは、x、y、およびz軸で動かすことができる調整可能なステンレス鋼製足首スタビライザークランプを有しており、プレッサー下の足の適切な配列を達成し、伸張前に動物の臀部の角度を調整した。
【0116】
回路および電力源
[0153]末梢神経に電流を通すことは、筋緊張を弱めるのに必要である(Ahmed、2014)。さらに、この電流の方向および分布は、調節することができる(Ahmed、2017)。本発明の研究のtsDCSプロトコールは、麻酔した動物を用いて使用できるように、本発明者らの実験室で元々設計された経脊髄回路の改変を必要とした(Ahmed、2014)。簡単に言えば、皮膚上の電極を使用することによって、脊髄および最も影響を受けた肢の坐骨神経に直流(DC)を非侵襲的に通すように回路を改変した。神経活動の喚起を防止するために、坐骨神経電極に通される電流を、参照源を2つの分岐に分けることによって減衰した。ここで第1の分岐は、腹部電極に直接接続されて、減衰されていない電流を運搬し、一方で第2の分岐は、300KO抵抗器を通過させて、坐骨神経への電流を減衰した。電流を、専用のDC単位(S88、GRASSテクノロジー/NATUS)を備えたGRASS刺激装置によって供給した。電流源の極性を切り換えることによって、この回路設計は、アノードからカソードへの、およびその逆の電流方向の即時の逆転を提供することができた。坐骨神経電流を減衰させることにおいて、回路設計も有効であった。例えば、各1.5mAを脊髄-腹部電極に通過させた場合、坐骨神経回路に300pAが通過した。電流パラメーターのモニターおよびDC減衰の検証は、卓上型デジタルマルチメーター(34401A、アジレント(Agilent)/キーサイト・テクノロジー(Keysight Technologies)、米国カリフォルニア州)を使用することによって、各実験の開始時、その間、および完了時に実行された。
【0117】
繰り返しのセッションのtsDCS(長期)手順
[0154]処置の1週間前、動物の全てが最初のベースライン試験を受け、以下のデータを記録した:3つの異なる伸張速度におけるピーク抵抗、併発のEMG活性、および巧緻および地上歩行試験。刺激を適用するために、9つのマウスホルダーを製作して、複数の動物にtsDCSを同時に提供した。アノードおよびカソードグループの動物は、7日にわたり1日1回、20分のtsDCS(1.5mA)処置を受けた。偽処置グループの動物を並行して処置したが、これらの動物はtsDCS介入を受けなかった。その一方で、無傷対照グループは試験手順のみ行われた。7日のtsDCS処置期間の直後に動物を再評価し、次いで処置の2週間および4週間後にも再評価した。最後の評価の後、動物を、ホフマン反射のRDDに関して試験した。
【0118】
地上歩行試験
[0155]DigiGaitシステム(マウススペシフィックス社(Mouse Specifics Inc)、米国マサチューセッツ州フラミンガム)を使用して、SCIおよびtsDCS処置後における運動器官の回復を定量した。グループの全てを、tsDCS介入の前に、その直後、ならびにその後の2および3週間後に、DigiGaitシステムで4回試験した。対照グループを、試験間に2週間のインターバルを設けて2回試験した。
【0119】
[0156]試験中に、最低20ステップを、2つの速度:10cm/秒および20cm/秒で収集した。3つのパラメーターは、歩行中の下腿三頭筋における痙縮:ピーク面積ならびに肢面積の上昇および下降スロープに対して感受性であると考えられた。ピークの肢面積を、DigiGaitトレッドミルベルトを用いたマウスの足の最大限の接触面積に基づき計算した。上昇スロープは、マウスの歩行サイクルの立脚期の第1の半分における移行の速度のインジケーターとみなされ、一方で下降スロープは、マウスの歩行サイクルの立脚期の第2の半分における移行の速度のインジケーターとみなされた。立脚期は、歩行サイクルのうち、マウスの肢がトレッドミルベルトと接触しているセグメントである。
【0120】
巧緻運動試験
[0157]本発明者らの実験室で、ステッパーモーター、ドライバー、およびコントローラー(DMX-UMD-23、ARCUSテクノロジー社)からラダー-ホイールを組み立てた。ホイールの速度および方向を、カスタムライティングされたソフトウェアで制御した。ホイールをプレキシガラスから作製して、側面を可視化し、学習を防止するために横木の間のスペースを可変にした。足の誤りを記録するために、カメラを各動物の下側に設置した。刺激の前、および刺激終了後から3週間にわたり週1回、動物を試験した。記録されたセッションそれぞれにつき、連続的な90秒のビデオをフレームごとに、これまでに記載された足の誤りのスコアリングシステムに従って分析した(Farrら、2006:MetzおよびWhishaw、2002;MetzおよびWhishaw、2009)(表1)。動物の後肢それぞれのスコアを、表1に従って、足の誤りの総数に各基準の対応するスコアを掛けることによって、各基準に合わせて計算した。その後、基準の全てのスコアを加えて、後肢それぞれの総スコアを得た。
【0121】
ホフマン反射のRDD
[0158]最後の評価の後、マウスをケタミンおよびキシラジンの混合物(90mg/kg)で麻酔した。次いで動物の後肢および骨盤領域の毛を剃り、2セットの記録電極を適用して、EMG、心拍数、および呼吸活動を記録した。脛骨神経の刺激を、同軸針刺激電極を使用することによって達成した。記録ステーション上に動物の位置決めをした後、心拍数(HR)および呼吸数(RR)をオンラインでモニターした。動物を深く麻酔したとき、それらのHRとRRの両方は全般的により速くなるが、それらの呼吸は浅くなった。この麻酔レベルで、反射の誘発は困難であった。さらに、反射が誘発された場合、重度の痙縮を現す動物においてさえもRDDは非常に高かった。それゆえに、実行された予備的な実験において、HRとRRの両方および動物の覚醒レベルとRDDの関係をモニターすることによって、手順を標準化した。例えば、動物が覚醒していると、それらのHRは、2Hzで規則的になり、次いで2Hz~4Hzでより不規則になるが、rRRは、より深く、より遅くなる。不規則なHRおよびより深いRR相が最初に観察された場合、RDDプロトコールを開始した。これは、5回のパルスの5回の訓練からなっていた。訓練の頻度は、0.1Hz、0.5Hz、1Hz、2Hz、および5Hzであった。訓練間の待機インターバルは1分の長さであった。両方の後肢に試験を実行した。刺激強度を、M波に対して最大限のH波が観察されるまで次第に増加させ、続いてRDDプロトコールを行った。パワーラボシステム(ADインスツルメンツ)を使用することによってデータを収集し、10KHzのサンプルレートおよびラボチャートソフトウェア(ADインスツルメンツ)で記録した。平均H波のピークを測定し、ベースライン値に対する変化のパーセントを計算した。訓練中に第5のパルスと第1のパルスとにより誘導されたH波の振幅間で計算された差を-1で割って値の逆数を得ることに基づく低減パーセンテージとして、RDDを計算した。
【0122】
ウェスタンブロット
[0159]脊髄組織を収集し、即座にドライアイス中に入れた。その後サンプルを、プロテアーゼ阻害剤カクテル(SC-29131、サンタクルーズバイオテクノロジー、米国テキサス州ダラス)、ホスファターゼ阻害剤カクテル11(カタログ番号:BP-480、ボストンバイオプロダクト)、100mMのPMSF(カタログ番号:BP-481、ボストンバイオプロダクト)、および500mMのEDTAを含有するRIPA緩衝液(カタログ番号:BP-115、ボストンバイオプロダクト(Boston Bio Products)、米国マサチューセッツ州アシュランド)中でホモジナイズした。各サンプルにRIPAカクテルを添加した後(100mg/ml)、溶解物を氷上で15分インキュベートし、その後、0.5~1分超音波処理して、ソニックディスメンブレーター(Sonic Dismembrator)(フィッシャー・サイエンティフィック(Fisher Scientific)、米国ニュージャージー州スプリングフィールド、タウンシップ)を使用して完全な均質化を達成した。次いでサンプルを、ソーバルレジェンドマイクロ(Sorvall Legend Micro)21R遠心分離機中で、13000rpmで30分遠心分離して、各サンプルの上清画分を収集した。総タンパク質濃度を、iMark(商標)マイクロプレート吸光度リーダー(バイオ-ラッド、カリフォルニア州ハーキュリーズ)を使用することによって決定した。20マイクログラムの各サンプルを等しい体積の2×サンプル緩衝液と混合し、10%SDSポリアクリルアミドゲル上で電気泳動した。分離したタンパク質をPVDF膜(バイオ-ラッド(Bio-Rad))に移した後、膜を5%スキムミルク緩衝液中で2時間ブロックし、次いで適切な一次抗体と共に4℃で一晩インキュベートした。使用された一次抗体は、ウサギポリクローナルヒートショックタンパク質70(HSP70)/HSC-70(H-300)抗体(1:1000;SC-33575、サンタクルーズバイオテクノロジー);抗KCC2抗体(1:1000;ab49917、Abeam社、米国マサチューセッツ州ケンブリッジ);ウサギポリクローナル抗ホスホ-Ser940塩化カリウム共輸送体(KCC2)抗体(1:1000;p1551-940、ホスホソリューションズ(PhosphoSolutions)、米国コロラド州オーロラ);マウスモノクローナルNKCC1(A-6)抗体(1:1000;SC-514774.サンタクルーズバイオテクノロジー);およびウサギポリクローナル抗ホスホNKCC1 Thr212/Thr217抗体(1:1000;ABS1004、EMDミリポア(EMD Millipore)、米国マサチューセッツ州バーリントン)を含んでいた。膜をその後、1×TTBSで3回洗浄し、ブロッキング緩衝液中で適切な二次抗体と共にインキュベートした。二次抗体は、ヤギ抗ウサギIgG-ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)抗体(1:5000;SC-2004、サンタクルーズバイオテクノロジー)およびヤギ抗マウスIgG-HRP抗体(1:5000;SC-2005、サンタクルーズバイオテクノロジー)を含んでいた。室温で1時間の後、膜を1×TTBSで3回洗浄した。結合した抗体を、ルミノール/酸化溶液、HRPベースの化学発光基質(ボストンバイオプロダクト)で可視化し、イメージJ(Image J)ソフトウェア(ImageJ、米国立衛生研究所、米国メリーランド州ベセスダ)を用いて定量した。その後ブロットを、1×ストリッピング緩衝液、1×リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、および1×TTBSと共に30分インキュベートし、次いでブロッキング緩衝液中で1時間インキュベートした。ブロッキング緩衝液中のマウスモノクローナルIgG(i-アクチン(C4)HRP抗体(1:2500;SC-47778、サンタクルーズバイオテクノロジー)と共に1時間、追加のインキュベーションを行った後、ブロットを1×TTBSで3回洗浄し、次いでルミノール(Luminal)/酸化溶液(ボストンバイオプロダクト)を用いて画像化した。イメージJソフトウェアを用いてバンドを定量した。
【0123】
免疫組織染色
[0160]HSP70免疫組織染色:アノードおよびカソード刺激後の運動ニューロンにおけるHSP70発現を検査するために、動物をケタミン/キシラジン溶液で麻酔し、次いで、室温で、PBS、続いて4%パラホルムアルデヒドで灌流した。解剖した脊髄分節を同じ固定剤中で一晩後固定し、次いで低温保護(cryoprotection)のために30%スクロースに移した。脊髄分節をドライアイスで凍結し、切り出し、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中で収集した。トリスA緩衝液中での3回の洗浄後、断片をトリスBで15分にわたり1回洗浄し、次いでトリスBで希釈した10%正常ヤギ血清(NGS)中でブロックした。1時間後、一次マウスモノクローナルHSP70(F-3)抗体を添加し(1:500、sc-373867、サンタクルーズバイオテクノロジー)、断片を、振盪機で、4Cで一晩インキュベートした。次の日、断片を3回洗浄し、次いでビオチン化ヤギ抗マウス抗体(1:500:BA-9200、ベクターラボラトリーズ(Vector Laboratories)、米国カリフォルニア州バーリンゲーム)と共にインキュベートした。1時間後、DyLight488(1:2000:SA-5488、ベクターラボラトリーズ)を添加した。さらに30分後、断片をトリスAで2回洗浄し、その後、切片を、DAPI(H-1200:ベクターラボラトリーズ)を含有する媒体と共にマウントした。
【0124】
[0161]コリンアセチルトランスフェラーゼ(ChAT)免疫組織染色:脊髄断片をPBSで3回洗浄し、その後、10%ウサギ血清/0.1’Y°トリトン(Triton)X-100/0.1MのPBSと共に室温で1時間インキュベートした。次いで断片を、0.1%トリトンX-100/0.1MのPBS中の抗ChAT一次抗体(1:500、AB144P、EMDミリポア社)と共に4Cで48~72時間インキュベートした。断片を徹底的にPBSで3回洗浄し、次いで0.1%トリトンX-100/0.1MのPBS中のウサギ抗ヤギ568nm抗体(1:500)と共に室温で1時間インキュベートした。PBSを用いた追加の3回の洗浄の後、断片をDAPI(H-1200;ベクターラボラトリーズ)を含有する媒体と共にマウントした。
【0125】
q-PCR
[0162]RNAを、トリゾールベースの方法(Rioら、2010)を使用することによって脊髄サンプルから単離し、続いてクロロホルムおよびイソプロピルアルコールで抽出した。簡単に言えば、各RNAサンプルを、ジエチルジカーボネート(DEPC)水中に溶解させ、次いで、キアゲン(Qiagen)RNAイージー(RNAeasy)キット(キアゲン(Qiagen)、ヒルデン、ドイツ)を製造元の指示に従って用いて精製した。RNA濃度を、ナノドロップ(Nanodrop)2000c機器(サーモフィッシャー・サイエンティフィック、米国マサチューセッツ州ウォルサム)を用いて測定した。iScript(商標)逆転写スーパーミックス(バイオ-ラッド、米国カリフォルニア州ハーキュリーズ)を用いて、全RNAを相補的DNA(cDNA)に変換した。各反応につき、2pgの全RNAを遺伝子特異的なプライマー(プライムPCR(PrimePCR)アッセイSlcl2a2)と合わせた。刺激された、および刺激されていない動物から得たサンプルは常に、同じプレート上でアッセイされた。各サンプルにつき、SYBRグリーンケミストリーベースの検出を使用することによって、各転写の増幅した生成物の差を3回の複製から測定した。内因性参照遺伝子として、ベータ-アクチン(ACTB)、TATAボックス結合タンパク質(TBP)、およびヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼ1(HPRT1)を使用し、これらの遺伝子の増幅のために使用されたプライマーは、それぞれプライムPCRアッセイACTB、プライムPCRアッセイTBP、およびプライムPCRアッセイHPRT1であった。得られた3つの転写物を、中枢神経系におけるそれらの安定な発現の従前の実証に基づく分析のために選択した(Valenteら、2014;Walderら、2014)。総反応体積は10μlであり、これは、5μlのスーパーミックス、プライマー、cDNAテンプレート、およびヌクレアーゼ非含有水を含んでいた。CFX384リアルタイムシステム(バイオ-ラッド)およびSsoADVANCEDユニバーサル(SsoADVANCED Universal)SYBRグリーンスーパーミックス(バイオ-ラッド)を用いて、qPCR反応を384-ウェルプレートで行った。CFXマネージャーソフトウェア(米国カリフォルニア州ハーキュリーズ)を、選択された自動ベースラインおよび閾値検出オプションと共に使用した。得られたデータをマイクロソフトエクセル(Microsoft Excel)にエクスポートし、各サンプルにつき、正規化因子としての内因性参照遺伝子に対する3連の相乗平均を使用することによって、相対的な正規化された発現を計算した。
【0126】
実験設計および統計的分析
[0163]実行された予備的な実験に基づき、足首を、109°の底屈の最初の角度から81°の背屈に伸張させて(28°伸張した)、筋肉を傷つけずに伸張反射を誘発させた。対応するひざ関節の角度は完全に伸張した状態であり、これは測定の全てにわたり一貫して維持された。器具を使用して試験された各伸張パラメーターにつき、2セットのデータを収集した:1セットのデータは、動物が覚醒している間に収集し、第2のセットのデータは、動物が完全なイソフルラン麻酔下にある間に収集した。筋肉および結合組織の受動的な抵抗性の力を表すために、動物が麻酔されている間にデータを収集した。伸張抵抗のニューロンで生産された要素を、受動組織に起因する要素から単離するために、麻酔中に収集された試験されたパラメーターの値を、動物が覚醒している間に収集された値から引いた。この方法は、伸張応答のニューロンの寄与率のみが分析されることを確実にした。テールピンチおよびペダル反射の減算を使用して、伸張が実行された麻酔レベルを標準化した。しかしながら、イソフルラン麻酔は、速い速度の伸張の間、反射応答を完全に除去しなかった。以下の伸張パラメーター:活性抵抗、ピーク振幅および活性スロープ(active slope)ならびに二乗平均EMG(RMS EMG)面積および振幅(
図1)を収集した。ベースライン(伸張前)に対する抵抗トレースの高さとして活性ピーク抵抗を計算した。伸張に応答した筋肉抵抗の上昇期の第1の導関数に基づき、活性スロープを計算した。ベースラインに対するEMGトレースの高さに基づき、RMS EMG振幅を計算した。濃度曲線下面積に基づき、RMS EMG面積を計算した。
【0127】
[0164]4人の研究者は、ラボチャートソフトウェアで収集された伸張器具のデータをエクセルシートに移し、埋め込まれたエクセルシートの式を使用して各動物につきスコアを計算した。1人の研究者は、DigiGait(歩行)およびラダーホイール(巧緻運動)のビデオを分析し、一方で別の研究者は、埋め込まれたエクセルシートの式を用いてデータを分析して、動物のスコアを計算した。全6人の研究者が研究の仮説に対して盲検化された。ラボチャート中にRMS方程式を0.5msのウィンドウと共に埋め込み、EMGのためのRMSを生成した。
【0128】
[0165]筋緊張への繰り返しのtsDCSの作用を研究するために、処置(カソード、アノード、または偽)が対象間の独立変数であり、時間および速度が対象内の独立変数である混合型要因反復測定実験設計を使用した。混合型要因ANOVA(分割プロットANOVA)を使用して、グループ間のピーク抵抗、スロープ、EMG振幅、および面積における差を評価した。ボンフェローニの信頼区間の調整も適用された。混合型要因ANOVAを使用して、RDDデータを分析した。グループ間の比較を、テューキーの事後検定を使用して実行し、一元配置反復測定ANOVA(RM ANOVA)を使用して、地上歩行データにおける肢面積および上昇および下降スロープを分析した。反復測定ANOVA用の全ての仮定が満たされた。ホルム-シダック事後補正を使用して、伸張応答および巧緻運動に関する速度間の差を試験した。両側t検定を使用して、対照グループの2つの評価間の巧緻運動における差を分析した。SPSSソフトウェアを使用して、統計的検定(IBMスタティスティックス(IBM Statistics)、SPSSバージョン23)の全てを実行した。球面性を試験するために、SPSSにおけるモークリーの検定を適用した(p>0.05)。有意性の臨界レベルをp<0.05に設定した。データは、平均±標準誤差(SEM)として提示される。
【0129】
痙縮アウトカム尺度に対するDCSの長期作用
[0166]混合型要因ANOVAを使用することによって、活性筋肉抵抗の振幅における差を評価した。ここで、時間(4つのレベル:事前、E1、E2、およびE3)および速度(3つのレベル:速度1、2、および3)は対象内変数であり、処置(3つのレベル:アノード、カソード、および偽)は、対象間変数である。処置と速度との間に有意な相互作用は観察されなかった(F=0.4、p=0.81)。対照的に、処置と評価の時間との間に有意な相互作用が観察された(F=2.36、p=0.03)。多重比較(ボンフェローニ)のために調整した後、アノードおよびカソード処置動物間(p<0.001)、加えてアノードおよび偽処置グループ間(p<0.001)に有意なわずかな平均の差が確認された。しかしながら、E2、E3、およびE4中、カソードおよび偽処置グループ間に有意差はなかった(p=0.13)。E1でも、アノード、カソード、および偽処置動物間に有意差はなかった(p>0.05)。
図2で示されるように、グループ内分析は、アノードtsDCS処置動物が、活性筋肉抵抗の振幅における有意な低減を呈示したことを示した。速度による前処置スコアに対する異なる時間間隔での平均スコアは有意であった:それぞれホルム-シダックの方法に従って、速度1(E1、p<0.001;E2、p=0.003;E3、p=0.002)、速度2(E1、p<0.001:E2,p=0.038;E3、p=0.027)、および速度3(E1、p<0.001;E2、p=0.004;E3,p=0.046)。
【0130】
[0167]活性スロープにおける差を、混合型要因ANOVAを使用することによって評価した(
図2B)。分析から、時間と処置との間に有意な相互作用が示されたが(F=3.59、p=0.03)、速度と処置との間に相互作用は示されなかった(F=1.02、p=0.41)。グループ間分析はさらに、E2、E3、およびE4中に、アノードおよびカソード処置グループ間(p=0.015)、ならびにアノード処置および偽処置グループ間(p=0.04)における有意差を示した。しかしながら、偽処置およびカソード処置動物間に差はなかった(p=0.829)。また対象内分析も、アノード処置グループが、経時的に活性スロープにおける減少を経験したことを解明し(p<0.01)、これは、他のグループでは観察されなかった(p>0.05)。EMG面積における差を、混合型要因ANOVAを使用することによって評価した(
図2C)。
【0131】
[0168]時間と処置との間に有意な相互作用があったが(F=4.4、p=0.0002)、速度と処置との間に相互作用はなかった(F=0.6、p=0.8)。また時間、速度、および処置の間にも相互作用はなかった(F=1.1、p=0.34)。事後分析から、アノード処置およびカソード処置グループ間(p=0.001)、ならびにアノード処置および偽処置グループ間(p=0.0001)に有意差が確認された。対照的に、カソード処置および偽処置グループ間に差はなかった(p=0.34)。対象内分析はさらに、アノード処置グループが、経時的にEMG面積における減少を呈示したことを解明し(p<0.01)、これは、他のグループでは観察されなかった(p>0.05)。
【0132】
[0169]EMG振幅(覚醒からイソフルランを引いた値)における差を、混合型要因ANOVAを使用することによって評価した(
図2D)。時間と処置との間に有意な相互作用が観察された(F=3.63、p=0.007)。その一方で、速度と処置との間にも(F=0.61、p=0.66)、速度、時間、および処置の間にも相互作用はなかった(F=0.19、p=0.9)。事後分析により、アノード処置およびカソード処置グループ間(p<0.001)、およびアノード処置および偽処置動物間(p=0.001)で有意差が確認された。対照的に、カソード処置および偽処置動物間に差はなかった(p=0.96)。対象内分析はさらに、アノード処置グループが、経時的にEMG振幅における減少を呈示したことを確認し(p<0.01)、これは、他のグループでは観察されなかった(p>0.05)。
【0133】
アノードtsDCSの繰り返しの処置が地上歩行パターンを変化させる
[0170]歩行運動の特徴を、DigiGaitシステムを使用することによって調査した(
図3)。動物の評価は、2つの速度、10cm/秒および20cm/秒で、損傷の前(事前)、次いで処置後3つのインターバル:処置の直後(E1)ならびに処置の2週間後(E2)および4週間後(E3)に行われた。これらのタイムポイントのそれぞれに、3つの関連パラメーター:上昇スロープ、ピークの肢面積、および下降スロープを分析した。対照動物は、2つの後肢のそれぞれに実行された2つの評価間で、肢面積、上昇スロープ、または下降スロープにおける差を示さなかった(p>0.05:対応のある両側t検定)。対照的に、偽処置動物は、E1~E3評価中、より遅い速度で、左後脚(LHL)の肢面積において有意な減少を呈示したが、右後脚(RHL)では呈示しなかった(RM ANOVA、F=4.75、p=0.009)。より速い速度で、肢面積は、LHLの場合、評価の全て(E1~E3)において有意に減少したが(RM ANOVA、F=5.54、p=0.005)、RHLの肢面積は有意に変化しなかった。LHLの場合、上昇スロープは、E1の中に、遅い速度で有意に減少したが(RM ANOVA、F=3.20、p=0.039)、RHLの場合は減少しなかった。対照的に、上昇スロープは、両方の後肢について、より速い速度で有意に変化しなかった。同様に、下降スロープは、遅い速度で、いずれの後肢でも有意に減少しなかったが、LHLの場合、評価ポイントの全ての間で、より速い速度で有意に減少し(RM ANOVA、F=4.47、p=0.012)、ただしRHLでは減少しなかった(
*p<0.05、ホルム-シダックの方法)。アノードtsDCS処置動物は、LHLの場合、肢面積において、遅い速度では評価の全ての間(E1~E3)有意な増加を呈示し、E1およびE2の間のみであった(LHLの場合、反復測定(RM)ANOVA:F=12.70、p<0.001;RHLの場合、RM ANOVA:F=17.32、p<0.001)。肢面積も、より速い速度でE1中にLHL(RM ANOVA、F=7.04、p<0.001)およびRHL(RM ANOVA、F=13.32、p<0.001)の両方で有意に増加した。上昇スロープは、RHLの場合、E1およびE2中に、遅い速度で、有意に増加したが(RM ANOVA、F=6.06、p=0.002)、ただしLHLでは有意に増加しなかった。その一方で、RHLの場合、より速い速度で、上昇スロープのみがE1中に有意に増加した(RM ANOVA、F=4.19、p=0.011)。下降スロープは、遅い速度でE1およびE2中にLHL(RM ANOVA、F=10.03、p<0.001)およびRHL(RM ANOVA、F=13.48、p<0.001)の両方で有意に増加した。その一方で、下降スロープは、RHLの場合のみ、より速い速度でE1中に有意に増加した(RM ANOVA、F=9.06、p<0.001)(
*p<0.05、ホルム-シダックの方法)。カソードtsDCS処置動物において、ベースラインと比較して遅い速度で、E1中に、肢面積における有意な増加が観察されたが(LHLの場合、RM ANOVA:F=7.92、p<0.001;RHLの場合、RM ANOVA:F=8.46、p<0.001)、E2またはE3中に、肢面積における変化は観察されなかった。評価ポイントのいずれにおいても、より速い速度で、肢面積における有意な変化はなかったが、上昇スロープは、遅い速度とより速い速度の両方において不変のままであった。対照的に、下降スロープは、LHLの場合、E1およびE2中に有意に増加した(遅い速度の場合、RM ANOVA:F=6.72、p<0.001)、RHLの場合、E1の間のみ有意に増加した(遅い速度の場合、RM ANOVA:F=3.47、p=0.025)(
*p<0.05、ホルム-シダックの方法)。より速い速度で、下降スロープにおける有意な変化はなかった。
【0134】
アノード処置は巧緻運動の回復を強化する
[0171]コンピューター制御されたラダーホイール(
図4A)を使用して、巧緻運動に対する繰り返しのtsDCSの作用を調査した。混合型二元配置反復測定ANOVA(変数:時間および肢の側)を、巧緻運動における改善を評価するのに適用した。アノード処置したグループで検査された4つのタイムポイントにわたり、巧緻運動における有意差が観察された(F=6.49、p=0.002)。アノード処置グループのRHLは、E2中に、E1と比較して、より有意に高い平均スコアを有していたが(p=0.001、ボンフェローニ)、LHLは、E2およびE3中に、E1と比較して、より有意に高いスコアを有していた(p<0.01、ボンフェローニ)(
図4A)。しかしながら、4つのタイムポイントにわたり、他のグループのいずれにおいても有意差は観察されなかった(p>0.05、ボンフェローニ)。
【0135】
[0172]次に、グループ間の変化パーセント(評価前からの)を比較した(
図4B)。混合型二元配置反復測定ANOVAは、グループ間で有意な主要作用を検出した(F=5.97、p=0.016)。例えば、アノード処置グループは、それらのスコアにおいて、カソード処置グループ(p=0.027、ボンフェローニ)および健康グループ(p=0.048、ボンフェローニ)と比較して、より有意に高い変化パーセントを呈示した。アノード処置グループの場合、偽グループと比較して、より高い変化パーセントが観察されたが、変化は有意ではなかった(p>0.05)。他のグループ間で有意差はなかった(p>0.05)。総合すると、これらの発見から、アノードtsDCSで処置した動物で起こった巧緻運動の運動制御の回復が強化されたことが明らかとなる。
【0136】
tsDCS処置後のH反射のRDD
[0173]RDDにおける変化を評価するために、混合型二元配置反復測定ANOVAも実行した。処置条件(例えば、独立した因子、4つのレベル:対照、偽、アノード、およびカソード)は、異なるレベルの処置間で主要作用における有意差をもたらした(F=3.0、p=0.038)。加えて、有意な主要作用として頻度を確認した(対象内の繰り返しの因子、5つのレベル:0.1、0.5、1、2、および5Hz)、(F=13.8、p<0.001)。しかしながら、頻度および処置条件の間に統計学的に有意な相互作用は観察されなかった(F=1.35、p=0.192)。したがって、異なる処置レベルによる作用は、どのレベルの頻度が存在するかに依存していなかった。
【0137】
[0174]多重比較試験(テューキー)を適用して、どのグループが他と異なるのかを確認した。
図5で示されるように、1Hz、2Hz、および5Hzの頻度におけるRDDの平均スコアは、0.1HzにおけるRDDスコアと比較して、より有意に高かった(5Hz対1Hz、p<0.001:4Hz対1Hz、p=0.006;3Hz対1Hz、p=0.024)。偽グループ内で、頻度の全てにおけるRDDの平均スコアは、0.1HzでのRDDスコアと比較して有意に異なっていなかった(p>0.05)。アノード処置グループ内で、2Hzおよび5Hzの頻度におけるRDDの平均スコアは、0.1HzにおけるRDDスコアと比較して、より有意に高かったが(5Hz対1Hz、p<0.001:4Hz対1Hz、p<0.001)、カソード処置したグループ内の1Hzにおける平均RDDスコアは、0.1Hzにおける平均RDDと比較して、より有意に高かった(p=0.017)。グループ間比較(テューキー)を実行したところ、5HzにおけるRDDスコアにおける有意差が観察された。例えば、5HzにおけるRDDスコアは、アノード処置グループにおいて、偽およびカソード処置したグループのスコアと比較して、より有意に高かった(p<0.05)。その一方で、対照グループは、5Hzにおいて、カソード処置したグループと比較して、より有意に高いRDDスコアを有していた(p=0.016)。総合すると、これらの発見は、繰り返しのアノード刺激後に観察された痙縮において観察された低減の基礎となる生理学的なメカニズムの裏付けを提供する。痙縮を有する動物のうち6匹において、RDDに対するアノードおよびカソードtsDCSの短期作用を試験した。それぞれカソードおよびアノードtsDCSにおいてRDDにおける即時で有意な増加または減少が観察された(データは示されない)。これらのデータは、上記で報告したRDDに対するtsDCSの長期作用と一致する。
【0138】
実施例2:繰り返しのtsDCS処置後のKCC2、p-KCC2、NKCC1、およびp-NKCC1の発現
[0175]動物が7日間の繰り返しのtsDCS処置受けてから4週間後に、損傷部位の下の脊髄の腰仙部におけるKCC2タンパク質レベルにおける変化を調査した。カソードおよびアノードtsDCS処置後に、対照健康グループと比較して、KCC2およびpKCC2タンパク質レベルにおける低減が観察された(
図6A)。しかしながら、グループ間で、タンパク質レベル間に有意差はなかった(p>0.05)。共輸送体であるNKCC1のレベルも検査した(
図6B)。クラスカル-ウォリス一元配置ANOVAは、NKCC1に関して、処置グループ間で、中央値間における有意差を検出した(H=31.4、p<0.001)。対照の健康な動物において、それらの腰仙髄部で低いレベルのNKKC1発現が検出された。対照的に、SCIおよび痙縮を有する偽処置動物における、ならびにカソード処置グループにおけるNKCC1タンパク質のレベルは、対照グループと比較して、より有意に高かった(p<0.05、ダンの方法)。アノード処置グループにおいて、より低いレベルのNKCC1タンパク質が検出され、このレベル間の差および対照グループの差は有意ではなかった(p>0.05、ダンの方法)。
【0139】
[0176]次に、リン酸化NKCC1(p-NKCC1)のレベルを調査した。グループ間で検査したところ、p-NKCC1レベルにおける差はなかった。しかしながら、総NKCC1に対するp-NKCC1の比率を計算したところ、一元配置ANOVAは、処置グループ間で統計学的に有意な差を検出し(F=16.4、p<0.001)、アノード処置グループ(0.17±0.01、p<0.001)、カソード処置グループ(0.12±0.01、p<0.001)、および偽処置グループ(0.14±0.01、p<0.001)は、対照グループと比較して、より有意に低い比率を呈示した(0.31±0.04)(ホルム-シダックの方法)。刺激とNKCC1の発現との間の一時的な関連を確立するために、無傷動物で、NKCC1発現に対する刺激の即時作用を調査した。簡単に言えば、3つの動物グループは、アノード、カソードまたは偽tsDCS処置のいずれかを受け、次いで2.5時間後に刺激された部位からの脊髄サンプルを収集した。NKCC1発現における刺激によって誘発された変化は、上述したように繰り返しの処置を受けた動物で観察されたものと類似していた(
図7)。さらに、偽処置グループと比較して、p-NKCC1の絶対値が、カソード処置グループにおいてわずかに増加し、アノード処置グループにおいてわずかに低減した。総NKCC1に対するp-NKCC1の比率を計算したところ、一元配置ANOVAは、処置グループ間で統計学的に有意な差を検出した(F=5.96、p=0.006)。例えば、アノード処置およびカソード処置グループに関する比率は、それぞれ0.77±0.18(p=0.01)および0.28±0.5(p=0.8)であった。比較において、偽処置グループに関する比率は、0.31±3.6であった(ホルム-シダックの方法)。総合すると、これらのデータは、アノードtsDCSが脊髄興奮性における長期変化を引き起こす可能性がある可能性のあるメカニズムを示す。
【0140】
実施例3:NKCC1のmRNAの検出
[0177]NKCC1のmRNAレベルに対するtsDCSの作用も、刺激の2.5時間後に収集した脊髄組織において検査した。一元配置ANOVAによれば、処置グループ間の平均値は有意に異なっていた(F=3.8、p=0.03)。偽処置グループと比較して(0.74±0.22;n=12)、アノードtsDCSは、NKCC1のmRNAレベルにおける有意な変化を引き起こさなかったが(0.85±0.37、p=0.45、n=14)、一方でカソードtsDCSは、NKCC1のmRNAレベルにおける有意な増加をもたらした(1.14±0.49、p=0.03、n=15)ことが観察された。これらの結果は、上述したタンパク質発現データと一致する。
【0141】
実施例4:アノードtsDCSはHSP70応答を誘発する
[0178]上述したように、アノードtsDCSは、NKCC1タンパク質の発現を低減したが、NKCCC1のmRNAのレベルに影響を与えなかった。これらの結果は、分解プロセスの関与を示唆しており、HSP70は、タンパク質分解のプロテアソームおよびリソソーム経路を強化することが示されている(Reegら、2016)。それゆえに、NKCC1レベルに関するqPCRおよびウェスタンブロットデータを強化および説明するために、アノードtsDCS後にHSP70の発現を調査した。これらの実験のために、無傷の麻酔した動物にアノードtsDCSの1回のセッションを受けさせ、2時間後に標的組織を収集した。アノード処置グループにおいて、偽処置グループと比較して、HSP70発現におけるロバストで有意な増加が誘発された(p=0.03、t検定)(
図8)。運動ニューロンの免疫蛍光染色はさらに、HSP70発現における全体の増加が、アノード処置後に起こったことを実証した。これらの染色は、核中およびその周辺、細胞質中、および樹状突起中におけるHSP70の局在化を示した。加えて、ChATでの染色を実行して、脊髄運動ニューロンを確認し、DAPI染色により核を確認した(データは示されない)。
【0142】
実施例5:NKCC1ブロッカーであるブメタニドがSCIを有する動物における痙縮を低減した
[0179]上述したように、NKCC1は、痙縮を有する動物において過剰発現されたことが見出され、NKCC1のレベルは、繰り返しのアノードtsDCSの後に正常化した。それゆえに、SCI後に痙縮を有する動物に対するNKCC1特異的なブロッカーであるブメタニドの作用を調査した。ブメタニドを、2つの濃度、30mg/kgおよび60mg/kgで試験した。30mg/kgでのブメタニド投与の1時間後に(n=5)、痙縮における中程度の低減が観察された(データは示されない)。60mg/kgのブメタニドの投与後、ピークの筋肉抵抗およびEMGを測定した。一元配置RM ANOVAは、アッセイされた様々なタイムポイント間(例えば、注射の5、20、30、および45分後)で有意差を検出した(F=83.8、p<0.001)。また多重比較試験(ホルム-シダックの方法)も、ベースラインの測定値と比較して、アッセイされたタイムポイントのIにおけるピーク抵抗および対応するEMGにおける有意な低減を示した(34%)(p<0.001)(
図9)。またブメタニド注射の30分後、遅い伸張が、バックグラウンド活性を低減し、筋緊張を和らげることも観察されたが、これらの形態は、痙縮動物では増加した(
図9AおよびC)。総合すると、これらの発見は、高レベルのNKCC1発現と痙縮との強い関連を確立する。さらに、傷害を受けていない対照動物に60mg/kgブメタニドを注射した場合、動物の21%が、反射的な伸張応答の低減を呈示した。したがって、NKCC1は、正常マウスにおいても同様に脊髄に関する機能的な結果を有し得る。
【0143】
[0180]ここで、SCIにより誘発された痙縮のマウスモデルにおいて、7日にわたる1日20分のtsDCS投与の長期作用を調査した。さらに、痙縮は速度依存性であるため、本発明者らのマウスモデルにおいて、下腿三頭筋を3つの異なる速度で伸張させた。痙縮を評価する場合に重要とみなされる4つのパラメーター:1)活性抵抗ピーク、2)活性スロープ、3)EMGの振幅、および4)EMGの面積がある。アノードtsDCSで処置したマウスは、他のグループと比較して、全ての4つのこれらのパラメーターにおける有意な低減を呈示した(
図2)。アノードtsDCS処置において、地上および巧緻運動も処置後に有意に改善された。さらに、これらの機能的な改善は、RDDの増加、すなわち痙縮の低減、およびNKCC1タンパク質発現の低減の指標である歩行パラメーターの増加と類似の時間スケールで起こった。これらの結果は、ブメタニド処置後に痙縮が低減され、アノードtsDCSの1回のセッションの後にNKCC1レベルが低減されたという観察と組み合わせて、NKCC1が、アノードtsDCSの痙縮を低減する能力において重要な役割有することを示唆する。痙縮は、歩行の有効性に対して大きな影響を有し、歩行異常のパターンを予測することができる(KrawetzおよびNance、1996)。痙縮はまた、歩行を遅くし、共収縮(Dyerら、2011)および連合運動(Mayer、2002)により巧緻運動に干渉する。CNS傷害の後、伸張反射の調節は、歩行サイクルの適した進行を維持するのに必須であり(CapadayおよびStein、1986;CrennaおよびFrigo、1987)、痙縮の程度と傷害の原因(例えば、脳か脊髄か)に応じて様々なレベルの障害を被る(Faistら、1999)。
【0144】
[0181]歩行に対するtsDCSの作用を評価するために(
図8)、3つの歩行関連のパラメーター:上昇スロープ、ピークの肢面積、および下降スロープを調査した。これらのパラメーターを、歩行サイクルの立脚期における変化に対するそれらの感受性に基づき検査した。例えば、上昇スロープの始まりは、動物のかかとが地面を打つときである立脚期開始を示す。上昇スロープの残りは、動物がその体重をその足に移動させるときに足が地面に連続して下降すること(荷重応答)に対応する。体重移動は、立脚期の中間に到達する地点である中間スタンスまで続けられ、足は地上でフラットになる。中間スタンスはまた、第2のパラメーターであるピークの肢面積が測定されるときでもある。次いで中間スタンスの最後に下降スロープが続き、下降スロープは、かかとが上昇し始める(かかとが離れる)ときに始まり、それと並行して足は次第に蹴り出す準備をして、動物を前方へ推し進める。立脚期のほとんどの期間中に、TS筋肉は、足首が曲がり、体が前方へ移動するときに進行性の伸長を受ける(Lamontagneら、2001)。痙縮動物において、この伸長は、痙縮に関連して反射調節の機能が損なわれているために、歩行を妨害する反射的な収縮のきっかけになる(Faistら、1999)。それゆえに、アノード処置後に観察された下降および上昇スロープにおける有意な増加(
図4D、中央および下のグラフ)は、移行の強化および移行時間の減少が生じたことを示す。加えて、これらの動物のサブセットのピークの肢面積は、中間スタンス中に、偽処置動物(
図40、上)と比較して、試験された速度の両方において増加した(
図4d、上)。
【0145】
[0182]アノード処置動物がいかなる運動器官訓練も受けなかったことを考慮すると、これらの発見は、行動が本当に回復したことを反映する。巧緻運動をラダーホイールを用いて試験したところ、巧緻運動は、アノードtsDCSで処置した動物において有意に改善した(
図4)。対照的に、無傷対照動物の巧緻運動スコアは、経時的に改善しなかったことから、このタスクにおいて学習は不可能であったことが示される。したがって、アノード処置動物のスコアにおける有意な増加は、巧緻運動が本当に回復したことを反映し、これは訓練と無関係であった。さらに、マウスにおける巧緻運動は脳を要することを考えれば(Farrら、2006)、電流の結果は、アノードtsDCS処置が、潜在的に特定の皮質脊髄の関連を明らかにする、および/または強化する可能性があることを示す。RDDは、繰り返しの刺激後、H反射振幅の減衰を伴い(Ishikawaら、1966;LloydおよびWilson、1957;Meinck、1976)、痙縮に罹ったヒト(Aymardら、2000;Nielsenら、1993)および動物(Hedegaardら、2015;Leeら、2014b)において低減される。
【0146】
[0183]活性化後抑制の基礎となるメカニズムは、その事前の活性化によりla求心性部分からの神経伝達物質の量子的放出が起こる見込みの減少を含むという仮説が立てられている(Hirstら、1981;Kuno、1964a;Kuno、1964b;Lev-TovおよびPinco、1992)。本発明のRDD研究において、偽グループにおける異なる頻度間のRDD低減において有意差はなかった。対照的に、5Hzにおいて、無傷対照と偽グループとの間に有意差があり(
図10F)、これらの発見は、以前の研究のものと一致する(Leeら、2014b)。活性化後抑制は、la求心性部分のシナプスの効能を低下させ、それによってクローヌスおよび振動を防ぐため、随意運動中において機能的に有益である(HultbornおよびNielsen、1998)。しかしながら、活性化後抑制の減少は、潜在的にシナプス効能を増加させる可能性があり、これは次に、一般的に痙縮に関連する興奮性亢進を引き起こす可能性がある(HultbornおよびNielsen、1998)。短期tsDCS(データは示されない)および長期tsDCS(
図6)後に、偽グループと比較して、RDDにおける有意な増加がアノードグループで観察された。短期作用は、シナプスレベルにおけるDC電流の機能的な調節と一致する。アノードDC電流は、脊髄の背部に適用されると、la求心性部分のシナプス前終末を脱分極させ、運動ニューロンの興奮性シナプス後電位(EPSP)を減少させる。逆に言えば、カソードDC電流は、la求心性部分のシナプス前終末を過剰に再分極させ、運動ニューロンのEPSPを増加させる(Ecclesら、1962)。アノード電流はまた、自発放出の強化により微小終板電位の頻度も増加させ(Del CastilloおよびKatz、1954)、これは、シナプス前部の神経伝達物質の枯渇を引き起こす可能性がある。本発明の研究で観察された長期の結果は、アノードtsDCS後におけるシナプス強度の持続的な改変によって説明が可能であり、これは、NKCC1の発現を低減させることによる脊髄の抑制の回復により達成することができる。SCI後、KCC2およびNKCC1の発現レベルは変更されることが見出されている(Cramerら、2008;Hasbargenら、2010;Leeら、2014a)。さらに、これらの共輸送体間の不均衡は、脊髄の興奮性亢進、したがって痙縮、痙攣、および/または疼痛に至る可能性がある(D’Amicoら、2014;Hasbargenら、2010)。ラットにおいて、SCIはKCC2のダウンレギュレーションを引き起こし、これは、痙縮と相関することが示されている(Boulenguezら、2010)。
【0147】
[0184]本発明の研究において、KCC2またはp-KCC2の発現における有意ではない低減が、偽処置した傷害を受けた動物で観察された。この結果はこれまで公開されたデータ(Boulenguezら、2010)と矛盾するため、サンプルの全てを用いてウェスタンブロットを2回実行した。全体的に、本発明者らのKCC2の結果は、これまでに報告された結果(Modalら、2014)に一致する。注目すべきことに、本発明の研究では、抗リン酸-セリン940KCC2抗体が使用された。この部位におけるリン酸化は、プロテインキナーゼC(PKC)によって媒介され、これは、細胞表面におけるKCC2の安定性を強化し、イオン輸送を増加させる(Leeら、2007)。その一方で、本発明者らのSCI動物において、p-NKCC1の絶対レベルにおける有意な変化を起こすことなく、NKCC1の発現は著しく上昇した。これらの結果は、CD-1マウスにおいて、上昇したNKCC1発現のレベルが、SCI後に脊髄興奮性を調節することにおいて重要な要因である可能性があることを示す。この結論は、NKCC1特異的なブロッカーであるブメタニドでの処置後に痙縮が低減したという観察によって裏付けられる(
図8)。繰り返しのアノードtsDCSは、SCIを有するCD-1マウスにおいて痙縮パラメーターの有意な低減をもたらし(
図2)、NKCC1のレベルにおける永続的な低減をもたらした(
図6B)。逆に言えば、逆の極性を受けたマウスは、偽処置動物と比較して、痙縮および巧緻運動においてわずかな悪化を呈示し、NKCC1のレベルにおいて永続的な増加を呈示した。NKCC1発現に対するtsDCSの同時発生作用を実証するために、単一の刺激セッションを麻酔した対照動物に適用してから2.5時間後に短期実験を実行した。tsDCSのロバストな極性依存性作用が観察され(
図7)、この作用にとって傷害も覚醒状態も重要ではなかった。さらに、アノード刺激後に、NKCC1のレベルにおける有意な低減が検出され、これは、NKCC1のmRNAのレベルにおける有意な変化をまったく伴っていなかった。これらの結果は、タンパク質分解を含むメカニズムを考慮に入れるべきであり、これはCa
+2依存性プロセスであり得ることを示唆する(Reynoldsら、2007)。さらに、本発明者らの以前の研究において、Ca
+2蓄積が、アノード刺激後に神経組織においてを有意に増加すること見出され(WieraszkoおよびAhmed、2016)、これは、脊髄組織におけるグルタミン酸の放出の増加に起因する可能性がある(AhmedおよびWieraszko、2012)。本発明の研究において、カルシウム蓄積とNKCC1分解との直接的な関連を示す証拠は観察されていないが、アノード刺激後の2つの事象の同時出現は強い関連を示唆する。これまでに、カルシウム依存性NKCC1分解(Reynoldsら、2007)に加えて、グルタミン酸処置後のタンパク質分解(GuoおよびWang、2007)が観察された。この関連を強化するために、分解のためのプロテアソームまたはリソソーム経路を介した基質の流れを強化することがわかっているタンパク質であるHSP70を調査した。本発明の研究において、アノードtsDCSは、有意なHSP70応答を誘発することが見出された(
図9)。したがって、アノードtsDCSがグルタミン酸放出を増加させ、カルシウム蓄積を増加させ、HSP70応答を誘発し、NKCC1タンパク質をダウンレギュレーションするが、そのmRNAはダウンレギュレーションしないという観察は、アノードtsDCSがタンパク質分解プロセスを誘発することを強く示唆する。
【0148】
[0185]しかしながら、アノードtsDCSの作用を媒介することに関与する可能性があるシグナル伝達メカニズムの詳細を調査するために、さらなる研究が必要である。その一方で、カソードtsDCSがNKCC1タンパク質およびmRNAのレベルを増加させたという観察は、カソードtsDCSが、デノボタンパク質合成を含む別個のメカニズムを媒介することを示す。p-NKCC1は、約250kDaの分子量を有するNKCC1の成熟形態の二量体である。この形態は、分子量に基づきNKCC1と異なることから(MW、135/170kDa)、p-NKCC1は、NKCC1の一部ではない。現在のところ、神経組織におけるNKCC1の活性に関するリン酸化の役割は不明のままである。脳組織におけるNKCC1のアップレギュレーションは、リン酸化によって上昇したNKCC1活性の非存在下で虚血性傷害に寄与することが実証されており(Yan al.、2003)、それによって、NKCC1は活性型であることが示される。それに相応して、本研究で検知されたNKCC1のアップレギュレーションは、脊髄の脱抑制に関与する可能性がある。さらに、p-NKCC1の絶対レベルは、検査されたグループ間で不変のままであり、反射的な筋肉抵抗における34%の低減が、SCIを有する動物で観察され、それに対してブメタニド注射後の対照では21%の低減であった。これらの結果は、NKCC1が、リン酸化の非存在下で活性であるという仮説を裏付ける。別の研究において、PKC(セリン-スレオニンキナーゼ)によるNKCC1のリン酸化は、NKCC1の内部移行を誘発することが見出され、これは、側底膜からのNKCC1ユニットの喪失を伴っていた(Tangら、201C)。したがって、本発明の研究においてアノードグループで観察されたp-NKCC1における相対的な増加は、その分解に関連する可能性がある。
図10は、脊髄興奮性に対するtsDCSの作用を媒介する可能性がある作用機序、および含まれるp-NKCC1Iの可能性のある役割を例示する。
【0149】
[0186]まとめると、本発明の結果は、アノードtsDCSが、SCIを有するCD-1マウスの痙縮において永続的な低減をもたらす可能性があることを実証する。加えて、追加の訓練を行わずに、地上および巧緻運動が改善され、一方でNKCC1の増加した発現が、痙縮に関連していた。NKCC1の具体的な役割は、アノードtsDCSによる、NKCC1の薬理学的な阻害およびNKCC1のダウンレギュレーションによりさらに実証され、これらはどちらも、痙縮の低減をもたらした。総合すると、本発明の研究の結果は、アノードtsDCSの作用を媒介することにおいて、NKCC1発現のダウンレギュレーションが重要な役割を有するという強い証拠を提供する。以下に、本願の出願時の特許請求の範囲の記載を転記する。
(1)痙縮、緊張亢進、またはジストニアを処置する方法であって、治療有効量の、NKCC1の生物学的活性を阻害する少なくとも1つの薬剤またはNKCC1の遺伝子発現レベルおよび/もしくはタンパク質発現レベルを減少させる少なくとも1つの薬剤を投与する工程を含む、上記方法。
(2)前記薬剤が、医薬化合物、タンパク質、抗体、核酸、およびそれらの組合せからなる群から選択される、(1)に記載の方法。
(3)前記医薬化合物が、スルホンアミド、スルホニル尿素ループ利尿薬、チアジド、およびチアジド様利尿薬からなる群から選択される、(2)に記載の方法。
(4)前記スルホンアミドまたはスルホニル尿素ループ利尿薬が、アセタゾールアミド、アゾセミド、ブメタニド、クロルタリドン、クロパミド、フロセミド、ヒドロクロロチアジド、インダパミド、メフルシド、メトラゾン、ピレタニド、トリパミド、キシパミド、ジクロルフェナミド、ドルゾラミド、エトクスゾラミド、スルタメ、ゾニサミド、トルセミド、フェノキシ酢酸誘導体(エタクリン酸、ムゾリミン)、それらの類似体、およびそれらの組合せからなる群から選択される、(3)に記載の方法。
(5)前記チアジドまたはチアジド様利尿薬が、ベンドロフルメチアジド、ベンズチアジド、クロロチアジド、ヒドロクロロチアジド、ヒドロフルメチアジド、メチクロチアジド、ポリチアジド、トリクロルメチアジド、クロルタリドン、インダパミド、メトラゾン、キネサゾン、それらの類似体、およびそれらの組合せからなる群から選択される、(3)に記載の方法。
(6)前記核酸が、RNA、siRNA、shRNA、マイクロRNA、アンチセンスRNA、RNAi、リボザイム、DNAザイム、ペプチド核酸(PNA)、ロックド核酸(LNA)、修飾または合成DNAまたはRNA分解抵抗性のポリヌクレオシドアミド、アプタマー、トランスポゾン、導入遺伝子、および遺伝子工学用のベクターからなる群から選択される、(2)に記載の方法。
(7)前記抗体が、モノクローナル抗体(mAb)、ポリクローナル抗体(pAb)、ヒト化抗体、抗原結合フラグメント(Fab)、可変フラグメント(Fv)、一本鎖可変フラグメント(scFv)、組換え抗体(rAb)、Fab’、(Fab’)2、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ、ビス-scFv、ミニボディ、Fab2、Fab3、ラクダ/サメ抗体、およびナノボディからなる群から選択される、(2)に記載の方法。
(8)前記タンパク質またはタンパク質と核酸との組合せが、Cas9ヌクレアーゼ、CRISPRガイドRNA、Cpf1ヌクレアーゼ、HiFi Cas9、ニッカーゼCas9、spCas9、scCas9、合成spCas9、およびジンクフィンガーヌクレアーゼからなる群から選択される遺伝子工学のためのツールを含む、(2)に記載の方法。
(9)治療有効量の、ボツリヌス毒素、短時間作用型の血清型E型ボツリヌス毒素、バクロフェン、ガバペンチン、チザニジン、ジアゼパム、クロナゼパム、ダントロレン、フェノール、クロニジン、ケタゼパム、MDL28170、リルゾール、カンナビノイド、エンドカンナビノイドまたはそれらの組合せを投与する工程をさらに含む、(1)~(8)のいずれか一項に記載の方法。
(10)前記カンナビノイドまたはエンドカンナビノイドが、ドロナビノール、ナビロン、ナビキシモルス、エンドカンナビノイドVNS16R、カンナビジオール(CBD)、テトラヒドロカンナビノール(THC)、およびそれらの組合せからなる群から選択される、(9)に記載の方法。
(11)脊椎動物における障害を処置する方法であって、
直流源の第1の電極と第2の電極との間に直流刺激を適用する工程であって、前記第1の電極は、脊椎動物の脊髄の背側面またはその近傍にあるか、または前記第1の電極は、脊椎動物の頭蓋上にある、工程;および
NKCC1の遺伝子発現および/またはタンパク質発現の生物学的活性またはレベルを変化させるのに十分な強度および期間で直流刺激を適用する工程
を含み、
前記第2の電極は、前記第1の電極から離れた位置に設置され、前記第1および第2の電極は逆に帯電されており、
前記直流は、定電流、連続電流、パルス電流、間欠電流、可変および不変の電流の少なくとも1つである、上記方法。
(12)脊椎動物における障害を処置する方法であって、
直流源の第1の電極と第2の電極との間に第1の直流刺激を適用する工程であって、前記第1の電極は脊椎動物の脊髄の背側面またはその近傍にある工程;
直流源の第3の電極と第4の電極との間に第2の直流刺激を適用する工程であって、前記第3の電極は脊椎動物の末梢神経またはその近傍にある工程;および
NKCC1の遺伝子発現および/またはタンパク質発現の生物学的活性またはレベルを変化させるのに十分な強度および期間で直流刺激を適用する工程
を含み、前記第2の電極は前記第1の電極から離れた位置に設置され、前記第1および第2の電極は逆に帯電されており、前記第4の電極は前記第3の電極から離れた位置に設置され、前記第3および第4の電極は逆に帯電されており、前記直流は、定電流、連続電流、パルス電流、間欠電流、可変および不変の電流の少なくとも1つである、上記方法。
(13)前記第1および第2の刺激が、同時に、または順次適用される、(12)に記載の方法。
(14)直流源の第5の電極と第6の電極との間に第3の刺激を適用する工程であって、前記第5の電極は脊椎動物の頭蓋上である工程
をさらに含み、前記第6の電極は前記第5の電極から離れた位置に設置され、前記第5および第6の電極は逆に帯電されている、(12)に記載の方法。
(15)前記第1、第2、および第3の刺激が、同時に、または順次適用される、(14)に記載の方法。
(16)前記末梢神経が、骨格筋を刺激する、(12)~(15)のいずれか一項に記載の方法。
(17)前記期間が、1日またはそれより多くの日における一連の刺激セッションを含み、この日は、連続または不連続である、(11)~(16)のいずれか一項に記載の方法。
(18)前記障害が、痙縮、緊張亢進、およびジストニアからなる群から選択される筋緊張障害である、(11)~(16)のいずれか一項に記載の方法。
(19)前記障害が、副腎白質ジストロトフィー(ADL)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、シャルコー-マリー-トゥース病(CMT)、フリードライヒ運動失調症(FA)、ハラーホルデン-スパッツ症候群、遺伝性痙性対麻痺(HSP)、ハンチントン病、フェニル
ケトン尿症、卒中、脳性麻痺、多発性硬化症、パーキンソン病、パーキンソン症候群を伴う神経変性疾患、新生児発作、てんかん、自閉症、脊髄損傷(SCI)、外傷性脳損傷(TBI)、虚血性および外傷性脳損傷後の脳浮腫、酸欠または一酸化炭素への曝露に起因する脳損傷、脳炎、髄膜炎、慢性疼痛、急性疼痛、ならびに耳鳴りからなる群から選択される神経障害または状態である、(11)~(16)のいずれか一項に記載の方法。
(20)NKCC1の遺伝子発現および/またはタンパク質発現の前記生物学的活性または前記レベルが、減少される、(11)~(19)のいずれか一項に記載の方法。
(21)治療有効量の、NKCC1の生物学的活性を阻害する少なくとも1つの薬剤またはNKCC1の遺伝子発現レベルおよび/もしくはタンパク質発現レベルを減少させる少なくとも1つの薬剤を投与する工程をさらに含む、(11)~(20)のいずれか一項に記載の方法。
(22)前記薬剤が、医薬化合物、タンパク質、抗体、核酸、およびそれらの組合せからなる群から選択される、(21)に記載の方法。
(23)前記医薬化合物が、スルホンアミド、スルホニル尿素ループ利尿薬、チアジド、およびチアジド様利尿薬からなる群から選択される、(22)に記載の方法。
(24)前記スルホンアミドまたはスルホニル尿素ループ利尿薬が、アセタゾールアミド、アゾセミド、ブメタニド、クロルタリドン、クロパミド、フロセミド、ヒドロクロロチアジド、インダパミド、メフルシド、メトラゾン、ピレタニド、トリパミド、キシパミド、ジクロルフェナミド、ドルゾラミド、エトクスゾラミド、スルタメ、ゾニサミド、トルセミド、フェノキシ酢酸誘導体(エタクリン酸、ムゾリミン)、それらの類似体、およびそれらの組合せからなる群から選択される、(23)に記載の方法。
(25)前記チアジドまたはチアジド様利尿薬が、ベンドロフルメチアジド、ベンズチアジド、クロロチアジド、ヒドロクロロチアジド、ヒドロフルメチアジド、メチクロチアジド、ポリチアジド、トリクロルメチアジド、クロルタリドン、インダパミド、メトラゾン、キネサゾン、それらの類似体、およびそれらの組合せからなる群から選択される、(23)に記載の方法。
(26)前記核酸が、RNA、siRNA、shRNA、マイクロRNA、アンチセンスRNA、RNAi、リボザイム、DNAザイム、ペプチド核酸(PNA)、ロックド核酸(LNA)、修飾または合成DNAまたはRNA分解抵抗性のポリヌクレオシドアミド、アプタマー、トランスポゾン、導入遺伝子、および遺伝子工学用のベクターからなる群から選択される、(22)に記載の方法。
(27)前記抗体が、モノクローナル抗体(mAb)、ポリクローナル抗体(pAb)、ヒト化抗体、抗原結合フラグメント(Fab)、可変フラグメント(Fv)、単鎖可変フラグメント(scFv)、組換え抗体(rAb)、Fab’、(Fab’)2、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ、ビス-scFv、ミニボディ、Fab2、Fab3、ラクダ/サメ抗体、およびナノボディからなる群から選択される、(22)に記載の方法。
(28)前記タンパク質またはタンパク質と核酸との組合せが、Cas9ヌクレアーゼ、CRISPRガイドRNA、Cpf1ヌクレアーゼ、HiFi Cas9、ニッカーゼCas9、spCas9、scCas9、合成spCas9、およびジンクフィンガーヌクレアーゼからなる群から選択される遺伝子工学のためのツールを含む、(22)に記載の方法。
(29)治療有効量の、ボツリヌス毒素、短時間作用型の血清型E型ボツリヌス毒素、バクロフェン、ガバペンチン、チザニジン、ジアゼパム、クロナゼパム、ダントロレン、フェノール、クロニジン、ケタゼパム、MDL28170、リルゾール、カンナビノイド、エンドカンナビノイド、またはそれらの組合せを投与する工程をさらに含む、(11)~(28)のいずれか一項に記載の方法。
(30)前記カンナビノイドまたはエンドカンナビノイドが、ドロナビノール、ナビロン、ナビキシモルス、エンドカンナビノイドVNS16R、カンナビジオール(CBD)、テトラヒドロカンナビノール(THC)、およびそれらの組合せからなる群から選択される、(29)に記載の方法。
(31)治療有効量の、KCC2の生物学的活性を増加させる少なくとも1つの薬剤またはKCC2の遺伝子発現レベルおよび/またはタンパク質発現レベルを増加させる少なくとも1つの薬剤を投与する工程をさらに含む、(11)~(30)のいずれか一項に記載の方法。
(32)前記薬剤が、医薬化合物、タンパク質、抗体、核酸、およびそれらの組合せからなる群から選択される、(31)に記載の方法。
(33)前記医薬化合物が、N-エチルマレイミドである、(32)に記載の方法。
(34)前記核酸が、RNA、siRNA、shRNA、マイクロRNA、アンチセンスRNA、RNAi、リボザイム、DNAザイム、ペプチド核酸(PNA)、ロックド核酸(LNA)、修飾または合成DNAまたはRNA分解抵抗性のポリヌクレオシドアミド、アプタマー、トランスポゾン、導入遺伝子、および遺伝子工学用のベクターからなる群から選択される、(32)に記載の方法。
(35)前記抗体が、モノクローナル抗体(mAb)、ポリクローナル抗体(pAb)、ヒト化抗体、抗原結合フラグメント(Fab)、可変フラグメント(Fv)、単鎖可変フラグメント(scFv)、組換え抗体(rAb)、Fab’、(Fab’)2、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ、ビス-scFv、ミニボディ、Fab2、Fab3、ラクダ/サメ抗体、およびナノボディからなる群から選択される、(32)に記載の方法。
(36)前記タンパク質またはタンパク質と核酸との組合せが、Cas9ヌクレアーゼ、CRISPRガイドRNA、Cpf1ヌクレアーゼ、HiFi Cas9、ニッカーゼCas9、spCas9、scCas9、合成spCas9、およびジンクフィンガーヌクレアーゼからなる群から選択される遺伝子工学のためのツールを含む、(32)に記載の方法。
(37)脊椎動物における痙縮、緊張亢進、またはジストニアを処置するためのシステムであって、
脊椎動物における痙縮、緊張亢進、またはジストニアに関連する末梢神経の末梢直流刺激を提供するように構成された第1の刺激要素であって、前記末梢神経を刺激するように構成された神経刺激電極を有する神経刺激回路を含む、第1の刺激要素;
前記末梢神経の調節に関連する脊髄の場所に、脊髄直流刺激を提供するように構成された第2の刺激要素であって、前記第2の刺激要素は、活性脊髄刺激電極および脊髄参照電極を有する脊髄刺激回路を画定し、前記脊髄刺激回路は、前記脊髄刺激電極と前記脊髄参照電極との間に、前記脊髄の場所を刺激するための経皮脊髄直流刺激を提供するように構成されており、前記活性脊髄刺激電極は、相対的に前記脊髄の場所の近位にあり、前記脊髄参照電極は、相対的に前記脊髄の場所の遠位にある、第2の刺激要素;および
前記活性脊髄電極および前記近位神経電極を逆の極性で動作させ、結果として分極回路が形成されることを確定するように構成されたコントローラー要素であって、得られた分極回路は、分極電流フローに従って、標的分子の遺伝子発現および/またはタンパク質発現の生物学的活性またはレベルを変化させるために、前記逆の極性に従って、前記活性脊髄電極と前記近位神経電極との間に分極電流フローを提供するように構成される、コントローラー要素、
を含み、
前記コントローラー要素はまた、予め決定された期間にわたる末梢直流刺激および脊髄直流刺激、ならびに予め決定された日数にわたる予め決定された回数の繰り返しの刺激を提供するように構成される、上記システム。
(38)前記コントローラー要素が、定電流、連続電流、パルス電流、間欠電流、可変および不変の電流フローの少なくとも1つを含む前記電流フローを提供するように構成される、(37)に記載のシステム。
(39)前記コントローラー要素がさらに、第1および第2の刺激要素によって供給される電流の範囲を同時に制御するように構成される、(37)または(38)に記載のシステム。
(40)前記第1の刺激要素が、前記末梢神経の刺激のために配置された刺激電極に刺激電流を提供するための正極および負極を含み、前記正極および負極は、前記正極に1つの電極が作動可能に接続され、前記負極に別の電極が作動可能に接続されるように配置されている、(39)に記載のシステム。
(41)前記第2の刺激要素が、前記脊髄の場所にわたり刺激を送達するために配置された刺激電極に刺激電流を提供するための正極および負極を含み、前記正極および負極は、前記正極に1つの電極が作動可能に接続され、前記負極に別の電極が作動可能に接続されるように配置されている、(39)に記載のシステム。
(42)前記刺激電極の少なくとも1つが、埋め込まれている、(40)または(41)に記載のシステム。
(43)コントローラー要素および電源のうち少なくとも1つが、ウェアラブルなハウジング中に配置されている、(37)~(42)のいずれか一項に記載のシステム。
(44)前記予め決定された期間、前記予め決定された回数および前記予め決定された日数が、NKCC1の遺伝子発現および/またはタンパク質発現の生物学的活性またはレベルを変化させるように選択される、(37)~(43)のいずれか一項に記載のシステム。
(45)NKCC1の遺伝子発現および/またはタンパク質発現の前記生物学的活性または前記レベルが、減少される、(44)に記載のシステム。
(46)脊髄、脳、または末梢神経のうちの1つに関連する生物学的活性を調節するための刺激デバイスであって、
複数の端子を有する直流電圧源;
第1の電極を前記直流電圧源に接続するための、前記端子のうち第1の端子であって、前記第1の電極は、脊椎動物の脊髄の背側面もしくはその近傍にあるか、脊椎動物の頭蓋上にあるか、または脊椎動物の末梢神経もしくはその近位にある、第1の端子;
第2の電極を前記直流電圧源に接続するための、前記端子のうち第2の端子であって、前記第2の電極は、前記第1の電極から離れた位置に設置されており、前記第1および第2の電極は逆に帯電されており、前記脊髄、前記頭蓋、または前記末梢神経を刺激するた
めの電流経路を形成するように構成される、第2の端子;および
前記電流経路を通じて前記電極間の電流フローを制御するように構成されたコントローラー要素であって、予め決定された期間にわたる、前記脊髄を通過する、前記頭蓋を通過する、または前記末梢神経を通過する前記電流経路の刺激のための前記直流のフロー、および予め決定された日数にわたる予め決定された回数の繰り返しの刺激を提供するようにも構成される、コントローラー要素
を含む、上記刺激デバイス。
(47)前記コントローラー要素が、定電流、連続電流、パルス電流、間欠電流、可変および不変の電流フローの少なくとも1つを含む前記電流フローを提供するように構成される、(46)に記載の刺激デバイス。
(48)第1および第2の電極の少なくとも1つが、埋め込まれている、(46)または(47)に記載の刺激デバイス。
(49)コントローラー要素および直流電圧源の少なくとも1つが、ウェアラブルなハウジング中に配置されている、(46)~(48)のいずれか一項に記載の刺激デバイス。
(50)前記予め決定された期間、前記予め決定された回数および前記予め決定された日数が、NKCC1の遺伝子発現および/またはタンパク質発現の生物学的活性またはレベルを変化させるように選択される、(46)~(49)のいずれか一項に記載の刺激デバイス。
(51)NKCC1の遺伝子発現および/またはタンパク質発現の前記生物学的活性または前記レベルが、減少される、(50)に記載の刺激デバイス。
(52)脊椎動物におけるALSを処置する方法であって、
直流源のA電極とB電極との間に刺激を適用する工程であって、前記A電極は脊椎動物の脊髄の背側面の第1の場所またはその近傍にあるか、または前記A電極は脊椎動物の頭蓋上の第1の場所にある工程;および
神経細胞の寿命を延長するのに十分な強度および期間で、直流刺激を適用する工程
を含み、
前記B電極は前記A電極から離れた第1の位置に設置され、前記AおよびB電極は逆に帯電されており、前記直流は、定電流、連続電流、パルス電流、間欠電流、可変および不変の電流の少なくとも1つである、上記方法。
(53)前記A電極を、脊椎動物の脊髄の背側面の第2の場所に、または脊椎動物の頭蓋上の第2の場所に移動させる工程;
任意に、前記A電極から離れた第2の位置に前記B電極を設置する工程;および
神経細胞の寿命を延長するのに十分な強度および期間で、直流刺激を適用する工程
をさらに含む、(52)に記載の方法。
(54)前記工程を1回またはそれより多くの回数繰り返すことをさらに含む、(53)に記載の方法。
(55)複数のA電極が脊髄の背側面に沿って複数の位置またはその近傍に配置され、複数のB電極が前記複数のA電極から離れた位置に設置される、(52)に記載の方法。
(56)複数のA電極が運動制御に関連する頭蓋上の複数の位置に配置され、複数のB電極が前記複数のA電極から離れた位置に設置される、(52)に記載の方法。
(57)前記複数のA電極およびB電極の間に適用される前記刺激が、同時に、または順次適用される、(55)または(56)に記載の方法。
(58)脊椎動物におけるALSを処置する方法であって、
直流源のA電極とB電極との間に第1の刺激を適用する工程であって、前記A電極は脊椎動物の脊髄の背側面の第1の場所またはその近傍にある工程;
直流源のC電極とD電極との間に第2の刺激を適用する工程であって、前記C電極は脊椎動物の頭蓋上の第1の場所にある工程;および
神経細胞の寿命を延長するのに十分な強度および期間で、直流刺激を適用する工程
を含み、前記B電極は前記A電極から離れた位置に設置され、前記AおよびB電極は逆に帯電されており、前記D電極は前記C電極から離れた位置に設置され、前記CおよびD電極は逆に帯電されており、前記直流は、定電流、連続電流、パルス電流、間欠電流、可変および不変の電流の少なくとも1つである、方法。
(59)前記第1および第2の刺激が、同時に、または順次適用される、(58)に記載の方法。
(60)前記A電極を、脊椎動物の脊髄の背側面の第2の場所に移動させる工程;
任意に、前記A電極から離れた第2の位置に前記B電極を設置する工程;および
神経細胞の寿命を延長するのに十分な強度および期間で、直流刺激を適用する工程
をさらに含む、(58)または(59)に記載の方法。
(61)前記C電極を、脊椎動物の頭蓋上の第2の場所に移動させる工程;
任意に、前記C電極から離れた第2の位置に前記D電極を設置する工程;および
神経細胞の寿命を延長するのに十分な強度および期間で、直流刺激を適用する工程
をさらに含む、(58)~(60)のいずれか一項に記載の方法。
(62)前記工程を1回またはそれより多くの回数繰り返すことをさらに含む、(60)または(61)に記載の方法。
(63)複数のA電極が脊髄の背側面に沿って複数の位置またはその近傍に配置され、複数のB電極が前記複数のA電極から離れた位置に設置される、(58)または(59)に記載の方法。
(64)複数のC電極が運動制御に関連する頭蓋上の複数の位置に配置され、複数のD電極が該複数のC電極から離れた位置に設置される、(58)、(59)または(63)のいずれか一項に記載の方法。
(65)前記複数のA電極およびB電極の間および前記複数のC電極およびD電極の間に適用される前記刺激が、同時に、または順次適用される、(63)または(64)に記載の方法。
(66)直流源のE電極とF電極との間に第3の刺激を適用する工程であって、前記E電極は脊椎動物の第1の末梢神経の第1の場所またはその近傍にある工程
をさらに含み、
前記F電極は、前記E電極から離れた位置に設置され、前記EおよびF電極は、逆に帯電されている、(58)~(65)のいずれか一項に記載の方法。
(67)前記第1、第2、および第3の刺激が、同時に、または順次適用される、(66)に記載の方法。
(68)前記E電極を、前記第1の末梢神経もしくはその近傍の第2の場所に、または第2の末梢神経もしくはその近傍の場所に移動させる工程;
任意に、前記E電極から離れた第2の位置に前記F電極を設置する工程;および
神経細胞の寿命を延長するのに十分な強度および期間で、直流刺激を適用する工程
をさらに含む、(66)または(67)に記載の方法。
(69)前記工程を1回またはそれより多くの回数繰り返すことをさらに含む、(68)に記載の方法。
(70)複数のE電極が、前記末梢神経に沿って複数の位置に配置されているか、または複数の末梢神経またはその近傍に配置されており、複数のF電極が、前記複数のE電極から離れた位置に設置される、(66)または(67)に記載の方法。
(71)前記複数のE電極およびF電極の間に適用される前記刺激が、同時に、または順次適用される、(70)に記載の方法。
(72)前記末梢神経が、骨格筋を刺激する、(66)~(71)のいずれか一項に記載の方法。
(73)前記期間が、1日またはそれより多くの日における一連の刺激セッションを含み、この日は、連続または不連続である、(66)~(72)のいずれか一項に記載の方法。
(74)NKCC1の遺伝子発現および/またはタンパク質発現の生物学的活性またはレベルを変化させるのに十分な強度および期間で直流刺激を適用する工程をさらに含む、(66)~(73)のいずれか一項に記載の方法。
(75)NKCC1の遺伝子発現および/またはタンパク質発現の前記生物学的活性または前記レベルが、減少される、(74)に記載の方法。
(76)治療有効量の、NKCC1の生物学的活性を阻害する少なくとも1つの薬剤またはNKCC1の遺伝子発現レベルおよび/もしくはタンパク質発現レベルを減少させる少なくとも1つの薬剤を投与する工程をさらに含む、(66)~(75)のいずれか一項に記載の方法。
(77)前記薬剤が、医薬化合物、タンパク質、抗体、核酸、およびそれらの組合せからなる群から選択される、(76)に記載の方法。
(78)前記医薬化合物が、スルホンアミド、スルホニル尿素ループ利尿薬、チアジド、およびチアジド様利尿薬からなる群から選択される、(77)に記載の方法。
(79)前記スルホンアミドまたはスルホニル尿素ループ利尿薬が、アセタゾールアミド、アゾセミド、ブメタニド、クロルタリドン、クロパミド、フロセミド、ヒドロクロロチアジド、インダパミド、メフルシド、メトラゾン、ピレタニド、トリパミド、キシパミド、ジクロルフェナミド、ドルゾラミド、エトクスゾラミド、スルタメ、ゾニサミド、トルセミド、フェノキシ酢酸誘導体(エタクリン酸、ムゾリミン)、それらの類似体、およびそれらの組合せからなる群から選択される、(78)に記載の方法。
(80)前記チアジドまたはチアジド様利尿薬が、ベンドロフルメチアジド、ベンズチアジド、クロロチアジド、ヒドロクロロチアジド、ヒドロフルメチアジド、メチクロチアジド、ポリチアジド、トリクロルメチアジド、クロルタリドン、インダパミド、メトラゾン、キネサゾン、それらの類似体、およびそれらの組合せからなる群から選択される、(78)に記載の方法。
(81)前記核酸が、RNA、siRNA、shRNA、マイクロRNA、アンチセンスRNA、RNAi、リボザイム、DNAザイム、ペプチド核酸(PNA)、ロックド核酸(LNA)、修飾または合成DNAまたはRNA分解抵抗性のポリヌクレオシドアミド、アプタマー、トランスポゾン、導入遺伝子、および遺伝子工学用のベクターからなる群から選択される、(77)に記載の方法。
(82)前記抗体が、モノクローナル抗体(mAb)、ポリクローナル抗体(pAb)、ヒト化抗体、抗原結合フラグメント(Fab)、可変フラグメント(Fv)、単鎖可変フラグメント(scFv)、組換え抗体(rAb)、Fab’、(Fab’)2、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ、ビス-scFv、ミニボディ、Fab2、Fab3、ラクダ/サメ抗体、およびナノボディからなる群から選択される、(77)に記載の方法。
(83)前記タンパク質またはタンパク質と核酸との組合せが、Cas9ヌクレアーゼ、CRISPRガイドRNA、Cpf1ヌクレアーゼ、HiFi Cas9、ニッカーゼCas9、spCas9、scCas9、合成spCas9、およびジンクフィンガーヌクレアーゼからなる群から選択される遺伝子工学のためのツールを含む、(77)に記載の方法。
(84)治療有効量の、ボツリヌス毒素、短時間作用型の血清型E型ボツリヌス毒素、バクロフェン、ガバペンチン、チザニジン、ジアゼパム、クロナゼパム、ダントロレン、フェノール、クロニジン、ケタゼパム、MDL28170、リルゾール、カンナビノイド、エンドカンナビノイド、またはそれらの組合せを投与する工程をさらに含む、(66)~(83)のいずれか一項に記載の方法。
(85)前記カンナビノイドまたはエンドカンナビノイドが、ドロナビノール、ナビロン、ナビキシモルス、エンドカンナビノイドVNS16R、カンナビジオール(CBD)、テトラヒドロカンナビノール(THC)、およびそれらの組合せからなる群から選択される、(84)に記載の方法。
(86)治療有効量の、KCC2の生物学的活性を増加させる少なくとも1つの薬剤またはKCC2の遺伝子発現レベルおよび/またはタンパク質発現レベルを増加させる少なくとも1つの薬剤を投与する工程をさらに含む、(66)~(85)のいずれか一項に記載の方法。
(87)前記薬剤が、医薬化合物、タンパク質、抗体、核酸、およびそれらの組合せからなる群から選択される、(86)に記載の方法。
(88)前記医薬化合物が、N-エチルマレイミドである、(87)に記載の方法。
(89)前記核酸が、RNA、siRNA、shRNA、マイクロRNA、アンチセンスRNA、RNAi、リボザイム、DNAザイム、ペプチド核酸(PNA)、ロックド核酸(LNA)、修飾または合成のDNAまたはRNA分解抵抗性のポリヌクレオシドアミド、アプタマー、トランスポゾン、導入遺伝子、および遺伝子工学用のベクターからなる群から選択される、(87)に記載の方法。
(90)前記抗体が、モノクローナル抗体(mAb)、ポリクローナル抗体(pAb)、ヒト化抗体、抗原結合フラグメント(Fab)、可変フラグメント(Fv)、単鎖可変フラグメント(scFv)、組換え抗体(rAb)、Fab’、(Fab’)2、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ、ビス-scFv、ミニボディ、Fab2、Fab3、ラクダ/サメ抗体、およびナノボディからなる群から選択される、(87)に記載の方法。
(91)前記タンパク質またはタンパク質と核酸との組合せが、Cas9ヌクレアーゼ、CRISPRガイドRNA、Cpf1ヌクレアーゼ、HiFi Cas9、ニッカーゼCas9、spCas9、scCas9、合成spCas9、およびジンクフィンガーヌクレアーゼからなる群から選択される遺伝子工学のためのツールを含む、(87)に記載の方法。
(92)脊椎動物におけるALSを処置するためのシステムであって、
脊椎動物において、末梢神経に沿って複数の場所に末梢神経の末梢直流刺激を提供するか、または複数の末梢神経の末梢直流刺激を提供するように構成された複数のA刺激要素であって、前記A刺激要素のそれぞれは、前記末梢神経または複数の末梢神経を刺激するように構成された神経刺激電極を有する神経刺激回路を含む、A刺激要素;
複数の前記末梢神経または複数の末梢神経の調節に関連する脊髄の場所に、脊髄直流刺激を提供するように構成された複数のB刺激要素であって、前記B刺激要素のそれぞれは、活性脊髄刺激電極および脊髄参照電極を有する脊髄刺激回路を画定し、前記脊髄刺激回路は、前記脊髄刺激電極と前記脊髄参照電極との間に、前記脊髄の場所を刺激するための経皮脊髄直流刺激を提供するように構成されており、前記活性脊髄刺激電極は相対的に前記脊髄の場所の近位にあり、前記脊髄参照電極は相対的に前記脊髄の場所の遠位にある、B刺激要素;および
前記活性脊髄電極および前記近位神経電極を逆の極性で動作させ、結果として分極回路が形成されることを確定するように構成されるコントローラー要素であって、得られた分極回路は、分極電流フローに従って、標的分子の遺伝子発現および/またはタンパク質発現の生物学的活性またはレベルを変化させるために、前記逆の極性に従って、前記活性脊髄電極と前記近位神経電極との間に分極電流フローを提供するように構成される、コントローラー要素
を含み、
前記コントローラー要素はまた、予め決定された期間にわたる末梢直流刺激および脊髄直流刺激、ならびに予め決定された日数にわたる予め決定された回数の繰り返しの刺激を提供するように構成される、上記システム。
(93)前記コントローラー要素が、定電流、連続電流、パルス電流、間欠電流、可変および不変の電流フローの少なくとも1つを含む前記電流フローを提供するように構成される、(92)に記載のシステム。
(94)前記コントローラー要素がさらに、前記AおよびB刺激要素によって供給される電流の範囲を同時に制御するように構成される、(92)または(93)に記載のシステム。
(95)前記A刺激要素が、末梢神経または複数の末梢神経の前記複数の場所の刺激のために配置された刺激電極に刺激電流を提供するための正極および負極を含み、前記正極および負極は、前記正極に1つの電極が作動可能に接続され、前記負極に別の電極が作動可能に接続されるように配置されている、(94)に記載のシステム。
(96)前記B刺激要素が、前記複数の脊髄の場所にわたり刺激を送達するために配置された刺激電極に刺激電流を提供するための正極および負極を含み、前記正極および負極は、前記正極に1つの電極が作動可能に接続され、前記負極に別の電極が作動可能に接続されるように配置されている、(94)に記載のシステム。
(97)前記刺激電極の少なくとも1つが、埋め込まれている、(95)または(96)に記載のシステム。
(98)コントローラー要素および電源のうち少なくとも1つが、ウェアラブルなハウジング中に配置されている、(92)~(97)のいずれか一項に記載のシステム。
(99)前記予め決定された期間、前記予め決定された回数および前記予め決定された日数が、神経細胞の寿命を延長するように、および/またはNKCC1の遺伝子発現および/またはタンパク質発現の生物学的活性またはレベルを変化させるように選択される、(92)~(98)のいずれか一項に記載のシステム。
(100)NKCC1の遺伝子発現および/またはタンパク質発現の前記生物学的活性または前記レベルが、減少される、(99)に記載のシステム。
(101)ALSを処置するための刺激デバイスであって、
複数の端子を有する直流電圧源;
複数のA電極を前記直流電圧源に接続するための、複数のA端子であって、前記複数のA電極は、脊椎動物の脊髄の背側面の複数の場所または脊椎動物の頭蓋上の複数の場所にある、複数のA端子;
複数のB電極を前記直流電圧源に接続するための、複数のB端子であって、前記複数のB電極は前記複数のA電極から離れた位置に設置され、前記AおよびB電極は逆に帯電されている、複数のB端子;および
電極間の電流フローを制御するように構成されるコントローラー要素であって、予め決定された期間にわたる直流刺激、および予め決定された日数にわたる予め決定された回数の繰り返しの刺激も提供するように構成されるコントローラー要素
を含む、上記刺激デバイス。
(102)前記コントローラー要素が、定電流、連続電流、パルス電流、間欠電流、可変および不変の電流フローの少なくとも1つを含む前記電流フローを提供するように構成される、(101)に記載の刺激デバイス。
(103)前記AおよびB電極の少なくとも1つが、埋め込まれている、(101)または(102)に記載の刺激デバイス。
(104)コントローラー要素および直流電圧源の少なくとも1つが、ウェアラブルなハウジング中に配置されている、(101)~(103)のいずれか一項に記載の刺激デバイス。
(105)神経細胞の寿命が延長されるように、および/またはNKCC1の遺伝子発現および/またはタンパク質発現の生物学的活性またはレベルを変化させるように、前記予め決定された期間、前記予め決定された回数および前記予め決定された日数が選択される、(101)~(104)のいずれか一項に記載の刺激デバイス。
(106)NKCC1の遺伝子発現および/またはタンパク質発現の前記生物学的活性または前記レベルが、減少される、(105)に記載の刺激デバイス。
(107)痙縮、緊張亢進、またはジストニアの処置における使用のための、NKCC1の生物学的活性を阻害する薬剤、またはNKCC1の遺伝子発現レベルおよび/またはタンパク質発現レベルを減少させる薬剤。
(108)医薬化合物、タンパク質、抗体、核酸およびそれらの組合せからなる群から選択される、(107)に記載の薬剤。
(109)記医薬化合物が、スルホンアミド、スルホニル尿素ループ利尿薬、チアジド、およびチアジド様利尿薬からなる群から選択される、(108)に記載の薬剤。
(110)前記スルホンアミドまたはスルホニル尿素ループ利尿薬が、アセタゾールアミド、アゾセミド、ブメタニド、クロルタリドン、クロパミド、フロセミド、ヒドロクロロチアジド、インダパミド、メフルシド、メトラゾン、ピレタニド、トリパミド、キシパミド、ジクロルフェナミド、ドルゾラミド、エトクスゾラミド、スルタメ、ゾニサミド、トルセミド、フェノキシ酢酸誘導体(エタクリン酸、ムゾリミン)、それらの類似体、およびそれらの組合せからなる群から選択される、(109)に記載の薬剤。
(111)前記チアジドまたはチアジド様利尿薬が、ベンドロフルメチアジド、ベンズチアジド、クロロチアジド、ヒドロクロロチアジド、ヒドロフルメチアジド、メチクロチアジド、ポリチアジド、トリクロルメチアジド、クロルタリドン、インダパミド、メトラゾン、キネサゾン、それらの類似体、およびそれらの組合せからなる群から選択される、(109)に記載の薬剤。
(112)前記核酸が、RNA、siRNA、shRNA、マイクロRNA、アンチセンスRNA、RNAi、リボザイム、DNAザイム、ペプチド核酸(PNA)、ロックド核酸(LNA)、修飾または合成のDNAまたはRNA分解抵抗性のポリヌクレオシドアミド、アプタマー、トランスポゾン、導入遺伝子、および遺伝子工学用のベクターからなる群から選択される、(108)に記載の薬剤。
(113)前記抗体が、モノクローナル抗体(mAb)、ポリクローナル抗体(pAb)、ヒト化抗体、抗原結合フラグメント(Fab)、可変フラグメント(Fv)、単鎖可変フラグメント(scFv)、組換え抗体(rAb)、Fab’、(Fab’)2、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ、ビス-scFv、ミニボディ、Fab2、Fab3、ラクダ/サメ抗体、およびナノボディからなる群から選択される、(108)に記載の薬剤。
(114)前記タンパク質またはタンパク質および核酸の1つもしくは複数の組合せが、Cas9ヌクレアーゼ、CRISPRガイドRNA、Cpf1ヌクレアーゼ、HiFi Cas9、ニッカーゼCas9、spCas9、scCas9、合成spCas9、およびジンクフィンガーヌクレアーゼからなる群から選択される遺伝子工学のためのツールを含む、(108)に記載の薬剤。
(115)ボツリヌス毒素、短時間作用型の血清型E型ボツリヌス毒素、バクロフェン、ガバペンチン、チザニジン、ジアゼパム、クロナゼパム、ダントロレン、フェノール、クロニジン、ケタゼパム、MDL28170、リルゾール、カンナビノイド、エンドカンナビノイド、またはそれらの組合せの1つまたはそれより多くと組み合わせた、(107)~(114)のいずれか一項に記載の薬剤。
(116)前記カンナビノイドまたはエンドカンナビノイドが、ドロナビノール、ナビロン、ナビキシモルス、エンドカンナビノイドVNS16R、カンナビジオール(CBD)、テトラヒドロカンナビノール(THC)、およびそれらの組合せからなる群から選択される、(115)に記載の薬剤。
【符号の説明】
【0150】
12 脊髄回路
20 アノード電極、脊髄電極
15/17 メーター
16 神経回路
26 カソード電極、近位末梢神経電極
33 分極回路
90 コントローラー回路
90 メモリー
94 DC源
96 ダウンレギュレーションインジケーター
98 アップレギュレーションインジケーター
99 通信リンク
100 刺激システム
102 脊髄
104、108 電極
105 脊髄面、背側面
106 背面
109 アレイ
110 腹側面
111 シグナルコントローラー回路
112 インテリジェントコントローラー
113 パターンコントローラー
114 直流源
115 電池
116 ユーザーインターフェース
117 メモリー
118 リード
119 ユーザーコントロールパッド
119A オペレーターコントロール
119B インジケーターライト
120 リード
122 負電流源
124 正電流源
125 電流フローの経路
126 刺激シグナル
127 活性領域
130 ハウジング
131 ウェアラブルなハウジング
132 ウェアラブルな付着システム
133 ウェアラブルな材料
134 ウェアラブルなパッケージ
134 ウェアラブルなデバイス
138 裏面
140 表面
141 導電性接着剤
142、144 ストラップ
145 通し穴またはポート
200 ウェアラブルなハウジングシステム