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特許7490579人工毛髪用芯鞘複合繊維、それを含む頭飾製品及びその製造方法
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  • 特許-人工毛髪用芯鞘複合繊維、それを含む頭飾製品及びその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-17
(45)【発行日】2024-05-27
(54)【発明の名称】人工毛髪用芯鞘複合繊維、それを含む頭飾製品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A41G 3/00 20060101AFI20240520BHJP
   A61L 27/18 20060101ALI20240520BHJP
   D01F 8/14 20060101ALI20240520BHJP
【FI】
A41G3/00 A
A61L27/18
D01F8/14 C
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020572132
(86)(22)【出願日】2020-01-16
(86)【国際出願番号】 JP2020001147
(87)【国際公開番号】W WO2020166263
(87)【国際公開日】2020-08-20
【審査請求日】2022-11-21
(31)【優先権主張番号】P 2019025698
(32)【優先日】2019-02-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】坂元 玄太
(72)【発明者】
【氏名】安友 徳和
(72)【発明者】
【氏名】藤永 宏
(72)【発明者】
【氏名】荻野 貴志
【審査官】遠藤 邦喜
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/179803(WO,A1)
【文献】特開2013-204180(JP,A)
【文献】国際公開第2006/087911(WO,A1)
【文献】特開昭60-173142(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41G 3/00
A61L 27/18
D01F 8/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯部と鞘部からなる人工毛髪用芯鞘複合繊維であって、
前記人工毛髪用芯鞘複合繊維は、同心の芯鞘型であり、
前記芯部が、ポリアルキレンテレフタレート及びポリアルキレンテレフタレートを主体とした共重合ポリエステルからなる群から選ばれる1種以上のポリエステル系樹脂を主成分樹脂として含み、
前記人工毛髪用芯鞘複合繊維は、着色繊維であり、前記芯部及び前記鞘部は異なる色に着色されており、
前記人工毛髪用芯鞘複合繊維と芯部の色差ΔE*10以上であり、かつ、前記人工毛髪用芯鞘複合繊維と鞘部の色差ΔE*10以上であり、
前記色差ΔE*は、CIE1976(L*、a*、b*)色空間を用い、且つ下記式(1)を用いて算出したものであり、
【数1】
前記式(1)において、L*は明度、a*の正の値は赤方向の色度を意味し、a*の負の値は緑方向の色度を意味し、b*の正の値は黄方向の色度を意味し、b*の負の値は青方向の色度を意味し、前記L*1、a*1、b*1と前記L*2、a*2、b*2は、それぞれ前記人工毛髪用芯鞘複合繊維と前記芯部に関する値、または前記人工毛髪用芯鞘複合繊維と前記鞘部に関する値である、ことを特徴とする、人工毛髪用芯鞘複合繊維。
【請求項2】
前記人工毛髪用芯鞘複合繊維の鞘部が、ナイロン6及びナイロン66からなる群から選ばれる少なくとも1種を主体としたポリアミド系樹脂を主成分樹脂として含むことを特徴とする、請求項1に記載の人工毛髪用芯鞘複合繊維。
【請求項3】
人工毛髪用芯鞘複合繊維と芯部の色差ΔE * が10以上20.77以下であり、かつ、人工毛髪用芯鞘複合繊維と鞘部の色差ΔE * も10以上34.54以下である請求項1又は2に記載の人工毛髪用芯鞘複合繊維。
【請求項4】
芯部のL*値よりも鞘部のL*値の方が大きく、かつその差が30以上である請求項1~のいずれかに記載の人工毛髪用芯鞘複合繊維。
【請求項5】
請求項1~のいずれか1項に記載の人工毛髪用芯鞘複合繊維を含むことを特徴とする頭飾製品。
【請求項6】
前記頭飾製品が、ヘアーウィッグ、かつら、ウィービング、ヘアーエクステンション、ブレードヘアー、ヘアーアクセサリー及びドールヘアーからなる群から選ばれる一つである請求項に記載の頭飾製品。
【請求項7】
請求項1~の何れかに記載の人工毛髪用芯鞘複合繊維の製造方法であって、芯部樹脂組成物及び鞘部樹脂組成物を芯鞘型複合ノズルを用いて溶融紡糸する工程を含み、
前記芯部樹脂組成物における顔料配合と、前記鞘部樹脂組成物における顔料配合は異なることを特徴とする人工毛髪用芯鞘複合繊維の製造方法。
【請求項8】
前記人工毛髪用芯鞘複合繊維は、黒色、赤色及び黄色の3種類の顔料マスターバッチを用いて着色する請求項に記載の人工毛髪用芯鞘複合繊維の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人毛の代替品として使用できる人工毛髪用繊維、それを含む頭飾製品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
かつら、ヘアーウィッグ、付け毛、ヘアーバンド、ドールヘアー等の頭飾製品は、従来は人毛が用いられていたが、近年入手が困難となり価格が高騰していることから、人毛に替わる人工毛髪用繊維の需要が高まっている。人工毛髪用繊維に用いられる合成繊維としては、アクリル系繊維、塩化ビニル系繊維、塩化ビニリデン系繊維、ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維、ポリオレフィン系繊維等がある。
【0003】
特に、人毛に近い触感が得られ、耐久性や耐熱性を満足する人工毛髪用繊維として、芯部にポリエステルと鞘部にポリアミドを有する芯鞘複合繊維が開発されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開公報2017/187843号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の人工毛髪用芯鞘複合繊維は、色が単一かつ均一のため、人毛よりも外観が見劣りするという課題があった。また、頭飾製品において異なる色の当該複合繊維を種々混ぜて用いても、繊維自体の色が単一のため、人毛に近い外観を得ることが難しく、さらに、種々の色の異なる繊維を複数製造し、混ぜなければならないため、工程が余分に必要となり、改善の余地があった。
【0006】
本発明は、前記従来の課題を解決するため、深い色合いを実現でき、人毛に近い良好な外観を有する人工毛髪用芯鞘複合繊維、それを含む頭飾製品及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、1以上の実施形態において、芯部と鞘部からなる人工毛髪用芯鞘複合繊維であって、前記人工毛髪用芯鞘複合繊維は着色繊維であり、前記人工毛髪用芯鞘複合繊維と芯部の色差が3.0以上であり、かつ、前記人工毛髪用芯鞘複合繊維と鞘部の色差も3.0以上であることを特徴とする人工毛髪用芯鞘複合繊維に関する。
【0008】
本発明は、また、1以上の実施形態において、前記の人工毛髪用芯鞘複合繊維を含むことを特徴とする頭飾製品に関する。
【0009】
本発明は、また、1以上の実施形態において、前記の人工毛髪用芯鞘複合繊維の製造方法であって、芯部樹脂組成物及び鞘部樹脂組成物を芯鞘型複合ノズルを用いて溶融紡糸する工程を含む人工毛髪用芯鞘複合繊維の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、深い色合いを実現でき、人毛に近い良好な外観を有する人工毛髪用芯鞘複合繊維及び頭飾製品を提供することができる。
【0011】
また、本発明の製造方法によれば、深い色合いを実現でき、人毛に近い良好な外観を有する人工毛髪用芯鞘複合繊維を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本発明の一実施形態の人工毛髪用芯鞘複合繊維の繊維断面を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明者らは、前述の課題を解決するため鋭意検討を行った結果、人工毛髪用芯鞘複合繊維において、人工毛髪用芯鞘複合繊維を着色しつつ、当該複合繊維と芯部の色差を3.0以上かつ当該複合繊維と鞘部の色差も3.0以上にすることで、深い色合いを実現でき、人毛に近い色味や外観を得ることを見出し本発明に至った。
【0014】
<色差>
色差とは、二つの物体間の色の違いを表す指標であり、本発明における色差ΔE*は、CIE1976(L*、a*、b*)色空間を用いる。CIE1976(L*、a*、b*)色空間は、人間の知覚的に均等な色空間として産業界で広く用いられており、一般的な色差計により比較対象とする二つの測定対象(例えば1及び2)のそれぞれの色座標を測定し、式(1)を用いて算出する。なお、L*は明度、a*(正の値は赤方向、負の値は緑方向)及びb*(正の値は黄方向、負の値は青方向)は色度を意味し、L*1、a*1及びb*1は、測定対象1に関するものであり、L*2、a*2及びb*2は、測定対象2に関するものである。
【0015】
【数1】
【0016】
人毛は、キューティクル、コルテックス、メデュラ等の複数の層からなる複雑な構造をしていることから、反射光が様々な色味を呈し、人毛特有の深みのある複雑な外観が発現していると推定される。一方で、一般的な人工毛髪用芯鞘複合繊維は、製造工程を容易にするため芯部と鞘部とは同色であるため、外観は単一的で均一になってしまう。
【0017】
そこで、本発明の1以上の実施形態の人工毛髪用芯鞘複合繊維(以下において、単に「芯鞘複合繊維とも記す。」)において、例えば黒と黄を組み合わせることやカーキとベージュを組み合わせること等の異なる色を組み合わせ、芯部と鞘部で大きく色味が異なる構成とすることで、人毛に近似した深みのある複雑な外観を得ることができる。具体的には、本発明の1以上の実施形態の人工毛髪用芯鞘複合繊維において、該芯鞘複合繊維と芯部の色差ΔE*が3.0以上であり、かつ、該芯鞘複合繊維と鞘部の色差ΔE*も3.0以上の場合において、良好な外観を得ることができる。これは、芯鞘構造を有する芯鞘複合繊維が、それを構成する芯部及び鞘部の何れとも異なる色味を呈し、上述の芯鞘構造に由来する深みのある複雑な外観が発現していることを意味している。より好ましくは、前記芯鞘複合繊維と芯部及び鞘部との色差ΔE*は、何れも10以上である。芯鞘複合繊維と、芯部及び鞘部との色差ΔE*の何れかが3.0未満の場合は、芯鞘複合繊維と芯部若しくは鞘部との色味に大きな差がないことを示し、人毛に近似した深みのある複雑な外観は得られない。
【0018】
また、芯部のL*値よりも鞘部のL*値の方が大きく、かつその差が30以上である場合において、極めて深みのある外観を得ることができる。芯部のL*値よりも鞘部のL*値の方が大きいと、鞘部を通過して芯部表面で反射した光が再び鞘部を通過して表に出てくる際に鞘部で減衰せずに表まで出てくるため、鞘部表面での反射光に加えて芯部表面からの反射光も色調に影響することとなり、深い色合いを実現しやすい。加えて、芯部のL*値と鞘部のL*値の差が30以上であると、鞘部を通過して芯部表面で反射した光が再び鞘部を通過して表に出てくる際に鞘部で減衰せずに表まで出てくるため、鞘部表面での反射光に加えて芯部表面からの反射光も色調に影響することとなり、深い色合いを実現しやすい。
【0019】
<着色方法>
本発明の1以上の実施形態において、芯部または鞘部の着色方法は、特に限定されず、原着あるいは染色によって行うことができる。
【0020】
本発明の1以上の実施形態において、原着とは、原料となる樹脂組成物へ顔料を添加することによって着色することを意味し、例えば、カーボンブラックやアンスラキノン系等の一般的な顔料を樹脂組成物に添加することで、所望の色を有する人工毛髪用芯鞘複合繊維を得ることができる。また、顔料を用いる以外に、顔料マスターバッチを用いることができる。顔料マスターバッチとは、顔料と樹脂組成物とを、押出機等の混練機を用いて混練しペレット化(コンパウンディングと称す場合がある。)したものであり、一般に微粉状のため取扱いが難しいとされる顔料を、予め樹脂組成物中に分散させることで取扱いを容易にし、得られる繊維の着色斑を抑えることができる。
【0021】
さらに、多数の色が求められる頭髪用繊維においては、生産の簡便性や顔料の在庫コスト削減の観点から、特定の数種類の顔料マスターバッチを用いて、その添加割合を調整することにより、所望の色に原着された繊維を得ることが好ましく、特に、黒色および赤色及び黄色の3種類の顔料マスターバッチを用い、当該マスターバッチの配合割合を調整することで、所望の色を有する繊維を得ることができる。例えば、黒色:赤色:黄色=10:60:30(重量部)で配合した20重量%顔料マスターバッチを、基材樹脂100重量部に対して2.0重量部添加した場合、茶色の人工毛髪用複合繊維を得ることができる。
【0022】
本発明の1以上の実施形態において、染色とは、成形後の繊維に染料を結合吸着させることによって着色された繊維を得ることを意味し、繊維素材に合わせて、例えば、分散染料、酸性染料及び塩基性染料等を用いることができる。
【0023】
原着と染色を併せて行うことも可能で、予め原着した繊維に対して染色を行うことや、芯を原着し鞘を染色するといった、芯と鞘の樹脂特性に合った着色方法を利用することができる。
【0024】
<芯鞘複合繊維の形状>
前記人工毛髪用芯鞘複合繊維及び芯部の断面形状は、特に限定されず、例えば楕円形、交差円形、繭形、だるま形、ドッグボーン形及びリボン形からなる群から選ばれる少なくとも1種の形状を有することができる。また、光沢、風合い、櫛通り、カール保持力等の美容特性の観点から、繊維と芯部が繊維断面長軸方向と芯部断面長軸方向が略一致した同一の扁平多葉形の断面形状を有することが好ましい。繊維と芯部が繊維断面長軸方向と芯部断面長軸方向が略一致した同一の扁平多葉形の断面形状を有する場合、繊維断面において、繊維断面の外周形状と芯部の外周形状が相似形であるため、鞘の厚みが均一となり、人工毛髪として良好な触感と外観を維持した上で、芯部の表面への露出を防止することができる。また、繊維と芯部が扁平多葉形の断面形状を有することにより、芯鞘界面に凹部と凸部が存在することにより、曲げなどの変形により芯鞘界面に生じる応力を分散することができるため、二成分の剥離による繊維の分離を防止することができる。さらに、繊維断面と芯部断面の長軸方向が略一致しているため、断面2次モーメントに由来する曲げ弾性率の異方性も繊維全体と芯部で一致し、触感や櫛通りといった人工毛髪に必要とされる品質を容易に調整することもできる。
【0025】
図1は、本発明の一実施形態の人工毛髪用芯鞘複合繊維の繊維断面を示す模式図である。該実施形態の人工毛髪用芯鞘複合繊維1は、芯部10及び鞘部20で構成され、繊維断面長軸方向と芯部断面長軸方向は一致しており、人工毛髪用芯鞘複合繊維1の断面形状と芯部10の断面形状はいずれも円形であり、芯部10は人工毛髪用芯鞘複合繊維1と同心円状に配置されている。
【0026】
上述した繊維及び芯部の断面形状は、目的の断面形状に近い形状のノズル孔を使用することにより制御することができる。
【0027】
前記人工毛髪用芯鞘複合繊維の芯部と鞘部の割合(芯鞘比率)は、特に限定されないが、面積比で1:9~9:1の範囲が、複雑な外観の発現及び紡糸や断面安定性等の観点で好ましいく、より好ましくは2:8~8:2であり、さらに好ましくは3:7~7:3である。
【0028】
前記人工毛髪用芯鞘複合繊維は、人工毛髪に適するという観点から、繊維繊度が10dtex以上150dtex以下であることが好ましく、より好ましくは30dtex以上120dtex以下であり、さらに好ましくは40dtex以上100dtex以下であり、特に好ましくは50dtex以上90dtex以下である。
【0029】
<繊維組成>
前記人工毛髪用芯鞘複合繊維の組成は、特に限定されず、例えば、上記人工毛髪用芯鞘複合繊維は、アクリロニトリル系樹脂組成物、塩化ビニル系樹脂組成物、塩化ビニリデン系樹脂組成物、ポリエステル系樹脂組成物、ポリアミド系樹脂組成物、ポリオレフィン系樹脂組成物等の熱可塑性樹脂組成物で構成することができる。また、これらの樹脂組成物を2種類以上組み合わせてもよい。さらに、難燃性の観点から、難燃剤を併用することもでき、ポリエステル系樹脂と臭素系高分子難燃剤を含むポリエステル系樹脂組成物や、ポリアミド系樹脂と臭素系高分子難燃剤を含むポリアミド系樹脂組成物などが好ましく用いられ、前記難燃性を有する樹脂組成物としては、例えば、ポリアルキレンテレフタレート、ポリアルキレンテレフタレートを主体とした共重合ポリエステル及びポリアミドからなる群から選ばれる1種以上の樹脂100重量部と、臭素系高分子難燃剤5重量部以上40重量部以下を含む樹脂組成物等が挙げられる。
【0030】
これらの中では、人工毛髪用繊維として要求される耐熱性や繊維物性を満足し、かつ樹脂加工や紡糸、延伸、熱処理等の各製造工程において比較的取扱いが容易である点から、ポリエステル系樹脂組成物及びポリアミド樹脂組成物が好ましく、安全性の面から、難燃性を有する樹脂組成物を、芯部及び鞘部のどちらか若しくは両方に配置した構成がより好ましい。
【0031】
前記ポリアルキレンテレフタレートとしては、特に限定されないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート等が挙げられる。上記ポリアルキレンテレフタレートを主体とする共重合ポリエステルとしては、特に限定されないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート等のポリアルキレンテレフタレートを主体とし、他の共重合成分を含有する共重合ポリエステル等が挙げられる。本発明の一実施形態において、「ポリアルキレンテレフタレートを主体とする共重合ポリエステル」は、ポリアルキレンテレフタレートを80モル%以上含有する共重合ポリエステルをいう。
【0032】
前記他の共重合成分としては、例えば、イソフタル酸、オルトフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、パラフェニレンジカルボン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸等の多価カルボン酸及びそれらの誘導体;5-ナトリウムスルホイソフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸ジヒドロキシエチル等のスルホン酸塩を含むジカルボン酸及びそれらの誘導体;1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、4-ヒドロキシ安息香酸、ε-カプロラクトン、ビスフェノールAのエチレングリコールエーテル等が挙げられる。
【0033】
前記共重合ポリエステルは、安定性及び操作の簡便性の点から、主体となるポリアルキレンテレフタレートに少量の他の共重合成分を含有させて反応させることにより製造することが好ましい。ポリアルキレンテレフタレートとしては、テレフタル酸及び/又はその誘導体(例えば、テレフタル酸メチル)と、アルキレングリコールとの重合体を用いることができる。前記共重合ポリエステルは、主体となるポリアルキレンテレフタレートの重合に用いるテレフタル酸及び/又はその誘導体(例えば、テレフタル酸メチル)と、アルキレングリコールとの混合物に、少量の他の共重合成分であるモノマーあるいはオリゴマー成分を含有させたものを重合させることにより製造してもよい。
【0034】
前記共重合ポリエステルは、主体となるポリアルキレンテレフタレートの主鎖及び/又は側鎖に上記他の共重合成分が重縮合していればよく、共重合の方法等には特別な限定はない。
【0035】
前記ポリアルキレンテレフタレートを主体とする共重合ポリエステルの具体例として、ポリエチレンテレフタレートを主体とし、ビスフェノールAのエチレングリコールエーテル、1,4-シクロヘキサジメタノール、イソフタル酸及び5-ナトリウムスルホイソフタル酸ジヒドロキシエチルからなる群から選ばれる一種の化合物を共重合したポリエステル等が挙げられる。
【0036】
前記ポリアルキレンテレフタレート及び前記ポリアルキレンテレフタレートを主体とする共重合ポリエステルは、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。中でも、ポリエチレンテレフタレート(以下において、「PET」とも記す。);ポリプロピレンテレフタレート;ポリブチレンテレフタレート;ポリエチレンテレフタレートを主体とし、ビスフェノールAのエチレングリコールエーテルを共重合したポリエステル;ポリエチレンテレフタレートを主体とし、1,4-シクロヘキサンジメタノールを共重合したポリエステル;ポリエチレンテレフタレートを主体とし、イソフタル酸を共重合したポリエステル;及びポリエチレンテレフタレートを主体とし、5-ナトリウムスルホイソフタル酸ジヒドロキシエチルを共重合したポリエステル等を単独又は2種以上組み合わせて用いることが好ましい。
【0037】
前記ポリアミド系樹脂は、ラクタム、アミノカルボン酸、ジカルボン酸及びジアミンの混合物、ジカルボン酸誘導体及びジアミンの混合物、並びにジカルボン酸及びジアミンの塩からなる群から選ばれる1種以上を、重合して得られるナイロン樹脂を意味する。
【0038】
前記ラクタムの具体例としては、特に限定されないが、例えば、2-アゼチジノン、2-ピロリジノン、δ-バレロラクタム、ε-カプロラクタム、エナントラクタム、カプリルラクタム、ウンデカラクタム、及びラウロラクタム等を挙げることができる。これらのうち、ε-カプロラクタム、ウンデカラクタム、及びラウロラクタムが好ましく、特にε-カプロラクタムが好ましい。これらのラクタムは、1種で用いてもよく、2種以上の混合物で使用することもできる。
【0039】
前記アミノカルボン酸の具体例としては、特に限定されないが、例えば、6-アミノカプロン酸、7-アミノヘプタン酸、8-アミノオクタン酸、9-アミノノナン酸、10-アミノデカン酸、11-アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸等を挙げることができる。これらのうち、6-アミノカプロン酸、11-アミノウンデカン酸、及び12-アミノドデカン酸が好ましく、特に6-アミノカプロン酸が好ましい。これらのアミノカルボン酸は、1種で用いてもよく、2種以上の混合物で使用することもできる。
【0040】
前記ジカルボン酸及びジアミンの混合物、ジカルボン酸誘導体及びジアミンの混合物、又はジカルボン酸及びジアミンの塩で用いられるジカルボン酸の具体例としては、特に限定されないが、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、ブラシリン酸、テトラデカン二酸、ペンタデカン二酸、オクタデカン二酸等の脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸等が挙げられる。これらのうち、アジピン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、テレフタル酸、及びイソフタル酸が好ましく、特にアジピン酸、テレフタル酸、及びイソフタル酸が好ましい。これらのジカルボン酸は、1種で用いてもよく、2種以上の混合物で使用することもできる。
【0041】
前記ジカルボン酸及びジアミンの混合物、ジカルボン酸誘導体及びジアミンの混合物、又はジカルボン酸及びジアミンの塩で用いられるジアミンの具体例としては、特に限定されないが、例えば、1,4-ジアミノブタン、1,5-ジアミノペンタン、1,6-ジアミノヘキサン、2-メチル-1,5-ジアミノペンタン(MDP)、1,7-ジアミノヘプタン、1,8-ジアミノオクタン、1,9-ジアミノノナン、1,10-ジアミノデカン、1,11-ジアミノウンデカン、1,12-ジアミノドデカン、1,13-ジアミノトリデカン、1,14-ジアミノテトラデカン、1,15-ジアミノペンタデカン、1,16-ジアミノヘキサデカン、1,17-ジアミノヘプタデカン、1,18-ジアミノオクタデカン、1,19-ジアミノノナデカン、1,20-ジアミノエイコサン等の脂肪族ジアミン、シクロヘキサンジアミン、ビス-(4-アミノヘキシル)メタン等の脂環式ジアミン、m-キシリレンジアミン、p-キシリレンジアミン等の芳香族ジアミン等が挙げられる。これらのうち、特に脂肪族ジアミンが好ましく、とりわけヘキサメチレンジアミンが好ましく用いられる。これらのジアミンは、1種で用いてもよく、2種以上の混合物で使用することもできる。
【0042】
前記ポリアミド系樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ナイロン6、ナイロン66(以下において、PA66とも記す。)、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6・10、ナイロン6・12、ナイロン6T及び/又は6I単位を含有する半芳香族ナイロン、並びにこれらナイロン樹脂の共重合体等を用いることが好ましい。とりわけ、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン6及びナイロン66の共重合体がより好ましい。
【0043】
前記ポリアミド系樹脂は、例えば、ポリアミド系樹脂原料を触媒の存在下または不存在下で加熱して行うポリアミド系樹脂重合方法により製造することができる。その重合時に攪拌はあっても無くてもよいが、均質な生成物を得るには攪拌した方が好ましい。重合温度は目的とする重合物の重合度、反応収率、反応時間に応じて任意に設定可能であるが、最終的に得られるポリアミド系樹脂の品質を考慮すれば低温の方が好ましい。反応率についても任意に設定できる。圧力について制限はないが、揮発性成分を効率よく系外に抜出すためには系内を減圧とすることが好ましい。
【0044】
本発明に用いられるポリアミド系樹脂は、必要に応じてカルボン酸化合物及びアミン化合物等の末端封鎖剤で末端を封鎖してもよい。モノカルボン酸又はモノアミンを添加して末端を封鎖する場合に、得られるナイロン樹脂の末端アミノ基又は末端カルボキシル基濃度は、当該末端封鎖剤を使用しない場合に比べて低下する。一方、ジカルボン酸又はジアミンで末端を封鎖する場合は、末端アミノ基と末端カルボキシル基濃度の和は変化しないが、末端アミノ基と末端カルボキシル基との濃度の比率が変化する。
【0045】
前記カルボン酸化合物の具体例としては、特に限定されないが、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、ウンデカン酸、ラウリル酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、ミリストレイン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、アラキン酸等の脂肪族モノカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、メチルシクロヘキサンカルボン酸等の脂環式モノカルボン酸、安息香酸、トルイル酸、エチル安息香酸、フェニル酢酸等の芳香族モノカルボン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、ブラシリン酸、テトラデカン二酸、ペンタデカン二酸、オクタデカン二酸等の脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸等が挙げられる。
【0046】
前記アミン化合物の具体例としては、特に限定されないが、例えば、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、2-エチルヘキシルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、ウンデシルアミン、ドデシルアミン、トリデシルアミン、テトラデシルアミン、ペンタデシルアミン、ヘキサデシルアミン、オクタデシルアミン、ノナデシルアミン、イコシルアミン等の脂肪族モノアミン、シクロヘキシルアミン、メチルシクロヘキシルアミン等の脂環式モノアミン、ベンジルアミン、β-フェニルエチルアミン等の芳香族モノアミン、1,4-ジアミノブタン、1,5-ジアミノペンタン、1,6-ジアミノヘキサン、1,7-ジアミノヘプタン、1,8-ジアミノオクタン、1,9-ジアミノノナン、1,10-ジアミノデカン、1,11-ジアミノウンデカン、1,12-ジアミノドデカン、1,13-ジアミノトリデカン、1,14-ジアミノテトラデカン、1,15-ジアミノペンタデカン、1,16-ジアミノヘキサデカン、1,17-ジアミノヘプタデカン、1,18-ジアミノオクタデカン、1,19-ジアミノノナデカン、1,20-ジアミノエイコサン等の脂肪族ジアミン、シクロヘキサンジアミン、ビス-(4-アミノヘキシル)メタン等の脂環式ジアミン、キシリレンジアミン等の芳香族ジアミン等が挙げられる。
【0047】
前記ポリアミド系樹脂の末端基濃度に特に制限はないが、繊維用途で染色性を高める必要がある場合や樹脂用途でアロイ化に適した材料を設計する場合等には末端アミノ基濃度が高い方が好ましい。また、長期エージング条件下での着色やゲル化を抑制したい場合等は逆に末端アミノ基濃度が低い方が好ましい。更に再溶融時のラクタム再生、オリゴマー生成による溶融紡糸時の糸切れ、連続射出成形時のモールドデポジット、フィルムの連続押出におけるダイマーク発生を抑制したい場合には末端カルボキシル基濃度及び末端アミノ基濃度が共に低い方が好ましい。適用する用途によって末端基濃度を調製すればよいが、末端アミノ基濃度、末端カルボキシル基濃度共に、好ましくは、1.0×10-5~15.0×10-5eq/g、より好ましくは2.0×10-5~12.0×10-5eq/g、特に好ましくは3.0×10-5~11.0×10-5eq/gである。
【0048】
前記ポリエステル樹脂及びポリアミド樹脂の固有粘度(IV値と称す場合がある)は、特に限定されないが、0.3以上1.2以下であることが好ましく、0.4以上1.0以下であることがより好ましい。固有粘度が0.3以上であると、得られる繊維の機械的強度が低下せず、燃焼試験時にドリップする恐れもない。また、固有粘度が1.2以下であると、分子量が増大しすぎず、溶融粘度が高くなり過ぎることがなく、溶融紡糸が容易となるうえ、繊度も均一になりやすい。
【0049】
前記臭素系高分子難燃剤としては、特に限定されないが、例えば、耐熱性及び難燃性の観点から、臭素化エポキシ系難燃剤を用いることが好ましい。前記臭素化エポキシ系難燃剤は、原料としては分子末端がエポキシ基又はトリブロモフェノールからなる臭素化エポキシ系難燃剤を用いることができるが、臭素化エポキシ系難燃剤の溶融混練後の構造は、特に限定されず、下記化学式(1)に示す構成ユニットと下記化学式(1)の少なくとも一部が改変した構成ユニットの総数を100モル%とした場合、80モル%以上が化学式(1)で示す構成ユニットであることが好ましい。前記臭素化エポキシ系難燃剤は、溶融混練後に、構造が分子末端で変化してもよい。例えば、前記臭素化エポキシ系難燃剤の分子末端がエポキシ基又はトリブロモフェノール以外の水酸基、リン酸基、ホスホン酸基等に置換されていてもよく、分子末端がポリエステル成分とエステル基で結合していてもよい。
【0050】
【化1】
【0051】
また、臭素化エポキシ系難燃剤の分子末端以外の構造の一部が変化してもよい。例えば、臭素化エポキシ系難燃剤の二級水酸基とエポキシ基が結合して分岐構造となっていてもよく、臭素化エポキシ系難燃剤分子中の臭素含有量が大きく変化しなければ、前記化学式(1)の臭素の一部が脱離又は付加してもよい。
【0052】
前記臭素化エポキシ系難燃剤としては、例えば、下記化学式(2)に示しているような高分子型の臭素化エポキシ系難燃剤が好ましく用いられる。下記化学式(2)において、mは1~1000である。下記化学式(2)に示しているような高分子型の臭素化エポキシ系難燃剤としては、例えば、阪本薬品工業株式会社製の臭素化エポキシ系難燃剤(商品名「SR-T2MP」)等の市販品を用いてもよい。
【0053】
【化2】
【0054】
前記人工毛髪用芯鞘複合繊維は、触感と外観を人毛により近似させ、カール性及びカール保持性をより向上させる観点から、芯部をポリアルキレンテレフタレート及びポリアルキレンテレフタレートを主体とした共重合ポリエステルからなる群から選ばれる1種以上のポリエステル樹脂を主成分樹脂とするポリエステル系樹脂組成物で構成することが好ましく、鞘部をナイロン6及びナイロン66からなる群から選ばれる少なくとも1種を主体としたポリアミド系樹脂を主成分樹脂とするポリアミド系樹脂組成物で構成することがより好ましい。本発明の一実施形態において、「ナイロン6及びナイロン66からなる群から選ばれる少なくとも1種を主体としたポリアミド系樹脂」とは、ナイロン6及び/又はナイロン66を80モル%以上含むポリアミド系樹脂を意味する。
【0055】
本発明の1以上の実施形態において、「主成分樹脂」とは、樹脂組成物に含まれる樹脂中含有量が最も多い樹脂のことを意味する。
【0056】
芯部を構成するポリエステル系樹脂組成物は、主成分樹脂であるポリエステル系樹脂に加えて他の樹脂を含んでも良い。前記ポリエステル系樹脂組成物における樹脂の合計を100重量%とした場合、主成分樹脂であるポリエステル系樹脂を50重量%より多く含むことが好ましく、70重量%以上含むことがより好ましく、85重量%以上含むことがさらに好ましく、90重量%以上含むことがさらにより好ましく、95重量%以上含むことがさらにより好ましく、100重量%からなることがさらにより好ましい。他の樹脂としては、例えば、ポリアミド系樹脂、塩化ビニル系樹脂、モダアクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0057】
鞘部を構成するポリアミド系樹脂組成物は、主成分樹脂であるポリアミド系樹脂に加えて他の樹脂を含んでも良い。前記ポリアミド系樹脂組成物における樹脂の合計を100重量%とした場合、主成分樹脂であるポリアミド系樹脂を50重量%より多く含むことが好ましく、70重量%以上含むことがより好ましく、85重量%以上含むことがさらに好ましく、90重量%以上含むことがさらにより好ましく、95重量%以上含むことがさらにより好ましく、100重量%からなることがさらにより好ましい。他の樹脂としては、例えば、ポリエステル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、モダアクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0058】
本発明において、前記人工毛髪用芯鞘複合繊維は、必要に応じて、臭素化エポキシ系難燃剤以外の難燃剤、難燃助剤、耐熱剤、安定剤、蛍光剤、酸化防止剤、帯電防止剤、滑剤等の各種添加剤を含有してもよい。
【0059】
前記臭素化エポキシ系難燃剤以外の難燃剤としては、例えば、リン含有難燃剤や臭素含有難燃剤などが挙げられる。前記リン含有難燃剤として、例えば、リン酸エステルアミド化合物、有機環状リン系化合物などが挙げられる。上記臭素含有難燃剤としては、例えば、ペンタブロモトルエン、ヘキサブロモベンゼン、デカブロモジフェニル、デカブロモジフェニルエーテル、ビス(トリブロモフェノキシ)エタン、テトラブロモ無水フタル酸、エチレンビス(テトラブロモフタルイミド)、エチレンビス(ペンタブロモフェニル)、オクタブロモトリメチルフェニルインダン、トリス(トリブロモネオペンチル)ホスフェートなどの臭素含有リン酸エステル類;臭素化ポリスチレン類;臭素化ポリベンジルアクリレート類;臭素化フェノキシ樹脂;臭素化ポリカーボネートオリゴマー類;テトラブロモビスフェノールA、テトラブロモビスフェノールA-ビス(2,3-ジブロモプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノールA-ビス(アリルエーテル)、テトラブロモビスフェノールA-ビス(ヒドロキシエチルエーテル)などのテトラブロモビスフェノールA誘導体;トリス(トリブロモフェノキシ)トリアジンなどの臭素含有トリアジン系化合物;トリス(2,3-ジブロモプロピル)イソシアヌレートなどの臭素含有イソシアヌル酸系化合物などが挙げられる。中でも、リン酸エステルアミド化合物、有機環状リン系化合物、及び臭素化フェノキシ樹脂系難燃剤からなる群から選ばれる一種以上が難燃性に優れている点で好ましい。
【0060】
前記難燃助剤としては、例えば、アンチモン系化合物やアンチモンを含む複合金属などが挙げられる。前記アンチモン系化合物としては、例えば、三酸化アンチモン、四酸化アンチモン、五酸化アンチモン、アンチモン酸ナトリウム、アンチモン酸カリウム、アンチモン酸カルシウムなどが挙げられる。難燃性改良効果や触感への影響から、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、及びアンチモン酸ナトリウムからなる群から選ばれる一種以上がより好ましい。
【0061】
前記滑剤としては、例えば、モンタン酸系ワックス、モンタン酸エステル系ワックス、部分ケン化モンタン酸系ワックス、モンタン酸金属塩、ポリエチレン系ワックス、酸化ポリエチレン系ワックス、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素系ワックス、ポリジメチルシリコーン、変性シリコーンレジンが、アンチモン化合物の分散性、難燃性、耐熱性などの繊維物性への影響が小さい点から好ましい。これらの化合物は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0062】
本発明の1以上の実施形態の人工毛髪用芯鞘複合繊維は、光沢や風合いを調整する観点から、化学薬品処理や微粒子を含有させることにより、表面に適度な凹凸形状を形成することができる。前記微粒子としては、例えば、炭酸カルシウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、タルク、カオリン、モンモリロナイト、ベントナイト、マイカ、酸化ケイ素を主体とした複合粒子等が挙げられる。これらは1種で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0063】
<製造方法>
本発明の溶融紡糸法が好ましく、例えば、ポリエステル系樹脂組成物の場合は、押出機、ギアポンプ、ノズルなどの温度を250℃以上300℃以下とし、溶融紡糸し、紡出糸条を加熱筒に通過させた後、ポリエステル樹脂のガラス転移点以下に冷却し、50m/分以上5000m/分以下の速度で引き取ることにより紡出糸条(未延伸糸)が得られる。また、ポリアミド系樹脂組成物の場合は、押出機、ギアポンプ、ノズルなどの温度を260℃以上320℃以下とし、溶融紡糸し、紡出糸条を加熱筒に通過させた後、ポリアミド樹脂のガラス転移点以下に冷却し、50m/分以上5000m/分以下の速度で引き取ることにより紡出糸条(未延伸糸)が得られる。なお、溶融紡糸の際、芯部を構成する熱可塑性樹脂組成物は芯部用押出機で供給し、鞘部を構成する熱可塑性樹脂組成物は鞘部用押出機で供給し、所定の形状を有する芯鞘型複合紡糸ノズル(孔)にて溶融ポリマーを吐出することができる。
【0064】
前記人工毛髪用芯鞘複合繊維がポリエステル系樹脂組成物などの熱可塑性樹脂組成物で構成される場合は、熱可塑性樹脂組成物を種々の一般的な混練機を用いて溶融混練してペレット化した後、芯鞘型複合紡糸ノズルを用いて、溶融紡糸することにより人工毛髪用芯鞘複合繊維を作製することができる。紡出糸を冷却用の水を入れた水槽で冷却し、繊度のコントロールを行うことも可能である。加熱筒の温度と長さ、冷却風の温度と吹付量、冷却水槽の温度、冷却時間及び引取速度は、ポリマーの吐出量及びノズルの孔数によって適宜調整することができる。
【0065】
紡出糸条(未延伸糸)は熱延伸されることが好ましい。延伸は、紡出糸条を一旦巻き取ってから延伸する2工程法と、紡出糸条を巻き取ることなく連続して延伸する直接紡糸延伸法の何れの方法によって行ってもよい。熱延伸は、1段延伸法又は2段以上の多段延伸法で行われる。
【0066】
熱延伸における加熱手段としては、加熱ローラ、ヒートプレート、スチームジェット装置、温水槽などを使用することができ、これらを適宜併用することもできる。
【0067】
前記人工毛髪用芯鞘複合繊維に繊維処理剤、柔軟剤などの油剤を付与し、触感、風合いをより人毛に近づけてもよい。前記繊維処理剤としては、例えば、触感や櫛通り性を向上させるためのシリコーン系繊維処理剤や非シリコーン系繊維処理剤などが挙げられる。
【0068】
前記人工毛髪用繊維は、ギアクリンプによる加工を施してもよい。これにより繊維に緩やかな屈曲を付与し、自然な外観が得られ、繊維間の密着性が低下することから櫛通り性も向上する。このギアクリンプによる加工では、一般的に、繊維を軟化温度以上に加熱した状態で2つの噛み合った歯車の間を通過させ、この歯車の形状を転写させることで繊維屈曲を発現させる。また、必要に応じて、繊維加工段階において、異なる温度で前記人工毛髪用芯鞘複合繊維を熱処理することで、異なる形状のカールを発現することができる。
【0069】
<頭飾製品>
人工毛髪用芯鞘複合繊維は、頭飾製品であれば特に限定することなく用いることができる。例えば、ヘアーウィッグ、かつら、ウィービング、ヘアーエクステンション、ブレードヘアー、ヘアーアクセサリー及びドールヘアーなどに用いることができる。
【0070】
前記頭飾製品は、本発明の人工毛髪用芯鞘複合繊維のみで構成されていてもよく、本発明の人工毛髪用芯鞘複合繊維に、他の人工毛髪用繊維、人毛や獣毛等の天然繊維を組み合わせてもよい。
【実施例
【0071】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明する。なお、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0072】
実施例及び比較例で用いた測定方法及び評価方法は、以下のとおりである。
【0073】
(単繊維繊度)
オートバイブロ式繊度測定器「DENIER COMPUTER タイプDC-11」(サーチ社製)を使用して測定し、30個のサンプルの測定値の平均値を算出して単繊維繊度とした。
【0074】
(色調測定)
室温にて、繊維を束ね、繊維束がズレないように収縮チューブで固定して色調測定用繊維束を作製した。この繊維束を色調測定器(Bossa Nova Technologies社製、「MAMBO」)にて測定し、L***データを取得した。
また、芯部または鞘部の色は、デジタルマイクロスコープ(キーエンス社VHX-6000)にて断面を観察し、色情報を数値化することで芯部または鞘部のRGB値を測定し、当該値からL***を算出することで取得した。
繊維と芯部との色差ΔE*、繊維と鞘部との色差ΔE*は、下記式(1)を用いて算出した。L*1、a*1およびb*1は、測定対象1に関するものであり、L*2、a*2およびb*2は、測定対象2に関するものである。
【数2】
【0075】
(外観評価)
実施例及び比較例における外観は、専門美容師による官能評価を行い、以下の4段階の基準で評価した。
A:人毛と外観が同等(深い色合いを有し、深みのある外観が発現し極めて良好)
B:人毛と外観がほぼ同等(深い色合いを有し、深みのある外観が発現し非常に良好)
C:人毛に比べ外観がやや劣る(深い色合いを有し、深みのある外観が発現し良好)
D:人毛に比べ劣る悪い外観
【0076】
参考例1)
水分量100ppm以下に乾燥したポリエチレンテレフタレート(East West Chemical Private Limited製、EastPET 商品名「A-12」)100重量部に対し、臭素化エポキシ系難燃剤(阪本薬品工業製、商品名「SR-T2MP」)20重量部、アンチモン酸ナトリウム(日本精鉱製、商品名「SA-A」)2重量部、モンタン酸系ワックス/フッ素系ワックスブレンド品(クラリアントジャパン製、Wax Composite 商品名「G431L」)0.2重量部、黒色顔料マスターバッチ(大日精化工業製、商品名「PESM22367BLACK(20)」、顔料:20重量%、ベース樹脂:ポリエステル系樹脂)2重量部、黄色顔料マスターバッチ(大日精化工業製、商品名「PESM1001YELLOW(20)」、顔料:20重量%、ベース樹脂:ポリエステル系樹脂)0.7重量部、赤色顔料マスターバッチ(大日精化工業製、商品名「PESM3005RED(20)」、顔料:20重量%、ベース樹脂:ポリエステル系樹脂)0.5重量部を添加し、ドライブレンドし、二軸押出機に供給し、バレル設定温度280℃にて溶融混練し、ペレット化した後に、水分量100ppm以下に乾燥させて、ポリエステル系樹脂組成物を得た。
【0077】
続いて、水分量1000ppm以下に乾燥したナイロン66(DuPont製、商品名「Zytel42A」)100重量部に対し、シリカ/メラミン複合粒子(日産化学製、商品名「オプトビーズ2000M」)1重量部、黒色顔料マスターバッチ(大日精化工業製、商品名「PESM22367BLACK(1)」、顔料:20重量%、ベース樹脂:ポリエステル系樹脂)2重量部、黄色顔料マスターバッチ(大日精化工業製、商品名「PESM1001YELLOW(20)」、顔料:20重量%、ベース樹脂:ポリエステル系樹脂)1重量部、赤色顔料マスターバッチ(大日精化工業製、商品名「PESM3005RED(20)」、顔料:20重量%、ベース樹脂:ポリエステル系樹脂)0.7重量部を添加し、ドライブレンドし、二軸押出機に供給し、バレル設定温度280℃にて溶融混練し、ペレット化した後に、水分量1000ppm以下に乾燥させて、ポリアミド系樹脂組成物を得た。
【0078】
次に、当該ペレット状のポリエステル系樹脂組成物及びポリアミド系樹脂組成物を、それぞれ押出機に供給し、設定温度280℃の同心円状の芯鞘型複合紡糸ノズル孔(孔数120、孔直径1.5mm)より押出し、40~200m/分の速度で巻き取って、ポリエステル系樹脂組成物を芯部とし、ポリアミド系樹脂組成物を鞘部とし、ポリエステル系樹脂組成物とポリアミド系樹脂組成物の芯鞘比率が面積比で7:3の芯鞘複合繊維の未延伸糸を得た。
【0079】
得られた未延伸糸を85℃のヒートロールを用いて45m/分の速度で引き取りながら延伸を行い、3倍延伸糸とし、さらに連続して200℃に加熱したヒートロールを用いて、45m/分の速度で巻き取り、熱処理を行い、ポリエーテル系油剤(丸菱油化工業製、商品名「KWC-Q」)を0.20%omf(乾燥繊維重量に対する油剤純分重量百分率)となるように付着させた後、乾燥させて、図1に示す断面形状を有する芯鞘複合繊維(単繊維繊度62dtex)を得た。
【0080】
(実施例2)
芯鞘比率を面積比で5:5に変更した以外は、参考例1と同様にして芯鞘複合繊維(単繊維繊度58dtex)を得た。
【0081】
参考例3)
鞘のポリアミド系樹脂組成物の顔料配合を、黒色顔料マスターバッチ(大日精化工業製、商品名「PESM22367BLACK(1))」)1重量部、赤色顔料マスターバッチ(大日精化工業製、商品名「PESM3005RED(20)」)3重量部に変更した以外は、参考例1と同様にして芯鞘複合繊維(単繊維繊度62dtex)を得た。
【0082】
(実施例4)
芯鞘比率を面積比で3:7に変更した以外は、参考例3と同様にして芯鞘複合繊維(単繊維繊度55dtex)を得た。
【0083】
参考例5)
芯のポリエステル系樹脂組成物の顔料配合を、黒色顔料マスターバッチ(大日精化工業製、商品名「PESM22367BLACK(20)」)0.1重量部、黄色顔料マスターバッチ(大日精化工業製、商品名「PESM1001YELLOW(20)」)0.7重量部、赤色顔料マスターバッチ(大日精化工業製、商品名「PESM3005RED(20)」)0.4重量部、鞘のポリアミド系樹脂組成物の顔料配合を、黒色顔料マスターバッチ(大日精化工業製、商品名「PESM22367BLACK(1)」)0.2重量部、黄色顔料マスターバッチ(大日精化工業製、商品名「PESM1001YELLOW(20)」)0.1重量部、赤色顔料マスターバッチ(大日精化工業製、商品名「PESM3005RED(1)」)0.2重量部に変更した以外は、参考例1と同様にして芯鞘複合繊維(単繊維繊度55dtex)を得た。
【0084】
参考例6)
ポリアミド系樹脂組成物を芯に、ポリエステル系樹脂組成物を鞘に変更した以外は、参考例5と同様にして芯鞘複合繊維(単繊維繊度55dtex)を得た。
【0085】
参考例7)
芯のポリエステル系樹脂組成物の顔料配合を、黒色顔料マスターバッチ(大日精化工業製、商品名「PESM22367BLACK(20)」)0.2重量部、黄色顔料マスターバッチ(大日精化工業製、商品名「PESM1001YELLOW(1)」)2重量部、青色顔料マスターバッチ(大日精化工業製、商品名「K-501(30)」)0.03重量部に変更した以外は、参考例5と同様にして芯鞘複合繊維(単繊維繊度62dtex)を得た。
【0086】
(実施例8)
芯鞘比率を面積比で3:7に変更した以外は、参考例7と同様にして芯鞘複合繊維(単繊維繊度55dtex)を得た。
【0087】
参考例9)
芯のポリエステル系樹脂組成物の顔料配合を、黒色顔料マスターバッチ(大日精化工業製、商品名「PESM22367BLACK(1)」)2重量部、青色顔料マスターバッチ(大日精化工業製、商品名「K-501(30)」)0.02重量部、紫色顔料マスターバッチ(大日精化工業製、商品名「K-407(20)」)0.07重量部に変更した以外は、参考例5と同様にして芯鞘複合繊維(単繊維繊度62dtex)を得た。
【0088】
参考例10)
芯鞘比率を面積比で3:7に変更した以外は、参考例7と同様にして芯鞘複合繊維(単繊維繊度62dtex)を得た。
【0089】
(比較例1)
ポリアミド系樹脂組成物の顔料配合を、黒色顔料マスターバッチ(大日精化工業製、商品名「PESM22367BLACK(20)」)2重量部、黄色顔料マスターバッチ(大日精化工業製、商品名「PESM1001YELLOW(20)」)0.7重量部、赤色顔料マスターバッチ(大日精化工業製、商品名「PESM3005RED(20)」)0.5重量部に変更した以外は、参考例1と同様にして芯鞘複合繊維(単繊維繊度58dtex)を得た。
【0090】
実施例2、4、及び8、参考例1、3、5、6、7、9及び10、並びに比較例1で得られた繊維に関する、色差ΔE*の測定及び外観評価を上述したとおりに行った結果を、下記表1及び表2に示した。
【0091】
【表1】
【0092】
【表2】
【0093】
表1及び表2のデータから分かるように、実施例2、4、及び8、並びに参考例1、3、5~7、9及び10の芯鞘複合繊維は、芯部及び鞘部のそれぞれとの色差ΔE*が何れも3.0以上であり、人毛に近似した良好な外観が得られた。一方、比較例1の繊維は、従来の人工毛髪用芯鞘複合繊維同様、人工毛髪用芯鞘複合繊維と芯部及び鞘部のそれぞれとの色に大きな差が無いため、人毛に近い良好な外観は得られなかった。
【符号の説明】
【0094】
1 人工毛髪用芯鞘複合繊維(断面)
10 芯部
20 鞘部
図1