(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-17
(45)【発行日】2024-05-27
(54)【発明の名称】車両用ドア構造
(51)【国際特許分類】
B60J 5/00 20060101AFI20240520BHJP
B60J 5/04 20060101ALI20240520BHJP
E05B 77/04 20140101ALI20240520BHJP
E05B 79/06 20140101ALI20240520BHJP
【FI】
B60J5/00 P
B60J5/04 H
B60J5/04 M
E05B77/04
E05B79/06 C
(21)【出願番号】P 2021004742
(22)【出願日】2021-01-15
【審査請求日】2023-09-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】弁理士法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平塚 壮
(72)【発明者】
【氏名】加藤 剛
【審査官】池田 晃一
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-142115(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0154314(US,A1)
【文献】特開2017-124654(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-0765836(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60J 5/00 ; 5/04
E05B 77/04 ; 79/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車室外の側に配置されたアウタパネルと、車室内の側に配置されたインナパネルと、を接合して構成された車両用ドアの構造である車両用ドア構造であって、
前記アウタパネルにおける車室外の側には、利用者が前記車両用ドアを開閉する際に把持するための、水平方向に延びるドアハンドルが設けられており、
前記ドアハンドルにおける長手方向の一方の端部であるドアハンドル回動軸端部は、利用者が前記ドアハンドルを車室外の側に引いた際、前記ドアハンドルの回動軸となり前記アウタパネルから引き出されず、
前記ドアハンドルにおける長手方向の他方の端部であるドアハンドル引出端部は、利用者が前記ドアハンドルを車室外の側に引いた際、前記アウタパネルから引き出され、
前記アウタパネルと前記インナパネルとで囲まれたドア内空間において、前記ドアハンドル引出端部の近傍であって前記ドアハンドル引出端部よりも第1所定距離だけ下方となる位置である引出端部下方位置には、車室内の側から車室外の側に向かって延びるように構成されて、車室内の側の端部が前記インナパネルに接合され、車室外の側の端部である車室外側端部が前記アウタパネルに接触又は近接する位置とされ、前記引出端部下方位置よりも下方の前記アウタパネルへ車室外から車室内に向かう衝突が発生した際、衝突に伴う前記引出端部下方位置の周囲の前記アウタパネルの凹みを抑制する突っ張り機構が設けられて
おり、
前記ドア内空間には、前記車両用ドアに設けられたウィンドシールドの昇降を案内するように上下方向に延びる長尺状のウインドフレームが一対で配置されており、
一方の前記ウインドフレームは、前記ドアハンドル引出端部の近傍を通って前記ドアハンドル引出端部の下方へと延びており、
一方の前記ウインドフレームにおける前記引出端部下方位置よりも下方となる位置には、車室内の側から車室外の側に向かって延びるように形成されて、車室内の側の端部が前記インナパネルに接合され、車室外の側の端部が前記ウインドフレームに接合されたフレームブラケットが設けられており、
前記引出端部下方位置には、車室内の側から車室外の側に向かって延びるように形成されて、車室内の側の端部が前記ウインドフレームに接合され、車室外の側の端部が前記車室外側端部とされて前記アウタパネルに接触又は近接する位置とされた、突っ張りブラケットが設けられており、
一方の前記ウインドフレームと、前記フレームブラケットと、前記突っ張りブラケットにて、前記突っ張り機構が構成されており、
前記フレームブラケットと前記突っ張りブラケットは、一体成形品とされ、
前記フレームブラケットと前記突っ張りブラケットの連結部分が前記ウインドフレームの背面に沿って当該ウインドフレームに固定されている、
車両用ドア構造。
【請求項2】
車室外の側に配置されたアウタパネルと、車室内の側に配置されたインナパネルと、を接合して構成された車両用ドアの構造である車両用ドア構造であって、
前記アウタパネルにおける車室外の側には、利用者が前記車両用ドアを開閉する際に把持するための、水平方向に延びるドアハンドルが設けられており、
前記ドアハンドルにおける長手方向の一方の端部であるドアハンドル回動軸端部は、利用者が前記ドアハンドルを車室外の側に引いた際、前記ドアハンドルの回動軸となり前記アウタパネルから引き出されず、
前記ドアハンドルにおける長手方向の他方の端部であるドアハンドル引出端部は、利用者が前記ドアハンドルを車室外の側に引いた際、前記アウタパネルから引き出され、
前記アウタパネルと前記インナパネルとで囲まれたドア内空間において、前記ドアハンドル引出端部の近傍であって前記ドアハンドル引出端部よりも第1所定距離だけ下方となる位置である引出端部下方位置には、車室内の側から車室外の側に向かって延びるように構成されて、車室内の側の端部が前記インナパネルに接合され、車室外の側の端部である車室外側端部が前記アウタパネルに接触又は近接する位置とされ、前記引出端部下方位置よりも下方の前記アウタパネルへ車室外から車室内に向かう衝突が発生した際、衝突に伴う前記引出端部下方位置の周囲の前記アウタパネルの凹みを抑制する突っ張り機構が設けられており、
前記ドア内空間には、前記車両用ドアに設けられたウィンドシールドの昇降を案内するように上下方向に延びる長尺状のウインドフレームが一対で配置されており、
一方の前記ウインドフレームは、前記ドアハンドル引出端部の近傍を通って前記ドアハンドル引出端部の下方へと延びており、
一方の前記ウインドフレームにおける前記引出端部下方位置よりも下方となる位置には、車室内の側から車室外の側に向かって延びるように形成されて、車室内の側の端部が前記インナパネルに接合され、車室外の側の端部が前記ウインドフレームに接合されたフレームブラケットが設けられており、
前記引出端部下方位置には、車室内の側から車室外の側に向かって延びるように形成されて、車室内の側の端部が前記ウインドフレームに接合され、車室外の側の端部が前記車室外側端部とされて前記アウタパネルに接触又は近接する位置とされた、突っ張りブラケットが設けられており、
一方の前記ウインドフレームと、前記フレームブラケットと、前記突っ張りブラケットにて、前記突っ張り機構が構成されており、
前記突っ張りブラケットは、
対向している前記アウタパネルの面に沿う突っ張り面と、
前記突っ張り面と平行に配置されて前記ウインドフレームにおける車室外の側の面に接触する突っ張り当たり面と、
車室内の側から車室外の側に延ばされて前記突っ張り当たり面と前記突っ張り面とを接続する突っ張りアーム部と、
を有している、
車両用ドア構造。
【請求項3】
請求項
1に記載の車両用ドア構造であって、
前記突っ張り機構における前記車室外側端部には、対向している前記アウタパネルの面と平行となる面である突っ張り面が設けられている、
車両用ドア構造。
【請求項4】
請求項
1に記載の車両用ドア構造であって、
前記突っ張りブラケットは、
対向している前記アウタパネルの面に沿う突っ張り面と、
前記突っ張り面と平行に配置されて前記ウインドフレームにおける車室外の側の面に接触する突っ張り当たり面と、
車室内の側から車室外の側に延ばされて前記突っ張り当たり面と前記突っ張り面とを接続する突っ張りアーム部と、
を有している、
車両用ドア構造。
【請求項5】
請求項
1、2または4に記載の車両用ドア構造であって、
前記フレームブラケットは、
対向している前記インナパネルの面に接触する取付面と、
前記取付面と平行に配置されて前記ウインドフレームにおける車室内の側の面に接触するフレーム当たり面と、
車室内の側から車室外の側に延ばされて前記取付面と前記フレーム当たり面とを接続するフレームアーム部と、
を有している、
車両用ドア構造。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか一項に記載の車両用ドア構造であって、
前記突っ張り機構おける前記車室外側端部は、前記アウタパネルに接触することなく前記アウタパネルから第2所定距離だけ離されている、
車両用ドア構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の側面への衝突が発生した際、衝突されたドアのアウタパネルの変形によってドアハンドルが引かれた状態となってドアが開扉されることを防止する機能を備える車両用ドア構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のドアには、利用者がドアを開操作するためのドアハンドルが設けられている。例えば
図10に示すように、自動車900におけるフロントドア905のアウタパネル930における車外側には、利用者がフロントドア905を開閉する際に把持するための、略水平方向(厳密に水平方向に延びているわけではない。)に延びるドアハンドル910が設けられている。ドアハンドル910は、アウタパネル930内面に固定されたハンドルフレーム(図示せず)に対して揺動自在に支持されている。
【0003】
具体的には、
図11に示すように、ドアハンドル910の回動軸端部914は、ハンドルフレーム920の支軸922により、揺動自在に支持されている。利用者がグリップ912を車室外の側に引くと、ドアハンドル910は、回動軸端部914を中心に回動し(点線で示す位置から実線で示す位置に動く)、他方の後端部916が引き出される。この操作により、アーム918がリンク機構924に作用し、ストライカに係合されたラッチが外れるしくみとなっており、ドアロックが解除され、開扉状態となる。
【0004】
このように、通常は利用者の開操作によらなければドアが開扉状態となることはないが、側面から衝突(側突)された際に意図せず開扉状態になってしまうことがある。ドアハンドルが、側突によるアウタパネルの変形に伴い、グリップを引かれた場合と同じ状態になってしまうからである。
【0005】
例えば
図10に示すような自動車900において、フロントドア905におけるハッチングを施した部分909に側突された場合で説明する。この場合、
図12に示すように、アウタパネル930表面のドアハンドル910周辺を注目すると、アウタパネル930には、変形に伴う「しわ」が発生し得る。ここで、点線で示す内突しわ950及び内突しわ954は車室内の側に凹むものであり、実線で示す外突しわ952はこれとは逆に車室外の側に凸になるものである。アウタパネル930の変形の態様は、車両の意匠や側突箇所によって様々ではあるものの、多かれ少なかれドアハンドル910周辺にこのようなしわが発生し得る。これら発生するしわの様子について
図13~
図19を用いて詳細に説明する。
【0006】
まず、
図13(
図13では、アウタパネル930の一部を省略している)は、従来の一般的な車両ドア構造を備えたドアの概略図であり、
図14は、
図13におけるB-B断面図であるが、アウタパネル930とインナパネル940とは、ヘミング加工等により接合され、空間934を形成している。空間934には、ウィンドシールドの昇降を案内するウインドフレーム130のほか、パワーウインドウ機構やドアロック機構などが設けられているが、図中では省略している。なお、ウインドフレーム130は、インナパネル940に対しフレームブラケット150を介して固定されている。
【0007】
また、凹部932は、利用者が開操作の際にドアハンドル910のグリップ912を握れるように、アウタパネル930に設けられた窪みである。ピラー990は、フロントドア905が閉扉状態のときに、インナパネル940の車室内の側と対峙する自動車900のフレームの一部である。また、
図11ではドアハンドル910の設置の態様や操作の概要が分かるように表して説明したが、本図を含め他の図では模式的に表し、詳細は適宜省略する。
【0008】
図15は、側突後の
図12におけるB-B断面図であるが、アウタパネル930のドアハンドル910周辺に、上記したしわが、波打つように(凹部932は波の一部としては取り扱わない)発生している。つまり、内突しわ950が内突しわ950a、外突しわ952が外突しわ952a、内突しわ954が内突しわ954aに対応する。
【0009】
図12に戻って、これら内突しわ950、外突しわ952、内突しわ954は、ドアハンドル910より下方にまで延びて発生している。つまり、
図16は側突前の
図13におけるC-C断面図であり、
図17は側突後の
図12におけるC-C断面図であるが、アウタパネル930には、やはり内突しわ950a、外突しわ952a、内突しわ954aが発生する。
【0010】
このようなしわが発生すると、
図15に示すように、内突しわ950aによってドアハンドル910の回動軸端部914が車内方向に引かれるとともに、外突しわ952aによってドアハンドル910の後端部916が車外方向に押される。また、内突しわ952aおよび内突しわ954aによって、ハンドルフレーム920はたわむ。その結果、ドアハンドル910のグリップ912があたかも利用者に引かれるような動きとなり、ロックが解除され、開扉状態となってしまうおそれがある。つまり、
図18は側突前の
図13におけるA-A断面図であり、
図19は側突後の
図12におけるA-A断面図であるが、アウタパネル930は、側突された部分を中心に全体的にへこむ。その上でドアハンドル910周辺に発生したしわのうち、内突しわ954に伴って発生した外突しわ952によって、ドアハンドル910の後端部916が車外方向に押される。
【0011】
従来、このような側突による意図しないロック解除を防止するための技術が考案されている。例えば特許文献1は、ハンドルフレームと、構造物(ディビジョンバーなど、インナパネル寄りに設置されたもの)との間に隙間詰め部材を設け、側突の際に、ハンドルフレームのインナパネルへの移動を規制することで、ハンドルフレームとドアハンドルとの相対的な角度が拡がることを抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、特許文献1に開示の技術では、ハンドルフレームの移動を規制するのみであり、ドアハンドル周辺に発生したアウタパネルのしわによってドアハンドルが引かれる状態になることを防止できない。アウタパネルの変形の態様は、車両の意匠や側突箇所によって様々ではあるものの、ドアハンドル自体やドアハンドル周辺のアウタパネルの設計変更は、非常に多大な設計変更となるため、多大な時間とコストが必要となり、現実的ではない。そのため、ドアハンドル自体の設計やドアハンドル周辺のアウタパネルの設計を維持しつつ、このような「しわ」によっても意図せず開扉状態にならないような技術が求められている。
【0014】
本開示は、このような点に鑑みて創案されたものであり、ドアハンドル自体の設計やドアハンドル周辺のアウタパネルの設計を変更することなく、側突発生時にドアハンドル周辺に発生したアウタパネルのしわによってドアハンドルが引かれる状態になることを抑制する車両用ドア構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を達成するため、第1の発明は、車室外の側に配置されたアウタパネルと、車室内の側に配置されたインナパネルと、を接合して構成された車両用ドアの構造である車両用ドア構造であって、前記アウタパネルにおける車室外の側には、利用者が前記車両用ドアを開閉する際に把持するための、水平方向に延びるドアハンドルが設けられており、前記ドアハンドルにおける長手方向の一方の端部であるドアハンドル回動軸端部は、利用者が前記ドアハンドルを車室外の側に引いた際、前記ドアハンドルの回動軸となり前記アウタパネルから引き出されず、前記ドアハンドルにおける長手方向の他方の端部であるドアハンドル引出端部は、利用者が前記ドアハンドルを車室外の側に引いた際、前記アウタパネルから引き出され、前記アウタパネルと前記インナパネルとで囲まれたドア内空間において、前記ドアハンドル引出端部の近傍であって前記ドアハンドル引出端部よりも第1所定距離だけ下方となる位置である引出端部下方位置には、車室内の側から車室外の側に向かって延びるように構成されて、車室内の側の端部が前記インナパネルに接合され、車室外の側の端部である車室外側端部が前記アウタパネルに接触又は近接する位置とされ、前記引出端部下方位置よりも下方の前記アウタパネルへ車室外から車室内に向かう衝突が発生した際、衝突に伴う前記引出端部下方位置の周囲の前記アウタパネルの凹みを抑制する突っ張り機構が設けられている、車両用ドア構造である。
【0016】
次に、第2の発明は、上記第1の発明に係る車両用ドア構造であって、前記ドア内空間には、前記車両用ドアに設けられたウィンドシールドの昇降を案内するように上下方向に延びる長尺状のウインドフレームが一対で配置されており、一方の前記ウインドフレームは、前記ドアハンドル引出端部の近傍を通って前記ドアハンドル引出端部の下方へと延びており、一方の前記ウインドフレームにおける前記引出端部下方位置よりも下方となる位置には、車室内の側から車室外の側に向かって延びるように形成されて、車室内の側の端部が前記インナパネルに接合され、車室外の側の端部が前記ウインドフレームに接合されたフレームブラケットが設けられており、前記引出端部下方位置には、車室内の側から車室外の側に向かって延びるように形成されて、車室内の側の端部が前記ウインドフレームに接合され、車室外の側の端部が前記車室外側端部とされて前記アウタパネルに接触又は近接する位置とされた、突っ張りブラケットが設けられており、一方の前記ウインドフレームと、前記フレームブラケットと、前記突っ張りブラケットにて、前記突っ張り機構が構成されている、車両用ドア構造である。
【0017】
次に、第3の発明は、上記第1の発明または第2の発明に係る車両用ドア構造であって、前記突っ張り機構における前記車室外側端部には、対向している前記アウタパネルの面と平行となる面である突っ張り面が設けられている、車両用ドア構造である。
【0018】
次に、第4の発明は、上記第2の発明に係る車両用ドア構造であって、前記フレームブラケットと前記突っ張りブラケットは、一体成形品とされ、前記フレームブラケットと前記突っ張りブラケットの連結部分が前記ウインドフレームの背面に沿って当該ウインドフレームに固定されている、車両用ドア構造である。
【0019】
次に、第5の発明は、上記第2の発明または第4の発明に係る車両用ドア構造であって、前記突っ張りブラケットは、対向している前記アウタパネルの面に沿う突っ張り面と、前記突っ張り面と平行に配置されて前記ウインドフレームにおける車室外の側の面に接触する突っ張り当たり面と、車室内の側から車室外の側に延ばされて前記突っ張り当たり面と前記突っ張り面とを接続する突っ張りアーム部と、を有している、車両用ドア構造である。
【0020】
次に、第6の発明は、上記第2の発明、第4の発明、第5の発明のいずれか1つに係る車両用ドア構造であって、前記フレームブラケットは、対向している前記インナパネルの面に接触する取付面と、前記取付面と平行に配置されて前記ウインドフレームにおける車室内の側の面に接触するフレーム当たり面と、車室内の側から車室外の側に延ばされて前記取付面と前記フレーム当たり面とを接続するフレームアーム部と、を有している、車両用ドア構造である。
【0021】
次に、第7の発明は、上記第1の発明~第6の発明のいずれか1つに係る車両用ドア構造であって、前記突っ張り機構おける前記車室外側端部は、前記アウタパネルに接触することなく前記アウタパネルから第2所定距離だけ離されている、車両用ドア構造である。
【発明の効果】
【0022】
第1の発明によれば、側突の際にアウタパネルに発生するしわのうち内突しわを車室外側端部により受け止め、しわの波長や周期を変えることによって、ドアハンドル引出端部が外突しわで車外方向に押されることがないため、側突発生時にドアハンドル周辺に発生したアウタパネルのしわによってドアハンドルが引かれる状態になることを抑制することができる。また、突っ張り機構のみを設けるだけで良いため、ドアハンドル自体の設計やドアハンドル周辺の設計変更は不要である。
【0023】
第2の発明によれば、既存の構造物であるウインドフレームに突っ張りブラケットを固定するだけでよいので、新規に突っ張り機構を配置する場合や、フレームブラケットと突っ張りブラケットを一体成形品とする場合と比較して、低コストで突っ張り機構を実現することができる。また、突っ張りブラケットが独立しており、ウインドフレームに対する突っ張りブラケットの接合位置を簡易に微調整できるため、しわが発生しない最適な位置を探すことができる。
【0024】
第3の発明によれば、内突しわとなるべく迫ってきたアウタパネルを突っ張り面の全面で受け止めるので、アウタパネルを破損させることなく効果的にしわの波長や周期を変えることが可能となる。
【0025】
第4の発明によれば、連結部分がウインドフレームに沿って配置されるので、剛性が高くなる結果、突っ張りブラケットに掛かった荷重を、インナパネルと対峙する車両のピラーにまで伝達することができる。
【0026】
第5の発明によれば、突っ張りブラケットがアウタパネルから受けた荷重は、ウインドフレームに対して突っ張り当たり面で伝わるため、突っ張り当たり面を有さずに、突っ張りブラケットとウインドフレームの接合箇所で荷重を直接伝えざるを得ない場合と比較して、効果的に荷重を伝達することができる。
【0027】
第6の発明によれば、突っ張りブラケットがアウタパネルから受けた荷重であって、ウインドフレームに伝わった荷重を、当該ウインドフレームからフレーム当たり面で受けるため、フレーム当たり面を有さずに、フレームブラケットとウインドフレームの接合箇所で荷重を直接受けざるを得ない場合と比較して、効果的に荷重を伝達することができる。
【0028】
第7の発明によれば、突っ張り機構がアウタパネルに接触することで発生する自動車走行時の異音を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本発明の実施形態に係る車両用ドア構造を備えたドアの概略図である。
【
図5】本発明の実施形態に係る車両用ドア構造を備えたドアが側突された場合の効果を説明する図である。
【
図9】突っ張りブラケットとフレームブラケットを一体化した例を示す図である。
【
図11】ドアハンドルの操作を模式的に説明するための
図10におけるA-A断面図である。
【
図12】ドアが側突された場合に発生し得るしわを説明するための図である。
【
図13】従来の一般的な車両ドア構造を備えたドアの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態に係る車両用ドア構造を備えたドアについて説明し、車両の左側のフロントドアを例として説明する。
図1及び
図2に示すように、フロントドアであるドア100は、アウタパネル110とインナパネル120によって中空に形成されており、この内部の空間115に、一対のウインドフレーム130(フロントウインドフレーム130a、リアウインドフレーム130b)が設けられている。ウインドフレーム130は、図示しないウィンドシールドを上下方向に案内する。
【0031】
ウインドフレーム130は、
図3に示すように、断面略コの字となっており、ウィンドシールドは、ウインドフレーム130に沿って昇降する。なお、
図1~
図3を含め以降の図では、ドア100は、サッシュレスドアのごとく示されているが、ウインドフレーム130の上方向延長線上に設けられるサッシュについては便宜上省略している。ただし、サッシュレスドアであっても、通常、ウインドフレームは同様に存在するため、本実施形態と同様のドア構造を適用できる。
【0032】
アウタパネル110には、従来と同様、ドアハンドル140が設けられており、設置の態様や操作の概要については
図11で説明した通りである。
【0033】
ウインドフレーム130のうち、リア側のリアウインドフレーム130bは、ドアハンドル140の後端部146(利用者がドアハンドル140を引いた際にアウタパネル110から引き出される側)付近を通って当該後端部146の下方へと延びるように設けられている。延びた先において、リアウインドフレーム130bは、フレームブラケット150を介してインナパネル120に固定されている。
【0034】
フレームブラケット150は、
図2および
図3に示すように、例えば略L型板金で構成され、90度に折れ曲がった部分を境にして、脚152とアーム154に分かれており、脚152がインナパネル120に対して例えばボルトとナットで固定される。そして、アーム154に対しリアウインドフレーム130bの下方が固定される。
【0035】
アーム154は、リアウインドフレーム130bの角に合わせてクランク状に曲がっており、その結果、リアウインドフレーム130bの車内側の面132に接触する当たり面156と、リアウインドフレーム130bの背面136に接触する固定面158を有する。当たり面156は、脚152に対し略平行となっている(厳密に平行となっているわけではない)。なお、当たり面156は、フレーム当たり面に相当し、アーム154のうち脚152と当たり面156を接続する部分がフレームアーム部に相当する。
【0036】
リアウインドフレーム130bに対する固定面158の固定方法としては、ビス止め、ボルトとナットによる締め付け、溶接など、剛性が保たれるものであれば何でも良い。リアウインドフレーム130bの上方についても、図示はしないが所定のブラケットを介してインナパネル120に対して固定される。したがって、リアウインドフレーム130bは、空間115内にある構造物のなかでも、高い剛性を持つものであることが一般的である。
【0037】
その高い剛性を持つリアウインドフレーム130bに対し、突っ張りブラケット200が設けられている。突っ張りブラケット200は、リアウインドフレーム130bにおける、ドアハンドル140の後端部146よりも所定距離(第1所定距離に相当する)だけ下方となる位置に固定される。所定距離が具体的にどれだけであるのが望ましいかは、その車両の接地面からドアハンドル140までの高さ(車種や車高等によって個別具体的に決まるものであり、一定ではない)によってそれぞれ異なるが、ドアハンドル140からフレームブラケット150までの距離より短い距離である。言い換えれば、リアウインドフレーム130bにおいて、車両接地面からフレームブラケット150までの高さ以上であって、かつ、車両接地面からドアハンドル140までの高さ以下の位置に、突っ張りブラケット200が設けられている。
【0038】
ところで、側面からの衝突物が自動車の場合、アウタパネル110には、主として相手方の自動車のバンパーが当たることになる。したがって、リアウインドフレーム130bにおけるどの位置に突っ張りブラケット200を固定するのが望ましいかについては、相手方の自動車の車種や車高等によっても変わってくる。しかし、例えば歩行者頭部保護基準やJNCAP(Japan New Car Assessment Program)に基づいて、自動車メーカー各社はバンパーやボンネット周りのデザインや設計をしており、これに伴い、バンパーの高さは車種が異なるからといって大幅に変わることはなくなっている。したがって、上述した範囲に突っ張りブラケット200を固定すれば一定の効果を得られる。そして、突っ張りブラケット200は独立した1部品であるため、リアウインドフレーム130bに対する突っ張りブラケット200の固定位置を簡易に微調整できるため、しわが発生しない最適な位置を探すことができる。
【0039】
突っ張りブラケット200は、
図2~
図4に示すように、例えば略L型板金で構成され、フレームブラケット150と同様、90度に折れ曲がった部分を境にして、突っ張り部202とアーム204におおよそ分かれており、突っ張り部202の車外側の面が突っ張り面202aとして機能し、アーム204の端部204aがリアウインドフレーム130bに固定される。突っ張り面202aは、対向しているアウタパネル110の面と略平行となっている(厳密に平行となっているわけではない)。なお、突っ張り部202が車室外側端部に相当し、突っ張り面202aが突っ張り面に相当する。
【0040】
アーム204は、フレームブラケット150と同様、リアウインドフレーム130bの角に合わせてクランク状に曲がっており、その結果、リアウインドフレーム130bの車外側の面134に接触する当たり面206と、リアウインドフレーム130bの背面136に接触する固定面208を有する。当たり面206は、突っ張り面202aに対し略平行となっている(厳密に平行となっているわけではない)。なお、当たり面206は、突っ張り当たり面に相当し、アーム204のうち突っ張り部202と当たり面206を接続する部分が突っ張りアーム部に相当する。
【0041】
リアウインドフレーム130bに対する固定面208の固定方法としては、ビス止め、ボルトとナットによる締め付け、溶接など、剛性が保たれるものであれば何でも良い。後述するが、この突っ張り面202aにより、側突の際にアウタパネル110に発生するしわのうち、内突しわ(
図12の内突しわ954、
図15及び
図17の内突しわ954a)を受け止め、しわの波長や周期を変えることによって、ドアハンドル140の後端部146がしわで車外方向に押されてしまうことを抑制することができる。
図12に示した、外突しわ952の車外方向への突出量を直接的に抑制することは非常に困難であるが、内突しわ954の車内方向への突出量を、突っ張りブラケット200にて直接的に抑制することで、内突しわ954に伴って発生する外突しわ952の車外方向への突出量を間接的に抑制する。
【0042】
また、突っ張りブラケット200は、
図2に示すように、アウタパネル110から所定距離ΔL(第2所定距離に相当する)だけ離れている。具体的には、突っ張り面202aとアウタパネル110の車内側の面の間には、3~5mm程度の隙間が空いている。このような隙間を設けずに、突っ張り面202aとアウタパネル110を接触させても良いが、そうすると、自動車走行時の振動により異音が発生してしまう。そこで、両者を所定距離だけ離すことにより、異音の発生を抑制している。
【0043】
図5に示すように、このようなドア構造を有するドア100に対し、ハッチングを施した部分104に側突があった場合を説明する。
図6に示すように、アウタパネル110は、側突によって全体的に車室内方向にへこみつつも、突っ張りブラケット200の作用によってドアハンドル140周辺におけるしわ(従来の
図12で示したような内突しわ950、954や外突しわ952)の発生が抑制されている。
【0044】
したがって、
図7に示すように、外突しわによってドアハンドル140が引かれる状態になることはなく、ドア100が意図せず開扉状態になることはない。
図8に示すように、突っ張りブラケット200が、内突しわ954a(
図17参照)の発生し得るライン上に存在し、内突しわ954aを受け止めるからである。内突しわ954aが受け止められた結果、突っ張りブラケット200を中心にアウタパネル110が引っ張られ、内突しわ950aや外突しわ952aの発生も抑制される。
図5におけるしわ104はその結果できたものである。
【0045】
突っ張りブラケット200に掛かった荷重について説明すると、
図6や
図8に示すように、突っ張りブラケット200→リアウインドフレーム130b→フレームブラケット150→インナパネル120→ピラー990と、最終的にピラー990へ伝達される。
【0046】
その際、フレームブラケット150のアーム154や、突っ張りブラケット200のアーム204に設けたクランク状の曲げ部分により、荷重が効果的に伝達される。つまり、これらクランク状の曲げ部分が無い場合、リアウインドフレーム130bに対する両アームの固定箇所に直接荷重が加わるため、リアウインドフレーム130bの剛性を効果的に利用することにならない。例えば、ビスが破損してしまったり、リアウインドフレーム130bの背面136や固定面158、固定面208が歪んでしまったりする。
【0047】
しかし、このようなクランク曲げ加工を備えれば、突っ張り面202aで受けた荷重を、突っ張りブラケット200の当たり面206とリアウインドフレーム130bの車外側の面134で受け止め、当該受け止めた荷重を更にリアウインドフレーム130bの車内側の面132とフレームブラケット150の当たり面156で受け止め、突っ張りブラケット200→リアウインドフレーム130b→フレームブラケット150と荷重を伝えることができる。なお、ピラー990は、自動車が備えるピラーのうち中央に位置するもので、一般的には、高い剛性が求められる構造物であるため、突っ張りブラケット200でアウタパネルをしっかり支えることができ、その結果、ドアハンドル140周辺にしわが発生するのを抑制することができる。
【0048】
以上、本発明を実施するための形態について説明した。しかしながら、当業者であれば、本発明の目的を逸脱することなく種々の代用、手直し、あるいは変更が可能であることは明らかである。すなわち、本発明を実施するための形態は、本明細書に添付した特許請求の範囲の精神および目的を逸脱しない全ての代用、手直し、あるいは変更を含みうるものである。例えば、本発明を実施するための形態として、以下のような各種の形態を採用することができる。
【0049】
(1)本実施形態では、フレームブラケット150と突っ張りブラケット200をそれぞれ独立して設けるものとして説明したが、両者を一体化してもよい。例えば、
図9に示すように、突っ張り部202とアーム204を有する突っ張りブラケット200と、脚152とアーム154を有するフレームブラケット150と、これらを連結する連結部310からなるブラケット300を代用してもよい。ブラケット300にも、突っ張り面202aが存在し、突っ張りブラケット200とフレームブラケット150が連結部310に至る手前でリアウインドフレーム130bの角を覆うようにクランク状に曲がっている結果、当たり面206や当たり面156がそれぞれ存在する。したがって、各面が先述した機能と同様の機能を有する。更に、連結部310は、リアウインドフレーム130bの背面136に沿って当該リアウインドフレーム130bに固定され、これによりフレームブラケット150と突っ張りブラケット200をそれぞれ独立してリアウインドフレーム130bに固定するより、全体の剛性を高めることができる。
【0050】
(2)また、本実施形態では、フロントドアとしてのドア100に本発明を適用するものとして説明したが、アウタパネルとインナパネルによって中空に形成され、内部の空間に一対のウインドフレームが設けられる構造であれば必ずしもこれに限定されるものではなく、例えばリアドアに適用してもよい。リアドアの場合でも、一対のウインドフレームのうち一方がドアハンドル引出端部の近傍を通ってドアハンドル引出端部の下方へと延びていれば、あとは最適な位置に突っ張りブラケットを設けるだけで本実施形態と同様の効果が得られる。
【0051】
(3)また、本実施形態では、突っ張り面202aとアウタパネル110の間に3~5mm程度の隙間を空けるものとして説明したが、両者を完全に接触させる、あるいは、溶接等により接合するようにしてもよい。その場合、側突後に迫り来るアウタパネルを待ち受けるのと比較して、直にアウタパネルを支えることになるため、アウタパネルの的確な箇所を、一様に(上下前後方向のいずれかの方向に偏ることなく)突っ張ることができる。
【符号の説明】
【0052】
100 ドア
110 アウタパネル
120 インナパネル
130 ウインドフレーム
140 ドアハンドル
150 フレームブラケット
200 突っ張りブラケット
202 突っ張り部
202a 突っ張り面
204 アーム
204a 端部
206 当たり面