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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-17
(45)【発行日】2024-05-27
(54)【発明の名称】セラミックス部材の孔形成方法
(51)【国際特許分類】
   B28B 1/44 20060101AFI20240520BHJP
   C04B 41/91 20060101ALI20240520BHJP
   B28B 23/00 20060101ALI20240520BHJP
【FI】
B28B1/44
C04B41/91 Z
B28B23/00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021015654
(22)【出願日】2021-02-03
(65)【公開番号】P2022118871
(43)【公開日】2022-08-16
【審査請求日】2023-07-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100140914
【弁理士】
【氏名又は名称】三苫 貴織
(74)【代理人】
【識別番号】100136168
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 美紀
(74)【代理人】
【識別番号】100172524
【弁理士】
【氏名又は名称】長田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】栗村 隆之
(72)【発明者】
【氏名】水流 靖彦
(72)【発明者】
【氏名】黒崎 光
(72)【発明者】
【氏名】水上 聡
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-168605(JP,A)
【文献】特開昭59-069485(JP,A)
【文献】特開2007-090583(JP,A)
【文献】特開平04-345802(JP,A)
【文献】特開昭63-189223(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B28B 1/00-1/54
B28B 7/34
B28B 23/00-23/22
B26F 1/24
C04B 41/91
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス原料を成形し、常圧で焼結して得られるセラミックス部材に孔を形成する方法であって、
前記セラミックス原料よりも大きい線膨張係数を有する孔形成部材を、前記セラミックス原料中に埋め込み、成形してグリーン体を製造した後、
前記埋め込まれた前記孔形成部材を常温よりも低い温度に冷却し、
冷却された前記孔形成部材を抜き取って、孔を形成するセラミックス部材の孔形成方法。
【請求項2】
前記孔形成部材は、前記グリーン体の焼結温度よりも高い融点を有し、
前記冷却および前記抜き取りは、前記グリーン体を焼結して焼結体を得た後に実施する請求項1に記載のセラミックス部材の孔形成方法。
【請求項3】
前記焼結後、前記冷却の前に、前記孔形成部材のみを加熱し、膨張させる請求項2に記載のセラミックス部材の孔形成方法。
【請求項4】
前記冷却および前記抜き取りは、前記グリーン体を製造した後、該グリーン体を焼結する前に実施する請求項1に記載のセラミックス部材の孔形成方法。
【請求項5】
抜取装置を前記孔形成部材に接続し、
前記抜取装置を介して、前記孔形成部材を冷却した後、
前記抜取装置により前記孔形成部材を抜き取る請求項1~4のいずれかに記載のセラミックス部材の孔形成方法。
【請求項6】
前記グリーン体、焼結体および前記孔形成部材の少なくともいずれかに、前記抜取装置を介して超音波振動を付与しながら、前記孔形成部材を引き抜く請求項5に記載のセラミックス部材の孔形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、セラミックス部材の孔形成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
セラミックス部材は、1000℃近傍または1000℃を超える高温で使用され得る。高温で使用されるセラミックス部材では、冷却が必要となり得る。そのため、セラミックス部材に冷却用の孔を形成することが望まれる。
【0003】
また、設計上、孔の形成が必須となるセラミックス部材も出てきている。
【0004】
セラミックス部材に孔を形成する方法として、機械加工、レーザー加工、放電加工などが考えられる。
【0005】
また、特許文献1では、セラミックス原料中に必要な貫通孔の形状の高融点金属を埋め込み、成形、焼成、焼成したセラミックス中の高融点金属を強酸で除去することにより貫通孔を持つセラミックス部品を製造する方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開昭59-69485号公報(特許請求の範囲)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
セラミックス部材は、非常に高い硬度を有し難加工性である。そのため、上記いずれの方法でも、深い孔の形成ができず、現状の技術では数mm程度が限界である。また、上記いずれの方法であっても、孔を形成するのに長時間を要する。
【0008】
機械加工では、ドリル等により切削して孔を形成する。しかしながら、セラミックス部材の切削では、切削粉をうまく排出できず、切削粉が孔の中に溜まりやすい。切削粉が孔を詰まらせると、ドリルの回転に対する抵抗が大きくなり、ドリルが折損することもある。
【0009】
レーザー加工では、集光ビームをセラミックス部材に照射する。集光ビームを用いた場合、そのビーム形状故に、入口径に対して出口径が大きくなったり、いびつな形状になったりする。レーザー加工によって、入口径と出口径が同等の孔を形成するのは難しい。
【0010】
放電加工では、電極とセラミックス部材との間で生じる放電現象によって、セラミックス部材の表面の一部を除去する。放電加工は、導電性を有さないセラミックス部材には適用できない。
【0011】
特許文献1のように、埋め込んだ高融点金属を、薬液を用いて化学的に溶解除去する方法では、高い寸法精度で孔を形成できる。しかしながら、セラミックス部材には気孔が含まれており、溶解に使用した薬液が気孔に侵入し、残留する可能性が高い。
【0012】
常温で使用されるセラミックス部材であれば、液体の残留は問題にはならない。しかしながら、高温環境で使用される場合、液体の残留により、セラミックス部材の損傷が誘引される恐れがある。
【0013】
セラミックス部材の使用中に高温に曝されると、気孔内に残留した液体が膨張する。この液体の膨張は、セラミックス部材に亀裂を生じさせる要因となり得る。気孔に液体が残留していないことを保証するのは困難である。
【0014】
本開示は、このような事情に鑑みてなされたものであって、液体を用いた処理をせずに、孔を形成できるセラミックス部材の孔形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために、本開示のセラミックス部材の孔形成方法は以下の手段を採用する。
【0016】
本開示では、セラミックス原料を成形し、常圧で焼結して得られるセラミックス部材に孔を形成する方法であって、前記セラミックス原料よりも大きい線膨張係数を有する孔形成部材を、前記セラミックス原料中に埋め込み、成形してグリーン体を製造した後、前記埋め込まれた前記孔形成部材を常温よりも低い温度に冷却し、冷却された前記孔形成部材を抜き取って、孔を形成するセラミックス部材に孔を形成する方法を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本開示では、埋め込んだ孔形成部材を抜き取るという手法を採用することで、液体を用いた処理をせずに、セラミックス部材に孔を形成できる。よって、気孔内に液体が残留することはなく、残留物が損傷を誘引することも避けられる。
【0018】
セラミックス原料および孔形成部材では、温度変化に応じて熱ひずみが生じる。セラミックス原料よりも大きい線膨張係数を有する孔形成部材を用いることで、孔形成部材に生じる熱ひずみ量は、セラミックス原料(グリーン体または焼結体)よりも大きくなる。本開示では、セラミックス原料と孔形成部材との熱ひずみ量に差をつけることで、グリーン体または焼結体から孔形成部材への面圧または拘束力を減らせる。これによって、物理的に孔形成部材を抜き取りやすくなる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】セラミックス粒子および上記金属の融点および線膨張係数を示す図である。
図2】第1実施形態に係る孔形成方法の手順を説明する図である。
図3】冷凍設備を用いた冷却および引き抜きの模式図である。
図4】保冷容器を用いた冷却および引き抜きの模式図である。
図5】温度変化量とひずみ変化量との関係を示す図である。
図6】孔形成部材が埋め込まれたグリーン体の断面図である。
図7】孔形成部材が埋め込まれた焼結体の断面図である。
図8図6の焼結体を冷却した後の断面図である。
図9】第2実施形態に係る孔形成方法の手順を説明する図である。
図10】加熱および引き抜きの一例を示す模式図である。
図11】低融点金属の融点および線膨張係数を示す図である。
図12】第3実施形態に係る孔形成方法の手順を説明する図である。
図13】グリーン体から孔形成部材を引き抜く一例を示す模式図である。
図14】超音波振動を付与しながらグリーン体から孔形成部材を引き抜く一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本開示は、セラミックス原料を成形し、常圧で焼結して得られるセラミックス部材に孔を形成する方法に関する。
【0021】
本開示に係る孔形成方法は、セラミックス翼などの構造部材の加工に好適である。大型の構造部材では、小型の部材に比べ、孔の寸法精度の要求は厳しくない。大型の構造部材では、焼結時の収縮による孔径の変化も許容できる場合がある。
【0022】
本開示では、セラミックス原料よりも大きい線膨張係数を有する孔形成部材を、セラミックス原料中に埋め込み、成形してグリーン体を製造した後、埋め込まれた孔形成部材を常温よりも低い温度に冷却し、冷却された孔形成部材を抜き取って、孔を形成する。
【0023】
以下に、本開示に係るセラミックス部材の孔形成方法の一実施形態について説明する。
【0024】
〔第1実施形態〕
孔が形成されるセラミックス部材の原料(セラミックス原料)および孔を形成するための孔形成部材について説明する。
【0025】
セラミックス原料には、炭化珪素(SiC)、窒化珪素(Si)およびアルミナ(Al)等のセラミックス粒子が含まれる。セラミックス原料は、異なる種類のセラミックス粒子を含む複合材料であってよい。
【0026】
セラミックス原料には、バインダーおよび成形助剤などが含まれてよい。
【0027】
孔形成部材は、セラミックス原料よりも大きい線膨張係数を有する。孔形成部材は、グリーン体の焼結温度よりも高い融点を有する。
【0028】
孔形成部材の材料は、孔形成部材の線膨張係数が、セラミックス原料に含まれるセラミックス粒子よりも大きくなるように選択される。孔形成部材の材料は、孔形成部材の融点がグリーン体の焼結温度よりも高くなるように選択される。
【0029】
孔形成部材の材料は、タングステン(W)、タンタル(Ta)、モリブデン(Mo)、ニオブ(Nb)、イリジウム(Ir)、クロム(Cr)、ジルコニウム(Zr)、およびチタン(Ti)からなる群から選択されるとよい。
【0030】
図1に、セラミックス粒子および金属の融点および線膨張係数を示す。
図1に記載された金属の融点は、それぞれ、W:3380℃、Ta:2996℃、Mo:2623℃、Nb:2467℃、Ir:2443℃、Cr:1857℃、Zr:1852℃、Ti:1667℃である。
【0031】
SiCの焼結温度は1900℃以上である。Siの焼結温度は1700℃以上である。Alの焼結温度は1500℃以上である。反応焼結法でのSiCの焼結温度は1400℃程度である。
【0032】
図1に記載の金属群から、融点がグリーン体の焼結温度よりも高く、かつ、セラミックス原料よりも大きい線膨張係数を有する材料を選択すればよい。
【0033】
図1によれば、セラミックス原料に含まれるセラミックス粒子と、孔形成部材の材料となる金属の好適な組み合わせは以下の通りである。
セラミックス粒子がSiCの場合:Ti,Nb,Cr,ZrまたはIr
セラミックス粒子がSiの場合:Ti,Nb,Cr,Zr,Mo,TaまたはIr
セラミックス粒子がAlの場合:Ti
【0034】
孔形成部材は、棒状であり、形成したい孔形状の断面を有する。孔形成部材の断面は、丸または矩形であってよい。
【0035】
孔形成部材の断面が正方形または長方形である場合、断面の角部には、断面形状の1/20から1/5程度のR形状またはC面が付与されるとよい。これにより、矩形断面の孔形成部材が焼結中にもたらさせる変形により抜けづらくなること、および、角部が成形したセラミックスの破壊起点になることを避けられる。
【0036】
図2を参照して、本実施形態に係る孔形成方法の手順について説明する。本実施形態に係る孔形成方法は、工程1(S1)から工程6(S6)を順に含む。
【0037】
まず、(S1)セラミックス原料を調合する。セラミックス原料は、公知の方法で調合され得る。
【0038】
次に、(S2)調合したセラミックス原料を成形型内に入れ、孔形成部材を埋め込む。孔形成部材は、所望の孔形成位置に配置される。後の(S6)で孔形成部材を引き抜く場合、孔形成部材の一端部は、セラミックス原料に埋め込まず、セラミックス原料から突き出るように配置する。
【0039】
セラミックス原料を成形型内に入れる際、強化用のセラミックス繊維を混入させてもよい。
【0040】
次に、(S3)バインダーを硬化させ、グリーン体を製造する。グリーン体の製造には、一軸プレスおよびオートクレーブなどを用いてもよい。硬化後のグリーン体には、一次加工を施してもよい。
【0041】
次に、(S4)グリーン体を焼結する。焼結は、常圧で行われる。
【0042】
常圧で焼結する方法としては、常圧焼結法、反応焼結法などがある。
珪素系のセラミックス原料の焼結には、常圧焼結法または反応焼結法が好適である。酸化物系のセラミックス原料の焼結には、常圧焼結法が好適である。
【0043】
次に、(S5)孔形成部材を冷却する。冷却される前の焼結体の温度は、略常温である。ここでは、焼結体とともに孔形成部材を冷却してもよいし、孔形成部材のみを冷却してもよい。ここでは、孔形成部材の温度が、常温よりもさらに低く、好ましくは-10℃から-196℃の低温になるまで冷やす。「常温」は、室温に準じる。想定される室温は、18℃以上30℃以下である。
【0044】
孔形成部材の冷却には、冷凍設備、保冷容器および冷却部材などを使用できる。
【0045】
上記(S5)の後、(S6)孔形成部材を焼結体から抜き取る。これにより、セラミックス部材に孔が形成される。抜き取りは、抜取装置を用いて物理的に行われる。例えば、抜取装置は、ペンチなどの引抜工具である。例えば、抜取装置は、孔形成部材を把持する把持部と、孔形成部材が引き抜かれる方向に向けて把持部を移動させる可動部とを備え、把持部および可動部は外部からの電気入力により稼働する装置であってよい。
【0046】
孔形成部材の抜き取りは、孔形成部材の温度が低温であるうちに抜き取る。(S6)では、冷却を停止した後、低温であるうちに速やかに孔形成部材を抜き取ってもよいが、好ましくは、孔形成部材を冷却しながら、抜き取る。
【0047】
(S6)での抜き取りの際、孔形成部材に超音波振動を付与してもよい。超音波振動は、液体ではなく、固体を介して付与される。
【0048】
孔形成後の焼結体は、必要に応じて再加工され得る。
【0049】
図3に、冷凍設備を用いた冷却および引き抜きの模式図を例示する。
図3では、孔形成部材1が埋め込まれた焼結体2を冷凍庫3内に数時間入れる。これにより、孔形成部材1を含め焼結体2全体の温度を冷凍庫3内と同等の温度まで下げられる。冷凍庫3内の温度は、概ね-18℃以下である。
【0050】
孔形成部材1が十分に冷やされた後、引抜工具4の把持部5で孔形成部材1を挟む。引抜工具4に超音波振動子6を接続し、引抜工具4を介して孔形成部材1に超音波振動を付与する。図3では、冷凍庫3内にて、引抜工具4により焼結体2から孔形成部材1を引き抜く。
【0051】
図4に、保冷容器を用いた冷却および引き抜きの模式図を例示する。
保冷容器7の底部には、仕切り部材8を介して保冷剤9が配置されている。保冷剤9は、保冷容器7内および焼結体2を保冷剤9と略同等の温度まで冷やせる量で配置される。仕切り部材8は、保冷剤9からの冷気が通過できるよう構成されている。例えば、仕切り部材8は、金属メッシュおよびパンチングメタル等である。
【0052】
図4では、保冷剤9とともに、孔形成部材1が埋め込まれた焼結体2を保冷容器7内に数時間入れる。これにより、孔形成部材1を含め焼結体2全体の温度を保冷容器7内と同等の温度まで下げられる。保冷剤9は、ドライアイスおよび液体窒素等である。ドライアイスを用いて冷却する場合、-79℃まで冷却できる。液体窒素を用いて冷却する場合、-196℃まで冷却できる。引き抜きは、図3と同様である。
【0053】
図示しないが、冷却部材を用いる場合、常温よりも低い温度の冷却部材を孔形成部材に接触させることにより、孔形成部材を冷却できる。冷却部材は、孔形成部材を抜き取るために使用する引抜工具であってよい。例えば、引抜工具に液体窒素を循環させることにより、引抜工具の把持部を効率的に冷却できる。低温になった把持部で孔形成部材を挟むことにより、孔形成部材を効率よく冷却できる。
【0054】
冷却部材を孔形成部材に接触させると、熱伝導率の低いセラミックスの冷却が進まないうちに、孔形成部材のみを冷却できる。
【0055】
図5から図8を参照して、本実施形態に係る孔形成方法の作用効果について説明する。
【0056】
本実施形態において、孔形成部材の線膨張係数は、セラミックス原料よりも大きい。
図5に、セラミックスおよび金属について、温度変化量とひずみ変化量との関係を示す。同図において、横軸が温度変化量(℃)、縦軸がひずみ変化量である。
【0057】
線膨張係数が大きいと、温度変化量に対するひずみ変化量も大きくなる。すなわち、線膨張係数がセラミックス原料よりも大きい孔形成部材では、焼結時の温度変化により生じるひずみ量がセラミックス部材(焼結体)よりも大きい。
【0058】
図6に、孔形成部材が埋め込まれたグリーン体の断面図を示す。図7に、孔形成部材が埋め込まれた焼結体の断面図を示す。図8に、図7の焼結体を冷却した後の断面図を示す。
【0059】
図6では、丸断面、正方形断面または長方形断面を有する孔形成部材1a,1b,1cが、グリーン体10に埋め込まれている。このグリーン体10を常圧で焼結すると、図7の焼結体2となる。
【0060】
孔形成部材1a,1b,1cの融点はグリーン体10の焼結温度よりも高い。よって、焼結時に孔形成部材1a,1b,1cが溶けることはない。
【0061】
セラミックスは焼結時に収縮する。このため、図7では、セラミックスの焼結体2が孔形成部材1a,1b,1cを拘束していると想定される。
【0062】
本実施形態に係る孔形成方法では、グリーン体10の焼結を常圧で行う。
【0063】
常圧の焼結では、グリーン体10と孔形成部材1a,1b,1cとの界面に意図的に密着するような圧力がかからない。しかしながら、焼結時の熱ひずみフリーの状態から常温までの温度変化により、孔形成部材1a,1b,1cと焼結体2との間の界面に面圧が発生する。すなわち、焼結体2から孔形成部材への拘束が生じる。本実施形態では、セラミックス原料より線膨張係数が大きい孔形成部材1a,1b,1cを用いることで、線膨張係数が同じである場合よりも、焼結体2からの面圧あるいは拘束力を小さくできる。
【0064】
図8に示すように、セラミックス原料より線膨張係数が大きい孔形成部材1a,1b,1cは、冷却されることにより、径方向に収縮する。径方向の収縮が大きければ、図8のように、焼結体2と孔形成部材1a,1b,1cとの間に隙間Gが生じる。隙間Gが生じないまでも、孔形成部材1a,1b,1cが径方向に収縮すると、焼結体2からの面圧または拘束力が下がり、孔形成部材1a,1b,1cの引抜きが容易となる。
【0065】
孔形成部材1a,1b,1cの温度が焼結体よりも低く、その温度差が大きいほど、熱ひずの差も多くなる。その結果、面圧または拘束力は下がる。焼結体2を常温に維持し、孔形成部材1a,1b,1cのみを冷却すると、両者の温度差を大きくできる。
【0066】
〔第2実施形態〕
図9に、本実施形態に係る孔形成方法の手順を示す。
本実施形態に係る孔形成方法は、工程11(S11)から工程17(S17)を順に含む。本実施形態に係る孔形成方法は、焼結と冷却との間に加熱の工程を含む点が、第1実施形態と異なる。
【0067】
(S11)から(S14)では、第1実施形態の(S1)から(S4)と同様にグリーン体を製造し、焼結する。
【0068】
(S14)の後、(S15)孔形成部材のみを加熱する。加熱は、孔形成部材が膨張する温度で行う。加熱は、ヒータ加熱またはレーザー加熱であってよい。
【0069】
図10に、加熱および引き抜きの模式図を例示する。図10では、冷却に関する構成の記載は省略する。図10では、ヒータ11を接続した引抜工具4で孔形成部材1を挟み、引抜工具4を介して孔形成部材1のみを加熱する。ここで、「孔形成部材のみ」とは、孔形成部材1を囲む焼結体2を積極的に加熱しないという意味である。
【0070】
加熱した孔形成部材1を冷態に戻した後、第1実施形態の(S5)から(S6)と同様に(S16)孔形成部材1を冷却し、(S17)孔形成部材1を引き抜く。これにより、孔が形成されたセラミックス部材が得られる。
【0071】
孔形成部材1は加熱されることで膨張する。その結果、孔形成部材1に塑性変形が生じる。焼結体2に埋め込まれた部分において、孔形成部材1は径方向に逃げられないため、軸方向に変形する。その後、温度の低下に伴い、孔形成部材1は元の嵩高さに戻るが、軸方向に変形した分、埋め込まれた部分の孔形成部材1の径寸法は小さくなる。これにより、焼結体2からの面圧または拘束力が下がり、孔形成部材1の引抜きが容易となる。
【0072】
〔第3実施形態〕
本実施形態に係る孔形成方法は、グリーン体から孔形成部材を抜き取る点が、第1実施形態と異なる。
【0073】
本実施形態において、孔形成部材は、セラミックス原料よりも大きい線膨張係数を有する。焼結前に抜き取るため、孔形成部材の融点は、必ずしもセラミックス原料の焼結温度より高くなくてよい。
【0074】
孔形成部材の材料は、タングステン(W)、タンタル(Ta)、モリブデン(Mo)、ニオブ(Nb)、イリジウム(Ir)、クロム(Cr)、ジルコニウム(Zr)、チタン(Ti),亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、ジュラルミン(Al-Zn-Mg系のアルミニウム合金)および銀(Ag)からなる群から選択されるとよい。
【0075】
図11に、低融点金属の融点および線膨張係数を示す。セラミックス原料に含まれるバインダー(樹脂)の硬化温度は120℃から180℃程度である。孔形成部材の融点は、バインダーの硬化温度より高ければよい。入手性などを考慮すると、本実施形態における孔形成部材の材料は、ジュラルミンが好適である。
【0076】
図12に、本実施形態に係る孔形成方法の手順を示す。
本実施形態に係る孔形成方法は、工程21(S21)から工程26(S26)を順に含む。
【0077】
(S21)から(S23)では、第1実施形態の(S1)から(S3)と同様にセラミックス原料の調合からグリーン体の製造まで行う。
【0078】
(S23)の後、(S24)孔形成部材を冷却する。冷却される前のグリーン体の温度は、略常温である。ここでは、グリーン体とともに孔形成部材を冷却してもよいし、孔形成部材のみを冷却してもよい。ここで、「孔形成部材のみ」とは、孔形成部材を囲むグリーン体を積極的に加熱しないという意味である。(S24)では、孔形成部材の温度が、常温よりもさらに低く、好ましくは-10℃から-196℃の低温になるまで冷やす。
【0079】
第1実施形態と同様、孔形成部材の冷却には、冷凍設備、保冷容器および冷却部材などを使用できる。
【0080】
上記(S24)の後、(S25)孔形成部材をグリーン体から抜き取る。
孔形成部材の抜き取りは、第1実施形態と同様、抜取装置により行われる。孔形成部材は、孔形成部材の温度が低温であるうちに抜き取られることが好ましい。(S25)では、孔形成部材を冷却しながら、抜き取ってもよい。
【0081】
(S25)での抜き取りの際、孔形成部材に超音波振動を付与してもよい。超音波振動は、液体ではなく、固体を介して付与される。
【0082】
上記(S25)の後、(S26)グリーン体を焼結する。焼結は、第1実施形態の(S4)と同様に実施する。これにより、孔が形成されたセラミックス部材が得られる。
【0083】
孔形成後の焼結体(セラミックス部材)は、必要に応じて再加工され得る。
【0084】
図13に、グリーン体から孔形成部材を引き抜く模式図を例示する。孔形成部材1を冷却して低温にした後、グリーン体10に埋め込まれた孔形成部材1の端部を引抜工具4で挟み、グリーン体10から孔形成部材1を引き抜く。
【0085】
図14に、超音波振動を付与しながらグリーン体から孔形成部材を引き抜く模式図を例示する。図14では、孔形成部材1を冷却して低温にした後、引抜工具4に超音波振動子6を接続し、引抜工具4を介して孔形成部材1に超音波振動を付与する。
【0086】
なお、図13および図14では、冷却に関する構成が記載されていないが、第1実施形態の図3および図4のように、冷凍設備内または保冷容器内で、冷却を継続しながら、孔形成部材を抜き取ってもよい。また、第1実施形態に記載の冷却部材を用いた冷却を継続しながら孔形成部材を抜き取ってもよい。
【0087】
〈付記〉
以上説明した実施形態に記載のセラミックス部材の孔形成方法は、例えば以下のように把握される。
【0088】
本開示は、セラミックス原料を成形し、常圧で焼結して得られるセラミックス部材に孔を形成する方法であって、前記セラミックス原料よりも大きい線膨張係数を有する孔形成部材(1)を、前記セラミックス原料中に埋め込み、成形してグリーン体(10)を製造した後、前記埋め込まれた前記孔形成部材を常温よりも低い温度に冷却し、冷却された前記孔形成部材を抜き取って、孔を形成する。
【0089】
加圧せずに常圧で焼結して得られた焼結体(セラミックス部材)(2)の気孔率は、10%から40%程度である。PLS(Pressure Less Sintering)では、これ以上、気孔率を小さくできない。ホットプレスなどのように加圧焼結してなるセラミックス部材の気孔率は5%以下である。
【0090】
孔形成部材を抜き取った後に形成される孔の内表面には、孔形成部材の表面性状が転写される。気孔率が高いセラミックス部材では、孔形成部材を引き抜く際に孔の内表面がささくれ状態になる可能性がある。気孔率が高いセラミックス部材では、ホットプレスで得たセラミックス部材に比べ、孔の内表面に気孔が多く存在する。
【0091】
上記開示では、埋め込んだ孔形成部材を抜き取るという手法を採用することで、液体を用いた処理をせずに、セラミックス部材に孔を形成できる。よって、気孔内に液体が残留することはなく、残留物が損傷を誘引することも避けられる。
【0092】
セラミックス原料および孔形成部材では、温度変化に応じて熱ひずみが生じる。セラミックス原料よりも大きい線膨張係数を有する孔形成部材を用いることで、孔形成部材に生じる熱ひずみ量は、セラミックス原料(グリーン体または焼結体)よりも大きくなる。本開示では、セラミックス原料と孔形成部材との熱ひずみ量に差をつけることで、グリーン体または焼結体から孔形成部材への面圧または拘束力を減らせる。これによって、物理的に孔形成部材を抜き取りやすくなる。
【0093】
焼結では、セラミックス原料が焼結温度以上で加熱された後、常温まで冷却される。この焼結時の温度変化により、両者の間で熱ひずみ量に差が生じ、焼結体から孔形成部材への面圧または拘束力が低下する。
【0094】
さらに、上記開示では、孔形成部材を冷却し、このときの温度変化により、両者の間で熱ひずみ量に差が生じさせる。その結果、グリーン体または焼結体から孔形成部材への面圧または拘束力が小さくなる。
【0095】
上記開示では、数ミリよりも深い孔、例えば、深さ50mm程度の孔も形成可能である。
【0096】
上記開示の一態様において、前記孔形成部材は、前記グリーン体の焼結温度よりも高い融点を有し、前記冷却および前記抜き取りは、前記グリーン体を焼結して焼結体を得た後に実施できる。
【0097】
グリーン体の焼結温度よりも高い融点を有する孔形成部材は、焼結時に溶融することはない。これにより、孔形成部材の溶融に起因した孔の変形や閉塞を避けられる。
【0098】
上記開示の一態様において、前記焼結後、前記冷却の前に、前記孔形成部材のみを加熱し、膨張させてもよい。
【0099】
孔形成部材を加熱して膨張させると、孔形成部材に塑性変形が生じる。焼結体に埋め込まれた部分では、軸方向に変形するため、冷態に戻した後の径寸法は小さくなる。これにより、焼結体から孔形成部材への面圧または拘束力を減らせる。孔形成部材のみを加熱することで、焼結体の温度上昇に先立って、孔形成部材を膨張させられる。
【0100】
上記開示の一態様において、前記冷却および前記抜き取りは、前記グリーン体を製造した後、該グリーン体を焼結する前に実施してもよい。
【0101】
常圧で焼結するため、孔を形成した後であっても、焼結時の外圧で孔がつぶれる心配はない。
【0102】
上記開示の一態様において、抜取装置(4)を前記孔形成部材に接続し、前記抜取装置を介して、前記孔形成部材を冷却した後、前記抜取装置により前記孔形成部材を抜き取ってよい。
【0103】
抜取装置を用いることによって、孔形成部材のみを冷却できる。熱伝導率の低いセラミックスの冷却が進まないうちに、孔形成部材のみを冷却できると、両者の温度差が大きくなり得る。温度差が大きいと、熱ひずみ量の差も大きくなるため、抜き取りがよいとなる。
【0104】
上記開示の一態様において、前記グリーン体、前記焼結体および前記孔形成部材の少なくともいずれかに、前記抜取装置を介して超音波振動を付与しながら、前記孔形成部材を引き抜いてもよい。
【0105】
抜取装置を介することで、液体を用いずに、超音波振動を付与できる。超音波振動により微細な動きを付与することで、孔形成部材が抜けやすくなる。
【符号の説明】
【0106】
1,1a,1b,1c 孔形成部材
2 焼結体
3 冷凍庫
4 引抜工具(抜取装置)
5 把持部
6 超音波振動子
7 保冷容器
8 仕切り部材
9 保冷剤
10 グリーン体
11 ヒータ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14