(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-17
(45)【発行日】2024-05-27
(54)【発明の名称】液体生検における細胞遊離リボ核酸を介した組織内のタンパク質存在量を定量化するための方法および装置
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6869 20180101AFI20240520BHJP
C12Q 1/686 20180101ALI20240520BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20240520BHJP
G01N 33/68 20060101ALI20240520BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240520BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240520BHJP
C12N 15/11 20060101ALN20240520BHJP
【FI】
C12Q1/6869 Z
C12Q1/686 Z
G01N33/53 M
G01N33/68
A61K45/00
A61P43/00 111
C12N15/11 Z ZNA
(21)【出願番号】P 2021502716
(86)(22)【出願日】2019-03-27
(86)【国際出願番号】 US2019024379
(87)【国際公開番号】W WO2019191297
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2022-03-25
(32)【優先日】2018-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】520373095
【氏名又は名称】サターラ ユーエスエー, インコーポレーテッド
【氏名又は名称原語表記】Certara USA, Inc.
【住所又は居所原語表記】100 Overlook Center, Princeton, New Jersey 08540 United States of America
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ロスタミ-ホジェガン,アミン
(72)【発明者】
【氏名】アシュール,ブラヒム
(72)【発明者】
【氏名】ロスマン,ジェームス エドワード
【審査官】斉藤 貴子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/156310(WO,A1)
【文献】Van der HAUWAERT, C. et al.,Expression profiles of genes involved in xenobiotic metabolism and disposition in human renal tissues and renal cell models,Toxicology and Applied Pharmacology,2014年,Vol. 279,P. 409-418
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q
G01N
C12N
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
特定の生体異物化合物に対する個体対象のクリアランスを特定するための方法であって、
(1)ヒトまたは動物内の前記特定の生体異物化合物の薬物動態に寄与する少なくとも1つの生体異物のクリアランスに関与するタンパク質を特定することと、
(2)前記対象から得られた液体生検内の前記少なくとも1つの生体異物のクリアランスに関与するタンパク質をコードする第1の無細胞RNA(cfRNA)の量を定量化すること、ただし、
前記第1のcfRNAが、前記対象の体内の器官に由来し、
a.前記液体生検から全無細胞RNA(cfRNA
合計)を単離することと、
b.前記cfRNA
合計内に存在する前記第1のcfRNAの量を決定するために、単離された前記cfRNA
合計を分析することと、
c.前記対象について以下により決定されるRNA器官脱落補正因子(SCF)に対する正規化関数を、前記第1のcfRNAの量に適用すること、を含み、
(i)2つ以上のマーカー遺伝子の各々に対応するcfRNA
合計内に存在するmRNAの量を定量化するために、cfRNA
合計の分析を行うことであって、マーカー遺伝子が、主としてかつ一貫して器官内に発現される遺伝子として定義され、および
(ii)cfRNA
合計内に存在する2つ以上のマーカー遺伝子の各々のmRNAの平均濃度としてSCFを決定すること、
(3)前記対象の器官内の前記少なくとも1つの生体異物のクリアランスに関与するタンパク質をコードする第1の無細胞RNAの前記量を、参照個体からの液体生検および組織生検を含む一致した試料との比較によって作成される存在量曲線とを比較することによって、前記少なくとも1つの生体異物のクリアランスに関与するタンパク質の存在量を特定することであって、
前記個体対象のクリアランス能力が前記対象の前記器官内の生体異物のクリアランスに関与するタンパク質の前記存在量に基づくものであること、を含む、方法。
【請求項2】
前記器官が、肝臓、腎臓、腸、脳、および膵臓からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記器官が、肝臓である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記生体異物のクリアランスに関与するタンパク質が、生体異物代謝酵素、および生体異
物輸送タンパク質からなる群から選択される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記生体異物代謝酵素が、シトクロムP450モノオキシゲナーゼ(CYP)タンパク質を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
CYPが、CYP1A1、CYP1A2、CYP1B1、CYP2A6、CYP2A7、CYP2A13、CYP2B6、CYP2C8、CYP2C9、CYP2C18、CYP2C19、CYP2D6、CYP2E1、CYP3A4、CYP3A5、およびCYP3A7からなる群のうちの1つから選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記生体異物代謝酵素が、メチルトランスフェラーゼ;スルホトランスフェラーゼ;N-アセチルトランスフェラーゼ;グルクロノシルトランスフェラーゼ;グルタチオン-S-トランスフェラーゼ;ならびにコリンアセチルトランスフェラーゼからなる群のうちの1つから選択され、前記グルクロノシルトランスフェラーゼは、UGT1A1、UGT1A3、UGT1A4、UGT1A6、UGT1A9、UGT2B4、UGT2B7、およびUGT2B15からなる群のうちの1つ以上を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
前記生体異物輸送タンパク質が、ATP結合カセット(ABC)輸送体である、請求項4に記載の方法。
【請求項9】
前記生体異物輸送タンパク質が、溶質担体(SLC)輸送体である、請求項4に記載の方法。
【請求項10】
前記SCFが、前記対象から得られた液体生検からcfRNA
合計を単離することと、[cfRNA]
マーカーとして指定される、存在する2つ以上のマーカー遺伝子のmRNAの量を定量化するために、前記cfRNA
合計の分析を行うことであって、マーカー遺伝子が、主としてかつ一貫して前記器官内に高レベルで発現される遺伝子として定義される、分析を行うことと、式Aに従って前記SCFを決定することと、によって前記対象について決定され、
【数1】
式中、Nは、定量化されるマーカー遺伝子の数に等しい、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記SCFを決定するために、少なくとも3つのマーカー遺伝子が選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
特定の生体異物化合物に対する個体対象のクリアランスをモデル化するためのシステムであって、
-前記対象に関するデータを入力するための入力デバイスと、
-請求項1~11のいずれか一項に記載の方法を実装するためのプログラム命令を含むコンピュータ可読媒体であって、前記プログラム命令の実行により、前記システムの1つ以上のプロセッサが請求項1~11のいずれか一項に記載の方法を実施する、コンピュータ可読媒体と、
-前記個体に対する前記特定の生体異物化合物についてのクリアランス能力のインシリコモデルを提示するための出力デバイスと、を備える、システム。
【請求項13】
前記入力デバイスおよび前記出力デバイスが、同じデバイスである、請求項12に記載のシステム。
【請求項14】
前記入力デバイスおよび前記出力デバイスが、ユーザインターフェースデバイスを備える、請求項12または13に記載のシステム。
【請求項15】
前記コンピュータ可読媒体が、第1のサーバと共に配置される、請求項12~14のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項16】
前記第1のサーバが、前記入力デバイスの遠隔に配置される、請求項15に記載のシステム。
【請求項17】
前記第1のサーバが、前記出力デバイスの遠隔に配置される、請求項15に記載のシステム。
【請求項18】
前記第1のサーバが、第2のサーバと通信するように構成されている、請求項15~17のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項19】
前記第2のサーバが、少なくとも1つの生理学に基づく薬物動態(PBPK)モデルを含む、追加のモデル化機能を提供する、請求項18に記載のシステム。
【請求項20】
コンピュータサーバであって、
請求項1~11のいずれか一項に記載の方法を実装するためのプログラム命令を含むコンピュータ可読媒体であって、前記プログラム命令の実行により、前記サーバの1つ以上のプロセッサが前記方法のステップを実施し、特定の生体異物化合物に対する個体対象のクリアランス能力のインシリコモデルを生成し、前記モデルが、前記サーバにホストされる、コンピュータ可読媒体と、
遠隔に配置されたユーザインターフェースデバイスと通信し、それによって遠隔に配置されたユーザが前記モデルにアクセスすることを可能にするための通信モジュールと、を備える、コンピュータサーバ。
【請求項21】
前記サーバが、前記ユーザインターフェースの遠隔に配置される、請求項20に記載のサーバ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
配列表、表、またはコンピュータプログラムの参照
配列表は、本明細書と共に、作成日2019年3月27日およびサイズ1.3キロバイトのファイル名Sequence Listing.txtで、ASCII形式のテキストファイルとしてEFS-Web経由で同時に提出される。EFS-Web経由で提出された配列表は、本明細書の一部であり、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、ヒトなどの個体動物内の薬物および他の物質のクリアランスおよび代謝の予測モデル化のためのシミュレーションシステム、方法、および装置を対象とする。
【背景技術】
【0003】
任意の所与の個体における薬物の吸収、代謝、およびクリアランスの違いは、ほんの数例を挙げると、年齢、性別、および民族性など、複数の原因に依存する可能性がある。加えて、生活様式の選択および健康状態が、医薬品および他の生体異物を吸収、分配、代謝、または排泄する所与の個体の能力に大きな影響を与える可能性がある。例えば、個体が喫煙者であるか、または肝硬変などの慢性疾患に罹患しているかどうかは、薬物を除去する個体の身体能力に影響するであろう。したがって、推定上の治療用量の薬物の投与後の一部の個体における極端な副作用または予期される治療効果の予期しない欠如の観察は、ばらつきの問題のより完全な理解を必要とし、各個体における薬物への曝露を決定する共変量を特定することの重要性を強調する。遺伝学は、薬物(例えば、酵素の遺伝子型)および体内の薬物(薬力学)に関する器官の生物活性におけるいくつかの変動を決定し得るが、任意の所与の遺伝子型内には、それが現在実施されるときに遺伝子型決定では予測することができない変動が未だある。
【0004】
現在の粗集団ベースの方策ではなく、必要とする個体のための安全で効果的な薬物投与量を特定するためのより正確な方法を提供する必要性がある。例えば、小児および老人の文脈で薬物動態および薬力学に影響を与える様々な因子は、成人のものとはかなり異なる(Zhou et al.Clin Pharmacol Ther.(2018)Jul;104(1):188-200(非特許文献1))。成人の間でさえ、とりわけ、肥満、肝臓、および/または腎障害の結果として、集団コホート間にかなりの変動がある(Spanakis&Marias,(2014)In Silico Pharmacol.Dec;2(1):2(非特許文献2))。結果として、多くの場合、高齢者、新生児、乳児、および子供の薬物投与計画を継続的に監視および変更する必要があり、様々な成人の亜集団でも同様である。同様のレベルの重大な影響を有する変動は、他の亜集団にも存在する可能性があるが、薬物が開発または処方された場合、企業または臨床医は事実上無視し得る。
【0005】
生理学に基づく薬物動態(PBPK)モデル化を古典的集団薬物動態(popPK)モデルベースのシミュレーションと組み合わせて使用することで、薬物の投薬および投与計画を変更するための薬物開発の課題に答えることがますます多くなっている。当然ながら、個体における特定の薬物または生体異物についての動態および動力学を決定し、それに応じて用量を変更することが可能である。このようなアプローチでは、任意の所与の薬物または生体異物を個体自体が処理するのと同じ方法で処理することができる個体の仮想鏡像(仮想ツイン)を作成するのではなく、各個体の各所定の薬物/生体異物のモデルを構築する必要がある。仮想ツインPDPKモデルの構築は、米国特許出願第2016/0335412号(特許文献1)に記載されている。
【0006】
各個体(仮想ツイン)の正確なモデルを構築するには、任意の薬物の投与または任意の生体異物化合物への曝露の前に、最も関連性の高い組織(複数可)、特に、研究下にある特定の化合物のクリアランスに関与する組織(多くの場合、肝臓である)の生検を行う必要がある。薬物代謝およびクリアランスの個別化されたモデルを作成するためだけに、肝臓および腎臓などから組織を採取するために侵襲的な生検手順を受けることを個体に期待することは非現実的で潜在的に危険であることは明らかである。加えて、小児の文脈または薬物代謝酵素のまれな遺伝的変異を有する小さい亜集団における薬物間相互作用(DDI)などの複雑な臨床シナリオを探索することは困難で倫理的に課題がある。このような複雑さおよび不便さの結果として、個体レベルでの薬物の吸収、分布、クリアランス、代謝の正確な予測を提供することができるモデルを追求するための取り組みは、この分野ではほとんどなかった。したがって、薬物についての個別化されたポイントオブケア投与計画の採用を可能にするPBPKモデルの作成に対する障壁がある。その結果、過剰投薬および過少投薬の問題、ならびに有害なDDIを予測することができないという問題が永続する。
【0007】
無細胞核酸は、血流内に存在し、典型的には、細胞外のRNAの半減期が非常に短いにもかかわらず、「循環RNA」と呼ばれるRNAを含む(El-Hefnawy et al.,Clin Chem,2004(非特許文献3))。したがって、この性質のRNA分子は、小胞およびリポタンパク質などの脂質と関連付けられて、それらの生存を可能にすることが示されている。循環RNAには、mRNAが含まれており、細胞から放出された微小胞またはエキソソームに富む可能性がある。
【0008】
WO-A-02/00935(特許文献2)(Ramanathan)は、個体の血液細胞内に見られるmRNAのレベルと相関することによる、肝臓内の特定の薬物代謝酵素のレベルを推定するための方法(いわゆる「薬物クリアランスマーカー」)の記載を提供している。Ramanathanでは、mRNAが、血液試料から単離され、逆転写されてcDNAを形成し、次にこれを、対応する肝臓のmRNA発現レベルに基づいて肝臓内の薬物クリアランスマーカーのタンパク質レベルの存在および量を推定するために、DNAマイクロアレイで分析する。Ramanathanの方法論は、以下の2つの仮定に依存しているため、問題がある。
1)血液中のmRNAのレベルと、その個体の肝臓内の所与の酵素または輸送体についての対応するmRNAレベルとの間に直接的な相関関係があること、および
2)個体の肝臓のmRNAレベルは、その個体内に存在する同じ肝臓酵素および輸送体のタンパク質の量に直線的に対応すること。
【0009】
Ramanathan自体の実験は、第1のグループの個体からの血液試料内の異なる酵素のmRNAの試験されたレベルと、第2のグループの異なる個体からの対応する肝臓酵素の以前に報告された先行技術の測定値との間の相関関係に依存している。したがって、疑わしい相関関係は、異なる個体の血液および肝臓から採取された試料間で一連の異なる酵素および輸送体に対して発生するため、任意の所与の特定の酵素および輸送体についてのRamanathan研究から、意味のある相関関係を決定することができない。実際、多くの因子が、mRNAの所与のタンパク質への翻訳に影響を与え、任意の1つの所与の遺伝子発現産物について、対応する機能性タンパク質へのその翻訳を制御する複数の調節メカニズムが存在する可能性がある。ヒト由来肝細胞の場合、mRNAが数千倍に増加しても、実際のタンパク質レベルは数倍しか変化しない可能性がある(Einolf et al,Clin Pharmacol Ther.2014 Feb;95(2):179-88(非特許文献4)によって検討されるように)。そのような影響はまた、インビボでの薬物クリアランス酵素のレベルおよび活性を個体ベースで調節することができる環境的、遺伝的、および生活様式の因子に非常に影響を受ける可能性がある。
【0010】
さらなる合併症が、多くの場合、エキソソーム内で、血流などの体液に入る、器官または組織の細胞によるmRNAの「脱落」として記載される現象から生じる。脱落の量は、「低速脱落」によって放出されたものと比較して、元の器官または組織内の特定の遺伝子の同量の転写に対して、より大量のRNAを放出する「高速脱落」による個体間で異なる。したがって、個体内の脱落レベルを補正せずに循環RNAのみを定量化することは、器官組織内の特定の遺伝子の発現に由来するタンパク質レベルを正確に予測する上で、限られた用途しかないことが理解され得る。したがって、エキソソームまたは他の起源の循環mRNAが、器官薬物処理タンパク質の存在量との相関関係について「液体生検」の供給源として機能する可能性があるという当該技術分野における主張は、存在する重要な技術的問題に対処するには、せいぜい推測であり、最悪の場合は時期尚早である。
【0011】
したがって、個体の体内の薬物および他の生体異物の処理に関連する各タンパク質のレベルの正確かつ定量的なプロファイルを作成するための実用的な手段を提供する必要が依然としてある。そのようなプロファイルは、個体の仮想ツインを定義するモデルと併せて個別化された投薬情報を提供し、特定の薬物の投与(あるいは毒素もしくは環境化学物質または他の生体異物化合物への曝露)に対する所望の反応(response)(または反応(reaction)の回避)を決定する可能性を増し得る。
【0012】
本発明のこれらおよび他の使用、特徴、および利点は、本明細書に提供される教示から当業者には明らかであるべきである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0013】
【文献】Zhou et al.,Clin Pharmacol Ther.(2018)Jul;104(1):188-200
【文献】Spanakis and Marias,In Silico Pharmacol.(2014)Dec;2(1):2
【文献】El-Hefnawy et al.,Clin Chem,2004
【文献】Einolf et al.,Clin Pharmacol Ther.2014 Feb;95(2):179-88
【特許文献】
【0014】
【文献】米国公開特許第2016/0335412号
【文献】国際公開第2002/000935号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
以前のアプローチの制限に答えるために、本発明者らは、血液などの液体生検および肝臓などの対応する器官におけるmRNAのレベルを正規化し、「脱落補正因子(SCF)」として記載される因子を使用して個別化する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
したがって、本発明の第1の態様は、個体対象から得られた液体生検内に存在する第1の無細胞RNA(cfRNA)の量を定量化するための方法であって、cfRNAが、対象の体内の器官に由来し、本方法が、
a.液体生検から全無細胞RNA(cfRNA合計)を単離することと、
b.cfRNA合計内に存在する第1のcfRNAの量を決定するために、単離されたcfRNA合計を分析することと、
c.対象について決定されるRNA器官脱落補正因子(SCF)に対する正規化関数を、存在する第1のcfRNAの量に、
(i)2つ以上のマーカー遺伝子の各々に対応するcfRNA合計内に存在するmRNAの量を定量化するために、cfRNA合計の分析を行うことであって、マーカー遺伝子が、主としてかつ一貫して器官内に発現される遺伝子として定義される、分析を行うこと、および
(ii)cfRNA合計内に存在する2つ以上のマーカー遺伝子の各々のmRNAの平均濃度としてSCFを決定すること、によって行うことと、を含む、方法を提供する。
【0017】
本発明の一実施形態では、SCFは、対象から得られた液体生検からcfRNA合計を単離することと、[cfRNA]マーカーとして指定される、存在する2つ以上のマーカー遺伝子のmRNAの量を定量化するために、cfRNA合計の分析を行うことであって、マーカー遺伝子が、主としてかつ一貫して器官内に高レベルで発現される遺伝子として定義される、分析を行うことと、式Aに従ってSCFを決定することと、によって対象について決定され、
【0018】
【0019】
式中、Nは、定量化されるマーカー遺伝子の数に等しい。
【0020】
好適には、SCFを決定するために、少なくとも3つ、好適には少なくとも5つ、典型的には少なくとも8つ、任意選択的には少なくとも10個以上のマーカー遺伝子が選択される。任意選択的に、器官は、肝臓、腎臓、腸、脳、および膵臓からなる群のうちの1つ以上から選択される。特定の実施形態では、器官は、肝臓である。
【0021】
器官が肝臓である場合、2つ以上のマーカー遺伝子のうちの少なくとも1つが、A1BG(アルファ-1-B糖タンパク質)、AHSG(アルファ-2-HS-糖タンパク質)、ALB(アルブミン)、APOA2(アポリポタンパク質A-II)、C9(補体成分9)、CFHR2(補体因子H関連5)、F2(凝固因子II(トロンビン))、F9(凝固因子IX)、HPX(ヘモペキシン)、SPP2(分泌型リンタンパク質2)、TF(トランスフェリン)、MBL2(マンノース結合レクチン(タンパク質C)2)、SERPINC1(セルピンペプチダーゼ阻害剤、クレードC(抗トロンビン)、メンバー1)、およびFGB(フィブリノーゲンベータ鎖)からなる群から選択され得る。
【0022】
典型的には、第1のcfRNAは、器官タンパク質をコードする。好適には、器官由来のcfRNAが、生体異物クリアランスタンパク質、生体異物代謝酵素、および生体異物輸送タンパク質からなる群から選択される生体異物処理タンパク質をコードする。本発明の実施形態では、生体異物は、医薬化合物または薬物である。任意選択的に、第1のcfRNAは、酵素をコードする。本発明の一実施形態では、酵素は、シトクロムP450モノオキシゲナーゼ(CYP)タンパク質を含む。好適には、CYPは、CYP1A1、CYP1A2、CYP1B1、CYP2A6、CYP2A7、CYP2A13、CYP2B6、CYP2C8、CYP2C9、CYP2C18、CYP2C19、CYP2D6、CYP2E1、CYP3A4、CYP3A5、およびCYP3A7からなる群のうちの1つから選択される。さらなる実施形態では、酵素は、メチルトランスフェラーゼ;スルホトランスフェラーゼ;N-アセチルトランスフェラーゼ;UGT1A1、UGT1A3、UGT1A4、UGT1A6、UGT1A9、UGT2B4、UGT2B7、およびUGT2B15からなる群のうちの1つ以上を含むがこれらに限定されない、グルクロノシルトランスフェラーゼ;グルタチオン-S-トランスフェラーゼ;ならびにコリンアセチルトランスフェラーゼからなる群のうちの1つから選択されるトランスフェラーゼを含む。
【0023】
別の実施形態では、輸送タンパク質は、ATP結合カセット(ABC)輸送体または溶質担体(SLC)輸送体である。
【0024】
本発明の実施形態によると、液体生検は、血液、尿、唾液、精液、涙、リンパ液、糞便、および粘液分泌物からなる群のうちの1つから選択される体液の試料を含む。液体生検が血液またはその成分を含む実施形態では、それは、全血、血清、および/または血漿を含み得る。
【0025】
本発明のさらなる実施形態では、本方法は、液体生検内に存在する少なくとも第2の無細胞RNA(cfRNA)、または第3、第4、第5、もしくはそれ以上のcfRNA量を定量化することをさらに提供する。特定の実施形態では、複数のcfRNAは、本明細書で定義される異なる器官タンパク質に対応する複数のcfRNAの各1つについて定量化される。
【0026】
本発明の第2の態様は、個体対象から得られた血液試料内に存在する少なくとも第1の無細胞RNA(cfRNA)の量を定量化するためのインビトロアッセイであって、第1のcfRNAが、対象の肝臓に由来する薬物クリアランスまたは代謝タンパク質をコードし、第1のcfRNAが、血液試料内に存在するミクロソーム内に含まれ、アッセイが、
a.血液試料から全無細胞RNA(cfRNA合計)を単離するステップと、
b.cfRNA合計内に存在する第1のcfRNAの濃度を決定するために、単離されたcfRNA合計を分析するステップと、
c.対象について決定されるRNA肝臓脱落補正因子(SCF)に対して存在する第1のcfRNAの濃度を正規化するステップであって、SCFが、複数の肝臓マーカー遺伝子の各々に対応するcfRNA合計内に存在するmRNAの量を定量化するために、cfRNA合計の分析を行うこと、およびcfRNA合計内に存在する複数の肝臓マーカー遺伝子の各々のmRNAの平均濃度としてSCFを決定すること、によって定義される、正規化するステップと、を行うように構成された装置を含む、インビトロアッセイを提供する。
【0027】
したがって、SCFは、対象から得られた血液試料からcfRNA合計を単離することと、[cfRNA]マーカーとして指定される、存在する肝臓マーカー遺伝子のmRNAの量を定量化するために、cfRNA合計の分析を行うことであって、肝臓マーカー遺伝子が、主としてかつ一貫して肝臓内に高レベルで発現される遺伝子として定義される、分析を行うことと、式Aに従ってSCFを決定することと、によって対象について決定され、
【0028】
【0029】
式中、Nは、定量化される肝臓マーカー遺伝子の数に等しい。
【0030】
好適には、肝臓マーカー遺伝子のうちの少なくとも1つは、A1BG(アルファ-1-B糖タンパク質)、AHSG(アルファ-2-HS-糖タンパク質)、ALB(アルブミン)、APOA2(アポリポタンパク質A-II)、C9(補体成分9)、CFHR2(補体因子H関連5)、F2(凝固因子II(トロンビン))、F9(凝固因子IX)、HPX(ヘモペキシン)、SPP2(分泌型リンタンパク質2)、TF(トランスフェリン)、MBL2(マンノース結合レクチン(タンパク質C)2)、SERPINC1(セルピンペプチダーゼ阻害剤、クレードC(抗トロンビン)、メンバー1)、およびFGB(フィブリノーゲンベータ鎖)からなる群から選択される。
【0031】
第3の態様では、本発明は、特定の生体異物化合物に対する個体対象のクリアランスおよび/または代謝能力を特定するための方法であって、
(1)ヒトまたは動物内の特定の生体異物化合物の薬物動態に寄与する少なくとも1つの生体異物クリアランスタンパク質を特定することと、
(2)本明細書に記載されるような方法に従って、対象から得られた液体生検内の少なくとも1つの生体異物クリアランスタンパク質をコードする無細胞RNAの量を定量化することと、
(3)器官内の対応する生体異物クリアランスタンパク質の量について、少なくとも1つの生体異物クリアランスタンパク質をコードする無細胞RNAの量と存在量曲線とを比較することによって、対象の器官内の少なくとも1つの生体異物クリアランスタンパク質の存在量を特定することと、
(4)対象の器官内の少なくとも1つの生体異物クリアランスタンパク質の存在量に基づいて、個体対象のクリアランス能力を特定することと、を含む、方法を提供する。
【0032】
好適には、器官は、肝臓、腎臓、腸、脳、および膵臓からなる群から選択される。典型的には、器官は、肝臓である。
【0033】
本発明の一実施形態によると、存在量曲線は、参照個体からの組織/器官生検と液体生検を含む一致した試料との比較によって作成される。好適には、一致した試料は、同じ個体から得られる。
【0034】
本発明の第4の態様は、特定の生体異物化合物に対する個体対象のクリアランスおよび/または代謝能力をモデル化するためのシステムであって、
対象に関するデータを入力するための入力デバイスと、
本明細書に記載されるような方法を実装するためのプログラム命令を含むコンピュータ可読媒体であって、プログラム命令の実行により、システムの1つ以上のプロセッサが方法のステップを実施する、コンピュータ可読媒体と、
個体に対する特定の生体異物化合物についてのクリアランス能力のモデルを提示すための出力デバイスと、を備える、システムを提供する。
【0035】
本発明の一実施形態では、入力デバイスおよび出力デバイスは、同じデバイスである。任意選択的に、入力デバイスおよび出力デバイスは、ユーザインターフェースデバイスを備える。
【0036】
本発明のさらなる実施形態では、コンピュータ可読媒体は、第1のサーバと共に配置される。一実施形態によると、第1のサーバは、入力デバイスの遠隔に配置される。別の実施形態によると、第1のサーバは、出力デバイスの遠隔に配置される。任意選択的に、第1のサーバは、少なくとも第2のまたはさらなるサーバと通信するように構成される。好適には、少なくとも第2の(またはさらなる)サーバは、少なくとも1つの生理学に基づく薬物動態(PBPK)モデルを含む、追加のモデル化機能を提供する。
【0037】
本発明の第5の態様は、コンピュータサーバであって、
本明細書に記載されるような方法を実装するためのプログラム命令を含むコンピュータ可読媒体であって、プログラム命令の実行により、サーバの1つ以上のプロセッサが方法のステップを実施し、特定の生体異物化合物に対する個体対象のクリアランス能力のインシリコモデルを生成し、モデルが、サーバにホストされる、コンピュータ可読媒体と、
遠隔に配置されたユーザインターフェースデバイスと通信し、それによって遠隔に配置されたユーザがモデルにアクセスすることを可能にするための通信モジュールと、を備える、コンピュータサーバを提供する。
【0038】
本発明の一実施形態では、サーバは、ユーザインターフェースの遠隔に配置される。
【0039】
本発明の第6の態様は、治療を必要とする対象を、特定の医薬組成物または治療組成物で治療する方法であって、
本明細書に記載されるような方法によって、医薬組成物または治療組成物に対する対象についての個別化されたクリアランスおよび/または代謝能力を決定することと、
個別化されたクリアランス能力の決定に基づいて、対象のための最適化された投与計画を作成することと、を含む、方法を提供する。
【0040】
本発明の特徴は、上記で明示的に規定されていないさらなる組み合わせに供され得ることが理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0041】
本発明は、添付の図面を参照することによってさらに例示される。
【0042】
【
図1A】器官(この場合は、肝臓)からのmRNAの脱落の例示を示す。
【
図1B】健康な個体および癌患者からのデータを含む、脱落補正因子を定義するために使用される、循環RNAによって測定される肝臓からの選択されるマーカー遺伝子の発現レベルおよび個体間のばらつきを示す。
【
図2A】脱落補正因子を使用して脱落について補正される癌患者内で測定された4つの酵素の血漿発現レベル、および一致した器官組織(肝臓)内のこれらの酵素の定量化されるタンパク質存在量レベルを示す。
【
図2B】脱落について補正される癌患者内で測定された4つの酵素の血漿発現レベルと、一致した器官組織(肝臓)内のこれらの酵素の定量化されるタンパク質存在量レベルとの相関関係を示す。
【
図3】脱落を補正せずに癌患者内で測定された4つの酵素の血漿発現レベルと、一致した肝臓組織内のこれらの酵素の定量化されるタンパク質存在量レベルの定量化との間の弱い相関関係を示す。
【
図4】コンピュータベースのシミュレーションモデルと組み合わせて対象からの液体生検から得られたデータに基づいて、個体対象のインシリコ仮想ツインモデルを作成する本発明のシステムの実施形態の概略を示す。
【
図5】コンピュータベースのシミュレーションモデルと組み合わせて対象からの液体生検から得られたデータに基づいて、個体対象のインシリコ仮想ツインモデルを作成する本発明のシステムの実施形態の概略を示す。次に、データを使用して、対象に投与される治療的処置のための個別化された投与計画を確立する。
【発明を実施するための形態】
【0043】
別段の指示のない限り、本発明の実施は、化学、コンピュータ科学、統計学、分子生物学、微生物学、組み換えDNA技術、および化学的方法の技法を用いるものであり、これらは当業者の能力の範囲内である。そのような技術は、例えば、T.Cormen,C.Leiserson,R.Rivest,2009,Introduction to Algorithms,3rd Edition,The MIT Press,Cambridge,MA、L.Eriksson,E.Johansson,N.Kettaneh-Wold,J.Trygg,C.Wikstom,S.Wold,Multi-and Megavariate Data Analysis,Part 1,2nd Edition,2006,UMetrics,UMetrics AB,Sweden、M.R.Green,J.Sambrook,2012,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Fourth Edition,Books 1-3,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NY、Ausubel,F.M.et al.(1995 and periodic supplements;Current Protocols in Molecular Biology,ch.9,13,and 16,John Wiley&Sons,New York,N.Y.)、B.Roe,J.Crabtree,and A.Kahn,1996,DNA Isolation and Sequencing:Essential Techniques,John Wiley&Sons、J.M.Polak and James O’D.McGee,1990,In Situ Hybridisation:Principles and Practice,Oxford University Press、M.J.Gait(Editor),1984,Oligonucleotide Synthesis:A Practical Approach,IRL Press、およびD.M.J.Lilley and J.E.Dahlberg,1992,Methods of Enzymology:DNA Structure Part A:Synthesis and Physical Analysis of DNA Methods in Enzymology,Academic Pressなどの文献においても説明されている。これらの一般的なテキストの各々は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0044】
本発明の実施形態は、広範な供給源からのインシリコ、インビトロ、およびインビボ前臨床データをメカニズムベースのモデルと統合して、ヒトまたは動物における薬物の曝露および影響を予期および予測する、モデル化およびシミュレーションベースのアルゴリズムを、関連するハードウェアと一緒に提供する。本アルゴリズムは、経験的かつ記述的なモデルを利用して、薬物または他の生体異物濃度と、薬物クリアランスの様々な体組織、特に、肝臓、腎臓、脳、または腸などの器官内で観察された反応との間の関連を記載する。加えて、本方法および装置は、吸収、分布、代謝、および排泄のデータベースを利用して、健康な個体および病気の個体内の薬物および薬物候補の経口吸収、組織分布、代謝、および排泄のプロセスの「ボトムアップ」メカニズムモデル化およびシミュレーションを行う。
【0045】
本発明を説明する前に、本発明の理解を助けるいくつかの定義を提供する。本明細書で引用される全ての参考文献は、それらの全体が参照により組み込まれる。別段の定義がない限り、本明細書で使用される全ての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解されるものと同じ意味を有する。
【0046】
本明細書で使用される場合、「含む」という用語は、規定される要素のうちのいずれかが必ず含まれ、他の要素も同様に、任意選択的に含まれ得ることを意味する。「本質的に~からなる」は、任意の規定される要素が必ず含まれ、列挙される要素の基本的かつ新規の特性に実質的に影響を及ぼす要素が除外され、他の要素が任意選択的に含まれ得ることを意味する。「からなる」は、列挙される要素以外の全ての要素が除外されることを意味する。これらの用語の各々によって定義される実施形態は、本発明の範囲内である。
【0047】
本明細書で使用される場合、「核酸」という用語は、各ヌクレオチドの3’および5’末端がホスホジエステル結合によって接合された、ヌクレオチドの一本鎖または二本鎖の共有結合配列である。ポリヌクレオチドは、デオキシリボヌクレオチド塩基またはリボヌクレオチド塩基で構成され得る。核酸は、DNAおよびRNA、ゲノムDNA、mRNA、miRNA、tRNA、およびrRNAなどのこれらのサブタイプを含む場合があり、インビトロで合成的に製造され得るか、または天然源から単離され得る。核酸は、改変されたDNAもしくはRNA、例えば、メチル化されたDNAもしくはRNA、または翻訳後改変、例えば、7-メチルグアノシンによる5’キャッピング、切断およびポリアデニル化などの3’プロセシング、ならびにスプライシングを受けたRNAをさらに含み得る。核酸はまた、ヘキシトール核酸(HNA)、シクロヘキセン核酸(CeNA)、トレオース核酸(TNA)、グリセロール核酸(GNA)、ロックド核酸(LNA)、およびペプチド核酸(PNA)などの合成核酸(XNA)も含み得る。本明細書で「ポリヌクレオチド」とも呼ばれる核酸のサイズは、典型的には、二本鎖ポリヌクレオチドの場合は、塩基対の数(bp)として、または一本鎖ポリヌクレオチドの場合は、ヌクレオチドの数(nt)として表される。1000bpまたはntは、1キロベース(kb)に等しい。約40ヌクレオチド長未満のポリヌクレオチドは、典型的には、「オリゴヌクレオチド」と称され、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)などによるDNAの操作に使用されるプライマーを含み得る。
【0048】
本発明の文脈における「アミノ酸」という用語は、その最も広い意味で使用され、天然に存在するLα-アミノ酸または残基を含むことを意味する。本明細書では、天然に存在するアミノ酸に対して一般的に使用される1文字および3文字の略語を使用する:A=Ala、C=Cys、D=Asp、E=Glu、F=Phe、G=Gly、H=His、I=Ile、K=Lys、L=Leu、M=Met、N=Asn、P=Pro、Q=Gln、R=Arg、S=Ser、T=Thr、V=Val、W=Trp、およびY=Tyr(Lehninger,A.L.,(1975)Biochemistry,2d ed.,pp.71-92,Worth Publishers,New York)。一般的な用語である「アミノ酸」には、D-アミノ酸、レトロインベルソアミノ酸、ならびにアミノ酸類似体などの化学的に改変されたアミノ酸、ノルロイシンなどのタンパク質には通常組み込まれない天然に存在するアミノ酸、およびβ-アミノ酸などのアミノ酸に特徴的な特性を有する化学的に合成された化合物がさらに含まれる。例えば、フェニルアラニンまたはプロリンの類似体または模倣体は、天然のPheまたはProと同じペプチド化合物のコンホメーション制限を可能にし、アミノ酸の定義に含まれる。このような類似体および模倣物は、本明細書では、それぞれのアミノ酸の「機能的等価物」と呼ばれる。アミノ酸の他の例は、参照により本明細書に組み込まれる、Roberts and Vellaccio,The Peptides:Analysis,Synthesis,Biology,Gross and Meiehofer,eds.,Vol.5p.341,Academic Press,Inc.,N.Y.1983によって列挙されている。
【0049】
「ポリペプチド」は、天然に、または合成手段によってインビトロで生成されるかどうかにかかわらず、ペプチド結合によって接合されたアミノ酸残基のポリマーである。約12アミノ酸残基長未満のポリペプチドは、典型的には、「ペプチド」と称され、約12~約30アミノ酸残基長のポリペプチドは、「オリゴペプチド」と称され得る。本明細書で使用される場合、「ポリペプチド」という用語は、天然に存在するポリペプチド、前駆体形態、またはプロタンパク質の産物を示す。また、ポリペプチドは、グリコシル化、タンパク質分解切断、脂質化、シグナルペプチド切断、プロペプチド切断、リン酸化などを含み得るが、これらに限定されない、成熟または翻訳後改変プロセスを受ける可能性がある。「タンパク質」という用語は、1つ以上のポリペプチド鎖を含む高分子を指すために本明細書で使用される。
【0050】
本明細書で使用される場合、「バイオマーカー」という用語は、細胞、細胞成分、ペプチド、ポリペプチドタンパク質、ncRNA、ゲノムDNA、代謝産物、サイトカイン、抗原、および多糖類、ならびに細胞数、温度、O2レベル、CO2レベル、またはpHなどの生理学的パラメータを含み得る。バイオマーカーは、生体異物クリアランスに関与していないポリペプチドをコードするmRNAも含み得る。好適には、バイオマーカーは、特徴の組み合わせを含む。
【0051】
「レベル」という用語は、特定の因子の分量または存在量の用語を定義するために本明細書で使用され、モル量もしくは絶対量(すなわち、マイクログラムまたはミリグラムなど)、濃度(例えば、mg ml-1またはmol g-1など)で、かつ/または比活性に関して(例えば、標準アッセイにおける活性の単位)定義され得る。選択される「レベル」は、所与の因子に適切であると認識され、例えば、所与の酵素因子の量をその比活性によって定義することが適切な場合、存在し得るその因子の実際の量(mg/mlで)ではなく、この尺度が選択されることがあり得る。「正常なレベル」という用語は、遺伝子またはポリペプチドの発現レベルの文脈において、本明細書では、健康な非罹患試料内の遺伝子の発現または酵素活性レベルを示すために使用される。正常なレベルの発現または活性は、遺伝子のベースラインまたは対照レベルの発現を表す。過度に高いか、または過度に低いレベルいずれかの細胞内の異常なレベルは、正常ではないとみなされ、細胞が得られた試料内の疾患、例えば、癌の指標となり得る。
【0052】
「対立遺伝子変異体」という用語は、本明細書では、同じ染色体遺伝子座を占め、同じ遺伝特性を制御する遺伝子の任意の2つ以上の代替形態を示すために使用される。対立遺伝子変異体は、突然変異によって天然に発生し、集団内の表現型多型をもたらす可能性がある。遺伝子突然変異は、典型的には、核酸配列の変化をもたらし、場合によっては、ポリペプチド配列の変化ももたらす。本明細書で使用される場合、「対立遺伝子変異体」という用語は、遺伝子の対立遺伝子変異体によってコードされるタンパク質またはポリペプチドを指すために追加的に使用される。
【0053】
「抗体」は、抗原と合わせて抗原に結合することができる抗原に反応して、好ましくは、エピトープとして知られる抗原上の特定の部位で生成されるタンパク質を示す。本明細書で使用される用語は、特に明記しない限り、ポリクローナルおよびモノクローナル起源の抗体を含む。ポリクローナル抗体は、同じ抗原に反応して異なるBリンパ球によって生成される抗体グループであり、グループ内の様々な抗体は、典型的には、抗原の様々な部分(エピトープ)を認識する。モノクローナル抗体は、1種類の抗原のみを認識し、単一の抗体生成リンパ球、典型的にはハイブリドーマの娘細胞によって生成される。「抗体」という用語には、Fab、F(ab’)2、およびFc部分などの断片、ならびに緑色蛍光タンパク質(GFP)を含む標識部分とのキメラ融合などの抗体の誘導体も含まれる。
【0054】
「抗原」は、免疫反応を誘発する分子を示す。抗原は、完全長のポリペプチドまたはタンパク質の形態であってもよい。代替的に、抗原は、そのような断片に対して惹起された抗体が全長ポリペプチドにも結合することを可能にする特定のエピトープを保有するペプチド断片の形態であり得る。
【0055】
「単離された」という用語は、ポリヌクレオチド配列に適用される場合、配列がその起源である天然生物から除去され、したがって、外来のまたは望ましくないコード配列または調節配列を含まないことを意味する。単離された配列は、組み換えDNAプロセスおよび遺伝子操作されたタンパク質合成システム内での使用に好適である。そのような単離された配列は、cDNAおよびゲノムクローンを含む。単離された配列は、タンパク質をコードする配列のみに限定され得るか、またはプロモーターおよび転写ターミネーターなどの5’および3’調節配列を含み得る。
【0056】
「単離された」という用語は、ポリペプチドに適用される場合、その起源の天然微生物から取り出されたポリペプチドである。単離されたポリペプチドは、元の微生物のプロテオームに固有の他のポリペプチドを実質的に含まないことが好ましい。単離されたポリペプチドは、少なくとも95%純粋、より好ましくは、99%超純粋である形態であることが最も好ましい。本発明の文脈において、「単離された」という用語は、天然型、変性型、二量体/多量体、グリコシル化、結晶化、または誘導体化型のいずれであろうと、同じポリペプチドを代替的な物理的形態で含むことを意図する。
【0057】
本明細書で使用される場合、「器官」という用語は、「器官系」と同義語であり、生理学的機能、解剖学的機能、恒常性維持機能、または内分泌機能などの生物学的機能を提供するために、対象の体内で区画化され得る組織および/または細胞型の組み合わせを指す。好適には、器官または器官系は、肝臓、腎臓、脳、もしくは膵臓などの血管新生された内部器官を意味し得るか、または、血液および循環系などの流体器官系を含み得る。典型的には、器官は、少なくとも2つの組織型、および/またはその器官に特徴的な表現型を表す複数の細胞型を含む。
【0058】
「試料」という用語は、診断、分析、または予後の目的で使用され得る生物学的起源の単離された材料を記載するために使用される。生物学的材料は、組織マイクロアレイで、または他のアッセイ方法を介して分析することができ、肝臓、腎臓、脳、心臓、上皮、肺、および骨などの特定の器官からの組織、ならびに他の組織、ならびに全血、血漿、血清、リンパ液、尿、糞便、脳脊髄液、および唾液などの液体材料を含み得る。このような材料には、健康な細胞または罹患した細胞および細胞株-例えば、インビトロでの目的のために操作され得る、癌細胞-例えば、不死化細胞株または人工多能性幹細胞などのインビボおよびインビトロの細胞材料も含まれ得る。これらの材料で分析される高分子には、典型的には、タンパク質などのポリペプチド、ならびにRNA(mRNAを含む)などのポリヌクレオチド、およびDNAが含まれる。「血液試料」という用語は、全血、血漿、血清、赤血球、および/または白血球画分のうちのいずれかまたは全て、ならびに任意の他の血液誘導体を指す場合がある。
【0059】
「ミクロソーム」という用語は、インビトロでの細胞の分裂中に小胞体(ER)が再形成することによって作製される小胞を指し、これらは、他の細胞破片から濃縮および単離され得る。シトクロムP450モノオキシゲナーゼ酵素(CYP)はER内に存在するため、CYPが豊富に含まれる器官組織(例えば、肝臓)などの組織試料から、CYPを含有するミクロソーム調製物を得ることができる。CYPについては、以下でさらに考察する。
【0060】
「微小胞」または「エキソソーム」という用語は、細胞によって、例えば、原形質膜のエキソサイトーシス、出芽、または小疱形成によって、生成または脱落され得る細胞外小胞に関する。アポトーシスによる細胞死も、微小胞の生成につながる可能性がある。微小胞は、間質腔および多くの体液内に見られ、mRNA、miRNA、および/またはタンパク質を含有している可能性がある。細胞間通信の方法は、微小胞輸送に依存し得ると考えられている。エキソソームは、一種の微小胞である。
【0061】
「無細胞核酸」は、DNA、RNA、またはそれらの任意の組み合わせであり得る。核酸は、無細胞DNA(cfDNA)、無細胞RNA(cfRNA)、またはそれらの任意の組み合わせであり得る。無細胞核酸が単離され得る試料は、液体生検を提供することができる任意の体液を含む。液体生検が血液を含む場合、無細胞核酸は、血漿または血清内に配置され得る。
【0062】
本明細書で使用される場合、「薬物代謝酵素」または「薬物クリアランスタンパク質」という語句には、シトクロムP450モノオキシゲナーゼ酵素(CYP)、ならびに膜輸送タンパク質、およびトランスフェラーゼが含まれるだろう。本発明の実施形態では、CYP酵素は、生体異物(例えば、薬物)の代謝およびクリアランスに典型的に関連するCYPファミリーであるヒトCYPファミリー1、2、および3から選択される。好適には、CYPは、CYP1A1、CYP1A2、CYP1B1、CYP2A6、CYP2A7、CYP2A13、CYP2B6、CYP2C8、CYP2C9、CYP2C18、CYP2C19、CYP2D6、CYP2E1、CYP3A4、CYP3A5、およびCYP3A7からなる群から選択されるCYPのうちのいずれか、いくつか、または全てを含み得る。CYPは、ヘモタンパク質、すなわち、ヘム(haem)(またはヘム(heme))を補因子として含有するタンパク質のスーパーファミリーである。これらのタンパク質は、一般にNADPHおよび酸素を含む酸化反応によって、生体異物の代謝に関与している。異なる薬物は、多くの場合、それらの代謝に関与する異なるCYPタンパク質を有し、対応する代謝CYPのための基質である例示的な化合物の選択を、以下に列挙する-このリスト(表A)は非網羅的であると理解されるであろう。
【0063】
【0064】
生体異物分子の代謝に関与する他の非CYPタンパク質には、トランスフェラーゼが含まれ、これは、ドナー分子から特定の基質分子(アクセプター)への官能基の移動を触媒する酵素で、典型的には、薬物または他の生体異物化合物である。薬物代謝に関与するトランスフェラーゼ酵素は、典型的には、グルタチオン、メチル基、アセチル基、硫酸塩、およびアミノ酸などの部分の、薬物または薬物の代謝産物を含み得る基質分子への結合を触媒する酵素である。例示的な薬物代謝トランスフェラーゼは、メチルトランスフェラーゼ;スルホトランスフェラーゼ;N-アセチルトランスフェラーゼ;UGT1A1、UGT1A3、UGT1A4、UGT1A6、UGT1A9、UGT2B4、UGT2B7、UGT2B15、およびUGT2B17からなる群のうちの1つ以上を含むがこれらに限定されない、グルクロノシルトランスフェラーゼ(UDP-グルクロノシルトランスフェラーゼまたはUGT)、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ;ならびにコリンアセチルトランスフェラーゼを含み得る。
【0065】
上記に加えて、膜結合および非膜結合輸送タンパク質もまた、生体異物化合物の取り込みのレベルに影響を与え、したがって、個体の体内での所与の化合物の代謝およびクリアランスのレベルに影響を与える可能性がある。輸送タンパク質は、膜貫通ポンプ、輸送タンパク質、エスコートタンパク質、酸輸送タンパク質、陽イオン輸送タンパク質、小胞輸送タンパク質、および陰イオン輸送タンパク質から選択される群のうちの1つ以上を含み得る。例示的な輸送体タンパク質は、ABCB1/MDR1、ABCB11/BSEP、ABCC2/MRP2、ABCG2/BCRPから選択される群のうちの1つ以上を含むがこれらに限定されない、ATP結合カセット(ABC)輸送体を含む。代替的に、溶質担体(SLC)輸送体には、SLCO1B1/OATP1B1、SLCO1B3/OATP1B3、SLCO1A2/OATP1A2、SLCO2B1/OATP2B1、SLC22A1/OCT1、SLC22A7/OAT2、およびSLC47A1/MATE1からなる群のうちの1つ以上が含まれ得る。
【0066】
本明細書で使用される場合、「器官マーカー遺伝子」または「マーカー遺伝子」という語句は、主として薬物/生体異物クリアランスに関連する器官、好適には肝臓内に、一貫して比較的高いレベルで発現される遺伝子を指す。「比較的高いレベル」とは、所与のマーカー遺伝子の発現プロファイルが、通常は構成的に、容易に検出および定量化可能なレベルで発現されることを意味する。本発明では、循環RNA内で測定されるようなこれらのマーカー遺伝子の量は、特定の個体内で起こる脱落の程度についての指標として使用され得る。したがって、マーカー遺伝子レベルに関するこれらのデータは、器官遺伝子発現の基礎レベルを示す、個体内の脱落の平均ベースラインを決定するための「ベンチマーク」として使用され得る。そのようなデータは、他のmRNA試料レベルと器官内の遺伝子の発現レベルとの相関関係の変動を低減するために使用され得る。好適には、肝臓を示す器官マーカー遺伝子は、A1BG(アルファ-1-B糖タンパク質)、AHSG(アルファ-2-HS-糖タンパク質)、ALB(アルブミン)、APOA2(アポリポタンパク質A-II)、C9(補体成分9)、CFHR2(補体因子H関連5)、F2(凝固因子II(トロンビン))、F9(凝固因子IX)、HPX(ヘモペキシン)、SPP2(分泌型リンタンパク質2)、TF(トランスフェリン)、MBL2(マンノース結合レクチン(タンパク質C)2)、SERPINC1(セルピンペプチダーゼ阻害剤、クレードC(抗トロンビン)、メンバー1)、およびFGB(フィブリノーゲンベータ鎖)のうちのいずれか、いくつか、または全てから選択され得る。前述のリストは網羅的ではなく、複数の代替的な器官または組織特異的マーカー遺伝子が、例えば、それぞれ器官特異的または組織特異的プロテオームから選択され得ることが理解されるであろう。多くの場合、器官特異的マーカー遺伝子は、正常な病理を有する組織内で、経時的に低い変動で比較的一定の発現レベルを示す構成的に発現される遺伝子、例えば、ハウスキーピング遺伝子を含むであろう。器官または組織マーカー遺伝子は、複数のそのような遺伝子を含む「パネル」内に含まれ得る。典型的には、器官/組織マーカー遺伝子のパネルは、一貫して比較的高いレベルで、主として特定の器官内に発現される8個以上、好適には10個以上、任意選択的に12個以上の遺伝子を含むであろう。このようなマーカー遺伝子は、健康な組織または器官に由来し得るか、または罹患組織/器官に由来し得る。本発明の実施形態では、組織は、良性または悪性であり得る新生物組織を含む。
【0067】
本明細書で使用される場合、「脱落」という用語は、肝臓肝細胞などの器官または組織から、体液、微小胞、エキソソーム内に、または別様に、無細胞mRNAとして、細胞によるmRNA放出のプロセスを記載するために使用される。本発明者らは、mRNA脱落が、例えば、疾患状態に応じて、対象間または同じ対象内で大きさが異なり、血液、血漿、または他の試料内に検出された特定のRNAのレベルと、細胞および肝臓などの器官の組織内の同じmRNAのレベルとの間の相関関係に影響を与え得ることを特定した。「RNA脱落」という用語は、同義語として使用される。「脱落係数」、器官「脱落補正因子」または「SCF」は、それらの肝細胞による脱落の量に関連する個体のスケーリング因子を指す。「高速脱落」は、「低速脱落」よりも同じ量の遺伝子発現についてより多くのRNAを脱落させるため、そのような個体についてのSCFは、異なるであろう。SCFは、1つまたは複数の器官マーカー遺伝子、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12個以上の遺伝子からの無細胞RNA(cfRNA)の定量化されるレベルから計算され得ることが企図される。Nマーカーのサブセットを使用する場合、SCFは、以下のように計算され得る。
【0068】
【0069】
薬物動態(PK)は、対象の体内の様々な器官および組織の区画に投与され、これを通過したときに薬物がどうなるかを調べる研究である。薬物の吸収、分布、および排出は、薬物に対する各器官の生物学的作用、薬物のこれらの器官および組織体積(区画)への分配、ならびに血流に部分的に依存する複数の相互作用を受ける。任意の所与の医薬品または他の生体異物化合物の吸収(バイオアベイラビリティの速度および程度)、分布、代謝および排泄(ADME)、ならびに毒性プロファイルは、医薬品での使用が承認される前の主要な安全上の問題なしに効果を達成するために必要な後続の薬力学(体に対する薬物の作用)の重要な決定論的尺度である。
【0070】
ただし、研究および関連するモデルの大部分は、集団全体で集計され、平均反応または層別グループを表す平均での反応に基づく予測モデルおよび仮想シミュレーションにつながる。このアプローチは、集団ベースの薬物動態(popPK)モデル化と呼ばれることがある。popPK方法論は、数学モデルに依存してPKデータを記載する。臨床医および薬物の開発者は、薬物開発の全ての段階で意思決定を導く助けとするためにpopPKモデルを利用することが多い。そのため、製薬業界は、popPKモデルにますます依存するようになり、規制マーケティング承認のためのアプリケーション(すなわち、新薬アプリケーション「NDA」および生物製剤ライセンスアプリケーション「BLA」)を支持する有効性および安全性のデータを作成している。
【0071】
本発明は、部分的には、試料の定量分析および相関関係の確立を介した、生体血液試料などの液体生検内の薬物代謝酵素または薬物クリアランスタンパク質をコードする1つ以上のmRNAのレベルの決定に基づき、これは、これらの決定されたレベルから、器官内の生体異物(例えば、薬物)代謝および/または輸送酵素、ならびに個体の他の組織内の膜輸送体およびトランスフェラーゼ酵素のレベル-または存在量/濃度-までの予測アッセイを提供する。存在量の関係は、1人以上の参照個体からの液体生検および組織生検を含む一致した試料の比較によって作成された、標準化された曲線または対数表を参照することによって補足され得、一般に、一致した試料が同じ個体から得られることが好ましい。
【0072】
個体間の薬物反応のばらつきは、臨床医学において重要な考慮事項である。薬物反応のばらつきの1つの主要な決定因子は、多型および対立遺伝子の変動に起因する肝CYP媒介薬物代謝、ならびに集団間の発現レベルの違いである。他の変動は、膜輸送タンパク質およびトランスフェラーゼ酵素を含む薬物クリアランスに関与する他の重要なタンパク質の多型または発現レベルの違いに起因する可能性がある。したがって、本発明の方法および装置によって作成された分析データは、大幅に改善された個別化された、ならびに集団ベースの薬物動態コンピュータモデルの構築を可能にする重要な利点を提供する。これらのモデルは、改善された臨床治験の設計で使用するか、より優れた投与計画に組み込むか、または個別化医療の選択を予測して通知する際に使用され得る。本発明の様々な実施形態に従って試験または治療される個体は、健康または病気であり、ヒトまたは動物の患者であり得る。獣医学の文脈では、薬物クリアランスモデルは、好適な適応を必要とする場合があるが、本発明の基本的な原理は一貫している。「動物」という用語は、ネコ、イヌ、マウス、モルモット、ウサギ、霊長類、ウマ、ならびにウシ、ブタ、ヒツジ、およびヤギを含む家畜などの哺乳動物を含み得る。
【0073】
本発明の実施形態では、CYP、輸送タンパク質、およびトランスフェラーゼを含む薬物代謝および輸送タンパク質をコードするmRNA(好適には無細胞mRNA)のレベルは、液体生検、好適には血液試料内で測定される。それにより、血液試料内の各mRNAの濃度または量は、mRNAが由来する個体の器官または組織内の薬物クリアランスタンパク質、例えば、酵素または輸送体の量/濃度/存在量と相関する。液体生検内に存在するmRNAの量または濃度に基づく薬物クリアランスタンパク質の量/濃度/存在量の予測は、例えば、較正曲線または対数表を参照することによって行うことができる。
【0074】
しかしながら、血液試料内のバイオマーカー濃度と器官組織内の薬物クリアランスまたは代謝タンパク質のレベルとの間の関係を正確にするために、発明者らは、個体における「脱落」の程度を考慮に入れるべきであることを見出した。このため、試料内の1つ以上の器官または組織に特異的なマーカー遺伝子をコードする無細胞RNAのレベルを定量化すると、バイオマーカーの濃度をスケーリングするために使用され得る対象特異的な脱落補正因子(SCF)が得られ、各対象が実証するRNAの脱落量がどれくらいか、または少ないかを補正することで、SCF補正されたデータが得られることを見出した(以下の実施例を参照)。血液試料内の器官特異的なマーカー遺伝子の定量化は、典型的には、同じ血液試料内の薬物代謝酵素または薬物クリアランスタンパク質のmRNAレベルを決定するために使用されるのと同じ方法によって実施され得る。
【0075】
したがって、RNAプロファイルを使用して仮想システムを較正し、対象の個体についてのベースライン代謝レベルを提供することができる。いったん構成されると、本システムは、その個体の仮想ツインインシリコモデルとして機能し、1つ以上の生体異物化合物による薬物クリアランスについての個体の能力を予測するために試験され得る。本システムは、同じ試料または異なる試料内で見つかったバイオマーカーに由来する情報を加えることによって、かつ/または他の個体特異的な生理学的および/もしくは疫学的情報と共に、さらに精度を向上させることができ、これらの情報は、問診表、面談、医療専門家の分析、医療診断機器による測定、または同様のものによって収集され得る。
【0076】
試料内のバイオマーカーレベルは、高分子マイクロアレイ分析、質量分析(MS)プロテオミクスプロファイリング、定量RT-PCR、ELISAまたは他の抗体ベースのアッセイ、およびクロマトグラフィーまたは分光光度的技術を含む、様々な技術によって決定することができる。
【0077】
血液試料内のRNAレベルは、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)、定量的リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(Q-PCR)、ゲル電気泳動、キャピラリー電気泳動、質量分析、蛍光検出、紫外線分光分析、DNAハイブリダイゼーション、対立遺伝子特異的ポリメラーゼ連鎖反応、ポリメラーゼ循環アセンブリ(polymerase cycling assembly)(PCA)、非対称ポリメラーゼ連鎖反応、線形指数関数後ポリメラーゼ連鎖反応(linear after the exponential polymerase chain reaction)(LATE-PCR)、ヘリカーゼ依存増幅(HDA)、ホットスタートポリメラーゼ連鎖反応、配列間特異的ポリメラーゼ連鎖反応(ISSR)、逆ポリメラーゼ連鎖反応、結紮媒介ポリメラーゼ連鎖反応、メチル化特異的ポリメラーゼ連鎖反応(MSP)、多重ポリメラーゼ連鎖反応、ネスティッドポリメラーゼ連鎖反応、固相ポリメラーゼ連鎖反応、またはそれらの任意の組み合わせを含むがこれらに限定されない、様々な方法によって検出することができる。RNAは、上記と任意に組み合わせて分析する前に、cDNAを生成するための任意の好適な手段によって逆転写され得る。RNAレベルは、核酸ハイブリダイゼーションアレイまたはリアルタイムPCRを使用することによって決定され得る。
【0078】
DNAアレイは、遺伝子特異的核酸の集積が、定義された場所に置かれた固形支持体である。アレイ分析では、核酸を含有する試料を標識し、次に、アレイ上の遺伝子特異的標的とハイブリダイズさせる。アレイ上の標的にハイブリダイズした試料からの核酸の量に基づいて、試料の特定の核酸組成に関する情報が得られる。本発明によるアレイ分析は、細胞または微小胞材料を含む試料から全RNAを単離すること、逆転写ステップを介してRNA試料を標識cDNAに変換すること、標識cDNAを同一のアレイに(ナイロン膜またはガラススライド固形支持体のいずれかなどを介して)ハイブリダイズすること、ハイブリダイズしていないcDNAを除去すること、ハイブリダイズしたcDNAを検出および定量化すること、および様々な試料から定量的データ(例えば、存在するバイオマーカーのレベル)を決定すること、を伴う。
【0079】
リアルタイムまたは定量的PCRは、PCR反応中にヌクレオチド試料の複製をリアルタイムで監視する方法を指す。通常の成分と同様に、反応混合物は、任意の二本鎖ヌクレオチド配列または特に選択される相補的配列にハイブリダイズし得る蛍光プローブを含む。したがって、蛍光プローブからのシグナルは、反応中に生成された標的配列の数と相関し、元の試料内の標的配列の分量を決定するために使用され得る。
【0080】
試料内のRNAレベルの分析(例えば、RNAの定量化)により、シミュレーションアルゴリズムについての一般的な設定(標準ベースライン設定)を調整して、個体対象の設定に対応させることができる。この点に関して、本発明の方法は、個体について作成されたバイオマーカープロファイルの決定を、肝臓、腎臓、または腸などの当該個体の組織内の、標的細胞の表面上の薬物代謝、輸送、およびクリアランスタンパク質の対応するレベルと相関させることを可能にする。このステップは、定義された相関関数またはアルゴリズムを介して個体の組織内の薬物代謝、輸送、およびクリアランスタンパク質または酵素の少なくとも1つのレベルと相関する、個体からの試料内の少なくとも1つのバイオマーカーのレベル(濃度/量/活性を含む)を定量化することを含む。したがって、本発明によるモデルは、試料からのバイオマーカープロファイルの形態の第1の入力データと、個体の組織内の薬物代謝、輸送、およびクリアランスタンパク質または酵素の活性/濃度/量レベルとの間の相関関係を決定することができる。これにより、個体の組織内の薬物代謝、輸送、およびクリアランスタンパク質または酵素の相関(または予測)レベルと一緒に、元の試料からのベースラインバイオマーカーデータを含む拡張プロファイルを生成することができる。拡張された第1の入力データを使用して、個体の組織内の薬物代謝、輸送、およびクリアランスタンパク質または酵素のベースラインレベルの点で、任意選択的に、対立遺伝子変異、および特定の遺伝子が所与の集団内の平均(すなわち、平均または中央値)レベルと比較して上方または下方制御されているかどうかを含む、遺伝子同一性および発現データと組み合わせて、本発明のシミュレーションモデルについての開始点を定義する。本明細書で使用される場合、「下方制御された」という用語は、1つ以上の遺伝子および/またはそれらの遺伝子によってコードされるタンパク質の発現の低下をもたらすプロセスを示す。「上方制御された」は、遺伝子発現および対応するタンパク質発現の増加を示す。
【0081】
追加の因子が、薬物反応に影響を与える可能性がある。これらの特徴は、薬物代謝酵素または薬物クリアランスタンパク質をコードする1つ以上のmRNAの決定のために使用される液体生検試料と同じまたは異なる試料であり得る、試料内のバイオマーカーの測定値によって決定され得る。例えば、CYP、輸送体遺伝子、もしくはトランスフェラーゼ、または任意の他の関連する遺伝子の対立遺伝子変異は、液体生検試料またはいくつかの生物学的試料のうちのいずれかから単離されたゲノムDNAから決定され得る。これには、イントロンデータ、エピジェネティックな情報、ならびにプロモーター、リプレッサーなどのゲノム調節機能の存在および活性など、mRNA配列からは導き出せない情報が含まれる場合がある。
【0082】
薬物反応の決定にも関連している可能性のある非遺伝子発現パラメータには、1つ以上の液体生検試料内のバイオマーカーの測定によって決定され得るパラメータ、ならびに/または他の手段によって回収された生理学的および疫学的情報を含み得る。本発明の任意の態様のいくつかの実施形態では、1つ以上の非遺伝子発現パラメータは、民族性、遺伝子型、年齢、年齢層分類、性別、喫煙状況、腎障害、糖尿病(I型またはII型)、もしくは肝硬変を含む慢性疾患の存在、ボディマス指数(BMI)、体脂肪指数(BAI)もしくは体脂肪含有量の他の同等の測定値、胴囲測定値、ウエストとヒップとの比率、静水圧加重、平均アルコール消費量、妊娠、アレルギー状態、血圧、全血中脂質(例えば、コレステロール)、平均安静時心拍、QT間隔、QRS持続期間、およびPR間隔を含むECG間隔測定値、一般的な病歴、家族の病歴、またはそれらの組み合わせからなる群から選択され得る。そのような追加のパラメータを使用して、本発明によって生成される任意のモデル、アルゴリズム、シミュレーション、または予測の精度をさらに向上させて、正確性を改善することができる。
【0083】
いくつかの態様では、本発明は、特定の個体対象について、薬物代謝、特に薬物分布およびクリアランスの堅牢なコンピュータ(インシリコ)予測モデルを構築するために使用される方法を提供する。このようにして、薬物クリアランスのコンピュータベースのモデルを、単純な血液試験後に任意の所与の個体に一致させることができ、それによって、所与の薬物、生体異物、または薬物もしくは生体遺物の組み合わせを代謝および/またはクリアする個体の能力の正確な個別の予測を提供する。いわゆる仮想ツインモデルは、例えば、臨床医、学者、患者、および製薬研究者によって利用され得るコンピュータ実装システムに組み込まれている。
【0084】
本発明の一実施形態によると、本方法は、個体から液体生検試料を得るステップを含む。液体生検は、好適には、血液、尿、唾液、精液、涙、リンパ液、糞便、または粘液分泌物のうちのいずれか1つ以上などの体液を含み得る。この試料は、最小侵襲性の経路を介して取得することができ、血漿、血清、または他の試料などの血液成分を全血液体生検試料から抽出することを含み得る。試料を定量的に分析して、当該個体の循環mRNAのプロファイルを導き出すために、薬物代謝酵素または薬物クリアランスタンパク質をコードする1つ以上の、典型的には複数のmRNAのレベルを決定する。また、試料を分析して、対象特異的な器官脱落補正因子(SCF)を得るために、試料内の1つ以上の器官特異的マーカー遺伝子のレベルを決定する。SCFを使用して、器官から脱落する循環mRNAの速度または量についてのベースラインを提供し、したがって、SCFを使用して、個体の循環mRNAのプロファイルを補正する。
【0085】
補正されたプロファイルは、第1の入力データを定義し、次に、第1の入力データを使用して、薬物クリアランスのコンピュータベースのモデルを較正する。それにより、較正ステップは、薬物クリアランスの個体モデルの作成を可能にする。この個体モデルは、特定の生体異物もしくは医薬化合物、またはそれらの組み合わせについて、薬物代謝およびクリアランスの薬物動態および薬力学を正確に予測する。したがって、本発明は、特定の対象についての個体の薬物動態をシミュレートする堅牢なモデルを提供する。
【0086】
いくつかの実施形態では、本方法は、試料を定量的に分析して、当該個体のバイオマーカー(複数可)のプロファイルを導き出すために、試料内に存在する1つ以上の、典型的には複数のバイオマーカーのレベルを決定することをさらに含む。試料は、循環RNAを決定するための試料と同じであっても異なっていてもよく、このように、個体から第2の生物学的試料を得るステップをさらに含み得る。試料は、任意の好適な方法で得られ得るが、血液、頬スワブ、唾液、糞便、または尿試料などの最小侵襲性の経路を介して再度得られ得る。プロファイルは、バイオマーカー入力データを定義し、次に、そのバイオマーカー入力データを使用して、薬物クリアランスのコンピュータベースのモデルをさらに較正する。
【0087】
いくつかの実施形態では、試料のバイオマーカーから導き出せない非遺伝子発現データを得るための生理学的および/または疫学的情報は、当該個体の生理学的および/または疫学的プロファイルを導き出すために、個体から得られ得る。そのような情報には、民族性、遺伝子型、年齢、性別、喫煙状況、ボディマス指数(BMI)、体脂肪指数(BAI)もしくは体脂肪含有量の他の同等の測定値、胴囲測定値、ウエストとヒップとの比率、アレルギー状態、血圧、平均安静時心拍、QT間隔、QRS持続期間、およびPR間隔を含むECG間隔測定値、一般的な病歴、家族の病歴、またはそれらの組み合わせが含まれ得る。プロファイルは、個別の入力データを定義し、次に、これを使用してコンピュータベースの薬物クリアランスモデルをさらに較正する。
【0088】
本発明の仮想シミュレータは、所与の個体における薬物動態学的結果、薬物間相互作用(いわゆるDDI)、および組織特異的反応を分析するための洗練されたプラットフォームを提供し、結果として包括的な生理学に基づく薬物動態(PBPK)モデルをもたらす。PBPKモデルは、器官系内の様々な組織機能および細胞型を表すネスト型区画を含み得る。組み立てると、階層的な複雑さのレベルにより、特定の代謝経路などの分子駆動イベントのモデル化が可能になる。区画(すなわち、器官系)を連結する血流および分配係数は、一緒に数学的に、動物、インビトロデータ、および臨床データから推定される。次に、パラメータおよび区画を最適化して、モデルを既存のデータに適合させる。
【0089】
したがって、本発明は、主に集団レベル、動物、またはインビトロベースの反応に基づく従来技術のモデル化システムを超える大きな利点および強化を提供する。対照的に、特定の実施形態によると、本発明は、個体についての「仮想ツイン」とも呼ばれる仮想模倣物を提供する。この仮想ツインは、所与の個体についての完全に個別化されたPBPKモデルを表すように構成されたインシリコモデルを表す場合がある。モデルは、上記に記載の生理学的および/または疫学的情報、遺伝子型、ならびにSCFを含む、様々な供給源からの複数のデータ入力の統合を表す場合がある。このアプローチは、個別化医療ソリューションの成長、投与計画の改善された設計、および薬物、生体異物、またはそれらの組み合わせが投与される前の潜在的に有害な副作用の特定を容易にする。加えて、本発明は、例えば、血液内に存在する循環RNAのレベルと、その個体の肝臓などの組織内の薬物代謝、輸送、およびクリアランスタンパク質のレベル(例えば、存在量)との間の直接的な相関関係を提供し得る。以前のアプローチは、mRNAおよび/またはバイオマーカーのレベルを特定のプローブ化合物に対する酵素活性の推定値と相関させることだけを目的としており、その結果、記載されている非常に限定されたプローブ酵素系以外の有用性を見つけるのに苦労していた。
【0090】
仮想シミュレータには、インビトロからインビボのへの外挿(IVIVE)アプローチを組み込んで、モデルにさらに情報を提供することもできる。IVIVEアプローチは、機械的および生理学に基づく薬物動態(PBPK)モデルを構築することによって、仮想集団を確立する。これらのモデルは、薬物特異的な物理化学的特性(例えば、水性および脂質溶解度)に連結された人口統計学的および生物学的(遺伝的および環境的)要素における特定されたばらつきと、吸収、代謝、および輸送に関するインビトロデータと、を組み込んでいる。このようなモデルに埋め込まれた共変量の関係は、複雑で非線形になる可能性があり、単純な線形共変量分析では解決が困難になる可能性がある。IVIVEアプローチの主な利点は、創薬および前臨床開発中に以前に作成された全てのインビトロ情報の価値を最大化することである。
【0091】
本発明の実施形態のアルゴリズムは、データ対またはデータクラスタさえも含むSCF補正された入力データの考慮事項を含み得る。好適には、薬物クリアランス遺伝子についての遺伝子発現データなどのmRNA分析に由来するデータは、1つ以上の生物学的試料で検出されたバイオマーカーの分析に由来し得る、1つ以上の追加の遺伝子および非遺伝子発現パラメータを介してさらに分類され得る。非遺伝子発現パラメータには、生理学的および疫学的情報が含まれる場合がある。本発明の任意の態様のいくつかの実施形態では、1つ以上の非遺伝子発現パラメータは、民族性、遺伝子型、年齢、年齢層分類、性別、喫煙状況、腎障害、糖尿病、もしくは肝硬変を含む慢性疾患の存在、ボディマス指数(BMI)、体脂肪指数(BAI)もしくは体脂肪含有量の他の同等の測定値、胴囲測定値、ウエストとヒップとの比率、静水圧加重、平均アルコール消費量、妊娠、アレルギー状態、血圧、全血中脂質(例えば、コレステロール)、平均安静時心拍、QT間隔、QRS持続期間、およびPR間隔を含むECG間隔測定値、またはそれらの組み合わせからなる群から選択され得る。
【0092】
本発明の特定の実施形態では、記載された方法は、1つ以上のコンピュータシステムを介して実施され得る。さらなる実施形態によると、1つ以上のメモリおよび1つ以上のプロセッサを備える装置を提供し、1つ以上のメモリおよび1つ以上のプロセッサは、互いに電子通信し、1つ以上のメモリは、本発明の記載された方法を実装するための一連の命令を有形的にコードする。別の実施形態では、本発明は、本発明の方法を実装するためのプログラム命令を含むコンピュータ可読媒体を提供し、コンピュータシステムの1つ以上のプロセッサによるプログラム命令の実行により、1つ以上のプロセッサが本明細書に記載されるようなステップを実施する。好適には、データは、データベースに記憶され、サーバを介してアクセスされ得る。好適には、サーバは、情報を送受信するための通信モジュールと、本明細書に記載のステップを実施するための処理モジュールと、を備えている。いくつかの実施形態では、データは、クラウドサービスを介して提供される。好ましい実施形態では、本方法は、ウェブサービスとしてアクセス可能である。いくつかの実施形態では、ユーザは、ブラウザで、ウェブサイトを介してスコアの記録または検索のためにサービスにアクセスすることができる。コンピュータのネットワーキングにより、本発明の様々な態様を行い、記憶し、ローカルおよび遠隔サイトで1つ以上のコンピュータシステム間で共有することができる。したがって、2つ以上のコンピュータシステムは、有線または無線手段を使用して連結され得、互いにまたは他のコンピュータシステムと直接、かつ/またはインターネットなどの公的に利用可能なネットワーキングシステムを使用して通信し得る。
【0093】
好適には、コンピュータシステムは、少なくとも、入力デバイス、出力デバイス、記憶媒体、およびマイクロプロセッサを含む。可能な入力デバイスには、キーボード、コンピュータマウス、タッチスクリーンなどが含まれる。出力デバイスには、コンピュータモニター、液晶ディスプレイ(LCD)、発光ダイオード(LEDまたはOLED)のコンピュータモニター、仮想現実(VR)ヘッドセットなどが含まれる。加えて、情報は、ユーザ、ユーザインターフェースデバイス(例えば、タブレットPC、携帯電話)、コンピュータ可読記憶媒体、または別のローカルコンピュータもしくはネットワークコンピュータに出力することができる。記憶媒体には、ハードディスク、RAM、フラッシュメモリ、および他の磁気、光学、物理、または電子メモリデバイスなどの様々な種類のメモリが含まれる。マイクロプロセッサは、計算を実行し、データの入力、出力、計算、および表示を行うための他の機能を指示するためのコンピュータマイクロプロセッサ(例えば、CPU)である。本発明の一実施形態では、コンピュータプロセッサは、人工ニューラルネットワーク(ANN)を含み得る。本発明のさらなる実施形態では、コンピュータプロセッサは、機械学習アルゴリズム、好適には、適切なデータセットに対して訓練された機械学習アルゴリズムを含み得る。
【0094】
本発明のシミュレーションプラットフォームは、2つの主要なクラスのデータを組み合わせることによって、薬力学的および薬物動態学的反応の正確なインシリコシミュレーションを可能にする。第1のクラスのデータは、薬物クリアランスタンパク質についてのmRNA発現の形式で補正された第1の入力データ、個体に関連する補正(SCF補正など)および拡張された情報(上記に記載されるように)である。第2のクラスのデータは、「第2の入力データ」と呼ばれ、試験下の薬物、化合物、または物質の特定に関連する。薬物間相互作用(DDI)が考慮下にある場合、複数の第2の入力データが存在する可能性がある。これらの2種類のデータは、XMLベースのファイル形式内で便利に記憶することができ、これは、システムのグラフィカルユーザインターフェース(GUI)ならびにMicrosoft Edge(商標)(Microsoft Corp.,Redmond(WA),USA)またはGoogle Chrome(Google LLC,Mountain View(CA),USA)などの他のツールを介して視認およびアクセスされ得る。これらのファイルのスキーマは、将来のリリースバージョンおよび新しいパラメータを既存のものを破壊することなく加えることができるように、経時的なファイルの上位互換性を可能にするように設計されている。これにより、現在のバージョンのシミュレータで作成されたファイルがリリースされたときに、それ以降のバージョンで使用することができ、任意の欠落している可能性のある値がデフォルト値に自動的に置き換えられる。ファイルには、ファイルの作成に使用されたソフトウェアバージョンを含む様々な情報を示す、ある程度のメタデータが含まれている場合がある。
【0095】
補正された第1の入力データおよび第2の入力データは、所与の個体についての薬物クリアランスのシミュレーションを開始するためのベースライン情報を提供する。しかしながら、治験を実施する状況に関する文脈情報を提供するワークスペースを作成することも必要または望ましい場合がある。ワークスペースファイルは、XMLベースであり場合もあるが、ただし、今回は、第1および第2の入力データ、ならびに任意の治験/シミュレーション情報およびユーザ定義の設定のためのコンテナとして機能する。ワークスペースは、任意のシミュレーションの実行状態のスナップショットとしても使用され得る。換言すると、任意のシミュレーションを正確に再現するために必要なのは、シミュレーションの実行時に取得されたワークスペースのコピーだけである。
【0096】
本発明のシミュレーションアルゴリズムは、以下を含む多数の薬物動態(PK)モデルの組み合わせを処理する。
(1)単一(小分子および大分子)または複数の化学部分の投与、
(2)異なる吸収モデル、すなわち、1区画の強化された区画吸収および輸送(CAT)、ならびに高度な溶解、吸収、および代謝(ADAM)モデル、
(3)複数区画器官、腎臓、血液脳関門、腸管分解モデル、および追加の複数区画ユーザ定義器官/組織を含む、異なる灌流および透過率が制限されたモデルを有する最小および完全PBPKモデルなどの異なる分布モデル、ならびに
(4)複数の代謝物のモデル化。
【0097】
本発明の一実施形態によると、PBPKモデルアルゴリズムは、常微分方程式(ODE)を使用して構築される(例えば、Jamei M,Marciniak S,Feng K,Barnett A,Tucker G,Rostami-Hodjegan A,Expert Opin Drug Metab Toxicol.2009 Feb;5(2):211-23)。
【0098】
本発明の方法は、薬物クリアランスタンパク質の存在量が個体間でどのように異なり得るかについてのより良い理解を提供することによって、PBPKモデルの構築の改善に寄与するのに特に有用である。したがって、本発明は、一実施形態では、個体からの、または個体の集団からの累積データが提供されるときに、所与の生体異物分子(例えば、薬物または生物学的治療薬)のクリアランスを決定するためのコンピュータベースのモデルを作成するための改善された方法を提供する。液体生検の容易さは、固形組織生検の試料採取よりもはるかに侵襲性が低く、薬剤開発および臨床治験設計における有用性を示すコンピュータモデルの構築の改善に貢献する主要な因子である。また、非限定的な例として、新生児および小児科などの異なるコホートで、ならびに民族的に異なるより小さな集団で、またはまれな疾患に対して使用するための新しいモデルを作成することもできる。
【0099】
個体の特定の薬物への曝露は、濃度時間曲線(AUC)の下の面積によって測定され得る。任意の非経口経路(経口用量など)を通した投与後のAUCは、吸収され、その後、体循環で利用可能な用量の割合に依存する。経口薬物投与(薬物摂取のための最も一般的な経路)の場合、これは、製剤からの薬物の放出、腸壁の通過、次に、肝臓の通過を伴う。クリアランス(CL)および薬物の用量(D)と一緒に、薬物(F)のバイオアベイラビリティは、以下の式1に従って全体的な曝露(AUC)を決定するであろう。
【0100】
【0101】
合計クリアランス(CL)は、単位時間あたりに薬物が完全にクリアされた血液の体積として定義され、肝臓、腎臓、胆汁排泄(腸からの再吸収がない場合)によるクリアランスを含む。薬物への曝露は、用量、クリアランス、およびバイオアベイラビリティによってのみ決定されるが、侵入速度(吸収速度、注入速度など)および排出速度が変更されると、所与の曝露に対して様々な形状の濃度-時間プロファイルが発生する可能性がある。排出速度は、クリアランスおよび分布特性の関数である。
【0102】
現在市販されている薬物の大部分は親油性であるため、代謝は、体から排出される主要な経路である。全体的な代謝クリアランスは、通常、器官の単純な一次関数ではないが、代謝部位への遊離薬物の送達にも依存していることが留意されるべきである。例として、肝クリアランス、分布、および代謝は、肝血流、血漿タンパク質、および赤血球結合などの因子、ならびに肝細胞への流入または肝細胞からの流出の影響によって決定され得る。インビボの内因性器官クリアランスは、培養中のヒト肝ミクロソーム/エキソソームまたはヒト肝細胞を使用したインビトロモデルから推定されている。ただし、器官全体またはさらには全身クリアランスを決定するには、異なる器官および組織内の複数の薬物クリアランス/代謝酵素および輸送体について固有のクリアランス速度の組み合わせが必要である。個体ごとに、これらの酵素のレベルは変化するため、その個体に対するクリアランスのレベルは異なる。
【0103】
組み換え発現されたCYP酵素で得られたデータから、肝臓全体(CLuH,int)による全体の正味内因性代謝クリアランスを推定する式は、以下の式2によって与えられる。
【0104】
【0105】
式中、j CYPの各々についてi代謝経路があり、rhは、組み換え発現酵素を示し、Vmaxは、個体のCYPによる代謝の最大速度であり、Kmは、ミカエリス定数であり、MPPGLは、肝臓のグラムあたりのミクロソームタンパク質の量であり、ISEFは、組み換えシステムと肝酵素との間の酵素の単位あたりの活性の任意の差を補償するスケーリング因子である。この式は、いくつかの重要なパラメータにばらつきを組み込むことによって、肝内因性クリアランスの個体間のばらつきを導入することができることを示している。このモデルに影響を与える重要なパラメータの1つは、個体の各CYPの肝臓存在量(例えば、レベル)である。MPPGLおよび肝重量などの他のパラメータは、個体の身長、体重、および年齢に基づいて推定することができる。ただし、CYPの存在量に起因する代謝の違い、ならびに様々な遺伝子型の頻度を把握し、酵素の存在量または固有の酵素活性のいずれかを改変することによって対応することができる機能的な遺伝的多型がある。CYPなどの異なる薬物クリアランスタンパク質の存在量および/または活性の変化に関するデータは、個体の肝クリアランスを予測するために、本発明の仮想モデルに組み込まれる。
【0106】
したがって、本発明の実施形態の仮想インシリコモデルは、薬物代謝/クリアランス、および関係する個体の組織内の薬物代謝/クリアランスに関連する個体間のばらつきに関するインビトロデータを組み込むことができるアルゴリズムを含む。任意選択的に、本発明の仮想モデルは、相対成長スケーリングモデルをさらに組み込むことができる。相対成長スケーリング方法論は、体のサイズをスケーリングすることによって、動物種で観察されたものからヒトの平均クリアランス値を予測しようと試みる。相対成長スケーリングに加えてIVIVEを組み込んだアプローチを使用すると、クリアランスにおける可能性のある個体の対立遺伝子のばらつきを評価することができるという追加の利点がある。例えば、CYP酵素のいくつかの対立遺伝子変異は、野生型と比較して触媒活性の低下を示し、したがって、個体の特定の遺伝子型についての知識があれば、動態に関するインビトロデータを使用してインビボのクリアランスを推定することができる。
【0107】
したがって、本発明の実施形態の仮想モデルに酵素阻害定数(競合的または非競合的阻害)に関するインビトロ情報を組み込むことによって、任意の所与の個体についてのインビボでの代謝薬物間相互作用(mDDI)の程度を予測することが可能である。
【0108】
個体についての正確なクリアランスおよび/または代謝能力値を提供するシミュレータを作成するには、とりわけ、器官のサイズ、特定の酵素の遺伝子型、腎機能などの複数のパラメータを考慮する必要がある。しかしながら、極めて重要なのは、存在する薬物クリアランスタンパク質に対する所与の生体異物化合物(例えば、薬物)の親和性、および生体異物化合物の各分子を処理する際のタンパク質の各分子の効率である。この関係は、Kcatとして記載され、所与の酵素による薬物の内因性クリアランスに基づいている。例として、以前に記載されているように、特定の薬物は、特定のCYP、トランスフェラーゼによって代謝され、特定の膜輸送体、ならびにこれらの薬物クリアランスタンパク質の特定の組み合わせを通して機能する。所与の薬物を用いる各CYPまたはトランスフェラーゼについてのKcatは、任意の医薬化合物の臨床治験中に確認される重要な決定因子である。したがって、Kcatおよび/またはCLintが全ての最新の薬物開発プログラムで決定される重要なパラメータである場合、肝臓などの個体の器官内の関連薬物クリアランスタンパク質の存在量を推定することによって、その個体内のその薬物のクリアランスを予測することができる。本発明の一実施形態の仮想シミュレータは、様々なクリアランスを合計し、それらを器官の適切なモデルに通すことによって動作し、とりわけ、血流の制限および器官への血液中の遊離薬物濃度の利用可能性を考慮する。そのようなモデルを作成する以前の試みは、典型的には、一致しない試料または文献参照集団平均レベルの存在量に基づく活性の推定値に依存していたため、成功率が低くなった。
【0109】
したがって、本発明の特定の実施形態では、医薬化合物または生物学的治療剤を含む薬物の対象への投与に関連するパラメータが化合物または薬剤に対するその個体のクリアランス能力と併せて決定される、投与計画を提供する。より具体的には、液体生検を対象から得て、cfRNA合計分析を行い得る。cfRNA合計分析から、対象についてのSCFを決定することができる。PBPKおよびpopPKクリアランスモデルは、承認された幅広い範囲の医薬化合物および化合物クラスについて理解されている。特に、ほとんどの化合物および薬剤のクリアランスに関連する特定の薬物代謝CYP、トランスフェラーゼ、および輸送体など、したがって、所与の薬物に対する[cfRNA]標的を構成する1つ以上のクリアランスタンパク質を特定することができる。特定のクリアランスタンパク質(複数可)の正規化された[cfRNA]標的は、cfRNA合計から決定することができ、それによって所与の個体の関連する器官内の特定のクリアランスタンパク質(複数可)の存在量を確認することができる。投与される予定の医薬化合物または生物学的治療剤に関して任意の所与の個体についてこの種類の情報を有することにより、特定の薬物についてその個体のために正確な投薬計画を策定することが可能になることが理解されるであろう。
【0110】
本発明のさらなる実施形態では、個体対象は、おそらく併用療法または別様の結果として、2つ以上の医薬化合物または生物学的治療剤のレシピエントであり得、この場合、有害なDDIのリスクが存在する。したがって、投与された各治療剤の個体対象のクリアランスおよび/または代謝能力は、上記に記載されているように決定され得、次に、既存のシミュレーションモデルと組み合わされて、クリアランス能力およびDDIリスクの両方の予測を提供し得る。リスク予測およびクリアランス能力を使用して、個体についての投与計画の決定を通知する。クリアランス能力を解明し、これを洗練されたPBPK、PKPD、およびDDIモデルに組み込む機能により、患者レベルでの正確な投薬が可能になり、これが、望ましくない副作用、過剰投薬または過少投薬を低減し、薬物のバイオアベイラビリティを向上させ、薬物送達がより最適化される。その結果生じる健康経済への影響は、薬物消費の最適化および集団全体にわたる悪影響の低減の結果として深遠である。
【0111】
本発明のモデル化システムからの出力データの報告は、GUIを介して、またはMicrosoft Excel(商標)(Microsoft Corp.,Redmond(WA),USA)またはGoogle Sheet(Google LLC.,Mountain View(CA),USA)などの.csvファイルもしくはスプレッドシートを含み得る出力ファイルを介して達成され得る。非限定的な例として、Officeオブジェクトモデルに基づくExcelオートメーションインターフェースを通してレポートプロセスが実装される。シミュレーションプラットフォームは、このテクノロジを使用して、Excelアプリケーションのコンポーネントオブジェクトモデル(COM)オブジェクトを作成するか、またはこれに接続し、必要に応じてワークシートを操作し加える。各ワークシートは、シミュレーション入力の選択に基づく特注の出力であり、各セルは、フォント(サイズおよび重量を含む)、色(前景および背景の両方)、セル内のテキストの整列、数値形式(ユーザの機械の選択に基づく)、ならびに他の多くの仕様の選択により個別に効率的に作成される。
【0112】
出力データがレンダリングされた後、必要に応じて、ダッシュボード、チャート、ピクトグラム、グラフなどのグラフィック表現が加えられる。これらには、濃度時間プロファイル、または、例えば、ワークシート内に含まれる出力データに基づいて作成され、データを表示する前に選択される、数値形式、ダッシュボードの配列、さらには色「肌」などのユーザの選択に基づいて個別にフォーマットされた、酵素寄与の円グラフが含まれ得る。
【0113】
本発明の代替的な実施形態では、出力データは、関係データベース内に含まれる。この実施形態の利点は、シミュレータのアルゴリズムが、例えば、企業のデータベースに直接書き込むことができるため、組織のワークフローの一部として含まれる可能性があることである。これにより、フォーマットおよび視覚化、ならびにデータ分析をユーザがカスタマイズすることができる。
【0114】
本発明の実施形態は、本発明の少なくとも1つの実施形態を好適に実装することができる一連の動作など、本明細書で定義されるような一連の動作を行うための装置またはデバイスにも関し得る。本装置は、必要な目的のために特別に構築される場合があり、かつ/またはそれは、コンピュータ内に記憶されたコンピュータプログラムによって選択的にアクティブ化または再構成される汎用コンピューティングデバイスを備え得る。そのようなコンピュータプログラムは、非一時的で有形のコンピュータ可読記憶媒体、またはコンピュータシステムバスに連結され得る電子命令を記憶するのに好適な任意の種類の媒体に記憶され得る。さらに、本明細書で言及されるいかなるコンピューティングシステムも、単一のプロセッサを含み得るか、または増大したコンピューティング能力のために複数のプロセッサ設計を用いるアーキテクチャであり得る。
【0115】
本明細書に記載のステップ、動作、方法、またはプロセスのうちのいずれかも、単独で、または他のデバイスと組み合わせて、1つ以上のハードウェアまたはソフトウェアモジュールで行われ得るか、または実装され得る。一実施形態では、ソフトウェアモジュールは、記載されたステップ、動作、方法、またはプロセスのうちのいずれかまたは全てを行うためのコンピュータプロセッサによって実行され得るコンピュータプログラムコードを含むコンピュータ可読媒体を含むコンピュータプログラム製品で実装される。
【0116】
本発明の実施形態は、本明細書に記載のコンピューティングプロセスによって生成される製品にも関し得る。そのような製品は、コンピューティングプロセスから得られる情報を含む場合があり、情報は、非一時的で有形のコンピュータ可読記憶媒体に記憶され、コンピュータプログラム製品または本明細書に記載の他のデータの組み合わせの任意の実施形態を含み得る。
【0117】
図4に記載される一実施形態は、健康な個体または治療を必要とする患者であり得る対象20における薬物代謝および/またはクリアランスの仮想モデル(例えば、PBPKモデル)の作成のためのシステムを提供する。対象20は、示されるように試験施設10に直接出向き得るか、または自宅から、野外で、または医療センター、医師の手術、もしくは病院などの臨床環境で試験され得る。便宜上、本システムは、試験施設10内で発生するものとして示されているが、これは非限定的であることが理解される。液体生検21は、個体対象20から採取される。生検21は、典型的には、血液の試料を含むが、無細胞器官mRNAを含む任意の大部分が液体の試料材料を含み得る。液体生検21は、自動化されたRNAomics分析30に供される。この場合も、便宜上、分析は、試験施設10内で行われるように示されているが、分析サービスを介した遠隔試験も可能であることが理解されるであろう。分析30の結果は、直接またはクラウド40のいずれかを介して1つ以上の遠隔サーバ50に安全に通信される。サーバ50は、対象20の器官(複数可)内の生体異物(例えば、薬物)代謝および/または輸送酵素のレベル(または存在量)を確立する生検21の定量的出力を提供するために、前述の方法に従って計算分析を行い得る。サーバ50は、追加のインシリコモデル化能力(PBPKモデル化など、例えば、SimCyp(商標)シミュレータ:www.certara.com)をホストするさらなるサーバ60、61と通信して、対象20のより洗練された仮想モデル71の作成を可能にし得る。このモデル71と1つ以上のユーザインターフェース/出力デバイス70との通信により、データ保護および倫理規定が許可する対象20に近接した臨床医もしくは科学者による、またはさらには対象20自身によるローカルな調査が可能になる。モデル71は、シミュレーションの形態で出力デバイス70を介して、またはデータの表示および調査を可能にする自動化インターフェースを介して提供され得る。好適な出力には、スプレッドシート、チャート、グラフ、表、図などが含まれ得る。
【0118】
図5のさらなる実施形態が示され、モデル71は、薬物もしくは他の治療剤、または薬剤の組み合わせ81に適用される投与計画80に通知するための入力として使用される。次に、投与計画80に従って、薬物81が対象20に投与される。任意選択的に、モデル71の更新および/または今後の計画80の精度の向上に関連し得るいくつかのパラメータを監視するために、薬物81の投与後に追加の液体生検21を行うことができる。投与計画は、モデル71を介して、例えば、経時的に、または健康状態の変化に関連して決定されるように、患者の必要性に応じて変えることができる。したがって、本発明の実施形態では、ある期間にわたって患者を治療する方法が提供される。この期間は、急性治療が必要な場合は、時間単位で(例えば、少なくとも1時間、最大24時間)、または慢性状態または曝露の場合は、数日(例えば、少なくとも1日、最大7日)、数週間(例えば、少なくとも1週間、最大6週間)、数か月(例えば、少なくとも1か月、最大12か月)、もしくは数年(例えば、少なくとも1年、最大5年以上)にわたって測定され得る。
【0119】
本発明の実施形態では、投与計画および特定のクラスの薬物に対する改善され個別化された治療方法を最適化することができる。好適には、薬物のクラスは、抗炎症剤、抗癌剤、抗生物質、抗ウイルス剤、抗真菌剤、鎮痛剤、麻酔薬、抗アレルギー剤、解毒剤、ホルモン補充薬、免疫抑制剤、抗凝固剤、心血管薬、抗うつ薬、抗糖尿病薬、抗精神病薬、利尿薬、ビタミン、ならびに鎮静剤からなる群のうちのいずれか1つを含み得る。本発明の特定の実施形態では、投与計画および/または改善され個別化された治療方法は、参照により本明細書に組み込まれる、世界保健機関の必須医薬品モデル(第20版、2017年8月改正、http://www.who.int/medicines/publications/essentialmedicines/en/)に掲載されている製品のうちのいずれか1つ以上について作成される。代替的な実施形態では、本発明の方法に従って、上記に規定される医薬化合物のうちのいずれか1つ、ならびにそれらの塩についての投与計画を提供する。
【0120】
本発明は、以下の非限定的な実施例によって例示される。
【実施例】
【0121】
一般的なプロトコル
以下の例は、試料内の薬物代謝酵素、輸送体、および/もしくはマーカー遺伝子についてのRNAレベル、ならびに/またはバイオマーカーの測定のためのRNAレベルを測定するために使用され得る、血液試料からの全RNA抽出のプロトコルを提供している。全タンパク質の単離、ならびに酵素および輸送体の定量化のための方法を、血漿RNAと組織タンパク質レベルとの間の相関関係の評価のために本明細書に記載する。
【0122】
血液中のRNA分析
A.血液試料
新鮮な末梢静脈血を対象から回収し、血漿を単離した後に、以下に記載されるようにさらに処理する。必要に応じて、BおよびTリンパ球を含む末梢血単核細胞(PBMC)を、Ficoll-Paque PLUS(GE Healthcare Life Sciences)を使用して単離することができる。
【0123】
単離された血漿を、無細胞RNA(cfRNA)の単離および測定のために使用されるまで、-80°Cで冷凍保存する。循環またはエキソソームRNAの単離は、Qiagen QIAamp循環核酸キットなどの好適なRNA抽出キットを使用して、製造元(Qiagen,Hilden,Germany)の指示に従って行われ得る。そのようなキットによって全核酸を回収し、Qiagen RNAse-free DNaseセットまたはAmbion TurboDNA-freeキット(Life Technologies,Carlsbad,California,USA)などの好適なキットを使用してDNAを除去する。次に、DNA除去後の溶出RNAを、バイオアナライザー機器(Agilent Technologies,Eugene,Oregon,USA)のAgilent RNA picoキットなどの好適な全核酸評価技術を使用して、品質管理として検出する。次に、十分な品質のRNAを、その後の定量化のために保存する。
【0124】
B.逆転写PCRおよび遺伝子配列決定:
RNA(5~10ng)は、M-MLV逆転写酵素(Invitrogen,Life Technologies,Inc.)を使用して逆転写され得る。試料は、2.5μlの10倍緩衝液、0.1μlの10mM dNTP、10pmolの各プライマー、および0.5単位のTaq DNAポリメラーゼを含有する25μlの最終反応体積でPCRにより増幅される。cDNAテンプレートの存在および完全性を確認するために、ハウスキーピング遺伝子であるGAPDHが、プライマーGAPDH-5(5’-ACCACAGTCCATGCCATCAC-3’、配列番号1)およびGAPDH-3(5’-TCCACCACCCTGTTGCTGTA-3’、配列番号2)を使用して各試料について増幅される。条件は以下のとおりであり得る:94°Cで5分間の最初の変性ステップ、次に、94°Cで50秒間、55°Cで45秒間、72°Cで1分間の30サイクル、その後、72度で10分間の伸長ステップ。
【0125】
抽出された全RNAから得られたcDNAは、PBMCおよび組織生検試料内で発現される遺伝子の同一性および発現レベルを決定するために、DNAマイクロアレイなどを介して、さらに分析することができる。代替的に、Ampliseq(Life Technologies,ThermoFisher,Austin,TX)などの好適なゲノム配列決定法を使用して、逆転写および増幅を行うこともできる。1回の実験で最大20,000個の遺伝子の配列決定が可能であり、いくつかのライブラリー(試料ごとに1つのライブラリー)を分析することができる。例として、薬物および生体異物化合物の代謝に関連する以下のシトクロムP450モノオキシゲナーゼ遺伝子の発現の決定は、血漿ならびに器官試料の両方:CYP1A2、CYP1A1、CYP1B1、CYP2A6、CYP2A7、CYP2A13、CYP2B6、CYP2C8、CYP2C9、CYP2C18、CYP2C19、CYP2D6、CYP2E1、CYP3A4、CYP3A5、およびCYP3A7で決定することができる。決定され得る他の遺伝子は、特定の個体内の器官脱落の程度を決定するために、肝細胞についてのマーカー遺伝子を含む(以下の実施例1を参照)。
【0126】
上記のプロトコルは、薬物および生体異物化合物の代謝に関連する遺伝子の発現レベルならびに/または器官マーカー遺伝子の発現に関するデータを作成するために、必要に応じて複数の個体に対して繰り返されてもよい。このデータは、循環mRNA内のマーカー発現と、例えば器官試料内のCYPの発現との間の相関関係を決定するための、バイオインフォマティクス技術を介した調査に好適である。相関関係を使用して、所与の個体内の化合物クリアランスの仮想ツインモデルを提供するために、個体ベースで構成され得る生体異物化合物クリアランスの仮想モデルを開発する。
【0127】
実施例1
以下の例は、特定の対象の肝細胞から循環へのRNAの脱落の程度を決定するためのプロトコルを提供し、これにより、肝タンパク質レベルと対応する血漿RNA濃度との間に堅牢で有意な相関関数が確立される。
【0128】
マーカー遺伝子の選択:主として器官内で発現される一連の遺伝子(www.proteinatlas.org)を選択し、それらの配列に特異的なプライマーのパネルを使用して、3つの技術的な複製で処理された(n=20×3)健康な個体(女性2人、年齢範囲26~70歳)からの20個の血液試料内のそれらの発現レベルを評価した。これらの遺伝子は、器官内で特異的に発現されるように選択され、有意に高いレベルで、器官脱落を表すとみなされる。これらの遺伝子のリストの中で、血漿試料内で一貫して検出されるいくつかの遺伝子(12個)が、器官特異的血漿マーカーとして使用され(表1)、これらは一緒に、器官/組織脱落補正因子(SCF)を構成するために提案されている。この補正因子は、血漿中のこれらの遺伝子のうちの1つ以上の平均発現レベルとして計算され、同じ定量的トランスクリプトーム方法論(例えば、遺伝子配列決定技術または定量的RT-PCR)を使用して評価され、単離されたRNAの読み取り値の合計数を使用して試料間の技術的なばらつきについて補正される。血漿中の発現の正規化のために使用されるこのRNA脱落速度および関連する個体間のばらつきは、タンパク質発現との相関関数の一部であると提案されている。
【0129】
表1は、マーカー遺伝子のパネル、および血漿試料内のマーカーRNAの配列の検出再現性を示す。データは、標的配列が検出された複製の割合として表される。遺伝子:A1BG(アルファ-1-B糖タンパク質)、AHSG(アルファ-2-HS-糖タンパク質)、ALB(アルブミン)、APOA2(アポリポタンパク質A-II)、C9(補体成分9)、CFHR2(補体因子H関連5)、F2(凝固因子II(トロンビン))、F9(凝固因子IX)、HPX(ヘモペキシン)、SPP2(分泌型リンタンパク質2)、TF(トランスフェリン)、SERPINC1(セルピンペプチダーゼ阻害剤、クレードC(抗トロンビン)、メンバー1)、およびFGB(フィブリノーゲンベータ鎖)。
【0130】
【0131】
器官脱落に対する補正:これらのマーカーの発現における個体間のばらつきは、個体間の脱落の程度の違いの存在を強調している。12個の遺伝子の発現に基づいてこの因子を計算すると、遺伝子の各々を個別に定量化するのに固有の技術的なばらつきを相殺するのに役立つはずであるが、これらの遺伝子のうちの1つ以上または他の使用も、本発明の実施に役立つことが企図される。
【0132】
5つの試料のサブセット(2人の女性、年齢範囲23~57歳)に関する予備的な定量的データを使用すると、SCFの個体間のばらつきは、30%と推定され、健康な個体間の最大2倍のばらつきを表す、パーセント変動係数(
【0133】
【0134】
)として計算される。これは、RNA脱落率の個体間のばらつきを補正するために、薬物クリアランスタンパク質(または他のバイオマーカー)をコードするRNAの定量化をどれだけスケーリングする必要があるかによって例示している。
【0135】
しかしながら、疾患コホートでは、このばらつきのレベルは、最大75%(n=9)まで増加し、癌患者間の30倍を超えるばらつきを表している。癌コホート内の平均脱落レベルは、健康なセットのそれよりも25倍高かった(対応のないt試験、p<0.01)。表2は、一致する器官および血漿の試料が採取された癌患者の詳細を示す。
【0136】
【0137】
図1は、発現正規化プロセスのグラフィカル表示を示す。血漿中の発現レベルは、器官内の遺伝子発現のレベル、および器官による患者の血流への脱落の程度に依存する(パネルA)。器官特異的マーカー遺伝子(M)による正規化により、酵素(E)の発現レベルがより正確になる。正規化は、器官に特異的な一連の遺伝子(この場合は、12個)に対して実施され、これは、器官脱落補正因子(SCF)を構成する(パネルB)。
図1Aによって例示される例では、酵素(E)の器官発現は等しく、2つのシナリオ(高速脱落および低速脱落)では、脱落のレベルが異なる。一連のマーカー(M)を使用した脱落の補正により、酵素発現の正確な測定が保証される。パネルBでは、CVは、変動係数であり、FDは、倍数差(最大読み取り値と最小読み取り値との間の)である。ウィスカーは範囲を表し、ボックスは、25番目および75番目の百分位数を示し、棒は、中央値を示す。選択される12個の遺伝子に基づくSCFの使用により、アルブミン(ALB)などの1個の遺伝子のみを参照として使用することに固有の技術的なばらつきの影響が低減される。癌患者内の脱落レベルは、より高く(>25倍)、健康な対照の脱落レベル(2倍)よりもより変動する(30倍)可能性がある。理論に拘束されることを望まないが、癌患者内のRNA脱落量の増加(および観察されるばらつきの増加)は、おそらく化学療法にも反応した細胞死(壊死)に起因する可能性がある。それにもかかわらず、この現象の特定により、本発明の方法によって作成されたモデル内での補正および調整が可能になり得る。
【0138】
したがって、患者間での異なるレベルのRNA脱落の存在に起因して、提案された評価では、このレベルのばらつきを考慮に入れるべきである、提案される補正は、以下のとおりに(例えば、12個のマーカーを使用して)血漿中の酵素発現レベルに適用される。
【0139】
【0140】
[cfRNA]合計は、血漿試料から作成されたライブラリーの合計RNA読み取り値である。結果は、特定の体積(1~5ml)の血漿試料内の100万個の読み取り値から表された、各酵素についての正規化された読み取り値である必要がある。
【0141】
実施例2
組織試料内の薬物代謝酵素の定量化
薬物代謝酵素の存在量に関する知識は、インビトロ研究から得られた代謝クリアランス(酵素の単位あたりで表される)に関する情報を外挿するために不可欠である。薬物開発には、薬物動態特性の最適化が必要であり、多くの場合、インビトロ測定からのインビボの挙動の予測に基づいている。肝薬物代謝酵素の絶対存在量レベルは、組み換え発現酵素からインビボの薬物クリアランスへの代謝率の外挿、いわゆるIVIVEアプローチによって推定することができる。
【0142】
定量化コンカテマー(QconCAT)技術は、試料内の複数のタンパク質を同時に定量化するために開発され、薬物代謝酵素および輸送体に適用して、任意の所定の器官試料内の存在レベルを決定することができる。本方法は、標的タンパク質セットに対する連結されたプロトタイプシグネチャペプチドを含む人工タンパク質を伴う。QconCATは、同位体濃縮培地でEscherichia coli内で発現され(Beynon et al.,(2005)Nat Methods 2:587-589)、次に、タンパク質混合物にスパイクされ、タンパク質消化に対して、等モル濃度の標的タンパク質の各々について同位体標識された標準ペプチドを生じる(Simpson and Beynon,(2012)Anal Bioanal Chem 404:977-989)。薬物代謝酵素(MetCAT)および輸送体(TransCAT)についてのQconCATが構築され、以前に記載されている(Russell et al.,(2013)J Proteome Res 12:5934-5942)。
【0143】
QconCATを最適化すると、シトクロムP450(CYP)、トランスフェラーゼ酵素、および/または輸送体の全範囲を同じ試料で同時に測定することができる。薬物クリアランス酵素および輸送体の同時測定により、生理学に基づく薬物動態-IVIVEモデルの一部として、現実的な仮想シミュレーションの作成が容易になる。特に、薬物代謝酵素および輸送体の発現および活性を相関させることができ、薬物の吸収、分布、代謝、排泄に影響する相関ならびに絶対値を使用して、インシリコモデルの作成を通知する。
【0144】
個体から得られたヒト器官の試料を使用して、ウエスタンブロット、ELISA、またはLC-MSプロテオミクスなどの定量的技術によって酵素および輸送体のレベルを決定することができる。器官組織の生検は、血液試料を提供した同じ対象から採取され、一致する対照を提供する。組織は、均質な懸濁液を得るために、手動デバイス(粉末ガラステンブロック型組織グラインダー(ground glass Ten Broeck tissue grinder)など)または機械式/電動式組織ホモジナイザー(例えば、Tekmar Tissuemizer)のいずれかを使用して、適切な抽出緩衝液の存在下で物理的に均質化される。
【0145】
示差遠心分離を使用して、ホモジネート、S9画分、サイトゾル、および粗/ミクロソーム膜画分を含む、タンパク質またはRNAを測定するために分析され得る関連する画分を抽出することができる。輸送体タンパク質は、ホモジネートまたはエキソソーム/ミクロソーム/粗/原形質膜画分のいずれかで測定することができ、CYPおよびUGTは、ミクロソーム膜および他の酵素で測定され、トランスフェラーゼは、細胞質画分、膜画分、またはホモジネートで測定される。
【0146】
MetCATおよびTransCAT標準は、以前に記載されている(Russell et al.,2013、上記を参照)。QconCATを構成するトリプシンペプチドは、2つの各々、15シトクロムP450(CYP)および10UDP-グルクロノシルトランスフェラーゼ(UGT)酵素(CYP1A2、CYP2A6、CYP2B6、CYP2C8、CYP2C9、CYP2C18、CYP2C19、CYP2D6、CYP2E1、CYP3A4、CYP3A5、CYP3A7、CYP3A43、CYP2J2、CYP4F2、およびUGT1A1、UGT1A3、UGT1A4、UGT1A6、UGT1A9、UGT2B4、UGT2B7、UGT2B10、UGT2B11、UGT2B15)から選択され得る。サブファミリーCYP1A、CYP2A、CYP2B、CYP3A、およびUGT1Aに固有のペプチドも含めて、各サブファミリーの集計定量化を可能にすることができる。TransCATは、2つのファミリーからの輸送体のセット(ABCB1、ABCB11、ABCB4、ABCC2、ABCC3、ABCC4、ABCC6、ABCG2、およびSLC22A1、SLC22A3、SLC22A5、SLC22A7、SLC22A9、SLC47A1、SLCO1A2、SLCO1B1、SLCO1B3、SLCO2B1、SLCO4C1、SLC51A、SLC51B)を含む。最後に、Glu-フィブリノペプチドB(配列番号3 EGVNDNEEGFFSAR)、または好適な類似体(配列番号4 GGVNDNEEGFFSARまたは配列番号5 GVNDNEEGFFSAR)を含めて、以後、NNOP(天然に存在しないペプチド)と称される、QconCATの定量化を可能にし得る。必要な全てのペプチドは、MetCAT/TransCATタンパク質内で一緒に連結され、リシルエンドペプチダーゼおよび/またはトリプシンを使用したタンパク質消化で放出される。
【0147】
試料および標準調製
Lowry、Bradford、またはBCAアッセイなどの比色アッセイを使用して、膜またはミクロソームの全タンパク質濃度を3回決定することができる。試料の調製は、ゲルベース(Achour et al.2014,Drug Metab.Dispos.42,500-510)、溶液ベース(Harwood et al.,2015,Pharm.Biomed.Anal.110,27-33)、またはフィルター支援法(Wisniewski et al.,2009,Nat.Methods 6,359-362)に従い得る。試料およびQconCATは、50mMの重炭酸アンモニウム(約pH8.0)などの好適な緩衝液内に、通常は、タンパク質ジスルフィド架橋の還元(例えば、ジチオトレイトールによる)およびアルキル化(例えば、ヨードアセトアミドによる)を用いて共調製される。タンパク質消化戦略は、主に哺乳動物または組み換えトリプシンなどの様々な酵素を使用する。マルチ酵素消化戦略は、消化効率を向上させるはずである。タンパク質を、最初にリシルエンドペプチダーゼ(1~2w/w%)で30°Cで3~4時間、続いてトリプシン(1~5w/w%)で37°Cで10~18時間、好適な緩衝液(例えば、50mMの重炭酸アンモニウム)内で消化させる。ペプチド脱塩、洗浄、および回収を実施する。真空濃縮器を使用して、試料体積を好適な体積(10~50μl)に低減し、緩衝液で体積を調整して、-20°Cで保存することができる。
【0148】
QconCAT-試料混合物の質量分析
試料は、トリプル四重極質量分析計(例えば、TSQ Vantageトリプル四重極質量分析計、ThermoScientific,Pittsburgh,PA、または6500 QTRAP,SCIEX,Framingham,MA)に連結された、好適なLC-MS/MS(nano-HPLCシステム(例えば、nano-Acquity nanoUPLC system,Waters,UK))を使用して、LC-MS/MSによって分析される。複数の反応モニタリングアッセイは、好適なソフトウェア(例えば、Skyline,MacCoss Laboratory Software,University of Washington,Seattle,WA)および質量分析計の操作のために使用されるソフトウェア(例えば、Xcalibur,Thermo Fisher、またはAnalyst,SCIEX)によって取得されたデータを使用して設計および管理される。試料(1~10μl)は、分析カラムに直接、または分析カラムに接続された捕捉カラムに、好適な低~高アセトニトリルグラジエントを使用してナノ流速で注入される。天然(非標識)ペプチドおよび標準(13C/15N安定同位体標識)ペプチドの両方についてのデータが取得される。
【0149】
測定された酵素/輸送体の存在量のデータ分析
酵素/輸送体存在量値の計算
試料内の各酵素の存在量は、以下の式で計算され得る。
【0150】
【0151】
式中、[タンパク質]は、pmol mg-1タンパク質の単位で測定された、サロゲートペプチド存在量の推定に基づく、出発ミクロソーム/粗膜材料内の推定タンパク質存在量である。[NNOP]は、fmolμl-1でのアッセイミックス内の軽いNNOPの濃度、および
【0152】
【0153】
重いQconCAT由来のNNOPと軽い(既知の濃度の標準)NNOPとの比率であり、これらの用語と一緒に、QconCATの等モル濃度を定量化する。
【0154】
【0155】
は、軽い(試料由来の)分析ペプチドと重い(QconCAT由来の)ペプチドとの比率であり、前の用語と組み合わせて、fmolμl-1でのアッセイミックス内のペプチド濃度を得る。Fvは、混合物の体積に関する試料の希釈因子であり、それを含む用語は、アッセイミックス内のペプチド濃度を消化物内のfmolの量に変換する。タンパク質の質量は、μgで表される、消化前に使用される材料の量に対応するミクロソームのタンパク質含有量であり、それを含む用語は、消化物内の存在量(すなわち、タンパク質レベル)をpmol mg-1でのミクロソームタンパク質の存在量に関連付ける。比率
【0156】
【0157】
【0158】
は、この式で使用する前に、同位体取り込み効率について補正される。
【0159】
酵素/輸送体存在量値の統計分析
平均、標準偏差、および存在量の変動係数を計算し得る。各酵素/輸送体の存在量測定値の分布の正規性は、好適な統計的試験(例えば、Kolmogorov-Smirnov,D’Agostino-Pearson,Shapiro-Wilk)に従って試験され得る。存在量は、遺伝子型、年齢、民族性、性別、喫煙、飲酒、および他の関連する生活様式または遺伝的因子を参照してさらに分析することができる。線形回帰および相関分析を実施して、血漿中のRNA発現レベルと器官組織内のタンパク質存在量レベルとの間の直線性および順位関係を試験することができる。
【0160】
実施例3
上記の実施例1で記載されるようなSCFを使用してベースライン脱落を補正した薬物クリアランス酵素の循環RNAのレベルを使用して、器官内の同じ酵素のタンパク質レベルを正確に推定することができることを確認するために、組織レベルのこれらの酵素を見つけ出し、それらを同じ対象からのRNAレベルと比較する必要があり、この場合、以下のプロトコルを使用し得る。
【0161】
器官組織の処理
示差遠心分離を使用して、ミクロソーム/粗膜画分を単離する。分画に起因した損失はNADPHシトクロムP450レダクターゼ活性(小胞体のタンパク質マーカー)を使用して推定され、活性比により回復を推定し、MPPGL(グラム器官あたりのミクロソームタンパク質)値を計算することができる。分画損失およびMPPGL値の文献値は、当該技術分野で見つけることができる(Barter Z.,et al.,(2007)Current Drug Metabolism;8:33-45)。ホモジネートからのタンパク質回収は、器官試料全体で一貫していた(n=9)。
【0162】
シトクロムP450存在量データ
存在量データは、ミクロソームタンパク質1mgあたりのpmolの単位で測定され、その後、MPPGLスケーラー(例えば、CYP3A4、表3)を使用して、器官組織1μgあたりのfmolに変換される。比較のために、シトクロムP450酵素の報告値は(Achour B.,et al.,(2014)Drug Metabolism and Disposition;42:1349-1356)に見つけることができる。
【0163】
【0164】
相関分析は、検出限界を超えて報告された肝タンパク質レベルおよび血漿mRNAレベルに対して行われる。実施例1に示すように、SCFを用いてRNAデータを補正する場合と補正しない場合の相関関係を比較することができる。
【0165】
このようにして、一致した試料内の循環RNAと肝シトクロムP450タンパク質レベルとの間の相関関係を見つけることができる。このプロトコルの利点は、肝タンパク質の存在量が、器官内で予想されるmRNA発現レベルに基づく単純な推定よりも非常に優れた、インビボでの肝シトクロムP450活性レベルの指標であることである。
図2は、器官組織内の4つの酵素(CYP3A4、CYP2C9、CYP1A2、およびCYP2A6)のレベル、および血漿中のそれらのRNAの対応するレベル(パネルA)を示し、組織レベルと循環RNAとの間の相関関係を強調している(パネルB)。器官脱落を考慮しない場合、相関関係は失われる(
図3)。R
補正は、ピアソンの相関係数、R
2は、線形回帰の係数、pは、相関確率である。
【0166】
したがって、実験は、循環血漿mRNAの量の決定を使用して、生体異物化合物のクリアランスを制御する複数の肝タンパク質の相対的存在量を特定することができること、およびそのような特定が、個体内のmRNAの脱落のベースラインレベルを示すSCFを使用してmRNAレベルを制御すると改善されることを確認する。表4は、4つの特定の薬物クリアランス酵素についてのそのような測定の例を示す。
【0167】
【0168】
本発明で取られるアプローチは、個体内の特定の化合物、典型的には、薬物または毒素のクリアランスの速度のより正確な予測を可能にするインシリコモデルの作成を可能にする。脱落の補正がない場合、結果は、個体間で大きく変動し、液体生検分析は非現実的で不正確になる。
【0169】
本発明の特定の実施形態を本明細書で詳細に開示してきたが、これは、例として、かつ例示のみを目的として行われたものである。前述の実施形態は、以下に続く、添付の特許請求の範囲に関して制限することを意図するものではない。核酸出発物質、対象となるクローン、または使用されるライブラリーの種類の選択は、現在記載されている実施形態の知識を有する当業者にとって日常的な事項であると考えられている。本発明者らは、特許請求の範囲によって定義される本発明の主旨および範囲から逸脱することなく、本発明に対して様々な置換、変更、および改変が行われ得ることが企図される。
【配列表】