(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-17
(45)【発行日】2024-05-27
(54)【発明の名称】持続的腎代替療法における経皮的糸球体濾過量測定の使用
(51)【国際特許分類】
A61K 49/00 20060101AFI20240520BHJP
A61K 31/4965 20060101ALI20240520BHJP
A61K 31/407 20060101ALI20240520BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20240520BHJP
A61P 31/12 20060101ALI20240520BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20240520BHJP
A61M 1/14 20060101ALI20240520BHJP
A61B 10/00 20060101ALI20240520BHJP
【FI】
A61K49/00
A61K31/4965
A61K31/407
A61P31/04
A61P31/12
A61P13/12
A61M1/14
A61B10/00 U
(21)【出願番号】P 2021533193
(86)(22)【出願日】2019-08-27
(86)【国際出願番号】 US2019048329
(87)【国際公開番号】W WO2020122998
(87)【国際公開日】2020-06-18
【審査請求日】2022-06-30
(32)【優先日】2018-12-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】517175301
【氏名又は名称】メディビーコン,インク.
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】弁理士法人大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ゴールドスタイン、スチュアート・エル
(72)【発明者】
【氏名】ドアショー、リチャード・ビー
【審査官】榎本 佳予子
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-534396(JP,A)
【文献】Seminars in Dialysis,2009年,22(2),p.185-188
【文献】Journal of Medicinal Chemistry,2011年,54,p.5048-5058
【文献】Regulatory Toxicology and Pharmacology,2015年,72(1),p.26-38
【文献】Clinical Infectious Diseases,2005年,41(8),p.1159-1166
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-33/44
A61P 1/00-43/00
A61K 49/00
A61M 1/14
A61B 10/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
持続的腎代替療法(CRRT)を受けている患者に対する薬剤の投与処方を決定する方法であって、
前記患者の血流に蛍光剤を投与するステップ
であって、前記蛍光剤は、化学式
で表される化合物、またはその薬学的に許容可能な塩である、該ステップと、
前記患者に少なくとも1回分の前記薬剤を投与するステップであって、前記患者への前記薬剤の投与は前記患者への前記蛍光剤の投与と順次または同時に行われる、該ステップと、
前記患者に前記蛍光剤を投与した後、前記患者に持続的腎代替療法(CRRT)を実施するステップと、
前記蛍光剤に可視光または赤外光を照射するステップであって、それによって、前記蛍光剤からスペクトルエネルギーを放出させる、該ステップと、
前記蛍光剤から放出された前記スペクトルエネルギーの強度の変化を、所定期間にわたって経皮的にモニタリングするステップと、
前記蛍光剤から放出された前記スペクトルエネルギーの強度の変化を、前記患者の前記血流からの前記蛍光剤のクリアランス率に対して相関させるステップと、
前記患者における前記薬剤のクリアランス率を、前記蛍光剤の前記クリアランス率に対して相関させるステップと、
前記蛍光剤の前記クリアランス率に基づいて、前記患者の前記血流中の前記薬剤の濃度を時間の関数として求めるステップと、
時間の関数として求められた前記患者の前記血流中の前記薬剤の濃度に基づいて、前記患者に対する前記薬剤の投与処方を調節するステップであって、それによって、前記患者に対する前記薬剤の投与処方を決定する、該ステップと、
を含
み、
前記薬剤は、抗生物質または抗ウイルス剤から選択されることを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、
前記蛍光剤は、糸球体濾過によって前記患者の前記血流から除去されることを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法であって、
前記蛍光剤に可視光または赤外光を照射する前記ステップは、
前記患者の身体の表面に腎モニタリングアセンブリを配置するステップを含み、
前記腎モニタリングアセンブリは、光源とデータ処理システムとを備え、スペクトルエネルギーを検出し、前記スペクトルエネルギーを示すデータを処理するように構成されていることを特徴とする方法。
【請求項4】
持続的腎代替療法(CRRT)を受けている患者における薬剤のクリアランス率をモニタリングする方法であって、
前記患者の血流に蛍光剤を投与するステップ
であって、前記蛍光剤は、化学式
で表される化合物、またはその薬学的に許容可能な塩である、該ステップと、
前記患者に少なくとも1回分の前記薬剤を投与するステップであって、前記患者への前記薬剤の投与は前記患者への前記蛍光剤の投与と順次または同時に行われる、該ステップと、
前記患者に前記蛍光剤を投与した後、前記患者に持続的腎代替療法(CRRT)を実施するステップと、
前記蛍光剤に可視光または赤外光を照射するステップであって、それによって、前記蛍光剤からスペクトルエネルギーを放出させる、該ステップと、
前記蛍光剤から放出された前記スペクトルエネルギーの強度の変化を、所定期間にわたって経皮的にモニタリングするステップと、
前記蛍光剤から放出された前記スペクトルエネルギーの強度の変化を、前記患者の前記血流からの前記蛍光剤のクリアランス率に対して相関させるステップと、
前記患者における前記薬剤のクリアランス率を、前記蛍光剤の前記クリアランス率に対して相関させるステップと、
前記蛍光剤の前記クリアランス率に基づいて、前記患者の前記血流中の前記薬剤の濃度を時間の関数として求めるステップであって、それによって、前記患者の前記血流中の前記薬剤の濃度をモニタリングする、該ステップと、
を含
み、
前記薬剤は、抗生物質または抗ウイルス剤から選択されることを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項
4に記載の方法であって、
時間の関数として求められた前記患者の前記血流中の前記薬剤の濃度に基づいて、前記患者に対する前記薬剤の投与処方を調節するステップをさらに含むことを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項
4に記載の方法であって、
前記蛍光剤に可視光または赤外光を照射する前記ステップは、
前記患者の身体の表面に腎モニタリングアセンブリを配置するステップを含み、
前記腎モニタリングアセンブリは、光源とデータ処理システムとを備え、スペクトルエネルギーを検出し、前記スペクトルエネルギーを示すデータを処理するように構成されていることを特徴とする方法。
【請求項7】
持続的腎代替療法(CRRT)を受けている患者が治療有効量の薬剤の投与を治療有効期間にわたって受けているか否かを判定する方法であって、
前記患者の血流に蛍光剤を投与するステップ
であって、前記蛍光剤は、化学式
で表される化合物、またはその薬学的に許容可能な塩である、該ステップと、
前記患者に少なくとも1回分の前記薬剤を投与するステップであって、前記患者への前記薬剤の投与は前記患者への前記蛍光剤の投与と順次または同時に行われる、該ステップと、
前記患者に前記蛍光剤を投与した後、前記患者に持続的腎代替療法(CRRT)を実施するステップと、
前記蛍光剤に可視光または赤外光を照射するステップであって、それによって、前記蛍光剤からスペクトルエネルギーを放出させる、該ステップと、
前記蛍光剤から放出された前記スペクトルエネルギーの強度の変化を、所定期間にわたって経皮的にモニタリングするステップと、
前記蛍光剤から放出された前記スペクトルエネルギーの強度の変化を、前記患者の前記血流からの前記蛍光剤のクリアランス率に対して相関させるステップと、
前記患者における前記薬剤のクリアランス率を、前記蛍光剤の前記クリアランス率に対して相関させるステップと、
前記蛍光剤の前記クリアランス率に基づいて、前記患者の前記血流中の前記薬剤の濃度を時間の関数として求めるステップであって、それによって、前記患者の前記血流中の前記薬剤の濃度を時間の関数としてモニタリングする、該ステップと、
特定の時点での前記患者の前記血流中の前記薬剤の濃度を、予め定められた治療有効濃度と比較するステップであって、それによって、前記患者が治療有効量の薬剤の投与を治療有効期間にわたって受けているか否かを判定する、該ステップと、
を含
み、
前記薬剤は、抗生物質または抗ウイルス剤から選択されることを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項
7に記載の方法であって、
前記薬剤の前記クリアランス率に基づいて求められた特定の時点での前記患者の前記血流中の前記薬剤の前記濃度が前記治療有効濃度よりも低い場合には、前記患者に少なくとも1回分の前記薬剤を投与するステップをさらに含むことを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項
7に記載の方法であって、
前記蛍光剤に可視光または赤外光を照射する前記ステップは、
前記患者の身体の表面に腎モニタリングアセンブリを配置するステップを含み、
前記腎モニタリングアセンブリは、光源とデータ処理システムとを備え、スペクトルエネルギーを検出し、前記スペクトルエネルギーを示すデータを処理するように構成されていることを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2018年12月12日出願の米国特許仮出願第62/778、334号に基づく優先権を主張するものである。上記出願の開示内容の全体は、参照により本明細書中に援用される。
【0002】
(技術分野)
本開示の分野は、一般的に、患者の血流からの蛍光剤のクリアランスをモニタリングする方法に関する。より詳細には、本開示の分野は、一般的に、患者の血流からの蛍光剤のクリアランスと、持続的腎代替療法(CRRT)を受けている患者の血流からの少なくとも1つの薬剤のクリアランスとを相関させることに関する。
【背景技術】
【0003】
急性腎障害(AKI)は、米国腎臓協会によって、数時間から数日以内に突然発生する腎不全または腎障害と定義されている。AKIは、患者の血流中の老廃物の蓄積を引き起こし、腎臓が体内の適切な恒常的な体液平衡を維持することを困難または不可能にする。また、AKIは、脳、心臓、及び肺などの他の臓器にも影響を及ぼす場合があり、このことは、集中治療や高齢者では珍しいことではない。AKIの治療における最も重要な方法の1つは、腎代替療法(RRT)の使用である。患者にRRTが必要か否かを判断するための標準的な検査法は存在しない。患者におけるRRTの必要性は、例えば、利尿剤療法に反応しない患者における体液量負荷、内科的治療に反応しない高カリウム血症及び/または代謝性アシドーシス、脳症の症状を伴う尿毒症、心膜炎、または尿毒症性出血、及び、透析で除去可能な薬物中毒などの、より一般的な指標(症状)を用いて評価する。
【0004】
従来の腎モニタリング方法では、患者の糸球体濾過量(GFR)の近似値は、24時間採尿方法を用いて、mL/分/1.73m2の単位で求めていた。24時間採尿方法は、(その名前が示唆するように)一般的に、約24時間の採尿、さらに数時間の分析、及びベッドサイドでの細心の収集技術を必要とする。しかし残念なことに、この従来の方法は、測定結果が得られるタイミングが望ましくないほど遅く、また、測定結果を得るまで著しく時間がかかるため、患者を効果的に治療する及び/または腎臓を救う可能性を低下させる恐れがある。そのため、この従来の方法は、持続的腎代替療法(CRRT)を受けている患者に用いることはできない。CRRTを受けている患者は、安定したまたは正常な腎機能を有しておらず、AKIの重症例では、GFRが10mL/分/1.73m2未満になることもある。問題となっているのは、CRRTによって、救命薬剤を含む多くの小溶質が患者の血流から除去されてしまうことである。したがって、CRRTによる小溶質のクリアランス率を正確に評価することは、患者ケアを最適化するために重要である。
【0005】
【0006】
CRRTを受けている患者は、基礎疾患にかかわらず、しばしば、慢性または急性の複数の医学的状態(病状)を有しており、その場合、様々な種類の治療を必要とするため、様々な薬剤の投与を受けている。CRRTは、血流から特定の薬剤を除去することが知られている濾過システムである。しかし、特定の薬剤の追加投与や異なる投与処方が必要か否かを判断するために、CRRT中にその特定の薬剤のクリアランス率を求めようとしても、そのクリアランス率は、大雑把にしか推定できない。そのため、特定の薬剤の投与処方を改善または調節するために、CRRTを受けている患者の血流から様々な薬剤のクリアランス率を測定する方法が求められている。また、患者は複数の異なる薬剤の投与を受けている場合が多いので、薬剤ごとに異なる検査を行うのではなく、1回の検査で各薬剤のクリアランス率を個別に測定する方法が求められている。
【0007】
様々なCRRT様式は、互いに異なる様々なパラメータを有し、各CRRT装置の様々な設定によって、様々な薬剤が患者の血流からどの程度効果的にかつどの程度迅速に除去されるかが決定される。同じ薬剤であっても、各CRRT装置の設定によって、クリアランス率が異なる。そのため、CRRT装置ごとに、または、CRRT装置の設定ごとに、患者の血流からの薬剤のクリアランス率を求めることは極めて困難である。しかし、薬剤のクリアランス率に関する情報がなければ、医療専門家が特定の患者に対する特定の薬剤の適切な投与量及び投与処方を決定することは困難である。また、CRRTフィルタの種類によっても、薬剤のクリアランス率は異なる。そのため、CRRT装置の設定とは無関係に、患者の血流からの薬剤のクリアランス率を測定する方法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】米国特許第8、115、000号明細書
【文献】米国特許第62/577、951号明細書
【文献】米国特許第16/171、689号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
一態様では、本開示は、持続的腎代替療法(CRRT)を受けている患者に対する薬剤の投与処方を決定する方法を提供する。本開示の方法は、患者の血流に蛍光剤を投与するステップと、患者に少なくとも1回分の薬剤を投与するステップであって、患者への薬剤の投与は患者への蛍光剤の投与と順次または同時に行われる、該ステップと、患者に蛍光剤を投与した後、患者に持続的腎代替療法(CRRT)を実施するステップと、蛍光剤に可視光または赤外光を照射するステップであって、それによって、蛍光剤からスペクトルエネルギーを放出させる、該ステップと、蛍光剤から放出されたスペクトルエネルギーの強度の変化を、所定期間にわたって経皮的にモニタリングするステップと、蛍光剤から放出されたスペクトルエネルギーの強度の変化を、患者の血流からの蛍光剤のクリアランス率に相関させるステップと、蛍光剤のクリアランス率に基づいて、患者における薬剤のクリアランス率を算出するステップと、薬剤のクリアランス率に基づいて、患者の血流中の薬剤の量を、時間の関数として求めるステップと、時間の関数として求められた患者の血流中の薬剤の量に基づいて、患者に対する薬剤の投与処方を調節するステップであって、それによって、患者に対する薬剤の投与処方を決定する、該ステップと、を含む。
【0010】
別の態様では、本開示は、持続的腎代替療法(CRRT)を受けている患者における薬剤のクリアランス率をモニタリングする方法を提供する。本開示の方法は、患者の血流に蛍光剤を投与するステップと、患者に少なくとも1回分の薬剤を投与するステップであって、患者への薬剤の投与は患者への蛍光剤の投与と順次または同時に行われる、該ステップと、患者に蛍光剤を投与した後、患者に持続的腎代替療法(CRRT)を実施するステップと、蛍光剤に可視光または赤外光を照射するステップであって、それによって、蛍光剤からスペクトルエネルギーを放出させる、該ステップと、蛍光剤から放出されたスペクトルエネルギーの強度の変化を、所定期間にわたって経皮的にモニタリングするステップと、蛍光剤から放出されたスペクトルエネルギーの強度の変化を、患者の血流からの蛍光剤のクリアランス率に相関させるステップと、蛍光剤のクリアランス率に基づいて、患者における薬剤のクリアランス率を算出するステップと、薬剤のクリアランス率に基づいて、患者の血流中の薬剤の量を、時間の関数として求めるステップであって、それによって、患者の血流中の薬剤の量をモニタリングする、該ステップと、を含む。
【0011】
さらに別の態様では、本開示は、持続的腎代替療法(CRRT)を受けている患者が治療有効量の薬剤の投与を治療有効期間にわたって受けているか否かを判定する方法を提供する。本開示の方法は、患者の血流に蛍光剤を投与するステップと、患者に少なくとも1回分の薬剤を投与するステップであって、患者への薬剤の投与は患者への蛍光剤の投与と順次または同時に行われる、該ステップと、患者に蛍光剤を投与した後、患者に持続的腎代替療法(CRRT)を実施するステップと、蛍光剤に可視光または赤外光を照射するステップであって、それによって、蛍光剤からスペクトルエネルギーを放出させる、該ステップと、蛍光剤から放出されたスペクトルエネルギーの強度の変化を、所定期間にわたって経皮的にモニタリングするステップと、蛍光剤から放出されたスペクトルエネルギーの強度の変化を、患者の血流からの蛍光剤のクリアランス率に相関させるステップと、蛍光剤のクリアランス率に基づいて、患者における薬剤のクリアランス率を算出するステップと、薬剤のクリアランス率に基づいて、患者の血流中の薬剤の濃度を時間の関数として求めるステップであって、それによって、患者の血流中の薬剤の量を時間の関数としてモニタリングする、該ステップと、特定の時点での患者の血流中の薬剤の量を、予め定められた治療有効濃度と比較するステップであって、それによって、患者が治療有効量の薬剤の投与を治療有効期間にわたって受けているか否かを判定する、該ステップと、を含む。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、患者における腎モニタリングアセンブリの一般化されたシステムを示す。
【
図2】
図2は、患者における腎モニタリングアセンブリの一般化されたシステムを示す。
【
図3】
図3は、HF1400ヘモダイアフィルタ及びM150ヘモダイアフィルタの様々な流出液流量における化合物MB-102のふるい係数を示したグラフである。
【
図4】
図4は、HF1400ヘモダイアフィルタ及びM150ヘモダイアフィルタの様々な流出液流量における化合物MB-102の飽和係数を示したグラフである。
【
図5】
図5は、エクスビボ持続的静脈血液濾過(CVVH)システムのモデルの概略図である。
【
図6】
図6は、エクスビボ持続的静脈血液透析濾過(CVVHD)システムのモデルの概略図である。
【
図7】
図7は、CVVHの開始時に両側腎摘出術を受けたブタモデルにおいて検出された蛍光強度の増加を示したグラフである。
【
図8】
図8は、CVVH中のブタモデルにおいて検出された蛍光強度の減少を時間の関数として示したグラフである(線形スケール)。
【
図9】
図9は、CVVH中のブタモデルにおいて検出された蛍光の減少を時間の関数として示したグラフである(対数スケール)。
【
図10】
図10は、ブタの胸骨に配置した腎モニタリングアセンブリを使用して測定した、CVVH中の様々な流量におけるMB-102クリアランス率を求めるための計算を示したグラフである。
【
図11】
図11は、ブタの胸骨に配置した腎モニタリングアセンブリを使用して測定した、CVVH中の様々な流量におけるMB-102クリアランス率を求めるための計算を示したグラフである。
【
図12】
図12は、ブタの胸部に配置した腎モニタリングアセンブリを使用して測定した、CVVH中様々な流量におけるMB-102のクリアランス率を求めるための計算を示したグラフである。
【
図13】
図13は、CVVHDの開始時に両側腎摘出術を受けたブタモデルにおいて検出された蛍光強度の増加を示したグラフである。
【
図14】
図14は、CVVHD中のCVVH中のブタモデルにおいて検出された蛍光の減少を時間の関数として示したグラフである(線形スケール)。
【
図15】
図15は、CVVHD中のCVVH中のブタモデルにおいて検出された蛍光の減少を時間の関数として示したグラフである(対数スケール)。
【
図16】
図16は、ブタの胸骨に配置した腎モニタリングアセンブリを使用して測定した、CVVHD中の様々な流量におけるMB-102クリアランス率を求めるための計算を示したグラフである。
【
図17】
図17は、ブタの胸骨に配置した腎モニタリングアセンブリを使用して測定した、CVVHD中の様々な流量におけるMB-102クリアランス率を求めるための計算を示したグラフである。
【
図18】
図18は、ブタモデルに使用したインビボCVVHシステムの概略図である。
【
図19】
図19は、ブタモデルに使用したインビボCVVHDシステムの概略図である。
【
図20】
図20は、CVVH実験中に検出され時間の関数として示したMB-102の血漿濃度を、検出された蛍光強度に重ね合わせたグラフである。
【
図21】
図21は、CVVHD実験中に検出され時間の関数として示したMB-102の血漿濃度を、検出された蛍光強度に重ね合わせたグラフである。
【
図22】
図22は、ブタモデルを用いたCVVH実験中に検出されたメロペネム濃度を時間及び流量の関数として示したグラフである。
【
図23】
図23は、ブタモデルを用いたCVVHD実験中に検出されたメロペネム濃度を時間及び流量の関数として示したグラフである。
【
図24】
図24は、様々なCRRT条件及びモダリティを用いた場合の、MB-102の濃度とメロペネムとの間の相関関係を示したグラフである。
【0013】
特に明記しない限り、本明細書に添付された図面は、本開示の実施形態の特徴、または、本開示の主題のいくつかの態様を示す代表的な実験の結果を示す。これらの特徴及び/または結果は、本開示の1以上の実施形態を含む様々なシステムに適用できると考えられる。したがって、図面は、本明細書で開示される実施形態を実施するために必要とされることが当業者に知られている全ての追加の特徴を含むことを意図しておらず、また、本開示の方法の可能な用途を限定することも意図していない。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下の明細書及び特許請求の範囲で、多数の用語が使用されるが、これらの用語は、以下の意味を有するものと定義される。単数形の「a」、「an」、及び「the」は、文脈が他の意味を明確に示さない限り、複数形のものも含む。「含む(comprising、including、having)」という用語は、包括的であることを意図しており、記載された要素以外の追加の要素が存在する可能性があることを意味する。「任意選択(Optional、optionally)」という用語は、その後に記載される事象または状況が発生する場合もあるし発生しない場合もあることを意味する。すなわち、この用語は、その後に記載される事象または状況が発生する場合も、発生しない場合も包含する。
【0015】
本明細書及び特許請求の範囲の全体にわたって使用される近似表現(近似を表す用語)は、それに関連する基本機能の変化をもたらすことなく許容範囲で変化することができる任意の定量的表現を修飾するために適用することができる。したがって、「約」、「おおよそ(ほぼ)」、「実質的に」などの用語によって修飾された値は、指定された正確な値に限定されるものではない。少なくともいくつかの例では、近似表現は、値を測定するための器具の精度に対応し得る。本明細書及び特許請求の範囲の全体にわたって、範囲の限定は、組み合わせること及び/または置き換えることが可能である。このような範囲は、文脈や言語が特に指定しない限り、その範囲内に含まれる全ての下位範囲(部分範囲)を含む。
【0016】
定義
【0017】
本明細書中で使用するとき、「CRRT」は、持続的腎代替療法(CRRT)を指す。持続的腎代替療法(CRRT)には、緩徐持続的限外濾過(SCUF)、持続的静脈血液濾過(CVVH)、持続的静脈血液透析(CVVHD)、及び、持続的静脈血液濾過透析(CVVHDF)の4つのタイプがある。文脈から特定のタイプを指すことが明らかでない限り、4つのタイプの全てが本明細書に包含される。
【0018】
CRRTの様々な様式には、補充液(replacement fluid)、流出液(effluent)、またはその両方の使用を含む。例えば、CVVH及びCVVHDFは補充液を使用し、CVVHDは透析液を使用する。本明細書中で使用するとき、「流出液(effluent)」という用語は、任意のCRRT様式で使用される任意のタイプの補充液または流出液(濾液、透析液)を指す。CRRTは、持続的静脈血液濾過(CVVH)(全て補充液)、持続的静脈血液透析(CVVHD)(全て透析液)、または、持続的静脈血液濾過透析(CVVHDF)(補充液と透析液との組み合わせ)として処方することができる。CRRTの特定の様式は、排液の性質を特定する。「流出液流量(effluent rate)」という用語は、用いられるCRRT様式における特定の流出液または特定の流出液の組み合わせの流量を指す。
【0019】
「薬剤」、「医薬」、「薬」、「治療薬」、及び「薬物」という用語は、本明細書では互換的に使用され、少なくとも1つの症状を有する医学的状態(病状)の治療を目的とする医薬組成物または医薬製品を指す。医薬組成物または医薬製品は、患者の体内に導入されると、患者に生理学的効果をもたらす。医薬組成物は、特定の剤形の種類が必要とされるかまたは開示されない限り、任意の適切な剤形であり得る。いくつかの場合では、医薬品は、米国FDAによって承認されている。他の場合では、医薬品は、実験(例えば、臨床試験)の段階であるか、または、米国以外の国での使用が承認されている(例えば、中国またはヨーロッパでの使用が承認されている)。これらの用語(薬剤等)を使用する場合には、これらの用語が単数及び複数の両方の場合を指すと理解される。いくつかの実施形態では、2以上の薬剤を併用療法の形態で使用することができる。全ての場合において、適切な薬剤(単数または複数)の選択は、患者の医学的状態と、患者の治療を実施、監督及び/または指示する医療専門家の評価とに基づいて決定される。
【0020】
薬剤に関する「有効量」または「治療有効用量」は、医学的状態に関連する少なくとも1つの症状を治療または改善する、あるいは、その症状の強度を低減させるのに十分な量である。本開示のいくつかの態様では、有効量の薬剤は、医学的状態の1以上の症状の緩和または軽減を含む、有益なまたは望ましい臨床結果をもたらすのに十分な量である。本開示のいくつかの態様では、有効量の薬剤は、医学的状態の全ての症状を緩和するのに十分な量である。
【0021】
本明細書で使用するとき、「治療有効期間」は、薬剤が患者に治療効果をもたらすのに必要な時間の長さを指す。いくつかの場合では、薬剤の用量が高用量の方が低用量の場合よりも速く効果を発揮するので、治療上有効な期間は、薬剤の用量に依存する。
【0022】
本明細書で使用するとき、「患者」という用語は、少なくとも1つの症状を引き起こす医学的状態に対する治療の対象となる哺乳動物などの温血動物を指す。少なくともヒト、イヌ、ネコ、及びウマは、この用語の意味の範囲内にあると理解される。いくつかの態様では、患者は、ヒトである。
【0023】
本明細書中で使用するとき、「身体表面」という用語は、ヒトまたは動物の患者の身体の任意の所望の表面を指す。身体表面の例としては、皮膚の表面、指の爪や足の爪の表面、または他の表面、より具体的には、大気に曝される表面が挙げられる。腎モニタリングアセンブリを配置することができる身体表面の非限定的な例としては、耳たぶ、胸骨、胸部、腕、脚、背中、手、足、肩、腰、後頭三角、及び臀部が挙げられる。
【0024】
本明細書中で使用するとき、「治療する」または「治療」という用語は、あるいはそれらの派生語は、患者の医学的状態に関連する少なくとも1つの症状の部分的または完全な改善を意図する。
【0025】
「定常状態」とは、薬剤の全摂取量が、その除去量と、ほぼ動的平衡にある状態を指す。薬剤の除去は、患者の血流中の薬剤の濃度を低下させる任意の既知の手段、これに限定しないが、例えば、腎濾過、肝代謝、及び持続的腎代替療法(CRRT)など、を用いて行うことができる。本開示のいくつかの態様では、患者から薬剤を除去する唯一の方法は、持続的腎代替療法(CRRT)である。
【0026】
様々な薬物動態パラメータ、並びに、それらを測定及び計算する方法についての考察については、「Clinical Pharmacokinetics and Pharmacodynamics: Concepts and Applications, M. Rowland and T. N. Tozer, (Lippincott, Williams & Wilkins, 2010)」を参照されたい(この文献の教示は、参照により本明細書中に援用される)。
【0027】
一態様では、本開示は、持続的腎代替療法(CRRT)を受けている患者に対する薬剤の投与処方を決定する方法を提供する。本開示の方法は、患者の血流に蛍光剤を投与するステップと、患者に少なくとも1回分の薬剤を投与するステップであって、患者への薬剤の投与は患者への蛍光剤の投与と順次または同時に行われる、該ステップと、患者に蛍光剤を投与した後、患者に持続的腎代替療法(CRRT)を実施するステップと、蛍光剤に可視光または赤外光を照射するステップであって、それによって、蛍光剤からスペクトルエネルギーを放出させる、該ステップと、蛍光剤から放出されたスペクトルエネルギーの強度の変化を、所定期間にわたって経皮的にモニタリングするステップと、蛍光剤から放出されたスペクトルエネルギーの強度の変化を、患者の血流からの蛍光剤のクリアランス率に相関させるステップと、蛍光剤のクリアランス率に基づいて、患者における薬剤のクリアランス率を算出するステップと、薬剤のクリアランス率に基づいて、患者の血流中の薬剤の量を、時間の関数として求めるステップと、時間の関数として求められた患者の血流中の薬剤の量に基づいて、患者に対する薬剤の投与処方を調節するステップであって、それによって、患者に対する薬剤の投与処方を決定する、該ステップと、を含む。
【0028】
別の態様では、本開示は、持続的腎代替療法(CRRT)を受けている患者における薬剤のクリアランス率をモニタリングする方法を提供する。本開示の方法は、患者の血流に蛍光剤を投与するステップと、患者に少なくとも1回分の薬剤を投与するステップであって、患者への薬剤の投与は患者への蛍光剤の投与と順次または同時に行われる、該ステップと、患者に蛍光剤を投与した後、患者に持続的腎代替療法(CRRT)を実施するステップと、蛍光剤に可視光または赤外光を照射するステップであって、それによって、蛍光剤からスペクトルエネルギーを放出させる、該ステップと、蛍光剤から放出されたスペクトルエネルギーの強度の変化を、所定期間にわたって経皮的にモニタリングするステップと、蛍光剤から放出されたスペクトルエネルギーの強度の変化を、患者の血流からの蛍光剤のクリアランス率に相関させるステップと、蛍光剤のクリアランス率に基づいて、患者における薬剤のクリアランス率を算出するステップと、薬剤のクリアランス率に基づいて、患者の血流中の薬剤の量を、時間の関数として求めるステップであって、それによって、患者の血流中の薬剤の量をモニタリングする、該ステップと、を含む。
【0029】
さらに別の態様では、本開示は、持続的腎代替療法(CRRT)を受けている患者が治療有効量の薬剤の投与を治療有効期間にわたって受けているか否かを判定する方法を提供する。本開示の方法は、患者の血流に蛍光剤を投与するステップと、患者に少なくとも1回分の薬剤を投与するステップであって、患者への薬剤の投与は患者への蛍光剤の投与と順次または同時に行われる、該ステップと、患者に蛍光剤を投与した後、患者に持続的腎代替療法(CRRT)を実施するステップと、蛍光剤に可視光または赤外光を照射するステップであって、それによって、蛍光剤からスペクトルエネルギーを放出させる、該ステップと、蛍光剤から放出されたスペクトルエネルギーの強度の変化を、所定期間にわたって経皮的にモニタリングするステップと、蛍光剤から放出されたスペクトルエネルギーの強度の変化を、患者の血流からの蛍光剤のクリアランス率に相関させるステップと、蛍光剤のクリアランス率に基づいて、患者における薬剤のクリアランス率を算出するステップと、薬剤のクリアランス率に基づいて、患者の血流中の薬剤の濃度を時間の関数として求めるステップであって、それによって、患者の血流中の薬剤の量を時間の関数としてモニタリングする、該ステップと、特定の時点での患者の血流中の薬剤の量を、予め定められた治療有効濃度と比較するステップであって、それによって、患者が治療有効量の薬剤の投与を治療有効期間にわたって受けているか否かを判定する、該ステップと、を含む。本開示の方法は、特定の時点での患者の血流中の薬剤の濃度が治療有効濃度よりも低い場合には、患者が、その時点において、治療有効量の薬剤の投与を受けていないと判定する。本開示の方法は、特定の時点での患者の血流中の薬剤の濃度が治療有効濃度以上である場合には、患者が、その時点において、治療有効量の薬剤の投与を受けていると判定する。
【0030】
いくつかの態様では、患者が、その時点において、治療有効量の薬剤の投与を受けていないと判定された場合、本開示の方法は、患者に少なくとも1回分の薬剤を投与するステップをさらに含む。
【0031】
本明細書で使用するとき、「クリアランス率」または「クリアランス」という用語は、患者の血流から老廃物が除去される速さ及び/または効率を指す。また、この用語は、患者の血流から様々な薬剤が除去される速さ及び/または効率を指す。CRRTを受けている患者の腎臓は血液をろ過しないので、患者は、腎機能を評価するためのGFR値を持たない。
【0032】
蛍光剤から放出されたスペクトルエネルギーの変化をモニタリングするときは、所定期間での変化率を求める。スペクトルエネルギーの変化率を算出するためには、少なくとも2つの異なる時点が利用される。そのため、スペクトルエネルギーの変化をモニタリングする期間は、クリアランス率の測定に影響を与える。モニタリングの期間が短すぎると、最適なデータが得られない。一方、モニタリングの期間が長すぎると、この方法は、日常的な使用には実用的ではなくなる。いくつかの態様では、モニタリングの期間は、1分未満、2分未満、5分未満、10分未満、15分未満、30分未満、45分未満、60分未満、90分未満、120分未満、150分未満、または180分未満である。いくつかの態様では、モニタリングの期間は、1~180分の範囲である。いくつかの態様では、モニタリングの期間は、3時間未満、6時間未満、12時間未満、18時間未満、24時間未満、36時間未満、48時間未満、60時間未満、または72時間未満である。いくつかの態様では、モニタリングの期間は、蛍光剤がもはや検出不能できなくなり、検出されたスペクトルエネルギーがベースライン値に戻るような時間である。
【0033】
本明細書中で使用するとき、「薬剤の投与処方を調節する」とは、薬剤の投与に関連する少なくとも1つのパラメータを変更することを指す。非限定的な例では、薬剤の投与処方を調節する方法の1つは、患者に薬剤を投与する量及び/または頻度を増加させることである。他の非限定的な例として、静脈内に投与される薬剤の場合、患者に薬剤を投与する期間または静脈注射用溶液の流量を増加または減少させることができる。別の非限定的な例として、静脈内に投与される薬剤の場合、静脈注射用溶液中の薬剤の濃度を増加または減少させることができる。別の非限定的な例として、経口投与される薬剤の場合、患者に投与する用量及び/または頻度を変更することができる。薬剤の投与処方を変更することができる他の方法も本開示において想定され、そのような方法も本開示に包含される。いくつかの場合では、患者はすでに治療有効量の薬剤の投与を受けており、したがって、薬剤の投与処方の調節を必要としない。
【0034】
本明細書中で使用するとき、「患者の血流への蛍光剤の投与」とは、蛍光剤を患者に投与し、患者の血流に到達させることができる任意の既知の方法を包含する。具体的な方法としては、これに限定しないが、例えば、静脈内投与、ボーラス注射、経口投与、座薬、皮下注射、及び皮内注射などが挙げられる。いくつかの態様では、蛍光剤は、静脈内投与によって投与される。いくつかの態様では、蛍光剤は、ボーラス注射によって投与される。いくつかの態様では、蛍光剤は、経口投与によって投与される。いくつかの態様では、蛍光剤は、座薬として投与される。いくつかの態様では、蛍光剤は、皮下注射によって投与される。いくつかの態様では、蛍光剤は、皮内注射によって投与される。具体的な投与方法は、患者の医療上のニーズ及び状態に基づき、患者の治療を実施、監督及び/または指示する医療専門家によって選択される。
【0035】
いくつかの態様では、蛍光剤に可視光または赤外光を照射することは、腎モニタリングアセンブリを患者の皮膚に配置することを含む。いくつかの態様では、腎モニタリングアセンブリは、本明細書の別の箇所に記載されている通りである。
【0036】
CRRT様式
【0037】
持続的腎代替療法(CRRT)は、患者の治療に使用される血液濾過方法である。CRRTには、緩徐持続的限外濾過(SCUF)、持続的静脈血液濾過(CVVH)、持続的静脈血液透析(CVVHD)、及び、持続的静脈血液濾過透析(CVVHDF)の4つの様式がある。本開示の方法は、上記の4つの様式の全てでの使用に適している。使用される特定のCRRT様式は、患者の医学的状態と、患者の治療を実施、監督、及び/または指示する医療専門家の評価とに基づいて決定される。
【0038】
緩徐持続的限外濾過(SCUF)とは、患者の血液がフィルタを通過したときに、血液から水分を除去する様式を指す。これは、限外濾過と呼ばれるプロセスであり、過剰な水分のみを除去するように設計されている。除去される水分の量は、一般的に、AKI患者に蓄積した廃棄物を除去するのに十分ではない。SCUFの目的は、老廃物の除去及び/またはpH調節を必要としない場合に、患者の体液量過剰を予防または治療することである。
【0039】
持続的静脈血液濾過(CVVH)とは、患者の血流から老廃物を除去する目的で、フィルタ膜を通して大量の水分を除去する様式を指す。大量の水分を、フィルタ膜を通過させると、溶質も水分とともに移動する(対流)。血液濾過とは、限外濾過中に除去された過剰な血漿水分の上部及び上側から水分を除去することである。血液量減少を防ぐために、血液濾過中に除去された水分は、正味マイナスの体液除去が望まれる場合を除き、血液が患者に戻される前に、等量の平衡溶液で戻す。これは、補液と呼ばれ、置換液を使用する。血液のpHは、置換液(すなわち、補充液)中に含まれる緩衝剤の影響を受ける。そして、血液と置換液との濃度差によって対流が起こる。CVVHは、主に、高分子量の物質(タンパク質など)の除去が望まれる場合や、患者に尿毒症、pH不均衡、及び/または電解質不均衡の兆候が見られる場合に使用される。
【0040】
持続的静脈血液透析(CVVHD)とは、透析液をフィルタキャニスター内に注入し、血液が充填されたフィルタセグメントを取り囲むようにする様式を指す。透析フィルタの膜を通過できる大きさの溶質は、高濃度領域から低濃度領域へ移動(拡散)する。透析液の組成によって、患者の血流から除去することができる溶質、または、患者の血流に添加することができる溶質が決定される。患者の血流から溶質を除去するためには、透析液中の溶質濃度を血流中の溶質濃度よりも低くする必要がある。患者の血流に溶質を添加するためには、透析液中の溶質濃度を血流中の溶質濃度よりも高くする必要がある。CVVHDは、血液濾過を行わずに(補充液を使用せずに)、拡散によって老廃物を除去する。CVVHDは、患者からの体液除去を伴ってまたは伴わないで行うことができる。血液のpHは、透析液中に含まれる緩衝剤の影響を受ける。そして、血液と透析液との濃度差によって拡散が起こる。CVVHDは、主に、体液量を安全に管理しながら、患者の血液から溶質を除去する場合に使用される。CVVHDが使用される主な病状としては、尿毒症、pH不均衡、電解質不均衡などが挙げられる。
【0041】
持続的静脈血液濾過透析(CVVHDF)とは、透析と血液濾過とを組み合わせた様式を指す。CVVHDFは、透析液及び補充液の両方の使用を含み、患者からの体液除去を伴ってまたは伴わないで行うことができる。血液のpHは、透析液または置換液中に含まれる緩衝剤の影響を受ける。血液と透析液及び補充液との濃度差によって、老廃物の除去が行われる(対流及び拡散の両方によって)。低分子(尿素など)も除去できるが、高分子量の分子(タンパク質など)を除去したい場合に最もよく使用される。CVVHDFが使用される主な病状としては、尿毒症、pH不均衡、電解質不均衡などが挙げられる。
【0042】
CRRTの全ての様式において、血液は、患者からCRRT装置内に吸引され、患者の医療ニーズ及びCRRT装置の能力に応じて処理され、その後、患者に戻される。血流の流量は、患者の医療ニーズと、使用されるCRRT様式とによって決定される。いくつかの態様では、血流流量は、約25mL/分、約50mL/分、約75mL/分、約100mL/分、約125mL/分、約150mL/分、約175mL/分、約200mL/分、約225mL/分、約250mL/分、約275mL/分、または約300mL/分である。さらに別の態様では、CRRT様式における血流流量は、約25~400mL/分、約50~350mL/分、または約50~350mL/分である。
【0043】
流出液を使用するCRRT様式では、流出液の流量は、プロセス効率、及び、患者の血液から老廃物を除去する量に影響を与える因子の1つである。いくつかの態様では、流出液の流量は、約5mL/kg/時間、約10mL/kg/時間、約15mL/kg/時間、約20mL/kg/時間、約25mL/kg/時間、約30mL/kg/時間、約35mL/kg/時間、約40mL/kg/時間、約45mL/kg/時間、約50mL/kg/時間、約55mL/kg/時間、約60mL/kg/時間、約75mL/kg/時間、または約100mL/kg/時間である。さらに別の態様では、流出液の流量は、約5m~100mL/kg/時間、約10~50mL/kg/時間、または約25~40mL/kg/時間である。いくつかの態様では、成人患者(すなわち、18歳以上)の流出液の流量は、約25~40mL/kg/時である。流出液の流量は、患者の医学的状態と、患者の治療を管理、監督、及び/または指示する医療専門家の評価とに基づいて選択される。
【0044】
いくつかの場合では、子供に対してCRRTを実施することが必要とされる。子供に対してCRRTを実施する場合、流出液を使用するCRRT様式では、流出液の流量は、約500mL/1.73m2/時間、約1000mL/1.73m2/時間、約1500mL/1.73m2/時間、約2000mL/1.73m2/時間、約2500mL/1.73m2/時間、約3000mL/1.73m2/時間、約3500mL/1.73m2/時間、または約4000mL/1.73m2/時間である。さらに別の態様では、流出液の流量は、約500m~4000mL/1.73m2/時間、または約2000~3000mL/1.73m2/時間である。いくつかの態様では、18歳未満で体重が約70kg未満の子供の場合、流出液の流量は、約2000~約3000mL/1.73m2/hrである。本明細書で使用するとき、子供は、18歳未満であり、体重は約70kg未満である。
【0045】
蛍光剤
【0046】
本開示の方法で使用するのに適した蛍光分子は、特許文献1及び2に開示されている(これらの特許文献の開示内容の全体は、参照により本明細書中に援用される)。いくつかの態様では、蛍光剤は、糸球体濾過によって患者の体内から除去される。いくつかの態様では、蛍光剤は、糸球体濾過によってのみ患者の体内から除去される。
【0047】
一態様では、蛍光剤は、下記の化学式Iで表されるピラジン誘導体、またはその薬学的に許容される塩である。
【0048】
【0049】
式中、
X1及びX2は、互いに独立して、-CN、-CO2R1、-CONR1R2、-CO(AA)、-CO(PS)、及び、-CONH(PS)からなる群から選択され、
Y1及びY2は、互いに独立して、NR1R2、及び、
【0050】
【0051】
からなる群から選択され、
Z1は、単結合、-CR1R2-、-O-、-NR1-、-NCOR1-、-S-、-SO-、及び、-SO2-からなる群から選択され、
R1及びR2は、互いに独立して、H、-CH2(CHOH)aH、-CH2(CHOH)aCH3、-CH2(CHOH)aCO2H、-(CHCO2H)aCO2H、-(CH2CH2O)cH、-(CH2CH2O)cCH3、-(CH2)aSO3H、-(CH2)aSO3
-、-(CH2)aSO2H、-(CH2)aSO2
-、-(CH2)aNHSO3H、-(CH2)aNHSO3
-、-(CH2)aNHSO2H、-(CH2)aNHSO2
-、-(CH2)aPO4H3、-(CH2)aPO4H2
-、-(CH2)aPO4H2-、-(CH2)aPO4
3-、-(CH2)aPO3H2、-(CH2)aPO3H-、及び、-(CH2)aPO3
2-からなる群から選択され、
AAは、ペプチド結合またはアミド結合によって互いに結合された1以上の天然または非天然のアミノ酸を含むポリペプチド鎖であり、AAの各々は、互いに同一であってもよいし異なっていてもよく、
PSは、グリコシド結合によって互いに結合された1以上の単糖単位を含む硫酸化多糖鎖または非硫酸化多糖鎖であり、
aは、0~10の範囲の数であり、
cは、1~100の範囲の数であり、
m及びnは、互いに独立して、1~3の範囲の数である。
【0052】
別の態様では、aは、1~10の範囲の数である。さらに別の態様では、aは、0、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10である。
【0053】
(AA)は、ペプチドまたはアミド結合によって互いに結合された1以上の天然または非天然のアミノ酸を含むペプチド鎖である。ペプチド鎖(AA)は、単一のアミノ酸、ホモポリペプチド鎖、またはヘテロポリペプチド鎖であり得、任意の適切な長さを有し得る。いくつかの実施形態では、天然または非天然のアミノ酸は、α-アミノ酸である。さらに別の態様では、α-アミノ酸は、D-α-アミノ酸またはL-α-アミノ酸である。2以上のアミノ酸を含むポリペプチド鎖において、全ての態様において、各アミノ酸は、互いに独立して、これに限定しないが、側鎖構造及び立体化学構造から選択される。例えば、いくつかの実施形態では、ポリペプチド鎖は、1~100個のアミノ酸、1~90個のアミノ酸、1~80個のアミノ酸、1~70個のアミノ酸、1~60個のアミノ酸、1~50個のアミノ酸、1~40個のアミノ酸、1~30個のアミノ酸、1~20個のアミノ酸、または1~10個のアミノ酸を含み得る。いくつかの実施形態では、ポリペプチド鎖は、1~100個のα-アミノ酸、1~90個のα-アミノ酸、1~80個のα-アミノ酸、1~70個のα-アミノ酸、1~60個のα-アミノ酸、1~50個のα-アミノ酸、1~40個のα-アミノ酸、1~30個のα-アミノ酸、1~20個のα-アミノ酸、または1~10個のα-アミノ酸を含み得る。いくつかの実施形態では、アミノ酸は、D-アラニン、D-アルギニン、D-アスパラギン、D-アスパラギン酸、D-システイン、D-グルタミン酸、D-グルタミン、グリシン、D-ヒスチジン、D-ホモセリン、D-イソロイシン、D-ロイシン、D-リジン、D-メチオニン、D-フェニルアラニン、D-プロリン、D-セリン、D-トレオニン、D-トリプトファン、D-チロシン、及びD-バリンからなる群から選択される。いくつかの実施形態では、ポリペプチド鎖(AA)のα-アミノ酸は、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、グルタミン酸、グルタミン、ヒスチジン、ホモセリン、リジン、及びセリンからなる群から選択される。
いくつかの実施形態では、ポリペプチド鎖(AA)のα-アミノ酸は、アスパラギン酸、グルタミン酸、ホモセリン、及びセリンからなる基から選択される。いくつかの実施形態では、ポリペプチド鎖(AA)は、単一のアミノ酸(例えば、D-アスパラギン酸またはD-セリン)を指す。
【0054】
(PS)は、グリコシド結合によって互いに結合された1以上の単糖単位を含む硫酸化多糖鎖または非硫酸化多糖鎖である。多糖鎖(PS)は、任意の適切な長さを有し得る。例えば、いくつかの実施形態では、多糖鎖は、1~100個の単糖単位、1~90個の単糖単位、1~80個の単糖単位、1~70個の単糖単位、1~60個の単糖単位、1~50個の単糖単位、1~40個の単糖単位、1~30個の単糖単位、1~20個の単糖単位、または1~10個の単糖単位も含み得る。いくつかの実施形態では、多糖鎖(PS)は、ペントース単糖単位またはヘキソース単糖単位からなるホモ多糖鎖である。別の実施形態では、多糖鎖(PS)は、ペントース単糖単位及びヘキソース単糖単位の一方または両方からなるヘテロ多糖鎖である。いくつかの実施形態では、多糖鎖(PS)の単糖単位は、グルコース、フルクトース、マンノース、キシロース、及びリボースからなる群から選択される。いくつかの実施形態では、多糖鎖(PS)は、単一の単糖単位を指す(例えば、グルコースまたはフルクトース)。さらに別の態様では、多糖鎖は、その糖上の1以上のヒドロキシ基がアミン基で置換されたアミノ糖である。カルボニル基との結合は、アミンまたはヒドロキシ基を介して行うことができる。
【0055】
化学式Iで表したピラジン誘導体は、いずれの態様においても、その1以上の原子を、代替的に、同一元素の同位体標識原子で置換してもよい。例えば、水素原子は、重水素またはトリチウムで同位体標識することができ、炭素原子は、13Cまたは14Cで同位体標識することができ、窒素原子は、14Nまたは15Nで同位体標識することができる。同位体標識は、安定同位体であってもよいし、不安定同位体(すなわち、放射性同位体)であってもよい。ピラジン分子は、1以上の同位体標識を含み得る。同位体標識は、部分的であってもよいし、全体的であってもよい。例えば、ピラジン分子を50%重水素で標識することによって、質量分析または他の技術によって容易にモニタリングすることができるシグネチャをピラジン分子に付与することができる。別の例として、ピラジン分子をトリチウムで標識することによって、当技術分野で既知の技術を用いてインビボ及びエクスビボの両方でモニタリングすることができる放射性シグネチャをピラジン分子に付与することができる。
【0056】
いくつかの実施形態では、蛍光剤は、下記の化学式で表される化合物、すなわち、(2R、2´R)-2、2´-((3、6-ジアミノピラジン-2、5-ジカルボニル)ビス(アザンジイル))ビス(3-ヒドロキシプロパン酸)(MB-102、または、3、6-ジアミノ-N2、N5-ビス(D-セリン)-ピラジン-2、5-ジカルボキサミドとしても知られる)、またはその薬学的に許容可能な塩である。
【0057】
【0058】
いくつかの実施形態では、蛍光剤は、下記の化学式で表される化合物、すなわち、(2S、2´S)-2、2´-((3、6-ジアミノピラジン-2、5-ジカルボニル)ビス(アザンジイル))ビス(3-ヒドロキシプロパン酸)(3、6-ジアミノ-N2、N5-ビス(L-セリン)-ピラジン-2、5-ジカルボキサミドとしても知られる)、またはその薬学的に許容可能な塩である。
【0059】
【0060】
さらに別の態様では、適切な蛍光剤は、アクリジン、アクリドン、アントラセン、アントラサイクリン、アントラキノン、アザアズレン、アゾアズレン、ベンゼン、ベンズイミダゾール、ベンゾフラン、ベンゾインドカルボシアニン、ベンゾインドール、ベンゾチオフェン、カルバゾール、クマリン、シアニン、ジベンゾフラン、ジベンゾチオフェン、ジピロロ染料、フラボン、イミダゾール、インドカルボシアニン、インドシアニン、インドール、イソインドール、イソキノリン、ナフタセンジオン、ナフタレン、ナフトキノン、フェナントレン、フェナントリジン、フェナントリジン、フェノセレナジン、フェノチアジン、フェノキサジン、フェニルキサンテン、ポリフルオロベンゼン、プリン、ピラジン、ピラゾール、ピリジン、ピリミドン、ピロール、キノリン、キノロン、ローダミン、スクアライン、テトラセン、チオフェン、トリフェニルメタン染料、キサンテン、キサントン、及びそれらの誘導体からなる群から選択される。
【0061】
薬学的に許容可能な塩は、当技術分野で既知である。いずれの態様においても、化学式Iで表した化合物は、薬学的に許容可能な塩の形態であり得る。非限定的な例として、薬学的に許容可能な塩としては、参照によりその教示内容の全体が本明細書に援用されるBergeらによる「J.Pharm.Sci.、66(1)、1(1977)」に記載されたものが挙げられる。薬学的に許容可能な塩は、カチオン性であってもよいし、アニオン性であってもよい。いくつかの実施形態では、薬学的に許容可能な塩の対イオンは、酢酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、安息香酸塩、ベシル酸塩、重炭酸塩、酒石酸水素塩、臭化物、エデト酸カルシウム、カンシル酸塩、炭酸塩、塩化物、クエン酸塩、二塩酸塩、エデト酸塩、エジシル酸塩、エステル酸塩、エシル酸塩、フマル酸塩、グルセプチン酸塩、グルコン酸塩、グルタミン酸塩、グリコリルアルサニル酸塩、ヘキシルレゾルシン酸塩、ヒドラバミン酸塩、塩酸塩、ヒドロキシナフトエ酸塩、ヨウ化物、イソチオン酸塩、乳酸塩、ラクトビオン酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、マンデル酸塩、メシル酸塩、臭化メチル、硝酸メチル、硫酸メチル、ムチン酸塩、ナプシル酸塩、硝酸塩、パモ酸塩、パントテン酸塩、リン酸塩、二リン酸塩、ポリガラクツロン酸塩、サリチル酸塩、ステアリン酸塩、塩基性酢酸塩、コハク酸塩、硫酸塩、タンニン酸塩、酒石酸塩、テオクル酸塩、トリエチオダイド、アジピン酸塩、アルギン酸塩、アミノサリチル酸、アンヒドロメチレンクエン酸塩、アレコリン、アスパラギン酸、重硫酸塩、臭化ブチル、カンホレート、ジグルコン酸塩、二臭化水素酸塩、二コハク酸塩、グリセロリン酸塩、ジェミ硫酸塩(jemisulfate)、ジュドロフッ化物(judrofluoride)、ジュドロヨウ化物(judroiodide)、メチレンビス(サリチル酸塩)、ナパジシル酸塩、シュウ酸塩、ペクチン酸塩、過硫酸塩、フェニルエチルバルビツール酸塩、ピクリン酸塩、プロピオン酸塩、チオシアン酸塩、トシル酸塩、ウンデカン酸塩、ベンザチン、クロロプロカイン、コリン、ジエタノールアミン、エチレンジアミン、メグルミン、プロカイン、ベネタミン、クレミゾール、ジエチルアミン、ピペラジン、トロメタミン、アルミニウム、カルシウム、リチウム、マグネシウム、カリウム、亜鉛ナトリウム、バリウム、及びビスマスからなる群から選択される。塩を形成することができる蛍光剤の官能基は、任意選択で、当技術分野で既知の方法を用いて形成することができる。非限定的な例として、塩酸アミン塩は、ピラジンに塩酸を添加することによって形成することができる。リン酸塩は、ピラジンにリン酸緩衝剤を添加することによって形成することができる。スルホン酸、カルボン酸、またはホスホン酸などの存在する任意の酸性官能基は、適切な塩基及び形成された塩で脱プロトン化することができる。あるいは、アミン基を適切な酸でプロトン化してアミン塩を形成してもよい。塩の形態は、単一に荷電されていてもよく、二重に荷電されていてもよく、または三重に荷電されていてもよく、2以上の対イオンが存在する場合、各対イオンは、他の対イオンの各々と同一であってもよいし異なっていてもよい。
【0062】
CRRTを受けている患者は、様々な疾患、これに限定しないが、例えば、慢性腎臓病(CKD)、急性腎障害(AKI)、急性腎不全、多臓器不全、心不全・浮腫、急性膵炎、劇症肝炎、肝不全などを患っている場合が多い。そのため、これらの疾患に関連する症状を治療するために、一般的に、1以上の薬剤が大量に投与される。CRRTを受けている患者の治療に有用な任意の薬剤が、本明細書に包含される。CRRTを受けている患者の治療に有用な既知の薬剤の例としては、これに限定しないが、例えば、抗生物質、抗凝固剤、抗痙攣剤、抗真菌剤、抗腫瘍剤、抗精神病剤、抗ウイルス剤、免疫抑制剤、筋弛緩剤、鎮静剤、及び血管作動剤(例えば、強心剤、血管拡張剤、血管収縮剤)などが挙げられる。いくつかの態様では、患者は、少なくとも1つの抗生物質の投与を受けている。いくつかの態様では、患者は、少なくとも1つの抗凝固剤の投与を受けている。いくつかの態様では、患者は、少なくとも1つの抗真菌剤の投与を受けている。いくつかの態様では、患者が、少なくとも1つの抗悪性腫瘍剤の投与を受けている。いくつかの態様では、患者は、少なくとも1つの抗精神病剤の投与を受けている。いくつかの態様では、患者は、少なくとも1つの抗ウイルス剤の投与を受けている。いくつかの態様では、患者は、少なくとも1つの免疫抑制剤の投与を受けている。いくつかの態様では、患者は、少なくとも1つの筋弛緩剤の投与を受けている。いくつかの態様では、患者は、少なくとも1つの鎮静剤の投与を受けている。いくつかの態様では、患者は、少なくとも1つの血管作動剤の投与を受けている。
【0063】
患者が少なくとも1つの抗生物質の投与を受けているいくつかの態様では、少なくとも1つの抗生物質は、アシクロビル、アミカシン、アモキシシリン、アムホテリシンB、アンピシリン、アズトレオナム、セファゾリン、セフェピム、セフォタキシム、セフォテタン、セフォキシチン、セフタロリン、セフタジジム、セフトリアキソン、セフロキシム、シプロフロキサシン、クリンダマイシン、ダプトマイシン、ドリペネム、エルタペネム、フルコナゾール、ホスカビル、ガンシクロビル、ゲンタマイシン、イミペネム、レボフロキサシン、リネゾリド、メロペネム、メチシリン、モキシフロキサシン、ナフシリン、オセルタミビル、ピペラシリン、リファンピン、スルバクタム、タゾバクタム、テラバンシン、チゲサイクリン、トブラマイシン、トリメトプリム、バンコマイシン、及びこれらの任意の組み合わせからなる群から選択される。
【0064】
いくつかの態様では、患者は、2以上の薬剤の投与を受けている。いくつかの態様では、患者は、3以上の薬剤の投与を受けている。いくつかの態様では、患者は、同じクラスの薬剤から2以上の薬剤の投与を受けている。例えば、患者は、2つの異なる抗生物質の投与を受けていてもよい。いくつかの態様では、患者は、同じクラスの薬剤から2つの薬剤の投与を受けている。例えば、患者は、抗生物質と抗凝固薬の投与を受けていてもよい。いくつかの態様では、薬剤は、腎クリアランスによって患者の血流から除去される。いくつかの態様では、薬剤は、腎クリアランスによってのみ患者の血流から除去される。
【0065】
いくつかの態様では、蛍光剤は、少なくとも1つの薬剤と同時に投与される。いくつかの態様において、蛍光剤は、少なくとも1つの薬剤と順次に投与される。順次投与の場合には、蛍光剤または薬剤の一方が最初に投与される。蛍光剤の投与と薬剤の投与との間の期間は、薬剤を投与する医療従事者にとって都合がよく、かつ本開示の方法の使用を可能にする任意の期間である。いくつかの態様では、蛍光剤の投与と薬剤の投与との間の期間は、1分未満、5分未満、15分未満、30分未満、60分未満、2時間未満、5時間未満、12時間未満、24時間未満、36時間未満、または48時間未満である。いくつかの態様では、蛍光剤の投与と薬剤の投与との間の期間は、1分~48時間である。本明細書で使用するとき、「同時」は、文字通りの定義を用いる。例えば、蛍光剤と薬剤とを単一の剤形(例えば、静注注射またはボーラス注射)で組み合わせて、単一の単位として投与する。
【0066】
腎モニタリングアセンブリ
【0067】
本開示の方法で使用するための腎モニタリングアセンブリを含む適切なシステムの1つは、特許文献3に開示されている(この特許文献の開示内容の全体は、参照により本明細書中に援用される)。
【0068】
例えばヒト患者での使用に適したインビボ腎モニタリングアセンブリ10の一般化された一例を、
図1及び
図2に示す。インビボ腎モニタリングアセンブリ10は、光源12と、データ処理システム14とを備える。光源12は、一般的に、患者の身体の少なくとも一部を光に照射するための適切な光照射装置を備えているか、または該光照射装置に相互接続されている。光源12に相互接続されるか、または光源12の一部を構成する適切な光照射装置の例としては、これに限定しないが、例えば、カテーテル、内視鏡、光ファイバ、イヤークリップ、ハンドバンド、ヘッドバンド、前額センサ、表面コイル、及びフィンガープローブなどが挙げられる。実際に、光源の可視光及び/または近赤外光を放射することができる様々な装置のうちの任意のものを、腎モニタリングアセンブリ10で使用することができる。一態様では、光源は、複数のLEDを含み、蛍光剤の最大吸光波長の付近の波長で光を放射する第1のLEDと、蛍光剤の最大発光波長の付近の波長で光を放射する第2のLEDとを含む。例えば、第1のLEDは450nmで光を放射するが、第2のLEDは560nmで光を放射する。
【0069】
引き続き
図1及び
図2を参照して、腎モニタリングアセンブリ10のデータ処理システム14は、スペクトルエネルギーを検出することができ、かつ、スペクトルエネルギーを示すデータを処理することができる任意の適切なシステムであり得る。例えば、データ処理システム14は、1以上のレンズ(例えば、スペクトルエネルギーを導くため、及び/またはスペクトルエネルギーの焦点を合わせるために使用する)、1以上のフィルタ(例えば、スペクトルエネルギーの不要な波長を除去するために使用する)、フォトダイオードまたは光電子増倍管(例えば、スペクトルエネルギーを収集して、それを電気信号に変換するために使用する)、増幅器(例えば、フォトダイオードまたは光電子増倍管からの電気信号を増幅するために使用する)、及び、処理ユニット(例えば、フォトダイオードまたは光電子増倍管からの電気信号を処理するために使用する)を含み得る。データ処理システム14は、収集されたスペクトルデータを処理して、本開示の蛍光剤の患者20からの腎クリアランスを示す強度/時間プロファイル、及び/または、濃度/時間曲線を生成するように構成されていることが好ましい。実際に、データ処理システム14は、正常細胞と障害細胞との、血流から蛍光剤を除去する態様の差異を比較することによって適切な腎機能データを生成する、患者20の器官または組織における蛍光剤の蓄積量を測定する、及び/または、蛍光剤が蓄積した器官または組織の断層画像を提供する、ように構成され得る。
【0070】
非限定的な例として、本システムは、一態様では、2つのシリコン光電子増倍管を含む。第1の光電子増倍管はロングパスフィルタを有しているが、第2の光電子増倍管はフィルタを有していない。この構成により、励起波長及び発光波長における蛍光発光及び拡散反射の両方を測定することができる。このような一実施形態では、蛍光発光及び拡散反射の測定値は、組織の光学特性のばらつきを補償する固有の蛍光測定値に組み合わされる。
【0071】
本開示の方法の一態様では、有効量の蛍光剤が、測定対象の患者に投与にされる(例えば、薬学的に許容される組成物の形態で)。患者20の身体の少なくとも一部は、矢印16で示すように、光源12から可視光及び/または近赤外光を照射される。例えば、光源12からの光は、患者20の耳に取り付けられた光ファイバを介して導かれ得る。患者は、患者20への蛍光剤の投与前または投与後に、光源12から光が照射される。いくつかの場合では、患者20に蛍光剤を投与する前に、(光源12からの光の照射に起因して)患者20の身体から放射された光のバックグラウンドまたはベースラインの測定値を生成することが有益であり得る。患者20の体内の蛍光剤が、光源12から照射された光に曝露されると、蛍光剤は光を発し(矢印18で示す)、その光は、データ処理システム14によって検出/収集される。まず、患者20に蛍光剤を投与すると、一般的に、患者20における蛍光剤の初期含有量を示す初期スペクトル信号が得られる。このスペクトル信号は、その後、蛍光剤が患者20から除去されるにしたがって、時間の関数として減衰する傾向がある。このスペクトル信号における、時間経過に伴う減衰は、患者の腎機能を示している。加えて、蛍光剤が患者の脈管性間隙内に注入されると、初期動態は、患者の細胞外空間全体への蛍光剤の平衡化を反映する。いくつかの態様では、この平衡化は2時間未満で完了する。
【0072】
実施例
【0073】
MB-102の吸着
【0074】
第1段階として、化合物MB-102が、ヘモダイアフィルタ(hemodiafilter)、チューブ、またはCRRT装置の他の部分に吸着するか否かを調べた。この試験では、持続的静脈血液濾過(CVVH)構成を用いて、pH調節された1Lのクエン酸塩-抗凝固ウシ血液を使用して検証済みのインビトロCVVHモデルで、MB-102の吸着クリアランスを評価した。Braun DIAPACT(TR)CRRTシステムを使用して、互いに異なる2つのヘモダイアフィルタ、すなわち、HF1400ヘモダイアフィルタ及びM150ヘモダイアフィルタを試験した。各実験で、新しいウシ血液、ヘモダイアフィルタ、及びCRRTチューブセットを使用した。全ての実験の間、血液を連続的に撹拌し、水浴中で37°Cに維持した。再構成したMB-102を血液に添加して、最終濃度が約6.2mg/Lとなるようにした。尿素を対照として使用し、血中尿素窒素(BUN)濃度が約75mg/dLとなるように血液に添加した。200mL/分の血液流量、及び、33mL/分の限外濾過流量(Quf)で試験を行った。これにより、血液側と、ヘモダイアフィルタ膜を介した対流側との両方で、MB-102と膜との接触を最大にした。体外システムにおいて一定の容積を維持するために、閉鎖系を開発した。血液量を一定に保つために、濾液(流出液)は、フィルタ後の補充液として血液に戻して使用した。手術前に、CRRT装置内に残留したプライミング溶液によって尿素やMB-102が希釈されることを考慮して、CRRT装置を生理食塩水でプライミングした。血液試料を、0分(ベースライン)、5分(この時点で混合が完了する)、10分、20分、30分、及び60分の時点で、プレフィルタポートから採取した。各実験は、新しいヘモダイアフィルタ及びチューブセットを使用して6回繰り返した。
【0075】
吸着率及び希釈倍率は、下記の式を用いて算出した。
【0076】
【0077】
式中、C0は、0分の時点でのフィルタ前のMB-102の濃度であり、C60は、60分の時点でのプレフィルタ(pre-filter)中のMB-102の濃度である。
【0078】
【0079】
式中、[Urea0]は、0分の時点でのプレフィルタにおける尿素の濃度であり、[Urea60]は、60分の時点でのプレフィルタにおける尿素の濃度である。
【0080】
持続的静脈血液濾過(CVVH)
【0081】
CVVH試験は、
図5に示すCVVHシステムのモデルを使用して実施した。尿素及びMB-102のCL
TMを、様々な血流流量、限外濾過流量(Q
uf)、及びヘモダイアフィルタ(表1)で評価した。閉ループシステムでは、使用後の濾液は、ヘモダイアフィルタの下流側の採取ポートの下流で、濾過後の補充液として、血液に戻された。ヘモダイアフィルタの上流側及び下流側の血液試料及び濾液試料を同時に採取した。各ヘモダイアフィルタについて6回の実験を行った。各実験で、新しいヘモダイアフィルタ及びCRRT装置を使用した。ふるい係数(S
C)及びCL
TMは、下記の式を用いて算出した。
【0082】
【0083】
式中、SCは、ふるい係数であり、Cufは、濾液中の溶質の濃度であり、Caは、プレフィルタ中の溶質の濃度であり、Cvは、ポストフィルタ(post-filter)中の溶質の濃度である。
【0084】
【0085】
式中、CLconvは、ポストフィルタリプレイスメント(post-filter replacement)の対流クリアランスであり、QUFは、限外濾過率である。
【0086】
持続的静脈血液透析(CVVHD)
【0087】
CVVHD実験では、
図6に示すように、検証済みのインビトロCVVHDモデルを使用してCL
TMを評価した。一般的に使用される透析液流量16、33、50、及び100mL/分と、血液流量200mL/分とを用いた。透析液(流出液)は、製造者の指示に従って、重炭酸ナトリウム粉末(米国マサチューセッツ州ウォルサム所在のフレゼニウス・メディカル・ケア社(Fresenius Medical Care)製のNATURALYTE(登録商標)4000)と蒸留水とを45:1の比率で混合することによって調製した。血液にMB-102及び尿素を添加した後、体外循環回路を均一に被覆するために該回路を通して5分間再循環させた。4つの異なる流量でのCVVHD法の単回パスモードを、各ヘモダイアフィルタに対してランダムな順序で行った。血液試料を、フィルタの上流側及び下流側の採取ポートで採取した。また、4つの透析液流量の全てにおいて、CVVHD実験の開始5分後に、使用済み透析液の試料を使用済み透析液採取ポートから採取した。これらの実験は、新しいヘモダイアフィルタ及びCRRTチューブの6つのセットで行った。飽和係数(S
A)及びCL
TMは、下記の式を用いて算出した。
【0088】
【0089】
【0090】
式中、SAは、飽和係数であり、CUFは、透析液中の溶質の濃度であり、Caは、プレフィルタ中の溶質の濃度であり、CVは、ポストフィルタ中の溶質の濃度であり、CLdiffは、ポストフィルタリプレイスメントの拡散クリアランスであり、Qdは、透析液の流量である。
【0091】
薬剤のクリアランス率及び蛍光剤のクリアランス率は、様々な因子、これに限定しないが、例えば、患者の年齢及び健康、並びに、患者を治療するために使用されるCRRTモダリティの設定など、に基づいて決定される。このようなばらつきのため、いくつかの態様では、クリアランス率の値を正規化することにより、患者間及び異なるCRRTモダリティ間でより一貫性のある比較値を提供する。いくつかの態様では、薬剤のクリアランス率及び蛍光剤のクリアランス率を用いて、薬剤のクリアランス係数を算出する。薬剤のクリアランス係数は、薬剤のクリアランス率を蛍光剤のクリアランス率で割った値として定義される。クリアランス係数1は、CRRTモダリティによって薬剤及び蛍光剤が同じ割合で患者の身体から除去されることを示す。また、1未満のクリアランス係数は、CRRTモダリティによって薬剤が蛍光剤よりも少ない割合で患者の身体から除去されることを示す。これは、例えば、薬剤が、蛍光剤と比較して、血流中のタンパク質とより強固に結合している場合に起こり得る。
【0092】
試料分析
【0093】
全ての血液試料を採取し、3000rpmで10分間遠心分離した。血漿と流出液(濾液、透析液)の試料をクライオバイアル(冷結保存バイアル)に移し、分析するまで-80°Cで保存した。定量下限値が5mg/dLのAdvia1800(米国ニューヨーク州タリータウン所在のシーメンス・ヘルスケア・ダイアグノスティクス社(Siemens Healthcare Diagnostic Inc.)製)を使用して、BUN濃度(血清尿素窒素)を分析した。
【0094】
データ分析
【0095】
検出力分析の計算は、MB-102の吸着程度における25%の差を検出するためには、6回の実験が必要であることを示した。同様に、2つのヘモダイアフィルタ間におけるMB-102のCLTMの25%の差を検出するために、各ヘモダイアフィルタについて6回のCVVH実験及びCVVHD実験を行った。この計算に用いた仮定は、検出力90%、標準偏差10%、有意水準p<0.05であった。両側不対t検定を用いて、2つのヘモダイアフィルタ間の差を比較した。また、分散分析を用いて、各ヘモダイアフィルタの限外濾過流量(Quf)及び流出液流量(Qd)を比較した。
【0096】
結果
【0097】
吸着
【0098】
初期濃度から各試験の終了時(60分)までの尿素及びMB-102の濃度の変化率を表1に示す。MF1400ヘモダイアフィルタでは、MB-102の平均変化率(18.7%)と、尿素の平均変化率(19.5%)とは、同程度であった(p値=0.9)。M150ヘモダイアフィルタでも、MB-102の平均変化率(18.9%)と、尿素の平均変化率(19.3%)とは、同程度であった(p値=0.8)。尿素は、CRRT装置またはヘモダイアフィルタには吸着されないので、MB-102の濃度の減少は、プライミング溶液による希釈に起因すると考えられる。結果として、CRRT装置へのMB-102の吸着は観察されなかった。
【0099】
表1:尿素及びMB-102の各実験終了時の変化率
【0100】
【0101】
持続的血液濾過
【0102】
MB-102及び尿素のふるい係数(S
C)の平均値を表2に示す。全てのMB-102のS
C値は、両方のヘモダイアフィルタでの3つの異なる限外濾過流量(Q
uf)において、約1であった(
図3)。これは、MB-102が、濾液(流出液)の流量に関係なく、両方のヘモダイアフィルタ膜を容易に通過することを示している。実験中、MB-102及び尿素において、モダイアフィルタのタイプ間で有意差は認められなかった。MB-102のCL
TMは、持続的血液濾過中に、Q
ufと直接的な関係を有する(CL
TM=S
C×Q
uf)。S
Cは、Q
ufが上昇しても一定に維持されるので、Q
ufを増加させるとCL
TMが増加する。
【0103】
表2:CVVH実験中のMB-102及び尿素のふるい係数の平均値
【0104】
【0105】
持続的血液透析
【0106】
低流量(16~50mL/分)では、MB-102及び尿素の飽和係数(S
A)の平均値はほぼ同じであり、これは、MB-102が膜を自由に通過することを意味する(表3)。限外濾過流量(Q
uf)が最大量(100mL/分)である場合は、透析液(流出液)は、完全には飽和しない。したがって、100mL/分の透析液流量(Q
d)では、両方のヘモダイアフィルタにおいて、S
Aが低下する(
図4)。100mL/分のQ
dでは、HF1400ヘモダイアフィルタは、S
Aは、M150ヘモダイアフィルタよりも高くなり、したがって、CL
TMも、M150ヘモダイアフィルタよりも高くなる。
【0107】
表3:CVVHD実験中のMB-102及び尿素の飽和係数の平均値
【0108】
【0109】
このインビトロ実験は、MB-102は、CRRT装置またはヘモダイアフィルタのいずれにも結合せず、様々なCRRTモダリティ(CVVHとCVVHD)によって容易に除去されることを実証した。MB-102のふるい係数(SC)及び飽和係数(SA)は約1であり、尿素と同様であった。これは、MB-102は、その薬物動態パラメータ(タンパク質結合率0%、低分子量)により、ヘモダイアフィルタを自由に通過できることを示唆した。CVVHDでは、低透過性膜(M150)は、高流量(100mL/分;持続的低効率透析で観察されるものに近い)の透析液流量(Qd)において、SAの減少が見られ始める。
【0110】
ブタモデルでのCRRTによるMB-102のインビボクリアランス
【0111】
動物実験の準備
【0112】
体重35~40kgのブタ(CVVHモダリティとCVVHDモダリティの両方で、オス3匹、メス3匹)を用いた。このモデルでは、全ての腎動脈を結紮することにより、全機能的腎摘出を達成した。ブタは、到着後48時間以内に専門の獣医スタッフによって検査した。潜在する感染症または寄生虫症は、獣医の勧告に基づいて治療した。
【0113】
誤嚥リスクを減らすために、試験前に、ブタを一晩絶食させた(水は自由に与えた)。試験当日の朝、動物に推奨用量のテラゾール/キシラジン(またはケタミン/キシラジンの組み合わせ)を筋肉内注射して鎮静させ、手術室に搬送した。その後、ブタに、吸入マスクを用いて酸素中の5%イソフルランを吸入させ、麻酔した。さらなる投薬や静脈内輸液のための即座の静脈アクセスを提供するために、ブタの耳翼辺縁静脈にカテーテルを留置した。
【0114】
実験期間中に麻酔を維持するため、ブタに気管挿管し、イソフルラン濃度を1%~3%に低下させた。ブタは、10mL/kgの1回換気量での人工呼吸を施され、40±2mmHgのP(CO2)を維持するように呼吸数を調節した。3誘導心電図を使用して、心拍数と心拍リズムをモニタリングした。直腸サーミスタプローブを使用して中核体温(深部体温)を測定し、循環水ブランケットを用いて37~39°Cに維持した。
【0115】
腹側頚部、腹部、及び/または大腿部から体毛を除去し、これらの部位を無菌手術のために準備した。切開部位にリドカインを注射した。麻酔の手術面に到達したとき、切開部を介して右頸動脈にアプローチし、持続的血圧モニタリングのためにカニューレを挿入した。これにより、試験のため、並びに、呼吸ガス、酸塩基状態、及びグルコース濃度の測定のための血液試料の採取が容易になった。薬剤または補充液を注入するために、カテーテルを右頸静脈/大腿静脈に留置した。また、CVVH処置及びCVVHD処置の両方のために、11Frの血液透析カテーテルを左頸静脈に留置した。
【0116】
その後、正中開腹術によって、腹部を開いた。腎門を確認し、腎動脈または動脈の周囲に結紮タイを配置し、試験の必要条件に応じて部分結紮または全結紮を行った(全腎動脈の全結紮による全機能腎摘出術、及び、一方の腎臓を全機能腎摘出術し、他方の腎臓を部分結紮)。必要に応じて、その場で、腎臓の近位腎動脈の周囲に、血管周囲フロープローブを配置した。患部の出血の徴候を観察し、フロープローブの安定性を確認した。膀胱に巾着縫合糸を配置し、必要に応じて、尿採取及び定量化を目的としてFoleyカテーテルを前進させるために、小膀胱切開を行った。
【0117】
試験期間が長いので、組織の乾燥を防ぐために、適切な縫合材料を用いて腹部を2~3層に閉じた。縫合パターンにより、必要に応じて、機器を取り付けるためのチューブやフロープローブのラインを外部に延長することが可能となる。計装の完了後、ブタを安定させた。バイタルサインを継続的にモニタリングし、安定した時点で、CVVHまたはCVVHDのいずれかの実験を開始した。
【0118】
MB-102投与及びプロトコル
【0119】
MB-102投与前の血液試料(ベースライン)を採取した後、MB-102の全身再分布を可能にするために、6mg/kgの用量のMB-102を単回ボーラスで注射し、その後、90分間の平衡化を行った(腎モニタリングアセンブリによって検出された蛍光信号の平衡化については
図7及び
図13を参照されたい)。MB-102注射の30分後、メロペネム(薬剤)を30分間にわたって点滴した。点滴開始から約1時間後、メロペネムの血中濃度はピークに達した。メロペネムの平衡化後、CRRT(CVVHまたはCVVHDのいずれか)を、100mL/分の血液流量(BFR)、20mL/kg/時間の流出液流量で、90分間実施した(0分、30分、60分、90分の時点で試料を採取した)。流出液流量は、45分間の時間経過中に、35mL/kg/時間まで増加させた(15分、30分、45分の時点で試料を採取した)。これらの期間に採取した試料と、MB-102投与前に採取したベースライン(BSL)試料とを分析し、それらの測定値を用いて、計算されたクリアランス率をリアルタイムのMB-102クリアランス測定値と比較した。ベースライン(BSL)試料に加えて、低流量及び高流量の両方について、3つの回路位置(ヘモダイアフィルタの上流側[HF前]、ヘモダイアフィルタの下流側[HF後]、及び、流出液[UF/SD])において、7つの試料採取時点で試料を採取した。CRRT流量は、30分間の移行期間にわたって血液流量(BFR)が高流量(200mL/分)に移行するように、段階的に調節した。低流量及び高流量の両方の流量データセット(3つの回路位置での7つの試料採取時点での試料)において、同様の経時的試料採取を高流量で開始し、リアルタイムのクリアランス測定値と計算されたクリアランス率との同様の比較を可能にした。
【0120】
ヘパリンを全身投与し(初回は3~5mL(1、000U/mL)のヘパリンを注入し、その後は、1~2mL/時で点滴)、デュオゾール(35mEqの重炭酸、4mEqのK+、3mEqのCa++、及び、1g/Lのブドウ糖)を補充液(RF)として使用した。
【0121】
【0122】
CVVHの結果
【0123】
表4~5及び
図7~12に示すように、MB-102は、CVVHを受けている両側腎摘出術を受けたブタの血流から、6.90~13.11の範囲の腎崩壊時定数(RDTC)で除去される。RDTCは、CVVH装置における、血液及び流出液(濾液)の両方の流量の関数である。CVVHを開始する前に、MB-102は、
図7に示すように、血流濃度が定常状態になるまでビルドアップ(build up)した。CVVH処置中、血液流量及び流出液流量の両方を、グラフ中の4つの異なる領域で示すように変化させた(
図8及び
図9)。図示したように、CVVHは、血液流量及び流出液流量に応じた所定割合で、血流からMB-102を除去する。流出液流量を高くするほどRDTCは低くなり、MB-102のクリアランス率が高くなった。
図20に示すように、血流中のMB-102の濃度は、全ての血液流量及び流出液流量において、検出された蛍光強度と良好に相関した。
【0124】
患者の胸骨(
図10、
図11、表4)または胸部(
図12、表5)のいずれかに腎モニタリングアセンブリを配置したところ、実質的に同一(実験誤差内)の結果が得られた。
図11及び
図12は、線形ベストフィット計算及びCVVH処置中の時間曲線を拡大して示す。強度値の対数を取り、データを時間の関数としてプロットし、MATLAB(登録商標)の「ポリフィット」関数を用いて直線をフィットさせることにより、半対数フィットを得た。
【0125】
表4:患者の胸骨に配置した腎モニタリングアセンブリで測定したCVVH中のQLS25のRDTC及びGFR(
図10及び
図11)
【0126】
【0127】
表5:患者の胸部に配置した腎モニタリングアセンブリで測定したCVVH中のQLS26のRDTC及びGFR(
図12)
【0128】
【0129】
CVVHDの結果
【0130】
表6~7及び
図13~17に示すように、MB-102は、CVVHDを受けている両側腎摘出術を受けたブタの血流から、7.61~11.38の範囲の腎崩壊時定数(RDTC)で除去される。CVVHDを開始する前に、MB-102は、
図13に示すように、血流濃度が定常状態になるまでビルドアップした。CVVHD処置中、血液の流量及び流出液(透析液)の流量の両方を、グラフ中の4つの異なる領域で示すように変化させた(
図14及び
図15)。CVVHDは、血液流量及び流出液流量に応じた所定割合で、血流からMB-102を除去する。流出液流量を高くするほどRDTCは低くなり、MB-102のクリアランス率が高くなった。
図21に示すように、血流中のMB-102の濃度は、全ての血液流量及び使用済み透析液の流量において、検出された蛍光強度と良好に相関した。
【0131】
胸骨(
図16、表6)または胸部(
図17、表7)のいずれかに腎モニタリングアセンブリを配置したところ、実質的に同一(実験誤差内)の結果が得られた。
図16及び
図17は、線形ベストフィット計算及びCVVH処置中の時間曲線を拡大して示す。CVVH実験と同様に、強度値の対数を取り、データを時間の関数としてプロットし、MATLAB(登録商標)の「ポリフィット」関数を用いて直線をフィットさせることにより、半対数フィットを得た。
【0132】
表6:患者の胸骨に配置した腎モニタリングアセンブリで測定したCVVHD中のQLS25のRDTC及びGFR(
図16)
【0133】
【0134】
表7:患者の胸部に配置した腎モニタリングアセンブリで測定したCVVHD中のQLS26のRDTC及びGFR(
図17)
【0135】
【0136】
CRRTによるメロペネムのインビボクリアランス
【0137】
上記のブタモデルでのMB-102クリアランスをモニタリングするために使用したものと同じインビボ実験設定を用いて、メロペネムのインビボでのクリアランス率を求めた(
図18及び
図19参照)。また、MB-102濃度の分析に使用したものと同じ試料のメロペネム濃度を分析した。
【0138】
メロペネム濃度は、各動物のCVVH実験及びCVVHD実験中の複数時点で測定した。
図22(CVVH)及び
図23(CVVHD)に示すように、CVVH及びCVVHDのいずれにおいても、メロペネムのクリアランス率は、MB-102のクリアランス率と直接的な相関関係を示している。この相関関係を用いて、MB-102の検出された蛍光強度と、メロペネムの初期投与量とに基づいて、患者の血流中の所定期間にわたるメロペネム濃度を求めることが可能となる。
【0139】
表8と
図24に示すように、MB-102の濃度に対するメロペネムの濃度、すなわち、クリアランス率は、非常に良好な線形相関を示す。低血液流量または高血液流量の場合のCVVH及びCVVHDの両方において、線形相関係数(R
2)は0.95超であり、かつ、p値は非常に低い値であった。
【0140】
表8:MB-102及びメロペネムのクリアランスの統計解析
【0141】
【0142】
本明細書は、実施例を用いて、最良の実施の形態(ベストモード)を含む本発明の内容を開示し、かつ本発明を当業者が実施(任意の装置またはシステムの作製及び使用、並びに組み込まれた任意の方法の実施を含む)することを可能にしている。本発明の特許される技術範囲は、特許請求の範囲の請求項の記載によって定義され、当業者が想到可能な別の実施形態も含まれ得る。そのような別の実施形態は、各請求項の文言と相違しない構成要素を含む場合、または、各請求項の文言とは実質的に相違しない均等な構成要素を含む場合、その請求項の範囲内に含まれるものとする。