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特許7490661超伝導部品を製造するためのニオブスズ化合物系粉末
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-17
(45)【発行日】2024-05-27
(54)【発明の名称】超伝導部品を製造するためのニオブスズ化合物系粉末
(51)【国際特許分類】
   B22F 1/00 20220101AFI20240520BHJP
   B22F 1/05 20220101ALI20240520BHJP
   B22F 1/148 20220101ALI20240520BHJP
   B22F 5/12 20060101ALI20240520BHJP
   B22F 9/08 20060101ALI20240520BHJP
   B22F 9/22 20060101ALI20240520BHJP
   B22F 10/25 20210101ALI20240520BHJP
   B22F 10/28 20210101ALI20240520BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20240520BHJP
   B33Y 70/00 20200101ALI20240520BHJP
   B33Y 70/10 20200101ALI20240520BHJP
   C22C 1/00 20230101ALI20240520BHJP
   C22C 13/00 20060101ALI20240520BHJP
   C22C 27/02 20060101ALI20240520BHJP
【FI】
B22F1/00 R
B22F1/05
B22F1/148
B22F5/12
B22F9/08 A
B22F9/22 Z
B22F10/25
B22F10/28
B33Y10/00
B33Y70/00
B33Y70/10
C22C1/00 B
C22C13/00
C22C27/02 102A
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2021546374
(86)(22)【出願日】2020-02-05
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-24
(86)【国際出願番号】 EP2020052819
(87)【国際公開番号】W WO2020161166
(87)【国際公開日】2020-08-13
【審査請求日】2022-11-01
(31)【優先権主張番号】102019000906.1
(32)【優先日】2019-02-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】518241791
【氏名又は名称】タニオビス ゲー・エム・ベー・ハー
【氏名又は名称原語表記】TANIOBIS GmbH
【住所又は居所原語表記】Im Schleeke 78-91, 38642 Goslar, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ホルガー ブルム
(72)【発明者】
【氏名】マークス ヴァインマン
(72)【発明者】
【氏名】クリストフ シュニッター
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特表2002-544375(JP,A)
【文献】特開2018-145456(JP,A)
【文献】国際公開第2000/067936(WO,A1)
【文献】R.O.Suzuki, et.al.,“Processes to produce superconducting Nb3Sn powders from Nb-Sn oxide”,Journal of Materials Science,1987年,Volume22,issue6,pp.1999-2004
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00
B22F 5/00
B22F 9/00
B22F 10/00
B33Y 10/00
B33Y 70/00
C22C 1/00
C22C 13/00
C22C 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超伝導部品を製造するためのNbxSny[前記式中、1≦x≦6且つ1≦y≦5]を含む粉末であって、前記粉末が、レーザー回折を用いて特定して粒子サイズD9020~400μmを有する三次元凝集体を有し、前記凝集体は一次粒子から構成されており、前記一次粒子は走査型電子顕微鏡法を用いて特定して平均粒径15μm未満を有し、且つ前記凝集体は細孔を有し、前記細孔の90%以上が、水銀ポロシメトリを用いて特定して直径0.1~20μmを有することを特徴とする、前記粉末。
【請求項2】
粉末中のNb3SnまたはNb6Sn5またはNbSn2が、検出される全ての結晶学的相に対して、且つ粉末のX線粉末回折パターンのリートベルト解析に基づき、それぞれ90%を上回る割合を構成することを特徴とする、請求項1に記載の粉末。
【請求項3】
前記粉末が、BETによる比表面積0.5~5m2gを有することを特徴とする、請求項1または2に記載の粉末。
【請求項4】
前記粉末が、前記粉末の総質量に対して、酸素含有率1.8質量%未満を有することを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項に記載の粉末。
【請求項5】
前記粉末が、凝集体の粉砕後に、レーザー回折を用いて特定して粒子サイズD99 15μm未満を有することを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項に記載の粉末。
【請求項6】
前記粉末が、検出される全ての結晶学的相に対して、且つ本発明による粉末のX線回折パターンのリートベルト解析により特定して、金属スズの割合3%未満を有することを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項に記載の粉末。
【請求項7】
本発明による粉末の全ての粉末粒子の95%が噴霧化後にフェレット径0.7~1有し、ここで、フェレット径は、SEM写真を評価して特定可能な、一粒子の最小直径を最大直径によって除算したものとして定義されることを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項に記載の粉末。
【請求項8】
請求項1から7までのいずれか1項に記載の粉末の製造方法であって、前記粉末がニオブ金属粉末をスズ金属粉末と反応させることにより製造され、ここで、前記ニオブ金属粉末はニオブ酸化物を蒸気形態の還元剤で還元することにより得られることを特徴とする、前記方法。
【請求項9】
前記ニオブ金属粉末がその場で得られることを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記ニオブ金属粉末が、水銀ポロシメトリを用いて特定して0.1~20μmのサイズの細孔を有することを特徴とする、請求項8または9に記載の方法。
【請求項11】
前記ニオブ金属粉末が、レーザー回折を用いて特定してD90値400μm未満を有するサイズを有する三次元凝集体を有し、前記凝集体は一次粒子から構成されており、前記一次粒子は走査型電子顕微鏡法を用いて特定して平均粒径10μm未満を有することを特徴とする、請求項8から10までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記ニオブ金属粉末が、細孔サイズの二峰性の分布を有することを特徴とする、請求項8から11までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記ニオブ酸化物が、Nb25、NbO2、NbOおよびそれらの混合物からなる群から選択される化合物であることを特徴とする、請求項8から12までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記蒸気形態の還元剤が、マグネシウム蒸気であることを特徴とする、請求項8から13までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記ニオブ金属粉末が、さらにドーパントを有することを特徴とする、請求項8から14までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
超伝導部品を製造するための、請求項1から7までのいずれか1項に記載の粉末の使用。
【請求項17】
前記超伝導部品が、粉末冶金法、または付加製造法によって製造されることを特徴とする、請求項16に記載の使用。
【請求項18】
付加製造法、または粉末冶金法における、請求項1から7までのいずれか1項に記載の粉末の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超伝導部品を製造するためのニオブスズ化合物、殊にNbxSny[前記式中、1≦x≦6且つ1≦y≦5]系粉末であって、高い多孔性を特徴とする前記粉末、その製造方法、並びに超伝導部品を製造するための前記粉末の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
超伝導は特定の温度、いわゆる転移温度を下回ると、電気抵抗がゼロに落ちる材料である。超伝導状態において、材料の内部は電場および磁場がないままであり、且つ電流は損失なく輸送される。超伝導体はとりわけ、強い一定の磁場を生成するため、または同じ出力で従来の変圧器よりも小さな寸法および質量を有し、ひいてはとりわけ移動操作において利点をもたらす低損失の変圧器の製造のために使用される。
【0003】
超伝導体は様々なカテゴリ、例えば金属超伝導体、セラミック超伝導体、および高温超伝導体に区分される。ニオブスズ(Nb3Sn)の転移温度18.05Kが発見されて以来、ニオブとその合金は超伝導体を製造するための材料として注目されてきた。従って、ニオブから製造される超伝導空洞共振器が例えば粒子加速器において用いられている(とりわけ、ハンブルグのDESYまたはジュネーヴのCERNでのXFELおよびFLASH)。
【0004】
超伝導部品として、殊に超伝導線材、とりわけ超伝導コイルを製造するために使用される超伝導線材に興味が持たれている。強い超伝導コイルのためには、通常、数マイクロメートルしかない厚さの導体繊維/フィラメントを有するキロメートル長の線材が必要であり、それは複雑な製造方法を要する。
【0005】
そのような線材、殊にニオブスズ合金系の線材を製造するために、とりわけ、いわゆるブロンズ法が用いられ、その際、Cu-Sn合金が出発材料として使用される。
【0006】
例えば、欧州特許0048313号明細書(EP0048313)は、ブロンズ-Nb3Sn系の超伝導線材であって、高磁場で用いることができ且つブロンズ-Nb3Sn線材における立方晶相を特徴とし、正方晶相の形成を大部分防ぎ且つ/または正方晶の変形(1-c/a)が低減した、Li、Be、Mg、Sc、Y、U、Ti、Zr、Hf、V、Ta、Mo、Re、Fe、Ru、Ni、Pd、Zn、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sbの群からの、安定化合金成分をNbの割合に対して0.01~7の質量パーセントの範囲で、且つ/またはブロンズの割合に対して0.05~10の質量パーセントの範囲で線材中に有する、前記線材を記載している。
【0007】
代替的に、ニオブスズ合金系の超伝導線材をいわゆるPIT(パウダー・イン・チューブ)法によって製造でき、その際、ニオブ管内に粉末状のスズ含有出発化合物を装入し、次いで伸線する。最後の段階で、熱処理によって、ニオブを含有する管のシースと充填されたスズ含有粉末との間で超伝導Nb3Sn境界層が形成される。その際、スズ含有出発化合物に関し、相の組成、化学的純度および粒子サイズ(完成したフィラメントの直径より大きくてはならない)が重要である。
【0008】
T.Wongらは、PIT法およびスズ含有出発化合物の製造をNbSn2の例で記載している(T.Wong et al, “Ti and Ta Additions to Nb3Sn by the Powder in Tube Process”, IEEE Transactions on Applied Superconductivity, Vol.11, No 1(2001), 3584-3587)。前記方法の場合の欠点は、ニオブとスズとを充分に反応させてNbSn2にするために、粉砕および熱処理による48時間までの多段階の工程が必要とされることである。さらに、その一般的な教示は、酸素含有率をできるだけ低くすべきであるということである。
【0009】
米国特許第7459030号明細書(US7459030)は、タンタルスズ合金粉末を出発化合物として使用する、PIT法による超伝導Nb3Sn線材の製造方法を記載している。この製造のためにK2NbF7およびK2TaF7が用いられ、それらはスズとの反応前にそれぞれニオブ金属およびタンタル金属に還元される。ただし、上記の方法は、このニオブ金属およびタンタル金属の使用についてのいくつかの制限という欠点がある。例えば、酸素3000ppm未満および水素100ppm未満の最大含有率を有するものしか用いることができない。その酸素含有率を超過すると、完成した線材の品質が低下する。100ppmを上回る水素の値では工程の実施に際して安全性の問題が生じ、なぜなら、温度処理の際に水素が抜けるからである。さらに、上記の方法は、目的の化合物が未反応のスズを高い含有率で含有し、さらに、完成した線材のコアはタンタル含有化合物を含有し、そのことにより線材の超伝導特性に悪影響を及ぼしかねないという欠点を有する。さらに、出発化合物K2NbF7およびK2TaF7を還元する際、難溶性の金属フッ化物、例えばMgF2またはCaF2が生じ、それらは完全には分離され得ない。さらに、一連の工程における全てのフッ素含有化合物は非常に有毒である。
【0010】
M.Lopezらは、メカニカルアロイングおよび低温での熱処理によるナノ金属間Nb3Snの合成について記載している(M.Lopez et al, “Synthesis of nano intermetallic Nb3Sn by mechanical alloying and annealing at low temperature”, Journal of Alloys and Compounds 612(2014),215-220)。ただし、上記の方法は、粉砕により不純物が生成物中に導入されるという欠点を有する。
【0011】
A.Godekeらは、ニオブスズ超伝導体を製造するための従来のPIT法についての概要を提供している(A.Godeke et al, “State of the art powder-in-tube niobium-tin superconductors”, Cyrogenics 48(2008),308-316)。
【0012】
Nb3Sn製の超伝導線材を製造するための、もしくはその製造のために必要なニオブスズ前駆体粉末、例えばNbSn2をその元素から製造するための従来技術において公知の全ての方法は、ニオブとスズとを完全に反応させるために、スズが固体拡散を介してニオブ粒子の内部に到達しなければならないという欠点を有する。この工程は極めて時間がかかり、且つ840℃を上回る温度でのNbSn2の分解に基づき、エネルギーの投入によっても加速できない。殊に、NbSn2の製造は実際には困難である。反応の公知の発熱は通常、800℃から1200℃までの通常の工程条件下で、840℃のNbSn2の分解温度を越えることをみちびく。
【0013】
さらに、従来技術において公知のニオブスズ粉末は粉砕が困難であり、それは、使用される鋼または硬質金属を含有する粉砕媒体からの不純物、例えば鉄、コバルト、ニッケル、ケイ素、タングステンまたは炭素の導入、および線材製造に際し品質の悪い生成物をもたらす。
【0014】
ニオブスズ粉末を製造するための公知の方法のさらなる欠点は、非常に有毒なハロゲン含有化合物、例えばK2NbF7またはNbCl5の使用である。これらは、適した還元剤を用いたニオブ金属への還元のための前駆体としてはたらき、前記ニオブ金属はさらなる段階においてスズと反応してニオブスズの目標化合物になる。
【0015】
さらに、ニオブスズ粉末を製造するための公知の方法は、元素のニオブおよびスズの酸素導入により、著しい割合の酸素が目標化合物に運ばれるという欠点を有する。従って、例えば米国特許第7459030号明細書による方法は、最大3000ppmの酸素含有率を有するニオブおよびタンタル金属粉末、および最大2000ppmの酸素含有率を有するスズの使用に限定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【文献】欧州特許0048313号明細書
【文献】米国特許第7459030号明細書
【非特許文献】
【0017】
【文献】T.Wong et al, “Ti and Ta Additions to Nb3Sn by the Powder in Tube Process”, IEEE Transactions on Applied Superconductivity, Vol.11, No 1(2001),3584-3587
【文献】M.Lopez et al, “Synthesis of nano intermetallic Nb3Sn by mechanical alloying and annealing at low temperature”, Journal of Alloys and Compounds 612(2014),215-220
【文献】A.Godeke et al, “State of the art powder-in-tube niobium-tin superconductors”, Cyrogenics 48(2008),308-316
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
従って、本発明の課題は、超伝導部品、殊に超伝導線材を製造するための適した出発化合物であって、時間のかかる固相拡散段階の短縮を可能にし、且つ改善された粉砕挙動を有する前記化合物、並びに、ハロゲン含有前駆体の還元をせずに済むその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
意外なことに、この課題は、特定の多孔性を有する凝集体を有する粉末によって解決されることが判明した。
【0020】
従って、本発明の第1の対象は、NbxSny[前記式中、1≦x≦6且つ1≦y≦5]を含む超伝導部品を製造するための粉末であって、前記粉末が、レーザー回折を用いて特定してD90値400μm未満、有利には220~400μmの大きさの三次元凝集体を有し、前記凝集体は一次粒子から構成されており、前記一次粒子は走査型電子顕微鏡法を用いて特定して平均粒径15μm未満を有し、好ましくは8μm未満を有し、特に好ましくは0.1μm~5μmを有し、且つ前記凝集体は細孔を有し、前記細孔の90%以上が、水銀ポロシメトリを用いて特定して直径0.1~20μm、有利には0.2~15μm、特に好ましくは0.3~10μmを有する、前記粉末である。
【0021】
本発明の好ましい実施態様において、前記凝集体は、レーザー回折を用いて特定してD50値100~300μm、有利には150~220μmの粒径分布を有する。
【0022】
前記D90値もしくはD50値は、示されたサイズ以下の粒子サイズを有する、粉末中の凝集体のパーセント割合を示す値である。
【0023】
好ましい実施態様において、NbxSny化合物は、Nb3Sn、Nb6Sn5、NbSn2およびそれらの混合物からなる群から選択される化合物である。
【0024】
意外なことに、本発明による粉末において、ニオブ固体内部での必要な拡散経路は、その小さな一次粒子サイズに基づき顕著に減少されており、且つその特別な細孔構造により、反応の際にスズが非常に良好に凝集体内部に達することができ、そのことにより、製造工程が著しく加速され得ることが示された。さらに、意外なことに、粉末の製造が通常行われる温度、もしくは反応時間を、顕著に低減できることが判明した。従って、例えば840℃の温度までしか安定ではないNbSn2を、本発明の範囲においては800℃未満の温度で、6時間未満、およびさらには4時間未満で製造できる。Nb3Snについては、温度1050℃で6時間未満の時間範囲、もしくは温度950℃で8時間未満の時間範囲がもたらされた。
【0025】
超伝導体の製造のために、純粋相の粉末を使用して、生じうる異相による超伝導特性の影響を避けることが特に有利であることが判明している。意外なことに、本発明による粉末はさらに、高い純度を特徴とすることが判明し、そのことはとりわけ、それぞれの目的の化合物以外の化合物の相を少ない割合でしか有さないことによって示される。従って、好ましい実施態様において、本発明による粉末は、検出される全ての結晶学的相に対して、且つ本発明による粉末のX線回折パターンのリートベルト解析によって特定して、化合物Nb3SnまたはNb6Sn5またはNbSn2がそれぞれ90%を上回る、有利には94%を上回る、特に好ましくは97%を上回る割合を構成することを特徴とする。
【0026】
さらに好ましい実施態様において、本発明による粉末は、検出される全ての結晶学的相に対して、且つ本発明による粉末のX線回折パターンのリートベルト解析によって特定して、粉末中の金属スズの割合が3%未満、有利には0.5%未満であることを特徴とする。特に好ましい実施態様において、本発明による粉末は本質的に金属スズ不含である。これに関し、「本質的に不含」とは、金属スズの割合がX線回折パターンにおいて検出可能ではないと理解されるべきである。
【0027】
酸素の存在は超伝導体の特性の損害をもたらすことがある。ここで、意外なことに、本発明による粉末は、高められた多孔性にも関わらず、従来技術に対して高められた酸素含有率は有さないことが示された。従って、粉末が、粉末の総質量に対して1.8質量%未満、有利には0.35~1.5質量%、殊に0.5~1.2質量%の酸素含有率を有する実施態様が好ましい。
【0028】
本発明による粉末は、有利にはBETによる比表面積0.5~5m2/g、有利には1~3m2/gを有する。その際、BETによる比表面積はASTM D3663に準拠して特定できる。
【0029】
PIT法により超伝導線材を製造するために、特に微細な粒子サイズを有する粉末を使用することが有利であることが判明している。従って、多くの場合、使用される粉末を管に導入する前に粉砕する。ここで、意外なことに、本発明による粉末は改善された粉砕挙動を示し、そのことにより、より小さな粒子サイズを実現できるか、または、より穏やかな粉砕方法を使用することができることが示された。好ましい実施態様において、本発明による粉末は、凝集体の粉砕後に、レーザー回折を用いて特定してD99値15μm未満、有利には8μm未満、特に好ましくは1μm~6μmの粒子サイズを有する。さらに好ましい実施態様において、本発明による粉末は、凝集体の粉砕後に、それぞれレーザー回折を用いて特定してD90値10μm未満、有利には7μm未満、および特に好ましくは0.5μm未満~5μmを有する。
【0030】
付加製造法、例えばLBM(レーザービーム溶融)、EBM(電子ビーム溶融)および/またはLC(レーザークラッディング)を用いて超伝導部品を製造するためには、特に球状の粒子形状を有する粉末を使用することが有利であることが判明している。この場合、意外なことに、本発明による粉末は公知の方法によって、例えばEIGA法(電極誘導融解ガス噴霧; Electrode Induction-melting Gas Atomization)で、球状粒子を有する粉末へと非常に良好に噴霧化できることが示された。従って、好ましい実施態様において、本発明による粉末の全ての粉末粒子の少なくとも95%が噴霧化後に0.7~1、特に好ましくは0.8~1を有し、ここで、前記フェレット径は、本発明の範囲ではSEM写真を評価して特定可能な、一粒子の最小直径を最大直径によって除算したものとして定義される。
【0031】
本発明による粉末は殊に、その高い純度を特徴とする。従って、全ての金属元素の粉末中での割合が、それぞれ粉末の総質量に対して500ppm未満、有利には300ppm未満、特に好ましくは1ppm~150ppmである実施態様が好ましい。殊に、前記金属元素は、粉砕工程を介して導入されるものである。本発明の範囲で、ppmの記載はそれぞれ質量割合に関する。
【0032】
受け容れ可能な特性を有する超伝導部品を製造するために、使用される粉末の化学的な純度が高く、且つ異相はドーパントとして制御された形でのみ導入されることが必須である。意図的ではなく工程に導入される物質、殊に金属不純物およびフッ化物含有化合物は最小化されるべきである。その際、この不純物についての主な源の1つは、使用されるニオブおよびスズ金属粉末からの汚染である。好ましい実施態様において、本発明による粉末はフッ素含有率15ppm未満、有利には5ppm未満を有する。さらに好ましい実施態様において、本発明による粉末は、偶発的な金属不純物の含有率が、タンタルを除いて、それぞれ粉末の総質量に対して合計で0.8質量%未満、好ましくは0.5質量%未満、特に好ましくは0.25質量%未満である。
【0033】
好ましい実施態様において、本発明による粉末はさらにドーパントを含有し、それは工程において意図されずに導入される上述の物質とは対照的に、従来技術から公知のとおり、定義された方式で本発明による粉末に添加される。その際、意外なことに、ドーパントに特別な要件はなく、むしろ当業者に公知の通常のドーパントを使用できることが判明した。
【0034】
Nb3Sn系の超伝導線材を製造するための従来技術に記載される方法のいくつかは、タンタルスズ合金から、または前駆体粉末としてのタンタルおよびニオブに基づく金属間スズ合金から出発する。しかしながら、これは、Nb3Sn線材フィラメントの後のコア中にタンタルの残留物が残り、そのことによりとりわけ、製造コストが上昇し、且つ製品の超伝導特性を損なうという欠点を有する。さらなる欠点として、ここで殊に、完成した線材フィラメント中の超伝導Nb3Sn境界層の厚さの低減が、最大電流負荷能力に悪影響することが予期される。従って、好ましい実施態様において、本発明による粉末は本質的にタンタルおよびタンタル化合物不含である。特に好ましい実施態様において、本発明による粉末中でのタンタルおよびその化合物の割合は、それぞれ粉末の総質量に対して1質量%未満、有利には0.5質量%未満、特に好ましくは0.1質量%未満である。
【0035】
本発明による粉末は、小さい一次粒子サイズでの高い多孔性を特徴とし、それは特別な製造方法を用いて実現される。従って、本発明のさらなる対象は、この特性の組み合わせを正確に実現することを可能にする、本発明による粉末の製造方法である。本発明による方法は、ニオブ金属粉末をスズ金属粉末と反応させることによって本発明による粉末を製造し、その際、前記ニオブ金属粉末は、蒸気形態の還元剤を用いてニオブ酸化物を還元することによって得られることを特徴とする。意外なことに、このようにして、一次粒子サイズ、多孔性および化学的純度の有利な組み合わせにより、殊に超伝導線材を製造するために適した粉末が得られることが判明した。蒸気形態の還元剤の存在下でニオブ酸化物を還元するために適した方法は、例えば国際公開第2000/67936号(WO00/67936)内に記載されている。
【0036】
その工程の実施を効率的にするために、ニオブ金属粉末を得ることと反応とを、組み合わせられた工程段階で実施することが有利であることが判明している。従って、ニオブ金属粉末をその場で得る、本発明による方法の実施態様が好ましい。これは殊に、温度処理において、ニオブ酸化物をスズ金属粉末の存在下で蒸気形態の還元剤と反応させることによって達成できる。
【0037】
意外なことに、このようにして、所望の多孔性を有する構造が入手可能であることが示された。これは殊に予想外であり、なぜなら、当業者は、マグネシウムを用いたNbSnの混合酸化物および水酸化物の還元の場合、多孔質のNbSn生成物を予期しないからである。
【0038】
ニオブ酸化物は、有利にはNb25、NbO2、NbOおよびそれらの混合物からなる群から選択されるものである。
【0039】
意外なことに、超伝導線材を製造するために、粉末の有利な多孔性を、出発化合物の適した選択によって達成できることが示された。従って、ニオブ金属粉末が、レーザー回折を用いて特定してD90値400μm未満、有利には200~350μmの大きさの三次元凝集体を有し、前記凝集体が一次粒子から構成されており、前記一次粒子は、走査型電子顕微鏡法を用いて特定して平均粒径10μm未満、有利には4μm未満、特に好ましくは0.1μm~2μmを有し、且つ前記凝集体が、水銀ポロシメトリを用いて特定してサイズ0.1~20μm、有利には0,2~15μm、特に好ましくは0.2~5μmの細孔を有する実施態様が好ましい。
【0040】
二峰性の粒子サイズ分布を有するニオブ金属粉末の使用が特に有利であることが判明している。従って、ニオブ金属粉末が、水銀ポロシメトリを用いて特定して、有利には0.9~20μmの範囲、特に好ましくは1~10μmの範囲の最大と、0.1~0.9μmの範囲、有利には0.2~0.8μmの範囲の最大とを有する、二峰性の粒子サイズ分布を有する実施態様が好ましい。特定の理論に束縛されることなく、粒子サイズの二峰性の分布により、細孔を通じた凝集体内部へのスズの侵入の改善が可能になると考えられる。
【0041】
意外なことに、本発明による粉末を製造するために、従来技術に記載されるように、ニオブ金属粉末の酸素含有率を限定することは必須ではないことが示された。それにもかかわらず、酸素含有率が高すぎない場合が有利であることが判明している。従って、本発明による粉末を製造するために用いられるニオブ金属粉末は、好ましい実施態様において、それぞれニオブ金属粉末の総質量に対して酸素含有率2.2質量%未満、好ましくは0.35~1.9質量%、特に好ましくは0.4~1.6質量%を有する。さらに、このニオブ金属粉末の水素含有率を100ppm未満に制限する必要もない。従って、本発明による方法においては、100ppmを上回る、さらには110~400ppmの水素含有率を有するニオブ金属粉末も用いることができる。従って、本発明による粉末を製造するために用いられるニオブ金属粉末が、ニオブ金属粉末の総質量に対して、110~400ppmの水素含有率を有する実施態様が好ましい。
【0042】
望ましくなく、且つ一部では難溶性のMgおよびCaのハロゲン化物、例えばMgF2およびCaF2の形成を防ぐために、できるだけ低いフッ素および塩素含有率を有するニオブ金属粉末が好ましい。従って、ニオブ酸化物の金属熱蒸気還元によって製造されたニオブ金属粉末は、フッ素含有化合物、例えばK2NbF7の還元、またはハロゲン化物含有塩溶融物中での電気化学的還元により製造されたニオブ金属粉末より好ましい。好ましい実施態様において、使用されるニオブ金属粉末は、ニオブ金属粉末の総質量に対して、それぞれ15ppm未満、有利にはそれぞれ10ppm未満、特に好ましくはそれぞれ2ppm未満のフッ素および塩素を含有する。
【0043】
本発明による粉末の必須の化学的純度を確実にするために、好ましい実施態様は、全ての金属元素を合計で800ppm未満、有利には500ppm未満有するニオブ金属粉末を使用することである。
【0044】
蒸気形態の還元剤として、アルカリ土類化合物が特に有利であることが明らかになっている。好ましい実施態様において、蒸気形態の還元剤はマグネシウム蒸気である。このようにして、ニオブ酸化物粉末粒子の良好な濡れ性が達成できることが示されている。殊に、還元剤としてのマグネシウムは、MgOへの変換後に容易且つ効率的に除去することができ、そのことにより生成物の不要な不純物が回避されるという利点を有する。
【0045】
本発明による方法は、これまで従来技術において知られるよりも低い温度で且つ短い時間で所望の目的の化合物を製造することを可能にする。従って、金属ニオブ粉末と金属スズとの反応を、300~1100℃、有利には600~1050℃、特に好ましくは650~790℃の範囲の反応温度で行う、本発明の方法の実施態様が好ましい。その際、反応時間は、有利には8時間未満、有利には0.5~7時間、特に好ましくは1~4時間である。
【0046】
既に記載したとおり、前記粉末にドーパントを加えて、それにより粉末の特性を適合させられる。意外なことに、これらのドーパントが工程の最初に既に導入される場合が有利であることが判明した。従って、ニオブ金属粉末を製造するために使用されるニオブ酸化物がさらにドーパントを有する実施態様が好ましい。用いられるドーパントに関して特別な要件はない。むしろ、意外なことに、当業者に公知の全ての通常のドーパントを用いることができることが判明した。
【0047】
本発明による粉末は殊に、超伝導部品を製造するために適している。従って、本発明のさらなる対象は、超伝導部品を製造するための、殊に超伝導線材を製造するための、本発明による粉末の使用である。その際、超伝導部品は有利には、粉末冶金法、または付加製造法、またはPIT法によって製造される。超伝導線材の製造は、有利にはPIT法を用いて行われる。
【0048】
本発明のさらなる対象は、付加製造法における本発明による粉末の使用である。付加製造法は例えば、LBM(レーザービーム溶融)、EBM(電子ビーム溶融)および/またはLC(レーザークラッディング)であってよい。
【図面の簡単な説明】
【0049】
図1】例1により得られたNbSn2を示す図である。
図2】例2により得られたNb3Snを示す図である。
図3】例3により得られたNb3Snを示す図である。
図4】従来の粉末を示す図である。
図5】従来の粉末を示す図である。
図6】本発明による粉末を製造するために使用されたニオブ金属粉末の細孔サイズ分布を示す図である。
図7】例1による本発明による粉末の細孔サイズ分布を示す図である。
図8】比較例1および2を製造するために使用されたニオブ金属粉末のSEM写真を示す図である。
【0050】
本発明を以下の実施例を用いてより詳細に説明するが、これは本発明の概念の限定として理解されるべきではない。
【実施例
【0051】
ニオブ金属粉末は、国際公開第2000/67936号(WO00/67936A1)に記載される製造方法に類似して、NbO2とマグネシウム蒸気との反応により得られた。得られたニオブ金属粉末は、酸素含有率8500ppm、水素含有率230ppm、フッ素含有率2ppm、金属不純物の合計310ppm、およびD50値205μmおよびD90値290μmの凝集体サイズを有した。一次粒子の平均サイズは0.6μmであり、凝集体の細孔サイズ分布は0.5および3μmで最大を有する二峰性であった(図6参照)。引き続き、このニオブ金属粉末を、酸素含有率6800ppmを有するスズ金属粉末と種々の条件下で反応させて、得られた生成物を解析した。
【0052】
比較実験1および2では、酸素含有率2900ppmおよび水素含有率10ppmを有する従来の無孔ニオブ金属粉末を使用した粉末を引き合いに出した。これらの比較粉末はD90値95μmを有した(図8参照)。
【0053】
比較実験3および4については、KCl/KFからの塩溶融物中、850℃で、液体のナトリウムを用いてK2NbF7を還元し、引き続き洗浄により全ての塩を除去することによってニオブ金属粉末を製造した。そのように製造されたニオブ金属粉末は、D90値29μmを有する細孔のない不規則な形状の粒子を含有し、それは凝集体へと焼結されなかった。そのニオブ金属粉末は、酸素含有率2.4質量%、水素含有率150ppm、フッ素含有率2500ppm、および金属不純物の合計10200ppmを有し、その際、主な不純物はニッケルおよび鉄であった。
【0054】
全ての比較実験において、引き続き、前記ニオブ金属粉末を、酸素含有率6800ppmを有するスズ金属粉末と種々の条件下で反応させて、得られた生成物を解析した。
【0055】
使用されたスズ金属粉末は全ての実験において、粒子サイズ150μm未満を有した。
【0056】
結果を表1に要約し、その際、細孔サイズおよび粒子サイズの記載はそれぞれ、凝集体に関する。粒子サイズはそれぞれ、レーザー回折(MasterSizer S、水およびDaxad11中の懸濁液、5分の超音波処理)を用いて特定された。細孔のサイズは、水銀ポロシメトリ(Micromeritics社のAutoPore IV)を用いて特定され、且つ細孔サイズ分布の最大の位置に関する。酸素含有率はキャリアガス熱抽出(Leco TCH600)を用いて特定された。金属不純物の微量解析は、ICP-OESを用い、引き続く解析装置PQ 9000(Analytik Jena)またはUltima 2(Horiba)を用いて行われた。質量%での各々の記載は、それぞれ粉末の総質量に関する。
【0057】
X線回折は、粉末試料において、Malvern-PANalytical社の装置(半導体検出器、X線管Cu LFF、40KV/40mAで、Niフィルタを備えたX’Pert-MPD)を用いて行った。
【0058】
例3の粉末を、H2SO4で洗浄および乾燥後に解析した。
【0059】
比較例の粉末は凝集体を形成せず、且つ解析において不均質な相組成を示した。さらに、比較実験3および4の粉末は、非常に高いフッ素含有率1300~1800ppmおよび金属不純物の合計6500~9000ppmを特徴としているので、超伝導部品、殊に線材の製造のためには適していない。
【0060】
例1からの粉末を、引き続き、酸素不含雰囲気中で粉砕し、ここでD90値2.6μmおよびD99値3.7μmを有する粒子サイズ分布が達成された。粉砕後の酸素含有率は1.14質量%であり、粉砕工程の前後での全ての合計の金属不純物の差は140ppmであった。
【0061】
意外なことに、本発明の範囲において、本発明による粉末の高められた多孔性は、予想に反して、粉末がさらなる粉砕段階に供される場合であっても酸素含有率の上昇はもたらさないことが判明した。
【0062】
さらに、本発明による例は、目的化合物中で未反応のスズが検出され得なかったことを示す。
【0063】
図1~3は本発明による粉末のSEM写真を示し、ここで、図1は例1により得られたNbSn2を示し、図2は例2により得られたNb3Snを示し、且つ図3は例3により得られたNb3Snを示す。全ての写真において、本発明による粉末は、比較例1および2のSEM写真を示す図4および図5においてわかるような従来の粉末の際には観察されなかった多孔性を有することが明らかにわかる。
【0064】
図6は本発明による粉末を製造するために使用されたニオブ金属粉末の細孔サイズ分布の測定を示し、ここで、細孔サイズの二峰性の分布がよくわかる。
【0065】
図7は、例1による本発明による粉末の細孔サイズ分布の測定を示し、約3μmの細孔サイズの際に最大を有する。
【0066】
図8は、比較例1および2を製造するために使用されたニオブ金属粉末のSEM写真を示す。
【0067】
【表1】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8