(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-17
(45)【発行日】2024-05-27
(54)【発明の名称】HFpEFのためのIGFBP7の比
(51)【国際特許分類】
G01N 33/68 20060101AFI20240520BHJP
【FI】
G01N33/68
(21)【出願番号】P 2021569358
(86)(22)【出願日】2020-05-22
(86)【国際出願番号】 EP2020064276
(87)【国際公開番号】W WO2020234451
(87)【国際公開日】2020-11-26
【審査請求日】2023-04-21
(32)【優先日】2019-05-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】591003013
【氏名又は名称】エフ. ホフマン-ラ ロシュ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN-LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(72)【発明者】
【氏名】ハッベン,カイ
(72)【発明者】
【氏名】ロルニー,ビンツェント
(72)【発明者】
【氏名】マンク,アニカ
(72)【発明者】
【氏名】ビーンヒューズ-テレン,ウルスラ-ヘンリケ
(72)【発明者】
【氏名】マッソン,セルジェ
【審査官】小澤 理
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-512988(JP,A)
【文献】国際公開第2015/113889(WO,A1)
【文献】CYPEN, J. et al.,Novel Biomarkers for the Risk Stratification of Heart Failure with Preserved Ejection Fraction,Curr Heart Fail Rep,2017年,Vol.14, No.5,p.434-443,DOI: 10.1007/s11897-017-0358-4
【文献】CHOW, S. L. et al.,Role of Biomarkers for the Prevention, Assessment, and Management of Heart Failure,Circulation,2017年,Vol.135, No.22,e1054-e1091,DOI: 10.1161/CIR.0000000000000490
【文献】BARROSO, M. C. et al.,Serum insulin-like growth factor-1 and its binding protein-7: potential novel biomarkers for heart failure with preserved ejection fraction,BMC Cardiovascular Disorders,2016年,Vol.16, No.199,p.1-9,DOI: 10.1186/s12872-016-0376-2
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/68
G01N 33/53
CAplus
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Scopus
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
心不全に罹患している対象において、駆出率が保持された心不全(HFpEF)と駆出率が低下した心不全(HFrEF)とを鑑別するための
指標を提供する方法であって、
(a)前記対象由来の血液試料、血清試料または血漿試料中のIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)の量、BNP型ペプチドの量およびCRP(C反応性タンパク質)の量を決定する工程、
(b)IGFBP7およびCRPの前記量の和とBNP型ペプチドの前記量との比を計算する工程、
(c)工程(b)で計算された前記比を基準比と比較する工程、ならびに
(d)駆出率が保持された心不全(HFpEF)と駆出率が低下した心不全(HFrEF)とを鑑別する
ための指標を提供する工程を含む、方法。
【請求項2】
前記対象がヒトである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記BNP型ペプチドがBNPまたはNT-proBNPである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記BNP型ペプチドの量に対するIGFBP7およびCRPの前記量の和の比が計算される、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記基準比を上回る比が、駆出率が保持された心不全(HFpEF)を示し、かつ/または前記基準比を下回る比が、駆出率が低下した心不全(HFrEF)を示す、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
HFpEFに罹患している疑いのある対象において、駆出率が保持された心不全(HFpEF)を診断するための
指標を提供する方法であって、
(a)前記対象由来の血液試料、血清試料または血漿試料中のIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)の量、BNP型ペプチドの量およびCRP(C反応性タンパク質)の量を決定する工程、
(b)IGFBP7およびCRPの前記量の和とBNP型ペプチドの前記量との比を計算する工程、
(c)工程(b)で計算された前記比を基準比と比較する工程、ならびに、
(d)駆出率が保持された心不全を診断する
ための指標を提供する工程を含む、方法。
【請求項7】
心不全に罹患している対象において、駆出率が保持された心不全(HFpEF)と駆出率が低下した心不全(HFrEF)とを鑑別するためのコンピュータ実装方法であって、
(a)処理ユニットにおいて、前記対象由来の血液試料、血清試料または血漿試料中のIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)の量の値、BNP型ペプチドの量の値、およびCRP(C反応性タンパク質)の量の値を受け取る工程、
(b)前記処理ユニットによって、IGFBP7およびCRPの前記量の和とBNP型ペプチドの前記量との比を計算する工程、
(c)前記処理ユニットによって、工程(b)で計算された前記比を基準比と比較する工程、ならびに
(d)
前記処理ユニットによって、駆出率が保持された心不全(HFpEF)と駆出率が低下した心不全(HFrEF)とを鑑別する工程を含む、方法。
【請求項8】
HFpEFに罹患している疑いのある対象において、駆出率が保持された心不全(HFpEF)を診断するためのコンピュータ実装方法であって、
(a)処理ユニットにおいて、前記対象由来の血液試料、血清試料または血漿試料中のIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)の量の値、BNP型ペプチドの量の値、およびCRP(C反応性タンパク質)の量の値を受け取る工程、
(b)前記処理ユニットによって、IGFBP7およびCRPの前記量の和とBNP型ペプチドの前記量との比を計算する工程、
(c)前記処理ユニットによって、工程(b)で計算された前記比を基準比と比較する工程、ならびに
(d)
前記処理ユニットによって、駆出率が保持された心不全を診断する工程を含む、方法。
【請求項9】
前記基準比がメモリから確立される、請求項
8に記載の方法。
【請求項10】
心不全に罹患している対象において、駆出率が保持された心不全(HFpEF)と駆出率が低下した心不全(HFrEF)とを鑑別する
ための方法であって、
(a)前記対象由来の血液試料、血清試料または血漿試料を受け取る工程、
(b)前記
血液試料、血清試料、または血漿試料中のIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)の量、BNP型ペプチドの量およびCRP(C反応性タンパク質)の量を決定する工程、ならびに
(c)IGFBP7およびCRPの前記量の和とBNP型ペプチドの前記量との比の値を主治医に提供
する工程を含み、それにより、HFpEFとHFrEFとを鑑別することを
支援するための方法。
【請求項11】
HFpEFに罹患している疑いのある対象において、駆出率が保持された心不全(HFpEF)を診断するための方法であって、
(a)前記対象由来の血液試料、血清試料または血漿試料を受け取る工程、
(b)前記
血液試料、血清試料、または血漿試料中のIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)の量、BNP型ペプチドの量およびCRP(C反応性タンパク質)の量を決定する工程、ならびに
(c)IGFBP7およびCRPの前記量の和とBNP型ペプチドの前記量との比の値を主治医に提供
する工程を含み、それにより、HFpEFの診断を
支援するための方法。
【請求項12】
駆出率が保持された心不全(HFpEF)と駆出率が低下した心不全(HFrEF)とを鑑別
のための指標を提供するため、またはHFpEFを診断するための
指標を提供するための、対象由来の血液試料、血清試料または血漿試料中のバイオマーカーとしてのIGFBP7、BNP型ペプチドおよびCRPの使用であって、IGFBP7およびCRPの量の和とBNP型ペプチドの量との比が計算される、使用。
【請求項13】
駆出率が保持された心不全(HFpEF)と駆出率が低下した心不全(HFrEF)を鑑別
のための指標を提供するため、またはHFpEFを診断するための
指標を提供するための、対象由来の血液試料、血清試料または血漿試料中のIGFBP7に結合する少なくとも1種の検出剤、BNP型ペプチドに結合する少なくとも1種の検出剤、およびCRPに結合する少なくとも1種の検出剤の使用であって、IGFBP7の量およびCRPの量の和とBNP型ペプチドの量との比が計算される、使用。
【請求項14】
前記検出剤が、抗体またはその抗原結合断片である、請求項13に記載の使用。
【請求項15】
前記対象がヒトである、請求項6から11のいずれか一項に記載の方法または請求項12から14のいずれか一項に記載の使用。
【請求項16】
前記BNP型ペプチドがBNPまたはNT-proBNPである、請求項6から11のいずれか一項に記載の方法または請求項12から14のいずれか一項に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心不全に罹患している対象において駆出率が保持された心不全(HFpEF)と駆出率が低下した心不全(HFrEF)とを識別するための方法に関し、前記方法は、対象由来の試料中のIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)の量、BNP型ペプチドの量、および任意にCRP(C反応性タンパク質)の量を決定する工程と、(i)IGFBP7の量とBNPペプチドの量の比、または(ii)IGFBP7とCRPの量の和とBNP型ペプチドの量の比を計算する工程と、計算された比を基準比と比較する工程と、駆出率が保持された心不全(HFpEF)と駆出率が低下した心不全(HFrEF)とを識別する工程とを含む。本発明はさらに、HFpEFの診断のための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
心不全(HF)患者のケアのためのバイオマーカーの使用は、著しく拡大している。B型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)およびそのアミノ末端切断均等物(NT-proBNP)を含むナトリウム利尿ペプチド(NP)は、現在、罹患患者の診断、予後および管理に広く使用されている。BNPおよびNT-proBNPに続いて、広範囲の新規バイオマーカーが試験されており、それぞれがHFの複雑な病態生理に罹患している患者の付加的な評価に対して潜在的な見込みがある。これに関して、心臓バイオマーカーの濃度とそれらが放出される基礎となる心血管病態生理学的プロセスとの間の機構的関連をよりよく理解するために、相当な努力がなされてきた。
【0003】
多くの先行技術参考文献は、例えば駆出率が保持された心不全(HFpEF)および駆出率が低下した心不全(HFrEF)に関連して、心不全の評価におけるマーカーの組合せの使用を記述している。例えば、Sandersは、病態生理学的経路を反映するバイオマーカーがHFpEFとHFrEFとの間で異なるかどうか、およびバイオマーカーの予後値がHFpEF対HFrEFで異なるかどうかを評価している(Eur J Heart Fail.2015年10月;17(10):1006~14.doi:10.1002/ejhf.414.Epub 2015年10月16日)。この研究は、HFpEF患者が、より高い可溶性インターロイキン1受容体様1、高感度C反応性タンパク質、およびシスタチン-Cを示したことを記述している。対照的に、HFrEF患者は、より高いNT-proBNP、高感度トロポニンTおよびヘモグロビンを示した。
【0004】
Sinningは、HFrEFおよびHFpEFを有する患者におけるCRP、GDF-15、sST2およびNT-proBNPの測定を記述している(Int J Cardiol.2017年1月15日;227:272~277.doi:10.1016/j.ijcard.2016.11.110.Epub 2016年11月9日)。Sinningによれば、((CRP+GDF-15s+sST2)/NT-proBNP)の指標は、HFpEFをHFrEFから判別することができた。
【0005】
インスリン様成長因子軸は、HFにおける転帰の予測因子であることが以前に見出されている(Watanabeら、Insulin-like growth factor axis(insulin-like growth factor-i/insulin-like growth factor-binding protein-3)as a prognostic predictor of heart failure:Association with adiponectin,Eur J Heart Fail.2010;12:1214~1222)。IGFBP-7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)は、内皮細胞、血管平滑筋細胞、線維芽細胞および上皮細胞によって分泌されることが公知の30kDaのモジュラー糖タンパク質である(Onoら、Biochem Biophys Res Comm 202(1994)1490)。IGFBP-7は、細胞老化、組織の加齢および肥満に関連すると記述されている。IGFBP-7は、拡張機能不全およびHFpEF(高齢者および肥満の疾患)のマーカーとして提案されている。IGFBP-7と拡張機能障害との間の機構的関連がマウスモデルにおいて実証された(米国特許出願公開第2018/0127752号明細書)。IGFBP-7の循環レベルの上昇は、PARAMOUNT研究において拡張期の異常に関連して記述されている(Januzziら、Circ Heart Fail.(2018)11)。
【0006】
国際公開第2008/089994号パンフレットは、心不全の評価におけるIGFBP7を開示している。IGFBP7に加えて、NTproBNPおよびCRPを決定することができる。
【0007】
国際公開第2015/144767号パンフレットは、拡張機能不全におけるマーカーとしてIGFBP7を記述している。実施例2.2では、HFpEF患者が解析された。この実施例では、IGFBP7を、例えば、オステオポンチン、トロポニンTおよびNTproBNPと組み合わせた。
【0008】
国際公開第2014/086833号パンフレットは、心不全の療法の選択におけるマーカーとしてIGFBP7を記述している。
【0009】
IGFBP7はまた、HFpEFおよびHFrEFに関連して解析されている。例えば、Hageは、IGFBP-7がHFrEFよりもHFpEFにおいて低かったことを記述している(Am J Cardiol.2018年6月15日;121(12):1558~1566.doi:10.1016/j.amjcard.2018.02.041.Epub 2018年3月14日)。
【0010】
HFpEFの診断は、正常な駆出率のために困難である。それは主に、曖昧であり得る症候、および肺疾患などの他の原因の除外に基づいている。さらに、HFpEFのバイオマーカーベースの診断は面倒である。これまでのところ、HFpEFの診断を補助するための臨床ルーチンにおいて、バイオマーカーは確立されていない。NTproBNPは、収縮機能不全対拡張期の異常により強い関連を示す。NTproBNPは、HFpEFでは中程度にしか増加しない。IGFBP-7は拡張機能学との機構的な関連を示しているが、IGFBP-7が駆出率が保持された患者の同定を助けるという記述はない。
【0011】
Tschoepeによって概説されるように、HFpEFの現れ方および病態生理学は不均一であり、その管理は依然として困難である(Clin Res Cardiol.2018年1月;107(1):1~19.doi:10.1007/s00392-017-1170-6.Epub 2017年10月10日)。現在まで、HFpEF患者の生存率を改善する治療法はない。したがって、処置は、体液貯留を制御し、危険因子および併存症を管理することによって、症候の軽減、生活の質、および心臓代償不全の減少を目的とする。例えば、現在、アンジオテンシン-アルドステロン阻害薬、利尿薬、カルシウムチャネル遮断薬(CBB)およびβ遮断薬がHFpEFの処置に使用されている。しかしながら、これらの医薬が死亡率を低下させることは、大規模な無作為化対照試験ではまだ証明されていない。最近、HFpEFの処置のための新しい標的、例えば可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激薬、無機硝酸塩、アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬LCZ696、およびSGLT2阻害薬が同定された。HFpEFに罹患している患者は、これらの新しい処置から特に利益を得る可能性がある。
【発明の概要】
【0012】
HFpEFを確実に評価し、HFrEFとHFpEFとを鑑別するために使用することができるバイオマーカーベースの方法が非常に必要とされている。本発明の根底にある技術的な課題は、前述のニーズに対応するための手段および方法の提供としてとらえることができる。
【0013】
この技術的な課題は、以下の特許請求の範囲および本明細書において特徴付けられる実施形態によって、解決される。
【0014】
有利なことには、本発明の基礎となる研究では、BNP型ペプチド(NT-proBNPなど)に対するIGFBP-7の比、およびBNP型ペプチドの量に対するIGFBP-7+CRPの量の和の比が、各マーカー単独に対する心不全患者のHFpEFの明確な同定を改善することが見出された。よって、前述の比は、心不全に罹患している対象において、駆出率が保持された心不全(HFpEF)と駆出率が低下した心不全(HFrEF)との間の信頼できる鑑別を可能にする。
【0015】
したがって、本発明は、心不全に罹患している対象において、駆出率が保持された心不全(HFpEF)と駆出率が低下した心不全(HFrEF)とを鑑別するための方法であって、
(a)対象由来の試料中のIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)の量、BNP型ペプチドの量、および任意にCRP(C反応性タンパク質)の量を決定する工程、
(b)(i)IGFBP7の量とBNPペプチドの量との比、または(ii)IGFBP7の量およびCRPの量の和とBNP型ペプチドの量との比を計算する工程、
(c)工程(b)で計算された比を基準比と比較する工程、ならびに
(d)駆出率が保持された心不全(HFpEF)と駆出率が低下した心不全(HFrEF)とを鑑別する工程を含む、方法に関する。
【0016】
本発明はさらに、HFpEFに罹患している疑いのある対象において、駆出率が保持された心不全(HFpEF)を診断するための方法であって、
(a)対象由来の試料中のIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)の量、BNP型ペプチドの量、および任意にCRP(C反応性タンパク質)の量を決定する工程、
(b)(i)IGFBP7の量とBNPペプチドの量との比、または(ii)IGFBP7の量およびCRPの量の和とBNP型ペプチドの量との比を計算する工程、
(c)工程(b)で計算された比を基準比と比較する工程、ならびに
(d)駆出率が保持された心不全を診断する工程を含む、方法に関する。
【0017】
本発明の方法のある実施形態では、IGFBP7の量、BNP型ペプチドの量およびCRPの量が工程(a)で決定され、IGFBP7の量およびCRPの量の和とBNP型ペプチドの量との比が工程(b)で計算される。したがって、工程(a)および(b)は、以下の通りである:
(a)対象由来の試料中のIGFBP7の量、BNP型ペプチドの量およびCRPの量を決定する工程、
(b)IGFBP7の量およびCRPの量の和とBNP型ペプチドの量との比を計算する工程。
【0018】
本発明の方法は、好ましくは、ex vivo、または、特にin vitroでの方法である。さらに、方法は、上記で明示的に述べられたものに加えて、工程を含んでもよい。例えば、さらなる工程は、処置前のサンプリング、または方法により得られた結果の評価に関し得る。方法は、手動で実行されてもよく、自動化によって支援されてもよい。好ましくは、工程(a)、(b)、(c)および/または(d)は、全体的にまたは部分的に、例えば、工程(a)における測定のための好適なロボットおよび感覚機器、または工程(b)におけるコンピュータ実装計算、または工程(c)におけるコンピュータ実装比較、ならびに/または工程(c)における比較に基づくコンピュータ実装鑑別/診断による自動化によって支援されてもよい。
【0019】
本明細書で使用される「診断する」という用語は、本明細書で言及される対象がHFpEFに罹患しているかどうかを評価することを意味する。ある実施形態では、対象はHFpEFに罹患していると診断される。代替の実施形態では、対象はHFpEFに罹患していないと診断される。
【0020】
工程(d)における診断または工程(d)における鑑別は、比較工程(c)の結果に基づく。好ましくは、工程(d)における診断は、比較工程(c)の結果に基づく。しかしながら、対象がAFに罹患しているかどうかの実際の診断は、診断の確認などのさらなる工程を含み得ることを理解されたい。したがって、本明細書で言及される診断は、対象がHFpEFに罹患している可能性を評価することを可能にするものとする。上記から、HFpEFの診断は、HFpEFの診断の補助として理解されることになる。したがって、本発明の文脈における「診断する」という用語は、対象がHFpEFに罹患しているかどうかを評価するために医師を支援することも包含する。
【0021】
本明細書で使用される「鑑別する」という用語は、罹患している対象のHFpEFとHFrEFとを区別することを意味する。本明細書で使用される用語は、好ましくは、心不全に罹患している対象において、HFpEFおよびHFrEFを鑑別的に診断することを含む。好ましくは、工程(d)における鑑別は、比較工程(c)の結果に基づく。さらに、本発明の方法は、心房細動を有する対象が発作性心房細動または持続性心房細動に罹患しているかどうかを評価することを可能にする。実際の鑑別は、鑑別の確認などのさらなる工程を含み得る。したがって、本発明の文脈における「鑑別する」という用語は、HFpEFとHFrEFとを鑑別するために医師を支援することも包含する。
【0022】
当業者によって理解されるように、本明細書に記載の評価、すなわち鑑別または診断は、通常、診断/等級付けされる患者の全て(すなわち100%)に対して正しいことを意図するものではない。本発明のある実施形態では、患者の統計的に有意な一部分を同定することができる(例えばコホート研究におけるコホート)。一部分が統計的に有意であるかどうかは、例えば、信頼区間の決定、p値の決定、スチューデントのt検定、マン-ホイットニー検定などのさまざまな周知の統計評価ツールを使用して、当業者がさらに労することなく決定することができる。詳細は、DowdyおよびWearden,Statistics for Research,John Wiley&Sons,New York 1983に見出される。好ましい信頼区間は、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%である。p値は、好ましくは、0.1、0.05、0.01、0.005または0.0001である。より好ましくは、集団の患者の少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%または少なくとも90%が、本発明の方法によって適切に診断/鑑別され得る。
【0023】
本明細書で言及される「対象」は、好ましくは哺乳動物である。哺乳動物には、飼い馴らされた動物(例えば、ウシ、ヒツジ、ネコ、イヌおよびウマ)、霊長類(例えば、ヒトおよびサルなどの非ヒト霊長類)、ウサギおよびげっ歯類(例えば、マウスおよびラット)が含まれるが、これらに限定されない。好ましくは、対象はヒト対象である。「対象」、「患者」および「個体」という用語は、本明細書で互換的に使用され得る。
【0024】
HFpEFとHFrEFとを鑑別するための方法のとおり、試験される患者は心不全に罹患しているものとする。「心不全」という用語は、当技術分野で周知である。本明細書で使用される場合、この用語は、好ましくは、当業者に公知の心不全の症候を伴う、心臓の悪化した機能に関する。したがって、患者は、好ましくは症候性心不全に罹患している。
【0025】
ACC/AHAの分類は、米国心臓病学会および米国心臓協会によって策定された心不全の分類である(J.Am.Coll.Cardiol.2001;38;2101~2113、2005年に更新、J.Am.Coll.Cardiol.2005;46;e1~e82を参照されたい)。4つのステージA、B、CおよびDが定義されている。ステージAおよびBはHF(心不全)ではないが、HFを「真に」発症する前に患者を早期に同定するのに役立つと考えられている。ステージAおよびBの患者は、HFの発症についての危険因子を持つ患者として最もよく定義される。例えば、左室(LV)機能障害、肥大、または幾何学的心腔歪みをまだ示さない冠動脈疾患、高血圧、または糖尿病を有する患者はステージAと見なされ、無症候性であるがLV肥大(LVH、心室の壁が厚くなる現象)および/またはLV機能障害を示す患者はステージBとして指定される。次いで、ステージCは、根底にある構造的心疾患に関連するHFの現在または過去の症候を有する患者(HFを有する患者の大部分)を示し、ステージDは真に難治性のHFを有する患者を指す。
【0026】
本発明の方法のある実施形態では、試験される患者は、好ましくは、ACC/AHAの分類(上記の引用を参照)に従って、心不全ステージCまたはDに罹患しているものとする。これらのステージでは、患者は心不全の症候を示す。心不全の症候は当技術分野で周知であり、呼吸困難、疲労および体液貯留を含む。体液貯留は肺うっ血および末梢浮腫をもたらし得、身体検査上の典型的な兆候は浮腫およびラ音である。したがって、試験される患者は、好ましくは心不全の症候を示す。
【0027】
本発明に従って、心不全に罹患している対象において、駆出率が保持された心不全(HFpEF)と駆出率が低下した心不全(HFrEF)とを鑑別するものとする。
【0028】
HFrEFに罹患している対象は、左室駆出率(LVEF)が低下した心不全を有する。「左室駆出率」という用語は、当技術分野で周知である。低下したLVEFを有する患者は、好ましくは50%未満、より好ましくは45%未満、最も好ましくは40%未満のLVEFを有する。さらに、患者は30%未満のLVEFを有することが想定される。
【0029】
HFpEFに罹患している対象は、LVEFが保存された心不全を有する。したがって、HFpEFという用語は、好ましくはLVEFが50%以上の心不全を指す。保存されたLVEFを有する患者はまた、55%より大きいまたは60%より大きいLVEFを有し得る。
【0030】
LVEFをどのように評価するかは、当技術分野で周知である。ある実施形態では、LVEFは、例えばMcMurrayら(European Heart Journal(2012)33、1787~1847、例えば1800頁以降を参照)によって記載されているように決定することができる。
【0031】
HFpEFを診断するための方法のある実施形態では、試験される患者は、心不全、特にHFpEFに罹患している疑いがあるものとする。心不全に罹患していると疑われる対象は、好ましくは心不全の症候を示す。HFpEFを診断するための方法の代替実施形態では、試験される患者は心不全を罹患しているものとする。したがって、患者は心不全に罹患していることが知られているものとする。
【0032】
HFpEFを診断するための方法に従って試験される患者は、正常な駆出率、すなわち保存されたLVEFを有し得る。
【0033】
本発明に従って、試験される対象は、高齢および/または過体重であり得る。
【0034】
好ましくは、対象は50歳を超えており、より好ましくは60歳を超えており、または最も好ましくは75歳を超えている。代替的または追加的に、対象は、25kg/m2を超える、特に27.5kg/m2を超えるボディーマス指数(BMI)を有する。さらに、対象は、30.0kg/m2を超えるBMIを有し得る。
【0035】
「試料」という用語は、体液の試料、分離された細胞の試料、または組織もしくは器官からの試料を指す。体液の試料は、周知の技法によって得ることができ、血液、血漿、血清、尿、リンパ液、痰、腹水、またはその他の体分泌物もしくはその誘導体の試料が含まれる。好ましい体液の試料は、尿、血液、血清または血漿である。組織または器官の試料を、例えば生検によって、任意の組織または器官から得てもよい。分離された細胞は、体液または組織もしくは器官から、遠心分離または細胞選別などの分離技法によって得てもよい。例えば、細胞、組織、または器官の試料を、バイオマーカーを発現または生成する細胞、組織、または器官から得てもよい。試料は、凍結されたもの、新鮮なもの、固定(例えば、ホルマリン固定)されたもの、遠心分離されたもの、および/または包埋(例えば、パラフィン包埋)されたものなどでよい。細胞試料は、試料中のマーカーの量を評価する前に、当然のことながら、種々の周知の収集後調製および保管技法(例えば、核酸および/またはタンパク質抽出、固定、保管、冷凍、限外濾過、濃縮、蒸発、遠心分離など)に供され得る。
【0036】
さらに、血液試料は乾燥した血液スポット試料であることが想定される。乾燥した血液スポット試料は、血液の液滴を吸収性濾紙に塗布することによって得ることができる。血液を紙に完全に飽和させ、数時間風乾させる。血液は、試験される対象から、例えば指からランセットによって採取されていてもよい。
【0037】
好ましい実施形態では、試料は、血液(すなわち、全血)、血清または血漿試料である。血清は、血液が血餅になった後に得られる全血の液体分画のことである。血清を得るために、遠心分離によって血餅を除去し、上清が収集される。血漿は、血液の無細胞流動部分である。血漿試料を得るために、全血は、抗凝固剤処理されたチューブ(例えば、クエン酸塩処理またはEDTA処理されたチューブ)に収集される。遠心分離により細胞を試料から除去し、上清(すなわち、血漿試料)を得る。
【0038】
本発明に従って、インスリン様成長因子結合タンパク質7(=IGFBP-7)の量を決定するものとする。好ましくは、IGFBP-7ポリペプチドの量が決定される。IGFBP-7は、内皮細胞、血管平滑筋細胞、線維芽細胞、および上皮細胞により分泌されることが公知の30kDaのモジュラー糖タンパク質である(Ono,Y.ら、Biochem Biophys Res Comm 202(1994)1490~1496)。好ましくは、「IGFBP-7」という用語は、ヒトIGFBP-7を指す。タンパク質の配列は、当技術分野で周知であり、例えば、Uni-Prot(Q16270、IBP7_HUMAN)、またはGenBank(NP_001240764.1)を介してアクセス可能である。バイオマーカーIGFBP-7の詳細な定義は、例えば、国際公開第2008/089994号パンフレットに提供されており、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。IGFBP-7には2つのアイソフォーム、アイソフォーム1および2があり、これらは選択的スプライシングによって生成される。本発明のある実施形態では、両方のアイソフォーム(配列については、UniProtデータベースエントリ(Q16270-1およびQ16270-2)を参照)の総量が決定される。
【0039】
IGF結合タンパク質7(=IGFBP7)は、内皮細胞、血管平滑筋細胞、線維芽細胞、および上皮細胞により分泌されることが公知の30kDaのモジュラー糖タンパク質である(Ono,Y.ら、Biochem Biophys Res Comm 202(1994)1490~1496)。文献では、この分子はまた、FSTL2;IBP 7;IGF結合タンパク質関連タンパク質I;IGFBP 7;IGFBP 7v;IGFBP rPl;IGFBP7;IGFBPRP1;インスリン様成長因子結合タンパク質7;インスリン様成長因子結合タンパク質7前駆体;MAC25;MAC25タンパク質;PGI2刺激因子;およびPSFまたはプロスタサイクリン刺激因子と命名されている。ノーザンブロット研究は、心臓、脳、胎盤、肝臓、骨格筋、および膵臓を含むヒト組織におけるこの遺伝子の広範な発現を明らかにした(Oh,Y.ら、J.Biol.Chem.271(1996)30322~30325)。
【0040】
IGFBP7は、最初に、それらの対応する腫瘍細胞と比較して、正常な軟髄膜および乳腺上皮細胞において示差的に発現される遺伝子として同定され、髄膜腫関連cDNA(MAC25)と名付けられた(Burger,A.M.ら、Oncogene 16(1998)2459~2467)。発現したタンパク質は、腫瘍由来接着因子(後にアンジオモジュリンと改名された)(Sprenger,C.C.ら、Cancer Res 59(1999)2370~2375)およびプロスタサイクリン刺激因子(Akaogi,K.ら、Proc Natl Acad Sci USA 93(1996)8384~8389)として独立して精製された。これは、乳癌腫において下方制御される遺伝子、T1Al2としてさらに報告されている(StCroix,B.ら、Science 289(2000)1197~1202)。
【0041】
好ましくは、「IGFBP7」という用語は、ヒトIGFBP7を指す。タンパク質の配列は、当技術分野で周知であり、例えば、GenBank(NP_001240764.1)を介してアクセス可能である。本明細書で使用されるIGFBP7は、好ましくは、特異的IGFBP7ポリペプチドのバリアントも包含する。
【0042】
本明細書で使用される場合、「BNP型ペプチド」という用語には、pre-proBNP、proBNP、NT-proBNPおよびBNPが含まれる。pre-proペプチド(pre-proBNPの場合には134アミノ酸)は、酵素的に切断されてproペプチド(proBNPの場合には108アミノ酸)を放出するための短いシグナルペプチドを含む。proペプチドはさらにN末端proペプチド(NT-proペプチド、NT-proBNPの場合には76アミノ酸)および活性ホルモン(BNPの場合には32アミノ酸)に切断される。好ましくは、本発明によるBNP型ペプチドは、NT-proBNP、BNPおよびそれらのバリアントである。BNPは活性ホルモンであり、それぞれの不活性対応物NT-proBNPよりも短い半減期を有する。BNPは血中で代謝されるが、NT-proBNPは無傷の分子として血中を循環するため、腎臓から排出される。NT-proBNPのin-vivo半減期は、20分であるBNPの半減期よりも120分長い(Smith 2000,J Endocrinol.167:239~46)。事前分析は、NT-proBNPでよりロバストであり、中央検査室への試料の容易な輸送を可能にする(Mueller 2004、Clin Chem Lab Med 42:942~4)。血液試料は、室温で数日間保存することができるか、または回収損失なく発送もしくは搬送することができる。対照的に、室温または4℃で48時間のBNPの保存は、少なくとも20%の濃度損失をもたらす(Mueller loc.cit.;Wu 2004,Clin Chem 50:867~73)。したがって、目的の経時変化または特性に応じて、ナトリウム利尿ペプチドの活性型または不活性型のいずれかの測定が有利である可能性がある。本発明による最も好ましいナトリウム利尿ペプチドは、NT-proBNPまたはそのバリアントである。上で簡単に論じたように、本発明により言及されるヒトNT-proBNPは、好ましくは、ヒトNT-proBNP分子のN末端部分に対応する長さ76アミノ酸を含むポリペプチドである。ヒトBNPとNT-proBNPの構造は、先行技術、例えば、国際公開第02/089657号パンフレット、国際公開第02/083913号パンフレットまたはBonow loc.cit.において、既に詳細に記述されている。好ましくは、本明細書で使用されるヒトNT-proBNPは、欧州特許第0648228号明細書B1に開示されているヒトNT-proBNPである。これらの先行技術文献は、本明細書に開示されているNT-proBNPおよびそのバリアントの特定の配列に関して、参照により本明細書に組み込まれる。
【0043】
CRP(C反応性タンパク質)は、肺炎球菌のC多糖に結合する血液タンパク質であることが75年より前に発見された急性期タンパク質である。CRPは反応性炎症マーカーとして公知であり、原発病変部位に由来するケモカインまたはインターロイキンに応答してまたは反応して遠位器官(すなわち、肝臓)によって産生される。CRPは、非共有結合で連結され、約110~140kDaの分子量を有する環状五量体として組み立てられる5つの単一サブユニットからなることが公知である。好ましくは、本明細書で使用されるCRPは、ヒトCRPに関する。ヒトCRPの配列は周知であり、例えば、Wooら(J.Biol.Chem.1985.260(24)、13384~13388)によって開示されている。CRPのレベルは通常、正常個体では低いが、炎症、感染または損傷のために100~200倍以上に上昇し得る(Yeh(2004)Circulation.2004;109:11-11-11-14)。CRPは心血管リスクの予測の独立因子であることが公知である。特に、CRPは、心筋梗塞、脳卒中、末梢動脈疾患および心臓突然死の予測因子として好適であることが示されている。さらに、CRP量の上昇はまた、急性冠症候群(ACS)を有する対象および冠動脈インターベンションを受けている対象において、再発性虚血および死亡を予測し得る。
【0044】
本明細書で使用される「量」という用語は、本明細書で言及されるバイオマーカーの絶対量、前記バイオマーカーの相対量または濃度、およびそれらに相関するまたはそれらから導き出され得る任意の値またはパラメータを包含する。このような値またはパラメータは、直接測定により前記ペプチドから得られる、特定の物理的または化学的特性全てに由来する強度シグナル値、例えば、質量スペクトルまたはNMRスペクトルでの強度値を含む。さらに、本明細書の別の箇所で示される間接測定により得られる値またはパラメータ全て、例えば、特異的に結合したリガンドから得られるペプチドまたは強度シグナルに応答して生物学的読み出しシステムにより決定される応答量、が包含される。前述の量またはパラメータに相関する値は、全ての標準的な数学的演算によっても得ることができるということを理解されたい。
【0045】
本発明のいくつかの実施形態では、「量」という用語は、バイオマーカーの質量を試料体積で割ったものとして定義される「質量濃度」を指す。質量濃度のSI単位はkg/m3(キログラム/立方メートル)であり、mg/mLおよびg/Lと同じである。バイオマーカーの濃度については、「mg/ml」または「pg/ml」などの他の単位が一般的に使用される。したがって、バイオマーカーの量は、1mlの試験試料中のバイオマーカーの質量であり得る。
【0046】
本明細書で言及されるバイオマーカーの量を「決定する」という用語は、バイオマーカーの定量化を指し、例えば、本明細書の他の箇所に記載されている適切な検出方法を用いて、試料中のバイオマーカーのレベルを決定することを指す。
【0047】
ある実施形態では、バイオマーカーの量は、試料をバイオマーカーに特異的に結合する薬剤と接触させ、それにより薬剤と前記バイオマーカーとの間に複合体を形成させ、形成された複合体の量を検出し、それにより前記バイオマーカーの量を決定することにより、決定される。
【0048】
本明細書で言及されているバイオマーカーは、当技術分野で一般的に公知な方法を使用して検出することができる。検出方法は、一般に、試料中のバイオマーカーの量を定量化する方法(定量的方法)を包含する。以下の方法のどれがバイオマーカーの定性的および/または定量的検出に好適であるかは、一般的に当業者に公知である。試料は、例えば、ウエスタン法、ならびに市販されているELISA、RIA、蛍光および発光ベースのイムノアッセイのようなイムノアッセイを使用して、タンパク質について簡便にアッセイすることができる。バイオマーカーを検出するためのさらに好適な方法は、ペプチドまたはポリペプチドに特異的な物理的または化学的特性、例えば、その正確な分子量またはNMRスペクトルなどを決定することを含む。前記方法は、例えば、バイオセンサー、イムノアッセイと連結した光学デバイス、バイオチップ、分析デバイス、例えば質量分析計、NMR分析器、またはクロマトグラフィーデバイスを含む。さらに、方法には、マイクロプレートELISAベースの方法、完全自動化またはロボットイムノアッセイ(例えば、Elecsys商標アナライザーで利用可能)、CBA(酵素的コバルト結合アッセイ、例えばRoche-Hitachi商標アナライザーで利用可能)、およびラテックス凝集アッセイ(例えば、Roche-Hitachi商標アナライザーで利用可能)が含まれる。
【0049】
本明細書で言及されるバイオマーカータンパク質の検出については、そのようなアッセイ形式を使用する幅広いイムノアッセイ技法が利用可能であり、例えば、米国特許第4,016,043号明細書、同第4,424,279号明細書、および同第4,018,653号明細書を参照されたい。これらは、従来の競合結合アッセイだけでなく、非競合タイプの1部位および2部位または「サンドイッチ」アッセイの両方を含む。これらのアッセイはまた、標識された抗体の標的バイオマーカーへの直接結合も含む。サンドイッチアッセイは、最も有用なイムノアッセイに含まれる。
【0050】
電気化学発光標識を用いる方法は、周知である。そのような方法は、特殊な金属錯体の能力を使用して、酸化によって、励起状態となり、そこから基底状態へ減衰して、電気化学発光の放出を得る。総説については、Richter,M.M.、Chem.Rev.104(2004)3003~3036を参照されたい。
【0051】
ある実施形態では、バイオマーカーの量を決定するために使用される検出抗体(またはその抗原結合断片)は、ルテニル化(ruthenylated)またはイリジニル化(iridinylated)されている。したがって、抗体(またはその抗原結合断片)は、ルテニウム標識を含むものとする。ある実施形態では、前記ルテニウム標識は、ビピリジン-ルテニウム(II)錯体である。あるいは、抗体(またはその抗原結合断片)は、イリジウム標識を含むものとする。ある実施形態では、前記イリジウム標識は、国際公開第2012/107419号パンフレットに開示されている錯体である。
【0052】
ポリペプチド(例えば、IGFBP-7)の量を決定することは、好ましくは、(a)ポリペプチドを前記ポリペプチドに特異的に結合する薬剤と接触させる工程と、(b)(任意に)結合していない薬剤を除去する工程と、(c)結合した結合剤、すなわち工程(a)で形成された薬剤の複合体の量を測定する工程とを含み得る。好ましい実施形態によれば、前記接触させる工程、任意に除去する工程および決定する工程は、分析器ユニットにより実施され得る。一部の実施形態によれば、前記工程は、前記システムの単一の分析器ユニット、または互いに作動可能に連絡した2つ以上の分析器ユニットにより実施され得る。例えば、特定の実施形態によれば、本明細書で開示されている前記システムは、前記接触させる工程、および任意に除去する工程を実施するための第1の分析器ユニット、ならびに輸送ユニット(例えば、ロボットアーム)により上記第1の分析器ユニットに作動可能に接続された、前記決定する工程を実施する第2の分析器ユニットを含み得る。
【0053】
バイオマーカーに特異的に結合する薬剤(本明細書では「結合剤」とも称される)は、結合した薬剤の検出および測定を可能にする標識に、共有結合的または非共有結合的に連結されていてもよい。標識化は、直接または間接の方法により行われてもよい。直接標識化は、標識を結合剤に直接的に(共有結合的または非共有結合的に)連結させることを含む。間接標識化は、第2の結合剤を第1の結合剤に(共有結合的または非共有結合的に)結合させることを含む。第2の結合剤は、第1の結合剤に特異的に結合するものとする。前記第2の結合剤は、好適な標識と連結し得る、および/または第2の結合剤に結合する第3の結合剤の標的(レセプター)であり得る。好適な第2の、およびより高次の結合剤には、抗体、二次抗体、およびストレプトアビジン-ビオチン系(Vector Laboratories,Inc.)などの周知の結合系が含まれ得る。結合剤または基質は、当技術分野で公知の1種以上のタグで「タグ付け」されていてもよい。そうすることで、このようなタグは、より高次の結合剤の標的となり得る。好適なタグには、ビオチン、ジゴキシゲニン(digoxygenin)、His-タグ、グルタチオン(Glutathion)-S-トランスフェラーゼ、FLAG、GFP、myc-タグ、インフルエンザAウイルスヘマグルチニン(HA)、マルトース結合タンパク質などが含まれる。ペプチドまたはポリペプチドの場合、タグは、好ましくはN末端および/またはC末端にある。好適な標識は、適切な検出方法により検出可能な任意の標識である。典型的な標識には、金粒子、ラテックスビーズ、アクリダンエステル、ルミノール、ルテニウム錯体、イリジウム錯体、酵素的に活性な標識、放射性標識、磁気標識(「例えば磁気ビーズ」、常磁性および超常磁性標識を含む)、および蛍光標識が含まれる。酵素的に活性な標識には、例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、βガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ、およびそれらの誘導体が含まれる。検出のための好適な基質には、ジ-アミノ-ベンジジン(DAB)、3,3’-5,5’-テトラメチルベンジジン、NBT-BCIP(Roche Diagnosticsから既製のストック溶液として入手可能な4-ニトロブルーテトラゾリウムクロリドおよび5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリル-ホスフェート)、CDP-Star(商標)(Amersham Bio-sciences)、ECF(商標)(Amersham Biosciences)が含まれる。好適な酵素-基質の組合せにより、着色された反応生成物、蛍光または化学発光が生じてもよく、これは、当技術分野で公知の方法に従って(例えば感光膜または好適なカメラシステムを使用して)判定することができる。酵素反応を測定することについては、上記の基準が同様に適用される。典型的な蛍光標識には、蛍光タンパク質(例えば、GFPおよびその誘導体)、Cy3、Cy5、テキサスレッド、フルオレセイン、およびAlexa色素(例えばAlexa568)が含まれる。さらなる蛍光標識は、例えばMolecular Probes(Oregon)から入手可能である。また、蛍光標識としての量子ドットの使用が、企図される。放射性標識は、例えば感光膜またはホスホイメージャー(phosphor imager)の公知かつ適切な任意の方法により検出され得る。
【0054】
ポリペプチドの量はまた、好ましくは、以下の通り決定することができる:(a)本明細書の他の箇所に記載のポリペプチド用結合剤を含む固体支持体を、ペプチドまたはポリペプチドを含む試料と接触させること、および(b)支持体に結合したペプチドまたはポリペプチドの量を決定すること。支持体を製造するための物質は、当技術分野で周知であり、とりわけ、市販のカラム物質、ポリスチレンビーズ、ラテックスビーズ、磁気ビーズ、コロイド金属粒子、ガラスおよび/またはシリコンチップおよび表面、ニトロセルロースストリップ、膜、シート、デュラサイト(duracyte)、反応トレイのウェルおよび壁、プラスチックチューブなどが含まれる。
【0055】
さらなる別の態様では、試料は、形成された複合体の量の測定前に、結合剤と1種のマーカーとの間で形成された複合体から除去される。したがって、ある態様では、結合剤は固体支持体に固定されてもよい。さらなる別の態様では、試料は、洗浄溶液を適用することによって、固体支持体上で形成した複合体から除去され得る。
【0056】
「サンドイッチアッセイ」は、最も有用かつ一般的に使用されるアッセイに含まれ、サンドイッチアッセイ技法のいくつかのバリエーションを包含する。簡潔に言うと、典型的なアッセイでは、非標識の(捕捉)結合剤が固定化されているか、または固体基板上に固定化され得、試験される試料を、捕捉結合剤と接触させる。結合剤-バイオマーカー複合体を形成させるのに十分な期間である、好適なインキュベート期間の後、次いで検出可能なシグナルを生成できるレポーター分子で標識された第2の(検出)結合剤が添加され、結合剤-バイオマーカー-標識された結合剤という別の複合体の形成に十分な時間インキュベートする。任意に、未反応材料を洗い流してもよい。バイオマーカーの存在は、検出結合剤に結合したレポーター分子により生成されるシグナルの観察により判定される。結果は、可視シグナルの単純な観察による定性的なものでもよく、または既知量のバイオマーカーを含む対照試料との比較による定量的なものであってもよい。
【0057】
典型的なサンドイッチアッセイのインキュベーション工程は、必要に応じて適切であるように変更することができる。このような変更には、例えば、2種以上の結合剤およびバイオマーカーが一緒にインキュベートされる同時インキュベーションが含まれる。例えば、分析される試料および標識された結合剤の両方が同時に、固定化された捕捉結合剤に添加される。また、分析される試料および標識された結合剤を最初にインキュベートし、その後、固相に結合した抗体、または固相に結合することができる抗体を添加することもできる。
【0058】
特異的な結合剤とバイオマーカーとの間で形成される複合体は、試料中に存在するバイオマーカーの量に比例するものとする。適用される結合剤の特異度および/または感度は、特異的に結合され得る、試料中に含まれる少なくとも1種のマーカーの割合の程度を規定することと理解されるであろう。測定を実行する方法のさらなる詳細については、本明細書の別の箇所にも見出される。形成された複合体の量は、試料中に実際に存在する量を反映するバイオマーカーの量に変換されるものとする。
【0059】
「結合剤」、「特異的な結合剤」、「検体に特異的な結合剤」、「検出剤」および「バイオマーカーに特異的に結合する薬剤」という用語は、本明細書中で互換的に使用される。好ましくは、それは、対応するバイオマーカーに特異的に結合する結合部分を含む薬剤に関する。「結合剤」または「薬剤」の例は、核酸プローブ、核酸プライマー、DNA分子、RNA分子、アプタマー、抗体、抗体断片、ペプチド、ペプチド核酸(PNA)または化合物である。好ましい薬剤は、決定されるバイオマーカーに特異的に結合する抗体、またはその抗原結合断片である。本明細書の「抗体」という用語は、最も広い意味で使用され、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば二重特異性抗体)、および所望の抗原結合活性を示す限り抗体断片(すなわち、それらの抗原結合断片)を含むが、これらに限定されず、さまざまな抗体構造を包含する。好ましくは、抗体はポリクローナル抗体である。より好ましくは、抗体はモノクローナル抗体である。
【0060】
「特異的結合」または「特異的に結合する(specifically bind)」という用語は、結合する対の分子が、他の分子に有意に結合しない条件下で、互いに結合することを示す結合反応を指す。「特異的結合」または「特異的に結合する(specifically binds)」という用語は、バイオマーカーとしてのタンパク質またはペプチドを指す場合、結合剤が少なくとも10-7Mの親和性で対応するバイオマーカーに結合する結合反応を指す。「特異的結合」または「特異的に結合する(specifically binds)」という用語は、好ましくは、その標的分子に対して少なくとも10-8M、またはさらにより好ましくは少なくとも10-9Mの親和性を指す。「特異的な」または「特異的に」という用語は、試料中に存在する他の分子が、標的分子に特異的な結合剤に、有意に結合しないことを示すために使用される。
【0061】
本発明の工程(b)では、(i)IGFBP7の量とBNPペプチドの量との比。あるいは、(ii)IGFBP7の量およびCRPの量の和とBNP型ペプチドの量との比。
【0062】
本明細書で言及される「比を計算する」という用語は、i)IGFBP7の量またはii)IGFBP7の量およびCRPの量の和と、前記量を割ることによるBNP型ペプチドの量との比を、またはBNP型ペプチドの量に対してi)またはii)の量を関係させる任意の他の同等の数学的計算を行うことによって計算することに関する。好ましくは、比を計算(したがって、BNP型ペプチドの量に対するi)またはii)の量の比を計算)するために、i)またはii)の量をBNP型ペプチドの量で割る。
【0063】
いくつかの実施形態では、IGFBP7の量およびCRPの量の和は、IGFBP7の量およびCRPの量を合計することによって、例えば、IGFBP7の質量濃度およびCRPの質量濃度を合計することによって決定される。典型的には、CRPおよびIGFBP7の量に同じ単位、例えば「ng/mL」が使用される。次いで、IGFBP7の量およびCRPの量の決定された和を、BNP型ペプチドの量で割る。BNP型ペプチドについては、CRPおよびIGFBP7の量に対するものと同じ単位を使用してもよい。しかしながら、pg/mlの量が計算に使用されることも想定される。いくつかの実施形態では、ng/mlの量がCRPおよびIGFBP7に対して使用され、一方でpg/mlの量がBNP型ペプチドに対して使用される。
【0064】
比を計算するために、i)またはii)の量をBNP型ペプチドの量で割る場合、以下の比が計算される:
1.IGFBP7/BNP型ペプチド(すなわち、BNP型ペプチドの量に対するIGFBP7の量の比)、または
2.(IGFBP7+CRP)/BNP型ペプチド(すなわち、BNP型ペプチドの量に対するIGFBP7の量およびCRPの量の和の比)
【0065】
上記の比(1.または2.)が決定される場合、HFpEFとHFrEFとを鑑別する方法における診断アルゴリズムとして以下を適用する。
【0066】
好ましくは、基準比を上回る比は、駆出率が保持された心不全(HFpEF)を示し、一方で基準比を下回る比は、駆出率が低下した心不全(HFrEF)を示す。
【0067】
上記の比(1.または2.)が決定される場合、HFpEFを診断するための方法における診断アルゴリズムとして以下を適用する。
【0068】
好ましくは、基準比を上回る比は、駆出率が保持された心不全(HFpEF)に罹患している対象を示し、一方で基準比を下回る比は、HFpEFに罹患していない対象、すなわちHFを有するか、またはHFを有する疑いがあり、かつHFpEFに罹患していない対象を示す。
【0069】
また好ましくは、BNP型ペプチドの量は、比を計算(したがって、i)またはii)の量に対するBNP型ペプチドの量の比を計算)するために、i)またはii)の量で割られる。
【0070】
したがって、以下の比が計算される:
3.BNP型ペプチド/IGFBP7、または
4.BNP型ペプチド/(IGFBP7+CRP)
【0071】
上記の比(3.または4.)が決定される場合、HFpEFとHFrEFとを鑑別する方法における診断アルゴリズムとして以下を適用する。
【0072】
好ましくは、基準比を下回る比は、駆出率が保持された心不全(HFpEF)を示し、一方で基準比を上回る比は、駆出率が低下した心不全(HFrEF)を示す。
【0073】
上記の比(3.または4.)が決定される場合、HFpEFを診断するための方法における診断アルゴリズムとして以下を適用する。
【0074】
好ましくは、基準比を下回る比は、駆出率が保持された心不全(HFpEF)に罹患している対象を示し、一方で基準比を上回る比は、HFpEFに罹患していない対象、すなわちHFを有するか、またはHFを有する疑いがあり、かつHFpEFに罹患していない対象を示す。
【0075】
本発明の方法の工程(c)では、工程(b)で計算された比を基準比と比較するものとする。
【0076】
本明細書で使用される「比較する」という用語は、好ましくは、本発明の方法に従って計算された比を基準比、すなわち好適な基準比と比較することを指す。本明細書で使用される場合、比較することとは、通常、値の比較を指すことを理解されたい。比較は、手作業またはコンピュータの支援で実施され得る。したがって、比較を計算デバイスにより実施してもよい。計算された比の値と基準比は、例えば、互いに比較され得、前記比較は、比較のためのアルゴリズムを実行するコンピュータプログラムにより自動的に実施され得る。前記評価を実施するコンピュータプログラムは、好適なアウトプット様式で、所望の評価を提供する。コンピュータに支援された比較において、計算された比の値が、コンピュータプログラムにより、データベースに保存されている好適な基準比に対応する値に対して比較されてもよい。コンピュータプログラムは、比較の結果をさらに評価してもよく、すなわち、好適なアウトプット様式で所望の評価を自動的に提供してもよい。比較の結果は、好ましくは、HFpEFの診断またはHFpEFとHFrEFとの鑑別の補助として役立ち得る。
【0077】
HFpEFとHFrEFとを鑑別するための方法では、計算した比と基準比との比較に基づいて、心不全を有する対象において、HFpEFとHFrEFとを鑑別することができる。したがって、HFpEFとHFrEFとを識別するための方法における基準比は、比較された値の差または類似性のいずれかがHFpEFとHFrEFとを鑑別することを可能にするように選択されるべきである。HFpEFとHfrEFとの間の鑑別に従って、「基準比」という用語は、したがってHFpEFとHFrEFとの間の鑑別を可能にする値/比を指す。したがって、基準比は、これらのグループを互いに分離する閾値とすることができる。
【0078】
HFpEFを診断するための方法では、計算された比と基準比との比較に基づいて、HFpEFに罹患している対象と、HFpEFに罹患していない対象とを鑑別することができる。したがって、これにおける基準比は、比較された値の差または類似性のいずれかがHFpEFとHFrEFとを鑑別することを可能にするように選択されるべきである。HFpEFの診断に従って、「基準比」という用語は、したがってHFpEFに罹患している対象とHFpEFに罹患していない対象とを鑑別することを可能にする値/比を指す。
【0079】
個々の対象に適用可能な基準比は、年齢、性別、または亜集団などの様々な生理学的パラメータ、ならびに本明細書で言及されるポリペプチドまたはペプチドの決定に使用される手段に応じて変化し得る。好適な基準比は、試験試料と一緒に、すなわち同時に、または続いて分析される基準試料から決定されてもよい。
【0080】
基準比は、原則として、統計学の標準的方法を適用することにより、平均(average)または平均(mean)比に基づいて、対象のコホートに対し計算され得る。特に、イベントかどうかの診断を目的とする方法などの試験の正確性は、受信者動作特性(ROC)により最もよく記述される(特に、Zweig 1993、Clin.Chem.39:561~577を参照されたい)。ROCグラフは、観察されたデータの全範囲にわたって決定閾値を継続的に変動させることにより生じる、全ての感度対特異度のペアのプロットである。診断方法の臨床成績は、その正確性、すなわち対象をある特定の鑑別または診断に正確に割り当てる能力に依存する。ROCプロットは、識別を行うのに好適な閾値の全範囲について、感度対1-特異度をプロットすることにより、2つの分布間の重複を示す。y軸は、感度または真陽性率であり、真陽性試験結果の数と偽陰性試験結果の数の積に対する、真陽性試験結果の数の比として定義される。これは、疾患または症状の存在下での陽性とも称されている。それは罹患しているサブグループからのみ計算される。x軸は、偽陽性率または1-特異度であり、真陰性結果の数および偽陽性結果の数の積に対する、偽陽性結果の数の比として定義される。これは特異度の指標であり、罹患していないサブグループからのみ計算される。真陽性率および偽陽性率は、2つの異なるサブグループからの試験結果を使用することによって完全に別々に計算されるため、ROCプロットはコホートにおけるイベントの有病率から独立している。ROCプロット上の各点は、特定の決定閾値に対応する感度/-特異度のペアを表す。完全な判別の(結果の2つの分布に重複がない)試験は、左上隅を通るROCプロットを有し、真陽性率は1.0、または100%(完全な感度)、および偽陽性率は0(完全な特異度)となる。判別のない(2つのグループに対する結果の分布が同一である)試験における理論上のプロットは、左下隅から右上隅への45の対角線となる。ほとんどのプロットは、これらの2つの極値の間にある。ROCプロットが45対角を完全に下回る場合、これは、「陽性」の基準を「より高い」から「より低い」に入れ替え、またはその逆にすることで、容易に是正される。定性的には、プロットが左上隅に近いほど、試験全体の正確性が高くなる。所望の信頼区間に応じて、ROC曲線から閾値を導き出すことができ、感度および特異度の適切なバランスで、本明細書で言及された鑑別または診断が可能になる。したがって、本発明の方法に使用される基準、すなわち、HFpEFとHFrEFとを判別することを可能にする、またはHFpEFを診断することを可能にする閾値は、好ましくは、上記のように前記コホートに対するROCを確立し、そこから閾値の比を導出することによって作成され得る。診断方法における所望の感度および特異度に応じて、ROCプロットは、好適な閾値の導出を可能にする。
【0081】
本明細書で提供される上記の定義および説明を、本発明の以下の方法に準用する。
【0082】
本発明はさらに、心不全に罹患している対象において、駆出率が保持された心不全(HFpEF)と駆出率が低下した心不全(HFrEF)とを鑑別するためのコンピュータ実装方法であって、
(a)処理ユニットにおいて、対象由来の試料中のIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)の量の値、BNP型ペプチドの量の値、および任意にCRP(C反応性タンパク質)の量の値を受け取る工程、
(b)前記処理ユニットによって、(i)IGFBP7の量とBNPペプチドの量との比、または(ii)IGFBP7の量およびCRPの量の和とBNP型ペプチドの量との比を計算する工程、
(c)前記処理ユニットによって、工程(b)で計算された比を基準比と比較する工程、ならびに
(d)駆出率が保持された心不全(HFpEF)と駆出率が低下した心不全(HFrEF)とを鑑別する工程を含む、方法に関する。
【0083】
本発明はさらに、HFpEFに罹患している疑いのある対象において、駆出率が保持された心不全(HFpEF)を診断するためのコンピュータ実装方法であって、
(a)処理ユニットにおいて、対象由来の試料中のIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)の量の値、BNP型ペプチドの量の値、および任意にCRP(C反応性タンパク質)の量の値を受け取る工程、
(b)前記処理ユニットによって、(i)IGFBP7の量とBNPペプチドの量との比、または(ii)IGFBP7の量およびCRPの量の和とBNP型ペプチドの量との比を計算する工程、
(c)前記処理ユニットによって、工程(b)で計算された比を基準比と比較する工程、ならびに
(d)駆出率が保持された心不全を診断する工程を含む、方法に関する。
【0084】
上述の方法は、コンピュータ実装方法である。好ましくは、コンピュータ実装方法の全ての工程は、コンピュータ(またはコンピュータネットワーク)の1つ以上の処理ユニットによって実行される。したがって、工程(d)における評価(すなわち、診断または鑑別)は、処理ユニットによって実行される。好ましくは、前記評価は、工程(c)の結果に基づく。
【0085】
工程(a)で受信した値は、本明細書の他の箇所に記載のように、対象由来の試料中のIGFBP-7、BNP型ペプチド(および任意にCRP)の量の決定から導出されるものとする。好ましくは、値は、マーカーの量の値である。値は通常、値を処理ユニットにアップロードまたは送信することによって、処理ユニットにより受信される。あるいは、ユーザーインターフェースを介して値を入力することにより、処理ユニットにより値が受信される。
【0086】
前述の方法のある実施形態では、工程(c)に示す基準比、すなわち基準比の値は、メモリから確立される。
【0087】
本発明の前述のコンピュータ実装方法のある実施形態では、工程(d)で行われる評価の結果は、結果を提示するように構成されたディスプレイを介して提供される。
【0088】
本発明の前述のコンピュータ実装方法のある実施形態では、方法は、工程(d)で行われた評価に関する情報を個体の電子医療記録に転送するさらなる工程を含み得る。
【0089】
本発明はさらに、プログラムがコンピュータまたはコンピュータネットワーク上で実行される場合、HFpEFとHFrEFとを鑑別するための、またはHFpEFを診断するための、本発明によるコンピュータ実装方法の工程を実行するためのコンピュータで実行可能な命令を含むコンピュータプログラムに関する。典型的には、コンピュータプログラムは、具体的には、本明細書に開示の方法の工程を実行するためのコンピュータで実行可能な命令を含み得る。具体的には、コンピュータプログラムは、コンピュータで可読なデータ媒体に保存され得る。
【0090】
本発明はさらに、心不全に罹患している対象において、駆出率が保持された心不全(HFpEF)と駆出率が低下した心不全(HFrEF)とを鑑別するための方法であって、
(a)対象から試料を受け取る工程、
(b)試料中のIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)の量、BNP型ペプチドの量、および任意にCRP(C反応性タンパク質)の量を決定する工程、ならびに
(c)IGFBP7の量、BNP型ペプチドの量および任意にCRPの量の値を主治医に提供し、それにより、HFpEFとHFrEFとを鑑別することを可能にする工程を含む、方法に関する。
【0091】
本発明はさらに、HFpEFに罹患している疑いのある対象において、駆出率が保持された心不全(HFpEF)を診断するための方法であって、
(a)対象から試料を受け取る工程、
(b)試料中のIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)の量、BNP型ペプチドの量、および任意にCRP(C反応性タンパク質)の量を決定する工程、ならびに
(c)IGFBP7の量、BNP型ペプチドの量および任意にCRPの量の値を主治医に提供し、それにより、HFpEFの診断を可能にする工程を含む、方法に関する。
【0092】
前述の方法に従う医師は、診断または鑑別のためのバイオマーカーIGFBP-7、BNP型ペプチド、および任意にCRPの決定を要求した医師であるものとする、すなわち、医師は主治医である。前記医師は、試験される対象を処置するものとする。前述の方法は、鑑別および診断のそれぞれにおいて主治医を支援するものとする。
【0093】
試料を受け取る工程a)は、対象からの試料の抽出を包含しない。むしろ、対象から(例えば、主治医の監督下で)得られた試料が提供される。例えば、試料は、前記試料中のバイオマーカーの量の決定を実施する検査室に試料を送達することによって提供され得る。
【0094】
量が決定された後、決定された量の値に関する情報または計算された比の情報が医師に提供される。さらに、基準比の値に関する情報が提供され得る。提供された情報は、対象がHFrEFまたはHFpEFに罹患しているかどうかの指示をさらに含み得る。
【0095】
IGFBP7の量、BNP型ペプチドの量および任意にCRPの量の値を、前述の方法の(工程(c)に示すように)主治医に提供する代わりに、本明細書に示す比の値を主治医に提供することができ、それにより、HFpEFとHFrEFとを鑑別(またはHFpEFの診断)が可能になる。
【0096】
HFpEFの診断のための本発明の方法は、診断の結果に基づいて、対象を処置する工程をさらに含み得る。好ましくは、本発明の方法によってHFpEFに罹患していると診断された対象が処置される。したがって、方法は、HFpEFに罹患している対象を選択する工程を含み得る。前記選択は、比較工程の結果に基づくものとする。
【0097】
処置は、HFpEFを処置することを可能にする任意の処置を包含し得る。この用語は、生活様式の変化、食事療法、身体への介入、ならびに適切な医薬の投与を包含する。
【0098】
いくつかの実施形態では、処置は、HFpEFを処置することを可能にする少なくとも1つの医薬の投与を包含する。いくつかの実施形態では、処置は、アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)、アンジオテンシンII受容体遮断薬(しばしばアンジオテンシンII受容体拮抗薬とも称される)、βアドレナリン遮断薬(本明細書ではβ遮断薬とも称される)、アルドステロン拮抗薬および利尿薬からなる群から選択される少なくとも1種の医薬の投与を含む。
【0099】
ある実施形態では、ACE阻害薬、例えばベナゼプリル、カプトプリル、シラザプリル、エナラプリル、フォシノプリル、リシノプリル、モエキシプリル、ペリンドプリル、キナプリル、ラミプリル、スピラプリルまたはトランドラプリルが投与される。
【0100】
ある実施形態では、β遮断薬、例えばセブトロール(cebutolol)、アルプレノロール、アテノロール、ベタキソロール、ビソプロロール、ブプラノロール、カラゾロール、カルテオロール、カルベジロール、セリプロロール、メチプラノロール、メトプロロール、ナドロール、ネビボロール、オクスプレノロール、ペンブトロール、ピンドロール、プロパノロール(propanolol)、ソタロール、タニロロール(tanilolol)またはチモロールが投与される。
【0101】
ある実施形態では、アンジオテンシンII受容体拮抗薬、例えばロサルタン、バルサルタン、イルベサルタン、カンデサルタン、テルミサルタンまたはエプロサルタンが投与される。
【0102】
ある実施形態では、利尿薬、例えばチアジドおよびチアジド様利尿薬またはK-保持性利尿薬が投与される。
【0103】
ある実施形態では、アルドステロン拮抗薬、例えばエプレロン、スピロノラクトン、カンレノン、メキシレノンまたはプロレノンが投与される。
【0104】
HFpEFの処置のためのさらなる療法は、Tschoepeら(Clin Res Cardiol.2018年1月;107(1):1~19.doi:10.1007/s00392-017-1170-6.Epub 2017年10月10日)に記載されており、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。好ましくは、処置は、SGLT2(ナトリウム-グルコース共輸送体-2)阻害薬、可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激薬、無機硝酸塩およびアンジオテンシン受容体-ネプリライシン阻害薬(ARNi)からなる群から選択される少なくとも1種の医薬の投与を含む。
【0105】
ある実施形態では、医薬はSGLT2(ナトリウム-グルコース共輸送体-2)阻害薬である。別の実施形態では、医薬は可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激薬である。別の実施形態では、医薬は無機硝酸塩である。別の実施形態では、医薬は、アンジオテンシン受容体-ネプリライシン阻害薬(ARNi)、すなわち、ネプリライシン阻害薬(例えばサクビトリル)およびアンジオテンシン受容体遮断薬(例えばバルサルタン)を含む併用薬である。
【0106】
さらに、本発明は、駆出率が保持された心不全(HFpEF)と駆出率が低下した心不全(HFrEF)とを鑑別するため、またはHFpEFを診断するために、対象由来の試料中のIGFBP7、BNP型ペプチドおよび任意にCRPの使用に関する。
【0107】
HFpEFとHFrEFとを鑑別するための本発明の方法は、鑑別の結果に基づいて対象を処置する工程をさらに含み得る。典型的には、HFpEFに罹患していると診断された対象およびHFrEFに罹患していると診断された対象の両方が処置される。HFpEFに罹患していると診断された対象は、典型的には、HFpEFを診断する方法に関連して上記のように処置される。いくつかの実施形態では、この対象の処置は、SGLT2(ナトリウム-グルコース共輸送体-2)阻害薬、可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激薬、無機硝酸塩およびアンジオテンシン受容体-ネプリライシン阻害薬(ARNi)からなる群から選択される少なくとも1種の医薬の投与を含む。
【0108】
HFrEFに罹患していると同定された対象は、好ましくはガイドラインに従って処置される。いくつかの実施形態では、HFrEFの処置は、アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)、アンジオテンシンII受容体遮断薬(しばしばアンジオテンシンII受容体拮抗薬とも称される)、βアドレナリン遮断薬(本明細書ではβ遮断薬とも称される)、アルドステロン拮抗薬および利尿薬からなる群から選択される少なくとも1種の医薬の投与を含む。
【0109】
最後に、本発明は、駆出率が保持された心不全(HFpEF)と駆出率が低下した心不全(HFrEF)とを鑑別するため、またはHFpEFを診断するための、対象由来の試料中のIGFBP7に結合する少なくとも1種の検出剤、BNP型ペプチドに結合する少なくとも1種の検出剤、および任意にCRPに結合する少なくとも1種の検出剤の使用に関する。
【0110】
ある実施形態では、検出剤は、抗体またはその抗原結合断片である。
【発明を実施するための形態】
【0111】
本発明の実施形態
本発明の以下の実施形態は、本明細書に記載の任意の他の実施形態と組み合わせて使用され得る。本明細書での上記の定義および説明を、以下に準用する。
【0112】
1.心不全に罹患している対象において、駆出率が保持された心不全(HFpEF)と駆出率が低下した心不全(HFrEF)とを鑑別するための方法であって、
(a)対象由来の試料中のIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)の量、BNP型ペプチドの量、および任意にCRP(C反応性タンパク質)の量を決定する工程、
(b)(i)IGFBP7の量とBNPペプチドの量との比、または(ii)IGFBP7の量およびCRPの量の和とBNP型ペプチドの量との比を計算する工程、
(c)工程(b)で計算された比を基準比と比較する工程、ならびに
(d)駆出率が保持された心不全(HFpEF)と駆出率が低下した心不全(HFrEF)とを鑑別する工程を含む、方法。
【0113】
2.対象がヒトである、実施形態1に記載の方法。
【0114】
3.試料が、血液試料、血清試料または血漿試料である、実施形態1または2に記載の方法。
【0115】
4.BNP型ペプチドが、BNPまたはNT-proBNPである、実施形態1から3のいずれか1つに記載の方法。
【0116】
5.BNP型ペプチドの量に対するIGFBP7の量の比が計算される、実施形態1から4のいずれか1つに記載の方法。
【0117】
6.BNP型ペプチドの量に対するIGFBP7の量およびCRPの量の和の比が計算される、実施形態1から4のいずれか1つに記載の方法。
【0118】
7.基準比を上回る比が、駆出率が保持された心不全(HFpEF)を示し、かつ/または基準比を下回る比が、駆出率が低下した心不全(HFrEF)を示す、実施形態5または6に記載の方法。
【0119】
8.HFpEFに罹患している疑いのある対象において、駆出率が保持された心不全(HFpEF)を診断するための方法であって、
(a)対象由来の試料中のIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)の量、BNP型ペプチドの量、および任意にCRP(C反応性タンパク質)の量を決定する工程、
(b)(i)IGFBP7の量とBNPペプチドの量との比、または(ii)IGFBP7の量およびCRPの量の和とBNP型ペプチドの量との比を計算する工程、
(c)工程(b)で計算された比を基準比と比較する工程、ならびに
(d)駆出率が保持された心不全を診断する工程を含む、方法。
【0120】
9.心不全に罹患している対象において、駆出率が保持された心不全(HFpEF)と駆出率が低下した心不全(HFrEF)とを鑑別するためのコンピュータ実装方法であって、
(a)処理ユニットにおいて、対象由来の試料中のIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)の量の値、BNP型ペプチドの量の値、および任意にCRP(C反応性タンパク質)の量の値を受け取る工程、
(b)前記処理ユニットによって、(i)IGFBP7の量とBNPペプチドの量との比、または(ii)IGFBP7の量およびCRPの量の和とBNP型ペプチドの量との比を計算する工程、
(c)前記処理ユニットによって、工程(b)で計算された比を基準比と比較する工程、ならびに
(d)駆出率が保持された心不全(HFpEF)と駆出率が低下した心不全(HFrEF)とを鑑別する工程を含む、方法。
【0121】
10.HFpEFに罹患している疑いのある対象において、駆出率が保持された心不全(HFpEF)を診断するためのコンピュータ実装方法であって、
(a)処理ユニットにおいて、対象由来の試料中のIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)の量の値、BNP型ペプチドの量の値、および任意にCRP(C反応性タンパク質)の量の値を受け取る工程、
(b)前記処理ユニットによって、(i)IGFBP7の量とBNPペプチドの量との比、または(ii)IGFBP7の量およびCRPの量の和とBNP型ペプチドの量との比を計算する工程、
(c)前記処理ユニットによって、工程(b)で計算された比を基準比と比較する工程、ならびに
(d)駆出率が保持された心不全を診断する工程を含む、方法。
【0122】
11.基準比がメモリから確立される、実施形態9および10に記載の方法。
【0123】
12.心不全に罹患している対象において、駆出率が保持された心不全(HFpEF)と駆出率が低下した心不全(HFrEF)とを鑑別するための方法であって、
(a)対象から試料を受け取る工程、
(b)試料中のIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)の量、BNP型ペプチドの量、および任意にCRP(C反応性タンパク質)の量を決定する工程、ならびに
(c)IGFBP7の量、BNP型ペプチドの量および任意にCRPの量の値を主治医に提供し、それにより、HFpEFとHFrEFとを鑑別することを可能にする工程を含む、方法。
【0124】
13.HFpEFに罹患している疑いのある対象において、駆出率が保持された心不全(HFpEF)を診断するための方法であって、
(a)対象から試料を受け取る工程、
(b)試料中のIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)の量、BNP型ペプチドの量、および任意にCRP(C反応性タンパク質)の量を決定する工程、ならびに
(c)IGFBP7の量、BNP型ペプチドの量および任意にCRPの量の値を主治医に提供し、それにより、HFpEFの診断を可能にする工程を含む、方法。
【0125】
14.駆出率が保持された心不全(HFpEF)と駆出率が低下した心不全(HFrEF)とを鑑別するため、またはHFpEFを診断するため、対象由来の試料中のバイオマーカーとしてのIGFBP7、BNP型ペプチドおよび任意にCRPの使用。
【0126】
15.駆出率が保持された心不全(HFpEF)と駆出率が低下した心不全(HFrEF)とを鑑別するため、またはHFpEFを診断するため、対象由来の試料中のIGFBP7に結合する少なくとも1種の検出剤、BNP型ペプチドに結合する少なくとも1種の検出剤、および任意にCRPに結合する少なくとも1種の検出剤の使用。
【図面の簡単な説明】
【0127】
図面は以下を示す:
図1は、HFpEFの診断のためのバイオマーカー測定を示す。
図2は、HFpEFの診断のためのGDF15を用いたバイオマーカー比。
図3は、HFpEFの診断のためのIGFBP-7を用いたバイオマーカー比。
【
図1a】HFpEFの診断のため、HFrEF患者の499個の試料およびHFpEF患者の123個の試料におけるNT-proBNPの測定
【
図1b】HFpEFの診断のため、HFrEF患者の411個の試料およびHFpEF患者の107個の試料におけるCRPの測定
【
図1c】HFpEFの診断のため、HFrEF患者の451個の試料およびHFpEF患者の110個の試料におけるGDF15の測定
【
図1d】HFpEFの診断のため、HFrEFを有する心不全患者の366個の試料およびHFpEF患者の96個の試料におけるIGFBP-7の測定
【
図2a】HFrEFに罹患している患者の410個の試料対HFpEFに罹患している107人の患者において、CRP+GDF15(HFrEF対HFpEFで上昇していない)/NTproBNP(HFrEF対HFpEFで上昇している)の比を用いた心不全患者におけるHFpEF対HFrEFの診断
【
図2b】HFrEFに罹患している患者の411個の試料対HFpEFに罹患している107人の患者において、CRP+GDF15+ST2(HFrEF対HFpEFで上昇していない)/NTproBNP(HFrEF対HFpEFで上昇している)の比を用いた心不全患者におけるHFpEF対HFrEFの診断
【
図3a】HFrEFに罹患している患者の359個の試料対HFpEFに罹患している96人の患者において、CRP+IGFBP-7(HFrEF対HFpEFで上昇していない)/NTproBNP(HFrEF対HFpEFで上昇している)の比を用いた心不全患者におけるHFpEF対HFrEFの診断
【
図3b】HFrEFに罹患している患者の359個の試料対HFpEFに罹患している96人の患者において、CRP+IGFBP-7+ST2(HFrEF対HFpEFで上昇していない)/NTproBNP(HFrEF対HFpEFで上昇している)の比を用いた心不全患者におけるHFpEF対HFrEFの診断
【
図3c】GDF-15+IGFBP-7(HFrEF対HFpEFで上昇していない)/NTproBNP(HFrEF対HFpEFで上昇している)の比を用いた心不全患者におけるHFpEF対HFrEFの診断
【0128】
本明細書で引用される全ての参考文献は、一般的なそれらの開示内容に関して、または上に示された特定の開示内容に関して、参照により本明細書に組み込まれる。
【0129】
本発明は、本発明の範囲を制限または限定することを意図しない以下の実施例によって説明される。
【実施例】
【0130】
実施例1:循環バイオマーカーを用いたHFpEFの評価
NTproBNP、GDF-15、ST2、CRP(hs CRP)およびIGFBP-7のレベルを、駆出率の低下あり、およびなしのHF患者において決定した。
【0131】
結果を
図1に示す。NTproBNPは、駆出率が保持された心不全(HFpEF)の患者と比較して、駆出率が低下した心不全(HFrEF)の患者において有意に上昇した(AUC 0.659)(
図1aを参照されたい)。
図1bは、駆出率が保持された心不全(HFpEF)の患者と比較して、駆出率が低下した心不全(HFrEF)の患者においてCRPが有意に上昇しなかったことを示す(AUC 0.575)。
図1cは、駆出率が保持された心不全(HFpEF)の患者と比較して、駆出率が低下した心不全(HFrEF)の患者においてGDF15が有意に上昇していないことを示す(AUC 0.554)。
図1dは、駆出率が保持された心不全(HFpEF)の患者と比較して、駆出率が低下した心不全(HFrEF)の患者においてIGFBP-7が有意に上昇していないことを示す(AUC 0.494)。
【0132】
表1は、駆出率が低下した心不全(HFrEF)患者のサブグループおよび駆出率が保持された心不全(HFpEF)患者のサブグループにおける循環バイオマーカーの力価を示す。バイオマーカーの完全なセット(NTproBNP、GDF15、ST2、CRPhsおよびIGFBP7)のバイオマーカーデータは、HFrEF患者の366個の試料およびHFpEF患者の96個の試料について利用可能であった。
表1:HFpEF対HFrEF患者における循環バイオマーカーの力価
【表1】
【0133】
表1は、単変量解析において、NTproBNPが両サブグループ(HFrEF集団と比較したHFrEF集団)において有意に異なるマーカー濃度で検出されたことを明確に示している。
【0134】
HFrEF患者は、HFpEF患者と比較してより高いNT-proBNP力価を示した[4410対2189pg/mL中央値、p<0.001]。対照的に、GDF15、ST2、CRPおよびIGFBP7については、HFrEF患者のサブグループと比較して、HFpEF患者のサブグループにおいてわずかに上昇したマーカー濃度しか検出されなかった。しかしながら、HFpEFとHFrEFとの間のマーカー濃度で観察された差は、単変量解析においてGDF15、ST2、CRPhs、IGFBP-7に対して有意ではなかった。HFpEF患者は、HFrEF患者と比較して、わずかに高いGDF15、ST2、CRPhs、IGFBP-7力価を示した[4304対3939pg/mL中央値、37,6対35,7pg/mL;8,54対6,66ng/mL;237,1対242,1ng/mL;p>0.001]。
【0135】
上記から、HFpEF患者の鑑別診断および同定は困難であることになる。HFpEF患者を有するHFrEF患者では、NTproBNPのみが有意な循環力価の上昇が観察された。対照的に、HFpEF患者およびHFrEF患者におけるマーカーレベル間の有意差は、CRP、GDF15、ST2およびIGFBP-7対しては検出されなかった。したがって、NTproBNPの測定と比較して、マーカーの組合せを用いたHFpEFの診断改善のための明白なヒントはなかった。
【0136】
実施例2:HFpEFの診断のためのGDF15を用いた比
表1に示すように、HFpEF患者と比較して、HFrEF患者から循環NTproBNPレベルの上昇を検出することができた。対照的に、駆出率の低下を伴うまたは伴わないHF患者間の循環レベルの有意差を、CRPおよびGDF15について検出することはできなかった。
【0137】
HFpEFの改善された診断について、CRP+GDF15(HFrEF対HFpEFで上昇していない)/NTproBNP(HFrEF対HFpEFで上昇している)の比を評価した。
【0138】
図2aに示すように、HFpEFの検出について、(CRP+GDF15)/NTproBNPの比で観察されたAUCは0.671であった。
図2bに示すように、(CRP+GDF15)/NTproBNPの比と比較して、(CRP+GDF15+ST2)/NTproBNPの比ではさらなる改善を達成することができなかった。HFpEFの検出について、(CRP+GDF15+ST2)/NTproBNPの比で観察されたAUCは0.671であった。
【0139】
結果に基づくと、(CRP+GDF15)/NTproBNPの比は、NTproBNPまたはGDF15またはCRPの単一バイオマーカーの判定と比較して、HFpEFの診断を改善すると結論付けられた。
【0140】
実施例3:HFpEFの診断のためのIGFBP-7を用いたバイオマーカー比
表1に示すように、HFpEF患者と比較して、HFrEF患者から循環NTproBNPレベルの上昇を検出することができた。対照的に、駆出率の低下を伴うまたは伴わないHF患者間の循環レベルの有意差を、CRPおよびIGFBP-7について検出することができなかった。HFpEFの改善された診断について、CRP+IGFBP-7(HFrEF対HFpEFで上昇していない)/NTproBNP(HFrEF対HFpEFで上昇している)の比を評価した。
【0141】
図3aに示すように、HFpEFの検出についてバイオマーカー(CRP+IGFBP-7)/NTproBNPの和の計算された指標で観察されたAUCは0.699であった。これに対して、HFpEFの検出についてIGFBP-7/NTproBNPの比で観察されたAUCは0.680であった。
図3cに示すように、HFの検出についてバイオマーカー(GDF-15+IGFBP-7)/NTproBNPの和の計算された指標で観察されたAUCは0.693であった。
図3bに示すように、(CRP+IGFBP-7)/NTproBNPの比と比較して、(CRP+IGFBP-7+ST2)/NTproBNPの比で同等の性能が観察された。HFpEFの検出について(CRP+IGFBP-7+ST2):NTproBNPの比で観察されたAUCは0.703であった。驚くべきことに、バイオマーカー(CRP+IGFBP-7):NTproBNPの和の計算された指標は、HFpEFの診断について、(CRP+GDF15)/NTproBNPの比に対して優れた性能さえ示した。(CRP+IGFBP-7)/NTproBNPの比は、Sinningらによって記述されている(CRP+GDF15+ST2)/NTproBNPの比に対して優れた性能さえ示す(AUC 0.699対AUC 0.671)。
【0142】
表2は、HFpEF対HFrEF患者における計算された指標の倍率変化を示す。
【表2】
【0143】
倍率変化を計算した((HFpEFの中央値)/(HFrEFの中央値))-1×100。
【0144】
表2は、(IGFBP-7+CRP)/NTproBNPの和の計算された指標は、(GDF15+CRP+ST2)/NTproBNPの和の計算された指標と比較して、HFpEF対HFrEFの鑑別診断において改善された性能を明確に示している(倍率変化87,81%対65,34%)。IGFBP-7/NTproBNPの比を比較すると、74,97%の倍率変化が観察された。
【0145】
結論として、IGFBP-7は、IGFBP-7を含まないNTproBNP、GDF15、CRPベースのスコアと比較して、HFpEFの同定を改善する。
【0146】
IGFBP-7を用いた本スコアは、Sinningらから公表されたスコアと比較して、より良好な効果量を示す。
【0147】
(CRP+IGFBP-7)/NTproBNPの比を含むアルゴリズムは、HFpEF患者の診断を補助するのに有用であると結論付けられた。このアルゴリズムは、心不全を有する患者におけるHFpEFの診断において、および心不全を有すると疑われる個体におけるHFpEFの同定のために使用され得る。
【0148】
実施例4:症例研究
高血圧を有する76歳の女性肥満患者は、息切れを呈する。NTproBNP、IGFBP-7およびCRPを、患者から得られた血清試料で(Elecsys NTproBNP、Elecsys IGFBP-7およびCobas CRPを用いて)決定する。NTproBNP値は、肥満の存在のためグレーゾーンにある可能性があるので、心不全の鑑別診断が行われる。NTproBNP値は476pg/mL、IGFBP-7値は190,8ng/mL、およびCRP値は5,8ng/mLである。計算された指標(CRP+IGFBP-7):NTproBNPは0.41であり、計算された基準比(0.09)に対して上昇している。基準比は、基準コホートにおける中央値の比として計算した。得られた比(0.41)は、駆出率が保持された心不全を示し、患者は、HFpEF改善戦略を伴う処置、例えばSGLT2阻害薬による処置からより利益を受けると同定されている。患者の治療はそれに応じて適合される。
【0149】
高血圧を有する81歳の男性患者は、心房細動および息切れの病歴を有する。NTproBNP、IGFBP-7およびCRPを、患者から得られた血清試料で(上記のキットを用いて)決定する。観察された駆出率は、グレーゾーン(50%)にある。心房細動の存在のため、NTproBNP値も上昇し得るので、心不全の鑑別診断が行われる。NTproBNP値は3289pg/mL、IGFBP-7値は250,7ng/mL、およびCRP値は10,8ng/mLである。計算された指標(CRP+IGFBP-7):NTproBNPは0.79であり、計算された基準比(0.09)に対して上昇している。基準比は、基準コホートにおける中央値の比として計算した。得られた比(0.79)は、駆出率が保持された心不全を示し、患者は、HFpEF改善戦略を伴う処置、例えばSGLT2阻害薬による処置からより利益を受けると同定されている。患者の治療はそれに応じて適合される。
【0150】
糖尿病および高血圧を有する68歳の肥満女性患者は、運動不耐性の症候を呈する。肥満の症候および駆出率が保持された心不全の症候は類似しているので、例えば、心不全の運動不耐性鑑別診断が行われる。NTproBNP、IGFBP-7およびCRPを、患者から得られた血清試料で(上記のキットを用いて)測定する。NTproBNP値は4643pg/mL、IGFBP-7値は245,5ng/mL、およびCRP値は5.6ng/mLである。計算された指標(CRP+IGFBP-7):NTproBNPは0.05であり、これは基準比(0.09)に対して減少している。この結果は、駆出率が低下した心不全を示し、患者は、HFpEF改善戦略を伴う処置、例えばSGLT2阻害薬による処置からあまり利益を受けないと同定されている。したがって、患者の治療はそれに応じて適合されない。