(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-17
(45)【発行日】2024-05-27
(54)【発明の名称】工作機械
(51)【国際特許分類】
B23Q 1/00 20060101AFI20240520BHJP
B23C 1/08 20060101ALI20240520BHJP
B23B 39/22 20060101ALI20240520BHJP
B23Q 1/44 20060101ALI20240520BHJP
B23Q 3/18 20060101ALI20240520BHJP
【FI】
B23Q1/00 J
B23C1/08
B23B39/22
B23Q1/44 D
B23Q3/18 B
(21)【出願番号】P 2022030396
(22)【出願日】2022-02-28
【審査請求日】2023-03-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000100805
【氏名又は名称】アイシン高丘株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【氏名又は名称】山田 強
(72)【発明者】
【氏名】服部 達也
(72)【発明者】
【氏名】眞弓 章弘
(72)【発明者】
【氏名】柘植 克彦
【審査官】野口 絢子
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-220698(JP,A)
【文献】実開昭49-080996(JP,U)
【文献】特開2010-153644(JP,A)
【文献】実開平05-060748(JP,U)
【文献】特開2015-157336(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0075473(US,A1)
【文献】中国実用新案第211661166(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B35/00-49/06
B23C 1/00- 9/00
B23Q 1/00- 1/76
B23Q 9/00- 9/02
B23P 5/00-17/06
B23P23/00-25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークを固定するワーク固定装置と、
前記ワーク固定装置に固定された前記ワークの表側に対して接離可能な第1主軸部と、
前記第1主軸部の接離方向において前記第1主軸部と前記ワークを挟んだ反対側に設けられ、前記ワーク固定装置に固定された前記ワークの裏側に対して前記第1主軸部の接離方向に沿って接離可能な第2主軸部と、
を備え、
前記第1主軸部及び前記第2主軸部には、前記ワークへの接離方向と平行な軸線を中心に回転して前記ワークを加工する工具がそれぞれ装着され、前記ワークをその表裏両側から加工可能とし
、
前記接離方向は鉛直方向であり、
前記第1主軸部は前記ワークの上方に設けられ、
前記第2主軸部は前記ワークの下方に設けられており、
前記第2主軸部を鉛直方向に昇降させる昇降機構を備え、
前記昇降機構は、
水平方向に移動可能なくさび下部体と、
前記くさび下部体の傾斜上面と合わさる傾斜下面を有し、鉛直方向へ移動可能であって、前記第2主軸部が設けられるくさび上部体と、
前記くさび上部体及び第2主軸部の一体的な昇降を案内するガイド機構と、
を備えており、
前記ガイド機構は、
鉛直方向に立設された縦柱に設けられたガイドレールと、
前記くさび上部体及び前記第2主軸部の少なくとも一方に設けられ、前記ガイドレールに沿って移動可能なスライダと、
を備え、
前記くさび上部体及び前記第2主軸部の少なくとも一方には、水平方向の両脇にそれぞれ張り出す張出し部がそれぞれ設けられており、
前記スライダは前記張出し部のそれぞれに設けられ、
前記ガイドレールは、前記張出し部のそれぞれと相対向するように設けられた一対の前記縦柱に設けられていることを特徴とする工作機械。
【請求項2】
前記ガイド機構は、前記張出し部の張出し方向からみた場合に、前記第2主軸部の回転中心軸線と略重なって設けられていることを特徴とする請求項
1に記載の工作機械。
【請求項3】
前記一対の縦柱同士の間に架け渡される横行部材が設けられていることを特徴とする請求項
1又は2に記載の工作機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は工作機械に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばフライス盤、NCフライス盤、マシニングセンタ等、固定されたワークを回転する工具で加工する工作機械が一般に知られている。この工作機械を用いて、例えば表裏両側加工などワークの一方側とその反対側との両側加工をする場合は、従来、次のように行われてきた。
【0003】
所定の割り出し角度でワークを固定するインデックス装置を対向配置し、ワークの両端部をそれぞれインデックス装置で保持することで、ワークを反転可能とする(例えば特許文献1参照)。これによれば、ワークの一方側を加工した後、当該ワークを反転させて他方側を工具と相対向させることでワークの他方側が加工可能となる。
【0004】
また、水平方向に対向する2つの主軸台が設けられた工作機械も知られている(例えば特許文献2参照)。この工作機械では、一方の主軸台のチャック装置でワークを保持して当該ワークの一方側を加工した後、ワーク受渡し機構によってワークが他方の主軸台に受け渡される。これによりワークが反転され、未だ加工されていないワークの他方側が加工空間に露出するため、当該他方側が加工可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6551854号公報
【文献】特開平6-134601号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、インデックス装置でワークの両側を保持する前者の構成では、ワークの一方側を加工した後、他方側を加工する前にワークの反転動作を行う必要がある。また、2つの対向主軸台が設けられた後者の構成でも、ワークの一方側を加工した後、他方側を加工する前に、ワークを反転させるための受渡し動作を行う必要がある。これら反転動作や受渡し動作が行われる間、ワークに対する加工を行うことができない。そのため、ワークの両側加工をするサイクルタイムが増加することが懸念されていた。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、ワークの両側加工をするサイクルタイムを短縮し、ワークの両側加工を効率化できる工作機械を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決すべく、第1の発明の工作機械では、
ワークを固定するワーク固定装置と、
前記ワーク固定装置に固定された前記ワークの表側に対して接離可能な第1主軸部と、
前記第1主軸部の接離方向において前記第1主軸部と前記ワークを挟んだ反対側に設けられ、前記ワーク固定装置に固定された前記ワークの裏側に対して前記第1主軸部の接離方向に沿って接離可能な第2主軸部と、
を備え、
前記第1主軸部及び前記第2主軸部には、前記ワークへの接離方向と平行な軸線を中心に回転して前記ワークを加工する工具がそれぞれ装着され、前記ワークをその表裏両側から加工可能としたことを特徴とする。
【0009】
第2の発明の工作機械では、
前記接離方向は鉛直方向であり、
前記第1主軸部は前記ワークの上方に設けられ、
前記第2主軸部は前記ワークの下方に設けられていることを特徴とする。
【0010】
第3の発明の工作機械では、
前記第2主軸部を鉛直方向に昇降させる昇降機構を備え、
前記昇降機構は、
水平方向に移動可能なくさび下部体と、
前記くさび下部体の傾斜上面と合わさる傾斜下面を有し、鉛直方向へ移動可能であって、前記第2主軸部が設けられるくさび上部体と、
前記くさび上部体及び第2主軸部の一体的な昇降を案内するガイド機構と、
を備えており、
前記ガイド機構は、
鉛直方向に立設された縦柱に設けられたガイドレールと、
前記くさび上部体及び前記第2主軸部の少なくとも一方に設けられ、前記ガイドレールに沿って移動可能なスライダと、
を備えていることを特徴とする。
【0011】
第4の発明の工作機械では、
前記くさび上部体及び前記第2主軸部の少なくとも一方には、水平方向の両脇にそれぞれ張り出す張出し部がそれぞれ設けられており、
前記スライダは前記張出し部のそれぞれに設けられ、
前記ガイドレールは、前記張出し部のそれぞれと相対向するように設けられた一対の前記縦柱に設けられていることを特徴とする。
【0012】
第5の発明の工作機械では、前記ガイド機構は、前記張出し部の張出し方向からみた場合に、前記第2主軸部の回転中心軸線と略重なって設けられていることを特徴とする。
【0013】
第6の発明の工作機械では、前記一対の縦柱同士の間に架け渡される横行部材が設けられていることを特徴とする。
【0014】
第7の発明の工作機械では、
前記第1主軸部又は前記第2主軸部の少なくとも一方に装着される工具は、複数の工具から選択されるものであり、
前記複数の工具には、前記ワーク固定装置によって前記ワークが固定される前に当該ワークの芯出しをする芯出し工具が含まれており、
前記芯出し工具は、芯出し用の基準孔を備えたワークを芯出し対象とし、
前記基準孔は、前記芯出し工具と相対向する側の開口縁に形成されたテーパ部とその奥のストレート部とを有しており、
前記芯出し工具は、前記テーパ部に当接して芯出しする当接面を有していることを特徴とする。
【0015】
第8の発明の工作機械では、前記当接面は、球面状に形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
第1の発明によれば、固定されたワークを挟んでその表裏両側に第1主軸部と第2主軸部とが設けられ、それぞれに装着された工具を用い、ワークを反転させることなくワークの表裏両側を加工できる。これによれば、ワークを反転させる動作が不要となり、その分、ワークの表裏両側を加工するサイクルタイムを短縮し、ワークの表裏両側加工を効率化できる。
【0017】
第2の発明によれば、上方からワークを加工する既存の工作機械に設けられた主軸部を第1主軸部として利用すれば、それにワーク固定装置と第2主軸部を設けた下部装置を設置することで、ワークの上下両側を加工できる工作機械が得られる。水平方向に対向する2つの主軸台とワーク受渡し装置を有する既存の工作機械は比較的高額であり、その導入には相当なコスト増加が必要となる。これに対し、2つの主軸部のうち一方の主軸部として既存の工作機械を利用することにより、ワークの上下両側加工が可能な工作機械の導入コストを低減できる。
【0018】
第3の発明によれば、第2主軸部に装着された工具を用いてワークを加工する際に、切削抵抗によって生じるモーメントが第2主軸部に作用しても、そのモーメントは、第2主軸部の昇降をガイドするガイド機構によって受け止められる。これにより、モーメントによって工具回転軸線がずれたり、びびり振動が生じたりすることを抑制できる。
【0019】
第4の発明によれば、第2主軸部の昇降をガイドするガイド機構が、第2主軸を中心として張出し部の張出し方向の両側に設けられている。そのため、切削抵抗によってその張出し方向に生じる曲げモーメントは、この両側のガイド機構によって安定して受け止められ、工具回転軸線のずれやびびり振動をより一層抑制できる。
【0020】
第5の発明によれば、張出し方向からみた場合に、ガイド機構が第2主軸部の工具回転軸線とほぼ重なる位置に設けられているため、切削抵抗によって生じる力を受け止めるガイド位置と工具回転軸線とのズレがほとんどなくなる。これにより、切削抵抗によって生じるモーメントによってガイド機構にかかる力が低減され、工具回転軸線にずれが生じたり、びびり振動が生じたりすることを抑制できる。
【0021】
第6の発明によれば、一対の縦柱同士の間が横行部材によって掛け渡されているため、両縦柱と横行部材とによって門型構造が形成され、案内レールが設けられた一対の縦柱の剛性が高められる。これにより、切削抵抗によって張出し部の張出し方向に生じるモーメントがより安定的に受け止められ、工具回転軸線のずれやびびり振動をさらに抑制できる。
【0022】
第7の発明によれば、芯出し工具の当接面を基準孔の内面に形成されたテーパ部に当接させることでワークの芯出しが行われる。従前、円錐台状をなす当接部を備えた芯出し工具の場合、開口縁部やテーパ部とストレート部との境となる角部に当接部を当接させて芯出しを行っていたが、その場合、開口縁部や角部にバリが存在していると、そのバリによって芯出しが不十分となることがあった。それに対してこの発明によれば、当接面を基準孔の開口縁部や前記角部ではなくテーパ部(テーパ面)に当接させるため、開口縁部や前記角部にバリが存在していたとしても、芯出しにおけるバリの影響を少なくすることができる。
【0023】
第8の発明によれば、芯出し工具の当接面が球状に形成されているため、当接面が基準孔のテーパ部に当接した当初は点接触であり、その後さらに芯出し工具を押し付けることにより、球状の当接面は周方向に沿った線接触でテーパ部と当接することになる。これにより、ワークの芯出しを確実に行える。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図7】芯出し工具のA部を拡大して示す一部拡大図。
【
図8】芯出し工具を用いたワークの位置決め動作を説明する説明図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を具体化した一実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、ここでの説明において用語として使用する「左右」とは
図1に示す状態を基準とし、「前」とは
図2に示す状態を基準にその左側を意味し、「後」とは同じく
図2に示す状態を基準にその右側を意味する。
【0026】
図1及び
図2に示すように、本実施形態の工作機械10は、立型のマシニングセンタを用いてこれに各種構成を追加することによって組み立てられている。マシニングセンタは、固定されたワークWに対し、回転する切削工具等を用いてフライス、孔開け、中ぐり、ねじ切り、座ぐり等の加工を行う数値制御工作機械である。数値制御の指令によって工具を自動的に交換することもできる。なお、工具には、切削工具の他、芯出し用の工具、基準位置測定ツール等がある。
【0027】
このようにマシニングセンタが用いられているため、工作機械10は、マシニングセンタが有するベース11、コラム12、第1可動テーブル13、工具が装着される上側主軸ヘッド14、自動工具交換装置15(ATC)、制御装置16を備えている。
【0028】
第1可動テーブル13はベース11上においてX軸及びY軸に移動可能に設けられ、その上にワークWが固定される。本実施形態では、第1可動テーブル13の上に下部ユニット20が設置され、この下部ユニット20の上部でワークWが固定される。下部ユニット20の構成については後述する。
【0029】
上側主軸ヘッド14は、コラム12の上部において当該コラム12の前側(第1可動テーブル13側)に設けられている。上側主軸ヘッド14は、第1可動テーブル13(より詳しくは下部ユニット20)上に固定されたワークWの上方に至るまで、前方に向けて張り出している。上側主軸ヘッド14には、工具を取り付ける上側工具主軸14aが設けられている。上側工具主軸14aは鉛直方向に延び、上側工具主軸14a上において上側工具T1が上側主軸ヘッド14に装着される。
【0030】
上側主軸ヘッド14は上側工具T1を上側工具主軸14aが延びる方向(Z軸方向)に送る機構が設けられ、ガイドレール17に沿って当該方向に移動し、ワークWの表側(上側)に接離可能となっている。つまり、上側主軸ヘッド14のワークWに対する接離方向は鉛直方向となっている。ここでいう「表側」とは、固定されたワークWが上側主軸ヘッド14と相対向する側をいう。また、上側主軸ヘッド14は上側工具T1に回転動作を与える機構を備え、上側工具T1は上側工具主軸14aを回転軸線として回転する。なお、上側主軸ヘッド14は第1主軸部に相当する。
【0031】
自動工具交換装置15は工具マガジン(図示略)を備えている。工具マガジンには、個々に工具を保持した状態の上部工具ホルダ18が複数又は多数格納されている。自動工具交換装置15は、上側主軸ヘッド14への上部工具ホルダ18の装着及び取外し、工具マガジンへの上部工具ホルダ18の取出し及び収納を行う機構を備えている。そのため、上側主軸ヘッド14に装着された上側工具T1を交換する場合、自動工具交換装置15は、工具マガジンから所定の工具を保持する上部工具ホルダ18を取り出す。そして、上側主軸ヘッド14に装着された上部工具ホルダ18を外し、新たに取り出した上部工具ホルダ18を上側主軸ヘッド14に装着する。
【0032】
制御装置16は、その内部に記憶領域(図示略)が設けられ、記憶領域には動作プログラムが格納されている。制御装置16は、動作ブログラムを実行することにより、上側工具T1によるワークWの加工にかかわる一連の制御を行う。具体的には、第1可動テーブル13のX軸及びY軸方向への移動、上側主軸ヘッド14のZ軸方向への移動、上側工具主軸14aを中心とする上側工具T1の回転、自動工具交換装置15による工具の交換等である。
【0033】
以上の基本構成に加え、工作機械10は、第1可動テーブル13の上に下部ユニット20が設けられている。下部ユニット20は、ワーク固定装置21と、裏側加工装置22とを備えている。
【0034】
ワーク固定装置21は、架台30と、ワーク支持台40とを備えている。架台30は、4つの縦柱31,32と、上面板材33と、補強部34とにより立方体状の骨格が形成されている。各縦柱31,32は第1可動テーブル13上に立設されている。
図2に示すように、各縦柱31,32のうち、コラム12の側に設けられた後縦柱32は、前面側の前縦柱31よりも幅広に形成されている。上面板材33は各縦柱31,32の上端部においてそれら各縦柱31,32に連結されている。補強部34は前縦柱31と後縦柱32との間において、両縦柱31,32の下端部において架け渡され、前縦柱31及び後縦柱32に連結されている。
【0035】
ワーク支持台40は、
図1に示すように、水平をなす上面板材33の上面において、上面板材33の左右両端部に設けられている。各ワーク支持台40は、一対の縦板材41を有している。一対の縦板材41は、その板面を相対向させて上面板材33の上面に立設されている。左右のワーク支持台40の縦板材41同士の間には、横板材42が架け渡されている。左右のワーク支持台40において、一対の縦板材41の上端には座台43が連結され、各座台43の上には基準座44が設けられている。また、左右の座台43の先端部同士の間にはワークガイド45が設けられている。ワークガイド45は、ワークWを仮位置決めするためのガイドである。なお、仮位置決めの後、ワークWに対する加工を行う前に行われる芯出しについては後述する。
【0036】
本実施形態では、ワークWとして、車両等のブレーキ装置に用いられるディスクロータを想定している。そのため、ワークガイド45には、ディスクロータのハット部Waが挿入されるガイド孔46が形成されている(後述する
図8も参照)。ガイド孔46の内径は、ハット部Waの外径よりも若干大きく形成されている。ワークWであるディスクロータのハット部Waを工作機械10に固定する場合、ハット部Waがガイド孔46に挿入され、ディスク部Wbが左右の基準座44に載置される。
【0037】
左右のワーク支持台40のそれぞれの座台43には、基準座44の外側にワークWを固定するためのワーククランプ47が設けられている。ワーククランプ47はシリンダ装置48と、クランプ部49とを有している。シリンダ装置48はそのロッド48aが鉛直方向に出没するように座台43に設けられ、ロッド48aの先端部にクランプ部49が設けられている。クランプ部49はその先端部が基準座44の上方に配置され、先端下面には突起部49aが設けられている。ワーククランプ47は、シリンダ装置48にロッド48aを出没させる流体給排機構(図示略)を備えている。ロッド48aが没入することによりクランプ部49が基準座44の側に移動し、突起部49aが基準座44に載置されたワークWを押え付けることでワークWが固定される。ロッド48aが突出すると、ワークWがクランプ部49による固定から解放される。
【0038】
基準座44にワークWを固定する作業の間、上側主軸ヘッド14は、制御装置16によってワーク固定装置21の上方に配置される。基準座44にワークWを固定する作業の後、上側工具T1が装着された上側主軸ヘッド14を制御装置16がZ軸方向に沿って下降させ、それにより上側工具T1と対峙する側(表側)が上側工具T1によって加工される。加工時において、第1可動テーブル13をX軸及びY軸方向に移動させることにより、基準座44に固定されたワークWの加工位置が定められる。
【0039】
次に、下部ユニット20の裏側加工装置22について説明する。
【0040】
裏側加工装置22は、上側主軸ヘッド14の昇降によってワークWの表側を加工するのに対し、ワークWの裏側(下側)を加工する装置である。
図1及び
図2に示すように、裏側加工装置22は、架台30の各縦柱31,32によって囲まれた内側空間に設置されている。架台30の上面板材33には開口部33aが設けられており、裏側加工装置22の上部は開口部33aを通じて上面板材33からその上方に突き抜け、左右のワーク支持台40の間に設けられている。裏側加工装置22は、下側主軸ヘッド51と、第2可動テーブル52と、昇降機構60とを備えている。
【0041】
下側主軸ヘッド51は、工具を取り付ける下側工具主軸51aを有している。下側工具主軸51aは鉛直方向に延び、下側工具主軸51a上において下側工具T2が下側主軸ヘッド51に装着される。その装着は、下側主軸ヘッド51に設けられた下部工具ホルダ53に下側工具T2が保持されることによってなされている。下側主軸ヘッド51は下側工具T2に回転動作を与える機構を備えており、下側工具T2は下側工具主軸51aを回転軸線として回転する。下側主軸ヘッド51は昇降機構60の上部に設けられ、昇降機構60によって下側工具主軸51aが延びる方向(Z軸方向)に移動し、ワークWの裏側(下側)に接離可能となっている。つまり、下側主軸ヘッド51のワークWに対する接離方向は鉛直方向となっている。ここでいう「裏側」とは、ワーク固定装置21に固定されたワークWが下側主軸ヘッド51と相対向する側をいう。なお、下側主軸ヘッド51は第2主軸部に相当する。
【0042】
第2可動テーブル52は、第1可動テーブル13の上においてX軸及びY軸に移動可能に設けられ、その上に昇降機構60が固定される。
【0043】
昇降機構60は下側主軸ヘッド51を昇降させるものであり、下部移動体61と上部移動体62とを備えている。
図1及び
図2に示された昇降機構60は概略であり、より詳しい構成が
図3及び
図4に示されている。なお、下部移動体61はくさび下部体に、上部移動体62はくさび上部体にそれぞれ相当する。
【0044】
図3に示すように、下部移動体61はくさび型をなすように形成され、前から後に向けて下向きに傾斜する傾斜上面63を有している。下部移動体61は第2可動テーブル52の上において前後方向に移動可能に設けられ、前後駆動機構70によって前後方向に移動する。前後駆動機構70は、基台71と、送りねじ72と、ナット73と、駆動モータ74と、第1リニアガイド75とを備えている。
【0045】
基台71は平板状をなし、第2可動テーブル52の上に設置されている。送りねじ72は、基台71の上方において前後方向に延び、第2可動テーブル52に設けられた前側支持部76と、基台71に設けられた後側支持部77とで中心軸線を回転軸線として回転可能に支持されている。ナット73は送りねじ72に螺着されており、下部移動体61の下面に設けられた連結サドル78を介して下部移動体61に連結されている。送りねじ72が回転するとナット73が前後方向に移動し、それに伴って下部移動体61も前後に移動する。
【0046】
駆動モータ74は第2可動テーブル52に設けられたブラケット79に設けられ、送りねじ72と連結されて送りねじ72を回転させる。
【0047】
第1リニアガイド75は、下部移動体61の前後移動をガイドする。第1リニアガイド75は、
図4に示すように、送りねじ72の左右両側方において送りねじ72と平行をなして設けられている。第1リニアガイド75のガイドレール75aは基台71に設けられ、下部移動体61の下面には、ガイドレール75aに沿って移動する第1リニアガイド75のスライダ75bが設けられている。スライダ75bは、一つのガイドレール75aに対して2つ設けられている。
【0048】
図3に戻り、上部移動体62は、下部移動体61の上で鉛直方向に移動可能に設けられている。上部移動体62はくさび型をなすように形成され、前から後ろに向けて下向きに傾斜する傾斜下面64を有している。上部移動体62の傾斜下面64と下部移動体61の傾斜上面63とは相対向し、両者の間に第2リニアガイド65が設けられている。第2リニアガイド65は、下部移動体61と上部移動体62との相対移動をガイドする。第2リニアガイド65は、傾斜上面63及び傾斜下面64の左右にそれぞれ設けられている。
図3に示されている第2リニアガイド65は右側に設けられたものである。第2リニアガイド65のガイドレール65aは、上部移動体62の傾斜下面64に設けられている。下部移動体61の傾斜上面63には、そのガイドレール65aに沿って移動する第2リニアガイド65のスライダ65bが設けられている。ここでもスライダ65bは、一つのガイドレール65aに対して2つ設けられている。なお、第2リニアガイド65のスライダ65bは、下部移動体61の上面図である
図4の図示においては省略されている。
【0049】
図1乃至
図3に示すように、上部移動体62にはその左右両側にそれぞれ張り出す張出し部66が設けられている。張出し部66は、ワーク固定装置21の架台30を構成する補強部34の上方において張り出しており、後縦柱32と相対向している。左右それぞれの張出し部66と後縦柱32との間には、第3リニアガイド67が設けられている。第3リニアガイド67は上部移動体62の鉛直方向への移動をガイドする。第3リニアガイド67のガイドレール67aは後縦柱32に設けられ、張出し部66には、そのガイドレール67aに沿って移動する第3リニアガイド67のスライダ67bが設けられている。ここでもスライダ67bは、一つのガイドレール67aに対して2つ設けられている。第3リニアガイド67は、上部移動体62に設けられた張出し部66の張出し方向からみた場合に、下側主軸ヘッド51の下側工具主軸51aと重なるように又はその近傍に設けられている。なお、第3リニアガイド67はガイド機構に相当する。
【0050】
上部移動体62の上面には主軸ヘッド取付け台54が設けられ、主軸ヘッド取付け台54に下側主軸ヘッド51が取り付けられている。主軸ヘッド取付け台54には、駆動モータ55を固定するブラケット56が設けられている。駆動モータ55はその回転軸(図示略)が下側主軸ヘッド51に設けられ、下側工具T2の下部工具ホルダ53と連結されている。駆動モータ55の駆動により、下側工具主軸51aを回転軸線として下側工具T2が回転する。
【0051】
下側主軸ヘッド51を昇降させる昇降機構60は、以上のように構成されている。そのため、
図5(a)に示すように、下部移動体61が前側に配置された状態から送りねじ72を回転させ、当該下部移動体61を後側に移動させると、下部移動体61はくさびが打たれるように上部移動体62の下に入り込む。これにより、
図5(b)に示すように、上部移動体62は第3リニアガイド67に案内されながらZ軸方向へ上昇する。それとともに下側主軸ヘッド51も上部移動体62と一体的に上昇し、下側工具T2と対峙する裏側が下側工具T2によって加工される。これとは逆に、
図5(b)に示すように、下部移動体61が後側に配置された状態から送りねじ72を回転させ、当該下部移動体61を前側に移動させると、下部移動体61のくさびが抜かれ、
図5(a)に示すように、上部移動体62がZ軸方向へ下降する。それとともに下側主軸ヘッド51も下降し、下側工具T2はワークWから離間する。
【0052】
上側工具T1によるワークWの加工を制御する前述した制御装置16は、その記憶領域に格納された動作プログラムを実行することにより、下側工具T2によるワークWの加工にかかわる一連の制御を行う。具体的には、ワーククランプ47によるワークWの固定及び非固定の切替え、第2可動テーブル52のX軸及びY軸方向への移動、下側主軸ヘッド51のZ軸方向への移動、下側工具主軸51aを中心とする下側工具T2の回転等である。
【0053】
次に、ワーク固定装置21にセットされ、ワークガイド45によって仮位置決めされたワークWの芯出しについて説明する。
【0054】
工作機械10が有する自動工具交換装置15の工具マガジン(図示略)には、芯出し工具80(芯出し治具)を保持する上部工具ホルダ18が格納されている。ワークWの芯出しを行う場合は、上側工具T1としてこの芯出し工具80が用いられる。
【0055】
芯出し工具80は、
図6に示すように、上部工具ホルダ18に保持されたシャンク81の先端に半球状をなす当接部82を有している。当接部82が有する球面状の当接面83がワークWに設けられた基準孔Kの内面に当接することで、ワークWの芯出しが行われる。なお、当接面83が弧状部に相当する。本実施形態が想定するディスクロータをワークWとした場合、ディスクロータがシャフト(図示略)に挿入されるシャフト取付け孔Wcが芯出し用の基準孔Kとされる。
図7にも示すように、シャフト取付け孔Wcには、ワークWがワーク固定装置21の基準座44に配置された場合に上側となる方、つまり上側主軸ヘッド14に装着された芯出し工具80と相対向する側の開口縁に、テーパ部Wdが形成されている。テーパ部Wdよりも下側はストレート部Weとなっている。
【0056】
このような芯出し工具80を用いたワークWの芯出しは次のようにして行われる。
【0057】
ワークWをワーク固定装置21に固定する場合、まず、初期動作として制御装置16は、ワーククランプ47におけるロッド48aを突出させて突起部49aを基準座44から離間させるとともに、自動工具交換装置15を制御して芯出し工具80が上側工具T1となるよう上側工具T1を交換させる。また、制御装置16は、第1可動テーブル13を制御して、ワークガイド45が有するガイド孔46の中心(上面視での中心)が、上側主軸ヘッド14の上側工具主軸14a上に概ね存在するようにワーク固定装置21を移動させる。
【0058】
その上で、
図8に示すように、自動搬入装置(図示略)や作業者により、ワークWであるディスクロータのハット部Waをワークガイド45のガイド孔46に挿入し、ディスク部Wbを左右の基準座44に載置する。ハット部Waがガイド孔46に挿入されることにより、ワークWは仮位置決めされる。つまり、ワークWが有するシャフト取付け孔Wc(基準孔K)の中心と、上側工具主軸14aとがほぼ一致した状態でワークWが基準座44の上に載置される。
【0059】
次いで、制御装置16は、芯出し工具80が上側工具T1として装着された上側主軸ヘッド14を下降させる。すると、芯出し工具80の当接面83がシャフト取付け孔Wcの内面におけるテーパ部Wdに当接する。芯出し工具80の当接面83が球面状に形成されているため、当接面83がシャフト取付け孔Wcのテーパ部Wdに当接した当初は点接触となる。そこから、制御装置16がさらに上側主軸ヘッド14を下降させ、芯出し工具80の当接面83をテーパ部Wdに押し付けると、
図6及び
図7に示すように、球面状の当接面83は周方向の接触線Lでテーパ部Wdと当接する。これにより、
図8に示すように、基準座44に載置されたワークWの上面視における中心は、上側主軸ヘッド14の上側工具主軸14a上に位置決めされる。
【0060】
その後、制御装置16は、ワーククランプ47におけるロッド48aを没入させる。すると、クランプ部49の突起部49aが基準座44の側に移動し、突起部49aによってワークW(ディスクロータのディスク部Wb)が基準座44に対して押さえ付けられる。これにより、芯出しされたワークWが基準座44の上で固定される。
【0061】
このように芯出しされたワークWがワーク固定装置21に固定された状態で、工作機械10によるワークWの加工が行われる。例えば、
図9に示すように、ワークWの表側から孔開け加工し、それによって形成された孔Hに対して裏側から座ぐり加工する場合を想定すると、上側主軸ヘッド14に装着された上側工具T1により孔開け加工がなされ、下側主軸ヘッド51に装着された下側工具T2により座ぐり加工がなされる。
【0062】
この場合、制御装置16は、第1可動テーブル13を制御して上側工具主軸14a上にワークWの第1孔開け位置を配置させる。併せて、制御装置16は、上側主軸ヘッド14がワークWの上方に配置された状態で自動工具交換装置15を制御し、芯出し工具80とされていた上側工具T1を所望の径を有するドリルD1に交換する。その後、制御装置16は、ワークWの上方に配置されていた上側主軸ヘッド14を下降させ、ワークWの孔開け位置で孔開け加工する。孔開け加工が完了すると、制御装置16は上側主軸ヘッド14を上昇させ、次の孔開け加工に備える。
【0063】
次いで、制御装置16は第1可動テーブル13を再度制御し、上側工具主軸14a上にワークWの第2孔開け位置を配置させ、その後、上側主軸ヘッド14を下降させて第2孔開け位置に孔開け加工する。これ以降の表側からの孔開け加工は同じ動作の繰り返しであり、ワークWに対して必要な孔開け加工が施される。
【0064】
ワークWに対する以上のような表側からの加工と併せて、制御装置16はワークWに対して裏側からの加工を行う。この場合、制御装置16は、第2可動テーブル52を制御して、座ぐり加工を行う第1孔Hの中心軸線と下側工具主軸51aとが一致する位置に裏側加工装置22を配置させる。この時、下側主軸ヘッド51はワークWの下方に配置され、下側工具T2として座ぐりドリルD2が装着されている。ワークWに対して裏側加工装置22が位置決めされた後、制御装置16は下側主軸ヘッド51を上昇させ、第1孔Hに対して裏側から座ぐり加工する。座ぐり加工が完了すると、制御装置16は下側主軸ヘッド51を下降させ、次の座ぐり加工に備える。
【0065】
次いで、制御装置16は第2可動テーブル52を再度制御し、座ぐり加工を行う第2孔Hの中心軸線と下側工具主軸51aとが一致する位置に裏側加工装置22を配置させ、その後、下側主軸ヘッド51を上昇させて第2孔Hに対して裏側から座ぐり加工する。これ以降の裏側からの座ぐり加工は同じ動作の繰り返しであり、ワークWに形成された孔Hに対して必要な座ぐり加工が施される。
【0066】
本実施形態の工作機械10の構成及び動作は以上のとおりであり、この工作機械10によれば以下の作用効果を得ることができる。
【0067】
(1)工作機械10には、ワーク固定装置21に固定されたワークWの上方に上側主軸ヘッド14が設けられるとともに、ワークWの下方に下側主軸ヘッド51が設けられ、各主軸ヘッド14,51が個別に動作制御される。そのため、ワークWを反転させることなく、ワークWの表裏両側を加工できる。従来技術と異なり、ワークWを反転させる動作が不要となるため、その分、ワークWの表裏両側を加工するサイクルタイムを短縮でき、当該加工を効率化できる。
【0068】
(2)工作機械10の上側主軸ヘッド14は既存のマシニングセンタの主軸部が利用され、このマシニングセンタを基礎に、ワーク固定装置21や裏側加工装置22が設けられて、ワークWの上下両側を加工できるようになっている。水平方向に対向する2つの主軸台とワーク受渡し装置を有する既存の機械は比較的高額であるため、その導入には相当なコスト増加が必要となる。これに対し、本実施の形態の工作機械10によれば、上側主軸ヘッド14として既存のマシニングセンタの主軸部が利用されているため、ワークWの表裏両側加工が可能な工作機械10の導入コストを低減できる。
【0069】
(3)工作機械10が有する裏側加工装置22において、下側主軸ヘッド51を昇降させる昇降機構60として、くさび形状を有する下部移動体61と上部移動体62とで構成されたくさび機構が採用されている。これにより、昇降機構60がコンパクトとなり、既存のマシニングセンタが有する第1可動テーブル13に裏側加工装置22を設置することが容易となる。
【0070】
(4)下側主軸ヘッド51が設けられた昇降機構60において、上部移動体62の昇降は第3リニアガイド67によってガイドされる。下側主軸ヘッド51に装着された下側工具T2を用いてワークWを加工する際に、切削抵抗によって生じるモーメントが下側主軸ヘッド51に作用しても、この第3リニアガイド67によってそのモーメントが受け止められる。そのため、モーメントによって下側工具主軸51aがずれたり、びびり振動が生じたりすることを抑制できる。
【0071】
(5)下側主軸ヘッド51が設けられた昇降機構60において、上部移動体62の昇降をガイドする第3リニアガイド67は、上部移動体62の両脇に設けられた張出し部66にそれぞれ設けられている。そのため、上部移動体62及び下側主軸ヘッド51の昇降は、下側工具主軸51aの両側でガイドされるとともに、切削抵抗によってその張出し方向に生じるモーメントが安定して受け止められ、下側工具主軸51aのずれやびびり振動をより一層抑制できる。
【0072】
(6)第3リニアガイド67は、上部移動体62に設けられた張出し部66の張出し方向からみた場合に、下側主軸ヘッド51の下側工具主軸51aとほぼ重なる位置に設けられている。そのため、切削抵抗によって生じるモーメントが受け止められるガイド位置と、下側工具主軸51aとのズレがほとんどなくなり、モーメントによって第3リニアガイド67にかかる力が低減され、下側工具主軸51aにずれが生じたり、びびり振動が生じたりすることをより一層抑制できる。
【0073】
(7)ワーク固定装置21の架台30において、一対の後縦柱32の上端部間は上面板材33によって連結されており、一対の後縦柱32と上面板材33とによって門型構造が形成されている。そのため、上面板材33が横行部材に相当する。第3リニアガイド67のガイドレール67aは、この門型構造によって剛性が高められた後縦柱32に設けられている。そのため、切削抵抗によって張出し部66の張出し方向に生じるモーメントは、第3リニアガイド67によってより安定的に受け止められ、下側工具主軸51aのずれやびびり振動をさらに抑制できる。
【0074】
(8)自動工具交換装置15に格納される工具には、芯出し工具80が含まれている。ワークWにおける芯出し用の基準孔Kであるシャフト取付け孔Wcには、上側主軸ヘッド14に装着された芯出し工具80と相対向する側の開口縁にテーパ部Wdが形成されている。芯出し工具80は、このテーパ部Wdに当接して芯出しをする当接面83を有している。
基準孔Kであるシャフト取付け孔Wcの内面にテーパ部Wdが設けられている場合、テーパ部Wdとストレート部Weとの境の角部に、テーパ部Wdを形成した時などにできるバリが存在していることがある。また、シャフト取付け孔Wcの開口縁部にもバリが存在していることがある。円錐台状をなす当接部を備えた従前の芯出し工具を用いて芯出しする場合、開口縁部や前記角部に当接部の円錐面を当接させて芯出しを行っていた。しかし、開口縁部や前記角部にバリが存在していると、そのバリが円錐面にあたり、芯出しが不十分となるおそれがあった。これに対し、本実施形態の芯出し工具80では、その当接面83を、基準孔Kの開口縁部や前記角部ではなくテーパ部Wd(テーパ面)に当接させることで芯出しが行われるため、開口縁部や前記角部にバリが存在していたとしても、芯出しにおけるバリの影響を少なくすることができる。
【0075】
(9)芯出し工具80が有する当接面83は、球面状に形成されている。そのため、当接面83が基準孔Kであるシャフト取付け孔Wcのテーパ部Wdに当接した当初は点接触であり、その後さらに芯出し工具80を押し付けることで、球面状の当接面83は周方向に沿った線接触でテーパ部Wdと当接することになる。当接面83がテーパ状をなす従来の芯出し用の工具を用いた場合、当接テーパ面のテーパ角度とシャフト取付け孔Wcのテーパ部Wdの角度との加工精度の違いにより、芯出しが不十分となることがあった。それに比べ、本実施形態の芯出し工具80では、球面状をなす当接面83が周方向に沿った線接触でテーパ部Wdと当接するため、ワークWの芯出しを確実に行える。
【0076】
なお、上記実施の形態の工作機械10に限らず、例えば次のような構成を採用してもよい。
(a)上記実施の形態では、第3リニアガイド67がワーク固定装置21の架台30を構成する後縦柱32と、昇降機構60の上部移動体62に設けられた張出し部66との間に設けられている。これに代えて、
図10に示すように、下側主軸ヘッド51にワーク支持台40の縦板材41と相対向する張出し部91が設けられ、この張出し部91と縦板材41との間に第3リニアガイド67が設けられた構成を採用してもよい。この構成によれば、下側主軸ヘッド51の昇降が第3リニアガイド67によって直接ガイドされる。なお、後縦柱32と上部移動体62の張出し部66との間と、下側主軸ヘッド51の張出し部91と縦板材41との間との両方において、第3リニアガイド67が設けられた構成を採用してもよい。
【0077】
(b)上記実施の形態では、裏側加工装置22において、昇降機構60が第2可動テーブル52の上に設けられ、第2可動テーブル52を制御することにより、裏側加工装置22をX軸及びY軸方向に移動させることが可能となっている。第2可動テーブル52に昇降機構60を設けることで、上記実施形態のようにワークWの裏側加工をする箇所を自在に選択することができるが、裏側加工する箇所が一箇所であれば、
図10に示すように、昇降機構60を第1可動テーブル13の上に直接固定してもよい。これにより、第2可動テーブル52やその駆動制御機構を省略することができ、ワーク固定装置21の全体高さも低くなって装置を小型化できる。
【0078】
(c)上記実施の形態では、ワークWに対して表側から孔開け加工を行い、裏側から座ぐり加工を行うことを加工例として説明した。上側主軸ヘッド14に装着される上側工具T1としては、自動工具交換装置15に格納された様々な工具を選択してそれと交換することができるため、例えばフライス、中ぐり、ねじ切り、座ぐり等の孔開け以外の加工を行ってもよい。同様に、裏側加工においても、作業者が工具を交換し、フライス、孔開け、中ぐり、ねじ切り等の座ぐり以外の加工を行ってもよい。装置が大型化する面はあるものの、裏側加工装置22にも独自の自動工具交換装置を設けて工具の自動交換を行えるようにしてもよい。
【0079】
(d)上記実施の形態では、ワークWとして、車両等のブレーキ装置に用いられるディスクロータを例としたが、ワークWとしては平板状のもの、立方体や直方体等のブロック状のもの、円柱状のものなどであってもよい。
【0080】
(e)上記実施の形態では、芯出し工具80の当接面83が球面状に形成されているが、
図11に示すように、一対の半月状板をクロスさせて組み合わせた形状をなす当接部92を備えた芯出し工具93としてもよい。この芯出し工具93における当接面94は、2つの互いにクロスする弧状面を有している。なお、基準孔Kは、丸穴でなくてもよく、平面視において四角形状をなしていてもよい。
【0081】
(f)上記実施の形態において、一対のワーククランプ47のうち一方には切粉防止カバー(図示略)を設けてもよい。切粉防止カバーが設けられるワーククランプ47においては、そのシリンダ装置48のロッド48aが回動可能となるように設けられ、クランプ部49に切粉防止カバーが設けられる。ディスクロータがワークWとされた場合、切り粉防止カバーが設けられることにより、飛散した切粉が飛散してディスク部Wbの品質を低下させるおそれを低減できる。
【0082】
(g)上記実施の形態において、ワークWの表側から孔開け加工し、裏側から座ぐり加工する場合を想定した工作機械10の制御方法は一例であり、表裏両側で行う加工の種類に応じて制御方法を自由に設定できる。例えば、表裏両側でフライス加工を行う場合、いずれか一方の側で加工している間、他方の側では加工をせず、工具を交換したり、加工位置の位置決めを行ったりしてもよいし、表裏両側を同時に加工してもよい。
【0083】
(h)上記実施の形態では、上側工具主軸14a及び下側工具主軸51aが鉛直方向となるように設定され、第1主軸部を上側主軸ヘッド14とし、第2主軸部を下側主軸ヘッド51としている。これに代えて、工具の回転主軸が水平方向となるように設定してもよい。この場合、第1主軸部及び第2主軸部は、ワークWを挟んだ左右両側に設けられることになる。
【符号の説明】
【0084】
10…工作機械、14…上側主軸ヘッド(第1主軸部)、18…上部工具ホルダ、21…ワーク固定装置、32…後縦柱、33…上面板材(横行部材)、51…下側主軸ヘッド(第2主軸部)、60…昇降機構、61…下部移動体(くさび下部体)、62…上部移動体(くさび上部体)、63…傾斜上面、64…傾斜下面、65a…ガイドレール、65b…スライダ、66…張出し部、67…第3リニアガイド(ガイド機構)、67a…ガイドレール、67b…スライダ、80…芯出し工具、83…当接面、T1…上側工具、T2…下側工具、W…ワーク、Wc…シャフト取付け孔(基準孔)、Wd…テーパ部、We…ストレート部。