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  • 特許-パン改良剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-17
(45)【発行日】2024-05-27
(54)【発明の名称】パン改良剤
(51)【国際特許分類】
   A21D 2/26 20060101AFI20240520BHJP
   A23L 5/00 20160101ALN20240520BHJP
   A23L 29/00 20160101ALN20240520BHJP
【FI】
A21D2/26
A23L5/00 M
A23L29/00
A23L5/00 J
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2022033299
(22)【出願日】2022-03-04
(65)【公開番号】P2023128735
(43)【公開日】2023-09-14
【審査請求日】2022-08-03
(73)【特許権者】
【識別番号】515283736
【氏名又は名称】ピュラトス・エヌブイ
【氏名又は名称原語表記】PURATOS NV
【住所又は居所原語表記】Industrialaan 25, B-1702 Groot-Bijgaarden, Belgium
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(72)【発明者】
【氏名】篠原 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】土屋 耕治
【審査官】田名部 拓也
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第111296521(CN,A)
【文献】特表2009-519031(JP,A)
【文献】特開平08-266214(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0135472(US,A1)
【文献】特開2007ー325515(JP,A)
【文献】とうとう無添加パン? 卵・牛乳を使わないパンはおまかせ!,2011年09月08日,https://ameblo.jp/tontonhouse/entry-11011784437.html,[2024年5月7日検索]
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A21D 2/00-17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミラーゼ、ヘミセルラーゼ、ヘキソースオキシダーゼおよびリパーゼを含む組成物であって、
アミラーゼがα-アミラーゼであり、ヘミセルラーゼがエンドキシラナーゼであり、ヘキソースオキシダーゼがグルコースオキシダーゼであり、リパーゼがホスホリパーゼであり、
前記組成物が乳化剤、アスコルビン酸またはグルテンを含有せず、
前記組成物がパン改良剤である、前記組成物。
【請求項2】
前記各酵素のユニットの比が、α-アミラーゼ1に対して、エンドキシラナーゼ0.5~1.5、グルコースオキシダーゼ4~6、ホスホリパーゼ3~7である、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
担体、増量剤または希釈剤をさらに含む、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
担体、増量剤または希釈剤が、穀粉、マルトデキストリン、塩または糖である、請求項3記載の組成物。
【請求項5】
担体、増量剤または希釈剤が小麦粉である、請求項4記載の組成物。
【請求項6】
パン生地を調製する方法であって、以下の工程:
a)生地成分を混合する工程、
b)得られた混合生地を発酵させる工程、および
c)任意選択で、生地を分割し、成形し、および発酵させる工程、
を含み、
前記生地成分は、アミラーゼ、ヘミセルラーゼ、ヘキソースオキシダーゼ、およびリパーゼを含むパン改良剤を含む、
前記方法であって、
アミラーゼがα-アミラーゼであり、ヘミセルラーゼがエンドキシラナーゼであり、ヘキソースオキシダーゼがグルコースオキシダーゼであり、リパーゼがホスホリパーゼであり、
前記パン改良剤は乳化剤、アスコルビン酸またはグルテンを含有しない、
前記方法。
【請求項7】
α-アミラーゼが5~35ユニット/kg粉、エンドキシラナーゼが5~30ユニット/kg粉、グルコースオキシダーゼが40~120ユニット/kg粉、およびホスホリパーゼが50~200ユニット/kg粉の量で生地中に存在する、請求項記載の方法。
【請求項8】
α-アミラーゼが10~30ユニット/kg粉、エンドキシラナーゼが10~25ユニット/kg粉、グルコースオキシダーゼが50~100ユニット/kg粉、およびホスホリパーゼが70~170ユニット/kg粉の量で生地中に存在する、請求項記載の方法。
【請求項9】
前記発酵生地を凍結する工程d)をさらに含む、請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項10】
ベーカリー製品を調製する方法であって、以下の工程:
a)生地成分を混合する工程、
b)得られた生地を発酵させる工程、
c)任意選択で、生地を分割し、成形し、および/またはさらに発酵させる工程、および
d)生地を焼成する工程、
を含み、
ここで、生地成分は、アミラーゼ、ヘミセルラーゼ、ヘキソースオキシダーゼ、およびリパーゼを含むパン改良剤を含む、
前記方法であって、
アミラーゼがα-アミラーゼであり、ヘミセルラーゼがエンドキシラナーゼであり、ヘキソースオキシダーゼがグルコースオキシダーゼであり、リパーゼがホスホリパーゼであり、
前記パン改良剤は乳化剤、アスコルビン酸またはグルテンを含有しない、
前記方法。
【請求項11】
さらに、工程c)およびd)の間に、
e)生地を凍結する工程、
f)冷凍生地を冷凍温度で保存する工程、
g)生地を解凍する工程、および
h)解凍した生地を発酵させる工程、
を含む、請求項10記載の方法。
【請求項12】
α-アミラーゼが5~35ユニット/kg粉、エンドキシラナーゼが5~30ユニット/kg粉、グルコースオキシダーゼが40~120ユニット/kg粉、およびホスホリパーゼが50~200ユニット/kg粉の量で生地中に存在する、請求項11記載の方法。
【請求項13】
α-アミラーゼが10~30ユニット/kg粉、エンドキシラナーゼが10~25ユニット/kg粉、グルコースオキシダーゼが50~100ユニット/kg粉、およびホスホリパーゼが70~170ユニット/kg粉の量で生地中に存在する、請求項12記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は酵素を含む組成物に関し、より具体的には酵素以外の機能性成分を含まないパン改良剤に関する。更に具体的には、冷凍生地に使用される酵素以外の機能性成分を含まないパン改良剤に関する。本発明はさらに、前記パン改良剤を使用した生地を得る方法、より具体的には前記パン改良剤を使用した冷凍生地および焼成されたパン製品を得る方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パンおよびベーカリー製品は、世界の主要な食品の一つである。
製パン業者は消費者に高品質の製品を提供するために、いくつかの課題に直面している。これらの課題のうちの1つは、パン屋やスーパーマーケットなどにおいて焼きたてのパンを提供することであり、それに対する1つの解決策は、従業員が最終焼成工程を行うだけでよいように、販売地点に冷凍パン生地を提供することである。また冷凍生地生産の集中化は、最適化されたロジスティクスを通して、より効率的でより広範な物流が可能になることより、近年冷凍パン生地の需要が高まっている。
【0003】
しかし、冷凍パン生地の凍結プロセス中における生地品質の低下は、周知の課題である。冷凍プロセスの間に氷結晶が形成され、グルテンネットワークを破壊することによって生地構造に損傷を与えることにより、スクラッチ製法のパンと比較して、不均一で、ボリュームの出ない焼成製品となってしまう。この問題を軽減するために、製パン業者は、凍結中にグルテンネットワークを無傷に保つのを助ける機能性成分(例えば、乳化剤、グルテンおよび/またはアスコルビン酸)を含有する生地改良剤を使用している。
【0004】
別の課題は、食品成分に関する消費者の意識の高まり、および食品表示ラベルに記載されているものに対する消費者の意識の高まりに関することである。消費者は、多くの添加物を含有する食品を避ける傾向が高まっている。このことにより、パン製造業者は添加物が少なく、かつできるだけ天然成分を使用するなどの工夫を余儀なくされている。
【0005】
一般的なパン改良剤、特に冷凍生地を製造するために使用されるパン改良剤は、表示を必要とする成分、食品添加物など消費者によって天然または安全ではないと考えられている成分を含有する。酵素を使用したベーカリー改良剤に関する報告はなされているが(例えば特許文献1、2)、より表示すべき成分の少なく、より自然な成分を含むパン改良剤を開発する必要性が依然として存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2017-127270号公報
【文献】特表2019-510466号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、より自然な成分を含むパン改良剤であって、凍結中のグルテンネットワークの損傷が抑制された生地改良剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討した結果、アミラーゼ、ヘミセルラーゼ、ヘキソースオキシダーゼおよびリパーゼを含む組成物を使用することにより解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、以下を提供する:
(1)アミラーゼ、ヘミセルラーゼ、ヘキソースオキシダーゼおよびリパーゼを含む組成物。
(2)アミラーゼがα-アミラーゼであり、ヘミセルラーゼがエンドキシラナーゼであり、ヘキソースオキシダーゼがグルコースオキシダーゼであり、リパーゼがホスホリパーゼである、(1)記載の組成物。
(3)前記各酵素のユニットの比が、アミラーゼ1に対して、エンドキシラナーゼ0.5~1.5、グルコースオキシダーゼ4~6、ホスホリパーゼ3~7である、(2)記載の組成物。
(4)前記組成物がパン改良剤である、(1)~(3)のいずれかに記載の組成物。
(5)担体、増量剤または希釈剤をさらに含む、(1)~(4)のいずれかに記載の組成物。
(6)担体、増量剤または希釈剤が、穀粉、マルトデキストリン、塩または糖である、(5)記載の組成物。
(7)担体、増量剤または希釈剤が小麦粉である、(6)記載の組成物。
(8)前記組成物が乳化剤、アスコルビン酸またはグルテンを含有しない、(1)~(7)のいずれかに記載の組成物。
(9)前記組成物が酵素以外の機能性成分を含まない、(8)記載の組成物。
(10)パン生地を調製する方法であって、以下の工程:
a)生地成分を混合する工程、
b)得られた混合生地を発酵させる工程、および
c)任意選択で、生地を分割し、成形し、および/またはさらに発酵させる工程、
を含み、
前記生地成分は、アミラーゼ、ヘミセルラーゼ、ヘキソースオキシダーゼ、およびリパーゼを含むパン改良剤を含む、
前記方法。
(11)アミラーゼがα-アミラーゼであり、ヘミセルラーゼがエンドキシラナーゼであり、ヘキソースオキシダーゼがグルコースオキシダーゼであり、リパーゼがホスホリパーゼである、(10)記載の方法。
(12)α-アミラーゼが5~35ユニット/kg粉、エンドキシラナーゼが5~30ユニット/kg粉、グルコースオキシダーゼが40~120ユニット/kg粉、およびホスホリパーゼが50~200ユニット/kg粉の量で生地中に存在する、(11)記載の方法。
(13)α-アミラーゼが10~30ユニット/kg粉、エンドキシラナーゼが10~25ユニット/kg粉、グルコースオキシダーゼが50~100ユニット/kg粉、およびホスホリパーゼが70~170ユニット/kg粉の量で生地中に存在する、(12)記載の方法。
(14)前記発酵生地を凍結する工程d)をさらに含む、(10)~(13)のいずれかに記載の方法。
(15)ベーカリー製品を調製する方法であって、以下の工程:
a)生地成分を混合する工程、
b)得られた生地を発酵させる工程、
c)任意選択で、生地を分割し、成形し、および/またはさらに発酵させる工程、および
d)生地を焼成する工程、
を含み、
ここで、生地成分は、アミラーゼ、ヘミセルラーゼ、ヘキソースオキシダーゼ、およびリパーゼを含むパン改良剤を含む、
前記方法。
(16)さらに、工程c)およびd)の間に、
e)生地を凍結する工程、
f)冷凍生地を冷凍温度で保存する工程、
g)生地を解凍する工程、および
h)解凍した生地を発酵させる工程、
を含む、(15)記載の方法。
(17)アミラーゼがα-アミラーゼであり、ヘミセルラーゼがエンドキシラナーゼであり、ヘキソースオキシダーゼがグルコースオキシダーゼであり、リパーゼがホスホリパーゼである、(15)または(16)記載の方法。
(18)α-アミラーゼが5~35ユニット/kg粉、エンドキシラナーゼが5~30ユニット/kg粉、グルコースオキシダーゼが40~120ユニット/kg粉、およびホスホリパーゼが50~200ユニット/kg粉の量で生地中に存在する、(17)記載の方法。
(19)α-アミラーゼが10~30ユニット/kg粉、エンドキシラナーゼが10~25ユニット/kg粉、グルコースオキシダーゼが50~100ユニット/kg粉、およびホスホリパーゼが70~170ユニット/kg粉の量で生地中に存在する、(18)記載の方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の組成物を用いることによって、従来使用されている機能性成分を含まない条件であっても、冷凍生地から好ましい特性を有する焼成パン製品を調製することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、-20℃で1日間貯蔵した後に焼成した参照(ref)生地の容積のパーセンテージを表している。サンプル3は非常によい結果を示した。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明で使用される本方法等は、1)本明細書で使用される用語は限定することを意図していないこと、2)異なる定義がなされていない限り、ここで使用するすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する分野の業者が通常理解するものと同じ意味を有すること、3)本明細書に記載されるものと類似または同等の任意の方法および材料が本発明の実施または試験において使用され得ること、を理解されたい。
【0012】
本明細書で使用される用語「含む」は、包括的または限定的であり、追加の非列挙の部材、要素、または方法ステップを除外するものではない。また、数値の範囲の手段による数値の列挙は記載された点とともに、これらの範囲内の全ての値及び分数を含む。
【0013】
従来の冷凍生地用の改良剤には、アスコルビン酸および/またはグルテンおよび/または乳化剤などの成分表示の必要な機能性成分などが含まれているが、本発明者らは驚くべきことに、特定の酵素の組み合わせを使用することによってこれらの表示が必要な機能性成分や食品添加物の不在下でも、冷凍生地から優れた特徴を有する焼成パン製品を調製することが可能であることを見出した。このような組み合わせを使用することによって、一般に使用される機能性成分および食品添加物を使用する場合には実現できない、より簡潔な表示および/またはより天然のものを含有する焼成パン製品を得ることが可能となる。一般的にパンは小麦粉が使用されており、また酵素はパンの焼成後には失活するため表示の省略が可能な成分である。従って、本発明の酵素の組み合わせを一般的に担体として利用される小麦粉を担体としてパン改良剤にすることにより、追加の成分表示が全く不要な冷凍生地用改良剤として利用できる点が画期的である。 したがって、本発明の第1の態様は、アミラーゼ、ヘミセルラーゼ、ヘキソースオキシダーゼおよびリパーゼを含む組成物を提供することである。
【0014】
一態様において、その組成物におけるアミラーゼはα-アミラーゼであり、ヘミセルラーゼはエンド-キシラナーゼであり、ヘキソースオキシダーゼはグルコースオキシダーゼであり、リパーゼはホスホリパーゼである。
【0015】
一実施形態において、酵素は、以下の比(ユニット(酵素単位)の比として表される):α-アミラーゼ1:0.5~1.5のエンドキシラナーゼ:4~6のグルコースオキシダーゼ:3~7のホスホリパーゼで組成物中に含まれる。別の言い方をすれば、組成物において、α-アミラーゼの各ユニット(酵素単位)に対して、0.5~1.5ユニットのエンドキシラナーゼ、4~6ユニットのグルコースオキシダーゼ、および3~7ユニットのホスホリパーゼが含まれる。
【0016】
本発明の組成物は、パン改良剤、ベーカリーミックスまたはベーカリープレミックスの一部であってもよい。「パン生地改良剤」(「パン生地コンディショナー」または「パン生地改良剤」または「改良剤」または「小麦粉処理剤」とも呼ばれる)は、典型的にはパン生地のテクスチャー、体積、風味および新鮮さを改善するために、さらにはパン生地の機械加工性および安定性を改善するために、パン生地に添加される。本明細書にて説明されているように、パン改良剤は組成物中に存在する酵素に加えて、1つ以上のさらなる酵素(例えば、他のアミラーゼ(β-アミラーゼ、グルコアミラーゼ、生デンプン分解アミラーゼ、マルトテトラヒドロラーゼ)、グルコシルトランスフェラーゼ、セルラーゼ、ペクチナーゼ、プロテアーゼ、ペクチン酸リアーゼ、オキシダーゼ(ペルオキシダーゼ、ピラノースオキシダーゼ、L-アミノ酸オキシダーゼ、炭水化物オキシダーゼ、スルフヒドリルオキシダーゼ)、リポキシゲナーゼ、デヒドロゲナーゼ、ラッカーゼ、トランスグルタミナーゼ、アシルトランスフェラーゼ、タンパク質ジスルフィドイソメラーゼ)、1つ以上の(乾燥)発酵種、1つ以上の脂質材料(例えば、マーガリン、バター、油、ショートニング)、および/または1つ以上の繊維源(例えば、オート麦繊維)を含んでいてもよい。
【0017】
本発明の組成物またはパン改良剤は、担体、増量剤または希釈剤をさらに含んでいてもよい。担体、増量剤または希釈剤は、機能性成分(酵素)を希釈して、成分の適切な濃度ならびに成分間の適切な比率を得るために使用される非機能性成分である。担体、増量剤または希釈剤の非限定的な例は、穀粉、糖、塩、(マルト)デキストリンである。好ましい担体、増量剤または希釈剤は、小麦粉である。
【0018】
典型的には、ベーカリーミックスが乾燥形態下の全ての生地成分(すなわち、水を含まない全ての生地成分)を含む。
好ましい実施形態では、本明細書で教示する組成物が酵素以外の機能性成分を含まない。本発明において、機能性成分とは単一の成分あるいは複数の成分の組み合わせにより、それらをを含まない同じパン生地、ベーカリー製品、または製パンプロセスと比較した場合に、パン生地またはベーカリー製品の1つ以上の特性の改善、または製パンプロセスの改善に有意に寄与する成分である。パン生地特性の例は、生地の耐性、加工性や安定性、粘性などである。ベーカリー製品特性の例は、ベーカリー製品の湿潤性、口どけ、弾性、凝集性、クラム構造、クラム色、サクサク感、パリパリ感、テクスチャー、体積、ショートバイトおよび新鮮さである。製パンプロセス特性の例は、生地の取り扱い易さ、発酵速度、窯伸びなどである。酵素以外の機能性成分の例は酸化剤または還元剤(例えば、アスコルビン酸、アセロラ、グルタチオン、システイン)、乳化剤(例えば、モノグリセリド、モノグリセリドのジアセチル酒石酸エステル(DATEM)、ステアリル乳酸ナトリウム(SSL)、ステアリル乳酸カルシウム(CSL)、モノステアリン酸グリセロール(GMS)、ラムノリピド、レシチン、スクロエステル、胆汁酸塩)、タンパク質(例えば、グルテン)である。
<酵素>
1.アミラーゼ
アミラーゼは、α-アミラーゼであってもよい(酵素委員会番号の数値分類によるEC 3.2.1.1)。α-アミラーゼは真菌または細菌、例えば、Bacillus(例えば、B. licheniformisまたはB. amyloliquefaciens)由来のα-アミラーゼ、または真菌α-アミラーゼ(例えば、Aspergillus oryzae)であってもよい。市販の真菌α-アミラーゼ組成物の例は、BAKEZYME P 300(DSM社から入手可能)およびFUNGAMYL 2500 SG、FUNGAMYL 4000 BG、FUNGAMYL 800L、FUNGAMYL ULTRA BGおよびFUNGAMYL ULTRA SG(Novozymes A/S社から入手可能)である。
【0019】
α-アミラーゼ活性は任意の適切な分析方法によって、例えば、標準化された条件におけるデンプン溶液の加水分解を測定することによって決定することができる。本発明において、α-アミラーゼの1ユニット(酵素単位)は、37℃およびpH 4.7で1時間当たり5.26gのデンプンを分解する酵素の量と定義される。
2.ヘミセルラーゼ
ヘミセルラーゼはエンドキシラナーゼ(EC 3.2.1.8)であってもよく、これは、例えば、バチルスの菌株、特に枯草菌の菌株、またはシュードアルテロモナスの菌株、特にP. haloplanktisに由来し得るか、またはアスペルギルスの菌株、特にA. aculeatus、A. niger、A. awamori、もしくはA. tubigensisの菌株、トリコデルマの菌株、例えばT. reeseiに由来し、またはHumicolaの菌株、例えばH. insolensに由来する。本発明で使用するのに適した市販のエンドキシラナーゼ調製物には、PANZEA BG、PENTOPAN MONO BGおよびPENTOPAN 500 BG(Novozymes A/S社から入手可能)、GRINDAMYL POWERBAKE(DuPont社から入手可能)、ならびにBAKEZYME BXP 5000およびBAKEZYME BXP 5001(DSM社から入手可能)が含まれる。
【0020】
エンドキシラナーゼ活性は任意の適切な分析方法によって、例えば、標準化された条件下でキシラン溶液の加水分解を測定することによって決定することができる。本発明において、エンドキシラナーゼの1ユニット(酵素単位)は、pH4.5および30℃でブナのキシランから1μmol/分および1ml/mlのキシロースを放出する酵素の量と定義される。
3.ヘキソースオキシダーゼ
ヘキソソースオキシダーゼはグルコースオキシダーゼ、例えば、真菌グルコースオキシダーゼ、特に、Novozymes A/S社から入手可能なAspergillus nigerグルコースオキシダーゼ(GLUZYME(登録商標)であってもよい。
【0021】
グルコースオキシダーゼの1ユニット(酵素単位)は、1分間で1μmolのβ-D-グルコースを酸化する酵素の量に相当する(反応条件: pH 5.6、温度30℃、反応時間30分)。
4.リパーゼ
リパーゼはレシチン(例えば、リパーゼ(EC 3.1.1.3)またはホスホリパーゼA1またはA2(それぞれEC 3.1.1.32または3.1.1.4))のようなリン脂質における一方または両方のカルボン酸エステル結合に対して加水分解活性を有するリパーゼまたはホスホリパーゼであってもよい。市販のリパーゼには、Novozymes A/S社から入手可能なLIPOPAN(登録商標)Maxが含まれる。
【0022】
ホスホリパーゼの1ユニット(酵素単位)は、基質グリセロールトリブチレートから1分当たり1μmolの酪酸を遊離する酵素の量(30℃~pH7.0)に相当する。
本発明の別の態様は、以下の工程を含む生地を調製する方法を提供することである:
a)生地成分の混合、
b)生地を発酵させ、
c)任意選択で、生地を分割し、成形し、および/またはさらに発酵させる
ここで、生地成分は、アミラーゼ、ヘミセルラーゼ、ヘキソースオキシダーゼ、およびリパーゼを含むパン改良剤を含む。
【0023】
ある実施形態では、アミラーゼはα-アミラーゼであり、ヘミセルラーゼはエンドキシラナーゼであり、ヘキソースオキシダーゼはグルコースオキシダーゼであり、および/またはリパーゼはホスホリパーゼである。
【0024】
一実施形態では、α-アミラーゼが5~35ユニット/kg粉、好ましくは10~30単位/kg粉の量で生地中に含まれ、エンドキシラナーゼは5~30ユニット/kg粉、好ましくは10~25ユニット/kg粉の量で生地中に含まれ、グルコースオキシダーゼは40~120ユニット/kg粉、好ましくは50~100ユニット/kg粉の量で生地中に含まれ、および/またはホスホリパーゼは50~200ユニット/kg粉、好ましくは70~170ユニット/kg粉の量で生地中に含まれる。
【0025】
ある実施形態では生地を分割し、成形し、および/またはさらに発酵させる工程c)は任意ではない。
好ましい実施形態では、本発明の方法が発酵生地を凍結する工程d)、および任意選択で凍結生地を凍結温度で保存する工程e)をさらに含む。
【0026】
更なる好ましい実施形態では、生地成分が酵素以外の機能性成分を全く含まない。
<生地>
本発明において、「生地」という用語は、混練または転がるのに十分に堅い粉および他の成分の混合物をいう。小麦、エマー、スペルト、エインコルン、オオムギ、ライムギ、オートムギ、トウモロコシ、モロコシ、イネ、キビ、アマランス、キノア、およびキャッサバ、好ましくは小麦を含む任意の穀物または他の供給源に由来する。好ましくは、生きている発酵種または酵母培養物、例えばサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)(パン酵母)の培養物の混合工程中に添加することにより、生地を発酵させる。
【0027】
追加の成分を、混合前または混合中に生地に添加してもよい。追加の成分の非限定的な例は、ミルクまたはミルク製品(ミルクパウダー、ミルクタンパク質など)、卵または卵製品(全卵、卵黄、卵白、卵タンパクなど)、(発芽)穀物、(不活性)発酵種、塩および糖である。他の成分は、それらがパン改良剤、ベーカリーミックスまたはベーカリープレミックス中に存在しない場合に添加され得る。好ましくは、生地は酵素以外の機能性成分を含まない。
【0028】
混合、発酵、分割、成形、および凍結工程は、当技術分野で周知の装置および方法を使用して行われる。
本発明の別の態様は、以下の工程を含むベーカリー製品を調製する方法を提供することである:
ベーカリー製品を調製する方法であって、以下の工程:
a)生地成分を混合する工程、
b)得られた生地を発酵させる工程、
c)任意選択で、生地を分割し、成形し、および/またはさらに発酵させる工程、および
d)生地を焼成する工程、
を含み、
ここで、生地成分は、アミラーゼ、ヘミセルラーゼ、ヘキソースオキシダーゼ、およびリパーゼを含むパン改良剤を含む、前記方法。
【0029】
さらに、工程c)およびd)の間に以下の工程を含んでも良い:
e)生地を凍結する工程、
f)冷凍生地を冷凍温度で保存する工程、
g)生地を解凍する工程、および
h)解凍した生地を発酵させる工程。
【0030】
一実施形態では、アミラーゼはα-アミラーゼであり、ヘミセルラーゼはエンドキシラナーゼであり、ヘキソースオキシダーゼはグルコースオキシダーゼであり、および/またはリパーゼはホスホリパーゼである。
【0031】
ある実施形態では、α-アミラーゼが5~35ユニット/kg粉、好ましくは10~30ユニット/kg粉の量で生地中に含まれ、エンドキシラナーゼは5~30ユニット/kg粉、好ましくは10~25ユニット/kg粉の量で生地中に含まれ、グルコースオキシダーゼは40~120ユニット/kg粉、好ましくは50~100ユニット/kg粉の量で生地中に含まれ、および/またはホスホリパーゼは50~200ユニット/kg粉、好ましくは70~170ユニット/kg粉の量で生地中に含まれる。
【0032】
一実施形態では生地を分割し、成形し、および/またはさらに発酵させる工程c)は任意ではない。
好ましい実施形態では、工程e)~h)は任意ではない。
【0033】
本発明の方法によって得られる焼成製品は、例えば、パン、トーストパン、菓子パン、ソフトロール、ベーグル、ドーナツ、デニッシュ、ハンバーガーバン、ピザ、ピタパン、チャバッタ、バゲット、ソフトフランスパン、ロールパン、パイ、ラミネートベーカリー製品(クロワッサンなど)および/または他のベーカリー製品を含む群から選択されるものなど、当技術分野で公知のベーカリー製品である。
【実施例
【0034】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に制限されるものではない。
実施例1:ロールパン
生地の調製
生地は、表1に列挙した成分を用いて調製した。
【0035】
【表1】
【0036】
*ジョーカー・キモ(PJ)(ピュラトスジャパン株式会社製)は、冷凍生地用に設計された市販の改良剤であり、アスコルビン酸、グルテン、エンドキシラナーゼおよびα-アミラーゼを含有する。
【0037】
成分をスパイラルミキサー中で11分間混合した(L3H8)。最終生地温度は22℃であった。5分間のバルク発酵の後、50gの生地片を手で丸め、さらに10分間発酵させ、次いで、生地を成形機によって成形した。成型生地をショックフリーザー中で-40℃で直ちに凍結し、その後冷凍庫で-20℃にて貯蔵した。
【0038】
1日、1週間、1ヶ月および2ヶ月後、生地の一部を室温(+/-20℃)で2時間解凍し、35℃、80%相対湿度で60分間発酵させた。次に、ロールパン生地を、蒸気なしのMiwe Condo Oven中で、220℃で11分間焼成した。そして、ロールパンを評価前に60分間冷却した。
【0039】
ロールパン分析
ロールパンの体積は、レーザー体積計を使用して測定した。重量も同時に測定し8つのロールパンの平均比容積を測定した。
【0040】
結果
結果を表2および図1に示し、比容積は-20℃で1日間貯蔵した後に焼成した参照(ref)生地の比容積のパーセンテージで表している。
【0041】
【表2】
【0042】
上記結果は、α-アミラーゼ、エンドキシラナーゼ、ホスホリパーゼおよびグルコースオキシダーゼの組み合わせを使用することで、-20℃での長期貯蔵後であっても参照サンプルと同等の焼成特性を有する生地が調製できることを示している。
【0043】
実施例2:ロールパン
ロールパンの調製
ロールパンは、表3に列挙した生地成分を用いて実施例1と同様に調製した。
【0044】
【表3】
【0045】
* ジョーカー・キモ(PJ)(ピュラトスジャパン株式会社製)は、冷凍生地用に設計された市販の改良剤であり、アスコルビン酸、グルテン、エンドキシラナーゼおよびα-アミラーゼを含有する。
【0046】
結果
-20℃で2ヶ月貯蔵した後に焼成したロールパンの比容積を、市販製品を用いて行った基準と比較した結果を表4に示す。
【0047】
【表4】
図1