(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-17
(45)【発行日】2024-05-27
(54)【発明の名称】片面に多数の壁状突起が平行に存在している樹脂シート
(51)【国際特許分類】
A44B 18/00 20060101AFI20240520BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20240520BHJP
【FI】
A44B18/00
C08J5/18 CER
C08J5/18 CEZ
(21)【出願番号】P 2022531828
(86)(22)【出願日】2021-06-15
(86)【国際出願番号】 JP2021022618
(87)【国際公開番号】W WO2021256454
(87)【国際公開日】2021-12-23
【審査請求日】2023-10-31
(31)【優先権主張番号】P 2020103483
(32)【優先日】2020-06-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591017939
【氏名又は名称】クラレファスニング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小野 悟
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 佳克
【審査官】▲桑▼原 恭雄
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/137114(WO,A1)
【文献】特表2002-501397(JP,A)
【文献】特表2001-521771(JP,A)
【文献】特開平9-322811(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A44B 18/00
C08J 5/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂製のシート状基板及び該基板の一方の表面から垂直に立ち上がる同樹脂からなる一定高さの壁状突起を含み、該壁状突起が10列以上一定間隔を空けて平行に該基板の表面に並んでおり、以下の条件(1)~(5)を満足する片面に多数の壁状突起が平行に存在している樹脂シート。
(1)壁状突起には、壁状突起を厚さ方向に貫通し、かつ、壁状突起の下部から頂部に至る多数の切目部が壁状突起の長さ方向に等間隔配置されていて、この切目部により壁状突起が該長さ方向に多数の壁分割体に分断されて、壁状突起が多数の壁分割体からなる列を形成していること、
(2)壁分割体は、付け根から頂部に至るまで同一の厚みであり、かつ、壁分割体の頂部には、頂部からさらに上へ突出する突起部が存在していないこと、
(3)切目部が存在している箇所が、隣の壁では壁分割体の壁面となっていること、
(4)個々の壁分割体の壁状突起の長さ方向の長さが、その長さ方向両端に存在している切目部の壁状突起の長さ方向の長さより長いこと、
(5)切目部により挟まれた壁分割体の壁状突起の長さ方向の長さが壁分割体の高さの2~6倍であること。
【請求項2】
前記長さが0.8~20mmである請求項1に記載の樹脂シート。
【請求項3】
壁分割体の厚さが0.1~1.0mmで、壁分割体の高さが0.3~5.0mmである請求項1または2に記載の樹脂シート。
【請求項4】
隣り合う2つの壁状突起の間隔が壁分割体の厚さの0.5~4倍である請求項1~3のいずれか1項に記載の樹脂シート。
【請求項5】
壁状突起が樹脂シートの幅1cm当たり5~30列の密度で、かつ全体で10列以上平行に存在している請求項1~4のいずれかに1項記載の樹脂シート。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の樹脂シートからなり、壁状突起の長さ方向を横切る方向に微粒子含有流体を樹脂シート面に流して、流体から微粒子を分離するフィルター。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか1項に記載の樹脂シートからなるフィルターに、壁状突起の長さ方向を横切る方向に微粒子含有流体を樹脂シート面に流して、流体から微粒子を分離する方法。
【請求項8】
請求項1~5のいずれか1項に記載の樹脂シートからなり、該樹脂シートが透明な樹脂により形成されており、壁分割体の頂部の少なくとも一部が着色されているディスプレイ用樹脂シート。
【請求項9】
請求項1~5のいずれか1項に記載の樹脂シートからなり、該樹脂シートが透明な樹脂により形成されており、壁分割体の頂部以外の部分が着色されているディスプレイ用樹脂シート。
【請求項10】
下記条件(6)~(8)をさらに満足する請求項1~5のいずれか1項に記載の樹脂シート。
(6)壁分割体の頂部の長さ方向一方の端には、切目部方向にせり出している突起部が形成されているが、他方の端には切目部方向にせり出す突起部が存在していないこと、
(7)突起部の先端と、切目部を挟んで隣り合う壁分割体との間には隙間が存在していること、
(8)突起部の数は1個の壁分割体に付き1個であり、かつ突起部がせり出している方向が壁分割体で同一であること。
【請求項11】
請求項10に記載の樹脂シートからなる雄型面ファスナー。
【請求項12】
突起部の付け根からのせり出し長が0.05~5.0mmである請求項11に記載の雄型面ファスナー。
【請求項13】
隣り合う壁状突起の間に、基板から立ち上がり、壁状突起の長さ方向からの流体の圧力損失を壁状突起の直角方向からの流体の圧力損失の0.7~1.3倍にする形状を有する遮蔽用素子が存在している請求項1~5のいずれか1項に記載の樹脂シート。
【請求項14】
前記遮蔽用素子が、壁分割体の高さの0.8~0.98倍の高さ、切目部の壁状突起の長さ方向の長さの0.3~1.0倍の壁状突起の長さ方向の長さ、および隣り合う壁状突起の間隔の0.8~1.0倍の幅を有しており、かつ、遮蔽用素子が壁分割体の0.6~1.0倍の個数で、隣り合う壁状突起の間に均等に存在している請求項13に記載の樹脂シート。
【請求項15】
請求項13または14に記載の樹脂シートからなり、壁状突起の長さ方向を横切る方向または壁状突起長さ方向に平行な方向から流体を樹脂シート表面に流し、樹脂シート表面に流体を拡散させるフィルター。
【請求項16】
請求項13または14に記載の樹脂シートからなるフィルターに、壁状突起の長さ方向を横切る方向または壁状突起長さ方向に平行な方向から流体を樹脂シート表面に流し、樹脂シート表面に流体を拡散させる方法。
【請求項17】
請求項13または14に記載の樹脂シートからなり、壁状突起の長さ方向を横切る方向または壁状突起の長さ方向に平行な方向から微粒子含有流体を樹脂シート面に流して、流体から微粒子を分離するフィルター。
【請求項18】
請求項13または14に記載の樹脂シートからなるフィルターに、壁状突起の長さ方向を横切る方向または壁状突起の長さ方向に平行な方向から微粒子含有流体を樹脂シート面に流して、微粒子含有流体から微粒子を分離する方法。
【請求項19】
壁状突起の長さ方向からの流体の圧力損失が壁状突起の直角方向からの流体の圧力損失の0.7~1.3倍である請求項
18に記載の微粒子を分離する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、片面に多数の壁状突起が平行に存在している樹脂シートおよび同樹脂シートの用途に関する。詳しくは、合成樹脂製のシート状基板の一方の表面に同樹脂からなる一定高さの壁状突起が多数一定間隔を空けて平行に並んでおり、該壁状突起は一定間隔をおいて存在している多数の切目部により壁状突起の長さ方向(以下、単に長さ方向と称することもある)に一定長さに分断されている樹脂シートおよびその用途、例えばループ面ファスナーの係合相手として使用する雄型面ファスナー、流体から微粒子を分離するフィルター、壁状突起を着色したディスプレイ樹脂シート等の用途に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、物体の表面に対象物を取り付ける手段の一つとして、物体と対象物のいずれか一方の表面にフック型やキノコ型の雄型係合素子を有する雄型面ファスナー(以下、単に雄型面ファスナーと称することもある)を取り付けるとともに、他方の表面にループ型係合素子を有するループ面ファスナー(以下、単にループ面ファスナーと称することもある)を取り付けて、そして両方の面ファスナーの係合素子面を重ね合わせて両方の係合素子を係合させることにより、物体の表面に対象物を固定する方法が用いられている。係合・剥離を繰り返すことにより着脱を何回でも繰り返すことができることや取り付け位置が正確でなかった場合などには剥離して容易に位置調整が可能であることから取り付け手段として重宝がられている。
【0003】
このような雄型面ファスナーの一例として、係合力に方向性を有するものが知られている。例えば、特許文献1には、係合力が方向により相違する面ファスナーとして、熱可塑性樹脂からなる基板上に同樹脂からなり、同一方向に傾いている多数のステムを有する雄型面ファスナーが記載されている。このような雄型面ファスナーにステムの傾斜方向からループ面ファスナーが近づいた場合には、同ステムにループ状係合素子が係合して両方の面ファスナーは一体化するが、ステムの傾斜方向とは反対方向からループ面ファスナーが近づいた場合には係合を生じない。
【0004】
また、特許文献2には、同様に、係合力が方向により相違する面ファスナーとして、樹脂製の基板の表面からほぼ垂直に立ち上がるステムが列をなして多数並んでいる雄型面ファスナーが記載されている。各ステムは、その先端からステム列方向と交差する方向でかつ基板に平行な方向に突出する突起部を有しており、さらに全てのステムの突起部がステムから同一方向に突出している。この雄型面ファスナーの場合も、特許文献1の面ファスナーと同様に、突起部の突出方向からループ面ファスナーが近づいた場合には、突起部にループ状係合素子が係合して両方の面ファスナーは係合するが、突起部の突出方向とは反対方向からループ面ファスナーが近づいた場合には係合を生じない。
【0005】
このような面ファスナーは、常に張力が掛かっている状態で両者を一体化する用途、例えば壁に物品を吊るし掛けする際の壁取り付け材、血圧計のカフ、靴の甲皮や手袋の手首を締め付ける締付材、メディカルサポーターやブラジャーの止め具等として有効である。
【0006】
しかしながら、このような方向性を有する雄型面ファスナーの場合、係合しているループ状係合素子からあるいは雄型面ファスナーからステムに大きな力が掛かるとステムや突起部の付け根が折れ易いという問題点を有している。特に上記特許文献2に記載の雄型面ファスナーの場合には、ステムから直角に突出する突起部に圧力が掛かると突起部の付け根で折れてしまうという問題を有している。さらに特に上記特許文献1の雄型面ファスナーの場合には、表面に細い多数のステムが斜め方向を向いて林立しているので、面ファスナーの表面に手や肌が触れると尖ったステムの先端部が触れた人に不快感を与えることとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2011-24864号公報
【文献】国際公開第2015/137114号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような問題を解決し、力が掛かっても雄型係合素子が折れにくく、さらに表面を触れても肌に刺激を与えることがない係合力に方向性を有する雄型面ファスナーに適し、さらに自由に曲げることができる樹脂シートを提供することを目的とする。さらにこのような係合力に方向性を有する雄型面ファスナー以外の用途にも有益な、例えばディスプレイ、流体から微粒子を分離するフィルター、流体を構造体内に均一に拡散できるシートとして使用できる樹脂シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち本発明は、樹脂製のシート状基板及び該基板の一方の表面から垂直に立ち上がる同樹脂からなる一定高さの壁状突起(W)を含み、該壁状突起(W)が10列以上一定間隔を空けて平行に該基板の表面に並んでおり、以下の条件(1)~(5)を満足する片面に多数の壁状突起(W)が平行に存在している樹脂シートを提供する。
(1)壁状突起(W)には、壁状突起(W)を厚さ方向に貫通し、かつ、壁状突起(W)の下部から頂部に至る多数の切目部(C)が壁状突起(W)の長さ方向にほぼ等間隔で存在していて、この切目部(C)により壁状突起(W)が該長さ方向に分断されて、多数の壁分割体(Wd)からなる列を形成していること、
(2)壁分割体(Wd)は、付け根から頂部に至るまでほぼ同一の厚みであり、かつ、壁分割体(Wd)の頂部には、頂部から上へ突出する突起部が存在していないこと、
(3)切目部(C)が存在している箇所が、隣の壁では、壁分割体(Wd)の壁面となっていること、すなわち、一つの壁状突起(W)中の切目部(C)が存在している箇所の、該壁状突起(W)の壁面に直角方向に位置する隣の壁状突起(W)の箇所は壁分割体(Wd)の壁面であること、
(4)個々の壁分割体(Wd)の壁状突起(W)の長さ方向の長さ(Lw)が、その長さ方向両端に存在している切目部(C)の壁状突起(W)の長さ方向の長さ(Lc)より長いこと、
(5)切目部(C)により挟まれた壁分割体(Wd)の壁状突起(W)の長さ方向の長さ(Lw)が壁分割体(Wd)の高さ(H)の2~6倍であること。
【0010】
前記樹脂シートにおいて、
壁分割体(Wd)の長さ方向の長さ(Lw)は好ましくは0.8~20mmであり、
壁分割体(Wd)の厚さ(Tw)は好ましくは0.1~1.0mmであり、
壁分割体(Wd)の高さ(H)は好ましくは0.3~5.0mmであり、
壁状突起(W)とその隣の壁状突起(W)との間隔(D)は好ましくは壁分割体(Wd)の厚さ(Tw)の1~3倍であり、
樹脂シート表面に、壁状突起(W)が樹脂シート幅1cm当たり5~30列の密度で、かつ全体で10列以上平行に存在していること
が好ましい。
【0011】
さらに本発明は、前記樹脂シートからなり、壁状突起(W)の長さ方向を横切る方向に微粒子含有流体を樹脂シート面に流して、流体から微粒子を分離するフィルターを提供する。すなわち、本発明は、前記樹脂シートからなるフィルターに、壁状突起(W)の長さ方向を横切る方向に微粒子含有流体を樹脂シート面に流して、流体から微粒子を分離する方法をも提供する。
【0012】
さらに本発明は、前記樹脂シートが透明な樹脂により形成されており、壁分割体(Wd)の頂部の少なくとも一部が着色されているディスプレイ用樹脂シートを提供する。
さらに本発明は、前記樹脂シートが透明な樹脂により形成されており、壁分割体(Wd)の頂部以外の部分の少なくとも一部が着色されているディスプレイ用樹脂シートを提供する。
【0013】
さらに本発明は、下記条件(6)~(8)をさらに満足する前記樹脂シートからなる、ループ状係合素子を有するループ面ファスナーを係合相手として使用する雄型面ファスナー用樹脂シートを提供する。
(6)壁分割体(Wd)の頂部の長さ方向一方の端には切目部(C)方向にせり出している突起部(P)が形成されているが、他方の端には切目部(C)方向にせり出す突起部が存在していないこと、
(7)突起部(P)の先端と、切目部(C)を挟んで隣り合う壁分割体(Wd)との間には隙間が存在していること、
(8)突起部(P)の数は1個の壁分割体(Wd)に付き1個であり、かつ突起部(P)がせり出している方向が殆どの壁分割体(Wd)で同一であること。
【0014】
前記雄型面ファスナー用樹脂シートにおいて、好ましくは突起部(P)の付け根からのせり出し長(Lp)は0.05~5.0mmである。
【0015】
さらに本発明は、上記の樹脂シートにおいて、隣り合う壁状突起(W)の間に、基板から立ち上がり、壁状突起(W)の長さ方向からの流体の圧力損失を壁状突起(W)の直角方向からの流体の圧力損失の0.7~1.3倍とする遮蔽用素子(F)が存在している樹脂シートを提供する。
前記遮蔽用素子(F)の高さ(HF)は、壁分割体(Wd)の高さ(H)の0.8~0.98倍が好ましく、長さ方向の長さ(LF)は、切目部(C)の長さ方向の長さ(Lc)の0.3~1.0倍が好ましく、幅(WF)は、隣り合う2列の壁状突起(W)の間隔(D)の0.8~1.0倍が好ましい。前記遮蔽用素子(F)は、壁分割体(Wd)の0.6~1.0倍の個数で、隣り合う2列の壁状突起(W)の間に均等に存在しているのが好ましい。
本発明は、前記遮蔽用素子(F)が存在している樹脂シートの用途として、該樹脂シートの壁状突起(W)の長さ方向を横切る方向または壁状突起(W)の長さ方向に平行に微粒子含有流体を樹脂シート面に流して、流体の偏流を起こすことなく、微粒子含有流体から微粒子を分離するフィルターを提供する。すなわち、本発明は、前記遮蔽用素子(F)が存在している樹脂シートに、該樹脂シートの壁状突起(W)の長さ方向を横切る方向または壁状突起(W)の長さ方向に平行に微粒子含有流体を樹脂シート面に流して、微粒子含有流体から微粒子を分離する方法をも提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明の樹脂シートは、樹脂製基板の一方の表面に同樹脂からなる一定高さの複数列の壁状突起(W)が平行に存在している。各壁状突起(W)には長さ方向に一定間隔で切目部(C)が存在しており、この切目部により各壁状突起(W)は多数の壁分割体(Wd)に分割されて、壁分割体(Wd)の列を形成している。切目部(C)が存在している箇所が、隣の壁状突起(W)では、壁分割体(Wd)となっている、すなわち切目部(C)が存在している箇所の壁状突起(W)に直角方向の隣の壁状突起(W)の箇所では壁分割体(Wd)となっている。
【0017】
したがって、本発明の樹脂シートは壁状突起(W)の長さ方向(以下、単に長さ方向と称することもある)に直角な方向に沿って曲げると、鋭角的ではなく自然な滑らかな美しい曲がりが容易に得られる。一般に樹脂シートの表面に連続する壁状突起が立ち上がっている場合には、この壁状突起が邪魔をして長さ方向に直角な方向に沿って曲げることが困難である。本発明の樹脂シートの場合には壁状突起(W)が切目部(C)により分割されており、切目部(C)の存在により壁状突起(W)に直角な方向に沿って容易に曲げることが可能となる。しかも切目部(C)が存在している箇所の壁状突起(W)に直角方向に存在している隣の壁状突起(W)の対応箇所は壁分割体(Wd)となっているので、壁状突起(W)に直角な方向に沿って曲げた場合に一箇所で鋭角的に折れ曲がることがなく、美しい自然な滑らかな曲がりが得られる。
【0018】
本発明の樹脂シートでは、上記したように、切目部(C)が存在している箇所の壁状突起(W)面に直角方向に存在している隣の壁状突起(W)の対応箇所は壁分割体(Wd)の壁面となっている。すなわち切目部(C)が存在している長さ方向の位置が隣り合う2つの壁状突起(W)では異なっている。従って、壁状突起(W)の長さ方向を横切る方向に微粒子含有流体を樹脂シート面に流すと、壁分割体(Wd)の切目部(C)から内側に侵入した流体は、次の列の壁分割体(Wd)の壁面に衝突し、それにより勢いをそがれると共に両サイドに分けられ、それぞれはさらに同壁分割体(Wd)の端部の切目部(C)からさらに内部に侵入し、そして次の列の壁分割体(Wd)の壁面に衝突して、さらに勢いをそがれることを繰り返すうちに、流体に含まれている微粒子が分離され、壁分割体(Wd)の壁面、切目部(C)、さらに樹脂シートの基板表面に微粒子が落下や付着する。従って、本発明の樹脂シートは流体から微粒子を分離するフィルターとして使用することが出来る。
【0019】
本発明の樹脂シートでは、壁状突起(W)は切目部(C)で切断されて、かつ切目部(C)の位置が隣の壁状突起(W)とは異なっているので、樹脂シートは隙間なくロール状または扁平ロール状に巻くことが可能であり、あるいは隙間なく重ねることが可能である。本発明の樹脂シートを壁状突起(W)の長さ方向に直角な方向が円周方向となるようにロール状または扁平ロール状に巻き、ロールの端部(すなわち、壁状突起(W)の長さ方向に直交する方向)から流体を流す、あるいは、樹脂シートを複数枚重ねて壁状突起(W)の長さ方向に直交する方向から流体を流すと、流体の偏流やショートパスが生じ難いので、フィルターとして使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の樹脂シートの一例であって、方向性雄型面ファスナーとして適している樹脂シートの表面の一部を拡大して模式的に示した斜視図である。
【
図2】
図1に示す樹脂シートを
図1に示すX方向から見た側面図である。
【
図3】
図1に示す樹脂シートを
図1に示すY方向から見た側面図である。
【
図4】本発明の樹脂シートの他の一例であって、
図2のように壁分割体(Wd)の壁面に直角な方向から見た側面図である。
【
図5】本発明の樹脂シートの他の一例であって、
図2のように壁分割体(Wd)の壁面に直角な方向から見た側面図である。
【
図6】本発明の樹脂シートの他の一例であって、遮蔽用素子(F)が存在している樹脂シートの表面の一部を拡大して模式的に示した斜視図である。
【
図7】本発明の他の樹脂シートの一例であって、
図6に示す樹脂シート(但し、突起部(P)の形状が
図4のような形状である)を
図6に示すX方向から見た側面図である。
【
図8】本発明の樹脂シートの他の一例である
図6に示す樹脂シートを
図6に示すY方向から見た側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を図面に基づいて詳細に説明するが、本発明は図に記載の態様に限られない。
図1は、本発明の樹脂シートの一例を模式的に示す斜視図である。
図1の樹脂シートは特に方向性の雄型面ファスナーとして適しており、壁分割体(Wd)の頂部から切目部(C)方向に突起部(P)が突出している。
図2は壁分割体(Wd)を
図1のX方向からみた断面図、
図3は樹脂シートを
図1のY方向から見た断面図である。
【0022】
図1~3に示すように、本発明の樹脂シートは、基板(B)の表面から垂直に立ち上がる同樹脂からなる一定高さ(H)の壁状突起(W)、すなわち、壁分割体(Wd)が長さ方向に並んだ列が、一定間隔(D)を空けて平行に同基板(B)の一方の表面に並んでいる。各壁状突起(W)には、壁を厚さ方向に貫通し、かつ壁の下部から頂部に至る多数の切目部(C)がほぼ等間隔で存在している。この切目部(C)により壁状突起(W)が多数の壁分割体(Wd)に分断されて、壁状突起(W)が多数の壁分割体(Wd)を含む列を形成している。壁分割体(Wd)は、付け根から頂部に至るまでほぼ同一の厚み(Tw)であり、かつ、壁分割体(Wd)の頂部には、頂部からさらに上へ突出する突起部は存在していない。
このような樹脂シートは後述するように射出成形により製造するのが生産性の点で好ましい。射出成形により製造する場合には、壁分割体(Wd)の壁面から、壁状突起(W)の長さ方向を横切る方向に突出する突起部を有していないのが生産性の点で好ましく、さらに生産中において突起部が破損されない点で好ましい。
【0023】
一つの壁状突起(W)中の切目部(C)が存在している箇所が、隣の壁状突起(W)では、壁分割体(Wd)の壁面となっている。すなわち、一つの壁状突起(W)中の切目部(C)が存在している箇所の、壁状突起(W)の壁面に直角方向に存在している隣の壁状突起(W)の箇所は壁分割体(Wd)の壁面となっている。つまり切目部(C)の長さ方向の位置が、隣の壁状突起(W)とで異なっている。
好ましくは、切目部(C)が存在している箇所が、壁状突起(W)の壁面の直角方向に存在している隣の壁状突起(W)の壁分割体(Wd)の長さ方向のほぼ中央部となっており、間に一本の壁状突起(W)を挟んで一つ置きに存在している壁状突起(W)では、切目部(C)の壁状突起(W)の長さ方向の位置が一致している。
すなわち、壁状突起(W)をその長さ方向に直角な方向から見たときに、一つの壁状突起(W)中の切目部(C)が隣の壁状突起(W)中の壁分割体(Wd)の長さ方向のほぼ中央に位置し、一つ置きに存在している壁状突起(W)では、切目部(C)が存在している位置が重なっていることが好ましい。
このような樹脂シートを一方向性雄型面ファスナーとして使用すると係合力の均一性が得られる。フィルターとして使用すると流体の偏流を高度に防ぐことができる。
なお、切目部(C)に関して、「壁状突起(W)の下部から頂部に至る」との記載において、「壁状突起(W)の下部」とは厳密な意味での壁状突起(W)の最下部、すなわち壁状突起(W)の付根部を意味するのではなく、壁状突起(W)の最下部からいくらか上の部分であってもよい。
【0024】
また、本発明で言う「壁分割体(Wd)の列」とは、壁分割体(Wd)が横にずれることなく一直線に並んでいる列を意味する。
従来、基板上に係合素子用列条が複数並んでいるテープを押出成形により製造し、テープの長さ方向を横切る方向に係合素子用列条に切れ目を入れ、次いでテープ長さ方向に延伸して切れ目を広げて係合素子用列条を係合素子の列と変える方法により製造された成形面ファスナーが知られている。このような方法で得られる面ファスナーは、テープ長さ方向に係合素子が列をなして並んでいる。しかし、隣り合う係合素子用列条の間隔が狭い場合には、テープ長さ方向を横切る方向にも係合素子が並んでいるように見える。このような方法で得られる面ファスナーは、係合素子用列条間で延伸の際に若干のズレを生じるが、本発明でいう、一つの壁状突起(W)中の切目部(C)が存在している箇所が、隣の壁状突起(W)の対応箇所では、壁分割体(Wd)の壁面となっている状態とはなり得ない。まして本発明で言う、切目部(C)が存在している箇所が、壁状突起(W)の壁面の直角方向に存在している隣の壁状突起(W)の壁分割体(Wd)の長さ方向のほぼ中央部に位置する状態とは到底ならない。
【0025】
本発明の樹脂シートは、このような構造を有していることにより、前記したように壁状突起(W)の長さ方向に直交する方向に沿って樹脂シートを曲げた場合には、壁状突起(W)が倒れた箇所で生じる鋭角的な不自然な折れ方ではなく、自然な滑らかな曲がりが得られる。
本発明の樹脂シートを方向性雄型面ファスナーとして用いた場合には、分散して存在している突起部(P)にループ状係合素子が分かれて係合し易い。また壁分割体(Wd)に係合したループ状係合素子から強い力が掛かっても、あるいは壁分割体(Wd)の頂部から強い圧力が掛かっても、壁状突起(W)の頂部全体に力を分散できるので、壁状突起(W)の長さ方向に折れたり曲がったりすることは殆どない。
またフィルターとして用いた場合には、偏流やショートパスを生じることなく、流体は、切目部(C)および平行に存在している壁分割体(Wd)間の隙間空間を、抵抗を受けながら流れるので、微粒子分離能に優れる。
さらにディスプレイ樹脂シートとして使用した場合には、バックライトの光を均一に透過でき、かつ明るい模様が浮き上がって鮮やかに見える。
【0026】
本発明の樹脂シートの基板(B)の厚さは、0.1~0.3mmの範囲が曲げの容易さと樹脂シートの強度等の点で好ましい。また樹脂シートを被取り付け物等に貼り合わせて用いる場合には、基板(B)の裏面には被取り付け物への接着力を強くするために凹凸や畝状突起が存在していても良い。
【0027】
本発明の樹脂シートの表面には、壁状突起(W)、すなわち、壁分割体(Wb)が長さ方向に並んだ列が平行に10列以上存在していることが方向性雄型面ファスナーの機能を発揮する上で、フィルターとして使用する場合にもフィルター機能を発揮する上で、さらにディスプレイ樹脂シートとして使用する際にも機能を発揮する上で必要であり、好ましくは50列以上、より好ましくは樹脂シートの表面が全て壁状突起(W)により覆われている場合あるいは樹脂シートの耳部を除く全てが壁状突起(W)により覆われている場合である。
【0028】
壁状突起(W)の長さ方向に直交する方向の樹脂シートの幅は用途によって相違するが、方向性雄型面ファスナーやフィルターとして使用する場合には、1cm以上、より好ましくは2cm以上であり、ディスプレイ樹脂シートとして使用する場合には、具体的な使用方法により相違するが、好ましくは2cm以上、より好ましくは5cm以上である。
【0029】
本発明の樹脂シートでは、個々の壁分割体(Wd)の長さ方向の長さ(Lw)が、その長さ方向両端に存在している切目部(C)の長さ方向の長さ(Lc)より長いことが必要であり、好ましくは個々の壁分割体(Wd)の長さ方向の長さ(Lw)が、その長さ方向両端部に存在している個々の切目部(C)の長さ方向の長さ(Lc)の1.2~5倍である。
【0030】
壁分割体(Wd)の長さ(Lw)が切目部(C)の長さ(Lc)より長いと、上記したように、壁状突起(W)の長さ方向に滑らかな美しい曲がりが得られる。方向性雄型面ファスナーとして使用した場合には、壁分割体(Wb)に係合したループ状係合素子から強い力が掛かっても、あるいは壁分割体(Wb)の頂部から強い押圧が掛かっても、壁分割体(Wb)が長さ方向や高さ方向に折れることが殆どない。フィルターとして用いた場合には、偏流やショートパスを生じることなくより完全に微粒子を分離でき、フィルター機能のばらつきが生じることを防ぐことができる。ディスプレイ樹脂シートとして使用した場合には、切目部(C)の存在が模様に悪影響することはない。
【0031】
壁分割体(Wd)の長さ方向の長さ(Lw)は0.8~20mmが好ましく、より好ましくは1~15mmである。なお、本発明で切目部(C)の長さ方向の長さ(Lc)および壁分割体(Wd)の長さ方向の長さ(Lw)は、壁分割体(Wb)の付け根から高さの3分の1の地点で測定した長さを意味する。
【0032】
本発明の樹脂シートにおいて、切目部(C)により挟まれた壁分割体(Wd)の長さ方向の長さ(Lw)は壁分割体(Wd)の高さ(H)の2~6倍であることが必要である。
長さ(Lw)がこの範囲にあることにより、長さ方向に直交する方向に沿って自然な滑らかな曲がりが得られる。方向性雄型面ファスナーとして使用した場合には、雄型係合素子となる壁分割体(Wd)が倒れ難く、かつ壁分割体表面を触れても肌に刺激を与えず、さらに一方向からの係合力に優れる。フィルターとして用いる場合には、フィルターやシートとしての強度に優れ、また流体の勢いに負けずに流体に適度な圧損を与え、微粒子除去効果が高まる。ディスプレイ樹脂シートとして使用する場合は、色付けされている箇所とそうでない箇所との対比が鮮やかでグラデーションが可能な色付けができる。
【0033】
壁分割体(Wd)の長さ方向の長さ(Lw)は好ましくは壁分割体(Wd)の高さ(H)の2.5~4.5倍である。壁分割体(Wd)の高さ(H)は、0.3~5.0mmが好ましく、より好ましくは0.3~3mm、さらに好ましくは0.35~2.5mmである。なお、本発明で壁分割体(Wd)の高さ(H)は、壁分割体(Wd)の付根部から頂部までの高さを意味する。本発明において重要なことは、ほぼ全ての壁分割体(Wd)が同一な高さ(H)とフラットな頂面を有していることである。これにより、雄型面ファスナーとして使用する場合に優れた手触り感と折れ難さが得られ、フィルターとして使用する場合には偏流を生じることがなく、またディスプレイ樹脂シートとして使用する場合は、光の均一な透過効果が得られる。
【0034】
本発明の樹脂シートにおいて、壁分割体(Wd)の厚さ、すなわち
図3に示すTwは0.1~1.0mmであることが、方向性雄型面ファスナーとして使用する場合には係合強力の点で、フィルターとして使用する場合には耐流圧性の点で、ディスプレイ樹脂シートとして用いる場合には色彩の繊細さおよび鮮明さの点で好ましい。より好ましくは、厚さ(Tw)は0.20~1.0mmである。
【0035】
本発明の樹脂シートにおいて、隣接する2つの壁状突起(W)の間隔(D)(
図3のD)が壁分割体(Wd)の厚さ(Tw)の0.5~4倍であるのが、上記壁分割体(Wd)の厚さ(Tw)の場合と同様の理由により好ましい。特に1~3倍であることが好ましい。
壁分割体(Wd)は付け根から先端部まで厚さ(Tw)が変わることなく一定の厚さを保ちながら基板から直立しているのが、面ファスナーでは高い係合力が得られることや手触り感の点で、フィルターでは流体の遮蔽効果の点で、さらにディスプレイ樹脂シートでは上から見ると壁分割体(Wd)の頂部とそれ以外の部分とが顕著に区別され模様が際立つ点で好ましい。
【0036】
切目部(C)の下端は基板表面に達していてもよく、あるいは基板表面に達することなく基板表面に壁分割体(Wd)の付け根部から長さ方向に延びる畝状の膨らみ部を形成していてもよい。
【0037】
次に切目部(C)の形状について図を参照して説明する。
図4に示す樹脂シートでは、切目部(C)の長さ方向両端面が壁分割体(Wd)の長さ方向に対して斜めになるように切目部(C)が形成されている。
図5に示す樹脂シートでは、切目部(C)の長さ方向両端面が基板(B)の表面から垂直に立ち上がるように切目部(C)が形成されている。
本発明の切目部(C)は
図1、
図4、
図5のいずれでも良い。
図4の切目部(C)を有する樹脂シートでは、壁分割体(Wd)の頂部が切目部(C)にせり出して突出部(P)を形成しているので
図1の場合と同様に、方向性雄型面ファスナーとして使用することができる。方向性雄型面ファスナー以外の用途に用いる場合には、
図4の切目部(C)ではなく
図5に示すように基板(B)から垂直に立ち上がっている切目部(C)でもよく、とくにフィルターやディスプレイ樹脂シートとして用いる場合は、
図5の切れ目部(C)の方が好ましい。
【0038】
本発明の樹脂シートを方向性雄型面ファスナーとして使用する場合について詳細に説明する。樹脂シートを方向性雄型面ファスナーとして使用する場合には、上記した(1)~(5)の条件を満足することに加え、各切目部(C)には、ループ状係合素子と係合できる形状を有している突起部(P)が存在していること、すなわち、壁分割体(Wd)の頂部が切目部(C)方向にせり出して、ループ状係合素子と係合できる突起部(P)が形成されていることが必要である。
【0039】
さらに
突起部(P)がせり出している切目部(C)を挟んで存在する隣の壁分割体(W)からは該切目部(C)にせり出す突起部が存在しないこと、
突起部(P)の先端と切目部(C)を挟んで隣り合う壁分割体(Wd)との間には隙間が存在していること、
さらに突起部(P)の数は各壁分割体(Wd)に付き1個であり、かつ突起部(P)がせり出している方向が殆どの壁分割体(Wd)で同一であること
が必要である。これにより樹脂シートは方向性雄型面ファスナー、すなわちループ状係合素子が一方向から近づく場合のみ係合するという機能を有する。
【0040】
切目部(C)に突起部(P)が存在しない場合や突起部(P)の先端と切目部(C)を挟んで隣り合う壁分割体(Wd)との間に隙間が存在していない場合には、ループ状係合素子と係合できないので雄型面ファスナーとして作用しない。また突起部(P)がせり出している切目部(C)を挟んで存在する隣の壁分割体(W)からも該切目部(C)にせり出す突起部(P)が存在している場合、各壁分割体(Wd)に付き、異なる方向に突出する2個の突起部(P)が存在する場合、突起部(P)がせり出している方向が異なっている場合には、様々な方向から近づくループ状係合素子と係合することとなり、方向性雄型面ファスナーとして機能しない。
【0041】
本発明の樹脂シートにおいて、突起部(P)の突出長さ(Lp)は0.05~5.0mmが好ましく、0.1~3.0mmがより好ましく、さらに好ましくは0.15~2.5mmである。突起部(P)の突出長さ(Lp)は壁分割体(Wd)の長さ方向の長さ(Lw)の5~30%であるのが好ましい。
なお、突起部(P)の突出長さ(Lp)は、壁分割体(Wd)の長さ方向に沿って最も長い長さとする。
【0042】
本発明において、突起部(P)は
図1に示すように壁分割体(Wd)の頂部が切目部(C)にせり出している形状であっても、あるいは
図4に示すように、切目部(C)が壁状突起(W)の長さ方向および高さ方向に対して付根部から斜め方向に形成されており、その結果、一方の切目部端面が切目部側に傾いており、壁分割体(Wd)の頂部が切目部(C)にせり出している形状であってもよい。突起部(P)の頂部は壁分割体(Wd)の頂部と連続一体化して基板表面からの高さが同じであり、さらに壁分割体(Wd)の頂部と同一厚さ(Tw)を有しているのが効果の点で好ましい。
【0043】
図1のように突起部(P)が切目部(C)に突出している場合には、突起部(P)の太さ(基板表面に垂直方向の長さ)は壁分割体(Wd)の高さの10~50%が好ましい。また
図4に示すように、切目部(P)が傾いていて、その結果、壁分割体(Wd)の頂部が切目部(C)にせり出す形状を有している場合には、切目部(C)の端部が基板表面に垂直な方向に対して10~60°傾いていることが係合能の点で好ましく、20~40°傾いていることがより好ましい。なお、本発明の樹脂シートが一方向性雄型面ファスナーとして用いられる場合には、壁分割体(Wd)の頂部と壁面の境界、および該頂部と切目部(C)の境界は、鋭角的ではなく、なだらかな曲面であるのが手触り感の点で好ましい。
【0044】
頂部に平行であって、同一方向に突出する突起部(P)がひとつ存在している樹脂シートを方向性雄型面ファスナーとして使用した場合には、被取り付け物が複雑な表面形状を有している場合であっても、同形状に沿って忠実に雄型面ファスナーを強固に取り付けることができる。
突起部(P)の突出方向からループ状係合素子が近づいた場合のみループ状係合素子と突起部(P)は係合し、突起部(P)の突出方向にループ状係合素子を移動させると係合は容易にはずれる。また、ループ状係合素子は樹脂シートの表面に分散して存在している突起部(P)に分かれて係合し易い。突起部(P)は壁分割体(Wd)から壁分割体(Wd)の頂部に平行に突出しているために、ループ状係合素子から多大な力が掛かっても壁分割体(Wd)は壁長さ方向に折れることはない。さらに本発明の樹脂シートでは、突起部(P)は壁分割体(Wd)の頂部より上に突出していなので壁分割体(Wd)の上を触れても肌を刺激することは全くない。しかも、ループ状係合素子と突起部(P)の突出方向の係合力は極めて大きい。
【0045】
本発明の樹脂シートは、一般的な熱可塑性樹脂から製造される。具体的な樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン―ビニルアルコール共重合体等のポリオレフィン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンサクシネート、ポリ乳酸等のポリエステル系樹脂;ナイロン6、ナイロン66、半芳香族ポリアミド等のポリアミド系樹脂等の熱可塑性非エラストマー系樹脂、ポリオレフィン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリスチレン系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、軟質ポリ塩化ビニル等の熱可塑性エラストマー樹脂が挙げられ、これらは単独または混合して用いられる。
【0046】
なかでもポリオレフィン系エラストマーを少量ブレンドしたポリプロピレンで代表される、エラストマー系樹脂をブレンドした非エラストマー系樹脂、ポリエステル系エラストマーで代表されるエラストマー系の樹脂が、柔軟性や手触り感に優れた樹脂シート及び係合剥離を繰り返しても係合相手のループ状係合素子を切断させない雄型係合素子が得られるので好ましく用いられる。エラストマー系樹脂を非エラストマー系樹脂にブレンドした樹脂混合物やエラストマー系樹脂は、樹脂の柔軟性を利用して狭い空間に隙間なく挿入することができ、それにより流体のショートパス等を阻止することが容易である樹脂シートが得られるので、フィルターに使用する樹脂シートの製造に好ましい。エラストマー系樹脂を非エラストマー系樹脂にブレンドする場合、エラストマー系樹脂が樹脂混合物に対して3~50重量%ブレンドすることが好ましい。
【0047】
上記樹脂のなかでも、半芳香族ポリアミド、特に1,9-ノナンジアミンとテレフタル酸または1,9-ノナンジアミンと2-メチル-1,8-オクタンジアミンとの混合ジアミンとテレフタル酸を主成分として得られる半芳香族ポリアミド、より好ましくは1,9-ノナンジアミンと2-メチル-1,8-オクタンジアミンのモル比が40:60~95:5である混合ジアミンとテレフタル酸から得られる半芳香族ポリアミドは耐熱性に優れるとともに強度や成形性にも優れているので、高温下で使用される方向性雄型面ファスナーや高温の流体を処理するフィルター等の用途において優れた性能を発揮する。
【0048】
前記半芳香族ポリアミドに、常温付近でゴムのような弾性や屈曲性を示し、かつ成形温度下では軟化して容易に成形できるエラストマー、例えば、スチレン系、オレフィン系、ウレタン系、エステル系、アミド系のエラストマーを少量添加した樹脂組成物も本発明の樹脂シートの製造に使用できる。なかでもエラストマーが、ポリオレフィン系のエラストマー、特に無水マレイン酸変性のポリオレフィン系エラストマーであり、かつ半芳香族ポリアミドが、テレフタル酸をジカルボン酸成分として得られる末端アミノ基含有ポリアミドである場合には、末端アミノ基と無水マレイン酸に基づく官能基が反応して、半芳香族ポリアミドとエラストマーとの一体性が向上し、成形時に相分離が生じて強度が低下する。その結果、突起部(P)が切断したり、突起部(P)に亀裂が入ることを高度に阻止できる柔軟性が得られるので好ましい。
【0049】
バックライトの光とディスプレイとして彩色された模様が際立って鮮やかに見えるので、ディスプレイ樹脂シートとして用いる本発明の樹脂シートの製造には透明性に優れた樹脂を用いるのが好ましい。このような樹脂として、アクリル酸ブチルとメタクリル酸メチルのブロック共重合体からなるエラストマー樹脂が挙げられる。この樹脂は、柔軟性にも優れているので、光源が曲面を有している場合やディスプレイ樹脂シートが曲面を有している場合には、忠実に光源に沿ったり、あるいは自然な滑らかな曲面が得られる。
【0050】
このようなアクリル酸ブチルとメタクリル酸メチルのブロック共重合体としては、重量平均分子量が4万~10万であり、アクリル酸ブチルとメタクリル酸メチルの重量比が55:45~75:25であるブロック共重合体が成形性と柔軟性と際立った透明性の点で好ましい。アクリル酸ブチルとメタクリル酸メチル以外の第3成分が少量共重合されていてもよい。上記範囲を外れるブロック共重合をブレンドしてアクリル酸ブチルとメタクリル酸メチルの重量比が上記範囲内になるようにしてもよい。
【0051】
このようなブロック共重合体は、1個のアクリル酸ブチル単位を主体とする重合体ブロック(a1)と2個のメタクリル酸メチル単位を主体とする重合体ブロック(a2)からなる(a2)-(a1)-(a2)構造を有しているのが好ましい。重合体ブロック(a1)がソフトセグメント成分、重合体ブロック(a2)がハードセグメント成分を形成し、このハードセグメント成分とソフトセグメント成分が、樹脂に透明性の他に、適度の柔軟性と伸縮性を与える。
【0052】
本発明の樹脂シートには、必要によりカーボンブラック、酸化チタン、マイカ等の添加剤、着色剤、染料、難燃剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤等のその他の添加剤が添加されていてもよい。ただし、ディスプレイ樹脂シートとして用いる場合には、バックライト等の光が透過することが求められるので、透明性を損なう添加剤を使用しないことが好ましい。乳濁しているような色調や金属的な光沢が求められる場合には白色系の顔料、表面が金属光沢を有する微粒子や鱗片状物を樹脂シートの透過性損なわない範囲で添加しても良い。
【0053】
前記したように、本発明の樹脂シート表面に前記した遮蔽用素子(F)を設けてもよい。隣り合う壁状突起(W)の間に、基板から立ち上がり、壁状突起(W)の長さ方向からの流体の圧力損失を壁状突起(W)の直角方向からの流体の圧力損失の0.7~1.3倍、より好ましくは0.8~1.15倍にする複数の遮蔽用素子(F)を存在させると、本発明の樹脂シートを壁状突起(W)の長さ方向を横切る方向から流体を流して使用するフィルターとしても、壁状突起(W)の長さ方向に平行な方向から流体を流して使用するフィルターとしても使用することができる。いずれのフィルターにおいても、シート全体に流体を均一に拡散させることができ、したがって遮蔽用素子(F)を存在させることによりフィルターとしての使用方法が拡大する。
遮蔽用素子(F)を存在させると、壁状突起(W)の長さ方向を横切る方向または平行な方向から流体を樹脂シート表面に流し、樹脂シート表面に流体を速やかに均一に拡散させることができる。
遮蔽用素子(F)の具体例としては、
図6~8に記載されている形状と個数が好ましい。遮蔽用素子(F)の高さ(H
F)は、壁分割体(Wd)の高さ(H)の0.8~0.98倍が好ましく、0.85~0.95倍がより好ましい。遮蔽用素子(F)の長さ方向の長さ(L
F)は、切目部(C)の長さ方向の長さ(Lc)の0.3~1.0倍が好ましく、0.4~0.7倍がより好ましい。遮蔽用素子(F)の長さ方向に直角な方向の幅(W
F)は、隣り合う壁状突起(W)の間隔(D)の0.8~1.0倍が好ましく、0.9~1.0倍がより好ましい。遮蔽用素子(F)は、壁分割体(Wd)の個数の0.6~1.0倍儲けることが好ましく、隣り合う壁状突起(W)の間に均等に存在していることが好ましい。上記範囲を外れる場合には、流体を十分に遮蔽できなかったり、樹脂シート全体に流体を均一に拡散できなかったりする。遮蔽用素子(F)は、基板表面から立ち上がり、壁状突起(W)の壁面との間に隙間が生じないように壁面に沿って上に延び、上に行くほど長さ方向の厚みが減少し、さらに頂面は隣り合う壁状突起(W)の直角方向に延びている畝状となっている形状が好ましい。
なお、遮蔽用素子(F)の長さ方向の長さ(L
F)は、遮蔽用素子(F)の付け根から高さの3分の1の地点で測定した長さを意味する。
【0054】
本発明の樹脂シートをフィルターとして使用する場合には、壁分割体(Wd)の上面を流体が乗り越えないことが重要である。そのためには壁分割体(Wd)の頂面がフラットな均一高さの面であること、ほぼ全ての壁分割体(Wd)の高さ(H)が均一であること、遮蔽用素子(F)の高さ(HF)が壁分割体の高さ(H)を越えないことが必要である。また、樹脂シートの壁状突起(W)間に遮蔽用素子(F)を存在させることにより、切目部(C)が遮蔽用素子(F)により遮蔽用素子(F)の頂部より高い部分以外の部分が完全に閉鎖されるのは好ましくない。したがって、遮蔽用素子(F)と切目部(C)の位置が重なった場合でも、切目部(C)を完全に閉鎖しない大きさと形状、さらに立ち上がり位置を選ぶのが好ましい。
なお、本発明で言う流体の圧力損失とは、壁分割体(Wd)の頂部が完全に密閉され、当該壁分割体(Wd)及び遮蔽用素子(F)で構成される構造体の内部のみを25℃の水が流れる系において、25℃の水を0.1m/secで流した場合に測定される値である。樹脂シートをフィルターとして使用する場合の樹脂シート表面の圧力損失値は、使用する用途や使用方法により一概に規定することは難しいが、流体を、壁状突起(W)を横切る方向に流す場合であっても、また流体を壁状突起(W)に平行に流す場合であっても、20~150kPa/10mmであるのが好ましい。また遮蔽用素子(F)は、樹脂シートを成形する際に基板(B)や壁分割体(Wd)と同一の樹脂から同時に形成される。
【0055】
以上のように、樹脂シートの表面に、前記した遮蔽用素子(F)を存在させると、本発明の樹脂シートは、壁状突起(W)の長さ方向を横切る方向から流体を流して使用するフィルターのみならず、壁状突起(W)の長さ方向に平行な方向から流体を流して使用するフィルターとしても用いることができる。従って、遮蔽用素子(F)を存在させることによりフィルターとしての使用方法が拡大する。
【0056】
次に本発明の樹脂シートの製造方法を説明する。本発明の樹脂シートを製造する方法としては、壁分割体(Wd)と同一形状のキャビティを表面に多数設けた金属ロールの表面に樹脂の溶融液をシート状に流すとともに該キャビティ内に該溶融樹脂液を圧入させ、冷却固化後に金属ロール面からシートを剥がすと同時にキャビティからも引き抜いて、表面に壁分割体(Wd)の列を多数有する樹脂シートを製造する方法が好適に用いられる。
また遮蔽用素子(F)を有する場合も、同様に、壁分割体(Wd)の列の間に遮蔽用素子(F)が存在するように、遮蔽用素子用キャビテギィを金属ロールの表面に多数設け、壁分割体用キャビティと同時に、遮蔽用素子用キャビティにも溶融樹脂液を圧入させ、冷却固化後に金属ロール面からシートを剥がすと同時にキャビティからも引き抜いて、表面に壁分割体(Wd)の列とその列の間に遮蔽用素子(F)を多数有する樹脂シートを製造する方法が好適に用いられる。
【0057】
このキャビティから引き抜く製造方法をより詳細に説明する。壁分割体(Wd)(なお、雄型面ファスナーの場合には、壁分割体(Wd)はその頂部から切目部(C)にせり出している突起部(P)を有している)の形状のキャビティを外周面上に設けた厚さ0.2~0.5mmの金属リングとキャビティを設けていない金属リングを順々に重ね合わせることにより、その外周表面に壁分割体形状のキャビティを列状に多数有する金属ロールを用意する。なお、壁分割体形状のキャビティを有する金属リングとキャビティを有していない金属リングを1枚ずつ交互に重ねてもよい。また、壁分割体形状のキャビティを有する金属リングを1枚とキャビティを有していない金属リングを複数枚、例えば2または3枚を交互に重ねてもよい。
遮蔽用素子(F)を存在させる場合には、上記キャビティを有していない金属リングの代わりに、遮蔽用素子(F)用キャビティを有する金属リングを使用する。キャビティを有していない金属リングを複数枚重ねて用いる場合には、その全てを、遮蔽用素子(F)用キャビティを有する金属リングに置き換え、キャビティの位置が同一となるように重ねる。
【0058】
このような金属ロールの表面には、壁分割体形状を有する複数のキャビティが円周方向に等間隔で列をなして並んでいる。そのような列が金属ロール面の円周方向に平行に等間隔で複数列、例えば、10列以上存在している。隣あう2列の壁分割体用キャビティの位置は円周方向にずれていることが必要である。金属ロールの厚さが一定なので、壁分割体用キャビティの厚さは一定である。壁分割体用キャビティの幅(壁分割体(Wd)の長さ方向の長さ)は、金属ロール面からキャビティの先端部(壁分割体(Wd)の頂部となる部分)に行くに従って同一であるか徐々に僅かに細くなっているのがキャビティからの壁分割体(Wd)を引き抜き易いので好ましい。壁分割体用キャビティに突起部(P)用空間が存在している場合には、キャビティから無理やり突起部(P)を引き抜くこととなるが、樹脂として柔軟性を有するものを選ぶことや引き抜く際の温度を高めることにより、突起部(P)が切断したり亀裂が入ることなく引き抜くことができる。
【0059】
金属ロール表面に溶融した樹脂を流し樹脂シートを成形する方法を説明する。金属ロールと該金属ロールと相対する位置に存在するドラムロールとの隙間に樹脂溶融物を押し出し、圧迫することにより金属ロール表面の壁分割体用キャビティ内(存在する場合は、遮蔽用素子用キャビティ内にも)に樹脂溶融物を圧入充填させると共に金属ロール表面に均一な厚さを有するシートを形成する。金属ロールが回転している間、金属ロール内に冷媒を常時循環させ、この冷媒によりキャビティ内の樹脂溶融物を冷却固化させる。これと同時に、金属ロール表面のシートを得られる樹脂シートの基板(B)が均一厚さとなるように隙間調整したニップローラーにより引き延ばしつつ冷却する。次いで、冷却されたシートを金属ロール表面から引き剥がすとともに、キャビティから壁分割体(Wd)と遮蔽用素子(F)を引き抜く。これにより、表面に多数の壁分割体(Wd)を有する樹脂シート、必要により多数の壁分割体(Wd)と遮蔽用素子(F)を有する樹脂シートが得られる。
【0060】
次にこのようにして得られた樹脂シートの用途である、方向性雄型面ファスナー、フィルターディスプレイ樹脂シートのそれぞれについて説明する。
まず方向性雄型面ファスナーは、前記したように、突起部(P)が壁分割体(Wd)の頂部から切目部(C)方向にせり出していることが係合能を得る上で必要である。突起部(P)は、壁分割体(Wd)の頂部よりも上に突出していないことも手触り、肌触りの点で必要である。突起部(P)は1つの壁分割体(Wd)に1個存在する。例えば頂部の両端部から反対方向に突起部(P)がそれぞれせり出している壁分割体は、前記した製造方法においてキャビティから引き抜く際に反対方向にせり出している突起部(P)の少なくとも一方が引きちぎられることが多発するため、製造上または性能上好ましくない。
【0061】
突起部(P)が同一方向に突出しているキャビティを有する金属リングの半数を突起部(P)の突出している方向が逆であるキャビティを有する金属リングで置き換えることにより一方向性ではなく、二方向からのループ状係合素子に係合できる雄型面ファスナーが得られる。
【0062】
このような雄型面ファスナーの係合相手となるループ面ファスナーとしては、通常の織物基布の表面にループ状係合素子を多数存在させた織物系ループ面ファスナー、編物や不織布の表面を針布起毛して、表面に繊維をループ状に立たせた編物系や不織布系の面ファスナー、繊維ウエッブを所々熱融着させて熱融着されていないところをループ状係合素子とした不織布系の面ファスナーが挙げられる。好ましくは、編物の表面を起毛して繊維を編物からループ状に引き出したループ面ファスナーである。
【0063】
本発明の樹脂シートを方向性雄型面ファスナーとして使用する場合には、ループ状係合素子に樹脂シートの突起部(P)が引っ掛かるように方向を定めて雄型面ファスナーを取り付け対象物に取り付ける必要がある。取り付ける方法としては、縫製により、あるいは接着剤や粘着剤により、さらには溶融樹脂により取り付ける方法などが用いられる。使用方法としては、壁面や柱等に本発明の樹脂シートを取り付けてループ状繊維を表面に有する物品をそれに引っ掛けて使用する方法、血圧計のカフとして、また靴の甲皮や手袋の手首を締め付ける締付材として、メディカルサポーターやブラジャーの止め具等として使用する方法などが挙げられる。樹脂シートの表面を幅5~20mmでかつ壁分割体(Wd)を横切る方向に樹脂等で覆うことにより係合不能な部分を形成し、この係合不能な部分を壁状突起(W)方向に等間隔で存在させることにより使用する人の体形等に合わせて係合位置を変えることができる多段の止め具として使用できる。
【0064】
次に本発明の樹脂シートをフィルターとして使用する場合について説明する。従来機械の隙間から微粒子を含有している気体が出入りしている場合、隙間に不織布等の繊維布帛を挿入して微粒子が機械から外部に漏れないようにする方法、あるいは機械内に微粒子が侵入しないようにする方法が取られている。繊維布帛の場合には、微粒子が繊維表面に付着堆積すると繊維布帛の目詰まりを生じ易い。目詰まりが生じると繊維布帛が気体に圧迫されて緻密となり、それによりさらに目詰まりが高じて、最終的には気体が通過できなくなり、フィルター能を消失することとなる。
【0065】
本発明の樹脂シートを用いたフィルターでは、壁状突起(W)の長さ方向を横切る方向に微粒子含有気体を樹脂シート面に流して、気体から微粒子を分離する。前記したように、微粒子含有気体は壁分割体(Wd)の切目部(C)からシート内側に侵入し、次の壁分割体(Wd)の壁面に衝突する。それにより流速が低下すると共に微粒子含有気体は両サイドに分けられる。分けられた微粒子含有気体はそれぞれ壁分割体(Wd)の両端部の切目部(C)からさらに内部に侵入し、次の壁分割体(Wd)の壁面に衝突して、さらに流速が低下する。これを繰り返すうちに、気体に含まれている微粒子が分離され、壁分割体(Wd)の面や切目部(C)、さらに樹脂シートの基板(B)表面に微粒子が落下や付着するので、樹脂シートはフィルターとして働くこととなる。したがって、従来の繊維布帛のように目詰まりによる圧縮、さらにそれによるフィルター機能を消失することが生じない。本発明の樹脂シートは、上記したような微粒子含有気体の他に、微粒子含有液体のフィルターとしても使用できる。
さらに、前記したように、本発明の樹脂シートにおいて、その表面に、前記したような遮蔽用素子(F)を存在させると、壁状突起(W)の長さ方向を横切る方向から流体を流して使用するフィルターとして使用できる他に、壁状突起(W)の長さ方向に平行な方向から流体を流して使用するフィルターとしても使用できる。いずれのフィルターにおいても、樹脂シート表面全体に流体を均一に拡散させて流すことができるので、遮蔽用素子(F)を存在させることによりフィルターとしての使用方法が拡大する。すなわち、本発明は、遮蔽用素子(F)を有する樹脂シートからなるフィルターに、壁状突起の長さ方向を横切る方向または壁状突起長さ方向に平行な方向から流体を樹脂シート表面に流し、樹脂シート表面に流体を拡散させる方法をも提供する。
【0066】
本発明の樹脂シートを隙間に挿入する方法としては、隙間の形状により、樹脂シート単層で、あるいは2枚以上重ねて使用する方法、ロール状、扁平ロール状等に巻いて使用する方法などがある。重ねて使用する場合やロール状、扁平ロール状に巻く場合には、樹脂シート裏面に粘着剤層や接着剤層や溶融樹脂層等を存在させて、ロールや重ね合わせ状態を固定する方法が好適に用いられる。さらに樹脂シートを取り付け対象物に固定する方法としては、接着剤や粘着剤や樹脂溶融物により樹脂シート裏面を対象物に固定する方法が挙げられる。また本発明樹脂シートの表面の壁分割体(Wd)の頂部を隙間なくフィルムやシートで覆い、フィルムやシートの壁分割体(Wd)の頂部と接する面を粘着剤で覆うことにより微粒子を粘着剤に吸着させることもできるし、気体や液体が壁分割体(Wd)の頂部を越えるショートパスや偏流を防ぐこともできる。
【0067】
本発明の樹脂シートをフィルターとして使用する具体例として、機械の隙間から出入りする微粒子を含有している気体から微粒子を除くためのフィルターの他に、外部から微粒子が侵入することを阻止するためのフィルター、外部に微粒子が拡散することを阻止するためのフィルター、微粒子含有液体の微粒子除去フィルター等が挙げられる。
【0068】
次に本発明の樹脂シートをディスプレイ樹脂シートとして使用する場合について説明する。ディスプレイ樹脂シートの好適例として、樹脂シートが透明な樹脂により形成されており、壁分割体(Wd)の頂部のみが着色されているディスプレイ樹脂シート、壁分割体(Wd)の頂部以外の部分のみが着色されているディスプレイ樹脂シートが挙げられる。壁分割体(Wd)の頂部のみを着色するためには、ローラーを用いて着色すればよい。壁分割体(Wd)の頂部以外の部分のみを着色するためには全面を着色した後に、壁分割体(Wd)の頂部に付着した塗料等を削り取ったり、拭き取ったりすればよい。
【0069】
透明な樹脂は光の透過性を大きく損なわない程度の透明性を有すれば良いが、高い透明度が求められる用途には、前記したアクリル酸ブチルとメタクリル酸メチルのブロック共重合体が適している。白濁やその他の色調が求められる場合には、透明性を大きく損なわない範囲で白色系顔料や染料等の着色剤を樹脂に添加してもよいし、また樹脂シート裏面に目的とする色調に着色された透過性樹脂シートを接合してもよい。
【0070】
このように、壁分割体(Wd)の頂部のみを着色することより、あるいは壁分割体(Wd)の頂部以外のみを着色することにより樹脂シートに模様を付けると、裏面からライトを当てることにより模様が美しく見えるディスプレイ樹脂シートが得られる。従来は、模様付けした箇所ではバックライトの光が殆ど透過せず、模様が必然的に暗くなる傾向があった。本発明の樹脂シートの場合には、着色されていない透明性に優れた樹脂の小部分が模様部分に分散及び露出しているので、この小部分をバックライトの明るい光が透過し、明るさに優れた鮮やかな模様が得られる。
【0071】
壁分割体(Wd)と切目部(C)が交互に存在し、かつ、隣接する2つの壁状突起(W)では壁分割体(Wd)と切目部(C)の位置がずれているので、色の変化にグラデーションを与えることが容易であり、リアルな自然な模様付が可能である。しかも、このような樹脂シートを壁状突起(W)の長さ方向に直角な方向に沿って曲げると鋭角的ではなく自然な滑らかな美しい曲がりが容易に得られる。従って、光源が曲面を有している場合やディスプレイ樹脂シートが曲面を有している場合であっても、一箇所で鋭角的に折れ曲がることがなく、美しい自然な滑らかな曲がりが得られ、光源や曲面に密着させることができる。本発明の樹脂シートからなるディスプレイ樹脂シートは、広告用看板の代替品として、照明器具の覆いとして、ウインドウガラスの装飾として、さらに玩具類としても使用できる。
【0072】
上記したように、本発明の樹脂シートが透明な樹脂で製造されている場合には、壁分割体(Wd)の頂部のみを色付けすることより、あるいは壁分割体(Wd)の頂部以外のみを色付けすることにより樹脂シートに模様を付けると、裏面からライトを当てることにより模様部も美しく輝くディスプレイ樹脂シートとして使用できる。色付けされた部分には、透明樹脂が細かく分かれて露出しているので、色付けした箇所からもバックライトの光が透過して明るく見える。従来のディスプレイ樹脂シートでは色付けされた箇所はバックライトを透過しないので暗く見え、バックライトを透過させるためには薄い色付けしかできなかった欠点が大きく改善され、着色箇所も明るく輝き鮮やかに見える模様が得られる。
【0073】
壁分割体(Wd)と切目部(C)が交互に、かつ隣の壁状突起(W)とは位置が長さ方向にずれて存在しているので、色のグラデーションが容易となり、よりリアルな微妙な模様付も可能となる。さらに、樹脂シートは、壁状突起(W)の長さ方向に直角な方向に沿って、鋭角的ではなく自然な滑らかな美しい曲がりが容易に得られるので、光源が曲面を有している場合やディスプレイ面が曲面を有している場合であっても、一箇所で鋭角的に折れ曲がることがなく、美しい自然な滑らかな曲がりが得られ、光源や曲面に密着できる。
【0074】
以上、本発明の樹脂シートを方向性雄型面ファスナーとして使用する場合、フィルターとして使用する場合、ディスプレイ樹脂シートとして使用する場合について説明したが、本発明の樹脂シートの用途はこれらに限定されず、様々な用途に使用することができる。
【0075】
以下本発明を実施例により説明する。実施例中、方向性雄型面ファスナーに係合させる相手のループ面ファスナーとして、クラレファスニング株式会社製の編物系ループ面ファスナー(マジックテープ(登録商標)E50000)を用い、係合剥離を2000回繰り返した。突起部等が折れているか否か、亀裂を有しているか否かの観察は、マイクロスコープを用いて突起部等を拡大して観察した。
【0076】
実施例1
成形用金型の準備
突起部(P)を有する壁分割体(Wd)用のキャビティを外周面上に設けた厚さ0.20mmで直径212mmの金属リングとキャビティを設けていない外周面がフラットな厚さ0.25mmで直径212mmの金属リングを順々に重ね合わせることにより、その外周面に突起部付壁分割体用のキャビティを多数有する幅120mmの金属ロールを用意した。
【0077】
樹脂シートの製造
上記金属ロールと相対する位置に存在するドラムロールとの隙間に、ポリオレフィン系エラストマーを8重量%含有するポリプロピレンの溶融物を押し出し、圧迫することによりキャビティ内に該樹脂を充填した。これと同時に、金属ロール表面に均一な厚さを有するシートを形成した。金属ロールが回転している間にロール内に常時循環されている水によりキャビティ内の樹脂を冷却するとともに、基板(B)の厚さが0.20mmとなるように隙間調整したニップロールによりシートを引き延ばした。冷却固化したシートを金属ロール表面から引き剥がして、表面に多数の壁分割体(Wd)の列が平行に並んでいる樹脂シートを製造した。
【0078】
得られた樹脂シートの形状
得られた樹脂シートは、
図1に示すような形状であった。すなわち、厚さ0.20mmの基板(B)の表面から垂直に立ち上がる高さ0.45mmの壁状突起(W)が200列、0.25mmの間隔を空けて平行に同基板表面に並んでいた。各壁状突起(W)には、壁状突起(W)の壁を厚さ方向に貫通し、かつ壁状突起(W)の下部から頂部に至る多数の切目部(C)が等間隔で配置されていた。この切目部(C)により壁状突起(W)が多数の壁分割体(Wd)に分断されていた。壁分割体(Wd)は、付け根から頂部に至るまで厚みが均一(0.20mm)であり、壁分割体(Wd)の両壁面には、壁状突起(W)の長さ方向を横切る方向に突出する突起部が存在していなかった。壁分割体(Wd)の頂部は平らで、頂部から上へ突出する突起部が存在していなかった。切目部(C)の壁状突起(W)壁面に直角方向に存在している隣の壁状突起(W)の箇所は壁分割体(Wd)の壁面であり、切目部(C)は該隣の壁状突起(W)の壁分割体(Wd)の長さ方向のほぼ中央に位置していた。各壁分割体(Wd)の壁状突起(W)の長さ方向の長さ(Lw)は1.30mm、その両端に存在している切目部(C)の壁状突起(W)の長さ方向の長さ(Lc)は0.50mm、壁分割体(Wd)の高さ(H)は0.45mmであった。
【0079】
各壁分割体(Wd)の長さ方向の一方の端には、その頂部が切目部(C)方向に0.15mm(Lp=0.15mm)せり出している突起部(P)が形成されており、他方の端には切目部(C)方向にせり出す突起部が存在していなかった。突起部(P)の先端と切目部(C)を挟んで隣り合う壁分割体(Wd)との間にはループ状係合素子のループ繊維が充分に通ることが可能な長さ0.25mmの隙間が存在していた。突起部(P)の数は各壁分割体(Wd)に付き1個であり、かつ突起部(P)がせり出している方向が全ての壁分割体(Wd)で同一であった。
【0080】
方向性雄型面ファスナーとしての性能
この樹脂シートを方向性雄型面ファスナーとして用い、突起部(P)のせり出し方向からループ面ファスナーを係合させて、さらに突起部(P)のせり出し方向とは反対方向に強く引っ張り、そののちに係合を外す操作を2000回繰り返した後の突起部(P)の状態を顕微鏡で観察した。突起部(P)が切断されたものや、曲がったものや、亀裂が入ったものや、屈曲により白化したものは全く観察できなかった。また樹脂シートの表面を手で触れても突起部(P)の存在を感じることも全くなかった。さらにこの樹脂シートを壁状突起(W)の長さ方向に直角な方向に沿って曲げたところ、大きな抵抗もなく、かつ滑らかな局面で曲げることができた。
【0081】
フィルターとしての性能
得られた樹脂シート(20mm×20mm)を両面粘着テープを介して3枚を重ね合せた。壁分割体(Wd)の頂部はフラットなので、壁分割体(Wd)の頂部と粘着テープとの間に隙間が形成されることは全くなかった。得られた樹脂シートの中央部に5mm×5mmの略正方形の穴を開けた。この穴部に空気圧を掛けることができる空気供給口(丸穴)を設けたスチール製の板で樹脂シートを挟んで壁分割体(Wd)の頂部を塞ぎ、樹脂シートの側面からのみ流体が出入りできるようにした。略正方形の穴部にカーボンブラック(粒径:5~15μm)を0.1g配置し、略正方形の穴部の中心部に向かって、スチール板の空気供給口から10kPa、20kPa、30kPaの空気圧を掛けた。10kPaのときは0.3L/min、20kPaのときは0.7L/min、30kPaのときは1.0L/minのリーク量になるように空気を流した。空気は樹脂シートの切目部(C)や隣り合う壁状突起(W)の壁分割体(Wd)の間を流れ、ショートパスや偏流を生じることは全くなかった。その結果、空気が樹脂シート内を通過する間に、空気に含まれている微粒子は樹脂シート内で分離され、樹脂シートから排出される空気には微粒子は全く含まれておらず、目詰まりを生じることも全くなかった。この樹脂シートを用いたフィルターは、隙間に挿入することもでき、さらに径の小さい筒の曲面にも隙間なく取り付けることができた。
【0082】
実施例2
上記実施例1において、樹脂シートの成形に用いる樹脂をアクリル酸ブチルとメタクリル酸メチルのブロック共重合体(株式会社クラレ社製クラリティー(登録商標)LM4285)に変更した以外は実施例1と同様にして、表面に多数の壁分割体(Wd)の列が平行に並んでいる樹脂シートを製造した。基板(B)の厚さ、壁分割体(Wd)および突起部(P)の形状や大きさは実施例1と同一である。この樹脂シートを用いて、ディスプレイ樹脂シートを作製した。
すなわち樹脂シートの壁分割体(Wd)の頂部のみが塗料により着色されるように、ペイントロールを用いて、バラの花の絵を樹脂シート上に描いた。
【0083】
その結果、白色からピンク色に徐々に濃度を増していく花びらを鮮やかに描くことができ、背景の景色も合せて同様に描くことができた。この模様を塗布した樹脂シートをランプの覆いとして使用したところ、着色された壁分割体(Wd)頂部が微細に均一分散されており、それ以外の際立った透明性を有する部分からの透過光によりバラの模様が明るく明確、かつ鮮明に浮き出して見えた。なお、ランプの覆いとして固定する際に、樹脂シートは太い針金に沿って滑らかに曲げて固定することができた。
【0084】
実施例3
上記実施例1において、樹脂シートの成形に用いる樹脂を、ジアミン成分の50モル%が1,9-ノナンジアミンで、50モル%が2メチル―1,8-オクタンジアミンである混合ジアミンを用い、芳香族ジカルボン酸成分としてテレフタル酸を用いて得られる末端アミノ基含有半芳香族ポリアミド(株式会社クラレ製半芳香族ポリアミドジェネスタ(登録商標)、[η]=1.20dl/g)を用い、エラストマーとして、無水マレイン酸変性ポリオレフィン系エラストマー(三井化学製タフマー)を上記半芳香族ポリアミドに対して10重量%の割合で添加し、混ぜ合わせてペレット化したものに変更する以外は実施例1と同様にして、表面に多数の壁分割体(Wd)の列が平行に並んでいる樹脂シートを製造した。基板(B)の厚さ、壁分割体(Wd)および突起部(P)の形状や大きさは実施例1と同一であった。
【0085】
実施例1と同様に、得られた樹脂シートを方向性雄型面ファスナーとして使用した。その結果、係合・剥離を500回繰り返し行っても突起部(P)が切断されたものや、曲がったものや、亀裂が入ったものは全く観察できず、また樹脂シートの表面を手で触れても突起部(P)の存在を感じることも全くなかった。特に、この方向性雄型面ファスナーは200℃という高温条件下においても係合力が全く低下せず、耐熱性の点でも優れたものであることが分かった。さらにこの樹脂シートを壁状突起(W)長さ方向に直角な方向に沿って曲げたところ、大きな抵抗もなく、かつ滑らかな局面で曲げることができた。
【0086】
また、この樹脂シートを実施例1と同様にフィルターとして使用したところ、壁分割体(Wd)の頂部と粘着テープとの間に隙間が形成されることは全くなかった。さらに壁状突起(W)に直角な方向から、微粒子含有空気を流した結果、空気の流れは、樹脂シートの切目部(C)と隣の列の壁分割体(Wd)の間を通過し、ショートパスや偏流を生じることは全く、含まれている微粒子は、樹脂シート内で分離され、樹脂シートから排出される空気には微粒子は全く含まれていなかった。さらに、流す空気が100℃と高温であっても、フィルター効果は低下せず、また高温によるフィルターの劣化も生じなかった。この樹脂シートを用いたフィルターも、径の小さい筒状のものにも、隙間なく丸みを有して取り付けることができた。
【0087】
比較例1
前記実施例1において、金型リングのキャビティの位置をずらして、切目部(C)が存在している箇所の、壁状突起(W)壁面に直角方向に存在している隣の壁状突起(W)の箇所が切目部(C)となるようにした以外は実施例1と同様にして樹脂シートを製造した。
【0088】
得られた樹脂シートを方向性雄型面ファスナーとして使用したところ、係合力において、また係合力の均一性において実施例1のものより劣り、また係合・剥離を繰り返すことにより係合相手のループ面ファスナーのループ繊維の切断も実施例1のものより多く見られた。さらにこの樹脂シートを壁状突起(W)壁面に直角な方向に沿って曲げたところ、鋭角的に曲がり、美しい曲がり形状は得られなかった。さらに、この樹脂シートを実施例1と同様にフィルター材として使用したところ、空気は切目部(C)を専ら通り抜け、微粒子を分離するフィルター効果は殆ど得られなかった。
【0089】
比較例2
前記実施例1において、各壁分割体(Wd)の長さ方向の長さ(Lw)と切目部(C)の長さ方向の長さ(Lc)が同一(0.50mm)になるように金属リングのキャビティ形状を変更した以外は実施例1と同様にして樹脂シートを作製した。
【0090】
得られた樹脂シートを方向性雄型面ファスナーとして使用したところ、係合・剥離を繰り返すことにより、壁分割体(Wd)に亀裂や白化が生じ、さらに係合・剥離回数が400回を越えると破壊された壁分割体(Wd)が僅かに見られた。この樹脂シートを実施例1と同様にフィルターとして使用したところ、空気は主として切目部(C)を通り抜け、微粒子を分離するフィルター効果は、比較例1より若干優れていたが、実施例1よりはるかに劣っていた。
【0091】
実施例4~5、比較例3~4
上記実施例1において、壁分割体(Wd)用キャビティの円周方向長さを以下のように変更した。すなわち、壁分割体(Wd)の長さ方向の長さを変更することにより、壁分割体(Wd)の長さ方向の長さ(Lw)を分割体(Wd)の高さ(H)の1倍(比較例3)、2.3倍(実施例4)、5倍(実施例5)、9.5倍(比較例4)とした以外は実施例1と同様にして4種の樹脂シートを製造した。係合素子の密度は比較例3では233本/cm2、実施例4では144本/cm2、実施例5では80本/cm2、比較例4では46本/cm2であった。
【0092】
得られた4種の樹脂シートを方向性雄型面ファスナーとして使用したところ、比較例3のシートは、比較例2の場合と同様に、係合剥離の繰り返しにより壁分割体(Wd)に亀裂が入るものが見られ、剥離・係合を更に繰り返すことにより壁分割体(Wd)が切断されたものも見られた。比較例4のシートは係合力が低く、雄型面ファスナーとして用いるには不十分であった。それに対して、実施例4と5の樹脂シートには方向性雄型面ファスナーとして特に問題となる欠点が存在しなかった。
【0093】
またこれら4種の樹脂シートをフィルターとして使用したところ、比較例3のシートは、比較例1と同様に、空気は切目部(C)を容易に通り抜け、微粒子を分離するフィルター効果は殆ど得られなかった。比較例4のシートでは、余りにも抵抗が高く、圧力損失が大き過ぎてフィルターとして使用するには問題を有していた。
一方、実施例4と5の樹脂シートは、適度の抵抗により微粒子分離能に優れ、さらに目詰まり問題も生じず、フィルターとして使用可能なものであった。
【0094】
実施例6
実施例1において、切目部(C)が、
図4に示すように、壁分割体(Wd)の高さ方向に対して45度傾いている斜面により形成され、この斜面が突起部(P)を形成するようにし、かつ、壁分割体(Wd)の高さ(H)を実施例1の1.2倍とした以外は実施例1と同様にして樹脂シートを製造した。
【0095】
得られた樹脂シートは係合したループ状係合素子が実施例1と比べて外れ易いという欠点があるものの、方向性雄型面ファスナーとしての係合能を有していた。さらに実施例1と同様にしてフィルターとしての性能を調べたところ、実施例1と同様に優れた性能を示した。
【0096】
実施例7
実施例1において、切目部(C)を、
図5に示すように、壁分割体(Wd)の高さ方向に対して平行に形成し、切目部(C)の断面形状が長方形となるようにし、かつ、成形に用いる樹脂を、実施例2で用いたアクリル酸ブチルとメタクリル酸メチルのブロック共重合体に変更した以外は実施例1と同様にして樹脂シートを製造した。
【0097】
得られた樹脂シートを実施例2と同様に着色・模様付けし、ランプの覆いとして使用したところ、実施例2と同様に、着色された微細な壁分割体頂部が均一に分散しており、それ以外の際立った透明性を有する部分からの透過光に照らされてバラの模様が明るく鮮明に浮き出して見えた。ランプの覆いとして固定する際には、樹脂シートを固定用の太い針金に沿って滑らかに曲げることができた。
【0098】
実施例8
成形用金型の準備
実施例1と同様に、突起部(P)を有する壁分割体(Wd)用のキャビティを外周面上に設けた厚さ0.20mmで直径212mmの金属リングと遮蔽用素子(F)用のキャビティを外周面上に設けた厚さ0.50mmで直径212mmの金属リングを順々に重ね合わせることにより、その外周面に突起部付壁分割体用のキャビティと遮蔽用素子用のキャビティを多数有する幅120mmの金属ロールを用意した。
【0099】
樹脂シートの製造
上記金属ロールと相対する位置に存在するドラムロールとの隙間に、実施例3と同一のエラストマー含有半芳香族ポリアミドの溶融物を押し出し、圧迫することによりそのキャビティ内に該樹脂を充填した。これと同時に、ロール表面に均一な厚さを有するシートを形成した。金属ロールが回転している間にロール内に常時循環されている水によりキャビティ内の樹脂を冷却させるとともに、基板(B)厚さが0.20mmとなるように隙間調整したニップロールにより引き延ばした。冷却固化されたシートを金属ロール表面から引き剥がして、表面に多数の壁分割体(Wd)の列が平行に並んでおり、隣り合う壁分割体(Wd)の列間に遮蔽用素子(F)が等間隔で存在している樹脂シートを製造した。
【0100】
得られた樹脂シートの形状
得られた樹脂シートは、
図6に示すような形状であった。すなわち厚さ0.20mmの基板(B)の表面から垂直に立ち上がる高さ0.45mmの壁状突起(W)が100列、0.50mmの間隔を空けて平行に同基板表面に並んでいた。各壁状突起(W)には、壁状突起(W)の壁を厚さ方向に貫通し、かつ壁状突起(W)の下部から頂部に至る多数の切目部(C)が等間隔で配置されていた。この切目部(C)により壁状突起(W)が多数の壁分割体(Wd)に分断されていた。壁分割体(Wd)は、付け根から頂部に至るまで厚みが均一の0.20mmであり、かつ壁分割体(Wd)の両壁面には、壁状突起(W)の長さ方向を横切る方向に突出する突起部が存在していなかった。壁分割体(Wd)の頂部は平らで、頂部から上へ突出する突起部が存在していなかった。切目部(C)の壁状突起(W)壁面に直角方向に存在している隣の壁状突起(W)の箇所は壁分割体(Wd)の壁面であり、切目部(C)は該隣の壁状突起(W)の壁分割体(Wd)の長さ方向のほぼ中央に位置していた。各壁分割体(Wd)の壁状突起(W)長さ方向の長さ(Lw)は1.30mm、その両端に存在している切目部(C)の壁状突起(W)長さ方向の長さ(Lc)は0.50mmであり、さらに壁分割体(Wd)の高さ(H)は0.45mmであった。
【0101】
各壁分割体(Wd)の長さ方向の一方の端には、その頂部が切目部(C)方向に0.15mmせり出している突起部(P)が形成されており、他方の端には切目部(C)方向にせり出す突起部が存在していなかった。突起部(P)の先端と切目部(C)を挟んで隣り合う壁分割体(Wd)との間には0.25mmの隙間が存在していた。突起部(P)の数は各壁分割体(Wd)に付き1個であり、かつ突起部(P)がせり出している方向が全ての壁分割体(Wd)で同一であった。
【0102】
隣り合う壁状突起(W)の間には、
図6に示すように、壁分割体(Wd)の個数の0.9倍の遮蔽用素子(F)が均等に存在していた。遮蔽用素子(F)の高さ(H
F)は0.40mm、長さ方向の長さ(L
F)は0.40mm、幅(W
F)は隣り合う壁状突起(W)の間隔(D)と同一であった。遮蔽用素子(F)は、基板(B)から立ち上がり、壁分割体(Wd)の壁面との隙間が生じないように壁面に沿って上に延び、上に行くほど長さ方向の長さ(L
F)が減少し、その頂部は、隣り合う壁状突起(W)に直角となる方向に延びる畝状となっていた。
【0103】
樹脂シートの圧力損失値
この樹脂シートの表面に、壁分割体(Wd)の頂部とその頂部を覆うフィルムとの間に隙間が形成されないようにフィルムを接着した。壁状突起(W)に直角な方向から、および壁状突起(W)に平行な方向から25℃の水を流して、直角な方向及び平行な方向からの流体に対する圧力損失を測定した。壁状突起(W)に直角な方向からの流体に対しては97kPa/10mm、壁状突起(W)に平行な方向からの流体に対しては88kPa/10mmであった。一方、遮蔽用素子(F)が存在しない以外は同一の樹脂シートでは、壁状突起(W)に直角な方向からの流体に対しては85kPa/10mm、壁状突起(W)に平行な方向からの流体に対しては7.5kPa/10mmであった。
【0104】
フィルターとしての性能
この樹脂シート(20mm×20mm)の中央部に5mm×5mmの略正方形の穴を開けた。この穴部に向かって空気圧を掛けることができる空気供給口(丸穴)を設けたスチール製の板で樹脂シートを挟んで壁分割体(Wd)の頂部を塞ぎ、樹脂シートの側面からのみ流体が出入りできるようにした。略正方形の穴部にカーボンブラック(粒径:5~15μm)を0.1g配置し、略正方形の穴部の中心部に向かって、スチール板の空気供給口から10kPa、20kPa、30kPaの空気圧を掛けた。10kPaのときは0.3L/min、20kPaのときは0.7L/min、30kPaのときは1.0L/minのリーク量になるよう空気を流した。空気は、いずれの場合も、樹脂シートの切目部(C)や隣り合う壁状突起(W)の壁分割体(Wd)の間を流れ、さらに遮蔽用素子(F)の上を通過し、ショートパスや偏流を生じることは全くなかった。その結果、空気が樹脂シート内を通過する間に、空気に含まれている微粒子は樹脂シート内で分離され、樹脂シートから排出される空気には微粒子は全く含まれておらず、目詰まりを生じることも全くなかった。この樹脂シートを用いたフィルターは、隙間に挿入することもでき、さらに径の小さい筒の曲面にも隙間なく取り付けることができた。従って、得られた樹脂シートは、壁状突起(W)に垂直な方向のみならず、壁状突起(W)に平行な方向にも流体を流して使用できるフィルターであることが分かった。
【0105】
実施例9
実施例8において、切目部(C)の形状を
図5に示す形状に変えた以外は実施例8と同様にして樹脂シートを作製した。
得られた樹脂シートの壁分割体(Wd)の長さ方向の長さ(Lw)は1.30mm、切目部(C)の長さ方向の長さ(Lc)は0.50mmであり、かつ実施例8と同一形状の遮蔽用素子(F)が実施例8と同一の密度で存在していた。
【0106】
得られた樹脂シートを実施例8と同様にして、壁状突起(W)に直角な方向から、および壁状突起(W)に平行な方向からそれぞれ水を流して、それぞれの方向からの流体に対する圧力損失を測定したところ、壁状突起(W)に直角な方向からの流体に対しては94kPa/10mm、壁状突起(W)に平行な方向からの流体に対しては82kPa/10mmであった。
【0107】
得られた樹脂シート(20mm×20mm)の中央部に5mm×5mmの略正方形の穴を開けた。この穴部に空気圧を掛けることができる空気供給口(丸穴)を設けたスチール製の板で樹脂シート挟んで壁分割体(Wd)の頂部を塞ぎ、樹脂シートの側面からのみ流体が出入りできるようにした。略正方形の穴部にカーボンブラック(粒径:5~15μm)を0.1g配置し、略正方形の穴部の中心部に向かって、スチール板の空気供給口から10kPa、20kPa、30kPaの空気圧を掛けた。10kPaのときは0.3L/min、20kPaのときは0.7L/min、30kPaのときは1.0L/minのリーク量になるように空気を流した。空気の流れは、いずれの方向から流した場合も、実施例8の場合と同様にショートパスや偏流を生じることは全くなかった。また含まれているカーボンブラック微粒子は、樹脂シート内で分離され、樹脂シートから排出される空気には全く含まれておらず、目詰まりを生じることも全くなかった。したがってこの樹脂シートも、壁状突起(W)に垂直な方向のみならず、壁状突起(W)に平行な方向にも流体を流して使用できるフィルターであることが分かった。この樹脂シートを用いたフィルターは、実施例8の樹脂シートと同様に、細い隙間に挿入することができ、径の小さい筒の曲面にも、隙間なく取り付けることができた。
【0108】
実施例10
上記実施例8において、遮蔽用素子(F)を設置しない以外は、実施例8と同様にして樹脂シートを作製した。この樹脂シートの壁状突起(W)に直角な方向から、および壁状突起(W)に平行な方向から水を流して、それぞれの方向からの流体に対する圧力損失を測定した。壁状突起(W)に直角な方向からの流体に対しては80kPa/10mm、壁状突起(W)に平行な方向からの流体に対しては7.5kPa/10mmであった。
【0109】
実施例8と同様にして、得られた樹脂シートのフィルター性能を調べた。樹脂シート(20mm×20mm)の中央部に5mm×5mmの略正方形の穴を開けた。この穴部に向かって空気圧を掛けることができる空気供給口(丸穴)を設けたスチール製の板で樹脂シートを挟んで壁分割体(Wd)の頂部を塞ぎ、当該樹脂シートの側面からのみ流体が出入りできるようにした。略正方形の穴部にカーボンブラック(粒径:5~15μm)を0.1g配置し、略正方形の穴部の中心部に向かって、スチール板の空気供給口から10kPa、20kPa、30kPaの空気圧を掛けた。10kPaのときは0.3L/min、20kPaのときは0.7L/min、30kPaのときは1.0L/minのリーク量になるよう空気を流した。その結果、壁状突起(W)に直角な方向から流体を流した場合には、実施例8の場合と同様にショートパスや偏流を生じることは全くなかった。また含まれているカーボンブラック微粒子は、樹脂シート内で分離され、樹脂シートから排出される空気には全く含まれておらず、目詰まりを生じることも全くなかった。しかしながら、壁状突起(W)に平行な方向から空気を流した場合には、含まれている微粒子が樹脂シート内で殆ど分離されることなく、流出時の微粒子濃度は流入時と同じであった。したがって、壁状突起(W)に平行な方向から流体を流す場合には、フィルター能を有していないことが分かった。
【0110】
実施例11
上記実施例8において、切目部(C)の形状を
図5に示す形状に変え、壁分割体(Wd)の長さ方向の長さ(Lw)を0.9mm(実施例8の70%)に、切目部(C)の長さ方向の長さ(Lc)を0.35mm(実施例8の70%)に、壁分割体(Wd)の高さ(H)を0.315mm(実施例8の70%)に変え、さらに遮蔽用素子(F)の形状を実施例8の遮蔽用素子の相似形状(高さ(H
F)が0.28mm(実施例8の70%)、幅(W
F)が0.05mm(実施例8と同一))に変えた以外は実施例8と同様にして樹脂シートを作製した。
なお、遮蔽用素子(F)の密度は実施例8と同一にした。
【0111】
得られた樹脂シートに実施例8と同様にして、壁状突起(W)に直角な方向から、および壁状突起(W)に平行な方向からそれぞれ水を流して、それぞれの方向からの流体に対する圧力損失を測定した。壁状突起(W)に直角な方向からの流体に対しては130kPa/10mm、壁状突起(W)に平行な方向からの流体に対しては120kPa/10mmであった。
【0112】
得られた樹脂シート(20mm×20mm)の中央部に5mm×5mmの略正方形の穴を開けた。この穴部に向かって空気圧を掛けることができる空気供給口(丸穴)を設けたスチール製の板で樹脂シートを挟んで壁分割体(Wd)の頂部を塞ぎ、樹脂シートの側面からのみ流体が出入りできるようにした。略正方形の穴部にカーボンブラック(粒径:5~15μm)を0.1g配置し、略正方形の穴部の中心部に向かって、スチール板の空気供給口から10kPa、20kPa、30kPaの空気圧を掛けた。10kPaのときは0.3L/min、20kPaのときは0.7L/min、30kPaのときは1.0L/minのリーク量になるように空気を流した。空気の流れは、どちらの方向から流した場合も、ショートパスや偏流を生じることは全くなかった。また含まれているカーボンブラック微粒子は、樹脂シート内で分離され、樹脂シートから排出される空気には全く含まれておらず、目詰まりを生じることも全くなかった。したがってこの樹脂シートも、壁状突起(W)に垂直な方向のみならず、壁状突起(W)に平行な方向にも流体を流して使用できるフィルターであることが分かった。
【符号の説明】
【0113】
B‥‥基板
Wd‥‥壁分割体
C‥‥切目部
P‥‥突出部
F‥‥遮蔽用素子