(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-17
(45)【発行日】2024-05-27
(54)【発明の名称】摩擦が低減されたピストンシリンダ装置用のガラスシリンダおよびピストンシリンダ装置用のガラスシリンダを処理する方法
(51)【国際特許分類】
C03C 23/00 20060101AFI20240520BHJP
A61M 5/315 20060101ALI20240520BHJP
【FI】
C03C23/00 D
A61M5/315 512
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023001139
(22)【出願日】2023-01-06
(62)【分割の表示】P 2019571583の分割
【原出願日】2018-07-02
【審査請求日】2023-01-24
(31)【優先権主張番号】102017114959.7
(32)【優先日】2017-07-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】504299782
【氏名又は名称】ショット アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】SCHOTT AG
【住所又は居所原語表記】Hattenbergstr. 10, 55122 Mainz, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】エヴリーヌ ルディジエ-フォイクト
(72)【発明者】
【氏名】ヨヴァンナ ジョルジェヴィチ-ライス
(72)【発明者】
【氏名】トアステン シュナイダー
(72)【発明者】
【氏名】イェアク ガイガー
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル グリガス
【審査官】酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】特表2004-534596(JP,A)
【文献】特開2006-049849(JP,A)
【文献】特表2016-520502(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 21/00-23/00,
A61M 5/315
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダ内壁(30)におけるピストン(5)の摩擦を低減するために、ピストンシリンダ装置(4)用のガラスシリンダ(3)を処理する方法であって、
前記シリンダ内壁(30)によって画定された内室(31)内で、ガラス(2)の表面エネルギを高め、これにより前記ガラス(2)と水との接触角を、
-前記シリンダ内壁(30)の前記ガラス(2)に作用し、電界または電磁界を発生させるガス放電によって、または、
-ガラス表面(2)へのオゾンの作用によって、
低減させ
、
前記ピストン(5)の少なくとも摺動面は、プラスチックによって形成されており、
前記摺動面のプラスチックは、前記シリンダ内壁(30)の表面よりも大きな接触角を水に対して有している、方法。
【請求項2】
シリンダ内壁(30)におけるピストン(5)の摩擦を低減するために、ピストンシリンダ装置(4)用のガラスシリンダ(3)を処理する方法であって、
前記シリンダ内壁(30)によって画定された内室(31)内で、ガラス(2)の表面エネルギを高め、これにより前記ガラス(2)と水との接触角を、
-前記シリンダ内壁(30)の前記ガラス(2)に作用し、電界または電磁界を発生させるガス放電によって、または、
-ガラス表面(2)へのオゾンの作用によって、
低減させ、
前記ピストン(5)の摺動面(50)の接触角と、前記シリンダ内壁(30)の接触角と、の差を規定し、前記ガラスの接触角が、前記規定した差に達するように減じられるまで、前記ガス放電または前記オゾンの作用を継続して実施する、方法。
【請求項3】
前記規定した差は、少なくとも60°である、請求項2記載の方法。
【請求項4】
ガス放電、プラズマまたはオゾンによる作用後に、前記シリンダ内壁(30)の前記ガラス(2)に水を付与する、
請求項1
から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記水の付与を、水を含有する作用物質調整剤の充填により行う、
請求項
4記載の方法。
【請求項6】
前記ガス放電を、酸素を含むガス、特に純酸素内で、酸素・窒素混合物内で、酸素・希ガス混合物内で、または空気中で、行う、
請求項1から
5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
オゾンを、以下のプロセス、すなわち、
-酸素を含むガス内でのガス放電、
-イオン化されたビームの照射、
-UV照射、
のプロセスうちの少なくとも1つによって、発生させる、
請求項1から
6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記ガス放電を、少なくとも100ミリバールのガス圧で、または高くとも10ミリバールのガス圧で、行う、
請求項1から
7までのいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
前記ガス放電は、コロナ放電またはプラズマ処理を含む、
請求項1から
8までのいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
前記ガラスシリンダの軸方向に沿った前記ガラスと水との接触角は、その大きさが、前記ガス放電によって、または前記オゾンの作用によって減じられるバリエーションを有する、
請求項1から
9までのいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
ガス放電を引き起こすステップ、またはオゾンを作用させるステップ、および場合によっては水を付与するステップを、少なくとも1回繰り返す、
請求項1から
10までのいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
ガラス製注射器を製造する方法であって、
前記ガラス製注射器は、ルアーコーンを有するガラスシリンダから形成されており、
前記ルアーコーンのガラスが加熱され、カニューレが溶融され
て前記ルアーコーン内に取り付けられ、
前記ガラス製注射器の前記ガラスシリンダは、請求項1から
11までのいずれか1項記載の方法により処理されることを特徴とする、方法。
【請求項13】
シリンダ内壁(30)がガラス(2)からなるガラスシリンダ(3)と、前記ガラスシリンダ(3)内に装着されるピストン(5)と、を有するピストンシリンダ装置(4)であって、
前記ピストン(5)は、前記ガラスシリンダ(3)の前記ガラス(2)に直接沿って摺動し、前記ピストン(5)の少なくとも摺動面(50)は、プラスチックにより形成されており、前記摺動面(50)の前記プラスチックは、前記ガラスシリンダ(3)の前記ガラス(2)によって形成する、前記シリンダ内壁(30)の表面よりも大きな接触角を水に対して有している、
ピストンシリンダ装置(4)。
【請求項14】
前記摺動面(50)のプラスチックと水の接触角と、前記シリンダ内壁(30)と水との接触角と、の差は、少なくとも60°であり、好適には少なくとも70°である、
請求項
13記載のピストンシリンダ装置(4)。
【請求項15】
ピストン(5)が設けられており、前記ピストンでは、少なくともシールの表面が、ハロゲン化ポリマ、好適にはフッ素性ポリマを有している、
請求項
13または
14記載のピストンシリンダ装置(4)。
【請求項16】
前記ピストンシリンダ装置(4)は、ガラス製注射器(1)の形態である、
請求項
13から
15までのいずれか1項記載のピストンシリンダ装置(4)。
【請求項17】
ルアーコーンと、前記ルアーコーンのガラス中に溶融されたカニューレと、を有する、請求項
16記載のピストンシリンダ装置(4)。
【請求項18】
前記ピストンシリンダ装置(4)は、前記ピストン(5)が引き戻された状態で、前記ガラス製注射器(1)内に収容される液状の作用物質調整剤(11)を含む、
請求項
16または
17記載のピストンシリンダ装置(4)。
【請求項19】
前記液状の作用物質調整剤(11)は、少なくとも1000グラム/モルの分子量を有する作用物質を含む、
請求項
18記載のピストンシリンダ装置(4)。
【請求項20】
前記作用物質調整剤(11)は、インスリン、ワクチン、抗体、血液製剤、ホルモン、サイトカイン、タンパク質ベースの作用物質のうち少なくとも1つを含有する、請求項
19記載のピストンシリンダ装置(4)。
【請求項21】
前記シリンダ内壁(30)の表面と水との接触角は、15°よりも小さい、
請求項13から20までのいずれか1項記載のピストンシリンダ装置(4)。
【請求項22】
前記シリンダ内壁(30)の前記表面において、非架橋酸素に対する架橋酸素の比は、前記ガラス(2)の内部における非架橋酸素に対する架橋酸素の比の値よりも高い、
請求項
13から21までのいずれか1項記載の
ピストンシリンダ装置(4)。
【請求項23】
前記シリンダ内壁(30)の前記表面において、シリコーンに対する酸素の比は、前記ガラス(2)の内部におけるシリコーンに対する酸素の比の値よりも高い、
請求項
13から22までのいずれか1項記載の
ピストンシリンダ装置(4)。
【請求項24】
前記ガラスシリンダの端部から端部までの長手方向での、ガラスと水の接触角のバリエーションは、5°未満である、
請求項
13から
23までのいずれか1項記載の
ピストンシリンダ装置(4)。
【請求項25】
前記ガラスシリンダ(3)の前記ガラス(2)は、
前記シリンダ内壁(30)で少なくとも1種の窒素化合物を含む、
請求項
13から
24までのいずれか1項記載の
ピストンシリンダ装置(4)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は概して、シリンダ、およびシリンダ内で摺動するピストンを備えた装置に関する。特に本発明は、ガラスシリンダを有したそのような装置に関する。
【背景技術】
【0002】
機械工学では、ピストンシリンダ装置は広く普及している。この場合、典型的には、ピストンおよびシリンダの材料として金属が使用される。シリンダ内でピストンがシールされながら滑動することができるように、潤滑剤が使用される。
【0003】
特別な技術分野では、プラスチックも使用される。いくつかのプラスチックは、わずかな摩擦しか生じさせないので、潤滑剤を使用しない装置も可能であるという利点を有している。その一例は、薬剤を投与するためのプラスチック製注射器である。
【0004】
プラスチック製注射器の他に、ガラス製注射器も使用され、これはしばしば予め充填された注射器の形態でも使用される。予め充填可能な注射器は、従来の小瓶(バイアル)と使い捨て注射器とを組み合わせるものに対して、医薬品包装に関して複数の利点を有する。すなわち例えば、正確な薬剤投与量、無菌性の保証、緊急事態での時間節約、使い易さ、そしてとりわけ廃棄物の減少と環境汚染の低減である。予め充填された注射器は、通常、(a)取り付けられた針またはいわゆるルアーアダプタを有するシリンジ、(b)容器閉鎖の完全性を提供するもしくは保証するゴムガスケット、および(c)ガラスシリンダを通してガスケットを押し動かし、ひいては薬剤を投与するために使用されるプラスチック製ピストンロッド、の構成要素から成る3つの部分から成る器具として定義される。予め充填可能なガラス製注射器は、一次包装メーカーによって洗浄され、シリコーン処理され、滅菌され、包装される。したがって、すべての注射器は、しばしば無視される目に見えない第4の構成要素である潤滑剤も含むが、これは注射器機能と薬剤の安定性に対して大きな影響を有する場合がある。
【0005】
ガラス製注射器は、高い耐熱性を有しているので、簡単に殺菌することができるという利点を提供する。さらに、プラスチックとは異なり、気体に対する透過性は極めて低い。したがって、注射器内で薬剤を長期にわたって保管することもできる。一方、ガラスは脆い硬度の材料であり、十分に潤滑がなされていない場合には、ガラス粒子の剥離を伴う挟み込みまたは詰まりがすぐに生じる恐れがある。したがって、ガラス製注射器の内面には、摩擦を低減するコーティングまたは潤滑剤が施されることが公知である。今日では慣習的に、潤滑性は、制御されたシリコーン処理プロセスにより保証されており、このようなシリコーン処理プロセスを介して、顧客のその都度の要求にシリコーンプロファイルを個々に適合させることができる。通常、このためにシリコーンオイルが使用される。
【0006】
このような注射器のシリコーン処理の複数の側面が、予め充填された注射器としての使用に関して課題となっている。すなわち、特別な場合には、少量の未結合のシリコーンオイルもしくはシリコーン粒子でさえ、薬剤に対する影響は大きく、ひいては有効性を低下させてしまう。このことは特に、バイオテクノロジ医薬品に関しては、特定のタンパク質の凝集を招く可能性があるため、回避されなければならない。上記の理由(医薬品におけるシリコーン粒子の回避および高感度医薬品に対するシリコーンの完全な不使用)により、摩擦特性と容器の密封の完全性を維持しながらも、少なくともシリコーン含有量を大幅に減じること、もしくはシリコーンを完全に不使用とすることが望ましい。
【0007】
ガラス本体とガスケットとの機能的相互作用は、システム全体の効率を決定する要素であるので、医薬品の一次パッケージ媒体、具体的には注射器シリンダのシリコーン処理は、今日では、殺菌され、予め充填されるガラス製注射器の製造における極めて重要な側面である。このような関連で、シリコーン処理が不十分であっても過剰であっても、既に述べたような問題を引き起こす恐れがある。したがって、シリコーンオイルの量を大幅に減じながら、ガラス製注射器におけるシリコーンオイルの極めて均一な分布を、最新のアプリケーション技術を利用して達成するという1つの傾向がある。注射器内の遊離シリコーンオイル量を減じるさらなる手段は、焼付シリコーン処理(いわゆる、baked on silicone)と呼ばれるプロセスで、ガラス表面にシリコーンオイルを熱固定するというものである。シリコーンオイルを使用しない、もしくは潤滑剤を使用しないガラス本体(例えば注射器またはカープル)は、上述した欠点、および、高感度のバイオテクノロジ医薬品市場の恒常的な成長という観点から極めて重要である。バイオテクノロジ医薬品は、大きな技術的な手間と複雑な開発および製造方法で製造され、潤滑剤(例えば、シリコーンオイル)に極めて敏感に反応する医薬品(例えば、インスリン、ワクチン、抗体、血液製剤、ホルモン、サイトカイン)の重要なグループであるので、従来の注射器技術に対する課題が高まっている。
【0008】
プラスチック製注射器(COCまたはCOP)に関しては、これらの注射器のシリコーン処理を完全になくすために、特別に開発されたピストンガスケット上の特定のフッ素性ポリマコーティングによる潤滑性が既に利用されている。しかしながら、プラスチックとガラスの材料特性が大きく異なるため、このような適用は、ガラス表面に対しては部分的にしか転用できない。ガラス表面は、プラスチック表面よりも高いダイナミクスもしくは周囲の大気との相互作用を、表面反応の形態で受ける。このような観点から、その成分を滅菌状態に保ち、その安定性と視覚的透明性を、輸送と数年にわたる保管期間のもとでも保証するためには、予め充填されたガラス製注射器装置と類似の装置(例えばカープル)に対して特別な考慮が必要である。特に、ガスケット材料と注射器本体との間の摩擦は顕著であり得るので、ガスケットとガラスシリンダとの間の摩擦を、オイルまたはその他の潤滑剤を使用せずとも、使用までの保管期間にわたって安定して減じる必要性がある。
【0009】
米国特許第4767414号明細書には、表面のうちの少なくとも1つに潤滑膜を施工することにより摺動面間の静的および動的な摩擦を減じる方法が記載されている。この場合、低分子量のシリコーンオイルが表面のうちの1つに塗布される。シリコーンオイルと表面とはプラズマ処理される。
【0010】
米国特許出願公開第2004/0231926号明細書には、潤滑層を製造する方法が記載されており、この方法では、大気圧のもと、とりわけ大気圧プラズマを使用して、潤滑層が硬化される。シリコーンオイルベースの層の他に、パーフルオロポリエーテルベースの潤滑層も製造することができる。しかしながら、パーフルオロポリエーテルベースの潤滑層の始動時摩擦もしくは静摩擦は、硬化されたシリコーンオイル層と比較して高いことが示されている。さらに、大気圧処理、特に大気圧プラズマ処理では、ガスの、特にプラズマの反応生成物の、層への侵入が増大する恐れがある。
【0011】
国際公開第2011/029628号によりさらに、低圧グロー放電におけるシリコーンを含まない有機流体の架橋による、特に低い摩擦を有するガラス製注射器のためのシリコーン不使用の潤滑層を設けることが公知である。
【0012】
プラスチック製注射器でも、シリコーン潤滑層が使用される。このような潤滑層は例えば、米国特許出願公開第2012/277686号明細書または米国特許出願公開第2008/071228号明細書により公知である。
【0013】
少なくとも所定の作用物質のために、ガラスシリンダ上の潤滑層を有さずに、良好な潤滑特性を有するガラス製注射器を使用できるのが望ましい。これは、ガラスシリンダを有する別のピストンシリンダ装置のためにも有利である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の課題は、相応のピストンシリンダ装置と、このような装置のためのガラスシリンダと、を提供することである。この課題は、独立請求項の対象により解決される。本発明の有利な構成は、各従属請求項に記載されている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この課題を解決するために、本発明によれば、シリンダ内壁におけるピストンの摩擦を低減するために、ピストンシリンダ装置用のガラスシリンダを処理する方法であって、シリンダ内壁によって画定された内室内で、ガラスの表面エネルギを高め、これによりガラスと水との接触角を、
-シリンダ内壁のガラスに作用し、電界または電磁界を発生させるガス放電によって、または、
-ガラス表面へのオゾンの作用によって、
低減させる、ガラスシリンダを処理する方法が提供される。
【0016】
本発明の1つの実施形態によれば、ガス放電またはオゾンによる作用後に、シリンダ内面のガラスに水を付与する。
【0017】
特に好適には、本発明は、ガラス製注射器のために使用される。
【0018】
ガラスシリンダ内でのピストンの容易な運動を可能にする潤滑効果を得るために、摩擦係数は、これまで、水接触角を大きくする方向で変化されている。この場合、ガラスシリンダの表面は疎水性になる。同じく疎水性の摺動相手、この場合、ガスケットもしくはピストンは、わずかな力で良好に表面上を摺動することができる。このようなステップは、従来技術では例えば、ガラス表面のシリコーン処理により達成される。
【0019】
本発明によれば、親水性のガラス表面を形成することにより、逆の方法がとられる。表面のぬれ性により、水膜を形成することができ、ガスケットはわずかな力で、この水膜上を摺動する。
【0020】
水は、1つの実施形態によれば、ピストンシリンダ装置内に収容されている作用物質調整剤の水ではない。むしろ水の付与は一時的なものでしかない。典型的にはガラスシリンダには、水が付与された後、しばしば同じく水をベースとする、または少なくとも水を含む投与されるべき作用物質調整剤が充填されるまで、空の状態で中間保管される。しかしながら別の実施形態によれば、水の付与は、水を含む作用物質調整剤の充填によって行われてもよい。表面は、一時的な水の付与がなくても、作用物質調整剤が充填されるまでの長期間、親水性特性に関して安定を維持することができる。
【0021】
ガラス表面へのオゾンの作用によりガラスの表面エネルギを高める場合には、オゾンを好適には、以下のプロセス、すなわち、
酸素を含むガス内でのガス放電、
イオン化されたビームの照射、
UV照射、
のプロセスうちの少なくとも1つによって、発生させる。
【0022】
ガス放電は、本発明の好適な構成では、酸素を含むガス、特に純酸素内で、または酸素・窒素混合物または酸素・希ガス混合物のようなガス混合物内で、行われる。本発明により規定された水との接触角の低減を得るためには、空気もプロセスガスとして適していることが示された。
【0023】
特別な実施形態では、低圧ガス放電は行われない。むしろ、少なくとも100ミリバールのガス圧で、ガス放電が行われてよい。特に好適には、ガス放電は大気圧下で行われる。このようにして、ガラスシリンダのシールと排気を省くことができる。さらなる実施形態によれば、ガス放電は、高くとも10mbarの低圧のもとで行われる。適した圧力は例えば、0.3ミリバールである。
【0024】
コロナ放電の形態のガス放電が特に適している。このような放電により、大気圧下でも処理を実施することができ、この場合、ガラスシリンダの内面における表面エネルギの均一な調節が行われる。コロナ処理の変化態様では、オゾンを発生させることもできる。オゾンはさらに、プラズマ放電のようなガス放電においても、またはUV光の入射によっても発生させることができる。
【0025】
さらに好適な実施形態によれば、ガス放電は、プラズマ処理もしくはプラズマの発生を含む。
【0026】
プラズマ処理は、本発明の範囲では、放電によってプラズマが形成される、ガス放電の特別な形態と言われる。プラズマ処理のために、プラズマの形態のガス放電を発生させる交番電磁場を使用することができる。適切な交番電磁場は、RF磁場、HF磁場、マイクロ波フィールドである。一般的に、ガス放電の概念は、この開示の範囲では、直流電圧フィールドにおける放電に限定されない。
【0027】
水の付与に関しては様々な可能性がある。例えばガラスシリンダを水ですすぐことができる、または水浴に浸すことができる。さらなる可能性は、噴霧または超音波霧化である。この方法の好適な実施形態によれば、水の付与は、ガラスシリンダの内室内への水蒸気の導入を含む。これは、空にした後に残っている水を除去するための乾燥ステップを省くことができるという利点を提供する。さらに、水蒸気の供給により、水中に溶解した物質によるガラス表面の汚染を回避することができる。特に好適には、水で富化された空気の形態の水蒸気が供給される。
【0028】
ガラス表面は、製作され、通常の大気条件下で保管された後、特に空気中で一定期間経過後、典型的には20°~60°の接触角を伴う表面エネルギを有する。この接触角は、本発明の方法により、著しく低下されて、これにより表面は親水化される。
【0029】
この場合、本発明によれば、特に、ピストンシリンダ装置用のガラスシリンダが製作可能であり、このガラスシリンダでは、シリンダ内面の表面が、ガラスシリンダのガラスによって形成され、この表面と水との接触角は15°よりも小さい。すなわちガラスシリンダは、ガラス自体によって表面が形成されるので、公知のガラス製注射器とは異なり、コーティングされていない。
【0030】
基本的には、ソーダ石灰ガラス、アルミノケイ酸塩ガラス、ホウケイ酸ガラス、石英ガラス、様々なガラスセラミック等、あらゆる種類のガラスを使用することができる。特に適しているのは、ホウケイ酸ガラスである。
【0031】
本発明によりガス放電により得られるような親水化の効果は、水の付与により安定化させることができる。ガス放電の作用に続く水分子とのガラス表面の反応により明らかに、表面の反応中心部が水と反応し、これにより飽和される。これにより、他の反応相手との反応は行うことができず、またはいずれにせよ行うのは困難である。好適には、ガス放電終了後60分以内に付与が開始される。このような付与は、特に作用物質調整剤の充填を含んでいてもよい。
【0032】
J. Abenojar他による研究、文献「International Journal of Adhesion & Adhesives 44 (2013) 1-8」により、プラズマフレアによるガラス表面のプラズマ処理により、非架橋酸素に対して相対的に架橋酸素が高められることが明らかである。相応の効果が、ガラスシリンダ内部で発生させられるガス放電、プラズマ処理、UV処理、またはオゾン処理においても観察されることを前提とする。付加的に、大気からガラス表面に堆積したC含有化合物は、破壊または断片化される、もしくはガラス表面のシラノール基への結合が破壊され、次いで空気流/対流を介して運び去られる。
【0033】
UV光またはオゾンによるガラスの表面活性化では、特に以下のことが行われる: UV光子は、高いエネルギに基づき、ガラスの分子ネットワーク内の化学結合を破壊することができる。開かれた結合個所は、できるだけ早く再び化学的に安定した状態を達成しようとする。このために反応相手としては、例えば大気からの酸素、または特にUV入射の際に周囲の酸素から形成され得るオゾンが使用される。開かれた結合部は、そこから形成された原子と基から満たされ、ガラス表面に新たな化合物が生じる。これにより表面は高い極性の特徴を含み、このことは、表面エネルギに、ひいては水に対する接触角にも作用する。
【0034】
したがって、本発明の実施形態によれば、シリンダ内面の表面において、非架橋酸素に対する架橋酸素の比は、ガラスの内部における非架橋酸素に対する架橋酸素の比の値よりも高い。本発明のさらなる実施形態によれば、シリンダ内面の表面において、シリコーンに対する酸素の比は、ガラスの内部におけるシリコーンに対する酸素の比の値よりも高い。表面エネルギの極性の割合の上昇をもたらすこの効果も、上記の記事で説明されている。
【0035】
T. Ishibe他による文献「Absorption of nitrogen dioxide and nitric oxide by soda lime」(British Journal of Anaesthesia 1995; 75:330-333)によりさらに公知であるように、一酸化窒素NOと、二酸化窒素NO2はガラスによって吸収され、この場合、NOの吸収は、NO2が同時に存在する場合にのみ起こる。両物質は、窒素と酸素を含むガス内でのガス放電の際に、すなわち特に、空気の存在下でのガス放電でも生成される。したがって、本発明のさらなる実施形態によれば、シリンダの内面におけるガラスは、表面にまたは表面近くに窒素酸化物を、またはより一般的には窒素化合物を含む。
【0036】
上述した特徴を有し、本発明により製造可能なガラスシリンダを使用して、ピストンシリンダ装置を製作することができ、このピストンシリンダ装置は、ガラスシリンダと、このガラスシリンダ内に装着される、ガスケットとも呼ばれるピストンと、を有していて、このピストンは、ガラスシリンダのガラスに直接沿って摺動し、ピストンの少なくとも摺動面はプラスチックにより形成されており、摺動面のプラスチックは、ガラスシリンダのガラスによって形成する、シリンダ内壁の表面よりも大きな接触角を水に対して有している。典型的には、その差の大きさは、ピストンの摺動面は疎水性として特徴付けることができ、摩擦相手としてのガラスは親水性として特徴付けることができるほどのものである。
【0037】
特に、摺動面のプラスチックと水との接触角と、シリンダ内壁と水との接触角と、の差は、少なくとも60°であってよく、好適には少なくとも70°であってよい。大きな接触角差により、そうでなければ使用されるシリコーンオイルのような潤滑剤を必要とせずとも、良好な潤滑特性が達成される。さらなる態様によれば、本発明は、ピストンの摺動面とシリンダの内面の接触角の一定の規定された差を、この規定された差に達するようにガラス表面の接触角が減じられるまで、ガス放電、プラズマ、またはオゾン処理を実施することにより、目標通りに調節するように使用することができる。さらにこれにより、シリンダの長手方向面にわたって均一な接触角が得られる。
【0038】
一般的に、親水性のガラス表面を製作すべき場合には、上述した方法を常に使用することができる。これは、円筒状の形状体に限定されるものではなく、特別な実施形態において、扁平な形状であってもよく、この扁平な形状は、特別な実施形態では、次いで、例えば薄いガラスの巻き上げにより、成形されてもよい。
【0039】
好適には、ガラス製注射器の形態で形成されているピストンシリンダ装置では、ピストンが引き戻された状態で、液状の作用物質調整剤を収容し、保存することができる。したがって、このようにして、予め充填された注射器が提供される。
【0040】
インスリン、ワクチン、抗体、血液製剤、ホルモン、サイトカインのような高分子量の複雑な作用物質、ならびに一般的なタンパク質ベースの作用物質では、ピストンとシリンダとの間の摩擦を低減させるためにシリコーンを使用する場合、シリコーン処理された表面で各作用物質が凝集する危険、または医薬品中に溶解したシリコーン粒子が形成される恐れがある。同じことは、別の有機潤滑剤の場合にも当てはまる。本発明による、特にシリコーン不使用の、または潤滑剤不使用のガラス製注射器によれば、このような問題は解決され、または少なくとも凝集の危険は明らかに減じられる。したがって、本発明の好適な構成では、ピストンシリンダ装置はガラス製注射器の形態で設けられており、このガラス製注射器内には、少なくとも1000グラム/モルの分子量を有する作用物質を含む液状の作用物質調整剤が収容されている。
【0041】
次に本発明を、実施例につき、添付の図面を参照しながら詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【
図1】コロナ放電によりガラスシリンダを処理する装置を示す図である。
【
図2】コロナ放電または別の形態のプラズマによりガラスシリンダを処理する別の装置を示す図である。
【
図3】未処理のガラス製注射器と、ガス放電により処理された注射器の様々な長手方向位置における接触角の測定値を示すグラフである。
【
図5】イオン化されたビームのための放射源によってガラスシリンダを処理する装置を示す図である。
【
図6】未処理のガラス製注射器(参照例)と、本発明により処理された注射器の様々な長手方向位置における接触角の測定値を示すグラフである。
【
図7】未処理のガラス製注射器(参照例)と本発明により処理された注射器とに関するスティック・スリップ摩擦力の測定値を示すグラフである。
【
図8】コロナ放電により処理されたガラス製注射器の接触角の測定値を様々な保管期間について示す棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0043】
図1に示した例に限定されることなく、一般的に、本発明の1つの態様によれば、シリンダ内壁に沿ったピストンの摩擦を減じるために、ピストンシリンダ装置用のガラスシリンダ3を処理する装置7が設けられており、この装置7は、ガラスシリンダ3内でコロナ放電を発生させるように形成されている。この装置7は、高周波発生器13と、高電圧変成器14と、電極ステーション15と、を含む。
【0044】
高周波発生器13は、出力信号を生成し、その周波数は好適には抵抗に応じて自動的に、15~25kHzの範囲で適合され、ひいては処理出力を最適化する。装置7の電極ステーション15は、少なくとも1つの電極150と、1つの対応電極151と、を含む。電極は、各用途もしくはガラスシリンダ3の様々な形態に、好適には特別に適合されてもよい。機能化されたコロナ放電は、大気圧下で空気により発生させることができる。電極150は細長く、ガラスシリンダ3の軸方向で導入されている。対応電極151は管状で、ガラスシリンダ3を取り囲んでいる。これにより、ほぼ均一な電界分布が形成されるので、ガラス2から成る内面30の表面はコロナ放電に均一にさらされる。コロナ放電の効果を特に均一に得るためには、コロナ放電中に、ガラスシリンダ3と、電極150,151の装置と、の相対運動を実施することもできる。
【0045】
図示した例では、ガラスシリンダ3は、ガラス製注射器1用のシリンジである。このために、ガラスシリンダ3は、ピストン5のための滑動面としての、シリンダ内室31を画定するシリンダ内壁30と、典型的には、ルアーコーン32として形成される、注射針のための保持エレメントと、を有している。典型的にはこのようなガラスシリンダ3は、ピストン導入開口34にさらに1つのフランジ33も有している。放電が、空気中で行われないならば、かつ/または大気圧下では行われないならば、少なくとも部分的に内室31を排気するために、ガラスシリンダ3はこのフランジ33でもシールすることができる。
【0046】
コロナ放電は、本発明の好適な実施形態である。プラズマ処理や特別なコロナ放電のようなガス放電の他に、本発明によりガラス2の表面を変化させる別の方法もある。これは特に、ガラス2と反応する基を生成する一般的な方法であってよい。したがって、酸素含有ガスにおけるガス放電によって、またはイオン化されたビーム、例えば特に紫外線の照射によっても、例えば周囲の酸素からオゾンを発生させることができる。装置7は、1つの実施形態によれば、事前にガス放電によって処理された、ガラスシリンダ3の内面30に水を付与するための付与装置8を含む。好適には、高い含水率を有する空気を提供するために、空気を水分で富化する装置9が設けられている。供給装置10によって空気はガラスシリンダの内室31内に導入される。
図1に示した例とは異なり、付与装置8が別個の付与ステーションを含んでいてもよい。本発明のこのような実施形態では、ガラスシリンダは最初に内面30をガス放電により処理する処理ステーションに供給され、次いで水を付与する付与ステーションに相前後して供給される。
【0047】
しかしながら、ガラス表面の親水性は、プラズマ放電またはコロナ放電のような本発明によるガス放電による処理後、一時的な付与がなくても安定を維持することも示された。したがって、1つの実施形態によれば、付与装置を省くこともできる。
【0048】
図2に示した実施形態によれば、国際公開第2012/097972号により公知の装置の変化態様を成す本発明による装置7を使用することができる。装置7は少なくとも1つのガラスシリンダ保持体15を含み、このガラスシリンダ保持体15は、1つの、好適には複数の保持室16を備え、この保持室は、処理すべきガラスシリンダ3を導入可能な少なくとも1つの開放端部17を有しているので、ガラスシリンダ3の開口は、保持室16の開放端部を向いている。さらに、装置7は、摺動可能な閉鎖エレメント18を有していて、閉鎖エレメント18は、ガラスシリンダ保持体15と共に、昇降装置19を介して導入可能であるので、昇降装置19による閉鎖の際は、ガラスシリンダ保持体15への閉鎖エレメント18の移動により、保持されるガラスシリンダ3は、ガラスシリンダの開口で、好適にはそのピストン導入開口34で、外部の大気圧に対してシールされる。さらに装置7は、この実施形態では、外部の大気圧に対して隔離されたガス放電、特にコロナ放電、または、保持されシールされたガラスシリンダ3の内部に電界または電磁界を生成することができる2つの電極による別の形態のプラズマを発生させる装置6を含む。この場合、
図1に示した例と似たように、電極150の1つは、ピストン導入開口34から軸方向にガラスシリンダ3内に導入される内部電極である。そしてガラスシリンダ保持体15は、対応電極を形成する、または保持することができる。
【0049】
ガス放電、特にコロナ放電、または例えばO2、O2/Ar、またはO2/N2雰囲気中でプラズマを発生させる装置6は、閉鎖エレメント18における気密な接続部を介して内室31を排気するための装置20と、少なくとも1つの処理工具と、を含み、この処理工具は、容器の表面処理の少なくとも1つの部分ステップのために、ガラスシリンダ保持体15の開放端部17と共に導入可能である。特別な実施形態では、排気は完全に行われず、または排気後に、プロセスガス容器23からプロセスガスが、所望のプロセスガスが供給され、これによりガス放出時のガス圧は少なくとも100ミリバールである。
【0050】
別の好適な実施形態では、排気は、低圧範囲まで行われ、これにより表面処理中のガス圧は高くとも10mbar、しかしながら好適には少なくとも0.3mbarである。
【0051】
装置7はさらに、ガス放電、特にコロナ放電または別の形態のプラズマを発生させる装置6とは空間的に分離された付与装置8を有しており、この付与装置によって、所定量の水がガラスシリンダ内壁30に付与可能である。内部に保持されたガラスシリンダを含むガラスシリンダ保持体は、搬送装置24によって、ガス放電、特にコロナ放電または別の形態のプラズマを発生させる装置6から、オプションとしての付与装置8へと搬送される。付与装置8のためにも、図示したように、付与工具を、ガラスシリンダ保持体15およびこの保持体内に保持されたガラスシリンダ3と共にガイドするための、昇降装置19が設けられていてよい。付与装置8は、
図1の実施形態の場合と同様に、空気を水で富化する装置9を含む。十分な空気が、ガスプローブ91を介してガラスシリンダ内に導入される。
【0052】
装置6は、コロナ放電を発生させるためにも、および例えばグロー放電のような別の形態のプラズマを発生させるためにも、形成することができる。
【0053】
この場合、ガス放電またはプラズマによる、またはオゾンおよびオゾンに付随するガラスの活性化による内面30の処理の方法ステップは、場合によっては結果の改善を得るために、任意に繰り返すこともできる。発展形態では、水の付与が実施され、この場合、活性化およびそれに続く、好適には水(WFI)で富化された清浄空気の形態での付与が、少なくとも2回、相前後して実施される。さらに、所定の使用例で、方法ステップを互いに無関係に、ワンステッププロセスとして実施することも考えられる。
【0054】
ガス放電は、出力と処理継続時間に関して制御することができ、場合によっては再調整することができる。表面の滑り係数は、ソース出力ならびにこの方法ステップにおける滞留時間を介して、各容器に合わせて所望のように調節することができる。これにより、表面特性を、後に使用すべきガスケットの特性にも所望のように適合させることができる。本発明による処理においては、層剥離または粒子形成の危険はなく、これにより医薬品との相互作用ならびに患者に対する汚染リスクは最小限になる。
【0055】
本発明のさらなる利点は、この方法および装置を様々な包装材料に対して全般的に使用できることである。本発明による方法は、標準的なシリコーン処理もしくは焼付シリコーン処理の代わりとなる安価かつ確実な選択肢としてさらに付加的に使用することもできる。ガラス表面の形態の滑動面は、第1のステップで高周波の高電圧放電によって洗浄され、活性化される。第2のプロセスステップが続くことができ、第2のプロセスステップでは、第1の滑動面に水が、好適にはWFI水が、蒸気の形態で、接触させられる、もしくは付与される。富化空気を付与する場合は、水の量は、付加的な乾燥ステップを省くことができるほどわずかである。しかしながら水の付与は、作用物質調整剤の充填によって行われてもよい。
【0056】
本発明により得られるガラス2と水との低い接触角の他に、シリンダ内壁30上の表面エネルギの均一な形成も利点である。表面エネルギが変化すると、摩擦相手に対する摩擦抵抗も変化する。これは、場合によっては押す力がかけられた状態でピストンがブロックされる程になる場合がある。ピストン5の移動の際に単に変化する抵抗でさえ、例えば、これにより、
図4に示したような、ガラス製注射器1による薬剤の正確な投与が困難となるならば、極めて不都合となり得る。したがって本発明の発展形態によれば、ガス放電、プラズマ処理、UV処理、またはオゾン処理によって、水との接触角を低下させるだけでなく、ガラスシリンダの軸方向に沿ったガラス2と水との接触角は、その大きさがガス放電、プラズマ処理、UV処理、またはオゾン処理によって減じられるバリエーションを有する。本発明によるガラスシリンダ3はこの場合、全般的に、ガラスシリンダ3の端部から端部までの長手方向での接触角のバリエーションは5°未満であることを特徴とする。
【0057】
図3のグラフは、これに関する一例を示している。このグラフでは、水とガラス2の接触角の測定値が、未処理のガラス製注射器1と、ガス放電により処理されたガラス製注射器1と、に関して4つの長手方向位置で記載されている。この場合、位置1は、例えば
図4に示したような、ガラス製注射器1のピストン導入開口34にある。他の位置2、3、および4は、位置1から、1.3cm、2.3cm、3.3cm、もしくは4.3cmの間隔を置いて位置している。
【0058】
四角で示した測定値は、未処理のガラス製注射器1で測定された。本発明により内面でガス放電により処理された測定値は丸として示されている。黒丸および黒四角は、試験開始時の測定値である。この最初の測定後、ガラス製注射器1は4日間保護ガス雰囲気内で保管され、その後さらに測定が実施された。未処理の注射器1および本発明による注射器のこの測定値はそれぞれ、塗りつぶされていないマークで、すなわち白四角(未処理の注射器)および白丸(処理された注射器)で示されている。
【0059】
接触角の測定は、DIN規格55660による液滴法(sessile drop method)によって、以下のような基準からのわずかな偏差をもって実施された。測定は、室温22℃で、37%の相対空気湿度(基準は23℃で50% rH)で行われた。表面の湾曲のために、規定された2マイクロリットルではなく、1.5マイクロリットルの体積の液滴が使用された。
【0060】
測定値により一目瞭然であるように、ガス放電による本発明による処理は、水との接触角を10°未満に低減させている。4日間の保管期間を越えて効果は維持されていることも特に有利である。未処理の注射器の場合とは異なり、ガラスシリンダ3の長手方向に沿った接触角の変動は極めて小さい。未処理の注射器では、接触角は、ピストン導入開口34で最大であり、他方の端部に向かって、すなわちルアーコーンに向かって低下している。納品時の注射器と4日間保管された注射器との差は約15°である。これにより既に角度の変動は、本発明により処理されたガラスシリンダ3の接触角よりも大きい。このような変動は図示した例では5°未満である。例にも示したように、3°未満の変動も一般的には可能である。
【0061】
本発明による例の低い接触角は、一度の処理で既に得られた。概して、本発明の別の実施形態によれば、ガス放電を引き起こし、水を付与するステップは少なくとも1回繰り返されてもよい。
【0062】
図4には、ガラス製注射器1の形態の本発明によるピストンシリンダ装置4の好適な使用が示されている。特にガラス製注射器1は、予め充填された注射器として提供され、この場合、ピストン5が引き戻された状態で、ガラスシリンダ3の内室31内に、液状の作用物質調整剤11が収容されている。ガラス製注射器1には、既に、ルアーコーンに取り付けられたカニューレ35が備えられていてもよい。例えばカニューレ35は貼り付けることができる。カニューレ35の取り付けは、例えば、国際公開第2012/034648号に記載されたような方法によっても行うことができる。この場合、カニューレはルアーコーン内に溶融されて取り付けられるので、この場合、接着を行わないことによりプラスチックは省かれる。上記文献の開示事項は、放射により支援されるガラスの加熱方法およびカニューレの溶融取り付けの方法に関してすべて、本出願の対象でもある。
【0063】
本発明によるガラス製注射器1の特殊性は、ピストン5の摺動面50が、ガラスシリンダ3のガラス2に直接沿って摺動し、すなわち潤滑剤層が、特にシリコーンを含む潤滑剤層が設けられていない、ということにある。この場合、液状の作用物質調整剤は、処理されたガラス2の低い接触角により、摺動面50が沿って滑動する表面上に液状膜を形成する。ピストン5の摺動面50は好適にはプラスチックから、特に、本発明により処理されたガラス表面よりも大きな接触角を水に対して有しているプラスチックから成っている。摺動面50のプラスチックと水との接触角と、シリンダ内壁30と水の接触角と、の差は、この場合、少なくとも60°であり、好適には少なくとも70°である。本発明の1つの実施形態によれば、摺動面のプラスチックは、水との接触角が少なくとも70°、好適には少なくとも80°であるように選択されている。
【0064】
上述したように、摺動面50の所定の材料において、ガス放電、プラズマ処理、UV処理、またはオゾン処理の継続時間および/または強度により、ガラス2の接触角を、所望の差が得られるまで低下させることで、所定の接触角差を得ることもできる。
【0065】
摺動面50は、ピストン5のその他の部分およびプランジャ37と一体であってよい。場合によっては、例えば、少なくともシールの表面が、ハロゲン化ポリマ、好適にはフッ素性ポリマを有するガスケットもしくはピストン5を使用することにより、別のプラスチックを摺動面のために使用することができる。例えば、所定の投与すべき作用物質のために望ましいこのような形式のガスケットは、本発明による注射器との関連で、摺動特性およびシール特性に関して特に好適であることが示されている。
【0066】
シリコーン含有の滑動膜の場合のように、シリコーンの影響下で複雑な作用物質が凝固する危険がないので、本発明は、このような作用物質のためにも特に適している。特に、このような利点は、分子量が、1モルあたり1000グラムである作用物質のもとで得られる。
【0067】
本発明は図示した特別な例に限定されるのではなく、むしろ多様な形式に変化可能であることは当業者には明らかである。したがって、
図4の例では、不動に取り付けられたカニューレ35を有する注射器が示されている。しかしながらカニューレ35は、使用時に初めて装着することもできる。カープルも本発明の範囲内の注射器とみなされる。
図5には、イオン化された放射のための、特にUV放射器27のための、放射源26によってガラスシリンダ3を処理する装置7の部分が示されている。この装置7は、この実施例では、例えば185/254ナノメートルの波長を有した管を備えたUV低圧放射器の形態のUV放射器27を含む。ガラスシリンダ3の、特にガラス製注射器1のUV照射により、ガラスシリンダの内室にオゾンが発生し、このオゾンはガラスシリンダ3の内壁に所望の時間さらされる。処理は、ガラス2の表面の内側または外側に配置されてよい。オゾンを介して開始される表面活性化のこの方法は、この場合、結果の改善を得るために、任意に繰り返されてもよい。表面の滑り係数は、この方法ステップにおける滞留時間を介して、各容器、ガラス2、ガスケットもしくはピストン5、およびその他の対象物に合わせて所望のように調節することができる。本発明による処理においては、層剥離または粒子形成の危険はなく、これにより医薬品との相互作用ならびに患者に対する汚染リスクは最小限になる。
【0068】
本発明のさらなる利点は、この方法および装置を様々な包装材料に対して全般的に使用できることである。本発明による方法は、標準的なシリコーン処理もしくは焼付シリコーン処理の代わりとなる安価かつ確実な選択肢としてさらに付加的に使用することもできる。
【0069】
オゾンは、例えばピストン5とは分離された反応室内での照射による、酸素含有ガスのイオン化によっても生成することができ、次いでオゾン含有ガスは反応室からピストン5内へと案内される。
【0070】
ガス放電による処理を行う実施形態の場合のように、オゾンの作用による親水化は、水、例えば水蒸気による後処理によって安定化させることができる。
【0071】
本発明による方法は、輸送および数年にわたる保管を含む長期的に安定した表面処理を可能にする。
【0072】
以下に、ガラス製注射器1のシリンダ内壁30の本発明による3例の処理を記載する。
【0073】
実施例1によれば、空気中のコロナ放電によりガラス製注射器1のシリンダ内壁30の表面改質が行われる。このために、
図1に示した装置7内でガラス製注射器1を真鍮製の対応電極151内に取り付け、アルミニウム製の電極150をガラスシリンダ3内に導入する。3kVの実効電圧と15kHzの周波数のもとでコロナ放電を実施する。継続時間は変化させることができ、この例では1秒である(0.1~30秒でテストされた)。
【0074】
実施例2によれば、UV/オゾンによりガラス製注射器1のシリンダ内壁30の表面改質が行われる。このために、
図5に示した装置7内で、ガラス製注射器1を、UV放射器26のUV放射およびオゾンに、1秒~10分の時間さらす。具体例では、処理継続時間は15秒であった。
【0075】
実施例3によれば、酸素/プラズマによりガラス製注射器1のシリンダ内壁30の表面改質が行われる。このために、
図2に示した装置7内にガラス製注射器1を位置決めし、電極150をガラスシリンダ3の中空室内に配置し、ガラス製注射器1を密封する。反応ガスは、電極150自体によって導入される。この場合、酸素圧は0.3mbarに調節し、プラズマは、60kHzの周波数および10mAの電流強度のもとで10秒間点火させる。
【0076】
図6には、未処理のガラス製注射器(参照例)、空気中のコロナ放電によって1秒間処理されたガラス製注射器1(実施例1)、UV/オゾンによって15秒間処理されたガラス製注射器1(実施例2)、および酸素/アルゴンにより10秒間処理されたガラス製注射器1(実施例3)の、4つの異なる長手方向位置における接触角の測定値が示されている。この場合、各ガラス製注射器1のピストン導入開口34における(つばとも呼ばれる)フランジからの距離が記載されている。この場合、第1の位置は、フランジ33から2mmの間隔を置いている。その他の位置は、ピストン導入開口34におけるフランジ33から10mm、18mm、および26mmの間隔で示されている。接触角の測定は、
図3につき上記説明した方法で行われた。
【0077】
図6により明らかであるように、コロナ放電により処理されたガラス製注射器1のシリンダ内壁30の接触角は10°未満である。
【0078】
UV/オゾンにより処理されたガラス製注射器1のシリンダ内壁30の接触角は、
図6によれば同じく10°未満の値にまで低下しており、注射器長さにわたって均一である。
【0079】
図6に示されたように、酸素/プラズマにより処理されたガラス製注射器1のシリンダ内壁30の接触角も注射器長さにわたって均一であって、10°未満である。
【0080】
図7は、未処理のガラス製注射器(参照例)と本発明により処理されたガラス製注射器1とに関するスティック・スリップ摩擦力の測定値を示すグラフである。
図7により明らかであるように、(実施例1による)空気中のコロナ放電により1秒間処理されたガラス製注射器1で測定されたスティック・スリップ摩擦力は、未処理の参照例の注射器よりも明らかに小さく、これは均一かつ超親水性の表面に起因するものである。
【0081】
コロナ放電後に、ガラス製注射器を12週間、室温条件で保管し、スティック・スリップ摩擦を再度測定した。値は、
図7に示したように、処理したばかりの注射器に匹敵するものである。
【0082】
図7によれば、(実施例2による)UV/オゾンにより15秒間処理されたガラス製注射器1のスティック・スリップ摩擦力も、未処理の参照例の注射器より明らかに低い。
【0083】
同様のことは、
図7に示したように、(実施例3による)酸素/アルゴンにより10秒間処理されたガラス製注射器1にも当てはまる。
【0084】
処理の長期的安定性を検査するために、(実施例1により)ガラス製注射器1をコロナ放電により処理し、次いで、室温で保管し、1日、7日、28日、6週間、9週間、12週間、17週間、21週間、29週間の保管期間の時間間隔後に接触角を測定した。
図8は、コロナ放電により10秒間処理されたガラス製注射器の接触角の測定の測定値を示す棒グラフであって、4つの位置のグループごとに上記保管期間に関して記載されている。
【0085】
図8により明らかであるように、29週間までの長い保管期間にわたって接触角は安定を維持している。これは、約8日後に、様々なタイプのガラスの接触角が、再び一定の値にまで上昇した文献(S. Takeda、J. Non Cryst Solids、(249)199,41-46)に記載されたものよりも明らかに長い。
【符号の説明】
【0086】
1 ガラス製注射器
2 ガラス
3 ガラスシリンダ
4 ピストンシリンダ装置
5 ピストン
6 ガス放電を発生させる装置
7 ガラスシリンダ3を処理する装置
8 付与装置
9 空気を水で富化する装置
10 供給装置
11 作用物質調整剤
13 高周波発生器
14 高電圧変成器
15 ガラスシリンダ保持体
16 保持室
17 16の開放端部
18 閉鎖エレメント
19 昇降装置
20 31を排気する装置
23 プロセスガス容器
24 搬送装置
26 イオン化された放射のための放射源
27 UV放射器
30 シリンダ内壁
31 3の内室
32 ルアーコーン
33 フランジ
34 ピストン導入開口
35 カニューレ
37 プランジャ
50 5の摺動面
91 ガスプローブ
150 電極
151 対応電極