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  • 特許-中空糸膜モジュール 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-17
(45)【発行日】2024-05-27
(54)【発明の名称】中空糸膜モジュール
(51)【国際特許分類】
   B01D 63/02 20060101AFI20240520BHJP
   B01D 69/00 20060101ALI20240520BHJP
   B01D 71/34 20060101ALI20240520BHJP
   B01D 71/68 20060101ALI20240520BHJP
【FI】
B01D63/02
B01D69/00
B01D71/34
B01D71/68
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2023115081
(22)【出願日】2023-07-13
【審査請求日】2023-12-12
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】507365204
【氏名又は名称】旭化成メディカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】大石 輝彦
【審査官】相田 元
(56)【参考文献】
【文献】特開昭58-081044(JP,A)
【文献】国際公開第2015/099015(WO,A1)
【文献】特開2015-163398(JP,A)
【文献】特開2010-207583(JP,A)
【文献】特開2008-093228(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/22
B01D 61/00-71/82
C02F 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2つのポートを有するハウジングと、
前記ハウジング内に配置された中空糸膜と、
前記ハウジングの前記ポートに取り付けられ、前記ハウジングと液体流通ラインとを接続する滅菌作業を不要とした無菌コネクターであって、少なくとも2つ以上の無菌コネクターと、
を備え、
前記中空糸膜の孔がアルコール水溶液からなる膜孔保持剤で保持された状態で、且つ前記ポートと前記無菌コネクターとが一体化又は接続した密閉状態で滅菌されており、
前記アルコール水溶液中のアルコール濃度が16重量%以上20重量%以下であり、
前記中空糸膜が、孔径が0.05μm以上2μm以下の精密濾過膜であり、
前記アルコールがエタノールであ
前記中空糸膜が、ポリフッ化ビニリデン系ポリマー又はポリスルホン系ポリマーからなる、
中空糸膜モジュール。
【請求項2】
前記中空糸膜が、孔径が0.3μm以上1μm以下の精密濾過膜である、請求項1に記載の中空糸膜モジュール。
【請求項3】
滅菌後の前記膜孔保持剤のpHが中性である、請求項1に記載の中空糸膜モジュール。
【請求項4】
前記無菌コネクターが無菌接続カップリング可能コネクターである、請求項1に記載の中空糸膜モジュール。
【請求項5】
前記ポートと接続される前記無菌コネクターとの距離が0mm以上100mm以下である、請求項1に記載の中空糸膜モジュール。
【請求項6】
前記ポートと一体化又は接続される前記無菌コネクターが少なくとも2種類以上である、請求項1に記載の中空糸膜モジュール。
【請求項7】
前記ハウジング、前記ポート、前記中空糸膜、及び前記無菌コネクターが、耐滅菌性及び耐アルコール性を有する、請求項1に記載の中空糸膜モジュール。
【請求項8】
前記滅菌が放射線滅菌である、請求項1に記載の中空糸膜モジュール。
【請求項9】
前記放射線滅菌がγ線滅菌である、請求項に記載の中空糸膜モジュール。
【請求項10】
前記中空糸膜の膜面積が3.5m2以上である、請求項1に記載の中空糸膜モジュール。
【請求項11】
透水性能が1,000mL/(m 2 ・hr・mmHg)以上である、請求項1に記載の中空糸膜モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空糸膜モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、選択的な透過性を有する膜を利用する技術がめざましく進歩し、これまでに気体や液体の分離フィルター、医療分野における血液透析器、血液濾過器、血液成分選択分離フィルター等の広範な分野での実用化が進んでいる。
【0003】
該膜の材料としては、セルロース系(再生セルロース系、酢酸セルロース系、化学変性セルロース系等)、ポリアクリロニトリル系、ポリメチルメタクリレート系、ポリスルホン系、ポリフッ化ビニリデン系、ポリエチレンビニルアルコール系、ポリアミド系等のポリマーが用いられてきた。
【0004】
これらのうちポリスルホン系ポリマーは、その熱安定性、耐酸、耐アルカリ性に加え、製膜原液に親水化剤を添加して製膜することにより、血液適合性が向上することから、半透膜素材として注目され研究が進められてきた。
【0005】
一方、膜を接着して医薬品を製造するモジュールを作製するためには膜を滅菌させる必要があるが、有機高分子よりなる多孔膜、なかでもポリスルホン系及びポリフッ化ビニリデン系等の疎水性ポリマーからなる中空糸膜は、放射線滅菌させると膜構造の変化により滅菌前に比べ透水量が低下することが知られている。そのため、膜は常に湿潤状態か、水に浸漬させた状態で取り扱う必要があった。
【0006】
この対策として従来からとられてきた方法は、滅菌前の中空糸膜の空孔部分にグリセリン等の低揮発性有機液体を詰めておくことであった(例えば特許文献1参照)。しかしながら、低揮発性有機液体は、一般に高粘度なため、洗浄除去に時間がかかり、中空糸膜モジュールを滅菌後にユーザーサイドで洗浄しても微量ではあるが低揮発性有機液体由来の溶出物等(低揮発性有機液体と化学反応して生成した様々な誘導体)がモジュール封入液中にみられるという問題があった。
【0007】
さらに、滅菌前に膜を常に湿潤状態か、水に浸漬或いはグリセリン等の低揮発性有機液体を多孔膜中の空孔部分に詰めた状態で取り扱うと、滅菌までの間に菌が繁殖するため、静菌性が好ましくなかった。
【0008】
低揮発性有機液体を用いずに防菌性能(静菌性)を発揮させる方法として、特許文献2には、低揮発性有機液体の代わりに塩化カルシウム等の無機塩からなる水溶液を用いた方法が示されているが、水溶液を洗浄除去する必要は依然としてある。また、微量であるとしても残存した無機塩が医薬品を製造に与える悪影響が危惧される。
【0009】
一方、血液製剤からウイルスを除去するウイルス除去器や、透析時等に血液から不要物を除去する血液浄化器等には、従来、血液製剤等の液体を通過させて当該液体から所定の物を分離する液体分離器が用いられている。液体分離器は、例えばハウジングの内部に中空糸が設けられ、ハウジングに形成された一次側のポート(通液口)から液体を流入させ、当該中空糸によって特定物を分離し、当該液体を二次側のポートから流出させている。
【0010】
一般に、上述のような液体分離器(中空糸膜モジュール)は、各ポートに例えばコネクターやバルーン等が取り付けられた状態で滅菌処理された後、キットとして出荷、搬送等されている。滅菌処理は、例えばハウジング内に水を充填し、各ポートを閉鎖した状態で液体分離器を滅菌袋に入れて高温、高圧下に所定時間さらす高圧蒸気滅菌により行われる(例えば特許文献3参照)。水を充填し、各ポートを閉鎖した状態(ただし、バルーン等により、圧力変化を吸収したりガス透過を許容したりできる状態)で湿熱滅菌を行うのは、滅菌処理によるハウジング内の乾燥を防止し無菌状態を維持するためであり、また液体分離器の使用時まで中空糸の濡れ性を維持して、使用開始時から中空糸の分離性能を十分に発揮させるためである。高圧蒸気滅菌は放射線滅菌と比較して中空糸膜モジュールの大量生産に不向きであり、特に3.5m2以上の大膜面積からなる大型中空糸膜モジュールを生産するには対応する高圧蒸気滅菌処理設備が無いことから好ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2023-036006号公報
【文献】特許第7237656号公報
【文献】特開2003-245329号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、静菌性及び耐滅菌性に優れる、医薬品の安全性に影響しない膜孔保持剤を中空糸膜の孔に保持し、ユーザーサイドにおける液体分離器の滅菌作業を不要として利便性を向上させ、さらに膜孔保持剤を用いること及び滅菌作業を不要として利便性を向上させることにより、医薬品を製造するユーザーサイドでただちに利用可能な中空糸膜モジュールを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討し実験を重ねた結果、中空糸膜モジュールを特定の構成にすることにより、上記課題を解決することができることを見出し、本発明を完成した。
【0014】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
[1]少なくとも2つのポートを有するハウジングと、ハウジング内に配置された中空糸膜と、ポートに取り付けられ、ハウジングと液体流通ラインとを接続する滅菌作業を不要とした無菌コネクターであって、少なくとも2つ以上の無菌コネクターと、を備える中空糸膜モジュールであって、中空糸膜の孔がアルコール水溶液からなる膜孔保持剤で保持された状態で、且つ、ポートと無菌コネクターとが一体化又は接続した密閉状態で滅菌されている中空糸膜モジュールであり、アルコール水溶液中のアルコール濃度が8重量%以上20重量%以下である、中空糸膜モジュール。
【0015】
[2]中空糸膜が、孔径が0.05μm以上2μm以下の精密濾過膜である、[1]に記載の中空糸膜モジュール。
【0016】
[3]中空糸膜が、孔径が0.3μm以上1μm以下の精密濾過膜である、[1]に記載の中空糸膜モジュール。
【0017】
[4]中空糸膜が、ポリフッ化ビニリデン系ポリマー又はポリスルホン系ポリマーからなる、[1]に記載の中空糸膜モジュール。
【0018】
[5]アルコールがエタノールである、[1]に記載の中空糸膜モジュール。
【0019】
[6]滅菌後の膜孔保持剤のpHが中性である、[1]に記載の中空糸膜モジュール。
【0020】
[7]無菌コネクターが無菌接続カップリング可能コネクターである、[1]に記載の中空糸膜モジュール。
【0021】
[8]ポートと接続されるコネクターとの距離が0mm以上100mm以下である、[1]に記載の中空糸膜モジュール。
【0022】
[9]ポートと一体化又は接続される無菌コネクターが少なくとも2種類以上である、[1]に記載の中空糸膜モジュール。
【0023】
[10]ハウジング、ポート、中空糸膜、及び無菌コネクターが、耐滅菌性及び耐アルコール性を有する、[1]に記載の中空糸膜モジュール。
【0024】
[11]滅菌が放射線滅菌である、[1]に記載の中空糸膜モジュール。
【0025】
[12]放射線滅菌がγ線滅菌である、[11]に記載の中空糸膜モジュール。
【0026】
[13]中空糸膜の膜面積が3.5m2以上である、[1]に記載の中空糸膜モジュール。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、静菌性及び耐滅菌性に優れる、医薬品の安全性に影響しない膜孔保持剤を中空糸膜の孔に保持し、ユーザーサイドにおける液体分離器の滅菌作業を不要として利便性を向上させ、さらに膜孔保持剤を用いること及び滅菌作業を不要として利便性を向上させることにより、医薬品を製造するユーザーサイドでただちに利用可能な中空糸膜モジュールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の実施形態に係る中空糸膜モジュールの模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、以下は本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨の範囲内で適宜に変形して実施できる。
【0030】
本発明の実施形態に係る中空糸膜モジュールは、少なくとも2つのポートを有するハウジングと、ハウジング内に配置された中空糸膜と、ハウジングのポートに取り付けられ、ハウジングと液体流通ラインとを接続する滅菌作業を不要とした無菌コネクターであって少なくとも2つ以上の無菌コネクターと、を備え、中空糸膜の孔がアルコール水溶液からなる膜孔保持剤で保持された状態、且つポートとコネクターとが一体化又は接続した密閉状態で滅菌されており、アルコール水溶液中のアルコール濃度が8重量%以上20重量%以下である。
【0031】
アルコールがエタノールの場合、アルコール水溶液のアルコール濃度は8重量%以上20重量%以下の範囲である。アルコール濃度がこの範囲から外れるアルコール水溶液を中空糸膜の孔に保持するのは、静菌性及び耐放射線滅菌性の観点から好ましくない。
【0032】
[中空糸膜の組成]
本実施形態の中空糸膜(以下、単に「膜」ともいう。)は、疎水性高分子単独、又は疎水性高分子と非水溶性の親水性高分子を主成分とする。ここで、「疎水性高分子と非水溶性の親水性高分子を主成分とする」とは、疎水性高分子と非水溶性の親水性高分子の合計が中空糸膜を構成する材料の80質量%以上を占めることをいい、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上であり、さらに好ましくは100質量%である。
【0033】
[疎水性高分子]
疎水性高分子としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン系ポリマー、ポリスルホン系ポリマー、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド等が挙げられ、これらの中でもポリフッ化ビニリデン系ポリマー及び芳香族ポリスルホン系ポリマーはγ線滅菌に対する耐滅菌性及びエタノールに対する耐アルコール性を有することから好ましい。本実施形態で用いられる芳香族ポリスルホン系ポリマーとしては、下記の一般式(1)、又は一般式(2)で示される繰り返し単位を有するポリマーが挙げられる。なお、式中のArは、パラ位での2置換のフェニル基を示す。疎水性高分子化合物の重合度や分子量は特に限定されない。
-O-Ar-C(CH32-Ar-O-Ar-SO2-Ar- (1)
-O-Ar-SO2-Ar- (2)
【0034】
芳香族ポリスルホン系ポリマーとしては、一般式(1)及び一般式(2)の構造において、官能基やアルキル基等の置換基を含んでもよく、炭化水素骨格の水素原子はハロゲン等の他の原子や置換基で置換されてもよい。ポリスルホン系ポリマーは、単独で使用しても、2種以上混合して使用してもよい。
【0035】
[親水性高分子]
本実施形態においては、高分子のフィルム上にPBS(日水製薬社から市販されているダルベッコPBS(-)粉末「ニッスイ」9.6gを水に溶解させ全量を1Lとした溶液)を接触させたときの接触角が90度以下になる高分子を、親水性高分子という。本実施形態において、親水性高分子の接触角は60度以下が好ましく、接触角40度以下がより好ましい。接触角が60度以下の親水性高分子を含有する場合には、中空糸膜が水に濡れ易く、接触角が40度以下の親水性高分子を含有する場合には、水に濡れ易くなる傾向が一層顕著である。なお、接触角とは、フィルム表面に水滴を落とした時に、水滴表面がなす角度を意味し、JIS R3257で定義される。
【0036】
本実施形態において、非水溶性とは、有効膜面積が3.3cm2になるように組み立てられた膜を用いて、2.0barの定圧デッドエンド濾過により、25℃の純水を100mL濾過した場合に、膜からの炭素の溶出率が0.1%以下であることを意味する。溶出率の算出方法は、以下のとおりである。25℃の純水を100mL濾過して得られた濾液を回収し、濃縮する。得られた濃縮液を用い、全有機炭素計TOC-L(島津製作所社製)にて、炭素量を測定して、膜からの溶出率を算出する。
【0037】
[非水溶性の親水性高分子]
本実施形態において、非水溶性の親水性高分子とは、上記接触角と溶出率を満たす物質である。非水溶性の親水性高分子には、物質自体が非水溶性である親水性高分子に加え、水溶性の親水性高分子であっても、製造工程で非水溶化された親水性高分子も含まれる。すなわち、水溶性の親水性高分子であっても、上記接触角を満たす物質であって、製造工程で非水溶化されることで、フィルターを組み立てた後の定圧デッドエンド濾過において、上記溶出率を満たすのであれば、本実施形態における非水溶性の親水性高分子に含まれる。
【0038】
本実施形態の中空糸膜は、非水溶性の親水性高分子を含有してもよい。タンパク質の吸着による膜の目詰まりによる濾過速度の急激な低下を防止する観点で、本実施形態の中空糸膜は、疎水性高分子を含有する基材膜の細孔表面に非水溶性の親水性高分子が存在することにより親水化される。基材膜の親水化方法としては、疎水性高分子からなる基材膜を製膜した後の、コーティング、グラフト反応、及び架橋反応等が挙げられる。また、疎水性高分子と親水性高分子のブレンドを製膜した後に、コーティング、グラフト反応、及び架橋反応等により、基材膜を親水化させてもよい。
【0039】
[ビニル系ポリマー]
非水溶性の親水性高分子としては、例えば、ビニル系ポリマーが挙げられる。ビニル系ポリマーとしては、例えば、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ジヒドロキシエチルメタクリレート、ジエチレングリコールメタクリレート、トリエチレングリコールメタクリレート、ポリエチレングリコールメタクリレート、ビニルピロリドン、アクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、グルコキシオキシエチルメタクリレート、3-スルホプロピルメタクリルオキシエチルジメチルアンモニウムベタイン、2-メタクリロイルオキシエチルチューブホリルコリン、1-カルボキシジメチルメタクリロイルオキシエチルメタンアンモニウム等のホモポリマー;スチレン、エチレン、プロピレン、プロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、エチルヘキシルメタクリレート、オクタデシルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、メトキシエチルメタクリレート等の疎水性モノマーと、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ジヒドロキシエチルメタクリレート、ジエチレングリコールメタクリレート、トリエチレングリコールメタクリレート、ポリエチレングリコールメタクリレート、ビニルピロリドン、アクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、グルコキシオキシエチルメタクリレート、3-スルホプロピルメタクリルオキシエチルジメチルアンモニウムベタイン、2-メタクリロイルオキシエチルチューブホリルコリン、1-カルボキシジメチルメタクリロイルオキシエチルメタンアンモニウム等の親水性モノマーのランダム共重合体、グラフト型共重合体及びブロック型共重合体等が挙げられる。
【0040】
また、ビニル系ポリマーとしては、例えば、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート等のカチオン性モノマーと、アクリル酸、メタクリル酸、ビニルスルホン酸、スルホプロピルメタクリレート、チューブホオキシエチルメタクリレート等のアニオン性モノマーと、上記疎水性モノマーとの共重合体等が挙げられる。ビニル系ポリマーは、アニオン性モノマーとカチオン性モノマーを電気的に中性となるように等量含有するポリマーであってもよい。
【0041】
[電気的に中性]
非水溶性の親水性高分子は、例えば、溶質であるタンパク質の吸着を防ぐ観点で、電気的に中性であることが好ましい。本実施形態においては、電気的に中性とは、分子内に荷電を有さない、又は、分子内のカチオンとアニオンが等量であることをいう。
【0042】
非水溶性の親水性高分子としては、多糖類であるセルロース等や、その誘導体であるセルローストリアセテート等も例示される。また、多糖類又はその誘導体として、ヒドロキシアルキルセルロース等が架橋処理された高分子も含まれる。
【0043】
非水溶性の親水性高分子としては、ポリエチレングリコール及びその誘導体であってもよく、エチレングリコールと上記疎水性モノマーとのブロック共重合体や、エチレングリコールと、プロピレングリコール、エチルベンジルグリコール等とのランダム共重合体、ブロック共重合体であってもよい。また、ポリエチレングリコール及び上記共重合体の片末端又は両末端が疎水基で置換され、非水溶化されていてもよい。
【0044】
ポリエチレングリコールの片末端又は両末端が疎水基で置換された化合物としては、α,ω-ジベンジルポリエチレングリコール、α,ω-ジドデシルポリエチレングリコール等が挙げられ、また、ポリエチレングリコールと分子内の両末端にハロゲン基を有するジクロロジフェニルスルホン等の疎水性モノマーとの共重合体等であってもよい。
【0045】
非水溶性の親水性高分子としては、縮合重合により得られる、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルスルホン等の主鎖中の水素原子が親水基に置換され、親水化されたポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルスルホン等も例示される。親水化されたポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルスルホン等としては、主鎖中の水素原子が、アニオン基、カチオン基で置換されていてもよく、アニオン基、カチオン基が等量の高分子でもよい。
【0046】
非水溶性の親水性高分子は、ビスフェノールA型、ノボラック型エポキシ樹脂のエポキシ基が開環された樹脂や、エポキシ基にビニルポリマーやポリエチレングリコール等が導入された樹脂でもよい。また、非水溶性の親水性高分子は、シランカップリングされた樹脂でもよい。非水溶性の親水性高分子は、単独で使用しても、2種以上混合して使用してもよい。
【0047】
非水溶性の親水性高分子としては、製造のしやすさの観点から、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ジヒドロキシエチルメタクリレートのホモポリマー;3-スルホプロピルメタクリルオキシエチルジメチルアンモニウムベタイン、2-メタクリロイルオキシエチルチューブホリルコリン、1-カルボキシジメチルメタクリロイルオキシエチルメタンアンモニウム等の親水性モノマーと、ブチルメタクリレート、エチルヘキシルメタクリレートの疎水性モノマーとのランダム共重合体が好ましく、非水溶性の親水性高分子をコートするときのコート液の溶媒の選択のしやすさ、コート液中での分散性及び操作性の観点から、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレートのホモポリマー;3-スルホプロピルメタクリルオキシエチルジメチルアンモニウムベタイン、2-メタクリロイルオキシエチルチューブホリルコリン等の親水性モノマーと、ブチルメタクリレート、エチルヘキシルメタクリレート等の疎水性モノマーとのランダム共重合体がより好ましい。
【0048】
水溶性の親水性高分子を、膜の製造過程で非水溶化した非水溶性の親水性高分子としては、例えば、疎水性高分子の基材膜に、側鎖にアジド基を有するモノマーと2-メタクリロイルオキシエチルチューブホリルコリン等の親水性モノマーを共重合させた水溶性の親水性高分子をコーティングした後、熱処理をすることにより、基材膜に水溶性の親水性高分子を共有結合させることで、水溶性の親水性高分子を非水溶化した親水性高分子であってもよい。また、疎水性高分子の基材膜に対して、2-ヒドロキシアルキルアクリレート等の親水性モノマーをグラフト重合させてもよい。
【0049】
本実施形態の中空糸膜として、あるいは、本実施形態における基材膜として、親水性高分子と疎水性高分子がブレンド製膜された膜を使用してもよい。ブレンド製膜に用いられる親水性高分子は、良溶媒に疎水性高分子と相溶する高分子であれば、特に限定されないが、親水性高分子としては、ポリビニルピロリドン又はビニルピロリドンを含有する共重合体が好ましい。
【0050】
ポリビニルピロリドンとしては、具体的には、BASF社より市販されているLUVITEC(商品名)K60、K80、K85、K90等が挙げられ、LUVITEC(商品名)K80、K85、K90が好ましい。ビニルピロリドンを含有する共重合体としては、疎水性高分子との相溶性や、タンパク質の膜表面への相互作用の抑制の観点で、ビニルピロリドンと酢酸ビニルの共重合体が好ましい。
【0051】
ビニルピロリドンと酢酸ビニルの共重合比は、タンパク質の膜表面への吸着やポリスルホン系ポリマーとの膜中での相互作用の観点から、6:4から9:1が好ましい。ビニルピロリドンと酢酸ビニルの共重合体としては、具体的には、BASF社より市販されているLUVISKOL(商品名)VA64、VA73等が挙げられる。親水性高分子は、単独で使用しても、2種以上を混合して使用してもよい。
【0052】
[中空糸膜の断面構造]
本実施形態のポリスルホン系ポリマーからなる中空糸膜の構造は、膜の外表面から接液表面に向かって連続的に孔径が変化する傾斜構造である。傾斜構造には、例えば、膜の外表面から接液表面に向かって孔径が連続的に小さくなるスポンジ構造(正傾斜構造)、膜の外表面から最小細孔径層に向かって連続的に孔径が小さくなり最小細孔径層から接液表面に向かって連続的に孔径が大きくなるスポンジ構造(逆傾斜構造)、及び膜の外表面から接液表面に向かって連続的に孔径が大きくなるスポンジ構造(逆傾斜構造)等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0053】
中空糸膜の断面構造における孔径が連続的に変化する傾斜構造であることにより、タンパク質溶液濾過中の目詰まりを抑制しつつ、高効率に抗体等の有用成分を回収することが可能である。本実施形態の中空糸膜をウイルス分離濾過膜として使用する場合、膜の濾過下流部位に最小細孔径層(緻密層)を有する逆傾斜構造の膜が好ましい。
【0054】
本実施形態において、濾過下流部位とは、一方の膜表面に相当する濾過下流面から膜厚の10%までの範囲を指し、他方の膜表面に相当する濾過上流部位とは濾過上流面から膜厚10%までの範囲を指す。例えば、中空糸膜においては、外表面側に通液すれば、内表面から膜厚10%までの範囲が濾過下流部位であり、外表面から膜厚10%までの範囲が濾過上流部位であり、内表面側に通液すれば、内表面から膜厚10%までの範囲が濾過上流部位であり、外表面から膜厚10%までの範囲が濾過下流部位となる。本実施形態のポリフッ化ビニリデン系ポリマーからなる中空糸膜は、膜の外表面から膜断面中央部及び膜断面中央部から接液表面において孔径の差が10倍以下である均質な構造が好ましい。
【0055】
平均孔径は、画像解析を用いた方法で算出する。具体的には、MediaCybernetics社製Image-pro plusを用いて空孔部と実部の二値化処理を行う。明度を基準に空孔部と実部を識別し、識別できなかった部分やノイズをフリーハンドツールで補正する。空孔部の輪郭となるエッジ部分や、空孔部の奥に観察される多孔構造は空孔部として識別する。二値化処理の後、空孔/1個の面積値を真円と仮定し、孔径を算出する。全ての孔毎に実施し、1μm×2μmの範囲毎に平均孔径を算出していく。なお、視野の端部で途切れた空孔部についてもカウントすることとする。
【0056】
中空糸膜の孔径は、膜中に存在する孔の平均孔径が最も小さい部位が膜の分画性能を決定する。本実施形態の膜の孔径(分画性能)は、0.05μm以上2μm以下である。最小孔径層の平均孔径が0.05μm未満であると、膜の透水性能が低下する傾向にあり、2μmを超えると微粒子等の除去性能が低下する傾向にある。好ましい最小孔径層の平均孔径は0.3μm以上1μm以下、さらに好ましくは0.3μm以上0.7μm以下である。
【0057】
[膜孔保持剤]
本実施形態でいう膜孔保持剤とは、放射線滅菌による性能低下を防ぐために放射線滅菌時までの製造過程で膜中の空孔部分に詰めておく物質である。膜を接着して医薬品を製造するモジュールを作製するためには膜を滅菌させる必要があるが、有機高分子よりなる多孔膜、なかでもポリスルホン系及びポリフッ化ビニリデン系等の疎水性ポリマーからなる中空糸膜は、放射線滅菌させると膜構造の変化により滅菌前に比べ透水量が低下することが知られている。膜中の空孔部分に膜孔保持剤を保持せずに放射線滅菌(特にγ線滅菌)すると、放射線滅菌前とは異なった低性能の膜になる傾向にある。
【0058】
放射線滅菌後に膜孔保持剤を洗浄・除去することにより、膜孔保持剤の効果により放射線滅菌前の中空糸膜と同等の透水量、阻止率等の性能を維持することが可能である。しかしながら、膜孔保持剤が膜中及び/又はモジュール中に微量に存在することにより、膜孔保持剤との化学反応により生成する様々な誘導体を問題視する報告がある。しかし、本実施形態の膜は、膜孔保持剤として特定の濃度範囲にある特定のアルコール水溶液を用いるため、誘導体が発生し難い。放射線滅菌後の膜孔保持剤のpHは中性(7±0.5)である。医薬品の安全性に影響しないアルコール水溶液である膜孔保持剤を用いるため、放射線滅菌後に膜孔保持剤の洗浄・除去が不要である。膜中の空孔部分に該膜孔保持剤を保持した状態で、つまり、膜孔保持剤を洗浄除去せずに、医薬品を製造するユーザーサイドで中空糸膜モジュールをただちに利用することが可能である。
【0059】
[アルコール水溶液]
アルコール水溶液としては、アルコール濃度が8重量%以上20重量%以下のエタノール水溶液を用いることが好ましく、アルコール濃度が16重量%以上19重量%以下のエタノール水溶液を用いることがより好ましく、アルコール濃度が16重量%以上18重量%以下のエタノール水溶液を用いることがさらに好ましい。アルコール濃度が8重量%未満のエタノール水溶液では静菌作用が低下する傾向にある。アルコール濃度が20重量%を超えるエタノール水溶液では危険物扱いとなり、輸送及び保管が困難になり得る。例えば、アルコール濃度が18重量%以下のエタノール水溶液は航空輸送が可能であることから、海外のユーザーへ中空糸膜モジュールを迅速に輸送するためには、アルコール濃度が18重量%以下のエタノール水溶液が好ましい。
【0060】
[中空糸膜モジュールの製造方法]
中空糸膜モジュールの製造は、(1)中空糸膜の製造工程、(2)中空糸膜を複数束ねて中空糸膜束にする製束工程、(3)ポートを有するハウジングに中空糸膜束を接着するモジュール化工程、(4)膜中の空孔部分に膜孔保持剤を保持する工程、(5)コネクターをポートに接続しハウジング内を密閉する工程、(6)中空糸膜モジュールを放射線滅菌する工程、(7)中空糸膜モジュールを梱包する工程を含み得る。更にこの後、(8)ユーザーによる中空糸膜モジュールの使用が行なわれる。
【0061】
[中空糸膜の製造工程]
本実施形態の中空糸膜は、特に限定されないが、以下のようにして製造することができる。疎水性高分子(膜形成ポリマー)、該疎水性高分子の溶剤、及び特定の添加剤を混合溶解し、脱泡した溶液を製膜原液とし、内部凝固液とともに二重管ノズル(紡口)の環状部、中心部から同時に吐出し、空走部を経て凝固浴に導いて膜を形成する。得られた膜を、水洗後巻取り、中空部内液抜き、熱処理、乾燥させる。その後、膜を親水化処理することもできる。
【0062】
製膜原液に使用される溶媒は、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルスルホキシド、ε-カプロラクタム等、ポリスルホン系ポリマーの良溶媒であれば、広く使用することができるが、NMP、DMF、DMAc等のアミド系溶媒が好ましく、NMPがより好ましい。
【0063】
特定の添加剤としてはポリビニルピロリドン又はポリエチレングリコール等が好ましく用いられる。特定の添加剤は精密濾過膜を得るのに必要であり得る。
【0064】
製膜原液は、本質的に膜形成ポリマー、ポリビニルピロリドン等の特定の添加剤、ポリマーの溶剤からなる。製膜原液にその他の添加剤、例えば従来添加剤として知られている水や金属塩等を加えることも可能である。本実施形態で用いられる製膜原液中の膜形成ポリマー濃度は、該原液からの製膜が可能で、かつ得られた膜が膜としての性能を有するような濃度の範囲であれば特に制限されず、10~35重量%、好ましくは10~30重量%である。高い透水性能又は大きな分画分子量を達成するためには、ポリマー濃度は低い方がよく、10~25重量%が好ましい。
【0065】
製膜原液中の特定の添加剤の量は、1~30重量%、好ましくは1~20重量%であるが、用いる分子量により最適濃度が決定される。使用される特定の添加剤の重量平均分子量は、2,900~2,000,000の範囲であることが好ましく、30,000~1,500,000の範囲であることがより好ましい。
【0066】
製膜原液は、ポリスルホン系ポリマー、良溶媒、非溶媒を一定温度で、撹拌しながら溶解することで得られる。この時の温度は、常温より高い、30~80℃が好ましい。3級以下の窒素を含有する化合物(NMP、DMF、DMAc)は空気中で酸化され、加温するとさらに酸化が進行しやすくなるため、製膜原液の調製は不活性気体雰囲気下で行うことが好ましい。不活性気体としては、窒素、アルゴン等が挙げられ、生産コストの観点から、窒素が好ましい。
【0067】
製膜原液は、紡口から吐出される前までに、異物を除去することが好ましい。異物を除去することにより、紡糸中の糸切れ防止や、膜の構造制御を行うことができる。製膜原液タンクのパッキン等からの異物の混入を防ぐためにも、製膜原液が紡口から吐出される前に、フィルターを設置することが好ましい。孔径違いのフィルターを多段で設置してもよく、特に限定されないが、例えば、製膜原液タンクに近い方から、順に孔径30μmのメッシュフィルター、孔径10μmのメッシュフィルターを設置することが好適である。
【0068】
内部液は、中空糸膜の中空部を形成させるために用いられ、膜形成ポリマーに対する良溶剤の高濃度水溶液からなる。例えば、膜形成ポリマーがビスフェノールA型芳香族ポリスルホンであれば、良溶剤は、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミドからなる群より選ばれる溶剤が用いられる。高濃度水溶液は、良溶剤を90重量%以上含有する水溶液であることが好ましい。良溶剤を93重量%以上含有する水溶液がより好ましい。良溶剤の含有量が90重量%未満では、膜の内表面近傍に剥離が生じる傾向がある。
【0069】
本実施形態の中空糸膜は、公知のチューブインオリフィス型の2重環状ノズルを用いて作製することができる。より具体的には、前述の製膜原液と内部液とをこの2重環状ノズルから同時に吐出させ、若干のエアギャップを通過させた後、凝固浴中に浸漬して凝固させることにより本実施形態の中空糸膜を得ることができる。ここでいうエアギャップとは、ノズルと凝固浴との間の隙間を意味する。エアギャップを円筒状の筒などで囲み、一定の温度と湿度を有する気体を一定の流量でこのエアギャップに流すと、より安定した状態で中空糸膜を製造することができる。
【0070】
凝固浴としては、例えば、水;メタノール、エタノール等のアルコール類;エーテル類;n-ヘキサン、n-ヘプタン等の脂肪族炭化水素類などポリマーを溶解しない液体が用いられるが、水を用いることが好ましい。また、凝固浴にポリマーを溶解する溶剤を若干添加することにより凝固速度をコントロールすることも可能である。中空糸膜の孔径が0.05μm以上2μm以下の精密濾過膜を得るには、凝固浴の温度は-30℃以上98℃以下、好ましくは0℃以上90℃以下、さらに好ましくは0℃以上80℃以下である。凝固浴の温度が95℃を超え、又は-30℃未満であると、凝固浴中の中空糸状膜の表面の状態が安定しにくい傾向にある。
【0071】
孔径が0.05μm以上2μm以下の精密濾過膜である中空糸膜を得るためには、紡口温度は10℃以上95℃以下が好ましい。製膜原液は紡口から吐出された後、空走部を経て、凝固浴に導入される。空走部の滞留時間は0.02~0.6秒が好ましい。滞留時間を0.02秒以上とすることにより、凝固浴導入までの凝固を十分にし、適切な孔径とすることができる。滞留時間を0.6秒以下とすることにより、凝固が過度に進行するのを防止し、凝固浴での精密な膜構造制御を可能にすることができる。
【0072】
凝固浴から引き上げられた中空糸膜は水洗浴中で温水洗浄された後、巻取り機でカセに巻き取られる。水洗工程では、溶媒と膜に固定化されていない親水性高分子を確実に除去することが好ましい。中空糸膜が溶媒を含んだまま乾燥されると、乾燥中に膜内で溶媒が濃縮され、ポリスルホン系ポリマーが溶解または膨潤することにより、膜構造を変化させる可能性がある。膜に固定化されていない親水性高分子が残存すると、孔を閉塞させ、膜の透過性を低下させる可能性がある。除去すべき溶媒・非溶媒、膜に固定化されていない親水性高分子の拡散速度を高め、水洗効率を上げるため、温水の温度は50℃以上が好ましい。水洗工程は、ネルソンローラを使用することが好ましい。十分に水洗を行うため、中空糸膜の水洗浴中の滞留時間は80~300秒が好ましい。不要成分の除去を目的とした水洗工程は長いほど好ましいが、生産効率の点から、300秒以下とすることが適当である。
【0073】
[中空糸膜を複数束ねて中空糸膜束にする製束工程]
水洗浴から引き上げられた中空糸膜は、巻取り機で所定の本数になるようにカセに巻き取られる。カセに巻き取られた中空糸膜は、所定の長さになるように両端部を切断し、束にし、弛まないように支持体に把持される。そして、把持された中空糸膜は、熱水中に浸漬、洗浄される。カセに巻き取られた状態の中空糸膜の中空部には、ナノメートルからマイクロメートルサイズのポリスルホン系ポリマーの微粒子が浮遊している白濁液が残存している。白濁液を除去せずに中空糸膜を乾燥させると、ポリスルホン系ポリマーの微粒子が中空糸膜の孔を塞ぎ、膜性能が低下することがあるため、中空部の白濁液を除去することが好ましい。熱水処理工程では、中空糸膜の内表面側からも洗浄されるため、水洗工程で除去しきれなかった、膜に固定されなかった親水性高分子等が効率的に除去される。熱水の温度は50~100℃が好ましい。熱水の温度を50℃以上にすることは、洗浄効率を高くできる点で、好ましい。洗浄時間は30~120分が好ましい。熱水は洗浄中に数回、交換することが好ましい。
【0074】
[基材膜の親水化]
基材膜(コート前の中空糸膜)の親水性能を向上させる場合には、コート工程を経る。
例えば、コーティングにより親水化処理させる場合のコート工程は、巻き取られた中空糸膜束の乾燥工程、基材膜(乾燥工程を経た中空糸膜束)のコート液への浸漬工程、浸漬された基材膜の脱液工程、脱液された基材膜の乾燥工程を含む。浸漬工程において、基材膜は親水性高分子溶液に浸漬される。コート液の溶媒は親水性高分子の良溶媒であり、ポリスルホン系ポリマーの貧溶媒であれば特に制限されないが、アルコールが好ましい。コート液中の非水溶性の親水性高分子の濃度は、親水性高分子によって基材膜の孔表面を十分に被覆させるには1.0質量%以上が好ましく、適切な厚さで被覆させ、孔径が小さくなりすぎて、Fluxが低下することを防ぐ観点から、10.0質量%以下が好ましい。コート液への基材膜の浸漬時間は8~24時間が好ましい。
【0075】
所定時間、コート液に浸漬された基材膜は、脱液工程において、膜の中空部及び外周に付着している余分なコート液が遠心操作により、脱液される。残存する親水性高分子による乾燥後の膜同士の固着を防止する観点で、遠心操作時の遠心力を10G以上、遠心操作時間を30分以上とすることが好ましい。
【0076】
[ポートを有するハウジングに中空糸膜束を接着するモジュール化工程]
巻き取られた中空糸膜束の乾燥工程後或いは脱液された基材膜の乾燥工程後に、中空糸膜束を円筒状のモジュールケース(ハウジング)に収納し、両側端部をエポキシ樹脂、ウレタン樹脂、エポキシアクリレート樹脂、シリコーンゴム等の熱硬化性の接着性を有する高分子により液密的に接着固定したのち接着端部を切断し、中空糸膜の中空部を開口させる事により、ハウジング内に中空糸膜束が配置される。接着性を有する高分子の硬化収縮や強度を改善するために、ガラスファイバー、カーボンファイバー等の繊維状物、カーボンブラック、アルミナ、シリカ等の微粉体を該高分子中に含有させてもよい。
【0077】
[ハウジング及びポートの素材]
本実施形態の中空糸膜をモジュール化するときのモジュールケース(ハウジング)及びポートの素材としては、放射線を通過でき且つ耐滅菌性(耐放射線性)有する素材が選ばれる。例えば、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ABS樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリカーボネート、ポリエーテルケトン類、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンサルファイド等のプラスチック類、ガラスファイバー、カーボンファイバーにより補強したプラスチック類を使用したハウジング及びポートが選ばれる。ハウジングに分配用板(整流版、邪魔板等)を使用する場合には、モジュールケースと分配用板は必ずしも同一素材である必要はない。医薬品を製造するためのモジュールであることから、耐滅菌性及び耐アルコール性を有するハウジング及びポートにするためには、これらの材料は、芳香族ポリスルホン、芳香族ポリエーテルスルホン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ABS樹脂、ガラスファイバー等であることが好ましい。ハウジングの直径は30mm以上1500mm以下で、長さは300mm以上3000mm以下の範囲から選ばれてもよい。
【0078】
[膜中の空孔部分に膜孔保持剤を保持する工程]
液状の膜孔保持剤にモジュール内の中空糸膜を浸漬後、(膜中の空孔部分に保持された膜孔保持剤を除く)膜孔保持剤をモジュール内から除去することによって膜中の空孔部分に該膜孔保持剤を詰める(保持する)ことが可能である。液状の膜孔保持剤をモジュール内から除去後にモジュール内(ハウジング内)を密閉にすることにより膜中の空孔部分に膜孔保持剤を経時的に保持続けることが可能である。液状の膜孔保持剤にモジュール内の中空糸膜を浸漬時には、該液状の膜孔保持剤を膜の外表面から内表面に或いは膜の内表面から外表面に通液することも可能である。
【0079】
[コネクターをポートに接続しモジュール内(ハウジング内)を密閉する工程]
コネクターは無菌コネクター(無菌接続コネクター)である。コネクターをポートに接続する手段としては、コネクターとポートを接着又は溶接して一体化させる手段、コネクターとポートをチューブ接続する手段等があるが、これらに限定されない。コネクターとポートのチューブ接続とは、チューブ(管状のプラスチックチューブ)の両端にコネクターとポート端部(オス部分)を嵌め込み(挿入し)、チューブに嵌め込んだコネクターとポート端部を各々チューブバンド等で固定することを意味する。ポートをチューブ接続するには、ポートとレデューサー等の部材を予め接続又は一体化させることにより該レデューサーのオス部分をチューブに嵌め込み(挿入)すれば容易である。レデューサーとは、例えば、フェルール形状のポートであれば、ガスケットを挟んでクランプバンドで固定することによりポートとの接続が可能なフェルールを有し、且つチューブに嵌め込み(挿入)可能な大きさを有するオス部分(出っ張り部分)を有する部材(アダプター)を例示できる(図1参照)。無菌コネクターをモジュールの全てのポートに接続することによりモジュール内(ハウジング内)を密閉にする(外界と隔離する)ことが可能である。
【0080】
図1は、中空糸膜モジュールの構成の概略を示す断面図である。本実施形態に係る無菌コネクターは、この中空糸膜モジュール1の各ポート14a及び14b、及び/又は15a及び15bに対応するコネクター7又はコネクター9が取り付けられて構成されている。各ポートにはレデユーサー5又はレデユーサー2がガスケットを挟んでクランプバンド4又はクランプバンド3で接続されている。例えば、レデユーサー5とコネクター7はチューブ6に挿入され、各々チューブバンド11で固定されている。他のレデユーサーとコネクターの関係も同様である。
【0081】
中空糸膜モジュール1は、例えば図1に示すように長手方向の両端が閉鎖された円筒状のハウジング10と、当該ハウジング10に設けられ、液体をハウジング10内に流入又は流出するための複数、例えば4つのポート(通液口)14a及び14b、及び/又は15a及び15bを有している。例えばポート14a及び14bは、ハウジング10の長手方向の両端に設けられ、ポート15a及び15bは、ハウジング10の胴部の外周面に設けられている。
【0082】
ハウジング10内には、管状の多数の中空糸膜12が設けられている。中空糸膜12は、ハウジング10の長手方向に沿って配置され、ハウジング10の一端付近から他端付近まで延びている。ハウジング10内の長手方向の両端付近には、それぞれ中空糸膜12を支持する支持部材13が設けられている。支持部材13は、例えばハウジング10の内部形状に適合する円盤状に形成され、中空糸12の端部を支持しつつ、各支持部材13の外側の空間A(ポート14a、14bが開口する空間)と、2つの支持部材13の内側の空間Bとを遮断している。中空糸12の両端は、ポート14a、14bに通じる空間Aにそれぞれ開口している。したがって、例えばポート14a又はポート14bから流入した液体は、中空糸12の管内を通り、中空糸12の側壁を通過した液体が2つの支持部材13の間の空間Bに流出するようになっている。この中空糸12の側壁を通過する際に、液体から所定の物が分離される。なお、ポート14a、14bには、コネクター7が取り付けられる(図1参照)。コネクター7は、ポート14a、14bに直接取り付けられてもよいし、チューブ等を介して取り付けられてもよい。
【0083】
ポート15a、15bは、2つの支持部材13の間の空間Bに通じている。したがって、例えば中空糸12を通過した分離後の液体をポート15a、15bから排出することができる。本実施形態の各ポートは、例えば円管状に形成され、その先端の開口端部には、環状のフェルール部が形成されている。なお、フェルールの他に、フランジ、ニップル、ネジなどを使用できる。図1では詳しくは示していないが、本実施形態のポート15a、15bは、内径がハウジング10の胴部に近づくにつれて次第に小さくなるテーパー形状を有している。ポート15a、15bには、コネクター9が取り付けられる(図1参照)。コネクター9は、ポート15a、15bに直接取り付けられてもよいし、チューブ等を介して取り付けられてもよい。
【0084】
図1に示すように膜面積が3.5m2以上の中空糸膜モジュールではポート14とポート15の形状又は大きさが大きく異なるため、少なくとも2種類以上のコネクターが必要である。
【0085】
無菌コネクターとしては、密閉無菌接続カップリング可能コネクターが好ましい。医薬品の製造ラインに中空糸膜モジュールを接続するには、例えば、中空糸膜モジュールとの接続部位を高温の蒸気を流すことにより滅菌する必要がある。密閉無菌接続カップリング可能コネクターではこの様な作業を必要としないため、密閉無菌接続カップリング可能コネクターを用いることにより医薬品を製造するユーザーサイドでただちに利用可能な中空糸膜モジュールを提供することが可能である。密閉無菌接続カップリング可能コネクターとしては、例えば、Colder Products Company社製AQG17012HT又はAQL17016HTを例示することができる。本コネクターは耐滅菌性及び耐アルコール性を有することから、医薬品を製造するユーザーサイドで好ましく用いることが可能である。
【0086】
コネクターは、液体流通ラインに接続される。液体流通ラインとは、中空糸膜にろ過される液体を供給するための流路、及び、中空糸膜でろ過された液体を回収するための流路である。
【0087】
[中空糸膜モジュールを放射線滅菌する工程]
滅菌用放射線照射耐久性を有する樹脂により成形されたプラスチックフィルム(包装用フィルム)で中空糸膜モジュールを包装し、通い箱内に箱詰めした後に放射線照射を行う。包装は多重包装が好ましい。通い箱内に箱詰めする利便性から、ポートと、ポートにチューブ等を介して接続されたコネクターと、の間の距離は0mm以上100mm以下であることが好ましい。上記梱包体を滅菌業者の放射線滅菌施設に輸送して、該業者に滅菌用の放射線照射を委託することができ、その放射線照射後に返送された梱包体の点検・検査をして、出荷することができる。
【0088】
本実施形態でいう放射線はα線、β線、γ線、X線、紫外線、電子線などが用いられる。近年は残留毒性の少なさや簡便さの点から、γ線や電子線を用いた放射線滅菌法が多用されている。γ線で滅菌するには15kGy以上が効果的である。照射線量が100kGy以上であると、親水性高分子の3次元架橋や崩壊などが起こり得る。
【0089】
[中空糸膜モジュールを梱包する工程]
包装用フィルムによって構成された袋に滅菌済の中空糸膜モジュールを入れて、該袋を密閉した後、梱包箱に収める。密閉するためには、袋を構成する1対の包装用フィルムを重ね合わせて、ヒートシーラー等で包装フィルムを熱溶融(熱溶着)すればよい。酸素によるハウジング等の劣化を防止するために、大気圧よりも低い圧力下で減圧包装(密閉)することが一般的である。KES法で測定された包装用フィルムの曲げ剛性が0.1gf・cm2/cm以上4.0gf・cm2/cm以下であることが好ましい。曲げ剛性が0.1gf・cm2/cm未満では伸び防止やハンドリング性が劣る傾向があり得る。曲げ剛性が曲げ剛性が4.0gf・cm2/cmを超えると包装用フィルムが邪魔になって包装された中空糸膜モジュールが梱包箱にスムーズに入らなかったり、梱包箱が破損したりする傾向にある。
【0090】
包装用フィルムは、互いに異なる種類の複数の樹脂フィルムの積層体であり得る。具体的には、包装用フィルムは、最外層、中間層及び融着層をこの順番で有する。最外層と中間層とは、例えば、接着剤を用いたドライラミネートによって互いに接着されている。中間層と融着層との間には、両者を接着するための接着層が設けられていてもよい。
【0091】
中間層は、ガスバリア性を有する層であって、酸素などの気体の透過を防ぐ役割を担う。中間層は、例えば、ナイロン又はエチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)によって構成されている。融着層は、包装用フィルムで膜製品を包装したのち、包装用フィルムによって構成された袋を密封する役割を担う。1対の包装用フィルムを重ね合わせ、一方の包装用フィルムの融着層と他方の包装用フィルムの融着層とを接触させた状態でそれら包装用フィルムに熱を加える。これにより、各融着層を構成する樹脂が溶融する。その後、樹脂を固化させることによって、包装用フィルムが互いに接着される。融着層は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィンによって構成されている。直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)は、融着層の材料として適している。融着層の厚さは、例えば、包装用フィルムの厚さの40%以上70%以下の範囲にある。一例において、融着層の厚さは、50μm以上80μm以下である。接着層も、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィンによって構成されている。
【実施例
【0092】
以下、実施例により本実施形態を詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されない。実施例において示される測定方法は以下のとおりである。
【0093】
(1)内径および膜厚の測定
中空糸中空糸膜の内径は、膜の垂直割断面を実体顕微鏡で撮影することにより求めた。内径と同様に外径を求め、(外径-内径)/2により膜厚を求めた。膜面積は、内径と中空糸膜の有効長より算出した。
【0094】
(2)純水の透過速度の測定
有効膜面積が3.3cm2になるように組み立てられたフィルターを1.0barの定圧デッドエンド濾過による25℃の純水の濾過量を測定し、濾過時間から透水量を算出した。
【0095】
(3)静菌性試験
黄色ブドウ球菌株(NBRC12732)又は大腸菌株(NBRC3972)を36±2℃で、培地にて培養し、発育した集落をかき取り、滅菌イオン交換懸濁して約109CFU/mLに調製し、これを試験菌液とした。全ポートに無菌コネクターを接続した中空糸膜モジュールのハウジング(図1のポート15aとポート15bの間にある全周のハウジング部分)を除去し、中空糸膜束全体に試験菌液を均一に噴霧した。除去したハウジングを元通りにセットして、接着テープで固定した。このときハウジング内が完全に密閉していることを確認した。この中空糸膜モジュールを約25℃下で保存した。所定時間後に中空糸膜モジュールのハウジング(図1のポート15aとポート15bの間にあるハウジング部分)を除去し、中空糸膜を50±2mmの正方形(試験片)になるように抜き取り、該正方形(正方形の厚みは中空糸膜1本)を針で固定して、付着菌数をN=5(中空糸束の表面部長手方向で上・中・下で各1点及び中空糸束の中央部で2点)でJIS Z 2801(2012年)に記載の方法と同様の方法で生菌数を測定して平均値とした。菌の減少率(増加率)=所定時間経過後の試験片の生菌数(cfu)/初期の接種菌数(cfu)
【0096】
[実施例1]
[ポリビニルピロリドン溶解液の作製及び該溶解液のろ過]
100℃以下の温度での乾燥により含水率を0.3質量%以下としたポリビニルピロリドン(BASF社製、K値90、重量平均分子量1,200,000)600gをN-メチル-2-ピロリドン7400gに溶解して均一な溶液(ポリビニルピロリドン溶解液)とした。
【0097】
この溶液を70℃に保温して孔径2μmのステンレス製の焼結フィルター(日本精線(株)社製、NS-02S2、有効ろ過面積20cm2)を用いてろ過流量2mL/(分・cm2)にてろ過した。ろ過中は焼結フィルターを超音波洗浄機中に浸漬して、ポリビニルピロリドン溶解液に常時59kHz(出力3kW)の超音波振動を付与した。
【0098】
[製膜及び残溶剤の除去]
上記のフィルターろ過後の溶液(ポリビニルピロリドン溶解液)800gに芳香族ポリスルホン(Amoco Engineering Polymers社製 P-1700)200gを添加して溶解することにより均一な溶液(製膜原液)を作製した。ポリスルホンの未溶解物等を除去するために、この製膜原液を孔径5μmのフィルター(富士フィルター(株)社製、FD-5、有効ろ過面積40cm2)を用いてろ過した。ここで、製膜原液中のポリスルホンに対するポリビニルピロリドンの混和比率は27.2重量%であった。この製膜原液を60℃に保ち、N-メチル-2-ピロリドン95重量%と水5重量%の混合溶液からなる内部液(水の含有量が95重量%)とともに、紡口(2重環状ノズル 0.5mm-0.7mm-1.3mm、ノズル温度60℃、ノズル部での製膜原液の温度60℃)から吐出させ、60mmのエアギャップを通過させて70±1℃の水からなる凝固浴へ浸漬した。
【0099】
この時、紡口から凝固浴までを円筒状の筒で囲み、外気が入らないように密閉した。紡速は、20m/分に固定した。巻き取った糸束を切断後、糸束の切断面上方から80℃の熱水シャワーを2時間かけて洗浄することにより膜中の残溶剤を除去した。
【0100】
得られた膜を電子顕微鏡にて観察したところ、膜の外表面から最小細孔径層に向かって連続的に孔径が小さくなり最小細孔径層から内表面に向かって連続的に孔径が大きくなるスポンジ構造(逆傾斜構造)であり、最も孔径が大きな膜表面が膜内表面であり、膜外表面近傍に最小細孔径層が存在することが明らかとなった。膜の破断強度は50kgf/cm2以上と高い強度を示し、さらに1,000mL/(m2・hr・mmHg)以上の優れた透水性能を有する精密ろ過膜であることが明らかとなった。さらに、平均粒径0.273μmのラテックス粒子の内圧ろ過においても急激な目詰まりがなく長時間安定した濾液量を維持した。得られた中空糸膜の外径は1.5mm、膜厚は0.3mmであった。
【0101】
[中空糸膜モジュールの製造]
巻き取った中空糸膜からなる束を、中空糸膜の有効膜面積(膜内表面換算)が3.5m2となるように設計したポートを有するポリスルホン製筒状容器に装填し、その両端部をウレタン樹脂で接着固定し、両端面を切断して中空糸膜の開口端を形成した。さらに、両端部にポートを有するヘッダーキャップを取り付けた。
【0102】
[膜孔保持剤を中空糸膜の孔に保持]
エタノール濃度18重量%のアルコール水溶液からなる膜孔保持剤をモジュール内に1時間封入した。膜孔保持剤を垂れ切りにより除去した。モジュール内から除去後に各ポートに無菌コネクターを取り付けることによりモジュール内(ハウジング内)を密閉にした。図1で例示する14a及び14bにはColder Products Company社製AQL17016HTを、15a及び15bにはColder Products Company社製AQG17012HTを取り付けた。これらの無菌コネクターはユーザーサイドにおける液体分離器の滅菌作業を不要とした無菌接続カップリング可能コネクターである。
【0103】
[静菌性試験結果]
本中空糸膜モジュールの静菌試験結果を表1に示す。用いた膜孔保持剤の静菌性が優れることが明らかとなった。
【表1】
【0104】
[γ線滅菌後の透水性能]
本中空糸膜モジュールを25kGyでγ線滅菌後の透水性能結果を表1に示す。透水性能の低下が無いことが明らかとなった。滅菌後の膜孔保持剤のpHが中性であった。膜孔保持剤をユーザーサイドで洗浄除去する必要がないことが明らかとなった。
【0105】
以上から、実施例に係る中空糸膜モジュールは、静菌性及び耐滅菌性に優れる、医薬品の安全性に影響しない膜孔保持剤を中空糸膜の孔に保持することにより、ユーザーサイドにおける液体分離器の滅菌作業を不要として利便性を向上させ、さらに膜孔保持剤を用いること及び滅菌作業を不要として利便性を向上させることにより、医薬品を製造するユーザーサイドでただちに利用可能な中空糸膜モジュールであることが明らかとなった。
【0106】
[実施例2]
エタノール濃度を8重量%にした以外は、実施例1と同様な操作を行った。本中空糸膜モジュールの静菌試験結果及びγ線滅菌後の透水性能結果を表1に示す。用いた膜孔保持剤の静菌性が優れることが明らかとなった。さらに透水性能の低下が無いことが明らかとなった。滅菌後の膜孔保持剤のpHが中性であった。よって、膜孔保持剤をユーザーサイドで洗浄除去する必要がないことが明らかとなった。
【0107】
以上から、実施例に係る中空糸膜モジュールは、静菌性及び耐滅菌性に優れる、医薬品の安全性に影響しない膜孔保持剤を中空糸膜の孔に保持することによって、ユーザーサイドにおける液体分離器の滅菌作業を不要として利便性を向上させ、さらに膜孔保持剤を用いること及び滅菌作業を不要として利便性を向上させることにより、医薬品を製造するユーザーサイドでただちに利用可能な中空糸膜モジュールであることが明らかとなった。
【0108】
[実施例3]
エタノール濃度を20重量%にした以外は、実施例1と同様な操作を行った。本中空糸膜モジュールの静菌試験結果及びγ線滅菌後の透水性能結果を表1に示す。用いた膜孔保持剤の静菌性が優れることが明らかとなった。さらに透水性能の低下が無いことが明らかとなった。滅菌後の膜孔保持剤のpHが中性であった。よって、膜孔保持剤をユーザーサイドで洗浄除去する必要がないことが明らかとなった。
【0109】
以上から、実施例に係る中空糸膜モジュールは、静菌性及び耐滅菌性に優れる医薬品の安全性に影響しない膜孔保持剤を中空糸膜の孔に保持することによって、ユーザーサイドにおける液体分離器の滅菌作業を不要として利便性を向上させ、さらに膜孔保持剤を用いること及び滅菌作業を不要として利便性を向上させることにより、医薬品を製造するユーザーサイドでただちに利用可能な中空糸膜モジュールであることが明らかとなった。
【0110】
[比較例1]
エタノール濃度を6重量%にした以外は、実施例1と同様な操作を行った。本中空糸膜モジュールの静菌試験結果及びγ線滅菌後の透水性能結果を表1に示す。用いた膜孔保持剤が静菌性に劣ることが明らかとなった。さらに透水性能が大きく低下することが明らかとなった。
【0111】
[実施例4]
ポリビニリデンフロライドからなる中空糸膜(旭化成ケミカルズ製PVDF-TP、外径2mm、膜厚0.3mm、平均細孔径0.45μm、膜断面は均質な構造)を用いた以外は、実施例1と同様な操作を行った。本中空糸膜モジュールの静菌試験結果及びγ線滅菌後の透水性能結果を表1に示す。用いた膜孔保持剤の静菌性が優れることが明らかとなった。さらに透水性能の低下が無いことが明らかとなった。滅菌後の膜孔保持剤のpHが中性であった。よって、膜孔保持剤をユーザーサイドで洗浄除去する必要がないことが明らかとなった。
【0112】
以上から、実施例に係る中空糸膜モジュールは、静菌性及び耐滅菌性に優れる医薬品の安全性に影響しない膜孔保持剤を中空糸膜の孔に保持することによって、ユーザーサイドにおける液体分離器の滅菌作業を不要として利便性を向上させ、さらに膜孔保持剤を用いること及び滅菌作業を不要として利便性を向上させることにより、医薬品を製造するユーザーサイドでただちに利用可能な中空糸膜モジュールであることが明らかとなった。
【0113】
[実施例5]
エタノール濃度を8重量%にした以外は、実施例4と同様な操作を行った。本中空糸膜モジュールの静菌試験結果及びγ線滅菌後の透水性能結果を表1に示す。用いた膜孔保持剤の静菌性が優れることが明らかとなった。さらに透水性能の低下が無いことが明らかとなった。滅菌後の膜孔保持剤のpHが中性であった。よって、膜孔保持剤をユーザーサイドで洗浄除去する必要がないことが明らかとなった。
【0114】
以上から、実施例に係る中空糸膜モジュールは、静菌性及び耐滅菌性に優れる医薬品の安全性に影響しない膜孔保持剤を中空糸膜の孔に保持することによって、ユーザーサイドにおける液体分離器の滅菌作業を不要として利便性を向上させ、さらに膜孔保持剤を用いること及び滅菌作業を不要として利便性を向上させることにより、医薬品を製造するユーザーサイドでただちに利用可能な中空糸膜モジュールであることが明らかとなった。
【0115】
[実施例6]
エタノール濃度を20重量%にした以外は、実施例4と同様な操作を行った。本中空糸膜モジュールの静菌試験結果及びγ線滅菌後の透水性能結果を表1に示す。用いた膜孔保持剤の静菌性が優れることが明らかとなった。さらに透水性能の低下が無いことが明らかとなった。滅菌後の膜孔保持剤のpHが中性であった。よって、膜孔保持剤をユーザーサイドで洗浄除去する必要がないことが明らかとなった。
【0116】
以上から、実施例に係る中空糸膜モジュールは、静菌性及び耐滅菌性に優れる医薬品の安全性に影響しない膜孔保持剤を中空糸膜の孔に保持することによって、ユーザーサイドにおける液体分離器の滅菌作業を不要として利便性を向上させ、さらに膜孔保持剤を用いること及び滅菌作業を不要として利便性を向上させることにより、医薬品を製造するユーザーサイドでただちに利用可能な中空糸膜モジュールであることが明らかとなった。
【0117】
[比較例2]
エタノール濃度を6重量%にした以外は、実施例と同様な操作を行った。本中空糸膜モジュールの静菌試験結果及びγ線滅菌後の透水性能結果を表1に示す。用いた膜孔保持剤が静菌性に劣ることが明らかとなった。さらに透水性能が大きく低下することが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0118】
本実施形態に係る中空糸膜モジュールは、静菌性及び耐滅菌性に優れる医薬品の安全性に影響しない膜孔保持剤を中空糸膜の孔に保持し、ユーザーサイドにおける液体分離器の滅菌作業を不要として利便性を向上させ、さらに膜孔保持剤を用いること及び滅菌作業を不要として利便性を向上させることにより医薬品を製造するユーザーサイドでただちに利用可能であることから、産業上好適に利用可能である。
【符号の説明】
【0119】
1:中空糸膜モジュール
2:レデユーサー
3:クランプバンド
4:クランプバンド
5:レデユーサー
6:チューブ
7:無菌コネクター
8:チューブ
9:無菌コネクター
10:ハウジング
11:チューブバンド
12:中空糸膜
13:支持部材
14a,14b:ポート
15a,15b:ポート
16:チューブバンド
17:ファーマロック・チューブクランプ
【要約】
【課題】ユーザーサイドにおける液体分離器の滅菌作業を不要として利便性を向上させることができる中空糸膜モジュールを提供する。
【解決手段】少なくとも2つのポートを有するハウジングと、ハウジング内に配置された中空糸膜と、ポートに取り付けられ、ハウジングと液体流通ラインとを接続する滅菌作業を不要とした無菌コネクターであって、少なくとも2つ以上の無菌コネクターと、を備える中空糸膜モジュールであって、中空糸膜の孔がアルコール水溶液からなる膜孔保持剤で保持された状態で、且つ、ポートと無菌コネクターとが一体化又は接続した密閉状態で滅菌されており、アルコール水溶液中のアルコール濃度が8重量%以上20重量%以下である、中空糸膜モジュール。
【選択図】図1
図1