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特許7490881P2Y12受容体アンタゴニストを有する水性医薬組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-17
(45)【発行日】2024-05-27
(54)【発明の名称】P2Y12受容体アンタゴニストを有する水性医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/675 20060101AFI20240520BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20240520BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20240520BHJP
   A61K 47/18 20170101ALI20240520BHJP
   A61P 7/02 20060101ALI20240520BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20240520BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240520BHJP
   A61J 1/05 20060101ALI20240520BHJP
【FI】
A61K31/675
A61K9/08
A61K47/02
A61K47/18
A61P7/02
A61P9/10
A61P43/00 111
A61J1/05 310
【請求項の数】 31
(21)【出願番号】P 2023501465
(86)(22)【出願日】2021-07-14
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-31
(86)【国際出願番号】 EP2021069579
(87)【国際公開番号】W WO2022013276
(87)【国際公開日】2022-01-20
【審査請求日】2023-01-10
(31)【優先権主張番号】PCT/EP2020/069976
(32)【優先日】2020-07-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】517248845
【氏名又は名称】イドルシア・ファーマシューティカルズ・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】IDORSIA PHARMACEUTICALS LTD
【住所又は居所原語表記】HEGENHEIMERMATTWEG 91, 4123 ALLSCHWIL, SWITZERLAND
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【弁理士】
【氏名又は名称】布施 行夫
(72)【発明者】
【氏名】ステファン ブッフマン
(72)【発明者】
【氏名】アマンディーヌ フレシャール
(72)【発明者】
【氏名】シャルリーズ ハーマン
(72)【発明者】
【氏名】セリーヌ リーンハート
(72)【発明者】
【氏名】マルクス フォン ラウマー
(72)【発明者】
【氏名】トビアス ヴェルク
【審査官】大島 彰公
(56)【参考文献】
【文献】特表2020-510043(JP,A)
【文献】Clinical Drug Investigation,Vol. 34,No. 11,2014年,p.807-818
【文献】Journal of Medicinal Chemistry,Vol. 58,No. 23,2015年,p.9133-9153
【文献】PDA Journal of Pharmaceutical Scienceand Technology,Vol. 65,No. 3,2011年,p.287-332
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/675
A61K 9/08
A61K 47/02
A61K 47/18
A61P 7/02
A61P 9/10
A61P 43/00
A61J 1/05
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
4-((R)-2-{[6-((S)-3-メトキシ-ピロリジン-1-イル)-2-フェニル-ピリミジン-4-カルボニル]-アミノ}-3-ホスホノ-プロピオニル)-ピペラジン-1-カルボン酸 ブチルエステル
薬学的に許容される緩衝液、及び

を含み
8.5から11.0の間のpH値を有する
水性医薬組成物。
【請求項2】
● 4-((R)-2-{[6-((S)-3-メトキシ-ピロリジン-1-イル)-2-フェニル-ピリミジン-4-カルボニル]-アミノ}-3-ホスホノ-プロピオニル)-ピペラジン-1-カルボン酸 ブチルエステル、
● 薬学的に許容される緩衝液、及び、
● 水、
を含み、
8.5から10.0の間のpH値を有する、
請求項1に記載の水性医薬組成物。
【請求項3】
前記4-((R)-2-{[6-((S)-3-メトキシ-ピロリジン-1-イル)-2-フェニル-ピリミジン-4-カルボニル]-アミノ}-3-ホスホノ-プロピオニル)-ピペラジン-1-カルボン酸 ブチルエステルの量、前記薬学的に許容される緩衝液の量、及び、前記水の量の合計が、前記水性医薬組成物の少なくとも95ww%である、請求項1又は2に記載の水性医薬組成物。
【請求項4】
前記水性医薬組成物の少なくとも90重量パーセントが、
0.7から7.0ww%の間の量の4-((R)-2-{[6-((S)-3-メトキシ-ピロリジン-1-イル)-2-フェニル-ピリミジン-4-カルボニル]-アミノ
}-3-ホスホノ-プロピオニル)-ピペラジン-1-カルボン酸 ブチルエステル
ホウ酸緩衝液又はアルギニン緩衝液から選択される薬学的に許容される緩衝液、及び、
水、
らなり;
8.7から9.5の間のpH値を有する
請求項1に記載の水性医薬組成物。
【請求項5】
前記水性医薬組成物の少なくとも90重量パーセントが、
● 0.7から7.0ww%の間の量の4-((R)-2-{[6-((S)-3-メトキシ-ピロリジン-1-イル)-2-フェニル-ピリミジン-4-カルボニル]-アミノ}-3-ホスホノ-プロピオニル)-ピペラジン-1-カルボン酸 ブチルエステル、
● ホウ酸緩衝液又はアルギニン緩衝液から選択される薬学的に許容される緩衝液、
● 水、及び、
● アルカリ金属又はアルカリ土類金属の無機塩、
からなり、
8.7から9.5の間のpH値を有する、
請求項1に記載の水性医薬組成物。
【請求項6】
前記水性医薬組成物の少なくとも99重量パーセントが、
● 0.7から7.0ww%の間の量の4-((R)-2-{[6-((S)-3-メトキシ-ピロリジン-1-イル)-2-フェニル-ピリミジン-4-カルボニル]-アミノ}-3-ホスホノ-プロピオニル)-ピペラジン-1-カルボン酸 ブチルエステル、
● ホウ酸緩衝液又はアルギニン緩衝液から選択される薬学的に許容される緩衝液、
● 水、及び、
● アルカリ金属又はアルカリ土類金属の無機塩、
からなり、
8.7から9.5の間のpH値を有する、
請求項1に記載の水性医薬組成物。
【請求項7】
● 0.7から7.0ww%の間の量の4-((R)-2-{[6-((S)-3-メトキシ-ピロリジン-1-イル)-2-フェニル-ピリミジン-4-カルボニル]-アミノ}-3-ホスホノ-プロピオニル)-ピペラジン-1-カルボン酸 ブチルエステル、
● ホウ酸緩衝液又はアルギニン緩衝液から選択される薬学的に許容される緩衝液、
● 水、及び、
● アルカリ金属又はアルカリ土類金属の無機塩、
からなり、
8.7から9.5の間のpH値を有する、
請求項1に記載の水性医薬組成物。
【請求項8】
4-((R)-2-{[6-((S)-3-メトキシ-ピロリジン-1-イル)-2-フェニル-ピリミジン-4-カルボニル]-アミノ}-3-ホスホノ-プロピオニル)-ピペラジン-1-カルボン酸 ブチルエステルの量が2.4ww%から3.8ww%の間である請求項1~7のいずれか一項に記載の水性医薬組成物。
【請求項9】
前記水性医薬組成物中の4-((R)-2-{[6-((S)-3-メトキシ-ピロリジン-1-イル)-2-フェニル-ピリミジン-4-カルボニル]-アミノ}-3-ホスホノ-プロピオニル)-ピペラジン-1-カルボン酸 ブチルエステルの質量濃度が、6mg/mLから60mg/mLの間である、請求項1~3のいずれか一項に記載の水性医薬組成物。
【請求項10】
前記薬学的に許容される緩衝液が、アンモニウム緩衝液、ホウ酸緩衝液、炭酸塩緩衝液、リン酸塩緩衝液、アルギニン緩衝液、グリシン緩衝液、ヒスチジン緩衝液、メグルミン緩衝液又はトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン緩衝液から選択される、請求項1~3、8又は9のいずれか一項に記載の水性医薬組成物。
【請求項11】
前記薬学的に許容される緩衝液が、アルギニン緩衝液である、請求項1~9のいずれか一項に記載の水性医薬組成物。
【請求項12】
前記薬学的に許容される緩衝液が、L-アルギニン緩衝液である、請求項1~9のいずれか一項に記載の水性医薬組成物。
【請求項13】
前記水性医薬組成物中の前記薬学的に許容される緩衝液のモル濃度が、40mmol/Lから100mmol/Lの間である、請求項1~12のいずれか一項に記載の水性医薬組成物。
【請求項14】
前記水性医薬組成物が8.7から9.5の間のpH値を有する、請求項1~13のいずれか1項に記載の水性医薬組成物。
【請求項15】
前記水性医薬組成物が塩化ナトリウムを有する、請求項1~14のいずれか1項に記載の水性医薬組成物。
【請求項16】
● 32.0±3.2mg/mLの濃度の4-((R)-2-{[6-((S)-3-メトキシ-ピロリジン-1-イル)-2-フェニル-ピリミジン-4-カルボニル]-アミノ}-3-ホスホノ-プロピオニル)-ピペラジン-1-カルボン酸 ブチルエステル、● 10.4±1.0mg/mLの濃度のL-アルギニン、
● 20.6±3.0mg/mLの濃度の塩化ナトリウム、
● pHが9.1±0.2に達する量の水酸化ナトリウム、及び、
● 注射用水、
からなる、請求項1に記載の水性医薬組成物。
【請求項17】
前記水性医薬組成物の浸透圧が、230mOsm/kgから1000mOsm/kgの間である、請求項1~15のいずれか1項に記載の水性医薬組成物。
【請求項18】
前記水性医薬組成物が容器内にあり、前記容器が、バイアル、アンプル、カートリッジ又はシリンジから選択される、請求項1~17のいずれか1項に記載の水性医薬組成物。
【請求項19】
25℃において1年間貯蔵した後の前記水性医薬組成物中の4-((R)-2-{[6-((S)-3-メトキシ-ピロリジン-1-イル)-2-フェニル-ピリミジン-4-カルボニル]-アミノ}-3-ホスホノ-プロピオニル)-ピペラジン-1-カルボン酸 ブチルエステルの量が、前記水性医薬組成物の最終的な調製直後の前記水性医薬組成物中の4-((R)-2-{[6-((S)-3-メトキシ-ピロリジン-1-イル)-2-フェニル-ピリミジン-4-カルボニル]-アミノ}-3-ホスホノ-プロピオニル)-ピペラジン-1-カルボン酸 ブチルエステルの量の少なくとも80%である、請求項1~18のいずれか1項に記載の水性医薬組成物。
【請求項20】
バイアル、アンプル、カートリッジ又はシリンジから選択される、請求項1~19のいずれか1項に記載の水性医薬組成物を有する容器。
【請求項21】
無菌処理を用いて前記水性医薬組成物を前記容器内に入れる、請求項20に記載の容器の
製造方法。
【請求項22】
有効成分として、4-((R)-2-{[6-((S)-3-メトキシ-ピロリジン-1-イル)-2-フェニル-ピリミジン-4-カルボニル]-アミノ}-3-ホスホノ-プロピオニル)-ピペラジン-1-カルボン酸 ブチルエステルを含む、疾患又は障害の予防又は治療において使用するための請求項1~19のいずれか1項に記載の水性医薬組成物であって、前記疾患又は障害が急性動脈血栓症又は急性静脈血栓症から選択される、水性医薬組成物。
【請求項23】
有効成分として、4-((R)-2-{[6-((S)-3-メトキシ-ピロリジン-1-イル)-2-フェニル-ピリミジン-4-カルボニル]-アミノ}-3-ホスホノ-プロピオニル)-ピペラジン-1-カルボン酸 ブチルエステルを含む、急性心筋梗塞の予防又は治療において使用するための、請求項1~19のいずれか1項に記載の水性医薬組成物。
【請求項24】
有効成分として、4-((R)-2-{[6-((S)-3-メトキシ-ピロリジン-1-イル)-2-フェニル-ピリミジン-4-カルボニル]-アミノ}-3-ホスホノ-プロピオニル)-ピペラジン-1-カルボン酸 ブチルエステルを含む、急性心筋梗塞が疑われる場合の救急処置において、病院収容前に患者による自己投与により使用するための、請求項1~19のいずれか1項に記載の水性医薬組成物。
【請求項25】
請求項2224のいずれか1項に記載された使用のための請求項1~19のいずれか1項に記載の水性医薬組成物であって、記水性医薬組成物が、皮下投与により投与されるか、及び/又は、投与されることが意図される、水性医薬組成物。
【請求項26】
有効成分として、4-((R)-2-{[6-((S)-3-メトキシ-ピロリジン-1-イル)-2-フェニル-ピリミジン-4-カルボニル]-アミノ}-3-ホスホノ-プロピオニル)-ピペラジン-1-カルボン酸 ブチルエステルを含む請求項1~19のいずれか1項に記載の水性医薬組成物を含む、急性動脈血栓症及び急性静脈血栓症から選択される疾患又は障害の予防用又は治療用の、医薬。
【請求項27】
有効成分として、4-((R)-2-{[6-((S)-3-メトキシ-ピロリジン-1-イル)-2-フェニル-ピリミジン-4-カルボニル]-アミノ}-3-ホスホノ-プロピオニル)-ピペラジン-1-カルボン酸 ブチルエステルを含む請求項1~19のいずれか1項に記載の水性医薬組成物を含む、急性心筋梗塞の予防用又は治療用の、医薬。
【請求項28】
急性動脈血栓症及び急性静脈血栓症から選択される疾患又は障害の予防用又は治療用の、医薬の製造のための使用であって、前記医薬が、有効成分として、4-((R)-2-{[6-((S)-3-メトキシ-ピロリジン-1-イル)-2-フェニル-ピリミジン-4-カルボニル]-アミノ}-3-ホスホノ-プロピオニル)-ピペラジン-1-カルボン酸 ブチルエステルを含む、請求項1~19のいずれか1項に記載の水性医薬組成物の使用。
【請求項29】
急性心筋梗塞の予防用又は治療用の、医薬の製造のための使用であって、前記医薬が、有効成分として、4-((R)-2-{[6-((S)-3-メトキシ-ピロリジン-1-イル)-2-フェニル-ピリミジン-4-カルボニル]-アミノ}-3-ホスホノ-プロピオニル)-ピペラジン-1-カルボン酸 ブチルエステルを含む、請求項1~19のいずれか1項に記載の水性医薬組成物の使用。
【請求項30】
前記医薬が、皮下投与により投与されるか、及び/又は、投与されることが意図される、
請求項26又は27に記載の医薬。
【請求項31】
前記医薬が、皮下投与により投与されるか、及び/又は、投与されることが意図される、請求項28又は29に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、P2Y12受容体アンタゴニスト、4-((R)-2-{[6-((S)-3-メトキシ-ピロリジン-1-イル)-2-フェニル-ピリミジン-4-カルボニル]-アミノ}-3-ホスホノ-プロピオニル)-ピペラジン-1-カルボン酸 ブチルエステル(4-((R)-2-{[6-((S)-3-methoxy-pyrrolidin-1-yl)-2-phenyl-pyrimidine-4-carbonyl]-amino}-3-phosphono-propionyl)-piperazine-1-carboxylic acid butyl ester)(以下、「化合物」。セラトグレル(Selatogrel)としても知られる。)及び薬学的に許容される緩衝液を有する水性医薬組成物;及び、非経口投与(特に、皮下(s.c.)又は皮内投与)による医薬としてのその使用に関する。
【0002】
【化1】
【背景技術】
【0003】
「化合物」の製造及び医薬用途が、WO2009/069100;WO2018/055016;WO2018/167139;Baldoni Dら、Clin Drug Investig(2014)、34(11)、807-818;Caroff Eら、J.Med.Chem.(2015)、58、9133-9153;Storey R Fら、European Heart Journal、ehz807、doi:10.1093/eurheartj/ehz807;及びSinnaeve P Rら、J Am Coll Cardiol(2020)、75(20)、2588-97(doi.org/10.1016/j.jacc.2020.03.059)に記載されている。
【0004】
血管の健常性が損なわれると、循環血小板は損傷を受けた血管壁に付着して凝集し、損傷部位をシールするプラグを形成し、血液の損失を防ぐ。検死研究により、動脈硬化プラークの破裂により、血小板血栓形成の制御が失われ、血管の閉塞を引き起こす可能性があることが示された(Davies MJら、(1986)Circulation 73
:418-427)。血小板凝集の阻害は、冠状動脈、抹消及び脳血管循環の動脈硬化性疾患を有する患者において、アテローム血栓性イベントの予防に対する効果的な戦略であると認識されている(Davi Gら、(2007)N Engl J Med 357:2482-2494)。
【0005】
ADP受容体P2Y及びP2Y12は、血小板の活性化及び凝集において重要な役割を担っている(Andre Pら、(2003)J Clin Invest 112:398-406)。P2Y12受容体を阻害することは、急性冠症候群(ACS)の患者において、有害な心血管系事象の主要なものを予防するための有効なコンセプトであることが、チエノピリジンであるチクロピジン(ticlopidine)、クロピドグレル(clopidogrel)及びプラスグレル(prasugrel)により示された(Franchi Fら、(2015)Nat Rev Cardiol 12:30-47)。これらの薬剤は、代謝による活性化に続いて、P2Y12受容体及び血小板の機能を不可逆的に遮断し(Antman EMら、(2004)Circulation 110:588-636;Anderson JLら、(2011)Circulation 123:e426-579)、効果の増大及び出血の増大をもたらす(Wiviott SDら、(2007)Circulation 116:2923-2932)。P2Y12ノックアウトマウスを用いた試験において、クロピドグレル及びプラスグレルは、ベヒクルと比較して、尾切断後より多くの失血を引き起こすことが示され、これは、失血の増大がチエノピリジンのオフターゲット効果に起因する可能性を示している(Andre Pら、(2011)J Pharmacol Exp Ther 338:22-30)。
【0006】
直接的に作用し、可逆的に結合するP2Y12アンタゴニストであるチカグレロル(ticagrelor)を用いた前臨床研究により、ラット及びイヌ血栓症モデルにおいて、クロピドグレルよりも広い治療域が示された(van Giezen JJら、(2009)Thromb Res 124:565-571;Becker RCら、(2010)Thromb Haemost 103:535-544)。この相違は、チカグレロルがP2Y12に可逆的に結合することで説明できると論じられた。チカグレロルは、患者のADP誘発血小板凝集をクロピドグレルよりも高いレベルで阻害し(Husted Sら、(2006)Eur Heart J 27:1038-1047;Cannon CPら、(2010)Lancet 375:283-293)、ポスト急性冠症候群(post acute coronary syndrome)の患者に対する主要な第3相試験(PLATO)において、チカグレロルはクロピドグレルに対して優位な効果を示し、大出血イベントに対するリスクにおいては有意な差はみられなかった。しかしながら、試験基準に基づく致死的な頭蓋内出血及び大量の又は少量の出血の有意な増大がチカグレロルについて報告された(Wallentin Lら、(2009)N Engl J Med 361:1045-1057)。ラットでは、「化合物」が、同等の抗血栓効果においてチカグレロルよりも有意に少ない失血を引き起こすことが記載された(Rey Mら、(2017)Pharma Res Per,5(5)、e00338(doi:10.1002/prp2.338))。
【0007】
血小板機能阻害薬、例えばグリコプロテインIIb/IIIa阻害剤をST上昇心筋梗塞(STEMI)の患者、特に症状の発現直後の患者に早期投与することの有効性が幾つかの研究により確認された(Van’t Hof AWら、(2008)Lancet 372:537-546;Herrmann HCら、(2009)JACC Cardiovasc Interv 2:917-924;ten Berg JMら、(2010)J Am Coll Cardiol 55:2446-2455)。さらに、STEMIの患者をクロピドグレルで前処置すると、過度の出血を起こすことなく虚血イベントの割合を減少させることができることが種々の研究及びメタアナリシスにより示唆さ
れた(Sabatine MSら、(2005)JAMA 294:1224-1232;Bellemain-Appaix Aら、(2012)JAMA 308:2507-2516;Zeymer Uら、(2012)Clin Res Cardiol 101:305-312)。しかしながら、クロピドグレルの有効性は、作用の発現が遅く、反応が可変的であるために限定される(Oliphant CSら、(2016)J Pharm Pract 29:26-34)。経口P2Y12受容体アンタゴニストであるチカグレロル及びプラスグレルが血小板機能を1時間未満の間に阻害することが報告された(Storey RFら、(2010)J Am Coll Cardiol 56:1456-1462;Wiviott SDら、(2007)Circulation 116:2923-2932)。しかしながら、これとは反対に、プラスグレル又はチカグレロルが血小板機能に対してその効果を完全に生じるのには、STEMIの患者において数時間を要することを示唆した研究がある(Alexopoulos Dら、(2012)Circ Cardiovasc Interv 5:797-804;Valgimigli Mら、(2012)JACC Cardiovasc Interv 5:268-277;Parodi Gら、(2013)J Am Coll Cardiol 61:1601-1606;Montalescot Gら、(2014)N Engl J Med 371:2339)。実際に、ATLANTIC臨床試験において(Montalescot Gら、(2013)N Engl J Med 369:999-1010)、進行中の(ongoing)STEMIの患者で、経口チカグレロルによる(救急車内での)早期プレホスピタル治療を受けた群と遅い段階で病院で(カテーテル室内で)はじめて治療を受けた群との間で、2種のcoprimaryエンドポイントに有意な差がないことがわかった。上記2種のcoprimaryエンドポイントは、(i) 経皮的冠動脈形成術(PCI)前にST上昇の70%以上の改善(resolution)を有さなかった患者の比率、及び(ii) 初回血管造影法(initial angiography)において梗塞責任血管(infarct-related
artery)における心筋梗塞flow grade3の血栓溶解を有さなかった患者の比率であった。Montalescotらは、この試験におけるPCIまでの極めて短い時間の他に、「別の潜在的な制限が経口投与されたP2Y12受容体アンタゴニストの吸収の遅延に関与しており」、「試験個体数の半数において、作用の開始はモルヒネ同時投与によりさらに遅延したのかもしれない」と述べた。従って、例えば急性冠症候群の患者において、血小板凝集の速やかで高度な阻害が得られ、血小板凝集の阻害を心臓症状の発症後できるだけ早期に達成することができる治療オプションが強く要望されている。
【0008】
「化合物」を患者に皮下投与することにより、特に「化合物」を、救急医療提供者の到着前に、患者又は親類により投与すると、血小板凝集の迅速で強い阻害に対するこの要望が達成される可能性があることがわかった。48人の健常な対象における、無作為化、二重盲検、プラセボ対照臨床試験において、「化合物」の最高血中濃度(maximum plasma concentration)に達する平均時間(median time)は、皮下投与後、1mgから8mgの間の用量ではTmax=0.5時間のみであり、16mg及び32mgの用量ではTmax=0.75時間であることが見出された(WO2018/167139、表2、第33頁;Juifら、J.Clin.Pharmacol.(2019)59(1)、123-130)。なおより重要なことは、「化合物1」を8mg、16mg及び32mgの用量で皮下投与した後15分で既に血小板凝集の85%を超える阻害の薬力学的効果が観察されたことである(WO2018/167139、表3、第34頁)。薬力学的効果の速やかな開始が、47人の急性心筋梗塞(AMI)の患者における臨床試験において確認された(Sinnaeve P Rら、J Am
Coll Cardiol(2020)、75(20)、2588-97(doi.org/10.1016/j.jacc.2020.03.059))。著者らは次のように結論付けている:「AMIの患者に対するセラトグレルの単回皮下投与は、安全であり、顕著で、迅速で、用量相関性の抗血小板反応を惹起した。」。
【発明の概要】
【0009】
皮下投与形態に適切であるためには、「化合物」を有する医薬組成物は、室温付近で貯蔵する場合には、少なくとも12月(特に少なくとも18月、とりわけ少なくとも24月)の間、十分に安定である必要がある。残念ながら、「化合物」の低いpH値の水溶液は十分に安定ではないことが見出された。例えば、「化合物」のpH7(NaOH水溶液で調整)の水溶液(32mg/mL)は、60℃で1週間保存した場合、33.5%の「化合物」しか含有しないが、65.2%の(R)-2-(6-((S)-3-メトキシピロリジン-1-イル)-2-フェニルピリミジン-4-カルボキサミド)-3-ホスホノプロパン酸(以下、「分解化合物」)を含んでいた(t=0、すなわち溶液の調製直後においては98.6%の「化合物」)。pH8.0及び9.0に調整した以外は同じ条件下で貯蔵した対応する水溶液については、「分解化合物」の量は、それぞれ24.4%及び10.0%に下がった。加えて、「化合物」の、緩衝液ではない、pH調整した水溶液のpH値は、この溶液を70℃で2日間貯蔵した後、pH9.0からpH8.5にシフトしたことが見出された。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、ガラスシリンジの外筒(barrel)の内部の走査型電子顕微鏡(SEM)画像を2つの異なる倍率で示す。外筒の内部の示されたエリアは、ホウ酸緩衝液を有する水性医薬組成物と70℃で6日間接触していた。
図2図2は、ガラスシリンジの外筒の内部の走査型電子顕微鏡(SEM)画像を2つの異なる倍率で示す。外筒の内部の示されたエリアは、ホウ酸緩衝液を有する水性医薬組成物と70℃で6日間接触していたエリアの外側であった。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の記述
驚くべきことに、「化合物」の水溶液の安定性は、この溶液を8.2又はそれより高いpH値で緩衝液とすることにより顕著に改善されることが見出された。
【0012】
1) 第1の態様は、
- 4-((R)-2-{[6-((S)-3-メトキシ-ピロリジン-1-イル)-2-フェニル-ピリミジン-4-カルボニル]-アミノ}-3-ホスホノ-プロピオニル)-ピペラジン-1-カルボン酸 ブチルエステル(「化合物」);
- 薬学的に許容される緩衝液;及び
- 水;
を含み;
上記水性医薬組成物が8.2から12.0の間のpH値を有する;
水性医薬組成物に関する。
【0013】
「化合物」は任意の形態で水性医薬組成物の製造に使用してよいものとする。例えば、「化合物」は、任意の非晶質又は結晶形で、無水物の形態で、又は、水和物若しくは薬学的に許容される溶媒和物の形態で、遊離化合物の形態(すなわち非塩形態)で、薬学的に許容される塩の形態で、又は、かかる形態の任意の混合物で使用してよい。好ましい態様において、「化合物」は、塩酸塩の形態で(特にWO2018/055016に開示される多形体で)水性医薬組成物の製造に使用される。別の好ましい態様において、「化合物」は二ナトリウム塩の形態で水性医薬組成物の製造に使用される。なお別の好ましい態様において、「化合物」は遊離化合物の形態(非塩形態)で水性医薬組成物の製造に使用される。「化合物」又はその薬学的に許容される塩は、本質的に純粋な形態で本発明の医薬組成物の製造に使用されることが好ましい。「化合物」の量は、実際の化学的純度、又は、「化合物」の塩形態の及び/又は溶媒和物若しくは水和物の存在を考慮に入れて調整し
てよい。
【0014】
さらに、上記水性医薬組成物のpH値は、薬学的に許容される塩基を用いて目標値に調整してよいものとする。上記水性医薬組成物の製造に使用される上記薬学的に許容される塩基は、薬学的に許容される強塩基、上記薬学的に許容される緩衝液の塩基性成分とは異なる薬学的に許容される弱塩基、又は、上記水性医薬組成物に使用される上記薬学的に許容される緩衝液の塩基性成分であってよい。上記薬学的に許容される緩衝液の塩基性成分は、本質的に純粋な形態又は上記薬学的に許容される緩衝液の酸性成分との混合物(上記塩基性と酸性成分の比率は、水性医薬組成物のpH値を目標値に調整するのに十分に高い)であってよいものとする。好ましい態様において、上記薬学的に許容される塩基は、薬学的に許容される強塩基、又は、上記水性医薬組成物において使用される上記薬学的に許容される緩衝液の塩基性成分である。最も好ましい態様において、上記薬学的に許容される塩基は薬学的に許容される強塩基(特に水酸化ナトリウム)である。水性医薬組成物のpH値を調整するために、薬学的に許容される塩基は、溶媒を有さない本質的に純粋な形態で、又は、薬学的に許容される溶媒又は溶媒混合物中の溶液(特に水溶液)として使用してよい。最も好ましい態様において、水酸化ナトリウム水溶液が薬学的に許容される塩基として使用される。
【0015】
pH調整の前の水性医薬組成物のpH値が目標pH値より高い場合にのみ、薬学的に許容される酸、塩酸等の特に薬学的に許容される強酸をpH調整に使用してよい。
【0016】
特に1又は数年貯蔵した場合、水性医薬組成物のpH値が時間の経過により変化することがあることは当該技術分野において既知である。従って、水性医薬組成物が特定の下限から特定の上限の間のpH値を有するものと記述及び/又はクレームされている場合には、少なくとも水性医薬組成物の最終的な調製(すなわち、すべての成分が水性医薬組成物に加えられた)直後(例えば1時間又は2時間後)において、水性医薬組成物のpH値が上記特定の下限及び上記特定の上限により規定された範囲内にあることを意味する。好ましくは、pH値は、水性医薬組成物の最終的な調製の後、少なくとも6月(好ましくは少なくとも12月、最も好ましくは少なくとも18月)の間、上記特定の下限及び上記特定の上限により規定された範囲内に留まる。
【0017】
「薬学的に許容される緩衝液」という用語は、弱ブレンステッド塩基(薬学的に許容される緩衝液の塩基性成分)及びその共役酸(薬学的に許容される緩衝液の酸性成分)の混合物を意味し、両者(上記弱塩基及び共役酸)は最小の望ましくない毒性作用を示す。弱塩基は無機又は有機塩基であってよく、中性分子の形態又はプロトン付加可能なアニオンを有する塩の形態であってよい。疑義を避けるために、本出願において、ホウ酸は弱ブレンステッド酸であるものとし、従ってホウ酸緩衝液は薬学的に許容される緩衝液の定義に含まれる。薬学的に許容される緩衝液は、水中25℃において、pKa値が目標pH値±1.5(pH-1.5≦pKa≦pH+1.5)の範囲内である薬学的に許容される緩衝液の群より選択され;好ましくは、水中25℃において、pKa値が目標pH値±1(pH-1≦pKa≦pH+1)の範囲内である薬学的に許容される緩衝液である。例えば、水性医薬組成物の目標値がpH=9.0である場合には、薬学的に許容される緩衝液は、水中25℃において、pKa値が7.5から10.5の間(好ましくは8.0から10.0の間)の範囲内である薬学的に許容される緩衝液から選択される。薬学的に許容される緩衝液の例は、アンモニウム緩衝液(ammonium buffer)、ホウ酸緩衝液、炭酸塩緩衝液(carbonate buffer)、リン酸塩緩衝液(phosphate buffer)、アルギニン緩衝液、グリシン緩衝液、ヒスチジン緩衝液、メグルミン緩衝液(meglumine buffer)(N-メチル-D-グルカミン緩衝液としても知られる。)、2-アミノエタノール緩衝液(モノエタノールアミン緩衝液としても知られる。)、ビス(2-ヒドロキシエチル)アミン緩衝液(ジエタノールアミン
緩衝液としても知られる。)及びトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン緩衝液(トロメタミン(tromethamine)又はTris緩衝液としても知られる。)である。上記薬学的に許容される緩衝液はリン酸塩緩衝液ではないことが好ましい。最も好ましくはホウ酸緩衝液及びアルギニン緩衝液である。
【0018】
上記薬学的に許容される緩衝液は:アンモニウム緩衝液については、塩化アンモニウム、臭化アンモニウム又はアンモニア(例えば水溶液として);ホウ酸緩衝液については、ホウ酸又はテトラホウ酸ナトリウム;炭酸塩緩衝液については、炭酸水素ナトリウム又は炭酸ナトリウム;リン酸塩緩衝液については、リン酸二水素ナトリウム又はリン酸水素二ナトリウム;アルギニン緩衝液については、アルギニン又はアルギニン塩酸塩;グリシン緩衝液については、グリシン又はグリシン塩酸塩;ヒスチジン緩衝液については、ヒスチジン又はヒスチジン塩酸塩;メグルミン緩衝液については、N-メチル-D-グルカミン又はN-メチル-D-グルカミン塩酸塩;2-アミノエタノール緩衝液については、2-アミノエタノール又は2-アミノエタノール塩酸塩;ビス(2-ヒドロキシエチル)アミン緩衝液については、ビス(2-ヒドロキシエチル)アミン又はビス(2-ヒドロキシエチル)アミン塩酸塩;トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン緩衝液については、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン又はトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン塩酸塩;又は任意の他の適切な出発物質から得てよい。
【0019】
アミノ酸、アルギニン又はヒスチジンの1つに対するいかなる言及も、そのD型、そのL型の各アミノ酸又はそれらの任意の混合物(ラセミ体混合物を含む。)を;特に、エナンチオマーとして本質的に純粋なそのL型の各アミノ酸を意味するものとする。
【0020】
「薬学的に許容される塩」という用語は、対象化合物の所望の生物活性を保持し、かつ最小の望ましくない毒性作用を示す塩を意味する。そのような塩としては、対象化合物中の塩基性基及び/又は酸性基の存在に応じた、無機又は有機の酸及び/又は塩基付加塩が挙げられる。参考としては、例えば、「Handbook of Pharmaceutical Salts.Properties、Selection and Use.」、P.Heinrich Stahl、Camille G.Wermuth(Eds.)、Wiley-VCH、2008;及び「Pharmaceutical Salts and Co-crystals」、Johan Wouters and Luc
Quere(Eds.)、RSC Publishing、2012を参照されたい。
【0021】
「化合物」の好ましい薬学的に許容される塩は「化合物」の塩酸塩(酸付加塩)である。「化合物」の他の好ましい薬学的に許容される塩は、「化合物」のアルカリ金属及びアルカリ土類金属塩(塩基付加塩);特に、「化合物」のナトリウム及びカリウム塩、とりわけナトリウム塩である。塩基付加塩において、「化合物」の一方又は両方の酸性プロトンは塩基のカチオンにより置き換えられてよいものとする。「化合物」の最も好ましい塩基付加塩は「化合物」の二ナトリウム塩である。
【0022】
水性医薬組成物のpH値の調整に関し、「薬学的に許容される塩基」という用語は、ブレンステッド塩基であって、そのpH値調整の反応生成物(例えば、水酸化ナトリウムを塩基として使用する場合には、ナトリウム塩及び水)が最小の望ましくない毒性作用を示すブレンステッド塩基を意味する。「薬学的に許容される強塩基」という用語は、水に溶解させた場合に、完全に又はほぼ完全にイオン化し又は解離する「薬学的に許容される塩基」を意味する。薬学的に許容される強塩基の例は、アルカリ又はアルカリ土類金属の水酸化物塩;特に、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウム;とりわけ水酸化ナトリウムである。
【0023】
「化合物」の溶媒和物は、溶媒和物を形成する溶媒が最小の望ましくない毒性作用を示
す場合には、「薬学的に許容される溶媒和物」である。
【0024】
水性医薬組成物のpH値に関し、「目標値」(あるいは、「目標pH値」)という用語は、水性医薬組成物が調整されるべきpH値を意味する。好ましくは、最終的な調製直後の水性医薬組成物のpH値は目標値と同じである。
【0025】
「本質的に」という用語は、例えば「本質的に純粋な」等の用語中で使用される場合、本発明に関しては特に、それぞれの組成物/成分/化合物/立体異性体等の少なくとも90重量パーセント、特に、少なくとも95重量パーセント、そしてとりわけ少なくとも99重量パーセントの量が、それぞれ、純粋な組成物/成分/化合物/立体異性体等であることを意味するものと理解される。特に、「から本質的になる」という用語は、本発明に関しては、それぞれの組成物が、各態様に明示的に記載される量のそれぞれの組成物の少なくとも90重量パーセント、特に少なくとも95重量パーセント、とりわけ少なくとも99重量パーセントの量で、殊に100重量パーセントの量で(すなわち、「からなる」の意味で)存在することを意味するものと理解される。
【0026】
以下の態様1)及び態様2)~60)に定義する水性医薬組成物の総重量パーセントは100である。
【0027】
いかなる疑義をも避けるために、当然のことながら、態様1)及び2)~6)および10)~60)に定義する医薬組成物は、さらなる従来の成分及び/又は添加剤をさらに有してよく、これらは単独で又は組み合わせて使用してよい。
【0028】
本明細書で言及するこれらの及び他の薬学的に許容される賦形剤及び手法については、この主題に関する膨大な文献が参照され、例えば、R.C.Rowe、P.J.Seskey、S.C.Owen、Handbook of Pharmaceutical Excipients、第5版、Pharmaceutical Press 2006;Remington、The Science and Practice of Pharmacy、第21版(2005)、Part 5、「Pharmaceutical
Manufacturing」[Lippincott Williams&Wilkinsより出版。];及びNema、Brendel、Excipients and Their Role in Approved Injectable Products:Current Usage and Future Directions、PDA J Pharm Sci and Tech (2011)、65、287-332を参照されたい。
【0029】
かかる従来の成分又は添加剤の例は、塩(例えば、NaCl、KCl、MgCl、CaCl)等の浸透圧調節剤である。さらなる従来の成分又は添加剤は、例えば注射用静菌水(bacteriostatic water for injection)において使用されるような抗菌保存剤である。例はベンジルアルコールである。
【0030】
上記水性医薬組成物は、水に加えて、最大20ww%(特に最大10ww%、とりわけ最大5ww%)の薬学的に許容される溶媒又は薬学的に許容される溶媒の混合物をさらに有してよいものとする。「薬学的に許容される溶媒」という用語は、最小の望ましくない毒性作用を示す溶媒を意味する。薬学的に許容される溶媒の代表的な例は、ポリエチレングリコール、ポリソルベート、DMSO及びNMPである。好ましい態様において、上記水性医薬組成物は、水に加えて、(水性医薬組成物の調製において使用した成分中に存在する微量の残存溶媒以外の)薬学的に許容される溶媒を含まない。
【0031】
「医薬組成物」という用語は「製剤」という用語と交換可能である。
【0032】
温度に関して使用されていない場合には、数値「X」の前に置かれる「約」という用語は、本出願において、X-Xの10%からX+Xの10%にわたる範囲、好ましくはX-Xの5%からX+Xの5%にわたる範囲を表す(当然ながら、上記下限は0%であるか又はそれより大きく、上記上限は100%であるか又はそれ未満であるものとする。)。温度の特定の場合には、温度「Y」の前に置かれる「約」の用語は、本出願において、Y-10℃からY+10℃にわたる範囲、好ましくはY-5℃からY+5℃にわたる範囲を表す。
【0033】
数値範囲を記述するために「間」又は「から(~)」の語が使用される場合は常に、示された範囲の末端の点は明示的に開示され、その範囲に含まれると解される。例えば、pH値が8.2から12.0の間(又は、8.2から(~)12.0)であると記述される場合、末端の点である8.2と12.0はその範囲に含まれることを意味し、あるいは、可変数が1から4の間(又は、1から(~)4)の整数であると定義される場合、可変数は整数の1、2、3又は4であることを意味する。
【0034】
「ww%」(又は、%(w/w))という表現は、考慮している組成物の総重量に対する重量パーセントを意味する。明示的に別段の記載がない限り、考慮される総重量は水性医薬組成物の総重量である。ある値が%値として記載され、さらなる特定がない場合は、その値はww%を意味する。比率に関する表現(wt/wt)は各成分の重量比を意味する。
【0035】
本発明のさらなる態様を以下に記載する:
2) 別の態様において、本発明は:
- 0.1から20ww%の間の量の「化合物」;
- 薬学的に許容される緩衝液;及び
- 水;
を含み;
8.5から11.0の間のpH値を有する;
水性医薬組成物に関する。
【0036】
3) 別の態様において、本発明は、「化合物」の量、薬学的に許容される緩衝液の量及び水の量の合計が、前記水性医薬組成物の少なくとも80ww%である、態様1)又は2)のいずれか1つに従う水性医薬組成物に関する。
【0037】
4) 別の態様において、本発明は、「化合物」の量、薬学的に許容される緩衝液の量及び水の量の合計が、前記水性医薬組成物の少なくとも90ww%である、態様1)又は2)のいずれか1つに従う水性医薬組成物に関する。
【0038】
5) 別の態様において、本発明は、「化合物」の量、薬学的に許容される緩衝液の量及び水の量の合計が、前記水性医薬組成物の少なくとも95ww%である、態様1)又は2)のいずれか1つに従う水性医薬組成物に関する。
【0039】
6) 別の態様において、本発明は、「化合物」の量、薬学的に許容される緩衝液の量及び水の量の合計が、前記水性医薬組成物の少なくとも98ww%である、態様1)又は2)のいずれか1つに従う水性医薬組成物に関する。
【0040】
7) 別の態様において、本発明は、
- 0.1から20ww%の間の量の「化合物」;
- 薬学的に許容される緩衝液;
- 水;及び、
- 任意で、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の(好ましくは、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム又はカルシウムの、最も好ましくは、ナトリウム又はカリウムの)無機塩;
から本質的になり;
8.5から11.0の間のpH値を有する;
態様1)に従う水性医薬組成物に関する。
【0041】
無機塩等の任意に存在する賦形剤に関して使用される「任意に(で)」という用語は、前記水性医薬組成物中に上記賦形剤が存在してもよく、又は、存在しなくてもよいことを意味する。
【0042】
8) 別の態様において、本発明は、
- 0.7から7.0ww%の間の量の「化合物」;
- ホウ酸緩衝液又はアルギニン緩衝液から選択される薬学的に許容される緩衝液;
- 水;及び、
- 任意で、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の(好ましくは、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム又はカルシウムの、最も好ましくは、ナトリウム又はカリウムの)無機塩;
から本質的になり;
8.7から9.5の間のpH値を有する;
態様1)に従う水性医薬組成物に関する。
【0043】
9) 別の態様において、本発明は、前記医薬組成物を、
- 4-((R)-2-{[6-((S)-3-メトキシ-ピロリジン-1-イル)-2-フェニル-ピリミジン-4-カルボニル]-アミノ}-3-ホスホノ-プロピオニル)-ピペラジン-1-カルボン酸 ブチルエステル塩酸塩を、アルギニン又はホウ酸、及び、任意で塩化ナトリウムの水中の溶液に加えること;及び
- 薬学的に許容される強塩基(特に水酸化ナトリウム)の水溶液を、8.2から12.0の間の目標pH値に達するまで加えること;
により得ることができ;
最終的な医薬組成物中の「化合物」の量が0.1ww%から20ww%の間である;
態様1)~6)のいずれか1つに従う水性医薬組成物に関する。
【0044】
10) 別の態様において、本発明は、「化合物」の量が0.1ww%から20ww%の間である、態様1)又は3)~6)のいずれか1つに従う水性医薬組成物に関する。
【0045】
11) 別の態様において、本発明は、「化合物」の量が0.7ww%から7.0ww%の間である、態様1)~9)のいずれか1つに従う水性医薬組成物に関する。「化合物」の量の下限は、0.7ww%、1.0ww%及び2.0ww%であり、上限は7.0ww%、5.0ww%及び4.0ww%である。各下限は各上限と組み合わせることができるものとする。従って、すべての組み合わせが本明細書に開示されていることになる。好ましい「化合物」の量は1.0ww%から5.0ww%までである。
【0046】
12) 別の態様において、本発明は、「化合物」の量が2.4ww%から3.8ww%の間である、態様1)~9)のいずれか1つに従う水性医薬組成物に関する。
【0047】
13) 別の態様において、本発明は、前記水性医薬組成物中の「化合物」の質量濃度が、6mg/mLから60mg/mLの間、好ましくは15mg/mLから45mg/mLの間、最も好ましくは25mg/mLから40mg/mLの間である、態様1)又は3
)~6)のいずれか1つに従う水性医薬組成物に関する。
【0048】
14) 別の態様において、本発明は、前記水性医薬組成物中の「化合物」の質量濃度が約32mg/mLである、態様1)~9)のいずれか1つに従う水性医薬組成物に関する。
【0049】
15) 別の態様において、本発明は、前記薬学的に許容される緩衝液が、水中25℃において、8.0から11.0の間のpKa値を有する、態様1)~7)又は10)~14)のいずれか1つに従う水性医薬組成物に関する。pKa値の下限は、8.0、8.5及び8.8であり、上限は、11.0、10.0及び9.5である。各下限は各上限と組み合わせることができるものとする。従って、すべての組み合わせが本明細書に開示されていることになる。さらに、二又は三塩基酸の場合には、2又は3つのpKa値の1つのみが上記の範囲内になければならないものとする。
【0050】
16) 別の態様において、本発明は、前記薬学的に許容される緩衝液が、水中25℃において、8.8から9.5の間のpKa値を有する、態様1)~7)又は10)~14)のいずれか1つに従う水性医薬組成物に関する。
【0051】
17) 別の態様において、本発明は、前記薬学的に許容される緩衝液が、アンモニウム緩衝液、ホウ酸緩衝液、炭酸塩緩衝液、リン酸塩緩衝液、アルギニン緩衝液、グリシン緩衝液、ヒスチジン緩衝液、メグルミン緩衝液又はトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン緩衝液から(好ましくは、アンモニウム緩衝液、ホウ酸緩衝液、炭酸塩緩衝液、アルギニン緩衝液、グリシン緩衝液、ヒスチジン緩衝液、メグルミン緩衝液又はトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン緩衝液から)選択される、態様1)~7)又は10)~14)のいずれか1つに従う水性医薬組成物に関する。
【0052】
18) 別の態様において、本発明は、前記薬学的に許容される緩衝液が、ホウ酸緩衝液又はアルギニン緩衝液(好ましくはホウ酸緩衝液又はL-アルギニン緩衝液)から選択される、態様1)~14)のいずれか1つに従う水性医薬組成物に関する。
【0053】
19) 別の態様において、本発明は、前記薬学的に許容される緩衝液がホウ酸緩衝液である、態様1)~14)のいずれか1つに従う水性医薬組成物に関する。
【0054】
20) 別の態様において、本発明は、前記薬学的に許容される緩衝液がアルギニン緩衝液である、態様1)~14)のいずれか1つに従う水性医薬組成物に関する。
【0055】
21) 別の態様において、本発明は、前記薬学的に許容される緩衝液がL-アルギニン緩衝液である、態様1)~14)のいずれか1つに従う水性医薬組成物に関する。
【0056】
「L-アルギニン緩衝液」という用語は、L型とD型のエナンチオマー比が、少なくとも90/10、好ましくは少なくとも95/5、より好ましくは少なくとも99/1、最も好ましくは少なくとも99.9/0.1である、アルギニン緩衝液を意味する。
【0057】
22) 別の態様において、本発明は、前記水性医薬組成物中の前記薬学的に許容される緩衝液のモル濃度が10mmol/Lから300mmol/Lの間である、態様1)~21)のいずれか1つに従う水性医薬組成物に関する。前記水性医薬組成物中の前記薬学的に許容される緩衝液のモル濃度の下限は、10mmol/L、25mmol/L及び40mmol/Lであり、上限は、300mmol/L、200mmol/L及び100mmol/Lである。各下限は各上限と組み合わせることができるものとする。従って、すべての組み合わせが本明細書に開示されていることになる。
【0058】
「前記薬学的に許容される緩衝液のモル濃度」という用語は、各水性医薬組成物中の緩衝系のすべての異なるプロトン化された及び脱プロトン化された成分のモル濃度の合計を意味する。「前記薬学的に許容される緩衝液のモル濃度」は、水性医薬組成物の調製中に加えられた緩衝液成分の量(モル)を最終的に調製された水性医薬組成物の総体積(リットル)で割ることにより算出してよい。一塩基緩衝液(monoprotic buffer)の特別の場合には、「前記薬学的に許容される緩衝液のモル濃度」という用語は、各水性医薬組成物中の、前記薬学的に許容される緩衝液の塩基性成分のモル濃度の、及び、前記薬学的に許容される緩衝液の酸性成分のモル濃度の合計を意味する。
【0059】
前記水性医薬組成物中の前記薬学的に許容される緩衝液の緩衝能(buffer capacity)は10mM/pHから170mM/pHの間であることが好ましい。緩衝能の下限は、10mM/pH、15mM/pH及び20mM/pHであり;上限は、170mM/pH、100mM/pH及び60mM/pHである。各下限は各上限と組み合わせることができるものとする。従って、すべての組み合わせが本明細書に開示されていることになる。好ましくは、緩衝能は20mM/pHから60mM/pHの間である。
【0060】
23) 別の態様において、本発明は、前記水性医薬組成物中の前記薬学的に許容される緩衝液のモル濃度が、25mmol/Lから200mmol/Lの間である、態様1)~21)のいずれか1つに従う水性医薬組成物に関する。
【0061】
24) 別の態様において、本発明は、前記水性医薬組成物中の前記薬学的に許容される緩衝液のモル濃度が、40mmol/Lから100mmol/Lの間である、態様1)~21)のいずれか1つに従う水性医薬組成物に関する。
【0062】
25) 別の態様において、本発明は、前記水性医薬組成物中の前記薬学的に許容される緩衝液のモル濃度が約60mmol/Lである、態様1)~21)のいずれか1つに従う水性医薬組成物に関する。
【0063】
26) 別の態様において、本発明は、前記水が、注射用水(WFI)、注射用蒸留水(SWFI)又は注射用静菌水(BWFI)である、態様1)~25)のいずれか1つに従う水性医薬組成物に関する。
【0064】
27) 別の態様において、本発明は、前記水が注射用水(WFI)である、態様1)~25)のいずれか1つに従う水性医薬組成物に関する。
【0065】
28) 別の態様において、本発明は、前記水性医薬組成物が8.5から11.0の間のpH値を有する、態様1)~7)又は9)~27)のいずれか1つに従う水性医薬組成物に関する。水性医薬組成物のpH値の下限は、8.5、8.7及び8.9であり;上限は、11.0、9.5及び9.3である。各下限は各上限と組み合わせることができるものとする。従って、すべての組み合わせが本明細書に開示されていることになる。
【0066】
29) 別の態様において、本発明は、前記水性医薬組成物が8.7から9.5の間のpH値を有する、態様1)~27)のいずれか1つに従う水性医薬組成物に関する。
【0067】
30) 別の態様において、本発明は、前記水性医薬組成物が8.9から9.3の間のpH値を有する、態様1)~27)のいずれか1つに従う水性医薬組成物に関する。
【0068】
31) 別の態様において、本発明は、前記無機塩が存在する場合には、前記無機塩が、式MX(Mは、リチウム、ナトリウム又はカリウムを表し、Xは、塩素又は臭素を表す
。);又はMX(Mは、マグネシウム又はカルシウムを表し、Xは、塩素又は臭素を表す。)の塩から選択される、態様1)~30)のいずれか1つに従う水性医薬組成物に関する。
【0069】
32) 別の態様において、本発明は、前記無機塩が存在する場合には、前記無機塩が、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム又はそれらの任意の混合物(好ましくは、塩化ナトリウム、塩化カリウム又はそれらの任意の混合物;最も好ましくは塩化ナトリウム)から選択される、態様1)~30)のいずれか1つに従う水性医薬組成物に関する。
【0070】
33) 別の態様において、本発明は、前記水性医薬組成物が塩化ナトリウムを有する、態様1)~30)のいずれか1つに従う水性医薬組成物に関する。
【0071】
前記無機塩(特に塩化ナトリウム)は、前記水性医薬組成物の浸透圧を、230mOsm/kg以上の値に、特に230mOsm/kgから1000mOsm/kgの間の値に調整するために使用される。前記水性医薬組成物の浸透圧の下限は、230mOsm/kg、250mOsm/kg及び270mOsm/kgであり;上限は、1000mOsm/kg、500mOsm/kg及び330mOsm/kgである。各下限は各上限と組み合わせることができるものとする。従って、すべての組み合わせが本明細書に開示されていることになる。好ましくは、浸透圧は270mOsm/kgから330mOsm/kgの間である。
【0072】
34) 別の態様において、本発明は、前記水性医薬組成物が容器(container)内にある、態様1)~33)のいずれか1つに従う水性医薬組成物に関する。
【0073】
35) 別の態様において、本発明は、前記容器が、バイアル、アンプル、カートリッジ又はシリンジから選択される、態様34)に従う水性医薬組成物に関する。
【0074】
36) 別の態様において、本発明は、前記容器がシリンジである、態様34)に従う水性医薬組成物に関する。
【0075】
37) 別の態様において、本発明は、前記容器がガラス容器(好ましくはガラスシリンジ)である、態様34)~36)のいずれか1つに従う水性医薬組成物に関する。
【0076】
38) 別の態様において、本発明は、前記容器が0.1mLから5.0mLの間の内容積を有する、態様34)~37)のいずれか1つに従う水性医薬組成物に関する。前記内容積の下限は、0.1mL、0.3mL、0.5mL及び0.8mLであり、上限は、5.0mL、3.0mL、2.3mL及び1.0mLである。各下限は各上限と組み合わせることができるものとする。従って、すべての組み合わせが本明細書に開示されていることになる。
【0077】
39) 別の態様において、本発明は、前記容器が0.5mLから2.3mLの間の内容積を有する、態様34)~37)のいずれか1つに従う水性医薬組成物に関する。
【0078】
40) 別の態様において、本発明は、前記容器中の前記水性医薬組成物の量が、単位用量(unit dose)の量に相当する、態様34)~39)のいずれか1つに従う水性医薬組成物に関する。
【0079】
「単位用量」という用語は、単回投与で患者に投与される、及び/又は、投与されるべき水性医薬組成物の量を意味する。
【0080】
「単位用量の量に相当する」の文脈で使用される「相当する」という用語は、水性医薬組成物の量が、単位用量の量に投与中の水性医薬組成物の損失を補うための少量の添加を加えたものに等しいことを意味し、かかる損失は、例えば各注射器具(例えば、シリンジ、自動注射装置(autoinjector)、医療用ポンプ等)のデッドボリュームにより生じる損失である。
【0081】
41) 別の態様において、本発明は、前記容器中の前記水性医薬組成物の体積が0.1mLから3.0mLの間である、態様40)に従う水性医薬組成物に関する。前記容器中の前記水性医薬組成物の体積の下限は、0.1mL、0.2mL、0.3mL及び0.4mLであり、上限は、3.0mL、1.5mL、1.0mL及び0.7mLである。各下限は各上限と組み合わせることができるものとする。従って、すべての組み合わせが本明細書に開示されていることになる。
【0082】
42) 別の態様において、本発明は、前記容器中の前記水性医薬組成物の体積が0.3mLから1.0mLの間(好ましくは0.4mLから0.7mLの間)である、態様40)に従う水性医薬組成物に関する。
【0083】
43) 別の態様において、本発明は、前記容器中の前記水性医薬組成物中の「化合物」の量が4.0mgから32.0mgの間である、態様40)~42)のいずれか1つに従う水性医薬組成物に関する。前記容器中の前記水性医薬組成物中の「化合物」の量の下限は、4.0mg、7.0mg、10.0mg及び14.0mgであり、上限は、32.0mg、28.0mg、24.0mg及び20.0mgである。各下限は各上限と組み合わせることができるものとする。従って、すべての組み合わせが本明細書に開示されていることになる。
【0084】
44) 別の態様において、本発明は、前記容器中の前記水性医薬組成物中の「化合物」の量が14.0mgから20.0mgの間である、態様40)~42)のいずれか1つに従う水性医薬組成物に関する。
【0085】
45) 別の態様において、本発明は、前記容器中の前記水性医薬組成物の量が2又は3以上の(最大で10)単位用量(好ましくは、2~5、最も好ましくは2又は3単位用量)に相当する、態様34)~39)のいずれか1つに従う水性医薬組成物に関する。
【0086】
46) 別の態様において、本発明は、前記容器が自動注射装置(好ましくはペンインジェクター装置(pen-injector device))内に挿入される、態様34)~45)のいずれか1つに従う水性医薬組成物に関する。
【0087】
47) 別の態様において、本発明は、前記水性医薬組成物が、乳濁液、懸濁液又は溶液である、態様1)~46)のいずれか1つに従う水性医薬組成物に関する。
【0088】
48) 別の態様において、本発明は、前記水性医薬組成物が溶液である、態様1)~46)のいずれか1つに従う水性医薬組成物に関する。
【0089】
49) 別の態様において、本発明は、前記水性医薬組成物が無菌である、態様1)~48)のいずれか1つに従う水性医薬組成物に関する。
【0090】
50) 別の態様において、本発明は、前記水性医薬組成物がパイロジェンフリー(pyrogen-free)である、態様1)~49)のいずれか1つに従う水性医薬組成物に関する。
【0091】
51) 別の態様において、本発明は、25℃において1年間貯蔵した後の前記水性医薬組成物中の「化合物」の量が、前記水性医薬組成物の最終的な調製(すなわち、すべての成分が水性医薬組成物に加えられた)直後(例えば1時間又は2時間後)の前記水性医薬組成物中の「化合物」の量の少なくとも80%(好ましくは少なくとも85%、最も好ましくは少なくとも90%)である、態様1)~50)のいずれか1つに従う水性医薬組成物に関する。
【0092】
52) 別の態様において、本発明は、25℃において2年間貯蔵した後の前記水性医薬組成物中の「化合物」の量が、前記水性医薬組成物の最終的な調製(すなわち、すべての成分が水性医薬組成物に加えられた)直後(例えば1時間又は2時間後)の前記水性医薬組成物中の「化合物」の量の少なくとも80%(好ましくは少なくとも85%、最も好ましくは少なくとも90%)である、態様1)~50)のいずれか1つに従う水性医薬組成物に関する。
【0093】
53) 別の態様において、本発明は、25℃において3年間貯蔵した後の前記水性医薬組成物中の「化合物」の量が、前記水性医薬組成物の最終的な調製(すなわち、すべての成分が水性医薬組成物に加えられた)直後(例えば1時間又は2時間後)の前記水性医薬組成物中の「化合物」の量の少なくとも80%(好ましくは少なくとも85%、最も好ましくは少なくとも90%)である、態様1)~50)のいずれか1つに従う水性医薬組成物に関する。
【0094】
54) 別の態様において、本発明は、30℃において18月間貯蔵した後の前記水性医薬組成物中の「化合物」の量が、前記水性医薬組成物の最終的な調製(すなわち、すべての成分が水性医薬組成物に加えられた)直後(例えば1時間又は2時間後)の前記水性医薬組成物中の「化合物」の量の少なくとも80%(好ましくは少なくとも85%、最も好ましくは少なくとも90%)である、態様1)~50)のいずれか1つに従う水性医薬組成物に関する。
【0095】
55) 別の態様において、本発明は、30℃において2年間貯蔵した後の前記水性医薬組成物中の「化合物」の量が、前記水性医薬組成物の最終的な調製(すなわち、すべての成分が水性医薬組成物に加えられた)直後(例えば1時間又は2時間後)の前記水性医薬組成物中の「化合物」の量の少なくとも80%(好ましくは少なくとも85%、最も好ましくは少なくとも90%)である、態様1)~50)のいずれか1つに従う水性医薬組成物に関する。
【0096】
56) 別の態様において、本発明は、2℃~8℃(特に5℃)において6月間、その後25℃において2年間貯蔵した後の前記水性医薬組成物中の「化合物」の量が、前記水性医薬組成物の最終的な調製(すなわち、すべての成分が水性医薬組成物に加えられた)直後(例えば1時間又は2時間後)の前記水性医薬組成物中の「化合物」の量の少なくとも80%(好ましくは少なくとも85%、最も好ましくは少なくとも90%)である、態様1)~50)のいずれか1つに従う水性医薬組成物に関する。
【0097】
「化合物」及び/又は「化合物」の主要な分解生成物((R)-2-(6-((S)-3-メトキシピロリジン-1-イル)-2-フェニルピリミジン-4-カルボキサミド)-3-ホスホノプロパン酸)は、前記水性医薬組成物において使用される前記薬学的に許容される緩衝液に対する共有結合付加物(covalently bound adducts)を形成することができることが見出された。かかる付加物は、特にそれらの毒性学的プロファイルが不明であることから望ましくないものである。従って、さらなる毒性学的試験が必要であり、又は、毒性学的に関連する知見が認識されるであろう。例えば、
米国食品医薬品局(the U.S.Food and Drug Administration)(FDA)は、医薬組成物中に0.5%を超える量で存在するすべての不純物(例えば付加物)に対する毒性学的プロファイリングを要求している。アルギニン緩衝液、ホウ酸緩衝液及び炭酸塩緩衝液において付加物の量が最低であることが見出された。
【0098】
57) 別の態様において、本発明は、前記水性医薬組成物を25℃において2年間貯蔵した後において、(i) 「化合物」に対する前記薬学的に許容される緩衝液の共有結合付加物の量と(ii) 前記水性医薬組成物中の「化合物」の量の比率が、1未満対250(好ましくは1未満対500)である、態様1)~56)のいずれか1つに従う水性医薬組成物に関する。
【0099】
58) 別の態様において、本発明は、前記水性医薬組成物を25℃において2年間貯蔵した後において、(i) (R)-2-{[6-((S)-3-メトキシ-ピロリジン-1-イル)-2-フェニル-ピリミジン-4-カルボニル]-アミノ}-3-ホスホノ-プロパン酸に対する前記薬学的に許容される緩衝液の共有結合付加物の量と(ii) 前記水性医薬組成物中の「化合物」の量の比率が、1対250未満(好ましくは1対500未満)である、態様1)~56)のいずれか1つに従う水性医薬組成物に関する。
【0100】
共有結合付加物に関し、「量」という用語は分子の数を意味し、分子の数は分子の数に直接関連する任意の単位(例えば「モル(mol)」)で与えられてよい。
【0101】
加えて、使用する薬学的に許容される緩衝液によっては、前記水性医薬組成物がガラスの表面を変性させることがあることが見出された。この変性はガラス腐食及び/又は剥離(delamination)により引き起こされることがあり、特に水性医薬組成物をガラスシリンジ等のガラス容器中に貯蔵した後に、ガラス表面の粗さの増大及び/又は水性医薬組成物中における粒子の発生を引き起こす。粗さの増大及び/又は粒子の発生は幾つかの問題を生じさせる。例えば、ガラスシリンジを水性医薬組成物の貯蔵、及び、(貯蔵後に)患者への投与に使用する場合、かかるガラス粒子が患者に注射されると(特に、偶発的に血管内に注射された場合)、粒子の発生は患者に対するリスクとなるかもしれない。シリンジの内壁のガラス表面の粗さの増大は、プランジャー/ピストンをシリンジの外筒内で移動させるのに必要な力の増大を引き起こすことがある。特に、ガラスシリンジを(ペンインジェクター装置等の)自動注射装置内で使用する場合には、自動注射装置の故障を引き起こすかもしれない。アルギニン緩衝液を有する水性医薬組成物と比較して、ホウ酸緩衝液の使用は顕著に高いガラス腐食及び/又は剥離を引き起こした。
【0102】
59) 別の態様において、本発明は、前記水性医薬組成物をガラスシリンジ中に70℃において6日間貯蔵した後、前記水性医薬組成物が、10μm以上の粒子サイズを有する粒子を、前記水性医薬組成物1ミリリットル当たり10000粒子未満(好ましくは3000粒子未満、より好ましくは500粒子未満)有する、態様1)~58)のいずれか1つに従う水性医薬組成物に関する。
【0103】
粒子の量及びサイズは、実験の項に記載するように、例えばマイクロフローイメージング(micro flow imaging)(MFI)(あるいは、フローイメージング顕微鏡(flow imaging microscopy)(FIM)又は動的画像解析(dynamic imaging analysis)(DIA)と呼ばれる。)を使用して測定してよい。
【0104】
60) 別の態様において、本発明は、前記ガラスシリンジがシリコーン処理ガラスシリンジである、態様59)に従う水性医薬組成物に関する。
【0105】
シリコーン処理ガラスシリンジにおいて、シリコーンは、例えばプラズマ処理によりガラス外筒の内表面に共有結合している。
【0106】
61) 別の態様において、本発明は、態様1)~60)のいずれか1つに従う水性医薬組成物を有する(特に含む)容器に関する。
【0107】
62) 別の態様において、本発明は、前記容器が、バイアル、アンプル、カートリッジ又はシリンジから選択される、態様61)に従う容器に関する。
【0108】
63) 別の態様において、本発明は、前記容器がシリンジである、態様61)に従う容器に関する。
【0109】
64) 別の態様において、本発明は、前記容器がガラス容器(好ましくはガラスシリンジ)である、態様61)~63)のいずれか1つに従う容器に関する。
【0110】
65) 別の態様において、本発明は、前記容器が0.1mLから5.0mLの間の内容積を有する、態様61)~64)のいずれか1つに従う容器に関する。前記内容積の下限は、0.1mL、0.3mL、0.5mL及び0.8mLであり、上限は、5.0mL、3.0mL、2.3mL及び1.0mLである。各下限は各上限と組み合わせることができるものとする。従って、すべての組み合わせが本明細書に開示されていることになる。
【0111】
66) 別の態様において、本発明は、前記容器が0.5mLから2.3mLの間の内容積を有する、態様61)~64)のいずれか1つに従う容器に関する。
【0112】
67) 別の態様において、本発明は、自動注射装置(特にペンインジェクター装置)において使用するための、態様61)~66)のいずれか1つに従う容器に関する。
【0113】
68) さらなる態様は水性医薬組成物の製造方法に関し;当該方法は、
a) 前記薬学的に許容される緩衝液(すなわち、前記薬学的に許容される緩衝液の塩基性成分、前記薬学的に許容される緩衝液の酸性成分又はこれらの任意の混合物)及び「化合物」又はその薬学的に許容される塩を水に溶解させる工程;及び
b) 前記水性医薬組成物のpH値を8.2から12.0の間のpH値に調整する工程;を有する。
【0114】
69) さらなる態様は、前記薬学的に許容される緩衝液が、アルギニン緩衝液又はホウ酸緩衝液から選択される、態様68)に従う方法に関する。
【0115】
70) さらなる態様は、水が注射用水である、態様68)又は69)のいずれか1つに従う方法に関する。
【0116】
71) さらなる態様は、前記pH値が8.5から11.0の間である、態様68)~70)のいずれか1つに従う方法に関する。
【0117】
72) さらなる態様は、前記pH値が8.7から9.5の間である、態様68)~70)のいずれか1つに従う方法に関する。
【0118】
73) さらなる態様は、前記pH値が8.9から9.3の間である、態様68)~70)のいずれか1つに従う方法に関する。
【0119】
74) さらなる態様は、前記pH値を薬学的に許容される強塩基で(特に、水酸化ナトリウムの水溶液で)調整する、態様68)~73)のいずれか1つに従う方法に関する。
【0120】
75) さらなる態様は、無菌処理(aseptic processing)を用いて前記水性医薬組成物を前記容器内に入れる、態様61)~67)のいずれか1つに従う容器の製造方法に関する。
【0121】
「無菌処理」という用語は、除菌ろ過(sterile filtration)、及び、その後に医薬組成物(特に水性医薬組成物)を無菌状態下で滅菌された容器内に入れることを意味する。無菌処理の利点は、最終的に充填された容器の(例えば蒸気滅菌等の)加熱殺菌により、水性医薬組成物及びその成分が熱によるストレスを受けることが回避されることである。
【0122】
本発明に従う水性医薬組成物は医薬として使用してよい。
【0123】
76) 態様の1つにおいて、本発明に従う水性医薬組成物は、急性動脈血栓症又は急性静脈血栓症から選択される疾患又は障害の予防又は治療(特に治療)における使用のための医薬の製造のために使用してよく、及び/又は、上記予防又は治療(特に治療)における使用に適切である。
【0124】
77) さらなる態様において、本発明に従う水性医薬組成物は、急性動脈血栓症から選択される疾患又は障害の予防又は治療(特に治療)における使用のための医薬の製造のために使用してよく、及び/又は、上記予防又は治療(特に治療)における使用に適切である。
【0125】
78) さらなる態様において、本発明に従う水性医薬組成物は、急性冠症候群、経皮的インターベンション(percutaneous intervention)(PCI)合併症、ステント血栓症、周術期血栓事象(periprocedural thrombotic events)、心筋梗塞(特に急性心筋梗塞)、末梢性虚血、黒内障、心臓突然死、虚血性脳卒中又は一過性脳虚血発作から選択される疾患又は障害の予防又は治療(特に治療)における使用のための医薬の製造のために使用してよく、及び/又は、上記予防又は治療(特に治療)における使用に適切である。
【0126】
79) さらなる態様において、本発明に従う水性医薬組成物は、急性冠症候群、心筋梗塞(特に急性心筋梗塞)、末梢性虚血、黒内障、虚血性脳卒中又は一過性脳虚血発作から選択される疾患又は障害の予防又は治療(特に治療)における使用のための医薬の製造のために使用してよく、及び/又は、上記予防又は治療(特に治療)における使用に適切である。
【0127】
80) さらなる態様において、本発明に従う水性医薬組成物は、急性冠症候群の予防又は治療(特に治療)における使用のための医薬の製造のために使用してよく、及び/又は、上記予防又は治療(特に治療)における使用に適切である。
【0128】
81) さらなる態様において、本発明に従う水性医薬組成物は、心筋梗塞の予防又は治療(特に治療)における使用のための医薬の製造のために使用してよく、及び/又は、上記予防又は治療(特に治療)における使用に適切である。
【0129】
82) さらなる態様において、本発明に従う水性医薬組成物は、急性心筋梗塞の予防又は治療(特に治療)における使用のための医薬の製造のために使用してよく、及び/又
は、上記予防又は治療(特に治療)における使用に適切である。
【0130】
83) さらなる態様において、本発明に従う水性医薬組成物は、末梢性虚血の予防又は治療(特に治療)における使用のための医薬の製造のために使用してよく、及び/又は、上記予防又は治療(特に治療)における使用に適切である。
【0131】
84) さらなる態様において、本発明に従う水性医薬組成物は、黒内障の予防又は治療(特に治療)における使用のための医薬の製造のために使用してよく、及び/又は、上記予防又は治療(特に治療)における使用に適切である。
【0132】
85) さらなる態様において、本発明に従う水性医薬組成物は、心臓突然死の予防における使用のための医薬の製造のために使用してよく、及び/又は、上記予防における使用に適切である。
【0133】
86) さらなる態様において、本発明に従う水性医薬組成物は、虚血性脳卒中又は一過性脳虚血発作から選択される疾患の予防又は治療(特に治療)における使用のための医薬の製造のために使用してよく、及び/又は、上記予防又は治療(特に治療)における使用に適切である。
【0134】
87) 好ましい態様において、本発明に従う水性医薬組成物は、急性冠症候群(ACS)が疑われる場合又は急性心筋梗塞(AMI)が疑われる場合の救急処置において、病院収容前に患者による自己投与により使用するための医薬の製造のために使用してよく、及び/又は、上記救急処置における使用に適切である。
【0135】
「急性冠症候群」(ACS)という用語は、幾つかの冠動脈における血流の突然の減少又は遮断に起因する症候群を意味する。急性冠症候群は、ST上昇心筋梗塞(STEMI)、非ST上昇心筋梗塞(NSTEMI)及び不安定狭心症を包含する。ACSの予防又は治療に有用であると開示される水性医薬組成物は、STEMI、NSTEMI及び/又は不安定狭心症の予防又は治療においても同様に有用であると理解される。
【0136】
「急性冠症候群が疑われる場合の救急処置」又は「急性心筋梗塞が疑われる場合の救急処置」という用語は、突発的な胸痛、胸部不快感(間欠性若しくは非間欠性)、持続性の胸骨後圧迫感(persistent retrosternal pressure)又は少なくとも10分間継続する左腕、首、背中若しくは顎に広がる疼き(heaviness)、吐き気/嘔吐、息切れ、疲労、動悸、ふらつき感又は失神等のACS又はAMIそれぞれの症状(特に、突発的な胸痛、胸部不快感(間欠性若しくは非間欠性)又は少なくとも10分間継続する持続性の胸骨後圧迫感又は左腕、首、背中若しくは顎に広がる疼き等のACS/AMIの明確な症状)を示し;心電図、胸部X線及び/又は血液検査の実施が可能となる前に治療されるべきであり及び/又は治療が必要な患者の治療を意味する。態様の1つにおいて、上記患者は、ACS/AMIの上記症状(特に明確な症状)が起こる前に、ACS/AMIを患うリスクが高いことが知られていた患者であり、例えば、急性冠症候群/急性心筋梗塞の症状を以前に発症した既知の冠動脈疾患の患者である。さらなる態様において、治療は、病院収容前に患者による自己投与により行われ;上記患者は、そのような自己投与前に、医療専門家により、ACS/AMIの症状をより正しく判断するする訓練を受けていることが好ましい。
【0137】
「冠動脈疾患」(CAD)という用語は、心筋梗塞、不安定狭心症、安定狭心症及び心臓突然死を含む疾患群を意味する。
【0138】
88) 好ましい態様において、本発明に従う水性医薬組成物は、急性心筋梗塞(AM
I)が疑われる場合の救急処置において、病院収容前に患者による自己投与により使用するための医薬の製造のために使用してよく、及び/又は、上記救急処置における使用に適切である。
【0139】
89) さらなる態様において、本発明に従う水性医薬組成物は、血小板血栓の形成の予防(prevention)及び/又は予防(prophylaxis)が適応され及び/又は必要とされる疾患の予防又は治療における使用のための医薬の製造のために使用してよく、及び/又は、上記予防又は治療における使用に適切である。
【0140】
90) さらなる態様において、本発明に従う水性医薬組成物は、新たに形成された血小板血栓の溶解促進が適応され及び/又は必要とされる疾患の予防又は治療における使用のための医薬の製造のために使用してよく、及び/又は、上記予防又は治療における使用に適切である。
【0141】
91) さらなる態様において、本発明に従う水性医薬組成物は、既存の血小板血栓のサイズの減少が適応され及び/又は必要とされる疾患の治療における使用のための医薬の製造のために使用してよく、及び/又は、上記治療における使用に適切である。
【0142】
いかなる疑義をも避けるために、水性医薬組成物が、ある疾患又は障害の予防又は治療のための医薬の製造に有用である、又は、ある疾患又は障害の予防又は治療における使用に適切であると記載されている場合には、かかる医薬組成物は、同様に、薬学的に有効な量の当該水性医薬組成物をそれを必要とする対象(特に哺乳類、とりわけヒト)に投与することを有する当該疾患又は障害の予防又は治療方法における使用に適している。
【0143】
本発明に従う水性医薬組成物は、(皮下又は皮内投与等の)非経口投与に;特に皮下投与に;とりわけ、自動注射装置(特にペンインジェクター装置)を用いた、患者による自己投与による皮下投与に適している。
【0144】
92) さらなる態様において、本発明に従う水性医薬組成物は、非経口投与により投与されるか、及び/又は、投与されることが意図されている。
【0145】
93) さらなる態様において、本発明に従う水性医薬組成物は、皮下又は皮内投与により投与されるか、及び/又は、投与されることが意図されている。
【0146】
94) さらなる態様において、本発明に従う水性医薬組成物は、皮下投与により投与されるか、及び/又は、投与されることが意図されている。
【0147】
95) さらなる態様において、本発明に従う水性医薬組成物は、医療提供者により投与されるか、及び/又は、投与されることが意図されている。
【0148】
96) さらなる態様において、本発明に従う水性医薬組成物は、患者による自己投与により投与されるか、及び/又は、投与されることが意図されている。
【0149】
97) さらなる態様において、本発明に従う水性医薬組成物は、プレホスピタル治療(prehospital treatment)において投与されるか、及び/又は、投与されることが意図されている。
【0150】
98) さらなる態様において、本発明に従う水性医薬組成物は、プレホスピタル治療において、自動注射装置(特にペンインジェクター装置)を用いて、患者による自己投与により投与されるか、及び/又は、投与されることが意図されている。
【0151】
水性医薬組成物の化学的安定性は、例えば、「化合物」及びその分解生成物(例えば、特に(R)-2-(6-((S)-3-メトキシピロリジン-1-イル)-2-フェニルピリミジン-4-カルボキサミド)-3-ホスホノプロパン酸)の測定により、従来の方法で試験してよい。試料中の「化合物」及びその分解生成物の量は、例えば逆相HPLCにより評価してよい。
【0152】
態様1)~60)のいずれか1つに従う水性医薬組成物は容器内で製剤化してよい。例えば、320gの「化合物」に相当するバッチサイズ(339gの「化合物」塩酸塩に相当;10.15kgの水性医薬組成物のバッチサイズ)は、シリンジ当たり約0.5gの水性医薬組成物を有する少なくとも13000シリンジ(特にガラスシリンジ)となる。「化合物」塩酸塩から出発し、下記の量の成分を使用してよい:
【0153】
【表1】
【0154】
量は各成分/材料の純度に応じて調整してよい。「化合物」塩酸塩(16.9mg)の量は16.0mgの「化合物」に相当する。「化合物」を遊離形態(非塩形態)又は(例えば二ナトリウム塩等の)別の塩の形態で使用する場合には、単位用量中の「化合物」の量が16.0mgであるように各形態の「化合物」の量を調整してよく;加えて、「化合物」塩酸塩以外の別の形態の「化合物」を使用する場合には、NaOH、NaCl及び注射用水の上記の量を調整して、pH調整に必要な異なる量のNaOHについて補ってよい。
【0155】
単位用量中の「化合物」の量は、保健当局により許容される限度内で、特に16.0mg±1.6mgの範囲内で変えてよく;この変化は、成分間の比率の各変化又は単位用量の総量の各変化又は両変化の組み合わせを伴ってよいものとする。
【0156】
遊離形態(非塩形態)の「化合物」について、前記水性医薬組成物は下記の濃度の成分を含有してよい:
【0157】
【表2】
【0158】
先に記載した、及び、本発明に従って容器内に充填された水性医薬組成物の製造方法は下記の工程を含んでよい:
- 特定の量(例えば7kg)のWFIを反応器内に加える;
- 特定の量(例えば104.3g)のL-アルギニンを撹拌下で反応器内に加える;
- 特定の量(例えば175.3g)のNaClを反応器内に加える;
- すべての原料が溶解するまで撹拌を続ける;
- 撹拌を継続しながら、特定の量の「化合物」塩酸塩(例えば339g)を反応器内に加える;
- 水酸化ナトリウム溶液(例えば1.178kgの1N NaOH溶液)でpH値を調整する;
- 撹拌下、WFIで最終重量(例えば10.15kg)とする;
- 上記溶液を除菌フィルターを通してろ過する(例えば0.2μmのFluorodyne II膜フィルター);
- 溶液をシリンジ(例えばシリンジ当たり0.548g±2%)内に充填する;
- シリンジを閉じる。
【実施例
【0159】
(本項及び先の記述において使用される)略語:
aq. 水溶液
API 有効活性成分
CCD 電荷結合素子(charge coupled device)
DAD ダイオードアレイ検出器
DMSO ジメチルスルホキシド
H 時間
HPLC 高速液体クロマトグラフィー
M モル濃度(molar)/モル濃度(molarity)
N 規定(normal)/規定度(normality)
NMP N-メチル-2-ピロリドン
PVDF フッ化ポリビニリデン
q.s. quantum satis(十分量)
RH 相対湿度
SEM 走査型電子顕微鏡
UV 紫外線
WFI 注射用水
【0160】
原料は、商業的供給者より購入してよく、又は、当該技術分野で既知の方法により製造してよい。
【0161】
高速液体クロマトグラフィー用の試料の調製及び使用した方法
20μLの各水性医薬組成物をHPLCバイアルに充填した。HPLC分析に先立って980μLの水を加えた(希釈係数50)。
【0162】
使用したHPLC-UV法:
HPLCシステム:High pressure mixing Shimadzu Nexera X2
流速:1.5mL/min
カラム温度:50℃
オートサンプラー温度:25℃
注入体積:1μL
カラム:Phenomenex Gemini 5.0μm 110Å、50x2.0mm(No.184)
波長:DAD+250nm
溶媒A:トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン緩衝液 50mM pH9(HClで調整)+5%(v/v)アセトニトリル
溶媒B:アセトニトリル+5%(v/v)トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン緩衝液 50mM pH9(HClで調整)
【0163】
【表3】
【0164】
「化合物」及びそのHCl塩の製造:
「化合物」及びそのHCl塩は、WO2009/069100(実施例2)、WO2018/055016又はCaroff Eら、J.Med.Chem.(2015)、58、9133-9153に開示された手順に従って製造してよい。
【0165】
実施例1
アルギニン緩衝液を有する水性医薬組成物の調製及び組成:
【0166】
【表4】
【0167】
組成物の製造
「化合物」及びL-アルギニンを20mLメスフラスコ中に秤量した。10mLの注射用水を加え、懸濁液を撹拌した。次いで、この懸濁液を滴定でpH9.25とし、完全に溶解させた。充填に先立って、製剤を0.22μmのPVDFフィルターを通してろ過した。
【0168】
一次パッケージの製造
除菌ろ過した製剤0.5mLを、除菌した使用準備済みの(ready-to-use)プレフィル用(pre-fillable)ガラスシリンジ内に充填した。充填は無菌及びパーティクルフリー(particle free)条件下で行う。
【0169】
実施例2
ホウ酸緩衝液を有する水性医薬組成物の製造及び組成:
【0170】
【表5】
【0171】
組成物の製造
ホウ酸及び「化合物」を1000mLメスフラスコ中に秤量した。750mLの注射用水を加え、懸濁液を撹拌した。30mLのNaOH溶液を加え、加えた粉末が完全に溶解するまで懸濁液を撹拌した。完全に溶解した後、NaOH溶液を加えることにより、pHをpH9.25に調整した。最後に、メスフラスコに注射用水で充填した。製剤を0.22μmのPVDFフィルターを通してろ過した後、0.5mLのアリコートを除菌したプレフィル用ガラスシリンジに充填した。
【0172】
実施例3
さらなる緩衝液を有する水性医薬組成物の製造及び組成:
pH9.25において34mM/pHの一定の緩衝能のさらなる緩衝液を調製する。
【0173】
【表6】
【0174】
【表7】
【0175】
【表8】
【0176】
【表9】
【0177】
【表10】
【0178】
【表11】
【0179】
組成物の製造
「化合物」及び(表3~8の)各緩衝液を20mLメスフラスコ中に秤量した。10mLの注射用水を各フラスコに加え、懸濁液を撹拌した。次いで、これらの懸濁液を滴定でpH9.25とし、完全に溶解させた。製剤を1mLの除菌したプレフィル用ガラスシリンジに充填する前に、0.22μmのPVDFフィルターを通してろ過した。
【0180】
実施例4
緩衝液非存在下における、異なるpH値の水溶液中の「化合物」の安定性
32mg/mL(52mM)の「化合物」を有する水性製剤を、1N NaOH水溶液を
用いて滴定によりpH7.0、8.0及び9.0とした。
【0181】
除菌ろ過後に、上記異なる製剤を、1mLの除菌したプレフィル用ガラスシリンジに充填した。試料を、t=0及び60℃において1週間貯蔵した後に分析した。
【0182】
【表12】
【0183】
実施例5
緩衝液の存在下又は非存在下における、異なるpH値の水溶液中の「化合物」の安定性32mg/mL(52mM)の「化合物」及び20mMのKH2PO4を有する水性製剤を、1N NaOH水溶液を用いて滴定によりpH7.0、7.5、8.0とした。52mMの「化合物」及び20mMのホウ酸を有する水性製剤を、1N NaOH水溶液を用いて滴定によりpH8.0、8.5、9.0、9.5、10.0とした。52mMの「化合物」を含有し、緩衝液を加えていない製剤を、1N NaOH水溶液を用いて滴定によりpH9.0とした。
【0184】
除菌ろ過後に、上記異なる製剤を、1mLの除菌したプレフィル用ガラスシリンジに充填した。
【0185】
シリンジを、40、60又は70℃に制御した温度下で2週間貯蔵した。「化合物」及び主要分解生成物、(R)-2-(6-((S)-3-メトキシピロリジン-1-イル)-2-フェニルピリミジン-4-カルボキサミド)-3-ホスホノプロパン酸の含量を、上記の条件を用いてHPLC分析により測定した。
【0186】
【表13】
【0187】
実施例6
異なる緩衝液濃度のホウ酸緩衝液の存在下におけるpH9.0の水溶液中の「化合物」の安定性
【0188】
【表14】
【0189】
【表15】
【0190】
実施例7
塩基性pH値で緩衝液とした水溶液中の「化合物」の安定性
実施例1(L-アルギニン緩衝液)、実施例2(ホウ酸緩衝液)及び実施例3に記載した水性医薬組成物を充填したシリンジを、55.3℃にて19日間貯蔵した。「化合物」及び主要分解生成物、(R)-2-(6-((S)-3-メトキシピロリジン-1-イル)-2-フェニルピリミジン-4-カルボキサミド)-3-ホスホノプロパン酸の含量を、上記の条件を用いてHPLC分析により測定した。
【0191】
【表16】
【0192】
実施例8
水性医薬組成物のガラス表面との相互作用
実施例2(60mMのホウ酸緩衝液中32mg/mLの「化合物」、pH9.25、1mLのプレフィル用ガラスシリンジ中に充填)及び実施例1(60mMのアルギニン緩衝液中の32mg/mLの「化合物」、pH9.25、1mLのプレフィル用ガラスシリンジ中に充填)の水性製剤を、それぞれ6日間、70℃にてストレスを与えた。
【0193】
2種の異なる水性製剤について、粒子カウントをマイクロ-フローイメージングにより分析した。マイクロ-フローイメージングは、CCDカメラを用いて、フローセル(flow cell)中で明視野画像をキャプチャする。光学倍率を有し、2.0μmから約70μmのサイズ範囲の粒子を検出する。粒子はカウントされ、画像化される。
【0194】
分析に先立って、装置の清浄度(cleanliness)を試験し、カウント及びサイズ標準品を測定して、装置が分析に適切であることを確認した。分析前に、試料を周囲温度に放置し、(気泡の発生を避けながら)穏やかに均一化した。試料に対して希釈、その他の操作は行わなかった。実際の測定に際しては、測定する試料に対して照度の最適化を行った。
【0195】
【表17】
【0196】
ガラスシリンジ内で70℃において6日間貯蔵した場合、粒子カウント、特により大きな粒子の粒子カウントは、アルギニン緩衝液を有する製剤中よりもホウ酸緩衝液を有する製剤中において高い。
【0197】
(上記したように)70℃において6日間貯蔵した後、ホウ酸製剤(実施例2)を含む1mLのプレフィル用ガラスシリンジのガラス外筒について走査型電子顕微鏡(SEM)によりさらに分析した:
SEM取得中の電荷負荷を避けるため、試料を、Cressington 108オートスパッタ(Auto sputter)を用いて、0.1mbarのアルゴン気流下、30mA、80sに設定して、金コーティングした。SE1検出器を用い、10kVの加速電圧(acceleration voltage)及び100pAの引出電流(extraction current)で、Zeiss EVO MA10を用いてSEMを行った。画像を異なる倍率で取得した。走査パラメータは17ラインの平均化に設定し、約44sの全体フレーム取得となった。図1は、ホウ酸製剤と接触したガラス外筒の内部のエリアのSEM画像を示す。図2は、ホウ酸製剤と接触しなかったガラス外筒の内部のエリアのSEM画像を示す。
【0198】
これらの図は、ホウ酸がガラスシリンジ内でガラス剥離/ガラス腐食を引き起こし、ホウ酸含有製剤の粒子負荷(particle loads)を増大させることを示している。
【0199】
実施例9
異なる貯蔵条件下における、60mMのアルギニン緩衝液の存在下でのpH9.1の水溶液中の「化合物」の長期安定性
10Lのガラス反応器中で、撹拌下、L-アルギニン(104g、0.60mol)を注射用水(7.01kg)に加えた。この溶液に「化合物」塩酸塩(339g、0.52mol)を少しずつ加え、1.0M NaOH水溶液(1.18kg)を加えることによりpH値をpH=9.0に調整した。注射用水を加えて、溶液の総重量を10.15kgとした。
【0200】
安定性試験のために、0.54mLの上記溶液を、針を取り付けたプレフィル用の1mLガラスシリンジ内に充填することにより試験試料を調製し、表14及び15に示す条件下で貯蔵した。示した時点の後に、試料を超高速液体クロマトグラフィー(UPLC)により、下記の条件を用いて分析した:
機器:
データ取得システム及びUV検出を備えたUPLCシステム
移動相A: 3.08gの酢酸アンモニウム及び3.26gのヘキサフルオロリン酸アンモニウムを2Lのボトル内に秤量する。1900mLのH2O中に溶解させる。100mLのアセトニトリルを加える。
【0201】
移動相B: 0.77gの酢酸アンモニウムを1Lのボトル内に秤量する。50mLのH2O中に溶解させる。950mLのアセトニトリルを加える。
【0202】
希釈液: 920mLの移動相Aを80mLの移動相Bと混合する。
【0203】
標準試料溶液: 希釈液中の0.32mg/mLの「化合物」標準試料。
【0204】
試料溶液: (初期溶液中の「化合物」の量に基づいて)希釈液で試料を0.32mg/mLの「化合物」に希釈した。
【0205】
カラム: 100mmx3.0mm、3μm C18カラム(例えば、YMC Triart C18 ExRS)
検出波長: 246nm
流速: 0.5mL/min
【0206】
【表18】
【0207】
【表19】
【0208】
【表20】
図1
図2