(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-17
(45)【発行日】2024-05-27
(54)【発明の名称】誘電バリア放電を生成するための装置及び方法
(51)【国際特許分類】
H05H 1/24 20060101AFI20240520BHJP
C01B 13/11 20060101ALI20240520BHJP
【FI】
H05H1/24
C01B13/11 A
(21)【出願番号】P 2023517241
(86)(22)【出願日】2021-09-15
(86)【国際出願番号】 EP2021075290
(87)【国際公開番号】W WO2022058333
(87)【国際公開日】2022-03-24
【審査請求日】2023-05-10
(31)【優先権主張番号】102020124138.0
(32)【優先日】2020-09-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】518379278
【氏名又は名称】テーデーカー エレクトロニクス アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100135079
【氏名又は名称】宮崎 修
(72)【発明者】
【氏名】ネテスハイム,シュテファン
(72)【発明者】
【氏名】クランパルス,ロベルト
(72)【発明者】
【氏名】ピヒラー,ヨハン
(72)【発明者】
【氏名】パフ,マルクス
【審査官】右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】特開昭52-117295(JP,A)
【文献】特開平10-120405(JP,A)
【文献】特開2006-092787(JP,A)
【文献】特開2010-254524(JP,A)
【文献】カナダ国特許発明第1282031(CA,C)
【文献】米国特許第5549874(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05H 1/24
C01B 13/11
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電バリア放電を生成するための装置であって、
熱電コンポーネントと、
前記熱電コンポーネントに対向して配置された電極と、
前記熱電コンポーネントと前記電極との間に前記誘電バリア放電を点火するのに十分な高電圧を生成するように構成された高電圧源と、を備える、
装置。
【請求項2】
前記熱電コンポーネントは2つ以上の熱電素子を備え、
前記熱電コンポーネントは、前記熱電素子同士を接続する金属ブリッジを有し、
前記熱電コンポーネントは、前記電極に面する、前記熱電コンポーネントの上面で前記金属ブリッジを覆う第1セラミックプレートを備え、
前記熱電コンポーネントは、前記熱電コンポーネントの下面で前記金属ブリッジを覆う第2セラミックプレートを備え、
請求項1記載の装置。
【請求項3】
前記第1セラミックプレートは、酸化アルミニウム及び/又は窒化アルミニウムを含む、
請求項2記載の装置。
【請求項4】
前記第1セラミックプレートは、電界が通り抜けない絶縁領域及び/又は電界がそこに沿って誘導される導電領域を有する、
請求項2記載の装置。
【請求項5】
前記熱電素子は、一列に配置されており、
互いに隣り合う2つの熱電素子は、その上面又は下面で、金属ブリッジを介してメアンダ形状に相互に接続されている、
請求項2記載の装置。
【請求項6】
前記熱電素子は2次元マトリクス構造に配置されており、
前記金属ブリッジは前記熱電素子を2次元メアンダ形状に接続しており、
前記2次元メアンダ形状に沿って互いに隣り合う熱電素子は、その上面又は下面で、金属ブリッジを介してメアンダ形状に相互に接続されている、
請求項2記載の装置。
【請求項7】
前記金属ブリッジはそれぞれ、非金属化面によって互いに分離されており、
2つの隣り合う前記金属ブリッジの間の前記非金属化面の最大拡がりは、前記第1セラミックプレートの厚さよりも小さい、
請求項2記載の装置。
【請求項8】
前記金属ブリッジ及び前記第1セラミックプレートは、以下の不等式が満たされるように寸法決めされており:
D>U
zuend/U
betrie×ε
2/ε
1×A、
Dは、前記第1セラミックプレートの厚さを示し、
U
zuendは、それを超えると前記金属ブリッジ間のプラズマ点火につながる点火電圧を示し、
U
betrieは、前記装置に印加される動作電圧を示し、
ε
2は、前記第1セラミックプレートの誘電率を示し、
ε
1は、空気の誘電率を示し、
Aは、隣り合う前記金属ブリッジの距離を示す、
請求項2記載の装置。
【請求項9】
前記装置は、前記金属ブリッジに面する前記第1セラミックプレートの内面に配置された弱導電層を備える、
請求項2記載の装置。
【請求項10】
前記弱導電層は、薄膜技術で前記第1セラミックプレート上に堆積された層である、
請求項9記載の装置。
【請求項11】
前記第1セラミックプレートは多層構造を有し、
前記弱導電層は前記第1セラミックプレートの部分層として形成されている、
請求項9記載の装置。
【請求項12】
前記弱導電層は、前記金属ブリッジを介した前記熱電素子のメアンダ形状の接続の抵抗よりも少なくとも100倍大きい抵抗を有する、
請求項6記載の装置。
【請求項13】
前記弱導電層は、少なくとも1つの導電性元素、例えばCr又はNi、及び/又は少なくとも1つの半導体元素、例えばB又はSi、及び/又は少なくとも1つの絶縁材料、例えばSiO
2又はAl
2O
3を含む、
請求項9記載の装置。
【請求項14】
前記装置は、前記第2セラミックプレートと前記熱電素子の前記下面に配置された前記金属ブリッジとの間に配置され、接地電位に接続された導電構造を備える、
請求項2記載の装置。
【請求項15】
前記導電構造はネット状である、
請求項14記載の装置。
【請求項16】
前記熱電コンポーネントはペルチェ素子であり、
熱電素子は、半導体材料又は半導体セラミック材料を含む、
請求項2記載の装置。
【請求項17】
前記熱電素子は、熱電セラミック材料を含む、
請求項2記載の装置。
【請求項18】
前記熱電セラミック材料は、Mn原子の部位にFe原子を部分的にドープしたカルシウム-マンガン酸化物を含み、又は
前記熱電セラミック材料は、一般式Ca
1-x-yISO
xDON
yMn
1-zFe
zO
nで表される材料を含み、
ISOは結晶格子中のCa
2+を置換できる二価の元素を示し、
DONは、結晶格子のCa
2+を置換でき、電気伝導のための電子を供給できる元素を示し、
0≦x≦0.5;0<y≦0.5;0.0001≦z<0.2;n≧2であり、又は
前記熱電セラミック材料は、組成(Ca
3-xNa
x)Co
4O
9-δに基づく材料を含み、0.1≦x≦2.9かつ0<δ≦2である、
請求項17記載の装置。
【請求項19】
前記高電圧源は、前記電極に高電圧交流電位を印加するように設計されており、及び
前記装置が、前記熱電コンポーネントに低直流電圧を印加するように構成された直流電圧源を備えている、
請求項1記載の装置。
【請求項20】
前記熱電コンポーネントと前記電極との間で体積放電として前記誘電バリア放電を点火するように構成されている、
請求項1記載の装置。
【請求項21】
前記熱電コンポーネントが、前記電極に面する表面に金属化部を備え、
前記高電圧源は、前記熱電コンポーネントに高電圧電位を印加するように設計されている、
請求項1記載の装置。
【請求項22】
前記金属化部は、導電性材料及び/又は半導電性材料、例えばビスマスとロジウムの混合物からなる、
請求項21記載の装置。
【請求項23】
前記金属化部は、水素雰囲気中で焼成したMo/Mnペースト、又は、酸化物カップリング剤、例えばAl酸化物、Mn酸化物、Mg酸化物又はTi酸化物と混合したWペーストからなる、
請求項21記載の装置。
【請求項24】
前記装置は、前記誘電バリア放電を前記金属化部の表面放電として点火させるように構成されている、
請求項21記載の装置。
【請求項25】
前記熱電コンポーネントは、プロセスガスを冷却又は加熱するために設計されているか、又は
前記熱電コンポーネントは、動作サイクル中にプロセスガスの温度を連続的に変化させるように設計されている、
請求項1記載の装置。
【請求項26】
前記電極及び/又は前記熱電コンポーネントは、ガラス質層で被覆されている、
請求項1記載の装置。
【請求項27】
前記熱電コンポーネントの面積は、前記電極の面積よりも大きい、
請求項1記載の装置。
【請求項28】
前記装置は駆動制御部を備え、前記駆動制御部は、
前記装置を冷却動作で動作させ、前記冷却動作では、誘電バリア放電がトリガされず、前記装置の表面がプロセスガスの露点を下回って冷却され、したがって前記表面上に水膜が結露によって生成され、
その後前記装置を放電動作で動作させ、前記放電動作では、誘電バリア放電が前記水膜上で生成される、ように構成されている、
請求項1記載の装置。
【請求項29】
前記装置は、前記誘電バリア放電がトリガされず、前記装置の表面が100℃以上の温度に加熱される加熱動作で動作するように構成されている、
請求項1記載の装置。
【請求項30】
前記装置は、温度センサ、オゾンセンサ、及び湿度センサから選択される少なくとも1つのセンサを備え、
前記装置は、前記少なくとも1つのセンサの測定値を考慮して、前記熱電コンポーネントの出力及び/又は前記高電圧源の出力を適合させるように構成されている、
請求項1記載の装置。
【請求項31】
前記電極は別個に交換可能であり、及び/又は、前記熱電コンポーネントは別個に交換可能である、
請求項1記載の装置。
【請求項32】
請求項1記載の装置を備える機器であって、
前記機器は、冷蔵庫、クーラーボックス、エアコン、冷却機器、殺菌機器、洗濯乾燥機、包装機器、食品加工機器、空間除染機器、繊維寄生虫駆除機器、ゴミ回収器又は小型滅菌器である、
機器。
【請求項33】
請求項1記載の装置によって誘電バリア放電を生成する方法であって、
前記高電圧源は前記熱電コンポーネントと前記電極との間で高電圧を生成し、誘電バリア放電を点火する、
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は誘電バリア放電を生成するための装置、その装置を備える機器、及び誘電バリア放電を生成するための方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
誘電バリア放電は、面放電により気流からオゾンを発生させるオゾン発生装置によく使用される。オゾンを生成するためのプロセスガスを形成する空気流は、装置の冷却も兼ねていることが多い。装置の過熱を避けるため、必要最低限の空気量を確保する必要があり、その結果、発生するオゾンが希釈され、発生可能なオゾン濃度が制限される。
【0003】
医療用途では、10000ppm以上の非常に高いオゾン濃度が有用である。高いオゾン濃度は微生物に強い影響を与え、初期の集団が完全に死滅するまでの時間を大幅に短縮することができる。微生物が高いオゾン濃度に短時間さらされた場合、さらされた材料の表面への影響が優勢になる。小さな構造物、例えば約50nmの拡がり(Ausdehnung)を有するウイルスや1μm未満の拡がりを有する細菌は、高濃度のオゾンに短時間暴露されると深刻な損傷を受ける。人間の皮膚のような厚い構造物は、短時間の暴露では効果の深さが拡散限界にとどまるため、短時間の暴露に耐性がある。人間の皮膚にダメージを与えずに微生物を殺すには、体積にはわずかな影響しか与えない表面上の殺菌効果を得るために、高いオゾン濃度に非常に短時間暴露することが有利である。
【発明の概要】
【0004】
本発明の目的は、誘電バリア放電を生成するための改良された装置を提供することである。この装置は、例えば、過熱することなく高濃度でオゾンを生成することができるものであることが望ましい。
【0005】
この課題は、請求項1による装置によって解決される。有利なさらなる発展形態は、従属請求項の主題である。
【0006】
誘電バリア放電を生成するための装置が提案されており、この装置は、例えばペルチェ素子などの熱電コンポーネントと、電極と、高電圧源とを備える。電極は、熱電コンポーネントに対向して(gegenueber)配置されている。高電圧源は、誘電バリア放電を点火するのに十分な高電圧を熱電コンポーネントと電極との間に生成するように構成されている。
【0007】
したがって、本発明は、熱電コンポーネントが対向電極として作用する誘電バリア放電を生成する装置であって、電極と、対向電極として作用する熱電コンポーネントとの間で誘電バリア放電を点火可能である、装置に関する。誘電バリア放電は、面状放電として又は体積放電として点火することができる。
【0008】
熱電コンポーネントは、特にペルチェ素子又は熱電セラミック材料を含むコンポーネントであることができる。
【0009】
その際、熱電コンポーネントはプロセスガスを冷却することができる。したがって、放電領域を冷却するためのプロセスガスの強い流れは、もはや必要ない。したがって、オゾン濃度の希釈化がもはや存在しないので、誘電バリア放電において、例えば1000ppm以上の高いオゾン濃度を達成することができるようになった。プロセスガスは、1.5リットル/分から2.5リットル/分、例えば2リットル/分の流量を有することができる。いくつかの実施形態では、2000ppmを超えるオゾン濃度を達成することができる。
【0010】
さらに、熱電コンポーネントは、誘電バリア放電の際にプロセスガスの温度を設定することを可能にする。プロセスガスの温度は、誘電バリア放電の際に生成されるガスの組成に大きな影響を与える。特に、生成されるオゾンと生成される亜硝酸ガス(nitrosen Gasen)との割合は、温度によって決定される。このようにして、熱電コンポーネントは、誘電バリア放電における活性種の生成濃度及び生成量を調整すること(einzustellen)を可能にする。さらに、熱電コンポーネントが熱ドリフトを防ぐため、これらを安定に保つことができる。このため、装置は、誘電バリア放電によって生成されるガス組成を正確に定義することを可能にする。これは、医療用途などでは非常に重要である。また、装置は、それを超えるとプラズマ点火がトリガされる点火電圧が、熱ドリフトがなく、一定に保たれるようにすることを可能にする。
【0011】
さらに、熱電コンポーネントは、プロセスガスの湿度を調整又は設定(einzustellen)することができる。例えば、熱電コンポーネントは、誘電バリア放電の前にプロセスガスを冷却し、それによってプロセスガスの湿度を低下させることができる。プロセスガスの湿度は、誘電バリア放電の際に生成される種(Spezies)の組成や濃度にも影響を与える。
【0012】
誘電バリア放電では、電極及び熱電コンポーネントから選択される一方が高電位であることができ、他方が低電位又は接地電位であることができる。電極が低電圧電位又は接地電位である場合、電極は熱電コンポーネントの近傍に位置する任意の十分に容量性のある表面で形成されることができる。
【0013】
熱電コンポーネントは、2つ以上の熱電素子を備えることができ、熱電コンポーネントは、熱電素子をメアンダ形状に接続する金属ブリッジを備えることができ、熱電コンポーネントは、電極に面する熱電コンポーネントの上面で金属ブリッジを覆う第1セラミックプレートを備えることができ、熱電コンポーネントは、熱電コンポーネントの下面で前記金属ブリッジを覆う第2セラミックプレートを備えることができる。上面は、熱電コンポーネントの電極に面する(zur Elektrode weist)側であることができる。下面は、上面と反対側の熱電コンポーネントの面である。
【0014】
熱電素子は、一列に配置されることができ、互いに隣り合う2つの熱電素子は、その上面又は下面で、金属ブリッジを介して相互に接続されることができる。あるいは、熱電素子は2次元マトリクス構造に配置されることができ、金属ブリッジは熱電素子を2次元メアンダ形状に接続することができ、2次元メアンダ形状に沿って互いに隣り合う熱電素子は、その上面又は下面で、金属ブリッジを介してメアンダ形状に相互に接続されることができる。
【0015】
金属ブリッジはそれぞれ、非金属化面によって互いに分離されることができ、2つの隣り合う金属ブリッジの間の非金属化面の最大拡がりは、第1セラミックプレートの厚さよりも小さいことができる。金属ブリッジは、第1及び第2セラミックプレート上に島状に配置することができる。
【0016】
このような寸法にすることで、金属ブリッジ間の熱電コンポーネントの内面での寄生放電を抑制することができる。
【0017】
金属ブリッジ及び第1セラミックプレートは、以下の不等式が満たされるように寸法決めされることができ:
D>Uzuend/Ubetrie×ε2/ε1×A、
Dは、第1セラミックプレートの厚さを示し、
Uzuendは、それを超えると金属ブリッジ間のプラズマ点火につながる点火電圧を示し、
Ubetrieは、装置に印加される動作電圧を示し、
ε2は、第1セラミックプレートの誘電率を示し、
ε1は、空気の誘電率を示し、
Aは、隣り合う金属ブリッジの距離を示す。
【0018】
さらに、熱電コンポーネントは弱導電層を備えることができる。弱導電層は第1セラミックプレートと金属ブリッジとの間に配置されることができる。弱導電層は金属ブリッジに面する第1セラミックプレートの内面に配置されることができる。
【0019】
弱導電層は、金属ブリッジと第1セラミックプレートとに直接接触することができる。その際、弱導電層は、島状の金属ブリッジによって形成される熱電コンポーネントの電位の不均一性を補償することができる。このようにして、弱導電層は、放電が均質に行われるようにすることができる。さらに、弱導電層によって、セラミックプレートの内面での放電を回避することができる。
【0020】
弱導電層は、薄膜技術を使用して第1セラミックプレート上に堆積された層であることができる。例えば、弱導電層は、第1セラミックプレート上にスパッタリング又はプリンティングされることができる。
【0021】
あるいは、第1セラミックプレートは多層構造を有し、それに応じて厚膜技術を使用して製造されることができる。この場合、弱導電層は、第1セラミックプレートの部分層であることができる。例えば、弱導電層は多層構造の最外層として形成することができ、第1セラミックプレートは、弱導電層が金属ブリッジに面するように、金属ブリッジ上に配置される。あるいは、弱導電層は、2つのセラミック層の間に配置された多層構造の内層であることができる。
【0022】
第1及び第2セラミックプレートは、酸化アルミニウム及び/又は窒化アルミニウムを含むことができる。酸化アルミニウムは、それぞれのセラミックプレートに高い熱伝導性を提供し、したがって、冷却又は加熱機能をサポートすることができる。酸化アルミニウムは、それぞれのセラミックプレートに耐腐食性と電気絶縁性を提供することができる。セラミックプレートは、複数の部分層からなる多層構造を有することができ、部分層は、例えば、酸化アルミニウム及び窒化アルミニウムを含む。あるいは、セラミックプレートは、単層から構成されてもよい。窒化アルミニウムの単層でできたセラミックプレートは、装置の動作中に電極に面する表面で酸化し、腐食から保護する酸化アルミニウム層を形成する。
【0023】
セラミックプレートは、さらに、電界ガイド(eine Feldfuehrung)を提供する金属化領域を有することができる。金属化領域は、酸化アルミニウムまたは窒化アルミニウムによって取り囲まれるため、メタライズされた領域の腐食が防止される。
【0024】
セラミックプレートは、電界が通り抜けない絶縁領域をさらに有することができる。
【0025】
弱導電層は、例えばニッケルから、金属化部からなることができる。弱導電層は、10nm~100nm、好ましくは25nm~75nmの厚さを有することができる。弱導電性層の抵抗率は、1×10-2Ω×mm2/m~1×10-1Ω×mm2/mであることができる。弱導電層のシート抵抗は、0.2Ω~5Ω、好ましくは1.0Ω~2.0Ωであることができる。例えば、弱導電性層は、10-2Ω×mm2/mの抵抗率を有するニッケルの薄さ50nmの層からなることができ、その結果1.4Ωのシート抵抗が得られる。
【0026】
弱導電層は、金属ブリッジを介した熱電素子のメアンダ形状接続の抵抗値よりも少なくとも100倍大きい抵抗値を有することができる。このようにすれば、熱電コンポーネントを介して流れる直流電流が弱導電層を介して導通することを回避することができる。このようにして、直列に接続された熱電素子の短絡による出力損失の増加を回避することができる。従って、弱導電層が熱電コンポーネントの機能を損なうことがない。
【0027】
弱導電層は、少なくとも1つの導電性元素、例えばCr又はNi、及び/又は少なくとも1つの半導体元素、例えばB又はSi、及び/又は少なくとも1つの絶縁材料、例えばSiO2又はAl2O3を含むことができる。
【0028】
弱導電層は、熱電コンポーネントのシート導電率に所望の影響を与え、寄生放電を回避することができる。
【0029】
装置は、第2セラミックプレートと熱電素子の下面に配置された金属ブリッジとの間に配置され、接地電位に接続された導電構造を備えることができる。導電構造は、弱導電層に代えて又は加えて設けられることができる。導電構造は、弱導電層と同様の効果を有し、下面の内側における寄生放電を防止することができる。一実施形態では、導電性構造は、ネット状である。
【0030】
熱電素子は、ペルチェ素子であってもよく、熱電素子は、半導体材料から構成される。あるいは、熱電素子は、熱電セラミック材料をベースとするものであってもよく、熱電素子は、熱電セラミック材料からなるものである。
【0031】
熱電セラミック材料は、Mn原子の部位にFe原子を部分的にドープしたカルシウム-マンガン酸化物を含むことができる。熱電セラミック材料は、一般式Ca1-x-yISOxDONyMn1-zFezOnで表される材料を含むことができ、ISOは結晶格子中のCa2+を置換できる二価の元素を示し、DONは、結晶格子のCa2+を置換でき、電気伝導のための電子を供給できる元素を示し、0≦x≦0.5;0<y≦0.5;0.0001≦z<0.2;n≧2である。熱電セラミック材料は、組成(Ca3-xNax)Co4O9-δに基づく材料を含むことができ、0.1≦x≦2.9かつ0<δ≦2である。
【0032】
高電圧源は、高電圧交流電位を電極に印加するように構成されることができる。装置は、熱電コンポーネントに低直流電圧を印加するように構成された直流電圧源をさらに含むことができる。このようにして、電極と熱電コンポーネントとの間に高電圧が発生し、誘電バリア放電がトリガされる。この装置は、熱電コンポーネントと電極との間の間隙において、誘電バリア放電を体積放電として点火するように設計することができる。
【0033】
熱電コンポーネントは、電極に面する表面に金属化部を有することができ、それによって、高電圧源は、熱電コンポーネントに高電圧電位を印加するように設計されている。電極は、接地電位又は接地に近い電位にすることができる。この場合、誘電バリア放電は、金属化部と電極の間でトリガされることができる。誘電バリア放電は、金属化部で表面放電として点火することができる。
【0034】
金属化部は、導電性材料及び/又は半導電性材料、例えばビスマスとロジウムの混合物で構成されることができる。金属化部は、水素雰囲気中で焼成したMo/Mnペースト、又は酸化物カップリング剤(oxidischen Haftvermittlern)、例えば、酸化Al、酸化Mn、酸化Mg、酸化Ti、を混合したWペーストから構成されることができる。
【0035】
装置は、さらに、電極と熱電コンポーネントの間の間隙にプロセスガスを導くためのファン、及び/又は冷却体を備えることができる。ファン及び冷却体は、熱電コンポーネントに加えて、プロセスガスの冷却に寄与することができる。
【0036】
熱電コンポーネントは、プロセスガスを冷却又は加熱するように設計することができる。代替的又は付加的に、熱電コンポーネントは、動作サイクルの中でプロセスガスの温度を連続的に変化させるように設計することができる。そうすることで、プロセスガスは広い温度範囲を掃引する(durchlaufen)ことができる。この温度範囲では、誘電バリア放電が点火され、それによってROSからRNSまでの種の全てのスペクトルを掃引するすることができる。このようにして、例えば、表面の殺菌を特に徹底して行うことができる。
【0037】
電極及び/又は熱電素子は、ガラス質層で被覆されていることができる。この層は、溶融釉薬(Schmelzglasur)又は焼き付け釉薬(Aufbrennglasur)であることができる。この層は、化学的及び熱的に安定であることができ、誘電バリア放電中に発生する酸化種から電極又は熱電コンポーネントを保護することができる。したがって、この層は、装置の寿命を延ばすことができる。
【0038】
熱電コンポーネントは、電極に直接対向しない領域を有することができる。従って、熱電コンポーネントは、電極よりも大きな面的拡がり(flaechige Ausdehnung)を有することができる。装置は、プロセスガスが先ず電極に対向しない(nicht gegenueberliegt)熱電コンポーネントの領域を通過し、その後、熱電コンポーネントと電極が対向する(gegenueberliegen)放電領域に入るように設計できる。そして、電極に直接対向していない領域では、熱電コンポーネントによってプロセスガスの温度を制御する(geregelt)ことができる。例えば、プロセスガスを冷却することで、プロセスガスから水分を凝縮させて取り出し(auskondensiert)、より乾燥したプロセスガスを実現することができる。
【0039】
装置は、駆動制御部を有することができ、駆動制御部は、装置を先ず冷却動作で動作させ、冷却動作では、誘電バリア放電がトリガされず、装置の表面が露点を下回るように冷却され、結露によって表面に水膜が生成され、続いて、装置を放電動作で動作させ、放電動作では、誘電バリア放電が水膜上で発生する、ように設計されている。
【0040】
装置は、加熱動作で動作するように構成されることができ、加熱動作では、誘電バリア放電がトリガされず、装置の表面が100°以上の温度に加熱される。
【0041】
装置は、温度センサ、オゾンセンサ、及び湿度センサから選択される少なくとも1つのセンサを備え、装置は、少なくとも1つのセンサの測定値を考慮して、熱電コンポーネントの出力及び/又は高電圧源の出力を調整するように構成されている。高電圧源の出力を制御する又は閉ループ制御する(Regelung)ことにより、誘電バリア放電の際の放電出力を制御する又は開ループ制御する(gesteuert)ことができる。熱電コンポーネントの出力得を制御する又は閉ループ制御することで、装置の熱輸送出力を制御する又は開ループ制御することができる。
【0042】
電極は別個に交換可能であることができ、及び/又は、熱電コンポーネントは別個に交換可能であることができる。別個に交換する場合、装置のさらなる構成要素を交換する必要はない。したがって、電極及び/又は熱電コンポーネントは、高電圧源とは独立して交換することができる。電極及び熱電コンポーネントは、通常、プラズマ生成による経年劣化及び磨耗を受ける。
【0043】
さらなる態様は、上述した装置を含む機器に関する。機器は、冷蔵庫、クーラーボックス(Kuehlbox)、エアコン、冷却機器、殺菌機器、洗濯乾燥機、包装機器、食品加工機器、空間除染機器、繊維寄生虫駆除機器、ゴミ回収器又は小型滅菌器であることができる。
【0044】
本装置をクーラーボックス、冷蔵庫、又は生鮮品を保管することができる冷却機器に適用する場合、冷却と誘電バリア放電の組み合わせが特に有利である。誘電バリア放電の際に酸化種を生成することにより、不所望な微生物学的プロセス、例えば腐敗、カビの形成、マイクロフィルムの形成、又は不快な臭いの発生を抑制することができる。臭気の低減では、熱電コンポーネントの冷たい表面での凝縮が非常に効果的であり、水と一緒に凝縮して取り出される(auskondensieren)有機分子も、過剰なオゾンを発生させることなく、誘電バリア放電によって第2ステップで効果的に分解されるからである。放電領域内の全体表面を面放電によって無菌状態に保つことができる。
【0045】
医療用途では、所与の容積内で10000ppm以上の高濃度オゾンを供給し、少ない設備で高効率な滅菌プロセスを実現する。
【0046】
さらなる態様は、上述の装置を用いて誘電バリア放電を生成するための方法であって、高電圧源によって熱電コンポーネントと電極との間に高電圧を生成し、空隙内で誘電バリア放電を点火させる方法に関するものである。
【0047】
有利な態様を以下に記載する。参照を容易にするために、態様には連続した番号が付けられている。態様の特徴は、それらが関連する特定の態様との組み合わせにおいてだけでなく、別々に考慮される場合にも関連する。
【0048】
1.
誘電バリア放電を生成するための装置であって、
ペルチェ素子と、
ペルチェ素子に対向して配置された電極と、
ペルチェ素子と電極との間に誘電バリア放電を点火するのに十分な高電圧を生成するように構成された高電圧源と、を備える。
【0049】
2.
態様1による装置であって、
ペルチェ素子は、互いに平行に配置された2つ以上の半導体素子を備え、
ペルチェ素子は、半導体素子を接続する金属ブリッジを有し、
互いに隣り合う2つの半導体素子は、その上面又は下面で、金属ブリッジを介して互いに接続されており、
ペルチェ素子は、金属ブリッジを覆うセラミックプレートを備える。
【0050】
3.
態様2による装置であって、
ペルチェ素子は、電極に面するセラミックプレートと金属ブリッジとの間に配置された弱導電層を有する。
【0051】
4.
態様3による装置であって、
弱導電層は、金属ブリッジを介した半導体素子のメアンダ形状接続の抵抗よりも少なくとも100倍大きい抵抗を有する。
【0052】
5.
態様1乃至4いずれかによる装置であって、
高電圧源は、電極に高電圧交流電位を印加するように設計されており、
装置は、ペルチェ素子に低直流電圧を印加するように構成された直流電圧源、を備える。
【0053】
6.
態様1乃至5いずれかによる装置であって、
装置は、ペルチェ素子と電極との間の体積放電として誘電バリア放電を点火するように構成されている。
【0054】
7.
態様1乃至4いずれかによる装置であって、
ペルチェ素子は、電極に面する表面に金属化部を有し、
高電圧源は、前記ペルチェ素子に高電圧電位を印加するように設計されている。
【0055】
8.
態様7による装置であって、
装置は、誘電バリア放電を金属化部に表面放電として点火するように構成されている。
【0056】
9.
態様1乃至8いずれかによる装置であって、
ペルチェ素子は、プロセスガスを冷却する、又はプロセスガスを加熱するように構成されており、又は
ペルチェ素子は、動作サイクル中にプロセスガスの温度を連続的に変化させるように設計されている。
【0057】
10.
態様1乃至9いずれかによる装置であって、
電極及び/又は前記ペルチェ素子が、ガラス質層で覆われている。
【0058】
11.
態様1乃至10いずれかによる装置であって、
ペルチェ素子の面積が電極の面積より大きい。
【0059】
12.
態様1乃至11いずれかによる装置であって、
装置は駆動制御部を備え、駆動制御部は、
装置を冷却動作で動作させ、冷却動作では、誘電バリア放電がトリガされず、装置の表面がプロセスガスの露点を下回るように冷却され、したがって前記表面上に水膜が凝縮(Kondensation)によって生成され、
その後装置を放電動作で動作させ、放電動作では、誘電バリア放電が水膜上で生成される、ように構成されている。
【0060】
13.
態様1乃至12いずれかによる装置であって、
装置は、誘電バリア放電がトリガされず、装置の表面が100℃以上の温度に加熱される加熱動作で動作するように構成されている。
【0061】
14.
態様1乃至13いずれかによる装置であって、
装置は、温度センサ、オゾンセンサ、及び湿度センサから選択される少なくとも1つのセンサを備え、
装置は、少なくとも1つのセンサの測定値を考慮して、ペルチェ素子の出力(Leistung)及び/又は高電圧源の出力を適合させるように構成されている。
【0062】
15.
態様1乃至14いずれかによる装置を有する機器であって、
機器は、冷蔵庫、クーラーボックス、エアコン、冷却機器、洗濯乾燥機、包装機器、食品加工機器、空間除染機器、繊維寄生虫駆除機器、ゴミ回収器又は小型滅菌器である。
【0063】
16.
態様1乃至14いずれかによる装置によって誘電バリア放電を生成するための方法であって、
高電圧源はペルチェ素子と電極との間で高電圧を生成し、誘電バリア放電を点火する。
【図面の簡単な説明】
【0064】
以下、本発明の好ましい実施形態について、図を参照しながらより詳細に説明する。
【
図1】
図1は、第1実施形態による誘電バリア放電を生成するための装置を示す図である。
【
図2】
図2は、第2実施形態による装置を示す図である。
【
図3】
図3は、第3実施形態による装置を示す図である。
【
図4】
図4は、第3実施形態による装置を示す図である。
【
図5】
図5は、第4実施形態に係る装置を示す図である。
【
図6】
図6は、第4実施形態に係る装置を示す図である。
【
図7】
図7は、第4実施形態に係る装置を示す図である。
【
図8】
図8は、装置のさらなる実施形態を示す図である。
【
図9】
図9は、
図8に示した装置の焼付画像(Brennbild)を示す図である。
【
図10】
図10は、2次元メアンダ形状を形成する、金属ブリッジを介した熱電素子の相互接続を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0065】
図1は、誘電バリア放電を生成するための装置であり、熱電コンポーネント1と電極2とを有する。熱電コンポーネント1はペルチェ素子である。
【0066】
熱電コンポーネント1は、電気熱変換器である。プロセスガスの温度を変化させるように設計されている。直流電圧が熱電コンポーネント1に印加され、直流電流が熱電素子1に流れると、ペルチェ効果、シーバック効果、トムソン効果に基づく温度差が生成される。ペルチェ素子1は、プロセスガスの冷却にも、-電流の向きを逆にすると-プロセスガスの加熱にも使用することができる。
【0067】
熱電コンポーネント1は、金属ブリッジ4によって、メアンダ構造を形成するように、相互に接続された熱電素子3を有する。
【0068】
熱電コンポーネント1がペルチェ素子である場合、熱電素子として半導体素子、特に半導体セラミックプレートが使用される。半導体素子は、金属ブリッジ4によって互いに直列に接続され、pドープ半導体素子とnドープ半導体素子とが交互に接続されている。半導体素子は、例えば、テルル化ビスマスやシリコンゲルマニウムを含むことができる。
【0069】
熱電コンポーネント1に直流電流を流すと、熱電効果、例えばペルチェ効果により、金属ブリッジ4で熱又は冷気が発生する。
【0070】
熱電コンポーネント1は、第1セラミックプレート5aと第2セラミックプレート5bとを有する。第1セラミックプレート5aは、電極に対向する上面に配置されている。第2セラミックプレート5bは、電極から離れる向きの下面に配置されている。
【0071】
セラミックプレート5a,5bは、酸化アルミニウムを含むか又は酸化アルミニウムからなることができる。代替的又は付加的に、セラミックプレート5a,5bは、窒化アルミニウムを含むか又は窒化アルミニウムからなることができる。セラミックプレート5a、5bは、酸化アルミニウムの層と窒化アルミニウムの層とを含む多層構造を有することができる。窒化アルミニウムは、熱伝導率が高いという利点を有する。酸化アルミニウムは、耐食性が高いという利点を有する。セラミックプレート5a,5bの多層構造は、耐食性保護層として、最外層に酸化アルミニウムの層を有することができる。
【0072】
セラミックプレート5a、5bは金属ブリッジ4に覆われている。
図1に示す実施例では、セラミックプレート5a、5bは、金属ブリッジ4上に直接配置されている。金属ブリッジ4は熱接触面を形成し、そこを介して熱又は冷気がセラミックプレート5a、5bに伝達される。セラミックプレート5a、5bは、熱伝導プレートとして機能する。セラミックプレート5a、5bは、熱又は冷気をプロセスガスに伝達する。
【0073】
電極2は、第1セラミックプレート5aのうちの1つと平行に配置されている。電極2は、熱電コンポーネント1に対向し、それにより、熱電コンポーネント1から空間的に離間している。電極2と熱電コンポーネント1との間には空隙6がある。熱電コンポーネント1と電極2との間の空隙6は、0.01mm~1.0mmの幅、好ましくは0.05mm~0.5mmの幅を有することができる。
【0074】
この装置は、電極2と熱電コンポーネント1との間で誘電バリア放電をトリガさせるようになっている。誘電バリア放電は、非熱的な大気圧プラズマの点火である。
【0075】
電極2には、熱電コンポーネント1の電位に関して、高振幅の交流電圧電位が印加される。これにより、熱電コンポーネント1と電極2との間に高電圧が発生する。熱電コンポーネント1と電極2との間に誘電バリア放電が点火され、電極1に対向するセラミックプレート5が誘電バリアとして機能する。
【0076】
熱電コンポーネント1には直流電流が流れる。熱電コンポーネント1の低抵抗の熱電素子3を通る直流電圧の電位差は、誘電バリア放電に必要な高電圧に対して無視できる程度である。逆に、誘電バリア放電時に典型的に発生する電流密度は、熱電素子3を流れる直流電流と比較して小さい。相応に、熱電コンポーネント1の冷却機能と装置の放電機能とが互いに悪影響を及ぼし合うことはない。
【0077】
熱電コンポーネント1は、プロセスガスの温度を調整する冷却又は加熱素子としての機能と、電極2とともに誘電バリア放電をトリガする対向電極としての機能の両方で、装置内で使用されている。熱電素子1を誘電バリア放電と組み合わせることで、誘電バリア放電を精密に調整された温度及び湿度で動作させることができ、誘電バリア放電で発生する活性種の濃度や組成を調整又は設定し安定的に維持することができる。
【0078】
熱電コンポーネント1は、電極2と熱電コンポーネント1との間の空隙6に位置するプロセスガスの温度を制御又は閉ループ制御することが可能である。熱電コンポーネント1を誘電バリア放電に用いる場合、放電時のプロセスガスの温度を精密に調整することができる。プロセスガスとして空気を用いた場合、誘電バリア放電の空間内で生成されるガスの組成は、空気の温度に非常に大きく依存する。特に、生成されるオゾン(O3)と亜硝酸ガス(NO,NO2,NOx)との比率は温度によって決まる。温度の上昇に伴って、亜硝酸ガスの生成が促進され、オゾンの分解メカニズムが亜硝酸ガスに有利になるように加速される。
【0079】
装置は、異なる動作モードで動作することができる。第1動作モードは純粋冷却モードであり、熱電コンポーネント1がプロセスガスを冷却し、熱電素子と電極2との間に高電圧が発生しない。プロセスガスが露点を下回って冷却されると、凝縮によって水が形成され、熱電コンポーネント1の表面に水膜として析出する(absetzt)。
【0080】
装置の第2動作モードは、放電モードである。放電モードでは、熱電コンポーネント1と電極2との間に高電圧が印加され、電極2と熱電コンポーネント1との間で誘電バリア放電がトリガされる。さらに、熱電コンポーネント1は、同時にプロセスガスを冷却又は加熱することができる。
【0081】
放電動作は、冷却動作の直後に行うことができ、冷却動作において熱電コンポーネント1の表面に水膜が生成されることができる。この場合、誘電バリア放電は、水膜上で発生する。その際、特に過酸化物種が生成され、オゾンの発生が少なくなる。
【0082】
装置の第3動作モードは、加熱モードである。加熱モードでは、熱電コンポーネント1と電極2との間に高電圧は印加されず、熱電コンポーネント1がプロセスガスを加熱する。この場合、熱電コンポーネント1は100℃以上の高温になることができる。このような高温になると、オゾンが分解される。熱電コンポーネント1が放電モードに続いてその加熱モードで動作する場合、誘電バリア放電によって活性体積に構築されたオゾン濃度を再び低いレベルまで迅速に減少させることができる。なお、冷却動作、放電動作、加熱動作を処置の時間順序で順次繰り返すように動作させることも可能である。
【0083】
熱電コンポーネント1は、広い温度範囲にわたってプロセスガスを連続的に加熱又は冷却するように、放電モードで動作させることができる。プロセスガスが低温から高温に連続的に移行する間、誘電バリア放電を連続的にトリガさせることができる。このようにして、活性酸素(ROS(Reactive Oxygen Species))から活性窒素(RNS(Reactive Nitrogen Species))までの種の全てのスペクトルを発生させることができる。このようにして、例えば徹底的な殺菌を実現することができる。
【0084】
プロセスガスを加熱及び/又は冷却することで、熱電コンポーネント1は、プロセスガスの湿度を制御又は閉ループ制御することもできる。例えば、冷却プロセスにおいて、プロセスガスから水分を凝縮させて取り出す(auskondensiert)ことができる。プロセスガスの湿度は、誘電バリア放電中に生成されるガスの組成に影響を与える。例えば、湿度の存在は、過酸化物H2O2 の生成につながり得る。
【0085】
熱電コンポーネント1の面積は、対向する電極2の面積よりも大きく、熱電コンポーネント1は、電極2が熱電コンポーネント1に直接対向していない第1領域7を有する。プロセスガスは、まず電極2が熱電コンポーネント1に直接対向していない、熱電コンポーネント1の第1領域7上に導かれ、その後、電極2が熱電素子1に対向し、誘電バリア放電が点火される、放電領域8に導かれることができる。その結果、熱電コンポーネント1は、誘電バリア放電が発生する前に、第1領域7内のプロセスガスを冷却することができる。このようにして、誘電バリア放電の前であっても、プロセスガスからの水分の積極的な凝縮が達成される。このようにして乾燥されたプロセスガスは、その後、放電領域まで到達することができる。誘電バリア放電前に放電領域外でプロセスガスを乾燥させると、誘電バリア放電時に、予め乾燥させていないプロセスガスに比べて高いオゾン濃度を得ることができる。
【0086】
図2は、装置の第2実施例を示す図である。
図2に示す実施形態では、電極2から離れる方に向いた熱電コンポーネント1のセラミックプレートに、冷却体9が追加で取り付けられている。この冷却体9は、熱電コンポーネント1に加えて、プロセスガスの冷却にも寄与している。さらに、第2実施例では、電極2にも冷却体9が設けられている。電極2に接続された冷却体9には、ガス排出口が設けられている。なお、熱電素子1に接続される冷却体9及び電極2に接続される冷却体9はいずれも任意であり、他の実施形態では省略することができる。
【0087】
図2において、Qと記された矢印は、熱電コンポーネント1を通過する熱輸送の方向を示している。熱電コンポーネント1によってプロセスガスが冷却される。他の矢印は、プロセスガスの流れ方向を示す。
【0088】
さらに、この装置は、代替的又は付加的に、熱電コンポーネント1に沿ったプロセスガスの流れをサポートするファンを含むことができる。
【0089】
図1及び
図2に示す実施例では、電極2に面する第1セラミックプレート5aの内面が、金属ブリッジ4によって金属化されている。金属ブリッジ4は、連続した面を形成しておらず、内面側に島状の金属化部が形成されている。このため、誘電バリア放電の際に放電が不均一になり得る。さらに、島状の金属化部は、セラミックプレート5aの内側に寄生放電を引き起こす可能性がある。
図3は、これらの不所望な副作用を克服する第3実施例の装置を示す。
【0090】
第3実施例では、金属ブリッジ4と第1セラミックプレート5aとの間に弱導電層10が配置されている。弱導電層10は、島状の金属化部間の電位差を補償することができる。また、熱電素子3と金属ブリッジ4からなるメアンダ形状の接続部の内部抵抗と比較して高抵抗となる抵抗を有している。例えば、弱導電層10の抵抗は、メアンダ形状の接続部の抵抗の100倍以上であってもよい。したがって、熱電コンポーネントを流れる電流は、弱導電層を通らず、金属ブリッジ4及び熱電素子3を通る。このため、弱導電層10は、熱電素子1の冷却機能又は加熱機能を妨害することがない。
【0091】
弱導電層10の導電性は、熱電コンポーネント1が誘電バリア放電の際に面状の対向電極として作用し、不均一な放電を回避するために十分なものである。また、金属ブリッジ4に寄生放電が発生しないように、金属ブリッジ4は弱導電層10を介して相互に接続されている。このように、弱導電層10によって、最初の2つの実施形態例からの不所望な副作用を克服することが可能になる。
【0092】
図3に示す実施例では、金属ブリッジ4と第1セラミックプレート5aとの間に弱導電層10が配置されている。金属ブリッジ4と第2セラミックプレート5bとの間には、弱導電層10は配置されていない。代替的な形態では、弱導電層10は、金属ブリッジ4と第2セラミックプレート5bとの間にも配置される。別の代替的な実施例では、金属ブリッジ4と第2セラミックプレート5bとの間に、接地電位にある導電性ネット状構造が配置される。導電性ネット状構造は、第2セラミックプレート5bの内面側での寄生放電を回避することができる。導電性ネット状構造は、その間に配置される金属ブリッジ4とは導電的に接続されていない。
【0093】
また、
図4は、
図3に示した例を示している。
図4には、直流電圧源11と高電圧源12がさらに示されている。直流電圧源11は、熱電コンポーネント1に低電圧域の直流電圧を印加する。そのため、熱電コンポーネント1には直流電流が流れる。熱電コンポーネント1は、低電圧の電位にある。高電圧源12は、電極2に高交流電圧の電位を印加する。従って、熱電コンポーネント1と電極2との間に高電位差が生じ、電極2と熱電コンポーネント1との間の空隙6で誘電バリア放電が発生する。この誘電バリア放電は、体積放電である。
【0094】
図5、
図6、
図7は、第4実施例の装置であり、熱電コンポーネント1において誘電バリア放電を表面放電としてトリガする。
図5では、電極2は示されていない。
図6は、第1セラミックプレート5aと金属化部13とで覆われた熱電コンポーネント1の上面図である。
【0095】
また、本実施例では、第1セラミックプレート5aと金属ブリッジ4との間に、弱導電層10が配置されることができる。第1セラミックプレート5aの一表面には、金属化部13が設けられている。この金属化部13は、電極として機能する。金属化部13には、高電圧の電位を印加され得る。熱電コンポーネント1全体が高交流電圧の電位に置かれる。熱電コンポーネント1とともに、接地電位にある面状電極2が作用する。電極2が十分に高い静電容量を有していれば、誘電バリア放電をトリガするのに十分である。
【0096】
金属化部13は、第1セラミックプレート5aがメタライズ13に覆われていない凹部を有している。誘電バリア放電は、凹部において面放電として点火される。
【0097】
図5乃至
図7に示す実施例では、熱電コンポーネント1を冷却して、表面、例えば人間の皮膚の一部や他の被加工面に対して高い交流電位まで上昇させることができる。熱電コンポーネント1と表面との間の空隙6において、低温誘電バリア放電(kalten dielektrischen Barriereentladung)が発生する。このような応用は、例えば、皮膚科や創傷治療において可能である。表面は、電極2を形成する。
【0098】
図7は、熱電コンポーネント1、電極2、直流電圧源11及び高電圧源12を示す。直流電圧源11は、直流電圧を熱電コンポーネント1に印加する。したがって、直流電流が熱電コンポーネント1を流れ、ペルチェ効果をトリガし、プロセスガスが冷却又は加熱されることになる。
【0099】
高電圧源12は、熱電コンポーネント1に高電圧の交流電位を印加する。また、直流電圧源11も、高電圧源12によって印加される高電圧交流電位にある。
【0100】
電極2は、接地電位にある。高電圧源12には接続されていない。熱電コンポーネント1の金属化部13と電極2との間に高電圧が発生し、熱電コンポーネント1の金属化部13における誘電放電の面放電としての点火がトリガされる。
【0101】
図8は、装置の他の実施例を示し、
図8の装置は、付加的にカメラ14と組み合わされる。カメラ14は、装置によって生成された焼付画像(Brennbild)を記録するためにのみ使用される。
図9は、カメラ14で撮影された焼付画像を示している。
図10は、金属ブリッジ4による熱電素子3の相互接続を模式的に示している。
【0102】
図8に示す実施例では、熱電コンポーネント1は、複数の熱電素子3がマトリクス構造で配置されている。熱電素子3は、さらに金属ブリッジ4を介して、2次元メアンダ形状に相互に接続されている。熱電素子3の配置と相互接続は、
図9に示す焼付画像から確認することができる。また、
図10には、熱電素子3の相互接続が、装置の一部について示されている。熱電素子3の上面に配置される金属ブリッジ4は実線で、熱電素子3の下面に配置される金属ブリッジ4は破線で描かれている。
【0103】
図8に示す例では、電極2としてITO(Indium Tin Oxide)製のプレートが使用されている。カメラ14は、酸化インジウムプレートの片面に、熱電コンポーネントと反対側を向いて配置されている。このようにすることで、カメラ14は熱電素子の焼付画像を撮影することができる。
【0104】
高電圧源12は、熱電コンポーネント1と酸化インジウム錫製のプレートとの間に交流電圧を印加する。
【0105】
金属ブリッジ4は、第1セラミックプレート5a上に島状に配置され、それぞれ2つの熱電素子を互いに接続する。隣接する2つの金属ブリッジ4は、非金属化面によって互いに分離されている。
【0106】
その結果、金属ブリッジ4の位置パターンにしたがった構造的な焼付画像を得ることができる。焼付画像は、個々の焼付スポット(Brennflecken)で構成されている。焼付スポットの面積は、それぞれの金属ブリッジの面積よりも大きくなっている。
【0107】
熱電コンポーネント1と電極2との間の誘電バリア放電に点火するための点火電圧は、
図8に示す実施例の場合、熱電コンポーネントと電極との間の均質放電の場合よりも低くなっている。
【0108】
実施例では、オゾンの発生量が多くなる。
【0109】
焼付スポットの中で最も放電密度が高い箇所では、熱電コンポーネント1の冷却出力も最も高くなる。この結果、熱電コンポーネントの冷却出力密度と、誘電放電の際に発生する熱生成量が常に一致する装置を実現できる。
【0110】
図11は、
図8に示した装置の部分領域を通る断面図である。
図11を参照して、第1セラミックプレートの厚さ及び金属ブリッジ4の適切な寸法設定によって、第1セラミックプレート5aの内側での寄生放電が回避されることを以下に説明する。
【0111】
図11に示す実施例では、第1セラミックプレート5a内と、熱電コンポーネント1と電極2との間の空隙6内の電界の経過を示している。このために等電位線(Isopotentiallinien)が描かれている。等電位線の密度が高いことは、電界強度が高いことと同義である。ここでは、第1セラミックプレート5aの材料として、酸化アルミニウムが用いられている。セラミックプレート5a内は、電界強度が低い。特に、セラミックプレート5a内では、電界強度は、それを超えると金属ブリッジ間の寄生放電の点火をもたらす点火電圧以下である。点火電圧は、300V/mmとすることができる。
【0112】
空隙6には、より高い電界強度が存在し、例えば2kV/mm以上とすることができる。したがって、誘電バリア放電は、空隙内で点火される。
【0113】
等電位線の経過に基づいて、第1セラミックプレート5aの厚さと、隣接する2つの金属ブリッジ4間の距離が、第1セラミックプレート内側の電界強度に大きな影響を与えることが分かる。寄生放電を避けるために、隣り合う金属ブリッジ4間の距離を高過ぎるように選択しては(nicht zu hoch gewaehlt)ならない。特に、寄生放電が発生しないように、以下の不等式を満たす必要がある。
D>Uzuend/Ubetrieb×ε2/ε1×A,
ここで、Dは、前記第1セラミックプレートの厚さを示し、Uzuendは、それを超えると前記金属ブリッジ間のプラズマ点火につながる点火電圧を示し、Ubetrieは、前記装置に印加される動作電圧を示し、ε2は、前記第1セラミックプレートの誘電率を示し、ε1は、空気の誘電率を示し、Aは、隣り合う前記金属ブリッジの距離を示す。
【0114】
金属ブリッジ4の寸法を適切に設定することにより、金属ブリッジ4と第1セラミックプレート5aとの間に弱導電層10が存在しない装置においても、寄生放電を排除することが可能である。
【0115】
さらに、
図1乃至
図10に示す各実施例において、熱電コンポーネント1の電極2及び/又は電極2に面する表面は、ガラス質層で被覆されることができる。この層は、可溶性釉薬又は焼成釉薬として焼き付けることができる。ガラス質層は、化学的及び熱的に安定である。それは、誘電バリア放電の際に生じる酸化種から熱電コンポーネント1又は電極2を保護することができる。したがって、この層は、特に高湿度下で使用される場合、装置の耐用年数を増加させる。
【0116】
また、単段の熱電コンポーネント1の代わりに、より高い温度差を実現するために、複数の熱電コンポーネントを組み合わせて多段の熱電コンポーネントを構成することも可能である。
【0117】
上述した動作モードである放電モード、冷却モード、加熱モードは、図示した4つの実施形態のいずれでも使用可能である。
【0118】
熱電コンポーネントとしては、ペルチェ素子の代替として、熱電セラミック材料からなる熱電素子を使用することができる。
【符号の説明】
【0119】
1 熱電コンポーネント(thermoelektrisches Bauelement)
2 電極(Elektrode)
3 熱電素子(thermoelektrisches Element)
4 金属ブリッジ(Metallbruecke)
5a 第1セラミックプレート(erste Keramikplatte)
5b 第2セラミックプレート(zweite Keramikplatte)
6 空隙(Spalt)
7 第1領域(erster Bereich)
8 放電領域(Entladebereich)
9 冷却体(Kuehlkoerper)
10 弱導電層(schwach leitfaehige Schicht)
11 低電圧源(Gleichspannungsquelle)
12 高電圧源(Hochspannungsquelle)
13 金属化部(Metallisierung)
14 カメラ(Kamera)