(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-17
(45)【発行日】2024-05-27
(54)【発明の名称】加工物をレーザ切削し、加工物部分を製造するための装置および方法
(51)【国際特許分類】
B23K 26/082 20140101AFI20240520BHJP
B23K 26/38 20140101ALI20240520BHJP
B23K 26/00 20140101ALI20240520BHJP
【FI】
B23K26/082
B23K26/38 A
B23K26/00 P
(21)【出願番号】P 2023540843
(86)(22)【出願日】2022-03-09
(86)【国際出願番号】 EP2022056022
(87)【国際公開番号】W WO2022189499
(87)【国際公開日】2022-09-15
【審査請求日】2023-07-03
(32)【優先日】2021-03-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】503168692
【氏名又は名称】バイストロニック レーザー アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ハース ティトゥス
(72)【発明者】
【氏名】シャイディガー ジーモン
(72)【発明者】
【氏名】シュタインリン マルクス
(72)【発明者】
【氏名】ベルガー ミヒャエル
【審査官】岩見 勤
(56)【参考文献】
【文献】特表2021-506593(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第03747588(EP,A1)
【文献】独国特許出願公開第102018220336(DE,A1)
【文献】独国特許出願公開第102019120830(DE,A1)
【文献】国際公開第2019/188155(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/082
B23K 26/38
B23K 26/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工物(12)をレーザ切削し、加工物部分を製造するための装置(10;100)であって、
切削ヘッド(20)であって、
前記切削ヘッドが、少なくとも200
Wの電力で機械加工レーザビーム(24)を発生させるためのレーザ源用のインターフェース(22)と、前記機械加工レーザビームのための出口開口(26)と、前記インターフェースと前記出口開口との間のレーザビーム光学部品(28)とを有し、
前記レーザビーム光学部品(28)が、少なくとも前記機械加工レーザビームの伝搬方向に垂直な前記機械加工レーザビームの高周波ビーム整形運動を生じさせるための少なくとも1つの動的レーザビーム運動ユニット(30)を有する、切削ヘッド(20)と、
前記切削ヘッド(20)を介して前記加工物(12)上で前記機械加工レーザビームの運動を行うための切削ヘッド運動ユニット(32)と、
前記切削ヘッド運動ユニット(32)および前記レーザビーム運動ユニット(30)を制御するための制御ユニット(34)と
を有し、
前記制御ユニットが、
- 製造する前記加工物部分の少なくとも1つの所定の輪郭(X、Y)に従って、少なくとも1つの加工物平面における前記機械加工レーザビームの少なくとも1つの運動軌跡(X、Y)を決定するための決定モジュール(36)と、
- メモリユニット(38)であって、前記メモリユニットから、前記切削ヘッド運動ユニット(32)の運動パラメータ、前記レーザビーム運動ユニット(30)の運動パラメータ、および前記所定の輪郭からの切削輪郭の偏差のパラメータから選択される少なくとも1つの所定のパラメータを読み出すことができる、メモリユニット(38)と
を含み、
前記制御ユニットが、
- 前記メモリユニット(38)から読み出すことのできる前記少なくとも1つの所定のパラメータに基づいて、前記切削ヘッド(20)を介した前記機械加工レーザビームの運動に、前記レーザビーム運動ユニット(30)を介した前記機械加工レーザビームの前記高周波ビーム整形運動を重ね合わせることによって、前記運動軌跡(X、Y)を調節するための最適化モジュール(40)を含み、
前記最適化モジュール(40)が、前記切削ヘッド運動ユニット(32)と前記レーザビーム運動ユニット(30)との間で前記機械加工レーザビームの前記運動軌跡(X;Y)を重複して分割することによって、前記運動軌跡を最適化するように構成されている
ことを特徴とする装置(10;100)。
【請求項2】
請求項1に記載の装置であって、前記最適化モジュール(40)が、特に少なくとも1つの所定のパラメータを予め決めるために、前記切削ヘッド運動ユニット(32)の前記運動パラメータ、前記レーザビーム運動ユニット(30)の前記運動パラメータ、および前記所定の輪郭からの切削輪郭の偏差のパラメータから選択される少なくとも1つのパラメータを調節および/または最適化するように構成されていることを特徴とする装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の装置であって、前記切削ヘッド運動ユニットの前記運動パラメータが、
- 前記切削ヘッド運動ユニットの動的限界(DG)、
- 前記所定の輪郭の角における前記切削ヘッド運動ユニットの丸み付け公差(VT)、および
- 前記所定の輪郭の半径における前記切削ヘッド運動ユニットの丸み付け公差(VT)
から選択される少なくとも1つのパラメータであることを特徴とする装置。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の装置であって、前記レーザビーム運動ユニットの前記運動パラメータが、
- 前記レーザビーム運動ユニットの動的限界(DG)、および
- 前記レーザビーム運動ユニットにより発生させることのできる前記機械加工レーザビームの最大運動振幅
から選択される少なくとも1つのパラメータであることを特徴とする装置。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の装置であって、前記所定の輪郭(X、Y)からの切削輪郭の偏差のパラメータが、
- 推定偏差、
- 測定偏差から得られるパラメータ、
- 前記所定の輪郭の角における前記切削輪郭の丸み付け、
- 前記所定の輪郭の半径における前記切削輪郭の丸み付け、
- 切り口の推定表面欠陥(OD)、および
- 切り口の測定表面欠陥から得られたパラメータ
から選択される少なくとも1つのパラメータであることを特徴とする装置。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の装置であって、前記運動軌跡を調節するための前記最適化モジュール(40)が、前記切削ヘッド運動ユニット(32)の少なくとも1つの増大した丸み付け公差(VT)に基づいて設計され、結果として生じる前記所定の輪郭からの前記切削輪郭の偏差を補償するためのものであることを特徴とする装置。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の装置であって、前記運動する切削ヘッド(20)の運動学的挙動を表す機械モデル(MM)が、前記メモリユニット(38)に格納され、前記切削ヘッドの運動の状態データを、前記切削ヘッド運動ユニットの運動パラメータとして推定し、および結果として生じる前記所定の輪郭からの前記切削輪郭の偏差をさらなるパラメータとして推定し、
前記最適化モジュール(40)が、前記機械モデルを読み取るために前記メモリユニット(38)とデータ通信する
ことを特徴とする装置。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の装置であって、前記最適化モジュールが、前記切削ヘッド運動ユニット(32)の少なくとも1つの増大した動的限界(DG)に基づいて前記運動軌跡を調節するように設計されていることを特徴とする装置。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の装置であって、レーザ切削プロセスを表し、前記レーザ切削プロセスの状態データおよび結果として生じる前記所定の輪郭からの前記切削輪郭の偏差をパラメータとして推定するプロセスモデルが、前記メモリユニット(38)に格納され、
前記最適化モジュール(40)が、前記プロセスモデルを読み取るために前記メモリユニットとデータ通信する
ことを特徴とする装置。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の装置であって、前記制御ユニット(34)が、所定の2次元および/または3次元リサージュ図形のデータベースを含み、前記レーザビーム運動ユニット(30)が、前記データベースに基づいて、1つのリサージュ図形または2つ以上のリサージュ図形の組合せの形態の焦点振動経路上において前記機械加工レーザビームの焦点の高周波振動を誘発するように設計されている
ことを特徴とする装置。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の装置であって、切り口の表面欠陥、特に引っかき傷を、前記所定の輪郭(X、Y)からの前記切削輪郭の偏差のパラメータとして測定するために、前記メモリユニット(38)にデータ伝送方式で接続された検出装置(50)が、前記切削ヘッド(20)上または前記切削ヘッド(20)内に設けられ、および/または、
切り口の表面欠陥、特に引っかき傷を推定するためのモデル(MOD)が、前記メモリユニット(38)に格納され、前記モデルが、表面欠陥(OD)および結果として生じる前記所定の輪郭からの前記切削輪郭の偏差をパラメータとして推定し、
前記最適化モジュール(40)が、表面欠陥を推定するための前記モデルを読み取るために、前記メモリユニットとデータ通信する
ことを特徴とする装置。
【請求項12】
少なくとも200
Wの電力で機械加工レーザビームを発生させるためのレーザ源(60、62)が、インターフェース(22)に設けられている、請求項1~11のいずれか1項に記載の、加工物をレーザ切削し、加工物部分を製造するための装置(10;100)を用いて、加工物(12)をレーザ切削し、加工物部分を製造するための方法であって、
- 制御ユニット(34)の決定モジュール(36)を用いて、製造する加工物部分の少なくとも1つの所定の輪郭(X、Y)に従って、少なくとも1つの加工物平面において機械加工レーザビーム(24)の少なくとも1つの運動軌跡を決定するステップ(S1)と、
- 前記制御ユニット(34)の最適化モジュール(40)を用いて、メモリユニットから読み出すことのできる少なくとも1つの所定のパラメータに基づいて、切削ヘッド(20)を介した前記機械加工レーザビームの運動に、動的レーザビーム運動ユニット(30)を介した前記機械加工レーザビームの高周波ビーム整形運動を重ね合わせることによって、前記運動軌跡を調節するステップ(S2)と、
- 少なくとも200
Wの電力で前記機械加工レーザビーム(24)を発生させ、前記機械加工レーザビームを用いて前記加工物を切削するステップ(S3)と、
- 調節された運動軌跡(X°、Y°)に従って、前記切削ヘッド(20)を介して前記機械加工レーザビーム(24)を前記加工物上で運動させ、前記レーザビーム運動ユニット(30)を介して、少なくとも前記機械加工レーザビームの伝搬方向に垂直な前記機械加工レーザビームの高周波ビーム整形運動を行うステップ(S4)と
を含み、
前記調節するステップが、切削ヘッド運動ユニット(32)と前記レーザビーム運動ユニット(30)との間で前記機械加工レーザビーム(24)の前記運動軌跡(X;Y)を重複して分割することによって、前記運動軌跡を最適化することを含む
ことを特徴とする方法。
【請求項13】
請求項12に記載の方法であって、特に少なくとも1つの所定のパラメータを予め決めるために、前記切削ヘッド運動ユニット(32)の運動パラメータ、前記レーザビーム運動ユニット(30)の運動パラメータ、および前記所定の輪郭からの切削輪郭の偏差のパラメータから選択される少なくとも1つのパラメータが調節および/または最適化されることを特徴とする方法。
【請求項14】
請求項12または13に記載の方法であって、前記調節が、前記切削ヘッド運動ユニット(32)の少なくとも1つの増大した丸み付け公差(VT)に基づいて行われ、結果として生じる前記所定の輪郭からの前記切削輪郭の偏差を補償することを含むことを特徴とする方法。
【請求項15】
請求項12~14のいずれか1項に記載の方法であって、前記運動する切削ヘッド(20)の運動学的挙動を表す機械モデル(MM)が、前記メモリユニット(38)に格納され、前記切削ヘッドの運動の状態データを、前記切削ヘッド運動ユニット(32)の運動パラメータとして推定し、および結果として生じる前記所定の輪郭からの前記切削輪郭の偏差をさらなるパラメータとして推定し、
前記調節が、前記機械モデルを前記メモリユニットから読み取って前記最適化モジュール(40)に読み込むことを含む
ことを特徴とする方法。
【請求項16】
請求項12~15のいずれか1項に記載の方法であって、前記調節が、前記切削ヘッド運動ユニット(32)の少なくとも1つの増大した動的限界(DG)に基づいて行われることを特徴とする方法。
【請求項17】
請求項12~16のいずれか1項に記載の方法であって、前記メモリユニット(38)がプロセスモデルを格納し、前記プロセスモデルが、レーザ切削プロセスを表し、前記レーザ切削プロセスの状態データおよび結果として生じる前記所定の輪郭からの前記切削輪郭の偏差をパラメータとして推定し、
前記調節が、前記プロセスモデルを前記メモリユニットから読み取って前記最適化モジュールに読み込むことを含む
ことを特徴とする方法。
【請求項18】
請求項12~17のいずれか1項に記載の方法であって、前記制御ユニット(34)が、所定の2次元および/または3次元リサージュ図形のデータベースを含み、前記レーザビーム運動ユニット(30)が、前記データベースに基づいて、1つのリサージュ図形または2つ以上のリサージュ図形の組合せの形態の焦点振動経路上において前記機械加工レーザビームの焦点の高周波振動を誘発する
ことを特徴とする方法。
【請求項19】
請求項12~18のいずれか1項に記載の方法であって、前記メモリユニット(38)にデータ伝送方式で接続された検出装置(50)が、前記切削ヘッド(120)上または前記切削ヘッド(120)内に設けられ、前記検出装置が、切り口の表面欠陥、特に引っかき傷を、前記所定の輪郭からの前記切削輪郭の偏差のパラメータとして測定し、および/または、
前記切り口の表面欠陥、特に引っかき傷を推定するためのモデル(MOD)が、前記メモリユニット(38)に格納され、前記モデルが、表面欠陥および結果として生じる前記所定の輪郭からの前記切削輪郭の偏差をパラメータとして推定し、
前記調節が、表面欠陥を推定するための前記モデルを前記メモリユニット(38)から読み取って前記最適化モジュール(40)に読み込むことを含む
ことを特徴とする方法。
【請求項20】
請求項12~19のいずれか1項に記載の方法であって、前記方法が、前記決定モジュール(36)によって決定された前記少なくとも1つの運動軌跡を用いて行われた、先行する前記加工物のレーザ切削の後に実行されることを特徴とする方法。
【請求項21】
特に決定モジュールおよび最適化モジュールから選択される少なくとも1つの要素を特に含むプログラムモジュールが装置のメモリにロードされたときに、請求項12~20のいずれか1項に記載の方法のステップを、請求項1~11のいずれか1項に記載の装置に実行させる、1つ以上のプログラムモジュールを含むことを特徴とするコンピュータプログラム製品。
【請求項22】
請求項21に記載のコンピュータプログラム製品が格納されることを特徴とするコンピュータ可読媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工物をレーザ切削し、加工物部分を製造するための装置、加工物をレーザ切削し、加工物部分を製造するための方法、コンピュータプログラム製品、およびコンピュータ可読媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ機械加工装置は、特に、レーザ切削などのレーザビームを用いて材料を熱分離するための方法において、加工物のレーザ機械加工に使用されている。多くの場合、レーザ機械加工ヘッドを使用して、機械加工レーザビームを加工物上、例えば機械加工するシート金属上に向ける。レーザ機械加工ヘッドは、通常、アクチュエータを介して動作される機械軸により、加工物の上で、軌跡上を特にX方向およびY方向に誘導される。さらに、機械加工装置では、アクチュエータを用いて、機械加工レーザビームの光軸をレーザ機械加工ヘッドの出口開口の中心軸に対して運動させることができる。
【0003】
機械加工装置においてアクチュエータを相互作用させる様々な手法があり、例えば、欧州特許第1758003(B1)号、米国特許第4532402(A)号、欧州特許第0815499(B1)号、欧州特許第1838486(B1)号、「Set Point Optimization for Machine Tools」、ETHZ、T.Haas、2018、および米国特許第5109148(A)号に記載されているものがある。これらの手法は、レーザ切削装置と比較して、より小さい質量がアクチュエータによって動かされる、および/または、加工物の機械加工のためにより少ない電力が使用される機械加工装置に関する。さらに、例えば「Modellbildung und Simulation hochdynamischer Fertigungssysteme,eine praxisnahe Einfuhrung」、O.ZirnおよびS.Weikert、2006、ならびにさらにN.Lanz、D.Spescha、S.WeikertおよびK.Wegener、「Efficient Static and Dynamic Modelling of Machine Structures with Large Linear Motions」、International Journal of Automation Technology、12巻、622-630ページ、2018に記載されているように、工作機械の運動学的特性を特徴付ける機械モデルがある。さらに、表面欠陥および/またはレーザプロセスに関連する加工物の品質特性を推定するためのモデルが知られている。例えば、Schuocker D.、Walter B.、「Theoretisches Modell der Riefenbildung beim Laserschneiden」、Waidelich W.Laser/Optoelektronik in der Technik/Laser/Optoelectronics in Engineering、Springer、Berlin、Heidelberg、1986;M.Brugmann、M.Muralt、B.Neuenschwander、S.WittwerおよびT.Feurer、「A theoretical model for reactive gas laser cutting of metals」、Lasers in Manufacturing Conference、2019;ならびにM.Brugmann、M.Muralt、B.Neuenschwander、S.WittwerおよびT.Feurer、「Optimization of Reactive Gas Laser Cutting Parameters based on a combination of Semi-Analytical modelling and Adaptive Neuro-Fuzzy Inference System(ANFIS)」、Lasers in Manufacturing Conference、2019参照。
【0004】
加工物をレーザ機械加工するとき、機械加工プロセスおよび/または加工物に応じて、例えば切削する金属のシートの厚さおよび材料に応じて、異なるレーザビームを使用することが望ましいことがある。一部の市販のレーザ機械加工ヘッドは、レーザ源からのレーザビームに対する変更できない光学撮像比を提供する。しかしながら、実際には、固定された撮像は、切削品質の低下、具体的には、製造される加工物部分の品質の低下、すなわち表面粗さおよびばり付着、ならびに、特に中程度の金属シート厚から厚い金属シート厚に対するより低い送り速度に関連するため、このタイプの撮像は、特にレーザ切削において妥協策とみなさなければならない。近年、焦束レーザビームのスポットサイズをそれぞれの用途に適合させるために、レーザ機械加工ヘッド用のズーム光学部品が開発されている。切削ヘッドを使用するレーザ切削において、例えば、焦束レーザビームのスポットサイズを、金属シート厚およびシートの材料に適合させる。レーザビームツールを機械加工プロセスに適合させるさらに進んだ手法は、レーザビームの強度分布および/またはビーム品質、例えばビームパラメータ積(BPP)もレーザ用途に適合させることができる手法である。この方向の様々な解決策が、例えば米国特許第8781269(B2)号、米国特許第9250390(B2)号、米国特許第9346126(B2)号、欧州特許出願公開第2730363(A1)号、欧州特許出願公開第2762263(A1)号、独国特許出願公告第2821883(B1)号、独国特許出願公開第102015116033(A1)号、欧州特許第2778746(B1)号、独国特許出願公開第102015101263(A1)号、独国特許第102008053397(B4)号から知られている。
【0005】
高周波ビーム振動は、動的ビーム整形(DBS)技術のうちの1つである。このプロセスでは、レーザビーム、または集束したレーザビームの場合にはその焦点を、例えば100Hz~10kHzの周波数で、特にレーザビームの伝搬方向に垂直に運動させる。このようにして、レーザ機械加工ヘッドに組み込まれたDBSシステムにより、レーザビームの略すべての強度分布を生じさせることができる。これにより、例えば、金属シートのレーザ切削時にそれぞれの金属シート厚および/またはシート品質に適合させる際に、有利な柔軟性を実現することが可能になる。速度および加速度などのDBSシステムの動的特性は重要であり、例えば、レーザ機械加工装置の機械軸の動的特性よりも1000倍以上高い。レーザ機械加工ヘッドの出口開口の小さい直径とDBSシステムの限定されたビーム偏向とに起因して、DBSシステムの動作範囲は小さく、例えば数百マイクロメートル~数ミリメートルである。DBSシステムに適合させたレーザツールを使用して、より良好な切削結果を得ることができる。例えば、Wetzig他:Fast Beam Oscillations Improve Laser Cutting of Thick Materials、State of the Art and Outlook、PhotonicsViews、3/2020;Goppold他:Chancen und Herausforderungen der dynamischen Strahlformung、Deutscher Schneidkongress、2018;Goppold他:Dynamic Beam Shaping Improves Laser Cutting of Thick Steel Plates、Industrial Photonics、2017;Goppold他:Laserschmelzschneiden mit dynamischer Strahlformung、Fraunhofer IWS Jahresbericht、2015;Mahrle他:theoretical aspects of fibre laser cutting、Journal of Physics D Applied Physics、2009;https://www.iws.fraunhofer.de/en/pressandmedia/press_releases/2016/press_release_2016-15.html参照。Fraunhofer IWS Dresdenは、動的ビーム整形に特に適していると思われる先端傾斜ピエゾプラットフォームスキャナシステムを示している(C.Goppold他、「Tip-Tilt piezo platform scanner qualifies dynamic beam shaping for high laser power in cutting applications」、LIM Konferenz、 Munich June 2019)。ここでは、約1インチの大きいミラーがアクチュエータとしてのピエゾ駆動装置に連結されて、ミラーを非常に動的に動かす。
【0006】
レーザ切削装置の機械軸のX方向およびY方向への動作範囲は大きく、機械軸のダイナミクスは小さく、例えば1m/s2または10m/s2である。機械軸の動的限界に起因して、通常、切削ヘッドの運動の速度は、製造する加工物部分の隅および小さい半径におけるレーザ切削時に低下する。切削する加工物部分の輪郭の誤差(輪郭誤差と称される)を減少させるために、機械軸の動的限界は、物理的に可能なものよりも小さくなるように意図的に選択されることが多い。しかしながら、これは、レーザ切削プロセスのために非常に長い時間を必要とし、レーザ切削装置の生産性を著しく低下させる。切削ヘッドの運動速度をそこまで低下させる必要をなくすために、特に加工物部分の隅および小さい半径において、切削する幾何形状または切削ヘッドの軌跡を丸み付けすることができる。しかしながら、丸み付けにより、望ましくない輪郭誤差が、加工物の目標輪郭からの偏差として生じることがある。
【0007】
最も近い従来技術を形成する米国特許出願公開第2020/398373(A1)号は、電磁波ビームを整形するための光学装置であって、ビーム伝搬方向内に位置決めされた光学要素と、x方向および焦点振動経路に沿ったビーム伝搬方向に垂直な平面の方向のうちの少なくとも1つにおいて焦点の振動を誘発するための、光学要素に機能的に接続された励起手段とを有する光学装置を開示している。欧州特許出願公開第3747588(A1)号は、加工ゾーンにおいて加工物をレーザ加工するための加工装置であって、少なくとも1つの可動面を有する少なくとも1つの固定レーザビーム誘導装置を備え、少なくとも1つの可動面が、少なくとも1つの動作モードにおいて、光学システムの焦点距離および/または時間積分加工レーザビームのビームパラメータ積を修正するように調節可能である、加工装置を開示している。独国特許出願公開第102018220336(A1)号は、ビーム整形のための装置を記載している。第2の光学偏向要素が、レーザビームが加工物表面に当たる点をずらすように設計され、第1の光学偏向要素が、加工物表面に対するレーザビームの焦点面を並進運動によって位置決めするように、および/または、レーザビームのビーム断面内の強度分布を変更するように設計されている。独国特許出願公開第102019120830(A1)号は、レーザビームを誘導するための誘導装置を開示しており、この誘導装置は、レーザビームのレーザ焦点を軌跡に沿って誘導するための偏向ユニットであって、前記偏向ユニットが、レーザビームのビーム経路に配置された少なくとも1つの可動光学要素を含み、レーザビームを偏向させるように機能する偏向ユニットと、少なくとも1つの可動光学要素を制御するための制御ユニットであって、前記制御ユニットが、レーザ焦点の軌跡を計画するための軌跡計画プログラムを含む、制御ユニットとを備える。これにより、レーザ焦点軌跡の丸み付けが、その隅または角で生じることにより、目標軌跡からの実際の軌跡の偏差を小さくする。欧州特許第2303502(B1)号は、レーザビームを用いて加工物を切削するための装置に関する。装置において、レーザビームは、少なくとも1つの旋回可能な反射要素により2次元で偏向され、集束光学部品を使用して、切削ガスと共に切削ノズルを通って加工物の表面に向けられる。加工物とレーザビームとの2軸相対運動が、切削ヘッドに収容された要素を用いて行われる。米国特許出願公開第2020/246920(A1)号は、レーザ機械加工ロボットおよびレーザ発振器の動作を制御する制御ユニットを備えるレーザ切削装置を開示している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、高い生産性および切削される加工物部分の高い品質、特に輪郭精度を可能にする、加工物部分をレーザ切削し、製造するための装置および方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的は、請求項1に記載の加工物をレーザ切削し、加工物部分を製造するための装置、請求項12に記載の加工物をレーザ切削し、加工物部分を製造するための方法、請求項21に記載のコンピュータプログラム製品、および請求項22に記載のコンピュータ可読媒体によって達成される。
【0010】
本発明の一実施形態は、加工物、好ましくは少なくとも1つの金属から作られたまたは少なくとも1つの金属を含む加工物をレーザ切削し、加工物部分を製造するための、切削ヘッドを備える装置に関する。切削ヘッドは、少なくとも200W、好ましくは少なくとも1kW、より好ましくは1kW~40kWの電力で機械加工レーザビームを発生させるためのレーザ源用のインターフェースと、機械加工レーザビームのための出口開口と、インターフェースと出口開口との間のレーザビーム光学部品とを有する。レーザビーム光学部品は、少なくとも機械加工レーザビームの伝搬方向に垂直な機械加工レーザビームの高周波ビーム整形運動を生じさせるための少なくとも1つの動的レーザビーム運動ユニットを有する。レーザ切削のための装置は、切削ヘッドを介して加工物上で機械加工レーザビームの運動を行うための切削ヘッド運動ユニットと、切削ヘッド運動ユニットおよびレーザビーム運動ユニットを制御するための制御ユニットとを備える。制御ユニットは、
- 製造する加工物部分の少なくとも1つの所定の輪郭に従って、少なくとも1つの加工物平面における機械加工レーザビームの少なくとも1つの運動軌跡を決定するための決定モジュールと、
- メモリユニットであって、メモリユニットから、切削ヘッド運動ユニットの運動パラメータ、レーザビーム運動ユニットの運動パラメータ、および所定の輪郭からの切削輪郭の偏差のパラメータから選択される少なくとも1つの所定のパラメータを読み出すことができる、メモリユニットと、
- メモリユニットから読み出すことのできる少なくとも1つの所定のパラメータに基づいて、切削ヘッドを介した機械加工レーザビームの運動に、レーザビーム運動ユニットを介した機械加工レーザビームの高周波ビーム整形運動を重ね合わせることによって、運動軌跡を調節するための最適化モジュールと
を含む。
【0011】
最適化モジュールは、切削ヘッド運動ユニットとレーザビーム運動ユニットとの間で機械加工レーザビームの運動軌跡を重複して分割することによって、運動軌跡を最適化するように構成されている。したがって、最適化モジュールは、切削ヘッド運動ユニットとレーザビーム運動ユニットとの間で機械加工レーザビームの運動軌跡を重複して分割することによって、少なくとも1つの加工物平面における機械加工レーザビームの運動軌跡を最適化するように構成されてよい。これは、実施形態の装置によって、切削ヘッド運動ユニットの運動パラメータ、レーザビーム運動ユニットの運動パラメータ、および所定の輪郭からの切削輪郭の偏差のパラメータから選択される少なくとも1つの所定のパラメータに基づいて、レーザビームの運動軌跡の成分を切削ヘッド運動ユニットの緩速の機械軸に再割り当てすることにより、および/または、レーザビームの運動軌跡の成分を少なくとも1つの高速の動的レーザビーム運動ユニットに再割り当てすることにより、少なくとも1つの加工物平面における機械加工レーザビームの運動軌跡を再編成することができることに起因する。これにより、機械加工レーザビームの運動軌跡を、少なくとも目標輪郭からの実際の切削輪郭の偏差が生じる領域において、その長さに沿って精巧に、柔軟に、および/または連続的もしくは不連続的に変更する、ならびに/あるいは変化させることができ、したがって最適化することができる。したがって、機械加工レーザビームの運動軌跡は、切削ヘッドを介した加工物上における機械加工レーザビームの運動と、少なくとも機械加工レーザビームの伝搬方向に垂直な機械加工レーザビームの高周波ビーム整形運動との単純な重合せと比較して、決定的に改良される。
【0012】
最適化モジュールは、切削ヘッド運動ユニットの運動パラメータ、レーザビーム運動ユニットの運動パラメータ、および所定の輪郭からの切削輪郭の偏差のパラメータから選択される少なくとも1つのパラメータを調節するように、例えば増減させるように、および/もしくは最適化するように、ならびに/または、したがって、それぞれのパラメータを予め決めるように構成されてよい。これにより、それぞれの他の少なくとも1つのパラメータのうちの少なくとも1つを最適化することができ、および/または、したがって予め決めることができる。例えば、切削ヘッド運動ユニットの少なくとも1つの丸み付け公差および/または切削ヘッド運動ユニットの少なくとも1つの動的限界を、適合させる、例えば増大させることができる。これにより、機械加工レーザビームの最終的な運動軌跡を最適化するために、動的レーザビーム運動ユニットの運動パラメータを適合させるおよび/または最適化することができる。したがって、機械加工レーザビームの運動軌跡を、例えば所定の輪郭の角または半径において意図的に最適化して、切削輪郭のそれぞれの角または半径における望ましくない丸み付けを避けることができる。したがって、装置および装置により実行される方法の実施形態によれば、レーザビームの目標軌跡からの実際の軌跡の偏差が小さくなるだけでなく、目標輪郭から、すなわち所定の輪郭からの実際の切削輪郭の偏差が小さくなり、例えば急な角または半径を生じさせることができる。
【0013】
上記の実施形態の装置により、レーザ切削中に、少なくとも1つの所定のパラメータに基づいて、最適化モジュールを使用して機械加工レーザビームの運動軌跡を最適化し、実行することができる。切削ヘッド運動ユニットによってトリガされる機械加工レーザビームの運動とレーザビーム運動ユニットによってトリガされる機械加工レーザビームの運動とは、同期し、したがって互いに重なり合う。切削ヘッド運動ユニットとレーザビーム運動ユニットとの間で機械加工レーザビームの運動軌跡を重複して分割することによって、最適化された運動軌跡を実現することができる。これは、例えば、運動軌跡の実行が、切削ヘッド運動ユニットの機械軸とレーザビーム運動ユニットのDBSシステムとの間で分割されおよび/または再割り当てされ、それぞれのユニットがアクチュエータを使用して機械加工レーザビームをX方向およびY方向に運動させることを意味する。少なくとも1つの所定のパラメータを考慮すると、切削計画などの製造する加工物部分の所定の輪郭に対応する理想的な運動軌跡からの運動軌跡の望ましくない偏差を、このようにして補償するおよび/または避けることができる。例えば、切削ヘッド運動ユニットのダイナミクスによって誘発される切削ヘッド運動ユニットの経路偏差、ならびに/または、製造する加工物部分の輪郭誤差および/または表面欠陥、例えば引っかき傷、表面粗さ、もしくは付着するばりを低減させるまたは避けることができる。さらに、最適化された運動軌跡は、製造する加工物部分の隅および小さい半径において切削ヘッドの速度を低下させる必要がないことを意味するため、切削プロセスの時間を短縮することができる。切削ヘッド運動ユニットの軸誤差および/または振動により生じるTCP(ツール中心点、レーザスポット)と目標輪郭との偏差を補償することができ、結果として生じる加工物の輪郭誤差を減少させることができる。これは、特に、レーザ切削のための装置の運動する構成要素の質量およびコンプライアンスに起因して生じる、(TCPにおいて)動的に誘発された輪郭誤差に当てはまる。加えて、カーフ幅を最適化することができる。最適化された運動軌跡を使用して、切削ガスの使用時に、切削中に生じる溶融物のカーフからの排出を向上させることもできる。
【0014】
したがって、切削ヘッド運動ユニットの有利な特性、特にその大きい動作範囲と、レーザビーム運動ユニットの有利な特性、特にその高いダイナミクスとを組み合わせることにより、最適化モジュールは、レーザ切削のための装置の生産性を向上させることができ、レーザ切削の精度、切削品質、および製造される加工物部分の品質を向上させることができる。例えば、DBSシステムが組み込まれた高性能レーザ切削ヘッドとレーザ切削装置の機械軸とを、そのCNC(コンピュータによる数値制御)またはPLC(プログラム可能なロジックコントローラ)制御/コントローラを介して組み合わせて、前述した重複する運動分布がレーザビームツールについて生じるようにすることができる。機械軸とDBSシステムとの組合せによって可能になるこの重複性を利用して、レーザ切削のための方法を改良することができる。
【0015】
したがって、装置および装置を用いて実行される方法の実施形態により、以下の効果のうちの少なくとも1つが実現される。推定または測定される、目標輪郭からの実際の切削輪郭の偏差を補償することができる。所定の輪郭の角または半径における切削ヘッドの運動の丸み付け公差を意図的に増大させることにより、その角または半径において、より高い運動速度を実現することができ、結果として生じる所定の輪郭からの偏差を、動的レーザビーム運動ユニットを使用して補償することができる。切削ヘッド運動ユニットの動的限界、例えば加速度を意図的に増加させることによって、製造する部分ごとの機械加工時間を短縮することができ、結果として生じる所定の輪郭からの偏差を、動的レーザビーム運動ユニットを使用して補償することができる。切削ヘッド運動ユニットと動的レーザビーム運動ユニットとの間の運動軌跡の分割によって、特に、修正および/または最適化された分割によって、機械加工レーザビームの運動軌跡を再編成する、特に最適化することができる。
【0016】
実施形態において、決定モジュールを用いて運動軌跡を決定しながら、最適化モジュールを用いた機械加工レーザビームの運動軌跡の調節を行うことができる。あるいは、決定モジュールを使用して、加工物部分の少なくとも1つの所定の輪郭または所定の輪郭のセグメントに従って機械加工レーザビームの完全な運動軌跡を決定することができ、この運動軌跡は、最適化モジュールを使用して、少なくとも1つの所定のパラメータに基づいて調節される。これらの変形形態を互いに組み合わせてもよい。
【0017】
実施形態によれば、少なくとも1つの所定のパラメータは、品質最適化パラメータ、すなわち、製造する加工物部分の品質に関連するパラメータ、特に、所定の輪郭からの切削輪郭の偏差のパラメータ、ならびに/または、軌跡最適化パラメータ、すなわち、機械加工レーザビームの運動軌跡に関連するパラメータ、特に、切削ヘッド運動ユニットの運動パラメータおよび/もしくはレーザビーム運動ユニットの運動パラメータを含むことができる。さらなる実施形態によれば、切削ヘッド運動ユニットの運動パラメータは、切削ヘッドの質量および/もしくは切削ヘッド運動ユニットの1つ以上の慣性部品、例えば機械軸の質量を含むことができ、ならびに/または、その質量から少なくとも部分的に得られる。さらに、動的レーザビーム運動ユニットの運動パラメータは、動的に可動な光学要素の質量を含むことができ、および/またはその質量から少なくとも部分的に得られる。切削ヘッド運動ユニットの切削ヘッドおよび慣性部品の総質量は、200~500kgであってよく、切削ヘッドの質量は15~20kgであってよく、および/または、動的に可動な光学要素の質量は7~30gであってよい。
【0018】
動的レーザビーム運動ユニットを用いて、機械加工レーザビームの高周波ビーム整形運動を、少なくとも機械加工レーザビームの伝搬方向に垂直に行うことができる。特に、機械加工レーザビームの高周波振動を行うことができる。焦束した機械加工レーザビームの場合には、機械加工レーザビームの焦点を、このようにして高周波数で、少なくとも機械加工レーザビームの伝搬方向に垂直に運動および/または振動させることができる。装置の実施形態により、機械加工レーザビームを、10Hz~15kHz、好ましくは100Hz~10kHzの周波数で少なくとも部分的に運動させることができる。例えば、動的レーザビーム運動ユニットは、機械加工レーザビームを偏向させる動的に可動な偏向装置および/または機械加工レーザビームを光学的に撮像する動的に可動な光学ユニットを含むことができる。
【0019】
動的レーザビーム運動ユニットは、少なくとも1つの動的に可動な光学要素を含むことができる。さらに、動的レーザビーム運動ユニットは、少なくとも1つのアクチュエータを含むことができる。少なくとも1つの光学要素は、少なくとも1つのアクチュエータにより、少なくとも部分的に動的に可動および/または調節可能であってよい。実施形態によれば、光学要素は、レンズ、集束レンズ、コリメートレンズ、光ファイバ、特にファイバエンド、光ファイバ用カップリング、光ファイバのエンドキャップ、ミラー、偏向ミラー、セグメントミラー、少なくとも1つの変形可能面を有するミラー、およびこれらの組合せから選択される少なくとも1つの要素を含むことができる。実施形態によれば、アクチュエータは、ピエゾアクチュエータ、電気モータ、空気圧モータ、水晶発振器、偏心器、振動電磁場を発生させるための装置、MEM(微小電気機械システム)発振器、音声コイル、静電可動アクチュエータ、これらの複数、および/またはこれらの組合せから選択される少なくとも1つの要素を含むことができる。例えば、少なくとも1つの変形可能面を有するミラーは、少なくとも1つのピエゾアクチュエータにより変形可能なミラー、変形可能なバイオモルフィックミラー、MEMSまたはMOEMSに基づいて変形可能なミラー、および音声コイルに基づいて変形可能なミラーから選択される少なくとも1つの要素であってよい。さらなる実施形態によれば、ミラーの反射面と角度を形成する軸を中心に回転可能であって、角度が90°よりも大きくまたは小さくなるように方向付け可能な少なくとも1つのミラーを設けることができる。これにより、ミラーの傾斜角度を設定することができ、傾斜したミラーは、その軸を中心に、例えば100Hz~10kHzの周波数で高速回転可能である。角度が90°に等しくないように設定されると、レーザビームは円形運動を描く。
【0020】
実施形態によれば、少なくとも200W、好ましくは少なくとも1kW、より好ましくは1kW~40kWの電力で機械加工レーザビームを発生させるためのレーザ源を、インターフェースに設けることができる。
【0021】
実施形態によれば、切削ヘッド運動ユニットの運動パラメータは、切削ヘッド運動ユニットの動的限界、所定の輪郭の角における切削ヘッド運動ユニットの丸み付け公差、および所定の輪郭の半径における切削ヘッド運動ユニットの丸み付け公差のうちの少なくとも1つであってよい。レーザビーム運動ユニットの運動パラメータは、レーザビーム運動ユニットの動的限界、およびレーザビーム運動ユニットにより発生させることのできる機械加工レーザビームの最大運動振幅から選択される少なくとも1つのパラメータであってよい。所定の輪郭からの切削輪郭の偏差のパラメータは、推定偏差、測定偏差から得られるパラメータ、所定の輪郭の角における切削輪郭の丸み付け、所定の輪郭の半径における切削輪郭の丸み付け、切り口の推定表面欠陥、および切り口の測定表面欠陥から得られたパラメータのうちの少なくとも1つであってよい。前述のパラメータのうちの1つ以上に基づいて、機械加工レーザビームの運動軌跡を最適化モジュールによって調節し、したがって最適化することができる。これは、切削ヘッド運動ユニットとレーザビーム運動ユニットとの間で機械加工レーザビームの運動軌跡を適切に分割することによって実現することができる。このようにして、切削ヘッド運動ユニット、特にその機械軸の最適化された運動を実現することができる。さらに、製造する加工物部分の輪郭誤差を減少させるまたは避けることができる。
【0022】
実施形態において、最適化モジュールを、切削ヘッド運動ユニットの少なくとも1つの増大した丸み付け公差に基づいて運動軌跡を調節するように設計することができる。最適化モジュールを、少なくとも1つの増大した丸み付け公差から生じる所定の輪郭からの切削輪郭の偏差、特により大きい偏差を補償するようにさらに設計することができる。これにより、機械加工レーザビームは、製造する加工物部分の隅および小さい半径において、切削ヘッド運動ユニットを介して高速で運動することができる。これは、加工物部分ごとのレーザ切削プロセスに必要な時間がかなり短縮され、レーザ切削のための装置の生産性が大きく向上することを意味する。
【0023】
一実施形態によれば、メモリユニットは機械モデルを格納することができ、この機械モデルは、運動する切削ヘッドの運動学的挙動を表し、切削ヘッドの運動の状態データを切削ヘッド運動ユニットの運動パラメータとして推定し、および結果として生じる所定の輪郭からの切削輪郭の偏差をさらなるパラメータとして推定する。最適化モジュールは、機械モデルを読み取るためにメモリユニットとデータ通信する。例えば、輪郭誤差をTCPにおいてモデルベースの方法で推定することができ、これに基づいて、運動軌跡を最適化モジュールによって調節することができる。
【0024】
実施形態の変形において、特に前の実施形態の変形において、最適化モジュールを、切削ヘッド運動ユニットの少なくとも1つの増大した動的限界に基づいて運動軌跡を調節するように設計することができる。最適化モジュールを、少なくとも1つの増大した動的限界から生じる所定の輪郭からの切削輪郭の偏差を補償するようにさらに設計することができる。特に、少なくとも1つの増大した動的限界により、輪郭誤差が増大することがある。これにより拡大した輪郭誤差を、装置および/または方法の実施形態により減少させるまたはなくすことができる。さらに、レーザ切削のための装置の生産性を、このようにして向上させることができる。
【0025】
実施形態によれば、メモリユニットはプロセスモデルを格納することができ、このプロセスモデルは、レーザ切削プロセスを表し、レーザ切削プロセスの状態データおよび結果として生じる所定の輪郭からの切削輪郭の偏差をパラメータとして推定する。最適化モジュールは、プロセスモデルを読み取るためにメモリユニットとデータ通信する。特に、対応する実際の状態データと対応する目標状態データとの偏差を推定することができる。このようにして、レーザ出力、切削速度、切削ガスのガス圧、および出口開口から加工物までの距離などの最適なプロセスパラメータを計算し、最適化モジュールにより考慮して、運動軌跡を調節することができる。プロセスモデルを使用することにより、切削品質を特に向上させることができる。特に、プロセスモデルを含む実施形態と機械モデルを含む実施形態との組合せは、有利な効果をもたらす。プロセスモデルと機械モデルとを結合することにより、最適化モジュールから得られる最適化されたプロセスパラメータを局所的に、例えばミリ秒間隔で使用可能にすることができる。このようにして、1つの同じ加工物部分について、最適化された異なるプロセスパラメータを計算することができる。
【0026】
他の実施形態において、制御ユニットは、所定の2次元および/または3次元リサージュ図形のデータベースを有することができ、レーザビーム運動ユニットを、データベースに基づいて、1つのリサージュ図形または2つ以上のリサージュ図形の組合せの形態の焦点振動経路上において機械加工レーザビームの焦点の高周波振動を誘発するように設計することができる。したがって、最適化された運動軌跡と組み合わせて、切削品質をさらに向上させることができ、特により厚い、特に3mm以上の厚さの加工物の切削品質をさらに向上させることができる。
【0027】
さらに、切り口の表面欠陥、特に引っかき傷を、所定の輪郭からの切削輪郭の偏差のパラメータとして測定するために、メモリユニットにデータ伝送方式で接続された検出装置を、切削ヘッド上または切削ヘッド内に、特にさらなるインターフェースに設けることができる。このようにして、製造された加工物部分の少なくとも1つの切り口の表面欠陥、例えば引っかき傷および付着するばりを測定することができ、結果として得られるパラメータを、運動軌跡を最適化するときに最適化モジュールによって考慮することができる。特に、対応する実際の状態、すなわち測定結果と対応する目標状態、すなわち所定の輪郭との偏差を決定することができる。これに基づいて、熱切削中に生じる引っかき傷などの、切削中に生じる表面欠陥を補償することができる。
【0028】
実施形態において、切り口の表面欠陥、特に引っかき傷を推定するためのモデルを、メモリユニットに格納することができ、このモデルは、表面欠陥および結果として生じる所定の輪郭からの切削輪郭の偏差をパラメータとして推定する。最適化モジュールは、表面欠陥を推定するためのモデルを読み取るために、メモリユニットとデータ通信する。特に、対応する実際の状態データと対応する目標状態データとの偏差を推定することができる。したがって、切り口の表面欠陥、例えば引っかき傷および付着するばりの推定に基づいて、結果として得られるパラメータを決定することができ、運動軌跡を最適化するときに最適化モジュールによって考慮することができる。これは、熱切削中に生じる引っかき傷などの、切削中に生じる表面欠陥を補償する別の方法である。
【0029】
実施形態において、最適化モジュールは、運動軌跡を調節するときに、レーザ機械加工ヘッドの出口開口の中心軸からの機械加工レーザビームの光軸の距離を、所定のパラメータとして考慮することができる。距離は、一時的に設定されても恒久的に設定されてもよく、および/または、一定であっても可変であってもよい。出口開口の中心軸に対する光軸の距離の調節を、例えば、動的レーザビーム運動ユニットに割り当てて、動的レーザビーム運動ユニットによって実現することができる。このようにして、隅および小さい半径における機械加工レーザビームの運動軌跡を有利に使用して、品質を最適化することができる。
【0030】
さらなる実施形態において、最適化モジュールは、運動軌跡を調節するときに、レーザビーム運動ユニットによって加工物部分上に生じる表面テクスチャを、所定のパラメータとして考慮することができる。これは、表面構造から生じるより大きい表面積により、接着結合を生じさせるなどの下流の機械加工プロセスにおいて有利であり得る。
【0031】
さらなる実施形態において、最適化モジュールは、運動軌跡を調節するときに、調節された、特に最適化されたカーフ幅を所定のパラメータとして考慮することができる。例えば、カーフ幅を、加工物の厚さ、ガス噴射の寸法、切削ヘッドの出口開口の寸法、および/あるいは製造する加工物部分の互いに対する距離または加工物の残片もしくは加工物の残りからの距離に合わせて調節することができる。カーフ幅の調節を、例えば、動的レーザビーム運動ユニットに割り当てて、動的レーザビーム運動ユニットによって実現することができる。これにより、例えば、機械加工レーザビームの直径、特に焦点の直径を、切削ガス噴射の直径および/または切削ヘッドの出口開口の寸法に合わせて調節することによって、切削ガスによる溶融物の排出を最適化することができる。
【0032】
実施形態において、最適化モジュールは、運動軌跡を調節するときに、所定のカーフ幅を所定のパラメータとして考慮することができる。例えば、レーザ切削中、カーフ幅を少なくとも部分的に一定に維持することができる。所定の、すなわち規定のカーフ幅の設定および/または維持を、例えば、動的レーザビーム運動ユニットに割り当てて、動的レーザビーム運動ユニットによって実現することができる。規定のカーフ幅は、例えば自動取出システムを使用するときに、製造された加工物部分の取出しを簡単にすることができる。さらに、所望のカーフ幅とレーザ機械加工時間との妥協策を実現することができる。
【0033】
さらなる実施形態において、最適化モジュールは、運動軌跡を調節するときに、変化するカーフ幅を所定のパラメータとして考慮することができる。このようにして、変化するカーフ幅、例えばカーフ幅の望ましくない変動を補償することができる。さらに、ツール補正を、このようにして補償することができる。加えて、切削中に加工物上に生じる溶融物のゾーンのサイズおよび/または厚さを、略一定に維持することができる。変化するカーフ幅の補償を、例えば、動的レーザビーム運動ユニットに割り当てて、動的レーザビーム運動ユニットによって実現することができる。例えば、このために、レーザビーム運動ユニットを、1つのリサージュ図形または2つ以上のリサージュ図形の組合せの形態の焦点振動経路上において機械加工レーザビームの焦点の高周波振動を誘発し、そのリサージュ図形または2つ以上のリサージュ図形の組合せのサイズを変化させるように設計することができる。
【0034】
さらなる実施形態は、加工物、特に、少なくとも1つの金属から作られたまたは少なくとも1つの金属を含む加工物をレーザ切削するための上記の実施形態および変形のうちの1つによる装置の使用に関する。
【0035】
本発明の一実施形態は、少なくとも200W、好ましくは少なくとも1kWの電力で機械加工レーザビームを発生させるためのレーザ源が、インターフェースに設けられている、上記の実施形態および変形のうちの1つによる、加工物をレーザ切削し、加工物部分を製造するための装置を用いて、加工物、好ましくは少なくとも1つの金属の加工物または少なくとも1つの金属を含む加工物をレーザ切削し、加工物部分を製造するための方法に関し、方法は、
- 制御ユニットの決定モジュールを用いて、製造する加工物部分の少なくとも1つの所定の輪郭に従って、少なくとも1つの加工物平面において機械加工レーザビームの少なくとも1つの運動軌跡を決定するステップと、
- 制御ユニットの最適化モジュールを用いて、メモリユニットから読み出すことのできる少なくとも1つの所定のパラメータに基づいて、切削ヘッドを介した機械加工レーザビームの運動に、動的レーザビーム運動ユニットを介した機械加工レーザビームの高周波ビーム整形運動を重ね合わせることによって、運動軌跡を調節するステップと、
- 少なくとも200W、好ましくは少なくとも1kWの電力で機械加工レーザビームを発生させ、機械加工レーザビームを用いて加工物を切削するステップと、
- 調節された運動軌跡に従って、切削ヘッドを介して機械加工レーザビームを加工物上で運動させ、レーザビーム運動ユニットを介して、少なくとも機械加工レーザビームの伝搬方向に垂直な機械加工レーザビームの高周波ビーム整形運動を行うステップと
を含む。
【0036】
調節するステップは、切削ヘッド運動ユニットとレーザビーム運動ユニットとの間で機械加工レーザビームの運動軌跡を重複して分割することによって、運動軌跡を最適化することを含むことができる。切削ヘッド運動ユニットの運動パラメータ、レーザビーム運動ユニットの運動パラメータ、および所定の輪郭からの切削輪郭の偏差のパラメータから選択される少なくとも1つのパラメータを調節することができ、例えば増減することができ、および/または最適化することができ、および/または、したがって予め決めることができる。これにより、それぞれの他のパラメータのうちの少なくとも1つを最適化することができ、および/または、したがって予め決めることができる。例えば、調節することおよび/または最適化することは、切削ヘッド運動ユニットの少なくとも1つの丸み付け公差および/または切削ヘッド運動ユニットの少なくとも1つの動的限界を増大させることを含むことができる。これにより、機械加工レーザビームの最終的な運動軌跡を最適化するために、動的レーザビーム運動ユニットの運動パラメータを適合させるおよび/または最適化することができる。
【0037】
方法の実施形態において、切削ヘッド運動ユニットの少なくとも1つの増大した丸み付け公差に基づいて、調節を行うことができる。調節は、少なくとも1つの増大した丸み付け公差から生じる所定の輪郭からの切削輪郭の偏差を補償することをさらに含むことができる。
【0038】
方法の一実施形態によれば、メモリユニットは機械モデルを格納することができ、この機械モデルは、運動する切削ヘッドの運動学的挙動を表し、切削ヘッドの運動の状態データを切削ヘッド運動ユニットの運動パラメータとして推定し、および結果として生じる所定の輪郭からの切削輪郭の偏差をさらなるパラメータとして推定する。調節は、メモリユニットから機械モデルを読み取って最適化モジュールに読み込むことを含む。
【0039】
実施形態において、特に上記の実施形態において、切削ヘッド運動ユニットの少なくとも1つの増大した動的限界に基づいて、調節を行うことができる。調節は、少なくとも1つの増大した動的限界から生じる所定の輪郭からの切削輪郭の偏差を補償することをさらに含むことができる。
【0040】
方法のさらなる実施形態において、メモリユニットはプロセスモデルを格納することができ、このプロセスモデルは、レーザ切削プロセスを表し、レーザ切削プロセスの状態データおよび結果として生じる所定の輪郭からの切削輪郭の偏差をパラメータとして推定する。調節は、メモリユニットからプロセスモデルを読み取って最適化モジュールに読み込むことを含む。特に、対応する実際の状態データと対応する目標状態データとの偏差を推定することができる。
【0041】
方法において、制御ユニットは、所定の2次元および/または3次元リサージュ図形のデータベースを有することができ、レーザビーム運動ユニットは、データベースに基づいて1つのリサージュ図形または2つ以上のリサージュ図形の組合せの形態の焦点振動経路上において機械加工レーザビームの焦点の高周波振動を誘発することができる。
【0042】
方法の実施形態において、メモリユニットにデータ伝送方式で接続された検出装置を、切削ヘッド上または切削ヘッド内に設けることができ、検出装置は、切り口の表面欠陥、特に引っかき傷を、所定の輪郭からの切削輪郭の偏差のパラメータとして測定することができる。特に、対応する実際の状態と対応する目標状態との偏差を決定することができる。あるいはまたは加えて、切り口の表面欠陥、特に引っかき傷を推定するためのモデルを、メモリユニットに格納することができ、このモデルは、表面欠陥および結果として生じる所定の輪郭からの切削輪郭の偏差をパラメータとして推定する。調節は、メモリユニットから表面欠陥を推定するためのモデルを読み取って最適化モジュールに読み込むことを含むことができる。特に、対応する実際の状態データと対応する目標状態データとの偏差を推定することができる。
【0043】
一実施形態によれば、決定モジュールによって決定された少なくとも1つの運動軌跡を用いて、特に最適化モジュールを使用することなく行われた、先行する加工物のレーザ切削の後に、方法を実行することができる。その結果、最適化モジュールによって最適化された機械加工レーザビームを用いて製造された加工物部分を再び機械加工すること、ならびに切削ガスまたは蒸発を用いて目標を定めて溶融および噴出することによって、加工物、特に切り口の表面欠陥、例えば付着する溶融物および/または溶融物の小滴およびばりを低減させるならびに/あるいは除去することができる。
【0044】
本発明の一実施形態は、特に決定モジュールおよび最適化モジュールから選択される少なくとも1つの要素を特に含むプログラムモジュールが装置のメモリにロードされたときに、実施形態および変形形態のうちのいずれかによる方法のステップを装置に実行させる、1つ以上のプログラムモジュールを含むコンピュータプログラム製品に関する。それぞれ実施形態による機械モデル、プロセスモデル、および/または切り口の表面欠陥を推定するためのモデルは、プログラムモジュールとして設計されてもよく、および/またはコンピュータプログラム製品に含まれていてもよい。
【0045】
別の実施形態は、上記の実施形態によるコンピュータプログラム製品が格納されるコンピュータ可読媒体に関する。
【0046】
加工物をレーザ切削し、加工物部分を製造するための方法の上記の実施形態により、特に同一の特徴および/または類似した特徴を有する、加工物をレーザ切削し、加工物部分を製造するための装置の実施形態と同じ利点および機能を実現することができる。
【0047】
さらなる特徴および有効性が、例示的な実施形態の以下の説明、図面、および従属請求項から明らかになる。本発明の範囲から逸脱することなく、前述した特徴および後述する特徴を、示されるそれぞれの組合せだけでなく、他の組合せで、または単独で使用することができる。
【0048】
以下で、本発明に必須の特徴を同様に開示する添付図面を参照しながら、例示的な実施形態に基づいて本発明をより詳細に説明する。これらの例示的な実施形態は、例示の目的のみで使用され、限定的なものと解釈されるべきではない。例えば、多数の要素または構成要素を含む例示的な実施形態の説明は、これらの要素または構成要素のすべてが実施に必要であるという意味で解釈されるべきではない。むしろ、他の例示的な実施形態は、代替の要素および構成要素、より少ない要素または構成要素、追加の要素または構成要素を含むこともできる。別段の記載のない限り、異なる例示的な実施形態の要素または構成要素を互いに組み合わせることができる。例示的な実施形態のうちの1つについて説明する変形または変形形態は、他の例示的な実施形態にも適用することができる。繰返しを避けるために、同じまたは互いに対応する要素は、異なる図において同じ参照符号で示され、複数回説明されない。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【
図1】加工物をレーザ切削し、加工物部分を製造するための装置の第1の例示的な実施形態を概略的に示す図である。
【
図2】例示的な実施形態による、加工物部分をレーザ切削し製造するための方法を概略的に示す図である。
【
図3】第1の例示的な実施形態による、装置の構成要素の相互作用を概略的に示す図である。
【
図4】第1の例示的な実施形態による、加工物上の機械加工レーザビームの運動軌跡および加工物部分の所定の輪郭を概略的に示す図である。
【
図5】第2の例示的な実施形態による、レーザ切削のための装置の構成要素の相互作用を概略的に示す図である。
【
図6】第3の例示的な実施形態による、レーザ切削のための装置の構成要素の相互作用を概略的に示す図である。
【
図7】第4の例示的な実施形態による、レーザ切削のための装置の構成要素の相互作用を概略的に示す図である。
【
図8】加工物をレーザ切削し、加工物部分を製造するための装置の第7の例示的な実施形態を概略的に示す図である。
【
図9】第7の例示的な実施形態による、レーザ切削のための装置の構成要素の相互作用を概略的に示す図である。
【
図10】第8の例示的な実施形態による、レーザ切削のための装置の構成要素の相互作用を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0050】
軌跡とも称される運動軌跡は、決定モジュールおよび/または最適化モジュールによって得られる機械加工レーザビームのための運動軌跡曲線または運動軌跡点の時間的処理を意味するものと理解される。運動軌跡は、機械加工レーザのための運動経路の少なくとも1つのセグメントを含むことができる。「動的レーザビーム運動ユニット」という用語および「レーザビーム運動ユニット」という用語は、ここでは同義に使用される。さらに、「切削ヘッドを介した機械加工レーザビームの運動」という用語およびその変形は、切削ヘッド運動ユニットを用いて切削ヘッドを動かすことによる機械加工レーザビームの運動を意味する。「切り口」という用語は、製造された、すなわち、切削された加工物部分の1つ以上の切り口を意味するものと理解される。「加工物をレーザ切削し、加工物部分を製造するための装置」という用語および「レーザ切削のための装置」という用語は、ここでは同義に使用される。「機械加工レーザビーム」という用語および「レーザビーム」という用語も同義に使用される。「運動軌跡」という用語は、運動軌跡全体および/または運動軌跡の1つ以上のセグメントを含む。「所定の輪郭」という用語は、所定の輪郭全体および/または所定の輪郭の1つ以上のセグメントを含む。「切削輪郭」という用語は、切削輪郭全体および/または切削輪郭の1つ以上のセグメントを含む。レーザビームの「高周波ビーム整形運動」もしくは「動的運動」または「高周波数で運動する」もしくは「動的に運動する」レーザビームという用語およびその変形は、この文脈において、レーザビームが高周波数で、例えば10Hz~15kHz、特に500Hz超の周波数で運動することを意味する。同様に、「動的ビーム整形」という用語は、ビーム整形が、レーザビーム運動ユニットの動的に可動な、方向付け可能な、および/または調節可能な要素によって、例えば10Hz~15kHz、特に500Hz超の周波数で行われることを意味する。「動的に可動」という用語にも同じことが当てはまる。
【0051】
すべての実施形態において、機械加工レーザビームを発生させるためのレーザ源を、連続的および/または不連続的な、特にパルス化された機械加工レーザビームが提供されるように設計することができる。
【0052】
図1は、第1の例示的な実施形態として、加工物12をレーザ切削し、加工物部分を製造するための装置10を概略的に示す。この例において、加工物12は貴金属のシートであり、そこから、所定の輪郭を有する加工物部分が、レーザ切削によって製造される。レーザ切削のための装置10は、切削ヘッド20を備える。切削ヘッド20は、1kWの電力で機械加工レーザビーム24を発生させるためのレーザ源用のインターフェース22を有する。ここでは、インターフェース22は、切削ヘッド20の第1の端部に配置されている。あるいは、インターフェース22を切削ヘッド20の側面に設けて、レーザビーム24を切削ヘッドに横方向に導入してもよい。機械加工レーザビーム24のための出口開口26が、切削ヘッド20の第1の端部と反対側の第2の端部に設けられている。レーザビーム光学部品28が、インターフェース22と出口開口26との間に設けられている。インターフェース22が切削ヘッドの第1の端部に配置される場合、レーザビーム24は、その伝搬方向が切削ヘッドの中心軸に本質的に平行になる状態で、レーザビーム光学部品28により切削ヘッドを通って誘導される。インターフェース22が切削ヘッド20の1つの側面に設けられる場合、レーザビーム24は、レーザビーム光学部品28によって少なくとも一度偏向し、切削ヘッド20の出口開口26を通って誘導される。
【0053】
レーザビーム光学部品28は、少なくとも機械加工レーザビーム24の伝搬方向に垂直な機械加工レーザビーム24の高周波ビーム整形運動、特に高周波振動を生じさせるための少なくとも1つの動的レーザビーム運動ユニット30、例えばDBSシステムを有する。この例において、レーザビームのビーム整形のための動的に可動な光学要素31が、レーザビーム24のビーム経路内に位置決めされた、または位置決めされ得る動的レーザビーム運動ユニット30として設けられている。この例において、光学要素31は、1つ以上のピエゾアクチュエータ(図示せず)によって動的に傾斜され得る集束レンズであり、動的に動いてレーザビーム24を整形し、機械加工レーザビーム24をその伝搬方向に垂直に運動させる。そうすることで、機械加工レーザビーム24の伝搬方向に垂直な強度分布を調節することもできる。この例における集束レンズは、約30gの質量を有する。集束レンズは、アクチュエータによって動的に可動であり、特に、1つ以上の期間にわたって、100Hz超、好ましくは500Hz超の周波数で、高周波数で可動である。
【0054】
この例の変形において、機械加工レーザビーム24を反射する少なくとも1つの可動面が、動的レーザビーム運動ユニット30の光学要素31として設けられ、この可動面は、機械加工ビーム24を偏向させるようにビーム経路内に配置され位置合わせされている。機械加工レーザビーム24は、切削ヘッド20に横方向に導入されると、これにより、切削ヘッド内で、例えば90°偏向した後に、加工物12に向けられてよい。反射面は、少なくとも1つ以上のアクチュエータ、例えばピエゾアクチュエータによって、少なくとも部分的に動的に調節可能である。例えば、少なくとも1つの可動面を全体的に、少なくとも1つのアクチュエータによって動的に調節することができる。さらに、少なくとも1つの可動面は、レーザビーム誘導装置の表面ユニットを提供することができ、その表面幾何形状、特にその曲率を、アクチュエータにより動的に調節することができる。その結果、機械加工レーザビームを整形するおよび/または少なくともその伝搬方向に垂直に運動させることができるだけでなく、機械加工レーザビームの拡散を変更することができ、および/または、機械加工レーザビームの焦点位置をその伝搬方向に平行にずらすことができる。
【0055】
例えば、レーザビーム運動ユニット30は、例えば、被覆SiC(炭化ケイ素)から作られた動的に方向付け可能な平面ミラーを光学要素31として含むことができ、この平面ミラーは、機械加工レーザビームを反射する可動面を提供する。少なくとも1つのピエゾアクチュエータがアクチュエータとして設けられ、このアクチュエータにより、ミラーを動的に動かして方向付けすることができる。ミラーと少なくとも1つのアクチュエータとから構成されるユニットは、ピエゾスキャナとも称される。複数のアクチュエータの場合、各ピエゾアクチュエータを個々に制御することができる。例えば、ピエゾアクチュエータは、修正PZT(ジルコン酸チタン酸鉛)セラミックに基づく、典型的な120Vの駆動電圧を有するピエゾアクチュエータである。レーザ機械加工のために、機械加工レーザビーム24が偏向するように、可動面を有するミラーを少なくとも1つのピエゾアクチュエータによって傾斜させる。同時に、可動面をピエゾアクチュエータによって動的に動かして、偏向のための適切な傾斜角を提供し、それにより、機械加工レーザビーム24は動的に運動する。このようにして、機械加工レーザビーム24のビームパラメータ積および/または加工物12上におけるレーザビームスポットの強度分布が、レーザ切削のために希望に応じて整形される。これは、機械加工レーザビーム24の焦点が、例えば10Hz~15kHzの周波数で、少なくとも機械加工レーザビーム24の伝搬方向に垂直に動的に運動することにより、加工物に当たるレーザビームスポットを整形するからである。
【0056】
第1の例のさらなる変形形態において、レーザビーム運動ユニット30は、ガルバノメータスキャナの一部である少なくとも2つの可動反射面を光学要素31として含む。このために、ガルバノメータスキャナは、それぞれが可動面を提供する2つのミラーを含むことができる。これらのミラーを、例えば個々に制御可能なガルバノメータによって、アクチュエータとして個々に動的に動かすことができる。ガルバノメータスキャナは、例えば、機械加工レーザビーム24が、90°よりも大きい角度で少なくとも1回、および90°よりも小さい角度で少なくとも1回偏向するように方向付け可能な2つのミラーを備える。動作中、2つのミラーは、機械加工レーザビーム24が2回偏向し、同時に動的に運動するように、互いに対して方向付けされ動かされる。その結果、機械加工レーザビーム24のビームスポットの略すべての強度分布および/またはビームパラメータ積を、動的ビーム整形によって提供することができる。
【0057】
第1の例の別の変形形態において、レーザビーム運動ユニット30は、光学要素31の動的に可動な反射面として、互いに隣接して配置されてパターンを形成する複数の別個のミラーセグメントを含むセグメントミラーを有する。各ミラーセグメントは、例えば、金コーティングを有し、機械加工レーザビーム24を反射し、ピエゾアクチュエータによって個々に動的に方向付けすることができる。したがって、レーザビーム運動ユニット30は、機械加工レーザビーム24を反射するセグメント化された総表面を提供し、その表面幾何形状、特にその曲率は非常に動的に調節可能である。セグメントミラーは、動的ビーム整形のために使用される。このために、セグメントミラーの表面は、10Hz超、特に100Hz超の十分に高い周波数で変更され、加工物12上に結果として生じる焦点が、レーザビームの伝搬方向に対して少なくとも横方向に動的に運動するようになっている。時間積分機械加工レーザビームのビームパラメータ積および/または強度分布を、動的ビーム整形によって希望に応じて修正することができる。
【0058】
第1の例の追加の変形形態において、レーザビーム運動ユニット30は、動的ビーム整形光学要素31として、変形可能ミラー(DM、動的ミラー)を有し、可動反射連続面を提供する。ミラーは、変形可能材料から作られた膜によって形成され、この膜は、アクチュエータによって動的に変形可能である。このために、個々に制御可能なアクチュエータが、膜の下面においてパターンで均等に分散されている。膜の上面は、高反射性の誘電体多層コーティングで被覆され、これは、1060~1090nmの波長で120kWまでのレーザビームに適している。変形可能ミラー(DM、動的ミラー)の可動反射連続面を、前述したセグメントミラーと同じ方法で動作させることができる。
【0059】
レーザ切削のための装置10は切削ヘッド運動ユニット32をさらに備え、この切削ヘッド運動ユニット32は、加工物12上で少なくともX方向および/またはY方向に切削ヘッド20を動かし、したがって切削ヘッド20内で誘導される機械加工レーザビーム24を運動させる。例えば、切削ヘッド20はキャリッジ(図示せず)に取り付けられ、このキャリッジは、
図1に矢印で概略的に示すように、Y方向に可動なブリッジ(図示せず)上でX方向に可動である。この例において、切削ヘッド運動ユニット32および切削ヘッド20の慣性部品は、約400kgの合計質量を有する。この例の変形形態において、切削ヘッド20のZ方向、すなわち加工物に垂直な方向への運動を、切削ヘッド運動ユニット32によって行ってもよい。
【0060】
レーザ切削のための装置10は、切削ヘッド運動ユニット32およびレーザビーム運動ユニット30を制御するための制御ユニット34を備える。制御ユニット34は、切削ヘッド運動ユニット32およびレーザビーム運動ユニット30に、無線または有線のデータ伝送方式で接続されている。制御ユニット34は決定モジュール36を有し、この決定モジュール36により、加工物12上の機械加工レーザビーム24の少なくとも1つの運動軌跡を決定することができる。運動軌跡は、製造する加工物部分の少なくとも1つの所定の輪郭に従って、少なくとも1つの加工物平面において決定される。制御ユニット34はメモリユニット38をさらに含み、切削ヘッド運動ユニット32の運動パラメータ、レーザビーム運動ユニット30の運動パラメータ、および所定の輪郭からの切削輪郭の偏差のパラメータから選択される少なくとも1つの所定のパラメータが、メモリユニット38に格納され、これらをメモリユニット38から読み出すことができる。制御ユニット34は、運動軌跡を調節するための最適化モジュール40も含む。機械加工レーザビーム24の運動軌跡の調節、すなわち最適化は、メモリユニット38から読み出すことのできる少なくとも1つの所定のパラメータに基づいて、切削ヘッド20を介した機械加工レーザビーム24の運動に、レーザビーム運動ユニット30を介した機械加工レーザビーム24の高周波ビーム整形運動を重ね合わせることによって行われる。
【0061】
レーザ切削のための装置10の動作において、
図2に示すように、ステップS1~S4で、加工物12が切削され、加工物部分が製造される。ステップS1で、少なくとも1つの加工物平面における機械加工レーザビーム24の少なくとも1つの運動軌跡X,Yが、制御ユニット34の決定モジュール36により、製造する加工物部分の少なくとも1つの所定の輪郭X,Yに従って決定される。ステップS2で、制御ユニット34の最適化モジュール40は、メモリユニット38から読み出すことのできる少なくとも1つの所定のパラメータに基づいて、切削ヘッド20を介した機械加工レーザビームの運動に、動的レーザビーム運動ユニット30を介した機械加工レーザビームの高周波ビーム整形運動を重ね合わせることによって、運動軌跡を調節する。これにより運動軌跡を最適化し、調節された運動軌跡X°,Y°が得られる。第1の例示的な実施形態において、運動軌跡は、最適化モジュール40により、運動軌跡X
*,Y
*を切削ヘッド運動ユニット32に割り当て、光学要素のX方向への偏向UおよびY方向への偏向Vをレーザビーム運動ユニット30に割り当てることによって最適化され、調節された運動軌跡X°,Y°が得られる。ステップS3で、機械加工レーザビーム24が、少なくとも200W、好ましくは少なくとも1kWの電力で発生し、加工物12は機械加工レーザビーム24により切削される。ステップS4で、機械加工レーザビーム24は、切削ヘッド運動ユニット32により切削ヘッド20を介して加工物12上で運動し、調節された運動軌跡X°,Y°に従って、レーザビーム運動ユニット30により、少なくとも機械加工レーザビーム24の伝搬方向に垂直に高周波数で運動し成形される。ステップS1、S2は、同時にまたは連続してまたは順次行うことができ、すなわち、機械加工レーザビームの運動軌跡の最適化を、運動軌跡の決定中または決定後に行うことができる。
【0062】
図3は、第1の例示的な実施形態の、レーザ切削中の装置10の構成要素の相互作用を概略的に示す。制御ユニット34において、決定モジュール36は、所定の輪郭X,Yに従って運動軌跡X,Yを決定する。ここから、最適化モジュール40は、メモリユニット38に所定のパラメータとして格納された最適化パラメータOPを使用して、最適化され調節された運動軌跡X°,Y°を決定する。最適化モジュール40を使用して、レーザ切削中に、レーザビーム運動システム33を共に形成する動的レーザビーム運動ユニット30および切削ヘッド運動ユニット32の運動を制御する。このようにして、切削ヘッド20を介した機械加工レーザビーム24の運動を、調節された運動軌跡X°,Y°に従って、動的レーザビーム運動ユニット30を介した機械加工レーザビーム24の高周波ビーム整形運動に重ね合わせる。
【0063】
すべての実施形態および例示的な実施形態において、追加のパラメータをメモリユニット38に格納し、メモリユニット38から読み出すことができる。例えば、メモリユニット38は、決定モジュール36、例えばCNCまたはPLC制御/コントローラで使用される所定の輪郭X,Y、例えば切削計画またはNCコードと、決定モジュール36および/または最適化モジュール40で使用される機械パラメータおよびプロセスパラメータとを格納することができる。
図3の第1の例示的な実施形態において、前記追加のパラメータを、決定モジュール36および/または最適化モジュール40によって読み出して使用することができる。さらに、レーザビーム運動システム33は機械コントローラを含むことができ、この機械コントローラに、最適化モジュール40および決定モジュール36からのデータが伝送される。決定モジュール36は、切削ヘッド運動ユニット32のZ軸についてのデータ、切削ガスのガス圧、機械加工レーザビーム24のレーザ出力などの制御データSDをレーザビーム運動システム33に伝送することができる。バッファモジュールを、決定モジュール36とレーザビーム運動システム33またはその機械コントローラとの間に接続することができ、これにより、決定モジュール36からのコマンドの実行を、例えば100ms遅らせ、最適化ユニット40の最適化に使用できる必要な時間を有し、レーザ切削のための装置10の構成要素の時間的同期を可能にする。すべての実施形態および例示的な実施形態において、最適化モジュール40は、決定モジュール36から結果を読み出して使用することができる。
【0064】
図4は、第1の例示的な実施形態による、加工物12上の機械加工レーザビームの運動軌跡および加工物部分の所定の輪郭X,Yを概略的に示す。軸X
C,Y
Cを有する座標系が示されている。座標は、時間Kにおける機械加工レーザビーム24の位置を反映し、Kは離散時間ステップを定義する。この例において、切削する加工物部分の所定の輪郭X,Yは矩形である。最適化モジュール40によって切削ヘッド運動ユニット32に割り当てられた機械加工レーザビーム24の運動軌跡X
*,Y
*は、一方向、例えば反時計方向(矢印参照)の長円形運動経路として認識可能であり、これは、所定の輪郭X,Yから外れている。所定の輪郭X,Yを囲み、破線で示される矩形は、所定の輪郭X,Yから始まる、レーザビーム運動ユニット30の動的に可動な光学要素の最大運動振幅、すなわち、X方向の最大偏向U
maxおよびY方向の最大偏向V
maxを示す。
【0065】
この例において、切削ヘッド運動ユニット32およびレーザビーム運動ユニット30の動的限界の形態の最適化パラメータOPが、所定のパラメータとして使用される。これらの所定のパラメータに基づいて、最適化モジュール40は、切削ヘッド20を介した機械加工レーザビーム24の運動に動的レーザビーム運動ユニット30を介した機械加工レーザビーム24の高周波ビーム整形運動を重ね合わせることによって、調節された運動軌跡X°,Y°を決定する。この場合、運動軌跡X*,Y*は切削ヘッド運動ユニット32に割り当てられ、偏向U、Vはレーザビーム運動ユニット30に割り当てられ、したがって、結果として得られる調節された運動軌跡X°,Y°は、切削する加工物部分の所定の輪郭X,Yに本質的に対応する。X°,Y°は、調節された運動軌跡の座標XK°=XK*+UKおよびYK°=YK*+VK(K∈[0,T]、Tは運動軌跡の期間または運動軌跡のセグメント)として得られる。切削ヘッド運動ユニット32およびレーザビーム運動ユニット30を用いて、調節された運動軌跡X°,Y°に従って機械加工レーザビーム24を運動させることによって、所定の輪郭X,Yを実質的に有する矩形加工物部分がレーザ切削中に製造され、輪郭誤差が避けられるまたは少なくとも減少する。
【0066】
この例において、輪郭誤差を減少させるために、切削する加工物部分の所定の輪郭に対応する運動軌跡は、分割されおよび/または再割り当てされる。運動軌跡の成分をレーザビーム運動ユニットに最適化して割り当てることにより、運動軌跡における切削ヘッド運動ユニットの慣性機械軸および切削ヘッドの構成要素が小さくなる。運動の高周波成分が動的レーザビーム運動ユニットによって行われるため、機械軸は、より平滑に、より少ない振動で運動する。したがって、装置10の機械軸および他の構成要素の望ましくない高周波励起が減少し、レーザ切削中の輪郭誤差が減少する。これは特に、所定の輪郭の隅、角、または他の小さい構造もしくは急な構造に当てはまる。さらに、レーザ切削のための装置10の構成要素の安定性が向上し、その摩耗が低減する。運動軌跡における運動成分の割当ては、最適化の問題によって解決される。例えば、機械軸および切削ヘッドのジャークおよび/または加速度の最小化が、切削ヘッド運動ユニットの機械軸の動的限界、動的レーザビーム運動ユニットの動的限界、および動的に運動する光学要素の最大偏向などの境界条件を維持しながら実現される。このようにして、調節され最適化された運動軌跡が得られる。
【0067】
図5は、第2の例示的な実施形態による、レーザ切削のための装置10の構成要素の相互作用を概略的に示す。これは、最適化モジュール40が、切削ヘッド運動ユニット32の増大した丸み付け公差に基づいて運動軌跡を調節するように設計されている、実施形態の例である。切削ヘッド運動ユニット32の丸み付け公差VTが、所定のパラメータとしてメモリユニット38に格納されている。メモリユニット38は、第1の例示的な実施形態について前述した追加のパラメータをさらに格納することができ、決定モジュール36および/または最適化モジュール40により、これらのパラメータを読み出して使用することができる。丸み付け公差VTは、所定の輪郭X,Yの隅および小さい半径における切削ヘッド運動ユニット32の運動軌跡の目標とする丸み付けを特定する。丸み付け公差VTは、レーザビーム運動ユニット30の動的に可動な光学要素のX方向の最大運動振幅U
maxおよびY方向の最大運動振幅V
max以下として与えられる。選択される丸み付け公差VTが大きいほど、レーザ切削中の所定の輪郭の隅および小さい半径における切削ヘッド20の速度を遅くしなければならない。切削ヘッド運動ユニット32を単独で使用する場合に特定されるものよりも大きい丸み付け公差VTが使用される。典型的な丸み付け公差および増大した丸み付け公差を、メモリユニットに格納し、メモリユニットから読み出すことができる。この例において、増大した丸み付け公差VTが、決定モジュール36によってメモリユニット38から読み出される。決定モジュール36は、増大した丸み付け公差VTから、丸み付けされた運動軌跡X
*,Y
*と、丸み付けされていない、すなわち所定の輪郭X,Yに従った運動軌跡X,Yとを決定する。例えば、HMI(ヒューマンマシンインターフェース)または自動ルール(「実行モード」)によって、丸み付け公差VTを調節することができる。決定モジュール36は、丸み付け公差VTを最適化モジュールに提供することもできる。最適化モジュール40は、丸み付けされた運動軌跡X
*,Y
*と丸み付けされていない運動軌跡X,Yとの差を計算し、その差分値をレーザビーム運動ユニット30に光学要素の偏向U、Vとして割り当てる。差分値U、Vの座標U
K=X
K*-X
KおよびV
K=Y
K*-Y
K(K∈[0,T]、Tは運動軌跡の期間または運動軌跡のセグメント)が決定される。したがって、差分値Uは、レーザビーム運動ユニット30の動的に可動な光学要素のX方向への運動として決定され、差分値Vは、レーザビーム運動ユニット30の動的に可動な光学要素のY方向への運動として決定される。結果として得られる最適化された運動振幅、すなわち、動的レーザビーム運動ユニット30の光学要素31の偏向U、Vは、最適化モジュール40によってレーザビーム運動システム33に伝えられる。値X
*,Y
*は、切削ヘッド20のX方向およびY方向への運動を特定し、決定モジュール36によって、例えば時間同期のためのバッファモジュールを介して、レーザビーム運動システム33に伝えられる。したがって、偏向U、Vと運動軌跡X
*,Y
*とを組み合わせる、すなわち重ね合わせることによって、調節された運動軌跡X°,Y°が得られる。この例の装置10の動作において、運動軌跡を最適化するために大きい丸み付け公差を使用することにより、所定の輪郭の隅および小さい半径におけるより高い切削速度が可能になる。その結果、加工物部分ごとのレーザ切削プロセスに必要な時間が短縮され、レーザ切削のための装置10の生産性が向上する。
【0068】
この例示的な実施形態を、例えば、運動軌跡がカーネル、例えばISGカーネルによって計算されるCNC制御機械において使用することができる。これは、特に、機械軸の動的特性を考慮する。所定の輪郭または軌跡の丸み付けも設定することができ、それにより、丸み付け公差に応じて、隅および小さい半径における速度を低下させる必要がなく、またはあまり低下させない。
図5の例示的な実施形態において、大きい丸み付け公差をそのような機械に使用する場合、所定の輪郭の隅および小さい半径における切削ヘッド20の速度はより高くなるが、切削部分と所望の部分との偏差も大きくなる。大きい丸み付け公差によって生じる偏差は、切削ヘッド20の運動に重ね合わせたレーザビーム運動ユニット30の同期運動によって補償される。その結果、機械の生産性および製造する加工物部分を切削するときの精度を向上させることができる。所定の輪郭の隅および小さい半径における丸み付け公差により、切削ヘッド20の速度をそこで低下させる必要がなくなるだけでなく、レーザビーム運動ユニット30の補償運動によって切削ヘッド運動ユニット32の機械軸の高周波励起も減少し、したがって、レーザ切削のための装置10または装置10の構成要素の機械的振動が避けられる。さらに、レーザ切削のための装置10の構成要素の安定性が向上し、その摩耗が低減する。
【0069】
図6は、第3の例示的な実施形態による、レーザ切削のための装置10の構成要素の相互作用を概略的に示す。最適化パラメータOPに加えて、機械モデルMMがメモリユニット38に格納されている。機械モデルMMは、切削ヘッド運動ユニット32の、運動する切削ヘッド20の運動学的挙動を表し、一部の例では、機械軸の運動学的挙動も表し、切削ヘッドの運動、および場合によっては機械軸の運動の状態データと、結果として生じる所定の輪郭X,Yからの切削輪郭の偏差とを、切削ヘッド運動ユニットの運動パラメータとして推定する。最適化モジュール40は、最適化パラメータOPおよび機械モデルMMを読み取るために、メモリユニット38にデータ接続されている。メモリユニット38は、第1の例示的な実施形態について前述した追加のパラメータをさらに格納することができ、最適化ユニット40および/または決定モジュール36により、これらのパラメータを読み出して使用することができる。
【0070】
工作機械の運動学的特性を特徴付けるモデルを、機械モデルMMとして使用することができる。特に、モデル(例えば、カルマンフィルタ)を使用して、ツール中心点(TCP)で輪郭誤差を推定することができる。この例で使用可能な他の機械モデルは、微分方程式に基づいており、および/または、例えば、TCPの位置が4次微分方程式系(状態空間表現)によって記述される2質量モデルを使用することができる。TCP推定のより複雑なモデルは、摩擦効果、バックラッシュ、温度依存性、および他の部分的に非線形の効果を考慮することもできる。TCP推定のための機械モデルを、FEM(有限要素方法)モデルのモデル縮小によって作成することもできる。
【0071】
動作中、決定モジュール36は、切削ヘッド運動ユニット32によって実行される機械加工レーザビーム24の運動軌跡X*,Y*をX*=XおよびY*=Yと決定する。したがって、切削ヘッド運動ユニット32の機械軸によって実行される切削ヘッド20の最初の運動軌跡X,Yは変更されない。最適化モジュール40は、運動軌跡X*,Y*、最適化パラメータOP、および機械モデルMMを読み出し、モデルベースの輪郭誤差の推定を行う。これに基づいて、最適化モジュール40は、レーザビーム運動ユニット30の動的に可動な光学要素の偏向U、Vを計算して、X方向の偏向UKおよびY方向の偏向VK(K∈[0,T]、Tは運動軌跡の期間または運動軌跡のセグメント)により、輪郭誤差を補償する。結果として得られる最適化された運動振幅、すなわち、動的レーザビーム運動ユニット30の光学要素の偏向U、Vが、最適化モジュール40によってレーザビーム運動システム33に伝えられる。決定モジュール36は、機械加工レーザビーム24の運動軌跡X*,Y*を、例えば時間同期のためのバッファモジュールを介して、レーザビーム運動システム33に伝える。したがって、偏向U、Vと運動軌跡X*,Y*とを組み合わせる、すなわち重ね合わせることによって、調節された運動軌跡X°,Y°が得られる。この例示的な実施形態により、例えばTCPにおける輪郭誤差を、モデルベースの方法で推定することができる。推定された輪郭誤差は、レーザビーム運動ユニット30によって補償される。レーザビーム運動ユニット30の光学要素31が非常に動的に、すなわち高周波数で動くため、例えば、装置10の構成要素の高周波振動により生じる輪郭誤差を補償することもでき、より正確に切削された加工物部分を得ることができる。
【0072】
図7は、
図6に示す第3の例示的な実施形態の変形である、第4の例示的な実施形態による、レーザ切削のための装置10の構成要素の相互作用を概略的に示す。これは、最適化モジュール40が切削ヘッド運動ユニット32の増大した動的限界に基づいて運動軌跡を調節するように設計されている実施形態の例である。メモリユニット38において、最適化パラメータOPおよび機械モデルMMに加えて、切削ヘッド運動ユニット32の、目標を定めて増大させた少なくとも1つの動的限界DGが、例えば、変更された機械パラメータおよび/またはプロセスパラメータの形態で格納されている。切削ヘッド運動ユニット32の少なくとも1つの典型的な動的限界DGを格納することもできる。決定モジュール36は、機械加工レーザビーム24の運動軌跡X
*,Y
*をX
*=XおよびY
*=Yとして決定し、この例において、目標を定めて増大させた少なくとも1つの動的限界DGを、このためにメモリユニットから読み出す。最適化モジュール40は、運動軌跡X
*,Y
*、切削ヘッド運動ユニット32の目標を定めて増大させた少なくとも1つの動的限界DG、最適化パラメータOP、および機械モデルMMを読み出す。最適化モジュール40は、これに基づいて、モデルベースの輪郭誤差の推定を行い、X方向の偏向U
KおよびY方向の偏向V
K(K∈[0,T]、Tは運動軌跡の期間または運動軌跡のセグメント)により、レーザビーム運動ユニット30の動的に可動な光学要素の偏向U、Vを決定する。結果として得られる最適化された運動振幅、すなわち、動的レーザビーム運動ユニット30の光学要素の偏向U、Vが、最適化モジュール40によってレーザビーム運動システム33に伝えられる。決定モジュール36は、機械加工レーザビームの最初の運動軌跡X,Yを、変更されないX
*,Y
*としてレーザビーム運動システム33の切削ヘッド運動ユニット32に伝える。したがって、偏向U、Vと運動軌跡X
*,Y
*とを組み合わせる、すなわち重ね合わせることによって、調節された運動軌跡X°,Y°が得られる。このようにして、推定された、所定の輪郭からの増大した偏差、すなわち、推定された輪郭誤差が、レーザビーム運動ユニット30の光学要素の偏向により補償される。この例示的な実施形態により、装置10の生産性を間接的に向上させることができる。すなわち、切削ヘッド運動ユニット32の動的限界、例えば機械軸の動的限界を意図的に増大させることによって、例えばTCPにおける所定の輪郭からの偏差がより大きくなり、加工物部分ごとのレーザ切削プロセスに必要な時間が短縮される。同時に、所定の輪郭からのより大きい偏差が、動的レーザビーム運動ユニット30により補償され、したがって、より正確に切削された加工物部分が得られる。
【0073】
第5の例示的な実施形態において、プロセスモデルPM(図示せず)を、レーザ切削のための装置の1つ以上の他の例示的な実施形態、例えば第1~第4の例示的な実施形態の構成要素と組み合わせる。いずれの場合にも、メモリユニット38はプロセスモデルPMをさらに格納し、このプロセスモデルPMは、レーザ切削プロセスを表し、レーザ切削プロセスの状態データおよび結果として生じる所定の輪郭X,Yからの切削輪郭の偏差を推定する。結果として得られる対応する実際の状態データと対応する目標状態データとの偏差、したがって切削された加工物部分の品質が推定される。特に、レーザ切削中の高いレーザ出力を、レーザ切削プロセスの状態データとみなすことができる。最適化モジュール40は、プロセスモデルPMをメモリユニット38から読み出し、このプロセスモデルPMを使用して、レーザ出力、切削速度とも呼ばれる送り速度、切削ガスのガス圧、および/または、加工物からの切削ヘッドの出口開口の距離などの状態データに基づいて、最適化されたプロセスパラメータを計算する。最適化されたプロセスパラメータは、調節された運動軌跡X°,Y°を決定するときに、最適化モジュール40によってさらに考慮される。これは、最適化された運動振幅、すなわち、動的レーザビーム運動ユニット30の光学要素の偏向を決定するときにも当てはまる。これは、高いダイナミクスを利用し、それにより、装置10の構成要素の望ましくない高周波励起から生じる輪郭誤差を補償することもでき、構成要素の励起の減少、したがって構成要素の摩耗の低減が実現される。プロセスモデルを使用することによって、切削品質も向上する。プロセスモデルと機械モデルとの結合は、切削ヘッドの送り速度および/または切削速度および/またはノズルの距離によって実現することができる。例えば、送り速度が高すぎる場合に、シート金属の加工物を切削することができないことが起こり得る。これを、プロセスモデルPMによって推定し、決定モジュール36に返し、運動軌跡を決定するときに決定モジュール36によって考慮することができる。
【0074】
第6の例示的な実施形態において、レーザ切削のための装置の他の例示的な実施形態のレーザビーム運動ユニット30は、1つ以上のリサージュ図形の形態の焦点振動経路上において機械加工レーザビームの焦点の高周波振動を実現する。制御ユニット34は、所定の2次元および/または3次元リサージュ図形のデータベースDB(図示せず)を有する。レーザビーム運動ユニット30は、データベースに基づいて、1つのリサージュ図形または2つ以上のリサージュ図形の組合せの形態の焦点振動経路上において機械加工レーザビーム24の焦点の高周波振動を誘発するように設計されている。例えば、レーザビーム運動ユニット30の光学要素31は、レンズの振動を励起するための励起手段としての1つ以上のアクチュエータに機能的に接続されたレンズであってよい。励起手段は、レーザ切削装置10の動作中にレンズに励起を伝えて、レンズに反復振動運動を行わせる。この振動運動により、少なくとも機械加工レーザビーム24の伝搬方向に垂直な機械加工レーザビーム24の焦点の振動が生じる。あるいは、光ファイバ、特にファイバエンド、光ファイバ用カップリング、または光ファイバのエンドキャップを、レーザビーム運動ユニット30の光学要素として設けてもよく、光学要素の自由端が、アクチュエータに機能的に接続される。別の代替形態によれば、レーザビーム運動ユニット30の光学要素は、中心を有する軸外し放物面ミラーであってもよく、このミラーにより、機械加工レーザビーム24が偏向され、その焦点が焦点振動経路において振動する。最適化モジュール40において運動軌跡を調節するときに、動的レーザビーム運動ユニット30により、1つのリサージュ図形または2つ以上のリサージュ図形の組合せの形態の焦点振動経路上において機械加工レーザビーム24の焦点の高周波振動を行うことによって、切削品質、特により厚い加工物の切削品質をさらに向上させることができる。
【0075】
図8は、第7の例示的な実施形態として、加工物12をレーザ切削し、加工物部分を製造するための装置100を概略的に示す。
図1の装置10との違いについて以下で説明する。第7の例示的な実施形態は、装置10の第1~第6の例示的な実施形態と同様の、対応して修正された方法で設計され動作されてよい。
【0076】
レーザ切削のための装置100は、切削ヘッド120を備える。切削ヘッド120は、1kWの電力で機械加工レーザビーム24を発生させるためのレーザ源用のインターフェース122を有する。ここでは、インターフェース122は、切削ヘッド20の一側に配置されている。レーザ源60がインターフェース122に設けられ、光ファイバ62によってインターフェース122に接続されている。レーザビーム光学部品28の動的レーザビーム運動ユニット30の動的に可動な光学要素31として、少なくとも1つの可動反射面を有する動的ビーム整形器が設けられ、これにより、レーザビーム24が少なくとも1回偏向される。例えば、
図8に示すように、ダイクロイック偏向ミラー35をレーザビームのビーム整形のために使用することができ、ダイクロイック偏向ミラー35は、レーザビーム24のビーム経路に位置決めされてよく、または位置決めされている。加えて、
図8に示すように、オプションの集束レンズを偏向ミラー35と出口開口26との間に配置することができる。この例において、偏向ミラー35を、1つ以上のピエゾアクチュエータ(図示せず)により動的に傾斜させることができる。偏向ミラー35は、動的に動かされると、レーザビーム24を偏向させ、同時に、機械加工レーザビーム24を少なくともその伝搬方向に垂直に運動させることにより、動的に整形する。そうすることで、機械加工レーザビーム24の伝搬方向に垂直な強度分布を調節することもできる。この例において、偏向ミラー35は、4~15g、例えば約10gの質量を有する。偏向ミラー35は、アクチュエータによって動的に可動であり、特に、1つ以上の期間にわたって、100Hz超、好ましくは500Hz超の周波数で、高周波数で可動である。
【0077】
検出装置50が、加工物12および場合によりレーザ切削プロセスを観察するために、切削ヘッド120の第1の端部に設けられている。検出装置50は、例えば、プロセス光52を感受するカメラである。プロセス光52は、加工物12から出口開口26を通って放出される放射であり、加工物のレーザ機械加工および/または反射された照明光によって生じる放射を含む。これにより、レーザ切削中に生じた切り口を撮像し測定することができる。さらに、検出装置50は、適応光学ユニットを含むことができる。適応光学ユニット、例えば適応光学部品または適応レンズ(焦点調節可能なレンズ)により、焦点位置、加工物の厚さ、および所望のプロセス観察レベルに応じて、検出装置の鮮明度レベルを機械加工ビームの伝搬方向に平行に変化させることができる。
【0078】
光学要素31は、ダイクロイックミラー35として設計されている。この例において、ミラーはガラスミラー(例えばSiO2、溶融シリカ)または可視プロセス光を透過する別のミラーである。ダイクロイックミラー35は、少なくとも片面に、すなわち、レーザ源に面した面に、誘電体コーティングを備える。ミラー35のサイズは、ミラーの位置における機械加工レーザビーム24の直径に対応するように選択される。ダイクロイックミラー35は、機械加工レーザビーム24を少なくとも部分的に反射し、プロセス光52の少なくとも一部を選択的に透過する。
【0079】
レーザ切削のための装置100において、制御ユニット34も検出装置50に無線または有線のデータ伝送方式で接続され、したがって、表面欠陥を測定するために、生じた切り口を観察するため、および場合によりプロセス監視のために使用することができる。メモリユニット38は、第1の例示的な実施形態について前述した追加のパラメータをさらに格納することができ、決定モジュール36および/または最適化モジュール40により、これらのパラメータを読み出して使用することができる。
【0080】
図9は、第7の例示的な実施形態による、レーザ切削のための装置100の構成要素の相互作用を概略的に示す。装置100の動作中、機械加工レーザビーム24は、切削ヘッド運動ユニット32により切削ヘッド20を介して加工物12上で運動し、加工物12が切削される。この場合、加工物12の切り口の表面欠陥OD、例えば引っかき傷、溝、またはばりが、検出装置50によって、加工物の所定の輪郭X,Yからの測定された切削輪郭の偏差として検出され、結果として得られるパラメータが決定される。これらのパラメータは、メモリユニット38に伝えられ、メモリユニット38から、最適化モジュール40によって所定のパラメータとして読み出される。これに基づいて、最適化モジュール40は、表面欠陥ODに対抗するレーザビーム運動ユニット30による機械加工レーザビーム24の動的運動の変調を誘発する。このために、最適化モジュール40は、レーザビーム運動ユニット30の動的に可動な光学要素31、この場合は偏向ミラー35の偏向U、Vを計算して、X方向の偏向U
KおよびY方向の偏向V
K(K∈[0,T]、Tは運動軌跡の期間または運動軌跡のセグメント)により、表面欠陥を補償する。結果として得られる最適化された運動振幅、すなわち、動的レーザビーム運動ユニット30の偏向ミラー35の偏向U、Vが、最適化モジュール40によってレーザビーム運動システム33に伝えられる。決定モジュール36は、機械加工レーザビーム24の運動軌跡X
*,Y
*をX
*=XおよびY
*=Yと決定し、この運動軌跡X
*,Y
*を、例えば時間同期のためのバッファモジュールを介して、レーザビーム運動システム33の切削ヘッド運動ユニット32に伝える。したがって、切削ヘッド運動ユニット32の機械軸によって実行される切削ヘッド20の最初の運動軌跡X,Yは変更されない。したがって、偏向U、Vと運動軌跡X
*,Y
*とを組み合わせる、すなわち重ね合わせることによって、調節された運動軌跡X°,Y°が得られる。
【0081】
装置100の動作中、特に表面欠陥の寸法および/または周期的に再発するパターン、例えばその振幅および周波数を決定することができる。例えば、酸素を切削ガスとして使用して加工物12を熱切削するときに、プロセス光52の熱画像がNIR/IR範囲で取り込まれる。表面欠陥のない切り口の領域に、放射強度の低い熱画像の局所的な強度最小が存在する。強度最小の寸法のサイズを、熱画像において観察することができる。このサイズの望ましくない縮小の場合に、最適化モジュール40は、表面欠陥に対抗するレーザビーム運動ユニット30を介した機械加工レーザビームの動的運動の変調を誘発する。
【0082】
図10は、第8の例示的な実施形態による、レーザ切削のための装置100の構成要素の相互作用を概略的に示す。第8の例示的な実施形態は、第7の例示的な実施形態の変形である。第8の例示的な実施形態において、装置100に検出器50は設けられていない。代わりに、表面欠陥を推定するためのモデルMODが、メモリユニット38に格納され、最適化モジュール40によって読み出すことができる。表面欠陥を推定するためのモデルMODとして、例えば、引っかき傷を推定するためのモデルを使用することができ、このモデルを用いて、切り口の引っかき傷の粗さ、すなわち振幅および周波数を、減衰発振器により破壊的観点で計算することができる。あるいは、粗さを、適応ニューロファジー推論システム(ANFIS)によってモデル化することができる。モデルを使用して、加工物12の切り口の表面欠陥、例えば引っかき傷、溝、またはばりを、加工物の所定の輪郭X,Yからの切削輪郭の偏差として推定することができる。動作中、最適化モジュール40は、MOD表面欠陥推定モデルを読み出し、モデルベースの表面欠陥の推定を行う。これに基づいて、最適化モジュール40は、表面欠陥に対抗するレーザビーム運動ユニット30による機械加工レーザビーム24の動的運動の変調を誘発する。このために、最適化モジュール40は、レーザビーム運動ユニット30の動的に可動な光学要素31、この場合は偏向ミラー35の偏向U、Vを計算して、X方向の偏向U
KおよびY方向の偏向V
K(K∈[0,T]、Tは運動軌跡の期間または運動軌跡のセグメント)により、表面欠陥を補償する。結果として得られる最適化された運動振幅、すなわち、動的レーザビーム運動ユニット30の偏向ミラー35の偏向U、Vが、最適化モジュール40によってレーザビーム運動システム33に伝えられる。決定モジュール36は、機械加工レーザビーム24の運動軌跡X
*,Y
*をX
*=XおよびY
*=Yと決定し、この運動軌跡X
*,Y
*を、例えば時間同期のためのバッファモジュールを介して、レーザビーム運動システム33の切削ヘッド運動ユニット32に伝える。したがって、切削ヘッド運動ユニット32の機械軸によって実行される切削ヘッド20の最初の運動軌跡X,Yは変更されない。したがって、偏向U、Vと運動軌跡X
*,Y
*とを組み合わせる、すなわち重ね合わせることによって、調節された運動軌跡X°,Y°が得られる。
【0083】
第9の実施形態において、最適化モジュール40を使用することなく決定モジュール36によって決定された少なくとも1つの運動軌跡を用いて行われた、先行する加工物12のレーザ切削の後に、第1~第8の例示的な実施形態の装置によって実行可能な方法を実行することができる。その結果、最適化モジュール40によって最適化された機械加工レーザビーム24を用いて加工物または製造された加工物部分を再び機械加工すること、ならびに切削ガスまたは蒸発を用いて目標を定めて溶融および噴出することによって、加工物12、特に切り口に付着する溶融物および/または溶融物の小滴、およびばり、または引っかき傷などの他の表面欠陥を低減させるならびに/あるいは除去することができる。
【符号の説明】
【0084】
10 レーザ切削のための装置、 12 加工物、 20 切削ヘッド、 22 インターフェース、 24 機械加工レーザビーム、 26 出口開口、 28 レーザビーム光学部品、 30 レーザビーム運動ユニット、 31 光学要素、 32 切削ヘッド運動ユニット、 33 レーザビーム運動システム、 34 制御ユニット、 35 偏向ミラー、 36 決定モジュール、 38 メモリユニット、 40 最適化モジュール、 50 検出装置、 52 プロセス光、 60 レーザ源、 62 光ファイバ、 100 レーザ切削のための装置、 120 切削ヘッド、 122 インターフェース、 XC X軸座標系、 YC Y軸座標系、 K 時点、 T 期間、 OP 最適化パラメータ、 SD 制御データ、 VT 丸み付け公差、 MM 機械モデル、 DG 動的限界、 PM プロセスモデル、 DB データベース、 OD 表面欠陥、 MOD 表面欠陥推定モデル、 U 光学要素のX方向への偏向、 V 光学要素のY方向への偏向、 X X方向の所定の輪郭、 Y Y方向の所定の輪郭、 X,Y 所定の輪郭、 X,Y 所定の輪郭に従った運動軌跡、 X*,Y* 運動軌跡、 X°,Y° 調節された(最適化された)運動軌跡。